特許第6690004号(P6690004)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690004
(24)【登録日】2020年4月10日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】無段変速機
(51)【国際特許分類】
   F16H 9/18 20060101AFI20200421BHJP
   F16H 9/26 20060101ALI20200421BHJP
   F16H 1/46 20060101ALI20200421BHJP
   F16H 1/28 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   F16H9/18 Z
   F16H9/26
   F16H1/46
   F16H1/28
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-543879(P2018-543879)
(86)(22)【出願日】2017年10月2日
(86)【国際出願番号】JP2017035763
(87)【国際公開番号】WO2018066488
(87)【国際公開日】20180412
【審査請求日】2019年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2016-195856(P2016-195856)
(32)【優先日】2016年10月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】山田 篤
(72)【発明者】
【氏名】萩原 孝則
(72)【発明者】
【氏名】岡本 宗幸
(72)【発明者】
【氏名】小栗 和夫
(72)【発明者】
【氏名】南方 祐亮
【審査官】 小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−127382(JP,A)
【文献】 特開2014−185703(JP,A)
【文献】 特開2003−097656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 9/18
F16H 1/28
F16H 1/46
F16H 9/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、
前記機械式プーリ移動機構は、
互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、
前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、
サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、
前記第2遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤは、前記第1遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤとそれぞれ等しい歯数に設定され、
前記一体回転要素の回転速度と前記第1のカム部材の回転速度との比として規定される前記動力伝達機構の前記速度伝達比が、前記一体回転要素の回転速度と前記第2のカム部材の回転速度との比と等しい値に設定されている
ことを特徴とする、無段変速機。
【請求項2】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、
前記機械式プーリ移動機構は、
互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、
前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、
サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、
前記第2遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤは、前記第1遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤとそれぞれ異なる歯数に設定され、
前記一体回転要素の回転速度と前記第1のカム部材の回転速度との比として規定される前記動力伝達機構の前記速度伝達比が、前記一体回転要素の回転速度と前記第2のカム部材の回転速度との比と異なる値に設定されている
ことを特徴とする、無段変速機。
【請求項3】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、
前記機械式プーリ移動機構は、
互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、
前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、
サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、
前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記第2のカム部材に結合され、前記リングギヤが前記アクチュエータに連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、
前記動力伝達機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行に設置されたカウンタ軸と、カウンタ軸に結合された第1カウンタギヤ及び第2カウンタギヤと、前記第1のカム部材に結合され前記第1カウンタギヤと噛合する第1外歯ギヤと、前記キャリアに結合され前記第2カウンタギヤと噛合する第2外歯ギヤと、からなる平行ギヤ機構により構成されている
ことを特徴とする、無段変速機。
【請求項4】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、
前記機械式プーリ移動機構は、
互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、
前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、
サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、
前記第1遊星歯車機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行な回転軸線上に配置され、
前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記アクチュエータに連結され、前記リングギヤが前記第2のカム部材に連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、
前記動力伝達機構は、前記第1のカム部材に結合される外歯ギヤと、前記キャリアに結合され前記外歯ギヤと噛合するカウンタギヤと、からなる平行ギヤ機構により構成されている
ことを特徴とする、無段変速機。
【請求項5】
プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、
前記機械式プーリ移動機構は、
互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、
前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、
サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、
前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、
前記第1遊星歯車機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行な回転軸線上に配置され、
前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記アクチュエータに連結され、前記リングギヤが前記第2のカム部材に連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、
前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構と、前記第2遊星歯車機構のリングギヤの外周に一体に設けられた第1外歯ギヤと、前記第1のカム部材に結合され前記第1外歯ギヤと噛合する外歯ギヤと、から構成されている
ことを特徴とする、無段変速機。
【請求項6】
前記動力伝達機構と前記第1のカム部材との間には、前記第1のカム部材の軸方向移動を許容し且つ回転を伝達するスライド許容機構が介装されている
ことを特徴とする、請求項1〜の何れか1項に記載の無段変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】

本発明は、トルクカム機構を用いた機械的なアクチュエータによって可動シーブを軸方向移動させる無段変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
ベルト式無段変速機において、プライマリプーリ又はセカンダリプーリの可動シーブをアクチュエータにより軸方向移動してプーリの溝幅を変更する技術が開発されている。
例えば特許文献1には、回転位相を変更するとカム機構により軸方向にスライドして可動シーブを軸方向移動させるスライドカムと、このスライドカムの回転位相を変更するモータ等の機械的なアクチュエータとを備えた無段変速機が開示されている。
【0003】
可動シーブをアクチュエータにより軸方向移動させる場合、上記スライドカムのようにアクチュエータで駆動されて可動シーブを軸方向に移動させる駆動部材は、回転位相を変更される際を除いて基本的に非回転であるのに対して、可動シーブは高速回転するので、駆動部材と可動シーブとの間には、相対回転を許容し軸方向力を伝達するスラストベアリングが介装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−1013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スライドカム等の駆動部材と可動シーブとの間のスラストベアリングは、ベルト張力による軸方向荷重を常に受けながら両者の差回転に応じて回転する。このため、スラストベアリングは、プーリ回転のフリクションとなって、無段変速機の動力伝達ロスの増大を招く。特に、無段変速装置による伝達トルクが大きい場合、ベルト張力による軸方向荷重も大きくなり、スラストベアリングによるプーリ回転のフリクションも大きくなるため、動力伝達ロスの増大がより顕著になる。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み創案されたもので、機械的なアクチュエータを用いて可動シーブを軸方向移動させる無段変速機において、プーリ回転のフリクションを軽減できるようにして、動力伝達ロスの発生を抑制することができるようにした無段変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の無段変速機は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、前記機械式プーリ移動機構は、互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、前記第2遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤは、前記第1遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤとそれぞれ等しい歯数に設定され、前記一体回転要素の回転速度と前記第1のカム部材の回転速度との比として規定される前記動力伝達機構の前記速度伝達比が、前記一体回転要素の回転速度と前記第2のカム部材の回転速度との比と等しい値に設定されていることが好ましい。
