(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る信号処理装置、およびこの信号処理装置を備えたレーダ装置の実施形態について図面を参照しつつ説明する。本発明は、波浪情報を処理するための信号処理装置、この信号処理装置を備えたレーダ装置、および、波浪情報を処理するための信号処理方法に広く適用することができる。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係るレーダ装置1の信号処理装置20の模式的な構成を示すブロック図である。
図2は、レーダ装置1の模式的な構成を示すブロック図である。
図3は、信号処理装置20の第1信頼性評価ユニット21の模式的な構成を示すブロック図である。
図4は、レーダ装置1に備えられる信号処理装置20の第2信頼性評価ユニット22の模式的な構成を示すブロック図である。
【0012】
図2を参照して、本実施形態に係るレーダ装置1は、送波した送信波が波浪に反射して帰来するエコーに基づいて、波浪に関する情報である波浪情報(具体的には、波向など)を算出する。本実施形態のレーダ装置1は、たとえば、漁船などの船舶としての自船に備えられている。なお、レーダ装置1は、自船の周囲に存在する船舶を探知可能に構成されていてもよい。
【0013】
レーダ装置1は、アンテナユニット2と、信号処理装置20と、表示器3と、を備えている。
【0014】
アンテナユニット2は、送波器および受波器の双方として機能するアンテナ4と、受信部5と、A/D変換部6と、を含んでいる。
【0015】
アンテナ4は、指向性の強い送信波としてのパルス状電波を送波可能なレーダアンテナである。また、アンテナ4は、当該アンテナ4から送波されたパルス状電波が物標(本実施形態の場合、波浪)に反射して帰来する反射波(すなわち、エコー)を受波するように構成されている。レーダ装置1は、パルス状電波を送波してから反射波を受波するまでの時間を測定する。これにより、レーダ装置1は、物標までの距離rを検出することができる。アンテナ4は、水平面上で360°回転可能に構成されている。アンテナ4は、パルス状電波の送波方向を変えながら(たとえば、アンテナ角度を変えながら)、電波の送受波を繰り返し行うように構成されている。以上の構成で、レーダ装置1は、自船周囲の平面上の物標を、360°にわたり探知することができる。
【0016】
なお、以下の説明では、パルス状電波を送波してから次のパルス状電波を送波するまでの動作を「スイープ」という。また、電波の送受信を行いながらアンテナを360°回転させる動作を「スキャン」と呼ぶ。
【0017】
受信部5は、アンテナ4で受波したエコーから得られるエコー信号を検波して増幅する。受信部5は、増幅したエコー信号を、A/D変換部6へ出力する。A/D変換部6は、アナログ形式のエコー信号をサンプリングし、複数ビットからなるデジタルデータに変換する。このデジタルデータは、エコーデータである。エコーデータは、アンテナ4が受波した反射波から得られたエコー信号の強度を特定するデータを含んでいる。A/D変換部6は、エコーデータを、信号処理装置20へ出力する。
【0018】
図1を参照して、信号処理装置20は、周波数領域スペクトル生成部8と、信頼性評価部9と、表示用データ生成部10と、を有している。
【0019】
信号処理装置20は、ハードウェア・プロセッサ7(たとえば、CPU、FPGAなど)および不揮発性メモリなどのデバイスで構成される。たとえば、CPUが不揮発性メモリからプログラムを読み出して実行することにより、信号処理装置20を、周波数領域スペクトル生成部8、信頼性評価部9、および、表示用データ生成部10として機能させることができる。
【0020】
信号処理装置20は、アンテナ4で受波されたエコーを処理する。
【0021】
図5は、自船100の周囲における波浪の一例を示す海上の模式的な平面図である。
図5では、自船100の周囲において自船100に向かう2種類の波101,102が存在している様子を示している。
図5では、たとえば、自船100の右舷前方における波101が、自船100の周囲で最も強い波である状態を示している。また、
図5では、自船100の右舷後方における波102が、波101の次に強い波である状態を示している。
図5では、波101,102について、明瞭な波峰線wが表示されている。なお、自船100の周囲には、波101,102以外にも、比較的波高が低い波浪が存在しているけれども、それらの波浪については図示を省略している。
【0022】
図1および
図5を参照して、周波数領域スペクトル生成部8は、自船100の周囲の所定の観測エリアとしての自船周囲領域Z1における所定の解析領域Z10内に含まれる波浪から得られたエコーを周波数解析する。自船周囲領域Z1は、レーダ装置1によって探知可能な領域である。周波数領域スペクトル生成部8は、解析領域Z10における方向周波数スペクトル(周波数領域スペクトル)を生成する。なお、本実施形態では、
図5に示すように、解析領域Z10が自船の右舷前方に設定されている。
【0023】
周波数領域スペクトル生成部8は、データ蓄積部12と、周波数解析部13と、波浪情報取得部14と、分散関係算出部15と、MTF処理部16と、ωθ変換部17と、2次元スペクトル変換部18と、を有している。
【0024】
データ蓄積部12は、自船周囲領域Z1内に含まれるエコーデータを蓄積する。データ蓄積部12は、1回のスキャンで得られる自船周囲領域Z1における解析領域Z10内のエコー画像に含まれるエコーデータを、スキャン毎に抽出する。これにより、データ蓄積部12は解析領域Z10について、複数スキャン分(たとえば32枚分)のエコーデータを蓄積する。
【0025】
周波数解析部13は、本発明の「波数データ取得部」の一例である。周波数解析部13は、解析領域Z10における波浪を観測することで得られた観測データ(すなわち、エコーデータ)に基づいて、波数と当該波数における周波数との関係を含む波数データD1を取得する。
【0026】
本実施形態では、周波数解析部13は、解析領域Z10について、複数スキャン分のエコーデータを用いて周波数解析する。具体的には、周波数解析部13は、解析領域Z10について、複数スキャン分のエコーデータを用いて3次元の高速フーリエ変換(3DFFT、Three Dimensional Fast Fourier Transform)処理を行う。これにより、解析領域Z10について、
図6に示すように、x軸およびy軸の単位をそれぞれrad/m、z軸の単位をrad/secとした3次元データである波数データD1を生成する。
