(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(第1実施形態) 以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しながら詳細に説明する。尚、以下の説明中で参照する各図面において、同一または実質的に同一の構成には同一の符号が付されている。
【0013】
図1に示される打込機1はハウジング2を有する。ハウジング2は、シリンダケース3,モータケース4およびハンドル5を備えており、シリンダケース3にはシリンダ10が収容され、モータケース4には電動モータ20が収容されている。モータケース4およびハンドル5は、シリンダケース3から互いに略平行に延びており、モータケース4の端部とハンドル5の端部とは、連結部6によって互いに連結されている。ハウジング2は、ナイロンやポリカーボネート等の合成樹脂によって成形された2つのハウジング半体を有し、これら2つのハウジング半体を突き合わせることによってハウジング2が組み立てられている。
【0014】
シリンダ10内にはピストン11が往復動可能に収容されている。ピストン11は、シリンダ10の内部において、シリンダ10の軸方向に沿って上死点と下死点との間を往復動する。換言すれば、ピストン11は、シリンダ10内において上死点側から下死点側に移動し、また、下死点側から上死点側に移動する。シリンダ10内には、シリンダ10の内周面とピストン11の上面とによって、ピストン11の往復動に伴って容積が増減するピストン室12が区画されている。
【0015】
一方、ピストン11の下面にはドライバブレード30が連結されている。ドライバブレード30はピストン11と一体であり、ピストン11と共に往復動する。具体的には、シリンダケース3の先にはノーズ部7が設けられており、ノーズ部7の内側には射出通路7a(
図2)が設けられている。ドライバブレード30は、ピストン11の往復動に伴って射出通路7a内で往復動する。以下の説明では、
図1中におけるピストン11およびドライバブレード30の往復動方向を上下方向と定義する。つまり、
図1の紙面上下方向を上下方向と定義する。
【0016】
ハウジング2には、多数の止具9を収容するマガジン8が取り付けられている。マガジン8に収容されている止具9は、マガジン8が備える供給機構によって、1本ずつ射出通路7aに供給される。ドライバブレード30は、射出通路7aに順次供給される止具9の頭部を打撃する。頭部が打撃された止具9は、射出通路7aを通過し、射出通路7aの出口である射出口から打ち出され、木材や石膏ボード等の被打込材に打ち込まれる。
【0017】
ここで、
図1,
図2に示されているピストン11は上死点に位置しており、ドライバブレード30の先端30aは上限位置にある。換言すれば、上限位置とは、ピストン11が上死点にあるときのドライバブレード30の先端30aの位置である。
図1,
図2に示されているピストン11が下死点まで移動すると、これに伴ってドライバブレード30も降下し、ドライバブレード30の先端30aは下限位置に移動する。換言すれば、下限位置とは、ピストン11が下死点にあるときのドライバブレード30の先端30aの位置である。尚、以下の説明では、ドライバブレード30の先端30aを“ブレード先端30a”と呼ぶ場合がある。また、ブレード先端30aの位置を“ブレード先端位置”と呼ぶ場合がある。
【0018】
シリンダ10の底部には、ゴム製またはウレタン製のダンパ15が設けられている。ダンパ15は、下死点に到達したピストン11を受け止め、ピストン11とシリンダ10との衝突を回避する。ピストン11から下方に向かって伸びているドライバブレード30は、ダンパ15を貫通し、シリンダ10の底部に設けられている貫通孔を通ってシリンダ10から突出している。
【0019】
図2に示されるように、ドライバブレード30の近傍にはホイール50が設けられている。ホイール50は、回転自在に支持されている駆動軸51に固定されており、ホイール50には複数のピン52がその周方向に沿って間隔を隔てて取り付けられている。一方、ドライバブレード30には、その軸方向に沿って複数のラック32が設けられている。
【0020】
再び
図1を参照する。モータケース4には、ホイール50の駆動源である電動モータ20が収容されており、電動モータ20の出力軸21は、遊星歯車式の減速機構を介してホイール50の駆動軸51に接続されている。電動モータ20は、ハウジング2の連結部6に装着されたバッテリ60から供給される電力によって作動する。つまり、バッテリ60は電動モータ20の電源である。本実施形態におけるバッテリ60は、複数の電池セル(リチウムイオン電池)を備える二次電池である。もっとも、電池セルは、ニッケル水素電池、リチウムイオンポリマ電池、ニッケルカドミウム電池などに置換することができる。
【0021】
連結部6の内部には制御基板100が収容されている。
