特許第6689629号(P6689629)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6689629地盤材を再現した試験体を用いた地盤材の浸透性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689629
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】地盤材を再現した試験体を用いた地盤材の浸透性評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/28 20060101AFI20200421BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20200421BHJP
   G01N 15/08 20060101ALI20200421BHJP
   G01N 23/046 20180101ALI20200421BHJP
   B29C 67/00 20170101ALI20200421BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20200421BHJP
【FI】
   G01N1/28 M
   G01N33/24 C
   G01N15/08 C
   G01N23/046
   B29C67/00
   B33Y10/00
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-44427(P2016-44427)
(22)【出願日】2016年3月8日
(65)【公開番号】特開2017-161293(P2017-161293A)
(43)【公開日】2017年9月14日
【審査請求日】2019年1月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(72)【発明者】
【氏名】平塚 裕介
【審査官】 多田 達也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−121630(JP,A)
【文献】 特表2017−503692(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0185122(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0128933(US,A1)
【文献】 S. Ishutov et al.,3D printing sandstone porosity models,Interpretation,Special section: Interpretation 3D visualization,2015年 8月,SX49-61
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00−1/44
23/00−23/2276
33/00−33/46
B29C67/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤材の浸透性を評価するための方法であって、
(a)前記地盤材をX線CT装置でスキャンして得た3Dモデルデータ、または前記地盤材の空隙構造を模擬するように作成した3Dモデルデータを用いて、複数の試験体を3Dプリンタで製作する工程と、
(b)前記地盤材、および複数の試験体のうち何れか1つを用いて、それぞれ流体浸透実験を行う工程と、
(c)両者の実験結果から、前記試験体に対する補正係数を求める工程と、
(d)残る試験体に対して行った流体浸透試験結果に前記補正係数を適用する工程と、
を少なくとも含むことを特徴とする、
地盤材の浸透性評価方法。
【請求項2】
前記試験体を透明または半透明を呈する素材で製作することを特徴とする、請求項1に記載の地盤材の浸透性評価方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、岩石や、土(土粒子)などの地盤材の浸透性を評価するために行う、地盤材を再現した試験体を用いた地盤材の浸透性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
岩石や、土(土粒子)などの地盤材について、水、塩水、CO2、ガスなどの浸透性についての評価試験を行う場合がある。
この試験方法の一例を、以下の非特許文献1に示す。
非特許文献1には、塩水飽和岩石にCO2を注入する際の岩石の浸透率や空隙率の評価を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Experimental investigation into salt precipitation during CO2 injection in salineaquifers, Bacciら(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記方法では、以下の問題がある。
(1)同じ条件下で、何度も浸透性試験を実施することができない。
例えば、塩水の浸透性試験を行うと、析出した塩分が地盤材内で目詰まりを起こすため、次回以降の浸透性試験を同一条件下で行ったことにはならない。
(2)地盤材の内部で起きている現象の把握が難しい。
地盤材の内部を視認できないため、流体の挙動把握が推測の域に留まってしまう。
【0005】
本発明は、地盤材の浸透性試験を行う際の利便性を向上することが可能な手段の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決すべくなされた本願の第1発明は、地盤材の浸透性を評価するための方法であって、(a)前記地盤材をX線CT装置でスキャンして得た3Dモデルデータ、または前記地盤材の空隙構造を模擬するように作成した3Dモデルデータを用いて、複数の試験体を3Dプリンタで製作する工程と、(b)前記地盤材および複数の試験体のうち何れか1つを用いて、それぞれ流体浸透実験を行う工程と、(c)両者の実験結果から、前記試験体に対する補正係数を求める工程と、(d)残る試験体に対して行った流体浸透試験結果に前記補正係数を適用する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
また、本願の第2発明は、前記第1発明において、前記試験体を透明または半透明を呈する素材で製作することを特徴とする
