【実施例】
【0010】
<1>全体構成
図1は、本発明に係る方法の概略を示すイメージ図である。
地盤材Aを再現した試験体Bを製造する方法では、X線CT装置10または情報処理装置20と、3Dプリンタ30とを少なくとも使用する。
【0011】
<2>X線CT装置
X線CT装置10は、試験対象である地盤材Aから、該地盤材Aの3Dモデルデータを得るための装置である。
X線CT装置10は、X線の照射装置と、X線の検出器とを対向させて配置し、その間に設置した地盤材の周りを360度スキャンして、試験対象の3Dモデルデータを生成することができる。
X線撮影装置によって得る撮影画像の解像度は、測定対象の地盤材によって異なるが、概ねμm程度の解像度があれば足りる。
これは、マイクロスケールより微細なスケールで特定される微小な空隙は、透水性に与える影響は小さいと評価できるためである。
【0012】
<2.1>撮影画像の生成イメージ
図2は、X線撮影装置で撮影した撮影画像の情報処理を行う際のイメージ図である。
X線CT装置10によって撮影された各断面の画像(CT画像)では、基質はより白い方向へ、空隙はより黒い方向に表示される。このCT画像に対し、予め設定してある閾値を用いて、基質と空隙とに二値化した二値化画像を生成する。
なお、地盤材に土粒子が含まれている場合、この土粒子自体に含まれる空隙は、流体の移動に対して寄与が少ないため、無視することができる。
【0013】
<3>情報処理装置
情報処理装置20は、試験対象である地盤材Aを人為的に模擬した3Dモデルデータを作成するための装置である。
情報処理装置20は、3Dプリンタが読込可能な3Dモデルデータを作成可能なCADソフトを、PCにインストールして構成することができる。
情報処理装置による3Dモデルデータの作成は、実際の地盤材Aが存在せず、仮想上の地盤材Aを再現したい場合に有効である。
【0014】
<4>3Dプリンタ
3Dプリンタ30は、前記3Dモデルデータに基づいて立体造形した試験体を製作するための装置である。
3Dプリンタ30を用いることで、試験体Bは任意の数だけ複製が可能となる。
【0015】
<4.1>3Dプリンタの選定基準
3Dプリンタ30は公知の装置を用いることができるが、その選定方法として、3Dプリンタ30の造形解像度に着目した方法がある。
3Dプリンタ30の造形解像度が粗すぎると、地盤材Aの再現性が低下する恐れが考えられる。
そこで、地盤材Aの粒径や空隙径を基準に、適した造形解像度を設定する方法が考えられる。
経験式と知られている、Hazenの透水係数推定式は以下の通りである。
K=C(d
10)
2 または K=C‘(φ
10)
2
K:浸透率
d
10:通過質量百分率10%の粒径
φ
10:全空隙体積の10%の空隙径
C:比例定数
【0016】
このd
10またはφ
10よりも値の小さい(造形解像度が細かい)3Dプリンタを用いれば、実質上、地盤材Aを忠実に再現した試験体Bを製作することができる。
【0017】
<4.2>使用する材料
3Dプリンタ30によって製作する試験体Bの材料には、UV硬化性のアクリル系樹脂、その他のアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ゴムライク樹脂、ナイロン樹脂、石膏パウダー、PLA樹脂(トウモロコシ、イモ類の植物由来)等を用いることができる。
【0018】
このとき、試験体Bを透明または半透明状を呈する素材で構成すると、浸透性試験の際の水や塩水、油などの流体が、試験体Bの内部でどのように挙動しているのかを視認することができる。
また、流体が無色に近い場合には、挙動が視認しやすいように着色を施しておいても良い。
【0019】
<5>使用例1
本発明に係る試験体の製造方法および、該方法によって得られる試験体を用いた浸透性評価方法の手順の一例について説明する。
【0020】
(1)3Dモデルデータの取得
浸透性試験の試験対象である地盤材Aの3Dモデルデータを取得する。
この3Dモデルデータの取得は、X線CT装置10によるスキャニングによるもの、または地盤材Aを模擬して情報処理装置20のCADソフト上で作成されたもの、が含まれる。
【0021】
(2)試験体の製作
前記3Dモデルデータに基づいて、必要な数だけ試験体Bを製作する。
【0022】
(3)各種の浸透性試験の実施
完成した複数の試験体Bを用いて、それぞれ浸透性試験を実施する。
全ての試験体Bは同一形状のものであるため、一つの試験体Bを用いて複数回浸透性試験を繰り返す方法と比較して、試験結果の信頼性が高くなることは、言うまでもない。
また、試験体Bを透明または半透明状を呈するようにしておけば、浸透性試験の際に、試験体Bを流れる流体の挙動を容易に視認することができる。
【0023】
<6>使用例2
次に、本発明に係る方法の手順のその他の例について説明する。
地盤材Aの密度構造が微細な場合には、3Dプリンタ30の現状の造形解像度では、忠実な再現が難しい場合も考えられる。
この場合には、オリジナルである地盤材Aと、複製である試験体Bの両方について同一の浸透性試験を行い、その試験結果から補正係数を算出することが望ましい。
次回以降の試験では、試験体Bで得られた試験結果に前記補正係数を組み合わせた結果を最終的な試験結果とすれば良い。
【0024】
また、この補正係数は、同一地盤内の他所から得られた試験体Bにも適用することができる。
調査範囲の各所から試料を採取する必要がある場合、先行した試験体を製作して補正係数を求めておくことにより、全体の調査を容易に行うことができる。