特許第6691008号(P6691008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691008
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】樹脂管の成形方法および樹脂管成形装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 53/08 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   B29C53/08
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-131265(P2016-131265)
(22)【出願日】2016年7月1日
(65)【公開番号】特開2018-1597(P2018-1597A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年4月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100147913
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 義敬
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(74)【代理人】
【識別番号】100091605
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100197284
【弁理士】
【氏名又は名称】下茂 力
(72)【発明者】
【氏名】松元 正太
【審査官】 ▲来▼田 優来
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−531038(JP,A)
【文献】 特開2007−260922(JP,A)
【文献】 特開2003−176415(JP,A)
【文献】 特開昭61−215037(JP,A)
【文献】 特開昭58−074218(JP,A)
【文献】 特開昭50−147463(JP,A)
【文献】 特開昭61−172625(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C53/00−53/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂管を曲折する樹脂管の成形方法において、
前記樹脂管を固定部に固定する工程と、
ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する工程と、
前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程と、
前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する工程と、
前記混合液を前記樹脂管から排出する工程と、
を具備することを特徴とする樹脂管の成形方法。
【請求項2】
前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程では、前記混合液を加熱することで、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することを特徴とする請求項1に記載の樹脂管の成形方法。
【請求項3】
前記樹脂管に内在する前記混合液を冷却することで、曲折加工された前記樹脂管を冷却することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の樹脂管の成形方法。
【請求項4】
前記混合液は、金属粉体と有機溶媒とを含むことを特徴とする請求項1から請求項3の何れかに記載の樹脂管の成形方法。
【請求項5】
前記樹脂管から回収した前記混合液を再利用することを特徴とする請求項1から請求項4の何れかに記載の樹脂管の成形方法。
【請求項6】
樹脂管を曲折する樹脂管成形装置において、
前記樹脂管を固定する樹脂管固定部と、
ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する混合液注入部と、
前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする樹脂管加熱部と、
前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する曲折加工部と、
前記混合液を前記樹脂管から排出する混合液排出部と、
を具備することを特徴とする樹脂管成形装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂管の成形方法および樹脂管成形装置に関し、特に、注入される混合液のダイラタンシー特性を用いて樹脂管を所定形状に曲折する樹脂管の成形方法および樹脂管成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の車両に於いては、燃料等の流体を車体内部で輸送するために多数の樹脂管が配設されており、この樹脂管は複雑な湾曲形状を有している。
