特許第6690530号(P6690530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690530
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】赤外光透過性ポリエステル樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20200421BHJP
   C08L 63/00 20060101ALI20200421BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20200421BHJP
   F21V 29/87 20150101ALI20200421BHJP
【FI】
   C08L67/00
   C08L63/00 A
   C08K5/098
   F21V29/87
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-512138(P2016-512138)
(86)(22)【出願日】2016年1月20日
(86)【国際出願番号】JP2016051524
(87)【国際公開番号】WO2016117586
(87)【国際公開日】20160728
【審査請求日】2018年12月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-8327(P2015-8327)
(32)【優先日】2015年1月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2015-135076(P2015-135076)
(32)【優先日】2015年7月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】下拂 卓也
(72)【発明者】
【氏名】中川 知英
(72)【発明者】
【氏名】安井 淳一
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−238778(JP,A)
【文献】 特開2004−018793(JP,A)
【文献】 特開2004−323554(JP,A)
【文献】 特開2008−156616(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/148992(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/076934(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/108836(WO,A1)
【文献】 特開2015−021078(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 67/00 − 67/08
C08L 63/00 − 63/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)0.1〜1質量部、及び多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)0.05〜3質量部を含有するポリエステル樹脂組成物であり、前記ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)とポリエチレンテレフタレート樹脂(b)とを質量比で100:0〜50:50の割合で含み、該ポリエステル樹脂組成物が下記要件(1)及び(2)を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(1)該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長800〜1100nmにおける透過率の平均値が20%以上75%以下であること
(2)熱変形温度(0.45MPa)が150℃以上であること
【請求項2】
前記炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を構成する金属が、リチウム、ナトリウム、及びカリウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を構成する有機カルボン酸が、炭素数3〜20の脂肪族カルボン酸であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項4】
着色剤(D)を含み、該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長300〜700nmにおける透過率が実質的に0%であることを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
【請求項5】
着色剤(D)を含み、該ポリエステル樹脂組成物が下記要件(3)を満たすことを特徴とする請求項に記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)Color−L≦7
[上数式中、Color−Lはポリエステル樹脂組成物のCIE色差系のL系による色相L値を示す。]
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を用いて成形されたランプ用部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外光透過性に優れ、かつ良好な耐熱性、低ガス性を有する、意匠部材(特にランプ部材)として用いるのに好適なポリエステル樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、その優れた射出成形性、機械特性、耐熱性、電気特性、耐薬品性等を利用して、自動車部品、機械部品、電気・通信部品等の分野で射出成形品として広く利用されている。さらに金型転写性にも優れ、特に良好な外観が求められる自動車のエクステンション用途等のランプ部材にも好適に用いられる。またその用途から、樹脂の耐熱性や成形時等におけるガス発生抑制(低ガス性)を高度に制御する必要がある。
【0003】
一方、近年、高級車等のヘッドランプにはLEDライトが搭載され、ランプデザインもこれまでと一新され始めている。例えば、リフレクタータイプ(光源の光をリフレクターで反射して照射)では光源直近の部分をアルミニウム蒸着する必要があるが、それをプロジェクタータイプ(光源の光を前方のレンズへ集光して照射)に変更し、光源直近の部分を黒原着仕様とするデザインも出てきている。しかしこの変更によって、太陽光がプロジェクターレンズで反射し、その光が周辺の黒部分に集光した際、集光部分が非常に高温になることに起因してキズが付くというような太陽光集光問題が発生するようになった(この現象自体は昔から知られていたが、ランプデザイン上これまではあまり問題になることはなかった)。この問題を受けて、太陽光が集光しても高温にならないような赤外光を透過する材料や、高温となってもキズが付かない、耐熱性を有する材料が求められている。
【0004】