図3に示されるように、制御基板100には、制御部としてのコントローラ70が搭載されている。コントローラ70は、CPU,ROM,RAM等によって構成されるマイクロコンピュータであって、電動モータ20をPWM(Pulse Width Modulation)制御する。具体的には、電動モータ20はブラシレスモータであり、コントローラ70は、電動モータ20の給電線路上に、電動モータを駆動する電動モータ駆動素子として設けられているスイッチング素子Q1〜Q6のON時間とOFF時間の比率、つまりデューティ比を調節する。電動モータ20の制御に関しては後に詳述する。電動モータ駆動素子としては、好適にはスイッチング制御を行うFET,IGBT等のスイッチング素子が好ましい。
【0022】
図1に示されるように、シリンダ10の上方には、蓄圧室13を形成する蓄圧容器(チャンバ)14が設けられており、蓄圧室13はピストン室12に連通している。ピストン室12および蓄圧室13には、圧縮性流体(本実施形態では圧縮空気)が予め充填されている。下死点にあるピストン11を上死点に移動させるときには、コントローラ70(
図3)の制御に従って電動モータ20が作動し、ホイール50が回転する。ホイール50は、
図2中において反時計方向に回転する。
【0023】
ホイール50が回転すると、ピン52aとラック32aとが係合する。その後、ホイール50の回転に伴って、ピン52aよりもホイール50の回転方向下流側にある複数のピン52と、ラック32aよりもドライバブレード30の移動方向下側にある複数のラック32とが順次係合し、ドライバブレード30が次第に押し上げられ、ピストン11が下死点側から上死点側に向かって移動する。つまり、ドライバブレード30およびピストン11が上昇する。その後、回転方向において最も下流側にあるピン52bと移動方向において最も下側にあるラック32bとが係合するまでホイール50が回転すると、ドライバブレード30が最上位位置まで押し上げられ、ピストン11が上死点に到達する。換言すれば、ホイール50の回転方向においてピン52aから最も離反したピン52bと、ドライバブレード30の移動方向においてラック32aから最も離反したラック32bと、が係合するまでホイール50が回転すると、ドライバブレード30が最上位位置まで押し上げられ、かつ、ピストン11が上死点に到達する。尚、ドライバブレード30が最上位位置まで押し上げられると、ブレード先端30aは上限位置に到達する。
【0024】
上記のようにピストン11が移動(上昇)する過程で、ピストン室12の空気が蓄圧室13に送り込まれ、圧縮される。その後、ピン52bとラック32bとの係合が解除されると、ピストン室12および蓄圧室13内の圧縮空気の圧力(空気圧)によってピストン11が上死点側から下死点側に移動し、ドライバブレード30が降下する。
【0025】
このように、ピン52aおよびラック32aは、下死点にあるピストン11を上死点側に移動させる際に最初に係合し合うピン52およびラック32である。一方、ピン52bおよびラック32bは、下死点にあるピストン11を上死点側に移動させる際に最後に係合し合うピン52およびラック32である。そこで、以下の説明では、ピン52bを“最終ピン52b”と呼び、ラック32bを“最終ラック32b”と呼ぶ場合がある。本実施形態では、最終ピン52bは、ピン52aを含む他のピン52よりも若干太い。また、ホイール50の回転方向に沿ったピン52aと最終ピン52bとの間隔(離間角度)は60度であり、その他のピン52同士の間隔(離間角度)は30度である。
【0026】
再び
図1を参照すると、ノーズ部7にはプッシュスイッチ80が設けられている。プッシュスイッチ80は、上下方向に移動可能に保持されている一方、コイルばねによって常に下方に向けて付勢されている。プッシュスイッチ80が被打込部材に押し付けられ、コイルばねの付勢に抗して上方に移動すると、プッシュスイッチ検出回路80a(
図3)から信号(プッシュスイッチ信号)が出力される。また、ハンドル5にはトリガスイッチ81が内蔵されている。ハンドル5に設けられているトリガ5aが操作されると、トリガスイッチ81が操作され、トリガスイッチ81が操作されると、トリガスイッチ検出回路81a(
図3)から信号(トリガスイッチ信号)が出力される。
【0027】
図3に示されるように、プッシュスイッチ検出回路80aおよびトリガスイッチ検出回路81aは、コントローラ70が搭載されている制御基板100に搭載されており、プッシュスイッチ検出回路80aから出力されるプッシュスイッチ信号およびトリガスイッチ検出回路81aから出力されるトリガスイッチ信号はコントローラ70に入力される。コントローラ70は、2つの信号が入力されると、制御信号出力回路82を介してインバータ回路83のスイッチング素子Q1〜Q6をON/OFFさせて電動モータ20にモータ電流を供給する。これにより、
