(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690619
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】金属樹脂接合体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 65/30 20060101AFI20200421BHJP
B23K 11/16 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
B29C65/30
B23K11/16
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-181623(P2017-181623)
(22)【出願日】2017年9月21日
(65)【公開番号】特開2019-55537(P2019-55537A)
(43)【公開日】2019年4月11日
【審査請求日】2019年3月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 吾朗
(72)【発明者】
【氏名】中垣 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】尼子 龍幸
【審査官】
▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2017/090245(WO,A1)
【文献】
特開2016−083676(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C45/14,65/00−65/82
B23K11/00−11/36
B32B1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属体と樹脂体を接合して金属樹脂接合体を得る接合工程を備え、
前記金属体は、圧接された電極から投入される電力によりジュール加熱されてできた粗面部を被接合面に有し、
該粗面部は、該電極の先端形状に応じて形成されるスポット痕からなる金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項2】
前記接合工程は、前記樹脂体の少なくとも被接合面側を加熱する工程である請求項1に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項3】
前記接合工程は、前記金属体側から前記樹脂体側を加熱する工程である請求項2に記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項4】
前記金属体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる請求項1〜3のいずれかに記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項5】
前記電極は、銅または銅合金からなる請求項1〜4のいずれかに記載の金属樹脂接合体の製造方法。
【請求項6】
圧接された電極から投入される電力によりジュール加熱されてできた粗面部を有する金属体と、
該粗面部に係合した係合部を有する樹脂体とを備え、
該粗面部は、該電極の先端形状に応じて形成されるスポット痕からなり、
該粗面部と該係合部により接合された金属樹脂接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と樹脂を接合した金属樹脂接合体等に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や航空機等の各分野における軽量化ニーズ等に伴い、金属と樹脂の接合が求められている。また、電子機器やパワーデバイス等でも、筐体等を構成する金属と、封止材や支持材等を構成する樹脂との接合が求められている。金属と樹脂は一般的に接着剤を用いて接合されるが、このような接着は経年劣化により剥離等を生じ得るため信頼性に欠ける。また接着剤の使用は、環境負荷物質である接着溶剤の使用等を伴うことも多く好ましくない。そこで、接着剤を用いないで金属と樹脂を接合する提案が種々なされており、例えば、下記の特許文献に関連する記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−60974号公報
【特許文献2】特開2014−223781号公報
【特許文献3】特開2016−132131号公報
【特許文献4】特開2016−144823号公報
【特許文献5】特開2017−24060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜5はいずれも、いわゆるアンカー効果を利用して金属部材と樹脂部材の接合を行っているが、アンカーの形成方法はそれぞれ異なる。具体的にいうと、特許文献1はアンカー(突起)を鋳込みにより形成している。特許文献2〜4は、アンカーをレーザー照射により形成している。特許文献5は、アンカーをプレス成形とレーザー照射を組合わせて形成している。
【0005】
いずれの場合も、アンカーの形成に多くの工数や時間を要し、生産性に優れるものとは言えない。特にレーザー照射により微細なアンカーを形成する方法は、接合領域が広範囲に及ぶ比較的大きな接合部材の製造には向かない。
