(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも3ppm、少なくとも5ppm、少なくとも8ppm、少なくとも12ppm、少なくとも18ppm、および少なくとも25ppmのいずれかから選択される全窒素濃度を有する、請求項1から5までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
【背景技術】
【0002】
合成ダイヤモンド材料における点欠陥、特に量子スピン欠陥および/または光学活性欠陥が、例えば、発光タグ、磁力計、核磁気共鳴(NMR)および電子スピン共鳴(ESR)装置などのスピン共鳴装置、磁気共鳴画像法(MRI)用スピン共鳴イメージング装置、量子通信および計算などの量子情報処理装置、磁気通信装置、ならびにジャイロスコープを含む、様々なイメージング、センシング、および処理用途で使用するために提案されてきた。
特定の欠陥は、これらが負電荷状態にあるとき、センシングおよび量子処理用途に特に有用であることが見出されている。例えば、合成ダイヤモンド材料中の負に帯電した窒素空孔欠陥(NV
-)は、有用な量子スピン欠陥として大きな関心を引いており、その理由は、これが、
(i)その電子スピン状態は、高い忠実度でコヒーレントに操作することができ、極めて長いコヒーレンス時間(これは、横緩和時間T
2および/またはT
2*を使用して定量化および比較することができる)を有し得る、
(ii)その電子構造により、欠陥が光学的にポンピングされてその電子基底状態になることが可能になり、このような欠陥を、非極低温度でも、特定の電子スピン状態に置くことが可能になる。これにより、小型化が望まれる特定の用途において、高価で嵩張る極低温冷却装置の必要性を無くすことができる。さらに欠陥は、全てが同じスピン状態を有する光子源として機能することができる、
(iii)その電子構造は、発光性および非発光性電子スピン状態を含み、これにより、欠陥の電子スピン状態を光子によって読み出すことが可能になる。これは、磁気測定、スピン共鳴分光法およびスピン共鳴イメージングなどのセンシング用途で使用する合成ダイヤモンド材料から情報を読み出すのに好都合である。さらに、これは、長距離量子通信およびスケーラブルな量子計算のための量子ビットとしてNV
-欠陥を使用することに向けての重要な要因である。このような結果により、NV
-欠陥は、固体状態量子情報処理(QIP)の競合候補になる
ということを含む、いくつかの望ましい特徴を有するためである。
【0003】
ダイヤモンド中のNV
-欠陥は、炭素空孔に隣接した置換窒素原子からなる。その2つの不対電子は、電子基底状態においてスピン三重項(
3A)を形成し、縮退したm
s=±1副準位は、m
s=0準位から2.87GHz分離している。このようなNV
-欠陥の電子構造により、m
s=0副準位は、光学的にポンピングされたとき、高い蛍光率を呈する。対照的に、欠陥がm
s=±1準位内で励起されると、無放射性一重項状態(
1A)にクロスオーバーし、その後引き続いて緩和してm
s=0になる確率がより高くなる。その結果、スピン状態を光学的に読み出すことができ、m
s=0状態は「明るく」、m
s=±1状態は暗い。外部磁場またはひずみ場が印加されると、スピン副準位m
s=±1の縮退は、ゼーマン分裂を介して破られる。これにより、印加磁場/ひずみ場の大きさおよびその方向に依存して、共鳴線が分裂する。この依存性は、磁気測定法に利用することが可能であり、マイクロ波(MW)を使用し、光検出磁気共鳴(ODMR)分光法により、共鳴スピン遷移を探知して、印加磁場の大きさおよび任意に印加磁場の方向を測定することができる。
合成ダイヤモンド材料中のNV
-欠陥は、以下の方法、すなわち、
(i)合成ダイヤモンド材料の成長中に、窒素空孔対として窒素原子と空格子点を結晶格子に組み込む、合成ダイヤモンド材料の成長中に形成する方法、
(ii)ダイヤモンド材料を合成した後に、成長プロセス中に組み込まれた天然の窒素および空孔欠陥から、ある温度(約800℃)で材料をポスト成長アニーリングすることで結晶格子を通じて空孔欠陥を移動させ、天然の単一置換窒素欠陥と対にすることにより、形成する方法、
(iii)ダイヤモンド材料を合成した後に、成長プロセス中に組み込まれた天然の窒素欠陥から、合成ダイヤモンド材料を照射して空孔欠陥を導入し、次いで、ある温度で材料をアニーリングすることで結晶格子を通じて空孔欠陥を移動させ、天然の単一置換窒素欠陥と対にすることにより、形成する方法、
