(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層が、最外層を構成し、空孔を含み、上記絶縁層の最外に位置する空孔層と、上記空孔層の内側に位置し、空孔を含まない中実層とを有し、上記空孔層の空孔率が20体積%以上60体積%以下であり、上記絶縁層の外周面の算術平均粗さが1.4μm以上2.0μm以下である絶縁電線の製造方法であって、
樹脂を含有する第1樹脂組成物を導体上に塗布する第1塗布工程と、
上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、
上記第1加熱工程で形成された中実層上に、樹脂及び空孔形成剤を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、
上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程と
を備える絶縁電線の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[本発明の実施形態の説明]
本発明の一態様に係る絶縁電線は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記絶縁層が、最外層を構成し、空孔を含み、上記絶縁層の最外に位置する空孔層と、上記空孔層の内側に位置し、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線である。
【0013】
当該絶縁電線は、絶縁層の最外層として空孔を含み表面に凹凸が生じやすい空孔層を備えることで、巻回した際に絶縁層同士の接触面積が減少し、絶縁電線同士の摩擦抵抗を抑制することができる。そのため、当該絶縁電線は表面潤滑性に優れる。また、当該絶縁電線は、絶縁層が空孔を含まない中実層を備えるため、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、当該絶縁電線は、絶縁層が空孔層を備えることで、絶縁層に可撓性を付与することができる。このように、当該絶縁電線は、絶縁層がその最外に設けられた空孔層と、その内側に設けられた中実層とを備えることで、表面潤滑性、絶縁性及び可撓性に優れる。
【0014】
上記空孔層の空孔率としては、5体積%以上80体積%以下が好ましい。このように、空孔層の空孔率を上記範囲とすることで、絶縁層の表面潤滑性を向上させることができると共に、絶縁層の機械的強度を確保することができる。ここで、「空孔率」とは、空孔層の容積に対する空孔層に含まれる全ての空孔の合計体積の比率を意味し、百分率で表される。
【0015】
上記空孔の平均径としては、0.1μm以上30μm以下が好ましい。このように、空孔の平均径を上記範囲とすることで、絶縁層の表面潤滑性を向上させることができる。ここで、「空孔の平均径」とは、空孔層に含まれる全ての空孔について、空孔の容積に相当する真球の直径を平均した値を意味する。なお、絶縁層が複数の空孔層を有する場合、「空孔の平均径」とは、全ての空孔層に含まれる空孔について上記直径を平均した値を意味する。
【0016】
上記絶縁層の外周面の算術平均粗さとしては、1.0μm以上3.0μm以下が好ましい。このように絶縁層の外周面の算術平均粗さを上記範囲とすることで、表面潤滑性及び可撓性を向上させることができる。なお、算術平均粗さは、JIS−B−0601(2013年)に準拠し、評価長さ(l)を3000nm、カットオフ値(λc)を1000nmとして測定される値である。
【0017】
上記中実層の平均厚さに対する上記空孔層の平均厚さの比率としては、5%以上700%以下が好ましい。このように中実層の平均厚さに対する空孔層の平均厚さの比率を上記範囲とすることで、表面潤滑性、絶縁性及び可撓性を向上させることができる。
【0018】
本発明の別の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、導体と、この導体の外周面を被覆する絶縁層とを備え、上記絶縁層が、最外層を構成し、空孔を含み、上記絶縁層の最外に位置する空孔層と、上記空孔層の内側に位置し、空孔を含まない中実層とを有する絶縁電線の製造方法であって、樹脂を含有する第1樹脂組成物を導体上に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、上記第1加熱工程で形成された中実層上に、樹脂及び空孔形成剤を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程とを備える絶縁電線の製造方法である。
【0019】
当該絶縁電線の製造方法は、空孔を含み表面に凹凸が生じやすい空孔層を絶縁層の最外に形成する。そのため、巻回した際に絶縁層同士の接触面積が減少し、絶縁電線同士の摩擦抵抗を抑制できる絶縁電線が得られる。また、当該絶縁電線の製造方法は空孔を含まない中実層を上述の空孔層の内側に形成する。そのため、得られる絶縁電線の絶縁性の低下を抑制できる。結果として、当該絶縁電線の製造方法は、表面潤滑性に優れる絶縁電線を製造することができる。
【0020】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る絶縁電線及び絶縁電線の製造方法を説明する。
【0021】
[絶縁電線]
図1の当該絶縁電線は、導体1と、この導体1の外周面を被覆する絶縁層2とを備える。絶縁層2は、最外層を構成し、空孔5を含み、絶縁層2の最外に位置する空孔層3と、空孔層3の内側に位置し、空孔を含まない中実層4とを主に有する。
【0022】
<導体>
