(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691058
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】燃焼時の耐ドリップ性に優れたポリアミド系人工毛髪用繊維
(51)【国際特許分類】
A41G 3/00 20060101AFI20200421BHJP
D01F 6/60 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
A41G3/00 A
D01F6/60 331
【請求項の数】14
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-563552(P2016-563552)
(86)(22)【出願日】2015年9月9日
(86)【国際出願番号】JP2015075597
(87)【国際公開番号】WO2016092922
(87)【国際公開日】20160616
【審査請求日】2018年5月25日
(31)【優先権主張番号】特願2014-249015(P2014-249015)
(32)【優先日】2014年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001139
【氏名又は名称】SK特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100130328
【弁理士】
【氏名又は名称】奥野 彰彦
(74)【代理人】
【識別番号】100130672
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 寛之
(72)【発明者】
【氏名】小川 雄大
(72)【発明者】
【氏名】永岡 洪太
(72)【発明者】
【氏名】堀端 篤
(72)【発明者】
【氏名】吉井 茂晴
(72)【発明者】
【氏名】武井 淳
【審査官】
新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/090191(WO,A1)
【文献】
特開2007−332507(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/157561(WO,A1)
【文献】
特開2008−285772(JP,A)
【文献】
特開2012−251256(JP,A)
【文献】
特開2007−297737(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41G 3/00
D01F 6/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリアミド(A)と、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミド(B)と、臭素系難燃剤(C)を含む樹脂組成物からなり、前記臭素系難燃剤(C)の添加量は、前記脂肪族ポリアミド(A)の添加量と前記半芳香族ポリアミド(B)の添加量の合計100質量部に対して3〜30質量部であり、前記脂肪族ポリアミド(A)と半芳香族ポリアミド(B)の混合比率が50質量部/50質量部より99質量部/1質量部の範囲であることを特徴とする人工毛髪用繊維。
【請求項2】
前記脂肪族ポリアミド(A)は、ポリアミド6及びポリアミド66より選択される少なくとも1種を含み、前記半芳香族ポリアミド(B)は、ポリアミド6T及びポリアミド9T及びポリアミド10T及びそれらの変性ポリマーより選択される少なくとも1種を含む請求項1に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項3】
前記脂肪族ポリアミド(A)は、重量平均分子量Mwが6.5万〜15万である、請求項1又は2に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項4】
前記臭素系難燃剤(C)が、臭素化フェノール縮合物、臭素化ポリスチレン系難燃剤、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ系難燃剤、臭素化フェノキシ系難燃剤、臭素化ポリカーボネート系難燃剤および臭素含有トリアジン系化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項5】
前記臭素系難燃剤(C)が、下記化学式(1)で表される化合物構造を含むことを特徴とする請求項1〜
4のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【化1】
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の人工毛髪用繊維であって、
さらに難燃助剤(D)を含む人工毛髪用繊維。
【請求項7】