【0013】
本発明の第2の無段変速機は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、前記機械式プーリ移動機構は、互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、前記第2遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤは、前記第1遊星歯車機構のサンギヤ,キャリア,リングギヤとそれぞれ異なる歯数に設定され、前記一体回転要素の回転速度と前記第1のカム部材の回転速度との比として規定される前記動力伝達機構の前記速度伝達比が、前記一体回転要素の回転速度と前記第2のカム部材の回転速度との比と異なる値に設定されていることが好ましい。
本発明の第3の無段変速機は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、前記機械式プーリ移動機構は、互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記第2のカム部材に結合され、前記リングギヤが前記アクチュエータに連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、前記動力伝達機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行に設置されたカウンタ軸と、カウンタ軸に結合された第1カウンタギヤ及び第2カウンタギヤと、前記第1のカム部材に結合され前記第1カウンタギヤと噛合する第1外歯ギヤと、前記キャリアに結合され前記第2カウンタギヤと噛合する第2外歯ギヤと、からなる平行ギヤ機構により構成されていることが好ましい。
本発明の第4の無段変速機は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、前記機械式プーリ移動機構は、互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、前記第1遊星歯車機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行な回転軸線上に配置され、前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記アクチュエータに連結され、前記リングギヤが前記第2のカム部材に連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、前記動力伝達機構は、前記第1のカム部材に結合される外歯ギヤと、前記キャリアに結合され前記外歯ギヤと噛合するカウンタギヤと、からなる平行ギヤ機構により構成されていることが好ましい。
本発明の第5の無段変速機は、プライマリプーリ及びセカンダリプーリと、上記両プーリに架け渡されたベルトと、上記両プーリの少なくとも一方のプーリの可動シーブを軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構と、を備えた無段変速機において、前記機械式プーリ移動機構は、互いのカム面を摺接させて前記可動シーブと同軸上に直列に配置された第1,第2のカム部材を有し、前記第1のカム部材は前記可動シーブと直結され、前記第2のカム部材の前記第1のカム部材に対する相対回転位相を変更されると全長が変更されて前記可動シーブを軸方向に移動するトルクカム機構と、前記第2のカム部材の前記相対回転位相を変更又は一定とするアクチュエータと、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有し、これらの何れか1つの回転要素が前記第1のカム部材に動力伝達機構を介して連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素が前記第2のカム部材に連結され、残りの回転要素が前記アクチュエータに連結された、第1遊星歯車機構と、を備え、前記動力伝達機構は、前記アクチュエータにより前記第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、前記第1,第2のカム部材が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構を有し、前記第1遊星歯車機構と前記第2遊星歯車機構との互いに対応する回転要素同士が一体に回転する一体回転要素となっており、前記第1遊星歯車機構は、前記可動シーブの回転軸線と平行な回転軸線上に配置され、前記第1遊星歯車機構において、前記サンギヤが前記アクチュエータに連結され、前記リングギヤが前記第2のカム部材に連結され、前記キャリアが前記動力伝達機構に駆動連結され、前記動力伝達機構は、前記第1遊星歯車機構と同軸上に直列に配置され、サンギヤ,キャリア,リングギヤの3つの回転要素を有する第2遊星歯車機構と、前記第2遊星歯車機構のリングギヤの外周に一体に設けられた第1外歯ギヤと、前記第1のカム部材に結合され前記第1外歯ギヤと噛合する外歯ギヤと、から構成されていることが好ましい。
【0014】
)前記動力伝達機構と前記第1のカム部材との間には、前記第1のカム部材の軸方向移動を許容し且つ回転を伝達するスライド許容機構が介装されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アクチュエータにより第1,第2のカム部材の相対回転位相を一定とすると、トルクカム機構の全長は第1,第2のカム部材の相対回転位相に応じた一定値に保持されこれに応じた固定変速比でプライマリプーリとセカンダリプーリとの間で動力が伝達される。第1のカム部材は可動シーブと直結されており、第1のカム部材とプーリとの間には回転によるフリクションは発生せず、第1,第2のカム部材も同方向に等速回転し相対回転しないので回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0016】
アクチュエータにより第2のカム部材の第1のカム部材に対する相対回転位相を変更すると、トルクカム機構の全長が変更されてこれに応じた変速比でプライマリプーリとセカンダリプーリとの間で動力が伝達される。この相対回転位相の変更時には、第1のカム部材と第2のカム部材とは相対回転するが、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の各実施形態に係る無段変速機の模式的な構成図である。
図2】本発明の各実施形態に係るプーリの模式的な構成図である。
図3】本発明の第1,2実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図4】本発明の第1実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図5】本発明の第2実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図6】本発明の第3実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図8】本発明の第4実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図9】本発明の第4実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図10】本発明の第5実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図11】本発明の第5実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図12】本発明の第6実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図13】本発明の第6実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図14】本発明の第7実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図15】本発明の第7実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図16】本発明の第8実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図17】本発明の第8実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
図18】本発明の第9実施形態に係る機械式プーリ移動機構をプーリと共に示す模式的な構成図である。
図19】本発明の第9実施形態に係る機械式プーリ移動機構の遊星歯車機構の速度線図(共線図)である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。以下の実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することや適宜組み合わせることが可能である。
【0019】
〔各実施形態に係る無段変速機〕
図1は各実施形態に係る無段変速機を模式的に示す構成図である。図1に示すように、車両を走行させるための内燃機関,電動モータ等からなる駆動源2には、遊星歯車機構等で構成された前後進切換機構4を介して、無段変速機5のプライマリプーリ6の固定シーブ8に結合された回転軸10が連結されている。この回転軸10には、固定シーブ8のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ12が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0020】
また、無段変速機5のセカンダリプーリ14の固定シーブ16に結合された駆動軸18には、差動機構等を介して図示しない駆動輪が連結され、また、駆動軸18には固定シーブ16のシーブ面に対向してプーリのV字状溝を形成するシーブ面を有する可動シーブ20が、軸方向に摺動可能且つ相対回転不能に配設されている。
【0021】
さらに、セカンダリプーリ14の両シーブ16,20間にはV字状溝を狭める方向に付勢力を付加するスプリング22とカム機構24が介装されている。
また、両プーリ6,14間には、ベルト26が巻き掛けられている。
さらに、スプリング22及びカム機構24はセカンダリプーリ14の推力を調整してベルト26の挟圧力を調整する推力調整機構として機能する。
【0022】
なお、図1には、プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14及びベルト26について、変速比がロー側の状態とハイ側の状態とを示している。プライマリプーリ6,セカンダリプーリ14の各外側の半部にロー側の状態を示し、各内側の半部にハイ側の状態を示している。ベルト26については、ロー側の状態を実線で示し、ハイ側の状態を破線で示している。但し、破線で示したハイ状態は、プーリとベルトの半径方向の位置関係を示すのみであり、実際のベルト位置がプーリの内側半部に現れることはない。
