特許第6689999号(P6689999)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6689999スライドファスナー用のファスナーテープ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6689999
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】スライドファスナー用のファスナーテープ
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/34 20060101AFI20200421BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20200421BHJP
   D03D 15/00 20060101ALI20200421BHJP
   D03D 11/00 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   A44B19/34
   D03D1/00 Z
   D03D1/00 C
   D03D15/00 102Z
   D03D11/00 Z
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-541760(P2018-541760)
(86)(22)【出願日】2016年9月27日
(86)【国際出願番号】JP2016078479
(87)【国際公開番号】WO2018061090
(87)【国際公開日】20180405
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090206
【弁理士】
【氏名又は名称】宮田 信道
(72)【発明者】
【氏名】葛山 満夫
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴寛
【審査官】 田々井 正吾
(56)【参考文献】
【文献】 実開平06−024514(JP,U)
【文献】 特開2002−317347(JP,A)
【文献】 特開平11−070007(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063340(WO,A1)
【文献】 登録実用新案第3120630(JP,U)
【文献】 特開2002−209613(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/34
D03D 1/00
D03D 11/00
D03D 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
緯方向の一端部に位置する一重織部(T1)と、前記一重織部(T1)の緯方向に隣り合う二重織部(T2)とを備える織物であり、
前記二重織部(T2)は経糸(Y)として、前記二重織部(T2)の表側に露出させるための表糸(Y1)と、前記二重織部(T2)の裏側に露出させるための裏糸(Y2)とを備え、
前記裏糸(Y2)のうちの、前記二重織部(T2)の表側に露出する部分の両隣りには、前記表糸(Y1)のうちの、前記二重織部(T2)の表側に露出する部分が常に存在し、前記表糸(Y1)は前記裏糸(Y2)よりも前記二重織部(T2)の表側に多く露出するものであると共に、前記裏糸(Y2)は前記表糸(Y1)よりも前記二重織部(T2)の裏側に多く露出するものであり、
前記表糸(Y1)と前記裏糸(Y2)は、異なる色の先染め糸であることを特徴とするスライドファスナー用のファスナーテープ。
【請求項2】
前記二重織部(T2)の前記表糸(Y1)と前記裏糸(Y2)は、前記一重織部(T1)の経糸(Y0)とは異なる色の先染め糸であることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー用のファスナーテープ。
【請求項3】
前記二重織部(T2)の前記表糸(Y1)と前記裏糸(Y2)のうち一方は前記一重織部(T1)の経糸(Y0)と同じ色の先染め糸であり、他方は前記一重織部(T1)の経糸(Y0)とは異なる色の先染め糸であることを特徴とする請求項1に記載のスライドファスナー用のファスナーテープ。
【請求項4】
前記二重織部(T2)は経糸(Y)として、前記表糸(Y1)、前記裏糸(Y2)の他に補強糸(Y3)を備え、
前記補強糸(Y3)は、前記表糸(Y1)よりも前記二重織部(T2)の裏側に多く露出すると共に、前記裏糸(Y2)よりも前記二重織部(T2)の表側に多く露出することを特徴とする請求項1、2又は3に記載のスライドファスナー用のファスナーテープ。
