(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。本実施形態に係るループヒートパイプ熱交換システムは、例えば、地熱バイナリ発電システムや原子炉システムなどに好適に用いることができる。
【0030】
本実施形態に係るループヒートパイプ熱交換システムは、例えば、原子炉残留熱を除去する装置の一部として用いることができる。本実施形態によれば、原子炉の故障時や事故時に、原子炉の崩壊熱を格納容器外のヒートシンクに放熱することができる。さらに、本実施形態によれば、原子炉外部電源および制御電源が喪失した場合でも、ループヒートパイプ熱交換システムは自動的に起動し、除熱することができる。さらに、本実施形態によれば、熱交換器への非凝縮性ガスの混入を事前に防止することができ、除熱性能の低下を抑制できる。
【0031】
以下、ループヒートパイプ熱交換システムを適用可能な熱利用システムとして、原子炉システムを例に挙げて説明する。本実施形態では、加熱源に設けられる一次側熱交換器(第1熱交換器)よりも、冷却源に設けられる二次側熱交換器(第2熱交換器)の設置高さを高くする。一次側熱交換器で発生した作動流体(冷却水)の蒸気は、流路を流れて、高い位置に設置された二次側熱交換器へ向かい、凝縮水となる。二次側熱交換器の凝縮水は、低い位置にある一次側熱交換器へ向けて流路を戻る。これにより、本実施形態では、冷却水の密度差と重力とによる自然循環を利用して、一次側熱交換器と二次側熱交換器の間で冷却水を循環させる。
【0032】
本実施形態は、原子炉の緊急停止後に、核燃料の崩壊熱を格納容器外部に放熱する原子炉残留熱除去系に適用できる。この場合、加熱源は、圧力容器内において炉心から発生した蒸気、あるいは圧力容器内の冷却水である。加熱源は、格納容器ドライウェル空間に存在する気体あるいは冷却水であってもよい。加熱源は、格納容器ウェットウェル空間に存在する気体、あるいは冷却水であってもよい。加熱源は、非常用復水器の二次側蒸気、あるいは二次側冷却水であってもよい。加熱源は、非常用炉心冷却水系ポンプの機器本体、あるいはポンプ室内の気体であってもよい。
【0033】
二次側熱交換器から一次側熱交換器へ凝縮水が戻る流路と、一次側熱交換器から二次側熱交換器へ蒸気が流れる流路とに、それぞれフェイルオープン型の自動弁を設けることもできる。一次側熱交換器と二次側熱交換器との間で冷却水または蒸気が循環する流路のことを、ループ流路と呼ぶ。本実施形態では、二次側熱交換器の流出口側に位置して、ループ流路に蓄圧タンクを接続する。そして、本実施形態では、原子炉の運転開始前に、熱交換器の内部とループ流路の内部と蓄圧タンク内の一部とをそれぞれ冷却水で満たした後で、自動弁を閉弁する。
【0034】
脈動を抑制する場合は、脈動抑制機構を凝縮水戻り流路に設ける。脈動抑制機構は、例えば、凝縮水戻り流路の流路断面積を調整することで、脈動を抑制する。例えば、凝縮水戻り流路に、圧力損失を与えるオリフィスを設ければよい。
【0035】
あるいは、凝縮水戻り流路に、流量調整機能を有するフェイルオープン型の自動弁を設け、その自動弁の弁開度の初期値を小さくしておき、ループヒートパイプ熱交換システムの起動後に弁開度を徐々に増加するように設定すればよい。
【0036】
あるいは、凝縮水戻り流路の途中に他の凝縮水戻り流路を並列に設け、これらの凝縮水戻り流路にそれぞれフェイルオープン型の自動弁を配置し、複数の自動弁のうち少なくともいずれか一つの自動弁の最大弁開度を他の自動弁の最大弁開度よりも小さく設定してもよい。そしてループヒートパイプ熱交換システムの起動時には、最大弁開度の小さい自動弁から先に開弁し、その後に他の自動弁を開弁させるように設定すればよい。
【0037】
本実施形態では、蓄圧タンクに安全弁を設けることもできる。そして、安全弁の設定圧力を、熱交換器およびループ流路の、耐用圧力よりも低く設定する。あるいは、蓄圧タンクと二次側熱交換器とを連通する流路にリリーフ弁を設け、リリーフ弁の設定圧力を安全弁の圧力よりも低く設定する。これにより、ループヒートパイプ熱交換システム内の圧力が耐用圧力よりも高くなるのを未然に防止できる。
【0038】
本実施形態では、凝縮水戻り流路や蒸気流路に、フェイルオープン型の自動弁を複数設けてもよい。そして、それぞれの自動弁の駆動電源である計装制御電源を、複数の配電系統に接続しても良い。これにより自動弁の制御系統を冗長化することができ、一つの配電系統に障害が生じた場合でも、他の配電系統に繋がる計装制御電源から他の自動弁を駆動することができる。
【0039】
本実施形態は、地熱バイナリ発電システムへ適用することもできる。非特許文献3では、凝縮水の輸送にポンプを用いているが、本実施形態のループヒートパイプ熱交換システムでは、密度差と重力による自然循環を利用する。
【0040】
本実施例によれば、ループヒートパイプ熱交換システムにおいて、運転開始前に(システム起動前に)、一次側熱交換器の伝熱管(第1伝熱管)および二次側熱交換器の伝熱管(第2伝熱管)を含むループ流路の全てを冷却水で満たすことで、非凝縮性ガスをループ流路から排除できる。
【0041】
運転開始後に(熱交換システムの起動後に)、一次側熱交換器で冷却水が加熱されることで蒸気が発生する。その蒸気によって押し出された冷却水が蓄圧タンクに流入することによって、ループ流路の冷却水は気液二相流状態を保持できる。蓄圧タンクの気相部は、圧縮されて加圧状態が維持される。
【0042】
以上の作用により、ループ流路から非凝縮性ガスは排除される。これにより本実施形態によれば、二次側熱交換器内の凝縮熱伝達率の低下を防止し、従来と比較して高い熱伝達率を得ることができる。また、本実施形態によれば、非凝縮性ガス分圧の寄与による二次側熱交換器の圧力増加を防止できるため、蒸気と冷却水の循環流量は低下しない。これにより、本実施形態では熱伝達量の低下を防止できる。
【0043】
蓄圧タンクへの流路にリリーフ弁を設けた場合、あるいはループ流路にオリフィスを設けた場合、あるいは凝縮水戻り流路に並列に圧力損失の大きい流路を設けた場合等には、冷却水だけがループ流路を循環する単相自然循環熱伝達の状態から、沸騰・凝縮熱伝達の状態へ移行する際に生じうる熱流動不安定を抑制できる。
【0044】
また、ループ流路と蓄圧タンクの間に逆止弁を設けた場合は、ループ流路の圧力低下時に、蓄圧タンクからループ流路へ冷却水が逆流するのを防止できる。これにより、熱交換における熱流動不安定の発生を防止できる。熱流動が不安定になるのを抑制することで、自動弁(隔離弁)などの各種機器の寿命や信頼性が低下するのを抑制できる。
【0045】
本実施形態を熱利用システムとしての原子炉システムへ適用した場合、原子炉停止時などにより炉心で発生した崩壊熱を、密度差と重力を利用する自然循環により、格納容器外の大気や海水、河川水、湖水等のヒートシンクに効率良く放熱できる。これにより、本実施形態によれば、除熱性能が向上し、原子炉の安全性がさらに向上する。また、本実施形態では、フェイルオープン型の自動弁を用いるため、計装制御電源が喪失した場合でも、ループヒートパイプ熱交換システムを自動的に起動させることができ、オペレータが隔離弁を手動で操作したり、コントローラが隔離弁を制御したりする必要がない。このため、本実施形態のループヒートパイプ熱交換システムを、原子炉システムの例えば残留熱除去系システムへ追加することで、原子炉システムの安全性をさらに向上できる。
【0046】
また、本実施形態のループヒートパイプ熱交換システムを地熱バイナリ発電システムへ適用する場合は、二次側熱交換器で凝縮性能が低下するのを防止できるため、従来と比較して、蒸気タービンのエネルギ回収効率が増加する。これにより本実施形態によれば、発電効率が増加し、経済性が向上する。
【実施例1】
【0047】
図1〜
図6を用いて第1実施例を説明する。
図1と