図2に示されるホイール50が回転駆動され、ドライバブレード30が押し上げられ、ピストン11が下死点側から上死点側に移動する。その後、ピストン11が上死点側から下死点側に移動し、ドライバブレード30が降下する。つまり、ピストン11が下死点と上死点との間を一往復し、これに伴ってドライバブレード30によって止具9が打撃される。換言すれば、打込み動作が一回実行される。尚、
図3に示されるインバータ回路83は、3相フルブリッジインバータ回路であって、スイッチング素子Q1〜Q3がハイサイドのスイッチング素子、スイッチング素子Q4〜Q6がローサイドのスイッチング素子である。
【0028】
図3に示されるように、制御基板100には、磁気センサであるホール素子84から出力される信号に基づいて電動モータ20の回転子(ロータ)の位置を検出する回転子位置検出回路85、回転子位置検出回路85の検出結果に基づいて電動モータ20の回転子(ロータ)の回転数を検出するモータ回転数検出回路86が搭載されている。さらに、制御基板100には、コントローラ70に必要な電力を供給する回路電圧供給回路87、回路電圧供給回路87を介してコントローラ70に供給される電力(電圧)に基づいてバッテリ60の残量を検出するバッテリ残量検出回路88が搭載されている。加えて、制御基板100には、バッテリ60から電動モータ20に供給されるモータ電流を検出するモータ電流検出回路89、モータ停止スイッチ90が操作されると信号(モータ停止信号)を出力する停止スイッチ検出回路90aが搭載されている。モータ電流検出回路89は、電流検出用の抵抗の両端に接続され、電動モータ20に供給される電流の値を検出する。また、モータ停止スイッチ90は、ホイール50(
図2)の回転角度が所定角度になると操作される。停止スイッチ検出回路90aから出力される停止スイッチ信号は、他の検出回路から出力される信号と同様に、コントローラ70に入力される。コントローラ70は、上記各検出回路から出力される信号に基づいてインバータ回路83を制御する。具体的には、インバータ回路83の各スイッチング素子Q1〜Q6をON/OFFし、または、各スイッチング素子Q1〜Q6のON時間とOFF時間の比率(デューティ比)を調節する。つまり、電動モータ20をPWM制御する。尚、以下の説明では、スイッチング素子Q1〜Q6を“スイッチング素子”と総称する場合がある。また、以下の説明では、特に断らない限り、“デューティ比”とは、スイッチング素子Q1〜Q6のON時間とOFF時間の比率を意味する。
【0029】
打込み動作が一回実行されると、コントローラ70は、単発打ち、連続打ちのいずれの場合も、所定の停止制御を実行する。具体的には、コントローラ70は、ブレード先端30a(
図2)が待機位置に移動するまで電動モータ20を作動させ続け、その後に電動モータ20を停止させる。
【0030】
打込み動作が終了した際、ピストン11は下死点にあり、よって、ブレード先端30aは下限位置にある。コントローラ70は、打込み動作が実行された後、ブレード先端30aが下限位置と上限位置との間に設定されている待機位置まで移動(上昇)するまで電動モータ20を作動させ続け、その後に電動モータ20を停止させる。この結果、ピストン11は、下死点と上死点との間の中間位置まで移動(上昇)する。換言すれば、ピストン11の中間位置とは、ブレード先端30aが待機位置にあるときのピストン11の位置である。
【0031】
上記待機位置は、下限位置と次回の打込み動作において射出通路7aに供給される止具9の頭部との間に設定される。つまり、待機位置とは、下限位置よりも高く、かつ、次回の打込み動作において射出通路7aに供給される止具9の頭部よりも低い位置である。換言すれば、待機位置とは、下限位置よりも高く、かつ、マガジン8に保持されている複数の止具9のうち、先頭に位置している止具9の頭部よりも低い位置である。
【0032】
上記停止制御には、例えば次のような意義がある。つまり、次に打込み動作を実行する際には、ブレード先端30aを待機位置から上限位置まで移動させれば足りる。一方、ブレード先端30aが下限位置にある場合には、次に打込み動作を実行する際に、ブレード先端30aを下限位置から上限位置まで移動させなくてはならない。つまり、停止制御を実行してブレード先端30aを予め待機位置に移動させておけば、次回の打込み動作を実行するために必要なドライバブレード30の移動距離(ストローク)が短縮され、応答性が向上する。さらに、本実施形態では、待機位置が先頭の止具9の頭部よりも低い位置に設定されている。このため、止具9の射出通路7aへの供給がドライバブレード30によって規制される。
【0033】
