【文献】
桜井毅、田中勝美,ステンレス箔片入り塗料フェニックス,川崎製鉄技報,1987年,Vol.19,No.2,p.142−144
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のフレーク状ステンレス顔料、それを配合してなる樹脂組成物、および該樹脂組成物により形成された塗膜を有する塗布物についてさらに詳細に説明する。
【0014】
<フレーク状ステンレス顔料>
本発明のフレーク状ステンレス顔料は、体積累積粒度分布の90%径(D
90)が55μm以下であり、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%以上である。
【0015】
ここで、本明細書において、「体積累積粒度分布」は、フレーク状ステンレス顔料の体積平均粒子径を測定して得られる体積累積粒度分布を意味し、その「90%径が55μm以下」とは、縦軸が累積頻度(%)であり、横軸が粒子径(μm)である体積累積粒度分布曲線において、累積度90%の粒子径が55μm以下であることを意味する。なお、上記体積平均粒子径は、レーザー回折法により測定された粒度分布に基づき、その体積平均を算出して求めることができる。
【0016】
また、本明細書において、篩いの「通過率」は、湿式篩いによる篩い分けを行う前のフレーク状ステンレス顔料の重量をS1、該篩い分けを行った後に篩いに残留したフレーク状ステンレス顔料の重量をS2とした場合に、下記式(1)に基づいて求めることができる。
通過率(重量%)={(S1−S2)/S1}×100・・・(1)
すなわち、本発明のフレーク状ステンレス顔料は、フレーク形状を有する粒子の集合体であり、その集合体のうちの90体積%以上の粒子が55μm以下の体積平均粒子径を有し、その集合体のうちの99重量%以上が目開き38μmの篩いを通過するものということができる。
【0017】
上記の特徴を有する本発明のフレーク状ステンレス顔料は、従来のフレーク状ステンレス顔料に比して高い耐食性を発揮することができる。たとえば、本発明のフレーク状ステンレス顔料を配合してなる樹脂組成物より形成された塗膜は、高い耐食性を有することができる。さらに、該塗膜は、高い耐摩耗性、高い摺動性を有することができる。
【0018】
なお、フレーク状ステンレス顔料において、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%以上であっても、D
90が55μmを超える場合には、フレーク状ステンレス顔料の塗膜中での配向性が低下する傾向にある。このため、フレーク状ステンレス顔料が塗膜より突き出し易くなり、その突き出した部分からクラックが発生するために、十分な耐食性を発揮することができない。また、配向性の低下に伴い、塗膜中に空洞が生じやすくなり、その空洞部分から剥離が生じ易くなる。このような塗膜では、当然に耐摩耗性、耐摺動性も低下する。
【0019】
また、フレーク状ステンレス顔料において、D
90が55μm以下であっても、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%未満の場合には、やはり、フレーク状ステンレス顔料の塗膜中での配向性が低下する傾向にある。したがって、上記の場合と同様に、本発明の効果を発揮することができない。
【0020】
このように、上述の効果を発揮するためには、フレーク状ステンレス顔料において、体積累積粒度分布の90%径(D
90)が55μm以下であることと、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%以上であることの両方の特徴が必要となる。この理由は明らかではないが、次のことが考えられる。
【0021】
すなわち、フレーク状ステンレス顔料において、堆積累積粒度分布の90%径に関する上記のような規定のみでは、塗膜外観などに悪影響を与える粗大な粒子の混入を十分に排除しきれず、また、目開き38μmの篩いの通過率に関する上記のような規定だけでは、棒状粒子などの異形状の粒子の混入を十分に排除しきれない。これに対し、フレーク状ステンレス顔料において、上記の両方の規定を満たすことによって、はじめて、上述のような本発明の効果を発揮することができる。
【0022】
上述の本発明のフレーク状ステンレス顔料において、D