前記難燃助剤(D)が、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛よりなる群から選ばれた少なくとも1種である請求項6に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項8】
前記難燃助剤(D)が、平均粒子径1〜10μmの範囲である請求項6又は7に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項9】
前記難燃助剤(D)の添加量が、前記脂肪族ポリアミド(A)の添加量と前記半芳香族ポリアミド(B)の添加量の合計100質量部に対して、0.1〜10質量部である請求項6〜8のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載の人工毛髪用繊維であって、
さらに有機微粒子(E)を含む人工毛髪用繊維。
【請求項11】
前記有機微粒子(E)は、架橋ニトリルゴム、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリアミド粒子、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、架橋ポリエチレン樹脂の中から選択された少なくとも1種である請求項10に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項12】
前記有機微粒子(E)が、架橋ニトリルゴムである請求項10又は11に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項13】
前記架橋ニトリルゴムのAN比が30〜50質量%の範囲である請求項12に記載の人工毛髪用繊維。
【請求項14】
前記有機微粒子(E)の添加量が、前記脂肪族ポリアミド(A)の添加量と前記半芳香族ポリアミド(B)の添加量の合計100質量部に対して、3〜30質量部である請求項10〜13のいずれかに記載の人工毛髪用繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、頭部に装脱着可能なかつら、ヘアウィッグ、つけ毛等の人工毛髪に用いられる繊維(以下、単に「人工毛髪用繊維」という。)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、人工毛髪用繊維を構成する素材として、塩化ビニル樹脂がある。これは、人工毛髪用繊維における塩化ビニル樹脂の加工性、低コスト性等が優れているためである。
【0003】
塩化ビニル樹脂を素材とした人工毛髪用繊維は、塩化ビニル樹脂のヘアアイロンなどに対する耐熱性が悪く、100℃以上の温度設定が通常であるヘアアイロンなどでカ−ルを行なった場合、繊維の融着、ちぢれなどが生じ、その結果、繊維のいたみ、切れが発生する場合があった。そのため、耐熱性の高いポリアミドをベースとした人工毛髪用繊維が開発されるようになった。
【0004】
しかしながら、ポリアミドは燃焼時に溶融した樹脂が落下する危険性があり、溶融した樹脂との接触によるヤケドの危険性があることから、燃焼時に溶融ドリップしづらい性能(以下、単に「耐ドリップ性」という。)を付与することが望まれている。
【0005】
特許文献2には、ポリアミドと臭素系難燃剤を含有する樹脂組成物を繊維化した人工毛髪用繊維が開示されている。ポリアミドに臭素系難燃剤を添加することで、ポリアミドの耐ドリップ性が改善されており、ポリアミドを原料とする人工毛髪用繊維が有する問題がある程度が解決されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−156149号公報
【特許文献2】特開2011−246844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
脂肪族ポリアミドを原料とした人工毛髪用繊維は、人毛に似た良好な触感を有しているが、前述のように燃焼時に溶融した樹脂がドリップする危険性があることから、耐ドリップ性を付与することが着用者の安全の観点より望ましい。
ポリアミドに耐ドリップ性を付与しようとする場合、難燃剤を添加することが一般的に行われている。難燃剤としては、臭素系難燃剤やリン系難燃剤、窒素系難燃剤や水和金属化合物などが市販されているが、臭素系難燃剤と難燃助剤の組み合わせが最も燃焼抑制効果が高いとされている。
しかしながら、ポリアミドと臭素系難燃剤は相溶性のない組み合わせのため、溶融混練した場合にポリアミド樹脂中で臭素系難燃剤の分散が不十分となり、繊維形状への加工時に糸切れなどの不具合を起こし、生産性が著しく低下するという問題点があった。
【0008】
そこで、ポリアミド樹脂中での臭素系難燃剤の分散状態を改善し、生産性の高い人工毛髪用繊維の配合処方を確立する必要があった。