図2は、本実施形態の基本的要素を表すループヒートパイプ熱交換システムの全体概略構成図である。図中では、閉弁状態の弁を黒色で表現し、開弁状態の弁を白色で表現している。以下、ループヒートパイプ熱交換システムを熱交換システムと略記する場合がある。
【0048】
ループヒートパイプ熱交換システムは、それぞれ後述するように、「第1熱交換器」としての一次側熱交換器21と、「第2熱交換器」としての二次側熱交換器22と、「第1流路」としての流路6と、「第2流路」としての流路7と、「第3流路」としての流路16と、「第1隔離弁」としての隔離弁8と、「第2隔離弁」としての隔離弁9と、蓄圧タンク17とを備える。一次側熱交換器21は「第1伝熱管」としての伝熱管1を有し、二次側熱交換器22は「第2伝熱管」としての伝熱管11を有する。
【0049】
一次側熱交換器21は、加熱源23に配置される。一次側熱交換器21は、下部ヘッダ2と、上部ヘッダ3と、下部ヘッダ2および上部ヘッダ3にそれぞれ連通して設けられる伝熱管1を備える。
【0050】
二次側熱交換器22は、一次側熱交換器21よりも高い位置で、冷却源24に配置されている。即ち、二次側熱交換器22は、一次側熱交換器21の標高よりも高い位置に設けられる。冷却材(冷却水、蒸気)の密度差と重力とにより、一次側熱交換器21と二次側熱交換器22との間で冷却材を自然に循環させるためである。この自然循環を実現できる程度の設置位置の差があればよい。そして、二次側熱交換器22も、一次側熱交換器21と同様に、下部ヘッダ12と、上部ヘッダ13と、下部ヘッダ12および上部ヘッダ13にそれぞれ連通して設けられる伝熱管11を備える。
【0051】
一次側熱交換器21と二次側熱交換器22とは、流路6,7により連通して接続されている。ここで、「連通して接続」とは、冷却水や蒸気等の流体が移動可能に接続されているという意味である。しかし常に、流体が移動可能に接続される状態を「連通して接続」されると表現するわけではない。明確で簡素な表現を実現するために、単に「接続」と呼ぶ場合もある。
【0052】
なお、流路とは、流体の流れる経路であり、配管やホース等で実現される。そこで、以下に述べる流路は、例えば「配管」と呼び替えることもできる。
【0053】
一次側熱交換器21と二次側熱交換器22との接続を詳細に説明する。一次側熱交換器21の上部ヘッダ3と二次側熱交換器22の上部ヘッダ13とは、弁8を有する流路6を介して連通している。
【0054】
二次側熱交換器22の下部ヘッダ12と一次側熱交換器21の下部ヘッダ2とは、弁9を有する流路7を介して連通している。以下、一次側熱交換器21(下部ヘッダ2、伝熱管1、上部ヘッダ3)、流路6、二次側熱交換器22(上部ヘッダ13、伝熱管11、下部ヘッダ12)、流路7から構成される流路を、ループ流路と呼ぶ。
【0055】
ここで、熱交換システムの起動時とは、ループ流路内を冷却水が自然に循環することで、一次側熱交換器21から二次側熱交換器22へ熱を輸送する状態である。以下の説明では、熱交換システムの起動を、「熱交換システムの運転」と表現する場合がある。
【0056】
弁8と弁9とがいずれも開弁すると、ループ流路が開通する。これにより、伝熱管1内の冷却水は、加熱源23の熱を奪って蒸気に変わり、この蒸気は、弁8および流路6を通って伝熱管11に流入する。蒸気は、冷却源24により冷却されて凝縮し、冷却源24に熱が伝わる。蒸気の凝縮により生じた凝縮水は、一次側熱交換器21と二次側熱交換器22との高低差により、流路7を重力により下降して、伝熱管1に戻る。この循環ループは、加熱源23を除熱して雰囲気環境温度の冷却源24に放熱する場合や、これとは逆に、冷却源24の冷熱で雰囲気環境温度の加熱源23を冷却する場合に適用できる。
【0057】
蓄圧タンク17は、流路6に流路16を介して取り付けられている。密閉可能な蓄圧タンク17は、蒸気や気体を収容する気相部17aと、冷却水を貯蔵する液相部17bとを有する。蓄圧タンク17の底部は、流路16により、二次側熱交換器22の伝熱管11より下流に位置して流路7に連通する。
【0058】
流路16が伝熱管11より下流で連通して接続される箇所(接続点)とは、熱交換システムの通常運転時における、伝熱管11内の凝縮水液面よりも下方を意味する。
図1では、流路16を下部ヘッダ12に連通して接続している。
【0059】
また、蓄圧タンク17の上部には、弁18を有する流路19が接続されている。一次側熱交換器21の上部ヘッダ3には、弁4を有するガス抜き流路5が接続されている。二次側熱交換器22の上部ヘッダ13には、弁14を有する他のガス抜き流路15が接続されている。
【0060】
ここで、蓄圧タンク17とループ流路との接続点は、
図1に示す例に限らない。例えば、
図2の変形例に示すように、流路16を、一次側熱交換器21の下部ヘッダ2の高さ位置で連通して接続してもよい。流路16とループ流路(例えば流路7)との接続点は、二次側熱交換器22の凝縮水液面より下方であればどこでもよく、下部ヘッダ12に限定されない。
【0061】
図3から
図5を用いて、熱交換システムの運転手順と通常運転時の作用を説明する。
図3は、熱交換システムに冷却水を充填する手順(水張り手順)を示す。
【0062】
運転開始前に、弁18、弁4、弁14を開弁する。そして、流路19の流入口から冷却水W1を注入する。冷却水は、蓄圧タンク17および流路16を通して、一次側熱交換器21と二次側熱交換器22を接続するループ流路へ流れ込み、ループ流路を満たす。この時、ループ流路内の非凝縮性ガスを含む気相は、液面により押し上げられて、ガス抜き流路5とガス抜き流路15とから外部に排出される。これにより、ループ流路内は、実質的に全て冷却水で満たされることになる。非凝縮性ガスを含む気相の排出が終わると、順次、弁4と弁14を閉じ、最後に弁18を閉じて注水(注液)を終了する。
【0063】
図4は、熱交換システムの運転開始時(起動時)の状態を表す。弁8および弁9が開弁すると、熱交換システムは起動する。換言すれば、弁8および弁9の開閉だけで、熱交換システムの運転を制御することができる。
【0064】
例えば、熱交換システムを、事故時や停止時における放熱等の非常用システムとして用いる場合は、運転開始までは弁8と弁9を閉じておけば良い。非常事態が発生したときに、弁8と弁9を開けば、熱交換システムの運転を開始することができる。後述の実施例で示すように、弁8と弁9とをフェイルオープン型の自動弁として構成してもよい。この場合、弁8と弁9を操作するための電源が停止すると、弁8と弁9は自動的に開弁するため、ループヒートパイプ熱交換システムは自動的に運転を開始する。
【0065】
熱交換システムが運転を開始すると、加熱源23の熱によって伝熱管1内の冷却水が加熱され、液温が上昇する。温度上昇によって冷却水の密度が減少するため、伝熱管1内の冷却水に浮力が発生する。これにより、ループ流路内には、流路6を上昇して二次側熱交換器22へ向かう高温水W2の流れと、流路7を下降して一次側熱交換器21へ戻る低温水W3の流れとが生じる。これら高温水W2の流れと低温水W3の流れとにより、ループ流路内に自然循環が生じる。
【0066】
伝熱管1内の冷却水が、加熱源23により継続して加熱されて、伝熱管1内に沸騰が生じるまでは、蓄圧タンク17内の液位は、
図3に示した運転開始前とほぼ等しい。沸騰後の状態を次に説明する。
【0067】
図5は、冷却水の一部が沸騰した状態を示す。伝熱管1および流路6の内部は、発生した蒸気で満たされる。発生した蒸気によりループ流路の体積が膨張するため、冷却水の一部は、ループ流路から流路16を介して蓄圧タンク17へ流入する。
【0068】
一方、流路6から伝熱管11へ流入した蒸気は、冷却源24により冷却されて凝縮し、冷却水へ戻る。
【0069】