【請求項5】
前記二重織部(T2)における前記経糸(Y)の密度は、緯糸(X)の密度より大きいことを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のスライドファスナー用のファスナーテープ。
【請求項6】
前記二重織部(T2)における前記経糸(Y)の密度は、前記一重織部(T1)の経糸(Y0)の密度より大きいことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のスライドファスナー用のファスナーテープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スライドファスナーに用いるファスナーテープに関するものであって、より詳しくは織物のファスナーテープに関する。
【背景技術】
【0002】
織物のファスナーテープは製造された後に、その一側縁部にエレメントが取り付けられる。一般的には、織物のファスナーテープが厚いと、エレメントが取り付け難くなるという、技術常識がある。たとえば織物のファスナーテープにモノフィラメントからなるエレメント列を縫製する場合、ファスナーテープが厚いと、針が通り難いので、エレメント列が取り付け難い。
【0003】
またファスナーテープの一例として、表裏面を所望の色にするために、後染め可能な2種類の糸が用いられた織物が存在する(特許文献1)。より詳しく言えば、このファスナーテープは、所定の染料で染色可能な第1糸と、第1糸を染色する染料では染色されずに別の染料で染色可能な第2糸が後染め可能な糸として用いられ、織物の表面側に裏面側よりも多く第1糸を露出させ、織物の裏面側に表面側よりも多く第2糸を露出させるように織られた織物である。そしてこのファスナーテープは、織物になった後に、インクジェット染色法や吹付け染色法により第1糸、第2糸を所望の色に染色し、表裏面を所望の色にできるものである。したがって第1糸と第2糸を異なる色に後染めすることによって、ファスナーテープは表裏で異なる外観を発揮する織物となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−277006号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら上記したファスナーテープは、後染めされた織物なので、先染めされた糸で織られた織物に比べれば、その色の品質が悪い。
【0006】
本発明のファスナーテープは上記実情を考慮して創作されたもので、その目的はエレメント列を取り付け易くし、且つ表裏で異なる外観にすると共に、色をできるだけ高品質にした織物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のスライドファスナー用のファスナーテープは、緯方向の一端部に位置する一重織部と、前記一重織部の緯方向に隣り合う二重織部とを備える織物である。そして二重織部は経糸として、二重織部の表側に露出させるための表糸と、二重織部の裏側に露出させるための裏糸とを備える。裏糸のうちの、二重織部の表側に露出する部分の両隣りには、表糸のうちの、二重織部の表側に露出する部分が常に存在し、表糸は裏糸よりも二重織部の表側に多く露出するものであると共に、裏糸は表糸よりも二重織部の裏側に多く露出するものである。そのうえで表糸と裏糸は、異なる色の先染め糸である。
【0008】
ファスナーテープの表側と裏側の両方で一重織部と二重織部を色で外観上見分けるには、次のようにすることが望ましい。
すなわち二重織部の表糸と裏糸は、一重織部の経糸とは異なる色の先染め糸にすることである。
【0009】
またファスナーテープの表側と裏側のうち一方のみで一重織部と二重織部を色で外観上見分けるには、次のようにすることが望ましい。
すなわち二重織部の表糸と裏糸のうち一方は一重織部の経糸と同じ色の先染め糸にし、他方は一重織部の経糸とは異なる色の先染め糸にすることである。
【0010】
また二重織部は、経糸として表糸と裏糸だけを備えるものであっても良いが、織物としての丈夫さを補強するためには次のようにすることが望ましい。
すなわち二重織部は経糸として、表糸、裏糸の他に、補強糸を備え、補強糸は、表糸よりも二重織部の裏側に多く露出すると共に、裏糸よりも二重織部の表側に多く露出することである。
【0011】
また二重織部における経糸と緯糸の密度は、問わないが、二重織部の色に緯糸の色よりも経糸の色を反映させ、一重織部と二重織部を色で外観上見分け易くするには、次のようにすることが望ましい。
すなわち二重織部における経糸の密度は、緯糸の密度より大きいことである。