【0009】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、人毛に似た良好な触感を有し、かつ耐ドリップ性に優れ、かつ生産性に優れた耐ドリップ性ポリアミド系人工毛髪用繊維を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、少なくとも1種の脂肪族ポリアミドと脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミド、臭素系難燃剤を含む樹脂組成物からなることを特徴とする人工毛髪用繊維が提供される。
【0011】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行っていたところ、脂肪族ポリアミドと脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミド、臭素系難燃剤を含む人工毛髪用繊維は、耐ドリップ性が良好であり、かつ触感に優れ、かつ生産性が良好なポリアミド系人工毛髪用繊維が得られることを見出し、本発明の完成に到った。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本発明の人工毛髪用繊維は、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ポリアミドと脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミド、臭素系難燃剤をそれぞれ少なくとも1種以上含む樹脂組成物からなることを特徴としている。後述する実験例で示すように、上記3種の物質の混合物からなる人工毛髪用繊維は、良好な耐ドリップ性と触感、生産性を有することが分かっている。
【0014】
以下、この人工毛髪用繊維を構成する樹脂組成物について詳細に説明する。
【0015】
<ポリアミド>
本発明の人工毛髪用繊維は、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ポリアミドと脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドをそれぞれ少なくとも1種以上含む。
【0016】
脂肪族ポリアミドは、芳香環を有さないポリアミドであり、脂肪族ポリアミドとして、ラクタムの開環重合によって形成されるn−ナイロンや、脂肪族ジアミンと脂肪族ジカルボン酸の共縮重合反応で合成されるn,m−ナイロンが挙げられる。ラクタムの炭素原子数は、6〜12が好ましく、6がさらに好ましい。脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸の炭素原子数は、それぞれ、6〜12が好ましく、6がさらに好ましい。脂肪族ジアミン及び脂肪族ジカルボン酸は、炭素原子鎖の両末端に官能基(アミノ基又はカルボキシル基)を有するものが好ましいが、官能基は、両末端以外の位置に設けられていてもよい。炭素原子鎖は、直鎖状であることが好ましいが分岐を有していてもよい。脂肪族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6及びポリアミド66が挙げられる。耐熱性の観点からはポリアミド66が好ましい。具体的には、ポリアミド6としては、東レ株式会社製CM1007、CM1017、CM1017XL3、CM1017K、CM1026などが挙げられる。ポリアミド66としては、東レ株式会社製CM3007、CM3001−N、CM3006、CM3301L、デュポン株式会社製ザイテル101、ザイテル42A、旭化成ケミカルズ株式会社製レオナ1300S、1500、1700などが挙げられる。
【0017】
脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、及びそれらをベースに変性用モノマーを共重合させた変性ポリアミド6T、変性ポリアミド9T、変性ポリアミド10Tが挙げられる。中でも、溶融成型のし易さの点からはポリアミド10Tが好ましい。脂肪族ジアミンの炭素数は、6〜10が好ましく、10がより好ましい。脂肪族ジアミンは、炭素原子鎖の両末端にアミノ基を有するものが好ましいが、アミノ基は、両末端以外の位置に設けられていてもよい。炭素原子鎖は、直鎖状であることが好ましいが分岐を有していてもよい。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸などが挙げられるが、このうち、テレフタル酸が最も好ましい。
【0018】
具体的には、ポリアミド6Tおよびその変性ポリマーとしては、エボニック社製VESTAMID HP Plus M1000、三井化学社製アーレンなどが挙げられる。ポリアミド9Tおよびその変性ポリマーとしては、クラレ社ジェネスタが挙げられる。ポリアミド10Tおよびその変性ポリマーとしては、エボニック社製VESTAMID HO Plus M3000、エムスケミー社製Grivoryなどが挙げられる。
