特許第6689724号(P6689724)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6689724水面上に映像を投影するための映像投影システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689724
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】水面上に映像を投影するための映像投影システム
(51)【国際特許分類】
   G03B 21/62 20140101AFI20200421BHJP
   G03B 21/00 20060101ALI20200421BHJP
   H04N 5/74 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   G03B21/62
   G03B21/00 D
   H04N5/74 Z
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-195165(P2016-195165)
(22)【出願日】2016年9月30日
(65)【公開番号】特開2018-59962(P2018-59962A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(72)【発明者】
【氏名】松 尾 彰
(72)【発明者】
【氏名】上 坂 哲 也
(72)【発明者】
【氏名】川 端 辰 弥
【審査官】 川俣 郁子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−300561(JP,A)
【文献】 特開2003−323144(JP,A)
【文献】 国際公開第16/104112(WO,A1)
【文献】 特開2014−021482(JP,A)
【文献】 特開2011−237497(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0308064(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03B21/00−21/10
21/12−21/30
21/56−21/64
33/00−33/16
H04N5/66−5/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水面上に映像を投影するための映像投影システムであって、
前記映像投影システムが、
水面上に形成された透明映像投影膜と、
前記透明映像投影膜に映像を投影する投射装置と、
を備えてなり、
前記透明像投影膜が、バインダと、光反射性微粒子とを含んでな
前記光反射性微粒子の形状が、薄片状であり、平均アスペクト比が3〜800であり、かつ正反射率が12〜100である、映像投影システム。
【請求項2】
水面上に映像を投影するための映像投影システムであって、
前記映像投影システムが、
水面上に形成された透明映像投影膜と、
前記透明映像投影膜に映像を投影する投射装置と、
を備えてなり、
前記透明映像投影膜が、バインダと、光反射性微粒子とを含んでなり、
前記光反射性微粒子が、アルミニウム、銀、銅、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ−コバルト合金、インジウム、クロム、酸化アルミニウム、および硫化亜鉛からなる群から選択される金属系粒子、ガラスに金属もしくは金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母もしくは合成雲母に金属もしくは金属酸化物を被覆した光輝性材料からなる群より選択された少なくとも1種である、映像投影システム。
【請求項3】
水面上に映像を投影するための映像投影システムであって、
前記映像投影システムが、
水面上に形成された透明映像投影膜と、
前記透明映像投影膜に映像を投影する投射装置と、
を備えてなり、
前記透明映像投影膜が、バインダと、光拡散性微粒子とを含んでなり、
前記光拡散性微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂およびシリカからなる群より選択された少なくとも1種である、映像投影システム。
【請求項4】
前記バインダが、透明樹脂および/または透明疎水性溶媒を含んでなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の映像投影システム。
【請求項5】
前記光反射性微粒子の一次粒子の平均径が、0.01〜100μmである、請求項1または2に記載の映像投影システム。
【請求項6】
前記光反射性微粒子の含有量が、前記バインダに対して0.0001〜5.0質量%である、請求項1または2に記載の映像投影システム。
【請求項7】
前記光拡散性微粒子の屈折率nと前記バインダの屈折率nの差が下記数式(1):
|n―n|≧0.1 ・・・(1)
を満たす、請求項に記載の映像投影システム。
【請求項8】
