【課題を解決するための手段】
【0010】
記載された課題は、
(a) トリメシン酸と、
(b) 一般構造式(I)
【化1】
(式中、
Rは、C
3〜C
6アルキレンラジカルであり、nはそれに応じて、ポリエーテル(b)が500〜5000g/molの数平均分子量を有するように選択される)の少なくとも1種のポリエーテルと
の反応によって製造できる、ポリエーテルを主体としたカルボキシ官能性反応生成物を含む、顔料入り水性ベースコート材料であって、
成分(a)および(b)は前記反応において、0.7対2.3から1.6対1.7のモル比で使用され、得られる反応生成物は、5〜50mg KOH/gの酸価を有する、顔料入り水性ベースコート材料によって解決された。
【0011】
前記ポリエーテルが500〜5000g/molの数平均分子量を有するようにnが選択される条件は、次のように説明することができる。例えば、Rがテトラメチレンラジカルであり、数平均分子量を1000g/molにすべき場合、nは平均で、13から14の間である。当業者ならば、与えられた指示から、対応する反応生成物をどのように生産または選択するかについては、十分に認識する。これ以外にも、下記の記述、特に例が、さらなる情報をさらに提供している。したがって、パラメータnは、数平均分子量と全く同じように、統計上の平均値であると理解すべきである。
【0012】
新たなベースコート材料は以下、本発明のベースコート材料とも呼ぶ。本発明のベースコート材料の好ましい実施形態は、後続の記述からも従属請求項から明白である。
【0013】
反応生成物自体、および加えて、耐チッピング性を改善するために水性ベースコート材料中に反応生成物を使用する方法も、本発明のために同様に提供される。本発明は、素地上に多層皮膜型塗料系を生産するための方法に特に関し、記載された方法によって生産された多層皮膜型の系にも関する。
【0014】
本発明の反応生成物を使用する方法によれば、コーティング、特に多層皮膜型塗料系の生産との関連において使用すると、非常に良好な耐チッピング性をもたらすベースコート材料が得られる。本発明の反応生成物、および加えて、本発明のベースコート材料は、初期仕上げ塗装の領域、特に自動車産業の部門および自動車補修塗膜の領域において、使用され得る。
【0015】
成分(a)
本発明の反応生成物は、トリメシン酸を用いて製造できる。公知のように、トリメシン酸は、3個のカルボン酸基が芳香族環の1位と3位と5位に直接配置された、芳香族カルボン酸である。
【0016】
成分(b)
本発明の反応生成物は、一般構造式(I)
【化2】
(式中、Rは、C
3〜C
6アルキルラジカルである。)の少なくとも1種のポリエーテルを用いて製造することができる。添え字nは、いずれの場合においても、前記ポリエーテルが500〜5000g/molの数平均分子量を有するように選択すべきである。好ましくは、上記ポリエーテルは、750〜4000g/mol、より好ましくは1000〜3500g/molの数平均分子量、非常に好ましくは1500〜3200g/molの数平均分子量を有する。数平均分子量は、例えば、1000g/mol、2000g/molまたは3000g/molであってよい。
【0017】
そうではないと明記されていない限り、本発明の目的においては、数平均分子量は、蒸気圧浸透によって測定される。本発明の目的における測定は、蒸気圧浸透圧計(Knauer製のモデル10.00)により、50℃のトルエンに溶かした一連の濃度の分析対象成分について実施し、実験における較正定数を使用機器に関して決定するための較正物質としてベンゾフェノンを用いた(使用された較正物質がベンジルだったE.Schroeder、G.Mueller、K.−F.Arndt、「Leitfaden der Polymercharakterisierung」[Principles of polymer characterization]、Akademie−Verlag、Berlin、47〜54頁、1982年に従った。)。
【0018】
公知のように、上記においてすでに先述したとおり、数平均分子量は常に、統計上の平均値である。したがって、同じ事柄は、式(I)中のパラメータnにも当てはまらなければならない。成分(b)に関して選択されており、この点について説明を必要とする「ポリエーテル」という呼称は、ポリマー、例えばポリエーテル(b)の場合、化合物が常に、異なるサイズを有する分子の混合物であるというように理解される。これらの分子の少なくとも一部またはすべては、ある配列の(モノマーの反応済み形態としての)同一のまたは異なるモノマー単位によって区別される。したがって、ポリマーまたは分子混合物は原則的に、複数の(言い換えると、少なくとも2個の)同一のまたは異なるモノマー単位を含む、分子を含む。混合物の比率は、当然ながら、モノマー自体、言い換えると、未反応形態のモノマーを含み得る。公知のように、これは単に、一般に分子の一様性を伴って進行しない製造反応、すなわち、モノマーの重合の結果である。特定のモノマーが離散的な分子量を与えられていることもあるが、このとき、ポリマーは常に、分子量が異なる分子の混合物である。したがって、離散的な分子量によってポリマーを記述することはできないが、代わりに、公知のように、ポリマーは常に、平均分子量、例えば上記に記載された数平均分子量を割り当てられる。
【0019】
本発明による使用のためのポリエーテルにおいて、n個すべてのラジカルRが同じであってもよい。しかしながら、異なる種類のラジカルRが存在することもできる。好ましくは、すべてのラジカルRは、同じである。
【0020】
Rは、好ましくは、C
4アルキレンラジカルである。より好ましくは、Rは、テトラメチレンラジカルである。
【0021】
非常に特に好ましくは、本発明による使用のためのポリエーテルは、平均でジオール型の直鎖状ポリテトラヒドロフランである。
【0022】
反応生成物
反応生成物の製造に関して、特殊な点は存在しない。成分(a)と(b)とは互いに、ヒドロキシル基とカルボン酸との常識的な縮合反応によって結合している。反応は例えば、バルクまたは一般的な有機溶媒との溶液中において、例えば100℃〜300℃の温度で実施することができる。当然ながら、硫酸、スルホン酸および/またはテトラアルキルチタネート、亜鉛アルコキシレートおよび/またはスズアルコキシレート、例えばジ−n−ブチル酸化スズ等のジアルキルスズオキシドまたはジアルキルスズオキシドの有機塩等、一般的な触媒も用いることができる。縮合反応の場合、さらに、発生した水を収集するために、水分離器を使用ことは、慣例的なことである。当然ながら、カルボキシ官能性反応生成物が形成することになる点については、留意すべきである。成分(b)は過剰に利用されるため、所望される特定の量のカルボキシル基が、得られる生成物中に残留するように注意しなければならない。これは、当業者ならば、相応の測定により反応の途中で酸化をモニタリングし、所望の酸価に到達したら反応を終了することによって容易に達成することができるが、このような終了は例えば、もはや反応が起き得なくなる温度への冷却によって達成される。