【0003】
樹脂管を所定形状に曲折する加工方法としては、樹脂管を加熱した後にベンダーで曲折する方法、曲折加工用の成形型に樹脂管を組み込んだ後に加熱炉を用いて加熱する方法、成形型に組み込まれた樹脂管の内部に蒸気を注入する方法がある。
【0004】
また、上記した樹脂管を加熱した後にベンダーで曲折する方法では、樹脂管の曲折する部分にキンクが発生すること防止するために、キンクを防止する治具を挿入してから曲折加工を行うことがある。特許文献1を参照すると、樹脂管に曲げ防止用治具を挿入した後に、曲げ防止用治具が挿入された部分の樹脂管を曲折加工している。
【0005】
更に、特許文献2では、流体が充填されたチューブ状プレフォームを曲折加工する方法が記載されている。具体的には、先ず、高温である加熱流体をチューブ状プレフォームに充填し、この状態で軟化したチューブ状プレフォームを曲折加工する。次に、加熱流体をチューブ状プレフォームから排出した後に、低温である冷却流体をチューブ状プレフォームに充填することで、チューブ状プレフォームを冷却して所定の蛇行形態にする。その後、チューブ状プレフォームから冷却流体を除去する。このようにすることで、曲折加工されるチューブ状プレフォームが加熱流体にて内部から支持され、曲折工程におけるキンクの発生が抑止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−25104号公報
【特許文献2】特表2003−531038号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、樹脂管を加熱した後にベンダーで曲折する方法では、樹脂管が冷却されて硬化する前に曲折加工を終了する必要があったので、曲折加工できる曲折部の個数に制限があった。
【0008】
また、曲折加工用の成形型に樹脂管を組み込んだ後に加熱炉を用いて加熱する方法では、加熱されていない状態の成形型に樹脂管を組み込むことから、屈曲半径を小さくすることが難しい課題があった。更に、加熱炉に樹脂管を収納させるので、長尺の樹脂管を曲折加工することが難しい課題もあった。
【0009】
更に、成形型に組み込まれた樹脂管の内部に蒸気を注入する方法でも、加熱されていない状態の成形型に樹脂管を組み込む必要があったので、屈曲半径を小さくすることが難しい課題があった。
【0010】
更にまた、特許文献1に記載された曲折方法では、樹脂管の内径に応じた曲げ防止用治具を用意する必要があり、これにより曲折加工にかかる加工コストが上昇する。更には、樹脂管に曲げ防止用治具を挿入することが煩雑である課題もあった。
【0011】
また、特許文献2に記載された曲折方法では、加熱液体が充填された状態のチューブ状プレフォームを曲折しているが、曲折加工時における加熱流体の反力が必ずしも十分とはいえない場合があり、反力が不足すると上記したキンクが発生してしまう恐れがあった。更には、曲折加工が終了した後に、加熱流体をチューブ状プレフォームから除去し、冷却流体をチューブ状プレフォームに導入することで冷却しているが、このような流体の出し入れを行う作業が煩雑である課題があった。
【0012】
更に、所謂蛇腹チューブであれば比較的自由に曲折部を形成することができるが、蛇腹チューブは高価であるため製造コストが上昇してしまう課題があった。更には、蛇腹チューブは内圧が高くなると伸縮してしまうという課題もあった。
【0013】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、簡易な構成で樹脂管に屈曲半径が小さい曲折部を曲折形成することができる樹脂管の成形方法および樹脂管成形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、樹脂管を曲折する樹脂管の成形方法において、前記樹脂管を固定部に固定する工程と、ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する工程と、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程と、前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する工程と、前記混合液を前記樹脂管から排出する工程と、を具備することを特徴とする。
【0015】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程では、前記混合液を加熱することで、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することを特徴とする。
