特許第6690962号(P6690962)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6690962
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】駅電気設備への供給電力調整システム
(51)【国際特許分類】
   H02J 3/14 20060101AFI20200421BHJP
   H02J 13/00 20060101ALI20200421BHJP
   H02J 5/00 20160101ALI20200421BHJP
   B60M 3/02 20060101ALI20200421BHJP
   B60M 3/06 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   H02J3/14
   H02J13/00 311T
   H02J5/00
   B60M3/02 D
   B60M3/06 D
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-31269(P2016-31269)
(22)【出願日】2016年2月22日
(65)【公開番号】特開2017-153191(P2017-153191A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林屋 均
(72)【発明者】
【氏名】飯野 友記
(72)【発明者】
【氏名】中島 良
(72)【発明者】
【氏名】森田 祐一
(72)【発明者】
【氏名】小野田 裕一
(72)【発明者】
【氏名】須▲崎▼ 哲哉
【審査官】 高野 誠治
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−251437(JP,A)
【文献】 特開2015−039956(JP,A)
【文献】 特開2016−59092(JP,A)
【文献】 特開2014−40127(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 3/14
B60M 3/02
B60M 3/06
H02J 5/00
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの変電所間に配設され前記2つの変電所からそれぞれ直流電力の供給を受けるき電線と並行して配設され、前記2つの変電所のうち一方の変電所から交流電力の供給を受けて複数の駅舎に電力を供給する配電線路を備え、前記配電線路を介して前記複数の駅舎の電気設備に供給される交流電力を調整する駅電気設備への供給電力調整システムであって、
前記2つの変電所のうち他方の変電所から前記き電線に供給される直流電力を交流電力に変換して前記配電線路の終端側へ供給可能な電源融通装置と、
前記複数の駅舎のうち前記配電線路の前記一方の変電所から最も遠い側の電圧値を検出する終端交流電圧検出手段と、
前記配電線路に交流電力が供給されている状態で前記終端交流電圧検出手段により検出された終端交流電圧に基づいて該電圧が所定の電圧値以下となった否か判断する電圧降下判定機能と、該電圧降下判定機能が電圧降下と判定した場合に前記電源融通装置を、所定時間だけ一時的に動作させる電力融通機能と、前記電源融通装置の動作を開始させた後前記複数の駅舎のいずれかの電気設備に供給される交流電力を減少させる電力削減機能と、前記電力削減機能により交流電力の削減を行なっても前記配電線路の終端交流電圧が前記所定の電圧値以上に回復しない場合に前記電力融通機能による前記電源融通装置の一時的な動作と前記電力削減機能による交流電力の削減を繰り返す機能と、を備えた協調制御装置と、
を有することを特徴とする駅電気設備への供給電力調整システム。
【請求項2】
前記協調制御装置は、複数のモードのうち指定されたいずれかのモードで動作可能に構成され、前記複数のモードには、少なくとも、
前記複数の駅舎の電気設備のうち前記電圧降下の回避への貢献度の高い電気設備に供給される交流電力を優先的に減少させるモードと、
前記複数の駅舎の電気設備のうち予め設定された所定のエリアに配置されている電気設備に供給される交流電力を優先的に減少させるモードと、
が含まれることを特徴とする請求項1に記載の駅電気設備への供給電力調整システム。
【請求項3】
