特許第6690734号(P6690734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6690734窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素焼結体の製造方法
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  • 特許6690734-窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素焼結体の製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690734
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】窒化ケイ素粉末および窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/068 20060101AFI20200421BHJP
   C04B 35/587 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C01B21/068 D
   C04B35/587
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-556699(P2018-556699)
(86)(22)【出願日】2017年12月12日
(86)【国際出願番号】JP2017044612
(87)【国際公開番号】WO2018110564
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2019年2月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-240755(P2016-240755)
(32)【優先日】2016年12月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000206
【氏名又は名称】宇部興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(72)【発明者】
【氏名】王丸 卓司
(72)【発明者】
【氏名】柴田 耕司
(72)【発明者】
【氏名】山尾 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲夫
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−2122(JP,A)
【文献】 特開2013−71864(JP,A)
【文献】 特開2015−81205(JP,A)
【文献】 特開2012−1385(JP,A)
【文献】 特開2011−51856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/068
C01B 33/00−33/193
C04B 35/56−35/556
B22C 1/00−3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素粉末であって、
BET法により測定される比表面積が5m/g以上20m/g以下であり、
β型窒化ケイ素の割合が70質量%以上であり、
レーザ回折散乱法により測定される体積基準の50%粒子径をD50とし、90%粒子径をD90としたときに、D50が0.5μm以上3μm以下であり、D90が3μm以上6μm以下であり、
Feの含有割合が200ppm以下であり、
Alの含有割合が200ppm以下であり、
FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が200ppm以下であり、
β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶子径をDとしたときに、Dが60nm以上であり、
前記比表面積より算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、DBET/D(nm/nm)が3以下であり、
β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶歪が1.5×10−4以下であることを特徴とする窒化ケイ素粉末。
【請求項2】
D50が2μm以下であることを特徴とする請求項1記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項3】
D90が5μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項4】
β型窒化ケイ素の割合が80質量%より大きいことを特徴とする請求項1〜3いずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項5】
Feの含有割合が100ppm以下であり、Alの含有割合が100ppm以下であり、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が100ppm以下であり、
ことを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項6】
レーザ回折散乱法により測定される体積基準の10%粒子径をD10としたときに、D10が0.3μm以上0.6μm以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末。
【請求項7】
請求項1〜6いずれか一項に記載の窒化ケイ素粉末を焼結することを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項8】