以上が本実施形態に係る打込機1の基本的な動作である。つまり、所定条件が満たされると、コントローラ70の制御の下で電動モータ20が作動してホイール50が回転する。すると、ホイール50に設けられている複数のピン52とドライバブレード30に設けられている複数のラック32とが順次係合し、ドライバブレード30が押し上げられる。同時に、シリンダ10内でピストン11が下死点側から上死点側に向かって移動する。その後、ピストン11が上死点に到達し、最終ピン52bと最終ラック32bとの係合が解除されると、空気圧(ガススプリング)によってピストン11が上死点側から下死点側に向かって移動し、ドライバブレード30が降下し、止具9が打ち出される。以後、所定条件が満たされている限り上記動作が繰り返される一方、所定条件が満たされなくなると上記動作が停止される。また、打込み動作を終了する際には、ブレード先端30aを待機位置に移動させて次回の打込み動作に備える。
【0034】
図3に示されるコントローラ70は、電動モータ20の制御モードとして、少なくとも第1始動モードおよび第2始動モードを備えている。第1始動モードおよび第2始動モードは、電動モータ20の始動制御に関する制御モードである。
【0035】
第1始動モードが選択されているとき、コントローラ70は、電動モータ20の始動時におけるスイッチング素子Q1〜Q6のデューティ比を第1の値に設定する。一方、第2始動モードが選択されているとき、コントローラ70は、電動モータ20の始動時におけるスイッチング素子Q1〜Q6のデューティ比を第1の値よりも高い第2の値に設定する。コントローラ70は、ピストン11の上死点側への移動速度に影響を与える状況の変化に応じて、第1始動モードと第2始動モードとを選択的に切り替える。
【0036】
ピストン11の上死点側への移動速度に影響を与える状況としては、例えばバッテリ60の残量、ピストン室12内や蓄圧室13内の圧力変化、周囲温度の変化などがある。本実施形態では、バッテリ60の残量に応じて、第1始動モードと第2始動モードのいずれか一方が選択され、選択された始動モードに従って電動モータ20が始動される。より具体的には、バッテリ残量40%を基準値とし、バッテリ残量が40%よりも多いときには第1始動モードが選択され、バッテリ残量が40%よりも少ないときには第2始動モードが選択される。
【0037】
図4には、電動モータ20の始動時におけるバッテリ残量が100%であるときの、モータ回転数,ブレード先端位置およびデューティ比の関係が示されている。換言すれば、
図3に示されるコントローラ70にトリガスイッチ信号およびプッシュスイッチ信号が入力されたときのバッテリ残量が所定の基準値(40%)よりも多いときの、モータ回転数,ブレード先端位置およびデューティ比の関係が示されている。
【0038】
図1に示されるトリガスイッチ81が操作され、かつ、プッシュスイッチ80が押し込まれると、打込み動作が開始される。尚、前回の打込み動作終了時に上記停止制御が実行されている。よって、打込み動作開始時には、ピストン11は中間位置にあり、ブレード先端30aは待機位置にある。
【0039】
図4に示されるように、トリガスイッチ81が操作されるとトリガスイッチ信号が出力される(t1)。次いで、プッシュスイッチ80が押し込まれるとプッシュスイッチ信号が出力される(t2)。このとき、バッテリ残量が基準値を上回っていると、コントローラ70は、第1始動モードで電動モータ20を始動させる。具体的には、コントローラ70は、デューティ比を第1の値である20%に設定する。換言すれば、コントローラ70は、デューティ比20%で電動モータ20を始動させる(t2)。その後、コントローラ70は、デューティ比を次第に100%まで上昇させる。モータ回転数は、デューティ比の上昇に伴って次第に増加する(t2〜t3)。
【0040】
電動モータ20が始動するとホイール50が回転し、ドライバブレード30が押し上げられ、ピストン11が中間位置から上死点に向かって上昇する。すると、ピストン11の上昇に伴ってピストン室12および蓄圧室13の圧力が高まる。同時に、ブレード先端30aは、待機位置から上限位置に向かって上昇する(t2〜t3)。
【0041】
然る後、ピストン11は上死点に到達し、ブレード先端30aは上限位置に到達する(t3)。その後、最終ピン52bと最終ラック32bとの係合が解除されると、ピストン11が上死点から下死点に向かって移動し、ドライバブレード30が降下する。最終ピン52bと最終ラック32bとの係合が解除されると、電動モータ20の負荷が低下するので、モータ回転数は増加する(t3〜t4)。
【0042】
上記のようにしてピストン11が下死点に到達すると、コントローラ70は上記停止制御を実行する。具体的には、コントローラ70は、最終ピン52bと最終ラック32bとの係合が解除された後も電動モータ20を作動させ続ける。よって、ホイール50は回転を続け(t4〜t5)、ピン52aとラック32aとが再び係合する(t5)。最終ピン52bと最終ラック32bとの係合が解除されてからピン52aとラック32aとが再係合するまでの間(t3〜t5)、電動モータ20は実質的に無負荷で駆動され、ホイール50は空転する。
【0043】
その後、ピン52aとラック32aとが再係合し、ドライバブレード30の押し上げが開始されると、ピストン11の上昇に伴ってシリンダ10内の圧力が次第に上昇する。これに伴って電動モータ20の負荷も次第に増大するので、モータ回転数は次第に低下する(t5〜t6)。