90が40μm以下であることがより好ましい。さらに欠陥の少ない塗膜を形成することができ、もって、さらに高い耐食性、耐摩耗性、および摺動性を発揮することができる。また、本発明のフレーク状ステンレス顔料において、目開き38μmの篩いの通過率は99.9%以上であることが好ましい。この場合も、より欠陥の少ない塗膜を形成することができ、もって、さらに高い耐食性、耐摩耗性、および摺動性を発揮することができる。
【0023】
また、本発明のフレーク状ステンレス顔料において、ステンレスの種類は特に制限されず、従来公知のステンレス、たとえば、フェライト系ステンレス、オーステナイト系ステンレス、マルテンサイト系ステンレス、2相系ステンレスなどを用いることができる。特に、高い耐食性および高い加工性を有する点で、フェライト系ステンレスまたはオーステナイト系ステンレスを用いることが好ましい。フェライト系ステンレスのなかでも、SUS430、ならびに日新製鋼株式会社製のNSS445M2およびNSS447M1が好ましく、オーステナイト系ステンレスのなかでも、SUS304、SUS316、SUS316Lが好ましい。また、海水中などの極めて厳しい腐食環境下においても高い耐食性を有する点で、日新製鋼株式会社製のNSSURCを好適に用いることもできる。なお、ステンレスは不可避不純物を含んでいてもよく、また、本発明の効果を発揮する限り、その組成は特に制限されないが、耐食性および加工性の観点から、フレーク状ステンレス顔料における不可避不純物の含有割合が1%以下であることが好ましい。
【0024】
また、本発明のフレーク状ステンレス顔料において、その平均厚み(t)が0.03μm以上0.5μm以下であり、平均粒子径(D
50)が3μm以上30μm以下であることが好ましい。より好ましくは、tが0.03μm以上0.33μm以下であり、D
50が3μm以上20μm以下であり、さらに好ましくは、tが0.09μm以上0.33μm以下であり、D
50が5μm以上20μm以下である。この場合、薄い塗膜中、たとえば、10μm以下の厚みの塗膜中においてもフレーク状ステンレス顔料が好適に積層されるため、腐食物質に対するラビリンス効果(遮断効果)を高めることができる。
【0025】
一方、tが0.03μm未満の場合、製造工程などにおいてその取り扱いが困難となり、tが0.5μmを超える場合、好適な積層のためには塗膜を厚くする必要が生じる。D
50が3μm未満の場合および30μmを超える場合についても、それぞれ、同様の問題が発生する。なお、「D
50」は、上述の体積累積粒度分布において、累積度50%の粒子径を意味する。
【0026】
また、上記平均厚みtに対する平均粒子径D
50の比である平均アスペクト比(D
50/t)が5以上500以下であることが好ましく、より好ましくは10以上100以下である。平均アスペクト比が5未満の場合、塗膜中において十分な遮蔽効果を発揮することができず、500を超える場合、樹脂組成物中において、その粘度を大きく増加させてしまう傾向にあるために、樹脂組成物中における適切な配合量を確保することが難しくなる。また、平均アスペクト比が500を超える場合、フレーク状ステンレス顔料の嵩比重が小さいために、塗膜中においてフレーク状ステンレス顔料間の隙間が多くなる。これにより樹脂中に多くの空隙が生じるために、結果的に塗膜の耐食性が低下する傾向がある。
【0027】
本発明のフレーク状ステンレス顔料は、本発明の効果を有する限り、上記構成以外の他の任意の構成、たとえば、フレーク状ステンレスの表面を被覆する被覆層などを含むことができる。ただし、塗膜の優れた外観および製造工程の煩雑さの回避という点で、フレーク状ステンレスのみからなり、被覆層などの他の構成を有さないことが好ましい。
【0028】
以上詳述したように、本発明のフレーク状ステンレス顔料は、高い耐食性を発揮することができるため、塗装用途に優れており、特に厳しい環境下に晒される基材の塗装に好適に用いることができる。また、本発明のフレーク状ステンレス顔料は、上述の特徴を有することから、他の特性、たとえば、遮熱性、耐熱性、難燃性、雷サージ保護機能などを向上させることが期待される。
【0029】
<製造方法>
上述の本発明のフレーク状ステンレス顔料は、以下の方法により製造することができる。
【0030】
まず、原料となるステンレス粉末を準備する(準備工程)。このステンレス粉末には、公知のアトマイズ法、破砕法、回転円盤法、回転電極法、キャビテーション法、メルトスピニング法などにより得られる粉末を使用することができる。特に、製造コスト、均一性の観点から、アトマイズ法により得られるステンレス粉末を用いることが好ましい。