記複数のモードのそれぞれに対応して前記協調制御装置が制御対象とする前記複数の駅舎のいずれかの電気設備の電力供給度合いを段階的に示すテーブルデータが記憶装置に記憶され
前記協調制御装置は、設定されたモードに対応した前記テーブルデータを参照して、前記複数の駅舎のいずれかの電気設備に供給される交流電力を順次減少させることを特徴とする請求項2に記載の駅電気設備への供給電力調整システム。
【請求項4】
前記電源融通装置は、前記き電線に供給される直流電力を受けて前記2つの変電所間を走行する電気車により回生された余剰電力を交流電力に変換して前記配電線路の終端側の駅舎電気設備へ供給可能な余剰電力変換装置であり、
前記協調制御装置は、前記電圧降下判定機能が電圧降下と判定した場合に前記余剰電力変換装置を一時的に動作させるための制御信号を生成し出力可能に構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の駅電気設備への供給電力調整システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、交流系統から供給される交流電力と直流き電系統の電力から変換された交流電力を補助的に利用して駅構内の空調装置や照明装置、昇降機等の駅電気設備への供給電力調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道会社の駅舎に対して必要な電力を供給する従来の受配電設備は、変電所もしくは電力会社から供給される交流電力を利用するものが一般的である。一方、鉄道では、直流き電系統において、電気車の回生ブレーキによって発生した回生電力を、き電線を介して他の電気車の力行電力として利用することが行われている。
また、直流き電系の直流を交流に変換するインバータを設けて、所定値以上の回生電力が発生した際にインバータを動作させて駅舎の電力供給系にインバータで変換した電力を供給可能にすることで、電気車の余剰回生電力を有効活用することができるようにした駅舎電源装置に関する発明が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
さらに、変電区間内の余剰回生電力を貯蔵する蓄電部と、蓄電部から供給される直流電力を駅設備に供給する交流電力に変換する電力変換部とを設け、余剰回生電力を一旦蓄電部に蓄積して、蓄電部充電量が所定の閾値を上回った場合に電力変換部を制御して蓄電部から駅設備へ電力を供給するようにした駅舎電源装置に関する発明も提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−107766号公報
【特許文献2】特開2014−40127号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年、駅設備の拡張や駅構内店舗、融雪設備等の拡大に伴って各駅舎で消費する電力が増加する傾向があり、既存の駅舎への電力供給系では要求される電力をまかなうことが困難になることがある。また、駅舎への電力供給に用いる配電線路は、列車運転用電力を供給する直流変電所に設けられた配電用変圧器から鉄道線路沿線へ敷設されていることが多く、電力会社による一般的な面状の配電線路とは異なり線状であるため、供給する電力が増加すると配電線路の電圧が低下して負荷(駅電気設備)の動作不良を発生させるおそれがある。
かかる課題を解決するために、特許文献1や特許文献2の発明に係る駅舎電源装置を利用して、電圧の低下を抑制する対策も考えられるが、特許文献1や特許文献2の駅舎電源装置は、電気車の余剰回生電力を有効活用することに向けて開発されたもので、要求される電力を長時間に亘って安定して駅設備に供給することは困難である。そのため、使用電力が許容値を超える場合には、配電線路等、インフラの増強が必要となる。
【0006】
しかしながら、駅舎の電力供給系においては、1系統の直線状の配電線路に、お互いの距離が離れている複数の駅舎の設備が接続されているので、系全体を監視して一部設備への電源供給を減少させる制御をする必要がある。しかし、配電線路には多数の負荷があるため、制御が複雑になるとともに、使用電力が急に増加したような場合には一部設備への給電停止制御が間に合わなくなって、配電線路の電圧低下を回避できないおそれがあることが明らかとなった。また、調光制御可能なLED照明や、温度調整可能な空調設備の出力を制御するにしても、急峻な調光制御は利用者の不快感に繋がり、空調については制御指令を受けても、即座に電力量の減少を実施することができないこともあるので、制御の開始から完了までにある程度時間を要する。そのため、その間に配電線路の電圧が低下して負荷の動作不良に至ってしまうのを回避できないこともある。