前記光拡散性微粒子の一次粒子のメジアン径が、0.1〜500nmである、請求項3または7に記載の映像投影システム。
【請求項9】
前記光拡散性微粒子の含有量が、前記バインダに対して0.0001〜2.0質量%である、請求項3、7、および8のいずれか一項に記載の映像投影システム。
【請求項10】
前記透明像投影膜のヘイズが35%以下である、請求項1〜のいずれか一項に記載の映像投影システム。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の映像投影システムを用いる、空間演出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水面上に映像を投影するための映像投影システムおよびそれを用いる空間演出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、映像を投影する際には、投射装置により映像光をスクリーン等の映像被投影体に投影し、観察者がその映像を観察することが一般的である。近年、このような投射装置と映像被投影体とを備える映像投影システムを用いて、デパート等のショウウィンドウやイベントスペースの透明パーティション等に商品情報や広告等を投影表示する要望が高まってきている。
【0003】
さらに、現在では、より魅力的な空間演出のために、従来は映像被投影体として用いられてこなかった対象物に対しても映像光を投影したいという要望が高まっている。例えば、水槽の天井にプロジェクターを設置して、水槽の底面や側面に映像を表示したり、水槽中に設置したスクリーンに映像を表示したりする方法が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−161236公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の映像表示方法では、水面では無く、水槽底部に映像を投影するものであり、得られる空間演出効果が十分ではなかった。
【0006】
本発明は上記の技術的課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、より魅力的な空間演出を行うことができる水面上に映像を投影するための映像投影システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の技術的課題を解決するため、鋭意検討した結果、水面上に、バインダと光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方とを含む透明映像投影膜を形成し、該透明映像投影膜に映像を投影することで、魅力的な空間演出を実現できることを知見した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0008】
すなわち、本発明の一態様によれば、
水面上に映像を投影するための映像投影システムであって、
前記映像投影システムが、
水面上に形成された透明映像投影膜と、
透明映像投影膜に映像を投影する投射装置と、
を備えてなり、
前記透明映像投影膜が、バインダと、光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方とを含んでなる、映像投影システムが提供される。
【0009】
本発明の態様においては、前記バインダが、透明樹脂および/または透明疎水性溶媒を含んでなることが好ましい。
【0010】
本発明の態様においては、光反射性微粒子の一次粒子の平均径が、0.01〜100μmであることが好ましい。
【0011】
本発明の態様においては、前記光反射性微粒子の形状が、薄片状であり、平均アスペクト比が3〜800であり、かつ正反射率が12〜100であることが好ましい。
【0012】
本発明の態様においては、前記光反射性微粒子の含有量が、前記バインダに対して0.0001〜5.0質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の態様においては、前記光反射性微粒子が、アルミニウム、銀、銅、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ−コバルト合金、インジウム、クロム、酸化アルミニウム、および硫化亜鉛からなる群から選択される金属系粒子、ガラスに金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母もしくは合成雲母に金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料であることが好ましい。
【0014】
本発明の態様においては、前記光拡散性微粒子の屈折率nと前記バインダの屈折率nの差が下記数式(1):
|n―n|≧0.1 ・・・(1)
を満たすことが好ましい。
【0015】
本発明の態様においては、前記光拡散性微粒子が、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セリウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、ダイヤモンド、架橋アクリル樹脂、架橋スチレン樹脂およびシリカからなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0016】