焼結助剤として酸化マグネシウムおよび酸化イットリウムを用いることを特徴とする請求項7記載の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる窒化ケイ素粉末およびそれを原料に用いる窒化ケイ素焼結体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素粉末を成形し焼結して得られる窒化ケイ素焼結体は、機械的強度、耐蝕性、耐熱衝撃性、熱伝導性、電気絶縁性等に優れているため、切削チップやボールベアリング等の耐摩耗用部材、自動車エンジン部品等の高温構造用部材、回路基板等として使用されている。そして、回路基板等の用途においては、特に高いレベルで、高い熱伝導率と高い機械的強度を両立する窒化ケイ素焼結体が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、D10、D50およびD90が、それぞれ0.5〜0.8μm、2.5〜4.5μmおよび7.5〜10.0μmの粒度分布を有し、含有酸素量が0.01〜0.5wt%であり、平均粒子径(D50)以上の粒子中に存在するβ型窒化ケイ素粒子の割合が1から50%である窒化ケイ素粉末が、シート成形性に優れ、高強度・高靱性でかつ優れた放熱性を有する焼結体を提供することが記載されている。
【0004】
また特許文献2には、β分率が30〜100%であり、酸素量が0.5wt%未満であり、平均粒子径が0.2〜10μmであり、アスペクト比が10以下であり、粒子の長軸方向に溝部が形成されている柱状粒子を含み、Fe含有量及びAl含有量がそれぞれ100ppm以下である窒化ケイ素粉末が、高温・高圧焼成といったコストの高い焼成法を必要とせずに、高い熱伝導率および高い強度を有する窒化ケイ素質焼結体を提供することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−265276号公報
【特許文献2】特開2004−262756号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1、2では、焼結時の雰囲気圧力が10気圧近くになるため耐圧性が高い焼結炉が必要になる、焼結後に熱処理を行っているなど、窒化ケイ素焼結体の製造コストが大きくなりやすい。したがって、焼結時の雰囲気圧力をより低くできた上で、焼結後に熱処理を行わなくても、高い熱伝導率と高い機械的強度を両立する窒化ケイ素焼結体を製造し得る窒化ケイ素粉末が必要である。
【0007】
そこで本発明は、焼結時の雰囲気圧力を大きくすることなく、焼結後に熱処理を行わなくても、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造することができる窒化ケイ素粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることのできる窒化ケイ素粉末について鋭意研究を重ねた結果、特定の比表面積、高いβ型窒化ケイ素の割合、特定の粒度分布および特定の金属不純物の含有割合を有することに加えて、特定の結晶子径およびそれと比表面積相当径との比を有し、さらにβ型窒化ケイ素が特定の結晶歪を有する窒化ケイ素粉末を見出し、この窒化ケイ素粉末を原料に用いると、焼結時の雰囲気圧力を大きくすることなく、焼結後に熱処理を行わなくても、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は以下の事項に関する。
【0009】
(1) 窒化ケイ素粉末であって、BET法により測定される比表面積が5m/g以上20m/g以下であり、β型窒化ケイ素の割合が70質量%以上であり、レーザ回折散乱法により測定される体積基準の50%粒子径をD50とし、90%粒子径をD90としたときに、D50が0.5μm以上3μm以下であり、D90が3μm以上6μm以下であり、Feの含有割合が200ppm以下であり、Alの含有割合が200ppm以下であり、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が200ppm以下であり、β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶子径をDとしたときに、Dが60nm以上であり、前記比表面積より算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、DBET/D(nm/nm)が3以下であり、β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶歪が1.5×10−4以下であることを特徴とする窒化ケイ素粉末。
【0010】
(2) D50が2μm以下であることを特徴とする上記(1)の窒化ケイ素粉末。
【0011】
(3) D90が5μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)の窒化ケイ素粉末に関する。
【0012】
(4) β型窒化ケイ素の割合が80質量%より大きいことを特徴とする上記(1)〜(3)いずれかの窒化ケイ素粉末。
【0013】
(5) Feの含有割合が100ppm以下であり、Alの含有割合が100ppm以下であり、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が100ppm以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)いずれかの窒化ケイ素粉末。
【0014】
(6) レーザ回折散乱法により測定される体積基準の10%粒子径をD10としたときに、D10が0.3μm以上0.6μm以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)いずれかの窒化ケイ素粉末。
【0015】
(7) 上記(1)〜(6)いずれかの窒化ケイ素粉末を焼結することを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【0016】
(8) 焼結助剤として酸化マグネシウムおよび酸化イットリウムを用いることを特徴とする上記(7)の窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の窒化ケイ素粉末によれば、焼結時の雰囲気圧力を大きくすることなく、焼結後に熱処理を行わなくても、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1〜9および比較例1〜11の窒化ケイ素粉末の製造に用いた燃焼合成反応装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の窒化ケイ素粉末の実施形態について詳しく説明する。