(iv)ダイヤモンド材料を合成した後に、窒素欠陥を合成ダイヤモンド材料に注入し、次いで、ある温度で材料をアニーリングすることで結晶格子を通じて天然の空孔欠陥を移動させ、注入した単一置換窒素欠陥と対にすることにより、ダイヤモンド材料の合成後に形成する方法、ならびに
(v)ダイヤモンド材料を合成した後に、合成ダイヤモンド材料を照射して空孔欠陥を導入し、照射前または後に窒素欠陥を合成ダイヤモンド材料に注入し、ある温度で材料をアニーリングすることで結晶格子を通じて空孔欠陥を移動させ、注入した単一置換窒素欠陥と対にすることにより、形成する方法
を含む、多くの異なる方法で形成することができる。
【0004】
種々の異なるタイプのダイヤモンド材料が、種々の異なるタイプの磁気測定用途での使用のために、
磁気測定用途のための高圧高温(HPHT)ダイヤモンド材料の特性について考察している、Acosta et al., Phys. Rev. B 80, 115202、
磁気測定などの用途のための、窒素含量が低い単結晶化学蒸着(CVD)ダイヤモンド材料を開示している、WO2010/010352およびWO2010/010344、ならびに
磁気測定などの用途のための、照射されアニーリングされた単結晶CVDダイヤモンド材料を開示している、WO2010/149775
を含む従来技術において開示されている。
【発明を実施するための形態】
【0008】
NVベースの磁気センサのショットノイズ限界は、通常、以下の形式で記述される。
【数2】
(式中、δB
minは、磁(B)場(測定時間t
m)における検出可能な変化の最小値であり、g
eはランデのg因子、μ
Bはボーア磁子、αはコントラスト、ηは光子収集効率、n
NVは励起されるNV中心の数、およびT
2’は適切なスピン−スピンコヒーレンス時間である。DCベースの磁気測定の場合、T
2’は不均一なスピン−スピン緩和時間T
2*に設定すべきであり、一方、T
2は、ACベースのスキームの場合、関連するディフェージング時間である)。これらのいわゆる、緩和、ディフェージングまたはデコヒーレンス時間パラメータ(T
2*およびT
2)は、当業者に知られている。
ダイヤモンドベースの磁力計の磁場感度は、以下の形式
【数3】
で表すこともでき、したがって、
【数4】
の単位(通常、ナノテスラ(nT)またはピコテスラ(pT)で)が頻繁に使用される。
【0009】
この数式は、NV
-ベースのデバイスの達成可能な感度に影響を与える重要なパラメータを強調している。このデバイスは、NV含有合成ダイヤモンドならびに(選択されたパワー、波長、焦点スポットサイズなどの)励起レーザー/LED、マイクロ波励起装置、およびルミネッセンス収集光学系を含む。
本発明は、ダイヤモンドベースの磁力計の材料関連態様を最適化することに関し、したがって、等式2の項に影響を及ぼす材料の特性を同定することが有用である。NV中心の一定の割合が励起される(およびその光学発光が検出される)ことが可能であると仮定すると、n
NVは負に帯電したNV欠陥の濃度[NV
-]に比例する。
試料中の中性NV中心([NV
0])の存在は、2つの理由でデバイス感度に有害である。第1に、それは常磁性であり、したがって、T
2*/T
2の値を制限し得る。第2に、NV
0の発光スペクトルは、NV
-欠陥のフォノンサイドバンド(phonon sideband)と部分的に重なっている。これによりコントラスト(α)を減少させるバックグラウンドルミネッセンスを引き起こす。したがって、以後、Rと呼ぶ[NV
-]/[NV
0]の比率は、αの材料ベースの項である。これらの項を組み合わせて等式2を使用すると、ダイヤモンドベースの磁気測定用途の材料性能指数(FOM)が得られる。
【0010】
【数5】
このFOMに対しNV含有ダイヤモンドの生成を最適化することは、R、T
2’、および[NV
-]が相互に関連しているという点で問題がある。[NV
-]の最大化は、次いで高照射線量で(一般に電子線照射により)処理し、アニーリングした高[N]含有ダイヤモンド材料(HPHTまたはCVDのいずれか)を使用することによって達成することができる。しかし、開始[N]から最終[NV]への変換率が増加すると、Rの値は減少する。これは、残留[N]がNV欠陥の電子供与体として作用し、したがって、NV
0→NV
-電荷状態変換をもたらすためである。Nの大部分をNVに変換する場合、NV
0をNV
-に変換する電荷ドナーとして作用するにはNが不十分である。対照的に、高濃度の残留窒素[N]が保持される場合、残留窒素はNV
-のディフェージングをもたらし、T
2*を減少させる。
【0011】
R、T
2’および[NV
