(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記各発射ユニットでは、画一的なカウンターインパルスしか発生させることができず、カウンターインパルスの大きさを適宜調整することができなかった。そのため、地雷や埋設型のIEDの爆風によって装甲車両に与えられる外的インパルスに対して適当な大きさのカウンターインパルスを発生させることができなかった。
【0007】
本開示の目的は、対象物に与えるインパルスの大きさを自在に調整可能なインパルス付与装置及びそれを備えた防護システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の第1の態様は、炸薬(22)を備え、該炸薬(22)の爆轟時に生じる爆風によって対象物(1)にインパルスを付与するインパルス付与装置であって、上記対象物(1)に取り付けられる基材(21)と、上記基材(21)に取り付けられて上記炸薬(22)を保持するケーシング(23)と、上記ケーシング(23)を上記基材(21)から離れる方向に発射する発射機構(24)と、上記ケーシング(23)の発射後、飛翔中の上記炸薬(22)を起爆可能に構成された起爆機構(25)とを備えているものである。
【0009】
第1の態様では、起爆機構(25)によって炸薬(22)が起爆されて爆轟すると、その爆風によって対象物(1)にインパルスが付与される。また、第1の態様では、起爆機構(25)は、発射機構(24)によってケーシング(23)を基材(21)から離れる方向に発射された飛翔中のケーシング(23)に保持された炸薬(22)を起爆可能に構成されている。そのため、ケーシング(23)が発射された後、炸薬(22)の起爆タイミングを適宜調節することにより、炸薬(22)の起爆位置を無段階に自在に変更することができる。また、炸薬(22)の起爆位置が基材(21)から離れれば離れる程、爆風によって対象物(1)に付与されるインパルスは小さくなるため、炸薬(22)の起爆位置を変更することによって、対象物(1)に付与するインパルスを必要に応じて自在に調整することができる。
【0010】
本開示の第2の態様は、上記第1の態様において、上記起爆機構(25)は、上記基材(21)に設けられ、該基材(21)から上記ケーシング(23)に向かって発射される発射体(27)を有し、該発射体(27)を上記ケーシング(23)に衝突させることによって上記炸薬(22)を起爆させるように構成されているものである。
【0011】
第2の態様では、起爆機構(25)を、基材(21)から発射体(27)を発射してケーシング(23)に衝突させることによって炸薬(22)を起爆させるように構成したため、ケーシング(23)の発射前だけでなく発射後であっても容易に炸薬(22)を起爆することができる。また、第2の態様では、起爆機構(25)が基材(21)に設けられているため、炸薬(22)の爆轟時に、信管等の起爆機構(25)の破片が飛散して対象物(1)の近くにいる人を負傷させることがなく、副次被害を抑制することができる。
【0012】
本開示の第3の態様は、上記第2の態様において、上記基材(21)と上記対象物(1)との間に、該基材(21)よりも固有音響インピーダンスが小さい緩衝材(26)が設けられているものである。
【0013】
ここで、固有音響インピーダンスとは、音波の媒質の密度ρ(kg/m
3)と媒質中の音速c(m/s)の積ρc(Pa・s/m)で示される値であり、異なる媒質の境界面での衝撃波の反射と透過の割合を決定するもので、固有音響インピーダンスが小さい程、衝撃波の透過率が小さくなる。
【0014】
第3の態様では、基材(21)と上記対象物(1)との間に、基材(21)よりも固有音響インピーダンスが小さい緩衝材(26)が設けられている。上述のように、固有音響インピーダンスが小さい程、衝撃波の透過率が小さくなるため、第3の態様では、炸薬(22)の爆轟に伴う爆風(衝撃波)によって基材(21)に作用するインパルスに比べて、緩衝材(26)を介して対象物(1)に伝達されるインパルスは、衝撃力のピーク値が低くなるものの、作用時間が長くなる。つまり、作用する衝撃力の時間変化が緩やかになる。
【0015】
本開示の第4の態様は、外部から対象物(1)に作用した外的インパルスに対抗するカウンターインパルスを該対象物(1)に付与する防護システムであって、上記対象物(1)に作用する圧力を検出する圧力センサ(31)と、上記対象物(1)の加速度を検出する加速度センサ(32)と、上記インパルスを上記カウンターインパルスとして上記対象物(1)に付与するように設けられた上記第1乃至第3のいずれか1つの態様のインパルス付与装置(20)と、上記圧力センサ(31)及び上記加速度センサ(32)の検出値に基づいて上記外的インパルスを予測し、上記インパルス付与装置(20)が該外的インパルスに応じた上記カウンターインパルスを上記対象物(1)に付与するように、上記インパルス付与装置(20)の動作を制御する制御装置(40)とを備えているものである。