【0020】
(窒化ケイ素粉末)
本発明の窒化ケイ素粉末は、BET法により測定される比表面積が5m/g以上20m/g以下であり、β型窒化ケイ素の割合が70質量%以上であり、レーザ回折散乱法により測定される体積基準の50%粒子径をD50とし、90%粒子径をD90としたときに、D50が0.5μm以上3μm以下であり、D90が3μm以上6μm以下であり、Feの含有割合が200ppm以下であり、Alの含有割合が200ppm以下であり、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が200ppm以下であり、β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶子径をDとしたときに、Dが60nm以上であり、前記比表面積より算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、DBET/D(nm/nm)が3以下であり、β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶歪が1.5×10−4以下であることを特徴とする。
【0021】
本発明の窒化ケイ素粉末は、BET法により測定される比表面積が5m/g以上20m/g以下である。比表面積がこの範囲であれば、緻密な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。BET法により測定される比表面積は、6m/g以上、8m/g以上であってもよく、また15m/g以下、13m/g以下、12m/g以下であってもよい。
【0022】
本発明の窒化ケイ素粉末は、β型窒化ケイ素の割合が70質量%以上である。β型窒化ケイ素の割合がこの範囲であれば、均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、β型窒化ケイ素の割合は80質量%より大きいことがさらに好ましい。β型窒化ケイ素の割合は、90質量%以上、95質量%以上であってもよく、100質量%であることもできる。
【0023】
窒化ケイ素以外の成分は3質量%未満、さらには1質量%未満、特に0.1質量%未満が好ましい。窒化ケイ素以外の成分が存在すると、本願発明のような焼結時の雰囲気圧力を大きくすることなく、焼結後に熱処理を行なわなくても、高い熱伝導率と高い機械強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体が得られなくなる。
【0024】
本発明の窒化ケイ素粉末は、レーザ回折散乱法により測定される体積基準の50%粒子径をD50としたときに、D50が0.5μm以上3μm以下である。D50がこの範囲であれば、充分な成型体密度が得られるので、緻密な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、D50が2μm以下であることがさらに好ましい。また、90%粒子径をD90としたときに、D90が3μm以上6μm以下である。D90がこの範囲であれば、均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、D90が5μm以下であることがさらに好ましい。D50は、0.6μm以上、0.7μm以上、0.8μm以上であってもよく、また2.5μm以下、2.0μm以下、1.5μm以下、1.3μm以下であってもよい。D90は、3.5μm以上であってもよく、また4.5μm以下、4.0μm以下であってもよい。
【0025】
本発明の窒化ケイ素粉末は、レーザ回折散乱法により測定される体積基準の10%粒子径をD10としたときに、D10が0.3μm以上0.6μm以下であることが好ましい。D10がこの範囲であれば、成型体密度が向上するので、より緻密な焼結体組織が得られ、より高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。D10は、0.35μm以上であってもよく、また0.55μm以下、0.50μm以下、0.45μm以下、0.40μm以下であってもよい。
【0026】
本発明の窒化ケイ素粉末は、Feの含有割合が200ppm以下である。Feの含有割合がこの範囲であれば、Feが顕著に焼結体組織へ固溶しないので、均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、Feの含有割合は100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、10ppm以下であることがさらに好ましい。また、本発明の窒化ケイ素粉末は、Alの含有割合が200ppm以下である。Alの含有割合がこの範囲であれば、Alが顕著に焼結体組織へ固溶しないので、均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、Alの含有割合は100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、10ppm以下であることがさらに好ましい。また、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計が200ppm以下である。FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計がこの範囲であれば、FeおよびAl以外の金属不純物が顕著に焼結体組織へ固溶しないので均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。この観点から、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の合計は100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、10ppm以下であることがさらに好ましい。
【0027】
