(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690187
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤの加硫方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/04 20060101AFI20200421BHJP
B29C 35/04 20060101ALI20200421BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20200421BHJP
【FI】
B29C33/04
B29C35/04
B29L30:00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-213203(P2015-213203)
(22)【出願日】2015年10月29日
(65)【公開番号】特開2017-81042(P2017-81042A)
(43)【公開日】2017年5月18日
【審査請求日】2018年10月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 有二
【審査官】
山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平05−104540(JP,A)
【文献】
特開平09−314565(JP,A)
【文献】
特開2005−022399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00−33/76
B29C 35/02−35/06
B29D 30/06−30/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加硫ブラダをグリーンタイヤに挿入して、前記加硫ブラダの内部に加熱媒体を注入し、次いで標準状態で前記加熱媒体よりも比重の大きい加圧媒体を注入することにより、前記加硫ブラダを所定の内圧にして膨張させた状態でタイヤモールドの中で前記グリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、
前記加硫ブラダの内部に注入する際の前記加圧媒体の注入温度を、100℃以下、かつ、前記所定の内圧にして膨張させた状態の前記加硫ブラダの内部での前記加圧媒体の分圧における前記加圧媒体の密度が、前記加熱媒体の分圧における前記加熱媒体の密度以下になる温度に設定することを特徴とする空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項2】
前記注入温度よりも低温の前記加圧媒体を、前記加硫ブラダの内部に注入する前に、加熱器により直接加熱して加温する請求項1に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【請求項3】
前記注入温度よりも低温の前記加圧媒体を、前記加硫ブラダの内部に注入する前に、断熱体積調整器により断熱圧縮して加温する請求項1に記載の空気入りタイヤの加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気入りタイヤの加硫方法に関し、さらに詳しくは、使用するエネルギの浪費を抑えつつ、加硫ブラダの上下温度差を効果的に小さくすることができる空気入りタイヤの加硫方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤモールド内部に設置されたグリーンタイヤに加硫ブラダを挿入し、この加硫ブラダにスチーム(加熱媒体)および窒素ガス(加圧媒体)を注入してグリーンタイヤを加硫する方法が知られている。このようにスチームと窒素ガスとを用いる加硫方法では、スチームに比して窒素ガスの比重が大きいため、膨張した加硫ブラダの中では、上方にスチームが圧縮された状態で存在し、その下方に窒素ガスが存在した状態になる。そのため、加硫中の加硫ブラダでは、上側の温度が下側に比して高くなって上下温度差が生じる。これに起因して加硫されたタイヤでは、加硫した際の上下方向で加硫程度のばらつきが大きくなるという問題がある。
【0003】