【0016】
第4の態様では、外部から対象物(1)に外的インパルスが作用すると、制御装置(40)が、圧力センサ(31)と加速度センサ(32)の検出値に基づいて外部から対象物(1)に作用した外的インパルスを予測し、該外的インパルスに応じたカウンターインパルスが対象物(1)に付与されるように、対象物(1)に取り付けられたインパルス付与装置(20)を動作させる。上記インパルス付与装置(20)は、対象物(1)に付与するインパルスを必要に応じて自在に調整することができるものであるため、第4の態様によれば、外的インパルスを相殺するのに必要なカウンターインパルスを対象物(1)に付与することができる。
【0017】
本開示の第5の態様は、上記第4の態様において、上記対象物(1)は、装甲車両であり、上記インパルス付与装置(20)は、上記装甲車両(1)に対して下向きの上記カウンターインパルスを付与するように上記装甲車両(1)に取り付けられているものである。
【0018】
第5の態様では、装甲車両(1)に地雷や埋設型のIEDの爆轟によって上向きの外的インパルスが作用すると、制御装置(40)がこの上向きの外的インパルスを予測してインパルス付与装置(20)を動作させることにより、装甲車両(1)に作用する上向きの外的インパルスに応じた下向きのカウンターインパルスが付与されることとなる。従って、第5の態様によれば、地雷や埋設型のIEDの爆風による装甲車両(1)の跳ね上がりを抑制することができるため、搭乗員の負傷を抑制することができる。
【0019】
本開示の第6の態様は、上記第5の態様において、上記インパルス付与装置(20)は、上記装甲車両に複数設けられ、上記制御装置(40)は、上記圧力センサ(31)及び上記加速度センサ(32)の検出値に基づいて上記外的インパルスを予測し、上記各インパルス付与装置(20)が該予測された外的インパルスを相殺するために出力すべき上記カウンターインパルスを算出し、上記各インパルス付与装置(20)が算出された上記カウンターインパルスを上記装甲車両(1)に付与するように、上記複数のインパルス付与装置(20)の動作を制御するものである。
【0020】
第6の態様では、装甲車両(1)に複数のインパルス付与装置(20)を設け、複数のインパルス付与装置(20)でカウンターインパルスを付与することにより、外的インパルスを相殺するのにより適したカウンターインパルスを装甲車両(1)に付与することができる。従って、第6の態様によれば、地雷や埋設型のIEDの爆風による装甲車両(1)の跳ね上がりをより抑制することができるため、搭乗員の負傷をより抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
《発明の実施形態1》
図1は、実施形態1の防護システム(10)の概略構成を示している。実施形態1では、防護システム(10)は、装甲車両(1)に設けられている。防護システム(10)は、地雷や埋設型のIED(Improvised Explosive Device)の爆轟によって装甲車両(1)に爆風によるインパルス(外的インパルス)が作用して該装甲車両(1)が跳ね上がろうとする際に、外的インパルスの大きさに応じた逆向きのカウンターインパルスを装甲車両(1)に付与して外的インパルスをカウンターインパルスで相殺することにより、地雷や埋設型のIEDの爆風によって装甲車両(1)に作用する外的インパルスによって搭乗員が負傷するのを抑制するものである。
【0023】
ここで、「インパルス」は、対象物である装甲車両(1)に作用する力を作用時間で積分した力積を言う。よって、「外的インパルス」は、地雷や埋設型のIEDの爆轟によって装甲車両(1)に作用する上向きの力の作用時間で積分した力積を言い、「カウンターインパルス」は、「外的インパルス」を相殺するように4つのインパルス付与装置(20)によって装甲車両(1)に作用させる下向きの力の作用時間で積分した力積を言う。
【0024】
防護システム(10)は、対象物としての装甲車両(1)にインパルスを付与する4つのインパルス付与装置(20)と、地雷や埋設型のIEDの爆轟によって装甲車両(1)に作用する外的インパルスを予測するための装甲車両(1)の状態(圧力、加速度等)を検知する4つの検知装置(30)と、各インパルス付与装置(20)の動作を制御する制御装置(40)とを備えている。