本発明の態様においては、前記光拡散性微粒子の一次粒子のメジアン径が、0.1〜500nmであることが好ましい。
【0017】
本発明の態様においては、前記光拡散性微粒子の含有量が、前記バインダに対して0.0001〜2.0質量%であることが好ましい。
【0018】
本発明の態様においては、前記透明映像投影膜のヘイズが35%以下であることが好ましい。
【0019】
本発明の他の態様によれば、上記の映像投影システムを用いる、空間演出方法が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、水面上に形成されたバインダと光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方とを含む透明映像投影膜と、該透明映像投影膜に映像を投影する投射装置とを備える映像投影システムを用いることで、水面上に映像を表示してより魅力的な空間演出を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明による映像投影システムの一実施形態を示した模式図である。
図2】本発明による映像投影システムの一実施形態を示した模式図である。
図3】実施例2の水面を撮影した写真である。
図4】比較例1の水面を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<映像投影システム>
本発明による映像投影システムは、水面上に映像を投影するための映像投影システムであって、水面上に形成された透明映像投影膜と、透明映像投影膜に映像を投影する投射装置とを備えてなる。なお、本発明において、「透明」とは、用途に応じた透過視認性を実現できる程度の透明性があれば良く、半透明であることも含まれる。
【0023】
本発明による映像投影システムの一実施形態の模式図を図1および2に示す。図1に示す映像投影システムは、水槽15の水面16上に形成された透明映像投影膜11と、水槽15の上部側に設置された、透明映像投影膜11に映像を投影する投射装置12とを備える。視認者13は、投射装置12から投射された投影光14が透明映像投影膜11で散乱することで(点線矢印)、水面上に投影された映像を視認できる。図2に示す映像投影システムは、水槽25の水面26上に形成された透明映像投影膜21と、水槽25の下部側に設置された、透明映像投影膜21に映像を投影する投射装置22とを備える。視認者23は、投射装置22から投射された投影光24が透明映像投影膜21で散乱することで(点線矢印)、水面上に投影された映像を視認できる。
【0024】
(透明映像投影膜)
透明映像投影は、バインダと、光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方とを含んでなる。透明映像投影膜は光反射性微粒子および光拡散性微粒子の少なくともいずれか一方を含むことで、透明映像投影膜に映像を十分に結像させることができる。
【0025】
透明映像投影膜は、ヘイズが、好ましくは35%以下であり、より好ましくは1%以上30%以下であり、さらに好ましくは1%以上20%以下であり、さらにより好ましくは1%以上10%以下である。全光線透過率が、好ましくは70%以上であり、より好ましくは75%以上であり、さらに好ましくは80%以上であり、さらにより好ましくは85%以上である。また、透明映像投影膜は、ヘイズ値および全光線透過率が上記範囲内であれば、透明性が高く、水面の透過性を損なわずに、水面上に映像を投影させることができる。なお、本発明において、透明映像投影膜のヘイズ値および全光線透過率は、濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用いてJIS−K−7361およびJIS−K−7136に準拠して測定することができる。
【0026】
透明映像投影膜の厚さは、特に限定されるものではないが、好ましくは1μm〜1mmであり、より好ましくは10μm〜0.8mmであり、さらに好ましくは20μm〜0.5mmである。
【0027】
(バインダ)
透明映像投影膜を形成するバインダとしては、透明性が高いものであればどのような材料を用いても良く、液体状または固体状であってよい。
【0028】
