特許第6690528号(P6690528)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690528
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】導電性膜
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20200421BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20200421BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   H01B1/22 Z
   C08L101/00
   C08K3/08
   H01B1/22 B
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-502559(P2016-502559)
(86)(22)【出願日】2016年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2016050764
(87)【国際公開番号】WO2016114278
(87)【国際公開日】20160721
【審査請求日】2018年12月25日
(31)【優先権主張番号】特願2015-4915(P2015-4915)
(32)【優先日】2015年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-4914(P2015-4914)
(32)【優先日】2015年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今橋 聰
(72)【発明者】
【氏名】米倉 弘倫
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝司
(72)【発明者】
【氏名】木南 万紀
【審査官】 土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5607187(JP,B2)
【文献】 特開2010−153821(JP,A)
【文献】 特開2007−173226(JP,A)
【文献】 特開2008−198425(JP,A)
【文献】 特開2012−248399(JP,A)
【文献】 特表2010−525526(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/178207(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/031958(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/02−1/24
C08K 3/08
C08L 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属粉(A)及び樹脂(B)を含有した導電性膜であって、比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満であり、少なくとも1方向に元の長さの36%以上伸長可能であり、基材および導電性膜を包持する包持部を設けない自立膜の状態で、元の長さの100%伸長した時の比抵抗増加比が10未満であることを特徴とする導電性膜において、
前記導電性金属粉(A)が、凝集状形状の銀粉であり、前記樹脂(B)がニトリル基含有ゴムまたはクロルスルホン化ポリエチレンゴムであり、
導電性膜の捻り試験において、導電性膜平面に対して、捻り角3600°まで膜破断を起こさず導電性膜を捻ることが可能であり、捻り角が0°から3600°の場合に比抵抗が1.0×10−2Ωcm未満であることを特徴とする導電性膜。
【請求項2】
直交する2つの方向においていずれも元の長さの36%以上伸張可能であり、直交する2つの方向で元の長さの100%伸長した時、同じ伸長率における両者の比抵抗の差が10%未満であることを特徴とする請求項1に記載の導電性膜。
【請求項3】
導電性膜の厚み方向に10%圧縮した時に、比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の導電性膜。
【請求項4】
塗布または印刷により作製されることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の導電性膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願第1の発明は、導電性が高く、伸長、捻りおよび圧縮の外力が作用しても、高い導電率を維持できるために、伸縮性の電極や配線に好適な導電性膜に関する。
本願第2の発明は、高導電率であり、繰返し伸縮後の導電率の変化が小さく、かつ基板との密着性に優れた、電極や配線に好適な導電性膜に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能エレクトロニクスのほとんどは、基本的に剛直で平面の形態で、シリコンやガリウム砒素などの単結晶無機材料を使用している。一方、フレキシブルな基板を用いた場合、配線の耐屈曲性が要求される。さらに、アクチュエーターやトランスデューサーの電極や、皮膚センサーなどの用途では、エラストマーなどからなる基材や誘電膜などの変形に、電極や配線が追随可能であることが要求される。すなわち、例えば、アクチュエーターでは、印加電圧の大小により誘電膜が伸縮する。このため、誘電膜の表裏に配置される電極は、誘電膜の動きを妨げないように、誘電膜の伸縮に応じて伸縮可能であることが必要である。また、伸縮可能であることに加えて、伸縮された時に電気抵抗の変化が小さいことが求められる。
【0003】
また、ロボットやウェアラブル電子機器には、動力供給用や信号伝送用の電線が多数使用されているが、一般に電線自体に伸縮性がほとんどないので、ロボットや人間の動きを妨げないように余裕を持たせて電線を配置する必要があり、実用上障害となっている。したがって、伸縮可能な電線に対する要求が高まっている。