【0023】
プライマリプーリ6の可動シーブ12の背面(シーブ面と反対側の面)13側には、可動シーブ12を軸方向に移動して変速比を調整する機械式プーリ移動機構30が配設されている。図1では機械式プーリ移動機構30を極めて簡略化して記載しているが、この機械式プーリ移動機構30は、トルクカム機構40と、第1遊星歯車機構50と、動力伝達機構(例えば、第2遊星歯車機構やその他の歯車機構)60と、アクチュエータとしての電動モータ70とを備えている。
【0024】
〔各実施形態に係る機械式プーリ移動機構〕
図2に示すように、トルクカム機構40は、可動シーブ12と直結(相対回転不能及び軸方向相対動不能に固定的に連結)されて可動シーブ12と一体に回転する第1カム(第1のカム部材)42と、第1カム42に形成された第1カム面42aに対向する第2カム面44aが一端(図中左方)に形成され、他端(図中右方)がスラスト軸受46を介して回転軸10に軸方向位置を規制された第2カム(第2のカム部材)44とを備えている。
【0025】
第1カム42及び第2カム44は、回転軸10の外周側に回転軸10の軸心と同軸(同一軸心)に配置されている。なお、回転軸10は、軸受32,34を介して図示しない変速機ケーシングに回転自在に支持されている。可動シーブ12と一体に回転する第1カム42は、回転軸10に対して可動シーブ12と同様の構成(ボール又はローラ等を介在させたスプライン機構)で相対回転不能、軸方向移動可能に支持されている。第2カム44は回転軸10に対して図示しない軸受等を介して相対回転可能に支持され、且つ軸方向には回転軸10に対して一定の位置を保持し移動しないように軸方向移動不能になっている。
【0026】
このように、第1カム42を可動シーブ12に直結(固定的に連結)し、第2カム44を回転軸10に対して軸方向移動不能に支持することにより、両カム42,44の相対回転位相の変位で可動シーブ12を軸方向に移動する(変速比を変更する)ことが可能となる。
【0027】
第1カム面42a及び第2カム面44aは、円筒状の各カム42,44の互いに対向する端面に形成されており、互いに摺接するように配設される。これらのカム面42a,44aの形状は、回転軸10の軸線SCに対して傾斜した螺旋状斜面に形成されている。各実施形態では、この斜面(即ち、第1及び第2カム面42a,44a)は、車両の前進走行時におけるプライマリプーリ6の回転方向に沿って可動シーブ12の背面13に近づくように傾斜している。
【0028】
第2カム44と第1カム42との相対回転位相が変更されるとトルクカム機構40の全長が変更される。第2カム44は軸方向には移動しないので、第1カム42が可動シーブ12と共に軸方向に移動する。したがって、第2カム44を第1カム42に対して相対回転させて相対回転位相を変更すると、可動シーブ12が軸方向に移動して、無段変速機5の変速比が調整される。
【0029】
なお、第1カム42と動力伝達機構60との間には、両者の軸方向に沿う相対移動を許容し且つ相対回転不能(回転動力を伝達可能)とするためのスライド許容機構(ボール又はローラ等を介在させたスプライン機構等)80が介装されている。このスライド許容機構80は、遊星歯車機構50や動力伝達機構60等の各ギヤがヘリカルギヤで構成されている場合、各歯車間の軸方向相対移動が不能となるので、このスライド許容機構80は、動力伝達機構60と第1カム42との間の相対移動を許容するために必要となる。しかし、遊星歯車機構50,動力伝達機構60の何れか一方又は両方を平歯車で構成すれば、平歯車間での相対移動が可能となるので、スライド許容機構80を省略することも可能である。
【0030】
第1遊星歯車機構50は、第2カム44の外周に配置され、サンギヤS,キャリアC,リングギヤRの3つの回転要素のうちの何れか1つの回転要素(第1回転要素)が動力伝達機構(例えば遊星歯車機構その他の歯車機構)60を介して第1カム42に連結され、残りのうちの何れか1つの回転要素(第2回転要素)が第2カム44に連結され、残りの回転要素(第3回転要素)がアクチュエータとしての電動モータ70に連結されている。
【0031】
なお、以下の第1〜第4,第8,第9実施形態では、動力伝達機構として第2遊星歯車機構60を例示するが、動力伝達機構は、遊星歯車機構に限るものではなく、例えば第5〜第7実施形態に例示するように、平行ギヤ機構等を利用してもよい。また、アクチュエータとしては電動モータが好適であるが、アクチュエータとして必要な制御性を確保できるものであれば電動モータに限るものではない。
【0032】
第1遊星歯車機構50は、3つの回転要素(サンギヤS,キャリアC,リングギヤR)の何れか1つの回転要素の回転を拘束すれば、残る2つの回転要素のうち、一方の回転要素が反力要素となり、他方の回転要素は、その歯数比に応じた変速比(=出力回転速度/入力回転速度、速比とも言う)で回転することになる。この場合の回転の拘束とは、回転速度を所定速度(一定速度、回転停止も含む)にすることである。また、回転の拘束は、電動モータ70によって行う。つまり、第3回転要素の回転をモータ70によって制御し拘束することにより、第1回転要素と第2回転要素とがその歯数比に応じた変速比で回転する。
【0033】
第1遊星歯車機構50の第1回転要素は、動力伝達機構60を介して第1カム42に連結されているので、第1カム42の回転速度(Nカム1)は、第1遊星歯車機構50の第1回転要素の回転速度(N)に対して、動力伝達機構60の速度伝達比(Nカム1/N)に応じた回転速度で回転する。この動力伝達機構60は、アクチュエータ70による第3回転要素の所定の回転拘束時、即ち、第3回転要素を所定速度(一定速度)で回転或いは停止させているときに、第1カム42と第2カム44とが等速回転するように速度伝達比が設定されている。
なお、入力要素の回転速度Nin、歯数Zin、出力要素の回転速度Nout、歯数Zoutとすると、速度伝達比は、次式に示すように、ギヤ比(変速比)の逆数で定義される。
速度伝達比=Nout/Nin =Zin/Zout =1/ギヤ比(変速比)
【0034】
アクチュエータ70による第3回転要素の回転拘束状態を変更すると、即ち、第3回転要素の回転速度を変更する(第3回転要素が停止状態であれば回転させる、あるいは第3回転要素が所定回転速度の場合には、この所定回転速度から変更する)と、第1カム42は可動プーリ12にと直結していることから回転速度は変化しないため、第1カム42と第2カム44との間に差回転が生じ、第2カム44が第1カム42に対して相対回転して第1カム42と第2カム44との相対回転位相が変更される。これにより、可動シーブ12が軸方向に移動して、無段変速機5の変速比が調整される。
【0035】
以下、第1〜第4,第8,第9実施形態により、機械式プーリ移動機構30の第1遊星歯車機構50及び動力伝達機構としての第2遊星歯車機構60の具体的な構成を説明する。
なお、第1〜第4,第8,第9実施形態では、第1遊星歯車機構50A〜50D,50H,50Iについて、サンギヤをSで、キャリアをCで、プラネタリギヤをPで、リングギヤをRでそれぞれ示し、第2遊星歯車機構60A〜60D,60H,60Iについて、サンギヤをSで、キャリアをCで、プラネタリギヤをPで、リングギヤをRでそれぞれ示すが、これらの各回転要素は、各実施形態の間で必ずしも同一規格のものである必要はなく、各実施形態の構成において要求される規格(例えば、ギヤの歯数や歯幅)のものとする。
また、各実施形態の構成を示す図(図3,6,8,10,12,14,16,18)においては、第2遊星歯車機構60と第1カム42との連結部分に介装されるスライド許容機構80を省略している(図示していない)。
【0036】
〔第1実施形態〕
図3に示すように、第1実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Aでは、第1遊星歯車機構50Aについては、キャリアCが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Aを介して第1カム42に連結されている。サンギヤSが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に連結されている。リングギヤRが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、リングギヤR1の外周に形成された外歯ギヤ71a及び電動モータ70の回転軸に固定されたギヤ71bが噛み合ってなるギヤ機構71を介して第1遊星歯車機構50Aと連結されている。
【0037】
第2遊星歯車機構60Aについては、キャリアCが第1遊星歯車機構50AのキャリアCに直結され、サンギヤSが第1カム42に連結され、リングギヤRが図示しない変速機ケーシングに固定されている。したがって、第1遊星歯車機構50AのキャリアCと第2遊星歯車機構60AのキャリアCとが、互いに一体に回転する一体回転要素となっている。
【0038】
また、本実施形態では、第1遊星歯車機構50A及び第2遊星歯車機構60Aの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されている。したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50Aの歯数比αと第2遊星歯車機構60Aの歯数比αとが同一になっている(α=α)。
【0039】
動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Aによる速度伝達比は、一体回転要素であるキャリアCの回転速度NC2と第1カム42の回転速度(即ち、サンギヤSの回転速度)との比NS2として規定される。第2遊星歯車機構60AはリングギヤRが固定状態なので、その共線図(速度線図)は図4に実線Lで示すようになる。
なお、図4及び後述する他の実施形態に係る図5図7図9図11図13図15, 図17, 図19では、縦軸を回転速度とし、図中、回転速度ゼロに対して上方向を正回転、回転速度ゼロに対して下方向を負方向と定義する。
【0040】
ここで、上記速度伝達比は、第2カム44と一体回転するサンギヤSの回転速度NS2と、一体回転要素である第2遊星歯車機構60AのキャリアCの回転速度NC2との比NS2/NC2として規定される。この比NS2/NC2は(1+α)/αと等しくなる。
【0041】
電動モータ70の回転速度をゼロに維持して第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60AのサンギヤSと等速で回転する。このときの第1遊星歯車機構50Aの共線図は第2遊星歯車機構60Aと同様に図4に実線Lで示すようになり、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは第2遊星歯車機構60AのサンギヤSと等速回転する。
【0042】
したがって、このときには、サンギヤSが連結された第2カム44は、サンギヤSが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、変速比は一定を維持する。
また、本実施形態では、キャリアCが一体回転要素であり、歯数比αと歯数比αとが同一(α=α)なので、上記のサンギヤSとキャリアCとの回転速度比である速度伝達比NS2/NC2は、変速比が一定を維持する固定変速比状態での、第2カム44と一体回転するサンギヤSの回転速度NS1と、一体回転要素である第1遊星歯車機構50AのキャリアCの回転速度NC1との比NS1/NC1〔=(1+α)/α〕と等しい値になる。