-]の独立性の程度が高いダイヤモンドの製造方法の開発は、これにより、前述の性能指数(FOM)の最適化が可能になるので、ダイヤモンドベースの磁気測定の重要な問題を解決するであろう。個々のパラメータの制御を向上させることによって、より大きな程度の材料設計も可能になる。例えば、線形光学励起スキームは、より高い[NV
-]の恩恵を受ける可能性があり、一方、サイドライト注入および検出方法は、大幅に増加した光路長に起因する励起光吸収の問題のために、[NV
-]を下げるのにより好適である可能性がある。
本発明者らによって開発されたCVDダイヤモンド成長レシピおよび処理スキームは、材料設計におけるこの所望の柔軟性を提供し、後述するように、種々の窒素濃度に対して高いFOMを達成することができる。
【0012】
低
12CH
4フラクションを利用する2つの高[N]CVDダイヤモンドレシピ(固形物中で約8ppmおよび25ppm[N])を開発した。最適化された電子線照射線量とアニーリングスキーム(例えば、400℃→800℃→1000℃→1200℃のステップを含む段階的アニーリングスキーム)とを組み合わせて、(T
2*/T
2に関して)追加の寄生欠陥の存在を低減すると、得られた単結晶ダイヤモンド材料により、T
2*およびT
2が一定である達成可能な範囲の[NV
-]を得る。より高い(25ppm[N])レシピにより、T
2*に悪影響を及ぼすことなく、所与の[NV
-]に対してより高いRが可能になる。また、3ppm[N]レシピも開発されている。有意に異なる窒素濃度が利用されるが、種々の窒素濃度について先に定義したように高い性能指数を達成することが可能であることが見出されている。
下の表は、より低い[N]レシピ(約1ppm[N]
solid)と比較して、いくつかの8ppmおよび25ppm[N]
solidダイヤモンド製造プロセスを使用して製造した試料の結果を示す。表中、「bdl」は測定技術の検出限界未満の値を意味し、括弧内の値は最終有効数字の不確実性を意味し、εは開始[N]から[NV]
totalへの変換%であり、Rは[NV
0]に対する[NV
-]の比率である。FOM
DCは、先に定義した等式3を使用して計算する。本発明による例は、少なくとも2、より好ましくは少なくとも3であるFOM
DC値を有する。他の試料は反例を示す。
【0013】
【表1】
最適化されたダイヤモンド成長プロセスと最適化された照射およびアニーリング技術とを組み合わせることにより、異なる窒素濃度を有する種々の単結晶ダイヤモンド材料において、高いFOMを達成することが可能であることがわかる(表中の最高FOMは7.7に達している)。
上記の観点から、本発明の一態様は、
中性窒素空孔欠陥(NV
0)と、
負に帯電した窒素空孔欠陥(NV
-)と、
中性窒素空孔欠陥(NV
0)に電荷を移動させてそれらを負に帯電した窒素空孔欠陥(NV
-)に変換する単一置換窒素欠陥(N
s)と
を含む、単結晶ダイヤモンド材料であって、
単結晶ダイヤモンド材料が、少なくとも2、より好ましくは少なくとも3の磁気測定性能指数(FOM)を有し、磁気測定性能指数が、
【0014】
【数6】
(式中、Rは、負に帯電した窒素空孔欠陥の中性窒素空孔欠陥に対する濃度比([NV
-]/[NV
0])であり、[NV
-]は、原子百万分率(ppm)で測定した、単結晶ダイヤモンド材料の負に帯電した窒素空孔欠陥の濃度であり、[NV
0]は、原子百万分率(ppm)で測定した、単結晶ダイヤモンド材料の中性窒素空孔欠陥の濃度であり、T
2’は、マイクロ秒(μ秒)単位のNV
-欠陥のデコヒーレンス時間であり、T
2’は、DC磁気測定の場合はT
2*、AC磁気測定の場合はT
2である)
により定義されることを特徴とする、単結晶ダイヤモンド材料を提供する。濃度はppm単位であり、デコヒーレンス時間はμ秒単位であるため、FOMの単位はppm
1/2ms
1/2である。
高いFOMを達成することが望ましいが、本明細書に記載の方法を使用することによって達成可能なFOMの合理的な上限は、10、15、または20である。これは、1をはるかに下回るFOMを有する、従来技術の低窒素単結晶ダイヤモンド試料と対照的である。さらに、これは、最適に成長しておらず、最適に処理されていないため、高いFOM値を達成していない、他の高窒素単結晶ダイヤモンド試料とも対照的である。
【0015】
高いFOMを達成するダイヤモンド製造プロセスの共通の特徴は、CVD合成雰囲気中の炭素含有ガスの割合が低く、CVD合成雰囲気中の窒素の割合が比較的高いことである(少なくとも低い窒素含量を使用する先行技術のプロセスと比較して)、すなわち、炭素に対して比較的高い割合の窒素を用いたCVDガス合成化学反応である。この方法の重要な特徴は、比較的高濃度の窒素を固体ダイヤモンド格子に組み込む一方で、所望の窒素含有欠陥以外の拡張欠陥および点欠陥に関して、良好なダイヤモンド結晶品質を保持し、次いで、材料を最適に処理して、N