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、以下に記載する効果を得ることができる。
(1)同じ状態の試験体で、何度も浸透性試験を実施することができる。
試験対象となる地盤材を再現した試験体を複製可能とすることにより、同じ試験体に対し、条件の異なる浸透性試験を何度でも実施することができ、多くの試験データを収集することができる。
(2)試験対象の地盤材の内部で起きている現象を把握することができる。
試験体を、透明または半透明の素材で製作することにより、試験体の内部における流体の挙動を視認によって把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明に係る方法の概略を示すイメージ図。
図2】3Dモデルデータの生成イメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0010】
<1>全体構成
図1は、本発明に係る方法の概略を示すイメージ図である。
地盤材Aを再現した試験体Bを製造する方法では、X線CT装置10または情報処理装置20と、3Dプリンタ30とを少なくとも使用する。
【0011】
<2>X線CT装置
X線CT装置10は、試験対象である地盤材Aから、該地盤材Aの3Dモデルデータを得るための装置である。
X線CT装置10は、X線の照射装置と、X線の検出器とを対向させて配置し、その間に設置した地盤材の周りを360度スキャンして、試験対象の3Dモデルデータを生成することができる。
X線撮影装置によって得る撮影画像の解像度は、測定対象の地盤材によって異なるが、概ねμm程度の解像度があれば足りる。
これは、マイクロスケールより微細なスケールで特定される微小な空隙は、透水性に与える影響は小さいと評価できるためである。
【0012】
<2.1>撮影画像の生成イメージ
図2は、X線撮影装置で撮影した撮影画像の情報処理を行う際のイメージ図である。
X線CT装置10によって撮影された各断面の画像(CT画像)では、基質はより白い方向へ、空隙はより黒い方向に表示される。このCT画像に対し、予め設定してある閾値を用いて、基質と空隙とに二値化した二値化画像を生成する。
なお、地盤材に土粒子が含まれている場合、この土粒子自体に含まれる空隙は、流体の移動に対して寄与が少ないため、無視することができる。
【0013】
<3>情報処理装置
情報処理装置20は、試験対象である地盤材Aを人為的に模擬した3Dモデルデータを作成するための装置である。
情報処理装置20は、3Dプリンタが読込可能な3Dモデルデータを作成可能なCADソフトを、PCにインストールして構成することができる。
情報処理装置による3Dモデルデータの作成は、実際の地盤材Aが存在せず、仮想上の地盤材Aを再現したい場合に有効である。
【0014】
<4>3Dプリンタ
3Dプリンタ30は、前記3Dモデルデータに基づいて立体造形した試験体を製作するための装置である。
3Dプリンタ30を用いることで、試験体Bは任意の数だけ複製が可能となる。
【0015】
<4.1>3Dプリンタの選定基準
3Dプリンタ30は公知の装置を用いることができるが、その選定方法として、3Dプリンタ30の造形解像度に着目した方法がある。
3Dプリンタ30の造形解像度が粗すぎると、地盤材Aの再現性が低下する恐れが考えられる。
そこで、地盤材Aの粒径や空隙径を基準に、適した造形解像度を設定する方法が考えられる。
経験式と知られている、Hazenの透水係数推定式は以下の通りである。
K=C(d10 または K=C‘(φ10
K:浸透率
10:通過質量百分率10%の粒径
φ10:全空隙体積の10%の空隙径
C:比例定数
【0016】
このd10またはφ10よりも値の小さい(造形解像度が細かい)3Dプリンタを用いれば、実質上、地盤材Aを忠実に再現した試験体Bを製作することができる。
【0017】
<4.2>使用する材料
3Dプリンタ30によって製作する試験体Bの材料には、UV硬化性のアクリル系樹脂、その他のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ゴムライク樹脂、ナイロン樹脂、石膏パウダー、PLA樹脂(トウモロコシ、イモ類の植物由来)等を用いることができる。
【0018】
このとき、試験体Bを透明または半透明状を呈する素材で構成すると、浸透性試験の際の水や塩水、油などの流体が、試験体Bの内部でどのように挙動しているのかを視認することができる。
また、流体が無色に近い場合には、挙動が視認しやすいように着色を施しておいても良い。
【0019】
<5>使用例1
本発明に係る試験体の製造方法および、該方法によって得られる試験体を用いた浸透性評価方法の手順の一例について説明する。
【0020】
(1)3Dモデルデータの取得
浸透性試験の試験対象である地盤材Aの3Dモデルデータを取得する。
この3Dモデルデータの取得は、X線CT装置10によるスキャニングによるもの、または地盤材Aを模擬して情報処理装置20のCADソフト上で作成されたもの、が含まれる。
【0021】
(2)試験体の製作
前記3Dモデルデータに基づいて、必要な数だけ試験体Bを製作する。
【0022】
(3)各種の浸透性試験の実施
完成した複数の試験体Bを用いて、それぞれ浸透性試験を実施する。
全ての試験体Bは同一形状のものであるため、一つの試験体Bを用いて複数回浸透性試験を繰り返す方法と比較して、試験結果の信頼性が高くなることは、言うまでもない。
また、試験体Bを透明または半透明状を呈するようにしておけば、浸透性試験の際に、試験体Bを流れる流体の挙動を容易に視認することができる。
【0023】
<6>使用例2
次に、本発明に係る方法の手順のその他の例について説明する。
地盤材Aの密度構造が微細な場合には、3Dプリンタ30の現状の造形解像度では、忠実な再現が難しい場合も考えられる。
この場合には、オリジナルである地盤材Aと、複製である試験体Bの両方について同一の浸透性試験を行い、その試験結果から補正係数を算出することが望ましい。
次回以降の試験では、試験体Bで得られた試験結果に前記補正係数を組み合わせた結果を最終的な試験結果とすれば良い。
【0024】
また、この補正係数は、同一地盤内の他所から得られた試験体Bにも適用することができる。
調査範囲の各所から試料を採取する必要がある場合、先行した試験体を製作して補正係数を求めておくことにより、全体の調査を容易に行うことができる。
【符号の説明】
【0025】
10 X線CT装置
20 情報処理装置
30 3Dプリンタ
A 地盤材(オリジナル)
B 試験体(複製)
図1
図2