【0023】
ここで、成分(a)および(b)は、0.7対2.3から1.6対1.7のモル比、好ましくは0.8対2.2から1.6対1.8のモル比、非常に好ましくは0.9対2.1〜1.5対1.8のモル比で使用される。さらなる特に好ましい比の範囲は、0.45対1〜0.55対1である。
【0024】
反応生成物は、カルボキシ官能性である。反応生成物の酸価は、5〜50mg KOH/g、好ましくは6〜40mg KOH/g、特に好ましくは7〜35mg KOH/g、非常に好ましくは10〜30mg KOH/g。酸価は、DIN53402に従って測定されるが、当然ながら、いずれの場合においても、生成物自体に関する(存在する溶媒に取り込まれた生成物の何らかの溶液または分散物の酸価に関しない)。本発明との関連において公定規格に言及する場合、当然ながら、出願時点において適用可能な規格のバージョンに言及し、または、出願時点において適用可能なバージョンが存在しない場合は適用可能な最新のバージョンに言及する。
【0025】
得られた反応生成物は、好ましくは1500〜15000g/mol、好ましくは2000〜10000g/mol、非常に好ましくは2200〜8000g/molの数平均分子量を有する。
【0026】
本発明の反応生成物は、一般にヒドロキシ官能性であり、好ましくは、平均でジヒドロキシ官能性である。したがって、好ましくは、本発明の反応生成物は、ヒドロキシル官能基だけでなく、カルボキシル官能基も有する。
【0027】
特に好ましい反応生成物に関して、事実としては、特に好ましい反応生成物は、(a)トリメシン酸と、(b) 1500〜3200g/molの数平均分子量を有するジオール型の直鎖状ポリテトラヒドロフランとの反応によって製造することが可能であり、成分(a)および(b)は、0.45対1〜0.55対1のモル比で使用され、反応生成物は、8〜40mg KOH/gの酸価および2000〜10000g/molの数平均分子量を有する。
【0028】
顔料入り水性ベースコート材料
本発明は、少なくとも1つの本発明の反応生成物を含む、顔料入り水性ベースコート材料にさらに関する。反応生成物に関して上記に記載された好ましい実施形態のすべては、当然ながら、反応生成物を含むベースコート材料にも当てはまる。
【0029】
ベースコート材料は、自動車仕上げ塗装および一般的な工業用塗装において使用される、着色作用のある中塗りコーティング材料であると理解されている。このベースコート材料は一般に、焼き付けた(完全に硬化させた)サーフェーサーもしくはプライマーサーフェーサーによって前処理しておいた金属素地またはプラスチック素地に塗布し、または、このようにして塗布できない場合は時折、プラスチック素地に直接塗布されることもある。使用される素地は、既存の塗料系をさらに含んでいてもよく、こうした既存の塗料系には、任意に、(例えば研磨による)前処理も要求することができる。1つより多いベースコート塗膜を塗布することは、現在、すっかり慣例的になっている。したがって、上述のように1つより多いベースコート塗膜を塗布する場合、第1のベースコート塗膜は、こうした第2の塗膜のための素地を構成する。上記のように第1のベースコート塗膜が素地を構成する場合との関連において、焼き付けたサーフェーサー皮膜への塗布の代わりとして特にあり得る事柄は、硬化済み電着塗膜を備え付けた金属素地に直接第1のベースコート材料を塗布すること、および、第1のベースコート塗膜を別途硬化させることなく、第1のベースコート塗膜に直接第2のベースコート材料を塗布することである。特に環境による影響からあるベースコート塗膜または一番上のベースコート塗膜を保護するために、少なくとも追加用クリアコート塗膜がベースコート塗膜または一番上のベースコート塗膜の上に塗布される。こうした塗布は一般に、ウェットオンウェットプロセスによって実施され、すなわち、ベースコート塗膜を硬化させることなく、クリアコート材料を塗布する。次いで最後に、硬化を一体的に実施する。硬化済み電着塗膜型塗膜上に1つのみのベースコート塗膜を生産し、次いでクリアコート材料を塗布し、次いでこれらの2つの塗膜を一体的に硬化させることもまた、現在、広く一般に実践されている。後者は、本発明との関連における、好ましい一実施形態である。この理由は、本発明の反応生成物を用いた場合、ベースコートを1個のみ生産し、したがって、結果として操作を著しく単純化したにもかかわらず、優れた耐チッピング性が優れている結果になるためである。
【0030】
すべての本発明の反応生成物の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは0.1wt%〜20wt%であり、より好ましくは0.5wt%〜15wt%であり、非常に好ましくは1.0wt%〜10wt%であり、または1.5wt%〜5wt%でさえある。
【0031】
本発明の反応生成物の量が0.1wt%未満である場合、付着および耐チッピング性のさらなる改善が達成されない可能性もあり得る。上記の量が20wt%超である場合、特定の状況下においては、このとき、多数の潜在的にアニオン性の基(カルボキシルレート基)が反応生成物中にあるため、ベースコート材料から生産された塗料系の耐凝縮性の観点において欠点が存在し得る。
【0032】
好ましい反応生成物を特定の比率範囲で含むベースコート材料についての特段の定めがあり得る場合、次の事柄が当てはまる。当然ながら、好ましい群に含まれない反応生成物も依然としてベースコート材料中に存在し得る。この場合、特定の比率範囲は、好ましい群の反応生成物にのみ当てはまる。それでもやはり、好ましい群の反応生成物および好ましい群の一部ではない反応生成物からなる反応生成物の合計比率も同様に、特定の比率範囲に属することが好ましい。
【0033】
したがって、0.5〜15wt%の比率範囲および好ましい群の反応生成物に制限した場合、この0.5〜15wt%という比率範囲は最初に、好ましい群の反応生成物にのみ明確に当てはまる。しかしながら、上記のように制限した場合、好ましい群からの反応生成物および好ましい群の一部を形成しない反応生成物からなる元々包含されていたすべての反応生成物もまた、合計で0.5〜15wt%まで存在することが好ましいであろう。したがって、好ましい群の5wt%の反応生成物が使用される場合、好ましくない群の10wt%以下の反応生成物が使用され得る。
【0034】
本発明の目的においては、記載された原則は、記載されたすべてのベースコート材料の成分およびこれらの成分の比率範囲に対しても有効であり、例えば、顔料、結合剤としてのポリウレタン樹脂またはメラミン樹脂等の架橋剤に対しても有効である。
【0035】