【0027】
図6は、エコーデータを3DFFT処理した結果を示すグラフである。この3次元の波数データD1の処理結果を示すグラフにおけるx軸は、たとえば、東西方向における波数kxであり、y軸は、南北方向における波数kyであり、z軸は、角周波数ωである。3次元グラフを特定する波数データD1において、同一のエコーを示す結果が、周波数の正方向および負方向に対称的に表れる。
【0028】
図1を参照して、周波数解析部13は、得られた3次元の波数データD1を、波浪情報取得部14および信頼性評価部9に出力する。波浪情報取得部14は、本発明の「波浪情報取得部」の一例である。波浪情報取得部14は、周波数解析部13によって得られた3次元の波数データD1の中から、波浪に起因する成分である波浪成分を抽出することで、波浪データD2を取得する。具体的には、波浪情報取得部14は、3次元の波数データD1に対して、分散関係算出部15で算出された波浪の分散関係を用いるフィルタ処理を施す。これにより、波浪情報取得部14は、波浪成分、すなわち、波数データD1に含まれる波浪成分データを検出する。分散関係算出部15は、波浪成分に関する分散関係を算出する部分として設けられている。分散関係算出部15は、たとえば、以下の(1)式で表わされる分散関係式を算出する。
【0030】
但し、ωは角周波数、kは波数、gは重力加速度である。この分散関係式の算出結果は、重力波を示す内容となる。
【0031】
波浪情報取得部14は、周波数解析部13によって得られた3次元データのうち、上記式(1)に近接するスペクトルのデータを抽出するというフィルタ処理を施すことにより、波浪成分を抽出する。これにより、周波数解析部13は、
図7に示す、2次元のスペクトルデータである波浪データを生成する。
図7は、周波数解析部13の処理結果を示すグラフである。この2次元データにおけるx軸およびy軸は、
図6の3次元データの次元と同じである。
【0032】
図7において一例として示すkxkyスペクトルは、座標の各地点を構成するサンプル点のスペクトル強度を、情報として有している。なお、
図7から後述する
図12までの各図においては、各サンプル点のスペクトル強度を、ハッチングの濃さに対応させて図示している。すなわち、ハッチングが濃い部分を構成するサンプル点のエコー強度は、ハッチングが薄い部分を構成するサンプル点のエコー強度よりも高い。波浪情報取得部14は、波浪成分を特定する波浪データD2を、信頼性評価部9およびMTF処理部16に出力する。
【0033】
MTF処理部16は、波数kに応じた所定の係数を、波浪データD2で特定される値に乗じることで、波浪データD3を生成する。
【0034】
ωθ変換部17は、波浪情報取得部14によって抽出されMTF処理部16で係数を乗じられた波浪データD3で特定されるスペクトルを、極座標(ωθ座標)に変換することで、ωθスペクトルを生成する。このωθ座標は、横軸が自船100を基準とした波浪の方向θ(方位方向)に対応し且つ縦軸が角周波数ωに対応する座標である。ωθスペクトルは、波浪データD3で特定されるスペクトルの、極座標における、方位方向θと周波数方向ωの2次元スペクトルである。このωθスペクトルは、方位方向θのスペクトル成分としての方位スペクトルと、周波数方向ωのスペクトル成分としての周波数スペクトルと、を含んでいる。なお、ωθスペクトルは、スムージング処理を施されてもよい。
【0035】
図8は、ωθ変換部17によって生成されたωθスペクトルの一例を示す図である。
図1、
図5および
図8を参照して、一例として示すωθスペクトルは、極座標の各地点を構成するサンプル点のスペクトル強度を、情報として有している。
図8では、一例として、解析領域Z10に含まれる波101に対応する第1ピーク領域31と、解析領域Z10に含まれる波102に対応する第2ピーク領域32と、が示されている。本実施形態では、第1ピーク領域31におけるスペクトルのピーク値P1は、第2ピーク領域32におけるスペクトルのピーク値P2よりも大きい。
【0036】
ωθ変換部17は、ωθスペクトルを特定するデータとしてのωθスペクトルデータD4を、2次元スペクトル変換部18および信頼性評価部9へ出力する。
【0037】
2次元スペクトル変換部18は、ωθスペクトルをx−y直交座標に変換することで、
図9に示す波浪スペクトルを特定するデータとしての波浪スペクトルデータD5を生成する。
図9は、波浪スペクトルの一例を示す模式的な図である。なお、この直交座標において、x軸は、たとえば、東西方向を示し、y軸は、たとえば、南北方向を示す。
【0038】
ωx−ωy直交座標において、原点からの向きは、波向を示している。また、原点からの波浪スペクトルの距離は、波周期を示している。また、各サンプル点のスペクトル強度を、ハッチングの濃さに対応させて図示している。この波浪スペクトルは、解析領域Z10内に最も大きな波101が存在するとともに、解析領域Z10内に2番目に大きな波102が存在する状態を示している。2次元スペクトル変換部18は、波浪スペクトルデータD5を、表示用データ生成部10へ出力する。
【0039】
次に、信頼性評価部9の構成を、より具体的に説明する。
図1、
図3および
図4を参照して、信頼性評価部9は、波浪スペクトルで特定される波浪情報について、実際の波浪の状態を示しているか否かの信頼性(換言すれば、波浪情報の信頼度)を評価するために設けられている。
【0040】
信頼性評価部9は、第1信頼性評価ユニット21と、第2信頼性評価ユニット22と、を有している。
【0041】
第1信頼性評価ユニット21は、フィルタ前パワー算出部23と、フィルタ後パワー算出部24と、パワー比算出部25と、指標判定部26と、を有している。
【0042】
フィルタ前パワー算出部23は、周波数解析部13で生成された3次元データ(すなわち、波数データD1)で特定される3次元の各成分のパワーを、フィルタ前パワーPW1として算出する。具体的には、3次元データで特定される3次元座標での配列(3次元配列)における全ての要素の和が、フィルタ前パワーPW1として算出される。なお、3次元配列における全ての要素の「要素」とは、各波数、周波数におけるエコー強度を意味する。フィルタ前パワー算出部23は、算出したフィルタ前パワーPW1の値を、パワー比算出部25へ出力する。
【0043】