【0016】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管に内在する前記混合液を冷却することで、曲折加工された前記樹脂管を冷却することを特徴とする。
【0017】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記混合液は、金属粉体と有機溶媒とを含むことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管から回収した前記混合液を再利用することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、樹脂管を曲折する樹脂管成形装置において、前記樹脂管を固定する樹脂管固定部と、ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する混合液注入部と、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする樹脂管加熱部と、前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する曲折加工部と、前記混合液を前記樹脂管から排出する混合液排出部と、を具備することを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、樹脂管を曲折する樹脂管の成形方法において、前記樹脂管を固定部に固定する工程と、ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する工程と、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程と、前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する工程と、前記混合液を前記樹脂管から排出する工程と、を具備することを特徴とする。従って、樹脂管を曲折させる際に、樹脂管に注入されたダイラタンシー特性を有する混合液が抵抗力を発生させるので、樹脂管を所定形状に曲折加工することが可能であり、曲折部分が潰れてしまう所謂キンクが発生してしまうことが抑止される。また、ダイラタンシー特性を利用することで、例えば熱可塑性樹脂から成る樹脂管の成形性能を、金属配管と同程度に向上せることができる。従って、従来であれば簡単ではなかった樹脂管の湾曲成形を、汎用ベンダーを用いて実現することができる。
【0021】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする工程では、前記混合液を加熱することで、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することを特徴とする。従って、樹脂管を内部から加熱することができるので、樹脂管を効率よく加熱し、より確実に曲折加工を行うことができる。
【0022】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管に内在する前記混合液を冷却することで、曲折加工された前記樹脂管を冷却することを特徴とする。従って、樹脂管を内部から冷却することができるので、曲折加工された部分の樹脂管を早期に冷却し、作業効率を向上させることができる。
【0023】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記混合液は、金属粉体と有機溶媒とを含むことを特徴とする。従って、熱伝導性が良い金属粉体を有していることで、金属粉体を加熱することで樹脂管を内部から効率的に加熱することができる。また、有機溶媒を有していることで、金属粉体が酸化してしまうことを抑止することができる。
【0024】
また、本発明の樹脂管の成形方法では、前記樹脂管から回収した前記混合液を再利用することを特徴とする。従って、使用される混合液の量を低減することができ、製造コストを安くすることができる。
【0025】
また、本発明は、樹脂管を曲折する樹脂管成形装置において、前記樹脂管を固定する樹脂管固定部と、ダイラタンシー特性を有する混合液を前記樹脂管に注入する混合液注入部と、前記樹脂管の曲折される部分を加熱することで、前記樹脂管を曲げ加工可能な状態とする樹脂管加熱部と、前記樹脂管に外力を加えることで、前記樹脂管を所定の角度に曲折加工する曲折加工部と、前記混合液を前記樹脂管から排出する混合液排出部と、を具備することを特徴とする。従って、曲折加工部で樹脂管を曲折させる際に、混合液注入部で樹脂管に注入されたダイラタンシー特性を有する混合液が抵抗力を発生させるので、樹脂管を所定形状に曲折加工することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態にかかる樹脂管成形装置を示す上面図である。
図2】本発明の一実施形態にかかる樹脂管の成形方法を示すフローチャートである。
