(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691206
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】抗菌力を有する真空蒸着用撥水型ナノコーティング剤及びそれを用いたコーティング方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20200421BHJP
C23C 14/12 20060101ALI20200421BHJP
C03C 17/30 20060101ALI20200421BHJP
C09K 3/18 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
C23C14/24 E
C23C14/12
C03C17/30 B
C09K3/18 104
C09K3/18 102
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-500258(P2018-500258)
(86)(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公表番号】特表2018-513920(P2018-513920A)
(43)【公表日】2018年5月31日
(86)【国際出願番号】KR2016002765
(87)【国際公開番号】WO2016153230
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2017年9月19日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0038820
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517328387
【氏名又は名称】セコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000752
【氏名又は名称】特許業務法人朝日特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム ヒョンジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム ホンチュル
(72)【発明者】
【氏名】キム ジョンレイ
(72)【発明者】
【氏名】シン ミエ
(72)【発明者】
【氏名】イ ハナ
(72)【発明者】
【氏名】イ スヨン
【審査官】
末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−040338(JP,A)
【文献】
特開平10−109906(JP,A)
【文献】
特開2005−015472(JP,A)
【文献】
特開2015−030874(JP,A)
【文献】
特開2001−049181(JP,A)
【文献】
特開2009−191101(JP,A)
【文献】
特開2013−136833(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C03C 15/00−23/00
C09K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物;及び
抗菌物質;
を含み、
前記フッ素系重合体が、過フッ素化ポリエーテル、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、ヘキサフルオロプロピレン重合体、塩化三フッ化エチレン重合体及びこれらの組み合わせから選ばれる
真空蒸着乾式抗菌コーティング剤。
【請求項2】
前記フッ素系重合体と前記機能性有無機シラン化合物が、前記抗菌物質の存在下に重縮合される
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤。
【請求項3】
前記フッ素系重合体と前記機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物に前記抗菌物質が投入され、分散され、互いに混合される
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤。
【請求項4】
前記機能性有無機シラン化合物が、
アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノ−メトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、ジ−、トリ−又はテトラアルコキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルエポキシシラン、ビニルトリエポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、クロロトリメチルシラン、トリクロロエチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、トリクロロビニルシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファイド、(メタクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン及びこれらの組み合わせから選ばれる