【0044】
その後、ブレード先端30aが待機位置よりもやや下方に設定されている所定位置まで上昇するとモータ停止スイッチ90が操作され、停止スイッチ検出回路90aから停止スイッチ信号が出力される(t6)。停止スイッチ信号が入力されたコントローラ70は、電動モータ20を停止させる。このとき、コントローラ70は、電動モータ20に対するモータ電流の供給を停止させるのではなく、電動モータ20に電気的なブレーキを掛けて電動モータ20を積極的に停止させる。具体的には、コントローラ70は、制御信号出力回路82にブレーキ信号を出力する。ブレーキ信号が入力された制御信号出力回路82は、インバータ回路83のローサイドのスイッチング素子Q4〜Q6をONにする。これにより、モータ回転数が急激に低下し、電動モータ20が短時間で停止する(t7)。尚、上記所定位置は、停止スイッチ信号が出力されてから電動モータ20を停止させるまでに要する時間を考慮して予め設定されている。
【0045】
図5には、電動モータ20の始動時におけるバッテリ残量が40%よりも少ないときの、モータ回転数,ブレード先端位置およびデューティ比の関係が示されている。換言すれば、
図3に示されるコントローラ70にトリガスイッチ信号およびプッシュスイッチ信号が入力されたときのバッテリ残量が所定の基準値(40%)よりも少ないときの、モータ回転数,ブレード先端位置およびデューティ比の関係が示されている。
【0046】
バッテリ残量が基準値を下回っている状態でトリガスイッチ信号およびプッシュスイッチ信号が入力された場合、コントローラ70は、第2始動モードで電動モータ20を始動させる。具体的には、コントローラ70は、デューティ比を第2の値である80%に設定する。換言すれば、コントローラ70は、デューティ比80%で電動モータ20を始動させる(t2)。その後のモータ回転数やブレード先端位置の変化並びに電動モータ20に対する制御は、第1始動モードが選択されているときのそれらと実質的に同一である。
【0047】
つまり、バッテリ残量が基準値を下回っている場合には、バッテリ残量が基準値を上回っている場合よりも高いデューティ比で電動モータ20を始動させる。この結果、バッテリ残量の減少に伴うピストン11の移動速度(上昇速度)の低下が抑制される。つまり、バッテリ残量の多少にかかわらず、電動モータ20が始動してからピストン11が上死点に到達するまでに要する時間が一定または略一定に保たれる。換言すれば、バッテリ残量の多少にかかわらず、電動モータ20が始動してからブレード先端30aが待機位置や上限位置に到達するまでに要する時間が一定または略一定に保たれる。よって、バッテリ残量の減少に伴う打込み時間の延長や連射性能の低下が防止される。
【0048】
尚、第1始動モード選択時も第2始動モード選択時も、電動モータ20の始動時におけるデューティ比は100%未満である。つまり、いずれの始動モードにおいても、電動モータ20に対する過大なモータ電流の供給を防止する所謂「ソフトスタート」が実施される。もっとも、第1始動モードおよび第2始動モードにおけるデューティ比は、それぞれ上記の値とは異なる値に設定することもできる。また、制御モード切替の基準となるバッテリ残量は40%に限定されない。
【0049】
(第2実施形態) 本発明の実施形態の他の一例について図面を参照しながら説明する。もっとも、本実施形態に係る打込機の基本構成は、第1実施形態に係る打込機1と共通である。そこで、第1実施形態に係る打込機1との相違点についてのみ以下に説明する。また、第1実施形態に係る打込機1と共通の構成については同一の符号を用いることで説明に代える。
【0050】
本実施形態におけるコントローラ70は、電動モータ20の制御モードとして、少なくとも第1停止モードおよび第2停止モードを備えている。第1停止モードおよび第2停止モードは、電動モータ20の停止制御に関する制御モードである。
【0051】
第1停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が下死点と中間位置との間に設定されている所定位置を通過してから第1時間(T1)が経過した後に電動モータ20を停止させる。一方、第2停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が上記所定位置を通過してから第1時間(T1)よりも長い第2時間(T2)が経過した後に電動モータ20を停止させる。
【0052】
コントローラ70は、ピストン11の上死点側への移動速度に影響を与える状況の変化に応じて、第1停止モードと第2停止モードとを選択的に切り替える。本実施形態では、バッテリ60の残量の変化に応じて第1停止モードと第2停止モードのいずれか一方が選択される。より具体的には、バッテリ残量40%を基準値とし、バッテリ残量が40%よりも多いときには第1停止モードが選択され、バッテリ残量が40%よりも少ないときには、第2停止モードが選択される。