赤外光を透過させる技術として、例えば特許文献1〜3には、ポリブチレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレート共重合体からなる樹脂と、ポリカーボネート樹脂、スチレンアクリロニトリル樹脂、1,4−シクロヘキサンジメタノール成分を含むポリエステル樹脂等の非晶樹脂を配合してなる樹脂組成物が開示されている。しかし、これらの技術はポリブチレンテレフタレート系樹脂の赤外光透過性を上げるのには有用であるが、非晶樹脂の添加により熱変形温度が著しく低下するため、特にランプ部材用途としては実用的に使用が困難である。
【0005】
また太陽光日射による温度上昇を抑える黒原着ポリエステル樹脂組成物を得る技術として、例えば特許文献4には、カーボンブラックを含有せず、調色により黒色とした顔料を含有するポリエチレンテレフタレート樹脂組成物が開示されている。本発明によれば非カーボンブラック系顔料の使用により、カーボンブラックの赤外光吸収性により蓄熱する熱量分に相当する温度の低下が可能であるが、その温度上昇抑制効果は小さく、大いに改善の余地がある。
【0006】
一方、赤外光透過性を高めるため、ポリエステルに脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩を添加する技術が開示されている(例えば特許文献5参照)。本技術により赤外光の透過性を高めることは可能であるが、本技術の組成によれば脂肪族カルボン酸のアルカリ金属塩やその分解物に起因するブリードアウトや射出成形時の金型汚れ等が問題になる可能性が非常に高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−315805号公報
【特許文献2】特許第5034217号公報
【特許文献3】特開2008−106217号公報
【特許文献4】特開2014−125588号公報
【特許文献5】特表2014−512420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、赤外光透過性に優れ、かつ良好な耐熱性、低ガス性を有する、意匠部材(特にランプ部材)として用いるのに好適なポリエステル樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
[1] ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)0.1〜1質量部、及び多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)0.05〜3質量部を含有するポリエステル樹脂組成物であり、該ポリエステル樹脂組成物が下記要件(1)及び(2)を満たすことを特徴とするポリエステル樹脂組成物。
(1)該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長800〜1100nmにおける透過率の平均値が20%以上75%以下であること
(2)熱変形温度(0.45MPa)が150℃以上であること
[2] 前記ポリエステル樹脂(A)が、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)とポリエチレンテレフタレート樹脂(b)とを質量比で100:0〜50:50の割合で含んでいる[1]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[3] 前記炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を構成する金属が、リチウム、ナトリウム、及びカリウムから選ばれる1種または2種以上であることを特徴とする[1]または[2]に記載のポリエステル樹脂組成物。
[4] 前記炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を構成する有機カルボン酸が、炭素数3〜20の脂肪族カルボン酸であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[5] 着色剤(D)を含み、該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長300〜700nmにおける透過率が実質的に0%であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物。
[6] 着色剤(D)を含み、該ポリエステル樹脂組成物が下記要件(3)を満たすことを特徴とする[5]に記載のポリエステル樹脂組成物。
(3)Color−L≦7
[上数式中、Color−Lはポリエステル樹脂組成物のCIE色差系のL系による色相L値を示す。]
[7] [1]〜[6]のいずれかに記載のポリエステル樹脂組成物を用いて成形されたランプ用部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明のポリエステル樹脂組成物の特徴の1つは、高い結晶性を維持したまま、赤外光透過性を飛躍的に高めた点である。そのため、タルク等の強化フィラーを添加せずとも良好な耐熱性(高い熱変形温度)を実現でき、高い赤外光透過性と優れた耐熱性を両立できる。さらにガス発生をも高度に制御した樹脂成形体を得ることができるため、耐フォギング性に優れるとともに射出成形時の金型汚れ等を低減することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を詳述する。
【0012】
[ポリエステル樹脂(A)]
本発明で使用可能なポリエステル樹脂(A)としては、ジカルボン酸成分及びジオール成分を構成単位とするポリエステル樹脂であることが好ましい。
ジカルボン酸成分としては、芳香族ジカルボン酸を主成分とするものが好ましい。主成分とは、全ジカルボン酸単位に対して、通常70モル%以上、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、特に好ましくは95モル%以上を示す。芳香族ジカルボン酸以外では、脂肪族ジカルボン酸が使用可能である。
【0013】
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,3−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニル−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルエーテルジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−p,p’−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸が挙げられ、これらの中では、テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。
脂肪族ジカルボン酸としては、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、ダイマー酸ならびにシクロヘキサンジカルボン酸等の、通常、炭素数が2以上40以下の鎖状あるいは脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