【0019】
前記脂肪族ポリアミドと、前記半芳香族ポリアミドの混合比率は、好ましくは50質量部/50質量部より99質量部/1質量部の範囲であり、さらに好ましくは70質量部/30質量部より90質量部/10質量部の範囲である。上記の範囲よりも半芳香族ポリアミドの割合が少ない場合は、半芳香族ポリアミドの添加による生産性の改善の効果が低くなることが分かっている。また、前述のように脂肪族ポリアミドからなる人工毛髪用繊維は、人毛に似た良好な触感を有しているが、上記の範囲よりも半芳香族ポリアミドの割合が多い場合は、触感が低下することが分かっている。
【0020】
脂肪族ポリアミドの重量平均分子量(Mw)は、例えば6.5万〜15万である。Mwが6.5万以上になると耐ドリップ性が特に良好になる一方、Mwが15万を越えた場合には、材料の溶融粘度が上昇し、繊維化する際の加工性が劣るため、15万以下が好ましい。耐ドリップ性や加工性のバランスを考慮すると、更に好ましくは、Mwが7万〜12万である。
【0021】
<臭素系難燃剤>
本発明の人工毛髪用繊維は、臭素系難燃剤を少なくとも1種以上含む。難燃剤の添加量は、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドの添加量の合計100質量部に対して3〜30質量部が好ましく、より好ましくは10〜30質量部である。上記の範囲において、耐ドリップ性付与の効果と加工性のバランスが良好であるからである。
【0022】
臭素系難燃剤としては、例えば臭素化フェノール縮合物、臭素化ポリスチレン樹脂、臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化ポリカーボネート樹脂および臭素含有トリアジン系化合物が挙げられる。具体的には、臭素化フェノール縮合物としては、第一工業製薬株式会社社製SR−460Bが挙げられる。臭素化ポリスチレン樹脂としては、アルベマール社製HP−7010やHP−3010、マナック株式会社製PS900やPL1200、ケムチュラ社製PDBS−80やPBS−64HW、鈴裕化学社製FCP−8000、FCP−8000STなどが挙げられる。臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤としては、ICL社製FR−1025が挙げられる。臭素化エポキシ樹脂としては、阪本薬品工業株式会社製SRT−20000、SRT−5000、SRT−2000、SRT−7040、SRT−3040、またはICL社製F−2100、F−2300H、F−2400、F−2400Hなどが挙げられる。臭素化フェノキシ樹脂としては、新日鉄住金化学株式会社製YPB−43CまたはYPB−43Mが挙げられる。臭素化ポリカーボネート樹脂としては、帝人株式会社製ファイヤーガード7000、ファイヤーガード7500、ファイヤーガード8500などが挙げられる。臭素含有トリアジン系化合物としては、第一工業製薬株式会社社製SR−245が挙げられる。それらの中でも、耐ドリップ性、加工性、原糸の透明性等のバランスを考慮すると、以下(1)に示す構造式を含む臭素化エポキシ樹脂、または臭素化フェノキシ樹脂が好ましい。
【0023】
【化1】
【0024】
<難燃助剤>
本発明の人工毛髪用繊維は、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミド及び臭素系難燃剤に加えて、難燃助剤を含むことで更に耐ドリップ性と自己消火性が向上するので好ましい。難燃助剤としては、例えば三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛が挙げらる。中でも耐ドリップ性と原糸の透明性のバランスから、三酸化アンチモンが好ましい。
【0025】
難燃助剤の添加量は、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドの添加量の合計100質量部に対して0.1〜10質量部が好ましく、より好ましくは1〜5質量部である。上記の範囲において、耐ドリップ性や自己消火性、加工性や原糸の透明性のバランスが最も良好であるからである。上記範囲よりも多量に添加すると原糸の透明性や加工性が低下し、上記範囲よりも添加量が少ない場合は耐ドリップ性と自己消火性の向上効果が小さい。
【0026】
難燃助剤は、原糸の透明性および加工性の観点より平均粒子径1〜10μmの範囲であることが好ましく、平均粒子径3〜8μmの範囲であることがさらに好ましい。なお、本明細書において、「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0027】
難燃助剤は、三酸化アンチモン、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、ホウ酸亜鉛、錫酸亜鉛よりなる群から複数の種類を組み合わせて添加する、あるいは2種以上の複合物であってもよい。
