【実施例1】
【0056】
図1は、本実施例1に係るスライドファスナー付き衣服を模式的に示す模式図である。
図2は、エレメント部材が衣服のファスナー取付部に取着されている部分を拡大して示す拡大平面図であり、
図3は、その部分を、噛合相手側のエレメント部材からエレメント部材の幅方向に沿って見たときの側面図である。
図4は、
図2に示したIV−IV線における断面図である。
【0057】
また、以下のエレメント部材に関する説明において、前後方向とは、スライダーの摺動方向に平行なエレメント部材の長さ方向を言い、特に、スライダーが左右のエレメント列を噛合させるように摺動する方向を前方とし、左右のエレメント列を分離させるように摺動する方向を後方とする。
【0058】
左右方向とは、エレメント部材の幅方向(又は、ファスナー被着部材となる生地の幅方向)を言い、例えば、スライダーの摺動方向に直交し、且つ、生地の表面及び裏面に平行な方向である。上下方向とは、前後方向と左右方向とに直行する方向を言い、例えば生地の表面及び裏面に直交するエレメント部材の厚さ方向を言う。特に以下の場合では、エレメント部材に対してスライダーの引手が配される側の方向を上方とし、その反対側の方向を下方とする。
【0059】
本実施例1に係るスライドファスナー付き製品は、スライドファスナー付きの衣服(衣料品)1であり、この衣服1の前身頃の前立て部に左右のエレメント取付縁部2が設けられる。また、衣服1における左右のエレメント取付縁部2に、エレメント部材10がそれぞれ縫着されて左右のエレメント列3が形成されている。更に、これらの左右のエレメント列3には、スライダー40がエレメント列3に沿って摺動可能に取り付けられている。
【0060】
この場合、衣服1の前立て部を構成する生地5(ガーメント生地とも言う)が、エレメント部材10が取着されるファスナー被着部材となる。従って、本実施例1で構成されるスライドファスナーは、衣服1の生地5にエレメント部材10が直接固定されることにより形成されたエレメント列3を備える左右一対のファスナーストリンガーと、左右のファスナーストリンガーのエレメント列3を噛合及び分離させることが可能なスライダー40とを有する。
【0061】
ファスナー被着部材となる生地5は、衣服1の前立て部を構成する生地5であり、その衣服1に必要な性能や性質(柔らかさ、厚さ、質感、色合いなど)を備えている。本実施例1において、エレメント部材10が縫着される生地5は、衣服1の形やデザイン等に応じて、所定の形状及び寸法に裁断されている。ここで、一般的な従来のファスナーテープの厚さが1.1mm〜1.5mmであるのに対し、本実施例1で用いられるファスナー被着部材である生地5や、その他の部分の生地は、軽量化の点から薄く形成されており、例えば0.2mm以上1.0mm以下、好ましくは0.4mm以上0.7mm以下の厚さを有する。
【0062】
本実施例1において、生地(ファスナー被着部材)5に設けられる左右のエレメント取付縁部2は、衣服1の前身頃における互いに対向する位置(すなわち、前身頃の対向縁部)に配されるとともに、前身頃の対向縁部に直線状に且つ連続的に形成されている。ここで、生地5に設けられるエレメント取付縁部2は、左右の前立て部を構成する生地5の互いに対向する対向側端から、エレメント部材10の幅方向において、その生地5の内側に向けて所定の寸法を有する部分(領域)を言う。従って、生地5のエレメント取付縁部2は、エレメント部材10の長さ方向に沿って一定の幅寸法を有して形成されている。このエレメント取付縁部2は、後述するように固定用縫製部15の縫製糸16が刺通する部分であり、且つ、後述するエレメント11の胴部11a(特に、側面部13e)に接する部分である。
【0063】
この場合、左右のエレメント取付縁部2は、
図4及び
図5に示すように、生地5の裁断端部となる側縁部が、エレメント部材10の幅方向にU字状に折り返されることによって形成される。このようにエレメント取付縁部2が形成されることにより、エレメント取付縁部2が、薄い生地5の他の部分よりも局部的に厚く形成されて、エレメント取付縁部2の強度を高めることができる。
【0064】
それにより、エレメント取付縁部2に、後述するように固定用縫製部15の縫製糸16(後述する上糸16a及び下糸16b)が刺通しても、その縫製糸16によってエレメント取付縁部2が切断され難くなり、エレメント取付縁部2の耐久性を高めることができる。更に、エレメント取付縁部2の強度が高められることによって、そのエレメント取付縁部2にエレメント部材10をしっかりと固定できるとともに、エレメント取付縁部2に固定された各エレメント11の位置及び姿勢を安定させることができる。
【0065】
更に、生地5の側縁部がU字状に折り返されることにより、例えば生地5の側端縁に解れが生じていても、その解れがエレメント取付縁部2の裏面側に隠されて、外側に表出しないようにすることができる。それによって、スライドファスナー付き衣服1が、良好な外観品質(見栄え)を備えることができる。また、生地5の側端縁に生じている解れに起因して、左右のエレメント列3の噛み合わせが悪くなることや、スライダー40の摺動操作性(摺動の円滑さ)が低下することを防止することが可能である。
【0066】
更に本実施例1では、例えばエレメント取付縁部2の表面及び裏面の少なくとも一方に、及び/又は、エレメント取付縁部2のU字状に折り返されている側縁部の内側(上下の折り返し部の間)に、図示しない樹脂フィルムなどの補強シート部材を貼着して取り付けることや、エレメント部材10と一緒に縫い付けることも可能である。このように補強シート部材をエレメント取付縁部2に取着することによっても、エレメント取付縁部2を補強することができる。なお本発明において、この衣服1の生地5の構成は特に限定されるものではなく、衣服1の用途などに応じて適宜変更することができる。
【0067】
従来のスライドファスナーでは、スライダーがエレメント列から外れて脱落することを防ぐために、エレメント列の前端及び後端に隣接して止具が一般的に設けられている。一方、本実施例1の場合、エレメント列3の前端及び後端に止具を隣接して設ける代わりに、エレメント列3の前端部及び後端部に重なるようにして、衣服1の構成パーツとなる生地片が縫い付けられる。これにより、当該生地片が止具と同じように機能して、スライダー40がエレメント列3の前端及び後端から脱落することを防止できる。