【0006】
本発明はこのような事情下で為されたものであり、従来とは異なる手法により、高い接合強度を発揮し得る金属樹脂接合体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来とは異なり、金属体の被接合面へ高密度電流を短時間通電することにより、その被接合面上に粗面部を形成できることに見出した。そして、その粗面部に圧接した樹脂体を加熱して軟化・溶融させた後に冷却凝固させて、強固に接合された金属樹脂接合体を得ることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0008】
《金属樹脂接合体の製造方法》
(1)本発明は、金属体と樹脂体を接合して金属樹脂接合体を得る接合工程を備え、前記金属体は、圧接された電極から投入される電力によりジュール加熱されてできた粗面部を被接合面に有する金属樹脂接合体の製造方法である。
【0009】
(2)本発明に係る金属体の粗面部は、微細で複雑な凹凸形状を有し、表面積も大きい。この粗面部へ軟化・溶融した樹脂が充填・侵入することにより、粗面部と複雑に絡み合った係合部が樹脂体に形成される。金属体の粗面部と樹脂体の係合部はアンカー効果により強固に接合された状態となるため、本発明の製造方法によれば、高い接合強度を有する金属樹脂接合体が得られる。
【0010】
《金属樹脂接合体》
本発明は製造方法としてのみならず、金属樹脂接合体としても把握できる。すなわち、本発明は、圧接された電極から投入される電力によりジュール加熱されてできた粗面部を有する金属体と、該粗面部に係合した係合部を有する樹脂体とを備え、該粗面部と該係合部により接合された金属樹脂接合体でもよい。
【0011】
なお、粗面部の表面形状は微細で複雑であるため、構造または特性により直接的に特定することは不可能であるかまたは非実際的である。但し、本発明に係る粗面部の表面形状は、従来の鋳造や加工(レーザー加工、プレス加工等)等で形成されるアンカー形状とは明らかに異なっている(
図4参照)。従って、本発明に係る粗面部は、「物」として従来のものと明瞭に区別可能である。
【0012】
《その他》
(1)粗面部は、電極を介して金属体の被接合面へ通電処理されることにより形成される。粗面部の形態は、その通電条件(電流密度、圧接力、電極の形態や材質等)により様々である。このため、粗面部の形態を一概に特定することはできない。但し、粗面部は、通電処理されていない金属面(粗面部の周囲にある金属面等)よりは、少なくとも表面粗さが遙かに大きい(粗い)。
【0013】
なお、粗面部は、金属体の被接合面の表面近傍(表層)が部分的に溶融したり、構成元素が飛散等して生じると考えられるが、現状そのメカニズムは定かではない。但し、粗面部は、最表面(処理前の被接合表面)から深さ10〜300μm程度さらには30〜150μm存在すれば十分である。
【0014】
(2)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】スポット電極により粗面部を形成する様子を模式的に示す説明図である。
【
図1B】金属板の一端側にある片面に形成した粗面部(スポット痕)を模式的に示す説明図である。
【
図2A】接合前の金属板と樹脂板を重ね合わせた様子を模式的に示す説明図である。
【
図2B】粗面部を有する金属板に樹脂板を接合した金属樹脂接合体を示す写真である。
【
図3】引張せん断試験後の各試料を示す写真である。
【
図5】回転電極により粗面部を形成する様子を模式的に示す説明図である。
【
図6A】金属体と樹脂体の重合部を、一対の回転電極を用いた通電加熱により接合する様子を模式的に示す説明図である。
【
図6B】その通電加熱により、金属体側から樹脂体側が加熱される様子を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書で説明する内容は、本発明の金属樹脂接合体(単に「接合体」ともいう。)のみならず、その製造方法にも適宜該当し得る。上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一以上の構成要素を付加し得る。製造方法に関する構成要素は、物に関する構成要素ともなり得る。
【0017】
《金属体》
金属体は、圧接された電極からの通電加熱により少なくとも表層部分に粗面部を形成できる金属(純金属・合金等)、例えば、Fe系金属、Al系金属、Mg系金属、Ti系金属等からなればよい。なお、「X系金属」とは、X(純金属)と、全体に対してXを50at%以上含むX基合金(複合材を含む)との両方を含む。
【0018】
例えば、銅または銅合金からなる電極(スポット溶接用電極等)を利用する場合、金属体はAl系金属であると、粗面部が形成され易くて好ましい。特にAl系金属は、Mgを含むAl合金(例えば、JIS5000番系〜7000番系、A2024等)であると好ましい。
【0019】
《樹脂体》
樹脂体は、少なくとも粗面部に圧接される被接合面近傍で、軟化または溶融して金属体の粗面部に浸入・浸透等し得ると共に、その後に凝固して粗面部に係合する係合部を形成する樹脂からなればばよい。このような樹脂は、熱可塑性樹脂に限らず、加熱初期に軟化等する熱硬化性樹脂でもよい。なお、樹脂体は、樹脂からなるマトリックス中に粒子や繊維等が分散した複合材でもよい。また樹脂体は、金属体の被接合面(粗面部)に接合される部分が樹脂であればよく、他の部分は樹脂以外(金属、セラミックス等)からなってもよい。