以上のジカルボン酸成分は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
ジカルボン酸成分及びジオール成分以外に、ヒドロキシカルボン酸成分やラクトン成分を共重合しても構わない。その使用量は、全モノマー成分に対して、30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましい。
【0014】
ジオール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノールなどが挙げられる。これらの中では、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオールが好ましい。
【0015】
好ましいポリエステル樹脂(A)としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレンナフタレートが挙げられる。
ポリエステル樹脂(A)は、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度(IV)が0.36〜1.60dl/gであることが好適であり、0.52〜1.25dl/gの範囲にあるものがより好適であり、0.58〜1.12dl/gの範囲にあるものがさらに好適であり、0.62〜1.02dl/gの範囲にあるものが最も好適である。(A)の固有粘度が、0.36〜1.60dl/gであることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物の機械的特性、成形性が良好となる。
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)及びポリエチレンテレフタレート樹脂(b)を特定の配合量で含有することが好ましい。
また、本発明において、ポリエステル樹脂(A)としては、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(c)、ポリブチレンナフタレート樹脂(d)を使用することも好ましい。その場合、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(c)は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)の代替として使用可能であり、ポリブチレンナフタレート樹脂(d)は、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)の代替として使用可能である。
【0016】
本発明で用いることができるポリブチレンテレフタレート樹脂(a)とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と、1,4−ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし重縮合反応させる等の一般的な重合方法によって得られる重合体である。ブチレンテレフタレート繰返し単位が80モル%以上の重合体であることが好ましく、ブチレンテレフタレート繰返し単位は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、100モル%が最も好ましい。特性を損なわない範囲、例えば20質量%程度以下で、他の共重合成分を含んでも良い。共重合体の例としては、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合しても良い。
【0017】
本発明で用いることができるポリブチレンテレフタレート樹脂(a)は、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度(IV)が0.36〜1.60dl/gであることが好適であり、0.52〜1.25dl/gの範囲にあるものがより好適であり、0.58〜1.12dl/gの範囲にあるものがさらに好適であり、0.62〜1.02dl/gの範囲にあるものが最も好適である。(a)の固有粘度が、0.36〜1.60dl/gであることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物の機械的特性、成形性が良好となる。
【0018】
本発明で用いることができるポリブチレンナフタレート樹脂(d)についても、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)と同様である。
【0019】
本発明で用いることができるポリエチレンテレフタレート樹脂(b)とは、テレフタル酸あるいそのエステル形成性誘導体とエチレングリコールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体である。エチレンテレフタレート繰返し単位が80モル%以上の重合体であることが好ましく、エチレンテレフタレート繰返し単位は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、100モル%が最も好ましい。特性を損なわない範囲、例えば20質量%程度以下で、他の共重合成分を含んでも良い。共重合体の例としては、ポリエチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリエチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリエチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリエチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリエチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(エチレン/シクロヘキサンジメチル)/テレフタレート、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合しても良い。上記のポリエチレンテレフタレート樹脂(b)を用いることによって、樹脂組成物の成形収縮率を制御することができる。
【0020】
本発明で用いることができるポリエチレンテレフタレート樹脂(b)は、o−クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度(IV)が0.36〜1.60dl/gであることが好適であり、0.45〜1.35dl/gの範囲にあるものがより好適であり、0.50〜1.20dl/gの範囲にあるものがさらに好適であり、0.55〜1.05dl/gの範囲にあるものが最も好適である。(b)の固有粘度が0.36〜1.60dl/gであることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物の機械的特性、成形性が良好となる。
【0021】