【0025】
なお、以下の説明では、説明の便宜上、装甲車両(1)の搭乗者から見た方向で説明する。つまり、
図1の左側を前側、右側を後側、紙面手前側を左側、紙面奥側を右側、上側を上側、下側を下側とそれぞれ言う。
【0026】
[インパルス付与装置]
図1及び
図2に示すように、インパルス付与装置(20)は、防護対象となる装甲車両(1)に設置されている。本実施形態では、インパルス付与装置(20)は、装甲車両(1)の天井面(2)の前方と後方にそれぞれ左右対称に1つずつ計4つ設置されている。具体的には、本実施形態では、
図3に示すように、平面視において装甲車両(1)を四分割した前方右側の第1エリアA1に第1インパルス付与装置(20a)が設置され、後方右側の第2エリアA2に第2インパルス付与装置(20b)が設置され、前方左側の第3エリアA3に第3インパルス付与装置(20c)が設置され、後方左側の第4エリアA4に第4インパルス付与装置(20d)が設置されている。
【0027】
なお、本実施形態では、第1エリアA1〜第4エリアA4は、インパルス付与装置(20)がそれぞれ1つずつ設けられる出力エリアを構成する。
【0028】
図4に示すように、インパルス付与装置(20)は、ベースプレート(基材)(21)と、炸薬(22)と、ケーシング(23)と、発射機構(24)と、起爆機構(25)と、緩衝材(26)とを備えている。
【0029】
ベースプレート(21)は、直径450mmで厚さ30mmの円柱形状に形成されている。本実施形態では、ベースプレート(21)は、鋼板によって構成されている。ベースプレート(21)には、上面において開口し、下方に向かって延びる直径20mm程度の4つの円柱状の孔(21a)が形成されている。4つの孔(21a)は、ベースプレート(21)の外周部に90度間隔で形成されている。各孔(21a)は、ベースプレート(21)の下面には開口せず、下面の上方まで延びている。ベースプレート(21)の上面には、中央部に溝(21b)が形成され、ベースプレート(21)の下面には、中央部に溝(21c)が形成されている。また、ベースプレート(21)には、溝(21c)の上部と各孔(21a)の下部とを繋ぐ4本の連通路(21d)が形成されている。なお、ベースプレート(21)は、鋼板に限られず、鋼鉄と同様に高密度の金属(鉄以上の密度)からなる板状体であればいかなるものであってもよい。
【0030】
炸薬(22)は、後述するケーシング(23)の閉空間(S)に装填され、該ケーシング(23)に保持されている。炸薬(22)は、閉空間(S)と同じサイズに構成される。本実施形態では、炸薬(22)の質量は、3.1kgである。
【0031】
ケーシング(23)は、有底円筒形状の本体部(23a)と、該本体部(23a)に連続して形成された円筒状の筒部(23b)と、本体部(23a)内に設けられて該本体部(23a)内の底部側に閉空間(S)を区画する隔離板(23c)とを有している。本体部(23a)は、アルミニウム合金により、外径がベースプレート(21)の外径よりも大きい厚み4mmの有底円筒形状に形成されている。筒部(23b)は、本体部(23a)と同様に、アルミニウム合金により、本体部(23a)と等しい外径の厚み2mmの円筒形状に形成されている。本体部(23a)と筒部(23b)とは一体に形成されている。筒部(23b)は、下端部が緩衝材(26)の上端部と重なり、緩衝材(26)の上端部の外周面を覆っている。隔離板(23c)は、本体部(23a)の内径と等しい外径の円板形状に形成され、本体部(23a)の下端部を閉塞するように設けられ、該本体部(23a)の内部に炸薬(22)が装填される閉空間(S)を区画している。
【0032】
発射機構(24)は、発射薬(24a)と、該発射薬(24a)を起爆する起爆部(24b)とを有している。発射薬(24a)は、ベースプレート(21)とケーシング(23)の隔離板(23c)との間の高さ5mm程度の隙間に装填されている。起爆部(24b)は、ベースプレート(21)の上面に形成された溝(21b)内に設けられ、例えば、発射薬(24a)に衝撃を与える信管等によって構成されている。起爆部(24b)は、制御装置(40)と有線又は無線によって通信可能に接続され、制御装置(40)からの制御信号に基づいて指令されたタイミングで発射薬(24a)を起爆する。
【0033】
なお、起爆部(24b)は、発射薬(24a)に衝撃を与えて反応させることができるものであればいかなる構成であってもよく、EFI(Exploding Foil Initiator)を、ベースプレート(21)の上面に複数形成した溝内に複数設け、多点起爆方式としてもよい。
【0034】