ヘルスケアの分野においても、高い伸縮性を示す導電材料が望まれる。例えば、伸縮性の導電材料の膜を用いることによって、柔軟で曲線状である人体に密着して適合できるデバイスを開発することが可能となる。これらのデバイスの用途は、電気生理学的信号の測定から、先進治療のデリバリや、人と機械のインターフェースにまで及ぶ。
【0004】
伸縮性の導電材料の開発における解決方法の一つは、有機導電材料の使用であるが、これまでの材料はフレキシブルであるが、伸縮可能とは言えず、曲線状の表面を覆うことができない。そのために、性能や、複雑な集積回路への集積化に対する信頼性に欠ける。他の材料、例えば金属ナノワイヤやカーボンナノチューブなどの膜はある程度有望であるが、信頼性に欠け、かつ高価であるために開発は難しい。
【0005】
伸縮可能な導電性膜に必要な伸長率は使われる用途によって異なる。想定されるヘルスケア、ディスプレイ、太陽電池、PFIDなどの分野での配線、アンテナ、電極などの用途では、比抵抗が1×10−3Ωcm未満であり、かつ100%程度の伸長が可能であること望まれている。一般に、塗布や印刷が可能な、樹脂中に導電性金属粉が均一に分散された導電性ペーストを塗布または印刷により成膜した導電性膜では、伸長作用を受けると、比抵抗が大きく増加してしまう。伸長時での比抵抗は、1×10−2Ωcm未満であることが望まれる。
【0006】
また、実際の用途を想定すると、伸縮作用のみならず、捻りや圧縮などの外力が作用した時においても、比抵抗の変化が小さいことが望まれる。例えば、人体に直接、または着用する衣服に密着した配線や、ロボットの屈曲部分の配線やセンサーを想定すると、あらゆる動きにたいして、部位により、色々な方向にかつ、色々な形の外力を受け、部位によっては、繰り返し変形し、それに伴い配線自体も繰返し伸縮作用を受ける。このような状況においても、比抵抗が小さいことが望まれる。また、基材上の配線や電極は、繰返し伸縮作用を受けている間に、基材と導電性膜との密着性が小さくなり、断線などを起こす可能性がある。
【0007】
伸縮可能なフレキシブル配線を開発するアプローチとして、主として2つの方法が報告されている。
【0008】
1つは、波状構造を構築して、脆い材料でも伸縮性を持たせる方法である(非特許文献1参照)。この方法では、蒸着やメッキ、フォトレジスト処理などを行ってシリコーンゴム上に金属薄膜を作製する。金属薄膜は数%の伸縮しか示さないが、形状をジグザグ状または連続馬蹄状、波状の金属薄膜、または予め伸長したシリコーンゴム上に金属薄膜を形成することにより得られる皺状の金属薄膜などが伸縮性を示す。しかし、いずれも数10%伸長させると導電率が2桁以上低下する。また、シリコーンゴムは表面エネルギーが低いために、配線と基板との密着性が弱いので、伸長時に剥離し易いという欠点がある。従って、この方法では、安定した高い導電率と高い伸長性を両立するのが困難である。しかも、製造コストが高いという問題もある。
【0009】
もう一つは、導電材料とエラストマーの複合材料である。この材料の有利な点は、優れた印刷性と伸縮性である。電極や配線に使われている市販の銀ペーストは、高弾性率のバインダー樹脂に銀粉末が高充填配合されており、柔軟性に乏しく高弾性率である。伸長すると、クラックが発生し、著しく導電率が低下してしまう。そこで柔軟性を付与するために、バインダーとしてのゴムやエラストマーの検討、導電材料の充填度を下げるために、導電材料としてのアスペクト比が大きくて導電率の高い銀フレーク、カーボンナノチューブ、金属ナノワイヤなどが検討されている。銀粒子とシリコ−ンゴムの組合せ(特許文献1参照)では、シリコーンゴム基板上の導電性膜をさらにシリコーンゴムで被覆する包持部を設けることにより、伸長時のマイクロクラック発生や導電率低下を抑制している。実施例において、包持部を設けない場合には、80〜100%伸長時にマイクロクラックが発生すると記している。銀粒子とポリウレタンエマルジョンの組合せ(特許文献2参照)では、基材上に導電性膜を設けた場合に、高導電率でかつ高伸長率が報告されているが、100%伸長時の比抵抗が大きくなり、自然状態の比抵抗に対して30倍を越える増加比を示す。さらに、水系であるために、銀粒子の分散方法が限定され、十分に銀粒子の分散した導電性膜が得られにくい。一般的には、伸縮性の基材上に設けた導電性膜は、伸長時に基材自身がある程度引張応力を緩和するために、導電性膜のマイクロクラック発生が抑制され、さらに導電性膜を包持する伸縮性のカバーコートなどの包持部を設けると、より大きな伸長度においても導電性膜の損傷が抑制できる。また、カーボンナノチューブとイオン液体とフッ化ビニリデンの組合せ(特許文献3、4参照)が報告されているが、導電率が低すぎて、用途が限定される。このように、高導電率と高伸縮性の両立は難しいのが現状である。一方、ミクロンサイズの銀粉と、自己組織化した銀ナノ粒子で表面修飾したカーボンナノチューブおよびポリフッ化ビニリデンの組合せにより、印刷可能で高導電性でかつ伸縮可能な複合材料が報告されている(非特許文献2参照)。しかし、伸長率35%で破断し、しかもアスペクト比の大きいカーボンナノチューブを配合するために、塗布などにより成膜する時に、塗布方向と、それと直角方向で、導電性および機械的性質の異方性を生じる可能性があり実用上好ましくない。さらに、カーボンナノチューブの銀ナノ粒子による表面修飾は、製造が煩雑で、コストアップの要因となり好ましくない。また、実用上、導電性膜の異方性、捻り作用や圧縮作用を加えた場合の導電率の変化も重要であるが、ほとんど報告はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−173226号公報
【特許文献2】特開2012−54192号公報
【特許文献3】国際公開WO2009/102077号
【特許文献4】特開2011−216562号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Jong−Hyun Ahn and Jung Ho Je,“Stretchable electronics:materials,architectures and integrations“J.Phys.D:Appl.Phys.45(2012)103001