なお、電力需要を予測して協調制御を行うことも考えられるが、複数の駅舎に電力を供給する配電線路の電圧低下を確実に回避するには、複雑な予測アルゴリズムや高度な監視制御システムが必要となる。
【0007】
また、特許文献2の発明に係る駅舎電源装置のように余剰回生電力を蓄積する蓄電部を設けたり、配電線の太径化による電気抵抗の低減や、SVR(自動電圧調整装置)を設置する対策も考えられるが、これらの対策はいずれもハードウェアの価格や設置コストが高いため大幅なコストアップを招くという課題がある。しかも、これらの対策は、電圧降下抑制という要求は満たすが、ピークカット等は期待できず、インフラ設備の低減にはつながらない。
本発明はこのような課題を解決するためになされたもので、大幅なコストアップを招くことなくかつ利用者に違和感を与えずに、配電線路の電圧低下を回避することができる駅電気設備への供給電力調整システムを提供することを目的とするものである。
本発明の他の目的は、複雑な予測アルゴリズムを用いることなく配電線路の電圧低下を確実に回避することができる駅電気設備への供給電力調整システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため本発明は、
2つの変電所間に配設され前記2つの変電所からそれぞれ直流電力の供給を受けるき電線と並行して配設され、前記2つの変電所のうち一方の変電所から交流電力の供給を受けて複数の駅舎に電力を供給する配電線路を備え、前記配電線路を介して前記複数の駅舎の電気設備に供給される交流電力を調整する駅電気設備への供給電力調整システムにおいて、
前記2つの変電所のうち他方の変電所から前記き電線に供給される直流電力を交流電力に変換して前記配電線路の終端側へ供給可能な電源融通装置と、
前記複数の駅舎のうち前記配電線路の前記一方の変電所から最も遠い側の電圧値を検出する終端交流電圧検出手段と、
前記配電線路に交流電力が供給されている状態で前記終端交流電圧検出手段により検出された終端交流電圧に基づいて該電圧が所定の電圧値以下となった否か判断する電圧降下判定機能と、該電圧降下判定機能が電圧降下と判定した場合に前記電源融通装置を、所定時間だけ一時的に動作させる電力融通機能と、前記電源融通装置の動作を開始させた後前記複数の駅舎のいずれかの電気設備に供給される交流電力を減少させる電力削減機能と、前記電力削減機能により交流電力の削減を行なっても前記配電線路の終端交流電圧が前記所定の電圧値以上に回復しない場合に前記電力融通機能による前記電源融通装置の一時的な動作と前記電力削減機能による交流電力の削減を繰り返す機能と、を備えた協調制御装置と、を設けるようにしたものである。
【0009】
上記した手段によれば、配電線路の終端側の電圧が低下した場合に、電源融通装置を一時的に動作させ、その間に複数の駅舎のいずれかの電気設備に供給される交流電力を減少させるため、電源融通装置として、電力供給能力が小さくても良い小型のものを使用できるので、大幅なコストアップを招くことなく配電線路の電圧低下を回避することができる。また、電源融通装置を動作させるのは一時的であり、かつ電源融通装置を変電所近傍の駅等に設けるので、配電線路末端の電圧の低下を救済することができるとともに、き電線の電力供給系に与える影響を最小限にすることができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記協調制御装置は、前記電力削減機能において、
前記協調制御装置が制御対象とする前記複数の駅舎のいずれかの電気設備の電力供給度合いを段階的に示す所定のテーブルデータを参照して、前記複数の駅舎のいずれかの電気設備に供給される交流電力を順次減少させるようにする。
かかる構成によれば、協調制御装置はテーブルデータを参照して供給する交流電力を減少させればよいので、複雑な予測アルゴリズムを用いることなく配電線路の電圧低下を確実に回避することができる。そのため、システムの開発期間を短縮することができるとともに、高機能の制御装置を使用する必要がないのでコストが大幅にアップするのを回避することができる。