ところで、ループ流路の体積膨張により押し出された冷却水が蓄圧タンク17へ流入すると、蓄圧タンク17内の液相17bの水位が上昇して、気相17aが圧縮される。これにより、蓄圧タンク17内の圧力とループ流路内の圧力がともに増加する。ループ流路の圧力が増加すると、伝熱管1と流路6と伝熱管11の、内部の蒸気は体積が減少し、気化による体積膨張とバランスする。この結果、蓄圧タンク17内の圧力にバランスした、蒸気・液体比の循環が形成される。
【0070】
好ましくは、加熱源23の温度と冷却源24の温度とから、伝熱計算で蒸気・液体比と蓄圧タンク17内の圧力との関係を求める。そして、伝熱管11内の上部が蒸気で占められ、伝熱管11内の下部が凝縮液(冷却水)で占められるように、蓄圧タンク17内の初期液位を設定すれば、ループヒートパイプ熱交換システムの熱効率が向上する。伝熱管11内の上部が蒸気で占められ、伝熱管11の下部が凝縮液で占められるように、運転開始後に弁18を開閉して、気相17aの気体を抜いて調整しても良い。
【0071】
本実施例では、
図3に示したように、運転開始前にループ流路に冷却水を満たして気相を排除するため、非凝縮性ガスがループ流路内に残留しない。これによって、二次側熱交換器内の凝縮熱伝達率の低下が防止される。さらに、非凝縮性ガス分圧の寄与による二次側熱交換器の圧力増加も抑制できるので、蒸気と冷却水の循環流量が低下せず、熱伝達率量の低下を防止できる。また、非凝縮性ガスを排出する機構の制御が不要となるため、装置の簡素化が可能になり、システムの信頼性も向上する。
【0072】
図6は、第1実施例の他の変形例に係るループヒートパイプ熱交換システムの概略構成を示す。
図6の構成は、流路16に逆止弁20を備える点で、
図1の構成と異なる。逆止弁20は、流路7から流路16を介して蓄圧タンク17へ向かう流れを許可し、蓄圧タンク17から流路16を介して流路7へ向かう流れを阻止する。
【0073】
逆止弁20が無い場合、熱交換システムの運転中に、一次側熱交換器21において加熱源23の熱負荷が減少すると、蓄圧タンク17から冷却水がループ流路に逆流する。これにより、ループ流路内の蒸気の体積比が減少して、伝熱管1内が液相で満たされる可能性がある。しかし単相流の自然対流による熱伝達は、沸騰熱伝達よりも低いため、熱交換システムの熱輸送量が減少する。熱輸送量が減少すると、加熱源23の除熱量が低下して、熱負荷が増加する。加熱源23の熱負荷が増加すると、上述の通り、ループ流路の体積膨張により、再び蓄圧タンク17に向かう流れが生じる。このように、冷却水の流動と熱負荷の変動(以下、熱流動不安定)とが繰り返される。
【0074】
そこで、
図6に示すように、流路16の途中に逆止弁20を設ければ、最大熱負荷時の蓄圧タンク17内の液量を維持できるので、熱流動不安定を防止できる。
【0075】
図1〜
図6で述べた本実施例(および複数の変形例)によれば、伝熱性能の低下を防止できるとともに、ループヒートパイプ熱交換システムの構成を簡素化できる。また、逆止弁20により熱流動の不安定を抑制できるため、弁や流路が振動などで故障したりするのを防止でき、ループヒートパイプ熱交換システムの保守性、信頼性および経済性を向上できる。
【実施例2】
【0076】
図7を用いて第2実施例を説明する。本実施例を含む以下の各実施例では、第1実施例との相違を中心に説明する。
【0077】
本実施例では、ループヒートパイプ熱交換システムを、蒸気タービン等の蒸気エネルギ変換装置によって動力の取り出しや発電を行う熱利用システムに適用する。本実施例は、第1実施例およびその複数の変形例のいずれにも組み合わせることができる。
【0078】
ここでは、熱利用システムとして、地熱バイナリ発電システムを例に挙げる。地熱バイナリ発電システムは、地熱を熱交換した低沸点冷却水によって蒸気タービンを回す循環ループを有する。
【0079】
図7に示すループヒートパイプ熱交換システムでは、
図1に示す構成に比べて、流路6に、蒸気エネルギ変換装置25とバイパス流路44等が設けられている。詳しくは、流路6の途中には、蒸気エネルギ変換装置25が設けられている。蒸気エネルギ変換装置25をバイパスするようにして、流路6の途中にはバイパス流路44が設けられている。流路6のうち、バイパス流路44によりバイパスされる範囲の流路に符号45を付す。
【0080】
蒸気エネルギ変換装置25の上流には弁42が設けられ、蒸気エネルギ変換装置25の下流には弁43が設けられている。さらに、蒸気エネルギ変換装置25の下流には、弁43の上流に位置して、弁46を有するガス抜き流路47が接続されている。図示しないが、ループ流路で使用する冷却水を大気中に直接廃棄できない場合は、ガス抜き流路47の下流に、適切な排気処理装置や廃液処理装置を接続する。
【0081】
バイパス流路44には、弁41が設けられている。バイパス流路44の上流側は、弁42の上流側で流路6に連通して接続されている。バイパス流路44の下流側は、弁43の下流側で流路6に連通して接続されている。従って、弁42,43を閉じた状態で、弁41を開けると、一次側熱交換器21からの冷却水(または蒸気)の全てが、バイパス流路44を流れて、二次側熱交換器22へ向かう。
【0082】
熱交換システムの運転開始前に、弁41を開き、弁42と弁43を閉じることで、蒸気エネルギ変換装置25を熱交換システムから隔離する。非凝縮性ガスを含む気相を熱交換システムから排出する手順と、蓄圧タンク17内の圧力にバランスした蒸気・液体比の循環を形成するまでの手順と、それら手順に関する作用とは、第1実施例で説明した通りである。
【0083】
ループ流路から非凝縮性ガスを排出し、ループ流路に所望の蒸気・液体比での循環を形成した後で、弁47を開き、弁42をわずかに開くと同時に、弁41をわずかに絞る。これによって、蒸気エネルギ変換装置25の内部へ一次側熱交換器21からの蒸気G3を導入する。導入された蒸気G3により、蒸気エネルギ変換装置25内部の非凝縮性ガスは、ガス抜き流路47から排出される。
【0084】
ガス抜き流路47から非凝縮性ガスが排出され、その後に蒸気が排出された時点で、弁42および弁43の開動作と、弁47および弁41の閉動作とをそれぞれ開始し、弁42と弁43が全開となり、弁47と弁41が全閉となるまで、弁の動作を継続する。
【0085】
これによって、ループ流路から非凝縮性ガスを全て排出した状態で、ループヒートパイプ熱交換システムを運転することができる。一次側熱交換器21の伝熱管1からの蒸気は、蒸気エネルギ変換装置25に流入して蒸気タービン等を回動させる。仕事を終えた蒸気は、流路6から伝熱管11に流れて、凝縮される。
【0086】
本実施例によれば、第1実施例と同様の作用効果を奏する。即ち、本実施例では、蒸気中に非凝縮性ガスはほとんど存在しないため、凝縮熱の伝達率が低下するのを防止することができる。さらに、非凝縮性ガス分圧の寄与による二次側熱交換器22の圧力増加も抑制できるので、蒸気タービンに流れる蒸気量は低下しない。従って、本実施例では、発電効率等の運転効率が低下するのを抑制でき、蒸気エネルギ変換装置25を効率的に作動させることができる。さらに、非凝縮性ガスを排出するための機構を自動制御する必要がないため、熱交換システムの構成を簡素化でき、信頼性および保守性も向上する。
【実施例3】
【0087】
第3実施例について、
図8から
図11を参照して詳細に説明する。
図8は、ループヒートパイプ熱交換システムを、熱利用システムの事故時や停止時における放熱システムに適用した場合を示す。本実施例は、第1実施例およびその複数の変形例のいずれにも組み合わせることができる。ここでは、
図6に示すループヒートパイプ熱交換システムを、放熱システムに用いる場合を例に挙げる。熱利用システムについては図示を省略する。
【0088】