【非特許文献2】Kyoung−Yong Chun,Youngseok Oh,Jonghyun Rho,Jong−Hyun Ahn,Young−Jin Kim,Hyoung Ryeol Choi and Seunghyun Baik,“Highly conductive,printable and stretchable composite films of carbon nanotubes and silver”Nature Nanotechnology,5,853(2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものであり、本願第1の発明の目的は、高導電率で、基材および導電性膜を包持する包持部を設けない自立膜の状態でも、伸縮、捻り、圧縮可能でしかも均質で異方性のない導電性膜を提供することにある。
本願第2の発明の目的は、高導電率で、伸縮可能でしかも繰返し伸縮後においても導電率の低下の小さく、基板との密着性の優れる導電性膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、かかる目的を達成するために鋭意検討した結果、以下の手段により上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本願第1の発明は以下の(1)〜(7)の構成からなる。
(1)導電性金属粉(A)及び樹脂(B)を含有した導電性膜であって、比抵抗が 1.0×10−3Ωcm未満であり、少なくとも1方向に元の長さの36%以上伸長可能であり、基材および導電性膜を包持する包持部を設けない自立膜の状態で、元の長さの100%伸長した時の比抵抗増加比が10未満であることを特徴とする導電性膜。
(2)直交する2つの方向においていずれも元の長さの36%以上伸張可能であり、直交する2つの方向で元の長さの100%伸長した時、同じ伸長率における両者の比抵抗の差が10%未満であることを特徴とする(1)に記載の導電性膜。
(3)導電性膜の捻り試験において、導電性膜平面に対して、捻り角3600°まで膜破断を起こさず導電性膜を捻ることが可能であり、捻り角が0°から3600°の場合に比抵抗が1.0×10−2Ωcm未満であることを特徴とする(1)〜(2)のいずれかに記載の導電性膜。
(4)導電性膜の厚み方向に10%圧縮した時に、比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の導電性膜。
(5)導電性金属粉(A)が少なくとも銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の導電性膜。
(6)樹脂(B)が、少なくともニトリル基を含有するゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の導電性膜。
(7)塗布または印刷により作製されることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載の導電性膜。
【0014】
本願第2の発明は以下の(8)〜(16)の構成からなる。
(8)導電性金属粉(A)及び樹脂(B)を含有した導電性膜であって、比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満であり、少なくとも1方向に元の長さの36%以上伸長可能であり、元の長さの20%伸長後に元の長さに戻す伸縮を1000回繰り返した後の比抵抗が1.0×10−2Ωcm未満であることを特徴とする導電性膜。
(9)元の長さの3倍に伸長した時に、比抵抗が1.0×10Ωcm未満となることを特徴とする(8)に記載の導電性膜。
(10)元の長さの10倍に伸長した時に、破断しないことを特徴とする(8)〜(9)のいずれかに記載の導電性膜。
(11)導電性金属粉(A)が少なくとも銀、金、白金、パラジウム、銅、ニッケル、及びアルミニウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(8)〜(10)のいずれかに記載の導電性膜。
(12)樹脂(B)が、少なくともニトリル基を含有するゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、及びクロロプレンゴムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(8)〜(11)のいずれかに記載の導電性膜。
(13)塗布または印刷により作製されることを特徴とする(8)〜(12)のいずれかに記載の導電性膜。
(14)前記(8)〜(13)のいずれかに記載の導電性膜と基材層からなり、元の長さの36%以上伸長した状態において、100升目による碁盤目試験法において、95/100以上が残存することを特徴とする導電性複合膜。
(15)100升目による碁盤目試験法において、100/100が残存することを特徴とする(14)に記載の導電性複合膜。
(16)元の長さの20%伸長後に、元の長さに戻す伸縮を1000回繰り返した後に、100升目による碁盤目試験法において、95/100以上が残存することを特徴とする(14)〜(15)のいずれかに記載の導電性複合膜。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性膜によれば、樹脂(A)中に導電性金属粉(B)が均一に分散された導電性ペーストを塗布または印刷により作製でき、導電性膜中に有効な導電性ネットワークが形成されているために、伸長作用、捻り作用、圧縮作用、繰返し伸縮作用を受けても、導電性ネットワークが破断しないので導電率の低下が小さく、また導電率や伸長性に異方性も小さい。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の導電性膜について説明する。
本発明の導電性膜は、導電性金属粉(A)が及び樹脂(B)を含有した導電性膜であり、その導電性は、絶縁性の樹脂(B)中における、導電性金属粉(A)の導電性ネットワークの形成に依存する。一般に導電性金属粉(A)の配合量を増加させると、ある閾値以上で導電性ネットワークを形成し始める。導電性膜に外力がかかって、この導電性ネットワークが切断または破壊されると、膜の導電性が減少または喪失する。従って、導電性ネットワークの外力に対する抵抗力を付与することが重要である。以下に、本発明の導電性膜の外力に対する性能について述べる。