s、NV
0、およびNV
-に関して、窒素含有欠陥の所望の組合せを得るということに関する。
前述のように高いFOM値を達成するためには、単結晶ダイヤモンド材料が以下の特徴、すなわち、
少なくとも3、4、5、6または7、任意に20、15または10以下である比率R([NV
-]/[NV
0])、
少なくとも1.3ppm、1.5ppm、または1.7ppm、任意に10ppm、5ppm、3ppm、または2ppm以下である濃度[NV
-]、
少なくとも0.4μ秒、0.5μ秒、0.6μ秒、または0.7μ秒、任意に5μ秒、3μ秒、または1μ秒以下であるT
2*、および
少なくとも3ppm、5ppm、8ppm、12ppm、18ppm、または25ppm、任意に300ppm、100ppmまたは50ppm以下の全窒素濃度
のうちの1つまたは複数を含むことが有利である。
【0016】
前述のダイヤモンド材料特性は、比較的大きな単結晶ダイヤモンドにおいて有利に提供される(例えば、単結晶ダイヤモンド材料は、少なくとも0.5mmの3つの直交寸法を有し、任意に、少なくとも0.5mmの厚さおよび少なくとも5mmの横寸法を有するプレートの形態である)。このような結晶が磁力計に組み込まれると、光源を利用して単結晶ダイヤモンドのNV
-欠陥を励起し、蛍光が検出および分析され、背景技術のセクションで説明したように、外部磁場が決定される。結晶のサイズは、利用するNV
-欠陥の数に影響を与え、したがって、ダイヤモンドの材料特性に加えて磁力計の感度に影響を与える。そのようなものであるから、合成プロセス(例えば、CVD合成プロセス)は、有利には、比較的大きな結晶について本明細書に明記した材料パラメータを達成することができる。大きなダイヤモンド結晶を提供する代わりに、またはそれに加えて、ダイヤモンド内の励起の経路長は、励起ビームが結晶を通って前後に反射することによって、増加させることができる。
【0017】
別の可能性は、複数のダイヤモンド試料を用意して、磁力計の励起ビームによって検査される(interrogated)ダイヤモンドの体積を増加させることである。これに関して、ダイヤモンド試料の体積を増加させることは、最終的に合成厚さの増加を必要とすることが理解されるべきである。これは、複雑さ、収率、およびコストに関して問題がある。これは、結晶品質が高いダイヤモンドの成長を促進させて大きな厚さにするように調整されているのではなく、磁力計感度のために最適化された合成パラメータを使用する場合に、特に当てはまる。
ダイヤモンド試料の厚さを増加させる1つの方法は、複数のダイヤモンド試料を一緒に融合して、使用することである。この方法では、磁力計において、単一のレーザーを使用して、組み合わせた試料の全深さにわたってNV
-中心を励起することができる。このようなアプローチの1つの問題点は、ダイヤモンド試料に格子のずれがあると、NV
-欠陥はダイヤモンド試料間でずれを生じ、このことは、外部磁場に対するNV
-欠陥の配向に依存する磁力計のコントラストおよび感度に悪影響を及ぼし得る。しかし、このように2つ以上のダイヤモンド試料を組み合わせることには、以下に示すように、2つのダイヤモンド試料の角度の整列に関して不当な精度を置かずに感度を高める可能性があることが見出された。特に、積み重ねられた2つのダイヤモンドの間のわずかなずれは、磁気測定用途において許容され得ることが見出された。例えば、このずれは、5°、4°、3°、2°、または1°以下であってもよく、これは実験的に達成可能である。
【0018】
特定の用途では、単結晶ダイヤモンドのサイズおよび材料の窒素含量は、磁気測定用途に合わせて調整することができることに留意されたい。本発明の実施形態に関して、より低い窒素濃度の実施形態は、有利には、比較的大きな結晶サイズで提供され得るが、より高い窒素含量の実施形態は、より小さな結晶サイズで提供され得る。このような選択肢では、同じ数の窒素空孔欠陥が使用中にアドレスされる可能性がある(より低い窒素空孔欠陥濃度を有するが、より長い光路を有するより大きな結晶では、より高い欠陥濃度を有するが、より短い光路を有するより小さい結晶の場合と同じ数の欠陥が光学的にアドレスされる)。