本発明で用いることができるポリトリメチレンテレフタレート樹脂(c)についても、ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)と同様である。
【0022】
本発明において、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)及びポリエチレンテレフタレート樹脂(b)の配合量は、(a)と(b)の質量比((a):(b))で100:0〜50:50であることが好ましい。より好ましくは(a):(b)=100:0〜60:40、さらに好ましくは(a):(b)=100:0〜70:30、特に好ましくは(a):(b)=100:0〜80:20、最も好ましくは(a):(b)=100:0〜90:10である。ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)の配合によって、樹脂組成物の成形収縮率を制御することが可能であるが、配合量が50質量部を超えると樹脂組成物の射出成形時の離型性の悪化や樹脂の耐熱性の低下が生じたり、ポリエステル樹脂組成物の結晶化速度が遅くなるために、100℃〜200℃の範囲の温度環境下で結晶化が徐々に進行し、しだいに赤外光透過性が低下したりする場合がある。
本発明において、ポリエステル樹脂(A)中の、ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)及びポリエチレンテレフタレート樹脂(b)の合計量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%であっても良い。
【0023】
上記の配合量の説明において、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)」は、「ポリブチレンテレフタレート樹脂(a)、ポリブチレンナフタレート樹脂(d)の少なくとも一方」、「ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)」は、「ポリエチレンテレフタレート樹脂(b)、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(c)の少なくとも一方」と読み替えて考えることができる。
【0024】
[炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)0.1〜1質量部を含有する。
有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)が0.1質量部未満の場合、ポリエステル樹脂組成物の赤外光透過性が低下する傾向がある。また、有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を、1質量部を超えて配合した場合、アルカリ金属塩の触媒作用によりポリエステル樹脂組成物が著しく分解し、分子量や機械的強度の低下が生じる。有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し0.1〜0.7質量部であることが好ましく、0.15〜0.5質量部であることがより好ましい。
【0025】
本発明に用いる炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)とは、炭素数3〜40の脂肪族、脂環族または芳香族のカルボン酸のアルカリ金属塩である。アルカリ金属としては、ナトリウム、カリウム、リチウムが好ましい。
脂肪族カルボン酸とは、直鎖または分岐した脂肪族基にカルボキシル基が付いた化合物であり、結合の一部に、不飽和基、脂環族基、芳香族基あるいは水酸基、リン酸エステル基等のその他の置換基を有していても良い。
【0026】
脂肪族カルボン酸の中で、プロピオン酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミスチリン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、モンタン酸等が好ましく、アルカリ金属塩の中では、ナトリウム塩がポリエステル樹脂に対する溶解性、良結晶核形成性の点で好ましい。
【0027】
炭素数3〜40の有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)を構成する有機カルボン酸は、融解性、ポリエステル樹脂との相溶性の観点より、炭素数3〜20の脂肪族カルボン酸であることが好ましく、炭素数6〜20の脂肪族カルボン酸であることがより好ましい。これらの中でも、炭素数が14未満の脂肪族カルボン酸金属塩は、少量の配合で赤外光透過性を向上させることができる点で好ましい。
【0028】
上記有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)による赤外光透過性向上作用についての詳細は定かではないが、ポリエステル樹脂(A)と有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)との組成物の示差走査熱量分析(DSC)の結果、ポリエステル樹脂(A)単体に比べ、降温時結晶化ピークが高温側にシフトし、シャープになること、さらには組成物中から有機カルボン酸が検出されたことから、次のように推定している。
前記DSCの挙動はすなわち、結晶化速度が速くなり、結晶サイズが均一化されていることを意味する。よって有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)が結晶核剤としてポリエステル樹脂(A)に作用し、均一な大きさの微結晶を形成することにより、赤外光透過性が高くなると考えている。さらに有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)は、ポリエステル樹脂(A)のカルボキシル基をイオン交換反応でアルカリ金属塩基に変化させて、分子鎖末端の運動性を低下させ、さらなる結晶化を阻害し、該イオン交換反応の進行に伴って、有機カルボン酸が遊離してくるものと考えられる。
【0029】
有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)は、有機カルボン酸系以外のアルカリ金属塩と比較して、少量の配合で効果的に赤外光透過性を向上させることができる。これは有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の分子量が比較的小さいため、同質量部添加の場合、分子数が多くなり結晶化が分散して起こりやすくなること、また、分子サイズが比較的小さいため、これを結晶核として生成するポリエステル樹脂(A)の結晶サイズが小さくなることに起因する(すなわち結晶が成長しにくく微結晶化する)効果と考えられる。
【0030】
上記有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)は、2種以上を併用しても良い。炭素数3以上14未満のものと炭素数14以上のものとを併用すると、炭素数3以上14未満のものの溶解性が向上して、赤外光透過性が向上しやすい点で好ましい。
【0031】