図3】本発明の一実施形態にかかる樹脂管の成形方法を示す図であり、(A)は樹脂管成形装置を示す上面図であり、(B)は樹脂管を示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態にかかる樹脂管の成形方法を示す上面図である。
図5】本発明の一実施形態にかかる樹脂管の成形方法を示す図であり、(A)は樹脂管成形装置を示す上面図であり、(B)は樹脂管を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の一実施形態に係る樹脂管20の成形方法および樹脂管成形装置10を、図面に基づき詳細に説明する。以下の説明では、同一の部材には原則として同一の符番を用い、繰り返しの説明は省略する。更に、以下の説明では、X方向およびY方向を用いる。X方向は樹脂管20の長軸に対して平行な方向であり、Y方向はX方向に直行する方向である。
【0028】
図1を参照して、本形態に係る樹脂管成形装置10の構成を説明する。図1は、樹脂管成形装置10を上方から見た上面図である。
【0029】
樹脂管成形装置10は、支持台11の上面に、樹脂管20を曲折するための各種治具が配置されている。具体的には、この治具として、曲折型15A、15B、加熱部14A、14B、固定部12A、12Bが、支持台11の上面に配置されている。樹脂管成形装置10は、樹脂管20の特定部分を所定の形状に曲折加工する装置である。
【0030】
本形態で曲折加工する樹脂管20は、管状に成形された熱可塑性樹脂からなり、例えば、自動車等の車両に適用されるものである。樹脂管20を構成する熱可塑性樹脂としては、ポリアミドまたはエチレン・ビニルアルコール共重合樹脂などを採用でき、より具体的には、PA11、PA12、EVOH/PA11等を採用できる。更に、樹脂管20としては、ストレートチューブまたは蛇腹管を用いることが出来る。樹脂管成形装置10で所定形状に曲折加工された樹脂管20は、燃料パイプ、エアコンの冷媒パイプ、モータ冷却用のパイプ、混合気をエンジンに送るパイプ等として用いることができる。
【0031】
曲折型15A、15Bは、樹脂管20の曲折形状に即した当接面を先端部に有する曲折加工部である。曲折型15Aは、−Y側の端部に当接面を有し、曲折加工を行う際には−Y側に向かって移動する。曲折型15Aは、+Y側の端部に当接面を有し、曲折加工を行う際には+Y側に向かって移動する。
【0032】
加熱部14A、14Bは、曲折加工を行う部分の樹脂管20を加熱する樹脂管加熱部である。加熱部14Aは、曲折型15Aで曲折される部分の樹脂管20を加熱し、加熱部14Bは、曲折型15Bで曲折される部分の樹脂管20を加熱する。加熱部14A、14Bとしては、樹脂管20またはその内部に充填された混合液を加熱する装置が採用され、具体的には、マイクロ波や高周波の電磁波等を樹脂管20に向かって照射する照射装置等を採用することができる。
【0033】
固定部12A、12Bは、支持台11の上面で樹脂管20の両端部付近を固定する樹脂管固定治具である。固定部12Aは樹脂管20の−X側の端部を固定し、固定部12Bは樹脂管20の+X側の端部を固定する。
【0034】
更に、本形態の樹脂管成形装置10は、混合液供給部13および混合液排出部16を有する。混合液供給部13は、曲折加工される樹脂管20にダイラタンシー特性を有する混合液17を供給する部位であり、点線で示すパイプを経由して、樹脂管20の+X側の端部と接続される。混合液排出部16は、曲折加工を経た樹脂管20から排出される混合液17が貯留される部位であり、点線で示すパイプを経由して、樹脂管20の−X側の端部と接続される。更に、混合液排出部16には、樹脂管20から排出された混合液17を再利用するための機能を持たせてもよい。
【0035】
図2から図5を参照して、上記した構成の樹脂管成形装置10を用いて樹脂管20を所定形状に曲折する成形方法を詳述する。図2は、樹脂管の成形方法に含まれる各工程を示すフローチャートであり、図3から図5は各工程における樹脂管成形装置10を示す図である。
【0036】
ステップS10では、先ず、樹脂管20を樹脂管成形装置10に固定する。具体的には、図3を参照して、固定部12Aで樹脂管20の−X側の端部を挟持するなどして固定し、固定部12Bで樹脂管20の+X側の端部を固定する。図3(A)はこの工程における樹脂管成形装置10を示す上面図であり、図3(B)は混合液17が充填された樹脂管20を示す断面図である。
【0037】
ステップS11では、ダイラタンシー特性を有する混合液17を、樹脂管20に注入する。ここで、ダイラタンシー特性とは、小さい剪断応力には液体のように振る舞う一方、大きい剪断応力には固体のように振る舞う性質のことである。ダイラタンシー特性を有する混合液17が樹脂管20に充填されることで、後述するように、樹脂管20を曲折加工する際に、樹脂管20の内部で個体のごとく振る舞う混合液17により反発力が生じ、これにより樹脂管20が曲折部位で潰れてしまうことが抑止される。