【0012】
また一重織部と二重織部の経糸の密度は、問わないが、一重織部と二重織部を色で外観上見分け易くするには、次のようにすることが望ましい。
すなわち二重織部における経糸の密度は、一重織部の経糸の密度より大きいことである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のファスナーテープによれば、二重織部よりも一重織部の厚みが薄く、しかもその厚みの薄い一重織部を緯方向の一端部に備えることから、一重織部にエレメント列が取り付け易くなる。また二重織部の経糸には先染め糸を用いているので、たとえば織物となった後に経糸を染めたものに比べれば、ファスナーテープ(二重織部)の色は高品質になる。また二重織部の表側には表糸の色が外観上の影響を与え、二重織部の裏側には裏糸の色が外観上の影響を与えることから、ファスナーテープは表側と裏側で異なる外観になる。
【0014】
また二重織部の表糸と裏糸を一重織部の経糸とは異なる色の先染め糸にしたファスナーテープによれば、ファスナーテープの表側と裏側の両方で一重織部と二重織部を色で外観上見分けられる。
【0015】
また二重織部の表糸と裏糸のうち一方を一重織部の経糸と同じ色の先染め糸にし、他方を一重織部の経糸とは異なる色の先染め糸にしたファスナーテープによれば、ファスナーテープの表側と裏側のうち一方のみで一重織部と二重織部を色で外観上見分けられる。
【0016】
また二重織部の経糸として表糸、裏糸の他に補強糸を備えるファスナーテープによれば、補強糸が表糸よりも二重織部の裏側に多く露出すると共に、裏糸よりも二重織部の表側に多く露出するものなので、たとえば表糸と裏糸だけを経糸とする二重織部に比べて、織物としての丈夫さが向上すると共に、織物としての厚みが薄くなる。
【0017】
また二重織部における経糸の密度を緯糸の密度より大きくしたファスナーテープによれば、二重織部の色に緯糸の色よりも経糸の色が表れることになり、一重織部と二重織部を色で外観上見分け易くなる。
【0018】
また二重織部における経糸の密度を一重織部の経糸の密度より大きくしたファスナーテープによれば、二重織部では一重織部よりも経糸が見え易くなり、一重織部と二重織部を色で外観上見分け易くなる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第一実施形態のファスナーテープの平面図と、その一部を拡大して糸の組み合わせ方を表現した模式図と、を併用した図面である。
図2】(A)図は、図1の模式図の部分のうち二重織部を拡大して示す模式図で、(B)図は、(A)図の模式図で表現した糸の組み合わせ方を実際の織物に近づけた状態で示す模式図である。
図3】(A)図は、二重織部の1番、2番、9番の三本の経糸と緯糸との関係を示す図面、(B)図は図1の一重織部の0番、36番の経糸と緯糸との関係を示す図面、(C)図は図1の一重織部の38番の経糸と緯糸との関係を示す図面である。
図4】本発明の第一実施形態のファスナーテープが用いられたスライドファスナーを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図4にはスライドファスナー20の一例が示されている。このスライドファスナー20は、対向する2枚のファスナーストリンガー21,21と、2枚のファスナーストリンガー21,21の対向する側縁部に沿って往復動可能なスライダー22を、主として備えている。このスライドファスナー20は、本発明の第一実施形態のファスナーテープTと、ファスナーテープTの対向する側縁部に沿って縫製で取り付けられたエレメント列Eを備えている。
【0021】
本発明の第一実施形態のファスナーテープTは織物である。本発明を説明するにあたって以下のように方向を定める。「経方向」とは、織物を厚み方向から視て、織物を構成する経糸と緯糸のうち経糸の延長する方向である。「緯方向」とは、織物を厚み方向から視て、緯糸の延長する方向である。なお図4は、スライドファスナー20の全体を示すものなので、経糸、緯糸が示されていないが、図4では経方向は上下方向であり、緯方向は左右方向である。また図1は、本発明の第一実施形態のファスナーテープTを示すもので、経糸Y、緯糸Xが示されており、図1では経方向は上下方向であり、緯方向は左右方向である。「表側」とは、織物の厚み方向のうち一方側であり、図1、4では紙面の側、より詳しく言えば目視可能な面の側である。「裏側」とは、織物の厚み方向のうち他方側であり、図1、4では紙面の裏側、より詳しく言えば目視不能な面の側である。
【0022】