本発明によって使用されるベースコート材料は、有色顔料および/またはエフェクト顔料を含む。このような有色顔料およびエフェクト顔料は当業者に公知であり、例えば、Roempp−Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998年、176頁および451頁で記述されている。顔料の割合は、例えば、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して1〜40wt%の範囲、好ましくは2〜35wt%の範囲、より好ましくは3〜30wt%の範囲に収まり得る。
【0036】
本発明との関連において好ましいベースコート材料は、物理硬化、熱硬化または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能なポリマーを結合剤として含む、ベースコート材料である。本発明との関連における「結合剤」は、関係するDIN EN ISO4618によれば、顔料および充填剤を含めない、コーティング組成物の不揮発性成分である。したがって、特定の結合剤は、下記においてこうした結合剤という表現が、例えば特定のポリウレタン樹脂のように、物理硬化、熱硬化または熱と光化学的作用のある放射線の両方による硬化が可能な特定のポリマーについて主に使用されているとしても、例えば一般的なコーティング加工用添加剤、本発明の反応生成物、または、下記で後述する一般的な架橋剤を含める。
【0037】
本発明の反応生成物の他にも、本発明の顔料入り水性ベースコート材料はより好ましくは、結合剤として反応生成物と異なる少なくとも1種のさらなるポリマー、より特定すると、必ずしも排他的なわけではないがポリウレタン、ポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、および/または、記載されたポリマーのコポリマー、特に好ましくは任意の比率の記載されたポリマーのコポリマーからなる群より選択される少なくとも1種のポリマー、少なくとも1種のポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートを含む。
【0038】
本発明との関連においては、「物理硬化」という用語は、ポリマー溶液またはポリマー分散物からの溶媒の消失による塗膜の形成を意味する。一般的に、架橋剤は、こうした物理硬化のためには必要でない。
【0039】
本発明との関連においては、「熱硬化」という用語は、母体となるコーティング材料(parent coating material)中に別個の架橋剤または自己架橋形成用結合剤を用いた状態で、熱により開始される、コーティング塗膜の架橋形成を意味する。架橋剤は、結合剤中に存在する反応性官能基と相補的な反応性官能基を含有する。上記のようなコーティング塗膜の架橋形成は一般的に、当業者によって、外部架橋形成と呼ばれている。相補的な反応性官能基、または自己反応性官能基、すなわち同じ種類の基と反応する基が結合剤分子中にすでに存在する場合、存在する結合剤により、自己架橋が形成されている。適切とされる相補的な反応性官能基および自己反応性官能基の例は、独国特許出願DE19930665A1、7頁、28行目から9頁、24行目によって公知である。
【0040】
本発明の目的においては、光化学的作用のある放射線は、近赤外線(NIR)と、紫外線等の電磁放射線、より特定すると紫外線と、電子放射線等の粒子放射線とを意味する。紫外線による硬化は、一般的に、ラジカルまたはカチオン性光開始剤によって開始される。熱硬化および光化学的作用のある光による硬化が同時に用いられる場合、「二重硬化」という用語も使用される。
【0041】
本発明において、物理硬化可能なベースコート材料と、熱硬化可能なベースコート材料との両方が好ましい。熱硬化可能なベースコート材料の場合、当然ながら、ある比率の物理硬化も常に存在する。しかしながら、理解を容易にするという特段の理由のため、これらのコーティング材料は、熱硬化可能であると呼ぶ。
【0042】
熱硬化する好ましいベースコート材料は、結合剤としてのポリウレタン樹脂および/またはポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレート、好ましくはヒドロキシル含有ポリウレタン樹脂および/またはポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレート、および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂またはブロック型もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、好ましくはアミノプラスト樹脂を含む、ベースコート材料である。アミノプラスト樹脂の中でも特に、メラミン樹脂が好ましい。
【0043】
すべての架橋剤、好ましくはアミノプラスト樹脂ならびに/またはブロック型および/もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、より特に好ましくはメラミン樹脂の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは1〜20wt%であり、より好ましくは1.5〜17.5wt%であり、非常に好ましくは2〜15wt%であり、または2.5〜10wt%でさえある。
【0044】
存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、イオン型親水性および/またはノニオン型親水性により安定化することができる。本発明の好ましい実施形態において、ポリウレタン樹脂は、イオン型親水性により安定化されている。好ましいポリウレタン樹脂は、線形であり、または分岐の場合を含む。より好ましくは、ポリウレタン樹脂は、そのポリウレタン樹脂の存在下でオレフィン性不飽和モノマーが重合されたポリウレタン樹脂である。このポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和モノマーの重合に由来したポリマーと一緒に存在することが、このポリマーとポリウレタン樹脂とが互いに共有結合していなくても、可能である。しかしながら、ポリウレタン樹脂もやはり、オレフィン性不飽和モノマーの重合に由来したポリマーに同じように共有結合することができる。このとき、上記樹脂でできた両方の群は、オレフィン性不飽和モノマーとして(メタ)アクリレート基含有モノマーを使用する場合においては、ポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートと呼ばれることもある(上記の先述部分も参照されたい。)、コポリマーである。この種類のポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレート、より特定すると、ヒドロキシ官能性ポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートは、本発明との関連における使用のために特に好ましい。オレフィン性不飽和モノマーは、したがって好ましくは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーである。使用すべきアクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーは、アクリレート基またはメタクリレート基を含有しない他のオレフィン性不飽和化合物と組み合わせて使用することも同様に好ましい。ポリウレタン樹脂に共有結合したオレフィン性不飽和モノマーは、より好ましくは、アクリレート基またはメタクリレート基を含有するモノマーである。この形態のポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートは、さらに好ましい。