透明性の高い固体状のバインダとしては、透明樹脂、例えば熱可塑性樹脂、電離放射線硬化性樹脂、および熱硬化性樹脂を挙げることができる。熱可塑性樹脂としては、溶媒に溶解しやすいものであればよい。そのような熱可塑性樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、およびポリスチレン系樹脂を用いることができ、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリプロピレン樹脂、シクロオレフィン樹脂、セルロースアセテートプロピオネート樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリカーボネート樹脂、エチレン・酢酸ビニル共重合樹脂、ニトロセルロース系樹脂およびポリスチレン樹脂を用いることができる。これらの樹脂は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。電離放射線硬化性樹脂としては、アクリル系やウレタン系、アクリルウレタン系やエポキシ系、シリコーン系樹脂等が挙げられる。これらの中でも、アクリレート系の官能基を有するもの、例えば比較的低分子量のポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジェン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂、多価アルコール等の多官能化合物の(メタ)アルリレート等のオリゴマー又はプレポリマー及び反応性希釈剤としてエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、メチルスチレン、N−ビニルピロリドン等の単官能モノマー並びに多官能モノマー、例えば、ポリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等を比較的多量に含有するものが好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂は熱可塑性樹脂および溶剤と混合されたものであってもよく、耐傷性、防眩性を付与するためのハードコート層として用いられるものであってもよい。電離放射線硬化性樹脂としては、シリコーン系樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン樹脂、ウレタン系樹脂、尿素樹脂等が挙げられる。これらの中でも、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂が好ましい。また、熱可塑性樹脂であるポリビニルブチラール樹脂やエチレン・酢酸ビニル共重合樹脂は、ガラス、金属、セラミックス等の基材に対し優れた接着性を有しており、接着剤として使用することもできる。有機系バインダとしては、市販品を用いることができ、例えば、アクリルラッカー(藤倉化成(株)製 レクラック73 クリヤー)、ウレタンアクリレート型UV硬化性樹脂(DIC(株)製ユニディックV−4018)、サンユレック(株)社製の商品名:EA―415等が挙げられる。これらの樹脂を用いて製造した透明映像投影膜を水面に設置することで、水の透明性を損なうことなく、水面に映像を投影することができ、従来にない魅力的な空間演出が可能となる。
【0029】
透明性の高い液体状のバインダとしては、透明性の高い疎水性溶媒であれば特に限定されず、炭化水素系溶剤等が好適に用いられる。炭化水素系溶剤等例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラメチルベンゼン、ミネラルスピリッツ等の芳香族炭化水素類、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル等のシリコーンオイル類、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル(MTBE)等のエーテル類、メチルエチルケトン、イソホロン、メチルイソブチルケトン、メチルへキシルケトン等のケトン類、エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類、およびこれらの混合溶媒が挙げられる。溶剤の添加量は、バインダや微粒子の種類や後述する塗布又は噴霧工程に好適な粘度範囲等に応じて、適宜調節することができる。これらの疎水性溶剤に、後述する光反射性微粒子を分散させ、水面に透明映像投影膜を形成することで、水面に映像を投影することができ、従来にない魅力的な空間演出が可能となる。
【0030】
(光反射性微粒子)
光反射性微粒子としては、薄片状に加工できる光輝性材料を好適に用いることができる。光輝性薄片状微粒子の正反射率は、好ましくは12.0%以上であり、より好ましくは15.0%以上100%以下であり、さらに好ましくは20.0%以上95%以下である。なお、本発明において、光反射性微粒子の正反射率は、以下のようにして測定した値である。
(光反射性微粒子の正反射率)
分光測色計(コニカミノルタ(株)製、品番:CM−3500dを用いて測定した。適切な溶媒(水またはメチルエチルケトン)に分散させた光反射性微粒子をスライドガラス上に膜厚が0.5mm以上になるように塗布、乾燥させた。得られた塗膜付きガラス板について、ガラス面の法線に対して45度の角度でガラス面から塗膜へ光を入射したときの正反射率を測定した。光反射性微粒子を塗膜としたときの正反射率を測定することで、微粒子表面の酸化状態等を考慮した光反射性微粒子の反射性能を把握することができる。
【0031】