【0031】
次に、準備したステンレス粉末をフレーク状に変形させる(変形工程)。フレーク状に変形させる方法は、たとえば、ステンレス粉末を湿式ボールミル、乾式ボールミル、ビーズミルなどにより粉砕してステンレス粉末を扁平化する方法が例示される。特に、安全性および作業性の観点から、湿式ボールミルを用いることが好ましい。
【0032】
次に、扁平化されたフレーク状ステンレス粉末を目開き38μm以下の篩いを用いて篩い分けを行う(篩い分け工程)。この篩いを通過したフレーク状ステンレス粉末を回収することにより、本発明のフレーク状ステンレス顔料を得ることができる。
【0033】
上記準備工程において、ステンレス粉末のD
90は、5μm以上20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。この場合、最終的に得られるフレーク状ステンレス顔料の回収率を高めることができる。一方、D
90が20μmを超える場合、変形工程を経て粗大化したフレーク形状ステンレス粉末が大量に発生するため、最終的に得られるフレーク状ステンレス顔料の回収率が大きく低下する。また、篩い分け工程に長時間を要する恐れがある。また、D
90が5μm未満の場合、その取り扱いが困難となり、たとえば、湿式ボールミルによる粉砕に伴う固液分離操作において長時間を要する恐れがある。
【0034】
また、ステンレス粉末のD
50は、2μm以上10μm以下であることが好ましい。この場合にも、上記と同様に、最終的に得られるフレーク状ステンレス顔料の回収率を高めることができる。なお、回収率とは、用いたステンレス粉末の重量に対する、最終的に得られたフレーク状ステンレス顔料の割合を示す。また、ステンレス粉末のD
90およびD
50の意味、ならびにその算出方法は、フレーク状ステンレス顔料のD
90およびD
50と同様であるため、その説明は繰り返さない。
【0035】
また、上記変形工程において、湿式ボールミルを用いる場合に、直径が4mm以下のスチールボールを用いることが好ましい。この場合、上述のようなD
90およびD
50を有するステンレス粉末を効率的に粉砕することができ、また、目的とする大きさに効率的に扁平化することができる。
【0036】
また、上記篩い分け工程において、ステンレス鋼からなる直径200mm以上2000mm以下の篩いを用いることが好ましい。この場合、篩いの摩耗や損傷が少なく、また、効率的に篩い分けることができる。また、変形工程を経たフレーク状ステンレス粉末がスラリーの状態である場合には、このスラリーをミネラルスピリットなどの溶剤で洗浄した後に、篩い分け工程を行うことが好ましい。用いる篩いの目開きは
38μm以下であればよいが、25μm以下であることがより好ましい。この場合、D
90が23μm以下であり、目開き38μmの篩いの通過率が99.9重量%以上のフレーク状ステンレス顔料をより確実に製造することができる。
【0037】
以上詳述した製造方法により、本発明のフレーク状ステンレス顔料を製造することができる。なお、本発明のフレーク状ステンレス顔料の製造方法は、上記の各工程に限られず、他の工程を含むことができる。
【0038】
<樹脂組成物>
本発明は、上記フレーク状ステンレス顔料を配合してなる樹脂組成物にもかかわる。該樹脂組成物は、フレーク状ステンレス顔料の他に、樹脂成分と溶剤とを含むことができる。このような本発明の樹脂組成物は、上記フレーク状ステンレス顔料が配合されることにより、従来よりも高い耐食性を有する塗膜を形成することができる。樹脂組成物は、具体的には、塗料、接着剤、ライニング剤、プラスチック、FRPなどとして使用することができる。
【0039】
本発明の樹脂組成物中におけるフレーク状ステンレス顔料の配合量は、樹脂組成物中の全固形分100重量部に対し5重量部以上120重量部以下であることが好ましく、30重量部以上120重量部以下であることがより好ましい。フレーク状ステンレス顔料の配合量が5重量部未満の場合、形成される塗膜の隠蔽性が低下し、同配合量が120重量部を超える場合、樹脂組成物の付着性が低下し、また、これに伴い塗膜にクラックが発生し易くなる。なお、全固形分とは、樹脂組成物中の流動性の樹脂、溶剤を除いた残りの固形分を示す。
【0040】