【0068】
なお、本発明では、スライダー40の脱落を防ぐためにその他の手段を用いることも可能である。スライダー40の脱落を防ぐ手段としては、例えばエレメント列3の前端及び後端に隣接する位置に止具を所定の形状に成形すること、エレメント列3の前端部及び後端部に配されるエレメント11に専用の止具部品を取着して止具を形成すること、エレメント列3の前端部及び後端部に樹脂フィルムを接着又は溶着すること、エレメント列3の前端部及び後端部から延出した生地5の延出部分を折り返して縫い合わせること、左右のエレメント列3の前端部及び後端部を噛合させた状態でファスナー幅方向に縫うこと、及び、止具の代わりに蝶棒、箱棒、及び箱体を備えた開離嵌挿具を設けること等を利用することが可能である。
【0069】
本実施例1のエレメント部材10は、複数の独立したエレメント11(単独エレメントとも言う)と、これら複数のエレメント11を一定の間隔で連結する1本の紐状の連結部材12とを有する。本実施例1の連結部材12は、長さ方向に直交する断面が略円形を呈する部材であり、特に、円形の断面を有するとともにその断面積が長さ方向に一定となる部材であることが好ましい。
【0070】
連結部材12としては、例えばモノフィラメント、撚糸(撚紐)、又は、引き揃えられた複数本のマルチフィラメントからなる芯糸を、複数の編糸で編成される袋織部で包み込むことにより形成される紐体(ニットコードとも言われる)などを用いることが可能である。なお本発明で用いられる連結部材は、複数のエレメントを取着することができれば、特に限定されるものではない。また、連結部材の断面形状は必要に応じて任意に変更することも可能である。更に、本発明のエレメント部材は、複数のエレメントを2本以上の紐状連結部材により連結することによって形成されていても良い。
【0071】
本実施例1のエレメント部材10を形成する複数のエレメント11は、連結部材12によって等間隔に連結された状態で、エレメント部材10の長さ方向に沿って一列に整列している。これらのエレメント11は、例えば、ポリアミド、ポリアセタール、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレートなどの熱可塑性樹脂を、1本の連結部材12に射出成形することにより、連結部材12と一体的に形成されている。
【0072】
なお、本発明において、エレメントの材質は、上記した合成樹脂に限定されるものではなく、例えばエレメントをその他の合成樹脂又は金属で形成することも可能である。また、本実施例1のエレメント部材10は、熱可塑性樹脂を連結部材12に射出成形してエレメント11が形成されたものに限定されず、例えば、熱可塑性樹脂を射出成形して所定の形状に形成されたエレメントを、連結部材12に溶着又は接着などによって固着されて形成されるものも含む。
【0073】
更に、本発明におけるエレメント部材は、本実施例1のような射出成形された合成樹脂製のエレメント11が連結部材12に一体的に形成されて連結されているものに限定されるものではない。本発明のエレメント部材には、例えば、紐状の連結部材に金属のダイカスト成形を行って形成されるエレメント部材や、横断面が略Y形状を呈する線材(所謂、Yバー)を切断してエレメントを作製し、更にそのエレメントを押圧変形により連結部材に取り付けて形成されるエレメント部材、薄板状の平板部材を打ち抜いてエレメントを作製し、更にそのエレメントを押圧変形により連結部材に取り付けて形成されるエレメント部材などが含まれる。
【0074】
本実施例1の合成樹脂製のエレメント11は、
図5に生地5に取り付けられる前のエレメント部材10を拡大して示したように、連結部材12に固定される胴部11aと、胴部11aからエレメント部材10の幅方向に連続的に延出するとともに長さ方向の寸法が細くなるように括れた形状を有する首部11bと、首部11bから更に幅方向に連続的に延出するとともに平面視にて略長円形を呈する噛合頭部11cと、首部11bから長さ方向の前方及び後方に薄板状に突出する突片部11d(肩部とも言う)とを有する。このような本実施例1のエレメント11では、首部11bと噛合頭部11cとにより、噛合相手側のエレメント部材10のエレメント11と係合する噛合部11hが形成される。
【0075】
この場合、胴部11a、首部11b、及び突片部11dにおけるそれぞれの上面と下面は、厚さ方向に直交するとともに互いに平行に配される。また、首部11bの厚さ方向の寸法(以下、厚さ寸法と略記する)と、胴部11aの厚さ寸法とは同じ大きさに設定される。突片部11dの厚さ寸法は、胴部11a及び首部11bの厚さ寸法よりも小さく設定される。
【0076】
エレメント11の胴部11aは、一定の厚さ寸法を備える略直方体状の形態を有する。この場合、胴部11aは、厚さ方向に直交して配される上面部13a及び下面部13bと、長さ方向に向いて配される前面部13c及び後面部13dと、幅方向における生地5の内方側(首部11bの延出方向とは反対側)に向く側面部(内側側面部)13eとを有する。本実施例1において、胴部11aの上面部13aと下面部13bとは互いに平行に配されるとともに、前面部13cと後面部13dとも互いに平行に配される。なお本実施例1において、胴部11aの前面部13cと後面部13dとは互いに平行ではなく、互いに傾斜する位置関係で配されていても良い。
【0077】
また、本実施例1の胴部11aにおいて、上面部13a又は下面部13bと前面部13c、後面部13d、及び側面部13eとの間に配される各稜線部11eや、前面部13c又は後面部13dと側面部13eとの間に配される稜線部11eは、それぞれの稜線部11eの断面を見たときに、面取り加工が施されたような丸みを帯びた滑らかな曲面に形成されている。これにより、後述するように千鳥縫いミシンによって固定用縫製部15を形成してエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に縫い付けるときに、更には縫い付けた後に、固定用縫製部15の縫製糸16がエレメント11の胴部11aに接触しても、その縫製糸16を傷付き難くすることができる。
【0078】
