特許第6690883号(P6690883)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690883
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】鋏
(51)【国際特許分類】
   B26B 13/28 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   B26B13/28 A
【請求項の数】12
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2019-14421(P2019-14421)
(22)【出願日】2019年1月30日
(65)【公開番号】特開2020-44314(P2020-44314A)
(43)【公開日】2020年3月26日
【審査請求日】2019年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2018-171173(P2018-171173)
(32)【優先日】2018年9月13日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518327419
【氏名又は名称】株式会社ローレル・ジャパン
(74)【代理人】
【識別番号】100137327
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 勝義
(72)【発明者】
【氏名】小堺 哲男
【審査官】 須中 栄治
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−010877(JP,U)
【文献】 特開2017−012673(JP,A)
【文献】 実開昭51−014887(JP,U)
【文献】 特開平08−121451(JP,A)
【文献】 実開昭60−063164(JP,U)
【文献】 韓国公開特許第10−2008−0101423(KR,A)
【文献】 実開平06−046670(JP,U)
【文献】 実開昭60−009474(JP,U)
【文献】 実開平07−000263(JP,U)
【文献】 実開昭62−067567(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3120056(JP,U)
【文献】 特開2001−259260(JP,A)
【文献】 特開平09−285656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B26B13/00−17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
静刃としての第1刃体と動刃としての第2刃体とを、該第1、2刃体の中央部に位置する第1、2要部を貫通する要軸により連結して開閉可能にした鋏において、
該第1要部には、該要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、
該第2要部には、樹脂製の弾性部材が緩嵌される断面非円形の第2貫通孔が貫設され、
該弾性部材は、該第2貫通孔と略同じ断面形状を有して該第2貫通孔に緩嵌される柱状部と、該柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周全体から突出するフランジ部と、該フランジ部の外周から軸方向他端側に向かって斜めに突出して該第2刃体を該第1刃体へ押圧可能な弾性力を有する複数の押圧脚と、該要軸が貫通して該柱状部を該要軸回りに摺動回動可能にする断面円形の第3貫通孔と、を有し、
該弾性部材は、一体に形成され、
該要軸は、円柱状の胴部と、該胴部の該第2刃体側の端部に一体として形成された逆円錐台状の頭部とを備え、
該第3貫通孔は、該胴部が貫通する軸孔と、該頭部の外周面と当接する漏斗状の頭孔とを備えていることを特徴とする鋏。
【請求項2】
静刃としての第1刃体と動刃としての第2刃体とを、該第1、2刃体の中央部に位置する第1、2要部を貫通する要軸により連結して開閉可能にした鋏において、
該第1要部には、該要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、
該第2要部には、樹脂製の弾性部材が緩嵌される断面非円形の第2貫通孔が貫設され、
該弾性部材は、該第2貫通孔と略同じ断面形状を有して該第2貫通孔に緩嵌される柱状部と、該柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周から軸方向他端側に向かって斜めに突出して該第2刃体を該第1刃体へ押圧可能な弾性力を有する複数の押圧脚と、該要軸が貫通して該柱状部を該要軸回りに摺動回動可能にする断面円形の第3貫通孔と、を有し、
該弾性部材は、一体に形成され、
該要軸は、円柱状の胴部と、該胴部の該第2刃体側の端部に一体として形成された逆円錐台状の頭部とを備え、
該第3貫通孔は、該胴部が貫通する軸孔と、該頭部の外周面と当接する漏斗状の頭孔とを備えていることを特徴とする鋏。
【請求項3】
前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面は、楕円形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の鋏。
【請求項4】
前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面は、多角形状であることを特徴とする請求項1又は2記載の鋏。
【請求項5】
前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面、及び前記弾性部材の前記柱状部の断面は六角形状であり、前記押圧脚は6個であることを特徴とする請求項4記載の鋏。
【請求項6】
前記弾性部材の材質は、ポリアセタールであることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の鋏。
【請求項7】
前記弾性部材の隣り合う前記押圧脚の間には、該押圧脚の動作を阻害しない異物防止部材が該押圧脚の基端部から先端部まで充填され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、
該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の鋏。
【請求項8】
前記弾性部材の前記押圧脚の裏面には、該押圧脚の動作を阻害しない略傘状の異物防止部材が密着され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、
