(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本発明の実施形態の説明]
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を有し、上記絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下であり、上記絶縁層の少なくとも1層がポリメチルメタクリレートの分解残渣を含む。
【0012】
当該絶縁電線は、1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を有し、絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線は、上記絶縁層の少なくとも1層がPMMAの分解残渣を含むので、絶縁層の吸水率を低くすることができる。これにより、当該絶縁電線は、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層の十分な低誘電率化を実現することができる。絶縁層の少なくとも1層がPMMAの分解残渣を含むことで絶縁層の吸水率を低くすることができる理由は定かではないが、例えばPMMAの分解物が絶縁層を形成する材料と結合することで吸水率が低下するものと考えられる。
【0013】
上記絶縁層全体の吸水率としては、2.8%以下が好ましい。このように、上記絶縁層全体の吸水率が上記上限以下であることによって、高湿度環境下における低誘電率化を促進することができる。
【0014】
上記複数の気孔を有する絶縁層の主成分がポリイミドであるとよい。このように、上記複数の気孔を有する絶縁層の主成分がポリイミドであることによって、絶縁層の強度及び耐熱性を向上することができる。また、ポリイミドは比較的吸水率が高いが、PMMAの分解残渣に起因して絶縁層の吸水率を十分に低く抑えることができる。
【0015】
本発明の一態様に係る絶縁電線の製造方法は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線の製造方法であって、上記導体の外周側に、ポリメチルメタクリレート粒子を含有する樹脂ワニスを塗布する塗布工程と、上記塗布された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備え、上記ポリメチルメタクリレート粒子が、上記加熱工程による熱分解によって気孔を形成し、上記絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下である。
【0016】
当該絶縁電線の製造方法は、PMMA粒子を含有する樹脂ワニスの導体の外周側への塗布及び加熱によって導体の外周面に絶縁層を積層することができる。当該絶縁電線の製造方法は、上記加熱工程によるPMMA粒子の熱分解によって絶縁層に気孔が形成されると共に、上記絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層の吸水率を低くすることで、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層の十分な低誘電率化を実現することができる。当該絶縁電線の製造方法が絶縁層の吸水率を低くすることができる理由は定かではないが、例えばPMMA粒子の分解物が絶縁層を形成する材料と結合することで吸水率が低下するものと考えられる。
【0017】
なお、本発明において、「絶縁層全体の気孔率」とは、導体の軸と垂直方向の任意の10箇所の断面における気孔を含む絶縁層全体の面積に対する気孔の面積の比の平均値によって求められる値をいう。「吸水率」とは、JIS−K7209:2000に準拠した値をいう。「主成分」とは、最も含有量の多い成分をいい、例えば50質量%以上含有される成分をいい、好ましくは70質量%以上含有される成分をいい、より好ましくは80質量%以上含まれる成分をいう。
【0018】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、本発明に係る絶縁電線の一つの実施形態について図面を参照しつつ詳説する。
【0019】
[第一実施形態]
<絶縁電線>
図1の絶縁電線1は、線状の導体2と、この導体2の外周面に積層される1つの絶縁層3とを備える。絶縁層3は複数の気孔4を有する。絶縁層全体の気孔率(本実施形態では絶縁電線1は1つの絶縁層3のみを有するため絶縁層3の気孔率)は、15体積%以上60体積%以下である。また、当該絶縁電線1は、絶縁層3がPMMAの分解残渣を含む。なお、本実施形態では、絶縁層は1層しか存在していないが、本発明に係る絶縁電線は、第二実施形態に示すように複数の絶縁層を有していてもよい。そのため、以下では1又は複数の絶縁層全体を示す用語として「絶縁層全体」との語を用いる場合がある。
【0020】
当該絶縁電線1における絶縁層3は、例えばPMMA粒子を含有する樹脂ワニスの導体2の外周側への塗布及び加熱によって形成されたものである。つまり、複数の気孔4は、PMMA粒子の熱分解によって形成されたものであり、このPMMA粒子の熱分解による分解残渣が絶縁層3に残存している。当該絶縁電線1は、絶縁層3が複数の気孔4を有し、絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層3の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線1は、絶縁層3がPMMAの分解残渣を含むので、絶縁層3の吸水率を低くすることができる。これにより、当該絶縁電線1は、高湿度環境下における絶縁層3の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層3の十分な低誘電率化を実現することができる。絶縁層3がPMMAの分解残渣を含むことで吸水率を低くすることができる理由は定かではないが、例えばPMMA粒子の分解物が絶縁層3を形成する材料と結合することで吸水率が低下するものと考えられる。
