特許第6690617号(P6690617)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690617
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】磁気センサ装置および電流センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/20 20060101AFI20200421BHJP
   G01R 33/09 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   G01R15/20 B
   G01R33/09
【請求項の数】25
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-177331(P2017-177331)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2019-52946(P2019-52946A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2019年1月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】特許業務法人イトーシン国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100076233
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 進
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 研一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 克
【審査官】 田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/176271(WO,A1)
【文献】 特開2013−053903(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/063584(WO,A1)
【文献】 米国特許第06429640(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 15/00−17/22、
33/00−33/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出対象電流の値を検出する電流センサに用いられる磁気センサ装置であって、
磁気センサと、
第1の磁性層と、
前記第1の磁性層に接触していない第2の磁性層と
基板とを備え、
前記磁気センサと前記第1の磁性層と前記第2の磁性層は、それらを、前記検出対象電流によって発生する磁束のうちの互いに異なる一部が通過するように、仮想の直線と交差しながら前記仮想の直線に平行な第1の方向にこの順で並ぶように配置され
前記磁気センサ、前記第1の磁性層および前記第2の磁性層は、いずれも、前記基板の上に固定されていることを特徴とする磁気センサ装置。
【請求項2】
前記磁気センサは、磁気抵抗効果素子を含むことを特徴とする請求項1記載の磁気センサ装置。
【請求項3】
前記磁気センサは、前記第1の方向と直交する第2の方向の磁界を検出することを特徴とする請求項1または2記載の磁気センサ装置。
【請求項4】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の各々は、前記第1の方向の第1の寸法と、前記第2の方向の第2の寸法とを有し、
前記第2の寸法は、前記第1の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項3記載の磁気センサ装置。
【請求項5】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも、前記第2の寸法が小さいことを特徴とする請求項4記載の磁気センサ装置。
【請求項6】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも体積が小さいことを特徴とする請求項4記載の磁気センサ装置。
【請求項7】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも、前記第1の寸法と前記第2の寸法の少なくとも一方が小さいことを特徴とする請求項6記載の磁気センサ装置。
【請求項8】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の各々は、前記第1の方向の第1の寸法と、前記第2の方向の第2の寸法と、前記第1および第2の方向に直交する第3の方向の第3の寸法とを有し、
前記第3の寸法は、前記第2の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項3記載の磁気センサ装置。
【請求項9】
前記第1の磁性層の前記第3の寸法は、前記第2の磁性層の前記第3の寸法以下であることを特徴とする請求項8記載の磁気センサ装置。
【請求項10】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも保磁力が小さいことを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の磁気センサ装置。
【請求項11】
前記磁気センサ、前記第1の磁性層および前記第2の磁性層は、一体化され、且つ前記検出対象電流が流れる導体とは独立していることを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の磁気センサ装置。
【請求項12】
前記第1の方向における前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の間隔は、0.1〜10μmの範囲内であることを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の磁気センサ装置。
【請求項13】
検出対象電流によって発生する第1の磁界を相殺する第2の磁界を発生するためのコイルと、
前記第1の磁界と前記第2の磁界の合成磁界を検出対象磁界として検出して、前記検出対象磁界の強度に応じた磁界検出値を生成する磁気センサと、
前記磁界検出値に応じて、前記第2の磁界を発生させるためのフィードバック電流を制御して前記コイルに流すフィードバック回路と、
前記フィードバック電流の検出値を生成する電流検出器と、
第1の磁性層と、
前記第1の磁性層に接触していない第2の磁性層と
基板とを備え、
前記磁気センサと前記第1の磁性層と前記第2の磁性層は、それらを、前記検出対象電流によって発生する磁束のうちの互いに異なる一部が通過するように、仮想の直線と交差しながら前記仮想の直線に平行な第1の方向にこの順で並ぶように配置され
前記コイル、前記磁気センサ、前記第1の磁性層および前記第2の磁性層は、いずれも、前記基板の上に固定されていることを特徴とする電流センサ。
【請求項14】
前記磁気センサは、磁気抵抗効果素子を含むことを特徴とする請求項13記載の電流センサ。
【請求項15】
前記磁気センサは、前記第1の方向と直交する第2の方向の磁界を検出することを特徴とする請求項13または14記載の電流センサ。