【0053】
図6には、停止制御実行時におけるバッテリ残量が100%であるときの、停止スイッチ信号,ブレーキ信号,モータ回転数およびブレード先端位置の関係が示されている。つまり、第1停止モードが選択されているときの、停止スイッチ信号,ブレーキ信号,モータ回転数およびブレード先端位置の関係が示されている。
【0054】
図6に示されるように、ブレード先端30aが所定位置を通過すると、モータ停止スイッチ90が操作され、停止スイッチ信号が出力される(t1)。停止スイッチ信号が入力されたコントローラ70は、制御信号出力回路82に対して直ちにブレーキ信号を出力し、電動モータ20に電気的なブレーキを掛ける(t1)。ここで、ピストン11はドライバブレード30と一体に移動する。よって、下限位置側から上限位置側に移動するブレード先端30aが所定位置を通過するとき、下死点側から上死点側に移動するピストン11もシリンダ10内の所定位置を通過する。よって、コントローラ70は、停止スイッチ信号の入力によってピストン11が所定位置を通過したことを認識することができる。このように、第1停止モードでは、下死点側から上死点側に移動するピストン11が所定位置を通過してから第1時間(T1)が経過した後に電動モータ20が停止される。そして、本実施形態における第1時間(T1)は実質的に0秒である。
【0055】
一方、
図7には、停止制御実行時におけるバッテリ残量が40%であるときの、停止スイッチ信号,ブレーキ信号,モータ回転数およびブレード先端位置の関係が示されている。つまり、第2停止モードが選択されているときの、停止スイッチ信号,ブレーキ信号,モータ回転数およびブレード先端位置の関係が示されている。
【0056】
図7に示されるように、ブレード先端30aが所定位置を通過すると、モータ停止スイッチ90が操作され、停止スイッチ信号が出力される(t2)。停止スイッチ信号が入力されたコントローラ70は、停止スイッチ信号が入力されてから第2時間(T2)が経過した後に、制御信号出力回路82に対してブレーキ信号を出力し、電動モータ20に電気的なブレーキを掛ける(t3)。つまり、第2停止モードでは、下限位置側から上限位置側に移動するブレード先端30aが所定位置を通過してから第2時間(T2)が経過した後に電動モータ20が停止される。換言すれば、下死点側から上死点側に移動するピストン11が所定位置を通過してから第2時間(T2)が経過した後に電動モータ20が停止される。そして、本実施形態における第2時間(T2)は、第1時間(T1)よりも長い。
【0057】
具体的には、第1時間(T1)は、バッテリ残量が100%のときに、ブレード先端30aが所定位置を通過してから待機位置に到達するまでに要する時間である。一方、第2時間(T2)は、バッテリ残量が40%のときに、ブレード先端30aが所定位置を通過してから待機位置に到達するまでに要する時間である。バッテリ残量が減少するとピストン11の移動速度が低下するので、ブレード先端30aが所定位置を通過してから待機位置に到達するまでにより多くの時間を要する。換言すれば、ピストン11が所定位置を通過してから中間位置に到達するまでにより多くの時間を要する。そこで、第2停止モードでは、ブレード先端30aが所定位置を通過した後、第1時間(T1)よりも長い第2時間(T2)が経過するのを待って電動モータ20を停止させる。この結果、バッテリ残量の多少にかかわらず、ブレード先端30aを常に同一の停止位置(本実施形態では、待機位置)まで移動させて停止させることができる。換言すれば、バッテリ残量の多少にかかわらず、ピストン11を常に同一の停止位置(本実施形態では、中間位置)まで移動させて停止させることができる。
【0058】
もっとも、第2時間(T2)をより長くすることによって、第2停止モードにおけるブレード先端30aの停止位置(ピストン11の停止位置)を、第1停止モードにおけるブレード先端30aの停止位置(ピストン11の停止位置)よりも上限位置側(上死点側)にすることもできる。換言すれば、第1停止モード選択時と第2停止モード選択時とで待機位置を異ならせることができる。さらに換言すれば、バッテリ残量が少ないときには、待機位置を上死点側にシフトさせることができる。この結果、電動モータ20の再始動から打込み開始までの時間のバラツキが抑制される。
【0059】
(第3実施形態) 本発明の実施形態のさらに他の一例について説明する。もっとも、本実施形態に係る打込機の基本構成は、第1実施形態および第2実施形態に係る打込機1と共通である。そこで、第1実施形態および第2実施形態に係る打込機1との相違点についてのみ以下に説明する。また、第1実施形態および第2実施形態に係る打込機1と共通の構成については同一の符号を用いることで説明に代える。
【0060】
本実施形態におけるコントローラ70は、電動モータ20の制御モードとして、少なくとも第1停止モードおよび第2停止モードを備えている。第1停止モードおよび第2停止モードは、電動モータ20の停止制御に関する制御モードである。