該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の鋏。
【請求項9】
前記弾性部材の前記押圧脚の表面には、該押圧脚の動作を阻害しない略傘状の異物防止部材が密着され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、
該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載の鋏。
【請求項10】
前記異物防止部材の材質は、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、又は塩化ビニルであることを特徴とする請求項7乃至9のいずれか1項記載の鋏。
【請求項11】
前記要軸は、リベットであることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項記載の鋏。
【請求項12】
事務用、学童用、又は料理用の鋏であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか1項記載の鋏。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静刃としての第1刃体と動刃としての第2刃体とを、第1、2刃体の中央部に位置する第1、2要部を貫通する要軸により連結して開閉可能にした鋏に関する。
【背景技術】
【0002】
鋏は、一般に、図21に示すように、静刃としての第1刃体81と動刃としての第2刃体82とが第1、2刃体81、82の中央部に位置する第1、2要部81a、82aを貫通する要軸83により連結して開閉可能にされている。そして、鋏の開閉の度に、第1、2刃体81、82の第1、2要部81a、82aより先の刃の部分同士、及び第1、2要部81a、82aの触点81b、82b同士が要軸83を中心に擦れ合っている。そのため、要軸83が緩んだり、摩耗したりすると、第1刃体81と第2刃体82との間にガタが生じて鋏の切れ味が低下してしまう。
【0003】
また、鋏の切れ味が低下する重要な原因として触点81b、82bの摩耗がある。鋏の刃には反り(「おがみ」、「こごみ」ともいう。)があり、鋏の開閉の際には刃の一点のみが接触し、この一点に大きな力が加わっている。その力が要軸83を介して触点81b、82bに加わっているため、触点81b、82bは摩耗しやすくなっている。そして、触点81b、82bが摩耗してしまうと、鋏の開閉が重くなったり、切れ味が低下したりする。ここで、理容用の鋏で採用されているように、第1、2刃体81、82の厚みを薄くして、刃に加わる力を第1、2刃体81、82の撓みにより吸収させれば、触点81b、82bの摩耗をある程度抑制することができる。しかし、第1、2刃体81、82を薄くする加工を施す必要があり、一般的な鋏においては高価となり適切でない。
【0004】
これに対し、特許文献1、2に記載された鋏が提案されている。特許文献1に記載された鋏は、動刃である鉄片(2)と螺子(5)との間に皿ばね(6)が挿入されている。この鋏によれば、刃に大きな力が加わると、鉄片(2、3)を厚み方向に引き離す大きな力が加わり、この力を皿ばね(6)が広がることにより吸収することができる。そのため、触点に加わる力を軽減することができ、触点の摩耗を抑制できると考えられる。しかしながら、この鋏では、鉄片(2)と皿ばね(6)、螺子(5)との間の摩擦により皿ばね(6)、螺子(5)が摩耗してしまう。そのため、皿ばね(6)の働きを十分に保つことができなくなり、鋏の切れ味が低下してしまう。
【0005】
また、特許文献2に記載された鋏は、段付ボルト状の枢軸(3)の矩形部(3c)が静刃である刃体(2)の矩形孔(7)に嵌合されて刃体(2)と回り止めされ、刃体(2)から突出する枢軸(3)のネジ部(3a)に樹脂製の弾性体(11)が挿入され、その外側にワッシャー(12)が嵌挿されている。この鋏によれば、枢軸(3)に加わる刃体(1、2)の厚み方向の力を樹脂製の弾性体(11)により吸収でき、触点に加わる力を軽減することができる結果、鋏の切れ味の低下を抑制できると考えられる。しかしながら、この鋏では、動刃である刃体(1)と枢軸(3)とは擦れ合う上、構造が複雑で高価となってしまうため、この構造を一般の鋏に採用するのは適切でない。
【0006】
さらに、図22に示すように、図21に示される鋏の第2刃体82と要軸83の頭部との間に樹脂製のリング84を挿入することも考えられる。この鋏によれば、リング84により、動刃である第2刃体82と要軸83の頭部との間の摩擦を防止できる上、第1、2刃体81、82間のがたつきを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】実開昭59−139273号公報
【特許文献2】特開2008−174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、図22に示す鋏では、リング84の弾性力が十分ではなく、触点81b、82bに加わる力を十分に軽減することはできない。
【0009】
本発明はかかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、簡単な構造で長期間に亘って切れ味の低下を抑制でき、かつ製造コストの低廉化を図ることができる鋏を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る鋏の特徴は、静刃としての第1刃体と動刃としての第2刃体とを、該第1、2刃体の中央部に位置する第1、2要部を貫通する要軸により連結して開閉可能にした鋏において、該第1要部には、該要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、該第2要部には、樹脂製の弾性部材が緩嵌される断面非円形の第2貫通孔が貫設され、該弾性部材は、該第2貫通孔と略同じ断面形状を有して該第2貫通孔に緩嵌される柱状部と、該柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周全体から突出するフランジ部と、該フランジ部の外周から軸方向他端側に向かって斜めに突出して該第2刃体を該第1刃体へ押圧可能な弾性力を有する複数の押圧脚と、該要軸が貫通して該柱状部を該要軸回りに摺動回動可能にする断面円形の第3貫通孔と、を有し、該弾性部材は、一体に形成され、該要軸は、円柱状の胴部と、該胴部の該第2刃体側の端部に一体として形成された逆円錐台状の頭部とを備え、該第3貫通孔は、該胴部が貫通する軸孔と、該頭部の外周面と当接する漏斗状の頭孔とを備えていることである。