【請求項16】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の各々は、前記第1の方向の第1の寸法と、前記第2の方向の第2の寸法とを有し、
前記第2の寸法は、前記第1の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項15記載の電流センサ。
【請求項17】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも、前記第2の寸法が小さいことを特徴とする請求項16記載の電流センサ。
【請求項18】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも体積が小さいことを特徴とする請求項16記載の電流センサ。
【請求項19】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも、前記第1の寸法と前記第2の寸法の少なくとも一方が小さいことを特徴とする請求項18記載の電流センサ。
【請求項20】
前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の各々は、前記第1の方向の第1の寸法と、前記第2の方向の第2の寸法と、前記第1および第2の方向に直交する第3の方向の第3の寸法とを有し、
前記第3の寸法は、前記第2の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項15記載の電流センサ。
【請求項21】
前記第1の磁性層の前記第3の寸法は、前記第2の磁性層の前記第3の寸法以下であることを特徴とする請求項20記載の電流センサ。
【請求項22】
前記第1の磁性層は、前記第2の磁性層よりも保磁力が小さいことを特徴とする請求項13ないし21のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項23】
前記コイルは、前記第1の磁性層に対して、前記第2の磁性層とは反対側に配置されていることを特徴とする請求項13ないし22のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項24】
前記コイル、前記磁気センサ、前記第1の磁性層および前記第2の磁性層は、一体化され、且つ前記検出対象電流が流れる導体とは独立していることを特徴とする請求項13ないし23のいずれかに記載の電流センサ。
【請求項25】
前記第1の方向における前記第1の磁性層と前記第2の磁性層の間隔は、0.1〜10μmの範囲内であることを特徴とする請求項13ないし24のいずれかに記載の電流センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流センサに用いられる磁気センサ装置および電流センサに関する。
【背景技術】
【0002】
導体を流れる検出対象電流の値を精度よく検出できる電流センサとしては、特許文献1に記載されているような磁気平衡式電流センサが知られている。一般的に、磁気平衡式電流センサは、導体を流れる検出対象電流によって発生する第1の磁界を相殺する第2の磁界を発生するためのフィードバックコイルと、第1の磁界と第2の磁界の合成磁界を検出対象磁界として検出して、検出対象磁界の強度に応じた磁界検出値を生成する磁気センサと、磁界検出値に応じて、第2の磁界を発生させるためのフィードバック電流を制御してフィードバックコイルに流すフィードバック回路と、フィードバック電流の検出値を生成する電流検出器とを備えている。電流検出器は、例えば、フィードバック電流の電流路に挿入された抵抗器である。この抵抗器の両端の電位差は、フィードバック電流の検出値に相当する。以下、電流検出器によって生成されるフィードバック電流の検出値を、電流検出値と言う。電流検出値は、検出対象電流の値と比例関係にある。従って、電流検出値は、検出対象電流の検出値に相当する。この磁気平衡式電流センサは、磁気センサの検出対象磁界がゼロに近づくように動作する。
【0003】
特許文献1に記載された磁気平衡式電流センサは、磁気シールドを備えている。この磁気シールドは、磁気シールドが無い場合に比べて、第1の磁界の絶対値を小さくする役割を有する。これにより、磁気シールドが無い場合に比べて、検出可能な検出対象電流の値の範囲を拡大することができる。
【0004】
特許文献2には、第1平面部を有する第1シールド体と、第1平面部に対向する第2平面部を有する第2シールド体と、一部が第1シールド体と第2シールド体の間に配置されたバスバーと、第1平面部とバスバーの間に配置された検出素子とを備え、第1シールド体が第1平面部の周囲を一周囲んだ壁部を有する電流センサが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5250109号公報
【特許文献2】特開2017−78577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電流センサにおいて、磁気シールドは、ヒステリシス特性を有する。そのため、磁気シールドが、印加される磁界によって一旦、磁化を有した後には、印加される磁界が無くなっても、磁気シールドには、印加された磁界によって磁化された方向に、ある大きさの磁化が残る。磁気シールドを備えた電流センサでは、磁気シールドのヒステリシス特性に起因して、電流検出値に誤差が生じるという問題点がある。
【0007】
特許文献2に記載された電流センサでは、バスバーの一部が第1シールド体と第2シールド体の間に配置される必要があるため、バスバーとは独立した電流センサを構成することができないという問題点がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、電流センサに用いられる磁気センサ装置および電流センサであって、検出可能な検出対象電流の値の範囲を拡大でき、且つ電流検出値に生じる誤差を低減できるようにした磁気センサ装置および電流センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の磁気センサ装置は、検出対象電流の値を検出する電流センサに用いられるものである。本発明の磁気センサ装置は、磁気センサと、第1の磁性層と、第1の磁性層に接触していない第2の磁性層とを備えている。磁気センサと第1の磁性層と第2の磁性層は、それらを、検出対象電流によって発生する磁束のうちの互いに異なる一部が通過するように、仮想の直線と交差し、且つ仮想の直線に平行な第1の方向にこの順で並ぶように配置されている。
【0010】
本発明の電流センサは、検出対象電流によって発生する第1の磁界を相殺する第2の磁界を発生するためのコイルと、第1の磁界と第2の磁界の合成磁界を検出対象磁界として検出して、検出対象磁界の強度に応じた磁界検出値を生成する磁気センサと、磁界検出値に応じて、第2の磁界を発生させるためのフィードバック電流を制御してコイルに流すフィードバック回路と、フィードバック電流の検出値を生成する電流検出器と、第1の磁性層と、第1の磁性層に接触していない第2の磁性層とを備えている。磁気センサと第1の磁性層と第2の磁性層は、それらを、検出対象電流によって発生する磁束のうちの互いに異なる一部が通過するように、仮想の直線と交差し、且つ仮想の直線に平行な第1の方向にこの順で並ぶように配置されている。
【0011】
本発明の磁気センサ装置および電流センサにおいて、磁気センサは、磁気抵抗効果素子を含んでいてもよい。