【0061】
第1停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が下死点と中間位置との間に設定されている所定位置を通過してから電動モータ20が第1回転量回転した後に電動モータ20を停止させる。一方、第2停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が所定位置を通過してから電動モータ20が第1回転量よりも多い第2回転量回転した後に電動モータ20を停止させる。
【0062】
コントローラ70は、ピストン11の上死点側への移動速度に影響を与える状況の変化に応じて、第1停止モードと第2停止モードとを切り替える。本実施形態では、バッテリ60の残量の変化に応じて第1停止モードと第2停止モードのいずれか一方が選択される。より具体的には、バッテリ残量40%を基準値とし、バッテリ残量が40%よりも多いときには第1停止モードが選択され、バッテリ残量が40%よりも少ないときには、第2停止モードが選択される。
【0063】
本実施形態では、
図3に示されるホール素子84および回転子位置検出回路85に加えて、回転子位置検出回路85の検出結果に基づいてカウンター信号を出力するモータ回転量検出回路が制御基板100に搭載されている。コントローラ70は、モータ回転量検出回路から出力されるカウンター信号をカウントすることによって電動モータ20の回転量を認識する。尚、本実施形態におけるホール素子84は、電動モータ20が30°回転するごとに信号を出力する。また、回転子位置検出回路85は、ホール素子84から出力された信号が入力される度に信号を出力する。さらに、モータ回転量検出回路は、回転子位置検出回路85から出力された信号が入力される度にカウンター信号を出力する。つまり、電動モータ20が30°回転する度にコントローラ70にカウンター信号が入力される。換言すれば、電動モータ20が30°回転する度に、コントローラ70においてカウンター信号が積算される。コントローラ70は、カウンター信号の積算数に基づいて電動モータ20の回転量を認識する。
【0064】
第1停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が下死点と中間位置との間に設定されている所定位置を通過した後のカウンター信号の積算数が所定数(第1カウント数(N1))に達すると電動モータ20を停止させる。一方、第2停止モードが選択されているとき、コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が上記所定位置を通過した後のカウンター信号の積算数が第1カウント数(N1)よりも多い所定数(第2カウント数(N2))に達すると、電動モータ20を停止させる。
【0065】
この結果、第2実施形態と同様の作用および効果が得られる。つまり、バッテリ残量の多少にかかわらず、ブレード先端30aを常に同一の停止位置まで移動させて停止させることができる。もっとも、第2カウント数(N2)をより多い数に設定することによって、第2停止モードにおけるブレード先端30aの停止位置を、第1停止モードにおけるブレード先端30aの停止位置よりも上限位置側(上死点側)にすることもできる。
【0066】
(第4実施形態) 本発明の実施形態のさらに他の一例について説明する。もっとも、本実施形態に係る打込機の基本構成は、上記第1実施形態ないし第2実施形態、第3実施形態に係る打込機1と共通である。そこで、第1実施形態等との相違点についてのみ以下に説明する。また、第1実施形態等に係る打込機1と共通の構成については同一の符号を用いることで説明に代える。
【0067】
本実施形態におけるコントローラ70は、電動モータ20の制御モードとして、少なくとも第1停止検出モードおよび第2停止検出モードを備えている。第1停止検出モードおよび第2停止検出モードは、電動モータ20が停止するまでの回転状態を検出可能な制御モードである。
【0068】
図1で示されるように、シリンダ10内にはピストン11が往復動可能に収容され、ピストン11の往復動に伴って容積が増減する密閉された空間であるピストン室12が区画されている。このピストン室12には、圧縮気体、好適には、圧縮空気や不活性ガス、希ガス、乾燥空気などが、ピストン11が下死点において大気圧以上となるように充填されている。
【0069】
コントローラ70は、下死点側から上死点側に移動するピストン11が、下死点と上死点との間に任意に設定される所定の基準位置を通過する際に電動モータ20への電力供給を停止し、電動モータ20は、電力の供給が停止された後、慣性力により所定回転量だけ回転した後に停止する。ここで、電力の供給が停止された後の慣性力による回転量は、ピストン11がピストン室12の圧縮気体により下死点方向に受ける圧力の大きさに依存する。すなわち、ピストン室12に圧縮空気を充填した際の圧力を基準圧力と仮定した場合、基準圧力よりも高い場合には、電動モータ20の慣性力による回転量は少なくなり、基準圧力よりも低い場合には、電動モータ20の慣性力による回転量は多くなる。換言すれば、電動モータ20の慣性力による回転量を検出することで、ピストン室12の圧力を推定することが可能となる。