【0043】
これに対して、電動モータ70をキャリアC,Cと同方向(正方向)に回転させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Aの共線図は図4に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは第2遊星歯車機構60AのサンギヤSよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0044】
逆に、電動モータ70をキャリアC,Cの回転方向と逆方向(負方向)に回転させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Aの共線図は図4に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは第2遊星歯車機構60AのサンギヤSよりも高速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0045】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を回転速度ゼロから所定方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70の回転速度をゼロに維持する。
【0046】
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Aは、上記のように構成されており、第1カム42は可動シーブ12と直結されているため、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、これら2つの部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0047】
変速比の変更時には、電動モータ70を所定方向に回転させて第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転が発生するが、短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0048】
また、第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを電動モータ70に連結し、また、第2遊星歯車機構60AのリングギヤRを変速機ケーシングに固定しており、リングギヤR,Rは機構の外周にあって電動モータ70や変速機ケーシングアクセスし易いため、構造をシンプルに構成することができ、装置の軸方向及び径方向のサイズをコンパクトにする上で有利である。
【0049】
また、第1遊星歯車機構50A及び第2遊星歯車機構60Aの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているので、全体構成を簡素化することや電動モータ70の制御プログラムを簡素化することが可能である。
【0050】
また、回転軸10の外周に各遊星歯車機構50A,60Aの各ギヤを配置するため、レイアウト上、各サンギヤS,Sを比較的大径に(即ち、歯数Zsを比較的多く)、且つ、各リングギヤR,Rを比較的小径にでき(即ち、歯数Zsを比較的少なく)、換言すれば、歯数比α(=Zs/Zr)を1に近い大きさに設定することになるので、変速比変更のために電動モータ70に必要とするトルクを抑えることができる。
【0051】
〔第2実施形態〕
本実施形態では、図3に示す第1実施形態の構成に対して、第1遊星歯車機構50A及び第2遊星歯車機構60Aの各サンギヤS,S、各リングギヤR,Rのそれぞれが、異なる歯数に設定されている点のみが異なる。その他の点は第1実施形態の構成と同様のため、図3の構成および符号をつかって説明する。つまり、サンギヤS,Sの歯数Zs,ZsはZs<Zsに、リングギヤR,Rの歯数Zr,ZrはZr>Zrに、それぞれ設定されている。
【0052】
したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50の歯数比α(=Zs/Zr)と第2遊星歯車機構60Aの歯数比α(=Zs/Zr)とでは、異なる大きさ、即ち、歯数比αが歯数比αよりも小さくなっている(α<α)。
【0053】
本実施形態でも、動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Aによる速度伝達比は、第1カム42の回転速度(即ち、サンギヤSの回転速度NS2)と、一体回転要素であるキャリアCの回転速度NC2との比NS2/NC2として規定される。第2遊星歯車機構60AはリングギヤRが固定状態なので、その共線図は図5に実線Lで示すようになる。上記速度伝達比であるキャリアCの回転速度とサンギヤSの回転速度との比NS2/NC2は、(1+α)/αと等しくなる。
【0054】
一方、歯数比α,αはα<αなので、第1遊星歯車機構50AのリングギヤR1が図5の実線Lで示す直線上の黒丸の回転速度状態になるように電動モータ70を回転させることで、第2カム44と一体回転する第1遊星歯車機構50AのサンギヤSと、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60AのサンギヤSとを等速で回転させることができる。
【0055】
図5に黒丸で示す回転速度状態は、電動モータ70により、第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを両キャリアC,Cの回転と同方向(可動シーブ12の回転と同方向:正方向)で、かつゼロではない所定速度(歯数比α,αの比率に応じた大きさの一定速度)である。
【0056】
なお、歯数比α,αの大小関係が逆(即ち、α>α、なお、図5にはこの場合の歯数比αをα´で示す)、ならば、電動モータ70により、第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを両キャリアC,Cの回転と逆方向(負方向)に、図5に二重丸で示す回転速度で回転させればよい。つまり、第1遊星歯車機構50の歯数比αが第2遊星歯車機構60Aの歯数比αよりも大きい場合には、図5の実線Lの延長線上に二点鎖線で示すようにR1の位置がR1´の位置に共線図が変更されることになり、第2カム44と一体回転する第1遊星歯車機構50AのサンギヤSを、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60AのサンギヤSと等速で回転させるには、第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを両キャリアC,Cの回転と逆方向(負方向)に図5に二重丸で示す所定速度で回転させることになる。
【0057】
つまり、歯数比α<αの関係の場合には、リングギヤRは正方向に所定速度で回転しており、歯数比α>αの関係の場合には、リングギヤRは負方向に所定速度で回転している。
そして、各状態から電動モータ70の回転速度を増速して、各所定速度から正方向に速度を増速させると、第1遊星歯車機構50Aの共線図は図5に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは第2遊星歯車機構60AのサンギヤSよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。その後、無段変速機5が所望の変速比となったときに、電動モータ70の回転速度をリングギヤRが黒丸で示す所定回転速度になるようにする。
【0058】
逆に、歯数比α<αの関係の場合には、リングギヤRが正方向に回転し、歯数比α>αの関係の場合には、リングギヤRが負方向に回転している状態から、電動モータ70の回転速度を減速して、各所定速度から正方向に速度を増速させると、第1遊星歯車機構50Aの共線図は図5に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50AのサンギヤSは第2遊星歯車機構60AのサンギヤSよりも高速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。その後、無段変速機5が所望の変速比となったときに、電動モータ70の回転速度をリングギヤRが黒丸で示す所定回転速度になるようにする。
【0059】
したがって、無段変速機5の変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70の回転速度をサンンギヤS1、が等速回転する所定速度から所定方向に変更(増速又は減速)させ、変速比を固定する場合には、サンギヤS1、が等速回転するようにリングギヤRを所定速度で電動モータ70により回転させる。
【0060】
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Aは、上記のように、第1実施形態と同様に、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、2つの部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0061】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0062】
また、第1実施形態と同様に、第1遊星歯車機構50AのリングギヤRを電動モータ70に連結し、また、第2遊星歯車機構60AのリングギヤRを変速機ケーシングに固定しており、構造をシンプルに構成することができ、装置の軸方向及び径方向のサイズをコンパクトにする上で有利である。
【0063】
また、本実施形態では、遊星歯車機構50A,60Aの歯数比α,αが異なっており(α≠α)変速比を一定に保持する際には、サンギヤS1、が等速回転するリングギヤRの回転速度となるように電動モータ70を所定速度で回転させることで達成する。電動モータ70の一般的な特性(例えば、トルクと回転のモータ効率マップ)では、モータ回転ゼロで制御するには大きなトルクを要し、モータ効率が比較的低い領域で制御を行なうことになるが、電動モータ70を回転させながら制御するため、モータ効率の低い領域での制御を回避することができる。
【0064】
また、第1実施形態と同様に、レイアウト上コンパクトにするには歯数比αを1に近い大きさに設定することになるので、変速比変更のために電動モータ70に必要とするトルクを抑えることができる。
【0065】
〔第3実施形態〕
図6に示すように、第3実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Cは、第1遊星歯車機構50Cについては、サンギヤSが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Cを介して第1カム42に連結されている。リングギヤRが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に直結されている。キャリアCが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、キャリアCの外周に形成されキャリアCと一体回転するギヤ73a及び電動モータ70の回転軸に固定されたギヤ73bが噛み合ってなるギヤ機構73を介して第1遊星歯車機構50Cと連結されている。
【0066】
また、第2遊星歯車機構60Cについては、サンギヤSが第1遊星歯車機構50CのサンギヤSに直結され、リングギヤRが第1カム42に連結され、キャリアCが図示しない変速機ケーシングに固定されている。したがって、第1遊星歯車機構50CのサンギヤSと第2遊星歯車機構60CのサンギヤSとが、互いに一体に回転する一体回転要素となっている。