β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶子径をDとしたときに、本発明の窒化ケイ素粉末は、Dが60nm以上である。Dがこの範囲であれば、均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。Dは70nm以上、100nm以上、120nm以上であってもよい。
【0028】
本発明の窒化ケイ素粉末は、前記比表面積より算出される比表面積相当径をDBETとしたときに、DBET/D(nm/nm)が3以下である。DBET/D(nm/nm)がこの範囲であれば、粒子に粒界が少ないので、焼結過程において不均質な粒成長が抑制され、緻密な焼結体組織となり、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。DBET/D(nm/nm)は、2以下、1.5以下、1.4以下、1.3以下、1.2以下であることもできる。
【0029】
本発明の窒化ケイ素粉末は、β型窒化ケイ素の粉末X線回折パターンよりWilliamson−Hall式を用いて算出されるβ型窒化ケイ素の結晶歪が1.5×10−4以下である。β型窒化ケイ素の結晶歪がこの範囲であれば、結晶性良いβ粒子からなる均質な焼結体組織が得られ、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。β型窒化ケイ素の結晶歪は、1.4×10−4以下であってもよい。
【0030】
(窒化ケイ素粉末の製造方法)
本発明の窒化ケイ素粉末の製造方法の一例を以下に説明する。本発明の窒化ケイ素粉末は、例えば、シリコンの燃焼反応に伴う自己発熱および伝播現象を利用した燃焼合成法により窒化ケイ素を合成する窒化ケイ素の燃焼合成プロセスにおいて、特定の製造条件を用い、具体的には、原料のシリコン粉末に希釈剤として窒化ケイ素粉末を特定の割合で混合し、原料のシリコン粉末と希釈剤として窒化ケイ素粉末の金属不純物の含有割合を少なくし、シリコン粉末と窒化ケイ素粉末との混合物の充填密度を小さくして燃焼反応を行って圧縮強度が小さい燃焼生成物を作製し、得られた圧壊強度が小さい燃焼生成物を、粉砕エネルギーが小さく金属不純物が混入し難い方法を用いて粉砕することによって、金属不純物の含有割合が少なく、β型窒化ケイ素の含有割合が大きく、本発明で特定する比表面積及び粒径分布を有し、結晶子径が大きく結晶歪が小さい等の特徴を有する窒化ケイ素粉末を製造することができる。以下、その製造方法の一例を具体的に説明する。
【0031】
<混合原料粉末の調製工程>
はじめに、シリコン粉末と、希釈剤の窒化ケイ素粉末とを混合して、混合原料粉末を調製する。燃焼合成反応は1800℃以上の高温となるため、燃焼反応する部分でシリコンの溶融・融着が起こることがある。これを抑制する目的で、燃焼反応の自己伝播を妨げない範囲で、原料粉末に希釈剤として窒化ケイ素粉末を添加することが好ましい。希釈剤の添加率は、通常、10〜50質量%(シリコン:窒化ケイ素の質量比が90:10〜50:50)、さらには15〜40質量%である。また、燃焼合成反応で得られる燃焼生成物のβ型窒化ケイ素の割合を調整する上で、NHClやNaClなどを添加しても良い。これらの添加物は顕熱、潜熱および吸熱反応により反応温度を下げる効果がある。ここで、得られる混合原料粉末における、Feの含有割合、Alの含有割合、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合は、それぞれ100ppm以下、さらには50ppm以下、10ppm以下とすることが好ましい。したがって、シリコン粉末にも、希釈剤の窒化ケイ素粉末にも、金属不純物の含有割合が少ない高純度な粉末を用いることが好ましい。また、原料粉末の混合に用いる混合容器の内面と混合メディアなどの、原料粉末と接触する箇所は、AlおよびFeなどの含有割合が少ない非金属製の素材であることが好ましい。原料粉末の混合方法は特に制限されないが、例えばボールミル混合を採用する場合は、混合容器の内面は樹脂製であることが好ましく、混合メディアの外面は窒化ケイ素製であることが好ましい。また、混合原料粉末のかさ密度を0.5g/cm未満とすることが好ましい。混合原料粉末のかさ密度を0.5g/cm未満にするには、かさ密度が0.45g/cm以下のシリコン粉末を原料粉末として用いることが好ましい。混合原料粉末のかさ密度が0.5g/cm未満ならば、後述する<燃焼合成反応工程>にて得られる塊状の燃焼生成物の圧壊強度を4MPa以下にすることが容易である。
【0032】
<燃焼合成反応工程>
次いで、得られた混合原料粉末を窒素含有雰囲気にて燃焼させて、窒化ケイ素からなる塊状の燃焼生成物を作製する。例えば、混合原料粉末を黒鉛製などの容器に着火剤と一緒に収容し、燃焼合成反応装置内で、着火剤に着火し、着火剤の窒化燃焼熱によって混合原料粉末中のシリコンの窒化反応を開始させ、同反応をシリコン全体に自己伝播させて燃焼合成反応を完了させ、窒化ケイ素からなる塊状の燃焼生成物を得る。
【0033】
ここで、得られる燃焼生成物は、その圧壊強度が4MPa以下であることが好ましい。燃焼生成物の圧壊強度が4MPa以下ならば、後述する<燃焼生成物の粉砕・分級工程>にて、金属不純物の混入が多くなるような、また窒化ケイ素粉末の結晶性が低下するような粉砕エネルギーの大きい粉砕を行わなくても、本発明にて特定する比表面積または粒度分布(D50、D90またはD10)の窒化ケイ素粉末を得ることが容易になる。
【0034】
<燃焼生成物の粉砕・分級工程>
次いで、得られた塊状の燃焼生成物を粗粉砕する。粗粉砕の粉砕手段に特に制限はないが、粉砕メディアとして、AlおよびFeなどの含有割合が少ない硬質な非金属製の素材を用いることが好ましく、窒化ケイ素製の粉砕メディアを用いることがさらに好ましい。燃焼生成物が塊状であることから、ロールクラッシャーによる粉砕が効率的である。粉砕に用いるロールクラッシャーとしては、ロールがAlおよびFeなどの含有割合が少ない硬質な非金属製の素材であることが好ましく、窒化ケイ素などのセラミックス製のロールを供えていることが好ましい。
【0035】