起爆機構(25)は、ライナ(25a)と、炸薬(25b)と、伝爆薬(25c)と、起爆部(25d)とを有している。ライナ(25a)は、銅、ニッケル、タンタル等の金属製の円板によって構成され、中央が下方に位置するように湾曲している。ライナ(25a)は、ベースプレート(21)に形成された4つの孔(21a)の上面を閉塞するように、ベースプレート(21)に保持されている。炸薬(25b)は、ベースプレート(21)に形成された4つの孔(21a)に装填されている。伝爆薬(25c)は、炸薬(25b)よりも敏感で且つ反応速度の遅い火薬によって構成され、4本の連通路(21d)内に装填されている。起爆部(25d)は、ベースプレート(21)の下面に形成された溝(21c)内に設けられ、例えば、伝爆薬(25c)に衝撃を与える信管等によって構成されている。起爆部(25d)は、制御装置(40)と有線又は無線によって通信可能に接続され、制御装置(40)からの制御信号に基づいて指令されたタイミングで伝爆薬(25c)を起爆する。
【0035】
なお、起爆部(25d)は、伝爆薬(25c)に衝撃を与えて反応させることができるものであればいかなる構成であってもよく、EFI(Exploding Foil Initiator)であってもよい。
【0036】
緩衝材(26)は、ベースプレート(21)の下面に固定され、下部が装甲車両(1)の天井面(2)に取り付け可能に構成されている。緩衝材(26)は、ベースプレート(21)よりも固有音響インピーダンスρc(Pa・s/m)が小さい材料で構成されている。本実施形態では、緩衝材(26)は、鋼板からなるベースプレート(21)よりも固有音響インピーダンスρcの小さいプラスチック材料で構成されている。また、本実施形態では、緩衝材(26)は、ベースプレート(21)の外径に等しい直径450mm、厚さ150mmの円柱形状に形成されている。
【0037】
[検知装置]
検知装置(30)は、装甲車両(1)の底部(3)の前方と後方にそれぞれ左右対称に1つずつ計4つ設置されている。具体的には、本実施形態では、平面視において装甲車両(1)を四分割した前方右側の第1エリアA1に第1検知装置(30a)が設置され、後方右側の第2エリアA2に第2検知装置(30b)が設置され、前方左側の第3エリアA3に第3検知装置(30c)が設置され、後方左側の第4エリアA4に第4検知装置(30d)が設置されている。
【0038】
なお、本実施形態では、上述した出力エリアを構成する第1エリアA1〜第4エリアA4は、検知装置(30)がそれぞれ1つずつ設けられる検知エリアを構成する。つまり、本実施形態では出力エリアと検知エリアは一致している。
【0039】
各検知装置(30)は、圧力センサ(31)と加速度センサ(32)とをそれぞれ有している。各検知装置(30)は、装甲車両(1)の底部(3)の対応するエリアA1〜A4に作用する圧力と加速度を検知する。各検知装置(30)は、制御装置(40)と有線又は無線によって通信可能に接続され、検知した圧力と加速度の検知データを制御装置(40)に送信する。
【0040】
[制御装置]
制御装置(40)は、検知装置(30)から受信した地雷や埋設型のIEDの爆轟によって装甲車両(1)に作用する爆風の圧力と加速度に関する検知データに基づいて装甲車両(1)に作用する外的インパルスを予測し、各インパルス付与装置(20)が予測された外的インパルスを相殺するために出力すべきカウンターインパルスを算出し、各インパルス付与装置(20)が算出されたカウンターインパルスを装甲車両(1)に付与するように各インパルス付与装置(20)の動作を制御するように構成されている。
【0041】
具体的には、上述のように、制御装置(40)には、常時、第1〜第4検知装置(30a〜30d)から各検知エリアA1〜A4に作用する圧力と加速度の検知データが送信される。装甲車両(1)の下方で地雷や埋設型のIEDが爆轟すると、爆風によって装甲車両(1)に下方から大きな力が作用し、第1〜第4検知装置(30a〜30d)から受信した各検知エリアA1〜A4に作用する圧力及び加速度の検知データが瞬時に著しく変化する。制御装置(40)は、この変化に基づき、装甲車両(1)の下方で地雷や埋設型のIEDが爆轟したと判断し、瞬時に著しく変化した上記検知データに基づいて、この後に装甲車両(1)の各検知エリアA1〜A4に作用するインパルスI1〜I4(以下、外的インパルスI1〜I4と言う)を瞬時に予測する。そして、制御装置(40)は、この予測した外的インパルスI1〜I4を相殺するために第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4を算出し、算出したカウンターインパルスCI1〜CI4が出力されるように、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)の動作を制御する。