【0045】
適切な飽和または不飽和ポリウレタン樹脂および/またはポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートは、例えば、− 独国特許出願DE19914896A1、第1段、29行目から49行目、および第4段、23行目から第11段、5行目、
− 独国特許出願DE19948004A1、4頁、19行目から13頁、48行目、
− 欧州特許出願EP0228003A1、3頁、24行目から5頁、40行目、
− 欧州特許出願EP0634431A1、3頁、38行目から8頁、9行目、または
− 国際特許出願WO92/15405、2頁、35行目から10頁、32行目、または
− 独国特許出願DE4437535A1
で記述されている。
【0046】
ポリウレタン樹脂は、好ましくは、当業者に公知の脂肪族化合物型ポリイソシアネート、脂環式化合物型ポリイソシアネート、脂肪族化合物−脂環式化合物型ポリイソシアネート、芳香族化合物型ポリイソシアネート、脂肪族化合物−芳香族化合物型ポリイソシアネートおよび/または脂環式化合物−芳香族化合物型ポリイソシアネートを用いて製造される。
【0047】
ポリウレタン樹脂を製造するためのアルコール成分として、比較的高い分子質量の飽和および不飽和ポリオールならびに低い分子質量の飽和および不飽和ポリオールを使用し、さらには任意に、当業者に公知な少量のモノアルコールも使用することが好ましい。使用される低い分子質量のポリオールは、より特定すると、分岐の場合を導入するためのジオールおよび少量のトリオールである。比較的高い分子質量の適切なポリオールの例は、飽和またはオレフィン性不飽和ポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールである。比較的高い分子質量のポリオールは、より特定するとポリエステルポリオールであり、特に、400〜5000g/molの数平均分子量を有するポリエステルポリオールである。
【0048】
親水性による安定化および/または水性媒体への分散性の増大を目的とした場合、存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、特定のイオン性基、および/またはイオン性基に変換され得る(潜在的にイオン性の基であり得る)基を含有してもよい。こうした種類のポリウレタン樹脂は、本発明との関連においては、イオン型親水性により安定化されたポリウレタン樹脂と呼ぶ。ノニオン型親水性による修飾基も同様に存在し得る。しかしながら、イオン型親水性により安定化されたポリウレタンが好ましい。より正確に言えば、修飾基は、代替的には、
− 中和剤および/もしくは第四級化用作用物質によってカチオンに変換され得る官能基、ならびに/またはカチオン性基(カチオン型修飾)、
または
− 中和剤によってアニオンに変換され得る官能基、および/もしくはアニオン性基(アニオン型修飾)、
ならびに/または
− ノニオン型親水性基(ノニオン型修飾)
である。
【0049】
当業者が認識しているように、カチオン型修飾のための官能基は例えば、第一級、第二級および/または第三級アミノ基、第二級スルフィド基(secondary sulfide group)および/または第三級ホスフィン基、より特定すると第三級アミノ基および第二級スルフィド基(中和剤および/または第四級化用作用物質によってカチオン性基に変換され得る官能基)である。第一級、第二級、第三級および/または第四級アンモニウム基、第三級スルホニウム基ならびに/または第四級ホスホニウム基、より特定すると第四級アンモニウム基および第三級スルホニウム基等のカチオン性基(当業者に公知の中和剤および/または第四級化用作用物質を用いて上記官能基から製造された基)もまた、言及すべきである。
【0050】
周知のように、アニオン型修飾のための官能基は、例えばカルボン酸基、スルホン酸基および/またはホスホン酸基、より特定するとカルボン酸基(中和剤によってアニオン性基に変換され得る官能基)、ならびに加えて、カルボキシレート基、スルホネート基および/またはホスホネート基等のアニオン性基(当業者に公知の中和剤を用いて上記官能基から製造された基)である。
【0051】
ノニオン型親水性修飾のための官能基は、好ましくはポリ(オキシアルキレン)基、より特定するとポリ(オキシエチレン)基である。
【0052】
イオン型親水性修飾は、(潜在的に)イオン性の基を含有するモノマーによって、ポリウレタン樹脂に導入することができる。ノニオン型修飾は例えば、ポリウレタン分子の側基または末端基としてポリ(エチレン)オキシドポリマーを組み入れることによって、導入される。親水性修飾は例えば、イソシアネート基に対して反応性の少なくとも1つの基、好ましくは少なくとも1つのヒドロキシル基を含有する化合物によって、導入される。イオン型修飾は、修飾基と少なくとも1つのヒドロキシル基とを含有するモノマーを用いて導入することができる。ノニオン型修飾を導入するためには、当業者に公知のポリエーテルジオールおよび/またはアルコキシポリ(オキシアルキレン)アルコールを使用することが好ましい。
【0053】
すでに上記に提示のように、ポリウレタン樹脂は、好ましくは、オレフィン性不飽和モノマーによるグラフトポリマーであってよい。この場合、後でポリウレタンは、例えばオレフィン性不飽和モノマーを主体とした側基および/または側鎖によってグラフトされる。より特定すると、上記側鎖は、ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖であり、このとき、当該の系は、すでに上述したポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートである。本発明の目的におけるポリ(メタ)アクリレートは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーを含み、好ましくは、アクリレート基および/またはメタクリレート基を含有するモノマーからなる、ポリマーまたはポリマーラジカルである。ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖は、(メタ)アクリレート基含有モノマーを用いてグラフト重合中に構築された側鎖であると理解される。ここで、グラフト重合においては、グラフト重合で使用されるモノマーの合計量に対して50mol%超の(メタ)アクリレート基含有モノマー、より特定すると75mol%超の(メタ)アクリレート基含有モノマー、特に100mol%の(メタ)アクリレート基含有モノマーを使用することが好ましい。