【0020】
熱可塑性樹脂には、汎用プラスチック、汎用エンジニアリングプラスチック、スーパーエンジニアリングプラスチック等がある。具体的にいうと、汎用プラスチックには、ポリエチレン、ポリプロピレンといったポリオレフィン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレート等がある。汎用エンジニアリングプラスチックには、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン12といったポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリブチレンテレフタレート、超高分子量ポリエチレン等がある。スーパーエンジニアリングプラスチックには、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、熱可塑性ポリイミド、液晶ポリマー、ポリテトラフロロエチレンといったフッ素樹脂等がある。
【0021】
金属体も樹脂体も、その具体的な形態(形状、大きさ等)や機能等は様々あり得る。また、金属体と樹脂体の対向面全体が各被接合面となっていても良いし、その対向面の一部が各被接合面となっていても良い。また接合体は、金属体と樹脂体が一対である場合には限らない。例えば、一つの金属体に二つ以上の樹脂体が接合された接合体でもよいし、逆に一つの樹脂体に二つ以上の金属体が接合された接合体でもよい。
【0022】
《電極》
電極は、その先端部が金属体の表面に圧接された状態で通電されることにより、金属体の被接合面近傍に粗面部を形成する。粗面部の形成には、金属体の材質(成分組成、抵抗率、熱伝導率等)に応じて、その表面へ適切な電流密度の通電がなされることが必要である。電流密度には、印加電圧のみならず、電極の先端部の形状(単に「先端形状」という。)が影響する。また先端形状は、粗面部の形態(形状、大きさ)にも影響を及ぼす。
【0023】
電極の先端形状は電流密度や粗面部の形態に応じて適宜選択されるが、例えば、平面形(F形)、ラジアス形(R形)、ドーム形(D形)、ドームラジアス形(DR形)、円錐台形(CF形)、円錐台ラジアス形(CR形)等を用いることができる。なお、本発明に係る電極として、JIS C9304(1999)に規定されているスポット溶接用電極を用いることができる。
【0024】
電極は、導電性や熱伝導性等を考慮してCu系金属(銅・銅合金)製でも良いし、耐消耗性等を考慮してW系金属製等でもよい。既述したように、金属体(少なくとも被接合面近傍)がAl系金属からなる場合、電極はCu系金属からなると好ましい。なお、電極は、内部に冷却水等を供給してその損耗等が抑制される形状(例えば筒状)であると好ましい。
【0025】
《粗面化工程》
粗面部を形成する粗面化工程の通電条件は、金属体の材質、電極の材質等により適宜設定される。一例を挙げると、電極から金属体への通電電流値は10〜40kAさらには15〜30kA、通電時間は20〜800msさらには50〜400ms、電極の金属体への加圧力(圧接力)は1〜20kNさらには3〜10kNとするとよい。通電電流の過少、通電時間の過短または加圧力の過小は、粗面部の浅薄ひいては接合強度の低下を招き易い。通電電流の過多、通電時間の過長または加圧力の過大は、生産性の低下、粗面部の形成不良による接合強度の低下を招き易い。なお、通電は交流でも直流でもよい。その電源は定電流電源でも定電圧電源でもよいが、定電流電源の方が粗面部の形態制御をし易い。
【0026】
このような粗面化工程により、電極の先端形状に応じたスポット痕からなる粗面部が形成される。スポット痕の数や配置により粗面部の形態(形状、面積等)も自由に調整できる。なお、スポット痕は、少なくとも一つあればよいが、スポット痕を増やすことにより粗面部を容易に拡張でき、より強固な接合が可能となる。
【0027】
《接合工程》
接合工程は、金属体の被接合面と樹脂体の被接合面間で、少なくともアンカー効果を生じさせて両者を接合する工程である。アンカー効果は、通常、金属体の粗面部へ軟化状態・溶融状態にある樹脂が浸入・浸透等した後に凝固することにより発現される。このような接合工程として、例えば、溶着または圧着により金属体と樹脂体を接合する場合と、インサート成形により金属体と樹脂体を接合する場合がある。
【0028】
溶着または圧着する場合、接合工程は、例えば、樹脂体の被接合面側を加熱する加熱工程と、その被接合面側を金属体の粗面部に圧接させた状態で冷却する冷却工程とを有すると好ましい。加熱工程は、樹脂体側から行ってもよいし、金属体の被接合面側から樹脂体の被接合面側を加熱してもよい。金属体の加熱は、ジュール加熱、高周波加熱等、金属体の材質に応じて適宜選択される。ジュール加熱は、例えば、金属体の一面側(被接合面の反対面側)に両極(例えば、シーム溶接で用いる二つの電極)を接触させて行うことができる。
【0029】