【0011】
また、望ましくは、前記協調制御装置は、複数のモードのうち指定されたいずれかのモードで動作可能に構成され、前記複数のモードには、少なくとも、
前記複数の駅舎の電気設備のうち前記電圧降下の回避への貢献度の高い電気設備に供給される交流電力を優先的に減少させるモードと、
前記複数の駅舎の電気設備のうち予め設定された所定のエリアに配置されている電気設備に供給される交流電力を優先的に減少させるモードと、
が含まれ、前記複数のモードのそれぞれに対応したテーブルデータが記憶装置に記憶されているようにする。
【0012】
かかる構成によれば、協調制御装置は、電圧降下への貢献度の高い電気設備への電力削減を優先的に実行するモードと、エリアを優先して電力削減を実行するモードとを備え、予め設定されたいずれかモードを実行するため、適用する電力供給システムの構成等に応じた電力削減モードを選択して実行させることができ、適切に配電線路の電圧低下を回避することができる。
【0013】
さらに、望ましくは、前記電源融通装置は、前記き電線に供給される直流電力を受けて前記2つの変電所間を走行する電気車により回生された余剰電力を交流電力に変換して前記配電線路の終端側の駅舎電気設備へ供給可能な余剰電力変換装置であり、
前記協調制御装置は、前記電圧降下判定機能が電圧降下と判定した場合に前記余剰電力変換装置を一時的に動作させるための制御信号を生成し出力可能に構成する。
これにより、電源融通装置として既に設置されている余剰電力変換装置を利用することができるため、より低コストで配電線路の電圧低下を回避する駅舎供給電力調整システムを構築することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、大幅なコストアップを招くことなく配電線路の電圧低下を回避できる駅電気設備への供給電力調整システムを実現することができる。また、複雑な予測アルゴリズムを用いることなく、配電線路の電圧低下を確実に回避できる駅電気設備への供給電力調整システムを実現することができる。しかも、利用者に違和感や不快感を与えることなく、他の電圧降下対策では実現できないピークカット効果を実現することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る駅電気設備への供給電力調整システムを適用した電力供給システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
図2】実施形態に係る駅電気設備への供給電力調整システムを利用して好適な電力供給システムにおけるき電線および配電線路の距離と電圧との関係を示す電圧分布説明図である。
図3】実施形態に係る駅電気設備への供給電力調整システムを構成する制御装置における協調制御の手順の一例を示すフローチャートである。
図4】協調制御における各駅のエリア別電力抑制パターンの一例を示す制御テーブルである。
図5】実施形態に係る駅電気設備への供給電力調整システムを構成する電源融通装置の具体例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る駅電気設備への供給電力調整システムの実施形態について説明する。図1は、本発明に係る駅電気設備への供給電力調整システムを適用した電力供給システムの一実施形態を示すシステム構成図である。
なお、電車線には直流き電方式と交流き電方式とがあるが、図1に示すものは直流き電方式の電車線である。また、図1には、2つの変電区間のき電線および配電線路を取り出して示しているが、他の変電区間も図1と同様に構成される。
【0017】
図1に示すように、1つの変電区間には、直流電力(例えばDC1500V系)が供給されるき電線10と、変電区間にある駅舎(駅設備)20A,20B……20Cに対して交流電力(例えばAC6600V系)を供給する配電線路30が設けられている。このうち、き電線10には変電区間の両端に位置する変電所40A,40Bからそれぞれ直流電力が供給され、配電線路30には一方の変電所(例えば変電所40A)から交流電力が供給される。ここで、配電線路30の変電所40A側の端部を始端と呼ぶと、配電線路30の終端側には遮断器50が設けられており、通常はこの遮断器50は遮断状態にされる。
【0018】