【0042】
具体的には、本実施形態では、制御装置(40)は、発射機構(24)の作動開始時に対する起爆機構(25)の作動開始時の遅延時間(タイムラグ)を変化させると、ベースプレート(21)に対する炸薬(22)の起爆位置(スタンドオフ)がどのように変化するかをシミュレートし、その相関関係(タイムラグとスタンドオフとの関係)を記憶している。また、制御装置(40)は、スタンドオフを変えると、ベースプレート(21)に作用するインパルス(カウンターインパルス)がどのように変化するかをシミュレートし、その相関関係(スタンドオフとカウンターインパルスとの関係)を記憶している。そして、制御装置(40)は、上述の相関関係から、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4に応じたスタンドオフと、該スタンドオフに応じたタイムラグとを選択し、選択したタイミングで発射機構(24)及び起爆機構(25)を作動させるように構成されている。
【0043】
本実施形態では、制御装置(40)は、本願で開示するように動作するマイクロコンピュータと、実施可能な制御プログラムが記憶されたメモリやハードディスク等とを含んでいる。なお、上記制御装置(40)は、防護システム(10)の制御装置の一例であり、制御装置(40)の詳細な構造やアルゴリズムは、本発明に係る機能を実行するどのようなハードウェアとソフトウェアとの組み合わせであってもよい。
【0044】
−動作及び作用−
次に、防護システム(10)によるインパルス相殺動作について説明する。以下では、一例として、装甲車両(1)の下方で埋設型のIEDが爆轟した場合について説明する。
【0045】
防護システム(10)では、上述のように、第1〜第4検知装置(30a〜30d)により、常時、装甲車両(1)の底部(3)の対応するエリアA1〜A4に作用する圧力と加速度が検知され、その検知データが制御装置(40)に送信される。
【0046】
装甲車両(1)の下方でIEDが爆轟すると、爆風によって装甲車両(1)に下方から大きな力が作用し、第1〜第4検知装置(30a〜30d)が検知する各検知エリアA1〜A4に作用する圧力と加速度が瞬時に著しく変化する。
【0047】
制御装置(40)は、第1〜第4検知装置(30a〜30d)から受信した圧力及び加速度の検知データの上記変化に基づき、装甲車両(1)の下方でIEDが爆轟したと判断し、瞬時に著しく変化した上記検知データに基づいて、この後に装甲車両(1)の各検知エリアA1〜A4に作用するインパルスI1〜I4(以下、外的インパルスI1〜I4と言う)を瞬時に予測する。そして、制御装置(40)は、出力エリアA1〜A4毎に、予測した外的インパルスI1〜I4を相殺するために第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4を算出し、算出したカウンターインパルスCI1〜CI4が出力されるように、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)の動作を制御する。
【0048】
例えば、制御装置(40)は、予め記憶している発射機構(24)の作動開始時に対する起爆機構(25)の作動開始時の遅延時間(タイムラグ)とベースプレート(21)に対する炸薬(22)の起爆位置(スタンドオフ)との関係、及び、スタンドオフとベースプレート(21)に作用するインパルス(カウンターインパルス)との関係から、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4に応じたスタンドオフ(例えば、500mm)と、該スタンドオフ(例えば、500mm)に応じたタイムラグ(例えば、0.09ms)とを選択し、選択したタイミングで発射機構(24)及び起爆機構(25)を作動させるべく、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)に制御信号を送信する。
【0049】
第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)は、制御装置(40)から受信した制御信号に基づき、指令されたタイミングで発射機構(24)及び起爆機構(25)を作動させて炸薬(22)を所望の起爆位置(所望のスタンドオフ)で起爆させ、所望のカウンターインパルスCI1〜CI4を出力する。
【0050】
具体的には、各インパルス付与装置(20)は、
図5A及び