本発明の第一実施形態のファスナーテープTは図1,4に示すように、緯方向に順番に一重織部T1、二重織部T2、一重織部T1を連続して配置した織物であり、ニードル織機で織られたものである。言い換えれば本実施形態のファスナーテープTは、緯方向の両端部に一重織部T1をそれぞれ備え、2つの一重織部T1,T1の間に二重織部T2を隣り合わせに備えるものである。2つの一重織部T1,T1のうち一方は、エレメント列Eを縫製によって取り付ける部分である。また他方は衣類等の対象物に縫製によって取り付ける部分である。以下、一重織部T1と二重織部T2を詳述する。
【0023】
図1には、ファスナーテープTの他に、ファスナーテープTの一部分の拡大図が示されており、この拡大図では、経糸Yと緯糸Xの組み合わせ方を表現してある。また拡大図では、その組み合わせ方を明確化するために、経糸Yを3種類の太線で示し、緯糸Xを1種類の線で示してある。
経糸Yを示す3種類の太線とは、黒色の太い実線(以下、「黒線」と言う。)、平行な二本の実線の間に黒い点が散在している線(以下、「水玉模様の線」と言う。)、平行な二本の実線の間に平行な斜線が等間隔で配置された線(以下、「斜線模様の線」と言う。)である。緯糸Xを示す線は、平行な二本の実線の間を白色とした線(以下、「白線」と言う。)である。
また図1では、左側の一重織部T1の緯方向の中間部分を省略し、二重織部T2の右側部分を省略し、右側の一重織部T1の右側部分を省略してある。
【0024】
一重織部T1とは、互いに一重の経糸と緯糸とからなる織物である。一重織部T1は、どのような組織であっても良く、たとえば平織り組織、綾織り組織、朱子織り組織等がある。ちなみに図1では、一重織部T1の経糸は水玉模様の線で示され、符号Y0が付記されている。
【0025】
二重織部T2とは、経二重織、緯二重織、経緯二重織の何れかである。
経二重織とは、一重の緯糸Xと、一重の緯糸Xに対して表裏二重の経糸Y、Yとからなる織物である。
緯二重織とは、一重の経糸Yと、一重の経糸Yに対して表裏二重の緯糸X、Xとからなる織物である。
経緯二重織とは、経糸Yと緯糸Xがともに二重の織物である。
【0026】
また二重織部T2は、本実施形態では経二重織であると共に、経糸Yに3種類の糸を用い、緯糸Xに1種類の糸を用いている。
1種類目の経糸Yは、二重織部T2の表側に露出させるための糸、つまり表糸Y1である。2種類目の経糸Yは、二重織部T2の裏側に露出させるための糸、つまり裏糸Y2である。
表糸Y1は、裏糸Y2よりも二重織部T2の表側に多く露出するものであって、より詳しく言えば本実施形態では二重織部T2の裏側よりも表側に多く露出させる糸であり、緯糸Xの表側に位置する量が多い糸である。したがって表糸Y1の全長のうち緯糸Xの表側に位置する長さが、緯糸Xの裏側に位置する長さよりも長い。表糸Y1は図1の拡大図では黒線である。
裏糸Y2は、表糸Y1よりも二重織部T2の裏側に多く露出するものであって、より詳しく言えば本実施形態では二重織部T2の表側よりも裏側に多く露出させる糸であり、緯糸Xの裏側に位置する量が多い糸である。したがって裏糸Y2の全長のうち緯糸Xの裏側に位置する長さは、緯糸Xの表側に位置する長さよりも長い。図1の拡大図では斜線模様の線である。
3種類目の経糸Yは、経糸Yとして表糸Y1と裏糸Y2だけを用いた二重織部よりも織物としての丈夫さを補強するための糸、つまり補強糸Y3である。補強糸Y3は、表糸Y1よりも二重織部T2の裏側に多く露出すると共に、裏糸Y2よりも二重織部T2の表側に多く露出するものであって、より詳しく言えば本実施形態では織物の表側と裏側に同等に露出させる糸である。図1の拡大図では水玉模様の線である。
【0027】
図2には図1の模式図の部分のうち二重織部T2を拡大して示す模式図が示されている。図2の例では、経糸Yが緯方向に十八本示されており、図面での左側から右側に向かって順番に各経糸Yに円形の枠(○)で囲まれた1〜18の番号が併記されている。また緯糸Xが経方向に十六本示されており、図面での下側から上側に向かって順番に各緯糸Xに四角形の枠(□)で囲まれた1〜16の番号が併記されている。そして経糸Yのうち表糸Y1は1,3,5,7,10,12,14,16番の経糸Yである。経糸Yのうち裏糸Y2は2,4,6,8,11,13,15,17番の経糸Yであり、経糸Yのうち補強糸Y3は9,18番の経糸Yである。なお図2では、二重織部T2の経糸Yは18本であるが、本実施形態では35本であるものとし、図1に示すように一重織部T1の経糸Yのうち二重織部T2に対して緯方向の左隣りの経糸Yは、0番の経糸Y0、右隣りの経糸Yは36番の経糸Y0とする。
【0028】