配電線路30の始端側にも遮断器が設けられるが、図示を省略している。配電線路30の終端側の遮断器50が導通状態にされる際には、配電線路30の始端側の遮断器は遮断状態にされる。2つの変電所から送出される交流電力は位相が異なる場合があるため、1つの配電線路30に両端の変電所から同時に交流電力を供給すると混触事故が発生するおそれがあるので、これを回避するために、配電線路30の両端の遮断器の一方が導通状態にされる際には、必ず他方の端部の遮断器は遮断状態にされる。
【0019】
図1には示されていないが、駅舎20A,20B……20Cには、配電線路30から供給された高圧の交流電力(AC6600V系)を低圧の交流電力(例えばAC210V系)に変換する変圧器が駅電気室等に設置され、駅構内の空調装置や照明装置、昇降機等の各電気設備に電力が供給されるようになっている。
本実施形態の電力供給システムにおいては、遮断器50側の変電所40Bからき電線10に供給される直流電力の一部を交流電力に変換して駅舎20Aに供給可能なインバータなどからなる電源融通装置60が設けられている。
【0020】
また、配電線路30の終端部である駅舎20Aの電力入力点(図1のノードNa)の電圧を検出する電圧計70と、該電圧計70からの検出信号を受けて配電線路30の電圧状態を監視し、各駅舎20A,20B,20Cに対して、駅舎内の電気設備への電力の供給/遮断を制御する信号を生成して出力する協調制御装置80が設けられている。なお、配電線路30の終端部である駅舎20Aの電力入力点(図1のノードNa)の電圧を検出する電圧計70の他に、駅舎20B,20Cの電力入力点(図1のノードNb,Nc)の電圧を検出する電圧計や電流計を設け、これらの電圧、電流も監視するように構成しても良い。
【0021】
ここで、上記協調制御装置80は、一般的な制御装置と同様な構成を有する装置、例えばマイクロプロセッサおよび該マイクロプロセッサが実行するプログラムや参照テーブルなどの固定データを格納した記憶装置、マイクロプロセッサに対する指令等を入力可能な入力操作装置、液晶表示パネルやランプなどの出力装置を備えたコンピュータ装置を使用して構成することができるので、詳しい説明は省略する。各電圧計や電流計からの検出信号は、これらの計器と協調制御装置80との間に配設した信号線(ケーブル)を介して送信しても良いし、公知の情報通信網等を利用して送信してもよい。
【0022】
また、上記電源融通装置60は一時的に交流電力を供給可能な能力があればよく、例えば2つの変電所間を走行する電気車が消費しきれなかった余剰回生電力を交流電力に変換して駅舎に供給する機能を有する電源装置と兼用するように構成することができる。
ここで、本実施形態における協調制御装置80による電力制御の基本的な考え方について、簡単に説明しておく。本実施形態の電力供給システムは、図1に示すように、2つの変電区間のき電線10に対しては変電区間の両端に位置する変電所40A,40Bから同時に直流電力DC1500Vを供給し、配電線路30には一方の変電所40Aから交流電力AC6600Vを供給するように構成されている。
【0023】
そのため、き電線10の電圧分布は、図2(A)に示すように、変電所40A,40Bに近い区間き電線の両端の電圧が高く中間点の電圧が最も低くなるのに対し、配電線路30の電圧分布は、図2(B)に示すように、変電所40Aに近い区間配電線路の始端の電圧が最も高く終端の電圧が最も低くなるという特徴を有している。なお、このような配電線路30の電圧分布の特徴は、電力会社が有する面状の送電網からなる電力系にはなく、き電線と配線線路が並行して存在する鉄道会社の供給電力系に特有のものである。
【0024】
本実施形態における協調制御装置80による電力制御は、上記のような配電線路30の電圧分布の特徴に着目したもので、配電線路30の終端の電圧を監視して、終端電圧が予め設定した許容値を下回ったら、制御対象の駅電気設備へ電源融通装置60による給電制御を開始する。これとともに、電力削減制御を開始しても直ちに終端電圧が許容値以上に回復するものではないので、電力削減制御の開始直前に電源融通装置60を動作させて、図2(B)に破線Tで示すように、変電所40Bに近い区間配電線路の終端電圧を一時的に持ち上げ、その間に電力削減制御を完了させるというものである。
【0025】