【0012】
また、本発明の磁気センサ装置および電流センサにおいて、磁気センサは、第1の方向と直交する第2の方向の磁界を検出してもよい。第1の磁性層と第2の磁性層の各々は、第1の方向の第1の寸法と、第2の方向の第2の寸法とを有している。第2の寸法は、第1の寸法よりも大きくてもよい。また、第1の磁性層は、第2の磁性層よりも、第2の寸法が小さくてもよい。また、第1の磁性層は、第2の磁性層よりも体積が小さくてもよい。この場合、第1の磁性層は、第2の磁性層よりも、第1の寸法と第2の寸法の少なくとも一方が小さくてもよい。
【0013】
また、本発明の磁気センサ装置および電流センサにおいて、第1の磁性層と第2の磁性層の各々は、第1の方向の第1の寸法と、第2の方向の第2の寸法と、第1および第2の方向に直交する第3の方向の第3の寸法とを有していてもよく、第3の寸法は第2の寸法よりも大きくてもよい。また、第1の磁性層の第3の寸法は、第2の磁性層の第3の寸法以下であってもよい。
【0014】
また、本発明の磁気センサ装置および電流センサにおいて、第1の磁性層は、第2の磁性層よりも保磁力が小さくてもよい。
【0015】
また、本発明の磁気センサ装置において、磁気センサ、第1の磁性層および第2の磁性層は、一体化され、且つ検出対象電流が流れる導体とは独立していてもよい。
【0016】
また、本発明の電流センサにおいて、コイルは、第1の磁性層に対して、第2の磁性層とは反対側に配置されていてもよい。
【0017】
また、本発明の電流センサにおいて、コイル、磁気センサ、第1の磁性層および第2の磁性層は、一体化され、且つ検出対象電流が流れる導体とは独立していてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の磁気センサ装置および電流センサによれば、第1の磁性層と第2の磁性層を備えたことにより、検出対象電流によって発生して磁気センサに印加される磁界の絶対値を小さくすることができ、その結果、検出可能な検出対象電流の値の範囲を拡大することができるという効果を奏する。
【0019】
また、本発明の磁気センサ装置および電流センサによれば、磁気センサと第1の磁性層と第2の磁性層が、仮想の直線に平行な第1の方向にこの順で並ぶように配置されていることにより、電流検出値に生じる誤差を低減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の一実施の形態に係る電流センサを含むシステムの構成を示す斜視図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る電流センサの本体部を示す断面図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る電流センサの本体部を通過する磁束を説明するための説明図である。
図4】本発明の一実施の形態に係る電流センサの構成を示すブロック図である。
図5】本発明の一実施の形態に係る電流センサにおける磁気センサの一部であるホイートストンブリッジ回路を示す回路図である。
図6】第2の比較例の電流センサの一部を示す説明図である。
図7A】本発明の一実施の形態に係る電流センサの特性に影響する複数の構造上のパラメータを説明するための説明図である。
図7B】本発明の一実施の形態に係る電流センサの特性に影響する複数の構造上のパラメータを説明するための説明図である。
図8】第1のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図9図8の一部を拡大して示す特性図である。
図10】第2のシミュレーションの結果を示す特性図である。
図11図10の一部を拡大して示す特性図である。
図12】第3のシミュレーションによって得られた第2の比較例の磁性層の特性を示す特性図である。
図13】第3のシミュレーションによって得られた第1の実施例の第1および第2の磁性層の特性を示す特性図である。
図14】第3のシミュレーションによって得られた第2の実施例の第1および第2の磁性層の特性を示す特性図である。
図15】第4のシミュレーションによって得られたシールド係数の特性を示す特性図である。
図16】第4のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータの特性を示す特性図である。
図17】第4のシミュレーションによって得られたシールド係数とヒステリシスパラメータとの関係を示す特性図である。
図18】第5のシミュレーションによって得られたシールド係数の特性を示す特性図である。
図19】第5のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータの特性を示す特性図である。
図20】第6のシミュレーションによって得られたシールド係数の特性を示す特性図である。
図21】第6のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータの特性を示す特性図である。
図22】第7のシミュレーションによって得られたシールド係数の特性を示す特性図である。
図23】第7のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータの特性を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る電流センサを含むシステムの構成について説明する。本実施の形態に係る電流センサ1は、導体を流れる検出対象電流の値を検出するものである。図1には、検出対象電流が流れる導体がバスバー2である例を示している。電流センサ1は、バスバー2の近傍に配置される。以下、検出対象電流を、対象電流Itgと記す。バスバー2の周囲には、対象電流Itgによって磁界3が発生する。電流センサ1は、磁界3が印加される位置に配置されている。
【0022】
次に、電流センサ1の構成について説明する。始めに、電流センサ1の本体部10について説明する。図2は、電流センサ1の本体部10を示す断面図である。電流センサ1は、磁気平衡式電流センサである。図2に示したように、電流センサ1は、コイル11と、磁気センサ12と、第1の磁性層51と、第2の磁性層52とを備えている。コイル11、磁気センサ12、第1の磁性層51および第2の磁性層52は、後述する複数の非磁性層によって一体化され、電流センサ1の本体部10を構成する。また、第1の磁性層51と第2の磁性層52は、非磁性層によって互いに分離されている。電流センサ1の本体部10は、バスバー2とは独立している。
【0023】
本実施の形態に係る磁気センサ装置は、磁気センサ12と、第1の磁性層51と、第2の磁性層52とを備えている。電流センサ1の本体部10は、本実施の形態に係る磁気センサ装置を含んでいる。
【0024】
ここで、図1および図2に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では、図1に示した対象電流Itgが流れる方向をY方向とする。また、X方向とは反対の方向を−X方向とし、Y方向とは反対の方向を−Y方向とし、Z方向とは反対の方向を−Z方向とする。また、以下、基準の位置に対してZ方向の先にある位置を「上方」と言い、基準の位置に対して「上方」とは反対側にある位置を「下方」と言う。
【0025】
電流センサ1の本体部10は、バスバー2の上方または下方に配置される。以下、本体部10がバスバー2の上方に配置された例を示す。
