【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年8月6日、第5回シンポジウム「コンクリート構造物の非破壊検査」論文集、341頁〜346頁 平成27年8月7日、第5回コンクリート構造物の非破壊検査シンポジウム「非破壊検査が担うコンクリート構造物の調査・点検技術の高度化・効率化」〔東京〕
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の腐食センサは、すべて電気抵抗を捉えるものである。導電率の高い鉄は、破断しなければ抵抗値に変化が現れにくく、センサの感度が線径や線幅等に依存しやすいという課題がある。また、腐食センサを単独で評価する場合は、腐食因子がコンクリート構造物内にどのくらい進展しているのかを把握することができない。さらに、検知部が破断すると、センサの機能が失われてしまう。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、腐食の危険性と共に腐食環境の進展状況を把握することができ、高精度で、低コスト化を図ることができる腐食センサおよび腐食検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の腐食センサは、コンクリートまたは鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、腐食性を有する金属で板状、箔状または膜状に形成された検知部と、耐腐食性を有する金属で形成され、前記検知部と対向する位置に設けられた対向電極と、前記検知部および前記対向電極の間に設けられた誘電体と、前記検知部に接続された第1の通電部と、前記対向電極に電気的に接続された第2の通電部と、を備え、前記検知部は、厚さが3μm以上200μm以下であることを特徴とする。
【0011】
このように、検知部および対向電極の間に設けられた誘電体を備え、腐食による検知部の面積の減少に応じて、第1の通電部と第2の通電部間に交流電界を印加した場合に電気特性が変化するので、検知部の面積に応じて腐食環境進行状況を捉えることが可能となる。検知部の厚さは、3μm以上200μm以下とすることで、早期に腐食環境を検知することができる。すなわち、鉄箔や細線の切断による抵抗変化を検出する方式と比較して、板状、箔状または膜状の検知部の面積で腐食の現状をより正確に把握することが可能となる。
【0012】
(2)また、本発明の腐食センサは、複数の前記検知部を備え、少なくとも1つの前記検知部の厚さが、他のいずれかの前記検知部の厚さと異なることを特徴とする。
【0013】
このように、厚さの異なる検知部を有するので、腐食因子により薄い検知部が先に腐食され、次に厚い検知部が腐食することとなる。したがって、腐食の進行状況を段階的に捉えることができる。
【0014】
(3)また、本発明の腐食センサにおいて、前記検知部は、厚さが30μm以上200μm以下であることを特徴とする。
【0015】
このように、検知部の厚さが30μm以上200μm以下とすることで、腐食が開始してから長期に渡りに腐食環境進展状況が把握することができる。腐食初期は、検知部の断面欠損が生じていなくても誘電正接値の変化により早期に腐食因子をまたは腐食環境を検知し、その後も検知部の断面欠損による静電容量の変化までも計測することができる。
【0016】
(4)また、本発明の腐食センサは、前記検知部が、メッシュ状に形成されていることを特徴とする。
【0017】
このように、検知部は、メッシュ状に形成されていることで、検知部の一部が限定的に腐食して欠損した場合においても、電気的な導通が確保され、検知部面積の減少量を静電容量の変化で正確に捉えることが可能となる。これにより、腐食による検知部の面積の減少と実際の腐食状況とを正確に対応付けることが可能となり、測定精度を高めることが可能となる。
【0018】
(5)また、本発明の腐食検出方法において、上記(1)から(4)のいずれかに記載の腐食センサの第1の通電部と第2の通電部間と交流電界を印加し、前記腐食センサの検知部が腐食することによる電気特性値の変化に基づいて、腐食センサの腐食進行状況を特定することを特徴とする。
【0019】
この方法により、検知部の一部の減少に応じて早期に腐食因子または腐食環境を捉えることが可能となる。すなわち、鉄箔や細線の切断による抵抗変化を検出する方式と比較して、板状、箔状または膜状の検知部の腐食開始をより正確に把握することが可能となる。