フィルタ後パワー算出部24は、波浪データD2で特定される2次元の各成分のパワーを、フィルタ後パワーPW2として算出する。具体的には、波浪情報取得部14のおける分散関係フィルタリング(換言すれば、重力波曲面上にある成分が抽出された)後の2次元データである、波浪成分データ(2次元配列)における全て要素の和を2倍した値を、フィルタ後パワーPW2として算出する。なお、2次元配列における全ての要素の「要素」とは、各波数におけるエコー強度を意味する。
【0044】
また、波浪成分データ(2次元配列)における全て要素の和を2倍している理由は、分散関係は周波数の正方向および負方向のうちの正方向のみをみているため、フィルタリング後の要素を2倍する必要があるからである。フィルタ後パワー算出部24は、算出したフィルタ後パワーPW2の値を、パワー比算出部25へ出力する。
【0045】
パワー比算出部25は、フィルタ後パワーPW2とフィルタ前パワーPW1との比PW2/PW1を算出し、算出したパワー比PW2/PW1の値を、パワー比指標判定部26に出力する。
【0046】
パワー比指標判定部26は、パワー比PW2/PW1が所定のしきい値Pwth以上であるか否かを判定する。しきい値Pwthは、所定値に設定されている。なお、エコーデータに含まれる波浪成分が多いほど、パワー比PW2/PW1は大きくなる。一方、エコーデータにおいて、波浪成分以外の成分(たとえば、陸地からのエコーによる成分)が大きければ、パワー比PW2/PW1は小さくなる。
【0047】
つまり、パワー比PW2/PW1が大きければ大きいほど、エコーデータに含まれる波浪成分が多いこととなり、エコーデータについて、実際の波浪をより正確に示すデータであるといえる。パワー比指標判定部26は、パワー比PW2/PW1がしきい値Pwth以上であれば、エコーデータの信頼性が高いと判定する。一方、パワー比指標判定部26は、パワー比PW2/PW1がしきい値Pwth未満であれば、エコーデータの信頼性が低いと判定する。パワー比指標判定部26は、判定結果を示すデータとしてのパワー比判定結果データD6を、2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0048】
次に、第2信頼性評価ユニット22の構成を、より具体的に説明する。
【0049】
図1、
図4、
図5および
図8を参照して、信頼性評価部9は、後述する第1評価用エリアAR10および第2評価用エリアAR20について、波浪データD3で特定される波浪情報の信頼性を評価する。
【0050】
信頼性評価部9は、第1評価用スペクトル算出部41と、第2評価用スペクトル算出部42と、第1スペクトル評価部43と、第2スペクトル評価部44と、ピーク比算出部45と、ピーク比評価部46と、を有している。
【0051】
第1評価用スペクトル算出部41は、ωθスペクトルにおけるピーク値が最大である領域を含む領域としての第1評価用エリアAR10に関して、波浪データD2に基づいて、波浪に関するスペクトルである第1評価用スペクトルSP10の算出処理を行う。
【0052】
第1評価用スペクトル算出部41は、第1ピーク検出部47と、第1評価用エリア設定部48と、第1評価用スペクトル抽出部49と、を有している。
【0053】
第1ピーク検出部47は、解析領域Z10に含まれるエコー画像から得られたωθスペクトルのうち、ピーク値(エコー強度)が最も高い点としての第1ピーク点PT1を検出する。なお、ωθスペクトルは、解析領域Z10内に含まれる波浪から得られたエコーに基づいて算出された、波浪の角周波数と波浪の到来方向とで特定されるωθ座標の各位置に該波浪のエコー強度が表示されたωθスペクトルであるといえる。本実施形態では、第1ピーク検出部47は、たとえば、
図8のうち、色の最も濃い点、すなわち、ピーク値P1を有する点としての第1ピーク点P1を検出する。
【0054】
図10は、第1評価用エリアAR10について説明するための概念図である。
図4および
図10を参照して、第1評価用エリア設定部48は、第1評価用エリアAR10を設定する。第1評価用エリア設定部48は、第1ピーク点PT1を含む、所定の第1評価用エリアAR10を設定する。第1評価用エリアAR10は、第1ピーク点PT1を中心として、方位方向θおよび周波数方向ωのそれぞれに、所定の範囲に亘って設定される。なお、本明細書では、第1評価用エリアAR10および第2評価用エリアAR20は、方位方向θおよび周波数方向ωのそれぞれについて、誇張して示している。
【0055】
なお、第1ピーク点PT1がθ=0deg付近、または、360deg付近に存在する場合、第1評価用エリア設定部48は、ωθスペクトルのθ=0degの部分とθ=360degの部分とが連続していると扱うことで、ピーク値が不連続に変化する不自然な第1評価用エリアAR10の生成を抑制できる。同様に、周波数方向ωにおいて、第1ピーク点PT1が下限(たとえば、0rad/s)または上限付近に存在する場合、第1評価用エリア設定部48は、ωθスペクトルのうち、周波数方向ωにおいて、ωθスペクトルの外側の領域について、ωθスペクトルにおける最小の信号強度と同じ強度のスペクトルを補完する。これにより、ピーク値が不連続に変化する不自然な第1評価用エリアAR10の生成を抑制できる。
【0056】
第1評価用スペクトル抽出部49は、第1評価用スペクトルSP10を抽出する。第1評価用スペクトルSP10は、第1評価用エリアAR10におけるスペクトルで特定される波浪情報が実際の波浪状態を正確に示しているか否かについての、信頼性を評価するために用いられるスペクトルである。第1評価用スペクトルSP10は、第1評価用エリアAR10において最も大きいピーク値P1を有するスペクトルである。
【0057】
第1評価用スペクトル抽出部49が抽出する第1評価用スペクトルSP10の成分は、第1方位スペクトルSP11と、第1周波数スペクトルSP12と、を含んでいる。第1方位スペクトルSP11は、第1評価用エリアAR10における、方位方向θに沿う強度のスペクトルを示す。第1方位スペクトルSP11の抽出方法として、2種類例示することができる。より具体的には、(1)積分法と、(2)中心抽出法と、を例示することができる。
【0058】
上記(1)の積分法では、方位方向θの任意の1点において、方位方向θの座標が同じスペクトルの強度を周波数方向ωに積分した積分値が、当該1点における第1方位スペクトルSP1の強度となる。そして、この積分値を方位方向θに沿ってプロットする処理を行うことで、第1方位スペクトルSP11を抽出することができる。なお、
図10では、一例としてこの積分法で抽出された第1方位スペクトルSP11を示している。
【0059】