【0011】
請求項2に係る鋏の特徴は、静刃としての第1刃体と動刃としての第2刃体とを、該第1、2刃体の中央部に位置する第1、2要部を貫通する要軸により連結して開閉可能にした鋏において、該第1要部には、該要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、該第2要部には、樹脂製の弾性部材が緩嵌される断面非円形の第2貫通孔が貫設され、該弾性部材は、該第2貫通孔と略同じ断面形状を有して該第2貫通孔に緩嵌される柱状部と、該柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周から軸方向他端側に向かって斜めに突出して該第2刃体を該第1刃体へ押圧可能な弾性力を有する複数の押圧脚と、該要軸が貫通して該柱状部を該要軸回りに摺動回動可能にする断面円形の第3貫通孔と、を有し、該弾性部材は、一体に形成され、該要軸は、円柱状の胴部と、該胴部の該第2刃体側の端部に一体として形成された逆円錐台状の頭部とを備え、該第3貫通孔は、該胴部が貫通する軸孔と、該頭部の外周面と当接する漏斗状の頭孔とを備えていることである。
【0012】
請求項3に係る鋏の特徴は、前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面は、楕円形状であることである。
【0013】
請求項4に係る鋏の特徴は、前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面は、多角形状であることである。
【0014】
請求項5に係る鋏の特徴は、前記第2刃体の前記第2貫通孔の断面、及び前記弾性部材の前記柱状部の断面は六角形状であり、前記押圧脚は6個であることである。
【0015】
請求項6に係る鋏の特徴は、前記弾性部材の材質は、ポリアセタールであることである。
【0016】
請求項7に係る鋏の特徴は、前記弾性部材の隣り合う前記押圧脚の間には、該押圧脚の動作を阻害しない異物防止部材が該押圧脚の基端部から先端部まで充填され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることである。
【0017】
請求項8に係る鋏の特徴は、前記弾性部材の前記押圧脚の裏面には、該押圧脚の動作を阻害しない略傘状の異物防止部材が密着され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることである。
【0018】
請求項9に係る鋏の特徴は、前記弾性部材の前記押圧脚の表面には、該押圧脚の動作を阻害しない略傘状の異物防止部材が密着され、該押圧脚と該異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、該押圧脚の先端面、及び該異物防止部材の先端面が前記第2刃体と密着していることである。
【0019】
請求項10に係る鋏の特徴は、前記異物防止部材の材質は、熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、又は塩化ビニルであることである。
【0020】
請求項11に係る鋏の特徴は、前記要軸は、リベットであることである。
【0021】
請求項12に係る鋏の特徴は、事務用、学童用、又は料理用の鋏であることである。
【発明の効果】
【0022】
請求項1に係る鋏は、静刃である第1刃体の第1要部に要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、動刃である第2刃体の第2要部に断面非円形の第2貫通孔が貫設されている。そして、樹脂製の弾性部材の柱状部が第2貫通孔と略同じ断面形状を有して第2貫通孔に緩やかに嵌め込まれている。そのため、弾性部材と第2刃体とは回り止めされて軸回りに一体となって動くことができるとともに、弾性部材の柱状部は第2刃体に対して軸方向に摺動可能になっている。さらに、弾性部材の柱状部に断面円形の第3貫通孔が貫設され、第3貫通孔に要軸が貫通されるため、弾性部材は要軸回りに摺動回動可能になる。これにより、第2刃体と要軸とが擦れ合うことはなく、第2刃体、及び要軸の摩耗を抑制することができる。
【0023】
また、柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周全体からフランジ部が突出し、フランジ部の外周から複数の押圧脚が軸方向他端側に向かって斜めに突出して第2刃体を第1刃体へ押圧している。そして、刃に大きな力が加わると、第1、2刃体を厚み方向に引き離す大きな力が要軸の軸方向に加わり、押圧脚の押圧力に抗して第1刃体と第2刃体との間隔が僅かに広がる。また、刃に加わる力が減少して、第1、2刃体を厚み方向に引き離す力が減少すると、押圧脚の押圧力が勝って第2刃体が押され、第1刃体と第2刃体との間隔を適切に保つことができる。このように、要軸の軸方向に加わる力を押圧脚が吸収するため、触点に加わる力を軽減して触点の摩耗を抑制でき、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。
【0024】
また、この鋏は、第1刃体、第2刃体、弾性部材、及び要軸のみからなり部品点数が少ない上、第1刃体、第2刃体に難しい加工を施す必要がないため、構造が簡単で製造コストを抑えることができる。さらには、押圧脚の弾性力により第1、2刃体の厚みのばらつきを吸収できるため、第1、2刃体の厚みに対する製造誤差をある程度吸収できるのみならず、組み付け後の最終調整も容易になる。したがって、この鋏によれば、簡単な構造で長期間に亘って切れ味の低下を抑制でき、かつ製造コストの低廉化を図ることができる。
【0025】
なお、第2貫通孔の断面は非円形であるが、本明細書において、「非円形」とは、弾性部材と第2刃体とが一体となって動くことのできる形状であり、例えば、楕円形状、多角形状のみならず、円形状や楕円形状の曲線部分の一部が直線になっているものも含まれる。また、「静刃」とは、要軸と一緒に動く刃体であり、言い換えると、要軸回りに回動しない刃体をいう。そして、「動刃」とは、要軸と一緒に動かない刃体であり、言い換えると、要軸回りに回動する刃体をいう。
【0026】
請求項2に係る鋏は、静刃である第1刃体の第1要部に要軸が貫通する第1貫通孔が貫設され、動刃である第2刃体の第2要部に断面非円形の第2貫通孔が貫設されている。そして、樹脂製の弾性部材の柱状部が第2貫通孔と略同じ断面形状を有して第2貫通孔に緩やかに嵌め込まれている。そのため、弾性部材と第2刃体とは回り止めされて軸回りに一体となって動くことができるとともに、弾性部材の柱状部は第2刃体に対して軸方向に摺動可能になっている。さらに、弾性部材の柱状部に断面円形の第3貫通孔が貫設され、第3貫通孔に要軸が貫通されるため、弾性部材は要軸回りに摺動回動可能になる。これにより、第2刃体と要軸とが擦れ合うことはなく、第2刃体、及び要軸の摩耗を抑制することができる。