[多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)0.05〜3質量部を含有する。
多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)をこの範囲にすることで、増粘効果と遊離する有機カルボン酸等のガス化成分の捕捉効果を効率良く発揮できる。混練時には増粘効果によって溶融粘度が上がり、せん断応力が高くなることで、有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の分散を促進することができる。また増粘効果により結晶の生長が阻害され、有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)による微結晶化を促すことが可能となる。さらには遊離する有機カルボン酸等のガス化成分の捕捉効果により、優れた低ガス性を実現できる。
多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)が3質量部より多いと、ポリエステル樹脂(A)との反応によりゲル化を引き起こしたり、相溶性の問題から赤外光透過性が低下する場合がある。また、多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)が0.05質量部未満であると有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の分散が不均一となったり、遊離する有機カルボン酸の捕捉効果が小さくなり、低ガス性が損なわれる場合がある。多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)の配合量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜3質量部であることが好ましく、0.15〜2質量部であることがより好ましく、0.2〜1質量部であることがさらに好ましく、0.2〜0.7質量部であることが特に好ましい。
【0032】
本発明に用いる多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)としては、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が良く、かつポリエステル樹脂(A)との屈折率差が小さいものが好ましい。重量平均分子量(Mw)は1000以上、エポキシ価は0.5meq/g以上が好ましく、1.0meq/g以上がより好ましい。
多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)の具体的な成分としては、グリシジル基含有不飽和単量体とビニル芳香族系単量体との共重合体が好ましい。
【0033】
前記グリシジル基含有不飽和単量体としては、不飽和カルボン酸グリシジルエステル、不飽和グリシジルエーテル等であり、不飽和カルボン酸グリシジルエステルとしては、例えばアクリル酸グルシジル、メタアクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル等を挙げることができるが、メタアクリル酸グリシジルが好ましい。不飽和グリシジルエーテルとしては、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2−メチルアリルグリシジルエーテル、メタクリルグリシジルエーテル等が挙げられるが、メタクリルグリシジルエーテルが好ましい。
【0034】
前記ビニル芳香族系単量体としては、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、エチルスチレン等のスチレン系単量体が挙げられるが、スチレンが好ましい。
【0035】
グリシジル基含有不飽和単量体とビニル芳香族系単量体との共重合の割合は、グリシジル基含有不飽和単量体の共重合量が、好ましくは1〜30質量%であり、より好ましくは2〜20質量%である。
グリシジル基含有不飽和単量体の共重合量が、1質量%未満では結晶性阻害効果が少なく十分な赤外光透過性が得られない、かつ遊離する有機カルボン酸の捕捉効果が小さくなり、低ガス性に悪影響を及ぼす傾向がある。30質量%を超えると樹脂組成物としての安定性が損なわれる場合がある。
【0036】
ポリエステル樹脂(A)との相溶性を損なわない範囲で、アクリル酸もしくはメタクリル酸の炭素数1〜7のアルキルエステル、例えば(メタ)アクリル酸のメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチルエステル等の(メタ)アクリル酸エステル単量体、(メタ)アクリルニトリル単量体、酢酸ビニル、プロピル酸ビニル等のビニルエステル単量体、(メタ)アクリルアミド単量体、無水マレイン酸、マレイン酸のモノエステル、ジエステル等の単量体等が共重合されていても良い。しかしながらエチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィン類は、ポリエステル樹脂(A)との相溶性が損なわれる傾向があるため、共重合されないものの方が好ましい。
【0037】
多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)としては、多官能グリシジルスチレンアクリル系ポリマーであり、重量平均分子量(Mw)が1000以上、エポキシ価が0.5meq/g以上であることが好ましい。このとき、重量平均分子量(Mw)は、5000以上であることがより好ましく、7000以上であることがさらに好ましく、8000以上であることが特に好ましい。重量平均分子量(Mw)が、1000未満だと、1分子あたりのグリシジル基が少なくなり、遊離する有機カルボン酸の捕捉効果が低くなるため、好ましくない。重量平均分子量(Mw)は、ポリエステル樹脂(A)との相溶性の観点より50000以下であることが好ましい。また、エポキシ価は0.6meq/g以上であることがより好ましく、0.65meq/g以上であることがさらに好ましい。エポキシ価が0.5meq/g未満だと、遊離する有機カルボン酸の捕捉効果が低くなるため好ましくない。エポキシ価は、ポリエステル樹脂(A)との過剰反応抑制の観点より、3meq/g以下であることが好ましい。
【0038】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記した構成を有することで、該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長800〜1100nmにおける透過率の平均値が20%以上75%以下である。透過率測定の詳細は、実施例の項に記載する通りであるが、該ポリエステル樹脂組成物を金型温度60℃で射出成形して得られた厚さ2mmの平板を用い、分光光度計で測定される。平均値とは、800〜1100nmにおいて、各波長における透過率の和を測定数で割った値である。測定数はサンプリングピッチによって異なる。例えば、サンプリングピッチが1nmの場合、800、801、802、・・・、1098、1099、1100nmのように1nmごとの透過率データが得られ、測定数は301個となる。よってこの場合、波長800〜1100nmにおける透過率の平均値は(各波長における透過率の和/301)で求められる。
