特許第6691238号(P6691238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691238
(24)【登録日】2020年4月13日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】スライドファスナー付き製品
(51)【国際特許分類】
   A44B 19/40 20060101AFI20200421BHJP
【FI】
   A44B19/40
【請求項の数】14
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-565173(P2018-565173)
(86)(22)【出願日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2017003840
(87)【国際公開番号】WO2018142548
(87)【国際公開日】20180809
【審査請求日】2019年4月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006828
【氏名又は名称】YKK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100187193
【弁理士】
【氏名又は名称】林 司
(74)【代理人】
【識別番号】100181766
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 均
(72)【発明者】
【氏名】庄 佳之
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−141747(JP,A)
【文献】 特開昭56−89204(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/077534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A44B 19/00−19/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の独立するエレメント(11)が連結部材(12)に等間隔で取着される一対のエレメント部材(10,10a)と、上翼板(41a) 及び下翼板(41c) 間にエレメント案内路が形成されるスライダー(40)と、互いに対向する位置に一対のエレメント取付縁部(2) を備えるファスナー被着部材(5) とを有し、
前記エレメント部材(10,10a)は、前記エレメント取付縁部(2) に対して前記エレメント部材(10,10a)の幅方向の外側に並ぶ位置に配され、且つ、前記エレメント取付縁部(2) に固定用縫製部(15,25,35)により直接固定され、
前記固定用縫製部(15,25,35)は、前記エレメント取付縁部(2) を刺通し、且つ、前記固定用縫製部(15,25,35)を形成する糸(16,26a,36a)が前記連結部材(12)を保持し、
前記固定用縫製部(15,25,35)が前記エレメント取付縁部(2)を刺通する位置(18a,18b,38a,38b) は、前記エレメント部材(10,10a)の幅方向において、前記エレメント部材(10,10a)の前記エレメント(11)から前記エレメント取付縁部(2) の内側に離間してなる、
ことを特徴とするスライドファスナー付き製品。
【請求項2】
前記固定用縫製部(15,25,35)を形成する糸(16,26a,36a)は、前記連結部材(12)の外周面に接しながら、前記連結部材(12)を包むように保持してなる請求項1記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項3】
前記固定用縫製部(15,25,35)は、本縫いにより、前記エレメント部材(10,10a)の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成されてなる請求項1又は2記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項4】
複数の独立するエレメント(11)が連結部材(12)に等間隔で取着される一対のエレメント部材(10,10a)と、上翼板(41a) 及び下翼板(41c) 間にエレメント案内路が形成されるスライダー(40)と、互いに対向する位置に一対のエレメント取付縁部(2) を備えるファスナー被着部材(5) とを有し、
前記エレメント部材(10,10a)は、前記エレメント取付縁部(2) に対して前記エレメント部材(10,10a)の幅方向の外側に並ぶ位置に配され、且つ、前記エレメント取付縁部(2) に本縫いによる固定用縫製部(15,25,35)により直接固定され、
前記固定用縫製部(15,25,35)は、前記エレメント部材(10,10a)の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成されてなる、
ことを特徴とするスライドファスナー付き製品。
【請求項5】
前記固定用縫製部(15,25,35)は、前記エレメント取付縁部(2) を刺通し、且つ、前記固定用縫製部(15,25,35)を形成する上糸(16a,26a,36a) と下糸(16b) とが前記連結部材(12)を保持してなる請求項4記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項6】
前記固定用縫製部(15,25,35)が前記ファスナー被着部材(5) を刺通する位置(18a,18b,38a,38b) は、前記エレメント部材(10,10a)の幅方向において、前記エレメント部材(10,10a)の前記エレメント(11)から前記エレメント取付縁部(2) の内側に離間してなる請求項4又は5記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項7】
前記エレメント部材(10,10a)の各エレメント(11)は、前記連結部材(12)に固定される胴部(11a) と、前記胴部(11a) から前記エレメント部材(10,10a)の幅方向に延出し、噛合相手側の前記エレメント部材(10,10a)の前記エレメント(11)と係合する噛合部(11h) とを有し、
前記固定用縫製部(15,25,35)が前記ファスナー被着部材(5) を刺通する位置(18a,18b,38a,38b) は、前記エレメント部材(10,10a)の長さ方向に関して、各エレメント(11)の前記胴部(11a) の形成領域に対応する範囲(6) 内に配されてなる、
請求項1〜6のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項8】
前記エレメント部材(10,10a)の各エレメント(11)は、前記連結部材(12)に固定される胴部(11a) と、噛合相手側の前記エレメント部材(10,10a)の前記エレメント(11)と係合する噛合部(11h) とを有し、
前記噛合部(11h) は、前記胴部(11a) から前記エレメント部材(10,10a)の幅方向に延出する首部(11b) と、前記首部(11b) から更に幅方向に延出する噛合頭部(11c) とを有し、
前記エレメント部材(10,10a)は、前記胴部(11a) における前記首部(11b) とは幅方向の反対側に配される側面部(13e) が、前記エレメント取付縁部(2) に接して固定されてなる、
請求項1〜6のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項9】
前記エレメント(11)の前記胴部(11a) における前記側面部(13e) に、前記エレメント取付縁部(2) の一部が挿入される挿入凹部(11f) が、前記エレメント部材(10)の長さ方向に沿って配されてなる請求項8記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項10】
前記固定用縫製部(15) を形成する糸を前記エレメント取付縁部(2) に向けて押さえ付ける補助縫製部(19)が、前記固定用縫製部(15)に重ねて形成されてなる請求項1〜9のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項11】
前記補助縫製部(19)は、直線状の本縫いにより形成されてなる請求項10記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項12】
前記固定用縫製部(15,25) を形成する糸は、接着若しくは溶着により、又は、前記エレメント取付縁部(2) に貼着される合成樹脂製の糸固定用フィルム部材(31)により、前記エレメント取付縁部(2) に固定されてなる請求項1〜11のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項13】
前記ファスナー被着部材(5) の前記エレメント取付縁部(2) は、前記ファスナー被着部材(5) の側縁部が前記エレメント部材(10,10a)の幅方向に折り返されて形成されてなる請求項1〜12のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【請求項14】
前記ファスナー被着部材(5) の前記エレメント取付縁部(2) に、補強剤が含浸され、又は合成樹脂製の補強用フィルム部材が取着されてなる請求項1〜13のいずれかに記載のスライドファスナー付き製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の独立するエレメントが紐状の連結部材に等間隔で取着されたエレメント部材が、衣料品などの製品に設けられるエレメント取付部に直接取り付けられて形成されるスライドファスナー付き製品に関する。
【背景技術】
【0002】
スライドファスナーは、一般的に、衣料品、日用雑貨品、産業用資材などの製品や、自動車、列車、航空機等の各種シート類などの製品の開閉具として多く使用されている。このような各種の製品に使用されるスライドファスナーは、一般的に、ファスナーテープのテープ側縁部(エレメント取付部とも言う)にエレメント列が形成された左右一対のファスナーストリンガーと、左右のエレメント列に沿って摺動するスライダーとを有する。
【0003】
一般的なファスナーストリンガーとしては、例えば、熱可塑性樹脂製のモノフィラメントをコイル状又はジグザグ状に成形することにより連続ファスナーエレメントが形成され、その連続ファスナーエレメントがファスナーテープのテープ側縁部上に縫着されてエレメント列が形成されたファスナーストリンガーが知られている。またその他に、ファスナーテープテープ側縁部に、合成樹脂を直接射出成形することにより、又は、金属をダイカスト成形することにより、複数の独立したエレメントが所定の間隔で形成されてエレメント列が形成されたファスナーストリンガーも知られている。
【0004】
また、例えば実公昭40−13870号公報(特許文献1)には、例えば図12に示すように、複数のエレメント61が支持紐62により連結されているエレメント部材60が、ファスナーテープ51の縁に、オーバーロック(縁かがり縫い)のステッチにより縫い付けられることによって形成されるスライドファスナー50が開示されている。
【0005】
この場合、エレメント部材60は、支持紐62に対して、独立する複数のエレメント61を、射出成形又はダイカスト成形により、エレメント61の脚部内に支持紐62を包持するようにして所定の形状に形成することにより作製される。また特許文献1では、エレメント部材60がファスナーテープ51にオーバーロックのステッチにより縫い付けられることにより、エレメント部材60の支持紐62が、オーバーロックのステッチを形成する縫製糸52によって固定される。このため、エレメント部材60がファスナーテープ51の縁に安定して取り付けられる。
【0006】
一方、エレメント部材60の取り付けには、上述のようにオーバーロックのステッチが用いられるため、ファスナーテープ51のテープ表面とテープ裏面とに表出する縫製糸52の配置(見え方)が相互に必然的に異なる。このため、ファスナーテープ51のテープ表面側では、図12に示したように、オーバーロックのステッチを形成する縫製糸(針糸)52が、各エレメント61に重ならないように配置されるものの、ファスナーテープ51のテープ裏面側に配置される縫製糸(ルーパー糸)は、オーバーロックミシンのルーパーの動きにより、エレメント61の上に重なり易くなる。
【0007】