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤。
【請求項5】
前記抗菌物質が、天然素材又はその抽出物、抗菌性高分子化合物及びこれらの組み合わせから選ばれる
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤。
【請求項6】
前記抗菌物質が、キトサン、ペオノール又はこれらの組み合わせである
ことを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤。
【請求項7】
a)フッ素系重合体、機能性有無機シラン化合物及び抗菌物質を含む混合物を製造する工程;及び
b)前記混合物を重縮合反応させる工程;
を含み、
前記フッ素系重合体が、過フッ素化ポリエーテル、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、ヘキサフルオロプロピレン重合体、塩化三フッ化エチレン重合体及びこれらの組み合わせから選ばれる
真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法。
【請求項8】
i)フッ素系重合体及び機能性有無機シラン化合物を含む混合物を製造する工程;
ii)前記混合物を重縮合反応させる工程;及び
iii)前記重縮合反応の生成物に抗菌物質を投入し、分散し、混合する工程;
を含み、
前記フッ素系重合体が、過フッ素化ポリエーテル、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、ヘキサフルオロプロピレン重合体、塩化三フッ化エチレン重合体及びこれらの組み合わせから選ばれる
真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法。
【請求項9】
フッ素系重合体が、過フッ素化ポリエーテル、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、ヘキサフルオロプロピレン重合体、塩化三フッ化エチレン重合体及びこれらの組み合わせから選ばれ、
機能性有無機シラン化合物が、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノ−メトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、ジ−、トリ−又はテトラアルコキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルエポキシシラン、ビニルトリエポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、クロロトリメチルシラン、トリクロロエチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、トリクロロビニルシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファイド、(メタクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン及びこれらの組み合わせから選ばれ、
前記抗菌物質が、天然素材又はその抽出物、抗菌性高分子化合物及びこれらの組み合わせから選ばれる
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法。
【請求項10】
前記重縮合反応が、不活性ガス下の100〜200℃温度で還流反応によって行われる
ことを特徴とする請求項7又は8に記載の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法。
【請求項11】
1)コーティングされる基材を提供する工程;及び
2)前記基材表面に、請求項1〜6のいずれか1項に記載の乾式抗菌コーティング剤を真空蒸着させる工程;
を含み、
前記フッ素系重合体が、過フッ素化ポリエーテル、フッ化ビニリデン重合体、テトラフルオロエチレン重合体、ヘキサフルオロプロピレン重合体、塩化三フッ化エチレン重合体及びこれらの組み合わせから選ばれる
基材のコーティング方法。
【請求項12】
前記基材が、ガラス、プラスチック又は金属素材である
ことを特徴とする請求項11に記載の基材のコーティング方法。
【請求項13】
前記乾式抗菌コーティング剤が、前記基材表面上に直接真空蒸着されるか、前記基材表面に予め形成された無機物又は酸化物層上に真空蒸着される
ことを特徴とする請求項11に記載の基材のコーティング方法。
【請求項14】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の乾式抗菌コーティング剤の真空蒸着コーティング層を表面に有する
ことを特徴とするコーティングされた物品。
【請求項15】
前記物品が、タッチ型ディスプレイを有するスマート機器、生活家電、自販機、共用双方向情報機器、タッチ可能な外装電子製品、又はその部品である