【0028】
<有機微粒子>
本発明の人工毛髪用繊維は、有機微粒子をさらに添加することで、より低光沢性が向上し、より人毛に似た外観にすることが可能になる。
【0029】
有機微粒子としては、例えば、架橋ニトリルゴム、架橋アクリル樹脂、架橋ポリエステル、架橋ポリアミド、架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン樹脂、架橋ポリエチレン樹脂が挙げられる。これらの中でも、架橋ニトリルゴムが好ましい。本発明者らによる実験によれば、繊維の低光沢化を目的に、樹脂組成物に有機、あるいは無機微粒子等を含有させた場合、繊維の延伸後に繊維が白化する傾向がある為、樹脂組成物に所定の着色を施す場合には、添加する着色剤の数量の上昇が余儀なくさせられる場合がある。しかしながら、架橋ニトリルゴムからなる有機微粒子を添加した場合はこのような白化が抑制されるからである。
【0030】
架橋ニトリルゴムのAN比は30〜50質量%の範囲が好ましい。上記範囲の架橋ニトリルゴムを添加した場合に、人工毛髪用繊維の加工性が特に良好であるからである。
【0031】
有機微粒子の添加量は、有機微粒子による低光沢化の効果と他の諸特性とのバランスを考慮して、脂肪族ポリアミドおよび半芳香族ポリアミドの添加量の合計100質量部に対して3〜30質量部が好ましく、さらに好ましくは5〜20質量部である。
【0032】
有機微粒子の平均粒子径は、0.05〜15μmが好ましく、0.05〜10μmがより好ましく、0.05〜5μmがさらに好ましい。この範囲であれば、光沢や艶の調節効果が十分に大きく、かつ、微粒子添加による繊維強度の低下が生じ難いからである。
【0033】
<その他の添加剤>
本実施形態で用いられる樹脂組成物には、ポリアミドに加え、必要に応じて添加剤、例えば、耐熱剤、光安定剤、蛍光剤、酸化防止剤、静電防止剤、顔料、染料、可塑剤、潤滑剤等を含有させることができる。顔料、染料等の着色剤を含有させることにより、予め着色された繊維(いわゆる原着繊維)を得ることができる。
【0034】
<製造工程>
以下に、人工毛髪用繊維の製造工程の一例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0035】
まず、上述した脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミド、および臭素系難燃剤を溶融混練する。溶融混練するための装置としては、種々の一般的な混練機を用いることができる。溶融混練としては、たとえば一軸押出機、二軸押出機、ロール、バンバリーミキサー、ニーダーなどがあげられる。これらのうちでは、二軸押出機が、混練度の調整、操作の簡便性の点から好ましい。人工毛髪用繊維は、ポリアミドの種類により適正な温度条件のもと、通常の溶融紡糸法で溶融紡糸することにより製造することができる。
【0036】
脂肪族ポリアミドとしてポリアミド66、半芳香族ポリアミドとしてポリアミド10Tを80質量部/20質量部の割合で用いた場合は、押出機、口金、必要に応じてギヤポンプなどの溶融紡糸装置の温度を270〜310℃として溶融紡糸し、冷却用の水を入れた水槽で冷却し、繊度のコントロールを実施しながら、引き取り速度を調整して、未延伸糸が得られる。溶融紡糸装置の温度は、脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドの添加量の割合に応じて、適宜調整することができる。また、水槽による冷却に関らず、冷風での冷却による紡糸も可能である。冷却水槽の温度、冷風の温度、冷却時間、引取速度は、吐出量及び口金の孔数によって適宜調整することができる。
【0037】
溶融紡糸の際、単純な円形のみならず、ノズル孔が特殊形状の紡糸ノズルを用い、人工毛髪繊維の断面形状を繭型、Y型、H型、X型、花びら型等の異形にすることもできる。
【0038】
得られた未延伸糸は、繊維の引張強度を向上させるために延伸処理を行う。延伸処理は、未延伸糸を一旦ボビンに巻き取ってから溶融紡糸工程とは別の工程にて延伸する2工程法や、ボビンに巻き取ることなく溶融紡糸工程から連続して延伸する直接紡糸延伸法のいずれの方法によってもよい。また、延伸処理は、1度で目的の延伸倍率まで延伸する1段延伸法、又は2回以上の延伸によって目的の延伸倍率まで延伸する多段延伸法で行なわれる。熱延伸処理を行なう場合における加熱手段としては、加熱ローラ、ヒートプレート、スチームジェット装置、温水槽などを使用することができ、これらを適宜併用することもできる。
【0039】
本実施形態の人工毛髪用繊維の繊度は、10〜150dtexが好ましく、好ましくは30〜150dtexであり、より好ましくは35〜120dtexである。
【実施例】
【0040】
次に、本発明による人工毛髪用繊維の実施例を、比較例と対比しつつ表を用いて、詳細に説明する。次に、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