本発明の窒素含有単結晶ダイヤモンド材料のファミリーは、自立型で提供してもよく、またはより大きな単結晶ダイヤモンドの一部として提供してもよいことにも留意すべきである。例えば、本発明による材料の層または領域を含む単結晶ダイヤモンドを製造することができる。結晶の残部は、異なる組成、例えば高純度のダイヤモンド格子を有してもよい。このような構成は、窒素含量が高い本材料の実施形態を利用する場合に有用である。これは、そのような材料は強い蛍光信号を生成することができる一方、信号の一部が高い窒素含量の材料内に吸収されて感度の損失を招くためである。より低い窒素含量のダイヤモンド材料中にこのような材料の領域または層を設けることにより、ダイヤモンド成分内の蛍光信号の吸収を低減することができる。本発明による材料と組み合わせた高純度の層または領域の使用は、実際に多くの利点を提供し得る。例えば、本発明による材料を(1つまたは複数の方向において)取り囲む高純度領域は、窒素空孔欠陥の発光波長において低い光学吸収を有するように設計することができ、これにより、窒素空孔発光収集の効率に関して、利点を提供し得る。さらに、窒素空孔欠陥共鳴線は、温度にも敏感である。したがって、取り囲むダイヤモンド塊は、熱抽出、温度制御において潜在的な利点を提供し、したがって、磁場測定の感度/精度において潜在的な利点を提供する。
【0019】
本発明の実施形態による単結晶ダイヤモンド材料はまた、単結晶ダイヤモンド材料中の全窒素濃度の0.4%よりも高い
15N濃度(天然同位体存在比)を含んでいてもよく、および/または全NV濃度(
14NV+
15NV)の0.4%よりも高い
15NV濃度を含んでいてもよい。これに関して、各窒素空孔共鳴は、NV欠陥を含む窒素同位体に依存して、2つまたは3つの周波数分離線に分割される。
14Nは核スピンI=1を有し、したがって3つの線を有し、一方で
15NはI=1/2、したがって2つの線を有する。合成プロセス中に使用する窒素ドーパント(および存在する他の窒素含有源)の同位体存在比は、材料中に存在する窒素同位体のバランスを決定する。天然存在比の同位体ドーパントを使用すると、
14NVが99.6%、
15NVが0.4%になる。合成プロセス中に、同位体濃縮されたドーパントを使用して
15Nの割合を増加させることにより、3つではなく2つに分割された共鳴線を有するNV欠陥の割合が増加することを可能にする。[NV]の所与の濃度に対して固定されている強度が、より少ない周波数分割線の間に分散されるので、これはそれ自体、コントラスト(光学的読み出しにおける「暗い」に対する「明るい」)の増大として現れる。したがって、本発明による材料は、
15N富化ガスで成長させて、特定の読み出しスキームの下での感度の増加をもたらすことができる。
【実施例】
【0020】
特定の例によれば、以下のダイヤモンド成長条件を利用することができる。
マイクロ波出力=5kW
圧力=230Torr
水素流量=580標準立方センチメートル/分(sccm)
メタン流量=12sccm
窒素ドーパント=H
2中1000ppm、30sccmのN
2
窒素レベルなどのパラメータは、最終生成物中の所望の窒素濃度に応じて変えることができる。任意に、酸素を成長プロセスに添加することもできる。成長後、単結晶ダイヤモンド材料を、前述のように最適化された照射およびアニーリングプロセスを用いて処理する。窒素含有ダイヤモンド材料の成長とそれに続く照射およびアニーリングは、当該技術分野でこれまでに開示されているが、ここでの違いは、成長、照射およびアニーリングのステップを、磁気測定用途のために、本明細書で定義された性能指数に従って最適化することである。生成物の材料は、次のように特徴付けることができる。
【0021】
光吸収分光法は、NVの両方の電荷状態の濃度を定量する経路を提供する。計測器によって探知される波長の範囲(UVから可視光、時には近赤外光まで)により、これらは多くの場合、「UV−VIS−NIR」分光光度計と称される。
材料固有のものではなく、すなわち欠陥(構造または点不純物)の存在を介して導入される吸収の場合、欠陥のゼロフォノン線(ZPL)にわたる積分吸収係数は、そのZPLをもたらす欠陥の密度に関連し得る。ダイヤモンドにおけるNVの場合、これらのZPLは、NV
-については637nm(1.945eV)に、NV
0については575nm(2.156eV)にそれぞれ現れる。したがって、ZPL下での積分吸収を欠陥密度に関連付ける、関連する較正定数が知られていれば、UV−VIS−NIR分光法(以後、UV−Visと称する)を定量技術として使用することができる。これらの定数の知識は、ダイヤモンドにおける欠陥分光法の基礎に関する以前の学術研究から得たものであり、例えば、G Davies, "Current problems in diamond: towards a quantitative understanding", Physica B 273-274 (1999) 15-23を参照のこと。