更に、胴部11aにおける生地5の内側に向いた側面部13eには、生地5のエレメント取付縁部2の一部が挿入される挿入凹部11fが、エレメント部材10の長さ方向に沿って設けられている。この挿入凹部11fは、胴部11aの側面部13eに、生地5のエレメント取付縁部2の厚さ寸法に対応する大きさで凹設されている。挿入凹部11fの表面は、厚さ方向に対して滑らかな湾曲面状に形成されている。各エレメント11に設けられた挿入凹部11fに、生地5のエレメント取付縁部2が挿入された状態でエレメント部材10が固定用縫製部15でエレメント取付縁部2に固定されることにより、各エレメント11を所定の向きでエレメント取付縁部2にしっかりと安定して固定できる。
【0079】
このようなエレメント11の胴部11aには、連結部材12が、長さ方向に沿って貫通されており、且つ、連結部材12の外周面が外部に露出しないように胴部11aに包み込まれた状態で保持されている。この場合、連結部材12は、胴部11aにおける厚さ方向の中央部に保持されている。
【0080】
エレメント11における噛合頭部11cの頂端部(先端部)には、厚さ方向の中央部に、凹溝部11gが長さ方向に沿って形成されている。この凹溝部11gは、左右のエレメント列3を噛合させるときに噛合相手側のエレメント11の突片部11dが嵌入可能なように形成される。従って、凹溝部11gの厚さ寸法の最大値は、エレメント11の突片部11dの厚さ寸法よりも大きく設定される。各エレメント11が上述のような噛合頭部11cの凹溝部11gと、前後の突片部11dとを有することにより、左右のエレメント11を噛合させたときに、上下方向の相対的な位置ずれが生じることを効果的に防止できる。
【0081】
上述のような本実施例1のエレメント部材10は、生地5のエレメント取付縁部2に対して、幅方向の外側に隣接する位置に並べられて、固定用縫製部(縫製線)15によって固定されている。この場合、固定用縫製部15は、千鳥縫いミシンの縫製により形成されるとともに、本縫いにより、長さ方向に対してジグザグ状に折れ曲がって形成される。この固定用縫製部15によって、エレメント部材10が、各エレメント11の胴部11aを生地5のエレメント取付縁部2に接触させた状態でエレメント取付縁部2に固定される。
【0082】
ここで、千鳥縫いミシンとは、ミシンの送り方向に交差する交差方向に沿ってミシン針を揺動させながら、生地5等を本縫いでジグザグに縫うことが可能なミシンである。なお、千鳥縫いミシンにおけるミシン針の揺動を千鳥振りと言うこともある。このような千鳥縫いミシンを用いるとともに、その千鳥縫いミシンに、例えばミシン針の針落ち位置となるX座標(送り方向の位置)とY座標(交差方向の位置)の座標データを設定して縫製を行うことにより、縫製後に形成される固定用縫製部15を、千鳥縫いミシンの送り方向に対し、上記交差方向にジグザグ状となるように容易に屈曲させることができる。
【0083】
本実施例1において、本縫いにより形成される固定用縫製部15の縫製糸16は、エレメント取付縁部2の表面(第1面)を走行するとともに連結部材12の表面側半部に接する上糸(針糸)16aと、エレメント取付縁部2の裏面(第2面)を走行するとともに連結部材12の裏面側半部に接する下糸(ボビン糸)16bとを有する。この場合、固定用縫製部15は本縫いで形成されるため、上糸16aと下糸16bとは、両者が交差する部分を除いて、互いに面対称な位置関係で配される。
【0084】
この場合、本縫いの上糸16aと下糸16bとには、従来の一般的なミシン糸が用いられる。また、本縫いにおける上糸16aと下糸16bとは、固定用縫製部15がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置(後述する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18b)と、連結部材12の外周面に接する位置とにおいて、互いに交差(交絡)している。
【0085】
固定用縫製部15の上糸16aと下糸16bとは、厚さ方向に関して、エレメント取付縁部2の表面を走行する上糸16aとエレメント取付縁部2の裏面を走行する下糸16bとの間の位置で互いに交差している。特に本実施例1における上糸16aと下糸16bとは、エレメント取付縁部2における厚さ方向の中央部分の位置で相互に交差している。これにより、刺通位置における上糸16aと下糸16bの交差部分を、エレメント取付縁部2で保護するとともに外部から見え難くすることができる。なお、厚さ方向における上糸16aと下糸16bの交差位置は、千鳥縫いミシンにおける上糸16a及び下糸16bのテンションコントロールを行うことによって容易に変更することが可能である。
【0086】
本実施例1の固定用縫製部15は、上述のように千鳥縫いミシンを用いて上糸16aと下糸16bとを他糸レーシングする本縫いのステッチで形成されている。これにより、固定用縫製部15が生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともに、エレメント部材10の連結部材12を包み込んで支持することができる。このため、エレメント部材10が、固定用縫製部15によって、生地5のエレメント取付縁部11に容易に且つ安定して取り付けられて固定される。
【0087】
なお本実施例1では、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bが生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともに、上糸16a及び下糸16bがエレメント部材10の連結部材12も刺通して保持することによって、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部11に取り付けることも可能である。
【0088】
また千鳥縫いミシンを用いて固定用縫製部15を形成することにより、縫製後の固定用縫製部15の上糸16aと下糸16bとが、エレメント11に対して、エレメント11の表面(上面)及び裏面(下面)で交差するように重なって配置されることを効果的に防止できる。これにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント11に重なることに起因して上糸16a及び下糸16bの弛み、エレメント列3の噛み合わせの円滑さ(噛み合わせ易さ)の低下、スライダー40の摺動性の低下などの不具合が生じることを防止できる。
【0089】