このような問題を解決するため、種々の加硫方法が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。特許文献1で提案されている加硫方法では、加硫ブラダ内部にスチーム(198℃)を注入した後、スチームとの温度差を小さくするため、加圧媒体として例えば160℃に加熱した窒素ガスを注入する。特許文献2で提案されている加硫方法では、加硫ブラダ内部にスチームを注入した後、スチームとの密度差を小さくするため、加圧媒体として例えば300〜500℃に加熱した窒素ガスを注入する。
【0004】
特許文献1、2に提案の加硫方法によれば、100℃よりも相当に高温にした窒素ガスが必要になるため、使用するエネルギが増大する。一方で、実際には加硫ブラダが過度に加熱されることになり、エネルギに無駄が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許平9−19931号公報
【特許文献2】特開平5−104540号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、使用するエネルギの浪費を抑えつつ、加硫ブラダの上下温度差を効果的に小さくすることができる空気入りタイヤの加硫方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明の空気入りタイヤの加硫方法は、筒状の加硫ブラダをグリーンタイヤに挿入して、前記加硫ブラダの内部に加熱媒体を注入し、次いで標準状態で前記加熱媒体よりも比重の大きい加圧媒体を注入することにより、前記加硫ブラダを所定の内圧にして膨張させた状態でタイヤモールドの中で前記グリーンタイヤを加硫する空気入りタイヤの加硫方法において、前記加硫ブラダの内部に注入する際の前記加圧媒体の注入温度を、100℃以下、かつ、前記所定の内圧にして膨張させた状態の前記加硫ブラダの内部での前記加圧媒体の分圧における前記加圧媒体の密度が、前記加熱媒体の分圧における前記加熱媒体の密度以下になる温度に設定することを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記加硫ブラダの内部に注入する際の前記加圧媒体の注入温度を、100℃以下にするので、加圧媒体の加熱に要するエネルギを抑制できる。さらに、前記所定の内圧にして膨張させた状態の前記加硫ブラダの内部での前記加圧媒体の分圧における前記加圧媒体の密度が、前記加熱媒体の分圧における前記加熱媒体の密度以下になる温度に設定することで、グリーンタイヤを加硫している加硫ブラダの内部では、加熱媒体が上方に偏在することなく、加圧媒体と加熱媒体とが適度混在した状態になる。これにより、使用するエネルギの浪費を抑えつつ、加硫ブラダの上下温度差を効果的に小さくできる。これに伴って、加硫したタイヤの加硫程度のばらつきが上下で小さくなるので、タイヤ品質の向上にもつながる。
【0009】
ここで、例えば、前記注入温度よりも低温の前記加圧媒体を、前記加硫ブラダの内部に注入する前に、加熱器により直接加熱して加温する。或いは、前記注入温度よりも低温の前記加圧媒体を、前記加硫ブラダの内部に注入する前に、断熱体積調整器により断熱圧縮して加温する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の空気入りタイヤの加硫方法を行う加硫装置の全体概要を例示する説明図である。
【
図2】圧力0.7MPaにおける窒素ガスの密度の温度依存性を例示するグラフ図である。
【
図3】窒素ガスの注入温度を100℃にした場合に、加硫ブラダの内部のスチームと窒素ガスのそれぞれの分圧条件下で、窒素ガスの密度をスチームの密度以下にする圧力条件を例示するグラフ図である。
【
図4】本発明の空気入りタイヤの加硫方法を行う別の加硫装置の全体概要を例示する説明図である。
【
図5】従来例における上側タイヤサイドの内側表面と下側タイヤサイドの内側表面の温度変化を例示するグラフ図である。
【