以上のような粗粉砕によって得られた窒化ケイ素粉末を篩通して、特に粗大な粒子などを除去することが好ましい。篩通しに用いる篩は、AlおよびFeなどの含有割合が少ない非金属製であることが好ましく、樹脂製であることが好ましい。
【0036】
次に、粗粉砕によって得られた窒化ケイ素粉末を微粉砕する。微粉砕の手段に特に制限はないが、振動ミルによる粉砕が好ましい。振動ミルによる粉砕を行う場合は、振動ミル用のポットの内面と混合メディアなどの、原料粉末と接触する箇所は、AlおよびFeなどの含有割合が少ない非金属製の素材であることが好ましい。ポットの内面は樹脂製であることが好ましく、混合メディアの外面は窒化ケイ素製であることが好ましい。振動ミルの条件(振幅、振動数、粉砕時間)を適宜調節することで、所望の比表面積または粒度分布(D50、D90またはD10)の、本発明の窒化ケイ素粉末を得ることができる。例えば、粉砕時間が短いと、比表面積が小さく、D50およびD90が大きくなることがあり、粉砕時間が長いと、比表面積が大きく、D50およびD90が小さくなることがある。また、粉砕時間が長いと、Dが小さくなったり、DBET/D(nm/nm)や結晶歪が大きくなったりすることがある。
【0037】
以上のように、本発明の窒化ケイ素粉末は、シリコン粉末と、希釈剤の窒化ケイ素粉末とを混合し、得られた混合原料粉末を容器に充填して燃焼反応に伴う自己発熱および伝播現象を利用した燃焼合成法により前記シリコン粉末を燃焼させ、得られた燃焼生成物を粉砕する窒化ケイ素粉末の製造方法において、前記混合原料粉末は、Feの含有割合、Alの含有割合、およびFeとAl以外の金属不純物の含有割合が、それぞれ100ppm以下で、かさ密度が0.5g/cm未満である窒化ケイ素粉末の製造方法により製造されることが好ましく、さらに、前記燃焼生成物の圧壊強度が4MPa以下であることが好ましく、特に、前記燃焼生成物の粉砕に窒化ケイ素製の粉砕メディアを用いることが好ましい。
【0038】
(窒化ケイ素焼結体の製造方法)
本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、本発明の窒化ケイ素粉末を焼結することを特徴とする。本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法の一例を以下に説明する。本発明の窒化ケイ素粉末を用いると、例えば、焼結助剤と混合し、得られた混合粉末を成形し、得られた成形体を焼結することで、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造することができる。
【0039】
本発明においては、焼結助剤として、酸化イットリウム、ランタノイド系希土類酸化物、酸化マグネシウム等を単独で、あるいは適宜組み合わせて、目的に応じて用いることができる。また、他にも、MgSiN,MgSiなどのマグネシウム化合物、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム、酸化リチウム、酸化ホウ素、酸化カルシウム等を、単独で、あるいは酸化イットリウム、ランタノイド系希土類酸化物、酸化マグネシウム等の少なくとも一つに適宜組み合わせて用いることができるが、本発明の窒化ケイ素焼結体の製造方法としては、焼結助剤として酸化マグネシウムおよび酸化イットリウムを用いることが好ましい。高い熱伝導率と高い機械的強度を特に高いレベルで両立できるからである。
【0040】
本発明の窒化ケイ素粉末と焼結助剤の混合方法としては、これらが均一に混合できる方法であれば、湿式、乾式を問わずいかなる方法でも良く、回転ミル、バレルミル、振動ミルなどの公知の方法を用いることができる。例えば、窒化ケイ素粉末、焼結助剤、成形用バインダー、および分散剤を、水などを分散媒としてボールミル混合した後、スプレー乾燥して混合粉末を顆粒状にする方法を採用することができる。混合粉末の成形方法としては、プレス成形、鋳込み成形、押し出し成形、射出成形、排泥成形、冷間静水圧成形等の公知の方法を用いることができる。例えば、得られた顆粒状の混合粉末を、ゴム製の型に充填して圧力をかけて成形体を得るCIP(冷間静水圧加圧)成形を採用することができる。
【0041】
成形体の焼結方法としては、得られる焼結体が緻密化する方法であればいかなる方法でも良いが、不活性ガス雰囲気での常圧焼結、あるいは雰囲気圧力を0.2〜10MPa程度に高めたガス圧焼結が採用される。焼結時の雰囲気圧力が大きいほど、得られる窒化ケイ素焼結体の機械的強度も熱伝導率も大きくなりやすいが、本発明においては、比較的低い雰囲気圧力下で焼結を行っても、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を得ることができる。焼結は、一般に、窒素ガスを用いて、常圧焼結では、1700〜1800℃、ガス圧焼結では、1800〜2000℃の温度範囲で行われる。
【0042】
また、成形と焼結とを同時に行う方法であるホットプレスを採用することもできる。ホットプレスによる焼結は、通常、窒素雰囲気で、圧力0.2〜10MPa、焼結温度1950〜2050℃の範囲で行われる。
【0043】
得られた窒化ケイ素焼結体を、HIP(熱間等方圧加圧)処理することで強度を更に向上させることができる。HIP処理は、通常、窒素雰囲気で、圧力30〜200MPa、焼結温度2100〜2200℃の範囲で行われる。
【実施例】
【0044】
以下に具体例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明する。本発明の窒化ケイ素粉末、原料粉末として用いたシリコン粉末、原料混合粉末および燃焼生成物の物性測定と、本発明の窒化ケイ素焼結体の作製および評価は以下の方法により行った。
【0045】
(窒化ケイ素粉末の比表面積の測定方法、および比表面積相当径DBETの算出方法)
本発明の窒化ケイ素粉末の比表面積は、Mountech社製Macsorbを用いて、窒素ガス吸着によるBET1点法にて測定して求めた。
また、比表面積相当径DBETは、粉末を構成する全ての粒子が同一径の球と仮定して、下記の式(1)より求めた。
BET=6/(ρ×S)・・・(1)
ここで、ρは窒化ケイ素の真密度(α-Siの真密度3186kg/m、β-Siの真密度3192kg/mと、α相とβ相との比により平均真密度を算出し、真密度とした。)、Sは比表面積(m/g)である。