【0021】
(導体)
導体2は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0022】
導体2の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体2は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0023】
導体2の平均断面積の下限としては、0.01mm
2が好ましく、0.1mm
2がより好ましい。一方、導体2の平均断面積の上限としては、20mm
2が好ましく、15mm
2がより好ましい。導体2の平均断面積が上記下限に満たないと、導体2に対する絶縁層3の体積が大きくなり、当該絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体2の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために絶縁層3を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線1が不必要に大径化するおそれがある。
【0024】
(絶縁層)
図1及び
図2に示すように、絶縁層3は、樹脂マトリックスと、この樹脂マトリックス中に散在する複数の気孔4と、気孔4の周縁部に形成される外殻5とを有する。絶縁層3は、後述するように、PMMA粒子によって形成される熱分解性コアと、このコアの外周を被覆するシェルとを有する中空形成粒子を含有する樹脂ワニスの導体2の外周面への塗布及び加熱によって形成される。
【0025】
気孔4は、上記中空形成粒子のコアのガス化によって形成される。また、外殻5は、上記中空形成粒子のコアが除去されて中空となったシェルで構成される。つまり、気孔4はコアシェル構造の中空形成粒子のコアに由来し、外殻5はこの中空形成粒子のシェルに由来する。当該絶縁電線1は、気孔4の周縁部に外殻5を有し、外殻5が熱分解性コア及びこのコアの外周を被覆するシェルを有する中空形成粒子のシェルに由来することにより、絶縁層3の吸水率をより低下させることができる。絶縁層3の吸水率を低下させることができる理由は定かではないが、例えばシェル又は外殻5の表面でPMMA粒子の分解物のラジカル反応が起こり易くなり、これによりこの分解物が絶縁層を形成する材料と結合し易いためと考えられる。また、当該絶縁電線1は、気孔4の周縁部に外殻5を有することによって、気孔4同士が連通することを抑制することができ、気孔4の大きさのばらつきを抑えると共に気孔4の分散性を高めることができる。
【0026】
気孔4の平均径の下限としては、0.5μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、気孔4の平均径の上限としては、10μmが好ましく、5μmがより好ましい。気孔4の平均径が上記下限に満たないと、絶縁層3の気孔率を十分に高め難くなるおそれがある。逆に、気孔4の平均径が上記上限を超えると、絶縁層3中における気孔4の分布の均一化を十分に促進し難くなるおそれがある。
【0027】
外殻5は内外を貫通する欠損を一部に有することが好ましい。当該絶縁電線1は、熱分解したPMMA粒子の分解物がこの欠損を通って外部に放出されることで外殻5内に気孔4を形成することができる。また、当該絶縁電線1は、熱分解したPMMA粒子の分解物がこの欠損を通って樹脂マトリックスを形成する合成樹脂と結合することで絶縁層3の吸水率を低下することができると考えられる。この欠損の形状は、シェルの材質や形状によって変化するが、外殻5による気孔4の連通防止効果を高める観点から、亀裂、割れ目及び孔が好ましい。なお、絶縁層3は、欠損のない外殻5を含んでいてもよい。熱分解したPMMA粒子の分解物のシェル外部への放出条件によってはシェルに欠損が形成されない場合もある。また、絶縁層3は、気孔4の大きさのばらつきを抑える点等からは全ての気孔4の周縁部に外殻5を有することが好ましいが、一部に外殻5に被覆されない気孔4を含んでいてもよい。
【0028】
外殻5の平均厚さの下限としては、特に限定されるものではないが、0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、外殻5の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。外殻5の平均厚さが上記下限に満たないと、気孔4の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。逆に、外殻5の平均厚さが上記上限を超えると、気孔4の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層3の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、外殻5は、1層で形成されていてもよく、複数の層で形成されていてもよい。外殻5が複数の層で形成される場合、上記平均厚さは、複数の層全体の平均厚さを意味する。
【0029】