吸湿率が1000ppm未満になる様に乾燥した脂肪族ポリアミド樹脂および半芳香族ポリアミド樹脂、及び臭素系難燃剤を表1〜表5の実施例、比較例にある配合比になる様にブレンドを行った。表1〜表5中のポリアミド及び難燃剤、難燃助剤および有機微粒子に関する配合量についての数値は、質量部を表す。ブレンドした材料は、φ30mm二軸押出機を用いて混練し、紡糸用の原料ペレットを得た。
【0042】
ついで、吸水率が1000ppm以下になる様にペレットを除湿乾燥した後、φ40mm単軸溶融紡糸機を用いて紡糸し、穴径0.5mm/本のダイスから排出した溶融樹脂を、約30℃の水槽を通して冷却しながら、吐出量と巻き取り速度を調整し、設定繊度の未延伸糸を作成した。φ40mm溶融紡糸機の設定温度は、脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドの添加量の割合および臭素系難燃剤の添加量に応じて、適宜調整した。
【0043】
得られた未延伸糸を100℃で延伸し、その後、150℃〜200℃でアニールを行い、所定維度の人工毛髪用繊維を得た。延伸倍率は3倍、アニール時の弛緩率は0.5〜3%にて行った。アニール時の弛緩率とは、(アニール時の巻き取りローラの回転速度)/(アニール時の送り出しローラの回転速度)で算出される値である。
【0044】
得られた人工毛髪用繊維について、後述する評価方法及び基準に従って光沢、自己消火性、耐ドリップ性、触感、加工性および透明性の評価を行った。その結果を表1〜表5に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
表1〜表5にある素材は、以下のものを採用した。
ポリアミド66(重量平均分子量50000):東レ株式会社製、アミランCM3001−N
ポリアミド66(重量平均分子量65000):旭化成ケミカルズ株式会社製、レオナ1500
ポリアミド66(重量平均分子量90000):デュポン社製、Zytel 42A
ポリアミド66(重量平均分子量120000):自社製
ポリアミド6(重量平均分子量90000):自社製
ポリアミド10T:ダイセルエボニック社製、VESTAMID HO Plus M3000
ポリアミド9T:クラレ社製、ジェネスタ N1000A−M42
ポリアミド6T:ダイセルエボニック社製、VESTAMID HP Plus M1000
ポリアミドMXD6:三菱ガス化学社製、S6007
臭素化エポキシ樹脂:阪本薬品工業株式会社製、SRT−20000
臭素化ポリスチレン樹脂:アルベマール社製、HP−7020
臭素化フェノキシ樹脂:新日鉄住金化学株式会社製、YPB−43C
臭素化フェノール縮合物:第一工業製薬社製、ピロガードSR−460B
臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤:ICL−IP社製、FR−1025
臭素含有トリアジン系化合物:第一工業製薬社製、ピロガードSR−245
三酸化アンチモン(平均粒子径0.5μm):日本精鉱株式会社製、PATOX−M
三酸化アンチモン(平均粒子径1.2μm):日本精鉱株式会社製、PATOX−K
三酸化アンチモン(平均粒子径3μm):日本精鉱株式会社製、PATOX−P
三酸化アンチモン(平均粒子径8μm):日本精鉱株式会社製、PATOX−L
三酸化アンチモン(平均粒子径10μm):自社製
三酸化アンチモン(平均粒子径12μm):自社製
四酸化アンチモン(平均粒子径4μm):山中産業株式会社製、ATE−S
五酸化アンチモン(平均粒子径3〜5μm):日産化学株式会社製、サンエポック NA−1030
アンチモン酸ナトリウム(平均粒子径4μm):日本精鉱株式会社製、SA−A
ホウ酸亜鉛(平均粒子径3μm):自社製
錫酸亜鉛(平均粒子径3μm):自社製
架橋ニトリルゴム(AN比25質量%):JSR社製 N240S
架橋ニトリルゴム(AN比35質量%):中国石化社製、ナーポVP−402
架橋ニトリルゴム(AN比45質量%):ランクセス社製、BAYMOD N XL38.43
架橋シリコーン樹脂:東レダウコ−ニング株式会社製、EP5500
架橋アクリル樹脂:綜研化学株式会社製、KMR−3TA
【0051】
表1〜表5の重量平均分子量(Mw)は、以下の方法で測定した。
【0052】
<重量平均分子量Mw>
下記設備、条件による測定により重量平均分子量Mwを求めた。
使用装置 : ポンプ・・shodexDS-4
カラム・・shodex GPC HFIP-806M×2 + HFIP-803
検出器・・shodex RI-71
溶離液 : ヘキサフルオロイソプロパノ−ル(+添加剤CF3COONa(5mmol/L))
前処理: メンブレンフィルタ−(0.2μm)で濾過
濃度 : 0.2w/v%
注入量 : 100μL
カラム温度 : 40℃
流速 : 1.0ml/min.