ことを特徴とする請求項14に記載のコーティングされた物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性と撥水/撥油性を同時に実現する機能性コーティング剤、その製造方法及びそれを用いたコーティング方法に関し、詳しくは、タッチ型ディスプレイのようなスマート機器などの衛生的な使用のために撥水/撥油性ナノコーティングに抗菌性を付与するコーティング剤の製造及び真空蒸着装備を利用したコーティング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来には、タッチ型ディスプレイ(スマートフォン、タブレットPC、スマートウオッチなど)のスマート機器の使用率の急激な増加とともに衛生問題の深刻性が台頭しており、抗菌に対する関心が高まっている。しかし、現在、適用されている指紋防止コーティングには、抗菌機能がなく、使用者がよく触る部分であるタッチスクリーンウインドウに抗菌機能を付与することができる技術開発が急務である。
【0003】
現在、発売されているスマートフォンウインドウ(タッチスクリーン)には、薄膜(数十nm)の指紋防止コーティング(又は汚染防止コーティング)が施されている。指紋防止コーティングは、フッ素系化合物を用いて、撥水/撥油の特性を表面に付与することになるが、これは、表面エネルギーを低くし、指紋及び外部汚染物質とコーティングされた表面との接触面積を小さくし、汚染物の付着を最小化し、付着してもよく拭き取れる特性を有している。
【0004】
このような薄い膜を形成するためには、殆ど“真空蒸着”というコーティング方法を使用することになるが、真空蒸着を利用したコーティング(表面改質)は、非常に短時間にターゲット(コーティング剤)に高温の熱源を加えて、コーティングが進むので、コーティング膜の質が非常に優れ、薬品損失量が少なく、光学特性を阻害しないナノサイズの薄膜コーティングが可能である。
【0005】
市中には、無機物(Ti系列)を用いた抗菌コーティングが多く知られてはいるが、殆ど湿式方式を利用しており、国内外の真空蒸着用機能性コーティング剤生産業メーカーのうち、抗菌性を有する薬品生産メーカーが皆無の状況である。真空蒸着を利用した無機物コーティングの場合、発火温度が高く、コーティング可能な母材に制限(コーティング素材が温度に敏感である−強化ガラス、プラスチックなど)があるだけでなく、無機物又は金属コーティングにより素材そのものの表面が変色して、光学的特性が阻害される問題が発生する。
【0006】
特許文献1は、抗菌作用をするナノ技術を応用した真空蒸着システムを開発及び活用する技術に関するものであり、ここでは、牧草材(ハリギリ、ハルニレ、ウメなど)を使用して、抗菌作用を実現しようとしたが、その抗菌機能が不足して、持続力が維持され難い問題があり、また、撥水/撥油性及びスリップ性のような機能性が具現され難い問題があった。
【0007】
特許文献2には、テレビ外部表面に抗菌性薬物を含むコーティング剤を塗布、被膜して、微生物の成長を抑制する技術が開示されているが、これもまた、撥水/撥油性及びスリップ性のような機能性が具現され難い問題があった。
【0008】
特許文献3は、タッチパネルや携帯電話の表面に利用可能なガラス基板、プラスチック等上に、真空蒸着、スパッタリングなどの手法で酸化亜鉛薄膜を形成させることを特徴とする抗菌性材料及びその製造方法を開示しているが、これもまた、撥水/撥油性及びスリップ性のような機能性が具現され難い問題があり、また、金属薄膜によって光学特性が低下される問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国特許出願番号 第10−2002−0066286号
【特許文献2】米国公開特許公報 US2011/0025933号
【特許文献3】日本特許出願番号 第2007−322624号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のような問題点を解決するために、本発明は、タッチ型ディスプレイコーティング方法である真空蒸着方式を適用して、撥水/撥油及び抗菌性を同時具現可能であり、耐久性及び光学特性を全部満足させ得るコーティング組成物を提供し、スマート電子機器及び生活家電の使用時、やわらかいタッチ感を有し、指紋などの汚染を簡単に除去することができると同時に、菌に対する汚染から安心して使用できるようにしようとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の第1側面は、フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物;及び抗菌物質;を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤を提供する。
【0012】
本発明の第1側面の一具体例によれば、前記フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物は、前記抗菌物質の存在下に重縮合される。
【0013】
本発明の第1側面の他の具体例によれば、前記フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物に、前記抗菌物質が投入され、分散され、互いに混合される。
【0014】
本発明の第2側面によれば、a)フッ素系重合体、機能性有無機シラン化合物及び抗菌物質を含む混合物を製造する工程;及びb)前記混合物を重縮合反応させる工程;を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法が提供される。