上記(2)の中心抽出法では、ωθスペクトルにおいて、第1ピーク点PT1を通過し且つ方位方向θに延びる基準線L1上での方位θと強度との関係を示すスペクトル(すなわち、1次元配列スペクトル)が、第1方位スペクトルSP11として抽出される。
【0060】
第1周波数スペクトルSP12は、第1評価用エリアAR10における、周波数方向ωに沿う強度のスペクトルを示す。第1周波数スペクトルSP12の抽出方法として、上記した2種類を例示することができる。
【0061】
上記(1)の積分法では、周波数方向ωの任意の1点において、周波数方向ωの座標が同じスペクトルの強度を方位方向θに積分した積分値が、当該1点における第1周波数スペクトルSP12の強度となる。そして、この積分値を周波数方向ωに沿ってプロットする処理を行うことで、第1周波数スペクトルSP12を抽出することができる。なお、
図10では、一例としてこの積分法で抽出された第1周波数スペクトルSP12を示している。
【0062】
上記(2)の中心抽出法では、ωθスペクトルにおいて、第1ピーク点PT1を通過し且つ周波数方向ωに延びる基準線L2上での周波数ωと強度との関係を示すスペクトル(すなわち、1次元配列スペクトル)が、第1周波数スペクトルSP12として抽出される。
【0063】
図4および
図8を参照して、第2評価用スペクトル算出部42は、
図8に示すωθ座標に含まれる領域である評価対象エリアAR1のうち、第1評価用エリアAR10を除くエリアについて、ωθスペクトルにおけるピーク値(エコー強度)が最も大きい領域を含む領域としての第2評価用エリアAR20に関して、波浪データD2に基づいて波浪に関するスペクトルである第2評価用スペクトルSP20の算出処理を行う。
【0064】
第2評価用スペクトル算出部42は、第1評価用エリア置換部56と、第2ピーク検出部57と、第2評価用エリア設定部58と、第2評価用スペクトル抽出部59と、を有している。
【0065】
第1評価用エリア置換部56は、ωθスペクトルのうち、第1評価用エリアAR10の各座標における第1評価用スペクトルSP10の強さを低減させる処理(すなわち、置換処理)を行う。具体的には、第1評価用エリア置換部56は、ωθスペクトルのうち、第1評価用エリアAR10の各座標における信号強度を、ωθスペクトルにおける最小強度またはゼロに置換する。これにより、
図11に示すように、第1ピーク点PT1を含む第1評価用エリアAR10の信号強度は、ノイズ程度の小さな値となる。
図11は、ωθスペクトルにおける第1評価用エリアAR10が置換処理された状態を示す模式図である。
【0066】
再び
図4および
図8を参照して、第2ピーク検出部57は、評価対象エリアAR1のうち、第1評価用エリアAR10を除くエリアにおいて、ωθスペクトルのうち、ピーク値(エコー強度)が最も高い点としての第2ピーク点PT2を抽出する。本実施形態では、第2ピーク検出部57は、たとえば、
図11におけるωθスペクトルのうち、色の最も濃い点を検出する。
【0067】
図12は、第2評価エリアAR20について説明するための概念図である。
図4および
図12を参照して、第2評価用エリア設定部58は、
図8に示すωθスペクトルにおいて、第2ピーク点PT2を含む、所定の第2評価用エリアAR20を設定する。第2評価用エリア設定部58による第2評価エリアAR20の設定方法は、第1評価用エリア設定部48による第1評価用エリアAR10の設定方法と同様である。
【0068】
具体的には、第2評価用エリアAR20は、評価対象エリアAR1のうち、第1評価用エリアAR10を除くエリアにおいて最も強いエコー強度が観測された第2ピーク点PT2を中心として、方位方向θおよび周波数方向ωのそれぞれに、所定の範囲に亘って設定される。
【0069】
前述したように、第2評価エリアAR20の設定に用いられるωθスペクトルは、第1評価用エリアAR10が置換処理される前の当該ωθスペクトルであり、
図8に示すωθスペクトルである。なお、第1評価用エリアAR10が置換処理された後の当該ωθスペクトル(
図11に示すωθスペクトル)を基に第2評価用エリアAR20が設定される場合、第1評価用エリアAR10と第2評価用エリアとの重複部分において、強度に不自然なエッジが生じてしまうことが考えられる。よって、第2評価エリアAR20の設定に用いられるωθスペクトルを、第1評価用エリアAR10が置換処理される前の当該ωθスペクトル(
図8に示すωθスペクトル)とすることで、このような不自然なエッジを抑制できる。
【0070】
また、第2ピーク点PT2がθ=0deg付近、または、θ=360degに存在する場合、第2評価用エリア設定部58は、ωθスペクトルのθ=0degの部分とθ=360degの部分とが連続していると扱うことで、ピーク値が不連続に変化する不自然な第2評価用エリアAR20の生成を抑制できる。同様に、周波数方向ωにおいて、第2ピーク点PT2が下限(たとえば、0rad/s)または上限付近に存在する場合、第2評価用エリア設定部58は、ωθスペクトルのうち、周波数方向ωにおいて、ωθスペクトルの外側の領域について、ωθスペクトルにおける最小の信号強度と同じ強度のスペクトルを補完する。これにより、ピーク値が不連続に変化する不自然な第2評価用エリアAR20の生成を抑制できる。
【0071】
第2評価用スペクトル抽出部59は、第2評価用スペクトルSP20を抽出する。第2評価用スペクトルSP20は、第2評価用エリアAR20におけるスペクトルで特定される波浪情報が実際の波浪状態を正確に示しているか否かについての、信頼性を評価するために用いられるスペクトルである。第2評価用スペクトルSP20は、第2評価用エリアAR20の中央において最も大きいピーク値P2を有するスペクトルである。
【0072】
第2評価用スペクトル抽出部59が抽出する第2評価用スペクトルSP20の成分は、第2方位スペクトルSP21と、第2周波数スペクトルSP22と、を含んでいる。第2方位スペクトルSP21は、第2評価用エリアAR20における、方位方向θに沿う強度のスペクトルを示す。第2方位スペクトルSP21の抽出方法として、2種類例示することができる。より具体的には、前述した(1)積分法と、(2)中心抽出法と、を例示することができる。
【0073】
よって、第2評価用スペクトルSP20についての積分法、および、中心抽出法についての詳細な説明は、省略する。なお、
図12では、一例として積分法で抽出された第2方位スペクトルSP21を示している。
【0074】
第2周波数スペクトルSP22は、第2評価用エリアAR20における、周波数方向ωに沿う強度のスペクトルを示す。第2周波数スペクトルSP22の抽出方法として、上記した2種類を例示することができる。なお、