図6】実施例における上側タイヤサイドの内側表面と下側タイヤサイドの内側表面の温度変化を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の空気入りタイヤの加硫方法を図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1に例示する空気入りタイヤの加硫装置1(以下、加硫装置1という)は、ゴム製の筒状の加硫ブラダ2を有している。加硫ブラダ2には、中心機構4を構成するセンターポスト4aが上下に挿通している。加硫ブラダ2の上側クランプ部3a、下側クランプ部3bはそれぞれ、センターポスト4aに取り付けられた円盤状の上側クランプ保持部5a、下側クランプ保持部5bにより保持されている。
【0013】
センターポスト4aの外周側の位置には注入口6が設けられている。注入口6からはスチーム等の加熱媒体M1が加硫ブラダ2の内部に注入される。また、標準状態(温度0℃、圧力1atm)において加熱媒体M1よりも比重の大きい加圧媒体M2が注入口6から加硫ブラダ2の内部に注入される。加圧媒体M2としては、例えば窒素ガス等の不活性ガスが用いられる。
【0014】
注入口6は下方に延びる注入ライン7に接続されている。注入ライン7には加熱器8が接続されている。尚、中心機構4には、加硫ブラダ2の内部の流体を外部に排出する排出口および排出ラインも設けられている。
【0015】
注入口6からの加熱媒体M1および加圧媒体M2の注入方向は水平方向に対して適宜の向きに設定されるが、例えば、0°以上30°以下の傾斜角度で外周側に向かって上向きに設定される。注入口6は周方向に間隔をあけて、例えば等間隔で複数設けることが好ましい。
【0016】
本発明の加硫方法を用いてグリーンタイヤGを加硫するには、
図1に例示するように、グリーンタイヤGをタイヤモールド10の内部に横置き状態で配置する。この実施形態では、タイヤモールド10は周方向に複数に分割された環状のセクタ10aと、環状の上側サイドプレート10b、環状の下側サイドプレート10cで構成されている。加硫ブラダ2はグリーンタイヤGの内側に挿入され、タイヤモールド10を閉型した状態にする。
【0017】
次いで、注入ライン7を通じて加熱媒体M1としてスチームを供給し、注入口6から加硫ブラダ2の内部に注入して、加硫ブラダ2を膨張させつつ加熱する。加硫ブラダ2の内部に注入する際の加熱媒体M1の注入温度は例えば200℃程度であり、注入圧力は1.4MPa程度である。200℃、1.4MPaにおけるスチームの密度は、7.602kg/m
3である。
【0018】
次いで注入ライン7を通じて加圧媒体M2を供給し、注入口6から加硫ブラダ2の内部に注入することにより、加硫ブラダ2をさらに膨張させる。本発明では、加硫ブラダ2の内部に注入する際の加圧媒体M2の注入温度Teについて特別な工夫をしている。この注入温度Teについては後述する。
【0019】
このように注入した加熱媒体M1および加圧媒体M2によって加硫ブラダ2を所定の内圧Pにして膨張させた状態にする。この加硫ブラダ2により、グリーンタイヤGの内周面は押圧され、これに伴い、グリーンタイヤGはタイヤモールド10に押圧されつつ加熱されて加硫が行われる。
【0020】
予め設定された加硫時間が経過した後は、排気口から排気ラインを通じて加硫ブラダ2の内部に存在している加熱媒体M1や加圧媒体M2を外部に排出する。上側サイドプレート10bは上方移動させ、それぞれのセクタ10aは拡径方向に移動させてタイヤモールド10を開型する。次いで、加硫したタイヤを上方移動させて収縮した加硫ブラダ2から抜き出して加硫装置1から取り出す。
【0021】
本発明では、加圧媒体M2の注入温度Teを100℃以下にする。この実施形態では、この注入温度Teよりも低温の加圧媒体M2を、加硫ブラダ2の内部に注入する前に、加熱器8により直接加熱して注入温度Teに加温する。
【0022】
また、この注入温度Teを、所定の内圧Pにして膨張させた状態の加硫ブラダ2の内部での加圧媒体M2の分圧P2における加圧媒体M2の密度D2が、加熱媒体M1の分圧P1における加熱媒体M1の密度D1以下になる温度に設定する。
【0023】
例えば、1.4MPa、200℃の加熱媒体M1を注入した加硫ブラダ2の内部に、2.1MPaの加圧媒体M2を注入して、加硫ブラダ2を所定の内圧P(=2.1MPa)にして膨張させた場合を考える。加熱媒体M1の分圧P1は1.4MPa、加圧媒体M2の分圧P2は0.7MPa(=2.1MPa−1.4MPa)になる。分圧P2における加圧媒体M2の密度D2は、