外殻5は、上記コアよりも熱分解温度が高い材料によって形成される。外殻5は、上述の樹脂マトリックスと同種の材料によって構成されてもよいが、樹脂マトリックスと異なる材料によって構成されてもよい。外殻5の主成分としては、誘電率が低く、耐熱性が高い合成樹脂が好ましく、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。中でも、弾性を高め易く、これにより樹脂ワニス中におけるシェルの分散性を向上し易いと共に、絶縁性及び耐熱性に優れるシリコーンが好ましい。なお、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。また、絶縁性を損なわない範囲で外殻5に金属が含まれてもよい。
【0030】
なお、絶縁層3は、PMMA粒子の熱分解によって形成される気孔4以外の気孔4を有していてもよい。但し、当該絶縁電線1は、絶縁層3の吸水率を低下させる点からは、PMMA粒子の熱分解によって形成される気孔4の割合が多い方が好ましい。このような点から、絶縁層3における全気孔4に対するPMMA粒子の熱分解によって形成される気孔4の割合の下限としては、60%が好ましく、80%がより好ましい。また、上記割合としては、100%が最も好ましい。
【0031】
絶縁層3の主成分としては、例えばポリビニルホルマール、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等が挙げられる。中でも、絶縁層3の強度及び耐熱性を向上させ易いポリアミドイミド及びポリイミドが好ましく、ポリイミドが特に好ましい。ポリイミドは比較的吸水率が高いが、当該絶縁電線1は、絶縁層3がポリイミドを主成分とする場合でもPMMAの分解残渣に起因して絶縁層3の吸水率を十分に低く抑えることができる。なお、「絶縁層の主成分」とは、上記樹脂マトリックスの主成分を意味する。
【0032】
なお、絶縁層3には、上記成分の他、フィラー、酸化防止剤、レベリング剤、硬化剤、接着助剤等の他の成分が添加されていてもよい。
【0033】
絶縁層3の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層3の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。絶縁層3の平均厚さが上記下限に満たないと、絶縁層3に破れが生じ、導体2の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層3の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線1を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0034】
絶縁層全体の気孔率の下限としては、上述のように15体積%であり、25体積%が好ましい。一方、絶縁層全体の気孔率の上限としては、上述のように60体積%であり、50体積%が好ましく、40体積%がさらに好ましい。絶縁層全体の気孔率が上記下限に満たないと、絶縁層全体の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。また、絶縁層全体の気孔率が上記下限に満たないと、PMMA粒子の分解物の放出量が不十分となることで絶縁層全体の吸水率を十分に低下させることができず、高湿度環境下における絶縁層全体の誘電率が高くなるおそれがある。逆に、絶縁層全体の気孔率が上記上限を超えると、絶縁層全体の機械的強度を維持し難くなるおそれがある。
【0035】
絶縁層全体の吸水率の上限としては、2.8%が好ましく、2.3%がより好ましく、2.0%がさらに好ましい。絶縁層全体の吸水率が上記上限を超えると、絶縁層全体の高湿度環境下における低誘電率化を十分に促進することができないおそれがある。一方、絶縁層全体の吸水率の下限としては、特に限定されるものではなく、例えば0%であってもよい。
【0036】
絶縁層3と材質が同一でかつ気孔を含有しない層の誘電率に対する絶縁層3の誘電率の比の上限としては、95%が好ましく、90%がより好ましく、80%がさらに好ましい。上記誘電率の比が上記上限を超えると、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0037】
絶縁層全体におけるPMMAの分解残渣の含有量の下限としては、特に限定されるものではないが、例えば0.001質量%が好ましく、0.01質量%がより好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、絶縁層3の吸水率を十分に低下できないおそれがある。一方、上記含有量の上限としては、特に限定されるものではないが、例えば1質量%とすることができる。
【0038】
<絶縁電線の製造方法>
次に、
図3を参照して、線状の導体2と、この導体2の外周面に積層される絶縁層3とを備える
図1の当該絶縁電線1の製造方法を説明する。当該絶縁電線の製造方法は、導体2の外周側に、PMMA粒子を含有する樹脂ワニスを塗布する塗布工程と、上記塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する加熱工程とを備える。当該絶縁電線の製造方法は、上記PMMA粒子が上記加熱工程による熱分解によって気孔4を形成する。また、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下である。
【0039】