【0067】
また、本実施形態では、第1遊星歯車機構50C及び第2遊星歯車機構60Cの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されている。したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50Cの歯数比αと第2遊星歯車機構60Cの歯数比αとが同一になっている(α=α)。
【0068】
動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Cによる速度伝達比は、第1カム42の回転速度(即ち、リングギヤRの回転速度NR2)と、一体回転要素であるサンギヤSの回転速度NS2との比NR2/NS2として規定される。第2遊星歯車機構60CはキャリアCが固定状態なので、その共線図は図7に実線Lで示すようになる。上記速度伝達比である、サンギヤSの回転速度とリングギヤRの回転速度との比NR2/NS2は、−αと等しくなる。
【0069】
一方、電動モータ70の回転速度をゼロに維持して第1遊星歯車機構50CのキャリアCを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50CのリングギヤRは、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60CのリングギヤRと等速で回転する。このときの第1遊星歯車機構50Cの共線図は第2遊星歯車機構60Cと同様に図7に実線Lで示すようになり、第1遊星歯車機構50CのリングギヤRは第2遊星歯車機構60CのリングギヤRと等速回転する。
【0070】
したがって、このときには、リングギヤRが連結された第2カム44はリングギヤRが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
また、本実施形態では、サンギヤSが一体回転要素であり、歯数比αと歯数比αとが同一(α=α)なので、上記のリングギヤRとサンギヤSとの回転速度比である速度伝達比NR2/NS2は、変速比は一定を維持する固定変速比状態での、第2カム44と一体回転するリングギヤRの回転速度と、一体回転要素である第1遊星歯車機構50CのサンギヤSの回転速度との比NR1/NS1(=−α)と等しい値になる。
【0071】
これに対して、電動モータ70をリングギヤR,Rと同方向(正方向)に回転させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Cの共線図は図7に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50CのリングギヤRは第2遊星歯車機構60CのリングギヤRよりも高速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0072】
逆に、電動モータ70をリングギヤR,Rと逆方向(負方向)に回転させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Cの共線図は図7に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50CのリングギヤRは第2遊星歯車機構60CのリングギヤRよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0073】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を正方向、あるいは負方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70を停止させる。
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Cは、上記のように、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、この2つの部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0074】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0075】
また、第1実施形態と同様に、第1遊星歯車機構50C及び第2遊星歯車機構60Cの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているので、全体構成を簡素化することや電動モータ70の制御プログラムを簡素化することが可能である。
【0076】
さらに、第1カム42及び第2カム44のカムトルクが、第1遊星歯車機構50C及び第2遊星歯車機構60Cの各リングギヤR,Rから入力するので、第1遊星歯車機構50C及び第2遊星歯車機構60Cのトルク負荷は小さくなり、各遊星歯車機構50C,60Cのギヤ幅を小さくすることができる効果もある。
【0077】
〔第4実施形態〕
図8に示すように、第4実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Dは、第1遊星歯車機構50Dについては、リングギヤRが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Dを介して第1カム42に連結されている。サンギヤSが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に直結されている。キャリアCが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、の外周に形成されキャリアCと一体回転するギヤ74a及び電動モータ70の回転軸に固定された74bが噛み合ってなるギヤ機構74を介して第1遊星歯車機構50Dと連結されている。
【0078】
また、第2遊星歯車機構60Dについては、リングギヤRが第1遊星歯車機構50DのリングギヤRに直結され、サンギヤSが第1カム42に連結され、キャリアCが図示しない変速機ケーシングに固定されている。したがって、第1遊星歯車機構50DのリングギヤRと第2遊星歯車機構60DのリングギヤRとが、互いに一体に回転する一体回転要素となっている。
【0079】
また、本実施形態では、第1遊星歯車機構50D及び第2遊星歯車機構60Dの各サンギヤS,S、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されている。したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの
歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50Dの歯数比αと第2遊星歯車機構60Dの歯数比αとが同一になっている(α=α)。
【0080】
動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Dによる速度伝達比は、第1カム42の回転速度(即ち、サンギヤSの回転速度NS2)と、一体回転要素であるリングギヤRの回転速度NR2との比NS2/NR2として規定される。第2遊星歯車機構60DはキャリアCが固定状態なので、その共線図は図9に実線Lで示すようになる。上記速度伝達比である、リングギヤRの回転速度とサンギヤSの回転速度との比NS2/NR2は、−1/αと等しくなる。
【0081】
一方、電動モータ70の回転を停止させて第1遊星歯車機構50DのキャリアCを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50DのサンギヤSは、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60DのサンギヤSと等速で回転する。このときの第1遊星歯車機構50Dの共線図は第2遊星歯車機構60Dと同様に図9に実線Lで示すようになり、第1遊星歯車機構50DのサンギヤSは第2遊星歯車機構60DのサンギヤSと等速回転する。
【0082】
したがって、このときには、サンギヤSが連結された第2カム44はサンギヤSが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
また、本実施形態では、サンギヤSが一体回転要素であり、歯数比αと歯数比αとが同一(α=α)なので、上記のサンギヤSとリングギヤRとの回転速度比である速度伝達比NS2/NR2は、二組の遊星歯車の歯数比がα=αと等しいことから、変速比は一定を維持する固定変速比状態での、第2カム44と一体回転するサンギヤSの回転速度NS1と、一体回転要素である第1遊星歯車機構50DのリングギヤRの回転速度NR1との速度伝達比NS1/NR1(=−1/α)と等しい値になる。
【0083】
これに対して、電動モータ70をサンギヤS,Sと同方向(正方向)に回転させてキャリアCの回転速度を増加させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Dの共線図は図9に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50DのサンギヤSは第2遊星歯車機構60DのサンギヤSよりも高速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0084】
逆に、電動モータ70をサンギヤS,Sと逆方向(負方向)に回転させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Dの共線図は図9に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50DのサンギヤSは第2遊星歯車機構60DのサンギヤSよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0085】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を所定方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70の回転速度をゼロにする。
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Dは、上記のように、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、これらの2部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0086】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0087】
また、第1実施形態と同様に、第1遊星歯車機構50D及び第2遊星歯車機構60Dの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているので、全体構成を簡素化することや電動モータ70の制御プログラムを簡素化することが可能である。
【0088】
〔第5実施形態〕