上記導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0023】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミ線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0024】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、10mm
2が好ましく、5mm
2がより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たない場合、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超える場合、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0025】
<絶縁層>
上記絶縁層2は、当該絶縁電線の最外層を構成し、絶縁層2の外側には他の層が積層されない。さらに、上記絶縁層2は、空孔5を含み、絶縁層2の最外に位置する空孔層3と、空孔層3の内側に位置し、空孔を含まない中実層4とを有する。
【0026】
絶縁層2の平均厚さの下限としては、30μmが好ましく、40μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、180μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たない場合、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0027】
絶縁層2の外周面の算術平均粗さの下限としては、1.0μmが好ましく、1.2μmがより好ましく、1.4μmがさらに好ましい。一方、上記算術平均粗さの上限としては、3.0μmが好ましく、2.5μmがより好ましく、2.0μmがさらに好ましい。上記算術平均粗さを上記範囲とすることで、表面潤滑性を向上させることができる。
【0028】
(空孔層)
上記空孔層3は、樹脂組成物と空孔5とから構成されている。
【0029】
空孔層3を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂や、例えばポリビニールホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂が使用できる。なお、絶縁層2の可撓性を維持し易い点で、空孔層3を形成する樹脂として熱硬化性樹脂よりも熱可塑性樹脂が好ましい。また、これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0030】
また、空孔層3を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する樹脂の種類に応じて、適宜選択される。例えばポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
【0031】
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネートなどが例示される。上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート、キシリレインジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート、これらの変性物などが例示される。上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネートなどが例示される。上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミンなどが例示される。
【0032】
また、空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂は、架橋していることが好ましい。空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、空孔層3の機械的強度が向上し、空孔5を含むことによる機械的強度の抑制作用を低減できるので、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、空孔層3を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐溶接性も向上させることができる。
【0033】
空孔層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、空孔層3の平均厚さの上限としては、180μmが好ましく、160μmがより好ましい。空孔層3の平均厚さが上記下限未満の場合、空孔層3の機械的強度を保つために相対的に空孔の平均径を低くせざるをえず、絶縁層同士の接触面積が増加し表面潤滑性が低下するおそれがある。逆に、空孔層3の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0034】
空孔層3の空孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましく、20体積%がさらに好ましい。一方、上記空孔層3の空孔率の上限としては、80体積%が好ましく、70体積%がより好ましく、60体積%がさらに好ましい。上記空孔層3の空孔率が上記下限未満の場合、表面潤滑性を十分向上できないおそれがある。逆に、上記空孔層3の空孔率が上記上限を超える場合、絶縁層2の絶縁性が低下するおそれがあり、さらに、空孔層3の機械的強度が低下し過ぎ、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0035】