【0017】
(1)伸長性
伸縮可能な導電性膜に必要な伸長率は使われる用途によって異なる。想定されるヘルスケア、ディスプレイ、太陽電池、PFIDなどの分野での配線、アンテナ、電極などの用途では、比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満で、かつ5%から100%程度の伸長率が望まれている。本発明の伸縮可能な導電性膜は、少なくとも一方向において元の長さの36%以上伸張可能であり、36%以上伸長しても導電率の低下が小さい。本発明の導電性膜は導電性膜を包持する保持部を設けない自立膜の状態で100%伸張時でも、後述の評価方法による比抵抗増加比は10未満であり、好ましくは8未満、より好ましくは5未満であり、好ましくは、100%伸長時でも、比抵抗は、1.0×10−2Ωcm未満である。
【0018】
(2)均質性
本発明の導電性膜は、導電性ペーストを塗布またはスクリーン印刷などの印刷手段によって作製され、多くの用途において、異方性がないことが望まれる。方向により、導電性および機械的性質が異なると、配線や電極としては好ましくない。カーボンナノチューブやカーボンナノフォーン等の高アスペクト比の導電性フィラーや非導電性フィラーを配合すると、例えば塗布の場合、塗布方向に導電性フィラーや非導電性フィラーが配向してしまい、導電性や機械的性質が、塗布方向とそれと直角方向の間で異なることになり、好ましくない。本発明の導電性膜は、直交する2つの方向においていずれも36%以上伸張可能であり、直交する2つの方向で元の長さの36%以上伸長した時の、同じ伸張率における両者の比抵抗の差は10%以内が好ましく、5%以内がより好ましい。
【0019】
(3)捻り性
導電性膜は伸長作用の他に、用途によっては捻り作用を外力として受ける。導電性膜を捻る試験において、例えば幅20mm、長さ50mm、厚さ100μmの導電膜の場合に、下端を固定し、上端を10回転(3600°)捻った時に捻り角3600°まで膜破断を起こさず導電性膜を捻ることが可能であり、比抵抗が1.0×10−2Ωcm未満であることが好ましい。
【0020】
(4)圧縮性
導電性膜は伸長作用の他に、用途によっては圧縮作用を外力として受ける。厚み方向に10%圧縮時に比抵抗が1.0×10−3Ωcm未満であることが好ましい。
【0021】
(5)繰返し伸縮性
導電性膜を所定の割合だけ伸長させて、次に元の長さに戻す操作を繰り返した場合の導電率の変化も重要である。所定の伸長(例えば20%伸長率)時に導電性膜内では引張応力は主として絶縁性の樹脂が歪むことにより導電性ネットワークに切断や破壊が生じない場合、その後に元の長さに戻した時でも導電性ネットワークが変化せず、導電性膜の比抵抗は最初の自然状態の比抵抗とあまり変わらない。しかし、実際には、繰返し伸縮作用を受けると、導電性ネットワーク構造が全体または部分的に壊れてしまい、伸縮回数とともに比抵抗が増加したり、場合によっては、マイクロクラックが発生したり、遂には破断に至る。本発明の導電性膜は、繰返し伸縮に対する高度な耐性を有する導電性膜であり、20%伸長を1000回繰り返した後の比抵抗は、比抵抗が1.0×10−2Ωcm未満であり、好ましくは5.0×10−3Ωcm未満である。
【0022】
(6)基板への密着性
本発明の導電性複合膜は、導電性膜と基材層からなる導電性複合膜であって、自然状態のみならず、伸長作用を受けている時も導電性膜と基材がとの密着性に優れる。密着性が悪いと、伸長時に基材上の配線や電極が断線やショートという問題を生じる可能性がある。密着性試験としては、一般に碁盤目試験、剥離試験、鉛筆引っかき法、エリクセン試験、屈曲試験などが知られているが、この中で、100升目による碁盤目試験は操作が極めて簡単で、塗膜の実際の損傷脱落機構に類似しており、評価法として好ましい。塗膜にカミソリで基材まで届く直角に交差する11本の直線をカットして碁盤目100個を描き、碁盤目上に粘着テープを強く圧着し、テープをはがした後の碁盤目のはがれ状態を観察する。本発明の導電性複合膜は、100升目による碁盤目試験において、(試験で剥離せず残存した枡目数)/(試験前の枡目数)としたときに、95/100以上が残存し、好ましくは100/100が残存する。
【0023】
(7)高伸長時の導電率および機械的特性
伸縮可能な導電性膜は、用途によってはまれに大きな伸長作用をうける可能性があり、その際にも、破断することなく、好ましくは導電性をある程度維持することが要求される。本発明の導電性膜は3倍伸長しても、比抵抗が1.0×10Ωcm未満であることが好ましく、また10倍伸長しても破断しないことがより好ましい。
【0024】
以下、本発明の導電性膜の実施形態について、順に説明する。
本発明の導電性膜は、導電性金属粉(A)及び樹脂(B)を含有した導電性膜であって、好ましくは導電性金属粉(A)が樹脂(B)中に均一に分散された導電性膜であって、導電性金属粉(A)および樹脂(B)は特に限定されないが、以下に好ましい実施形態を示す。
【0025】
導電性金属粉(A)は形成される導電性膜や導電性パターンにおいて導電性を付与するために用いられる。
【0026】
導電性金属粉(A)としては、銀粉、金粉、白金粉、パラジウム粉等の貴金属粉、銅粉、ニッケル粉、アルミ粉、真鍮粉等の卑金属粉が好ましい。また、卑金属やシリカ等の無機物からなる異種粒子を銀等の貴金属でめっきしためっき粉、銀等の貴金属で合金化した卑金属粉等が挙げられる。これらの金属粉は、単独で用いてもよく、また、併用してもよい。これらの中で、銀粉および/または銅粉を主成分(50重量%以上)とするものが、高い導電性を示す塗膜を得やすい点および価格の点で特に好ましい。銀粉は導電性、加工性、信頼性などから特に好ましい。
【0027】