インサート成形する場合、接合工程は、例えば、粗面部へ軟化または溶融した樹脂を接触させる(充填させる)供給工程と、樹脂を固化させて樹脂体とする固化工程とを有すると好ましい。供給工程は、例えば、粗面部を有する金属体を成形型内へ収容またはセットし、その粗面部と接触するように軟化または溶融した樹脂をその成形型内へ注入して行える。なお、インサート成形は、射出成形、押出成形、ブロー成形、真空成形、トランスファー成形、圧縮成形等のいずれによりなされてもよい。
【0030】
《接合体》
接着剤等に依ることなく、金属体と樹脂体が強固に接合された接合体は、種々の分野における様々な製品に利用され得る。例えば、自動車分野で用いられる外板、内外装のような構造部品(材料)、制御系、駆動系等のユニットを構成する機能性部品(材料)等に本発明の接合体は好適である。また、建築・土木分野、家電分野等において、生産性や意匠性に優れた樹脂体と高強度な金属体とを組み合わせた部品や製品等にも、本発明の接合体は好適である。
【実施例】
【0031】
樹脂体を加熱して金属体へ溶着(圧着)させた接合体(試料)を製造し、それぞれの接合強度を評価した。また、金属体の被接合面にできたスポット痕(粗面部)を顕微鏡観察した。このような具体例を通じて、さらに本発明を詳しく説明する。
【0032】
《試料の製造》
(1)金属体と樹脂体
接合する金属体としてAl合金(JIS A5052)からなる金属板を、樹脂体としてポリエチレンテレフタレート(PET)からなる樹脂板をそれぞれ用意した。金属板および樹脂板はいずれも幅40mm×長さ120mm×厚さ1mmとした。
【0033】
(2)粗面化工程
図1Aに示すように、交流式抵抗スポット溶接機を用いた通電により、金属板の一端側にある片面(被接合面)にスポット痕を順次形成した。具体的にいうと、スポット溶接に用いるスポット電極と支持電極で挟持した金属板の端部へ通電した。通電条件は、電流値:24kA、電極間の加圧力:3kN、通電時間:6サイクル(1サイクル=1/60秒)とした。この通電を繰り返すことにより、
図1Bに示すように、スポット痕の集合からなる粗面部を金属板の被接合面側に形成した。
【0034】
スポット電極には、ドームラジアス型電極(単に「DR型電極」という。/JIS C9304)を用いた。DR型電極は、銅合金(クロム銅)製であり、胴部(φ16mm)、先端面(円状の平面/φ6mm)、先端面の外縁から胴部の外周縁まで接続される球面(曲率半径R40mm)とにより構成されている。なお、DR型電極の胴部の内側は水冷されている。
【0035】
本実施例では支持電極にもDR型電極を用いた。但し、粗面部を形成しない支持電極の先端面は、対極であるDR型電極の先端面よりも金属板に圧接される面積を大きくしてもよい。これにより、スポット電極と支持電極により金属板へ通電したときに、スポット電極側の電流密度を大きく、支持電極側の電流密度を小さくしてもよい。
【0036】
(3)接合工程
図2Aに示すように、金属板の一端側に設けた粗面部に樹脂板の一端側を重ねて配置し、金属板の裏側(被接合面の反対面側)をホットプレートで250℃に加熱した。この加熱により樹脂板の被接合面側は、粗面部を介して加熱されて軟化し、粗面部上で流動化した。この後、自然冷却することにより、金属板と樹脂板は
図2Bに示すような接合部を介して接合された金属樹脂接合体(「試料1」という。)となった。なお、接合工程は、金属板と樹脂板の重合部に押金具の平面部を当て、0.01〜0.1MPa程度の加圧力を印加しつつ行った。
【0037】
(4)比較試料
比較のため、粗面部を設けない金属板と樹脂板も、上述した接合工程と同様に加熱圧着した試料C1も用意した。
【0038】
《引張せん断試験》
金属板の他端側と樹脂板の他端側を把持して、それらを長手方向へ引っ張る引張せん断試験(JIS Z3136参照)を行った。
図3に示すように、試料1は接合部で剥離せず、引張力:163.3kgfのときに樹脂板自体が破壊した。一方、試料C1は、引張力:11.6kgfのときに接合部が剥離した。
【0039】
この試験結果から、金属板に粗面部を設けることにより、粗面部を設けないときよりも、少なくとも14倍以上の高い接合強度が得られることがわかった。
【0040】
《粗面部の表面観察》
試料1に係る金属板の粗面部を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した写真(SEM像)を
図4に示した。
図4から明らかなように、スポット電極を用いた粗面化により、金属板の被接合面に微細で複雑な凹凸形状が形成されることが確認された。このような形態の粗面部により、軟化または溶融した樹脂が複雑に絡んだ係合部が形成され、両者間に作用する大きなアンカー効果によって、金属板と樹脂板は強固に接合されたと考えられる。
【0041】
《補足》
(1)粗面化工程
粗面化工程は、
図5に示すような回転電極を利用すると、広範囲な粗面部を効率的に形成することができる。回転電極として、例えば、抵抗シーム溶接で用いられる円盤状の銅系電極を用いることができる。
【0042】
(2)接合工程
接合工程は、
図6Aおよび
図6B(両者を併せて単に「
図6」という。)に示すような1対の回転電極を利用して、金属体側(粗面部がある被接合面の反対面側)から樹脂板の被接合面側を加熱してもよい。この場合、広範囲の重合部も連続的に加熱でき、接合部が長大な大型の接合体でも効率的に生産できる。