本実施例1の固定用縫製部15は、本縫いの上糸16aと下糸16bとが、1つのエレメント11に対して連結部材12の外周面上で交差する外周交差位置から、次の連結部材12の外周面上で交差する外周交差位置まで走行する単位走行領域を有し、この単位走行領域が長さ方向にエレメント11ごとに繰り返して配されることによって形成される。この場合、本実施例1の固定用縫製部15を形成する各単位走行領域は、固定用縫製部15がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置を2つずつ有する。なお、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bが上述のように連結部材12も刺通する場合、固定用縫製部15の単位走行領域は、1つのエレメント11に対して、上糸16a及び下糸16bが連結部材12を刺通する1つの連結部材刺通位置から次の連結部材刺通位置までの領域を言う。
【0090】
ここで、本実施例1の単位走行領域について、
図2を参照しながら具体的に説明すると、本実施例1における固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bは、各単位走行領域において、連結部材12の外周面で上糸16aと下糸16bが交差す外周交差位置から最初の第1刺通位置18aまで配される第1走行部17aと、その第1刺通位置18aから次の第2刺通位置18bまで配される第2走行部17bと、第2刺通位置18bから次の外周交差位置まで配される第3走行部17cとを有する。
【0091】
この場合、第1走行部17aは、上糸16a(又は下糸16b)が、上述の外周交差位置から、エレメント11の側面部13eに対応する幅方向の位置まで幅方向(又は略幅方向)に沿って走行し、更に第1刺通位置18aまでは幅方向に対して斜めに走行することにより形成される。この場合、第1走行部17aの幅方向に沿って走行する部分と幅方向に対して斜めに走行する部分との境界部は、エレメント11の胴部11aに接することもある。第2走行部17bは、第1刺通位置18aと第2刺通位置18bとの間で、上糸16a(又は下糸16b)がエレメント部材10の長さ方向に沿って走行することにより形成される。第3走行部17cは、上糸16a(又は下糸16b)が第2刺通位置18bからエレメント11の側面部13eに対応する幅方向の位置まで幅方向に対して斜めに走行し、更に外周交差位置までは幅方向(又は略幅方向)に沿って走行することにより形成される。この場合、第3走行部17cの幅方向に対して斜めに走行する部分と幅方向に沿って走行する部分との境界部は、エレメント11の胴部11aに接することもある。
【0092】
上述のように上糸16a及び下糸16bが走行して固定用縫製部15が形成される場合、
図2に示すようにエレメント部材10と生地5のエレメント取付縁部2とを上方から見た平面視(又は下方から見た底面視)において、エレメント11の内側の側面部13eと、固定用縫製部15におけるエレメント11の側面部13eよりも更に生地5の内方側に形成される部分とが、等脚台形の形状を呈するように配置される。
【0093】
特に本実施例1では、固定用縫製部15が生地5のエレメント取付縁部11を刺通する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bを、各エレメント11の内側側面部13eから、幅方向における生地5の内側(言い換えると、噛合相手側のエレメント11に向く方向と反対側の方向)に向けて離間させて形成されている。すなわち、エレメント部材10の幅方向に関して、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間には、一定の間隔が設けられている。
【0094】
この場合、エレメント部材10の幅方向における第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の寸法(離間距離)Wは、具体的に、0.4mm以上、好ましくは0.8mm以上に設定される。またこの場合、上記の寸法(離間距離)Wは、生地5の厚さ寸法以上の大きさに設定されることが好ましい。
【0095】
このような位置に固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bを設定することにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント11の表面及び裏面に重なることをより安定して防止することができる。また、第1及び第2刺通位置18a,18bとエレメント取付縁部2の側端縁との間の幅方向における間隔を大きく確保できる。これにより、エレメント取付縁部11の強度を安定して確保し易くなり、例えば生地5が上糸16a及び下糸16bによって擦られることによって第1又は第2刺通位置18a,18bからエレメント取付縁部2の側端縁に向けて切れるというような生地5の損傷を生じさせ難くすることができる。
【0096】
なお、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の寸法(離間距離)Wは、30mm以下に、好ましくは10mm以下に、更に好ましくは5mm以下に設定される。このような大きさに設定されることにより、固定用縫製部15によって、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に安定して固定でき、エレメント11の位置がずれることも効果的に防止できる。
【0097】
更にこの場合、固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bと各エレメント11の側面部13eの位置との間の幅方向における寸法(離間距離)Wは、
図4に示すように、取り付けられるスライダー40の後述するフランジ部41dの幅方向における寸法よりも大きく設定されることが好ましい。なお、
図4では、スライダー40の一部が仮想線により示されている。すなわち、本実施例1における固定用縫製部15の第1及び第2刺通位置18a,18bは、用いられるスライダー40のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側に配される。
【0098】