本実施例では、流路6に弁28を設け、流路7に弁29を設ける。これら弁28,29は、例えば、電動モータや空気式アクチュエータ等によって駆動される、遠隔操作可能な自動弁として構成されている。これら自動弁28,29は、電源喪失や配管破断の発生によって、弁を操作する駆動力が失われた場合に、開弁状態となるフェイルオープン型の弁として構成されている。
【0089】
本実施例では、
図6の構成をベースにして説明するため逆止弁20を備えているが、逆止弁20を備えない構成にも適用可能である。
【0090】
本実施例の熱交換システムの運転開始前に、非凝縮性ガスを含む気相を排出する手順は、第1実施例で説明した通りである。本実施例では、熱交換システムを、熱利用システムの加熱源を冷却可能な場所に設置する。第1実施例で述べたように、二次側熱交換器22は、冷却可能な場所であって、かつ一次側熱交換器21よりも高い位置される。
【0091】
熱利用システムの通常運転時は、熱利用システムの効率が低下しないように、自動弁28と自動弁29を閉弁し、熱利用システムから熱交換システムを切り離す。即ち、自動弁28,29をいずれも閉じることで、伝熱管1から伝熱管11への熱輸送と冷却源24への放熱とを防止する。
【0092】
一方、熱利用システムに故障などが生じて、加熱源23を冷却する必要が生じた場合は、
図9に示すように、自動弁28と自動弁29を開いて、ループヒートパイプ熱交換システムの運転を開始する。
図9は、運転開始時の状況を示す。
【0093】
ここで、上述の通り、自動弁28,29は、いずれもフェイルオープン型の自動弁として構成されているため、例えば電源喪失などにより、自動弁28,29を制御する制御装置が停止したり、自動弁28,29のアクチュエータの駆動源が停止したりした場合でも、自動的に、基準位置である開弁状態になる。
【0094】
自動弁28,29が開弁することで、一次側熱交換器21と二次側熱交換器22との間のループ流路が形成される。伝熱管1で加熱された冷却水W2は、自動弁28および流路6を介して伝熱管11へ流れる。二次側熱交換器22の伝熱管11で冷却された冷却水W3は、流路7および自動弁29を介して、伝熱管1へ戻る。
【0095】
図10は、ループヒートパイプ熱交換システムの運転を開始した後の状態を示す。一次側熱交換器21の伝熱管1で加熱されて発生した蒸気G3は、自動弁28および流路6を通って二次側熱交換器22の伝熱管11へ流入する。蒸気は、二次側熱交換器22の伝熱管11で冷却されて凝縮する。伝熱管11からの冷却水W4は、流路7および自動弁29を介して一次側熱交換器21の伝熱管1へ戻る。
【0096】
図11は、第3実施例の変形例に係るループヒートパイプ熱交換システムの概略構成図である。この変形例では、
図8の構成に比べて、自動弁28が削除されている。従って、この変形例では、熱利用システムと熱交換システムとを完全に分離することができないため、熱利用システムの運転開始後に、伝熱管1の内部と流路6の一部とに、加熱源23によって加熱された蒸気が滞留する。これら流路6などに貯留した蒸気の熱が、雰囲気中へ放熱されると、その放熱は熱利用システムにとって熱損失となる。
【0097】
しかし一方、この変形例によれば、一つの自動弁29が開弁するだけで、ループヒートパイプ熱交換システムの運転を開始することができる。従って、この変形例の熱交換システムを備える放熱システムは、自動弁の故障する可能性が前記各実施例よりも低く、信頼性が向上する。さらに、自動弁29を一つだけ備えるため、保守作業も前記各実施例に比べて容易である。
【0098】
以上説明した本実施例によれば、熱利用システムの事故時や停止時の放熱システムに適用する場合に、前記第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、熱交換時の不安定を防止できるため、ループヒートパイプ熱交換システムを用いた熱利用システムの安全性と信頼性が向上する。
【実施例4】
【0099】
図12,
図13を用いて第4実施例を説明する。本実施例は、例えば、第3実施例およびその変形例に適用することができる。さらに本実施例は、第1実施例とその複数の変形例、第2実施例のいずれにも適用可能である。
【0100】
ループヒートパイプ熱交換システムを、熱利用システムの事故時や停止時に対応する放熱システムに適用する場合、第3実施例で述べたように自動弁28,29を閉弁させることで、熱交換システムを熱利用システムから切り離すことができる。
【0101】
この場合、熱利用システムの運転時に、熱交換システムのループ流路に流れが生じないため、熱損失は少ない。
【0102】
ところで、熱利用システムの運転時は、加熱源23によって伝熱管1内の冷却水は加熱されるため、伝熱管1内の冷却水は高温高圧状態にある。一方、伝熱管11の一部と流路6および流路7内の冷却水は、流路16を通って蓄圧タンク17に連通しているため、ループ流路の圧力は蓄圧タンク17の圧力に依存し、比較的低圧に保たれている。
【0103】
ここで、熱交換システムの故障等に対処すべく、自動弁28と自動弁29を開いて熱交換システムの運転を開始するときにおいて、伝熱管1内の冷却水温度が、流路6,7や伝熱管11のそれぞれの内部圧力に対応する飽和温度よりも高いと仮定する。この場合は、
図4や
図9で述べた冷却水単相の加熱過程を経ずに、減圧沸騰と冷却水との急激な循環がループ流路内に生じる。
【0104】
このとき、流路7内の冷却水は低温であり、高サブクール状態である。従って、循環直後に伝熱管1内で蒸気が凝縮し、蒸発と凝縮との繰り返しによる流れの不安定現象やウォーターハンマー現象等の、熱流動不安定が発生する可能性がある。
【0105】
不安定な流れの発生を低減するために、本実施例では、流路7の途中にオリフィス30を設ける。冷却水がオリフィス30を通過する際に圧力損失が生じるため、伝熱管11から流れる凝縮水の水頭圧が低下して、冷却水の流量が減少する。これによって、急激な循環による伝熱管1内の過度の冷却を防止できるので、蒸発と凝縮の繰り返しによる、流れの不安定現象やウォーターハンマー現象を抑制できる。なお、本実施例は、逆止弁20を含む構成にも適用可能である。
【0106】
図13は、本実施例の変形例に係るループヒートパイプ熱交換システムの概略構成図である。この変形例は、
図12に示した熱交換システムにおいて、自動弁29をバイパスするようにして流路7の途中にバイパス流路36を設け、このバイパス流路36に自動弁35を配置する。これら自動弁29,35は、「流路面積の異なる複数の第2隔離弁」に該当する。
【0107】
バイパス流路36は、流路7と比較して、流路面積が小さい。バイパス流路36に設けられる自動弁35も、自動弁28に比べて、最大流路面積が小さい。本変形例では、熱利用システムの事故時や停止時に、まず始めに自動弁35を開いて比較小流量の冷却水を流し、伝熱管1内の過度の冷却を防止する。その後に、自動弁29を開いて、定常的な運転に移行する。これによって、流れの不安定現象やウォーターハンマー現象を抑制することができる。なお、自動弁29を開いた後では、自動弁35は閉じてもよいし、あるいは開けたままにしてもよい。
【0108】
以上に説明した本実施例によれば、第3実施例と同様の作用効果を奏する。即ち、熱利用システムの事故時や停止時の放熱システムに適用において、熱流動不安定を抑制できるため、ループヒートパイプ熱交換システムを用いた熱利用システムの安全性と信頼性が向上する。
【実施例5】
【0109】
図14,
図15を用いて第5実施例を説明する。
図14は、本実施例によるループヒートパイプ熱交換システムの概略構成図である。本実施例では、第3実施例に示した熱交換システムに対して、起動時の低温冷却水がループ流路を急激に循環することによる、蒸発と凝縮の繰り返しが生じるのを抑制する。
【0110】