このように縫製糸52がエレメント61に重なる場合、エレメント部材60を固定する縫製糸52が緩み易くなり、ファスナーテープ51に対するエレメント部材60の位置が不安定になり易くなることが考えられる。また、縫製糸52がエレメント61に重なると、左右のエレメント61列の噛み合わせやスライダーの摺動に影響を与えることも考えられる。このため、特許文献1のようにオーバーロックミシンを用いてエレメント部材60をファスナーテープ51に取り付けるときには、ファスナーテープ51のテープ裏面側で縫製糸52がエレメント61に重ならないようにするための高い技術力が必要とされる。
【0008】
ところで、従来のスライドファスナーやファスナーストリンガーでは、コイル状の連続ファスナーエレメントや、射出成形された合成樹脂製のエレメントなどがファスナーテープのテープ側縁部に取着されることにより、そのテープ側縁部にエレメント列が形成されている。このため、スライドファスナーを衣料品などのファスナー被着部材に取り付ける場合には、ファスナーストリンガーのファスナーテープにおけるテープ側縁部以外の部分(一般にテープ主体部と言う)を、ファスナー被着部材のファスナー取付部に重ねた状態で両者をミシンで縫い合わせることが一般的に行われている。
【0009】
これに対して、例えば特開昭62−299205号公報(特許文献2)には、スライドファスナーが取り付けられた製品における色合いなどの見栄え(外観品質)の向上や、軽量化などを図るために、その製品の生地を織成又は編成する際に、当該生地に、連続状のファスナーエレメント又は複数のファスナーエレメントが芯紐に固定されたエレメント部材を、直接織り込み固定又は編み込み固定することが開示されている。これにより、ファスナーテープを介在させずに、ファスナーエレメントを製品の生地に直接取り付けることが可能となる。
【0010】
この特許文献2のように、ファスナーエレメントが製品の生地に直接織り込み又は編み込みされる場合、例えばスライドファスナーを製造してから、当該スライドファスナーのファスナーテープを製品の生地に縫製してスライドファスナー付き製品を製造する場合に比べて、スライドファスナー付き製品の製造における作業工程を減らすことが可能となる。このため、製造ラインのスピード化やコスト削減といった効果が期待できる。
【0011】
更に、製品の生地に直接ファスナーエレメントを織り込み固定又は編み込み固定できるため、スライドファスナーの必須構成部品であるファスナーテープが不要となるため、スライドファスナー付き製品の軽量化や柔軟性の向上なども期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】実公昭40−13870号公報
【特許文献2】特開昭62−299205号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
近年、衣料品などの衣類、鞄類、及び靴類などの製品では、それぞれの用途に応じて性質を改善したり、様々な機能を付与したりして付加価値を高めることが行われており、例えば日常的に使用される衣類や鞄類などにおいては、更なる軽量化や柔軟性の向上などが求められてきている。
【0014】
しかし、上述した特許文献1に記載されているスライドファスナー50を含む従来のスライドファスナーでは、スライドファスナーの構成部品として、ファスナーテープ、ファスナーエレメント、及びスライダーが必要不可欠である。このため、そのスライドファスナーが取着されたスライドファスナー付き製品の場合、スライドファスナーによる軽量化には限界がある。また、製品のファスナー取付部に、ファスナーストリンガーのファスナーテープがミシンによる縫製加工等によって取り付けられるため、製品の柔軟性を低下させる場合もある。
【0015】
一方、例えば特許文献2に記載されているように、ファスナーエレメント又はエレメント部材を製品の生地に直接織り込み固定又は編み込み固定することによってスライドファスナー付き製品を製造する場合、上述のようにファスナーテープが不要となるため、スライドファスナー付き製品の軽量化が実現し易くなる。
【0016】
しかし、ファスナーエレメントを製品の生地に直接織り込み固定又は編み込み固定するためには、高度の技術や専用の設備が必要となる。その結果、設備コストの増加を招くとともに、熟練の技術者の確保や育成に取り組むことも必要となる。
【0017】
また、例えば製品の用途等に応じて、製品の生地に合成樹脂をコーティングすること等によって生地に所望の機能を付与することがある。しかし、特許文献2のように製品の生地を織成又は編成する際にファスナーエレメントを直接織り込み固定又は編み込み固定する場合、生地に合成樹脂をコーティングすること等によって所望の機能を安定して付与することが難しくなることもある。
【0018】
本発明は上記従来の課題に鑑みてなされたものであって、その具体的な目的は、エレメントを製品のファスナー被着部材に容易に取り付けることが可能で、且つ、従来の一般的なスライドファスナー付き製品に比べて軽量化や柔軟性の向上が期待できるスライドファスナー付き製品、更には、複数のエレメントを備える部材を製品に縫着する縫製部の縫製糸に緩みを生じさせ難くすることが可能なスライドファスナー付き製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するために、本発明により提供されるスライドファスナー付き製品は、複数の独立するエレメントが連結部材に等間隔で取着される一対のエレメント部材と、上翼板及び下翼板間にエレメント案内路が形成されるスライダーと、互いに対向する位置に一対のエレメント取付縁部を備えるファスナー被着部材とを有し、前記エレメント部材は、前記エレメント取付縁部に対して前記エレメント部材の幅方向の外側に並ぶ位置に配され、且つ、前記エレメント取付縁部に固定用縫製部により直接固定され、前記固定用縫製部は、前記エレメント取付縁部を刺通し、且つ、前記固定用縫製部を形成する糸が前記連結部材を保持し、前記固定用縫製部が前記エレメント取付縁部を刺通する位置は、前記エレメント部材の幅方向において、前記エレメント部材の前記エレメントから前記エレメント取付縁部の内側に離間してなることを最も主要な特徴とするものである。
特に、このスライドファスナー付き製品において、前記固定用縫製部を形成する糸は、前記連結部材の外周面に接しながら、前記連結部材を包むように保持することが好ましい。また、前記固定用縫製部は、本縫いにより、前記エレメント部材の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成されることが好ましい。
【0020】
また、本発明により提供される別の形態に係るスライドファスナー付き製品は、複数の独立するエレメントが連結部材に等間隔で取着される一対のエレメント部材と、上翼板及び下翼板間にエレメント案内路が形成されるスライダーと、互いに対向する位置に一対のエレメント取付縁部を備えるファスナー被着部材とを有し、前記エレメント部材は、前記エレメント取付縁部に対して前記エレメント部材の幅方向の外側に並ぶ位置に配され、且つ、前記エレメント取付縁部に本縫いによる固定用縫製部により直接固定され、前記固定用縫製部は、前記エレメント部材の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成されてなることを最も主要な特徴とするものである。
【0021】
特に、このスライドファスナー付き製品において、前記固定用縫製部は、前記エレメント取付縁部を刺通し、且つ、前記固定用縫製部を形成する上糸と下糸とが前記連結部材を保持することが好ましい。また、前記固定用縫製部が前記ファスナー被着部材を刺通する位置は、前記エレメント部材の幅方向において、前記エレメント部材の前記エレメントから前記エレメント取付縁部の内側に離間していることが好ましい。
【0022】
上述のような本発明に係るスライドファスナー付き製品において、前記エレメント部材の各エレメントは、前記連結部材に固定される胴部と、前記胴部から前記エレメント部材の幅方向に延出し、噛合相手側の前記エレメント部材の前記エレメントと係合する噛合部とを有し、前記固定用縫製部が前記ファスナー被着部材を刺通する位置は、前記エレメント部材の長さ方向に関して、各エレメントの胴部の形成領域に対応する範囲内に配されていることが好ましい。
【0023】
また本発明に係るスライドファスナー付き製品において、前記エレメント部材の各エレメントは、前記連結部材に固定される胴部と、噛合相手側の前記エレメント部材の前記エレメントと係合する噛合部とを有し、前記噛合部は、前記胴部から前記エレメント部材の幅方向に延出する首部と、前記首部から更に幅方向に延出する噛合頭部とを有し、前記エレメント部材は、前記胴部における前記首部とは幅方向の反対側に配される側面部が、前記エレメント取付縁部に接して固定されていることが好ましい。
この場合、前記エレメントの前記胴部における前記側面部に、前記エレメント取付縁部の一部が挿入される挿入凹部が、前記エレメント部材の長さ方向に沿って配されることが好ましい。
【0024】
また、本発明に係るスライドファスナー付き製品では、前記固定用縫製部を形成する糸を前記エレメント取付縁部に向けて押さえ付ける補助縫製部が、前記固定用縫製部に重ねて形成されることが好ましい。この場合、前記補助縫製部は、直線状の本縫いにより形成されることが好ましい。
更に、前記固定用縫製部を形成する糸は、接着若しくは溶着により、又は、前記エレメント取付縁部に貼着される合成樹脂製の糸固定用フィルム部材により、前記エレメント取付縁部に固定されることが好ましい。
【0025】
本発明に係るスライドファスナー付き製品において、前記ファスナー被着部材の前記エレメント取付縁部は、前記ファスナー被着部材の側縁部が前記エレメント部材の幅方向に折り返されて形成されることが好ましい。
また、前記ファスナー被着部材の前記エレメント取付縁部に、補強剤が含浸され、又は合成樹脂製の補強用フィルム部材が取着されていても良い。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係るスライドファスナー付き製品は、可撓性を備えた連結部材に等間隔で取着される複数の独立するエレメントを備える左右一対のエレメント部材と、一対のエレメント部材を挿通させるエレメント案内路が上翼板及び下翼板間に形成されるスライダーと、互いに対向する位置に一対のエレメント取付縁部を備えるファスナー被着部材とを有する。
【0027】
また、本発明の第1の形態に係るスライドファスナー付き製品においては、エレメント部材が、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に対してエレメント部材の幅方向の外側に並ぶ位置に、エレメント取付縁部に沿って、固定用縫製部により直接固定される。また、この固定用縫製部は、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部を刺通して形成される。更に、この固定用縫製部を形成する縫製糸が連結部材を保持する。これにより、エレメント部材が、固定用縫製部によって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に容易に且つ安定して固定される。
【0028】
またこの場合、固定用縫製部がファスナー被着部材を刺通する位置は、エレメント部材の幅方向において、エレメント部材のエレメントからエレメント取付縁部の内側に離間している。言い換えると、エレメント部材の幅方向において、固定用縫製部がファスナー被着部材を刺通する位置とエレメント部材のエレメントとの間には、所定の間隔が形成されている。
【0029】
ここで、固定用縫製部の刺通位置がエレメントから離間するとは、例えば固定用縫製部を形成する糸(縫製糸)が、その刺通位置からエレメント部材の長さ方向と平行に配される場合(又は配されることを想定した場合)に、その長さ方向と平行に配される固定用縫製部の糸が、エレメントからエレメント部材の幅方向に離れた位置にあって、当該エレメントに接しない状態になることを言う(後述する第2の形態の場合も同じ)。すなわち、固定用縫製部の刺通位置から長さ方向に沿って延長される糸の部分とエレメントとの間に、互いに接しない程度の隙間が設けられるようにして固定用縫製部の刺通位置が配されていれば良い。
【0030】
上述のように固定用縫製部の刺通位置がエレメントから内側に離間して配されることにより、エレメント部材を固定する固定用縫製部の糸によって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に切断等の損傷を生じさせ難くすることができる。このため、ファスナー被着部材に対するエレメント部材の固定状態を安定して維持でき、また、製品に形成されるスライドファスナーの機能を長期に亘って安定して発揮させることができる。更に、ミシンを用いてエレメント部材をファスナー被着部材に縫い付けるときに、ミシン針がエレメント部材のエレメントに接触することを防いで、当該接触に起因する針折れを生じさせることなく、エレメント部材をファスナー被着部材に安定して固定することができる。