表糸Y1は図2図3(A)に示すように、八本の緯糸Xごとに同じ織り方を繰り返して織られたものである。1,5番の表糸Y1は、1〜8番の八本の緯糸Xに対しては、1〜6番の六本の緯糸Xの表側に重なると共に、7〜8番の二本の緯糸Xの裏側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の9〜16番の八本の緯糸Xに対しても織られたものである。3,7番の表糸Y1は、1〜8番の八本の緯糸Xに対しては、1,2,5〜8番の六本の緯糸Xの表側に重なると共に、3,4番の二本の緯糸Xの裏側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の9〜16番の八本の緯糸Xに対しても織られたものである。
【0029】
経糸Yのうち裏糸Y2も図2図3(A)に示すように、八本の緯糸Xごとに同じ織り方を繰り返して織られたものである。2,6番の裏糸Y2は、1〜4,7,8番の六本の緯糸Xの裏側に重なると共に、5〜6番の二本の緯糸Xの表側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の9〜16番の八本の緯糸Xに対しても織られたものである。4,8番の裏糸Y2は、1,2番の二本の緯糸Xの表側に重なると共に、3〜8番の六本の緯糸Xの裏側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の9〜16番の八本の緯糸Xに対しても織られたものである。表糸Y1と裏糸Y2とは、二重織部T2を構成する経糸Yのうち大部分を占めると共に、二重織部T2において同じ本数用いられている。
【0030】
経糸Yのうち補強糸Y3は図2図3(A)に示すように、二重織部T2を構成する経糸Yのうちごく一部分を占めると共に、二重織部T2の緯方向の中間部に間隔をあけて配置されている。また補強糸Y3は四本ごとに同じ織り方を繰り返して織られたものである。9番の補強糸Y3は、1〜2番の緯糸Xの裏側に重なると共に、3,4番の二本の緯糸Xの表側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の5〜8番の四本の緯糸Xに対しても織られたものである。
【0031】
なお二重織部T2は、表糸Y1と裏糸Y2を緯方向に交互に並べた組を、緯方向に間隔をあけて複数組(本実施形態では4組)備え、隣り合う二組の間に補強糸Y3を備える織物である。補強糸Y3は、本実施形態では図1に示すように9,18,27番の経糸Y3である。また二重織部T2の両隣りに位置する経糸Yは、2つの一重織部T1,T1の経糸Y0であり、図1では0番、36番の経糸Y0であり、この0番、36番の経糸Y0も図2図3(B)に示すように、補強糸Y3と同じ織り方で織られている。
なお一重織部T1の38番の経糸Y0は、八本ごとに同じ織り方を繰り返して織られたものである。38番の経糸Y0は、1,2,7,8番の緯糸Xの裏側に重なると共に、3〜6番の二本の緯糸Xの表側に重なるように交錯させて織られ、この織り方で次の9〜16番の八本の緯糸Xに対しても織られたものである。
【0032】
また本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、織物を織るときに緯糸Xを織物の少なくとも一方の端部で折り返すようにして複数回ずつ、より詳しくは最低2回単位ずつ二重織部T2の杼口に通して形成されたものであり、その結果、最低2本単位の緯糸Xに対してその表側または裏側に経糸Yを重ねるように織られている。ちなみに杼口とは、織機で多数本の経糸Yを上下動することによって、経糸Yで形成される隙間であって、緯糸Xを通すためのものである。
【0033】
また表糸Y1は、二重織部T2の表側と裏側に6:2の割合で表れ、裏糸Y2は二重織部T2の表側と裏側に2:6の割合で表れる。つまり織物の表側では経糸Yと緯糸Xの両方が存在するので、このことだけを考慮すれば、外観に関して表糸Y1と裏糸Y2の両方がそれぞれ6:2の割合で二重織部T2の表側に存在するように見えるように思われる。しなしながら現実は、織物の表側の外観に関しては表糸Y1のみが存在し、織物の裏側の外観に関しては裏糸Y2のみが存在するように見える。以下では、織物の表側の外観についての原因を述べ、裏側の外観についての原因は省略する。
【0034】
表糸Y1は隣り合う「六本」の緯糸Xの表側に重なっているので、この部分について表糸Y1は経方向の長さが緯方向よりも充分に長くなる。そうすると、表糸Y1のうち経方向の両端では、緯糸Xの拘束が強いが、経方向の中間部では緯糸Xの拘束が弱くなり、表糸Y1が緯方向に広がった状態になる。いっぽう裏糸Y2は隣り合う「二本」の緯糸Xの表側に重なっているので、この部分について裏糸Y2は経方向の長さと緯方向の長さにあまり差がなく、それゆえ緯方向に殆ど広がらずに一直線の状態になる。したがって二重織部T2の表側に存在する表糸Y1と裏糸Y2の割合は、6:2ではなく、表糸Y1が緯方向に広がった部分に対応して、より多くの割合を表糸Y1が占めることになる。