図10に示すように、第5実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Eは、第1遊星歯車機構50Eについては、キャリアCが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である動力伝達機構60Eを介して第1カム42に連結されている。サンギヤSが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に直結されている。リングギヤRが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、リングギヤRの外周に形成されリングギヤRと一体回転するギヤ75a及び電動モータ70の回転軸に固定されたギヤ75bが噛み合ってなるギヤ機構75を介して第1遊星歯車機構50Eと連結されている。
【0089】
また、動力伝達機構60Eについては、平行ギヤ機構により構成されている。
この平行ギヤ機構は、カウンタ軸61と、第1外歯ギヤ61aと第1カウンタギヤ61bとが噛合してなる第1ギヤ機構と、第2外歯ギヤ61dと第2カウンタギヤ61cとが噛合してなる第2ギヤ機構と、から構成されている。
【0090】
つまり、可動シーブ12の回転軸線と平行にカウンタ軸61が設置され、このカウンタ軸61には第1カウンタギヤ61b及び第2カウンタギヤ61cが一体回転するように結合されている。第1カム42には、第1外歯ギヤ61aが一体回転するように結合され、この第1外歯ギヤ61aと第1カウンタギヤ61bとが噛合して第1ギヤ機構を構成している。また、第1遊星歯車機構50EのキャリアCには、第2外歯ギヤ61dが一体回転するように結合され、この第2外歯ギヤ61dと第2カウンタギヤ61cとが噛合して第2ギヤ機構を構成している。
【0091】
動力伝達機構である平行ギヤ機構60Eは、アクチュエータである電動モータ70により第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定されている。即ち、第1カム42の回転速度(Nカム1)は、第1遊星歯車機構50の第1回転要素であるキャリアCの回転速度(Nc1)に対して、動力伝達機構60Eの速度伝達比(Nカム1/Nc1)に応じた回転速度で回転する。
【0092】
平行ギヤ機構60Eにおいて、第1外歯ギヤ61aの歯数をZ、第1カウンタギヤ61bの歯数をZ、第2カウンタギヤ61cの歯数をZ、第2外歯ギヤ61の歯数をZとすると、動力伝達機構である平行ギヤ機構60Eによる速度伝達比は、第1外歯ギヤ61aの回転速度Nと第2外歯ギヤ61dの回転速度Nとの比(N/N)となり、各ギヤ61a〜61dの歯数Z〜Zで決まる。
速度伝達比=N/N=(N/N)・(N/N
=(Z/Z)・(Z/Z)=(Z・Z)/(Z・Z
【0093】
ここで、電動モータ70を停止させたときに変速比が固定されるものとすると、第1遊星歯車機構50Eの共線図は図11に実線Lで示すようになる。図11において、αは第1遊星歯車機構50Eの歯数比である。
第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように、平行ギヤ機構60Eの速度伝達比N/Nを設定すると、図11に示すように、速度伝達比N/Nは、(1+α)/αと等しくなる。
【0094】
電動モータ70の回転を停止させて第1遊星歯車機構50EのリングギヤRを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50Eでは、第2カム44と一体回転するサンギヤSは、キャリアCに対して(1+α)/α倍の速度で回転する。このとき、第1カム42と一体回転する第1外歯ギヤ61aも、キャリアCと一体回転する第2外歯ギヤ61dに対して(1+α)/α倍の速度で回転する。
【0095】
したがって、このときには、サンギヤSが連結された第2カム44はキャリアCが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
【0096】
これに対して、電動モータ70をリングギヤRがキャリアCやサンギヤSと同方向(正方向)に回転するように作動させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Eの共線図は図11に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50EのサンギヤS(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の作動前よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0097】
逆に、電動モータ70をリングギヤRがキャリアCやサンギヤSと逆方向(負方向)に回転するように作動させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Eの共線図は図11に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50EのサンギヤS(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の作動前よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0098】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を所定方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70の回転速度をゼロにする。
【0099】
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Eは、上記のように、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、これらの2部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0100】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0101】
〔第6実施形態〕
図12に示すように、第6実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Fは、第1遊星歯車機構51については、プライマリプーリ6(可動シーブ12)の回転軸線と離隔しこの回転軸線と平行な別の回転軸線上に配置されている。
この第1遊星歯車機構51において、サンギヤSがアクチュエータとしての電動モータ70の回転軸に結合され、リングギヤRが第2カム44に連結され、キャリアCが動力伝達機構60Fに駆動連結されている。
【0102】
キャリアCが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である動力伝達機構60Fを介して第1カム42に連結されている。リングギヤRが、上記第2回転要素に相当し、リングギヤRの外側に形成された外歯ギヤ(ギヤRともいう)51aと、第2カム44の外側に形成された外歯ギヤ(ギヤAともいう)51bとが噛合している。サンギヤSが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70の回転軸に結合されている。
【0103】
また、動力伝達機構60Fについては、平行ギヤ機構により構成されている。この平行ギヤ機構は、第1カム42に結合される外歯ギヤ(ギヤBともいう)62aと、キャリアCに結合され外歯ギヤ62aと噛合する外歯ギヤ(ギヤCともいう)62bと、から構成されている。
【0104】
動力伝達機構である平行ギヤ機構60Fは、アクチュエータである電動モータ70により第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定されている。即ち、第1カム42の回転速度(Nカム1)は、第1遊星歯車機構51の第1回転要素であるキャリアCの回転速度(Nc3)に対して、動力伝達機構60Fの速度伝達比(Nカム1/Nc3)に応じた回転速度で回転する。
【0105】
平行ギヤ機構60Fにおいて、第1カム42に結合された外歯ギヤ62aの歯数をZ、キャリアCに結合された外歯ギヤ62bの歯数をZとすると、動力伝達機構である平行ギヤ機構60Fによる速度伝達比は、外歯ギヤ62aの回転速度(第1カム42の回転速度)Nと外歯ギヤ62bの回転速度(キャリアCの回転速度)Nとの比(N/N)となり、各ギヤ62a,62bの歯数Z,Zで決まる。
速度伝達比=N/N=Z/Z
【0106】
ここで、電動モータ70を停止させたときに変速比が固定されるものとすると、第1遊星歯車機構51の共線図は図13に実線Lで示すようになる。図13において、αは第1遊星歯車機構51の歯数比である。図13に示すように、リングギヤRの回転速度とキャリアCの回転速度との比は1+αとなる。
【0107】
さらに、キャリアCの回転速度〔外歯ギヤ(ギヤA)51bの回転速度〕NとリングギヤRの回転速度〔外歯ギヤ(ギヤR)51aの回転速度〕Nとの回転速度比(N/NROUT)は各ギヤ62a,62bの歯数Z,Zで決まり、以下のようになる。
/N=Z/Z
【0108】
ここで、回転速度比(N/N)を考慮して、第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように設定するには、次式の関係を満たすように、平行ギヤ機構60Fの速度伝達比(各ギヤ62a,62bの歯数Z,Zの比)を設定すればよい。
/N=Z/Z=(1+α)・(N/N)=(1+α)・(Z/Z
なお、図13の共線図には、理解を容易にするために、Z/Z=1としている。
【0109】
平行ギヤ機構60Fの速度伝達比をこのように設定することにより、電動モータ70の回転を停止させて第1遊星歯車機構51のサンギヤSを固定状態にすれば、第2カム44は第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
【0110】
これに対して、電動モータ70をサンギヤSがキャリアCやリングギヤRと同方向(正方向)に回転するように作動させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Fの共線図は図13に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50FのリングギヤR(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の回転作動前よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0111】
逆に、電動モータ70をサンギヤSがキャリアCやリングギヤRと逆方向(負方向)に回転するように作動させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Fの共線図は図13に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50FのリングギヤR(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の回転作動前よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0112】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を所定方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70の回転速度をゼロにする。
【0113】
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Fは、上記のように、第1実施形態と同様に第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、これらの2部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0114】