【0031】
なお、本発明では、固定用縫製部の刺通位置がエレメントから離間して配されるが、この場合、例えばエレメント部材の縫製を行う際にミシン針がエレメント部材のエレメントに接触しないようにすること等を考慮すると、エレメント幅方向における固定用縫製部の刺通位置とエレメント部材のエレメントとの間の距離(離間距離)は、具体的に0.4mm以上、好ましくは0.8mm以上に設定されることが好ましい。また、ミシン針の太さは、エレメント部材が固定されるファスナー被着部材の厚さなどによって任意に変更されることもあるため、エレメント幅方向における固定用縫製部の刺通位置とエレメント部材のエレメントとの間の距離は、ファスナー被着部材に対して、そのファスナー被着部材の厚さ(厚さ寸法)以上の大きさに設定されることが好ましい。なお、固定用縫製部によりエレメント部材をファスナー被着部材に対して安定して固定するためには、エレメント幅方向における前記刺通位置とエレメントとの間の距離は、30mm以下に、好ましくは10mm以下に、更に好ましくは5mm以下に設定される。
【0032】
更に、上述した本発明のスライドファスナー付き製品では、従来のスライドファスナーにおいて必須の構成部品であったファスナーテープを用いることなくスライドファスナーを構成することができる。このようにファスナーテープを不用とすることにより、スライドファスナー付き製品の軽量化や柔軟性の向上を図ることができる。また本発明では、例えば防水性などのような所望の機能が付与されたファスナー被着部材に対して、エレメント部材を、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部によって後から直接固定されるため、ファスナー被着部材(生地)が特別な機能を備えたスライドファスナー付き製品を低コストで容易に製造することも可能となる。
【0033】
上述のような本発明の第1の形態に係るスライドファスナー付き製品において、固定用縫製部を形成する糸は、連結部材の外周面に接しながら、連結部材を包むように保持する。これにより、固定用縫製部を形成する糸で連結部材をしっかりと固定できるため、エレメント部材が、固定用縫製部によって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に容易に且つ安定して固定される。なお本発明では、固定用縫製部の糸が連結部材を刺通することによって、連結部材を保持固定しても良い。
【0034】
また、この第1の形態に係るスライドファスナー付き製品において、固定用縫製部は、本縫いにより、エレメント部材の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成される。このようなスライドファスナー付き製品であれば、例えば千鳥縫いミシンを用いることによって、エレメント部材を、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に容易に且つ安定して縫い付けることが可能となる。このため、高価な専用の設備を新たに導入しなくても、本発明のスライドファスナー付き製品を安定して、また、安価に製造することが可能となる。
【0035】
また本発明では、上述のように千鳥縫いミシンを用いてエレ
メント部材をファスナー被着部材に縫着することが可能であるため、エレメント部材を固定する固定用縫製部に糸切れが発生し難くなる。また、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部の糸(上糸及び下糸)が、ファスナー被着部材の表面側と裏面側とにおいてエレメントに重なることを、比較的容易に回避することができる。このため、エレメント部材をファスナー被着部材に固定する固定用縫製部の糸がエレメントに重なることに起因して糸に緩みが生じることを防止し、エレメント部材がファスナー被着部材に固定された状態を安定して維持することができる。更に固定用縫製部の糸がエレメントに重なることに起因して左右のエレメント列の噛み合わせが悪くなることや、スライダーの摺動性が低下することも防止できる。
【0036】
次に、本発明の第2の形態に係るスライドファスナー付き製品においては、エレメント部材が、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に対してエレメント部材の幅方向の外側に並ぶ位置に、エレメント取付縁部に沿って、本縫いによる固定用縫製部により直接固定される。また、この固定用縫製部は、エレメント部材の長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成される。
【0037】
このような本発明のスライドファスナー付き製品によれば、例えば千鳥縫いミシンを用いることによって、エレメント部材を、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に容易に且つ安定して縫い付けることが可能となる。このため、高価な専用の設備を新たに導入しなくても、本発明のスライドファスナー付き製品を安定して、また、安価に製造することが可能となる。
【0038】
また本発明では、上述のように千鳥縫いミシンを用いてエレメント部材をファスナー被着部材に縫着することが可能であるため、エレメント部材を固定する固定用縫製部に糸切れが発生し難くなる。また、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部の糸(上糸及び下糸)が、ファスナー被着部材の表面側と裏面側とにおいてエレメントに重なることを、比較的容易に回避することができる。このため、エレメント部材をファスナー被着部材に固定する固定用縫製部の糸がエレメントに重なることに起因して糸に緩みが生じることを防止し、エレメント部材がファスナー被着部材に固定された状態を安定して維持することができる。更に固定用縫製部の糸がエレメントに重なることに起因して左右のエレメント列の噛み合わせが悪くなることや、スライダーの摺動性が低下することも防止できる。
【0039】
更に、本発明のスライドファスナー付き製品では、ファスナーテープを用いることなくスライドファスナーを構成することができる。これにより、スライドファスナー付き製品の軽量化や柔軟性の向上を図ることができる。また本発明では、例えば防水性などのような所望の機能が付与されたファスナー被着部材に対して、エレメント部材が、ミシンにより形成される固定用縫製部によって後から直接固定されるため、ファスナー被着部材(生地)が特別な機能を備えたスライドファスナー付き製品を低コストで容易に製造することも可能となる。
【0040】
上述のような本発明の第2の形態に係るスライドファスナー付き製品において、固定用縫製部は、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部を刺通して形成される。また、この固定用縫製部は、その上糸及び下糸が連結部材を保持する。これにより、エレメント部材が、固定用縫製部によってファスナー被着部材のエレメント取付縁部に安定して固定される。
【0041】
この場合、固定用縫製部の上糸及び下糸は、連結部材の外周面に接しながら互いに交絡することにより、連結部材を包むように保持する。これにより、固定用縫製部の上糸及び下糸で連結部材をしっかりと固定できるため、エレメント部材が、固定用縫製部によって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に容易に且つ安定して固定される。なお本発明では、固定用縫製部の上糸及び下糸が連結部材を刺通することによって、連結部材を保持固定しても良い。
【0042】
更にこの第2の形態の場合、固定用縫製部がファスナー被着部材を刺通する位置は、エレメント部材の幅方向において、エレメント部材のエレメントからエレメント取付縁部の内側に離間している。これにより、エレメント部材を固定する固定用縫製部の上糸及び下糸によって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に切断等の損傷を生じさせ難くすることができる。このため、ファスナー被着部材に対するエレメント部材の固定状態を安定して維持でき、また、製品に形成されるスライドファスナーの機能を長期に亘って安定して発揮させることができる。更に、ミシンを用いてエレメント部材をファスナー被着部材に縫い付けるときに、ミシン針の針折れを生じさせることなく、エレメント部材をファスナー被着部材に安定して固定することができる。
【0043】
上述した第1及び第2の形態に係る本発明のスライドファスナー付き製品において、エレメント部材の各エレメントは、連結部材に固定される胴部と、胴部からエレメント部材の幅方向に延出し、噛合相手側の前記エレメント部材の前記エレメントと係合する噛合部とを有する。また、固定用縫製部がファスナー被着部材を刺通する位置は、エレメント部材の長さ方向に関して、各エレメントの胴部の形成領域に対応する範囲内に配される。このように固定用縫製部の刺通位置が設定されることにより、エレメント部材を固定用縫製部によってファスナー被着部材にしっかりと固定できる。また、ファスナー被着部材に対し、エレメント部材の長さ方向における各エレメントの位置がずれることも防止できる。
【0044】
また、第1及び第2の形態に係る本発明のスライドファスナー付き製品において、エレメント部材の各エレメントは、連結部材に固定される胴部と、噛合相手側のエレメント部材の前記エレメントと係合する噛合部とを有する。この噛合部は、胴部からエレメント部材の幅方向に延出する首部と、首部から更に幅方向に延出する噛合頭部とを有する。更に、エレメント部材は、胴部における首部とは幅方向の反対側に配される側面部が、エレメント取付縁部に接して固定される。
【0045】
エレメント部材の各エレメントが上述のような構造を有することにより、複数の独立したエレメントを、射出成形によって所定の形状に安定して形成できると同時に、連結部材を介して複数の独立したエレメントを容易に連結させることができる。更に、エレメント部材が、胴部の上述した側面部がエレメント取付縁部に接して固定されることにより、ファスナー被着部材に対して複数のエレメントを所定の姿勢でしっかりと固定することができる。
【0046】
この場合、各エレメントの胴部が、エレメント取付縁部の一部が挿入される挿入凹部を、当該胴部の上述した側面部に有する。また、各挿入凹部は、エレメント部材の長さ方向に沿って配されている。これにより、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に各エレメントをよりしっかりと固定できるとともに、ファスナー被着部材に対する各エレメントの位置及び姿勢をより安定させることができる。
【0047】
本発明のスライドファスナー付き製品において、固定用縫製部を形成する糸(縫製糸)を、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部に向けて押さえ付ける補助縫製部が、固定用縫製部に重ねて形成される。特にこの場合、補助縫製部は、直線状の本縫いにより形成される。
【0048】
これにより、固定用縫製部の縫製糸(上糸及び下糸)を補助縫製部によって締め付けることができるため、エレメント部材をより強固にファスナー被着部材のエレメント取付縁部に固定することができるとともに、固定用縫製部の縫製糸に弛みが生じることも効果的に防止できる。また、スライダーを摺動させたときに、固定用縫製部と、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部とを、補助縫製部によって、スライダーのフランジ部に摺接させ難くして、フランジ部から保護することができる。このため、スライダーが繰り返して摺動操作されても、固定用縫製部やファスナー被着部材のエレメント取付縁部に、摩擦による擦り切れ等の損傷をより生じさせ難くすることができる。
【0049】
また本発明において、固定用縫製部を形成する糸は、接着若しくは溶着によってエレメント取付縁部に固定されても良い。また、固定用縫製部を形成する糸は、エレメント取付縁部に貼着される合成樹脂製の糸固定用フィルム部材によってエレメント取付縁部に固定されても良い。これにより、固定用縫製部の縫製糸に弛みが生じることを防止して、エレメント部材をファスナー被着部材のエレメント取付縁部にしっかり固定できるとともに、そのエレメント部材の固定状態を安定して維持できる。