空孔5の平均径の下限としては、0.1μmが好ましく、1μmがより好ましく、5μmがさらに好ましい。一方、上記空孔5の平均径の上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましく、15μmがさらに好ましい。空孔5の平均径が上記下限未満の場合、表面潤滑性を十分向上できないおそれがある。逆に、空孔5の平均径が上記上限を超える場合、絶縁層2の絶縁性が低下するおそれがあり、さらに、空孔層3内における空孔5の分布を均一にし難くなり誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0036】
(中実層)
上記中実層4は、空孔層3の内側に位置する。中実層4は、樹脂組成物から構成され、中実層4中には空孔は含まれてない。
【0037】
中実層4を形成する樹脂組成物の主成分の樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニルサルフォン、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン等の熱可塑性樹脂や、例えばポリビニールホルマール、熱硬化ポリウレタン、熱硬化アクリル、エポキシ、熱硬化ポリエステル、熱硬化ポリエステルイミド、熱硬化ポリエステルアミドイミド、芳香族ポリアミド、熱硬化ポリアミドイミド、熱硬化ポリイミド等の熱硬化性樹脂が使用できる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、誘電率が低く絶縁層2の誘電率を低下させ易い点で、ポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0038】
また、中実層4を形成する樹脂組成物に、上記樹脂と共に硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、上述した空孔層3を形成する樹脂組成物に含有する硬化剤と同種のものが挙げられる。
【0039】
また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂は架橋していることが好ましい。中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、中実層4の機械的強度が向上し、絶縁層2の機械的強度が維持し易くなる。また、中実層4を形成する樹脂組成物中の樹脂を架橋させることにより、耐薬品性及び耐溶接性も向上させることができる。
【0040】
また、中実層4の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、中実層4の平均厚さの上限としては、180μmが好ましく、160μmがより好ましい。中実層4の平均厚さが上記下限未満の場合、絶縁層2の絶縁性を十分向上できないおそれがある。逆に、中実層4の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0041】
また、中実層4の平均厚さに対する空孔層3の平均厚さの比率の下限としては、5%が好ましく、10%がより好ましく、20%がさらに好ましい。一方、上記比率の上限としては、700%が好ましく、650%がより好ましく、600%がさらに好ましい。上記比率が上記下限未満であると、絶縁層2の表面潤滑性が低下するおそれがある。逆に、上記比率が上記上限を超えると、空孔層3の機械的強度が低下し過ぎ、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0042】
[絶縁電線の第1の製造方法]
次に、
図1に示す当該絶縁電線の第1の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、樹脂を含有する第1樹脂組成物を導体1上に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された第1層を加熱する第1加熱工程と、上記第1加熱工程で形成された中実層4上に、樹脂及び空孔形成剤を含有する第2樹脂組成物を塗布する第2塗布工程と、上記第2塗布工程で形成された第2層を加熱する第2加熱工程とを備える。
【0043】
<第1塗布工程>
第1塗布工程では、中実層4を形成する樹脂を溶剤で希釈して第1樹脂組成物(以下、「中実層用ワニス」ともいう。)を調製する。その後、この中実層用ワニスを導体1上に塗布することで、第1層を形成する。
【0044】
希釈用溶剤としては、従来より絶縁ワニスに用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類などが挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0045】
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、48質量%がより好ましい。上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、中実層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの中実層4を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記中実層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、中実層4を形成する樹脂を均一に混合し難くワニスの調製に要する時間が長くなるおそれがある。
【0046】
<第1加熱工程>
第1加熱工程では、第1塗布工程において塗布された第1層を加熱し焼付ける。これにより、導体1の外側に中実層4を形成する。
【0047】
中実層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの中実層4が形成できない場合、中実層4が所定の厚さとなるまで、上記中実層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。
【0048】
<第2塗布工程>