【0015】
本発明の第3側面によれば、i)フッ素系重合体及び機能性有無機シラン化合物を含む
混合物を製造する工程;ii)前記混合物を重縮合反応させる工程;及びii)前記重縮合
反応の生成物に抗菌物質を投入し、分散して、混合する工程;を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法が提供される。
【0016】
本発明の第4側面によれば、1)コーティングされる基材を提供する工程;及び2)前記基材表面に本発明の乾式抗菌コーティング剤を真空蒸着させる工程;を含む基材のコーティング方法が提供される。
【0017】
本発明の第5側面によれば、本発明の乾式抗菌コーティング剤の真空蒸着コーティング層を表面に有することを特徴とするコーティングされた物品が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤は、表面水接触角が115°以上であり、優れた撥水及び撥油性を示し、耐指紋性(AF;anti-fingerprint)、耐久性及び光学特性(透過率)に優れると同時に、卓越した抗菌機能を示す。特に、優れた耐摩耗性(消しゴム耐摩耗試験で、初期接触角対比テスト後の接触角変化程度が15°以内)を示し、初期抗菌力が99.9%の優れた抗菌効果を示し、ガラス、プラスチック及び金属など多様な素材にも適用でき、携帯電話、タブレットPCなどのタッチ型ディスプレイを有するスマート機器、生活家電及びその他の電子製品又はこれらの部品などの表面コーティング用途に特に適宜使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の抗菌コーティング剤でコーティングされた基材の断面を概略的に示した図であり、左側図は基材(substrate)上に直接抗菌AFコーティング層が形成されたものであり、右側図は基材と抗菌AFコーティング層と間に無機物又は酸化物層が介在されたものである。
【
図2】(a)未コーティング試料、(b)抗菌剤を含まないAFコーティング試料及び(c)本発明の抗菌コーティング剤でコーティングされた抗菌AFコーティング試料のそれぞれに対する抗菌試験結果を示した写真である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下で、本発明を詳細に説明する。
本発明の第1側面は、フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物、及び抗菌物質を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤を提供する。
【0021】
本発明の第1側面の一具体例によれば、前記フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物は、前記抗菌物質の存在下に重縮合される。
【0022】
本発明の第1側面の他の具体例によれば、前記フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物に前記抗菌物質が投入され、分散され、互いに混合される。
【0023】
本発明で使用可能なフッ素系重合体は、過フッ素化重合体であってもよい。具体的に、前記フッ素系重合体は、過フッ素化ポリエーテル(perfluoropolyether)、フッ化ビニリデン(Vinylidene fluoride)重合体、テトラフルオロエチレン(tetrafluoroethylene)重合体、ヘキサフルオロプロピレン(hexafluoropropylene)重合体、塩化三フッ化エチレン(chlorotrifluoroethylene)重合体及びこれらの組み合わせから選ばれてもよく、好ましくは過フッ素化ポリエーテルであってもよい。
【0024】
本発明で使用可能な機能性有無機シラン化合物は、前記フッ素系重合体との重縮合反応を行う機能性基(例えば、アミノ基、ビニル基、エポキシ基、アルコキシ基、ハロゲン基、メルカプト基、スルファイド基など)を一つ以上有する有無機シラン化合物であってもよい。具体的に、前記機能性有無機シラン化合物は、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノ−メトキシシラン、フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリ(メトキシエトキシ)シラン、ジ−、トリ−又はテトラアルコキシシラン、ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエポキシシラン、ビニルトリエポキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、クロロトリメチルシラン、トリクロロエチルシラン、トリクロロメチルシラン、トリクロロフェニルシラン、トリクロロビニルシラン、メルカプトプロピルトリエトキシシラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、ビス(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルファイド、ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルファイド、(メタクリルオキシ)プロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルジエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン及びこれらの組み合わせから選ばれてもよく、好ましくはアミノプロピルトリエトキシシラン又はこれを含む組み合わせであってもよい。