図2の線分C1に例示するとおりである。そして、加熱媒体M1の分圧P1における加熱媒体M1の密度D1は、7.602kg/m
3である。そこで、密度D2が密度D1(=7.602kg/m
3)以下になる加圧媒体M2の温度を
図2の線分C1から求めると約80℃以上になる。したがって、注入温度Teを80℃以上にすることなる。
【0024】
したがって、本発明によれば加圧媒体M2の注入温度Teを80℃以上100℃以下に設定する。これに伴い、加硫ブラダ2の内部に注入する前に加圧媒体M2を100℃超に加熱する必要がないので、加圧媒体M2の加熱に要するエネルギを抑制できる。また、加圧媒体M2を100℃超に加熱するための大掛かりな装置も不要になる。それ故、当業者にとって多大な省エネルギのメリットが得られる。
【0025】
加えて、加圧媒体M2の密度D2を、加熱媒体M1の密度D1以下にすることで、グリーンタイヤGを加硫している加硫ブラダ2の内部では、従来のように相対的に軽い加熱媒体M1が上方に偏在することなくなり、加圧媒体M2と加熱媒体M1とが適度混在した状態になる。また、必要以上に加熱した加圧媒体M2が加硫ブラダ2の内部に注入されて加硫ブラダ2が過大に加熱されることもない。それ故、グリーンタイヤGの加硫に使用するエネルギの浪費を大幅に抑えつつ、加硫ブラダ2の上下温度差を効果的に小さくできる。これに伴って、加硫したタイヤの加硫程度のばらつきが上下方向で小さくなるので、タイヤ品質の向上にもつながる。
【0026】
加硫ブラダ2の内部に加熱媒体M1としてスチームを注入した後、加圧媒体M2として窒素ガスを注入した場合、それぞれの分圧P1、P2条件下での窒素ガスの密度D2をスチームの密度D1以下にする要件を満足するのは、
図3に例示する線分C2および線分C2よりも下方の領域(斜線部の領域)となる。このように、スチームおよび窒素ガスの圧力を調整することで、上記要件を満足する窒素ガスの注入温度Teを比較的低温にすることができる。
【0027】
図4に例示する加硫装置1のように、注入ライン7には
図1に例示した加熱器8に代えて断熱体積調整器9を接続することもできる。断熱体積調整器9は、断熱容器と、断熱容器の収容容積を変化させるピストンとで構成されている。この加硫装置1では、注入温度Teよりも低温の加圧媒体M2を、加硫ブラダ2の内部に注入する前に、断熱体積調整器9により断熱圧縮して注入温度Teに加温する。
【0028】
加硫装置1には、
図1に例示した加熱器8と
図4に例示した断熱体積調整器9を注入ライン7に直列に接続して設けることもできる。そして、加熱器8と断熱体積調整器9とにより順に加熱して注入温度Teに加温した加圧媒体M2を加硫ブラダ2の内部に注入することもできる。或いは、断熱体積調整器9と加熱器8とにより順に加熱して注入温度Teに加温した加圧媒体M2を加硫ブラダ2の内部に注入することもできる。
【実施例】
【0029】
図1に例示する加硫装置と同様の装置を用いて、1.4MPa、200℃のスチームを加硫ブラダの内部に注入した後、2.1MPaの窒素ガスの注入温度のみを2通りに異ならせて(従来例、実施例)、加硫ブラダの内圧を2.1MPaにしてグリーンタイヤを加硫した。この加硫中のグリーンタイヤの上側タイヤサイドの内側表面と下側タイヤサイドの内側表面の温度変化を測定し、その結果を
図5、6に示す。
図5に示す従来例では窒素ガスの注入温度を40℃、
図6に示す実施例では窒素ガスの注入温度を90℃にした。
【0030】
従来例、実施例ではそれぞれ、加硫終了時の上側タイヤサイドの内側表面と下側タイヤサイドの内側表面との温度差は15.0℃、1.5℃であった。この結果から、実施例は従来例に比して、加硫ブラダの上下温度差を効果的に小さくすることができることが分かる。
【符号の説明】
【0031】
1 加硫装置
2 加硫ブラダ
3a 上側クランプ部
3b 下側クランプ部
4 中心機構
4a センターポスト
5a 上側クランプ保持部
5b 下側クランプ保持部
6 注入口
7 注入ライン
8 加熱器
9 断熱体積調整器
10 タイヤモールド
10a セクタ
10b 上側サイドプレート
10c 下側サイドプレート
G グリーンタイヤ
M1 加熱媒体
M2 加圧媒体