図12では、一例として積分法で抽出された第2周波数スペクトルSP22を示している。
【0075】
図4および
図10を参照して、第1スペクトル評価部43は、周波数解析によって生成されたωθスペクトルにおける第1評価用エリアAR10で特定される波浪情報が、実際の波浪状態を示しているか否かの信頼性を、第1評価用スペクトルSP10を用いて判定する。
【0076】
具体的には、第1スペクトル評価部43は、第1方位スペクトルSP11と第1周波数スペクトルSP12のそれぞれについて、強度の平均値PA11,PA12を算出する。そして、第1スペクトル評価部43は、第1方位スペクトルSP11の基準値としての中央ピーク値P11を平均値PA11で除した値P11/PA11を、信頼性判定指標B11として算出する。同様に、第1スペクトル評価部43は、第1周波数スペクトルSP12の中央ピーク値P12を平均値PA12で除した値P12/PA12を、信頼性判定指標B12として算出する。なお、中央ピーク値とは、対応する方位方向θまたは周波数方向ωにおける中央位置での信号強度をいう。
【0077】
第1スペクトル評価部43は、各信頼性判定指標B11,B12が、所定のしきい値B1th以上であるか否かを判定する。これは第1方位スペクトルSP11および第1周波数スペクトルSP12のそれぞれにおいて、対応する信頼性判定指標B11,B12が大きいと、スペクトルのピーク形状が鋭いこととなり、波浪成分が明確であることにより信頼性が高いと判定できるからである。
【0078】
第1スペクトル評価部43は、各信頼性判定指標B11,B12が何れもしきい値B1th以上である場合、第1評価用スペクトルSP10で特定される波浪情報の信頼性が高いと判定する。一方、第1スペクトル評価部43は、各信頼性判定指標B11,B12の少なくとも一方がしきい値B1th未満である場合、第1評価用スペクトルSP10で特定される波浪情報の信頼性が低いと判定する。
【0079】
図4および
図12を参照して、第2スペクトル評価部44は、周波数解析によって生成されたωθスペクトルにおける第2評価用エリアAR20で特定される波浪情報が、実際の波浪状態を示しているか否かの信頼性を、第2評価用スペクトルSP20を用いて判定する。本実施形態では、第2スペクトル評価部44における処理は、第1スペクトル評価部43における処理と同様である。
【0080】
具体的には、第2スペクトル評価部44は、第2方位スペクトルSP21と第2周波数スペクトルSP22のそれぞれについて、強度の平均値PA21,PA22を算出する。そして、第2スペクトル評価部44は、第2方位スペクトルSP21の基準値としての中央ピーク値P21を平均値PA12で除した値P21/PA21を、信頼性判定指標B21として算出する。同様に、第2スペクトル評価部44は、第2周波数スペクトルSP22の中央ピーク値P22を平均値PA22で除した値P22/PA22を、信頼性判定指標B22として算出する。
【0081】
第2スペクトル評価部44は、各信頼性判定指標B21,B22が、所定のしきい値B2th(たとえば、1.5)以上であるか否かを判定する。第2スペクトル評価部44は、各信頼性判定指標B21,B22が何れもしきい値B2th以上である場合、第2評価用スペクトルSP20で特定される波浪情報の信頼性が高いと判定する。一方、第2スペクトル評価部44は、各信頼性判定指標B21,B22の少なくとも一方がしきい値B2th未満である場合、第2評価用スペクトルSP20で特定される波浪情報の信頼性が低いと判定する。
【0082】
図4、
図10および
図12を参照して、ピーク比算出部45は、第1評価用スペクトルSP10と第2評価用スペクトルSP20の比を算出する。具体的には、ピーク比算出部45は、第2方位スペクトルSP21の中央ピーク値P21を第1方位スペクトルSP11の中央ピーク値P11で除した値P21/P11を、信頼性判定指標B3として算出する。同様に、ピーク比算出部45は、第2周波数スペクトルSP22の中央ピーク値P22を第1周波数スペクトルSP12の中央ピーク値P12で除した値P22/P12を、信頼性判定指標B4として算出する。
【0083】
ピーク比評価部46は、各信頼性判定指標B3,B4が、所定のしきい値B34th以上であるか否かを判定する。ここで、第2評価用スペクトルSP20の中央ピーク値P21,P22が第1評価用スペクトルSP10の対応するピーク値P11,P12よりも十分に小さければ、第2評価用スペクトルSP20で特定される波浪は、第1評価用スペクトルSP10で特定される波浪に対してノイズ程度の存在となり、信頼度が低いか、または、無視できると考えることができる。
【0084】
ピーク比評価部46は、各信頼性判定指標B3,B4が何れもしきい値B34th以上である場合、第2評価用スペクトルSP20で特定される波浪情報の信頼性が高いと判定する。一方、ピーク比評価部46は、各信頼性判定指標B3,B4の少なくとも一方がしきい値B34th未満である場合、第2評価用スペクトルSP20で特定される波浪情報の信頼性が低いと判定する。
【0085】
なお、信頼性評価部9の第1スペクトル評価部43、第2スペクトル評価部44、および、ピーク比評価部46のぞれぞれの評価結果を示すデータD7,D8,D9は、
図1に示す2次元スペクトル変換部18に出力される。2次元スペクトル変換部18は、各評価用エリアAR10,AR20の座標について、ωθ座標からωx−ωy座標に変換する。2次元スペクトル変換部18で処理されたデータは、表示用データ生成部10へ出力される。なお、本実施形態では、波周期,波向など、波浪情報のうちの一部のみが出力される構成となっている。よって、2次元スペクトル変換部18を省略し、ωθ変換部17から出力されるデータD4、および、信頼性評価部9から出力されるデータD6〜D9は、直接表示用データ生成部10に出力されてもよい。これにより、信号処理装置20の構成をより簡素にすることが可能である。
【0086】
表示用データ生成部10は、2次元スペクトル変換部18から出力された2次元の波浪スペクトルデータD5と、信頼性評価データD6〜D9と、を用いて、表示器3に表示させる画像のためのデータを生成する。
【0087】
図13は、表示器3の表示画面の一例を示す図である。
図1、
図5および
図13を参照して、表示器3は、たとえば、液晶ディスプレイ装置であり、表示用データに基づいて画像を表示する。