光反射性微粒子としては、分散させるバインダの種類にもよるが、例えば、アルミニウム、銀、銅、白金、金、チタン、ニッケル、スズ、スズ−コバルト合金、インジウム、クロム、酸化アルミニウムおよび硫化亜鉛等の金属系微粒子、ガラスに金属もしくは金属酸化物を被覆した光輝性材料、または天然雲母もしくは合成雲母に金属または金属酸化物を被覆した光輝性材料を用いることができる。
【0032】
金属系微粒子に用いる金属材料は、投影光の反射性に優れる金属が用いられる。具体的には、金属材料は、測定波長550nmにおける反射率Rが好ましくは50%以上であり、より好ましくは55%以上であり、さらに好ましくは60%以上であり、さらにより好ましくは70%以上である。以下、本発明において、「反射率R」とは、金属材料に対して光を垂直方向から入射させたときの反射率を指す。反射率Rは金属材料固有値である屈折率nと消衰係数kの値を用いて下記式(1)により算出することができる。nおよびkは、例えばHandbook of Optical Constants of Solids: Volume 1(Edward D.Palik著)や、P.B. Johnson and R.W Christy, PHYSICAL REVIEW B, Vol.6, No.12, 4370-4379(1972)等に記載されている。
R={(1−n)+k}/{(1+n)+k} 式(1)
すなわち、測定波長550nmにおける反射率R(550)は、波長550nmで測定したときのnおよびkより算出できる。金属材料は、測定波長450nmにおける反射率R(450)と、測定波長650nmにおける反射率R(650)の差の絶対値が、測定波長550nmにおける反射率R(650)に対して25%以内であり、好ましくは20%以内であり、より好ましくは15%以内であり、さらに好ましくは10%以内である。このような金属材料を用いることで、入射光の反射性および色再現性に優れる。
【0033】
金属系微粒子に用いる金属材料は、誘電率の実数項ε’が、好ましくは−60〜0であり、より好ましくは−50〜−10である。なお、誘電率の実数項ε’は、屈折率nと消衰係数kの値を用いて下記式(2)により算出することができる。
ε’=n−k 式(2)
本発明はいかなる理論にも束縛されるものではないが、金属材料の誘電率の実数項ε’が上記数値範囲を満たすことで、以下の作用が生じ、透明光散乱体が画像表示装置に好適に使用できると考えられる。すなわち、光が金属系微粒子の中に入ると、金属系微粒子中には光による振動電界が生じるが、同時に金属系微粒子の自由電子によって逆向きの電気分極が生じ電界を遮蔽してしまう。誘電率の実数光ε’が0以下であるとき、光が完全に遮蔽され金属系微粒子の中に光が入って行けない、すなわち、表面凹凸による拡散や金属系微粒子による光の吸収が無いという理想状態を仮定すると、光は全て金属系微粒子表面で反射されることになるため、光の反射性は強い。ε’が0より大きいとき、金属系微粒子の自由電子の振動は光の振動に追随出来ないため光による振動電界を完全には打ち消すことが出来ず、光は金属系微粒子の中に入ったり、透過したりする。その結果、金属系微粒子表面で反射されるのは一部の光だけになり、光の反射性は低くなる。
【0034】
金属材料としては、上記の反射率R、好ましくはさらに誘電率を満たす金属材料を用いたものであれば特に好ましく、純金属や合金も用いることができる。純金属としてはアルミニウム、銀、白金、チタン、ニッケル、およびクロムからなる群から選択されるものが好ましい。金属系微粒子としては、これらの金属材料からなる微粒子や、これらの金属材料を樹脂、ガラス、天然雲母もしくは合成雲母等に被覆した微粒子を用いることができる。各種の金属材料について、各測定波長における屈折率nおよび消衰係数kを表1に、その値を用いて算出した反射率Rおよびε’を表2にまとめる。
【表1】
【表2】
【0035】
光反射性微粒子は、一次粒子の平均径が、好ましくは0.01〜100μm、より好ましくは0.05〜80μm、さらに好ましくは0.1〜50μm、さらにより好ましくは0.5〜30μmである。さらに、光反射性微粒子は、平均アスペクト比(=光反射性微粒子の平均径/平均厚み)が好ましくは3〜800、より好ましくは4〜700、さらに好ましくは5〜600、さらにより好ましくは10〜500である。光反射性微粒子の平均径および平均アスペクト比が上記範囲内であると、透明映像投影膜の透明性を損なわずに映像を十分に結像できる。なお、本発明において、光反射性微粒子の平均径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置((株)島津製作所製、品番:SALD−2300)を用いて測定した。平均アスペクト比は、SEM((株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名:SU−1500)画像より算出した。
【0036】
光反射性微粒子は、市販のものを使用してもよく、例えば、大和金属粉工業株式会社製アルミニウムパウダー、松尾産業株式会社製の商品名メタシャインを好適に使用することができる。
【0037】