上記樹脂成分としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、アクリル樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ビニル樹脂、ケイ素樹脂(無機系バインダー)、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、フッ素樹脂、合成樹脂エマルジョン、ボイル油、塩化ゴム、天然樹脂とアミノ樹脂、フェノール樹脂、ポリイソシアネート樹脂、尿素樹脂などの2種類以上の組み合わせが好適に使用される。
【0041】
上記溶剤としては、アルコール系、グリコール系、ケトン系、エステル系、エーテル系、炭化水素系などの有機溶媒、水などを例示することができる使用される。また、樹脂組成物が溶剤を含まない場合、樹脂組成物はいわゆる粉体塗料となる。
【0042】
また、本発明の樹脂組成物は、展色剤を含むこともできる。好ましい展色剤としては、エポキシ樹脂(高密着性、高高度、高耐食性、耐摩耗性)、ポリエステル樹脂(高耐食性、高高度)、アクリル樹脂(高耐候性、高意匠性)、フッ素樹脂(高耐食性、高耐候性)、ポリアミドイミド樹脂(高硬度、高耐熱性、難燃性、耐摩耗性)、塩化ゴム(高耐候性、作業性)が例示される。
【0043】
さらに、本発明の樹脂組成物において、必要に応じて、添加剤、他の顔料などを配合してもよい。他の添加剤としては、顔料分散剤、消泡剤、沈降防止剤、硬化触媒、滑剤などを例示することができ、他の顔料としては、有機着色顔料、無機着色顔料、体質顔料、パールマイカ、フレーク状アルミニウム、板状酸化鉄などの着色顔料を例示することができる。特に、摺動を目的とする固体潤滑塗料組成物として用いられる樹脂組成物の場合には、滑材として、ポリテトラフルオロエチレン、エチレン・四フッ化エチレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体、フッ化エチレンポリプロピレンコポリマーなどのフッ素樹脂、テトラフルオロエチレンなどのフッ素系モノマー、シリコーン系オイル、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、窒化ホウ素、グラファイトなどを配合することが好ましい。なお、上述の理由により、紫外線吸収剤または光安定剤は添加しないことが好ましい。
【0044】
塗料として用いられる樹脂組成物における樹脂成分の配合量は、樹脂組成物100重量部に対し、20重量部以上80重量部以下であることが好ましく、溶剤の配合量は樹脂組成物100重量部に対し、20重量部以上80重量部以下であることが好ましい。樹脂成分が20重量部より少ないと付着性が低下し、また、これによって塗膜でのクラックの発生が引き起こされ、80重量部より多いと、隠蔽性やラビリンス効果の低下が引き起こされる。また、溶剤が20重量部より少ないと、樹脂組成物中へのフレーク状ステンレス顔料の分散性が不十分となり、80重量部より多いと樹脂組成物を乾燥および硬化させる際に蒸発する溶剤による環境汚染が問題となる。なお、所謂粉体塗料の場合には、樹脂組成物中に溶剤は含まれないことは上述の通りである。
【0045】
以上詳述した本発明の樹脂組成物によれば、高い耐食性を有する塗膜を形成することができる。なお、ここでいう樹脂組成物には、最終の塗料用途の混練品ばかりではなく、母材樹脂に配合する目的として使用される、本発明のフレーク状ステンレス顔料を含んだマスターバッチや、当該マスターバッチと着色目的の母材樹脂とをペレット状に混練した着色ペレットのような中間仕掛品も含まれる。
【0046】
<塗布物>
本発明は、上記フレーク状ステンレス顔料を配合した上記樹脂組成物により形成された塗膜を有する塗布物にもかかわる。上記樹脂組成物は、上述のように、本発明のフレーク状ステンレス顔料の効果を引き継ぐことができるものであり、したがって、この樹脂組成物により形成された塗膜を基体上に有する塗布物もまた、本発明のフレーク状ステンレス顔料の効果を引き継ぐことができる。すなわち、本発明の塗布物は、高い耐食性を発揮する塗膜をその表面に有するため、たとえば、厳しい環境下においても十分に基体の劣化が抑制されることになる。
【0047】
本発明の塗布物における塗膜の好ましい態様を以下(1)〜(4)に示す。
(1)塗膜の任意の断面において、塗膜の最も表面側に位置するフレーク状ステンレス顔料の基体の表面に対する傾斜角度の個数平均が、5度以下、より好ましくは3度以下である。
(2)塗膜の任意の断面の95%以上の領域において、塗膜の法線方向(厚み方向)に個数平均2個以上のフレーク状ステンレス顔料が存在する。