本実施例では、流路16の途中にリリーフ弁33と弁32とが設けられ、これらリリーフ弁33および弁32をバイパスするようにして、流路16と並列にバイパス流路37が設けられている。これら構成要素31,32,33,37のうち、本実施例で最小限必要な構成要素は、リリーフ弁33である。バイパス流路37、弁31、弁32は、メンテナンスや迂回運転のための構成要素である。なお、
図14では、流路16に逆止弁20を備えているが、逆止弁20を持たない構成にも本実施例は適用可能である。
【0111】
運転開始前にループ流路に冷却水を満たして非凝縮性ガスを含む気相を排除する手順は、第1実施例において説明した手順と同様であり、ここでは省略する。リリーフ弁33の設定圧力は、リリーフ弁33が無い場合において、伝熱管1と流路6と伝熱管11との内部の体積に相当する冷却水が、蓄圧タンク17に流入して気相17aが最大限に圧縮されたときに生じる圧力と、運転開始前にループ流路に冷却水を満たした時のループ流路圧力との中間の圧力である。
【0112】
熱交換システムの運転が開始されるまでは、自動弁28と自動弁29とは閉弁しているため、熱利用システムと伝熱管1とは隔離されている。伝熱管1が隔離されることにより、ループ流路に流れは生じないため、熱損失は少ない。しかし、加熱源23によって伝熱管1内の冷却水は加熱されるため、伝熱管1内の冷却水は高温高圧状態になる。
【0113】
熱交換システムの運転開始時では、自動弁28と自動弁29とを開く。これにより、伝熱管1、流路6、伝熱管11、流路7のループ流路を冷却水が循環する。このとき、ループ流路から蓄圧タンク17へ向かう流れは、リリーフ弁33によって堰き止められているため、冷却水はほぼ単相流の状態でループ流路を循環する。
【0114】
伝熱管1の高温冷却水は、密度差に起因する浮力により、伝熱管1と流路6を介して伝熱管11へ流入し、伝熱管11内では自然対流熱伝達によって熱交換される。熱交換により温度の低下した冷却水は、一次側熱交換器21と二次側熱交換器22の設置場所の高低差に起因する重力により、流路7から伝熱管1へ戻る。
【0115】
伝熱管1へ還流した冷却水は、伝熱管1を流れる間に加熱されて温度が上昇する。冷却水温度が飽和温度近傍に達すると、伝熱管1、流路6、伝熱管11、流路7のループ流路の圧力は上昇する。
【0116】
ループ流路の圧力がリリーフ弁33の設定圧力を超えると、リリーフ弁33が開いて、冷却水の一部が蓄圧タンク17に流入し、沸騰が活発化する。リリーフ弁33が開くまでにループ流路内の冷却水の温度は上昇しており、伝熱管1に流入する冷却水のサブクール度が低くなる。従って、伝熱管1内の蒸発と凝縮の繰り返しによる、流れの不安定現象やウォーターハンマー現象を抑制できる。
【0117】
図15は、本実施例の変形例に係るループヒートパイプ熱交換システムの概略構成図である。この変形例では、
図14に示した熱交換システムにおいて、蓄圧タンク17の上部に、気相17aに連通する安全弁34を設けている。
【0118】
安全弁34の設定圧力は、リリーフ弁33の設定圧力よりも高く、かつ熱交換システムを構成する熱交換器21,22や流路6,7等の耐圧よりも低く設定される。図示しないが、ループ流路で使用する冷却水を大気中に直接廃棄できない場合は、安全弁34出口の下流に、適切な気液処理装置を接続すればよい。
【0119】
図14に示した熱交換システムでは、運転開始後にループ流路の圧力が上昇し、リリーフ弁33が開いて冷却水の一部が蓄圧タンク17に移動すると、伝熱管1での沸騰が活発化する。
【0120】
さらに加熱源23から過大な加熱が続いた結果、ループ流路の圧力がループ流路や蓄圧タンク17の耐圧に近づくと、安全弁34が開く。これにより、ループ流路の圧力が低下し、機器の破損を防止する。冷却水の一部は蒸気となって安全弁34から排出されるが、蓄圧タンク17に貯留した冷却水が無くなるまで、耐圧以下で熱交換システムの運転を継続できる。なお、第5実施例および本変形例は、逆止弁20を含まない構成にも適用可能である。
【0121】
以上に説明した本実施例によれば、第3実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、蓄圧タンク17に安全弁34を設けているため、過熱時であっても、ループ流路や蓄圧タンク17の耐圧以下で熱交換システムの運転を継続することができ、弁や配管などの機器が破損するのを防止できる。この結果、本実施例では、さらに安全性と信頼性が向上する。
【実施例6】
【0122】
図16を用いて第6実施例を説明する。
図16は、本実施例に係るループヒートパイプ熱交換システムを原子炉の冷却システムに適用した例を表す縦断面図である。
図16は、沸騰水型原子炉を例示しているが、本発明は加圧水型原子炉等の軽水炉、高速増殖炉、新型転換炉、高温ガス炉などの他の型式の原子炉にも適用可能である。
【0123】
図16に示すように、原子炉50は、例えば、圧力容器52と、格納容器51と、格納容器51を納めた原子炉建屋(不図示)とを含んで構成される。圧力容器52は、核燃料を装荷した炉心53を内包する。圧力容器52は格納容器51内に設置される。
【0124】
圧力容器52内の炉心53で発生した高温高圧の蒸気は、主蒸気管54を通って外部に取り出される。蒸気発生量に相当する給水は、図示しない給水管から圧力容器52内に供給される。原子炉50の停止時や事故時に圧力容器52を隔離できるように、主蒸気管54には主蒸気隔離弁55が設けられる。
【0125】
格納容器51内には、例えば、圧力抑制プール62と、格納容器キャビティ61と、ドライウェル65等が設けられている。圧力抑制プール62は、主蒸気管54が破断した場合等の事故時に格納容器51内に放出された蒸気を、ベント管66から導いて凝縮することで、格納容器51内が過圧状態となるのを防止する。圧力抑制プール62内の上部空間は、ウェットウェル気相空間63となっている。格納容器キャビティ61は、圧力容器52の下部空間である。ドライウェル65は、格納容器51の気相空間である。
【0126】
また、格納容器51の外部には、停止時や事故時に炉心53を冷却し、その熱を外部に放出し、ポンプを用いて冷却水を供給する残留熱除去系(不図示)が設けられる。
【0127】
本実施例では、格納容器51内に、一次側熱交換器21を配置する。一次側熱交換器21は、「ケーシング」としての熱交換器胴部72により取り囲まれている。熱交換器胴部72の上部は、「導入流路」としての主蒸気抽気管64を介して、主蒸気管54に連通して接続されている。主蒸気抽気管64の流入口側は、主蒸気隔離弁55の上流側に位置して、主蒸気管54に接続されている。熱交換器胴部72は、主蒸気抽気管64から導入される蒸気を、一次側熱交換器21の伝熱管1で凝縮させるものである。
【0128】
熱交換器胴部72の下部空間は、流路58,60,59を介して、それぞれ異なる空間内に連通可能となっており、熱交換器胴部72内に貯留する凝縮水を、予め設定される空間内へ放出できるようになっている。
【0129】
即ち、熱交換器胴部72の下部空間は、自動弁67を有す圧力容器注水流路58を介して、圧力容器52内に連通可能である。さらに、熱交換器胴部72の下部空間は、自動弁69を有すウェットウェル注水流路60を介して、圧力抑制プール62の水面下で連通可能である。さらに、熱交換器胴部72の下部空間は、自動弁68を有す格納容器キャビティ注水流路59を介して、格納容器キャビティ61と連通可能である。
【0130】
ここで、圧力容器注水流路58は「圧力容器側戻し流路」に、格納容器キャビティ注水流路59は「格納容器キャビティ側戻し流路」に、ウェットウェル注水流路60は「ウェットウェル側戻し流路」に、それぞれ対応する。自動弁67は「圧力容器側隔離弁」に、自動弁68は「格納容器キャビティ側隔離弁」に、自動弁69は「ウェットウェル側隔離弁」に、それぞれ対応する。
【0131】