【0038】
ダイラタンシー特性を有する混合液17としては、具体的には、金属粉と有機溶媒とを含む混合液を採用することができる。金属粉の材料としては、例えば、鉄、アルミニウムやこれらの混合物等を採用できる。混合液17が金属粉を含むことで、熱伝導性に優れる金属粉を介して樹脂管20の加熱および冷却を効率的に行うことができる。混合液17に含まれる有機溶媒としては、例えば、工業用オイルを採用することができる。有機溶媒は、レオロジー特性に優れ、金属粉との相性も良く、保存性に優れており、バクテリアが発生する恐れが小さく、金属粉の錆を防止でき、100℃以上に加熱することが可能であるので、混合液17に含まれる液体として好適である。更には、有機溶媒は常温での蒸発量が少ないので、混合液17の濃度が変化することが抑止される。混合液17が金属粉および有機溶媒を含む割合は、混合液17がダイラタンシー特性を発揮できる範囲とされる。
【0039】
ここで、混合液17の濃度や粘性は、樹脂管20の大きさ、曲折部の屈曲半径等に応じて調整することができる。例えば、曲折部の屈曲半径が大きければ、ダイラタンシー特性を調整するために、混合液17の濃度や粘性を低下させることができる。
【0040】
混合液17が樹脂管20に充填されたら、樹脂管20の両端部を閉鎖することで、樹脂管20の内部に充填された混合液17を封止する。これにより、樹脂管20を曲折する際に、樹脂管20から混合液17が外部に流出することを防止し、ダイラタンシー特性が生じやすい環境とする。ここで、樹脂管20に充填された混合液17は必ずしも封止される必要はない。例えば、樹脂管20が垂直方向に立てて配置された場合は、樹脂管20の下端のみを閉鎖し、樹脂管20の上端は開放状態であっても、樹脂管20が曲折された際に混合液17がダイラタンシー特性を発揮することが可能である。
【0041】
ステップS12では、曲折加工される部分の樹脂管20を加熱することで、樹脂管20を曲折加工可能な状態とする。具体的には、例えば、加熱部14A、14Bから、樹脂管20の曲折加工を行う部分に対してマイクロ波等を照射することで、樹脂管20に充填された混合液17に含まれる金属粉を加熱し、金属粉から樹脂管20に熱を伝導させる。本工程では、曲折加工される部分の樹脂管20を100℃〜120℃まで加熱することで、樹脂管20を軟化させて曲折加工可能な状態とする。混合液17に含まれる金属粉は熱伝導性に優れるため、樹脂管20を効率的に且つ局所的に加熱でき、加熱に要するエネルギを少なくすることができる。また、樹脂管20の曲折予定の部分のみを局所的に加熱して軟化することで、樹脂管20の曲折加工されない部分が不必要に変形してしまうことを抑止することができる。
【0042】
ここで、樹脂管20の加熱方法は他の方法でも良く、例えば、予め十分に加熱された混合液17を樹脂管20に導入することにより、樹脂管20を全体的に加熱してもよい。更には、外部から熱風を吹き付けることで、曲折される部分の樹脂管20を加熱してもよい。また、自重により樹脂管20が不必要に変形してしまうことを抑止するために、樹脂管20の途中部分を下方から支持するようにしてもよい。
【0043】
ステップS13では、図4を参照して、上記のように加熱された状態の樹脂管20に対して外力を加えることで曲折加工を行う。具体的には、曲折型15Aを−Y方向に移動させることで、曲折型15Aの湾曲側面で樹脂管20を押圧して所定の屈曲半径を持つ曲折部20Aを形成する。同様に、曲折型15Bを+Y方向に所定量移動させることで、曲折型15Bの湾曲側面で樹脂管20を押圧して所定の屈曲半径を持つ曲折部20Bを形成する。本ステップでは、樹脂管20に充填された混合液17のダイラタンシー特性が得られる速度で、曲折型15A、15Bを移動させている。
【0044】
本形態では、上記したように、内部にダイラタンシー特性を有する混合液17が充填された樹脂管20に対して曲折加工を行っている。従って、本工程にて曲折型15Aで側方から押圧することで樹脂管20に曲げ応力を加えると、樹脂管20に充填された混合液17に剪断力が生じ、混合液17のダイラタンシー特性が発揮される。よって、樹脂管20に作用している曲げ応力に対する反発力を混合液17が発揮するので、曲折加工される部分の樹脂管20にキンクが発生することが抑止される。よって、例えば、樹脂管20が外径8mmのストレートチューブであれば、その曲折部20Aの屈曲半径を20mm程度に小さくすることが出来る。
【0045】
係る事項は、曲折型15Bを用いた曲折加工でも同様であり、曲折型15Bで樹脂管20を押圧して曲折加工すると、樹脂管20に充填された混合液17のダイラタンシー特性により反発力が発生するので、曲折加工に伴い樹脂管20の曲折部20Bにキンクが発生することが抑止される。
【0046】