【0026】
ここで、図2に示したように、Z方向に平行な仮想の直線Lを想定する。磁気センサ12と第1の磁性層51と第2の磁性層52は、仮想の直線Lと交差し、且つZ方向に平行な方向にこの順で並ぶように配置されている。Z方向に平行な方向は、仮想の直線Lに平行な方向でもあり、本発明における第1の方向に対応する。コイル11は、第1の磁性層51に対して、第2の磁性層52とは反対側に配置されている。本実施の形態では、第2の磁性層52は、第1の磁性層51の上方に位置し、コイル11および磁気センサ12は、第1の磁性層51の下方に位置している。
【0027】
磁気センサ12と第1の磁性層51と第2の磁性層52は、それらを、対象電流Itgによって発生する磁束のうちの互いに異なる一部が通過するように、上記の位置関係で配置されている。図3は、電流センサ1の本体部10を通過する磁束を説明するための説明図である。図3において、符号MFsを付した矢印は磁気センサ12を通過する磁束を表し、符号MF1を付した矢印は第1の磁性層51を通過する磁束を表し、符号MF2を付した矢印は第2の磁性層52を通過する磁束を表している。磁束MFs,MF1,MF2は、いずれも、対象電流Itgによって発生する磁束の一部である。
【0028】
また、対象電流Itgによって発生する磁界3のうち、磁気センサ12によって検出可能な磁界を第1の磁界H1と言う。第1および第2の磁性層51,52は、対象電流Itgによって発生する磁束の一部を取り込んで、第1および第2の磁性層51,52が無い場合に比べて、第1の磁界H1の絶対値を小さくする機能を有している。
【0029】
コイル11は、第1の磁界H1を相殺する第2の磁界H2を発生するためのものである。磁気センサ12は、第1の磁界H1と第2の磁界H2の合成磁界を検出対象磁界として検出して、検出対象磁界の強度に応じた磁界検出値Sを生成する。以下、検出対象磁界を、対象磁界と記す。第1の磁界H1と第2の磁界H2は、後で説明する図4に示されている。
【0030】
本実施の形態では、第1の磁界H1の方向と、第2の磁界H2の方向と、対象磁界の方向は、X方向に平行な方向である。X方向に平行な方向は、本発明における第2の方向に対応する。磁気センサ12の構成については、後で詳しく説明する。
【0031】
図2に示したように、電流センサ1は、更に、基板61と、絶縁層62,63,64と、非磁性層65,66,67とを備えている。非磁性層65,66,67は、絶縁体でも導電体でもよい。絶縁層62は、基板61の上に配置されている。磁気センサ12は、絶縁層62の上に配置されている。絶縁層63は、磁気センサ12および絶縁層62を覆うように配置されている。絶縁層64は、絶縁層63の上に配置されている。コイル11は、基板61に接触しないように、絶縁層62〜64に埋め込まれている。
【0032】
第1の磁性層51は、絶縁層64の上に配置されている。非磁性層65は、絶縁層64の上において第1の磁性層51の周囲に配置されている。非磁性層66は、第1の磁性層51および非磁性層65を覆うように配置されている。第2の磁性層52は、非磁性層66の上に配置されている。非磁性層67は、非磁性層66の上において第2の磁性層52の周囲に配置されている。
【0033】
図2に示したように、第1の磁性層51と第2の磁性層52の間には、これらを互いに分離する非磁性層66が介在している。従って、第2の磁性層52は、第1の磁性層51に接触していない。なお、第1の磁性層51と第2の磁性層52の形状については、後で詳しく説明する。
【0034】
次に、図4を参照して、電流センサ1の、本体部10以外の部分について説明する。図4は、電流センサ1の構成を示すブロック図である。図4に示したように、電流センサ1は、更に、フィードバック回路30と、電流検出器40とを備えている。フィードバック回路30は、磁界検出値Sに応じて、第2の磁界H2を発生させるためのフィードバック電流を制御してコイル11に流す。電流検出器40は、コイル11に流れるフィードバック電流の検出値を生成する。電流検出器40は、例えば、フィードバック電流の電流路に挿入された抵抗器である。この抵抗器の両端の電位差は、フィードバック電流の検出値に相当する。以下、電流検出器40によって生成されるフィードバック電流の検出値を、電流検出値と言う。電流検出値は、対象電流Itgの値と比例関係にある。従って、電流検出値は、対象電流Itgの検出値に相当する。
【0035】
フィードバック回路30は、フィードバック制御回路31を含んでいる。フィードバック制御回路31は、磁界検出値Sに応じて制御されたフィードバック電流を発生してコイル11に供給する。
【0036】
次に、磁気センサ12の構成について詳しく説明する。磁気センサ12は、少なくとも1つの磁気抵抗効果素子を含んでいてもよい。磁気抵抗効果素子は、スピンバルブ型の磁気抵抗効果素子でもよいし、AMR(異方性磁気抵抗効果)素子でもよい。スピンバルブ型の磁気抵抗効果素子は、TMR(トンネル磁気抵抗効果)素子でもよいし、GMR(巨大磁気抵抗効果)素子でもよい。スピンバルブ型の磁気抵抗効果素子は、磁化方向が固定された磁化固定層と、印加される磁界の方向および強度に応じて磁化の方向が変化する磁性層である自由層と、磁化固定層と自由層の間に配置された非磁性層と、反強磁性層とを含んでいる。磁化固定層は、反強磁性層と非磁性層の間に配置されている。反強磁性層は、反強磁性材料よりなり、磁化固定層との間で交換結合を生じさせて、磁化固定層の磁化の方向を固定する。TMR素子では、非磁性層はトンネルバリア層である。GMR素子では、非磁性層は非磁性導電層である。
【0037】
ここで、磁気センサ12の構成の一例について説明する。この例では、磁気センサ12は、ホイートストンブリッジ回路13を有している。
【0038】
図5は、ホイートストンブリッジ回路13を示す回路図である。ホイートストンブリッジ回路13は、電源ポート21と、グランドポート22と、第1の出力ポート23と、第2の出力ポート24と、4つの抵抗部R1,R2,R3,R4を有している。
【0039】
抵抗部R1は、電源ポート21と第1の出力ポート23との間に設けられている。抵抗部R2は、第1の出力ポート23とグランドポート22との間に設けられている。抵抗部R3は、電源ポート21と第2の出力ポート24との間に設けられている。抵抗部R4は、第2の出力ポート24とグランドポート22との間に設けられている。電源ポート21には、所定の大きさの電源電圧が印加される。グランドポート22はグランドに接続される。
【0040】
抵抗部R1,R2,R3,R4の各々は、スピンバルブ型の磁気抵抗効果素子を含んでいる。抵抗部R1,R4の各々における磁気抵抗効果素子の磁化固定層の磁化の方向は第1の磁化方向である。抵抗部R2,R3の各々における磁気抵抗効果素子の磁化固定層の磁化の方向は、第1の磁化方向とは反対方向である第2の磁化方向である。ここで、第1の磁化方向および第2の磁化方向に平行な方向を感磁方向と言う。磁気抵抗効果素子の自由層は、感磁方向に直交する方向を容易軸とする形状磁気異方性を有することが好ましい。
【0041】
ホイートストンブリッジ回路13には、対象電流Itgによって発生する磁界3とコイル11が発生する磁界が印加される。ホイートストンブリッジ回路13は、印加される上記の2つの磁界の方向が互いに反対方向またはほぼ反対方向になる位置に配置され、且つ上記感磁方向が、印加される上記の2つの磁界の方向に対して平行またはほぼ平行になる姿勢で配置されている。