【0050】
更に本発明のスライドファスナー付き製品において、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部は、ファスナー被着部材の側縁部がエレメント部材の幅方向に折り返されて形成される。これにより、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部の強度を容易に高めることができる。またそれによって、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部にエレメント部材がよりしっかりと固定されるとともに、ファスナー被着部材に対する各エレメントの位置及び姿勢をより安定させることができる。
【0051】
更に、ファスナー被着部材の側縁部がエレメント部材の幅方向に折り返されることにより、例えばファスナー被着部材(生地)の側端縁に解れが生じていても、その解れがエレメント取付縁部の裏面側に隠されて、外側に表出しないようにすることができる。それによって、スライドファスナー付き製品の外観品質(見栄え)を高めることができる。更に、側端縁の解れが、左右のエレメント列の噛み合わせを悪くすることを防止するとともに、スライダーの摺動性を低下させることを防止することができる。
【0052】
また本発明において、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部には、補強剤が含浸されていても良く、又は、合成樹脂製の補強用フィルム部材がエレメント取付縁部を包むように取着されていても良い。これによって、ファスナー被着部材の側縁部を上述のように折り返さなくても、ファスナー被着部材のエレメント取付縁部を容易に補強して、エレメント取付縁部の強度を効果的に高めることができる。その結果、エレメント取付縁部に損傷や解れなどを生じさせ難くすることができるため、スライドファスナー付き製品の強度や耐久性を効果的に高めることができる。また、ファスナー被着部材の側縁部を上述のように折り返さなくてもエレメント取付縁部を補強できるため、厚さ寸法をより小さくしてエレメント取付縁部を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1】本発明の実施例1に係るスライドファスナー付き製品(衣服)を模式的に示す模式図である。
図2】実施例1のエレメント部材が製品のファスナー取付部に取着されている部分を拡大して示す拡大平面図である。
図3】エレメント部材が製品のファスナー取付部に取着されている部分を、噛合相手側のエレメント部材から見た側面図である。
図4図2に示したIV−IV線における断面図である。
図5】エレメント部材が製品のファスナー取付部に取着される前の状態を示す斜視図である。
図6】実施例1の変形例に係るスライドファスナー付き製品の要部を示す要部断面図である。
図7】本発明の実施例2に係るスライドファスナー付き製品の要部を示す要部平面図である。
図8】実施例2にてエレメント部材を製品のファスナー取付部に固定する固定用縫製部の糸(溶着糸)を示す断面図である。
図9】本発明の実施例3に係るスライドファスナー付き製品の要部を示す要部平面図である。
図10図9に示したX−X線における断面図である。
図11】実施例1の別の変形例に係るスライドファスナー付き製品の要部を示す要部平面図である。
図12】エレメント部材がファスナーテープに縫い付けられた従来のスライドファスナーの要部を示す要部平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明の好適な実施の形態について、実施例を挙げて図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下で説明する実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明と実質的に同一な構成を有し、かつ、同様な作用効果を奏しさえすれば、多様な変更が可能である。
【0055】
例えば、以下の各実施例では、スライドファスナー付き製品がスライドファスナー付き衣服である場合について説明するが、本発明に係るスライドファスナー付き製品は、衣服(衣料品)に限定されるものではなく、靴類や鞄類などの日用雑貨品、産業用資材などの製品、自動車、列車、航空機等の各種シート類などの様々な製品が含まれる。
【実施例1】
【0056】
図1は、本実施例1に係るスライドファスナー付き衣服を模式的に示す模式図である。図2は、エレメント部材が衣服のファスナー取付部に取着されている部分を拡大して示す拡大平面図であり、図3は、その部分を、噛合相手側のエレメント部材からエレメント部材の幅方向に沿って見たときの側面図である。図4は、図2に示したIV−IV線における断面図である。
【0057】
また、以下のエレメント部材に関する説明において、前後方向とは、スライダーの摺動方向に平行なエレメント部材の長さ方向を言い、特に、スライダーが左右のエレメント列を噛合させるように摺動する方向を前方とし、左右のエレメント列を分離させるように摺動する方向を後方とする。
【0058】
左右方向とは、エレメント部材の幅方向(又は、ファスナー被着部材となる生地の幅方向)を言い、例えば、スライダーの摺動方向に直交し、且つ、生地の表面及び裏面に平行な方向である。上下方向とは、前後方向と左右方向とに直行する方向を言い、例えば生地の表面及び裏面に直交するエレメント部材の厚さ方向を言う。特に以下の場合では、エレメント部材に対してスライダーの引手が配される側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
【0059】
本実施例1に係るスライドファスナー付き製品は、スライドファスナー付きの衣服(衣料品)1であり、この衣服1の前身頃の前立て部に左右のエレメント取付縁部2が設けられる。また、衣服1における左右のエレメント取付縁部2に、エレメント部材10がそれぞれ縫着されて左右のエレメント列3が形成されている。更に、これらの左右のエレメント列3には、スライダー40がエレメント列3に沿って摺動可能に取り付けられている。
【0060】
この場合、衣服1の前立て部を構成する生地5(ガーメント生地とも言う)が、エレメント部材10が取着されるファスナー被着部材となる。従って、本実施例1で構成されるスライドファスナーは、衣服1の生地5にエレメント部材10が直接固定されることにより形成されたエレメント列3を備える左右一対のファスナーストリンガーと、左右のファスナーストリンガーのエレメント列3を噛合及び分離させることが可能なスライダー40とを有する。
【0061】
ファスナー被着部材となる生地5は、衣服1の前立て部を構成する生地5であり、その衣服1に必要な性能や性質(柔らかさ、厚さ、質感、色合いなど)を備えている。本実施例1において、エレメント部材10が縫着される生地5は、衣服1の形やデザイン等に応じて、所定の形状及び寸法に裁断されている。ここで、一般的な従来のファスナーテープの厚さが1.1mm〜1.5mmであるのに対し、本実施例1で用いられるファスナー被着部材である生地5や、その他の部分の生地は、軽量化の点から薄く形成されており、例えば0.2mm以上1.0mm以下、好ましくは0.4mm以上0.7mm以下の厚さを有する。
【0062】
本実施例1において、生地(ファスナー被着部材)5に設けられる左右のエレメント取付縁部2は、衣服1の前身頃における互いに対向する位置(すなわち、前身頃の対向縁部)に配されるとともに、前身頃の対向縁部に直線状に且つ連続的に形成されている。ここで、生地5に設けられるエレメント取付縁部2は、左右の前立て部を構成する生地5の互いに対向する対向側端から、エレメント部材10の幅方向において、その生地5の内側に向けて所定の寸法を有する部分(領域)を言う。従って、生地5のエレメント取付縁部2は、エレメント部材10の長さ方向に沿って一定の幅寸法を有して形成されている。このエレメント取付縁部2は、後述するように固定用縫製部15の縫製糸16が刺通する部分であり、且つ、後述するエレメント11の胴部11a(特に、側面部13e)に接する部分である。
【0063】
この場合、左右のエレメント取付縁部2は、図4及び図5に示すように、生地5の裁断端部となる側縁部が、エレメント部材10の幅方向にU字状に折り返されることによって形成される。このようにエレメント取付縁部2が形成されることにより、エレメント取付縁部2が、薄い生地5の他の部分よりも局部的に厚く形成されて、エレメント取付縁部2の強度を高めることができる。
【0064】
それにより、エレメント取付縁部2に、後述するように固定用縫製部15の縫製糸16(後述する上糸16a及び下糸16b)が刺通しても、その縫製糸16によってエレメント取付縁部2が切断され難くなり、エレメント取付縁部2の耐久性を高めることができる。更に、エレメント取付縁部2の強度が高められることによって、そのエレメント取付縁部2にエレメント部材10をしっかりと固定できるとともに、エレメント取付縁部2に固定された各エレメント11の位置及び姿勢を安定させることができる。
【0065】
更に、生地5の側縁部がU字状に折り返されることにより、例えば生地5の側端縁に解れが生じていても、その解れがエレメント取付縁部2の裏面側に隠されて、外側に表出しないようにすることができる。それによって、スライドファスナー付き衣服1が、良好な外観品質(見栄え)を備えることができる。また、生地5の側端縁に生じている解れに起因して、左右のエレメント列3の噛み合わせが悪くなることや、スライダー40の摺動操作性(摺動の円滑さ)が低下することを防止することが可能である。
【0066】
更に本実施例1では、例えばエレメント取付縁部2の表面及び裏面の少なくとも一方に、及び/又は、エレメント取付縁部2のU字状に折り返されている側縁部の内側(上下の折り返し部の間)に、図示しない樹脂フィルムなどの補強シート部材を貼着して取り付けることや、エレメント部材10と一緒に縫い付けることも可能である。このように補強シート部材をエレメント取付縁部2に取着することによっても、エレメント取付縁部2を補強することができる。なお本発明において、この衣服1の生地5の構成は特に限定されるものではなく、衣服1の用途などに応じて適宜変更することができる。
【0067】
従来のスライドファスナーでは、スライダーがエレメント列から外れて脱落することを防ぐために、エレメント列の前端及び後端に隣接して止具が一般的に設けられている。一方、本実施例1の場合、エレメント列3の前端及び後端に止具を隣接して設ける代わりに、エレメント列3の前端部及び後端部に重なるようにして、衣服1の構成パーツとなる生地片が縫い付けられる。これにより、当該生地片が止具と同じように機能して、スライダー40がエレメント列3の前端及び後端から脱落することを防止できる。
【0068】
なお、本発明では、スライダー40の脱落を防ぐためにその他の手段を用いることも可能である。スライダー40の脱落を防ぐ手段としては、例えばエレメント列3の前端及び後端に隣接する位置に止具を所定の形状に成形すること、エレメント列3の前端部及び後端部に配されるエレメント11に専用の止具部品を取着して止具を形成すること、エレメント列3の前端部及び後端部に樹脂フィルムを接着又は溶着すること、エレメント列3の前端部及び後端部から延出した生地5の延出部分を折り返して縫い合わせること、左右のエレメント列3の前端部及び後端部を噛合させた状態でファスナー幅方向に縫うこと、及び、止具の代わりに蝶棒、箱棒、及び箱体を備えた開離嵌挿具を設けること等を利用することが可能である。
【0069】
本実施例1のエレメント部材10は、複数の独立したエレメント11(単独エレメントとも言う)と、これら複数のエレメント11を一定の間隔で連結する1本の紐状の連結部材12とを有する。本実施例1の連結部材12は、長さ方向に直交する断面が略円形を呈する部材であり、特に、円形の断面を有するとともにその断面積が長さ方向に一定となる部材であることが好ましい。
【0070】
連結部材12としては、例えばモノフィラメント、撚糸(撚紐)、又は、引き揃えられた複数本のマルチフィラメントからなる芯糸を、複数の編糸で編成される袋織部で包み込むことにより形成される紐体(ニットコードとも言われる)などを用いることが可能である。なお本発明で用いられる連結部材は、複数のエレメントを取着することができれば、特に限定されるものではない。また、連結部材の断面形状は必要に応じて任意に変更することも可能である。更に、本発明のエレメント部材は、複数のエレメントを2本以上の紐状連結部材により連結することによって形成されていても良い。