【0022】
【数7】
UV−Vis吸収測定中の試料の温度は、吸収スペクトルの形態に大いに影響を与える。ダイヤモンド中における、欠陥とフォノンによる格子との相互作用に起因して、ダイヤモンドの各特性吸収ピーク(ZPL)は、関連する振電サイドバンド(vibronic sideband)を有する。さらに、ZPL線幅は、温度の上昇と共に増加し、次いで、欠陥の振電サイドバンド(または他の近接するフィーチャ(feature))と重なる可能性がある。温度を低下させるとZPLの線幅が減少するので、温度低下が測定されると、バックグラウンドノイズに対する吸収ピークの可視性も増加する。このため、欠陥濃度(および関連する較正係数)は、液体Nの温度、すなわち77Kであるかまたは77Kをちょうど超える温度で動作するクライオスタット内に試料を置くことによって決定する。
【0023】
試料のポストアニーリング(>500℃)では、試料がその後UV(<300nm)波長範囲に曝露されないことを条件として、[NV
-]の[NV
0]に対する比率は、熱誘起電荷移動によって増加する可能性がある(R Khan et al., "Charge transfer effects, thermo- and photochromism in single crystal CVD synthetic diamond", Journal of Physics: Condensed Matter, 21 (2009) 364214)。したがって、NV
-およびNV
0試料の濃度を測定するための標準化された手段において、試料の各面を、254nmのランプ(4W)によって1面につき10分間UVに曝露する。これは、特性評価に先立ってRを最小限に抑え、試料を周囲温度(<100℃)および室内/自然光条件下に放置している場合、この指標(metric)は安定的である。次いで、[NV
-]、[NV
0]、およびしたがってRを、77K UV−Visで測定し、数値積分法またはフォークト線形フィッティング、NV
0およびNV
-のZPL下の面積を介して、適切なベースライン(バックグラウンド)減算の後に前述の等式を使用して計算する。
【0024】
T
2*の値は、ラムゼーパルスシーケンスによって決定した。NVルミネッセンスにおける最も単純な共鳴減衰(自由誘導減衰または「FID」)は、所望の特性減衰時間T
2*を有する単一指数関数である。しかし、バックグラウンドノイズから減衰の可視性を改善するためには、マイクロ波周波数を共振NV周波数(ODMR周波数走査で観察されるライン位置)からわずかに離調させるのが典型的である。これにより、ショットノイズバックグラウンドからより容易に区別される追加の振動が導入される。しかし、NVの場合、選択したRFパワーレベルに応じて、
14Nの微細相互作用(hyperfine interaction)(
14Nは核スピン1を有する)により、単一のNV−欠陥(または共通に位置合わせされたNV−欠陥のグループ)に対する複数の共鳴線を観察することができる。
したがって、実験的に観察したFIDは、一般に、以下の数式
【数8】
によって与えられる減衰にフィッティングする。
(式中、τは自由行列時間間隔(free procession time interval)であり、εはフィッッティングの当てはまり具合(quality of the fit)を改善するための要素であり(ε=1.0が理想である)、β
mは各超微細寄与の重み付けであり(β
1,2,3=1/3が理想的である)、δは、NVセンターライン位置からの離調である)。
【0025】
決定したFID曲線を小二乗法により上記の等式の数式にフィッティングさせて、T
2*の最適値を決定することができる。これはNV
- T
2*値と見なされ、不確実性はフィッティングの当てはまり具合によって定義する。
比較可能な実験装置を使用して、当業者に周知のハーンエコー実験によってT
2を決定した。
[NV]の関数としてのT
2*およびT
2のプロットを、
図1および
図2に示す。
図1は、先の表に由来する照合データを示しており、3つの異なるCVDレシピ(1ppm、8.5ppm、および25ppm)について、総[NV]の関数としてT
2(ハーンエコー)を示している。3ppmレシピの予想される位置も図解している。
図2も、先の表に由来する照合データを示しており、3つの異なるCVDレシピについて、総[NV]の関数としてT
2*を示している。ここでもまた、3ppmレシピについての予想される位置が示されている。
【0026】
図1および
図2は、T
2およびT