【0042】
この例では、対象電流Itgによって発生してホイートストンブリッジ回路13に印加される磁界における上記感磁方向の成分が第1の磁界H1である。また、コイル11が発生してホイートストンブリッジ回路13に印加される磁界における上記感磁方向の成分が第2の磁界H2である。
【0043】
ホイートストンブリッジ回路13では、対象磁界の強度に応じて、出力ポート23,24間の電位差が変化する。磁気センサ12は、ホイートストンブリッジ回路13の出力ポート23,24間の電位差に対応する磁界検出値Sを出力する。なお、第1の磁界H1と第2の磁界H2の大小関係に応じて、対象磁界の強度、出力ポート23,24間の電位差、ならびに磁界検出値Sは、正の値または負の値となり得る。
【0044】
次に、図2を参照して、第1の磁性層51と第2の磁性層52の形状について詳しく説明する。第1の磁性層51と第2の磁性層52の各々は、第1の方向の第1の寸法すなわちZ方向の寸法と、第2の方向の第2の寸法すなわちX方向の寸法とを有している。図2に示したように、第1の磁性層51と第2の磁性層52のいずれにおいても、X方向の寸法は、Z方向の寸法よりも大きい。第1の磁性層51は、第2の磁性層52よりも、X方向の寸法が小さいことが好ましい。
【0045】
また、第1および第2の方向に直交する方向を、第3の方向という。本実施の形態では、第3の方向は、Y方向に平行な方向である。第1の磁性層51と第2の磁性層52の各々は、更に、第3の方向の第3の寸法すなわちY方向の寸法を有している。なお、第1の磁性層51と第2の磁性層52の各々のY方向の寸法は、後で説明する図7Bに示されている。第1の磁性層51と第2の磁性層52のいずれにおいても、Y方向の寸法は、X方向の寸法よりも大きい。第1の磁性層51のY方向の寸法は、第2の磁性層52のY方向の寸法以下であることが好ましい。
【0046】
また、第1の磁性層51は、第2の磁性層52よりも体積が小さいことが好ましい。これを実現するために、第1の磁性層51は、第2の磁性層52よりも、Z方向の寸法とX方向の寸法の少なくとも一方が小さいことが好ましい。図2には、第1の磁性層51のZ方向の寸法とX方向の寸法の両方が、第2の磁性層52よりも小さい例を示している。
【0047】
なお、第1の磁性層51のZ方向の寸法とX方向の寸法の一方が第2の磁性層52よりも大きくても、他方が第2の磁性層52よりも小さい場合には、第1の磁性層51の体積は第2の磁性層52よりも小さくなり得る。第1の磁性層51の形状には、このような形状も含まれる。
【0048】
上方から見た第1および第2の磁性層51,52の各々の形状は、例えば矩形である。第1および第2の磁性層51,52は、上方から見たときに、磁気センサ12の全体に重なるような大きさおよび配置であることが好ましい。磁気センサ12のX方向の寸法は、例えば、0.3〜50μmの範囲内であり、第1および第2の磁性層51,52の各々のX方向の寸法は、例えば、数〜数百μmの範囲内である。なお、図示しないが、磁気センサ12のY方向の寸法は、例えば、1〜200μmの範囲内であり、第1および第2の磁性層51,52の各々のY方向の寸法は、例えば、数〜数百μmの範囲内である。第1および第2の磁性層51,52の各々のZ方向の寸法は、例えば、0.5〜数十μmの範囲内である。
【0049】
なお、第1の磁性層51は、第2の磁性層52の保磁力よりも小さくてもよい。その理由については、後で説明する。
【0050】
次に、複数のシミュレーションの結果を参照して、本実施の形態に係る電流センサ1および磁気センサ装置の効果について説明する。始めに、複数のシミュレーションで用いた第1および第2の比較例の電流センサと、第1および第2の実施例の電流センサ1について説明する。
【0051】
第1の比較例の電流センサの構成は、第1および第2の磁性層51,52が設けられていない点を除いて、本実施の形態に係る電流センサ1の構成と同じである。
【0052】
図6は、第2の比較例の電流センサ101の一部を示す説明図である。第2の比較例の電流センサ101は、第1および第2の磁性層51,52の代わりに、1つの磁性層151を備えている。磁性層151は、磁気センサ12の上方に配置されている。第2の比較例の電流センサ101のその他の構成は、本実施の形態に係る電流センサ1と同じである。
【0053】
磁性層151のZ方向の寸法は7μmであり、磁性層151のX方向の寸法は40μmであり、磁性層151のY方向の寸法は100μmである。また、図6に示したように、磁気センサ12のZ方向の中心から磁性層151までの距離を記号d1で表す。d1の値については、後で説明する。
【0054】
第1および第2の実施例の電流センサ1は、本実施の形態に係る電流センサ1に対応する。図7Aおよび図7Bは、本実施の形態に係る電流センサ1の特性に影響する複数の構造上のパラメータを説明するための説明図である。図7Aおよび図7Bに示したように、第1の磁性層51のX方向の寸法を記号w1で表し、第2の磁性層52のX方向の寸法を記号w3で表す。第1の実施例では、第1の磁性層51のX方向の寸法w1は、第2の磁性層52のX方向の寸法w3と等しい。第2の実施例では、第1の磁性層51のX方向の寸法w1は、第2の磁性層52のX方向の寸法w3よりも小さい。
【0055】
第2の磁性層52のX方向の寸法w3と、第1の実施例における第1の磁性層51のX方向の寸法w1は、40μmである。また、図7Aおよび図7Bに示したように、第1の磁性層51のZ方向の寸法を記号t1で表し、第2の磁性層52のZ方向の寸法を記号t2で表し、第1の磁性層51のY方向の寸法を記号w2で表し、第2の磁性層52のY方向の寸法を記号w4で表し、磁気センサ12のZ方向の中心から第1の磁性層51までの距離を記号d2で表し、第1の磁性層51と第2の磁性層52の間隔を記号gで表す。第1および第2の実施例において、寸法w2,w4はいずれも100μmである。t1,t2,d2,gの値と、第2の実施例におけるw1の値については、後で説明する。
【0056】
次に、第1のシミュレーションの結果について説明する。第1のシミュレーションでは、電流センサの特性に与える磁性層の影響について調べた。第1のシミュレーションでは、第1の比較例の電流センサと第2の比較例の電流センサ101に対して、X方向に平行な方向の外部磁界Hを印加し、外部磁界Hから求まる、外部磁界Hに対応する磁束密度Bと、磁界検出値Sとの関係を調べた。外部磁界Hの大きさは、正の値と負の値を含む所定の範囲内で増減させた。第1のシミュレーションでは、距離d1を2.5μmとした。
【0057】
図8は、第1のシミュレーションによって得られた第1の比較例の電流センサと第2の比較例の電流センサ101の特性を示している。図8において、横軸は磁束密度Bを示し、縦軸は磁界検出値Sを示している。また、図8において、符号201を付した破線の曲線は第1の比較例の電流センサの特性を示し、符号202を付した実線の曲線は第2の比較例の電流センサ101の特性を示している。
【0058】
図8に示したように、第2の比較例(符号202参照)では、第1の比較例(符号201参照)に比べて、磁束密度Bの変化に対する磁界検出値Sの変化の勾配が小さい。これは、磁性層151の機能によるものである。すなわち、磁性層151は、外部磁界Hによる磁束の一部を取り込んで、磁性層151が無い場合に比べて、第1の磁界H1の絶対値を小さくする機能を有している。また、磁界検出値Sの値は、第1の磁界H1の値に依存して変化する。これにより、第2の比較例では、第1の比較例に比べて、磁束密度Bの変化に対する磁界検出値Sの変化の勾配が小さくなる。