【0071】
本実施例1のエレメント部材10を形成する複数のエレメント11は、連結部材12によって等間隔に連結された状態で、エレメント部材10の長さ方向に沿って一列に整列している。これらのエレメント11は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂を、1本の連結部材12に射出成形することにより、連結部材12と一体的に形成されている。
【0072】
なお、本発明において、エレメントの材質は、上記した合成樹脂に限定されるものではなく、例えばエレメントをその他の合成樹脂又は金属で形成することも可能である。また、本実施例1のエレメント部材10は、熱可塑性樹脂を連結部材12に射出成形してエレメント11が形成されたものに限定されず、例えば、熱可塑性樹脂を射出成形して所定の形状に形成されたエレメントを、連結部材12に溶着又は接着などによって固着されて形成されるものも含む。
【0073】
更に、本発明におけるエレメント部材は、本実施例1のような射出成形された合成樹脂製のエレメント11が連結部材12に一体的に形成されて連結されているものに限定されるものではない。本発明のエレメント部材には、例えば、紐状の連結部材に金属のダイカスト成形を行って形成されるエレメント部材や、横断面が略Y形状を呈する線材(所謂、Yバー)を切断してエレメントを作製し、更にそのエレメントを押圧変形により連結部材に取り付けて形成されるエレメント部材、薄板状の平板部材を打ち抜いてエレメントを作製し、更にそのエレメントを押圧変形により連結部材に取り付けて形成されるエレメント部材などが含まれる。
【0074】
本実施例1の合成樹脂製のエレメント11は、図5に生地5に取り付けられる前のエレメント部材10を拡大して示したように、連結部材12に固定される胴部11aと、胴部11aからエレメント部材10の幅方向に連続的に延出するとともに長さ方向の寸法が細くなるように括れた形状を有する首部11bと、首部11bから更に幅方向に連続的に延出するとともに平面視にて略長円形を呈する噛合頭部11cと、首部11bから長さ方向の前方及び後方に薄板状に突出する突片部11d(肩部とも言う)とを有する。このような本実施例1のエレメント11では、首部11bと噛合頭部11cとにより、噛合相手側のエレメント部材10のエレメント11と係合する噛合部11hが形成される。
【0075】
この場合、胴部11a、首部11b、及び突片部11dにおけるそれぞれの上面と下面は、厚さ方向に直交するとともに互いに平行に配される。また、首部11bの厚さ方向の寸法(以下、厚さ寸法と略記する)と、胴部11aの厚さ寸法とは同じ大きさに設定される。突片部11dの厚さ寸法は、胴部11a及び首部11bの厚さ寸法よりも小さく設定される。
【0076】
エレメント11の胴部11aは、一定の厚さ寸法を備える略直方体状の形態を有する。この場合、胴部11aは、厚さ方向に直交して配される上面部13a及び下面部13bと、長さ方向に向いて配される前面部13c及び後面部13dと、幅方向における生地5の内方側(首部11bの延出方向とは反対側)に向く側面部(内側側面部)13eとを有する。本実施例1において、胴部11aの上面部13aと下面部13bとは互いに平行に配されるとともに、前面部13cと後面部13dとも互いに平行に配される。なお本実施例1において、胴部11aの前面部13cと後面部13dとは互いに平行ではなく、互いに傾斜する位置関係で配されていても良い。
【0077】
また、本実施例1の胴部11aにおいて、上面部13a又は下面部13bと前面部13c、後面部13d、及び側面部13eとの間に配される各稜線部11eや、前面部13c又は後面部13dと側面部13eとの間に配される稜線部11eは、それぞれの稜線部11eの断面を見たときに、面取り加工が施されたような丸みを帯びた滑らかな曲面に形成されている。これにより、後述するように千鳥縫いミシンによって固定用縫製部15を形成してエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に縫い付けるときに、更には縫い付けた後に、固定用縫製部15の縫製糸16がエレメント11の胴部11aに接触しても、その縫製糸16を傷付き難くすることができる。
【0078】
更に、胴部11aにおける生地5の内側に向いた側面部13eには、生地5のエレメント取付縁部2の一部が挿入される挿入凹部11fが、エレメント部材10の長さ方向に沿って設けられている。この挿入凹部11fは、胴部11aの側面部13eに、生地5のエレメント取付縁部2の厚さ寸法に対応する大きさで凹設されている。挿入凹部11fの表面は、厚さ方向に対して滑らかな湾曲面状に形成されている。各エレメント11に設けられた挿入凹部11fに、生地5のエレメント取付縁部2が挿入された状態でエレメント部材10が固定用縫製部15でエレメント取付縁部2に固定されることにより、各エレメント11を所定の向きでエレメント取付縁部2にしっかりと安定して固定できる。
【0079】
このようなエレメント11の胴部11aには、連結部材12が、長さ方向に沿って貫通されており、且つ、連結部材12の外周面が外部に露出しないように胴部11aに包み込まれた状態で保持されている。この場合、連結部材12は、胴部11aにおける厚さ方向の中央部に保持されている。
【0080】
エレメント11における噛合頭部11cの頂端部(先端部)には、厚さ方向の中央部に、凹溝部11gが長さ方向に沿って形成されている。この凹溝部11gは、左右のエレメント列3を噛合させるときに噛合相手側のエレメント11の突片部11dが嵌入可能なように形成される。従って、凹溝部11gの厚さ寸法の最大値は、エレメント11の突片部11dの厚さ寸法よりも大きく設定される。各エレメント11が上述のような噛合頭部11cの凹溝部11gと、前後の突片部11dとを有することにより、左右のエレメント11を噛合させたときに、上下方向の相対的な位置ずれが生じることを効果的に防止できる。
【0081】
上述のような本実施例1のエレメント部材10は、生地5のエレメント取付縁部2に対して、幅方向の外側に隣接する位置に並べられて、固定用縫製部(縫製線)15によって固定されている。この場合、固定用縫製部15は、千鳥縫いミシンの縫製により形成されるとともに、本縫いにより、長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成される。この固定用縫製部15によって、エレメント部材10が、各エレメント11の胴部11aを生地5のエレメント取付縁部2に接触させた状態でエレメント取付縁部2に固定される。
【0082】
ここで、千鳥縫いミシンとは、ミシンの送り方向に交差する交差方向に沿ってミシン針を揺動させながら、生地5等を本縫いでジグザグに縫うことが可能なミシンである。なお、千鳥縫いミシンにおけるミシン針の揺動を千鳥振りと言うこともある。このような千鳥縫いミシンを用いるとともに、その千鳥縫いミシンに、例えばミシン針の針落ち位置となるX座標(送り方向の位置)とY座標(交差方向の位置)の座標データを設定して縫製を行うことにより、縫製後に形成される固定用縫製部15を、千鳥縫いミシンの送り方向に対し、上記交差方向にジグザグ状となるように容易に屈曲させることができる。
【0083】
本実施例1において、本縫いにより形成される固定用縫製部15の縫製糸16は、エレメント取付縁部2の表面(第1面)を走行するとともに連結部材12の表面側半部に接する上糸(針糸)16aと、エレメント取付縁部2の裏面(第2面)を走行するとともに連結部材12の裏面側半部に接する下糸(ボビン糸)16bとを有する。この場合、固定用縫製部15は本縫いで形成されるため、上糸16aと下糸16bとは、両者が交差する部分を除いて、互いに面対称な位置関係で配される。
【0084】
この場合、本縫いの上糸16aと下糸16bとには、従来の一般的なミシン糸が用いられる。また、本縫いにおける上糸16aと下糸16bとは、固定用縫製部15がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置(後述する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18b)と、連結部材12の外周面に接する位置とにおいて、互いに交差(交絡)している。
【0085】
固定用縫製部15の上糸16aと下糸16bとは、厚さ方向に関して、エレメント取付縁部2の表面を走行する上糸16aとエレメント取付縁部2の裏面を走行する下糸16bとの間の位置で互いに交差している。特に本実施例1における上糸16aと下糸16bとは、エレメント取付縁部2における厚さ方向の中央部分の位置で相互に交差している。これにより、刺通位置における上糸16aと下糸16bの交差部分を、エレメント取付縁部2で保護するとともに外部から見え難くすることができる。なお、厚さ方向における上糸16aと下糸16bの交差位置は、千鳥縫いミシンにおける上糸16a及び下糸16bのテンションコントロールを行うことによって容易に変更することが可能である。
【0086】
本実施例1の固定用縫製部15は、上述のように千鳥縫いミシンを用いて上糸16aと下糸16bとを他糸レーシングする本縫いのステッチで形成されている。これにより、固定用縫製部15が生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともに、エレメント部材10の連結部材12を包み込んで支持することができる。このため、エレメント部材10が、固定用縫製部15によって、生地5のエレメント取付縁部11に容易に且つ安定して取り付けられて固定される。
【0087】
なお本実施例1では、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bが生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともに、上糸16a及び下糸16bがエレメント部材10の連結部材12も刺通して保持することによって、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部11に取り付けることも可能である。
【0088】
また千鳥縫いミシンを用いて固定用縫製部15を形成することにより、縫製後の固定用縫製部15の上糸16aと下糸16bとが、エレメント11に対して、エレメント11の表面(上面)及び裏面(下面)で交差するように重なって配置されることを効果的に防止できる。これにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント11に重なることに起因して上糸16a及び下糸16bの弛み、エレメント列3の噛み合わせの円滑さ(噛み合わせ易さ)の低下、スライダー40の摺動性の低下などの不具合が生じることを防止できる。
【0089】
本実施例1の固定用縫製部15は、本縫いの上糸16aと下糸16bとが、1つのエレメント11に対して連結部材12の外周面上で交差する外周交差位置から、次の連結部材12の外周面上で交差する外周交差位置まで走行する単位走行領域を有し、この単位走行領域が長さ方向にエレメント11ごとに繰り返して配されることによって形成される。この場合、本実施例1の固定用縫製部15を形成する各単位走行領域は、固定用縫製部15がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置を2つずつ有する。なお、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bが上述のように連結部材12も刺通する場合、固定用縫製部15の単位走行領域は、1つのエレメント11に対して、上糸16a及び下糸16bが連結部材12を刺通する1つの連結部材刺通位置から次の連結部材刺通位置までの領域を言う。
【0090】
ここで、本実施例1の単位走行領域について、図2を参照しながら具体的に説明すると、本実施例1における固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bは、各単位走行領域において、連結部材12の外周面で上糸16aと下糸16bが交差す外周交差位置から最初の第1刺通位置18aまで配される第1走行部17aと、その第1刺通位置18aから次の第2刺通位置18bまで配される第2走行部17bと、第2刺通位置18bから次の外周交差位置まで配される第3走行部17cとを有する。
【0091】