標準物質: 標準ポリメチルメタクリレ−ト(PMMA)
検量線は標準PMMAで作成し、重量平均分子量はPMMA換算値で表した。
【0053】
表1〜表5中の各評価項目についての評価方法とその基準は、以下の通りである。
【0054】
<光沢>
光沢の評価は、目視にて実施した。
長さ20cm、3000本にまとめた人工毛髪用繊維束を用い、太陽光の下で観察し、下記の評価基準に従って、判定を行った
◎: 人毛と同様な光沢感を有する
○: 人毛と比較すると差異が認められるが、概ね人毛に近い光沢を有する
△: 細かく比較すると人毛との差異が認められるが、概ね人工毛髪用繊維としての使用に耐えうる光沢を有する
×: 一見して、人毛と光沢感に差異が認められる
××: 一見して、光沢感が人毛と異なり、かつ合成繊維特有の光沢感が目立つ
【0055】
<燃焼性(自己消火性、耐ドリップ性)>
燃焼性の評価は、「自己消火性」、「耐ドリップ性」とで実施した。両評価共に、人工毛髪用繊維を30cmの長さに裁断し、かつ2gになる様な本数に取りわけた繊維束サンプルを使用した。この繊維束の一端を固定して垂直にたらし、その下端に長さ20mmの炎を5秒間接触させた後、離した後の延焼時間、またその間にドリップした回数をそれぞれ測定して、下記の判定を行った。結果は、3回測定した結果の平均値を使用した。
【0056】
(自己消火性)
◎: 延焼時間が1秒以内
○: 延焼時間が2秒以上5秒未満
△: 延焼時間が6秒以上10秒未満
×: 延焼時間が10秒以上20秒未満
××: 延焼時間が20秒以上
【0057】
(耐ドリップ性)
◎: ドリップ数が0
○: ドリップ数が1回以上2回未満
△: ドリップ数が3回以上5回未満
×: ドリップ数が6回以上10回未満
××: ドリップ数が10回以上
【0058】
<触感>
触感は、実施例・比較例の人工毛髪用繊維を長さ200mm、重量1.0gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)10人の手触りによる判定で、次の評価基準で評価した。
◎: 技術者10人全員が、触感が良いと評価したもの
○: 技術者の8人又は9人が、触感が良いと評価したもの
△: 技術者の5人以上7人以下が、触感が良いと評価したもの
×: 技術者の2人以上4人以下が、触感が良いと評価したもの
××: 技術者の1人以下が、触感が良いと評価したもの
【0059】
<加工性>
未延伸糸100本束を延伸倍率3倍で延伸する際に、延伸中に発生する糸切れの回数による判定で、次の評価基準で評価した。
◎: 糸切れが0回/30分
○: 糸切れが1回以上3回未満/30分
△: 糸切れが3回以上10回未満/30分
×: 糸切れが10回以上20回未満/30分
××: 糸切れが20回以上/30分
【0060】
<透明性>
透明性は、実施例・比較例の人工毛髪用繊維を長さ200mm、重量1.0gに束ね、人工毛髪用繊維処理技術者(実務経験5年以上)が目視により人毛と比較評価を行い、次の評価基準で評価した。
◎: 人毛と同様な透明性を有する
○: 人毛と比較すると差異が認められるが、概ね人毛に近い透明性を有する
△: 細かく比較すると人毛よりも若干の白濁が認められるが、概ね人工毛髪用繊維としての使用に耐えうる透明性を有する
×: 一見して、明らかに白濁しており、人毛との差異が認められる
××: 一見して、明らかに白濁しており、人工毛髪用繊維としての使用に耐えない
【0061】
<考察>
上記実施例及び比較例に示すように、脂肪族ポリアミドと、脂肪族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を縮合重合した骨格を持つ半芳香族ポリアミドと、臭素系難燃剤とを含む樹脂組成物を原料とすることで、燃焼時の耐ドリップ性と優れた触感、生産性を併せ持つ人工毛髪用繊維が得られることが分かった。