【0059】
ところで、第1の比較例では、対象磁界の絶対値が所定の大きさ以上になると、電流センサの出力特性の線形性、すなわち対象磁界に対する磁界検出値Sの線形性が悪化する。これに対し、第2の比較例では、磁性層151の前述の機能によって、第1の磁界H1の絶対値の範囲が小さくなり、その結果、対象磁界の絶対値の範囲も小さくなる。対象磁界の絶対値の範囲が小さくなるほど、対象磁界に対する磁界検出値Sの線形性がよい範囲を用いて検出可能な対象電流Itgの絶対値が大きくなる。
【0060】
図9は、図8に示した特性の一部を拡大して示している。図9に示したように、第2の比較例(符号202参照)では、磁界検出値Sにオフセットが生じている。磁界検出値Sのオフセットは、磁束密度Bの値が0のときにおける磁界検出値Sの、所定の基準値、例えば0mVからのずれである。磁界検出値Sのオフセットは、電流検出値に誤差を生じさせる。
【0061】
磁性層151は、ヒステリシス特性を有する。そのため、第1のシミュレーションのように、外部磁界Hの大きさを所定の範囲内で増減させた場合、外部磁界Hが無くなっても、磁性層151には、印加された磁界の方向に、ある大きさの磁化が残る。そのため、第2の比較例では、磁束密度Bの値を0にすると、磁気センサ12には、磁性層151に残った磁化によって、磁界が印加される。以下、外部磁界Hが無い状態において磁性層151に残る磁化を残留磁化と言う。これにより、磁界検出値Sにオフセットが生じる。
【0062】
ここで、磁界検出値Sが0となるときの2つの磁束密度Bの値の差の絶対値を、ヒステリシスパラメータと言う。ヒステリシスに起因した電流検出値の誤差は、ヒステリシスパラメータの値が大きくなるに従って大きくなる。
【0063】
次に、第2のシミュレーションの結果について説明する。第2のシミュレーションでは、磁性層151や第1および第2の磁性層51,52が電流センサ1の特性に与える影響について調べた。第2のシミュレーションでは、第2の比較例の電流センサ101と第1の実施例の電流センサ1と第2の実施例の電流センサ1に対して、X方向に平行な方向の外部磁界Hを印加し、磁束密度Bと磁界検出値Sとの関係を調べた。外部磁界Hの大きさは、正の値と負の値を含む所定の範囲内で増減させた。第2のシミュレーションでは、図7Aおよび図7Bに示した複数の構造上のパラメータを、以下のように定めた。すなわち、寸法t1は2μmであり、寸法t2は5μmであり、距離d1,d2は2.5μmであり、間隔gは0.2μmである。また、第2の実施例における寸法w1は30μmである。
【0064】
図10は、第2のシミュレーションによって得られた第2の比較例の電流センサ101と第1の実施例の電流センサ1と第2の実施例の電流センサ1の特性を示している。図10において、横軸は磁束密度Bを示し、縦軸は磁界検出値Sを示している。また、図10において、符号202を付した破線の曲線は第2の比較例の電流センサ101の特性を示し、符号211を付した一点鎖線の曲線は第1の実施例の電流センサ1の特性を示し、符号212を付した実線の曲線は第2の実施例の電流センサ1の特性を示している。なお、図10では、曲線211,212はほとんど重なっている。
【0065】
図10に示したように、第1および第2の実施例(符号211,212参照)では、磁束密度Bの変化に対する磁界検出値Sの変化の勾配が、第2の比較例(符号202参照)とほぼ等しい。これは、磁性層151と同様の、第1および第2の磁性層51,52の機能によるものである。すなわち、第1および第2の磁性層51,52は、第1および第2の磁性層51,52が無い場合に比べて、第1の磁界H1の絶対値を小さくする機能を有している。これにより、第1および第2の実施例では、図8に示した第1の比較例(符号201参照)に比べて、磁束密度Bの変化に対する磁界検出値Sの変化の勾配が小さくなる。
【0066】
図11は、図10に示した特性の一部を拡大して示している。図11に示したように、第1および第2の実施例(符号211,212参照)におけるヒステリシスパラメータの値は、第2の比較例(符号202参照)に比べて小さい。また、第2の実施例(符号212参照)におけるヒステリシスパラメータの値は、第1の実施例(符号211参照)に比べて小さい。ヒステリシスパラメータの値が小さくなる理由については、後で説明する。
【0067】
ここで、電流センサの性能を表す複数の性能パラメータとして、検出感度、オフセットパラメータ、前記ヒステリシスパラメータおよびシールド係数を考える。検出感度は、対象磁界に対する磁界検出値Sの線形性がよい範囲内における、磁束密度Bの変化量に対する磁界検出値Sの変化量の比率である。オフセットパラメータは、磁束密度Bの値が0となるときの2つの磁界検出値Sの値の差の絶対値である。シールド係数は、磁性層51,52,151が無い場合の検出感度すなわち第1の比較例における検出感度に対する第2の比較例ならびに第1および第2の実施例における検出感度の比率を百分率で表したものである。下記の表1に、第1および第2の比較例ならびに第1および第2の実施例について、第1および第2のシミュレーションによって得られた複数の性能パラメータの値を示す。なお、第1の比較例におけるシールド係数は100%とした。
【0068】
【表1】
【0069】
表1に示したように、第1および第2の実施例では、第1の比較例よりも検出感度の値が小さい。検出感度の値が小さいほど、検出可能な対象電流Itgの値の範囲を拡大することができる。従って、本実施の形態によれば、第1の磁性層51と第2の磁性層52を備えたことにより、第1の比較例のように磁性層が設けられていない場合に比べて、検出可能な対象電流Itgの値の範囲を拡大することができる。
【0070】
また、表1に示したように、第1および第2の実施例では、第2の比較例よりもヒステリシスパラメータの値が小さい。ヒステリシスパラメータの値が小さいほど、磁性層のヒステリシスに起因した電流検出値の誤差を低減することができる。従って、本実施の形態によれば、第1の磁性層51と第2の磁性層52を備えたことにより、第2の比較例のように1つの磁性層151のみを備えた場合に比べて、電流検出値の誤差を小さくすることができる。
【0071】
第2の実施例では、第1の実施例よりもヒステリシスパラメータの値が小さい。このことから理解されるように、本実施の形態によれば、第2の実施例のように、第2の磁性層52のX方向の寸法w3よりも、第1の磁性層51のX方向の寸法w1を小さくすることにより、ヒステリシスパラメータの値を小さくすることができ、その結果、電流検出値の誤差をより小さくすることができる。
【0072】
また、表1に示したように、第1および第2の実施例では、第2の比較例よりもオフセットパラメータの値が小さい。ヒステリシスパラメータと同様に、オフセットパラメータの値が小さいほど、磁性層のヒステリシスに起因した電流検出値の誤差を低減することができる。
【0073】
シールド係数が小さいほど、第1の比較例に比べて、第1の磁界H1の絶対値を小さくすることができる。表1に示したように、第1の実施例と第2の実施例のシールド係数の値はほぼ等しい。
【0074】