当該絶縁電線の製造方法は、PMMA粒子を含有する樹脂ワニスの導体2の外周側への塗布及び加熱によって導体2の外周面に絶縁層3を積層することができる。当該絶縁電線の製造方法は、上記加熱工程によるPMMA粒子の熱分解によって絶縁層3に気孔が形成されると共に、絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層3の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層3の吸水率を低くすることで、高湿度環境下における絶縁層3の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層3の十分な低誘電率化を実現することができる。当該絶縁電線の製造方法が絶縁層3の吸水率を低くすることができる理由は定かではないが、例えばPMMAの分解物が絶縁層3を形成する材料と結合することで吸水率が低下するものと考えられる。
【0040】
(樹脂ワニス)
まず、当該絶縁電線の製造方法で用いられる樹脂ワニスについて説明する。上記樹脂ワニスとしては、絶縁層3の上記樹脂マトリックスを形成する主ポリマーと、この主ポリマーに分散する中空形成粒子6とを溶剤で希釈したものが用いられる。また、上記樹脂ワニスは、フィラー、酸化防止剤、レベリング剤、硬化剤、接着助剤等の他の成分を含有していてもよい。
【0041】
〈主ポリマー〉
上記主ポリマーとしては、特に限定されないが、例えばポリビニールホルマール前駆体、ポリウレタン前駆体、アクリル樹脂前駆体、エポキシ樹脂前駆体、フェノキシ樹脂前駆体、ポリエステル前駆体、ポリエステルイミド前駆体、ポリエステルアミドイミド前駆体、ポリアミドイミド前駆体、ポリイミド前駆体等の前駆体や、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等が挙げられる。中でも、上記樹脂ワニスの塗布性を向上できると共に、絶縁層3の強度及び耐熱性を向上させ易いポリアミドイミド前駆体及びポリイミド前駆体が好ましく、ポリイミド前駆体が特に好ましい。
【0042】
〈中空形成粒子〉
中空形成粒子6は、
図3に示すように、PMMA粒子によって形成されるコア4aと、コア4aの外周を被覆し、上記PMMA粒子より熱分解温度が高いシェル5aとを有するコアシェル構造体である。
【0043】
PMMA粒子は、絶縁層3の樹脂マトリックスを形成する主ポリマーの焼付温度よりも低い温度で熱分解する。具体的には、PMMA粒子の熱分解温度は、200℃以上400℃以下程度である。なお、熱分解温度とは、空気雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0044】
コア4aの形状は、球状が好ましい。コア4aの形状を球状とするために、例えば球状のPMMA粒子をコア4aとして用いるとよい。球状のPMMA粒子を用いる場合、このPMMA粒子の平均粒子径としては、上述の気孔4の平均径と同様とすることができる。なお、上記PMMA粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0045】
シェル5aの主成分としては、上記PMMA粒子より熱分解温度が高い材料が用いられる。また、シェル5aの主成分としては、誘電率が低く、耐熱性が高いものが好ましい。シェル5aの主成分としては、上述の外殻5の主成分と同様の合成樹脂を用いることができる。
【0046】
シェル5aの主成分は、上記樹脂ワニスに含有される主ポリマーと同種のものを用いてもよいが、シェル又は外殻5の表面におけるPMMA粒子の分解物のラジカル反応を促進する点からは上記主ポリマーと異なる材料によって構成されることが好ましい。
【0047】
シェル5aの平均厚さとしては、上述の外殻5の平均厚さと同様とすることができる。
【0048】
上記主ポリマーに対するPMMA粒子の固形分換算の含有量の下限としては、15体積%が好ましく、25体積%がより好ましい。一方、上記含有量の上限としては、60体積%が好ましく、50体積%がより好ましく、40体積%がさらに好ましい。上記含有量が上記下限に満たないと、PMMA粒子の分解物による絶縁層3の吸水率低減作用が不十分となるおそれがある。逆に、上記含有量が上記上限を超えると、絶縁層3の機械的強度が不十分となるおそれがある。
【0049】
中空形成粒子6のCV値の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。中空形成粒子6のCV値が上記上限を超えると、絶縁層3にサイズが異なる複数の気孔4が含まれるようになるため、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。なお、中空形成粒子6のCV値の下限としては、特に制限はないが、例えば1%が好ましい。中空形成粒子6のCV値が上記下限に満たないと、中空形成粒子6のコストが高くなり過ぎるおそれがある。なお、「CV値」とは、JIS−Z8825:2013に規定される変動係数を意味する。
【0050】
なお、上記樹脂ワニスに含まれる全てのコア4aはPMMA粒子によって構成されることが好ましいが、上記PMMA粒子以外の熱分解性粒子を含むコア4aが存在していてもよい。
【0051】
〈溶剤〉
上記溶剤としては、絶縁電線用樹脂ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類、ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類、ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類、クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類、ピリジンなどの第三級アミン類等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0052】