また、協調制御装置80による電力制御も、複雑な予測アルゴリズムを使用することなく所望の電力削減制御を達成するため、消費電力の削減への寄与度の高い駅電気設備に対して供給する電力を優先的に減らす設備優先モードと、利用客が往来するエリアよりも駅社員が活動するエリアの電気設備に対して供給する電力を優先的に減らすエリア優先モードとを設けて、いずれかのモードで制御するようにしている。設備優先モードを設けることで、速やかに電圧低下を回避することができる。また、エリア優先モードを設けることで、電力削減制御実行時に利用客に与える不快感を回避もしくは低減することができる。
【0026】
なお、2つのモードのいずれで動作するかは、協調制御装置80が備える入力操作装置を使用して、例えば制御対象の電力供給システムの特性等に応じていずかのモードを選択することで予め設定できるように構成されている。
さらに、本実施形態では、上記モードによる制御は、制御対象機器と電力供給度合いを段階的に示す所定のテーブルデータをモードごとに作成して記憶装置に記憶しておいて、選択されたモードに対応したテーブルデータに従って実行するようにしている。
【0027】
図3(1),(2)には、上記設備優先モードに対応したテーブルデータとエリア優先モードに対応したテーブルデータの一例が示されている。
図3(1)のテーブルデータでは、空調装置の消費電力の方が照明装置の消費電力よりも大きいものとして扱っている。消費電力の大小関係が逆の場合には、空調装置よりも照明装置を優先して電力削減するように制御してもよい。また、図3(1)のテーブルデータにおける「昇降機」はエスカレータやエレベータを意味しており、電力削減制御では、稼働する台数を順次減らすようになっている。なお、図3(1)のテーブルデータはA駅〜C駅に共通のものである。
【0028】
図3(2)において、「バックヤード」とは駅社員が活動するエリアの電気設備を意味し、「コンコース」とは利用客が往来するエリアの電気設備を意味している。図3(1)および(2)では、優先度の高い方の設備の電力を徐々に段階的に50%まで削減したら、他の設備の電力の削減を開始するようにしているが、削減対象設備の追加ラインは50%に限定されず、60%や40%等任意の値に決めることができる。駅によって追加ラインを異ならせるようにしても良い。
【0029】
また、空調装置や照明装置がそれぞれ複数の機器で構成されている場合、電力を段階的に削減する代わりに、昇降機と同様に、稼働機器の台数を減らすつまり電力供給を遮断して非稼働にする機器の台数を順次増やすように制御しても良い。さらに、電力削減制御対象の昇降機がエスカレータの場合には、上昇用よりも降下用を優先的に停止させることも考えられる。
なお、上記テーブルデータに従った電力削減制御の例では、A駅〜C駅のすべての駅舎の同等の電気設備に対して共通の制御を行うことを前提としているが、配電線路の電気抵抗による損失を考慮すると、配電線路の終端側の電気設備の電力を削減する方が電圧降下を回避する上では効果が大きいので、A駅→B駅→C駅の順で電力削減制御を行うようしても良い。
【0030】
次に、協調制御装置80による具体的な電力削減制御の手順の一例について、図4のフローチャートを用いて説明する。
この制御が開始されると、協調制御装置80は、先ず配電線路30の終端側に設けられている電圧計70の電圧値を読み込み(ステップS1)、終端側の電圧値が所定の許容値よりも下がっているか否か判定する(ステップS2)。ここで、終端側の電圧値が許容値よりも下がっていない(No)と判定するとステップS1へ戻り、電圧値が許容値よりも下がっている(ステップS2:Yes)と判定するとステップS3へ進む。
【0031】
ステップS3では、電源融通装置60を一時的に動作させる制御信号を生成して送信する。電源融通装置60を一時的に動作させる時間は、出力電圧や使用する装置の能力にもよるが、数100kW、数10秒程度で構わない。続いて、設定されているモードが設備優先モードであるかエリア優先モードであるか判定する(ステップS4)。そして、設備優先モードである場合にはステップS5へ進んで対応するテーブル(図3(1))のデータを読み込み、エリア優先モードである場合にはステップS6へ進んで対応するテーブル(図3(2))のデータを読み込む。
その後、ステップS7へ進んで、ステップS5またはS6で読み込んだテーブルデータに基づいて、制御レベルに応じて制御対象の機器(電気設備)と制御量(電力削減量)を決定し、制御対象の駅舎へ制御コマンドを送信する(ステップS8)。そして、所定時間経過するのを待ってステップS1へ戻る(ステップS9)。