図13では、一例として、波101の検出結果についての信頼性が高く、波102の検出結果についての信頼性が低いと判定された場合を示している。
【0088】
表示用データ生成部10は、たとえば、波浪スペクトルデータD5で特定されるスペクトルのうち、第1評価用エリアAR10に相当する領域の座標および信号強度などから、自船周囲領域AR1における最も強い波101の波浪情報を検出する。この場合の波浪情報は、たとえば、波高、方位、および、波長である。さらに、表示用データ生成部10は、第1スペクトル評価部43の出力結果に基づいて、当該波101の検出結果が十分な信頼性を有しているか否かを示すデータを生成する。
【0089】
表示用データ生成部10は、たとえば、波101の波浪情報が十分な信頼性を有している場合、波101について、波浪情報を表示させることを許可するデータを生成する。一方、表示用データ生成部10は、たとえば、波101の波浪情報が十分な信頼性を有していない場合、波101について、波浪情報を表示することを許可しないデータを生成する。
【0090】
上記と同様に、表示用データ生成部10は、たとえば、波浪スペクトルデータD5で特定されるスペクトルのうち、第2評価用エリアAR20に相当する領域の座標および信号強度などから、自船周囲領域AR1において2番目に強い波102の波浪情報を検出する。この場合の波浪情報は、たとえば、波高、方位、および、波長である。さらに、表示用データ生成部10は、第2スペクトル評価部44の出力結果に基づいて、当該波102の波浪情報が十分な信頼性を有しているか否かを示すデータを生成する。
【0091】
表示用データ生成部10は、たとえば、波102の波浪情報が十分な信頼性を有している場合、波102について、波浪情報を表示させることを許可するデータを生成する。一方、表示用データ生成部10は、たとえば、波102の波浪情報が十分な信頼性を有していない場合、波102について、波浪情報を表示することを許可しないデータを生成する。
【0092】
上記の処理によって生成された表示用データは、表示用データ生成部10から表示器3へ出力される。
【0093】
表示器3は、たとえば、波101,102のそれぞれについて、表示用データによって特定される波浪情報を表示可能である。表示器3は、第1波用表示領域61と、第2波用表示領域62とを有している。
【0094】
波101に関する波浪情報の信頼性が高い場合、
図13に示すように、第1波用表示領域61には、波101に関する波浪情報(本実施形態では、波高、方位、波長)がそれぞれ表示される。一方、波101に関する波浪情報の信頼性が低い場合、第1波用表示領域61には、波101に関する波浪情報は表示されず、たとえば、横棒が表示される。
【0095】
上記と同様に、波102に関する波浪情報の信頼性が高い場合、第2波用表示領域62には、波102に関する波浪情報(本実施形態では、波高、方位、波長)がそれぞれ表示される。一方、波102に関する波浪情報の信頼性が低い場合、
図13に示すように、第2波用表示領域62には、波102に関する波浪情報は表示されず、たとえば、横棒が表示される。
【0096】
次に、信号処理装置20における処理の流れの一例を説明する。
図14は、信号処理装置20における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。なお、以下では、フローチャートを参照して説明する場合、フローチャート以外の図も適宜参照しながら説明する。
【0097】
信号処理装置20では、まず、データ蓄積部12が、受信部5から出力されるエコーデータを、複数スキャン(本実施形態では、32スキャン)分、蓄積する(ステップS11)。
【0098】
次に、周波数解析部13が、複数スキャン分のエコーデータを用いて、周波数解析をすることで、波数データD1を取得する(ステップS12)。すなわち、所定の観測エリアとしての自船周囲領域AR1のうち解析領域Z10における波浪を観測することで得られた観測データに基づいて、波数と周波数との関係を含む3次元の波数データを取得する。
【0099】
次に、波浪情報取得部14は、3次元の波数データD1に対して、分散関係算出部15で算出された波浪の分散関係を用いるフィルタ処理を施す。これにより、波浪情報取得部14は、波浪成分、すなわち、波数データD1に含まれる波浪データD2を検出する(ステップS13)。
【0100】
次に、MTF処理部16は、波浪データD2に所定の係数を乗じる処理(ステップS14)を行うことで、波浪データD3を生成する。
【0101】
その後、ωθ変換部17は、波浪データD3の座標をωθの極座標に変換する(ステップS15)。
【0102】
その後、信頼性評価部9は、周波数解析部13から出力された波数データD1と、波浪データD2と、ωθ変換部17から出力されたωθスペクトルデータD4と、を用いて、波浪データD3の信頼性を評価する(ステップS16)。この際、信頼性評価部9は、ωθスペクトルデータD4を用いて、評価対象エリアAR1の一部である第1評価用エリアAR10および、第2評価用エリアAR20について、波浪データD3で特定される波浪情報の信頼性を評価する。
【0103】
2次元スペクトル変換部18は、ωθスペクトルから出力されたωθスペクトルデータD4と、信頼性評価部9から出力された、各評価用エリアAR10,AR20の信頼性評価結果(本実施形態では、評価データD6〜D9)と、について、kykyの2次元座標のデータに変換する(ステップS17)。
【0104】
次に、表示用データ生成部10は、2次元スペクトル変換部18から出力されたωθスペクトルデータD5を用いて、最も大きな波101と2番目に大きな波102のそれぞれの波向、波高、周波数について、信頼性評価に合格した波の情報を表示するためのデータを生成する。このデータが用いられることで、表示器3に信頼性の高い波浪データが表示される。
【0105】
次に、信号処理装置20の信頼性評価部9における処理(ステップS16)の流れの一例を説明する。
図15は、信号処理装置20の信頼性評価部9における処理の流れの一例を説明するためのフローチャートである。
【0106】
信頼性評価部9では、まず、第1信頼性評価ユニット21において、パワー比信頼性を判定する。第1信頼性評価ユニット21の指標判定部26は、パワー比PW2/PWが前述のしきい値Pwth以上である場合、信号処理装置20において十分な大きさの波浪成分が検出されていると判定し(ステップS21でOK)、信頼性評価部9による信頼性評価(ステップS22〜S28)を許可する。
【0107】