導電性金属粉(A)の形状の例としては、公知のフレーク状(リン片状)、球状、樹枝状(デンドライト状)、凝集状(球状の1次粒子が3次元状に凝集した形状)などを挙げることができる。これらの中で、例えば銀粉の場合、不定形凝集銀粉やフレーク状銀粉が好ましく、形成される導電性膜や導電性パターンにおいて導電性を付与するために用いられる。不定形凝集銀粉とは球状もしくは不定形状の1次粒子が3次元的に凝集したものである。不定形凝集銀粉およびフレーク状銀粉は、球状銀粉などよりも比表面積が大きいことから低充填量でも導電性ネートワークを形成でき、導電性膜が伸長、捻り、あるいは圧縮などの外力を受けた状態でも導電性ネットワークを維持できるので好ましい。不定形凝集銀粉は単分散の形態ではないので、粒子同士が物理的に接触していることから導電性ネートワークを形成しやすいので、さらに好ましい。
【0028】
導電性金属粉(A)の粒子径は特に限定されないが、微細パターン性を付与するという観点から、平均径が0.5〜10μmであるものが好ましい。平均径が10μmより大きい金属粉を用いた場合には、形成されたパターンの形状が悪く、パターン化した細線の解像力が低下する可能性がある。平均径が0.5μmより小さくなると、大量配合すると、金属粉の凝集力が増加して印刷性が悪くなる場合があり、また高価であるためにコスト的に好ましくない。
【0029】
導電性ペースト中の導電性金属粉(A)の配合量は、導電率と伸縮性を考慮して決定される。固形分中の体積%が大きいと、導電率は高くなるが、ゴムの量が少なくなって伸縮性が悪くなる。体積%が小さいと、伸縮性は良くなるが、導電性ネットワークが形成し難くなって導電率は低下する。従って、導電性ペーストの固形分中の導電性金属粉(A)の配合量は20〜50体積%(70〜90重量%)であり、25〜40体積%(78〜88重量%)が好ましい。なお、該固形分中の体積%は、ペーストに含まれる各成分の各固形分の重量を計測し、(各固形分の重量÷各固形分の比重)を計算して各成分の固形分の体積を算出することによって求めることができる。
【0030】
本発明における導電性膜には、導電率の向上や印刷性の改良などの目的で、導電性金属粉として金属ナノ粒子をさらに配合することができる。金属ナノ粒子は、導電性ネットワーク間での導電性付与の機能があるために導電率の向上が期待できる。また、印刷性改良のための導電性ペーストのレオロジー調節の目的にも配合することができる。金属ナノ粒子の平均粒径は2〜100nmが好ましい。具体的には、銀、ビスマス、白金、金、ニッケル、スズ、銅、亜鉛が挙げられ、導電性の観点から、銅、銀、白金、金が好ましく、銀及び/又は銅を主成分(50重量%以上)とするものが特に好ましい。
【0031】
金属ナノ粒子も一般に高価であるために、できるだけ少量であることが好ましい。導電性ペーストの固形分中の金属ナノ粒子の配合量は0.5〜5体積%が好ましい。
【0032】
樹脂(B)としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどが挙げられるが、膜の伸縮性を発現させるためには、ゴムが好ましい。ゴムとしては、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴムなどのニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。この中でも、ニトリル基含有ゴム、アクリルゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴムが特に好ましい。
【0033】
樹脂(B)は、導電性金属粉(A)の均一な分散を実現するために、導電性金属粉(B)との良好な親和性が求められる。ニトリル基は金属との高い親和性を有し、ニトリル基の金属粒子への強い親和性のために、導電性金属粉(B)とも親和性が増して、導電性発現に有効で、かつ外力に切断または破壊されにくい導電性ネットワークを形成できる。したがって樹脂(B)としてニトリル基を含有するゴムを含有することが好ましい。その結果、本発明の導電性膜は、高導電率であり、伸長、捻り、圧縮などの外力に強いために、外力の作用時にも高導電率を保持できる。金属粉(B)は、平均粒径0.5μm〜10μmであることが好ましく、フレーク状金属粉、または凝集状金属粉から選ばれることが好ましい。それに加えて、さらに平均粒径が100nm以下の金属ナノ粒子を含むことができる。
【0034】
ニトリル基を含有するゴムは、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されないが、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量は18〜50重量%が好ましく、40〜50重量%が特に好ましい。
【0035】
導電性ペースト中の樹脂(B)の配合量において、固形分中の体積%が小さいと、導電率は高くなるが、伸縮性が悪くなる。一方、体積%が大きいと、伸縮性は良くなるが、導電率は低下する。従って、導電性ペーストの固形分中の樹脂(A)の配合量は50〜80体積%(10〜30重量%)であり、60〜75体積%(12〜22重量%)が好ましい。
【0036】
なお、本発明の導電性膜を形成する導電性ペーストには、伸縮可能な導電性膜としての性能や塗布性や印刷性を損なわない範囲で他の樹脂が配合されていても良い。
【0037】
本発明の導電性膜には、導電性および伸縮性、均質性、捻り性、圧縮性を損なわない範囲で無機物を添加することができる。無機物としては、炭化ケイ素、炭化ホウ素、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム、炭化タンタル、炭化ニオブ、炭化タングステン、炭化クロム、炭化モリブテン、炭化カルシウム、ダイヤモンドカーボンラクタム等の各種炭化物;窒化ホウ素、窒化チタン、窒化ジルコニウム等の各種窒化物、ホウ化ジルコニウム等の各種ホウ化物;酸化チタン(チタニア)、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化銅、酸化アルミニウム、シリカ、コロイダルシリカ等の各種酸化物;チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ストロンチウム等の各種チタン酸化合物;二硫化モリブデン等の硫化物;フッ化マグネシウム、フッ化炭素等の各種フッ化物;ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の各種金属石鹸;その他、滑石、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、ベントナイト、カオリン、ガラス繊維、雲母等を用いることができる。これらの無機物を添加することによって、印刷性や耐熱性、さらには機械的特性や長期耐久性を向上させることが可能となる場合がある。