本形態では、樹脂管20に充填された混合液17がダイラタンシー特性を発揮することで、樹脂管20を金属管と同様に取り扱うことができることから、専用の曲げ治具を用意する必要がなく、金属管を曲折加工するための汎用ベンダーを用いて、樹脂管20の曲折加工を行うことができる。更に、樹脂管20に充填された混合液17で、曲折加工の際におけるキンクの発生を抑止できることから、樹脂管20の任意の箇所に曲折部分を形成することができる。更に本形態では、キンクを防止するためのキンク防止材を樹脂管20に挿入する必要が無いことから、長さが1m以上となる長尺の樹脂管20に対して任意の箇所で曲折加工を行うことが出来る。
【0047】
ステップS14では、上記のように曲折加工を行った樹脂管20を冷却する。本形態の樹脂管20は熱可塑性樹脂からなるので、上記したステップにて曲折加工した状態のまま冷却することで、樹脂管20を曲折された形状で冷却固化することができる。
【0048】
本ステップで樹脂管20を冷却する方法としては、例えば、樹脂管20に充填された混合液17を介して冷却する方法がある。具体的には、樹脂管20の両端から混合液17を冷却すると、混合液17に含まれる金属粉は熱伝導性に優れるので、混合液17を経由して樹脂管20を内部から早期に冷却することができる。樹脂管20の冷却方法としては、他の冷却方法を採用することも可能であり、例えば、冷風を樹脂管20に送風してもよい。更には、樹脂管20から混合液17を抜き取った後に、樹脂管20を冷却してもよい。本形態では、樹脂管20に充填された混合液17を入れ替えること無く樹脂管20を冷却することができるので、樹脂管20の冷却方法を簡素化することができる。
【0049】
ステップS15では、樹脂管20から混合液17を取り出す。具体的には、樹脂管20の+X側の端部とパイプを介して接続された混合液排出部16から、樹脂管20に負圧を加えることで、樹脂管20から混合液17を取り出す。取り出された混合液17は、混合液排出部16に貯留される。
【0050】
ステップS16では、図5を参照して、樹脂管20の内部を洗浄し、樹脂管20を樹脂管成形装置10から取り出す。図5(A)は本工程を示す上面図であり、図5(B)は樹脂管20を示す断面図である。
【0051】
図5(B)に示すように、樹脂管20の内部から混合液17を抜き出したとしても、樹脂管20の底部には混合液17に含まれる金属粉が残留している。本ステップでは、混合液17に含まれるものと同種の有機溶媒を樹脂管20に流し込むことで、混合液17に含まれる金属粉を、樹脂管20から除去して混合液排出部16に移動させる。ここでは、洗浄のための洗浄水などを使用せず、混合液17に含まれる有機溶媒を用いて金属粉を除去しているので、混合液排出部16に洗浄水が混入すること無く、後述するように、収集した混合液17を容易に再利用することができる。
【0052】
上記洗浄が終了した後は、図5(A)を参照して、曲折型15A、15Bを樹脂管20から離間させ、更に固定部12A、12Bによる樹脂管20の固定を解除し、樹脂管20を樹脂管成形装置10から取り出す。以上の工程を経て、所定の屈曲半径を有する曲折部20A、20Bが形成された樹脂管20が成形される。
【0053】
ステップS17では、混合液排出部16に収集された使用済み混合液17を再利用ための処理を行う。具体的には、上記した混合液17の充填工程や排出工程を繰り返すと、混合液17に含まれる金属粉が減少するので、減少した分の金属粉を補充する。また、混合液排出部16には、樹脂管20の洗浄に使用された有機溶媒も収集されているので、剰余の分の有機溶媒を除去し、混合液17を構成する金属粉と有機溶媒との割合を、ダイラタンシー特性を発揮できるようなものとする。回収された混合液17をこの様に調整することで、混合液17の再利用が可能となり、樹脂管20の曲折に係るコストを低減することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態を示したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0055】
例えば、図3を参照して、上記したステップS11では、支持台11に固定された状態の樹脂管20に混合液17を注入したが、予め混合液17が注入された樹脂管20を支持台11に固定するようにしてもよい。
【0056】
また、図4を参照して、ステップS13では、支持台11の上面に配置された曲折型15A、15Bの押圧力で樹脂管20の曲折加工を行ったが、樹脂管20を送り出しながら三次元的または二次元的に曲折加工を行うベンダーを樹脂管成形装置10に採用してもよい。
【0057】
また、上記形態では、樹脂管20に充填される混合液17は金属粉を有していたが、金属粉に替えてセラミックなどの無機物からなる粉体を有してもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 樹脂管成形装置
11 支持台
12A,12B 固定部
13 混合液供給部
14A,14B 加熱部
15A,15B 曲折型
16 混合液排出部
17 混合液
20 樹脂管
20A,20B 曲折部
図1
図2
図3
図4
図5