自動弁57,67,68の構成例を説明する。好ましくは、自動弁57をフェイルオープン型の自動弁として構成し、かつ、自動弁67と自動弁68と自動弁69のうちいずれか一つをフェイルオープン型の自動弁として構成する。ここで、自動弁は、例えば、電気モータ、ガスシリンダ、油圧シリンダ、油圧モータ、エアモータ等の動力によって遠隔操作可能な弁を表す。フェイルオープン型の自動弁とは、動力の供給が断たれた場合の復帰位置が開である弁を表す。
【0132】
「第1熱交換器」としての一次側熱交換器21は、
図14等で示したように、「第1伝熱管」としての伝熱管1と、伝熱管1が連通する下部ヘッダ2および上部ヘッダ3とを備える。
【0133】
格納容器51の外部空間には、「第2熱交換器」としての二次側熱交換器22が設けられている。二次側熱交換器22は、
図14等で示すように、「第2伝熱管」としての伝熱管11と、伝熱管11が連通する下部ヘッダ12および上部ヘッダ13を備える。
【0134】
二次側熱交換器22は、格納容器51の外部において、一次側熱交換器21の設置高さよりも高い標高に設置されている。二次側熱交換器22は、空冷方式で冷却される。空冷効果を高めるために、二次側熱交換器22は、ダクト70内に設けられている。冷却風G5は、ダクト70の流入口71bから流出口71aへ向けて流れる。これにより、二次側熱交換器22の伝熱管11は空冷される。
【0135】
一次側熱交換器21の上部ヘッダ3と二次側熱交換器22の上部ヘッダ13とは、自動弁28を有する流路6により連通して接続されている。二次側熱交換器22の下部ヘッダ12と一次側熱交換器21の下部ヘッダ2とは、自動弁29を有する流路により連通して接続されている。ここで流路6は「第1流路」に、流路7は「第2流路」に、それぞれ対応する。
【0136】
流路7の途中には、流路16を介して蓄圧タンク17が設けられる。例えば、蓄圧タンク17は、リリーフ弁33および逆止弁20を備える流路16により、下部ヘッダ12に連通して接続される。
【0137】
原子炉用ループヒートパイプ熱交換システムの動作を説明する。原子炉の停止時に残留熱除去系が起動できなかった場合に、ループヒートパイプ熱交換システムは以下のように運転を開始して、炉心53の熱を取り除く。
【0138】
原子炉が通常に運転している場合、伝熱管1、上部ヘッダ2、流路6、上部ヘッダ12、伝熱管11、下部ヘッダ13、流路7、および下部ヘッダ3からなるループ流路と、流路16と、蓄圧タンク17の一部とを予めそれぞれ冷却水で満たしておき、非凝縮性ガスをできるだけ取り除いておく。
【0139】
ループヒートパイプ熱交換システムの運転開始前は、自動弁28と自動弁29を閉じておく。さらに、自動弁57、自動弁55、自動弁67、自動弁69も閉じておく。
【0140】
原子炉に故障や事故が生じた場合は、主蒸気隔離弁55が閉じられた後で、自動弁57と自動弁67、自動弁28と自動弁29を、それぞれ開く。これにより、圧力容器52から流出した蒸気G4は、主蒸気管54と自動弁57と流路64とを通って、熱交換器胴部72内に流入する。熱交換器胴部72に流入した蒸気G4が伝熱管1を加熱するため、伝熱管1内の冷却水温度が上昇する。
【0141】
この結果、伝熱管1および流路6内の冷却水は、高温で比較的密度が小さい。これに対し、伝熱管11および流路7内の冷却水は、低温で比較的密度が大きい。さらに、一次側熱交換器21の伝熱管1よりも二次側熱交換器22の伝熱管11は、高い位置に設置されている。従って、これらの密度差および重力により、ループ流路内の冷却水は、自然循環を開始する。
【0142】
流路6から上部ヘッダ12に流れた高温の冷却水は、二次側熱交換器22の伝熱管11内で、ダクト70内を流れる空気G5により冷却される。一方、伝熱管1を加熱した蒸気G4は、伝熱管1の管外で冷却されて凝縮し、凝縮水(冷却水)W5となる。凝縮水W5は、熱交換器胴部72の下部から、自動弁67および圧力容器注水流路58を通って、圧力容器52内へ注水される。
【0143】
原子炉50の停止直後における圧力容器52内の圧力は、ループヒートパイプ熱交換システムのループ流路内の圧力より高いため、圧力容器52から出る蒸気の温度は、ループ流路を循環する冷却水の飽和温度より高い。従って、熱交換器胴部72へ流入する蒸気G4による伝熱管1の加熱が続くと、やがて伝熱管1内の冷却水が沸騰を開始する。
【0144】
伝熱管1内に発生した蒸気による体積膨張によって、ループ流路内の冷却水の圧力が上昇する。ループ流路内の圧力がリリーフ弁33の設定圧力よりも高くなると、リリーフ弁33が開く。これにより、ループ流路内の冷却水の一部は、流路16およびリリーフ弁33を通って蓄圧タンク17へ流れ込む。
【0145】
蓄圧タンク17は密閉されているので、ループ流路は徐々に加圧されていき、最終的には、一次側熱交換器21での加熱量に釣り合う圧力でバランスする。この時、予め蓄圧タンク17の気相体積を調整しておくことによって、伝熱管1と流路6と伝熱管11の上部とがそれぞれ蒸気で満たされ、かつ伝熱管11の下部に凝縮水が貯まる状態で、ループヒートパイプ熱交換システムの通常運転を行うことができる。
【0146】
上述のように、炉心53で発生した蒸気を熱交換器胴部72内で凝縮して、圧力容器52に給水すると共に、蒸気の熱を一次側熱交換器21から二次側熱交換器22へ輸送し、格納容器51の外部で空冷により除去することができる。ループヒートパイプ熱交換システムの通常運転時では、ループ流路内が予め冷却水で満たされているため、伝熱を阻害する非凝縮性ガスはループ流路内に存在しない。従って、上述した冷却水の沸騰や、凝縮熱伝達において、熱伝達性能の低下を防止できる。
【0147】
上述の自動弁の開閉動作において、自動弁67に代わって自動弁68を開いた場合、凝縮水W5は、格納容器キャビティ注水流路59を通って格納容器キャビティ61へ注水され、炉心溶融時に備えた冷却水として利用される。
【0148】
自動弁67に代わって自動弁69を開いた場合、凝縮水W5は、ウェットウェル注水流路60を通って圧力抑制プール62へ注水される。圧力抑制プール62へ注水される凝縮水W5は、格納容器51内の圧力を低減するための蒸気凝縮用の冷却水や、圧力容器52へ冷却水を注水する非常用炉心冷却系(不図示)の原水として、利用される。
【0149】
凝縮水W5の注水先は、自動弁67、自動弁68、自動弁69の開閉状態を制御することで、切り替えや分配操作が可能である。
【0150】
例えば、原子炉の全電源喪失事故等が発生した後で、さらに原子炉の制御電源を喪失した場合の動作を説明する。制御電源の喪失によって自動弁の遠隔操作機能が失われると、自動弁28、自動弁29、自動弁57は、フェイルオープン機能により開弁する。これによって、外部から制御を行うことなく、自動的にループヒートパイプ熱交換システムが運転を開始し、除熱動作を行う。ここで、自動弁67もフェイルオープン型の自動弁である場合、熱交換器胴部72内の凝縮水W5は、自動的に、流路58を通って圧力容器52へ注水される。
【0151】
自動弁68をフェイルオープン型の自動弁とした場合、熱交換器胴部72の凝縮水W5は、流路59を通って、格納容器キャビティ61へ自動的に注水される。自動弁69をフェイルオープン型の自動弁とした場合、熱交換器胴部72の凝縮水W5は、圧力抑制プール62へ自動的に注水される。以上の自動弁67、自動弁68、自動弁69は、相互の流路の逆流を防止するため、そのいずれか1弁のみをフェイルオープン型の弁とし、残りの2弁はフェイルクローズ型の弁とする。ここで、フェイルクローズ型の弁とは、動力の供給が断たれた場合の復帰位置が閉である弁を表す。
【0152】
以上述べた本実施例によれば、第1実施例と同様の作用効果を奏する。さらに、原子炉停止時の故障や事故時において、炉心53や格納容器51内部での除熱性能や圧力低減性能が低下するのを未然に防止できる。このため、本実施例によれば、原子炉の安全性が向上する。また、制御電源が失われても炉心53や格納容器51内部を自動的に冷却できるため、原子炉の信頼性が向上する。