【0054】
記述された側鎖は、好ましくはポリウレタン樹脂一次分散物の製造後に、ポリマーに導入される(上記にある先行記述も参照されたい。)。この場合、上記一次分散物中に存在するポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和化合物とのグラフト重合を後で進行させるのに用いられる、オレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基を含有してもよい。したがって、グラフトのためのポリウレタン樹脂は、不飽和ポリウレタン樹脂であってもよい。この場合、グラフト重合は、オレフィン性不飽和反応物質のラジカル重合である。例えば、グラフト重合のために使用されるオレフィン性不飽和化合物は、少なくとも1つのヒドロキシル基を含有することも同様に可能である。この場合は最初に、ポリウレタン樹脂の遊離イソシアネート基との反応により、これらのヒドロキシル基を介してオレフィン性不飽和化合物をポリウレタン樹脂に結合させることも同様に可能である。こうした結合は、オレフィン性不飽和化合物と、ポリウレタン樹脂中に任意に存在するオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基とのラジカル反応の代わりに実施され、または、このラジカル反応に加えて実施される。上記の結合の後にはやはり、上記で先述したように、ラジカル重合を用いたグラフト重合が続く。オレフィン性不飽和化合物、好ましくはオレフィン性不飽和モノマーによってグラフトされたポリウレタン樹脂が、いかなる場合においても、結果として生じる。
【0055】
ポリウレタン樹脂をグラフトするのに用いるのが好ましいオレフィン性不飽和化合物としては、このグラフトを目的とした場合に当業者が利用できる事実上すべてのラジカル重合可能なオレフィン性不飽和有機モノマーを使用することができる。いくつかの好ましいモノマーの種類が、例示として明示することができ、すなわち、
− (メタ)アクリル酸またはその他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル、
− アルキルラジカル中に最大20個の炭素原子を有する(メタ)アクリル酸アルキルおよび/またはシクロアルキルエステル、
− 少なくとも1個の酸基、より特定すると例えば(メタ)アクリル酸等の正確に1個のカルボキシル基を含むエチレン性不飽和モノマー、
− 5個から18個の炭素原子を有するα位で分岐したモノカルボン酸のビニルエステル、
− (メタ)アクリル酸と、5個から18個の炭素原子を有するα位で分岐したモノカルボン酸のグリシジルエステルとの反応生成物、
− オレフィン(例えば、エチレン)、(メタ)アクリルアミド、ビニル芳香族炭化水素(例えば、スチレン)、塩化ビニル等のビニル化合物および/またはエチルビニルエーテル等のビニルエーテル等、さらなるエチレン性不飽和モノマー
を例示として明示することができる。
【0056】
(メタ)アクリレート基を含有するモノマーを使用することが好ましく、この結果、グラフトによって結合させる側鎖は、ポリ(メタ)アクリレートを主体とした側鎖になる。
【0057】
オレフィン性不飽和化合物とのグラフト重合を進行できるようにする、ポリウレタン樹脂中のオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基が、好ましくは特定のモノマーによって、ポリウレタン樹脂に導入される。これらの特定のモノマーは、オレフィン性不飽和基の他にも、例えば、イソシアネート基に対して反応性である少なくとも1つの基をさらに含む。ヒドロキシル基も好ましく、第一級アミノ基および第二級アミノ基も好ましい。ヒドロキシル基が特に好ましい。
【0058】
ポリウレタン樹脂中へのオレフィン性不飽和側基および/またはオレフィン性不飽和末端基の導入を可能にするものとして記述されたモノマーは当然ながら、後でオレフィン性不飽和化合物によってポリウレタン樹脂をさらにグラフトすることなく、用いることもできる。しかしながら、ポリウレタン樹脂は、オレフィン性不飽和化合物によってグラフトされるのが好ましい。
【0059】
存在するのが好ましいポリウレタン樹脂は、自己架橋形成および/または外部架橋形成用結合剤であってもよい。ポリウレタン樹脂は、好ましくは、外部架橋形成を可能にする反応性官能基を含む。この場合、顔料入り水性ベースコート材料中に少なくとも1つの架橋剤が存在することが好ましい。外部架橋形成を可能にする反応性官能基は、より特定すると、ヒドロキシル基である。特に有利なことに、本発明の方法においては、ポリヒドロキシ官能性ポリウレタン樹脂を使用することが可能である。このようにポリヒドロキシ官能性ポリウレタン樹脂の使用が可能であることは、ポリウレタン樹脂が、分子1個当たりの平均で1個より多いヒドロキシル基を含有することを意味する。
【0060】
ポリウレタン樹脂は、ポリマー化学において慣例的な方法によって製造される。この方法は例えば、ポリイソシアネートとポリオールとを重合させてポリウレタンにすること、および、好ましくはこの後に続いて、オレフィン性不飽和化合物とグラフト重合させることを意味する。これらの方法は当業者に公知であり、個別に適合させることもできる。例示的な製造プロセスおよび反応条件は、欧州特許EP0521928B1、2頁、57行目から8頁、16行目に見出すことができる。
【0061】
存在することが好ましいポリウレタン樹脂は、例えば、0〜250mg KOH/gのヒドロキシル価を有するが、より特定すると、20〜150mg KOH/gのヒドロキシル価を有する。ポリウレタン樹脂の酸価は、好ましくは5〜200mg KOH/gであり、より特定すると10〜40mg KOH/gである。本発明との関連において、ヒドロキシル価は、DIN53240に従って測定される。
【0062】
ポリウレタン樹脂含量は、いずれの場合においても、ベースコート材料の塗膜形成固形分に対して、好ましくは5wt%から80wt%の間であり、より好ましくは8wt%から70wt%の間であり、より好ましくは10wt%から60wt%の間である。
【0063】
本発明との関連において、ところどころで、ポリウレタン(ポリウレタン樹脂とも呼ぶ)と、ポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートとの両方に言及されていることとは無関係に、「ポリウレタン」という表現は、総称として、ポリウレタン−ポリ(メタ)アクリレートを包含する。したがって、特定の経路において2種類のポリマーが区別されず、代わりに、「ポリウレタン」または「ポリウレタン樹脂」という表現のみが記載されている場合、両方のポリマーの種類が包含される。
【0064】