【0046】
(窒化ケイ素粉末のβ型窒化ケイ素の割合の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末のβ型窒化ケイ素粉末の割合は以下のようにして算出した。本発明の窒化ケイ素粉末について、銅の管球からなるターゲットおよびグラファイトモノクロームメーターを使用して、回折角(2θ)15〜80°の範囲を0.02°刻みでX線検出器をステップスキャンする定時ステップ走査法にてX線回折測定を行った。窒化ケイ素粉末が窒化ケイ素以外の成分を含む場合には、それらの成分のピークをそれらの成分の標準試料の対応するピークと対比することでそれらの成分の割合を求めることができる。以下のすべての実施例及び比較例では、得られた粉末X線回折パターンより、本発明の窒化ケイ素粉末がα型窒化ケイ素とβ型窒化ケイ素のみから構成されていることを確認した。その上で、本発明の窒化ケイ素粉末のβ型窒化ケイ素の割合は、G.P.Gazzara and D.P.Messier,“Determination of Phase Content of Si by X−ray Diffraction Analysis”,Am. Ceram.Soc.Bull.,56[9]777−80(1977)に記載されたGazzara & Messierの方法により、算出した。
【0047】
(β型窒化ケイ素の結晶子径Dおよび結晶歪の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末のβ型窒化ケイ素の結晶子径Dおよび結晶歪は、次のようにして測定した。本発明の窒化ケイ素粉末について、銅の管球からなるターゲットおよびグラファイトモノクロームメーターを使用して、回折角(2θ)15〜80°の範囲を0.02°刻みでX線検出器をステップスキャンする定時ステップ走査法にてX線回折測定を行った。得られた本発明の窒化ケイ素粉末のX線回折パターンより、β型窒化ケイ素の(101)、(110)、(200)、(201)および(210)面のそれぞれの積分幅を算出し、前記積分幅を下記の式(2)のWilliamson−Hall式に代入した。下記の式(2)における「2sinθ/λ」をx軸、「βcosθ/λ」をy軸としてプロットし、最小二乗法を用いて、このWilliamson−Hall式より得られる直線の切片および傾きを求めた。そして、前記切片よりβ型窒化ケイ素の結晶子径Dcを、また、前記傾きよりβ型窒化ケイ素の結晶歪を算出した。
βcosθ/λ=η×(2sinθ/λ)+(1/Dc)・・・(2)
(β;積分幅(rad)、θ;ブラッグ角(rad)、η;結晶歪、λ;X線源の波長(nm)、Dc;結晶子径(nm))
【0048】
(窒化ケイ素粉末のD10、D50およびD90の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末、本発明で原料として使用したシリコン粉末の粒度分布は、以下のようにして測定した。前記粉末を、ヘキサメタリン酸ソーダ0.2質量%水溶液中に投入して、直径26mmのステンレス製センターコーンを取り付けた超音波ホモジナイザーを用いて300Wの出力で6分間分散処理して希薄溶液を調製し、測定試料とした。レーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置(日機装株式会社製マイクロトラックMT3000)を用いて測定試料の粒度分布を測定し、体積基準の粒度分布曲線とそのデータを得た。得られた粒度分布曲線とそのデータより、本発明の窒化ケイ素粉末のD10、D50およびD90と、本発明で原料として使用したシリコン粉末のD50を算出した。
【0049】
(窒化ケイ素粉末、シリコン粉末および原料混合粉末のFe、Al、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合の測定方法)
本発明の窒化ケイ素粉末、本発明で原料として使用したシリコン粉末、および原料混合粉末のFeおよびAl、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合は、以下のようにして測定した。フッ酸と硝酸とを混合した液を収容した容器に、上記粉末を投入し密栓して、同容器にマイクロ波を照射して加熱し、窒化ケイ素またはシリコンを完全に分解し、得られた分解液を超純水で定容して検液とした。エスアイアイ・ナノテクノロジー社製ICP−AES(SPS5100型)を用いて、検出された波長とその発光強度から検液中のFe、Al、FeおよびAl以外の金属不純物を定量し、Fe、Al、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合を算出した。
【0050】
(混合原料粉末のかさ密度の測定方法)
本発明で得られる混合原料粉末のかさ密度は、JIS R1628「ファインセラミックス粉末のかさ密度測定方法」に準拠した方法により求めた。
【0051】
(燃焼生成物の圧壊強度の測定方法)
本発明で得られる燃焼生成物の圧壊強度は、以下のようにして測定した。燃焼生成物より、一辺が10mmの立方体を5個切り出して測定試料とした。手動式圧壊強度測定装置(アイコーエンジニアリング株式会社製、MODEL-1334型)を用いて前記測定試料の圧壊強度を測定した。台座に載置した測定試料に荷重を印加して圧縮試験を行い、測定された最大荷重より圧壊強度を算出した。本発明で得られる燃焼生成物の圧壊強度は、5個の測定試料の圧壊強度の平均値とした。
【0052】
(窒化ケイ素焼結体の作製および評価方法)
本発明の実施例においては、窒化ケイ素粉末94.5質量部に、焼結助剤として酸化イットリウム3.5質量部および酸化マグネシウム2質量部を添加した配合粉を、媒体としてエタノールを用いて24時間ボールミルで湿式混合した後、減圧乾燥した。得られた混合物を50MPaの成形圧で62mm×62mm×厚さ7.3mmの形状および、12.3mmφ×厚さ3.2mmの形状に金型成形した後、150MPaの成形圧でCIP成形した。得られた成形体を窒化ホウ素製坩堝に入れ、0.8MPaの窒素雰囲気下で、1900℃まで加熱し、1900℃で22時間保持して焼結した。得られた窒化ケイ素焼結体を切削加工し、JIS R1601に準拠した3mm×4mm×40mmの曲げ試験片、及びJIS R1611に準拠した熱伝導率測定用の10mmφ×2mmの試験片を作製した。焼結体の相対密度をアルキメデス法で測定した。室温4点曲げ強度を、インストロン社製万能材料試験機を用いてJIS R1601に準拠した方法により測定し、室温における熱伝導率を、JISR1611に準拠したフラッシュ法により測定した。