第1実施形態と同様に変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0115】
〔第7実施形態〕
図14に示すように、第7実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Gは、第6実施形態と同様に、第1遊星歯車機構51については、プライマリプーリ6(可動シーブ12)の回転軸線と離隔しこの回転軸線と平行な別の回転軸線上に配置され、第6実施形態のものと同様に構成されている。
つまり、第1遊星歯車機構51において、サンギヤSがアクチュエータとしての電動モータ70の回転軸に結合され、リングギヤRが第2カム44に連結され、キャリアCが動力伝達機構60Gに駆動連結されている。
【0116】
キャリアCが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である動力伝達機構60Gを介して第1カム42に連結されている。リングギヤRが、上記第2回転要素に相当し、リングギヤRの外側に形成された外歯ギヤ(ギヤR1ともいう)51aと、第2カム44の外側に形成された外歯ギヤ(ギヤAともいう)51bとが噛合している。サンギヤSが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70の回転軸に結合されている。
【0117】
一方、動力伝達機構60Gには、遊星歯車機構(第2遊星歯車機構)63が用いられている。この第2遊星歯車機構63は、プライマリプーリ6(可動シーブ12)の回転軸線と離隔しこの回転軸線と平行な第1遊星歯車機構51の回転軸線と同軸上に配置され、第1遊星歯車機構51と同様な回転要素により構成されている。
【0118】
つまり、第2遊星歯車機構63は、第1遊星歯車機構51のサンギヤSと同軸上に配置されたサンギヤSと、第1遊星歯車機構51のキャリアCと同軸上に配置されたキャリアCと、第1遊星歯車機構51のリングギヤRと同軸上に配置されたリングギヤRと、を備え、キャリアCには、第1遊星歯車機構51のプラネタリギヤPと同様にプラネタリギヤPが装備されている。
【0119】
本実施形態では、第2遊星歯車機構63のサンギヤS,リングギヤR,プラネタリギヤPはそれぞれ、第1遊星歯車機構51の対応するサンギヤS,リングギヤR,プラネタリギヤPと同一に歯数に構成されている。そして、第2遊星歯車機構63のキャリアCと第1遊星歯車機構51のキャリアCとが一体回転するように結合されている。そして、リングギヤRの外側に形成された外歯ギヤ(ギヤR2ともいう)63bと、第1カム42の外側に形成された外歯ギヤ(ギヤBともいう)63aとが噛合している。
【0120】
動力伝達機構60Gは、アクチュエータである電動モータ70により第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように速度伝達比が設定されている。
【0121】
第2カム44の回転速度(Nカム2)は、第1遊星歯車機構51の第1回転要素であるキャリアCの回転速度(Nc3)に対して、第1遊星歯車機構51の速度伝達比(Nカム2/Nc3)に応じた回転速度で回転する。
一方、第1カム42の回転速度(Nカム1)は、第1遊星歯車機構51の第1回転要素であるキャリアCの回転速度(Nc3)に対して、動力伝達機構60Gの速度伝達比(Nカム1/Nc3)に応じた回転速度で回転する。
【0122】
ここで、第2カム44に結合された外歯ギヤ(ギヤA)62aの歯数をZ、リングギヤRの外側に形成された外歯ギヤ(ギヤR1)51aの歯数をZR1、リングギヤRの外側に形成された外歯ギヤ(ギヤR2)63bの歯数をZR2、第1カム42に結合された外歯ギヤ(ギヤB)62aの歯数をZとし、第1遊星歯車機構51の歯数比(=Zs/Zr)をα、第2遊星歯車機構63の歯数比(=Zs/Zr)をαとすると、第1カム42に関する動力伝達機構60Gの速度伝達比(Nカム1/Nc3)、及び、第2カム44に関するは第1遊星歯車機構51の速度伝達比(Nカム2/Nc3)は、以下のようになる。
(Nカム1/Nc3)=(1+α)・(ZR2/Z
(Nカム2/Nc3)=(1+α)・(ZR1/Z
【0123】
第1カム42,第2カム44の相対回転位相を一定とする変速比固定時に、第1カム42,第2カム44が同方向に等速回転するように動力伝達機構60Gの速度伝達比(Nカム1/Nc3)を設定するには、次式に示すように、速度伝達比(Nカム1/Nc3)と速度伝達比(Nカム2/Nc3)とが等しくなるように設定すればよい。
(1+α)・(ZR2/Z)=(1+α)・(ZR1/Z
【0124】
なお、本実施形態では、第1遊星歯車機構51,第2遊星歯車機構63の共線図は図15に実線Lで示すようになる。図15において、αは第1遊星歯車機構51の歯数比であり、αは第2遊星歯車機構63の歯数比である。図15に示すように、リングギヤR,Rの回転速度とキャリアC,Cの回転速度との比は1+α,1+αとなる。
このように、本実施形態では、第1遊星歯車機構51の歯数比αと第2遊星歯車機構63の歯数比αとが等しく設定されているので、以下の関係を満たせばよい。
R2/Z=ZR1/Z
【0125】
動力伝達機構60Gの速度伝達比をこのように設定することにより、電動モータ70の回転を停止させて第1遊星歯車機構51のサンギヤRを固定状態にすれば、第2カム44は第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
【0126】
これに対して、電動モータ70をサンギヤSがキャリアCやリングギヤRと同方向(正方向)に回転するように作動させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Fの共線図は図15に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50FのリングギヤR(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の回転作動前よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0127】
逆に、電動モータ70をサンギヤSがキャリアCやリングギヤRと逆方向(負方向)に回転するように作動させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Fの共線図は図15に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50FのリングギヤR(即ち、第2カム44)は、電動モータ70の回転作動前よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。
【0128】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を所定方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70の回転速度をゼロにする。
【0129】
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Gは、上記のように、第1実施形態と同様に第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、これらの2部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0130】
第1実施形態と同様に変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0131】
〔第8実施形態〕
図16に示すように、第8実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Hは、第1遊星歯車機構50Hについては、サンギヤSが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Hを介して第1カム42に連結されている。キャリアCが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に直結されている。リングギヤRが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、リングギヤRの外周に形成されリングギヤRと一体回転するギヤ76a及び電動モータ70の回転軸に固定されたギヤ76bが噛み合ってなるギヤ機構76を介して第1遊星歯車機構50Hと連結されている。
【0132】
また、第2遊星歯車機構60Hについては、サンギヤSが第1遊星歯車機構50HのサンギヤSに直結され、キャリアCが第1カム42に連結され、リングギヤRが図示しない変速機ケーシングに固定されている。したがって、第1遊星歯車機構50HのサンギヤSと第2遊星歯車機構60HのサンギヤSとが、互いに一体に回転する一体回転要素となっている。
【0133】
また、本実施形態では、第1遊星歯車機構50H及び第2遊星歯車機構60Hの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されている。したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50Hの歯数比αと第2遊星歯車機構60Hの歯数比αとが同一になっている(α=α)。
【0134】
動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Hによる速度伝達比は、第1カム42の回転速度(即ち、キャリアCの回転速度NC2)と、一体回転要素であるサンギヤSの回転速度NS2との比NC2/NS2として規定される。第2遊星歯車機構60HはリングギヤRが固定状態なので、その共線図は図17に実線Lで示すようになる。上記速度伝達比である、サンギヤSの回転速度とキャリアCの回転速度との比NC2/NS2は、α/(1+α)と等しくなる。
【0135】
一方、電動モータ70の回転速度をゼロに維持して第1遊星歯車機構50HのリングギヤRを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50HのキャリアCは、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60HのキャリアCと等速で回転する。このときの第1遊星歯車機構50Hの共線図は第2遊星歯車機構60Hと同様に図17に実線Lで示すようになり、第1遊星歯車機構50HのキャリアCは第2遊星歯車機構60HのキャリアCと等速回転する。
【0136】
したがって、このときには、キャリアCが連結された第2カム44はキャリアCが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
また、本実施形態では、サンギヤSが一体回転要素であり、歯数比αと歯数比αとが同一(α=α)なので、上記のリングギヤRとサンギヤSとの回転速度比である速度伝達比NR2/NS2は、変速比は一定を維持する固定変速比状態での、第2カム44と一体回転するキャリアCの回転速度と、一体回転要素である第1遊星歯車機構50HのサンギヤSの回転速度との比NC1/NS1(=α/(1+α))と等しい値になる。
【0137】