【0027】
また、柱状部の軸方向で第1刃体に面していない一端側の外周から複数の押圧脚が軸方向他端側に向かって斜めに突出して第2刃体を第1刃体へ押圧している。そして、刃に大きな力が加わると、第1、2刃体を厚み方向に引き離す大きな力が要軸の軸方向に加わり、押圧脚の押圧力に抗して第1刃体と第2刃体との間隔が僅かに広がる。また、刃に加わる力が減少して、第1、2刃体を厚み方向に引き離す力が減少すると、押圧脚の押圧力が勝って第2刃体が押され、第1刃体と第2刃体との間隔を適切に保つことができる。このように、要軸の軸方向に加わる力を押圧脚が吸収するため、触点に加わる力を軽減して触点の摩耗を抑制でき、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。
【0028】
また、この鋏は、第1刃体、第2刃体、弾性部材、及び要軸のみからなり部品点数が少ない上、第1刃体、第2刃体に難しい加工を施す必要がないため、構造が簡単で製造コストを抑えることができる。さらには、押圧脚の弾性力により第1、2刃体の厚みのばらつきを吸収できるため、第1、2刃体の厚みに対する製造誤差をある程度吸収できるのみならず、組み付け後の最終調整も容易になる。したがって、この鋏によれば、簡単な構造で長期間に亘って切れ味の低下を抑制でき、かつ製造コストの低廉化を図ることができる。
【0029】
請求項3に係る鋏においては、第2刃体の第2貫通孔の断面が楕円形状であるため、弾性部材と第2刃体とが確実に回り止めされ一体となって動くことができる。
【0030】
請求項4に係る鋏においては、第2刃体の第2貫通孔の断面が多角形状であるため、これによっても、弾性部材と第2刃体とが確実に回り止めされ一体となって動くことができる。
【0031】
請求項5に係る鋏においては、第2刃体の第2貫通孔の断面、及び弾性部材の柱状部の断面が六角形状であり、製造、組み付けが容易である。また、押圧脚が6個であるため、第2刃体を偏りなく押圧することができるとともに、弾性力を十分に得ることができる。
【0032】
請求項6に係る鋏においては、弾性部材の材質がポリアセタールであり、押圧脚に弾性力を持たせるのに適している。
【0033】
請求項7に係る鋏においては、弾性部材の隣り合う押圧脚の間には異物防止部材が押圧脚の基端部から先端部まで充填され、押圧脚と異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、押圧脚の先端面、及び異物防止部材の先端面が第2刃体と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚、及び異物防止部材の外周の全体において、押圧脚、及び異物防止部材と第2刃体との間に隙間を有することがなく、押圧脚と第2刃体との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材は押圧脚の動作を阻害しないため、押圧脚の要軸の軸方向に対する動きが妨げられることがなく、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。なお、本明細書において、「押圧脚の動作を阻害しない」とは、異物防止部材が押圧脚に比べ遥かに柔軟で、要軸の軸方向に加わる力の変化による押圧脚の動きにほとんど影響を与えないことをいう。
【0034】
請求項8に係る鋏においては、弾性部材の押圧脚の裏面には略傘状の異物防止部材が密着され、押圧脚と異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、押圧脚の先端面、及び異物防止部材の先端面が第2刃体と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚、及び異物防止部材の外周の全体において、押圧脚、及び異物防止部材と第2刃体との間に隙間を有することがなく、押圧脚と第2刃体との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材は押圧脚の動作を阻害しないため、押圧脚の要軸の軸方向に対する動きが妨げられることがない。したがって、この鋏によれば、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。なお、本明細書において、「押圧脚の裏面」とは、押圧脚の柱状部側の面をいう。また、「密着」とは、完全な密着をいうのではなく、ゴミ等の異物の侵入を防止できる程度であれば、一部に隙間を有していてもよい。
【0035】
請求項9に係る鋏においては、弾性部材の押圧脚の表面には略傘状の異物防止部材が密着され、押圧脚と異物防止部材とが一体となって略傘状をなし、押圧脚の先端面、及び異物防止部材の先端面が第2刃体と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚、及び異物防止部材の外周の全体において、押圧脚、及び異物防止部材と第2刃体との間に隙間を有することがなく、押圧脚と第2刃体との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材は押圧脚の動作を阻害しないため、押圧脚の要軸の軸方向に対する動きが妨げられることがなく、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。なお、本明細書において、「押圧脚の表面」とは、押圧脚の柱状部と反対側の面をいう。
【0036】
請求項10に係る鋏においては、異物防止部材の材質が熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、又は塩化ビニルであるため、異物防止部材は押圧脚に比べ遥かに柔軟であり、押圧脚の要軸の軸方向に対する動きにほとんど影響を与えることがない。
【0037】
請求項11に係る鋏においては、要軸がリベットであるため、構造を簡略化できるとともに安価である。また、リベットをかしめることにより第1刃体とリベットとを固着することができ、第1刃体を簡単に静刃とすることができる。
【0038】
請求項12に係る鋏においては、鋏が事務、学童、又は料理に用いられるものであり、これらの鋏は特に製造コストの低廉化が要求される。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】実施形態1の鋏の斜視図。