波長800〜1100nmの透過率の平均値がこの範囲にあることで、太陽光が集光しても高温になりにくい。
本発明のポリエステル組成物の特徴は、高い結晶性を維持したまま、赤外光透過性を飛躍的に高めた点である。そのため太陽光が集光しても極めて高温になりにくく、キズが付きにくい。波長800〜1100nmの透過率の平均値が75%を超えると、樹脂組成物の結晶性が著しく低下し、耐熱性が損なわれるため好ましくない。波長800〜1100nmの透過率の平均値が20%未満であると、太陽光の集光により非常に高温となる場合がある。波長800〜1100nmの透過率の平均値は、25%以上が好ましく、また70%以下が好ましい。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、上記した構成を有することで、荷重0.45MPaにおける熱変形温度が150℃以上である。熱変形温度は、実施例の項に記載に従い測定される。
熱変形温度が150℃未満であると、耐熱性が不足し、特に耐熱性が要求される用途には使用できない場合がある。熱変形温度が150℃以上の場合、ポリエステル樹脂組成物はランプ部材用樹脂としての耐熱性を満足するといえる。熱変形温度は155℃以上が好ましく、その場合、ランプ部材用樹脂としての耐熱性をより高度に満足し、160℃以上がより好ましく、その場合、さらに高度に満足するといえる。
一般的に熱変形温度を上げる技術として、タルク等の無機フィラーを添加する技術が知られているが、本発明によれば、無機フィラーを添加せずとも高い耐熱性(熱変形温度)が得られる。これは有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の効果により、樹脂組成物の結晶化度を維持もしくは上げながら、均一な大きさの微結晶を形成できるために実現するものと考えられる。
【0040】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、フォギング試験(160℃)後のガラスプレートのヘイズ値が5%以下とすることができる。本発明によれば、ガスの発生を効果的に抑制でき、優れた耐フォギング性を有することができる。
ガスの発生量が多く、フォギング試験(160℃)後のガラスプレートのヘイズ値が5%を超えると、各種ランプ部品として実用上、フォギングの問題がある。さらに射出成形時に金型を汚染しやすくなり、品位や生産性に悪影響を及ぼす場合がある。
【0041】
前記フォギング試験は以下の方法で実施することができる。
射出成形品(厚さ2mm)から40mm×40mm程度の大きさの小片を切り出し、その合計10gを、アルミ箔を被せて底を作製したガラス筒(例えばφ65×80mm)に入れ、ホットプレート上にセットする。さらに、上記ガラス筒に隙間ができないようにスライドガラス(例えば78mm×76mm×厚さ1mm)で蓋をした後、160℃で24時間、熱処理を行う(この熱処理の結果、スライドガラス内壁にはポリエステル樹脂組成物より昇華した分解物等による付着物が析出する)。スライドガラスのヘイズ値を、ヘイズメーター等を用いて測定する。
【0042】
[着色剤(D)]
本発明のポリエステル樹脂組成物は、着色剤(D)を含有することができる。
着色剤として顔料を用いると赤外透過性が著しく低下するため、赤外光透過性染料を用いることが好ましい。赤外光透過性染料は公知のものを使用することができ、1種もしくは2種以上の染料を混合して用いても良い。染料はコンパウンド時に直接樹脂に添加しても良いし、マスターバッチとして添加しても良い。分散性、ハンドリング性の観点から、マスターバッチで添加するほうが好ましい。色は意匠性の観点から黒が好ましい。
ポリエステル樹脂組成物に添加可能な染料としては、例えばキノリン系化合物、アントラキノン系化合物、ペリノン系化合物等の染料を挙げることができる。これらは耐熱性が良好であり、ポリエステル樹脂組成物のコンパウンドや射出成形時に熱分解しにくい。
耐熱性やフォギング性の観点から、赤外光透過性染料の1分子あたりの分子量は350以上が好ましく、380がより好ましく、400以上がさらに好ましい。融点は150℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。分子量、もしくは融点のいずれか一方がこの範囲を満たせばよく、分子量、融点がともにこの範囲を満たすことが特に好ましい。赤外光透過性染料を2種以上混合して用いる場合、それぞれの染料単体での分子量、融点が上記範囲を満たすことが好ましい。
ただし、分子量、融点が上記範囲を満たしても、樹脂中に含まれるガス成分との相互作用が高い等の影響で、ガス化成分が揮散する際に誘発されて染料もともに揮散する場合がある。本発明においては、フォギング性の観点からアントラキノン系化合物、ペリノン系化合物が好ましく使用できる。
着色剤(D)を含む場合、その含有量はポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.05〜3質量部であることが好ましい。0.05質量部未満では、隠蔽性が低く、意匠性が損なわれる場合がある。3質量部を超えるとブリードアウトやフォギングが問題となる場合がある。着色剤(D)の含有量は、0.1〜2質量部がより好ましく、0.2〜1質量部がさらに好ましい。
着色剤がマスターバッチとして市販されている場合は、用いられているベース樹脂や着色剤の種類にもよるが、(特に染料の場合)着色剤としての含有量は通常、5〜20質量%程度であることが多い。
【0043】
前記赤外光透過性染料をマスターバッチとして添加する場合、該マスターバッチペレットの色相(ペレット形状での測定値)は、CIE色差系のL系による色相L値(Color−L)が22以下、色相a値(Color−a)が−1.5以上1.5以下、色相b値(Color−b)が−1.5以上1.5以下であることが好ましい(いずれもSCE方式による測定値)。
赤外光透過性染料のマスターバッチの色相が上記範囲内にあることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物は染料の分散性、ハンドリング性を損なうことなく、十分な黒色性を得ることができる。
マスターバッチの色相が上記範囲を超えると、ポリエステル樹脂組成物が十分な黒色性を得られず、意匠性が損なわれる場合がある。
該マスターバッチペレットの色相は、より好ましくは、CIE色差系のL系による色相L値(Color−L)が21以下、色相a値(Color−a)が−1以上1以下、色相b値(Color−b)が−1以上1以下である(いずれもSCE方式による測定値)。
【0044】
着色剤(D)を含んだ本発明のポリエステル樹脂組成物は、該ポリエステル樹脂組成物から得られた厚さ2mmの平板の波長300〜700nmにおける透過率が実質的に0%であることが好ましい。この波長での透過率測定については、前記と同様である。
「実質的に」とは、測定時のノイズを考慮しないことを意味する。通常、0±0.05%である場合、実質的に0%であると見なせる。本発明では、波長300〜700nmにおける透過率が0±0.05%の範囲であることを、実質的に0%とする。