【実施例7】
【0153】
図17を用いて第7実施例を説明する。
図17は、本実施例に係るループヒートパイプ熱交換システムを原子炉の冷却システムに適用した例を表す縦断面図である。
【0154】
原子炉システムの基本的構成は、
図16で述べたと同様である。
図17では、説明の容易な理解のために、主蒸気管54等の図示を省略している。本実施例では、格納容器51内に一次側熱交換器21を設ける。二次側熱交換器22は、格納容器51外に位置して、一次側熱交換器21の設置高さよりも高い標高で設置される。二次側熱交換器22は、ダクト70内に配置されており、ダクト70を通過する冷却風G5により空冷される。
【0155】
本実施例は、
図16の構成に比べて、熱交換器胴部72、流路58,59,60,64,自動弁57,67,68,69を備えていない。一次側熱交換器21および二次側熱交換器22の構成と、各熱交換器21,22の接続構成と、蓄圧タンク17の構成とは、第6実施例で述べたと同様であるため、説明を省略する。
【0156】
原子炉システムが通常運転している場合、伝熱管1、上部ヘッダ2、流路6、上部ヘッダ12、伝熱管11、下部ヘッダ13、流路7、および下部ヘッダ3からなるループ流路と、流路16と、蓄圧タンク17の一部とをそれぞれ冷却水で満たしておき、自動弁28と自動弁29を閉じる。非凝縮性ガスは、ループ流路から取り除かれている。
【0157】
原子炉の故障等で格納容器51内が高温高圧になった場合は、自動弁28と自動弁29を開く。これにより、格納容器51内の蒸気G6は、一次側熱交換器21の伝熱管1の外表面で冷却され、凝縮する。
【0158】
蒸気凝縮によって格納容器51内の気相体積が減少するため、格納容器51内の圧力が低下する。また、一次側熱交換器21は、格納容器51内で冷却装置として機能するため、格納容器51内の温度が低下する。伝熱管1の外表面で生成された凝縮水W6は、格納容器51内を落下し、圧力抑制プール62や格納容器キャビティ61へ流入する。
【0159】
圧力抑制プール62へ流入した凝縮水W6は、格納容器51内部の圧力を低減するための蒸気凝縮用の冷却水や、圧力容器52に冷却水を注水する非常用炉心冷却系(不図示)の原水として利用される。
【0160】
また、格納容器キャビティ61へ流入した凝縮水W6は、格納容器キャビティ61内の冷却に使用される。さらに、落下して拡がった凝縮水W6は、その表面で格納容器51内の蒸気が凝縮されることによって、格納容器51内の圧力と温度の低減に寄与する。
【0161】
一方、格納容器51内の蒸気によって加熱された伝熱管1内の冷却水は、上述のように、温度差に起因する密度差と設置位置の差に起因する重力とにより、ループ流路内を自然に循環し、格納容器51内の熱を外部へ排出する。
【0162】
沸騰熱伝達と凝縮熱伝達は、自然対流よりも熱伝達率が高いため、伝熱管11内の蒸気凝縮で伝わった熱により、伝熱管11の外表面の温度がさらに上昇する。これにより、空気G5への除熱量が増加する。
【0163】
この沸騰と凝縮過程は、ループ流路で継続するので、長期間にわたって、格納容器51内部の熱を、格納容器51の外部へ放熱することができる。原子炉システムの通常運転時では、循環ループ内が冷却水で満たされているため、ループ流路内に伝熱を阻害する非凝縮性ガスは存在しない。したがって、上述の沸騰、凝縮熱伝達において、熱伝達性能の低下を防止できる。
【0164】
本実施例では、原子炉の故障等で自動弁28,29の遠隔操作機能が失われた場合であっても、自動弁28および自動弁29がフェイルオープン機能によって開弁する。これによって、本実施例のループヒートパイプ熱交換システムは、外部から制御を行う必要が無く、自動的に運転を開始して除熱動作を継続的に実行する。
【0165】
このように構成される本実施例も第6実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、第6実施例よりも構成を簡素化できるため、製造コストや信頼性を向上することができる。
【実施例8】
【0166】
図18を用いて第8実施例を説明する。
図18は、本実施例に係るループヒートパイプ熱交換システムを原子炉の冷却システムに適用した例を表す縦断面図である。
【0167】
本実施例では、
図17で述べた構成において、一次側熱交換器21を圧力抑制プール62の内部に設置する。原子炉の通常運転時には、伝熱管1、上部ヘッダ2、流路6、上部ヘッダ12、伝熱管11、下部ヘッダ13、流路7、および下部ヘッダ3からなるループ流路と、流路16と、蓄圧タンク17の一部とをそれぞれ冷却水で満たしておき、自動弁28と自動弁29を閉じる。
【0168】
原子炉の故障等で格納容器51内が高温高圧状態になると、自動弁28と自動弁29を開く。圧力抑制プール62内部の冷却水やウェットウェル気相空間63内の蒸気は、伝熱管1の外表面で冷却される。
【0169】
伝熱管1での冷却により、圧力抑制プール62の冷却水温度が低下する。さらに、ウェットウェル気相空間63内の蒸気が伝熱管1で凝縮することで、ウェットウェル気相空間63内部の圧力が低下する。
【0170】
圧力抑制プール62の冷却水温度が飽和温度よりも低下すると、冷却水表面の蒸気凝縮によって、ウェットウェル気相空間63内部のさらに圧力が低下する。これにより、格納容器51の空間部65の蒸気がベント管66を通って圧力抑制プール62水中に引き込まれるため、格納容器51内の圧力が低下する。
【0171】
ウェットウェル気相空間63に接する伝熱管1外面で生じる凝縮水は、格納容器51内部の圧力を低減するための蒸気凝縮用の冷却水や、圧力容器52に冷却水を注水する非常用炉心冷却系(不図示)の原水として利用される。
【0172】
熱交換システムのループ流路内の熱流動と、二次側熱交換器22の伝熱管11から格納容器51の外部雰囲気への放熱挙動とは、第7実施例と同様である。また、原子炉の制御電源を喪失して自動弁の遠隔操作機能が失われた場合の、自動弁28および自動弁29のフェイルオープン機能による、熱交換システムの自動起動(自動運転)や除熱動作の継続作用も第7実施例と同様である。
【0173】
このように構成される本実施例も、第7実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、一次側熱交換器21を圧力抑制プール62内に設置するため、ウェットウェル気相空間63内の圧力を下げることができ、原子炉の信頼性が向上する。
【実施例9】
【0174】
図19を用いて第9実施例を説明する。
図19は、本実施例に係るループヒートパイプ熱交換システムを原子炉の冷却システムに適用した例を表す縦断面図である。
【0175】
図19では、原子炉の圧力容器52の一部や、格納容器51の壁面の一部のみを図示しているが、原子炉の全体構成は
図16から
図18に示したものと同様である。本実施例では、圧力容器52内に、一次側熱交換器21を設ける。
【0176】
格納容器51の外部空間には、二次側熱交換器22が設けられる。二次側熱交換器22は、一次側熱交換器21の設置高さより高い標高に位置して、ダクト70内に設置されている。一次側熱交換器21と二次側熱交換器22の接続構成や、ループ流路と蓄圧タンク17との接続構成は、
図17等で説明した通りである。
【0177】
原子炉の通常運転時では、伝熱管1、上部ヘッダ2、流路6、上部ヘッダ12、伝熱管11、下部ヘッダ13、流路7、および下部ヘッダ3からなるループ流路と、流路16と、蓄圧タンク17の一部とをそれぞれ冷却水で満たしておき、自動弁28と自動弁29を閉じておく。
【0178】
特に、圧力容器52から外部への放熱は、原子炉の通常運転時において熱効率を低下させるため、自動弁28と自動弁29とはできる限り圧力容器52に近づけて設けると共に、自動弁28と自動弁29を閉止しておくことが重要となる。