第2塗布工程では、空孔層3を形成する樹脂を溶剤で希釈し、さらに空孔形成剤と混合して第2樹脂組成物(以下、「空孔層用ワニス」ともいう。)を調製する。その後、この空孔層用ワニスを中実層4の上に塗布することで、第2層を形成する。
【0049】
上記中実層用ワニスに混合する空孔形成剤としては、化学発泡剤が好ましく、例えば加熱により窒素ガス(N
2ガス)を発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0050】
上記化学発泡剤の発泡温度の下限としては、180℃が好ましく、210℃がより好ましい。一方、上記発泡温度の上限としては、300℃が好ましく、260℃がより好ましい。上記発泡温度が上記下限未満の場合、焼付け前に発泡が生じ易く、空孔層3の厚さの調整が困難となるおそれがある。逆に、上記発泡温度が上記上限を超える場合、焼付け温度の上昇や焼付け時間の長大化を招き、当該絶縁電線の製造コストが増加するおそれがある。ここで「発泡温度」とは、発泡剤が発泡を開始する温度である。「焼付け時間」とは、焼付け工程においてワニスが塗布された導体1を焼付け温度で保持する時間である。
【0051】
上記空孔層用ワニスの希釈用溶剤としては、従来より絶縁ワニスに用いられている公知の有機溶剤を用いることができ、具体的には上述した中実層用ワニスの調製に用いる希釈用溶剤と同種のものが挙げられる。
【0052】
なお、これらの有機溶剤により希釈して調製した空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、20質量%が好ましく、22質量%がより好ましい。一方、上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、48質量%がより好ましい。上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限未満の場合、空孔層用ワニスを塗布する際の1回の塗布量が少なくなるため、所望の厚さの空孔層3を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記空孔層用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超える場合、希釈に要する時間が長くなるおそれがある。
【0053】
<第2加熱工程>
第2加熱工程では、第2塗布工程において中実層4の外周面に塗布された第2層を加熱し焼付ける。これにより、導体1に形成された中実層4の外周面に空孔層3を形成する。焼付けの際、第2層に含まれる空孔形成剤の発泡又は分解等により空孔5が形成される。なお、中実層4と空孔層3との間に絶縁層2を構成する中実層4及び空孔層3以外の層を形成してもよい。この層は1層であってもよいし複数の層であってもよい。
【0054】
空孔層用ワニスの一度の塗布及び焼付けにより所望の厚さの空孔層3が形成できない場合、空孔層3が所定の厚さとなるまで、上記空孔層用ワニスの塗布及び焼付けを繰り返し行う。所定の厚さの空孔層3を形成することにより、当該絶縁電線が得られる。
【0055】
[絶縁電線の第2の製造方法]
次に、
図1に示す当該絶縁電線の第2の製造方法について説明する。当該絶縁電線の第2の製造方法は、共押出しにより、上記導体1の外周面を中実層4及び空孔層3で被覆する工程(押出し被覆工程)を備える。
【0056】
<押出し被覆工程>
押出し被覆工程では、中実層4を形成する中実層用樹脂組成物と、空孔層3を形成する空孔層用樹脂組成物とを溶融押出機に投入する。ここで、上記中実層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含まない。また、上記空孔層用樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を主成分とし、空孔形成剤を含む。そして、これらの樹脂組成物を溶融押出機に投入した後、導体1側から中実層4、空孔層3の順で積層されるようにこれらの樹脂組成物を共押出しする。すなわち、導体1の外周面に中実層用樹脂組成物、さらにその外周側を取り囲むように空孔層用樹脂組成物が配設されるようにしてこれらの樹脂組成物を押出すことにより当該絶縁電線を得る。
【0057】
ここで、空孔層3内の空孔5は、上記樹脂組成物を軟化させるための共押出し時の加熱により空孔層用樹脂組成物に含まれる空孔形成剤の発泡又は分解等により生成される。これにより、空孔を含まない中実層4と空孔5を含む空孔層3とを有する絶縁層2を備える当該絶縁電線が得られる。
【0058】
なお、上記空孔層用樹脂組成物として熱硬化性樹脂を主成分とするものを用いてもよいが、上述のように熱可塑性樹脂を主成分とするものを用いた方が共押出し時の加熱制御が容易にできるので、当該絶縁電線を製造し易い。
【0059】
[利点]
当該絶縁電線は、絶縁層2の最外層として空孔を含み表面に凹凸が生じやすい空孔層3を備えることで、巻回した際に絶縁層2同士の接触面積が減少し、絶縁電線同士の摩擦抵抗を抑制することができる。そのため、当該絶縁電線は表面潤滑性に優れる。また、当該絶縁電線は、絶縁層2が空孔を含まない中実層4を備えるため、絶縁性の低下を抑制することができる。さらに、当該絶縁電線は、絶縁層2が空孔層3を備えることで、絶縁層2に可撓性を付与することができる。このように、当該絶縁電線は、絶縁層2がその最外に設けられた空孔層3と、その内側に設けられた中実層4とを備えることで、表面潤滑性、絶縁性及び可撓性に優れる。
【0060】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0061】