図2】実施形態1の鋏の分解斜視図。
図3】実施形態1の鋏に係り、弾性部材の正面図、平面図。
図4】実施形態1の鋏に係り、弾性部材の底面図、側面図。
図5】実施形態1の鋏に係り、図3におけるV−V矢視断面図。
図6】実施形態1の鋏に係り、要部の拡大断面図。
図7】実施形態1の鋏に係り、刃に大きな力が加わった場合の要部の拡大断面図。
図8】実施形態1の鋏に係り、フランジ部を有しない弾性部材の断面図。
図9】実施形態1の鋏と従来の鋏との切れ味試験に用いられる用紙の平面図。
図10】実施形態1の鋏と従来の鋏との切れ味試験における、開きトルクの検査方法。
図11】実施形態1の鋏と従来の鋏との切れ味試験における、開きトルクデータのグラフ。
図12】実施形態2の鋏に係り、弾性部材の正面図、平面図。
図13】実施形態2の鋏に係り、弾性部材の底面図、側面図。
図14】実施形態2の鋏に係り、図12におけるXIV−XIV矢視断面図。
図15】実施形態3の鋏に係り、弾性部材の正面図、平面図。
図16】実施形態3の鋏に係り、弾性部材の底面図、側面図。
図17】実施形態3の鋏に係り、図15におけるXVII−XVII矢視断面図。
図18】実施形態4の鋏に係り、弾性部材の正面図、平面図。
図19】実施形態4の鋏に係り、弾性部材の底面図、側面図。
図20】実施形態4の鋏に係り、図18におけるXX−XX矢視断面図。
図21】従来の鋏の斜視図。
図22】従来の別の鋏の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明に係る鋏を具体化した実施形態1から4を図面に基づいて以下に説明する。まず、実施形態1の鋏について説明する。図1は実施形態1の鋏の組み付け後の斜視図であり、図2はこの鋏の分解斜視図である。図1、2に示すように、この鋏は、静刃としての第1刃体1と動刃としての第2刃体2とが第1、2刃体1、2の中央部に位置する第1、2要部1a、2aを貫通する要軸としてのリベット3により連結して開閉可能にされている。リベット3は円柱状の胴部3aと、胴部3aの基端に形成された円錐台状の頭部3bとからなっている。また、第2刃体2とリベット3の頭部3bとの間には樹脂製の弾性部材10が挿設されている。
【0041】
さらに、第1刃体1の第1要部1aにはリベット3が貫通する断面円形の第1貫通孔1cが貫設されている。また、第2刃体2の第2要部2aには弾性部材10が緩やかに嵌め込まれる断面六角形状の第2貫通孔2cが貫設されている。そして、鋏の開閉の度に、第1、2要部1a、2aより先の刃の部分同士、及び第1、2要部1a、2aの第1、2触点1b、2b同士が擦れ合っている。この鋏は、図2で分かるように、第1刃体1、第2刃体2、リベット3、及び弾性部材10のみからなり部品点数を少なくすることができる。また、第1刃体1の丸孔である第1貫通孔1c、第2刃体2の六角孔である第2貫通孔2cはプレスにより簡単に加工することができる。なお、この鋏は事務用、又は学童用の鋏であるが、料理用の鋏であってもよい。
【0042】
次に、弾性部材10を図3から図5を用いて詳細に説明する。図3は弾性部材10の正面図、及び平面図であり、図4は弾性部材10の底面図、及び側面図である。また、図5は弾性部材10の断面図である。弾性部材10はポリアセタールからなり、柱状部11、フランジ部12、及び押圧脚13を有し、これらが一体に形成されている。柱状部11は第2刃体2の第2貫通孔2cと同じ六角形の外形断面を有し、第2貫通孔2cに緩やかに嵌め込まれて回り止めされ、弾性部材10と第2刃体2とが一体となって軸回りに回動することができるとともに、弾性部材10の柱状部11は第2刃体2に対して軸方向に摺動可能になっている。すなわち、「緩やかに嵌め込まれている」状態は、第2貫通孔2cと柱状部11との間には「あそび」がほとんどないが、柱状部11と第2貫通孔2cとは相対的に軸方向に摺動可能な状態である。
【0043】
また、柱状部11には、リベット3の胴部3aが貫通する断面円形状の軸孔11aと、リベット3の頭部3bが当接する頭孔11bとからなる第3貫通孔11cが軸方向に貫設されている。この第3貫通孔11cにリベット3が貫通して配設され、弾性部材10をリベット3の回りに摺動回動可能にしている。そのため、第2刃体2とリベット3とが擦れ合うことがなく、第2刃体2とリベット3との間の摩耗を防止することができる。なお、第1刃体1は静刃であり、第1刃体1とリベット3とは一体となって動くため、第1刃体1はリベット3とも擦れ合うことはない。
【0044】
フランジ部12は柱状部11の軸方向一端側の外周全体から鍔状に突出している。押圧脚13は、フランジ部12の外周に等間隔に合計6個配設され、軸方向他端側に向かって斜めに突出している。この押圧脚13は、第2刃体2を押圧可能な弾性力を有している。
【0045】
図6は、この鋏を組み付けた後の第1、2要部1a、2a部分の拡大断面図である。図6に示すように、第2刃体2の第2要部2aに設けられた断面六角形状の第2貫通孔2cに弾性部材10の断面六角形状の柱状部11が緩やかに嵌め込まれている。そして、第1刃体1の第1貫通孔1c、弾性部材10の第3貫通孔11cにリベット3が挿通され、リベット3の先端がかしめられている。詳細には、リベット3の胴部3aが軸孔11aに挿通され、頭部3bが頭孔11bに当接している。これにより、第1刃体1は静刃となり、リベット3の回りに回動することなく、リベット3と一体となって動く。また、第2刃体2は動刃となり、弾性部材10が回り止めされてリベット3の回りに弾性部材10と一体となって回動する。さらに、第1刃体1は押圧脚13により押圧されているが、第1刃体1に加わる力の大きさにより、弾性部材10の柱状部11が第3貫通孔11c内を摺動することができる。
【0046】
ここで、この鋏は、第1刃体1、第2刃体2、弾性部材10、及びリベット3のみからなり部品点数が少ない上、第1刃体1、第2刃体2に難しい加工を施す必要がないため、構造が簡単で製造コストを抑えることができる。さらには、この鋏の組み付け時や、最終調整時において、第1、2刃体1、2を重ねた第1、2要部1a、2aの厚みが基準より僅かに厚い場合、押圧脚13が通常より多く押し広げられるとともに、柱状部11が第3貫通孔11c内に通常より深く押し込められる。また、第1、2要部1a、2aの厚みが基準より僅かに薄い場合、押圧脚13は通常より少なく押し広げられ、柱状部11も第3貫通孔11c内に通常より浅く押し込められる。このように、弾性部材10により、第1、2刃体1、2の第1、2要部1a、2aの厚みのばらつきを吸収することができ、歩留まりを向上させるとともに、調整工数も低減することができるため、この点においても製造コストを抑えることができる。