【0179】
原子炉に故障が生じた場合等では、自動弁28と自動弁29を開く。炉心53で発生した蒸気G7は、伝熱管1の外表面で冷却されて凝縮し、その凝縮水W7は圧力容器52内の冷却水面に落下して混合する。発生した蒸気の凝縮による気相体積の減少で、圧力容器52内の圧力は低下する。
【0180】
さらに、凝縮水W7が伝熱管1の外表面で冷却されると、凝縮水W7の温度が冷却水の飽和温度よりも低下する。このため、凝縮水W7が混合した圧力容器52内の冷却水温度も低下して、炉心53の冷却が促進される。
【0181】
本実施例におけるループヒートパイプ熱交換システムのループ流路内の自然循環挙動と、伝熱管1での沸騰開始後のループ流路から蓄圧タンク17への冷却水の移動と、沸騰、凝縮熱伝達による伝熱管1から伝熱管11への熱伝達と、格納容器51外部への放熱挙動とは、第6実施例から第8実施例と同様である。
【0182】
また、原子炉の制御電源を喪失し弁の遠隔操作機能が失われた場合の、自動弁28、自動弁29のフェイルオープン機能による自動起動や除熱動作の継続も第6実施例から第8実施例と同様である。
【0183】
このように構成される本実施例によれば、第7実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、ループヒートパイプ熱交換システムの運転によって圧力容器52内の圧力を低下させることができる。
【実施例10】
【0184】
図20を用いて第10実施例を説明する。
図20は、本実施例に係るループヒートパイプ熱交換システムを原子炉の冷却システムに適用した例を表す縦断面図である。
【0185】
図20では、原子炉の構成の一部を示すが、原子炉の全体構成は
図16から
図19に示したものと同様である。
【0186】
本実施例では、流路6に複数の自動弁28a,28bを設けると共に、流路7には複数の自動弁29a,29bを設ける。これら各自動弁28a,28b,29a,29bは、異なる配電系統に繋がる配電盤73,配電盤74に接続されている。即ち、自動弁28a,29aは、一方の配電盤73に接続されており、自動弁28b,29bは他方の配電盤74に接続されている。
【0187】
ここで、自動弁と配電系統の数は、「2」に限定しない。例えば、それぞれ2つずつの自動弁へ給電する3つの系統、または4つの系統を備えてもよい。各系統に設ける自動弁の数も2台に限らず、3台以上でもよい。
【0188】
原子炉の通常運転中は、ループヒートパイプ熱交換システムのループ流路が冷却水で満たされており、各自動弁はそれぞれ閉じている。もしも、流路6,7に設けられている自動弁がそれぞれ1つずつであり、それら自動弁が同一の配電系統に繋がっている場合は、配電系統に故障が生じると、流路6,7に一つずつ設けられた自動弁がフェイルオープン機能により開弁し、流路6,7が開く。従って、圧力容器52内の冷却水や蒸気の熱が流路6,7を介して格納容器51の外部へ輸送されて、放熱されてしまい、原子炉システムの熱効率が低下する。
【0189】
これに対し、本実施例では、流路6,7を異なる複数の配電系統に接続された複数の自動弁で開閉する構成のため、いずれか一つの配電系統に障害が生じた場合であっても、流路6,7の閉止を保持することができる。従って、原子炉の通常運転時に、熱効率が低下するのを防止できる。
【0190】
このように構成される本実施例も第7実施例と同様の作用効果を奏する。さらに本実施例では、原子炉の通常運転時において、熱効率が低下するのを防止できる。なお、ループヒートパイプ熱交換システムの流路6,7をそれぞれ異なる複数の配電系統に繋がる複数の自動弁によって開閉する構成は、第6〜第9実施例のいずれにも適用可能である。
【0191】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含むことができる。例えば、上記実施形態は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることも可能である。また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。さらに、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。なお、本実施形態に含まれる技術的特徴は、特許請求の範囲に記載した組合せ以外にも組み合わせることができる。
【0192】
本実施形態には、以下のような方法の発明も含まれている。ただし、以下の表現は例示であって、以下に記載する方法発明に限定しない。
【0193】
「作動流体の密度差により熱を輸送するループヒートパイプ熱交換システムの使用方法であって、
前記ループヒートパイプ熱交換システムは、加熱源に設けられ、第1伝熱管を有する第1熱交換器と、冷却源に設けられ、第2伝熱管を有する第2熱交換器と、前記第1伝熱管の流出口と前記第2伝熱管の流入口とを接続する第1流路と、前記第2伝熱管の流出口と前記第1伝熱管の流入口とを接続する第2流路と、前記第2流路の途中に接続された蓄圧タンクと、を備え、
前記第1伝熱管と前記第2伝熱管と前記第1流路と前記第2流路と前記蓄圧タンク内の一部とに、システム起動前に予め作動流体を満たしておく、
ループヒートパイプ熱交換システムの運転方法。」
【0194】
「原子炉に用いるループヒートパイプ熱交換システムの運転方法であって、
前記原子炉は、核燃料を装架した炉心と、前記炉心を内包する圧力容器と、前記炉心で発生した蒸気をタービンに送る主蒸気管と、前記圧力容器を内包する格納容器と、前記格納容器内の空間部であるドライウェルと、前記格納容器内の一部空間を閉空間に仕切り、水プールを有するウェットウェルと、前記ドライウェルと前記ウェットウェルのプール水中を連通するベント管とを含んでおり、
前記ループヒートパイプ熱交換システムは、前記圧力容器内に設けられ、第1伝熱管を有する第1熱交換器と、前記第1熱交換器の高さ方向設置位置よりも高い位置で前記格納容器の外部に設けられ、第2伝熱管を有する第2熱交換器と、前記第1伝熱管の流出口と前記第2伝熱管の流入口を接続する第1流路と、前記第2伝熱管の流出口と前記第1伝熱管の流入口を接続する第2流路と、前記格納容器の外部に位置して、前記第2流路の途中に接続された蓄圧タンクと、前記第2流路の途中に設けられ、通常時は閉弁しており、駆動電源の停止時には開弁する第2隔離弁と、を備えており、
前記第1伝熱管と前記第2伝熱管と前記第1流路と前記第2流路と前記蓄圧タンク内の一部とに、予め作動流体を満たしておく、
原子炉用ループヒートパイプ熱交換システムの運転方法。」
【0195】
「原子炉に用いるループヒートパイプ熱交換システムの運転方法であって、
前記原子炉は、核燃料を装架した炉心と、前記炉心を内包する圧力容器と、前記炉心で発生した蒸気をタービンに送る主蒸気管と、前記圧力容器を内包する格納容器と、前記格納容器内の空間部であるドライウェルと、前記格納容器内の一部空間を閉空間に仕切り、水プールを有するウェットウェルと、前記ドライウェルと前記ウェットウェルのプール水中を連通するベント管とを含んでおり、
前記ループヒートパイプ熱交換システムは、前記ドライウェル内に設けられ、第1伝熱管を有する第1熱交換器と、前記第1熱交換器の高さ方向設置位置よりも高い位置で前記格納容器の外部に設けられ、第2伝熱管を有する第2熱交換器と、前記第1伝熱管の流出口と前記第2伝熱管の流入口を接続する第1流路と、前記第2伝熱管の流出口と前記第1伝熱管の流入口を接続する第2流路と、前記格納容器の外部に位置して、前記第2流路の途中に接続された蓄圧タンクと、前記第2流路の途中に設けられる第2隔離弁と、を備えており、
前記第1伝熱管と前記第2伝熱管と前記第1流路と前記第2流路と前記蓄圧タンク内の一部とに、予め作動流体を満たしておく、
原子炉用ループヒートパイプ熱交換システムの運転方法。」