上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限に満たないと、1回のワニスの塗布で形成できる厚さが小さくなるため、所望の厚さの絶縁層3を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、上記樹脂ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超えると、ワニスが増粘することにより、ワニスの保存安定性が悪化するおそれがある。
【0053】
また、上記樹脂ワニスに、中空形成粒子6に加えて、気孔形成のために他の熱分解性粒子等の気孔形成剤を混合してもよい。また、気孔形成のために、沸点の異なる希釈溶剤を組合せて上記樹脂ワニスを調製してもよい。但し、絶縁層3の吸水率を低下させる点からは、絶縁層3の気孔4はPMMA粒子の熱分解によって形成されることが好ましいため、これら他の気孔形成剤等は調製されない方が好ましい。
【0054】
(塗布工程)
上記塗布工程では、上述の樹脂ワニスを導体2の外周側に塗布する。上記樹脂ワニスを塗布する方法としては、例えば上記樹脂ワニスを貯留した貯留槽と塗布ダイスとを備える塗布装置を用いた方法が挙げられる。この塗布装置によれば、導体2が貯留槽内を挿通することで樹脂ワニスが導体2の外周側に付着し、その後塗布ダイスを通過することでこの樹脂ワニスが略均一な厚さで塗布される。
【0055】
(加熱工程)
上記加熱工程では、上記塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する。上記加熱工程によって、上記樹脂ワニスを導体2の外周側に焼き付けることで、導体2の外周側に絶縁層3が積層される。また、上記加熱工程によって、PMMA粒子が熱分解することで絶縁層3に気孔4が形成される。上記加熱工程における加熱方法としては、特に限定されないが、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法が挙げられる。上記加熱工程における加熱温度としては、通常200℃以上600℃以下である。
【0056】
なお、当該絶縁電線の製造方法では、上記塗布工程及び加熱工程を複数回繰り返して行うことが好ましい。つまり、絶縁層3は、複数の焼付層の積層体として構成されることが好ましい。このように絶縁層3が複数の焼付層の積層体として構成される場合、焼付層毎に気孔4が形成されるので、気孔4の分散性が高まり易い。
【0057】
[第二実施形態]
<絶縁電線>
図4の絶縁電線11は、線状の導体2と、導体2の外周面に積層される複数の絶縁層とを備える。具体的には、当該絶縁電線11は、上記複数の絶縁層として、導体2の外周面に直接積層される第1絶縁層12aと、この第1絶縁層12aの外周面に直接積層される第2絶縁層12bとを備える。当該絶縁電線11において、導体2及び第2絶縁層12bは、
図1の絶縁電線1の導体2及び絶縁層3と同様の構成を有する。また、当該絶縁電線11において、第1絶縁層12aは気孔を有しない。当該絶縁電線11は、絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下であり、第1絶縁層12a及び第2絶縁層12bの少なくとも1層がPMMAの分解残渣を含む。なお、導体2及び第2絶縁層12bの具体的構成は、
図1の絶縁電線1と重複するため説明を省略する。
【0058】
当該絶縁電線11は、第2絶縁層12bが複数の気孔を有し、絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線11は、絶縁層の少なくとも1層がPMMAの分解残渣を含むので、絶縁層の吸水率を低くすることができる。これにより、当該絶縁電線11は、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層の十分な低誘電率化を実現することができる。さらに、当該絶縁電線11は、第2絶縁層12bに加え、気孔を含まない第1絶縁層12aを備えるので、絶縁層全体の絶縁性をより高めることができる。
【0059】
第1絶縁層12aは、当該絶縁電線11の絶縁性を高める。第1絶縁層12aは合成樹脂を主成分とする。上記合成樹脂としては、例えばポリビニルホルマール、ポリウレタン、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルアミドイミド、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン等が挙げられる。中でも、第1絶縁層12aの強度及び耐熱性を向上させ易いポリアミドイミド及びポリイミドが好ましく、ポリイミドが特に好ましい。
【0060】
第1絶縁層12aの平均厚さの下限としては、2μmが好ましく、4μmがより好ましい。一方、第1絶縁層12aの平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。第1絶縁層12aの平均厚さが上記下限に満たないと、第1絶縁層12aによる絶縁性向上効果が十分に得られないおそれがある。逆に、第1絶縁層12aの平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線11を用いたコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0061】