図5Bに示す手順で動作する。つまり、各インパルス付与装置(20)では、まず、制御装置(40)から受信した制御信号に基づき、発射機構(24)の起爆部(24b)が発射薬(24a)を起爆する(
図5A(a)参照)。その結果、発射薬(24a)が燃焼し、燃焼ガスによって炸薬(22)を保持したケーシング(23)がベースプレート(21)から離れる方向(本実施形態では、上方)に発射される(
図5A(b)参照)。
【0051】
次に、制御装置(40)から受信した制御信号に基づき、発射機構(24)の作動開始時(起爆部(24b)による発射薬(24a)起爆時)から所望のタイムラグ(例えば、0.09ms)分の時間経過後、起爆機構(25)の起爆部(25d)が伝爆薬(25c)を起爆する(
図5A(b)参照)。これにより、伝爆薬(25c)を介して炸薬(25b)が起爆され、炸薬(25b)の爆轟によって各ライナ(25a)がケーシング(23)に向かって上方に加速されて中央部ほど上方に突出したEFP(Explosively Formed Projectile, or Explosively Formed Penetrator)(27)に成形され、ケーシング(23)に向かって高速で上方に飛翔し、ケーシング(23)に衝突する。この衝撃により、ケーシング(23)に保持された炸薬(22)が起爆される(
図5B(c)参照)。なお、このときの炸薬(22)の位置(起爆位置)、即ち、炸薬(22)起爆時におけるベースプレート(21)と炸薬(22)との距離は、制御装置(40)から指令された所望のスタンドオフ(例えば、500mm)となる。
【0052】
このようにして炸薬(22)は、所望のスタンドオフ(例えば、500mm)で起爆されて爆轟する。この爆轟に伴う爆風(衝撃波)により、ベースプレート(21)には、下向きのインパルスが作用し、該インパルスは、緩衝材(26)を介して装甲車両(1)に伝達される。このようにして各インパルス付与装置(20)が作動することにより、装甲車両(1)にカウンターインパルスCIが作用する。
【0053】
以上のようにして、防護システム(10)では、装甲車両(1)の下方でIEDが爆轟すると、制御装置(40)が、各エリアA1〜A4に作用する圧力及び加速度の検知データに基づいて外的インパルスI1〜I4を瞬時に予測し、出力エリアA1〜A4毎に、予測した外的インパルスI1〜I4を相殺するために第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4を算出する。そして、制御装置(40)は、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)が出力すべきカウンターインパルスCI1〜CI4に応じたスタンドオフと、該スタンドオフに応じたタイムラグとを選択し、選択したタイミングで第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)の発射機構(24)及び起爆機構(25)を作動させる。このようにして、第1〜第4インパルス付与装置(20a〜20d)に所望のカウンターインパルスCI1〜CI4を出力させることにより、各エリアA1〜A4において、IEDの爆轟によって装甲車両(1)に作用する外的インパルスI1〜I4の大部分が、該外的インパルスI1〜I4の大きさに応じて大きさが調節されたカウンターインパルスCI1〜CI4によって相殺される。よって、IEDの爆風による装甲車両(1)の跳ね上がりを抑制することができ、装甲車両(1)の姿勢が安定する。
【0054】
なお、上述したように、緩衝材(26)は、ベースプレート(21)よりも固有音響インピーダンスρc(Pa・s/m)が小さい材料で構成されているため、炸薬(22)の爆轟に伴う爆風(衝撃波)によってベースプレート(21)に作用するインパルスに比べて、緩衝材(26)を介して装甲車両(1)に伝達されるインパルス(カウンターインパルスCI1〜CI4)は、衝撃力のピーク値が低くなるものの、作用時間が長くなり、作用する衝撃力の時間変化が緩やかになり、外的インパルスI1〜I4により対応し、外的インパルスI1〜I4を相殺するカウンターインパルスCI1〜CI4としてより好ましくなる。
【0055】
[スタンドオフの違いによるカウンターインパルスの変化について]
上記防護システム(10)の各インパルス付与装置(20)について、スタンドオフ(炸薬(22)の起爆位置)を変更することによって、カウンターインパルスの大きさの調節が可能であることを検証するため、汎用衝撃解析ソフトAUTODYNを用いて、以下の解析を行った。
【0056】