これにより、スライダー40の摺動操作が繰り返して行われても、スライダー40のフランジ部41dが生地5のエレメント取付縁部2に直接摺接し難くすることができる。このため、スライダー40のフランジ部41dによってエレメント取付縁部2が摩耗し難くなり、生地5の摩耗を低減できる。また、スライダー40のフランジ部41dがエレメント取付縁部2に擦れることに起因してエレメント取付縁部2が傷付けられ難くなるため、エレメント取付縁部2の耐久性を向上させることができる。
【0099】
また本実施例1において、固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bは、
図2に示すように、エレメント部材10の長さ方向に関して、エレメント11の胴部11aの形成領域に対応する範囲6内に配される。このように第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bが上記範囲6内に配されることにより、エレメント部材10を固定用縫製部15によって生地5のエレメント取付縁部2にしっかりと固定できるとともに、エレメント部材10の長さ方向における各エレメント11の位置が、エレメント取付縁部2に対して、ずれ難くするこができる。
【0100】
また、本実施例1のスライドファスナー付き衣服1では、幅方向における各エレメント11の側面部13eの位置と固定用縫製部15の刺通位置(第1刺通位置18a及び第2刺通位置18b)との間の領域に、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを弛まないように締め付けるための補助縫製部19が連続的に形成されている。
【0101】
特に、本実施例1の補助縫製部19は、ミシンを用いて補助用上糸(針糸)19aと補助用下糸(ボビン糸)19bを他糸レーシングする本縫いのステッチにより、エレメント部材10の長さ方向に沿って直線的に形成される。このように補助縫製部19を本縫いで形成することにより、補助縫製部19を容易に且つ安定して形成できるとともに、後述するように固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを安定して押さえ付ける(締め付ける)ことができる。このため、補助縫製部19は、締め付け用縫製部19とも言うことができる。
【0102】
この場合、補助縫製部19の補助用上糸19aと補助用下糸19bとは、補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置で、且つ、エレメント取付縁部2における厚さ方向の中央部分の位置において、互いに交差(交絡)している。なお、厚さ方向における補助用上糸19aと補助用下糸19bの交差位置は、ミシンにおける補助用上糸19a及び補助用下糸19bのテンションコントロールを行うことによって変更することが可能である。
【0103】
本実施例1の補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、上述のようにエレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における領域内で、言い換えると、固定用縫製部15における上述した第1及び第3走行部17a,17cの幅方向に対して斜めに走行する部分に重なる領域内に配され、且つ、当該領域内で、補助縫製部19の補助用上糸19a及び補助用下糸19bが、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bの上にそれぞれ交差している。
【0104】
このような補助縫製部19が形成されることにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを、補助用上糸19a及び補助用下糸19bで、上下からエレメント取付縁部2に向けて(言いかえると、厚さ方向の内側に向けて)押さえ付けることができる。これにより、補助縫製部19によって固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを締め付けてテンションを加えることができる。このため、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bに弛みが生じていたとしても、その弛みを解消することができる。また、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bに弛みが生じることも効果的に防止できる。従って、固定用縫製部15によるエレメント部材10の固定を、より強固にしっかりと行うことができる。
【0105】
更に、補助縫製部19が固定用縫製部15の上に重ねて形成されることにより、スライダー40の摺動操作が繰り返して行われるときに、スライダー40のフランジ部41dが生地5のエレメント取付縁部2に対してより摺接し難くなるため、エレメント取付縁部2をスライダー40のフランジ部41dからより安定して保護できる。このため、エレメント取付縁部2の耐久性を更に向上させることができる。
【0106】
また本実施例1において、補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、
図4に示したように、エレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における領域内で、且つ、エレメント11の側面部13eと固定用縫製部15の刺通位置との間の幅方向における中央位置に、又は当該中央位置に対して固定用縫製部15の刺通位置寄りの位置に配される。更にこの場合、補助縫製部19の上記刺通位置は、取り付けられるスライダー40の上下のフランジ部41dに挟まれる位置(言い換えると、上下のフランジ部41dに対向する位置)、又は上下のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側の位置に配されることが好ましい。
【0107】
補助縫製部19の刺通位置が上述のように設定されることにより、当該補助縫製部19で固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを押さえたときに、固定用縫製部15に弛みが生じることを効果的に防止できる。その上、例えば補助縫製部19の刺通位置を上述の中央位置よりもエレメント11寄りに設定する場合に比べて、スライダー40を摺動操作したときにそのスライダー40のエレメント案内路内で左右のエレメント列3のエレメント11を順番に噛合・分離させ易くすることができる。このため、スライダー40を円滑に、また軽快に摺動させることができる、