【0025】
本発明で使用可能な抗菌物質は、天然素材又はその抽出物、抗菌性高分子化合物及びこれらの組み合わせから選ばれてもよい。
【0026】
前記天然素材又はその抽出物の例には、カニ、エビの殻又はその抽出物(例:キトサン)、緑茶又はその抽出物(例:カテキン)、牧丹皮又はその抽出物(例:Paeonol, Paeoniflorin, Paeonolide, sitosterol, Gallicacid, Methylgallate, Tannicacid, Quercetinなど)、グレープフルーツ又はその抽出物(例:ナリンギン)、シトラール(citral)、甘草又はその抽出物(例:フラボノイド)、ヒノキ又はその抽出物(例:フィトンチッド(phytoncide))、竹又はその抽出物(例:ポリフェノール)、発芽豆又はその抽出物(例:glyceollins)、コガネバナ又はその抽出物(例:tyrosinase)、ワサビ又はその抽出物(例:Isothiocyanate)、マスタード又はその抽出物、ヒノキチオール及びこれらの組み合わせから選ばれるものが挙げられる。前記抽出物は、公知の抽出方法で製造することができる。
【0027】
前記抗菌性高分子化合物の例には、芳香族又はヘテロ環高分子、アクリル又はメタクリル高分子、カチオン性共役高分子電解質、ポリシロキサン高分子、天然高分子模倣高分子、及びフェノール又は安息香酸誘導体高分子から選ばれた1種以上の高分子化合物であり、その直鎖又は分岐鎖重合体鎖に付着したアンモニウム塩基、ホスホニウム塩基、スルホニウム塩基又はその他オニウム塩基、フェニルアミド基及びジグアニド基から選ばれた1種以上の官能基が挙げられる。
【0028】
本発明の好ましい具体例によれば、抗菌物質として人体に無害でありながら安定性と持続性を有する前記天然素材又はその抽出物、又は抗菌性高分子化合物を用いて製造された抗菌コーティング剤をガラス表面にコーティングし、初期抗菌力が99.9%の優れた抗菌効果を得ることができる。
【0029】
本発明のより好ましい具体例によれば、前記抗菌物質として、キトサン(chitosan)、ペオノール(paeonol:1−(2−ヒドロキシ−4−メトキシフェニル)エタノン)又はこれらの組み合わせを使用することができる。
【0030】
本発明の抗菌コーティング剤において、フッ素系重合体と機能性有無機シラン化合物との重縮合反応生成物の含量は、コーティング剤乾燥重量合計100重量%に対して、50〜99.9重量%が好ましく、80〜95重量%がより好ましい。
【0031】
本発明の抗菌コーティング剤において、抗菌物質の含量は、コーティング剤乾燥重量合計100重量%に対して、0.1〜50重量%なのが好ましくて、5〜20重量%なのがより好ましい。
【0032】
本発明の第2側面によれば、a)フッ素系重合体、機能性有無機シラン化合物及び抗菌物質を含む混合物を製造する工程;及びb)前記混合物を重縮合反応させる工程;を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法が提供される。
【0033】
本発明の第3側面によれば、i)フッ素系重合体及び機能性有無機シラン化合物を含む
混合物を製造する工程;ii)前記混合物を重縮合反応させる工程;及びiii)前記重縮合反応の生成物に抗菌物質を投入し、分散して、混合する工程;を含む真空蒸着用乾式抗菌コーティング剤の製造方法が提供される。
【0034】
前記混合物製造に使用される方法及び装備には特別な制限がなく、通常の反応容器又は混合装備を使用することができる。また、前記重縮合反応工程で重縮合反応の条件には特別な制限がなく、例えば、不活性ガス(例えば、アルゴン、窒素)下の100〜200℃温度で還流反応によって行われてもよい。また、重縮合ラジカル反応がより容易に進むようにするために、反応が行われる間、反応混合物に超音波及び/又はUVを照射していてもよい。
【0035】
前記重縮合反応の生成物は、任意に安定化工程を経てもよい。安定化条件には特別な制限がなく、例えば、重縮合反応生成物を室温で24時間静置して、安定化させることができる。
【0036】
本発明の第4側面によれば、1)コーティングされる基材を提供する工程;及び2)前記基材表面に本発明の乾式抗菌コーティング剤を真空蒸着させる工程;を含む基材のコーティング方法が提供される。
【0037】
前記コーティングされる基材は、真空蒸着方式でコーティングされ得るものであれば特に制限がなく、ガラス、プラスチック及び金属など多様な素材の基材が本発明の方法によってコーティングすることができる。
【0038】
前記乾式抗菌コーティング剤は、基材表面上に直接真空蒸着されてもよく、又は、基材表面に予め形成された無機物又は酸化物(例えば、SiO
2)層上に真空蒸着されてもよい。
【0039】