【0020】
(6)また、本発明の腐食検出方法は、前記交流電界を印加した場合の電気特性値が、静電容量値、インピーダンス値、又は誘電正接値であることを特徴とする。
【0021】
この方法により、検知部の一部の減少に応じて早期に腐食因子または腐食環境を捉えることが可能となる。すなわち、鉄箔や細線の切断による抵抗変化を検出する方式と比較して、板状、箔状または膜状の検知部の腐食開始をより正確に把握することが可能となる。
【0022】
(7)また、本発明の腐食検出方法は、前記交流電界を印加する測定周波数が50kHz以上10MHz以下であることを特徴とする。
【0023】
この方法により、周辺に存在する水分や水に溶けた電解質の影響を低く抑えること可能になるため、検知部の腐食面積の減少に伴う電気特性値の変化を精度良く把握できるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、検知部の面積に応じて腐食環境進行状況を捉えることが可能となる。すなわち、鉄箔や細線の切断による抵抗変化を検出する方式と比較して、板状、箔状または膜状の検知部の面積で腐食の現状をより正確に把握することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
[腐食センサの概要]
図1は、既存の抵抗式腐食センサと本発明の腐食センサとを比較した図であり、
図2は、本実施形態に係る腐食センサの概念を示す図である。
図1において、紙面に対して左側には、既存の抵抗式腐食センサを示す(a)。この既存の抵抗式腐食センサは、腐食の進行と共に変化する電気抵抗を検出するものであり、腐食因子の有無を判定するためには適している。しかし、細線であるためすぐさま断線してその後の腐食の進展を検出することはできない。
【0027】
一方、
図1において、紙面に対して右側には、本発明の腐食センサを示す(b)。この腐食センサは、
図2に示したように、鉄箔で形成された検知部1と、安定金属膜で構成された対向電極3との間に樹脂フィルムで形成された誘電体5と、第1の通電部を構成するリード線15a、第2の通電部を構成するリード線15bとを備えている。なお、
図2では、第1の通電部を構成するリード線15aを単一のものとして記載しているが、本発明は、これに限定されるわけではない。すなわち、第1の通電部を構成するリード線15aを複数備えていても良い。
【0028】
そして、腐食の進行と共に変化する静電容量や誘電正接、リアクタンス、並列等価抵抗等の電気特性を検出するものである。
図1に示すように、(1)躯体コンクリートに塩分が浸透すると、(2)腐食因子が検知部に到達し、反応が始まる。そして、(3)検知部に腐食が生ずることによって、電気特性の変化を検知する。電気特性の変化を検知するため、腐食因子の有無のみならず、その後の腐食の進展度合いを評価することができる。本実施形態では、コンクリート中の鉄筋の腐食に対応する形状、寸法を規定すると共に、腐食センサの設置方法の自由度を高めて、腐食センサの適用範囲や活用方法を拡大する例を示す。
【0029】
[腐食センサの測定原理]
平行平板導体(検知部)の誘電正接tanδは、ω:角周波数、C:静電容量、R:直列等価抵抗との間に以下の関係がある。
tanδ=ωCR ・・・(1)
【0030】
平行平板導体(検知部)の静電容量Cは、平行平板導体の面積S、平行平板導体間の間隔dとの間に、以下の関係がある。
C=Q/V=εS/d[F] ・・・(2)
ここで、εは、誘電率である。
【0031】
本実施形態に係る腐食センサは、この原理を用いる。すなわち、センサの検知部が腐食因子によって腐食していくと、対向する平行平板導体の面積が減少し、それに伴って誘電正接等の電気特性が変化する。電気特性の変化度合いを捉えることによって、検知部の面積の減り具合、ひいては腐食の進行具合を把握することが可能となる。
【0032】
また、腐食センサにおいて、留意すべき点は、以下の通りである。すなわち、検知部が、腐食因子と反応する材料である必要がある。次に、電気特性として静電容量を用いて腐食センサとして機能させるためには、断面欠損の発生が必要となるため、検知部が腐食により消失することが必要である。本実施形態では、検知部を一定の厚さの鉄箔で構成することでこれらの課題を解決した。また、検知部が、全面的に腐食して消失してしまうと、その後の腐食進展を評価することができなくなるため、全面消失するまで長期間を要する程度の大きさが必要となる。さらに、コンクリート中に埋設して使用するため、腐食センサの取り付け方法や方向を定める必要がある。