上記実施形態においては、絶縁層が空孔層及び中実層を1つずつ有する当該絶縁電線について説明したが、少なくとも1つの空孔層が絶縁層の最外に位置し、その空孔層の内側に少なくとも1つの中実層が存在していれば、絶縁層が複数の空孔層を有する絶縁電線としてもよいし、絶縁層が複数の中実層を有する絶縁電線としてもよい。また、空孔層及び中実層が交互に積層される絶縁層を有する絶縁電線としてもよい。絶縁層が複数の空孔層を有する場合、最外の空孔層が表面潤滑性に寄与し、その内側の各空孔層が絶縁層の耐溶接性向上に寄与する。また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、これらの複数の中実層が総合して絶縁層の機械的強度の向上に寄与すると共に、絶縁性向上に寄与する。
【0062】
絶縁層が複数の空孔層を有する場合、各空孔層の平均厚さの合計の下限としては、絶縁層の平均厚さに対して10%が好ましく、20%がより好ましい。一方、上記平均厚さの合計の上限としては、絶縁層の平均厚さに対して95%が好ましく、90%がより好ましい。上記平均厚さの合計が上記下限未満の場合、最外の空孔層の厚さが相対的に小さくなり、表面潤滑性を十分向上できないおそれがある。逆に、上記平均厚さの合計が上記上限を超える場合、中実層の全厚さが相対的に小さくなり、絶縁性を十分向上できないおそれや、機械的強度の低い空孔層の全厚さが相対的に大きくなり、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。
【0063】
また、絶縁層が複数の中実層を有する場合、各中実層の平均厚さの合計の下限としては、絶縁層の平均厚さに対して5%が好ましく、10%がより好ましい。一方、上記平均厚さの合計の上限としては、絶縁層の平均厚さに対して90%が好ましく、80%がより好ましい。上記平均厚さの合計が上記下限未満の場合、中実層の全厚さが相対的に小さくなり、絶縁性を十分向上できないおそれや、絶縁層の機械的強度を維持できないおそれがある。逆に、上記平均厚さの合計が上記上限を超える場合、最外の空孔層の厚さが相対的に小さくなり、表面潤滑性を十分向上できないおそれがある。
【0064】
なお、絶縁層が複数の中実層を有する場合、「中実層の平均厚さに対する空孔層の平均厚さの比率」における「中実層の平均厚さ」は、各中実層の平均厚さの合計を意味し、絶縁層が複数の空孔層を有する場合、上記「空孔層の平均厚さ」は、それらの空孔層のうち最外層の平均厚さを意味する。
【0065】
また、上記実施形態では、空孔形成剤として化学発泡剤を用いて空孔を生成させる製造方法について説明したが、空孔形成剤として熱膨張性マイクロカプセルを使用し、熱膨張性マイクロカプセルにより空孔を形成させる製造方法としてもよい。例えば上記第1の製造方法において、空孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈したものを熱膨張性マイクロカプセルと混合して空孔層用ワニスを調製し、この空孔層用ワニスの中実層の外周面側への塗布及び焼付けにより空孔層を形成してもよい。焼付けの際、空孔層用ワニスに含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって空孔層内に空孔が形成される。また、例えば上記第2の製造方法において、空孔層用樹脂組成物に熱膨張性マイクロカプセルを含ませてもよい。この場合、共押出し時の加熱により、空孔層用樹脂組成物に含まれる熱膨張性マイクロカプセルが膨張又は発泡し、熱膨張性マイクロカプセルによって形成された空孔を含む空孔層が形成される。
【0066】
上記熱膨張性マイクロカプセルは、熱膨張剤からなる芯材(内包物)と、この芯材を包む外殻とを有する。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤は、加熱により膨張又は気体を発生するものであればよく、その原理は問わない。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤としては、例えば低沸点液体、化学発泡剤又はこれらの混合物を使用することができる。
【0067】
上記低沸点液体としては、例えばブタン、i−ブタン、n−ペンタン、i−ペンタン、ネオペンタン等のアルカンや、トリクロロフルオロメタン等のフレオン類などが好適に用いられる。また、上記化学発泡剤としては、加熱によりN
2ガスを発生するアゾビスイソブチロニトリル等の熱分解性を有する物質が好適に用いられる。
【0068】
上記熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度、つまり低沸点液体の沸点又は化学発泡剤の熱分解温度としては、後述する熱膨張性マイクロカプセルの外殻の軟化温度以上とされる。より詳しくは、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の下限としては、60℃が好ましく、70℃がより好ましい。一方、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度の上限としては、200℃が好ましく、150℃がより好ましい。熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記下限に満たない場合、当該絶縁電線の製造時、輸送時又は保管時に熱膨張性マイクロカプセルが意図せず膨張してしまうおそれがある。逆に、熱膨張性マイクロカプセルの熱膨張剤の膨張開始温度が上記上限を超える場合、熱膨張性マイクロカプセルを膨張させるために必要なエネルギーコストが過大となるおそれがある。ここで、「熱膨張剤の膨張開始温度」とは、熱膨張剤が低沸点液体である場合は、この低沸点液体の沸点を意味し、熱膨張剤が化学発泡剤である場合は、この化学発泡剤の熱分解温度を意味する。
【0069】
一方、上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻は、上記熱膨張剤の膨張時に破断することなく膨張し、発生したガスを包含するマイクロバルーンを形成できる延伸性を有する材質から形成される。この熱膨張性マイクロカプセルの外殻を形成する材質としては、通常は、熱可塑性樹脂等の高分子を主成分とする樹脂組成物が用いられる。