(3)塗膜の膜厚がフレーク状ステンレス顔料の平均厚みtの10〜500倍である。
(4)塗膜の任意の断面において、空隙率が5%以下である。
【0048】
上記(1)に関し、傾斜角度が5度を超える場合、塗膜の表面に突き出すフレーク状ステンレス顔料が多くなり、その部分からクラックが発生することにより、塗膜の耐候性が低下する。また、フレーク状ステンレス顔料が塗膜の表面から突き出すことにより、塗膜の摩擦係数が大きくなり、耐摩耗性が摺動性が低下してしまう。このため、たとえば、製品の摺動部分に用いられる基体上への利用への適合性が低下する。
【0049】
上記(2)に関し、法線方向に存在するフレーク状ステンレス顔料の個数平均が2個未満の場合、腐食物質が塗膜中に浸入し易くなるため、塗膜の耐候性や密着性が損なわれる。
【0050】
上記(3)に関し、塗膜の膜厚が平均厚みtの10倍未満の場合、その厚み方向においてフレーク状ステンレス顔料が好適に積層されないために、塗膜のラビリンス効果が小さくなり、耐食性が低下する場合がある。また、塗膜の膜厚が平均厚みtの500倍を超える場合、フレーク状ステンレス顔料の隙間が大きくなるために、ラビリンス効果が小さくなり、耐食性が低下する場合がある。また、塗膜の乾燥時に、溶剤の揮発により塗膜中に気泡が生じ易くなったり、塗装の作業性が低下する恐れがある。また、塗膜中に溶剤が残存し易くなるために、塗膜の性能が低下する恐れもある。
【0051】
上記(4)に関し、空隙率が5%を超える場合、塗膜内に腐食物質などが浸入しやすくなるため、結果的に、塗膜の耐食性、耐摩耗性、摺動性等が低下する場合がある。
【0052】
上記基体に関し、金属、プラスティック、窯業製品、ガラス、木材、コンクリート、布、紙など、その素材は特に限定されない。また、その形状も、たとえば支柱、橋梁、ガードレール、締結部品(ボルト、ナット、リベット等)、摺動部品(シートベルト部品、工作機械部品など)、架台(太陽光発電パネル架台など)、タンク、車両、屋外用収納箱(キュービクルなど)などの立体構造物、プレコートメタル、板材、壁材、屋根材、シートなどの平面的なものを使用することができ、特に限定されない。なお、本発明の樹脂組成物を基体上に塗布する方法は、従来公知の塗布方法を特に限定することなく採用することができ、いかなる方法も採用することができる。
【0053】
また、本発明の塗布物は上記塗膜を有する限り、他の層を有していてもよく、特に、上記塗膜と基体との間に下地処理層を有することが好ましい。下地処理層を有することにより、基体と上記塗膜との密着性を高めることができ、さらに、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0054】
下地処理層としては、たとえば、溶融めっき層、溶射めっき層、電解めっき層、無電解めっき層、蒸着層、化成処理層、電着塗装層、有機系プライマー層、ジンクリッチプライマー層などを例示することができる。特に、溶融亜鉛めっき層、電解亜鉛めっき層、無機塩による化成処理層、有機系プライマー層が好ましい。特に好ましい下地処理層としては、溶融亜鉛めっき、電気亜鉛めっき、無機塩による化成処理、有機系プライマー等が例示される。なお、下地処理層として各種めっき層を選択する場合は、有機系プライマー層を併用する事が望ましい。
【0055】
以上詳述した本発明の塗布物によれば、高い耐食性を有する塗膜を形成することができる。このような塗膜は、厳しい環境下においても十分にその劣化を抑制することができる。また、該塗膜は高い耐摩耗性、高い摺動性を発揮することができるため、高腐食環境下に晒される摺動部品を基材とした場合であっても、十分にその効果を発揮することができる。
【実施例】
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0057】
<実施例1>
以下の製造方法に従って、フレーク状ステンレス顔料を製造した。
【0058】
まず、D
50が4μm、D
90が8μmの球状のステンレス粉末1400gを準備した(準備工程)。このステンレス粉末を、直径2mmのスチールボール50kgが入った内径500mm、長さ200mmのボールミル内に投入し、さらに、ミネラルスピリット2.7lおよび粉砕助剤としてのラウリン酸140gを投入した。そして、回転数48rpmで2.5時間粉砕および変形処理を行った(変形工程)。
【0059】