2*が、[NV]>1.2ppmの範囲にわたって比較的一定である様子を示している。これにより、ディフェージング時間は、大部分が残留[N]によって支配されていると解釈することができる(Acosta et al.による、Phys. Rev. B 80, 115202の論文を参照のこと)。しかし、ここに示したデータは、一般により高い残留[N]を有するより高い窒素含量のCVDレシピにより、照射およびアニーリング後に、同等のT
2およびT
2*を有する材料が生成されることも示している。さらに、この材料では、[NV
-]/[NV
0]の比率(すなわちR)が増加するので、この材料は磁気測定用途での使用に有益な特性を示す。材料中のNV濃度および残留窒素の両方が増加しているにもかかわらず、T
2およびT
2*が、[NV]>1.2ppmの範囲にわたって比較的一定であることは、おそらく驚くべきことである。しかし、これらの結果は、(所望の窒素含有欠陥以外の拡張欠陥および点欠陥に関して)高窒素濃度まで、良好なダイヤモンド結晶品質を保持することができる成長プロセスを、最適化された照射およびアニーリング処理と組み合わせて使用することによって達成されたことにも、留意すべきである。このように、この方法を使用すると、少なくとも[NV]>1.2ppmにおいて、T
2およびT
2*を材料の窒素含量から、かなりの程度切り離すことが可能であることが見出されている。高い窒素含量と長いNV
-デコヒーレンス時間の両方を有することは、(各NV
-の感度を高めることによって、ならびにNV−の数を増やすことによって磁場感度を高め、)有利になるので、これは、多くの磁気測定用途に関して重要である。対照的に、今日まで、一般に、NV
-デコヒーレンス時間は、窒素(およびNV
-)含量の増加と共に着実に減少すると仮定されていた。
【0027】
図3は、[NV
-]/[NV]
0の高い比率を示す、77Kで記録された、30%NV変換を伴う8.5ppm[N]を含むダイヤモンド試料のUV−Visスペクトルを示す。このように、
図1および
図2と共に、高い[NV
-]/[NV]
0比率、高い全[NV
-]の組合せを有し、高いT
2’(T
2’は、DC磁気測定の場合はT
2*、AC磁気測定の場合はT
2である)も保持するダイヤモンド材料を提供することが可能であることが明らかである。
【0028】
本明細書に記載する最適化された窒素含有単結晶ダイヤモンド材料のファミリーは、より高い感度の磁気測定およびより制御可能な磁気測定材料ベースの特性を提供することができる。また、本明細書に記載する材料は、磁気測定用途に最適化されているが、材料は、ダイヤモンド格子内で負に帯電した窒素空孔欠陥を利用する他の用途にも適していることも理解されよう。さらに、本発明は、実施形態を参照して具体的に示され、記載されているが、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更を行うことができることを、当業者は理解するであろう。
次に、本発明の好ましい態様を示す。
1. 中性窒素空孔欠陥(NV0)と、
負に帯電した窒素空孔欠陥(NV-)と、
中性窒素空孔欠陥(NV0)に電荷を移動させてそれらを負に帯電した窒素空孔欠陥(NV-)に変換する単一置換窒素欠陥(Ns)と
を含む、単結晶ダイヤモンド材料であって、
単結晶ダイヤモンド材料が、少なくとも2の磁気測定性能指数(FOM)を有し、磁気測定性能指数が、
【数1】
(式中、Rは、負に帯電した窒素空孔欠陥の中性窒素空孔欠陥に対する濃度比([NV-]/[NV0])であり、[NV-]は、原子百万分率(ppm)で測定した、単結晶ダイヤモンド材料の負に帯電した窒素空孔欠陥の濃度であり、[NV0]は、原子百万分率(ppm)で測定した、単結晶ダイヤモンド材料の中性窒素空孔欠陥の濃度であり、T2’は、マイクロ秒単位のNV-欠陥のデコヒーレンス時間であり、T2’は、DC磁気測定の場合はT2*、AC磁気測定の場合はT2である)
により定義されることを特徴とする、単結晶ダイヤモンド材料。
2. FOMが少なくとも3である、上記1に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
3. FOMが少なくとも4である、上記1または2に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
4. FOMが少なくとも5である、上記1から3までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
5. FOMが少なくとも6である、上記1から4までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