この場合、第1走行部17aは、上糸16a(又は下糸16b)が、上述の外周交差位置から、エレメント11の側面部13eに対応する幅方向の位置まで幅方向(又は略幅方向)に沿って走行し、更に第1刺通位置18aまでは幅方向に対して斜めに走行することにより形成される。この場合、第1走行部17aの幅方向に沿って走行する部分と幅方向に対して斜めに走行する部分との境界部は、エレメント11の胴部11aに接することもある。第2走行部17bは、第1刺通位置18aと第2刺通位置18bとの間で、上糸16a(又は下糸16b)がエレメント部材10の長さ方向に沿って走行することにより形成される。第3走行部17cは、上糸16a(又は下糸16b)が第2刺通位置18bからエレメント11の側面部13eに対応する幅方向の位置まで幅方向に対して斜めに走行し、更に外周交差位置までは幅方向(又は略幅方向)に沿って走行することにより形成される。この場合、第3走行部17cの幅方向に対して斜めに走行する部分と幅方向に沿って走行する部分との境界部は、エレメント11の胴部11aに接することもある。
【0092】
上述のように上糸16a及び下糸16bが走行して固定用縫製部15が形成される場合、図2に示すようにエレメント部材10と生地5のエレメント取付縁部2とを上方から見た平面視(又は下方から見た底面視)において、エレメント11の内側の側面部13eと、固定用縫製部15におけるエレメント11の側面部13eよりも更に生地5の内方側に形成される部分とが、等脚台形の形状を呈するように配置される。
【0093】
特に本実施例1では、固定用縫製部15が生地5のエレメント取付縁部11を刺通する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bを、各エレメント11の内側側面部13eから、幅方向における生地5の内側(言い換えると、噛合相手側のエレメント11に向く方向と反対側の方向)に向けて離間させて形成されている。すなわち、エレメント部材10の幅方向に関して、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間には、一定の間隔が設けられている。
【0094】
この場合、エレメント部材10の幅方向における第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の寸法(離間距離)Wは、具体的に、0.4mm以上、好ましくは0.8mm以上に設定される。またこの場合、上記の寸法(離間距離)Wは、生地5の厚さ寸法以上の大きさに設定されることが好ましい。
【0095】
このような位置に固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bを設定することにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント11の表面及び裏面に重なることをより安定して防止することができる。また、第1及び第2刺通位置18a,18bとエレメント取付縁部2の側端縁との間の幅方向における間隔を大きく確保できる。これにより、エレメント取付縁部11の強度を安定して確保し易くなり、例えば生地5が上糸16a及び下糸16bによって擦られることによって第1又は第2刺通位置18a,18bからエレメント取付縁部2の側端縁に向けて切れるというような生地5の損傷を生じさせ難くすることができる。
【0096】
なお、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の寸法(離間距離)Wは、30mm以下に、好ましくは10mm以下に、更に好ましくは5mm以下に設定される。このような大きさに設定されることにより、固定用縫製部15によって、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に安定して固定でき、エレメント11の位置がずれることも効果的に防止できる。
【0097】
更にこの場合、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の幅方向における寸法(離間距離)Wは、図4に示すように、取り付けられるスライダー40の後述するフランジ部41dの幅方向における寸法よりも大きく設定されることが好ましい。なお、図4では、スライダー40の一部が仮想線により示されている。すなわち、本実施例1における固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bは、用いられるスライダー40のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側に配される。
【0098】
これにより、スライダー40の摺動操作が繰り返して行われても、スライダー40のフランジ部41dが生地5のエレメント取付縁部2に直接摺接し難くすることができる。このため、スライダー40のフランジ部41dによってエレメント取付縁部2が摩耗し難くなり、生地5の摩耗を低減できる。また、スライダー40のフランジ部41dがエレメント取付縁部2に擦れることに起因してエレメント取付縁部2が傷付けられ難くなるため、エレメント取付縁部2の耐久性を向上させることができる。
【0099】
また本実施例1において、固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bは、図2に示すように、エレメント部材10の長さ方向に関して、エレメント11の胴部11aの形成領域に対応する範囲6内に配される。このように第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bが上記範囲6内に配されることにより、エレメント部材10を固定用縫製部15によって生地5のエレメント取付縁部2にしっかりと固定できるとともに、エレメント部材10の長さ方向における各エレメント11の位置が、エレメント取付縁部2に対して、ずれ難くするこができる。
【0100】
また、本実施例1のスライドファスナー付き衣服1では、幅方向における各エレメント11の側面部13eの位置と固定用縫製部15の刺通位置(第1刺通位置18a及び第2刺通位置18b)との間の領域に、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを弛まないように締め付けるための補助縫製部19が連続的に形成されている。
【0101】
特に、本実施例1の補助縫製部19は、ミシンを用いて補助用上糸(針糸)19aと補助用下糸(ボビン糸)19bを他糸レーシングする本縫いのステッチにより、エレメント部材10の長さ方向に沿って直線的に形成される。このように補助縫製部19を本縫いで形成することにより、補助縫製部19を容易に且つ安定して形成できるとともに、後述するように固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを安定して押さえ付ける(締め付ける)ことができる。このため、補助縫製部19は、締め付け用縫製部19とも言うことができる。
【0102】
この場合、補助縫製部19の補助用上糸19aと補助用下糸19bとは、補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置で、且つ、エレメント取付縁部2における厚さ方向の中央部分の位置において、互いに交差(交絡)している。なお、厚さ方向における補助用上糸19aと補助用下糸19bの交差位置は、ミシンにおける補助用上糸19a及び補助用下糸19bのテンションコントロールを行うことによって変更することが可能である。
【0103】
本実施例1の補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、上述のようにエレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における領域内で、言い換えると、固定用縫製部15における上述した第1及び第3走行部17a,17cの幅方向に対して斜めに走行する部分に重なる領域内に配され、且つ、当該領域内で、補助縫製部19の補助用上糸19a及び補助用下糸19bが、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bの上にそれぞれ交差している。
【0104】
このような補助縫製部19が形成されることにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを、補助用上糸19a及び補助用下糸19bで、上下からエレメント取付縁部2に向けて(言いかえると、厚さ方向の内側に向けて)押さえ付けることができる。これにより、補助縫製部19によって固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを締め付けてテンションを加えることができる。このため、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bに弛みが生じていたとしても、その弛みを解消することができる。また、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bに弛みが生じることも効果的に防止できる。従って、固定用縫製部15によるエレメント部材10の固定を、より強固にしっかりと行うことができる。
【0105】
更に、補助縫製部19が固定用縫製部15の上に重ねて形成されることにより、スライダー40の摺動操作が繰り返して行われるときに、スライダー40のフランジ部41dが生地5のエレメント取付縁部2に対してより摺接し難くなるため、エレメント取付縁部2をスライダー40のフランジ部41dからより安定して保護できる。このため、エレメント取付縁部2の耐久性を更に向上させることができる。
【0106】
また本実施例1において、補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、図4に示したように、エレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における領域内で、且つ、エレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における中央位置に、又は当該中央位置に対して固定用縫製部15の刺通位置寄りの位置に配される。更にこの場合、補助縫製部19の上記刺通位置は、取り付けられるスライダー40の上下のフランジ部41dに挟まれる位置(言い換えると、上下のフランジ部41dに対向する位置)、又は上下のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側の位置に配されることが好ましい。
【0107】
補助縫製部19の刺通位置が上述のように設定されることにより、当該補助縫製部19で固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを押さえたときに、固定用縫製部15に弛みが生じることを効果的に防止できる。その上、例えば補助縫製部19の刺通位置を上述の中央位置よりもエレメント11寄りに設定する場合に比べて、スライダー40を摺動操作したときにそのスライダー40のエレメント案内路内で左右のエレメント列3のエレメント11を順番に噛合・分離させ易くすることができる。このため、スライダー40を円滑に、また軽快に摺動させることができる、
なお、本実施例1の補助縫製部19は、長さ方向に沿った直線状の本縫いにより形成されているが、本発明では、補助縫製部19が固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に向けて押さえることができれば、二重環縫い等のような本縫い以外のステッチによって補助縫製部を形成することも可能である。
【0108】
本実施例1のエレメント列3に取り付けられるスライダー40は、図1に模式的に示したように、スライダー胴体41と、取付軸部を一端部に備えた引手42とを有する。本実施例1のスライダー胴体41は、その詳しい構造の図示を省略するが、上翼板41aと、上翼板41aと離間して平行に配された下翼板41cと、上翼板41a及び下翼板41cの前端部(肩口側端部)間を連結する連結柱と、上翼板41a及び下翼板41cの左右側縁部に配される上下のフランジ部41dと、上翼板41aの上面に配される引手取付部41bとを有する。
【0109】
また、スライダー胴体41の前端部には、案内柱を間に挟んで左右の肩口が形成され、スライダー胴体41の後端部には後口が形成されている。また、上翼板41a及び下翼板41c間には、左右の肩口と後口とを連通する略Y字形状のエレメント案内路が形成されている。更に、スライダー胴体41における上下のフランジ部41d間には、生地5のエレメント取付縁部2を挿通させる挿通間隙が、上翼板41a及び下翼板41cと平行に形成されている。上述のような構造を有するスライダー40を用いることにより、衣服1の生地5のエレメント取付縁部2に直接固定された左右のエレメント部材10の噛合・分離を円滑に行うことができる。