次に、第3のシミュレーションの結果について説明する。第3のシミュレーションでは、第2の比較例の電流センサ101と第1の実施例の電流センサ1と第2の実施例の電流センサ1に対して、X方向に平行な方向の外部磁界Hを印加し、磁性層51,52,151の磁化Mxを求めた。外部磁界Hの大きさは、正の値と負の値を含む所定の範囲内で増減させた。なお、磁化Mxの値は、磁化のX方向に平行な方向の成分の平均値とした。また、以下で説明する図12ないし図14における各磁性層の磁化Mxの値は、所定の単位における各磁性層の磁化Mxの値を、所定の単位における各磁性層自身の飽和磁化の値で割って規格化した値とした。第3のシミュレーションにおける磁性層51,52,151の形状および配置は、第2のシミュレーションと同じである。
【0075】
図12は、第3のシミュレーションによって得られた第2の比較例の磁性層151の特性を示している。図13は、第3のシミュレーションによって得られた第1の実施例の第1および第2の磁性層51,52の特性を示している。図14は、第3のシミュレーションによって得られた第2の実施例の第1および第2の磁性層51,52の特性を示している。図12ないし図14において、横軸は磁束密度Bを示し、縦軸は磁化Mxを示している。また、図13において、符号221を付した実線の曲線は第1の磁性層51の特性を示し、符号222を付した破線の曲線は第2の磁性層52の特性を示している。また、図14において、符号223を付した実線の曲線は第1の磁性層51の特性を示し、符号224を付した破線の曲線は第2の磁性層52の特性を示している。
【0076】
以下、磁束密度Bの変化に対する磁化Mxの変化の勾配を、磁化変化率と言う。図12ないし図14に示したように、第2の比較例の磁性層151の磁化変化率と、第1の実施例の第1の磁性層51の磁化変化率(符号221参照)と、第1の実施例の第2の磁性層52の磁化変化率(符号222参照)と、第2の実施例の第2の磁性層52の磁化変化率(符号224参照)は、ほぼ等しい。また、第2の実施例の第1の磁性層51の磁化変化率(符号223参照)は、第2の実施例の第1の磁性層51以外の磁性層の磁化変化率よりも小さい。これは、第2の実施例の第1の磁性層51のX方向の寸法w1が、第2の実施例の第1の磁性層51以外の磁性層のX方向の寸法よりも小さいことによるものである。
【0077】
ここで、第2のシミュレーションにおいて、第2の実施例におけるヒステリシスパラメータの値が、第1の実施例に比べて小さくなる理由について考察する。
【0078】
第1の磁性層51では、感磁方向であるX方向の寸法w1が小さいほど、磁化変化率が小さくなり、外部磁界Hが無い状態において第1の磁性層51に残るX方向の残留磁化も小さくなり、その結果、ヒステリシスパラメータの値が小さくなる。
【0079】
また、第1の磁性層51の体積が小さいほど、上記のX方向の残留磁化が小さくなり、その結果、ヒステリシスパラメータの値が小さくなる。
【0080】
第2の実施例の第1の磁性層51は、第1の実施例の第1の磁性層51に比べて、X方向の寸法w1と体積の両方が小さい。これにより、第2の実施例におけるヒステリシスパラメータの値は、第1の実施例に比べて小さくなる。
【0081】
残留磁化に影響する、寸法以外のパラメータとしては、保磁力がある。もし、第2の磁性層52の保磁力を一定の値として、第1の磁性層51の保磁力を第2の磁性層52の保磁力よりも小さくすると、第1の磁性層51の保磁力が第2の磁性層52の保磁力と等しい場合に比べて、上記のX方向の残留磁化が小さくなり、その結果、ヒステリシスパラメータの値が小さくなる。
【0082】
次に、第4のシミュレーションの結果について説明する。第4のシミュレーションでは、磁気センサ12に最も近い磁性層の配置が電流センサ1の特性に与える影響について調べた。第4のシミュレーションでは、第2の比較例の電流センサ101と第2の実施例の電流センサ1について、距離d1,d2とシールド係数およびヒステリシスパラメータとの関係を調べた。第4のシミュレーションでは、図6図7Aおよび図7Bに示した複数の構造上のパラメータを、以下のように定めた。すなわち、寸法t1は3μmであり、寸法t2は4μmであり、寸法w1は30μmであり、間隔gは0.5μmである。距離d1,d2は、2〜5μmの範囲内で変化させた。
【0083】
第4のシミュレーションでは、第1および第2のシミュレーションのように、電流センサ1,101に対して、X方向に平行な方向の外部磁界Hを、正の値と負の値を含む所定の範囲内で増減させながら印加して、磁束密度Bと磁界検出値Sとの関係を求めた。そして、この関係に基づいて、検出感度とヒステリシスパラメータを求めた。また、求めた検出感度と第1の比較例の検出感度(表1参照)を用いて、シールド係数を求めた。なお、後述する第5ないし第7のシミュレーションにおいても、第4のシミュレーションと同様の方法によって、シールド係数とヒステリシスパラメータを求めた。
【0084】
図15は、第4のシミュレーションによって得られたシールド係数を示す特性図である。図16は、第4のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータを示す特性図である。図17は、第4のシミュレーションによって得られたシールド係数とヒステリシスパラメータとの関係を示す特性図である。図15において、横軸は距離d1,d2を示し、縦軸はシールド係数を示している。図16において、横軸は距離d1,d2を示し、縦軸はヒステリシスパラメータを示している。図17において、横軸はシールド係数を示し、縦軸はヒステリシスパラメータを示している。また、図15ないし図17において、符号231を付した実線で結んだ複数の点は、第2の実施例の特性を表し、符号232を付した破線で結んだ複数の点は、第2の比較例の特性を表している。
【0085】
図15および図16から理解されるように、距離d1,d2が大きくなるに従って、ヒステリシスパラメータの値は小さくなるが、シールド係数は大きくなる。また、図17に示したように、シールド係数の値を同じにして比較すると、第2の実施例(符号231参照)は、第2の比較例(符号232参照)よりもヒステリシスパラメータの値が小さくなる。従って、本実施の形態によれば、第1の磁界H1の絶対値が大きくなることを防止しながら、ヒステリシスパラメータの値を小さくして、電流検出値の誤差を小さくすることができる。
【0086】
次に、第5のシミュレーションの結果について説明する。第5のシミュレーションでは、第1の磁性層51のX方向の寸法w1が電流センサ1の特性に与える影響について調べた。第5のシミュレーションでは、第2の実施例の電流センサ1について、寸法w1とシールド係数およびヒステリシスパラメータとの関係を調べた。第5のシミュレーションでは、図7Aおよび図7Bに示した複数の構造上のパラメータを、以下のように定めた。すなわち、寸法t1は3μmであり、寸法t2は4μmであり、距離d2は2.5μmであり、間隔gは0.2μmである。寸法w1は、10〜45μmの範囲内で変化させた。
【0087】
図18は、第5のシミュレーションによって得られたシールド係数を示す特性図である。図19は、第5のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータを示す特性図である。図18において、横軸は寸法w1を示し、縦軸はシールド係数を示している。図19において、横軸は寸法w1を示し、縦軸はヒステリシスパラメータを示している。
【0088】