【0070】
上記熱膨張性マイクロカプセルの外殻の主成分とされる熱可塑性樹脂としては、例えば塩化ビニル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、アクリル酸、メタアクリル酸、アクリレート、メタアクリレート、スチレン等の単量体から形成された重合体、あるいは2種以上の単量体から形成された共重合体が好適に用いられる。好ましい熱可塑性樹脂の一例としては、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体が挙げられ、この場合の熱膨張剤の膨張開始温度は、80℃以上150℃以下とされる。
【0071】
さらに、空孔形成剤として熱分解性樹脂を用いてもよい。すなわち、上記第1の製造方法の第2樹脂組成物として、空孔層を形成する樹脂を溶剤で希釈し、さらに熱分解性樹脂を混合したものを用いてもよい。また、上記第2の製造方法の空孔層用樹脂組成物として、空孔層を形成する樹脂に熱分解性樹脂を混合したものを用いてもよい。
【0072】
上記熱分解性樹脂としては、例えば空孔層を形成する樹脂の焼付け温度又は押出温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子を用いる。例えば空孔層を形成する主ポリマーの焼付け温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上350℃以下程度である。従って、上記熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては300℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、窒素雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0073】
上記空孔層に用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸の炭素数1以上6以下のアルキルエステル重合体、ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物、ポリ(メタ)アクリル酸、これらの架橋物、ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル系重合体の架橋物が好ましく、架橋ポリ(メタ)アクリレートがより好ましい。また、熱分解性樹脂は、上記空孔層を形成する樹脂の海相に微小粒子の島相となって均等分布できることが好ましい。従って、上記空孔層に用いる熱分解性樹脂としては、上記空孔層を形成する樹脂との相溶性に優れると共に、球状にまとまる樹脂であることが好ましく、具体的には架橋樹脂が好ましい。
【0074】
上記架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体は、例えば(メタ)アクリル系モノマーと多官能性モノマーとを乳化重合、懸濁重合、溶液重合等により重合することで得られる。
【0075】
ここで、(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸ジエチルアミノエチルなどが挙げられる。
【0076】
また、多官能性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートなどが挙げられる。
【0077】
なお、架橋ポリ(メタ)アクリル系重合体の構成モノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマー及び多官能性モノマー以外に他のモノマーを使用してもよい。他のモノマーとしては、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸のグリコールエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのアルキルビニルエーテル類、酢酸ビニル、酪酸ビニルなどのビニルエステル類、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N−メチルメタクリルアミド、N−エチルメタクリルアミドなどのN−アルキル置換(メタ)アクリルアミド類、アクリロニトリル、メタアクリロニトリルなどのニトリル類、スチレン、p−メチルスチレン、p−クロロスチレン、クロロメチルスチレン、α−メチルスチレンなどのスチレン系単量体等が挙げられる。
【0078】
上記熱分解する樹脂粒子を用いる場合、樹脂粒子は球状であることが好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、100μmが好ましく、50μmがより好ましく、30μmがさらに好ましく、10μmが特に好ましい。上記樹脂粒子は空孔層を形成する樹脂の焼付け時に熱分解して存在していた部分に空孔を形成する。そのため、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限未満の場合、空孔層に空孔が形成され難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超える場合、空孔層内における空孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、上記樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0079】
また、例えば上記空孔を中空フィラーで形成してもよい。上記空孔を中空フィラーで形成する場合、例えば空孔層を形成する樹脂組成物と中空フィラーとを混練し、共押出し成形によりこの混練物を中実層に被覆することで当該絶縁電線を製造できる。