φ400mm×14mm、質量3.1kgの炸薬と、φ500mm×30mmの鋼板からなるベースプレートとを平行に設け、炸薬のベースプレートとの対向面の裏面に、φ500mm×4mmのアルミニウム製の板状体を固定し、ベースプレートと炸薬との距離(スタンドオフ)を変更して炸薬を爆轟させた場合におけるベースプレートの運動量(X−Momentum)を計算した。計算結果は、
図6の通りであった。
【0057】
図6に示すように、スタンドオフが0mm(stand−off0)の場合、ベースプレートの運動量は、8740N・s(速度は190m/s)であった。また、スタンドオフが500mm(stand−off500)の場合、ベースプレートの運動量は、スタンドオフが0mm(stand−off0)の場合の約1/3となった。
図6の計算結果からわかるように、スタンドオフが大きくなる程(0mm(stand−off0)<100mm(stand−off100)<200mm(stand−off200)<300mm(stand−off300)<400mm(stand−off400)<500mm(stand−off500))、ベースプレートの運動量は小さくなる。
【0058】
また、本実施形態の各インパルス付与装置(20)において、ケーシング(23)が発射された後、該ケーシング(23)に保持された炸薬(22)の飛翔中に該炸薬(22)を起爆するタイミングを変えることにより、スタンドオフは無段階に変更できる。そのため、各インパルス付与装置(20)において、上述のようにスタンドオフを無段階に変更することにより、ベースプレート(21)を介して装甲車両(1)に付与するカウンターインパルスCIも無段階に調節することができることがわかる。
【0059】
−実施形態1の効果−
本インパルス付与装置(20)では、起爆機構(25)によって炸薬(22)が起爆されて爆轟すると、その爆風によって装甲車両(1)にインパルスが付与される。また、本インパルス付与装置(20)では、起爆機構(25)は、発射機構(24)によってケーシング(23)をベースプレート(21)から離れる方向(上方)に発射された飛翔中のケーシング(23)に保持された炸薬(22)を起爆可能に構成されている。そのため、ケーシング(23)が発射された後、炸薬(22)の起爆タイミングを適宜調節することにより、炸薬(22)の起爆位置(スタンドオフ)を無段階に自在に変更することができる。また、炸薬(22)の起爆位置(スタンドオフ)がベースプレート(21)から離れれば離れる程、爆風によって装甲車両(1)に付与されるインパルスは小さくなるため、炸薬(22)の起爆位置(スタンドオフ)を変更することによって、装甲車両(1)に付与するインパルスを必要に応じて自在に調整することができる。
【0060】
本インパルス付与装置(20)では、起爆機構(25)を、ベースプレート(21)からEFP(27)を発射してケーシング(23)に衝突させることによって炸薬(22)を起爆させるように構成したため、ケーシング(23)の発射前だけでなく発射後であっても容易に炸薬(22)を起爆することができる。また、本インパルス付与装置(20)では、起爆機構(25)がベースプレート(21)に設けられているため、炸薬(22)の爆轟時に、信管等の起爆機構(25)の破片が飛散して装甲車両(1)の近くにいる人を負傷させることがなく、副次被害を抑制することができる。
【0061】
各インパルス付与装置(20)では、ベースプレート(21)と装甲車両(1)との間に、ベースプレート(21)よりも固有音響インピーダンスが小さい緩衝材(26)が設けられている。ここで、固有音響インピーダンスは、音波の媒質の密度ρ(kg/m
3)と媒質中の音速c(m/s)の積ρc(Pa・s/m)であり、固有音響インピーダンスが小さい程、衝撃波の透過率が小さくなる。そのため、各インパルス付与装置(20)では、炸薬(22)の爆轟に伴う爆風(衝撃波)によってベースプレート(21)に作用するインパルスに比べて、緩衝材(26)を介して装甲車両(1)に伝達されるインパルス(カウンターインパルスCI1〜CI4)は、衝撃力のピーク値が低くなるものの、作用時間が長くなる。つまり、作用する衝撃力の時間変化が緩やかになり、外的インパルスI1〜I4により対応し、外的インパルスI1〜I4を相殺するカウンターインパルスCI1〜CI4としてより好ましくなる。
【0062】