塗膜形成固形分とは、最終的に結合剤割合に相当するものであり、顔料および必要に応じた充填剤も存在しないベースコート材料の不揮発分質量割合を意味する。塗膜形成固形分は、次のように測定することができる。顔料入り水性ベースコート材料の試料(約1g)を50〜100倍の量のテトラヒドロフランと混合し、次いで約10分撹拌する。次いで、不溶性顔料およびすべての充填剤をろ過によって除去し、残留物を少しばかりのTHFによってすすぎ洗いし、得られたろ液からTHFをロータリーエバポレータによって除去する。ろ液の残留物を120℃で2時間乾燥させ、得られた塗膜形成固形分を量り取る。
【0065】
すべてのポリウレタン樹脂の質量百分率割合の総計は、顔料入り水性ベースコート材料の合計質量に対して、好ましくは2〜40wt%であり、より好ましくは2.5〜30wt%であり、非常に好ましくは3〜25wt%である。
【0066】
増粘剤も存在することが好ましい。適切な増粘剤は、フィロシリケートでできた群の無機増粘剤である。しかしながら、無機増粘剤に加えて、1つまたは複数の有機増粘剤も同様に使用することができる。これらの増粘剤は好ましくは、(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤、例えば商用製品Rheovis ASS130(BASF)、およびポリウレタン増粘剤、例えばRheovis PU1250(BASF)からなる群より選択される。使用される増粘剤は、使用される結合剤と異なる。
【0067】
さらに、顔料入り水性ベースコート材料は、少なくとも1つの補助剤をさらに含んでいてもよい。このような補助剤の例は、残留物を伴うことなくまたは残留物を実質的に伴うことなく熱分解し得る塩、物理硬化、熱硬化および/または光化学的作用のある放射線による硬化が可能で上記のポリマーと異なる結合剤としての樹脂、さらなる架橋剤、有機溶媒、反応性希釈剤、透明顔料、充填剤、分子の分散により溶かすことができる型の染料(molecularly dispersely soluble dye)、ナノ粒子、光安定剤、抗酸化剤、脱気剤、乳化剤、滑剤、重合阻害剤、ラジカル重合開始剤、付着促進剤、流動調整剤、塗膜形成助剤、たれ抑制剤(SCA:sag control agent)、難燃剤、防食剤、ワックス、乾燥剤、殺生物剤およびつや消し剤である。フィロシリケートもしくは(メタ)アクリル酸−(メタ)アクリレートコポリマー増粘剤等の有機増粘剤、または、使用された結合剤と異なるポリウレタン増粘剤でできた群のうちの有機増粘剤等の増粘剤も含まれ得る。
【0068】
上記種類の適切な補助剤は、例えば、
− 独国特許出願DE19948004A1、14頁、4行目から17頁、5行目、
− 独国特許DE10043405C1、第5段、[0031]段落から[0033]段落
によって公知である。
【0069】
上記の適切な補助剤は、慣例的な公知の量で使用される。
【0070】
本発明のベースコート材料の固形分含量は、取り扱う事例の要件に応じて変動し得る。固形分含量は、塗布、より特定するとスプレー塗布に必要な粘度によって主に導き出され、この結果、当業者ならば、当人の常識的な技術知識に基づいて調整することができ、任意に、いくつかの予備的な試験を用いてもよい。
【0071】
ベースコート材料の固形分含量は、好ましくは5wt%〜70wt%であり、より好ましくは8wt%〜60wt%であり、非常に好ましくは12wt%〜55wt%である。
【0072】
固形分含量(不揮発性部分)は、指定条件下で蒸発させたときに残留物として残留する、質量割合を意味する。本出願において、固形分含量は、そうではないと明記されていない限り、DIN EN ISO3251に従って測定される。こうした測定は、ベースコート材料を130℃で60分蒸発させることによって実施される。
【0073】
そうではないとの記載がない限り、上記試験方法は、例えば、ベースコート材料の合計質量の一部分として様々なベースコート材料の成分の割合を測定するためにも同様に用いられる。したがって、例えば、ベースコート材料に加えるべきポリウレタン樹脂の分散物にある固形分含量は、組成物全体の一部分としての上記ポリウレタン樹脂の割合を確認するために対応させて測定することもできる。
【0074】
本発明のベースコート材料は、水性である。このようなベースコート材料との関連において、「水性」という表現は、当業者に公知である。原則として、この「水性」という語句は、有機溶媒のみを主体としていないベースコート材料を意味しており、すなわち、原則として、この「水性」という語句は、有機溶媒のみを主体としていないベースコート材料を意味しており、すなわち、溶媒として有機系溶媒のみを含有するのではなく、溶媒としてかなりの量の水を含むという著しく異なる点がある、ベースコート材料を意味する。好ましくは、本発明における「水性」は、当該のコーティング組成物、より特定するとベースコート材料が、いずれの場合においても、存在する溶媒(すなわち、水および有機溶媒)の合計量に対して少なくとも40wt%、好ましくは少なくとも50wt%、非常に好ましくは少なくとも60wt%という水の割合を有することを意味するものだと理解すべきである。好ましくは、水の割合は、いずれの場合においても、存在する溶媒の合計量に対して40〜90wt%であり、より特定すると50〜80wt%であり、非常に好ましくは60〜75wt%である。
【0075】
本発明によって用いられるベースコート材料は、ベースコート材料の生産用に慣例的で公知な混合処理用の組立体および混合技法を用いて生産してもよい。
【0076】
本発明の方法および本発明の多層皮膜型塗料系
本発明のさらなる一態様は、
(1) 顔料入り水性ベースコート材料を素地に塗布し、
(2) 段階(1)で塗布されたコーティング材料からポリマー塗膜を形成し、
(3) 得られたベースコートにクリアコート材料を塗布し、次いで、
(4) ベースコートを、クリアコートと一緒に硬化させること
によって、多層皮膜型塗料系を生産するための方法であって、
段階(1)において、少なくとも1種の本発明の反応生成物を含む顔料入り水性ベースコート材料を使用することを含む、方法である。本発明の反応生成物および顔料入り水性ベースコート材料に関する上記すべての所見は、本発明の方法に対しても有効である。より特定すると、こうした適用は、すべての好ましい特徴、非常に好ましい特徴および特に好ましい特徴にも当てはまる。
【0077】
前記方法は好ましくは、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系を生産するために用いられる。
【0078】
本発明によって使用される顔料入り水性ベースコート材料は、一般的に、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーによって前処理しておいた金属素地またはプラスチック素地に塗布しる。前記ベースコート材料は、任意に、プラスチック素地に直接塗布することもできる。
【0079】