シールド係数の値は、22%以下であることが好ましい。図18に示した寸法w1の範囲では、シールド係数に関する上記の要件を満たす。また、ヒステリシスパラメータの値は、寸法w1が第2の磁性層52のX方向の寸法w3と等しい場合のヒステリシスパラメータの値である0.22mT以下であることが好ましい。図19に示したように、寸法w1が36μm以下の場合に、ヒステリシスパラメータに関する上記の要件を満たす。これらのことから、寸法w1は、10〜36μmの範囲内であることが好ましい。また、寸法w3は40μmである。従って、寸法w3に対する寸法w1の比率は、25〜90%の範囲内であることが好ましい。
【0089】
次に、第6のシミュレーションの結果について説明する。第6のシミュレーションでは、第1の磁性層51のZ方向の寸法t1が電流センサ1の特性に与える影響について調べた。第6のシミュレーションでは、第2の実施例の電流センサ1について、寸法t1とシールド係数およびヒステリシスパラメータとの関係を調べた。第6のシミュレーションでは、図7Aおよび図7Bに示した複数の構造上のパラメータを、以下のように定めた。すなわち、寸法t2は4μmであり、寸法w1は30μmであり、距離d2は2.5μmであり、間隔gは0.2μmである。寸法t1は、0.5〜6μmの範囲内で変化させた。
【0090】
図20は、第6のシミュレーションによって得られたシールド係数を示す特性図である。図21は、第6のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータを示す特性図である。図20において、横軸は寸法t1を示し、縦軸はシールド係数を示している。図21において、横軸は寸法t1を示し、縦軸はヒステリシスパラメータを示している。
【0091】
前述のように、シールド係数の値は、22%以下であることが好ましい。図20に示した寸法t1の範囲では、シールド係数に関する上記の要件を満たす。また、前述のように、ヒステリシスパラメータの値は、0.22mT以下であることが好ましい。図21に示したように、寸法t1が5μm以下の場合に、ヒステリシスパラメータに関する上記の要件を満たす。これらのことから、寸法t1は、0.5〜5μmの範囲内であることが好ましい。また、第2の磁性層52のZ方向の寸法t2は4μmである。従って、第2の磁性層52のZ方向の寸法t2に対する第1の磁性層51のZ方向の寸法t1の比率は、12.5〜125%の範囲内であることが好ましい。
【0092】
ところで、磁性層のZ方向の寸法が小さくなると、磁性層において磁気飽和が生じやすくなり、その結果、第1の磁界H1の絶対値を小さくするという磁性層の機能が損なわれるおそれがある。これに対し、本実施の形態では、第1の磁性層51と同じ機能を有する第2の磁性層52が設けられているため、第1の磁性層51のZ方向の寸法t1を十分に小さくすることが可能である。
【0093】
なお、図21に示したように、寸法t1が2μm以下の範囲内では、寸法t1が小さくなるに従ってヒステリシスパラメータの値が大きくなる。これは、第2の磁性層52によるものと考えられる。
【0094】
次に、第7のシミュレーションの結果について説明する。第7のシミュレーションでは、第1の磁性層51と第2の磁性層52の間隔gが電流センサ1の特性に与える影響について調べた。第7のシミュレーションでは、第2の実施例の電流センサ1について、間隔gとシールド係数およびヒステリシスパラメータとの関係を調べた。第7のシミュレーションでは、図7Aおよび図7Bに示した複数の構造上のパラメータを、以下のように定めた。すなわち、寸法t1は3μmであり、寸法t2は4μmであり、寸法w1は30μmであり、距離d2は2.5μmである。間隔gは、0.1〜10μmの範囲内で変化させた。
【0095】
また、第7のシミュレーションでは、間隔gを0μmとして、第1の磁性層51と第2の磁性層52を接触させた第3の比較例の電流センサについても、第2の実施例の電流センサ1と同様に、シールド係数およびヒステリシスパラメータを調べた。第3の比較例の電流センサのその他の構成は、第2の実施例の電流センサ1と同じである。
【0096】
図22は、第7のシミュレーションによって得られたシールド係数を示す特性図である。図23は、第7のシミュレーションによって得られたヒステリシスパラメータを示す特性図である。図22において、横軸は間隔gを示し、縦軸はシールド係数を示している。図23において、横軸は間隔gを示し、縦軸はヒステリシスパラメータを示している。図22および図23において、符号241を付した実線で結んだ複数の点は、第2の実施例の特性を表し、符号242を付した点は、第3の比較例の特性を表している。
【0097】
前述のように、シールド係数の値は、22%以下であることが好ましい。図22に示した間隔gの範囲では、シールド係数に関する上記の要件を満たす。また、前述のように、ヒステリシスパラメータの値は、0.22mT以下であることが好ましい。図23に示した間隔gの範囲では、ヒステリシスパラメータに関する上記の要件を満たす。これらのことから、間隔gは、0.1〜10μmの範囲内であることが好ましい。0.1μmという値は、第1の磁性層51と第2の磁性層52の間に介在する非磁性層66の、安定して形成可能なZ方向の寸法の下限に相当する。
【0098】
なお、図23に示したように、第3の比較例(符号242参照)は、第2の実施例(符号241参照)よりもヒステリシスパラメータの値が大きくなる。これは、第1の磁性層51と第2の磁性層52を接触させると、実質的に1つの磁性層になり、2つの磁性層51,52を備えたことによるヒステリシスパラメータの値を低減する効果が得られないためである。
【0099】
以下、本実施の形態におけるその他の効果について説明する。本実施の形態では、コイル11、磁気センサ12、第1の磁性層51および第2の磁性層52は、一体化され、バスバー2とは独立している。これにより、本実施の形態によれば、バスバー2とは独立した電流センサ1および磁気センサ装置を構成することができる。
【0100】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、磁気センサ12は、磁気抵抗効果素子の代わりに、ホール素子等の磁気抵抗効果素子以外の磁界を検出する素子を含んでいてもよい。
【0101】
また、磁気センサ12と第1の磁性層51と第2の磁性層52は、−Z方向にこの順で並ぶように配置されていてもよい。この場合、第2の磁性層52は、第1の磁性層51と基板61の間に位置する。コイル11および磁気センサ12は、第1の磁性層51の上方に位置する。
【0102】
また、電流センサ1は、コイル11および磁気センサ12の上方に配置された第1の対の第1および第2の磁性層51,52と、コイル11および磁気センサ12の下方に配置された第2の対の第1および第2の磁性層51,52を備えていてもよい。第1の対の第1および第2の磁性層51,52は、実施の形態における第1および第2の磁性層51,52に対応する。第2の対における第1の磁性層51は、第2の対における第2の磁性層52よりも、磁気センサ12により近い位置にある。
【符号の説明】
【0103】
1…電流センサ、11…コイル、12…磁気センサ、30…フィードバック回路、31…フィードバック制御回路、40…電流検出器、51…第1の磁性層、52…第2の磁性層、61…基板、62〜64…絶縁層、65〜67…非磁性層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23