<製造方法>
当該絶縁電線11の製造方法は、導体2の外周側に第1絶縁層12aを積層する第1絶縁層積層工程と、第1絶縁層12aの外周側に第2絶縁層12bを積層する第2絶縁層積層工程とを備える。また、第2絶縁層積層工程は、第1絶縁層12aの外周側にPMMA粒子を含有する樹脂ワニスを塗布する第2塗布工程と、この第2塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する第2加熱工程とを備える。当該絶縁電線の製造方法は、上記PMMA粒子が第2加熱工程による熱分解によって気孔を形成し、絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下である。なお、上記第2塗布工程及び第2加熱工程は、
図1の絶縁電線1の製造方法における塗布工程及び加熱工程と同様に行うことができるため説明を省略する。
【0062】
当該絶縁電線の製造方法は、上記第2加熱工程によるPMMA粒子の熱分解によって絶縁層12bに気孔が形成されると共に、絶縁層全体の気孔率が上記範囲内であるので、低誘電率化を図りつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制することができる。また特に、当該絶縁電線の製造方法は、絶縁層の吸水率を低くすることで、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができ、ひいては湿度環境に拘わらず絶縁層の十分な低誘電率化を実現することができる。さらに、当該絶縁電線の製造方法は、第1絶縁層積層工程を備えるので、絶縁層全体の絶縁性をより高めることができる。
【0063】
(第1絶縁層積層工程)
上記第1絶縁層積層工程は、第1絶縁層12aを形成する樹脂ワニスを導体2の外周側に塗布する第1塗布工程と、上記第1塗布工程で塗布された樹脂ワニスを加熱する第1加熱工程とを有する。上記樹脂ワニスを導体2の外周側に塗布する方法としては、例えば貯留槽及び塗布ダイスを備える上述の塗布装置を用いた方法が挙げられる。また、この樹脂ワニスを加熱する方法としては、例えば熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法が挙げられる。
【0064】
なお、上記第1絶縁層積層工程では、上記第1塗布工程及び第1加熱工程を複数回繰り返して行ってもよい。このように、上記第1塗布工程及び第1加熱工程を複数回繰り返して行うことによって、第1絶縁層12aの厚さを順次増加させ、第1絶縁層12aを所望の厚さに調整し易い。
【0065】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0066】
上記第一実施形態では複数の気孔を有する1層の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線について説明し、第二実施形態では気孔を有しない絶縁層及び複数の気孔を有する絶縁層がこの順で導体の外周側に積層される絶縁電線について説明した。しかしながら、当該絶縁電線は、少なくとも1層の絶縁層が複数の気孔を有する限り、その他の絶縁層の有無及び積層順は特に限定されるものではない。つまり、当該絶縁電線は、導体と複数の気孔を有する絶縁層との間に複数の絶縁層が積層されてもよく、複数の気孔を有する絶縁層の外周面に1又は複数の絶縁層が積層されてもよく、複数の気孔を有する絶縁層の内周面及び外周面の両面に1又は複数の絶縁層が積層されてもよい。
【0067】
当該絶縁電線は、複数の気孔を有する絶縁層を2層以上有していてもよい。この場合、絶縁層全体の気孔率が15体積%以上60体積%以下である限り、各層の気孔が共にPMMA粒子の熱分解によって形成される必要はない。但し、当該絶縁電線は、PMMA粒子の分解物の結合等によって絶縁層の吸水率を低下させることができるため、各層の気孔がそれぞれPMMA粒子の熱分解によって形成されることが好ましい。
【0068】
当該絶縁電線は、上述のようにPMMA粒子の熱分解によって気孔が形成されると共に、このPMMA粒子の熱分解による分解残渣に基づいて絶縁層の吸水率を低下することができるので、気孔を有する絶縁層がPMMAの分解残渣を含むことが好ましい。また、当該絶縁電線は、このPMMA粒子の熱分解に基づく気孔を有する絶縁層と共に、PMMA粒子の熱分解に基づく気孔を有しない他の絶縁層が存在する場合、他の絶縁層もPMMAの分解残渣を含んでいてもよい。当該絶縁電線にあっては、1つの絶縁層でPMMA粒子の熱分解に基づく気孔が形成された際に、このPMMA粒子の熱分解による分解残渣が他の絶縁層に放出され、この他の絶縁層に含まれることが考えられる。さらに、当該絶縁電線は、上記他の絶縁層のみにPMMAの分解残渣が含まれていてもよい。当該絶縁電線は、例えば絶縁層形成時又は絶縁層形成後に外部からPMMAの分解残渣を導入することも可能である。
【0069】
当該絶縁電線は、必ずしも気孔の周縁部に熱分解性コア及びこのコアの外周を被覆するシェルを有する中空形成粒子のシェルに由来する外殻を有しなくてもよい。当該絶縁電線は、例えばシェルを有しないPMMA粒子を含有する樹脂ワニスを用いて絶縁層を形成してもよく、この場合、気孔の周縁部に外殻は形成されない。当該絶縁電線は、気孔の周縁部に外殻を有しない場合でも、PMMA粒子の分解物の結合等によって絶縁層の吸水率を低下させることができる。
【0070】
また、例えば当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0071】