6. FOMが少なくとも7である、上記1から5までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
7. Rが少なくとも4である、上記1から6までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
8. Rが少なくとも5である、上記1から7までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
9. Rが少なくとも6である、上記1から8までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
10. Rが少なくとも7である、上記1から9までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
11. [NV-]が少なくとも1.3ppmである、上記1から10までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
12. [NV-]が少なくとも1.5ppmである、上記1から11までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
13. [NV-]が少なくとも1.7ppmである、上記1から12までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
14. T2*が少なくとも0.4μである、上記1から13までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
15. T2*が少なくとも0.5μ秒である、上記1から14までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
16. T2*が少なくとも0.6μ秒である、上記1から15までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
17. T2*が少なくとも0.7μ秒である、上記1から16までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
18. 少なくとも3ppmの全窒素濃度を有する、上記1から17までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
19. 少なくとも5ppmの全窒素濃度を有する、上記1から18までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
20. 少なくとも8ppmの全窒素濃度を有する、上記1から19までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
21. 少なくとも12ppmの全窒素濃度を有する、上記1から20までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
22. 少なくとも18ppmの全窒素濃度を有する、上記1から21までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
23. 少なくとも25ppmの全窒素濃度を有する、上記1から22までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
24. 単結晶CVDダイヤモンドである、上記1から23までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
25. 少なくとも0.5mmの3つの直交寸法を有する、上記1から24までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
26. 単結晶ダイヤモンド材料中の全窒素濃度の0.4%よりも高い15N濃度、および/または14NV+15NVにより与えられる全NV濃度の0.4%よりも高い15NV濃度を有する、上記1から25までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料。
27. より低い窒素含量のダイヤモンド材料中に、上記1から26までのいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料の領域または層を含む、ダイヤモンド成分。
28. 上記1から26のいずれか1項に記載の単結晶ダイヤモンド材料または上記27に記載のダイヤモンド成分を含む、磁力計。