【0070】
ピストン室12の圧力と回転角度の関係を
図8に示す。
図8は、本実施例における好適な一実施例であり、具体的な数値は、ピストン室12の容積や圧力、ピストン11の面積、圧力、電動モータ20や電動モータ20と共に回転するギア等の回転体の有する慣性モーメントの大きさに依存する。
図8に示すように、タンク圧力(ピストン室12)の圧力が大きくなるほど、回転角度(慣性力による回転量)は減衰する。
【0071】
続いて、
図9により、電動モータ20が停止するまでの回転状態を検出することで圧力を推定し、制御を行う一連のフローについて説明する。所定の基準位置において電動モータ20への電力供給を停止した状態をブレーキ停止101とした場合、ブレーキ停止101から、慣性力で電動モータ20が回転した量を、電動モータ20の回転子(ロータ)の位置を検出するホール素子84から出力される信号に基づいて計測(カウントUP:102)する。そして電動モータ20が停止するまで、計測を繰り返す(103)。電動モータ20への電力供給が停止(ブレーキ停止)した後、モータ回転数が所定の回転数、例えば、回転数が50回を超えたか否かの判別(104)により、電動モータ20の回転に抗する方向に働いたピストン室12の圧力の大きさを推定し、所定の回転数以上に電動モータ20が回転した場合には、圧力が低下したものと判定する(105)。電動モータ20の回転数が所定の回転数以下未満である場合は、圧力が所定の範囲内の圧力であるものと判定する(106)。
【0072】
圧力が低下したものと判定した場合(105)において、コントローラ70は、打込みに必要な圧力が足りないと判別し、ユーザの打込み動作指示(コントローラ70にトリガスイッチ信号およびプッシュスイッチ信号の入力)がされた場合であっても、電動モータ20への電力の供給を行わない。また、圧力が低下したものと判定した場合(105)に、図示しないユーザ報知手段、例えば、LEDランプ等の点灯やブザー等により、圧力が低下した状態を報知する構成としてもよく、ユーザによる打込み動作指示を規制した上で圧力低下の状態を報知する構成としてもよい。
【0073】
また、圧力が低下したものと判定した場合(105)に、図示しないユーザ報知手段、例えば、LEDランプ等の点灯や、ブザー等により、圧力が低下した状態を報知する構成としてもよく、ユーザによる打込み動作指示を規制した上で圧力低下の状態を報知する構成としてもよい。
【0074】
この結果、電動モータ20の回転量、すなわち、前記ピストンの下死点側から上死点側への移動速度に影響を与える状況の変化に応じて、打込機の動作を制御することが可能となり、ピストン室12の圧力不足により生じる問題、例えば、釘打込力不足により、釘が十分な深さまで打込まれずに、釘頭が被打込み材の打込材表面よりも浮いた状態となることを抑制することが可能である。
【0075】
本実施形態においては、圧力変化の推定例として圧力の低下を例示したが、圧力が上昇した場合においても適用が可能である。この場合は、慣性力によるモータ20の慣性回転数が所定回転数よりも小さくなることを検出すればよく、例えば、使用可能温度領域上限近くでの連続使用等、苛酷な使用条件によりピストン室12の圧力が上昇した場合に、本体部品の負荷軽減や保護のために、動作を一時的に抑制する、あるいはユーザに報知する等の用途に用いることが可能である。
【0076】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、ピストンの下死点側から上死点側への移動速度に影響を与える状況の変化には、バッテリ残量の変化の他に、ピストン室内や蓄圧室内の圧力変化や周囲温度の変化などがある。そこで、バッテリ残量の変化に代えて、または、バッテリ残量の変化に加えて、圧力変化や周囲温度の変化に基づいて制御モードを選択してもよい。そして、圧力変化に基づいて制御モードを選択する場合には、上記実施例4で例示した圧力推定の方法をに加え、ピストン室内や蓄圧室内の圧力変化を検知する圧力センサを併用してもよい。また、周囲温度の変化に基づいて制御モードを選択する場合には、周囲温度の変化を検知する温度センサが設けられる。さらに、バッテリ残量や圧力変化など、複数の変化について制御、検出を行うために、上述した実施形態を組み合わせる形で実施してもよい。
【0077】
また、上記実施形態においては、電動モータの制御方法はPWM制御を例示して説明を行ったが、PWM制御に限らず、電動モータに印加される実効電圧や実効電流を制御可能であれば種々変更可能である。例えば、モータに印加する実際の電圧値や電流値を、コントローラによって制御される可変抵抗回路等によって制御を行うものでもよい。