【0110】
次に、上述のようなエレメント部材10を有する本実施例1のスライドファスナー付き衣服1の製造方法について説明する。
先ず、エレメント部材10と、衣服1用の生地5とをそれぞれ準備する。本実施例1のエレメント部材10は、上述したように、1本の紐状の連結部材12に対して合成樹脂を直接射出成形し、所定の形状を有する複数のエレメント11を等間隔で形成することによって作製される。
【0111】
一方、エレメント部材10とは別に、ファスナー被着部材となる衣服1用の生地を編成や織成などによって作製する。このとき、例えば生地5に防水性を付与したい場合には、編成又は織成された生地に合成樹脂をコーティングしたり、樹脂フィルムを貼り付けたりすることも可能である。更に作製した生地を、衣服1の前身頃に対応した所定の形状となるように裁断し、ファスナー被着部材となる左右一対の前身頃用の生地5(生地パーツ)を作製する。更に、裁断した左右の生地5における裁断端縁部となる側縁部をU字状に折り返すことにより、当該生地5に、エレメント部材10を取り付けるためのエレメント取付縁部2を形成する。この場合、左右一対の前身頃用生地5にそれぞれ形成されるエレメント取付縁部2は、衣服1を製造したときに互いに対向して配される位置に設けられる。
【0112】
次に、上述のようにして作製したエレメント部材10と、所定の形状に裁断されてエレメント取付縁部2が形成された生地5(生地パーツ)を用いて、エレメント部材10付き衣服1を形成するための衣服構成パーツを作製する。
【0113】
先ず、1回目の縫製工程として、例えば図5に示したように、エレメント部材10を、生地5のエレメント取付縁部2に、千鳥縫いミシンを用いて縫い付ける縫製を行う。このとき、針落ち位置の座標データが設定されている千鳥縫いミシンを用いて、エレメント部材10と生地5のエレメント取付縁部2とに対して縫製を行うことにより、図2等に示した固定用縫製部15を形成しながら、その固定用縫製部15によってエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に取り付けて(縫い付けて)固定することができる。
【0114】
次に、2回目の縫製工程として、固定用縫製部15によってエレメント部材10が固定された生地5のエレメント取付縁部2に対し、1本針の本縫いミシンを用いて補助縫製部19を形成する縫製を行う。これにより、固定用縫製部15が形成されたエレメント取付縁部2の所定位置に、上述した直線状の本縫いからなる補助縫製部19を安定して形成することができる。
【0115】
その結果、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを補助縫製部19によってエレメント取付縁部2に向けて押さえ付けることができるため、エレメント部材10をより強固にエレメント取付縁部2に固定することができる。これにより、図2図4に示したようにエレメント部材10が、固定用縫製部15及び補助縫製部19によってエレメント取付縁部2に固定されたエレメント部材10付き衣服1の左右の衣服構成パーツが作製される。また本実施例1では、上述した左右一対の衣服構成パーツの他に、衣服1における左右の袖部や後身頃を構成する不図示の衣服構成パーツなどを作製して準備する。
【0116】
その後、作製した各部位の衣服構成パーツを互いに縫製等により結合させて、衣服1を組み立てる。更に、生地5のエレメント取付縁部2にエレメント部材10を固定して形成されたエレメント列3に、スライダー40を摺動可能に取り付ける。これによって、図1に示したようなスライドファスナー付き衣服1が安定して製造される。
【0117】
このようにして製造された本実施例1のスライドファスナー付き衣服1は、衣服1の生地5の一部が、衣服1を構成するだけでなく、従来のスライドファスナーのファスナーテープとしても機能する。このため、このスライドファスナー付き衣服1では、従来のスライドファスナーでは必須構成部品であったファスナーテープの存在を省略した形態(言い換えると、ファスナーテープ無しのスライドファスナーの形態)で、スライドファスナーの機能を有することができる。これにより、スライドファスナー付き衣服1の製造コスト(特に、材料コスト)を低減することができる。また、スライドファスナー付き衣服1を軽量化できるとともに、衣服1の柔軟性を向上させることができる。特に、本実施例の衣服1の場合、衣服1の前立て部における生地5の表裏方向の柔軟性を高めることができる。
【0118】
更に、本実施例1の場合、例えば生地5に防水性や撥水性などのような所望の機能を付与した上で、当該生地5にエレメント部材10を直接固定することが可能である。このため、防水性や撥水性などを備えた高品質のスライドファスナー付き衣服1を容易に製造することも可能となる。
【0119】
なお、上述した実施例1の場合、スライドファスナー付き衣服1の製造において、前身頃用の生地パーツを所定の形状に裁断した後に、縫製によるエレメント部材10の固定が行われている。しかし、本発明では、裁断前の生地5に対して、縫製によりエレメント部材10を所定の位置に固定し、その後、エレメント部材10付きの生地5を所定の形状に裁断することによって、エレメント部材10付きの衣服構成パーツを作製することも可能である。
【0120】
なお、本実施例1のエレメント部材10では、生地5のエレメント取付縁部2にエレメント11を所定の姿勢でしっかりと固定するために、上述したように各エレメント11の側面部13eに、生地5のエレメント取付縁部2の一部を挿入することが可能な挿入凹部11fが設けられている。しかし本発明では、例えば図6に実施例1の変形例に係るエレメント部材10aを示すように、実施例1のような挿入凹部11fが側面部13eに設けられていない複数のエレメント11を連結部材12に一体的に形成することによって、エレメント部材10aを作製することも可能である。
【0121】
なお、この変形例におけるエレメント部材10a及び生地5のエレメント取付縁部2は、各エレメント11に挿入凹部11fが設けられていないこと以外は、上述した実施例1のエレメント部材10及び生地5のエレメント取付縁部2と同様に形成されている。例えば、この変形例における固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bは、エレメント部材10aの幅方向に関して、各エレメント11から離間して配されており、特に、スライダー40のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側に配されている。また、この変形例における補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、スライダー40の上下のフランジ部41dに挟まれる位置、又は上下のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側の位置に配される。
【0122】
このような実施例1の変形例に係るエレメント部材10aが生地5のエレメント取付縁部2に固定されたスライドファスナー付き衣服であっても、エレメント部材10が生地5にしっかりと固定されるため、上述した実施例1のスライドファスナー付き衣服1と略同様の効果が得られる。
【0123】
また、上述の実施例1において、固定用縫製部15の各単位走行領域は、生地5のエレメント取付縁部2を刺通する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bの2つの刺通位置を有する。しかし本発明では、固定用縫製部15の各単位走行領域においてエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置の個数は、1つであっても良いし、3つ以上の複数であっても良い。
【実施例2】
【0124】
図7は、本実施例2に係るスライドファスナー付き衣服1の要部を示す要部平面図である。図8は、エレメント部材10を固定する固定用縫製部15を形成する糸の断面を示す断面図である。
なお、本実施例2及び後述する実施例3においては、前述の実施例1と実質的に同じ構成を有する部品及び部材については同じ符号を用いて表すことによって、その説明を省略することとする。
【0125】
本実施例2に係るスライドファスナー付き衣服では、生地5のエレメント取付縁部2に、エレメント部材10がそれぞれ縫着されて左右のエレメント列3が形成されている。この場合、生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10自体は、前述の実施例1における生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10と同様に形成されているが、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に固定する構造が、前述の実施例1の場合と異なる。
【0126】
すなわち、前述の実施例1において、エレメント部材10は、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部15と、本縫いミシンにより形成される補助縫製部19とによって、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bに弛みを生じさせることなく。生地5のエレメント取付縁部2にしっかりと固定されている。
【0127】
これに対して、本実施例2のスライドファスナー付き衣服では、本縫いミシンにより形成される実施例1の補助縫製部19が形成されておらず、エレメント部材10が、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部25のみによって生地5のエレメント取付縁部2に固定されている。
【0128】
また、本実施例2の固定用縫製部25のステッチ及び単位走行領域は、前述の実施例1の固定用縫製部15の場合と同様に形成されているが、本実施例2の固定用縫製部25を形成する上糸(針糸)26aと下糸(ボビン糸)として、前述の実施例1のような通常のミシン糸ではなく、図8に示すような断面の構造を有する溶着糸27(融着糸とも言う)が用いられる。
【0129】
図8に示した溶着糸27は、断面中央部に配される芯部27aと、芯部27aの周りを囲んで配される鞘部27bとを備える芯鞘構造を有する糸である。この溶着糸27の芯部27aは、所定の温度以上に加熱されても溶融しない繊維材料、又は加熱によって収縮する熱収縮性を備えた繊維材料によって形成される。また、溶着糸27の鞘部27bは、所定の温度以上に加熱されることによって溶融する熱融着性を備えた繊維材料によって形成される。この場合、溶着糸27の断面における芯部27aと鞘部27bとの複合割合(言い換えると断面積の割合)は特に限定されず、任意に設定することができる。
【0130】
本実施例2では、上述した溶着糸27を本縫いの上糸26a及び下糸として用いて、千鳥縫いミシンによる縫製を行う。これによって、固定用縫製部25を形成するとともに、その固定用縫製部25によってエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に固定することができる。
【0131】
更に固定用縫製部25を形成した後に、その固定用縫製部25(すなわち、エレメント部材10が固定用縫製部25によってエレメント取付縁部2に固定された生地構成パーツ)に対して、所定の温度の加熱処理を行う。これによって、上糸26a及び下糸として用いられている溶着糸27の鞘部27bを溶融させ、更にその後冷却することによって、溶着糸27の芯部27aと生地5のエレメント取付縁部2とを融着させて両者を強固に固定することができる。
【0132】
また、溶着糸27の芯部27aが熱収縮性を備えた繊維材料によって形成される場合には、上述の加熱処理を行うことによって、溶着糸27の芯部27aを糸の長さ方向に沿って収縮させることができる。このため、千鳥縫いミシンによる縫製を行ったときに固定用縫製部25の上糸26a及び下糸に弛みが生じていたとしても、上糸26a及び下糸に加熱処理を行って収縮させることによって、その弛みを解消することができる。また、加熱処理後に固定用縫製部25の上糸26a及び下糸に弛みが生じることも効果的に防止できる。
【0133】
従って、本実施例2では、固定用縫製部25を形成する上糸26a及び下糸に、芯鞘構造の溶着糸27が用いられるとともに、千鳥縫いミシンによる縫製後に固定用縫製部25に加熱処理が行われることにより、固定用縫製部25に重ねるように前述の実施例1のような補助縫製部19が形成されていなくても、固定用縫製部25によるエレメント部材10の生地5に対する固定を、溶着糸27の融着によって強固にしっかりと行うことができる。