次に、ボールミル内のスラリーをミネラルスピリットで洗い出してスラリーとして回収し、表1記載の目開きを有する篩いを用いて、回収したスラリーの篩い分けを行った(篩い分け工程)。なお、篩いの内径は495mmであり、その深さは50mmであった。篩い分け工程後、篩いを通過したケーキをニーダーミキサーで練ることにより、フレーク状ステンレス顔料を含むペーストを得た(表1参照)。
【0060】
【表1】
【0061】
<実施例2〜6および比較例1>
実施例2〜6および比較例1においては、用いるステンレス粉末、スチールボール、粉砕および変形処理時間、ならびに用いた篩いの目開きを表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法により、フレーク状ステンレス顔料を含むペーストを得た。
【0062】
<フレーク状ステンレス顔料を含むペーストの特性について>
実施例1〜5および比較例1で得られた各ペーストについて、ペーストに含まれる固形分量(重量%)を確認した。なお、この固形分量(重量%)は、ペースト中のフレーク状ステンレス顔料の重量(%)に相当するものである。また、ペースト中のフレーク状ステンレス顔料のD
50およびD
90、平均厚み、アスペクト比、ならびに目開き38μmの篩いの通過率について確認した。
【0063】
1.固形分量
得られたペーストについて、次の方法により、固形分量(重量%)を算出した。
【0064】
まず、100mlビーカーに得られたペーストを採取し、約5mlのミネラルスピリットを加えて分散させた。次に、これを105℃±2℃に保った乾燥機内に3時間静置して乾燥させ、その後これをデシケーター中で室温まで放冷させた。そして、ビーカー内の残渣の重量を測定し、下記式(1)により、固形分量(重量%)を算出した。その結果を表2に示す。
【0065】
固形分量(重量%)=(W2/W1)×100・・・(1)
(式(1)中、W1は乾燥前のペーストの重量を示し、W2は乾燥および放冷後の残渣の重量を示す。)
2.D
50およびD
90
得られたペーストについて、次の方法により、ペーストに含まれるフレーク状ステンレス顔料のD
50およびD
90を算出した。
【0066】
まず、実施例1〜6および比較例1で得られた各ペースト0.25gを10mlのトルエンに添加して試料を調製した。そして、粒子径分布測定装置(Microtrac HRA 9320−X100、ハネウェル(Honeywell)社製)を用いて、試料における粒子径分布の測定を行い、D
50およびD
90を算出した。その結果を表2に示す。
【0067】
3.平均厚み
得られた実施例1のペーストについて、以下の手順(i)〜(vi)に従がって、ペーストに含まれるフレーク状ステンレス顔料の平均厚みを求めた。その結果を表2に「厚み」として示す。
【0068】
(i)まず、予め、JIS K5906:1998の手順に従って水面拡散面積(cm
2/g)が測定された標準試料(リーフィングアルミニウムペースト、商品名:「0100M」、東洋アルミニウム社製)を準備した。標準試料の固形分は65重量%、水面拡散面積S
0は25000cm
2/gであった。
【0069】
(ii)次に、上記標準試料を固形分として0.5g秤量し、これを固形分としてアクリルクリヤーラッカー(商品名:「オートクリヤー」、日本ペイント社製)49.5gに加え、撹拌脱泡機(製品名:「マゼルスターKK−400W」、クラボウ社製)により3分間攪拌混合して塗料を調製した。
【0070】
(iii)調製した塗料を、1ミル(25μm)のドクターブレードを用いて厚み12μmの透明PETフィルムに塗布した。なお、塗布によりPETフィルム上に形成された塗膜の厚みは15μmであった。そして、紫外可視近赤外分光光度計(製品名:「V−570」、日本分光社製)を用い、透過測定モードにて、波長400nm〜800nmの光に対する塗膜の透過率を測定し、その平均値を標準試料の透過率とした。
【0071】
(iv)次に、実施例1で得られたペーストについて、上記(ii)の手順に従って、固形分配合量の異なる5点以上の塗料を調製した。すなわち、ペースト固形分W(g)にアクリルクリヤーラッカーを[50−W](g)加え、撹拌脱泡機により3分間攪拌混合して塗料を調製することより、固形分配合量(すなわち、ペースト配合量)の異なる塗料を50gずつ調製した。そして、上記(iii)の手順に従って各塗膜を形成し、各塗膜の上記透過率を測定した。
【0072】
(v)測定された透過率が、標準試料の透過率と同じ値となった塗膜の形成に用いられたペーストの質量W(g)を下記式(2)に代入することにより、実施例1に係るペーストの水面拡散面積Sを算出した。