【0047】
この鋏で紙等を切り、刃に大きな力が加わると、第1、2刃体1、2を厚み方向に引き離す大きな力がリベット3の軸方向に加わる。この際、この力が押圧脚13の押圧力より大きい場合、押圧脚13が押し広げられるとともに、柱状部11に対して第3貫通孔11cが第1刃体1と反対方向に摺動して、第1刃体1と第2刃体2との間隔Gが僅かに広がり、図7に示す状態になる。また、刃に加わる力が減少して、第1、2刃体1、2を厚み方向に引き離す力が減少すると、押圧脚13の押圧力が勝って第2刃体2が押される。これにより、押圧脚13が元の形に戻るとともに、柱状部11に対して第3貫通孔11cが第1刃体1の方向に摺動して、図6に示す状態となる。このように、リベット3の軸方向に加わる力を押圧脚13が吸収するため、第1、2触点1b、2bに加わる力を軽減して第1、2触点1b、2bの摩耗を抑制できる。また、リベット3に加わる力を軽減して、リベット3の緩み、摩耗も抑制できる。
【0048】
これに対し、押圧脚13のない鋏では、第1、2刃体を厚み方向に引き離す大きな力がリベットの軸方向に加わった場合、リベットにより第1、2刃体の厚み方向の変形が規制されているため、その力は第1、2触点にそのまま加わってしまう。その結果、第1、2触点の摩耗を抑制することができず、鋏の切れ味が低下してしまう。また、リベットが緩んだり、摩耗したりすることも考えられ、そのような場合には、第1刃体と第2刃体との間にガタが生じて鋏の切れ味が低下してしまう。
【0049】
また、弾性部材10の替わりに、図8に示す弾性部材20を用いることもできる。弾性部材20はポリアセタールからなり、柱状部21、押圧脚23を有し、これらが一体に形成されている。柱状部21は第2刃体2の第2貫通孔2cと同じ六角形の外形断面を有し、第2貫通孔2cに緩やかに嵌め込まれて回り止めされ、弾性部材20と第2刃体2とが一体となって軸回りに回動することができるとともに、弾性部材20の柱状部21は第2刃体2に対して軸方向に摺動可能になっている。また、柱状部21には、リベット3の胴部3aが貫通する断面円形状の軸孔21aと、リベット3の頭部3bが当接する頭孔21bとからなる第3貫通孔21cが軸方向に貫設されている。この第3貫通孔21cにリベット3が貫通して配設され、弾性部材20をリベット3の回りに摺動回動可能にしている。押圧脚23は、柱状部21の一端の外周に等間隔に合計6個配設され、軸方向他端側に向かって斜めに突出している。この押圧脚23は、第2刃体2を押圧可能な弾性力を有している。また、弾性部材10のフランジ部12に相当する部分はなく、押圧脚23は柱状部21の一端の外周から直接突出している。この弾性部材20は、弾性部材10と同じ作用、効果を有している。
【0050】
次に、実施形態1の鋏と従来の鋏との切れ味試験について説明する。切れ味試験には、試料1から3の3本の鋏を用いた。試料1、2は、プラス株式会社製SC−175Sであり、図22に示す従来の鋏である。また、試料3は本実施形態1の鋏である。そして、試料1から試料3の鋏について、図9に示す用紙90を用い、切断回数500回毎に開きトルク(N)を測定し、この測定値を考察して切れ味を判定した。用紙90は、75g/平米のA4サイズのPPC用紙であり、切断線91が100本印刷されている。この切断線91を鋏で全て切り、連続して5枚の用紙90を切って500回切断とし、その後、開きトルク(N)の測定を行った。これを切断回数5000回まで繰り返した。
【0051】
開きトルク(N)の測定は、図10に示すように、鋏の一方のハンドルを固定し、他方のハンドルをテンションゲージ95で引っ張って、開きトルク(N)を測定した。テンションゲージ95は、大場計器製作所製棒状丸形バネ式テンションゲージ置針式6Nを使用した。測定結果の表を表1、グラフを図11に示す。
【0052】
【表1】
【0053】
表1、及び図11のグラフによれば、試料1、2は切断回数が多くなるに従って開きトルクが増大するのに対し、試料3は切断回数による開きトルクの変化が少ないことが分かる。また、5000回の切断が終了した後の目視検査では、試料1、2の触点には強く摩滅した部分があったのに対し、試料3の触点には擦れ合った形跡が僅かに残っている程度であり、ほとんど変化がなかった。このことより、実施形態1の鋏によれば、長期間に亘って良い切れ味を保つことができることが分かる。
【0054】
実施形態1の鋏によれば、静刃である第1刃体1の第1要部1aにリベット3が貫通する第1貫通孔1cが貫設され、動刃である第2刃体2の第2要部2aに断面六角形の第2貫通孔2cが貫設されている。そして、樹脂製の弾性部材10の柱状部11が第2貫通孔2cと略同じ断面形状を有して第2貫通孔2cに緩やかに嵌め込まれている。そのため、弾性部材10と第2刃体2とは回り止めされて軸回りに一体となって動くことができるとともに、弾性部材10の柱状部11は第2刃体2に対して軸方向に摺動可能になっている。さらに、弾性部材10の柱状部11に断面円形の第3貫通孔11cが貫設され、第3貫通孔11cにリベット3が貫通されるため、弾性部材10はリベット3の回りに摺動回動可能になる。これにより、第2刃体2とリベット3とが擦れ合うことはなく、第2刃体2、及びリベット3の摩耗を抑制することができる。
【0055】
また、柱状部11の軸方向一端側の外周全体からフランジ部12が突出し、フランジ部12の外周から複数の押圧脚13が軸方向他端側に向かって斜めに突出して第2刃体2を押圧している。そして、刃に大きな力が加わると、第1、2刃体1、2を厚み方向に引き離す大きな力がリベット3の軸方向に加わり、押圧脚13の押圧力に抗して第1刃体1と第2刃体2との間隙Gが僅かに広がる。また、刃に加わる力が減少して、第1、2刃体を厚み方向に引き離す力が減少すると、押圧脚13の押圧力が勝って第2刃体2が押され、第1刃体1と第2刃体2との間隙Gを適切に保つことができる。このように、リベット3の軸方向に加わる力を押圧脚13が吸収するため、第1、2触点1b、2bに加わる力を軽減して第1、2触点1b、2bの摩耗を抑制でき、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。
【0056】
また、この鋏は、第1刃体1、第2刃体2、弾性部材10、及びリベット3のみからなり部品点数が少ない上、第1刃体1、第2刃体2に難しい加工を施す必要がないため、構造が簡単で製造コストを抑えることができる。さらには、押圧脚13の弾性力により第1、2刃体1、2の厚みのばらつきを吸収できるため、第1、2刃体1、2の厚みに対する製造誤差をある程度吸収できるのみならず、組み付け後の最終調整も容易になる。したがって、この鋏によれば、簡単な構造で長期間に亘って切れ味の低下を抑制でき、かつ製造コストの低廉化を図ることができる。