前記真空蒸着の方法には特別な制限がなく、通常の真空蒸着方法及び装備を使用して実行することができる。本発明の一具体例によれば、PVD(Physical Vapor Deposition)方式で2050φ真空蒸着用装備(Electron-beam evaporation, Thermal evaporation, Thermal sputterなど)を使用して真空蒸着コーティングを行うことができる。真空蒸着の長所は、多様な物質をコーティングに簡単に適用でき、コーティング薬品損失量が殆どなく、きれいで、均一な薄膜を形成できるという点である。また、装置全体の構成が比較的簡単で、薄膜を製造する時、熱的、電気的複雑さが少ないので薄膜形成時の膜の物性研究に適する。
【0040】
本発明の第5側面によれば、本発明の乾式抗菌コーティング剤の真空蒸着コーティング層を表面に有することを特徴とするコーティングされた物品が提供される。
【0041】
前記物品は、ガラス、プラスチック及び金属など多様な素材の携帯電話、タブレットPCなどのタッチ型ディスプレイを有するスマート機器、生活家電、自販機、共用双方向情報機器、タッチ可能な外装電子製品、又はその部品であってもよく、好ましくはタッチ型ディスプレイを有するスマート機器又はその部品であってもよい。
【0042】
本発明のコーティング剤を真空蒸着して形成されたコーティング層内には、抗菌物質がコーティング層基底部に配列され、コーティングの寿命が維持される間、内汚染性、撥水撥油性、表面潤滑性、耐指紋性などを示すと同時に抗菌力を発揮することになる。
【0043】
以下、実施例を通じて本発明を詳細に説明する。しかし、これらの実施例によって本発明が制限されるものではない。
【0044】
[実施例]
実施例1
フッ素系重合体の過フッ素化ポリエーテル(perfluoropolyether)50gに、抗菌物質としてキトサン15gを添加した。そこに、機能性有無機シラン化合物であるアミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysilane)50gを投入し、不活性アルゴンガスの雰囲気下、約150℃温度で重縮合反応を行った後、反応生成物を室温で24時間安定化させて、乾式抗菌コーティング剤を製造した。
【0045】
実施例2
抗菌物質として、ペオノール(paeonol)8gをさらに添加したことを除いては、実施例1と同じ方法で乾式抗菌コーティング剤を製造した。
【0046】
実施例3
過フッ素化ポリエーテル(perfluoropolyether)50gに、アミノプロピルトリエトキシシラン(aminopropyltriethoxysilane)50gを添加し、不活性アルゴンガスの雰囲気下、約150℃温度で重縮合反応を行った後、そこに、抗菌物質として、ペオノール(paeonol)8gを投入し、均一に分散混合して、乾式抗菌コーティング剤を製造した。
【0047】
試験例1:製造された乾式抗菌コーティング剤のコーティング物性の評価
前記実施例1〜3で製造された乾式抗菌コーティング剤を用いて、2050φ真空蒸着用装備でE/B(Electron-beam)蒸発方式で強化ガラスをコーティングした。コーティングを円滑にするために、コーティングする前に、強化ガラスを10組洗浄器で5wt%のアルカリ洗浄剤(強化ガラス用洗浄剤)で湿式洗浄した。真空蒸着条件は、初期エッチング:300秒、SiO
2膜厚:120Å、温度:80℃であった。
【0048】
コーティングされた試片に対して、以下のように物性を評価した。
【0049】
(1)接触角の測定方法
コーティング後、接触角の測定装備を利用して、コーティングした面の接触角を測定した。接触角測定時、水滴一つの大きさは3μLとし、コーティングの均一性を確認するために、コーティングした試料一つ当たり5ポイントの接触角を測定した後、平均を算出した。
【0050】
(2)耐摩耗性テスト
コーティング後、耐久性を確認するために、耐摩耗テストを行った。耐摩耗消しゴムを使用して、1500回摩耗テストを行った。テスト結果、コーティングしたサンプルの初期接触角対比テスト後の接触角の変化程度が15°内であればパスしたものとした。
【0051】
(3)抗菌力確認テスト
初期抗菌力を確認するために、実施例1、2は、韓国建設生活環境試験研究院(KCL)に依頼し、大腸菌(ATCC 8739)及び黄色ブドウ球菌(ATCC 6538P)、緑膿菌(ATCC 15442)を使用して、JIS Z2801規格で抗菌試験を行っており、実施例3は、KOLAS認定試験機関で大腸菌(ATCC 8739)を用いて、同じ規格で行った。コーティングした試料の表面に希釈された菌液を400μL接種し、恒温恒湿環境で24時間培養した後、脱着を行って抗菌結果を確認した。
【0052】
前記物性評価の結果を下記表1〜3に示した。
(実施例1)
【表1】
【0053】
(実施例2)
【表2】
【0054】
(実施例3)
【表3】
【0055】
試験例2:未コーティング試料及び抗菌剤を含まないコーティング試料との抗菌力比較
(a)未コーティング試料(すなわち、強化ガラスそのもの)、(b)抗菌剤を含まないAFコーティング試料(すなわち、抗菌剤を用いず、実施例1と同様に製造されたコーティング剤でコーティングされた強化ガラスサンプル)及び(c)抗菌AF(anti-finger printing)コーティング試料(すなわち、実施例1で製造されたコーティング剤でコーティングされた強化ガラスサンプル)に対して、前述のように接触角を測定し、抗菌力確認テストを行った。その結果を下記表4及び
図2に示した。
【0056】
【表4】