S=S
0×0.5/W・・・(2)。
【0073】
(vi)上記式(2)から算出された水面拡散面積Sを下記式(3)に代入することにより、実施例1に係るペーストに含まれるフレーク状ステンレス顔料の平均厚みを算出した。
t=10000/S×ρ・・・(3)
なお、上記式(3)においてρはステンレスの密度であってその値は7.8となる。
【0074】
実施例2〜5、および比較例1のペーストにおいても、上記(i)〜(vi)の手順に従って、フレーク状ステンレス顔料の平均厚みtを算出した。
【0075】
4.アスペクト比
実施例1〜6および比較例1で得られた各ペーストにおいて、ペーストに含まれるフレーク状ステンレス顔料のD50(μm)をその厚みt(μm)で除した値(D50/t)をアスペクト比とした。算出した結果を表2に示す。
【0076】
5.目開き38μmの篩いの通過率
得られたペーストについて、湿式篩い法により、目開き38μmの篩いの通過率(重量%)を算出した。具体的には、まず、実施例1〜6および比較例1で得られた各ペースト30gを100mlのビーカー内に移し、これにミネラルスピリット100mlを徐々に加えて、ペーストを分散させた試料を調製した。次に、目開き38μmの篩い(内径200mm、深さ50mm)を回収容器(容器1)の上に固定し、この篩いの網目上に調製した試料を流し込んだ。また、ビーカー内に残った試料を少量のミネラルスピリットで洗浄し、この洗浄液も篩いの網目上に流し込んだ。
【0077】
次に、上記篩いを収容可能な大きさの回収容器(容器2)の中に、ミネラルスピリットを加えて、深さの半分程度までをミネラルスピリットで満たした。そして、この容器2の中に上記篩いを入れて、上記篩いの網目をミネラルスピリットの液面に浸した。これにより、網目上に残存している試料が容器2内のミネラルスピリットに浸された。この状態で、篩いの網目を液面に対して斜めにしたり、液面から上下させたり、篩いを左右に動かしたりすることにより、篩い分けを行った。その後、容器2内のミネラルスピリットを取り出し、容器2内に新しいミネラルスピリットを加えて、再度上記の篩い分けの操作を行った。
【0078】
上記の操作を繰り返し、篩いの網目からミネラルスピリット内に篩い落とされる試料がなくなった段階、すなわち、篩いの網目を通過するフレーク状ステンレス顔料がなくなった段階で篩い分けを終了した。なお、篩いの網目を通過するフレーク状ステンレス顔料の有無は、目視により確認した。
【0079】
そして、網目上に試料が残留した篩いを105±2℃に保った乾燥機中に載置して乾燥し、その後放冷を行った。最後に、網目上の乾燥したフレーク状ステンレス顔料を回収して、下記式(4)に従って、ペースト中のフレーク状ステンレス顔料における目開き38μmの篩いの通過率(重量%)を算出した。なお、篩い分けを行う前のフレーク状ステンレス顔料の重量は、ペースト10gを105±2℃に保った乾燥機中に載置して乾燥し、その後放冷を行って得られたフレーク状ステンレス顔料の重量とした。その結果を表2に示す。
【0080】
通過率(重量%)={(S1−S2)/S1}×100・・・(4)
(式(4)中、S1は湿式篩いによる篩い分けを行う前のフレーク状ステンレス顔料の重量を示し、S2は該篩い分けを行った後に篩いに残留したフレーク状ステンレス顔料の重量を示す)。
【0081】
【表2】
【0082】
表2から明らかなように、実施例1〜
6においては、D
90が
36.0μm以下であり、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%以上のフレーク状ステンレス顔料が得られていることが分かった。また、特に、目開き38μmの篩いを用いて篩い分けを行うことにより、D
90が
36.0μm以下であり、目開き38μmの篩いの通過率が99重量%以上のフレーク状ステンレス顔料を製造できることが分かった。
【0083】
<耐食性1>
実施例5および比較例1の各ペーストを用いて、次の方法により塗膜を形成し、その耐食性を確認した。
【0084】