なお、本実施例1の補助縫製部19は、長さ方向に沿った直線状の本縫いにより形成されているが、本発明では、補助縫製部19が固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に向けて押さえることができれば、二重環縫い等のような本縫い以外のステッチによって補助縫製部を形成することも可能である。
【0108】
本実施例1のエレメント列3に取り付けられるスライダー40は、
図1に模式的に示したように、スライダー胴体41と、取付軸部を一端部に備えた引手42とを有する。本実施例1のスライダー胴体41は、その詳しい構造の図示を省略するが、上翼板41aと、上翼板41aと離間して平行に配された下翼板41cと、上翼板41a及び下翼板41cの前端部(肩口側端部)間を連結する連結柱と、上翼板41a及び下翼板41cの左右側縁部に配される上下のフランジ部41dと、上翼板41aの上面に配される引手取付部41bとを有する。
【0109】
また、スライダー胴体41の前端部には、案内柱を間に挟んで左右の肩口が形成され、スライダー胴体41の後端部には後口が形成されている。また、上翼板41a及び下翼板41c間には、左右の肩口と後口とを連通する略Y字形状のエレメント案内路が形成されている。更に、スライダー胴体41における上下のフランジ部41d間には、生地5のエレメント取付縁部2を挿通させる挿通間隙が、上翼板41a及び下翼板41cと平行に形成されている。上述のような構造を有するスライダー40を用いることにより、衣服1の生地5のエレメント取付縁部2に直接固定された左右のエレメント部材10の噛合・分離を円滑に行うことができる。
【0110】
次に、上述のようなエレメント部材10を有する本実施例1のスライドファスナー付き衣服1の製造方法について説明する。
先ず、エレメント部材10と、衣服1用の生地5とをそれぞれ準備する。本実施例1のエレメント部材10は、上述したように、1本の紐状の連結部材12に対して合成樹脂を直接射出成形し、所定の形状を有する複数のエレメント11を等間隔で形成することによって作製される。
【0111】
一方、エレメント部材10とは別に、ファスナー被着部材となる衣服1用の生地を編成や織成などによって作製する。このとき、例えば生地5に防水性を付与したい場合には、編成又は織成された生地に合成樹脂をコーティングしたり、樹脂フィルムを貼り付けたりすることも可能である。更に作製した生地を、衣服1の前身頃に対応した所定の形状となるように裁断し、ファスナー被着部材となる左右一対の前身頃用の生地5(生地パーツ)を作製する。更に、裁断した左右の生地5における裁断端縁部となる側縁部をU字状に折り返すことにより、当該生地5に、エレメント部材10を取り付けるためのエレメント取付縁部2を形成する。この場合、左右一対の前身頃用生地5にそれぞれ形成されるエレメント取付縁部2は、衣服1を製造したときに互いに対向して配される位置に設けられる。
【0112】
次に、上述のようにして作製したエレメント部材10と、所定の形状に裁断されてエレメント取付縁部2が形成された生地5(生地パーツ)を用いて、エレメント部材10付き衣服1を形成するための衣服構成パーツを作製する。
【0113】
先ず、1回目の縫製工程として、例えば
図5に示したように、エレメント部材10を、生地5のエレメント取付縁部2に、千鳥縫いミシンを用いて縫い付ける縫製を行う。このとき、針落ち位置の座標データが設定されている千鳥縫いミシンを用いて、エレメント部材10と生地5のエレメント取付縁部2とに対して縫製を行うことにより、
図2等に示した固定用縫製部15を形成しながら、その固定用縫製部15によってエレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に取り付けて(縫い付けて)固定することができる。
【0114】
次に、2回目の縫製工程として、固定用縫製部15によってエレメント部材10が固定された生地5のエレメント取付縁部2に対し、1本針の本縫いミシンを用いて補助縫製部19を形成する縫製を行う。これにより、固定用縫製部15が形成されたエレメント取付縁部2の所定位置に、上述した直線状の本縫いからなる補助縫製部19を安定して形成することができる。
【0115】
その結果、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bを補助縫製部19によってエレメント取付縁部2に向けて押さえ付けることができるため、エレメント部材10をより強固にエレメント取付縁部2に固定することができる。これにより、
図2〜
図4に示したようにエレメント部材10が、固定用縫製部15及び補助縫製部19によってエレメント取付縁部2に固定されたエレメント部材10付き衣服1の左右の衣服構成パーツが作製される。また本実施例1では、上述した左右一対の衣服構成パーツの他に、衣服1における左右の袖部や後身頃を構成する不図示の衣服構成パーツなどを作製して準備する。
【0116】
その後、作製した各部位の衣服構成パーツを互いに縫製等により結合させて、衣服1を組み立てる。更に、生地5のエレメント取付縁部2にエレメント部材10を固定して形成されたエレメント列3に、スライダー40を摺動可能に取り付ける。これによって、
図1に示したようなスライドファスナー付き衣服1が安定して製造される。
【0117】
このようにして製造された本実施例1のスライドファスナー付き衣服1は、衣服1の生地5の一部が、衣服1を構成するだけでなく、従来のスライドファスナーのファスナーテープとしても機能する。このため、このスライドファスナー付き衣服1では、従来のスライドファスナーでは必須構成部品であったファスナーテープの存在を省略した形態(言い換えると、ファスナーテープ無しのスライドファスナーの形態)で、スライドファスナーの機能を有することができる。これにより、スライドファスナー付き衣服1の製造コスト(特に、材料コスト)を低減することができる。また、スライドファスナー付き衣服1を軽量化できるとともに、衣服1の柔軟性を向上させることができる。特に、本実施例の衣服1の場合、衣服1の前立て部における生地5の表裏方向の柔軟性を高めることができる。