一方、第1信頼性評価ユニット21の指標判定部26は、パワー比PW2/PWが前述のしきい値Pwth未満である場合、信号処理装置20において十分な大きさの波浪成分が検出されていないと判定する(ステップS21でNG)。この場合、第1信頼性評価ユニット21の指標判定部26は、波101,102のそれぞれについての波浪情報の信頼性が低いことを示すデータD6を、2次元スペクトル変換部18に出力する(ステップS23)。
【0108】
第1信頼性評価ユニット21が、第2信頼性評価ユニット22による信頼性評価を許可した場合(ステップS21でOK)、第2信頼性評価ユニット22の第1スペクトル評価部43は、第1評価用スペクトルSP10が信頼性を有する値を示しているか否かを判定する(ステップS22)。
【0109】
第1方位スペクトルSP11および第1周波数スペクトルSP12の少なくとも一方において、対応する判定指標B11,B12がしきい値B1th未満である場合(ステップS22でNG)、第1スペクトル評価部43は、第1評価用エリアAR10における波101、すなわち、自船周囲領域AR1において最も強い波101に関して、波浪情報の信頼度が低いと判定する(ステップS23)。
【0110】
なお、波101に関して波浪情報の信頼度が低い場合、波102についての波浪情報の信頼度も当然に低いと考えられる。よって、この場合、第1スペクトル評価部43は、第2評価用スペクトルSP20で特定される波102についても、波浪情報の信頼度が低いと判定する(ステップS23)。この場合、第1スペクトル評価部43は、この判定結果を示すデータD7を2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0111】
一方、第1評価用スペクトルSP10の第1方位スペクトルSP11および第1周波数スペクトルSP12の何れにおいても、対応する判定指標B11,B12がしきい値B1th以上である場合(ステップS22でOK)、第1スペクトル評価部43は、第1評価用エリアAR10における波101、すなわち、自船周囲領域AR1の解析エリアZ10において最も強い波101に関して、波浪情報の信頼度が高いと判定する(ステップS24)。この場合、第1スペクトル評価部43は、この判定結果を示すデータD7を2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0112】
次に、波101に関する波浪情報の信頼性が高いと判定された場合、ピーク比評価部46は、ピーク比P21/P11,P22/P12のそれぞれについての信頼性判定指標B3,B4がしきい値B34th以上であるか否かを判定する(ステップS25)。
【0113】
信頼性判定指標B3,B4の少なくとも一方がしきい値B34th未満である場合(ステップS25でNG)、ピーク比評価部46は、第2評価用スペクトルSP20で特定される波102の波浪情報について、信頼度が低いと判定する(ステップS27)。ピーク比評価部46は、この判定結果を示すデータD9を2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0114】
一方、信頼性判定指標B3,B4の双方がしきい値B34th以上である場合(ステップS25でOK)、第2スペクトル評価部44による、第2評価用スペクトルSP20の評価が行われる。より具体的には、第2スペクトル評価部44は、第2評価用スペクトルSP20が信頼性を有する値を示しているか否かを判定する(ステップS26)。
【0115】
第2方位スペクトルSP21および第2周波数スペクトルSP22の少なくとも一方において、対応する判定指標B21,B22がしきい値B2th未満である場合(ステップS26でNG)、第2スペクトル評価部44は、解析領域Z10における波102に関して、波浪情報の信頼度が低いと判定する(ステップS27)。そして、第2スペクトル評価部44は、この判定結果を示すデータD8を2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0116】
一方、第2評価用スペクトルSP20の第2方位スペクトルSP21および第2周波数スペクトルSP22の何れにおいても、対応する判定指標B21,B22がしきい値B2th以上である場合(ステップS26でOK)、第2スペクトル評価部44は、解析領域A10(第2評価用エリアAR20)における波102に関して、波浪情報の信頼度が高いと判定する(ステップS28)。この場合、第2評価用スペクトル評価部44は、この判定結果を示すデータD8を2次元スペクトル変換部18へ出力する。
【0117】
以上の処理の流れによって、表示用データ生成部10には、波101についての波浪情報が信頼性を有しているか否かについてのデータと、波102についての波浪情報が信頼性を有しているか否かについてのデータと、が与えられる。表示用データ生成部10は、これらのデータ(すなわち、信頼性データ)に基づいて、表示器3に画像を表示させるためのデータを生成する。
【0118】
以上説明したように、本実施形態によると、信頼性評価部9は、自船周囲領域Z1の一部である解析領域Z10について、波浪情報の信頼性を評価する。この構成によると、信頼性評価部9は、波浪データのうち、解析領域Z10において比較的大きな波が生じていることを示すデータに着目して、波浪情報の信頼性を評価することができる。このような構成により、信頼性評価部9は、波浪情報を信頼できるか否かについて、より確実に判定することが可能である。
【0119】
また、本実施形態によると、信頼性評価部9は、解析領域Z10に関して、波浪データに基づいて波浪に関するスペクトルSP10,SP20を算出する評価用スペクトル算出部41,42と、スペクトルSP10,SP20に基づいて信頼性を評価するスペクトル評価部43,44と、を含んでいる。この構成によると、信頼性評価部9は、波浪に関するスペクトルSP10,SP20を用いて、波浪情報の信頼性を評価できる。
【0120】
また、本実施形態によると、スペクトル評価部41,42は、対応するスペクトルSP10,SP20の強さの基準値としての中央ピーク値P11,P12,P21,P22と対応する平均値PA11,PA12,PA12,PA22との関係から信頼性の判定指標B11,B12,B21,B22を算出する。また、この判定指標B11,B12,B21,B22は、中央ピーク値P11,P12,P21,P22のそれぞれを対応する平均値PA11,PA12,PA21,PA22で除した値である。また、スペクトル評価部43,44は、判定指標B11,B12,B21,B22が対応する所定のしきい値B1th,B2th以上であるか否かに基づいて、信頼性の有無を評価する。この構成によると、各成分スペクトルSP11,SP12,SP21,SP22の形状の急峻さ(急峻度合)に基づいて、波浪情報の信頼性をより正確に評価できる。