さらに、難燃助剤を適量添加することによって、燃焼時の耐ドリップ性と自己消火性を一層向上でき、さらに有機微粒子を適量添加することによって光沢を人毛に一層近づけることができることが分かった。
【0062】
実施例及び比較例をより詳細に分析すると、以下の通りである。
実施例1〜3を比較すると、半芳香族ポリアミドの中でも、ポリアミド10T又はポリアミド6Tを配合した場合に触感が特に良好になり、ポリアミド10Tを用いた場合に耐ドリップ性及び加工性が特に良好になることが分かった。
実施例1及び4〜10を比較すると、脂肪族ポリアミドの配合量が50質量部以上の場合に触感が特に良好になり、半芳香族ポリアミドの配合量が10質量部以上の場合に加工性が特に良好になることが分かった。
実施例1及び11〜13を比較すると、脂肪族ポリアミドの重量平均分子量が6.5万以上の場合、耐ドリップ性が特に良好になることが分かった。
実施例1及び実施例14を比較すると、脂肪族ポリアミドとしてポリアミド66とポリアミド6の何れを配合した場合でも同様の評価結果が得られることが分かった。
実施例1及び15〜20を比較すると、臭素系難燃剤として、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレン樹脂、又は臭素化フェノキシ樹脂を用いた場合に加工性が特に良好になり、臭素化エポキシ樹脂、臭素化フェノキシ樹脂、臭素化フェノール縮合物、又は臭素化ベンジルアクリレート系難燃剤を用いた場合に透明性が特に良好になり、臭素化エポキシ樹脂又は臭素化フェノキシ樹脂を用いた場合に加工性及び透明性の両方が特に良好になることが分かった。実施例で用いた臭素化エポキシ樹脂と臭素化フェノキシ樹脂はどちらも化学式(1)で表される構造式を有していることから、化学式(1)の構造を有する臭素系難燃剤を配合することが最も好ましいことが分かった。
実施例21〜26を比較すると、臭素系難燃剤の配合量が3質量部以上の場合に自己消火性が良好になり、30質量部以上の場合に自己消火性が特に良好になることが分かった。また、臭素系難燃剤の配合量が10質量部以上の場合に光沢が特に良好になることが分かった。また、臭素系難燃剤の配合量が30質量部以下の場合に加工性が良好になり、20質量部以下の場合に加工性が特に良好になることが分かった。
実施例27〜32を比較すると、難燃助剤として三酸化アンチモンを配合した場合に透明性及び耐ドリップ性が特に良好になることが分かった。さらに、実施例27及び33〜37を比較すると、難燃助剤の平均粒子径が1〜10μmに場合に透明性が良好になり、3〜8μmである場合に透明性が特に良好になることが分かった。さらに、実施例27及び38〜42を比較すると、難燃助剤の配合量が0.1〜10質量部の場合に触感及び透明性が良好になり、1〜5質量部の場合に加工性及び耐ドリップ性が特に良好になることが分かった。
実施例43〜47を比較すると、有機微粒子として、AN比が30〜50質量%である架橋ニトリルゴムを用いた場合に透明性及び加工性が特に良好になることが分かった。実施例43及び48〜51を比較すると、有機微粒子の配合量が3〜30質量部である場合に、光沢、加工性、及び自己消火性が特に良好になることが分かった。
【0063】
また、臭素系難燃剤を配合しなかった比較例1〜5では、耐ドリップ性が劣っていた。半芳香族ポリアミドを配合しなかった比較例6〜8では、加工性が劣っていた。さらに、比較例9では、半芳香族ポリアミドとして、脂肪族ジカルボン酸と芳香族ジアミンを縮合重合した骨格を有するポリアミドMXD6を配合したが、加工性は良好ではなかった。これらの結果から、特定の骨格を持つ半芳香族ポリアミドを配合することが加工性を向上させるために必須であることが分かった。