【0057】
また、この鋏においては、第2刃体2の第2貫通孔2cの断面、及び弾性部材10の柱状部11の断面が六角形状であり、製造、組み付けが容易である。また、押圧脚13が6個であるため、第2刃体2を偏りなく押圧することができるとともに、弾性力を十分に得ることができる。
【0058】
さらに、この鋏においては、弾性部材10の材質がポリアセタールであり、押圧脚13に弾性力を持たせるのに適している。
【0059】
また、この鋏においては、リベット3を採用しているため、構造を簡略化できるとともに安価である。また、リベット3をかしめることにより第1刃体1とリベット3とを固着することができ、第1刃体1を簡単に静刃とすることができる。
【0060】
さらに、この鋏においては、鋏が事務、学童、又は料理に用いられるものであり、製造コストの低廉化の要請に応えることができる。
【0061】
次に、実施形態2の鋏について説明する。実施形態2の鋏では、実施形態1の鋏と同様、第1刃体1、第2刃体2、リベット3が用いられる。そして、実施形態1の弾性部材10の替わりに、図12から図14に示す弾性部材30が用いられる。そのため、弾性部材30についてのみ、図12から図14を用いて説明する。ただし、実施形態1の弾性部材10の構成と同様の構成については同じ符号を用いるものとし、その説明を省略する。
【0062】
図12は弾性部材30の正面図、及び平面図であり、図13は弾性部材30の底面図、及び側面図である。また、図14は弾性部材30の断面図である。図12から図14に示すように、弾性部材30の隣り合う押圧脚13の間の6個所の隙間には、異物防止部材15が押圧脚13の基端部から先端部まで各々充填されている。そして、押圧脚13と異物防止部材15とは一体として略傘状なし、押圧脚13の先端面13aと異物防止部材15の先端面15aとは、軸孔11aと同心円状の仮想円の円周C1上に配設されている(図13(1)参照)。また、鋏の組み立て後には、第2刃体2と押圧脚13の先端面13aが密着し、第2刃体2と異物防止部材15の先端面15aも密着している(図14参照)。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材15の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材15と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。
【0063】
異物防止部材15は熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、塩化ビニルのうちのいずれか1つからなり、押圧脚13に比べ遥かに柔軟であり、押圧脚13のリベット3の軸方向の動きにほとんど影響を与えることがない。この異物防止部材15は、無色にされているか、又は押圧脚13の形状を引き立てる色に着色されていることが望ましい。これにより、弾性部材30の意匠性が向上し、弾性部材30が用いられた鋏の差別化を図ることができるからである。なお、弾性部材30は、弾性部材10に異物防止部材15が設けられたものであるが、弾性部材10の替わりに図8に示す弾性部材20を用いてもよい。
【0064】
実施形態2の鋏によれば、弾性部材30の隣り合う押圧脚13の間には異物防止部材15が押圧脚13の基端部から先端部まで充填され、押圧脚13と異物防止部材15とが一体となって略傘状をなし、押圧脚13の先端面13a、及び異物防止部材15の先端面15aが第2刃体2と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材15の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材15と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材15は押圧脚13の動作を阻害しないため、押圧脚13のリベット3の軸方向に対する動きが妨げられることがない。したがって、この鋏によれば、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。その他の作用、効果は実施形態1と同様である。なお、本実施形態において、異物防止部材15は、押圧脚13の裏面13c、及び表面13bの両方と面一にされているが、鋏の組み立て後において、押圧脚13、及び異物防止部材15の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材15と第2刃体2との間に隙間を有することなく密着されていればよい。そのため、異物防止部材15の先端面15aと第2刃体2とが隙間を有することなく密着されていれば、異物防止部材15は、押圧脚13の表面13b、及び裏面13cとは必ずしも面一でなくてもよい。
【0065】
次に、実施形態3の鋏について説明する。実施形態3の鋏においても、実施形態2の鋏と同様、実施形態1の第1刃体1、第2刃体2、リベット3が用いられる。そして、実施形態1の弾性部材10の替わりに、図15から図17に示す弾性部材32が用いられる。そのため、弾性部材32についてのみ、図15から図17を用いて説明する。ただし、実施形態1の弾性部材10の構成と同様の構成については同じ符号を用いるものとし、その説明を省略する。
【0066】
図15は弾性部材32の正面図、及び平面図であり、図16は弾性部材32の底面図、及び側面図である。また、図17は弾性部材32の断面図である。図15から図17に示すように、弾性部材32の押圧脚13の裏面13cには、略傘状の異物防止部材16が密着されている。そして、押圧脚13の先端部は異物防止部材16の外周まで延び、押圧脚13と異物防止部材16とが一体となって略傘状をなし、押圧脚13の先端面13aと異物防止部材16の先端面16aとは、軸孔11aと同心円状の仮想円の円周C2上に配設されている(図16(1)参照)。また、鋏の組み立て後には、第2刃体2と押圧脚13の先端面13aが密着し、第2刃体2と異物防止部材16の先端面16aも密着している(図17参照)。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材16の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材16と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。
【0067】