【0134】
なお本実施例2では、溶着糸27による固定用縫製部25を形成してエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に固定した後、更に前述の実施例1と同様の補助縫製部19を固定用縫製部25に重ねて形成することも可能である。
【0135】
このような本実施例2のスライドファスナー付き衣服では、エレメント部材10が生地5のエレメント取付縁部2にしっかりと安定して固定される。従って、本実施例2のスライドファスナー付き衣服でも、前述した実施例1のスライドファスナー付き衣服1と同様の効果が得られる。
【0136】
なお、実施例2では、固定用縫製部25を形成する上糸(針糸)26aと下糸(ボビン糸)として、上述した溶着糸27ではなく、通常のミシン糸を用いるとともに、その固定用縫製部25の上糸26a及び下糸を接着剤で生地5のエレメント取付縁部2に接着して強固に固定することも可能である。これによっても、エレメント部材10を生地5に固定用縫製部25により強固にしっかりと固定することができる。
【実施例3】
【0137】
図9は、本実施例3に係るスライドファスナー付き衣服の要部を示す要部平面図である。図10は、図9に示したX−X線における断面図である。
本実施例3に係るスライドファスナー付き衣服では、生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10自体は、前述の実施例1における生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10と同様に形成されているが、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に固定する構造が、前述の実施例1の場合と異なる。
【0138】
本実施例3のスライドファスナー付き衣服では、本縫いミシンにより形成される実施例1の補助縫製部19が形成されていないものの、エレメント部材10が、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部15によって生地5のエレメント取付縁部2に固定されるとともに、その固定用縫製部15を生地5のエレメント取付縁部2に固定するための透明のフィルム部材(テープ部材)31が、エレメント取付縁部2にテープ長さ方向に沿って貼着されている。なお、このフィルム部材31は、固定用縫製部15の縫製糸16を固定するための糸固定用フィルム部材31と言うこともできる。
【0139】
この場合、本実施例3における固定用縫製部15のステッチ及び単位走行領域は、前述の実施例1の固定用縫製部15の場合と同様に形成されている。また、本実施例3の固定用縫製部15を形成する上糸(針糸)16aと下糸16b(ボビン糸)には、前述の実施例1と同様に通常のミシン糸が用いられる。なお本実施例3では、固定用縫製部15を形成する上糸16a及び下糸16bとして、前述の実施例2のような芯鞘構造を有する溶着糸27を用いることも可能である。
【0140】
本実施例3のフィルム部材31は、そのフィルム部材31の一方のフィルム面に接着剤又は粘着剤が塗布されて形成されている。このフィルム部材31は、千鳥縫いミシンによる縫製を行って固定用縫製部15が形成された後に、固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bを含む固定用縫製部15の一部を被覆するようにエレメント取付縁部2の表面と裏面とに貼着される。
【0141】
特にこの場合、表面側のフィルム部材31と裏面側のフィルム部材31は、エレメント部材10のエレメント11に重ならない位置でテープ長さ方向に沿って貼着され、それによって、固定用縫製部15の一部と生地5のエレメント取付縁部2の一部とを覆っている。これにより、固定用縫製部15の上糸16aの一部と下糸16bの一部とが、フィルム部材31により被覆されて生地5のエレメント取付縁部2の表面及び裏面にそれぞれ強固に固定することができる。なお本実施例3において、フィルム部材31は、エレメント取付縁部2の表面及び裏面の一方の面のみに貼着されていても良い。
【0142】
このように本実施例3では、固定用縫製部15の一部をエレメント取付縁部2に固定するフィルム部材31が、エレメント取付縁部2の表面と裏面に貼着されていることにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に強固に固定して、上糸16a及び下糸16bに弛みが生じることを防止できる。
【0143】
従って、本実施例3では、固定用縫製部15の上に前述の実施例1のような補助縫製部19が形成されていなくても、表面側及び裏面側のフィルム部材31が固定用縫製部15をエレメント取付縁部2に固定することによって、固定用縫製部15によるエレメント部材10の生地5に対する固定を強固にすることができる。従って、本実施例3のスライドファスナー付き衣服でも、前述した実施例1のスライドファスナー付き衣服1と略同様の効果が得られる。
【0144】
なお本実施例3では、フィルム部材31を上述のように貼着する代わりに、フィルム部材31が貼着される範囲に、接着剤を塗布する又はコーティングすることによって、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に接着して強固に固定することも可能である。
【0145】
なお、上述した実施例1〜実施例3において、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部15,25は、上糸16a,26a及び下糸16bが幅方向に対して斜めに走行する傾斜部分を有する第1走行部17a及び第3走行部17cと、上糸16a及び下糸16bが第1刺通位置18aと第2刺通位置18bとの間を長さ方向に沿って走行する第2走行部17bとを有する単位走行領域が繰り返されて形成される。特にこの場合、固定用縫製部15,25は、エレメント11の側面部13eと、固定用縫製部15,25におけるエレメント11の側面部13eよりも生地5の内方側に形成される部分とが等脚台形の形状を呈するように形成される。
【0146】
しかし本発明において、固定用縫製部の単位走行領域の形状はこれに限定されるものではなく、固定用縫製部が生地5のエレメント取付縁部11をエレメント11から生地5の内方側に離間した位置で刺通するとともに、その固定用縫製部がエレメント部材10の連結部材12を包み込むように支持することができれば、固定用縫製部を千鳥縫いミシンを用いてその他の形状で形成することも可能である。
【0147】
例えば図11に変形例に係る固定用縫製部35を示すように、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部35の単位走行領域は、上糸36a及び下糸が連結部材12の外周面で上糸36aと下糸が交差す外周交差位置から最初の第1刺通位置38aまで幅方向に沿って直線状に走行する第1走行部37aと、上糸36a及び下糸が第1刺通位置38aから次の第2刺通位置38bまで長さ方向に沿って直線状に走行する第2走行部37bと、上糸36a及び下糸が第2刺通位置38bから次の外周交差位置まで幅方向に沿って直線状に走行する第3走行部37cとを有していても良い。
【0148】
図11に示すように固定用縫製部35が形成されていても、その固定用縫製部35が生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともにエレメント部材10の連結部材12を包み込むように支持することができるため、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部11にしっかりと安定して固定することができる。また、縫製後の固定用縫製部35の上糸36a及び下糸がエレメント11の表面及び裏面に重なって配置されることもより安定して防止できる。更に、固定用縫製部35が長さ方向と幅方向に沿って形成されるため、スライドファスナー付き衣服の見栄えやデザイン性を高めることも可能となる。
【0149】
また本発明では、例えば固定用縫製部がエレメント取付縁部を刺通する刺通位置を、各エレメント11の側面部13eから生地の内側に向けて、実施例1の場合よりも大きく離間させることも可能である。この場合、固定用縫製部の各単位走行領域において、固定用縫製部がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置を、図2図11に示すような2つではなく、1つに減らして、固定用縫製部をジグザグ状に形成することもできる。
【0150】
更に、上述した実施例1〜実施例3では、生地5の側縁部がU字状に折り返されてエレメント取付縁部2が形成されることによって、エレメント取付縁部2の強度が高められる。また、生地5の裁断端縁(側端縁)に解れが生じている場合には、その解れをエレメント取付縁部2の裏面側に隠して見えないようにすることもできる。
【0151】
しかし本発明では、生地5の側縁部をU字状に折り返すことなく、幅方向にまっすぐに延ばした状態でエレメント取付縁部が形成されていても良い。また、生地5の側縁部を幅方向にまっすぐに延ばしてエレメント取付縁部を形成する場合には、その生地5の側縁部に補強剤を含浸することや、生地5の側縁部に合成樹脂製の補強用フィルム部材を、当該側縁部を内側に包み込むように貼り付けることによって、まっすぐに形成されるエレメント取付縁部の強度を安定して高めることが可能である。
【0152】
この場合、生地5に含浸する補強剤は硬化型の接着剤であり、このような補強剤としては、例えば、1液硬化型接着剤、2液硬化型接着剤、瞬間接着剤、ホットメルト型接着剤、エマルジョン系接着剤、又は、紫外線や電子線等によって硬化する光硬化型接着剤等を使用することができる。また、生地5に貼り付ける補強用フィルム部材は、貼着することにより生地5の強度を高めることが可能なフィルム状の部材である。この補強用フィルム部材には、伸縮性が少ないフィルム部材又は伸縮しないフィルム部材が使用されることが好ましい。
【0153】
このように補強剤の含浸や補強用フィルム部材の貼着によってエレメント取付縁部が補強されることによっても、例えば固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント取付縁部に刺通していても、その上糸16a及び下糸16bによってエレメント取付縁部が切れ難くすることができるため、エレメント取付縁部の耐久性を高めることができる。
【0154】
また、まっすぐな状態のエレメント取付縁部にエレメント部材10がしっかりと固定されるため、そのエレメント取付縁部に固定された各エレメント11の位置及び姿勢を安定させることもできる。更に、エレメント取付縁部に補強剤を含浸することや補強用フィルム部材を貼着することによって、エレメント取付縁部の側端縁に糸の解れを生じさせ難くすることができる。
【符号の説明】
【0155】
1 スライドファスナー付き衣服(衣料品)
2 エレメント取付縁部
3 エレメント列
5 生地(ファスナー被着部材)
6 エレメントの胴部の形成領域に対応する範囲
10,10a エレメント部材
11 エレメント
11a 胴部
11b 首部
11c 噛合頭部
11d 突片部
11e 稜線部
11f 挿入凹部
11g 凹溝部
11h 噛合部
12 連結部材
13a 上面部
13b 下面部
13c 前面部
13d 後面部
13e 側面部(内側側面部)
15 固定用縫製部(縫製線)
16 縫製糸
16a 上糸(針糸)
16b 下糸(ボビン糸)
17a 第1走行部
17b 第2走行部
17c 第3走行部
18a 第1刺通位置
18b 第2刺通位置
19 補助縫製部(締め付け用縫製部)
19a 補助用上糸(針糸)
19b 補助用下糸(ボビン糸)
25 固定用縫製部
26a 上糸(針糸)
27 溶着糸
27a 芯部
27b 鞘部
31 フィルム部材(テープ部材)
35 固定用縫製部
36a 上糸
37a 第1走行部
37b 第2走行部
37c 第3走行部
38a 第1刺通位置
38b 第2刺通位置
40 スライダー
41 スライダー胴体
41a 上翼板
41b 引手取付部
41c 下翼板
41d フランジ部
42 引手
W 固定用縫製部の第1及び第2刺通位置とエレメントとの間の幅方向における寸法(離間距離)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12