【0038】
また、チキソ性付与剤、消泡剤、難燃剤、粘着付与剤、加水分解防止剤、レベリング剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レーザー光吸収剤、難燃剤、顔料、染料などを配合することができる。
【0039】
本発明の導電性膜を形成する導電性ペーストには有機溶剤を含有することが好ましい。使用する有機溶剤は、沸点が100℃以上、300℃未満であることが好ましく、より好ましくは沸点が150℃以上、290℃未満である。有機溶剤の沸点が低すぎると、ペースト製造工程やペースト使用に際に溶剤が揮発し、導電性ペーストを構成する成分比が変化しやすい懸念がある。一方で、有機溶剤の沸点が高すぎると、低温乾燥工程が求められる場合(例えば150℃以下)において、溶剤が塗膜中に多量に残存する可能性があり、塗膜の信頼性低下を引き起こす懸念がある。
【0040】
このような高沸点溶剤としては、シクロヘキサノン、トルエン、イソホロン、γ−ブチロラクトン、ベンジルアルコール、エクソン化学製のソルベッソ100,150,200、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ターピオネール、ブチルグリコールアセテート、ジアミルベンゼン(沸点:260〜280℃)、トリアミルベンゼン(沸点:300〜320℃)、n−ドデカノール(沸点:255〜29℃)、ジエチレングリコール(沸点:245℃)、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点:145℃)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(沸点217℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(沸点:255℃)、ジエチレングリコールモノアセテート(沸点:250℃)、トリエチレングリコールジアセテート(沸点:300℃)トリエチレングリコール(沸点:276℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、トリエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点:256℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271℃)、テトラエチレングリコール(沸点:327℃)、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:304℃)、トリプロピレングリコール(沸点:267℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:243℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート(沸点:253℃)などが挙げられる。また、石油系炭化水素類としては、新日本石油社製のAFソルベント4号(沸点:240〜265℃)、5号(沸点:275〜306℃)、6号(沸点:296〜317℃)、7号(沸点:259〜282℃)、および0号ソルベントH(沸点:245〜265℃)なども挙げられ、必要に応じてそれらの2種以上が含まれてもよい。このような有機溶剤は、導電性ペーストが印刷などに適した粘度となるように適宜含有される。
【0041】
導電性ペースト中の有機溶剤の含有量は、導電性金属粉の分散方法や、導電性膜形成方法に適合する導電性ペーストの粘度や乾燥方法などによって決められる。本発明の導電性膜を形成するための導電性ペーストは、粉体を液体に分散させる従来公知の方法を用いることによって樹脂中に導電性金属粉を均一に分散することができる。例えば、金属粉、導電材料の分散液、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散することができる。これらの手段は、複数を組み合わせて使用することも可能である。
【0042】
本発明の導電性膜を形成するための導電性ペーストを基材上に塗布または印刷して塗膜を形成し、次いで塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させ乾燥させることにより、導電性膜または導電性パターンを形成することができる。また、塗膜をレーザーエッチング加工により導電性パターンを形成することもできる。膜厚の範囲は特に限定されないが、1μm〜1mmが好ましい。1μm未満の場合はピンホール等の膜欠陥が生じやすくなり、問題になる場合がある。1mmを超える場合は膜内部に溶剤が残留しやすくなり、膜物性の再現性に劣る場合がある。
【0043】
導電性ペーストが塗布される基材は特に限定されないが、伸縮性の導電膜の伸縮性を生かすために、可とう性または伸縮性のある基材が好ましい。一般的には、伸縮性の基材上に設けた導電性膜は、伸長時に基材自身がある程度引張応力を緩和するために、導電性膜のマイクロクラック発生が抑制される。可とう性基材の例として、紙、布、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリイミドなどが挙げられる。伸縮性の基材としては、ポリウレタン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ニトリルゴム、ブタジエンゴム、SBSエラストマー、SEBSエラストマー、スパンデックス布、ニット布などが挙げられる。これらの基材は、折り目を付けることが可能で、面方向に伸縮可能であることが好ましい。その点でゴムやエラストマーからなる基材が好ましい。
【0044】
本発明において、特に本願第2の発明において、導電性複合膜は導電性膜と基材との密着性が良好であることが好ましい。密着性が悪いと伸長作用や繰返し伸縮作用により、導電性膜で出来た配線が基材より剥離して断線やショートする問題を引き起こす場合がある。
【0045】