また、本防護システム(10)では、外部から装甲車両(1)に外的インパルスI1〜I4が作用すると、制御装置(40)が、圧力センサ(31)と加速度センサ(32)の検出値に基づいて外部から装甲車両(1)に作用した外的インパルスI1〜I4を予測し、該外的インパルスI1〜I4に応じたカウンターインパルスCI1〜CI4が装甲車両(1)に付与されるように、装甲車両(1)に取り付けられたインパルス付与装置(20)を動作させる。上記インパルス付与装置(20)は、装甲車両(1)に付与するインパルスを必要に応じて自在に調整することができるものであるため、本防護システム(10)によれば、外的インパルスI1〜I4を相殺するのに必要なカウンターインパルスCI1〜CI4を装甲車両(1)に付与することができる。
【0063】
本防護システム(10)では、装甲車両(1)に地雷や埋設型のIEDの爆轟によって上向きの外的インパルスI1〜I4が作用すると、制御装置(40)がこの上向きの外的インパルスI1〜I4を予測してインパルス付与装置(20)を動作させることにより、装甲車両(1)に作用する上向きの外的インパルスI1〜I4に応じた下向きのカウンターインパルスCI1〜CI4が付与されることとなる。従って、本防護システム(10)によれば、地雷や埋設型のIEDの爆風による装甲車両(1)の跳ね上がりを抑制することができるため、搭乗員の負傷を抑制することができる。
【0064】
本防護システム(10)では、装甲車両(1)に複数のインパルス付与装置(20)を設け、複数のインパルス付与装置(20)でカウンターインパルスCI1〜CI4を付与することにより、外的インパルスI1〜I4を相殺するのにより適したカウンターインパルスCI1〜CI4を装甲車両(1)に付与することができる。従って、本防護システム(10)によれば、地雷や埋設型のIEDの爆風による装甲車両(1)の跳ね上がりをより抑制することができるため、搭乗員の負傷をより抑制することができる。
【0065】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0066】
上記実施形態では、検知装置(30)は、圧力センサ(31)と加速度センサ(32)とを有していたが、検知装置(30)は、外的インパルスをより的確に予測するために、圧力センサ(31)と加速度センサ(32)以外のセンサを備えていてもよい。例えば、検知装置(30)は、温度センサを備えていてもよい。地雷やIEDの爆薬に金属粉体のような金属エネルギー物質が混合されている場合、金属エネルギー反応によって爆風の温度が著しく高くなる。一方、外的インパルスは、金属エネルギー反応により、爆薬に金属エネルギー物質が混合されていない場合に比べて、緩やかに作用する。具体的には、爆薬に金属エネルギー物質が混合されている場合、爆薬に金属エネルギー物質が混合されていない場合より、爆風が装甲車両(1)に作用させる力は低くなるものの、作用時間が長くなり、外的インパルスの作用の仕方が変わる。そのため、検知装置(30)が温度センサを備えている場合、爆風の温度から爆薬に金属粉体のような金属エネルギー物質が含まれているか否かを判断することで、外的インパルスの大きさだけでなく、作用の仕方(ピークのタイミング、作用時間等)も的確に予測することができる。
【0067】
また、上記実施形態では、インパルス付与装置(20)及び検知装置(30)を4つずつ設けていたが、インパルス付与装置(20)及び検知装置(30)の個数と設置位置は上述のものに限られない。インパルス付与装置(20)及び検知装置(30)は、上述の4箇所の他、平面視において中央に1つ設けて5つ設けることとしてもよく、また、6つ以上設けることとしてもよい。
【0068】
また、上記実施形態では、検知装置(30)の個数及び設置位置は、インパルス付与装置(20)の個数及び設置位置と対応していた。つまり、出力エリアと検知エリアとが一致していた。しかしながら、出力エリアと検知エリアとは一致していなくてもよい。例えば、インパルス付与装置(20)は、装甲車両(1)を四分割した4つの出力エリアに1つずつ設けられる一方、検知装置(30)は、装甲車両(1)を六分割した6つの検知エリアに1つずつ設けることとしてもよい。
【0069】
さらに、上記実施形態では、各インパルス付与装置(20)において、起爆機構(25)を、ベースプレート(21)からEFP(27)を発射してケーシング(23)に衝突させることによって炸薬(22)を起爆させるように構成していた。しかしながら、起爆機構(25)の構成はこれに限られない。ケーシング(23)側に設けられて飛翔中に炸薬(22)を起爆するものであってもよく、小型の砲弾を発射してケーシング(23)に衝突させるものであってもよい。
【0070】
以上、実施形態及び変形例を説明したが、特許請求の範囲の趣旨及び範囲から逸脱することなく、形態や詳細の多様な変更が可能なことが理解されるであろう。また、以上の実施形態および変形例は、本開示の対象の機能を損なわない限り、適宜組み合わせたり、置換したりしてもよい。