【0118】
更に、本実施例1の場合、例えば生地5に防水性や撥水性などのような所望の機能を付与した上で、当該生地5にエレメント部材10を直接固定することが可能である。このため、防水性や撥水性などを備えた高品質のスライドファスナー付き衣服1を容易に製造することも可能となる。
【0119】
なお、上述した実施例1の場合、スライドファスナー付き衣服1の製造において、前身頃用の生地パーツを所定の形状に裁断した後に、縫製によるエレメント部材10の固定が行われている。しかし、本発明では、裁断前の生地5に対して、縫製によりエレメント部材10を所定の位置に固定し、その後、エレメント部材10付きの生地5を所定の形状に裁断することによって、エレメント部材10付きの衣服構成パーツを作製することも可能である。
【0120】
なお、本実施例1のエレメント部材10では、生地5のエレメント取付縁部2にエレメント11を所定の姿勢でしっかりと固定するために、上述したように各エレメント11の側面部13eに、生地5のエレメント取付縁部2の一部を挿入することが可能な挿入凹部11fが設けられている。しかし本発明では、例えば
図6に実施例1の変形例に係るエレメント部材10aを示すように、実施例1のような挿入凹部11fが側面部13eに設けられていない複数のエレメント11を連結部材12に一体的に形成することによって、エレメント部材10aを作製することも可能である。
【0121】
なお、この変形例におけるエレメント部材10a及び生地5のエレメント取付縁部2は、各エレメント11に挿入凹部11fが設けられていないこと以外は、上述した実施例1のエレメント部材10及び生地5のエレメント取付縁部2と同様に形成されている。例えば、この変形例における固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bは、エレメント部材10aの幅方向に関して、各エレメント11から離間して配されており、特に、スライダー40のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側に配されている。また、この変形例における補助縫製部19がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置は、スライダー40の上下のフランジ部41dに挟まれる位置、又は上下のフランジ部41dの位置よりもスライダー40の外側の位置に配される。
【0122】
このような実施例1の変形例に係るエレメント部材10aが生地5のエレメント取付縁部2に固定されたスライドファスナー付き衣服であっても、エレメント部材10が生地5にしっかりと固定されるため、上述した実施例1のスライドファスナー付き衣服1と略同様の効果が得られる。
【0123】
また、上述の実施例1において、固定用縫製部15の各単位走行領域は、生地5のエレメント取付縁部2を刺通する第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bの2つの刺通位置を有する。しかし本発明では、固定用縫製部15の各単位走行領域においてエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置の個数は、1つであっても良いし、3つ以上の複数であっても良い。
【実施例3】
【0137】
図9は、本実施例3に係るスライドファスナー付き衣服の要部を示す要部平面図である。
図10は、
図9に示したX−X線における断面図である。
本実施例3に係るスライドファスナー付き衣服では、生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10自体は、前述の実施例1における生地5のエレメント取付縁部2及びエレメント部材10と同様に形成されているが、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部2に固定する構造が、前述の実施例1の場合と異なる。
【0138】
本実施例3のスライドファスナー付き衣服では、本縫いミシンにより形成される実施例1の補助縫製部19が形成されていないものの、エレメント部材10が、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部15によって生地5のエレメント取付縁部2に固定されるとともに、その固定用縫製部15を生地5のエレメント取付縁部2に固定するための透明のフィルム部材(テープ部材)31が、エレメント取付縁部2にテープ長さ方向に沿って貼着されている。なお、このフィルム部材31は、固定用縫製部15の縫製糸16を固定するための糸固定用フィルム部材31と言うこともできる。
【0139】
この場合、本実施例3における固定用縫製部15のステッチ及び単位走行領域は、前述の実施例1の固定用縫製部15の場合と同様に形成されている。また、本実施例3の固定用縫製部15を形成する上糸(針糸)16aと下糸16b(ボビン糸)には、前述の実施例1と同様に通常のミシン糸が用いられる。なお本実施例3では、固定用縫製部15を形成する上糸16a及び下糸16bとして、前述の実施例2のような芯鞘構造を有する溶着糸27を用いることも可能である。
【0140】
本実施例3のフィルム部材31は、そのフィルム部材31の一方のフィルム面に接着剤又は粘着剤が塗布されて形成されている。このフィルム部材31は、千鳥縫いミシンによる縫製を行って固定用縫製部15が形成された後に、固定用縫製部15の第1刺通位置18a及び第2刺通位置18bを含む固定用縫製部15の一部を被覆するようにエレメント取付縁部2の表面と裏面とに貼着される。
【0141】
特にこの場合、表面側のフィルム部材31と裏面側のフィルム部材31は、エレメント部材10のエレメント11に重ならない位置でテープ長さ方向に沿って貼着され、それによって、固定用縫製部15の一部と生地5のエレメント取付縁部2の一部とを覆っている。これにより、固定用縫製部15の上糸16aの一部と下糸16bの一部とが、フィルム部材31により被覆されて生地5のエレメント取付縁部2の表面及び裏面にそれぞれ強固に固定することができる。なお本実施例3において、フィルム部材31は、エレメント取付縁部2の表面及び裏面の一方の面のみに貼着されていても良い。
【0142】