導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0072】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0073】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たないと、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0074】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0075】
[No.1]
まず、銅を鋳造、延伸、伸線及び軟化し、断面が円形で平均径1mmの導体を得た。一方、主ポリマーとしてポリイミド前駆体を用い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を作成した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンであるコア/シェル型複合粒子を用い、上記樹脂組成物に上記中空形成粒子を分散させて樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスを上記導体の外周面に塗布し、線速2.5m/min、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付けることによって絶縁層を積層し、No.1の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。なお、絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は25体積%であった。
【0076】
[No.2]
No.1と同様の樹脂組成物に中空形成粒子としてシェルを有しないPMMA粒子を分散させて樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面に、No.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.2の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は25体積%であった。
【0077】
[No.3]
中空形成粒子の含有量が異なる以外はNo.1と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.3の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は35体積%であった。
【0078】
[No.4]
中空形成粒子の含有量が異なる以外はNo.2と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.4の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。また、この絶縁電線における絶縁層の気孔率は35体積%であった。
【0079】
[No.5,No.7]
中空形成粒子の含有量が異なる以外はNo.1と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.5,No.7の絶縁電線を得た。これらの絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。これらの絶縁電線における絶縁層の気孔率は表1の通りであった。
【0080】
[No.6,No.8]
中空形成粒子の含有量が異なる以外はNo.2と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.6,No.8の絶縁電線を得た。これらの絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。これらの絶縁電線における絶縁層の気孔率は表1の通りであった。
【0081】
[No.9]
中空形成粒子を含有させなかった以外はNo.1と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.9の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣は含まれていなかった。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。
【0082】
<吸水率>
絶縁層の吸水率[%]を、三菱化学株式会社製の電量滴定式水分測定装置 CA−06型を用い、JIS−K7209:2000に準拠して測定した。この測定結果を表1に示す。
【0083】
<比誘電率>
No.1〜No.9の絶縁電線について、絶縁層の比誘電率を測定した。絶縁電線の表面3か所に銀ペーストを塗布した(塗布幅は両端2か所が10mm、中央部分が100mmである)。導体と銀ペースト間の静電容量をLCRメータで測定し、測定した静電容量の値と皮膜の厚みから誘電率を算出した。この測定結果を表1に示す。
【0084】
<部分放電開始電圧>
No.1〜No.9の絶縁電線について、部分放電開始電圧[V]を測定した。具体的には、電線2本を撚り合わせ、2本の絶縁電線の両端に交流電圧を印加する。電圧を10V/secの速度で上げ、50pC以上の放電が3秒間続いたときの電圧を測定値とした。この測定結果を表1に示す。
【0085】
<絶縁破壊電圧>