まず、樹脂組成物として、樹脂固形分量(硬化剤を含む)100重量部に対するペーストの含有量が80重量部となるように、エポキシ樹脂とペーストとを混合して塗料を調製した。次に、この塗料の粘度がスプレー塗装に最適な粘度となるまで、溶剤を用いて塗料を希釈した。なお、用いた溶剤はケトン系溶剤であり、溶剤の最終的な添加量は塗料100重量部に対して20〜50重量部程度であった。次に、これをリン酸亜鉛処理鋼板(ポンデライト処理#144)に200℃で20分間焼付乾燥させることにより、該鋼板上に厚さ15±5μmの塗膜を形成した。次に、この塗膜の中心部分をカッターを用いて引っ掻くことにより、塗膜にX形状の亀裂を形成した。そして、この塗膜に対して塩水噴霧試験(JIS Z 2371:2000に基づく)を250時間行い、その変化を確認した。
【0085】
その結果を
図1〜
図4に示す。
図1および
図2は、実施例5のペーストを配合した塗料により形成された塗膜における亀裂の250時間後の状態を示す図である。
図3および
図4は、比較例1のペーストを配合した塗料により形成された塗膜における亀裂の250時間後の状態を示す図である。
【0086】
図1〜
図4から明らかなように、実施例5のペーストを配合した塗料により形成された塗膜が形成された板上は、比較例1のペーストを配合した塗料により形成された塗膜が形成された板上よりも錆びが少ないことが分かった。なお、
図1〜
図4において、X形状の亀裂上およびその周囲に観察される黒い部分が錆びに相当する。このことから、実施例5のペーストを配合した塗料により形成された塗膜が、高い耐食性を有することが確認された。
【0087】
<耐食性2>
実施例1〜4および6、ならびに比較例1の各ペーストを用いて、<耐食性1>と同様の方法により塗膜を作製し、該塗膜にX形状の亀裂を形成した。そして、この塗膜に対して塩水噴霧試験(JIS Z 2371:2000に基づく)を3000時間行い、その変化を確認した。
【0088】
【表3】
【0089】
その結果を表3に示す。表3において、「錆び無し」とは錆びが目視されたなかったことを意味する。「わずかに点錆び有り」とは、X形状の亀裂上およびその周囲にわずかに錆びが点状に目視されたことを意味する。「点錆び有り」とは、X形状の亀裂上およびその周囲の全体に錆びが点状に目視されたことを意味する。「全面に錆び有り」とは、X形状の亀裂上およびその周囲の全体に錆びが連続して連なった状態で目視されたことを意味する。
【0090】
表3から明らかなように、
実施例1〜4および6のペーストを配合した塗料により形成された塗膜は、3000時間の塩水噴霧試験後においても錆びが発生しない、または発生しても点状に発生するのみであった。特に、フレーク状ステンレス顔料の平均アスペクト比が10〜100の範囲にある
実施例1および6の各ペーストを配合した塗料に関しては、錆びの発生は認められなかった。一方で、比較例1のペーストを配合した塗料は、全面に錆びが発生していた。このことから、本発明のフレーク状ステンレス顔料を含むペーストを配合した塗料により形成された塗膜が、高い耐食性を有することが確認された。
【0091】
<表面粗さ>
実施例1〜6および比較例1の各ペーストを用いて、次の方法により塗膜を形成し、その表面粗さを確認した。
【0092】
まず、ペーストと樹脂溶液(商品名:「ニッペアクリルオートクリヤースーパー」、日本ペイント社製)とを、固形分量が6重量部となるように混練して30gの塗料を調製した。なお、固形分量はペースト内に含まれるフレーク状ステンレス顔料の分量に相当する。次に、この塗料を9Milsドクターブレードアプリケータを用いてガラス板上に塗布し、自然乾燥させることによって、ガラス板上に塗膜を形成した。なお、形成された塗膜の厚さは25μmであった。
【0093】
そして、走査型共焦点レーザ顕微鏡(製品名:「OLS1200」、オリンパス社製)を用いて塗膜の表面を測定し、アプリケーションソフトによる表面粗さ解析を行い、算術平均表面粗さ(Ra)を算出した。その結果を表4に示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4から明らかなように、実施例1〜6において、塗膜の表面粗さ(Ra)は4以下であるのに対し、比較例1において、塗膜の表面粗さ(Ra)は7.4と大きな値となった。このことから、実施例1〜6において、比較例1と比して、塗膜の表面におけるフレーク状ステンレス顔料の飛び出しが少ないことが確認され、実施例1〜6における塗膜の耐摩耗性および摺動性は比較例1に比して高いことが理解された。
【0096】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0097】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。