このように本実施例3では、固定用縫製部15の一部をエレメント取付縁部2に固定するフィルム部材31が、エレメント取付縁部2の表面と裏面に貼着されていることにより、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に強固に固定して、上糸16a及び下糸16bに弛みが生じることを防止できる。
【0143】
従って、本実施例3では、固定用縫製部15の上に前述の実施例1のような補助縫製部19が形成されていなくても、表面側及び裏面側のフィルム部材31が固定用縫製部15をエレメント取付縁部2に固定することによって、固定用縫製部15によるエレメント部材10の生地5に対する固定を強固にすることができる。従って、本実施例3のスライドファスナー付き衣服でも、前述した実施例1のスライドファスナー付き衣服1と略同様の効果が得られる。
【0144】
なお本実施例3では、フィルム部材31を上述のように貼着する代わりに、フィルム部材31が貼着される範囲に、接着剤を塗布する又はコーティングすることによって、固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bをエレメント取付縁部2に接着して強固に固定することも可能である。
【0145】
なお、上述した実施例1〜実施例3において、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部15,25は、上糸16a,26a及び下糸16bが幅方向に対して斜めに走行する傾斜部分を有する第1走行部17a及び第3走行部17cと、上糸16a及び下糸16bが第1刺通位置18aと第2刺通位置18bとの間を長さ方向に沿って走行する第2走行部17bとを有する単位走行領域が繰り返されて形成される。特にこの場合、固定用縫製部15,25は、エレメント11の側面部13eと、固定用縫製部15,25におけるエレメント11の側面部13eよりも生地5の内方側に形成される部分とが等脚台形の形状を呈するように形成される。
【0146】
しかし本発明において、固定用縫製部の単位走行領域の形状はこれに限定されるものではなく、固定用縫製部が生地5のエレメント取付縁部11をエレメント11から生地5の内方側に離間した位置で刺通するとともに、その固定用縫製部がエレメント部材10の連結部材12を包み込むように支持することができれば、固定用縫製部を千鳥縫いミシンを用いてその他の形状で形成することも可能である。
【0147】
例えば
図11に変形例に係る固定用縫製部35を示すように、千鳥縫いミシンにより形成される固定用縫製部35の単位走行領域は、上糸36a及び下糸が連結部材12の外周面で上糸36aと下糸が交差す外周交差位置から最初の第1刺通位置38aまで幅方向に沿って直線状に走行する第1走行部37aと、上糸36a及び下糸が第1刺通位置38aから次の第2刺通位置38bまで長さ方向に沿って直線状に走行する第2走行部37bと、上糸36a及び下糸が第2刺通位置38bから次の外周交差位置まで幅方向に沿って直線状に走行する第3走行部37cとを有していても良い。
【0148】
図11に示すように固定用縫製部35が形成されていても、その固定用縫製部35が生地5のエレメント取付縁部11を刺通するとともにエレメント部材10の連結部材12を包み込むように支持することができるため、エレメント部材10を生地5のエレメント取付縁部11にしっかりと安定して固定することができる。また、縫製後の固定用縫製部35の上糸36a及び下糸がエレメント11の表面及び裏面に重なって配置されることもより安定して防止できる。更に、固定用縫製部35が長さ方向と幅方向に沿って形成されるため、スライドファスナー付き衣服の見栄えやデザイン性を高めることも可能となる。
【0149】
また本発明では、例えば固定用縫製部がエレメント取付縁部を刺通する刺通位置を、各エレメント11の側面部13eから生地の内側に向けて、実施例1の場合よりも大きく離間させることも可能である。この場合、固定用縫製部の各単位走行領域において、固定用縫製部がエレメント取付縁部2を刺通する刺通位置を、
図2や
図11に示すような2つではなく、1つに減らして、固定用縫製部をジグザグ状に形成することもできる。
【0150】
更に、上述した実施例1〜実施例3では、生地5の側縁部がU字状に折り返されてエレメント取付縁部2が形成されることによって、エレメント取付縁部2の強度が高められる。また、生地5の裁断端縁(側端縁)に解れが生じている場合には、その解れをエレメント取付縁部2の裏面側に隠して見えないようにすることもできる。
【0151】
しかし本発明では、生地5の側縁部をU字状に折り返すことなく、幅方向にまっすぐに延ばした状態でエレメント取付縁部が形成されていても良い。また、生地5の側縁部を幅方向にまっすぐに延ばしてエレメント取付縁部を形成する場合には、その生地5の側縁部に補強剤を含浸することや、生地5の側縁部に合成樹脂製の補強用フィルム部材を、当該側縁部を内側に包み込むように貼り付けることによって、まっすぐに形成されるエレメント取付縁部の強度を安定して高めることが可能である。
【0152】
この場合、生地5に含浸する補強剤は硬化型の接着剤であり、このような補強剤としては、例えば、1液硬化型接着剤、2液硬化型接着剤、瞬間接着剤、ホットメルト型接着剤、エマルジョン系接着剤、又は、紫外線や電子線等によって硬化する光硬化型接着剤等を使用することができる。また、生地5に貼り付ける補強用フィルム部材は、貼着することにより生地5の強度を高めることが可能なフィルム状の部材である。この補強用フィルム部材には、伸縮性が少ないフィルム部材又は伸縮しないフィルム部材が使用されることが好ましい。
【0153】
このように補強剤の含浸や補強用フィルム部材の貼着によってエレメント取付縁部が補強されることによっても、例えば固定用縫製部15の上糸16a及び下糸16bがエレメント取付縁部に刺通していても、その上糸16a及び下糸16bによってエレメント取付縁部が切れ難くすることができるため、エレメント取付縁部の耐久性を高めることができる。
【0154】
また、まっすぐな状態のエレメント取付縁部にエレメント部材10がしっかりと固定されるため、そのエレメント取付縁部に固定された各エレメント11の位置及び姿勢を安定させることもできる。更に、エレメント取付縁部に補強剤を含浸することや補強用フィルム部材を貼着することによって、エレメント取付縁部の側端縁に糸の解れを生じさせ難くすることができる。