【0035】
また上記した緯糸Xの拘束の関係により、表糸Y1は経方向の中間部では緯方向に広がるだけでなく、経糸Yと緯糸Xの重なり方向にも広がった状態になる。いっぽう裏糸Y2は経糸Yと緯糸Xの重なり方向にも殆ど広がらずに一直線の状態になる。したがって表糸Y1は縦方向の中間部に向かうにつれて裏糸Y2よりも、より表側に位置するようになり、表糸Y1の方が裏糸Y2よりも視認され易くなる。
【0036】
またニードル織機では製造時において経糸Yに比べて緯糸Xの張力が高い(図1の拡大図に示すように隣り合う2本の緯糸X、Xは織物の緯方向の一端側で、折れ曲がるようにして連続している)ので、織物となったときに、その織物を平面上に置くと、全ての緯糸Xは同一平面に存在するように見える。したがって表糸Y1は、同一平面に存在する多数の緯糸Xの表側に重なっていることになり、表糸Y1は目立つが、緯糸Xは目立たなくなる。なお表糸Y1が緯方向に広がった状態になるので、緯糸Xは表糸Y1によって覆われた状態になり、緯糸Xはより目立たなくなる。
【0037】
また二重織部T2における経糸Yの密度は、緯糸Xの密度より大きくしてある。具体的な一例としては、糸の太さは経糸Y、緯糸Xのいずれも330Tであるものとし、経糸Yの密度は220本/inch、緯糸Xの密度は98本/inchとする。よって経糸Yの密度と緯糸Xの密度の比率は、220:98=2.24:1となる。経糸Yの密度の比率を2.24以上にすることにより、本実施形態での二重織部T2では、緯糸Xはより目立たなくなっている。
【0038】
しかも一本の裏糸Y2とその両隣りの二本の表糸Y1との関係は、次のようになっている。裏糸Y2のうち二重織部T2の表側に位置する部分の両隣りには、表糸Y1のうち二重織部T2の表側に位置する部分が常に存在するという関係である。この関係は、より具体的に言えば、5、6番の緯糸Xの表側には2番の裏糸Y2が存在するだけでなく、1、3番の表糸Y1も存在する。したがって本実施形態での二重織部T2は、裏糸Y2の存在が目立ち難い。
【0039】
以上の原因により、外観に関しては表糸Y1のみが二重織部T2の表側に存在するように見えるようになっている。
【0040】
また本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、経糸Yと緯糸Xには織機で織る前に染められた糸、つまり先染め糸を用いており、しかも二重織部T2の経糸Yのうち表糸Y1と裏糸Y2と一重織部T1の経糸Y0には異なる色の先染め糸を用いている。より詳しく言えば、二重織部T2の両隣りに位置する2つの一重織部T1の経糸Y0と、二重織部T2の経糸Yのうち補強糸Y3と、全ての緯糸Xには同じ色の一色の先染め糸が用いられ、この先染め糸とは異なる色の先染め糸が二重織部T2の経糸Yのうち表糸Y1と裏糸Y2には用いられている。また二重織部T2の経糸Yのうち表糸Y1と裏糸Y2も互いに異なる色の一色の先染め糸が用いられている。
【0041】
そして前記したように二重織部T2の表側の外観に関しては表糸Y1のみが二重織部T2の表側に存在するように見えるので、表側の外観に関しては、本発明の第一実施形態のファスナーテープTは図1に示すように、二重織部T2の両隣りに位置する同じ色の2つの一重織部T1の間に二重織部T2が、経方向に延びる太い直線状に存在するように見えるだけでなく、一重織部T1の色とは異なる色(表糸Y1の色)で見える。本実施形態のファスナーテープTは、図4に示すように、ファスナーテープTのエレメント列Eに沿って細幅のラインが経方向に延びるデザインに見える。
また図示しないが、裏側の外観に関しても、本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、二重織部T2の両隣りに位置する同じ色の2つの一重織部T1の間に、二重織部T2が経方向に延びる太い直線状に存在するように見えるだけでなく、一重織部T1の色とは異なる色(裏糸Y2の色)で見える。
また例えば、二重織部T2の表糸Y1を一重織部T1の経糸Y0と異なる色の先染め糸として、二重織部T2の裏糸Y2を一重織部T1の経糸Y0と同じ色の先染め糸とした場合、ファスナーテープTの表側は、二重織部T2の両隣りに位置する同じ色の2つの一重織部T1の間に二重織部T2が、経方向に延びる太い直線状に存在するように見えるだけでなく、一重織部T1の色とは異なる色(表糸Y1の色)で見える。一方で、ファスナーテープTの裏側は、一重織部T1と二重織部T2の色の違いが確認できない。よって、ファスナーテープTの表側のみ、二重織部T2が一重織部T1とは異なる色で経方向に延びる太い直線状に存在するように見える。