金属素地は、コーティング加工すべき場合、電着塗膜系によってさらにコーティング加工した後、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーを塗布するのが好ましい。
【0080】
プラスチック素地は、コーティング加工する場合、サーフェーサーまたはプライマーサーフェーサーによってさらに前処理した後、塗布するのが好ましい。このような前処理のために最も頻繁に用いられる技法は、火炎処理、プラズマ処理およびコロナ放電の技法である。火炎処理を使用するのが好ましい。
【0081】
上記のように硬化済み電着塗膜系および/またはサーフェーサーによってすでにコーティング加工済みの金属素地には、本発明の顔料入り水性ベースコート材料を、例えば5〜100マイクロメートルの範囲、好ましくは5〜60マイクロメートル(乾燥塗膜厚さ)の範囲に収まる、自動車産業において慣例的な塗膜厚さにして、塗布してもよい。こうした塗布は、スプレー塗布方法、例えば圧縮空気スプレー塗り、エアレススプレー塗り、高速回転法、静電スプレー塗布(ESTA)を単独で用いて実施され、または、例えば熱風式スプレー塗り等、ホットスプレー塗布と組み合わせて用いて実施される。
【0082】
顔料入り水性ベースコート材料は、塗布した後、公知の方法によって乾燥させることができる。例えば、好ましい(1成分型)ベースコート材料は、室温で1〜60分フラッシュした後、好ましくは30〜90℃という任意に若干高くした温度で乾燥させることができる。本発明との関連におけるフラッシュおよび乾燥は、その結果として塗料がより乾燥した状態になるが硬化には至らない、または完全に架橋されたコーティング塗膜が形成されるには至っていない、有機溶媒および/または水の蒸発を意味する。
【0083】
次いで、商用クリアコート材料を同様に一般的な方法によって塗布するが、塗膜厚さはやはり、慣例的な範囲内、例えば5〜100マイクロメートルである(乾燥塗膜厚さ)。
【0084】
クリアコート材料は、塗布後、例えば室温で1〜60分フラッシュすることができ、任意に乾燥させてもよい。次いで、クリアコート材料を、塗布した顔料入りベースコート材料と一緒に硬化させる。この手順の途中では、架橋反応が起きて、例えば、本発明の多層皮膜型有色塗料系および/または多層皮膜型エフェクト塗料系が素地上に生成される。硬化は好ましくは、60℃から200℃の温度で熱により実施される。好ましくは、熱硬化するベースコート材料は、さらなる結合剤としてのポリウレタン樹脂および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂またはブロック型もしくは非ブロック型ポリイソシアネート、好ましくはアミノプラスト樹脂を含む、ベースコート材料である。アミノプラスト樹脂の中でも特に、メラミン樹脂が好ましい。
【0085】
特定の一実施形態において、多層皮膜型塗料系を生産するための方法は、
金属素地に電着塗膜材料を電気泳動塗布し、続いて電着塗膜材料を硬化させることにより、金属素地上に硬化済み電着塗膜型塗膜を生産する工程、
(i)水性ベースコート材料を電着塗膜型塗膜に直接塗布すること、または(ii)電着塗膜型塗膜に2つ以上のベースコート材料を連続的に直接塗布することにより、硬化済み電着塗膜型塗膜上に直接(i)ベースコート塗膜または(ii)相互に直接連なっている複数のベースコート塗膜を生産する工程、
(i)1つのベースコート塗膜または(ii)一番上のベースコート塗膜にクリアコート材料を直接塗布することにより、(i)ベースコート塗膜または(ii)一番上のベースコート塗膜上に直接クリアコート塗膜を生産する工程であって、
(i)1つのベースコート材料または(ii)少なくとも1つのベースコート材料は、本発明のベースコート材料である、工程、
ベースコート塗膜(i)またはベースコート塗膜(ii)、および加えて、クリアコート塗膜を一体的に硬化させる工程
を含む。
【0086】
それゆえ、後に挙げた方の実施形態において、上記の標準的な方法に比較すると、通例のサーフェーサーを塗布し、別途硬化させることがなくなっている。別途硬化させる代わりに、電着塗膜型塗膜に塗布された塗膜のすべてを一体的に硬化させ、これにより、操作全体がはるかにずっと経済的になる。それでもやはり、このようにすれば、特に、本発明の反応生成物を含む本発明のベースコート材料の使用によれば、極めて優れた機械的安定性および付着を有し、したがって、特に技術的に極めて優れている、多層皮膜型塗料系が構築される。
【0087】
コーティング材料を素地に直接塗布すること、または、あらかじめ生産しておいたコーティング塗膜に直接塗布することは、次のように理解される。各コーティング材料は、当該コーティング材料から生産されたコーティング塗膜が素地(他のコーティング塗膜)上に配置され、素地(他のコーティング塗膜)と直接接触している状態になるような態様で、塗布される。したがって、より特定すると、コーティング塗膜と素地(他のコーティング塗膜)との間には、他の皮膜が存在しない。「直接」という詳述がない場合、塗布されたコーティング塗膜は、素地(他の塗膜)上に配置されていても、直接接触している状態で存在する必要は必ずしもない。より特定すると、さらなる皮膜が、コーティング塗膜と素地との間に配置されていてもよい。したがって、本発明との関連においては、次の事柄が事実としてある。「直接」に関する特段の定めが存在しないときは、「直接」に関する制限が明確に存在しない。
【0088】
プラスチック素地は、金属素地と基本的に同じ方法によってコーティング加工される。しかしながら、ここで、一般に、硬化は、30〜90℃という著しく低くした温度で実施される。したがって、二成分型クリアコート材料の使用が好ましい。
【0089】
本発明の方法は、金属素地および非金属素地、より特定するとプラスチック素地、好ましくは自動車ボディまたはこれらの素地の成分を塗装するために使用することができる。
【0090】
さらに、本発明の方法は、OEM仕上げ塗装における二重仕上げ塗装のためにも使用することができる。この二重仕上げ塗装とは、本発明の方法によってコーティング加工されていた素地に対して、本発明の方法による2回目の塗装がさらに実施されることを意味する。
【0091】
本発明は、上記方法によって生産できる多層皮膜型塗料系にさらに関する。こうした多層皮膜型塗料系は以下、本発明の多層皮膜型塗料系と呼ぶ。
【0092】
本発明の反応生成物および顔料入り水性ベースコート材料に関する上記すべての所見は、前記多層皮膜型塗料系および本発明の方法に対しても有効である。こうした適用は特に、すべての好ましい特徴、より好ましい特徴および最も好ましい特徴にも当てはまる。
【0093】
本発明の多層皮膜型塗料系は、好ましくは、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系である。
【0094】
本発明のさらなる一態様は、段階(1)の前記素地が、欠陥を有する多層皮膜型塗料系である、本発明の方法に関する。したがって、こうした欠陥を有する素地/多層皮膜型塗料系は、補修すべきまたは余すところなく再コーティング加工すべき初期仕上げ塗膜である。