波長300〜700nmの透過率が実質的に0%であると、可視光隠蔽性が高く、意匠性が高いため好ましい。波長300〜700nmの透過率が0%(実質的に0%)を超えると、可視光隠蔽性が十分でないため、意匠性が低い。
【0045】
着色剤(D)を含んだ本発明のポリエステル樹脂組成物は、意匠性の観点から、CIE色差系のL系による色相L値(Color−L)が7以下(SCE方式による測定値)であることが好ましい。
Color−L≦7 …(I)
値が7以下であることにより、本発明のポリエステル樹脂組成物は十分な黒色性を有することができ、溶融成形等により得られる成形品においても、十分な黒色性を発現することができるため、意匠性に優れる。色相L値は、好ましくは6以下、より好ましくは5以下である。色相L値が7より高いと、黒色性が不足し、意匠性が低い。
【0046】
本発明のポリエステル樹脂組成物には、耐熱性及び剛性をより向上させるために、本発明としての特性を損なわない範囲において、無機フィラー(E)を含有させても良い。無機フィラー(E)は特に限定されず、公知のものを使用できる。また、無機フィラー(E)は、ポリエステル樹脂組成物との相溶性及び分散性を高めるため、表面処理されていても良い。
表面外観の観点から無機フィラー(E)の平均粒子径は3.0μm以下が好ましい。また、無機フィラー(E)の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対して、1質量部以下が好ましく、0.8質量部以下がより好ましく、0.5質量部以下がさらに好ましい。1質量部を超えると、無機フィラーを結晶核剤として粗大な結晶が生成し、赤外透過性が著しく低下する場合がある。
上記で説明した通り、一般的に熱変形温度を上げる技術として、タルク等の無機フィラーを添加する技術が知られている。しかし、該無機フィラーを結晶核として生成する結晶のサイズに起因して、赤外光透過性が著しく低下する場合があり、太陽光の集光により温度上昇しやすくなる。よって、本発明のポリエステル樹脂組成物の一つの好ましい態様としては、タルク等の無機フィラーを含有しないものである。
【0047】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、離型性をより向上させるために、本発明としての特性を損なわない範囲において、離型剤を含有させても良い。
離型剤の含有量は、ポリエステル樹脂(A)100質量部に対し、0.1〜3質量部が好ましい。離型剤が0.1質量部未満であると十分な離型効果が得られず、離型不良や離型ジワ等が問題となる場合がある。離型剤はそれ自体がガスとなったり、及びブリードアウトしたりすることによって、金型を汚染したり、100℃〜200℃の範囲の温度環境下でレンズカバーやミラー等に付着し曇りを発生(フォギング)させたりする問題がある。離型剤が3質量部を超えると、これらの問題が顕著となる。
【0048】
離型剤の種類としては、ポリエステルに使用可能なものであれば特に制限はない。例えば、長鎖脂肪酸またはそのエステルや金属塩、アマイド系化合物、ポリエチレンワックス、シリコン、ポリエチレンオキシド等が挙げられる。長鎖脂肪酸としては、特に炭素数12以上が好ましく、例えばステアリン酸、12−ヒドロキシステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、部分的もしくは全カルボン酸が、モノグリコールやポリグリコールによりエステル化されていてもよく、または金属塩を形成していても良い。アマイド系化合物としては、エチレンビステレフタルアミド、メチレンビスステアリルアミド等が挙げられる。これら離型剤は、単独であるいは混合物として用いても良い。離型剤として、上記(B)成分と重複する化合物があるが、そのような化合物を離型剤として用いる場合、(B)成分の量と離型剤の量の合計は、前記した(B)成分の許容される含有量の範囲である必要がある。
【0049】
その他、本発明のポリエステル樹脂組成物には、必要に応じて、本発明としての特性を損なわない範囲において、公知の範囲で各種添加剤を含有させることができる。公知の添加剤としては、例えば耐熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、可塑剤、変性剤、帯電防止剤、難燃剤等が挙げられる。
本発明のポリエステル樹脂組成物は、(A)、(B)、(C)、及び(D)成分((D)成分は任意成分)の合計で、85質量%以上を占めることが好ましく、90質量%以上を占めることがより好ましく、95質量%以上を占めることがさらに好ましい。
【0050】
本発明のポリエステル樹脂組成物を製造する方法としては、上述した各成分及び必要に応じて各種安定剤等を混合し、溶融混練することによって製造できる。溶融混練方法は当業者に周知のいずれの方法を用いることが可能であり、単軸押出機、二軸押出機、加圧ニーダー、バンバリーミキサー等を使用することができる。中でも二軸押出機を使用することが好ましい。一般的な溶融混練条件としては、二軸押出機ではシリンダー温度は230〜270℃、混練時間は2〜15分である。
【0051】
本発明のポリエステル樹脂組成物の成形方法としては特に制限されず、射出成形、押出成形、ブロー成形等の公知の方法を用いることができる。中でも、汎用性の観点から、射出成形法が好ましく使用される。
【0052】
本発明のポリエステル樹脂組成物の成形品は、表面の少なくとも一部に、光反射金属層を直接形成(蒸着)することができる。蒸着方法は特に制限されず、公知の方法を用いることができる。
【0053】
本発明のポリエステル樹脂組成物を用いて成形された成形品は、意匠部材(特にランプ部材)として好適に使用できる。例えば自動車用ランプ(ヘッドランプ等)部材、光反射体(エクステンション、リフレクター、ハウジング等)、さらには照明器具、電気・電子部品、家庭雑貨品等の部材として使用できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例に記載された測定値は、以下の方法によって測定したものである。
【0055】
(1)赤外光(波長800〜1100nm)/可視光(波長300〜700nm)の透過率
実施例・比較例で得たペレットを、射出成形機を用いて成形を行った。射出成形機EC−100N(東芝機械社製)を用い、100mm×100mm×2mm厚みの平板成形品を射出成形した。成形はシリンダー温度260℃、金型温度60℃で行った。
分光光度計UV‐3150(島津製作所社製)(標準白色板には硫酸バリウム系白色板を使用)を用いて、サンプリングピッチ1.0nm、スリット幅(12)として波長300〜1500nmの透過率を測定し、波長800〜1100nmの透過率の平均値(各波長における透過率の和/301)を算出した。
着色剤を用いた場合は、別途、波長300〜700nmの透過率を測定した。
【0056】
(2)熱変形温度(荷重:0.45MPa)
射出成形機EC−100Nを用いてISO−3167の多目的試験片を成形し、ISO−75に従って、荷重0.45MPaで熱変形温度を測定した。