これに対して、電動モータ70をリングギヤR,Rと同方向(正方向)に回転させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Hの共線図は図17に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50HのリングギヤRは第2遊星歯車機構60HのリングギヤRよりも高速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0138】
逆に、電動モータ70をリングギヤR,Rと逆方向(負方向)に回転させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Hの共線図は図17に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50HのリングギヤRは第2遊星歯車機構60HのリングギヤRよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0139】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を正方向、あるいは負方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70を停止させる。
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Hは、上記のように、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、この2つの部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0140】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0141】
また、第1実施形態と同様に、第1遊星歯車機構50H及び第2遊星歯車機構60Hの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているので、全体構成を簡素化することや電動モータ70の制御プログラムを簡素化することが可能である。
【0142】
また、第1遊星歯車機構50HのリングギヤRを電動モータ70に連結し、また、第2遊星歯車機構60HのリングギヤRを変速機ケーシングに固定しており、リングギヤR,Rは機構の外周にあって電動モータ70や変速機ケーシングにアクセスし易いため、構造をシンプルに構成することができ、装置の軸方向及び径方向のサイズをコンパクトにする上で有利である。
【0143】
〔第9実施形態〕
図18に示すように、第9実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Iは、第1遊星歯車機構50Iについては、リングギヤRが、上記第1回転要素に相当し、動力伝達機構である第2
遊星歯車機構60Iを介して第1カム42に連結されている。キャリアCが、上記第2回転要素に相当し、第2カム44に直結されている。サンギヤSが、上記第3回転要素に相当し、アクチュエータである電動モータ70は、サンギヤSの外周に形成されサンギヤSと一体回転するギヤ77a及び電動モータ70の回転軸に固定されたギヤ77bが噛み合ってなるギヤ機構77を介して第1遊星歯車機構50Iと連結されている。
【0144】
また、第2遊星歯車機構60Iについては、リングギヤRが第1遊星歯車機構50IのリングギヤRに直結され、キャリアCが第1カム42に連結され、サンギヤSが図示しない変速機ケーシングに固定されている。したがって、第1遊星歯車機構50IのリングギヤRと第2遊星歯車機構60IのリングギヤRとが、互いに一体に回転する一体回転要素となっている。
【0145】
また、本実施形態では、第1遊星歯車機構50I及び第2遊星歯車機構60Iの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されている。したがって、サンギヤの歯数Zsとリングギヤの歯数Zrとの歯数比α(=Zs/Zr)については、第1遊星歯車機構50Iの歯数比αと第2遊星歯車機構60Iの歯数比αとが同一になっている(α=α)。
【0146】
動力伝達機構である第2遊星歯車機構60Iによる速度伝達比は、第1カム42の回転速度(即ち、キャリアCの回転速度NC2)と、一体回転要素であるリングギヤRの回転速度NR2との比NC2/NR2として規定される。第2遊星歯車機構60IはサンギヤSが固定状態なので、その共線図は図19に実線Lで示すようになる。上記速度伝達比である、リングギヤRの回転速度とキャリアCの回転速度との比NC2/NR2は、1/(1+α)と等しくなる。
【0147】
一方、電動モータ70の回転速度をゼロに維持して第1遊星歯車機構50IのサンギヤSを固定状態にすれば、第1遊星歯車機構50IのキャリアCは、第1カム42と一体回転する第2遊星歯車機構60IのキャリアCと等速で回転する。このときの第1遊星歯車機構50Iの共線図は第2遊星歯車機構60Iと同様に図19に実線Lで示すようになり、第1遊星歯車機構50IのキャリアCは第2遊星歯車機構60IのキャリアCと等速回転する。
【0148】
したがって、このときには、キャリアCが連結された第2カム44はキャリアCが連結された第1カム42と相対回転しないで、一定の回転位相を保持する。つまり、トルクカム機構40の全長は変更されず、無段変速機5の変速比は一定を維持する。
また、本実施形態では、サンギヤSが一体回転要素であり、歯数比αと歯数比αとが同一(α=α)なので、上記のリングギヤRとサンギヤSとの回転速度比である速度伝達比NR2/NS2は、変速比は一定を維持する固定変速比状態での、第2カム44と一体回転するキャリアCの回転速度と、一体回転要素である第1遊星歯車機構50IのリングギヤRの回転速度との比NC1/NR1(=1/(1+α))と等しい値になる。
【0149】
これに対して、電動モータ70をサンギヤS,Sと同方向(正方向)に回転させると(変速aの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Iの共線図は図19に破線Laで示すようになり、第1遊星歯車機構50IのサンギヤSは第2遊星歯車機構60IのサンギヤSよりも高速になる。即ち、キャリアCが連結された第2カム44は第1カム42よりも高速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0150】
逆に、電動モータ70をサンギヤS,S22と逆方向(負方向)に回転させると(変速bの矢印を参照)、第1遊星歯車機構50Iの共線図は図19に破線Lbで示すようになり、第1遊星歯車機構50IのサンギヤSは第2遊星歯車機構60IのサンギヤSよりも低速になる。即ち、第2カム44は第1カム42よりも低速になって、第2カム44は第1カム42と相対回転して、相対回転位相が変更される。これにより、トルクカム機構40の全長が変更され、変速比が変更される。そして、無段変速機5が所望の変速比となったところで、電動モータ70の回転速度をゼロに戻す。
【0151】
したがって、変速比を変更する(即ち、変速を行なう)場合には、電動モータ70を正方向、あるいは負方向に回転させ、変速比を固定する場合には、電動モータ70を停止させる。
本実施形態に係る機械式プーリ移動機構30Iは、上記のように、第1カム42は可動シーブ12と直結されており、第1カム42とプーリ6との間には回転によるフリクションは発生しない。また、変速比固定時には、第1カム42と第2カム44とは同方向に等速回転し相対回転しないので、この2つの部材間で回転によるフリクションは発生しない。このため、動力伝達ロスの発生が抑制される。
【0152】
変速比の変更時には、電動モータ70の回転速度を変更して第2カム44を第1カム42(したがって、プーリ6)に対して相対回転させて、第1カム42と第2カム44との相対回転位相を変更する。このとき、スラスト軸受46には、第2カム44が第1カム42を介してその他端側(図中右方)に向けて受けるベルト26の推力が加わり、相対回転によるフリクションが発生するが、第1実施形態と同様に、変速は短時間であり、しかもこの相対回転の速度は低いため、相対回転によるフリクションは発生するものの僅かなものに抑えられる。
【0153】
また、第1実施形態と同様に、第1遊星歯車機構50I及び第2遊星歯車機構60Iの各サンギヤS,S、各プラネタリギヤP,P、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているので、全体構成を簡素化することや電動モータ70の制御プログラムを簡素化することが可能である。
【0154】
さらに、電動モータ70に連結するサンギヤSのトルク(サンギヤトルク)TS1は、1+α第2カム44と連結するキャリアCのトルク(キャリアトルク)をTC1とすると、歯数比αを用いて、TS1=〔α/(1+α)〕TC1となり、サンギヤトルク)TS1は、歯数比αによらず常にキャリアトルクTC1よりも小さくなる。したがって、電動モータ70がサンギヤSから入力するトルク(=サンギヤトルクTS1)を歯数比αによらず小さくすることができる。
【0155】
〔その他〕
上記の第3,4,8,9実施形態では、第1遊星歯車機構50C,50D,50H,50I及び第2遊星歯車機構60C,60D,60H,60Iの各サンギヤS,S、各リングギヤR,Rが、互いに同歯数に設定されているが、第2実施形態のように、第1遊星歯車機構50A及び第2遊星歯車機構60Aの各サンギヤS,S、各リングギヤR,Rのそれぞれが、異なる歯数に設定されていてもよい。
この場合、第2実施形態と同様に、変速比固定時にも、電動モータ70を回転させながら制御するため、モータ効率の低い領域での制御を回避することができる。
【0156】
上記の第5〜7実施形態では、アクチュエータである電動モータ70を回転速度ゼロの回転停止状態にすることで変速比が一定になるように設定しているが、第2実施形態と同様に、変速比固定時にも、電動モータ70を回転させながら制御するように構成してもよく、この場合、モータ効率の低い領域での制御を回避することができる。
【0157】
上記の各実施形態では、構造上の成立容易性から、第1遊星歯車機構と第2遊星歯車機構とで互いに一体に回転する一体回転要素を、キャリア又はサンギヤにしているが、一体回転要素をリングギヤにしてもよい。
さらに、上記の各実施形態では、プライマリプーリ6に機械式プーリ移動機構を装備しているが、セカンダリプーリ14に機械式プーリ移動機構を装備してもよい。さらには、プライマリプーリ6とセカンダリプーリ14との両プーリに機械式プーリ移動機構を設けることもできる。
【符号の説明】
【0158】
2 駆動源
5 無段変速機
6 プライマリプーリ
8 プライマリプーリ6の固定シーブ
10 プライマリプーリ6の回転軸
12 プライマリプーリ6の可動シーブ
14 セカンダリプーリ
16 セカンダリプーリ14の固定シーブ
18 セカンダリプーリ14の駆動軸
20 セカンダリプーリ14の可動シーブ
22 推力調整機構を構成するスプリング
24 推力調整機構を構成するカム機構
26 ベルト(無端帯状部材)
30,30A〜30I 機械式プーリ移動機構
40 トルクカム機構
50,50A〜50E,50H,50I,51 第1遊星歯車機構
60,60A〜60D,60H,60I 動力伝達機構としての第2遊星歯車機構
60E〜60G 動力伝達機構
63 第2遊星歯車機構
70 アクチュエータとしての電動モータ
80 スライド許容機構
〜S サンギヤ
〜C キャリア
〜R リングギヤ
〜P プラネタリギヤ
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