【0095】
本発明の方法は、多層皮膜型塗料系にある欠陥を適宜補修するのに適している。塗膜欠陥とは一般に、コーティング上およびコーティング内にある不具合であり、通常、形状または外観に応じて名付けられる。当業者ならば、このような塗膜欠陥に数多の種類があり得ることは、認識している。こうした塗膜欠陥の種類については、例えば、Roempp−Lexikon Lacke und Druckfarben、Georg Thieme Verlag、Stuttgart、New York、1998年、235頁、「Film defects」で記述されている。
【0096】
本発明の方法によって生産された多層皮膜型塗料系も同様に、上述の欠陥を有し得る。したがって、本発明の方法の好ましい一実施形態において、段階(1)の素地は、欠陥を呈した本発明の多層皮膜型塗料系である。
【0097】
好ましくは、上記多層皮膜型塗料系は、自動車OEM仕上げ塗装との関連で上記した本発明の方法により、自動車ボディ上または自動車ボディの部品上に生産される。上述の欠陥は、OEM仕上げ塗装の実施直後に発生した場合、直ちに補修される。したがって、「OEM自動車補修塗装」という用語も使用されている。少しばかりの欠陥にのみ補修が必要な場合、「スポット」のみが補修され、ボディ全体は、余すところなく再コーティング加工(二重コーティング)されるわけではない。先に挙げた方のプロセスは、「スポット補修」と呼ばれる。したがって、OEM自動車補修塗装において、本発明の多層皮膜型塗料系(初期仕上げ塗膜)にある欠陥を修復するために本発明の方法を使用することは、特に好ましい。
【0098】
本発明との関連において自動車補修塗膜の分野に言及する場合、言い換えると、欠陥の補修が局所的であり、指定された素地が、欠陥を有する多層皮膜型塗料系である場合、このことは当然ながら、こうした欠陥を有する素地/多層皮膜型塗料系(初期仕上げ塗膜)が一般に、上記のようにプラスチック素地または金属素地上に配置されていることを意味する。
【0099】
補修された部位と、初期仕上げ塗膜の残り部分とに色の差異がないようにすべく、欠陥を補修するために本発明の方法の段階(1)で使用される水性ベースコート材料は、欠陥(初期仕上げ塗膜)を有する素地/多層皮膜型塗料系を生産するために使用された水性ベースコート材料と同じであることが好ましい。
【0100】
したがって、本発明の反応生成物および水性顔料入りベースコート材料に関する上記所見は、多層皮膜型塗料系にある欠陥を補修するための本発明の方法に関して論述されている使用にも有効である。このような適用は特に、記載されたすべての好ましい特徴、非常に好ましい特徴および特に好ましい特徴にも当てはまる。補修すべき本発明の多層皮膜型塗料系は、多層皮膜型有色塗料系、エフェクト塗料系および有色型エフェクト塗料系であるのがさらに好ましい。
【0101】
本発明の多層皮膜型塗料系にある上記欠陥は、本発明の上記方法によって補修することができる。こうした補修を目的とした場合、補修すべき多層皮膜型塗料系の表面は、最初に研磨してもよい。好ましくは、研磨は、初期仕上げ塗膜を部分的にサンディングすることによって実施され、または、初期仕上げ塗膜からベースコートおよびクリアコートのみをサンディングで取り除き、一般にベースコートおよびクリアコートの真下に位置するプライマー層およびサーフェーサー層はサンディングで取り除かないようにすることによって、実施される。このようにすれば、補修塗膜中に特殊なプライマーおよびプライマーサーフェーサーを新しく塗布することは、特に必要でない。こうした研磨の形態は、OEM自動車補修塗装の分野において特に確立されており、ここで、この理由としては、作業場での補修塗装とは著しく異なり、一般的に言えば、欠陥は、ベースコート領域および/またはクリアコート領域内にのみ発生するが、これらの領域の下に位置するサーフェーサー皮膜およびプライマー皮膜の領域内には特に発生しないという点がある。後に挙げたプライマー皮膜中にある欠陥の方が、作業場における補修塗膜の部門においては、見受けることになる可能性がより高い。例としては、引っかき傷等の塗料損傷が挙げられ、この塗料損傷は、例えば機械的効果によって生成されるものであり、しばしば、素地表面(金属素地またはプラスチック素地)に至るまで延在する。
【0102】
この研磨手順の後には、顔料入り水性ベースコート材料を、スプレー塗布により、例えば圧搾空気式噴霧により、初期仕上げ塗膜中に欠陥部位に塗布する。顔料入り水性ベースコート材料は、塗布した後、公知の方法によって乾燥させることができる。例えば、ベースコート材料は、室温で1〜60分乾燥させた後、30〜80℃という任意に若干高くした温度で乾燥させてもよい。本発明の目的におけるフラッシュおよび乾燥とは、それによってもコーティング材料がまだ完全には硬化していない状態である、有機溶媒および/または水の蒸発を意味する。本発明の目的においては、ベースコート材料は、結合剤としてのポリウレタン樹脂および架橋剤としてのアミノプラスト樹脂、好ましくはメラミン樹脂を含むのが好ましい。
【0103】
続いて、同様に通例の技法によって商用クリアコート材料を塗布する。クリアコート材料は、塗布後、例えば室温で1〜60分フラッシュすることができ、任意に乾燥させてもよい。次いで、クリアコート材料を、塗布された顔料入りベースコート材料と一緒に硬化させる。
【0104】
いわゆる低温焼付けの場合、好ましくは、硬化は、20〜90℃の温度で実施される。ここで、二成分型クリアコート材料を使用することが好ましい。上記のように、ポリウレタン樹脂がさらなる結合剤として使用され、アミノプラスト樹脂が架橋剤として使用される場合、上記温度では、ベースコート塗膜中でアミノプラスト樹脂によって形成される架橋がわずかしか存在しない。ここで、アミノプラスト樹脂は、硬化剤としての機能に加えて、可塑化のためにも役立つものであり、顔料の湿潤を補助することができる。アミノプラスト樹脂の他にも、非ブロック型イソシアネートも同様に使用することができる。使用されるイソシアネートの性質によっては、イソシアネートは、20℃程度の低さの温度で架橋する。このとき、当然ながら、この種類の水系ベースコート材料は一般に、二成分型の系として配合される。
【0105】
高温焼付けと呼ばれるものの場合、硬化は好ましくは、130〜150℃の温度で実施される。ここで、一成分型クリアコート材料と二成分型クリアコート材料の両方が使用される。上記のように、ポリウレタン樹脂がさらなる結合剤として使用され、アミノプラスト樹脂が架橋剤として使用される場合、上記温度では、ベースコート塗膜中でアミノプラスト樹脂によって架橋が形成される。
【0106】
本発明のさらなる一態様は、ベースコート材料を用いて生産された塗料系の付着および耐チッピング性を改善するために顔料入り水性ベースコート材料中に本発明の反応生成物を使用する方法である。
【0107】
以下、本発明について例を用いて説明する。