【0042】
本実施形態のファスナーテープTは、二重織部T2の経糸Yだけでなく、一重織部T1の経糸Yにも先染め糸を用いているので、たとえば織物となった後に経糸を染めたものに比べれば、ファスナーテープTの色は高品質になる。また二重織部T2の表側には表糸Y1の色が外観上の影響を与え、二重織部T2の裏側には裏糸Y2の色が外観上の影響を与えることから、ファスナーテープTは表側と裏側で異なる外観になる。
【0043】
また本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、二重織部T2における経糸Yの密度を一重織部T1の経糸Y0の密度より大きくしてある。前記したように二重織部T2では、経糸Yの密度と緯糸Xの密度の比率は、2.24:1としてある。この二重織部T2での密度比を前提として、二重織部T2の経糸Yの密度と一重織部T1の経糸Y0の密度との比率を、1.61:1としてある。したがって二重織部T2における経糸Yの密度は一重織部T1の経糸Y0の密度より大きくなるので、二重織部T2では一重織部T1よりも経糸Yが見え易くなり(緯糸Xが見えにくくなり)、一重織部T1と二重織部T2を色で外観上見分け易くなる。
【0044】
また本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、一重織部T1にエレメント列Eが取り付けられるものであり、二重織部T2に比べて一重織部T1の厚みが薄いし、二重織部T2の経糸Yの密度に比べて一重織部T1の経糸Y0の密度が小さいので、例えばエレメント列Eとして、コイル状のモノフィラメントを縫製する場合に取り付け易い。
【0045】
また本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、二重織部T2の経糸Yとして表糸Y1、裏糸Y2の他に補強糸Y3を備えており、補強糸Y3は表糸Y1よりも二重織部T2の裏側に多く露出すると共に、裏糸Y2よりも二重織部T2の表側に多く露出するものなので、たとえば表糸Y1と裏糸Y2だけを経糸Yとする二重織部に比べて、織物としての丈夫さが向上する。しかも本発明の第一実施形態のファスナーテープTは、複数本の補強糸Y3が織物の緯方向に間隔をあけて配置されているので、表糸Y1と裏糸Y2だけを経糸Yとする二重織部に比べて、織物としての厚みが薄くなる。
【0046】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。二重織部T2は前述したように経二重織に限らず、緯二重織、経緯二重織であっても良い。また本実施形態では、二重織部T2に表糸Y1、裏糸Y2、補強糸Y3を用いたが、これに限らず本発明は二重織部T2に表糸Y1、裏糸Y2のみを用いるものであっても良い。
【0047】
また経緯二重織の場合、二重織部T2は、表糸Y1と緯糸Xのみで構成される表側の一重織の織物と、裏糸Y2と緯糸Xのみで構成される裏側の一重織の織物とが単に二枚重なり合うものであっても良いし、二重織部T2の織物としての丈夫さを補強するための補強糸Y3を用い、二重織部T2の緯方向の適当な位置で表側の織物と裏側の織物とを補強糸Y3で接結するものであっても良い。またこの補強糸Y3は、二重織部T2を構成する全数の表糸Y1または全数の裏糸Y2のうち1本、あるいは複数本を補強糸Y3として兼用するものであっても良いし、二重織部T2を構成する全数の表糸Y1と裏糸Y2とは全く別の糸であって、表側の織物と裏側の織物とを接結する専用の接結糸を用いるものであっても良い。この場合も補強糸Y3は、表糸Y1よりも二重織部T2の裏側に多く露出すると共に、裏糸Y2よりも二重織部T2の表側に多く露出する。
ちなみに表側の織物と裏側の織物とが単に二枚重なり合っている場合、表糸Y1はファスナーテープTの表側にしか露出せず、裏側には全く露出しないし、裏糸Y2はファスナーテープTの裏側にしか露出せず、表側には全く露出しない。この場合も表糸Y1は裏糸Y2よりも二重織部T2の表側に多く露出するものであると共に、裏糸Y2は表糸Y1よりも二重織部T2の裏側に多く露出するものである。
【符号の説明】
【0048】
20 スライドファスナー
21 ファスナーストリンガー
22 スライダー
E エレメント列
T ファスナーテープ
T1 一重織部
T2 二重織部
X 緯糸
Y 経糸
Y0 一重織部の経糸
Y1 表糸
Y2 裏糸
Y3 補強糸
図1
図2
図3
図4