【0032】
上記ステップS7での制御レベルは、1回目の制御コマンド送信で制御が実行されてからステップS1へ戻って、再びステップS2で電圧値が許容値よりも下がっていると判定してステップS7へ来た際に1段階上げるようにすることができる。ステップS1で読み込んだ電圧値と許容値との差を算出して、その差の大きさに応じて制御レベルを決定するようにしても良い。また、ステップS9の後、各駅舎20A〜20Cの電力入力点(図1のノードNa,Nb,Nc)の電流を検出する電流計の測定値に基づいて電圧降下を計算し、制御を止めても問題ないと判断したら電力削減制御を停止し、問題があると判断した場合にはステップS1へ戻って上記処理を繰り返すようにしても良い。
【0033】
協調制御装置80が上記のような制御を行うことにより、配電線路30の終端側の電圧が許容値よりも下がると電源融通装置60が一時的に動作して、駅舎20Aへ交流電力を融通するため、配電線路30の終端側の電圧が持ち上げられるとともに、各駅舎に対して電力を削減するコマンドが送信されて、電源融通装置60が動作している間に電力を削減する処理が実行される。そのため、電源融通装置60の動作が終了した後の配電線路30の終端側の電圧は、制御前よりも高くなる。その結果、上記動作を繰り返すことで、配電線路30の終端側の電圧が許容値以下に下がるのを回避することができる。また、電源融通装置を動作させるのは一時的であるので、き電線の電力供給系に与える影響を最小限にすることができる。
【0034】
(変形例)
次に、上記実施形態の変形例について説明する。この変形例は、電源融通装置60として、前記き電線に供給される直流電力を受けて近隣の変電所間を走行する電気車により回生された余剰電力を交流電力に変換して前記配電線路へ供給するために設けられた余剰電力変換装置を利用するようにしたものである。それ以外は、上記実施形態と同じである。
図5には、余剰電力変換装置(60)の構成例が示されている。
【0035】
図5の余剰電力変換装置(60)は、変電区間内のき電線10から供給される直流電力(ここでは、DC1500V系)を交流電力(ここでは、AC210V系)に変換する電力変換手段としてのインバータ61と、このインバータ61を制御する制御部62と、変電区間の両端部に位置する各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBに基づいてインバータ61による電力変換動作を開始させるための回生開始電圧閾値Vsetを設定する回生開始電圧設定部63と、当該余剰電力変換装置(60)への印加電圧Vinが上記回生開始電圧閾値Vsetを上回った場合に、上記制御部62に対して電力供給開始信号STを出力する電力供給開始判定部64とを備えている。上記のような構成を有する余剰電力変換装置によれば、電気車の余剰回生電力を有効活用することができる。
【0036】
なお、電力変換手段としてのインバータ61は公知の構成のものを使用できるので、このインバータ61の詳しい回路構成や動作については説明を省略する。 また、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBを入手する手段については、例えば、公知の情報通信網等を利用すればよい。
また、上記余剰電力変換装置に関しては、三菱電機株式会社が特開2015−107766号公報の発明を適用して、計測しているき電電圧上昇に伴いき電側で余剰回生電力が生じていると判断し、配電側へ電力融通する装置として駅舎補助電源装置(S-EIV:登録商標)を製品として製造販売しているが、このような装置を使用せずに、例えば鉄道車両用補助電源装置として用いられている、入力:直流1500V、出力:交流210V、連続定格出力で数十kW/短時間定格出力で数百kW程度の静止形インバータ(SIV:Static Inverter)を使用することができ、このような小規模のインバータでも本発明の用途においては十分な効能を得ることができる。
【0037】
ここで、上記余剰電力変換装置(60)の動作について説明する。
変電区間内を走行する電気車100の回生ブレーキによって発生した回生電力は、き電線10を介して変電区間内を走行する他の電気車の力行電力として利用されるが、同一の変電区間内において、回生電力が力行電力を上回った場合には、き電電圧が上昇し、回生電力が力行電力を下回った場合には、き電電圧が低下する。また、変電所の受電電圧の変動によって送り出し電圧が変動する。