【0053】
(実施例1)
D50が4.0μm、かさ密度が0.40g/cmで、Feの含有割合が3ppm、Alの含有割合が4ppm、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合が3ppmのシリコン粉末に、希釈剤として、窒化ケイ素粉末(宇部興産株式会社製、製品名「SN−E10」(Feの含有割合;9ppm、Alの含有割合;2ppm、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合;4ppm))を、窒化ケイ素の添加率が20質量%(シリコン:窒化ケイ素の質量比が80:20)になるように添加して原料粉末とした。前記原料粉末を、窒化ケイ素製ボールが充填された、内壁面がウレタンでライニングされたナイロン製のポットに収容して、バッチ式振動ミルを用いて、振動数1200cpm、振幅8mmで0.5時間混合し、混合原料粉末を得た。
【0054】
図1に、本実施例にてシリコンの燃焼合成反応に用いる燃焼合成反応装置1を示す。前記原料粉末を混合して得られた混合原料粉末2を、底面が200×400mmで、深さが30mmで、厚みが10mmの角サヤ状の黒鉛製容器3に収容した。このとき混合原料粉末のかさ密度は0.45g/cmであった。チタン粉末とカーボン粉末とをチタン:カーボンが4:1の質量比で混合し成形して、燃焼合成反応に用いる着火剤4を調製し、着火剤4を混合原料粉末2の上に載置した。次いで、混合原料粉末2および着火剤4が収容された黒鉛製容器3を、着火剤加熱用のカーボンヒータ5を備えた耐圧性容器6内に、着火剤4の直上にカーボンヒータ5が位置するように収容した。
【0055】
耐圧性容器6内を、真空ポンプ7を用いて脱気した後、前記反応容器内に窒素ボンベ8より窒素ガスを導入して雰囲気圧力を0.6MPaとした。次に、カーボンヒータ5に通電して着火剤4を加熱し、前記混合原料粉末を着火させ、燃焼合成反応を開始させた。燃焼合成反応中、耐圧性容器6の窒素雰囲気圧力は0.6MPaでほぼ一定であった。覗き窓9から耐圧性容器6の内部を観察したところ、燃焼合成反応は、約20分継続した後、終了した。反応終了後、耐圧性容器6から黒鉛製容器3を取り出し、塊状の燃焼生成物を回収した。
【0056】
得られた燃焼生成物から着火剤近傍部分を除去し、残りの部分を、内面がウレタンコーティングされ、窒化ケイ素製ロールを備えたロールクラッシャーで粗粉砕して、目開きが100μmのナイロン製篩で篩通しし、篩下の粉末を回収した。得られた粉末を、窒化ケイ素製ボールが充填された、内壁面がウレタンでライニングされたアルミナ製のポットに収容して、バッチ式振動ミルを用いて振動数1280cpm、振幅8mmで1時間粉砕して、実施例1の窒化ケイ素粉末を得た。バッチ式振動ミルでの粉砕の際には、粉砕助剤として粉末に対して1質量%のエタノールを添加した。
【0057】
実施例1−1における、原料粉末に用いたシリコン粉末および希釈剤の物性値、混合原料粉末の物性値と、燃焼生成物の圧壊強度を表1に、また、窒化ケイ素粉末の物性値を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1の窒化ケイ素焼結体の作製と、得られた焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、および室温における熱伝導率の測定を、(窒化ケイ素焼結体の作製および評価方法)で説明した方法で行った。その結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【0062】
(実施例2〜5)
実施例2〜5の微粉砕の時間を、実施例2から順に、1.25時間、1.50時間、3.00時間、4.00時間にしたこと以外は実施例1と同様にして実施例2〜5の窒化ケイ素粉末を得た。そして、実施例2〜5の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、および室温における熱伝導率を測定した。
【0063】
(実施例6)
原料粉末に、添加剤として塩化アンモニウム(和光純薬製、純度99.9%)を、5.3質量%(シリコンと窒化ケイ素の混合粉末と塩化アンモニウムの質量比が94.7:5.3になるように)さらに添加したこと以外は実施例1と同様にして、燃焼生成物を作製し、得られた燃焼生成物を粗粉砕し篩通しした。その後の微粉砕の時間を1.42時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、得られた窒化ケイ素粉末を微粉砕し、実施例6の窒化ケイ素粉末を得た。そして、実施例6の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0064】
(実施例7)
添加剤の塩化アンモニウムの添加割合を、9.2質量%(シリコンと窒化ケイ素の混合粉末と塩化アンモニウムの質量比が90.8:9.2)となるようにしたこと以外は実施例6と同様にして実施例7の窒化ケイ素粉末を得た。そして、得られた実施例7の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、および室温における熱伝導率を測定した。
【0065】
(実施例8、9)
原料シリコン粉末として表1に示す粉末を使用したこと以外は実施例1と同様にして燃焼生成物を作製し、得られた燃焼生成物を粗粉砕し篩通しした。その後の微粉砕の時間を、実施例8では1.42時間に、実施例9では1.50時間にしたこと以外は実施例1と同様にして得られた窒化ケイ素粉末を微粉砕し、実施例6の窒化ケイ素粉末を得た。そして、得られた各実施例の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0066】