【0121】
また、本実施形態によると、信頼性評価部9の第1スペクトル抽出部49は、第1評価用エリアAR10において、最も大きいピーク値を有する第1評価用スペクトルSP10を抽出する。そして、第1スペクトル評価部43は、第1評価用スペクトルSP10に基づいて波浪情報の信頼性を判定する。この構成によると、信頼性評価部9は、解析領域Z10内の波に関するスペクトル形状を最も明確に評価し易い当該スペクトルを用いて、波浪情報の信頼性を評価できる。
【0122】
また、本実施形態によると、信頼性評価部9の第2スペクトル抽出部59は、評価対象エリアAR1のうち第1評価用エリアAR10を除くエリアにおいて、最も強いエコー強度が観測された箇所を中央に含む第2評価用エリアAR20であって、ピーク値P2を有する第2評価用スペクトルSP20を、抽出する。そして、第2スペクトル評価部44は、第2評価用スペクトルSP20に基づいて波浪情報の信頼性を判定する。この構成によると、信頼性評価部9は、解析領域Z10内の波に関するスペクトル形状を最も明確に評価し易い第1評価用スペクトルSP10に加えて、自船周囲領域AR1の波に関するスペクトル形状を2番目に評価し易い第2評価用スペクトルSP20を用いて、波浪情報の信頼性を評価できる。
【0123】
また、本実施形態によると、第2評価用エリア設定部58は、第1評価用エリアAR10における第1評価用スペクトルSP10の強さを低減させた状態で、第2評価用エリアAR20を設定する。この構成によると、第2評価用エリア設定部58は、第1評価用エリアAR10におけるスペクトル強度に影響されることを抑制された状態で、より正確に第2評価用エリアAR20を設定できる。
【0124】
また、本実施形態によると、信頼性評価部9のピーク比算出部45は、第1評価用スペクトルSP10の中央ピーク値P11,P12と第2評価用スペクトルSP20の対応する中央ピーク値P21,P22と、の比に基づいて、信頼性の判定指標B3,B4を算出する。そして、ピーク比評価部46は、判定指標B3,B4が所定のしきい値B34th以上であるか否かに基づいて、波浪情報の信頼性を評価する。この構成によると、第2評価用スペクトルSP20の中央ピーク値P2が第1評価用スペクトルSP10の中央ピーク値P1と比べて十分に小さい場合、信頼性評価部9は、第2評価用スペクトルSP20で特定される、解析領域Z10内における2番目に大きな波について、ノイズ程度の小さなスペクトルデータであると判定することができる。
【0125】
また、第1評価用スペクトルSP10および第2評価用スペクトルSP20は、それぞれ、極座標における方位方向θと周波数方向ωの2次元スペクトルである。そして、第1評価用スペクトルSP10および第2評価用スペクトルSP20は、それぞれ、方位方向θのスペクトル成分としての方位スペクトルSP11,SP21および、周波数方向ωのスペクトル成分としての周波数スペクトルSP12,SP22を含んでいる。この構成によると、信頼性評価部9は、スペクトルの成分毎に、波浪情報の信頼性評価を行うことができる。これにより、信頼性評価部9は、より正確に、波浪情報の信頼性を評価できる。
【0126】
また、本実施形態によると、表示器3には、信頼性評価部9での評価結果に応じて、波浪情報が表示されたり、非表示となったりする。具体的には、信頼性評価部9において信頼性が高いと評価された波に関する波浪情報については、表示器3に表示される。一方、信頼性評価部9において信頼性が高いと評価された波に関する波浪情報については、表示器3に表示されない。これにより、ユーザに対して、信頼性が高い波浪情報のみを提供することができる。
【0127】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明はこれらに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0128】
(1)上記実施形態では、
図15を参照して、第1スペクトルの信頼度が低い場合、具体的には、第1方位スペクトルSP11および第1周波数スペクトルSP12の少なくとも一方において、対応する判定指標B11,B12がしきい値B1th未満である場合(ステップS22でNG)、第2スペクトルの信頼度の判定が行われないが、これに限らない。例えば、第1スペクトルの信頼度が低い場合であっても、第2スペクトルの信頼度の判定が行われてもよい。
【0129】
(2)上記実施形態では、2つの波101,102に関する波浪情報の信頼度を判定する例を挙げて説明したが、これに限らず、3つ以上のn個(nは自然数)の波に関する波浪情報の信頼度が判定されてもよい。これにより、多数の波の波浪情報について、信頼性を評価できる。
【0130】
(3)
図16は、変形例に係るレーダ装置の表示器の表示画面の一例を示す図である。上述した実施形態では、信頼性が高い波浪情報は表示器3に表示される一方、信頼性が低い波浪情報については表示器3に表示されないが、これに限らない。具体的には、例えば各波について算出された波浪情報が信頼性の高低に関わらず全て表示器に表示され、それとともに、各波に関する波浪情報に対応する位置にその波に関する信頼性の度合を示す指標が表示されてもよい。本変形例では、第1波用表示領域61及び第2波用表示領域62のそれぞれに、各波の信頼性の度合を示す指標として、インジケータ63が表示される。
図16で示すインジケータ63では、信頼性が高くなるにつれて、矩形状の指示部64の長さが右側へ向かって延びて長くなる一方、信頼性が低くなるにつれて、指示部64の長さが短くなる。
【0131】
以上のように、本変形例によれば、波浪情報が信頼性の度合(本変形例の場合、インジケータ63)とともに表示されるため、ユーザは、その信頼性の度合を見ることにより、波浪情報として表示されている数値の確からしさを把握できる。
【0132】
なお、本変形例では、インジケータとして、
図16に示すような棒グラフ状のインジケータを例に挙げたが、これに限らず、インジケータは、その他の表示方式であってもよい。例えば一例として、信頼性が低い場合には赤が表示され、信頼性が高くなるに連れて、橙、黄、緑、青と、徐々に色調が変化するインジケータを設けてもよい。この場合、波浪情報の文字色等をそのインジケータの色調に連動させてもよい。