バインダ中の光反射性微粒子の含有量は、光反射性微粒子の正反射率に応じて適宜調節することができる。バインダ中の光反射性微粒子の含有量は、バインダに対して、好ましくは0.0001〜5.0質量%であり、好ましくは0.0005〜3.0質量%であり、より好ましくは0.001〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.5質量%である。光反射性微粒子を上記範囲のように低濃度でバインダ中に分散させて透明映像投影膜を形成することによって、透明映像投影膜の透明性を損なわずに映像を十分に結像できる。
【0038】
(光拡散性微粒子)
光拡散性微粒子とは、真球状粒子を含んでいてもよく、凹凸や突起のある球状粒子を含んでいてもよい。バインダの屈折率nと略球状微粒子の屈折率nは、下記数式(1):
|n−n|≧0.1 ・・・(1)
を満たすことが好ましく、下記数式(2):
|n−n|≧0.15 ・・・(2)
を満たすことがより好ましく、下記数式(3):
3.0≧|n−n|≧0.2 ・・・(3)
を満たすことがさらに好ましい。
透明映像投影層を形成するバインダと光拡散性微粒子の屈折率が上記数式を満たすことで、透明映像投影層で光を異方的に散乱させ、視野角を向上させることができる。また、光拡散性微粒子を用いることで、光を全方位的に散乱させ、輝度を向上させることができる。
【0039】
高屈折率を有する光拡散性微粒子としては、例えば、屈折率が好ましくは1.80〜3.55であり、より好ましくは1.9〜3.3であり、さらに好ましくは2.0〜3.0である、無機物、金属酸化物または金属塩を微粒化した金属系粒子を用いることができる。無機物としては、例えばダイヤモンド(n=2.42)を挙げることができる。金属酸化物としては、例えば、酸化ジルコニウム(n=2.40)、酸化亜鉛(n=2.40)、酸化チタン(n=2.72)、および酸化セリウム(n=2.20)等を挙げることができる。金属塩としては、例えば、チタン酸バリウム(n=2.40)およびチタン酸ストロンチウム(n=2.37)等を挙げることができる。また、低屈折率を有する光拡散性微粒子としては、例えば、屈折率が好ましくは1.35〜1.80であり、より好ましくは1.4〜1.75であり、さらに好ましくは1.45〜1.7であり、酸化マグネシウム(n=1.74)、硫酸バリウム(n=1.64)、炭酸カルシウム(n=1.65)等の無機物を微粒化した無機系微粒子が挙げられる。さらに低屈折率を有する有機系略球状微粒子としては、例えば、アクリル系粒子、ポリスチレン系粒子が挙げられる。これらの光拡散性微粒子は、1種単独または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
光拡散性微粒子の一次粒子のメジアン径は、好ましくは0.1〜500nmであり、より好ましくは0.2〜300nmであり、さらに好ましくは0.5〜200nmである。光拡散性微粒子の一次粒子のメジアン径が上記範囲内であると、積層体の正反射性を損なわずに映像を十分に結像できる。なお、本発明において、光拡散性微粒子の一次粒子のメジアン径(D50)は、動的光散乱法により粒度分布測定装置(大塚電子(株)製、商品名:DLS−8000)を用いて測定した粒度分布から求めることができる。
【0041】
光拡散性微粒子の含有量は、透明映像投影層の厚さや微粒子の屈折率に応じて適宜調節することができる。バインダ中の光拡散性微粒子の含有量は、バインダに対して、好ましくは0.0001〜2.0質量%であり、より好ましくは0.001〜1.0質量%であり、さらに好ましくは0.005〜0.8質量%であり、さらにより好ましくは0.01〜0.5質量%である。光拡散性微粒子を上記範囲程度でバインダ中に分散させて透明映像投影層を形成することによって、透明映像投影膜の透明性を損なわずに映像を十分に結像できる。
【0042】
(添加剤)
透明映像投影膜には、所望の光学性能を損なわない範囲で、用途に応じて従来公知の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、相溶化剤、核剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤、可塑剤、滑剤、および色材等が挙げられる。色材としては、カーボンブラック、アゾ系色素、アントラキノン系色素、ペリノン系色素等の色素または染料を用いることができる。また、液晶性化合物等を混合してもよい。
【0043】
(投射装置)
投射装置とは、透明映像投影膜上に映像を投影できるものであれば特に限定されず、例えば、市販のプロジェクターを用いることができる。
【0044】
<空間演出方法>
本発明による空間演出方法は、上記の映像投影システムを用いるものである。本発明による空間演出方法によれば、水槽底部ではなく、水面上に映像を投影することで、従来よりも魅力的な空間演出が可能となる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例と比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定解釈されるものではない。