(比較例1〜6)
比較例1〜6の微粉砕の時間を、比較例1から順に、0.75時間、5.50時間、0.83時間、0.92時間、4.17時間、4.00時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例1〜6の窒化ケイ素粉末を得た。表2に見られるように、比較例1の窒化ケイ素粉末は比表面積が小さく、D50、D90が大きい粉末であり;比較例2の窒化ケイ素粉末は比表面積が大きい粉末であり;比較例3の窒化ケイ素粉末はD50が大きい粉末であり;比較例4の窒化ケイ素粉末はD90が大きい粉末であり;比較例5の窒化ケイ素粉末はD50が小さい粉末であり;比較例6の窒化ケイ素粉末はD90が小さい粉末であった。そして、各比較例の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0067】
(比較例7)
原料シリコン粉末として表1に示す粉末を使用したこと以外は実施例1と同様にして燃焼生成物を作製し、得られた燃焼生成物を粗粉砕し篩通しした。その後の微粉砕の時間を、6.33時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、得られた窒化ケイ素粉末を微粉砕し、比較例7の窒化ケイ素粉末を得た。比較例7の窒化ケイ素粉末は結晶子径Dが小さく、結晶歪が大きい粉末であった。そして、得られた比較例7の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0068】
(比較例8)
添加剤の塩化アンモニウムの添加割合を、11.6質量%(シリコンと窒化ケイ素の混合粉末と塩化アンモニウムの質量比が88.4:11.6)となるようにしたこと以外は実施例6と同様にして燃焼生成物を作製し、得られた燃焼生成物を粗粉砕し篩通しした。得られた窒化ケイ素粉末を、微粉砕の時間を1.83時間にしたこと以外は実施例1と同様にして微粉砕して比較例8の窒化ケイ素粉末を得た。比較例8の窒化ケイ素粉末は、表2に見られるように、β型の窒化ケイ素の割合が少ない粉末であった。そして、得られた比較例8の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0069】
(比較例9〜11)
原料シリコン粉末として表1に示す粉末を使用したこと以外は実施例1と同様にして燃焼生成物を作製し、得られた燃焼生成物を粗粉砕し篩通しした。その後の微粉砕の時間を、比較例9から順に1.42時間、1.67時間、1.42時間にしたこと以外は実施例1と同様にして、比較例9〜11の窒化ケイ素粉末を得た。比較例9〜11の窒化ケイ素粉末は、表2に見られるように、Fe含有量、Al含有量及び/又はFe,Al以外の金属不純物含有量が多い粉末であった。そして、各比較例の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0070】
(比較例12、13)
D50が2.5μ、かさ密度が0.26g/ml、Feの含有割合が2ppm、Alの含有割合が3ppm、FeおよびAl以外の金属不純物の含有割合が3ppmのシリコン粉末を内径30mmの金型に充填し、1500kg/cmの圧力で一軸成型し、シリコン粉末の一軸成型体を得た。前記成型体を黒鉛製容器に充填し、それをバッチ式窒化炉に収容して、炉内を窒素雰囲気に置換した後、窒素雰囲気下で、1450℃まで昇温し、3時間保持させた。室温まで冷却させた後に、窒化生成物を取り出した。得られた窒化生成物を、内面がウレタンコーティングされた、窒化ケイ素製ロールを備えたロールクラッシャーで粗粉砕して、目開きが100μmのナイロン製篩で篩通しし、篩下の粉末を回収した。次に、前記粉末を、窒化ケイ素ボールが充填され、内面がウレタンでライニングされたアルミナ製のポットに収容して、バッチ式振動ミルで振動数1780cpm、振幅5mmの条件で微粉砕した。微粉砕の時間を、比較例12では0.42時間、比較例13では1.25時間として、各比較例の窒化ケイ素粉末を得た。表2に見られるように、燃焼合成法ではない直接窒化法である比較例12,13の窒化ケイ素粉末は、いずれも、結晶子径Dが小さく、結晶歪が大きく、DBET/Dが大きい粉末であり、さらに、比較例13の窒化ケイ素粉末は、β型の窒化ケイ素の割合が少なく、D90が小さい粉末であった。そして、各比較例の窒化ケイ素粉末を用いて、実施例1と同様の方法で窒化ケイ素焼結体を作製した。さらに、実施例1と同様の方法で、それら前記焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、及び室温における熱伝導率を測定した。
【0071】
実施例2〜9および比較例1〜13における、原料粉末に用いたシリコン粉末および希釈剤の物性値、混合原料粉末の物性値と、燃焼生成物の圧壊強度を表1に、また、実施例2〜9および比較例1〜13の窒化ケイ素粉末の物性値を表2に示す。また、実施例2〜9および比較例1〜13の窒化ケイ素粉末を焼結して作製した窒化ケイ素焼結体の相対密度、室温における曲げ強度、および室温における熱伝導率を表3に示す。本発明の窒化ケイ素粉末を原料として用いると、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体が得られることわかる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の窒化ケイ素粉末を原料として用いると、高い熱伝導率と高い機械的強度を併せ持つ窒化ケイ素焼結体を製造し得るので、本発明の窒化ケイ素粉末は、回路基板用の窒化ケイ素焼結体の原料として特に有用である。また本発明の窒化ケイ素粉末は、焼結時に大きい雰囲気圧力も、焼結後の熱処理も必要としないので、高いコストを必要とせずに、回路基板用の窒化ケイ素焼結体を製造することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 燃焼合成反応装置
2 混合原料粉末
3 黒鉛製容器
4 着火剤
5 カーボンヒータ
6 耐圧性容器
7 真空ポンプ
8 窒素ボンベ
9 覗き窓
図1