【0057】
(3)ヘイズ値
厚さ2mmの射出成形品から40mm×40mm程度の大きさの小片を切り出し、その合計10gを、アルミ箔を被せて底を作製したガラス筒(φ65×80mm)に入れ、ホットプレート(ネオホットプレートHT−1000、アズワン社製)上にセットした。さらに、上記ガラス筒にスライドガラス(78mm×76mm×厚さ1mm)で蓋をした後、160℃で24時間、熱処理を実施した。この熱処理の結果、スライドガラス内壁には樹脂組成物より昇華した分解物等による付着物が析出した。これらのスライドガラスのヘイズ値を、ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業社製)を用いて測定した。
【0058】
(4)MFR(メルトフローレート)
ISO−1133に準じてA法で測定した。温度、荷重条件は250℃、2160gで測定した。
【0059】
(5)曲げ強度、たわみ率、曲げ弾性率
ISO−178に準じて測定した。
【0060】
(6)色相L
ポリエステル樹脂組成物の平板の色相は以下の方法にて測定した。
射出成形機EC−100N(東芝機械社製)を用い、#6000番のやすりで磨かれた鏡面を片面に有する金型を用い、100mm×100mm×2mm厚みの平板成形品を射出成形した。成形はシリンダー温度260℃、金型温度60℃で行った。
精密型分光光度色彩計TC−1500SX(東京電色社製)を用いて、JIS Z 8722、JIS Z 8781−4に準じて、成形板の鏡面側の色相L値(CIE色差系)を測定した。D65光源、10°視野、0°−d法、SCE方式にて測定した。
赤外光透過性染料マスターバッチペレットの色相は以下の方法にて測定した。
精密型分光光度色彩計TC−1500SX(東京電色社製)を用いて、JIS Z 8722、JIS Z 8781−4に準じて、ペレットを付属のケースに入れ、回転台にセットし、色相L値(CIE色差系)を測定した。D65光源、10°視野、0°−d法、SCE方式にて測定した。
【0061】
実施例及び比較例に使用した配合成分を次に示す。
【0062】
ポリエステル樹脂(A);
ポリブチレンテレフタレート樹脂(a):IV=0.83dl/g、酸価=30eq/t
ポリエチレンテレフタレート樹脂(b):IV=0.62dl/g、酸価=30eq/t
ポリトリメチレンテレフタレート樹脂(c):IV=0.93dl/g、コルテラ(シェル社製)
非晶樹脂;
ポリカーボネート樹脂:カリバー301‐40(住化スタイロンポリカーボネート社製)
【0063】
脂肪族カルボン酸アルカリ金属塩(B);
(B−1)カプリル酸ナトリウム(日東化成工業社製、融点220℃)
(B−2)ステアリン酸ナトリウム(日本油脂社製、融点230℃)
その他の核剤:
(B−3)アデカスタブNA−11(カルボン酸アルカリ金属塩ではない、芳香族系核剤、ADEKA社製、融点≧400℃)
(B−4)アデカスタブNA−21(カルボン酸アルカリ金属塩ではない、芳香族系核剤、ADEKA社製、融点≧210℃)
【0064】
多官能グリシジル基含有スチレンアクリル系ポリマー(C);
(C−1)ARUFON UG−4050(東亜合成社製、Mw:8500、エポキシ価0.67meq/g、屈折率1.55)
(C−2)ARUFON UG−4070(東亜合成社製、Mw:9700、エポキシ価1.4meq/g、屈折率1.57)
【0065】
着色剤(D);
(D−1)赤外光透過性染料マスターバッチ:PBF−TT2399B−PBT(PBT(ポリブチレンテレフタレート)樹脂ベースの黒色染料マスターバッチ、アントラキノン系化合物及びペリノン系化合物を混合した調色品、染料含有率合計10質量%;レジノカラー工業社製)、ペレット色相:Color−L=19.5、Color−a=−0.2、Color−b=−0.9
(D−2)紫色染料:DCC−V01301(Ningbo DCC Chemicals社製)
【0066】
無機フィラー;
タルク(平均粒子径:2.5μm[レーザー回折法]):ミクロエースSG−95(日本タルク社製)前記平均粒子径は、カタログ値を採用した。
【0067】
離型剤;
トリグリセリンフルベヘン酸エステル:ポエムTR−FB(理研ビタミン社製)
安定剤;
酸化防止剤:Irganox1010(BASF社製)
【0068】
(実施例1〜12、比較例1〜10)
表1、2に示す組み合わせで配合した配合成分を、シリンダー温度250℃(実施例8、比較例2、3、4は260℃)に設定した同方向二軸押出機でコンパウンドを行い、得られたストランドを水冷し、ペレット化した。得られた各ペレットを130℃で4時間乾燥し、上述の各評価試験に用いた。結果を表1、2に記す。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1に示すように、実施例1〜8、12の本発明のポリエステル樹脂組成物から得られる成形品は、赤外光透過率が20%以上、熱変形温度が150℃以上であり、優れた特性を有することが分かる。また、いずれもフォギング試験後のガラスプレートのヘイズ値が5%以下と良好であった。
実施例9、10は、黒色着色剤の添加により優れた可視光隠蔽性を付与できていることが分かる。物性は着色剤添加前と差異なく、いずれも良好であった。さらにフォギング試験後のガラスプレートのヘイズ値も5%以下と良好であった。紫色染料を用いた実施例11は、赤外光透過率及びその他の物性は良好であったが、色相Lが7を超えて、黒色性が不十分であった。
比較例1は、有機カルボン酸アルカリ金属塩、無機フィラーの添加がないため、赤外光透過性、ヘイズは問題なかったが、熱変形温度が低かった。比較例2、3は、非晶樹脂を添加した水準であり、高い赤外光透過性が得られたが、比較例1よりも熱変形温度が低下するとともに、フォギング試験後のガラスプレートのヘイズ値が高くなった。無機フィラーを添加することで(比較例4)、熱変形温度がやや上昇したものの十分ではなかった。
比較例1の組成に無機フィラーを添加すると(比較例5、6)、熱変形温度は高くなるものの、赤外光透過性が低下してしまうため、熱変形温度と赤外光透過性の物性の両立が困難であった。
有機カルボン酸アルカリ金属塩の添加量が少ない比較例7は、赤外光透過性、熱変形温度が低かった。
多官能グリシジル基含有スチレン系ポリマー(C)を含まない比較例8は、実施例2、3、4に比べて赤外光透過性の低下、フォギングの悪化が確認され、熱変形温度も低かった。また有機カルボン酸アルカリ金属塩(B)の分散が不均一であるためと思われるが、熱変形温度に関しては測定バラつきが非常に大きい問題もあった。
有機カルボン酸アルカリ金属塩以外の結晶核剤を使用した比較例9、10は、透明性、熱変形温度の向上が見られなかった。微結晶化効果が十分でなく、結晶サイズが大きくなったことが原因と推定している。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のポリエステル樹脂組成物は、赤外光透過性に優れ、かつ良好な耐熱性、低ガス性を有するため、意匠部材(特に太陽光集光によるキズ付きが問題となっているランプ部材用途)として用いるのに好適なポリエステル樹脂組成物であり、産業上の利用価値が大きい。