【0080】
中空フィラーにより空孔を形成する場合、この中空フィラーの内部の空洞部分が空孔層に含まれる空孔となる。中空フィラーとしては、例えばシラスバルーン、ガラスバルーン、セラミックバルーン、有機樹脂バルーン等が挙げられる。これらの中で当該絶縁電線の可撓性を向上させることができる有機樹脂バルーンが好ましい。
【0081】
また、例えば当該絶縁電線において、導体の外周面にプライマー処理層を形成し、このプライマー処理層を形成した導体の外周面側に中実層を形成してもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0082】
導体外周面にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上させることが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0083】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0084】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、20μmが好ましく、10μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たない場合、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超える場合、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0086】
<実施例1>
銅を鋳造、延伸、伸線及び軟化し、断面が円形で直径が1.0mmの導体を得た。次に、ピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した中実層用ワニスを作成した。この中実層用ワニスを上記導体の外周面に塗布し、線速3.0m/分、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付けることによって導体の外周面に平均厚さ10μmの中実層を形成した。次に、ピロメリット酸二無水物とジアミノジフェニルエーテルとの重合により形成されるポリイミド前駆体をN−メチル−2−ピロリドンに溶解した絶縁ワニスを作成した。さらに、この絶縁ワニスに空孔形成剤(積水化成品工業製の発泡剤)を空孔層の空孔率が40体積%となるように分散させて空孔層用ワニスを作成した。この空孔層用ワニスを中実層の外周に塗布し、線速3.0m/分、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付ける工程を繰り返し行うことで中実層の外周面に平均厚さ40μmの空孔層を形成し、実施例1の絶縁電線を得た。
【0087】
<実施例2>
中実層及び空孔層の平均厚さ並びに空孔層の空孔率を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、実施例2の絶縁電線を得た。
【0088】
<比較例1>
比較例1においては、絶縁層が二つの層から構成されるのではなく、一層のみで構成した。この絶縁層の主成分として、上述のカプトンを使用した。絶縁層の厚さは50μmであった。
【0089】
<比較例2>
中実層及び空孔層の平均厚さ並びに空孔層の空孔率を表1の通りとした以外は実施例1と同様にして、比較例2の絶縁電線を作製した。
【0090】
<動摩擦係数>
実施例1、2及び比較例1、2の絶縁電線について動摩擦係数を測定した。
図2に動摩擦係数の評価方法の模式図を示す。導体1と絶縁層2とからなる実施例1、2及び比較例1、2の絶縁電線に張力を付与して1%伸長させ、伸長後の絶縁電線から試験片を切り出し、
図2に示す装置を用いて絶縁電線同士の動摩擦係数の測定を行った。まず、固定台座10の上に2本の試験片S1を平行に固定する。次に、スライダ20の下面に2本の試験片S2を平行に固定する。この固定台座10の試験片S1とスライダ20の試験片S2とが直交して接するように固定台座10上にスライダ20を配置する。続いて、スライダ20の上面を白抜き矢印で示すように下方に押圧して所定の荷重を試験片S1、S2にかける。そして、スライダ20につながれたワイヤ30をシーブ40を介してロードセル50に接続し、ワイヤ30を牽引することでスライダ20を台座10上の試験片S1に沿ってスライドできる。この装置を用い、スライダ20をスライドして試験片S1、S2同士を摺接させ、オートグラフによりロードセル50の荷重を連続的に測定した。そして、「スライダが移動しているときのロードセルの平均荷重/スライダを下方に押圧する荷重(スライダの荷重も含む)」から動摩擦係数を求めた。ここでのスライダ20の牽引スピードは、200mm/分であり、スライダ20を下方に押圧する荷重は1kgである。この試験を複数回行って、複数回の試験結果の平均値を動摩擦係数とした。その結果を表1に示す。表1において、材料の欄に記載された「A」は空孔形成剤とポリイミド前駆体とを含むワニスを示し、「B」は上記ポリイミド前駆体のみを含むワニスを示す。
【0091】
<算術平均粗さ>
得られた実施例1、2及び比較例1、2の各絶縁電線についてその外周面の算術平均粗さ(Ra)を測定した。算術平均粗さは、JIS−B−0601(2001年)に準拠し、評価長さ(l)を3000nm、カットオフ値(λc)を1000nmとして測定した。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
[評価結果]
表1の結果から明らかなように、上層に空孔層を設けた実施例1、2の絶縁電線は、動摩擦係数が小さく、算術平均粗さが大きいため、表面潤滑性に優れる。また、空孔率を大きくすることで、動摩擦係数を低減できることがわかる。