【0046】
各種物性の測定方法は次のとおりである。
(1)ヘイズ
濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用い、JIS K7136に準拠して測定した。
(2)全光線透過率
濁度計(日本電色工業(株)製、品番:NDH−5000)を用い、JIS K7361−1に準拠して測定した。
【0047】
[実施例1]
バインダとしてジメチルシリコーンオイル(信越化学工業(株)社製、商品名:信越シリコーンKF−96、屈折率:1.40)を用い、光反射性微粒子として、バインダに対して0.05質量%の薄片状アルミニウム微粒子(一次粒子の平均径1μm、アスペクト比25、正反射率16.8%)を加え、透明映像投影膜用組成物(分散液)を得た。
続いて、水の入った水槽を用意し、水面上に透明映像投影膜用組成物を散布して、透明映像投影膜を形成した。
【0048】
水槽の上部側に設置した投射装置から透明映像投影膜に映像を投射したところ、水槽の水面上に鮮明な映像を視認することができた。また、映像を投射しない状態では、水面上の透明映像投射膜はほとんど視認できず、視覚的には水面上に何も設置していない水槽とほとんど違いがなかった。
【0049】
[実施例2]
バインダとしてポリエチレンテレフタレート(熱可塑性樹脂、(株)ベルポリエステルプロダクツ製、商品名:IP121B)を用い、該ポリエチレンテレフタレートペレットに、光反射性微粒子として、実施例1と同種の薄片状アルミニウム微粒子をポリエチレンテレフタレートに対して0.004質量%加えて、回転型混合器にて混合することで、表面に均一に薄片状アルミニウム微粒子が付着したポリエチレンテレフタレートペレットを得た。
得られた微粒子付着ペレットを二軸スクリュー式混練押出機(テクノベル(株)製、商品名:KZW−30MG)のホッパーに投入し、80μmの厚さの透明映像投影膜を作製した。なお、二軸スクリュー式混練押出機のスクリュー径は20mmであり、スクリュー有効長(L/D)は30であった。また、二軸スクリュー式混練押出機にはアダプタを介し、ハンガーコートタイプのTダイを設置した。押出温度は270℃とし、スクリュー回転数は500rpmとし、せん断応力は300KPaとした。使用したスクリューは全長670mmであり、スクリューのホッパー側から160mmの位置から185mmの位置までの間にミキシングエレメントを含み、かつ185mmから285mmの位置の間にニーディングエレメントを含み、その他の部分はフライト形状であった。
続いて、水の入った水槽を用意し、水槽の水面上に透明映像投影膜を設置して映像を投射したところ、水槽の水面上に鮮明な映像を視認することができた。また、映像を投射しない状態では、水面上の透明映像投射膜はほとんど視認できず、視覚的には水面上に何も設置していない水槽とほとんど違いがなかった。なお、透明映像投影膜のヘイズは4.8%であり、全光線透過率は84%であった。観察結果の写真を図3に示した。
【0050】
[実施例3]
スパッタリング装置(((株))ULVAC社製、型番:MLH−2304)を用いて、DCマグネトロンスパッタ法により厚み500nmのニッケル薄膜を作製し、得られた薄膜を粉砕機(日新エンジニアリング社製、型番:SJ−100C)によって粉砕することで、平均径800nmのニッケル微粒子を得た。光反射性微粒子として得られたニッケル微粒子をポリエチレンテレフタレートに対して0.0005質量%添加した以外は実施例2と同様にして透明映像投影膜を作製した。
続いて、水の入った水槽を用意し、水槽の水面上に透明映像投影膜を設置して映像を投射したところ、水槽の水面上に鮮明な映像を視認することができた。また、映像を投射しない状態では、水面上の透明映像投射膜はほとんど視認できず、視覚的には水面上に何も設置していない水槽とほとんど違いがなかった。なお、透明映像投影膜のヘイズは6.5%であり、全光線透過率は80.2%であった。
【0051】
[実施例4]
光反射性微粒子の代わりに光拡散性微粒子として酸化ジルコニウム粒子(一次粒子のメジアン径10nm、屈折率2.40)をPETに対して0.15質量%になるように添加した以外は実施例2と同様にして透明映像投影層を作製した。
続いて、水の入った水槽を用意し、水槽の水面上に透明映像投影膜を設置し、水槽の下部側に設置した投射装置から映像を投射したところ、水槽の水面上に鮮明な映像を視認することができた。また、映像を投射しない状態では、水面上の透明映像投射膜はほとんど視認できず、視覚的には水面上に何も設置していない水槽とほとんど違いがなかった。なお、得られた透明映像投影層のヘイズは8%であり、全光線透過率は79%であった。
【0052】
[比較例1]
水槽の水面上に透明映像投影射膜を形成しなかった以外は、実施例2と同様にして映像を投射したところ、水槽の水面上に鮮明な映像を視認することができなかった。観察結果の写真を図4に示した。
【符号の説明】
【0053】
11、21 透明映像投影膜
12、22 投射装置
13、23 視認者
14、24 投影光
15、25 水槽
16、26 水面
図1
図2
図3
図4