導電性ペーストを基材上に塗布する工程は、特に限定されないが、例えば、コーティング法、印刷法などによって行うことができる。印刷法としては、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などが挙げられる。
【0046】
導電性ペーストを塗布された基材を加熱する工程は、大気下、真空雰囲気下、不活性ガス雰囲気下、還元性ガス雰囲気下などで行うことができる。加熱温度は20〜200℃の範囲で行い、要求される導電率や基材の耐熱性などを考慮して選択される。有機溶剤が揮散され、場合により加熱下で硬化反応が進行し、乾燥後の導電性膜の導電性や密着性、表面硬度が良好となる。20℃未満では溶剤が塗膜中に残留し、導電性が得られない場合がある。長時間処理すれば導電性を発現するが、比抵抗が大幅に劣る場合がある。好ましい加熱温度は70〜180℃である。70℃未満では塗膜の熱収縮が小さくなり、塗膜中の銀粉の導電ネットワークが十分に形成できず、比抵抗が高くなる場合がある。塗膜の緻密性から伸長率、繰返し伸縮性も悪化する場合がある。180℃を超える場合は耐熱性から基材が限定され、長時間処理するとニトリル基を含有するゴム(B)が熱劣化し、伸長率、繰返し伸縮性が悪化する場合がある。
【0047】
基材上の導電性膜の上に伸縮性のカバーコートなどの包持部を設けても良い。包持部を設けると、より大きな伸長度においても導電性膜の損傷が抑制でき、また防水性や絶縁性などの機能を付与できる。カバーコート材料としては、導電性膜と密着性が良い伸縮性の材料であれば特に限定されない。好ましい材料として、本発明の樹脂(B)が挙げられる。
【実施例】
【0048】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの限定されるものではない。なお実施例3を比較例12に、実施例4を比較例13に、実施例7を比較例14に、実施例8を比較例15に、実施例9を比較例16に、実施例12を比較例17に読み替える。
【0049】
[導電ペーストの作製]
(実施例1〜4、比較例1〜5)
樹脂をソルベッソに溶解させた。ただし、溶剤として、NBR(ニトリルゴム)の場合はイソホロン、PVDF(フッ化ビニリデンコポリマー)の場合は4−メチルー2−ペンタノンを用いた。各成分が表1に記載の固形分中の体積%となるように、この溶液に銀粒子、場合によりさらにカーボンナノチューブまたは気相成長炭素繊維を配合して、3本ロールミルにて混練して、導電性ペーストを得た。
(実施例5〜12、比較例6〜11)
樹脂をエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートに溶解させて、この溶液に銀粒子を均一に分散した液を、各成分が表2又は表3に記載の固形分中の体積%となるように配合し、3本ロールミルにて混練して、導電性ペーストを得た。
【0050】
[導電性膜の作製]
(実施例1〜7、比較例6〜7)
導電性ペーストをテフロン(登録商標)シートの上にワイヤーバーにて製膜し、150℃で30分間乾燥して、厚み100μmのシート状の導電性膜を作製した。導電性膜を用いて比抵抗、均質性、捻り性、圧縮性の試験を実施した。
導電性膜は、後述する方法で自然状態および外力が作用した時の比抵抗を評価した。実施例1〜4、比較例1〜5の導電性膜の組成とその評価結果を表1に示す。また、導電性膜は、後述する方法で伸長試験および繰り返し伸縮試験を実施した。実施例5〜7、比較例6〜7の導電性膜の組成とその評価結果を表2に示す。
【0051】
[導電性複合膜の作製]
(実施例8〜12、比較例8〜11)
厚さ1mmの伸縮性のウレタンシートまたはシリコンシート上にワイヤーバーにて導電ペーストを塗布し、150℃で30分間乾燥して、100μmの導電性膜を含有する導電性複合膜を作製した。この導電性複合膜を用いて、後述する方法で伸長試験、繰返し伸縮試験、100升目による碁盤目試験、3倍伸長試験、10倍伸長試験を実施した。実施例8〜12、比較例8〜11の導電性複合膜の組成とその評価結果を表3に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1中の1)〜11)の詳細は以下の通りである。
1)凝集銀粉:G−35(平均粒径5.9μm、DOWAエレクトロニクス社製)
2)フレーク状銀粉:FA−D−3(平均粒径1.6μm、DOWAエレクトロニクス社製)
3)VGCF:気相法炭素繊維(繊維径150nm、繊維長15μm、昭和電工社製)
4)CNT−A:カーボンナノチューブ(SWeNT MW100(多層カーボンナノチューブ、直径6〜9nm、長さ5μm、アスペクト比556〜833、SouthWest Nano Technologies社製)
5)CNT−B:非特許文献2に記載の製造方法に準じて作製した。ベンジルメルカプタンと硝酸銀より作製した銀ナノ粒子ディスパージョン中でSWeNT MW100を超音波処理により分散させた。その後、ろ過、洗浄して銀ナノ粒子で修飾したカーボンナノチューブCNT-Bが得られる。
6)CSM:クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM-TS530、東ソー社製)
7)NBR:ニトリルゴム(Nipol DN003、アクリロニトリル含量50重量%、日本ゼオン社製)
8)CR:クロロプレンゴム(DOR-40、デンカ社製)
9)UR:ウレタンゴム(コートロンKYU−1、三洋化成社製)
10)EPDM:エチレンプロピレンゴム(EP11、JSR社製)
11)PVDF/イオン液体:フッ化ビニリデンコポリマー(ダイエルG-801、ダイキン社製)/1−ブチルーメチルピリジニウム テトラフルオロボレート(50重量/50重量)
【0054】
実施例1〜4及び比較例1〜5の導電性膜の評価方法は以下の通りである。
[比抵抗の評価]
導電性膜を幅20mm、長さ50mmにカットして試験片を作製した。自然状態(伸長率0%)の導電性膜試験片のシート抵抗と膜厚を測定し、比抵抗を算出した。膜厚はシックネスゲージ SMD−565L(TECLOCK社製)を用い、シート抵抗はLoresta−GP MCP−T610(三菱化学アナリテック社製)を用いて試験片4枚について測定し、その平均値を用いた。比抵抗は以下の式により算出した。