No.1〜No.9の絶縁電線について、JIS−C3216−5:2011に従い、2個撚り線の線間に交流電圧を加え500V/秒で昇圧し、絶縁破壊したときの電圧[kV]を測定した。なお、絶縁破壊電圧の測定は、n=5で実施し、その平均値を求めた。この測定結果を表1に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
<評価結果>
表1に示すように、中空形成粒子としてコア/シェル型複合粒子を用いたNo.1,No.3,No.5,No.7の絶縁電線及び気孔を有しないNo.9の絶縁電線に関し、気孔を有するNo.1,No.3,No.5及びNo.7の絶縁電線は、気孔を有しないNo.9の絶縁電線よりも比誘電率が低く、低誘電率化が図られており、これにより部分放電開始電圧が高くなっている。また、気孔率が25体積%、35体積%及び43体積%であるNo.1,No.3及びNo.7の絶縁電線は、気孔率が18体積%であるNo.5の絶縁電線及び気孔を有しないNo.9の絶縁電線よりも絶縁層の吸水率が低下しており、高湿度環境下においても絶縁層の含水量が抑制されることが分かる。これにより、No.1,No.3及びNo.7の絶縁電線は、高湿度環境下における絶縁層の含水量の上昇に起因して誘電率が高くなることが抑制されるので、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができることが分かる。また、No.1,No.3及びNo.7の絶縁電線の中でも、絶縁層の気孔率が40体積%以下であるNo.1及びNo.3の絶縁電線は、No.7の絶縁電線よりも絶縁破壊電圧が高くなっており、適用電圧が高い場合でも十分な絶縁性を有することが分かる。
【0088】
一方、中空粒子としてシェルを有しないPMMA粒子を用いたNo.2,No.4,No.6,No.8の絶縁電線及び気孔を有しないNo.9の絶縁電線に関しても、気孔を有するNo.2,No.4,No.6及びNo.8の絶縁電線は、気孔を有しないNo.9の絶縁電線よりも比誘電率が低く、低誘電率化が図られており、これにより部分放電開始電圧が高くなっている。また、気孔率が25体積%、35体積%及び44体積%であるNo.2,No.4及びNo.8の絶縁電線は、気孔率が18体積%であるNo.6の絶縁電線及び気孔を有しないNo.9の絶縁電線よりも絶縁層の吸水率が低下しており、高湿度環境下においても絶縁層の含水量が抑制されることが分かる。これにより、No.2,No.4及びNo.8の絶縁電線は、高湿度環境下における絶縁層の含水量の上昇に起因して誘電率が高くなることが抑制されるので、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができることが分かる。また、No.2,No.4及びNo.8の絶縁電線の中でも、絶縁層の気孔率が40体積%以下であるNo.2及びNo.4の絶縁電線は、絶縁破壊電圧がNo.8の絶縁電線の絶縁破壊電圧以上となっており、適用電圧が高い場合でも十分な絶縁性を有することが分かる。
【0089】
さらに、No.1〜No.4の絶縁電線の中でも、中空形成粒子としてコア/シェル型複合粒子を用いたNo.1及びNo.3の絶縁電線の方が、中空粒子としてシェルを有しないPMMA粒子を用いたNo.2及びNo.4の絶縁電線よりも絶縁層の吸水率が相対的に低くなっており、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化をより促進することができることが分かる。
【0090】
[No.10]
主ポリマーとしてポリアミドイミド前駆体を用い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を作成した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンであるコア/シェル型複合粒子を用い、上記樹脂組成物に上記中空形成粒子を分散させて樹脂ワニスを得た。この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.10の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣が含まれていた。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。この絶縁電線における絶縁層の気孔率、吸水率及び絶縁破壊電圧を表2に示す。
【0091】
[No.11]
中空形成粒子を含有させなかった以外はNo.10と同様の樹脂ワニスを用い、この樹脂ワニスをNo.1と同様の導体の外周面にNo.1と同様の方法で焼き付けることによってNo.11の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層にはPMMAの分解残渣は含まれていなかった。この絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。この絶縁電線における絶縁層の気孔率、吸水率及び絶縁破壊電圧を表2に示す。
【0092】
【表2】
【0093】
<評価結果>
表2に示すように、絶縁層の主成分としてポリイミドに代えてポリアミドイミドを用いた場合でも、絶縁層の気孔率が25体積%であるNo.10の絶縁電線は、絶縁層が気孔を有しないNo.11の絶縁電線よりも吸水率が低下しており、高湿度環境下においても絶縁層の含水量が抑制されることが分かる。これにより、No.10の絶縁電線は、高湿度環境下における絶縁層の含水量の上昇に起因して誘電率が高くなることが抑制されるので、高湿度環境下における絶縁層の低誘電率化を図ることができることが分かる。