異物防止部材16は熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、塩化ビニルのうちのいずれか1つからなり、押圧脚13に比べ遥かに柔軟であり、押圧脚13のリベット3の軸方向の動きにほとんど影響を与えることがない。この異物防止部材16は、透明にされているか、又は押圧脚13の形状を引き立てる色に着色されていることが望ましい。これにより、弾性部材32の意匠性が向上し、弾性部材32が用いられた鋏の差別化を図ることができるからである。なお、弾性部材32は、弾性部材10に異物防止部材16が設けられたものであるが、弾性部材10の替わりに図8に示す弾性部材20を用いてもよい。
【0068】
実施形態3の鋏によれば、弾性部材32の押圧脚13の裏面13cには略傘状の異物防止部材16が密着され、押圧脚13の先端面13a、及び異物防止部材16の先端面16aが第2刃体2と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材16の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材16と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材16は押圧脚13の動作を阻害しないため、押圧脚13のリベット3の軸方向に対する動きが妨げられることがない。したがって、この鋏によれば、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。その他の作用、効果は実施形態1と同様である。なお、本実施形態においては隣り合う押圧脚13の間の隙間にも異物防止部材16が充填されているが、略傘状の異物防止部材16により押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止できるため、必ずしも隣り合う押圧脚13の間の隙間に異物防止部材16を充填しなくてもよい。
【0069】
次に、実施形態4の鋏について説明する。実施形態4の鋏においても、実施形態2、3の鋏と同様、実施形態1の第1刃体1、第2刃体2、リベット3が用いられる。そして、実施形態1の弾性部材10の替わりに、図18から図20に示す弾性部材34が用いられる。そのため、弾性部材34についてのみ、図18から図20を用いて説明する。ただし、実施形態1の弾性部材10の構成と同様の構成については同じ符号を用いるものとし、その説明を省略する。
【0070】
図18は弾性部材34の正面図、及び平面図であり、図19は弾性部材34の底面図、及び側面図である。また、図20は弾性部材34の断面図である。図18から図20に示すように、弾性部材34の押圧脚13の表面13bには、略傘状の異物防止部材17が密着されている。そして、押圧脚13の先端部は異物防止部材17の外周まで延び、押圧脚13と異物防止部材17とが一体となって略傘状をなし、押圧脚13の先端面13aと異物防止部材17の先端面17aとは、軸孔11aと同心円状の仮想円の円周C3上に配設されている(図19(1)参照)。また、鋏の組み立て後には、第2刃体2と押圧脚13の先端面13aが密着し、第2刃体2と異物防止部材17の先端面17aも密着している(図20参照)。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材17の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材17と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。
【0071】
異物防止部材17は熱可塑性エラストマー、熱可塑性ゴム、低密度ポリエチレン、塩化ビニルのうちのいずれか1つからなり、押圧脚13に比べ遥かに柔軟であり、押圧脚13のリベット3の軸方向の動きにほとんど影響を与えることがない。この異物防止部材17は透明にされていることが望ましい。これにより、異物防止部材17を通して押圧脚13の形状を見ることができるため、弾性部材34の意匠性を低下させることがなく、弾性部材34が用いられた鋏の差別化を図ることができるからである。なお、弾性部材34は、弾性部材10に異物防止部材17が設けられたものであるが、弾性部材10の替わりに図8に示す弾性部材20を用いてもよい。
【0072】
実施形態4の鋏によれば、弾性部材34の押圧脚13の表面13bには略傘状の異物防止部材17が密着され、押圧脚13の先端面13a、及び異物防止部材17の先端面17aが第2刃体2と密着している。そのため、略傘状をなす押圧脚13、及び異物防止部材17の外周の全体において、押圧脚13、及び異物防止部材17と第2刃体2との間に隙間を有することがなく、押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止される。また、異物防止部材17は押圧脚13の動作を阻害しないため、押圧脚13のリベット3の軸方向に対する動きが妨げられることがない。したがって、この鋏によれば、長期間に亘って良い切れ味を保つことができる。その他の作用、効果は実施形態1と同様である。なお、本実施形態においては隣り合う押圧脚13の間の隙間にも異物防止部材17が充填されているが、略傘状の異物防止部材17により押圧脚13と第2刃体2との間への異物の侵入が防止できるため、必ずしも隣り合う押圧脚13の間の隙間に異物防止部材17を充填しなくてもよい。
【0073】
以上、本発明の鋏を実施形態1から4に即して説明したが、本発明はこれらに制限されるものではなく、本発明の技術的思想に反しない限り、適宜変更して適用できることはいうまでもない。例えば、本実施形態1から4においては、弾性部材10、20、30、32、34を事務、学童、又は料理用の一般的な鋏に用いるものとして説明したが、理容、園芸用等の鋏のような特殊な鋏に用いることもできる。また、実施形態2から4において、異物防止部材15、16、17の押圧脚13への密着性を強固にするため、押圧脚13に凸部を設けてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…第1刃体、1a…第1要部、1c…第1貫通孔、2…第2刃体、2a…第2要部、2c…第2貫通孔、3…要軸(リベット)、10、20、30、32、34…弾性部材、11、21…柱状部、11c、21c…第3貫通孔、12…フランジ部、13、23…押圧脚、13a、15a…先端面、13b…表面、13c…裏面、15、16、17…異物防止部材。


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