比抵抗(Ω・cm)=Rs(Ω/□)×t(cm)
ここで、Rsは各条件で測定されたシート抵抗、tは各条件で測定された膜厚を示す。
そして自然状態(伸長率0%)と同様にして、万能試験機( 島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いて、20%、35%、50%、100%に伸長した時(伸長速度60mm/分)の比抵抗を測定した。伸長率は以下の式により算出した。
なお、導電性膜の伸長評価は、導電性ペーストを塗布した方向を試験片の伸長方向としたものと、該塗布方向と直交する方向を試験片の伸長方向としたものとの2つの伸長方向にて実施した。
伸長率(%)=(ΔL/L)×100
ここで、Lは試験片の標線間距離、ΔLは試験片の標線韓距離の増加分を示す。なお、伸長時のシート抵抗は、所定の伸長度に達してから30秒後の値を読み取った。
また、100%伸長時の比抵抗増加比は以下の式により算出した。
比抵抗増加比=(R100/R)×100(%)
ここで、R100は100%伸長後の比抵抗、Rは自然状態の比抵抗を示す。
【0055】
[均質性の評価]
導電性膜を塗布方向と、塗布方向と直角の方向にそれぞれ幅20mm、長さ50mmにカットして試料片を作製した。それぞれの試験片を用いて、伸長率20%、35%、50%、100%時の比抵抗を測定した。塗布方向と塗布方向と直角の方向の試験片での比抵抗の差を比較して均質性の評価とした。
【0056】
[捻り性の評価]
導電性膜を幅20mm、長さ50mmにカットして試料片とした。試料片の片端を固定し、もうひとつの片端を1回転(360°)および10回転(3600°)捻った時の比抵抗を測定した。
【0057】
[圧縮性の評価]
導電性膜試験片(厚み100μm、直径200mm)を10枚重ねて試験片とした。圧縮操作は万能試験機(島津製作所製、オートグラフAG−IS)を用いた。試験片はフォームラバー用圧縮治具と試料受台にそれぞれ電極(銅箔)を介して取り付け、10%圧縮した時の電極間の抵抗より比抵抗を測定した。
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
表2、表3中の21)〜31)の詳細は以下の通りである。
21)凝集銀粉:G−35(平均粒径5.9μm、DOWAエレクトロニクス社製)
22)フレーク状銀粉:FA−D−3(平均粒径1.6μm、DOWAエレクトロニクス社製)
23)AR:アクリルゴム(Nipol AR51、日本ゼオン社製)
24)IIR:ブチルゴム(BUTYLO065、JSR社製)
25)NBR:ニトリルゴム(Nipol DN003、アクリロニトリル含量50重量%、日本ゼオン社製)
26)CSM:クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM-TS530、東ソー社製)
27)CR:クロロプレンゴム(DOR-40、デンカ社製)
28)UR:ウレタンゴム(コートロンKYU−1、三洋化成社製)
29)EPDM:エチレンプロピレンゴム(EP11、JSR社製)
30)ウレタンゴムシート:厚み1mm、(タイガースポリマー社製)
31)シリコーンゴムシート:厚み1mm(アズワン社製)
【0061】
実施例5〜12及び比較例6〜12の導電性膜及び導電性複合膜の評価方法は、比抵抗の評価については実施例1〜4と同じ評価方法により行った。その他の評価方法については、以下の通りである。
【0062】
[繰り返し伸縮性の評価]
繰返し耐久試験機(レスカ社製、TIQ−100)を用い、導電性膜試験片および導電性複合膜試験片の両端を保持するチャック部に電極を設け、元の長さの20%伸長した状態、および元の長さに戻した状態でのシート抵抗を2端子法により測定した。伸長速度および元の長さに戻す速度は、ともに60mm/分とした。なお、シート抵抗測定の際には、自然状態(0%伸長度)および20%伸長度に達してから30秒後の値を読み取った。この伸縮操作を1000回繰り返した後の自然状態の比抵抗を測定した。
【0063】
[密着性の評価]
100升目による碁盤目試験により実施した。導電性複合膜の導電性膜にカミソリで基材シートまで届く直角に交差する11本の直線を1mm間隔でカットして碁盤目100個を描き、碁盤目上に粘着テープ(セロテープ(登録商標)、(ニチバン(株)製))を強く圧着し、テープをはがした後の碁盤目のはがれ状態を観察した。表1の結果の数値は、(試験で剥離せず残存した枡目数)/(試験前の枡目数)を表す。
【0064】
[伸長性の評価]
導電性複合膜試験片を3倍伸長時(伸張率200%)の導電性膜の比抵抗を測定し、10倍伸長時(伸張率900%)の導電膜の外観を観察した。
【0065】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜4の導電性膜は、自然状態の良好な導電性だけでなく36%以上の伸長時でも高い導電性を維持することができ、均質性、捻り性、圧縮性に優れている。一方、比較例1〜5の導電性膜は、実施例1〜4に比べて比抵抗が高いか、又は均質性が悪く、伸長作用、捻り作用、圧縮作用により比抵抗が大幅に増加する。
【0066】
表2の結果から明らかなように、実施例5〜7の導電性膜は、比較例6〜7に比べて、伸長時でも高い導電性を維持することができ、繰り返し伸縮後も導電性の低下は小さい。
また、表3の結果から明らかなように、実施例8〜12の導電性複合膜は、伸長時でも高い導電性を維持することができ、繰り返し伸縮後も導電性の低下は小さく、密着性の低下もほとんど見られない。一方、比較例8〜11の導電性膜は、実施例8〜12に比べて、伸長により破断を招くか、繰り返し伸縮により密着性が大きく低下する。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の導電性ペーストは、高い導電率と高い伸縮性、優れた繰り返し伸縮性、基材との優れ多密着性を有するを有することから、ゴムやエラストマー材料を利用した折り曲げ可能なディスプレイ、伸縮性LEDアレイ、伸縮性太陽電池、伸縮性アンテナ、伸縮性バッテリ、アクチュエーター、ヘルスケアデバイスや医療用センサー、ウエアラブルコンピュータなどの電極や配線などに好適に利用することができる。