【0038】
変電所側では、タップ切り替え等により送り出し電圧を制御し、例えば1650V程度を上限としたき電電圧の変動抑制制御を行うことも考えられる。この場合、き電電圧に一定の電圧閾値を設けた判定手法では、余剰回生電力が発生したか否かを確実に判定することができず、電気車の余剰回生電力を有効活用することができない。
一方、変電区間を走行する電気車100が力行している場合には、電気車が負荷となり、電気車100の受電点の電圧Vdは、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBよりも低下する。また、変電区間を走行する電気車100が回生を行なっている場合には、この電気車100の受電点Vdの電圧は、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBよりも上昇する。つまり、同一の変電区間内において回生電力が力行電力を上回った場合には、図5に示す余剰電力変換装置(60)への印加電圧Vinは、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBよりも大きくなる。
【0039】
そこで、図5の余剰電力変換装置(60)では、インバータ61を動作させ駅舎20Aに電力供給を開始する電圧閾値を、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBに応じて変動させるようにしている。
具体的には、回生開始電圧設定部63は、インバータ61を動作させ駅舎に電力供給を開始する電圧閾値として、変電区間の両端に位置する各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBよりも大きい回生開始電圧閾値Vsetを設定し、電力供給開始判定部64は、余剰電力変換装置(60)への印加電圧Vinが回生開始電圧閾値Vsetを上回った場合に、制御部62に対して電力供給開始信号STを出力する。これにより、各変電所40A,40Bの送り出し電圧VssA,VssBの変動に依らず、電気車の余剰回生電力を有効活用することができる。
【0040】
さらに、図5の余剰電力変換装置では、電力供給開始判定部64と制御部62との間に、電力供給開始判定部64から制御部62に対して供給される電力供給開始信号STと図1の協調制御装置80から供給される一時動作指令信号RQとの論理和をとるORゲート65が設けられており、電力供給開始判定部64が変電所間を走行する電気車100が余剰回生電力を発生していないと判断している期間であっても、協調制御装置80からの一時動作指令信号RQが入って来ると、制御部62がその信号に応じてインバータ61を動作させ、き電線10の直流電力を交流電力に変換して駅舎へ供給するように構成されている。このときの直流電力は変電所40Bから送出された電力であるが、余剰電力変換装置を動作させるのは一時的であるので、き電線の電力供給系に与える影響は限定的である。
上述したように、電気車の余剰回生電力を有効活用するために既に使用されている余剰電力変換装置を、本発明の実施形態における電源融通装置60として利用することで、大幅なコストアップを招くことなく、駅舎への電力供給システムにおいて協調制御による電力削減を実現することができる。
【0041】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、電源融通装置60を配電線路30の終端側の駅舎20Aに配設するようにしているが、電源融通装置60を配電線路30の始端側の駅舎20Cにも配設して、き電線10の直流電力から変換した交流電力を配電線路30の始端側の駅舎20Cへ供給可能に構成するようにしても良い。
また、前記実施形態では、電源融通装置60により直流電力から変換した交流電力を配電線路30の終端側の駅舎に供給しているが、電源融通装置60によって直流電力から変換した交流電力を、駅舎ではなく配電線路30の終端に直接供給するように電源融通装置および電力供給システムを構成することも可能である。
【符号の説明】
【0042】
10 き電線(直流系)
20A,20B,20C 駅舎(駅電気設備)
30 配電線路(交流系)
40A,40B 変電所
50 遮断器
60 電源融通装置
70 電圧計
80 協調制御装置
図1
図2
図3
図4
図5