【0033】
[第1の実施形態]
図3は、第1の実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す図である。この腐食センサ20は、鉄を圧延することにより作製され、3μm以上200μm以下の厚さを有する鉄箔からなる検知部1aと、誘電体7と、鉄箔部に接続されたリード線9と、図示しない対向電極と、対向電極に接続されたリード線とを備える。鉄箔部の厚さを3μm以上200μm以下としたのは、薄すぎるとセンサの取り扱い時に検知部にひび割れが生じやすく、厚すぎるとセンサの感度が低下する恐れがあるためである。また、検知部の面積は、300mm
2以上、好ましくはコンクリート中の最大骨材寸法Gmaxの2乗の面積以上、より好ましくは700mm
2以上である。検知部の面積を300mm
2以上とすることで、検知部の急激な腐食反応の進行を抑制して、長期間センサとして計測することができる。
【0034】
また、コンクリートに使用される骨材の最大寸法は、20mm×20mmのふるいを通過する寸法、あるいは25mm×25mmのふるいを通過するものが使用されることが多いことから、検知部の面積を300mm
2以上とすることで、骨材が検知部の直上にくることで生じる誤差要因などの骨材の影響を受けにくくすることができる。また、検知部の面積は、20,000mm
2以下とすることが好ましい。センサの面積を20,000mm
2以下とすることで、構造物中の鉄筋やコンクリートの性能に影響を及ぼさない大きさとして形成でき、製造や保管が容易になると共に、腐食を検知する場所への設置が容易となる。
【0035】
リード線9を含む検知部1aまたは外縁部全体に、腐食しない材質で腐食防止膜を設けても良い。
【0036】
[第2の実施形態]
図4は、第2の実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す図である。この腐食センサ10は、カード形状(矩形)に形成されている。検知部11は、複数の貫通孔を有し、メッシュ状に形成された第1の領域、および貫通孔を有しない第2の領域で構成されている。第2の領域にはリード線15が接続されている。この腐食センサ10の寸法は、「50mm×70mm」である。なお、第1の領域に設けられている複数の貫通孔の平面形状は、円である。これにより、センサの形成精度や歩留まりが向上する。
【0037】
貫通孔を有するセンサは、腐食因子が滞留し、検知部を腐食させ、さらに水平方向(横方向)への腐食反応も生じせしめるため、初期段階での腐食による断面欠損を促進する効果があることから、腐食因子に対する感度を高め、かつ腐食され易くすることができる。そのため、腐食因子による反応時期が明確であり、腐食因子が浸透し、センサに到達した時期を把握しやすい。
【0038】
[第3の実施形態]
図5は、第3の実施形態に係る腐食センサの概略構成を示す図である。この腐食センサ13は、第1の実施形態で示したカード形状(矩形)の検知部が連設された長軸形状に形成されている。検知部14には、複数の貫通孔を有し、メッシュ状に形成された領域および貫通孔を有しない領域が交互に連設するように設けられている。また、貫通孔を有しない領域の複数個所には、それぞれ、リード線15が設けられている。このように、複数のリード線15を設けることによって、検知部14のどこまでが腐食したのかを把握することが可能となる。また、一部のリード線の周囲が腐食して断線しても、他のリード線を用いて計測することが可能である。
【0039】
図5の右半分の中央部は、金属で構成された検知部の貫通孔を有しない外周の一部に、貫通孔を設け、検知部の縦方向に腐食しやすい箇所を設けている。このように、腐食しにくい外周の一部に貫通孔を設けることで、当該箇所が他の外周と比較して腐食の進行も早くなる。従って、当該箇所が縦方向に腐食することで、中央部の通電部と右側の通電部が通電しなくなるため、複数の通電部で計測される電気特性に変化が生じ、腐食が生じた位置を同定することが可能となる。
【0040】
また、
図5において、リード線15の接続点17は、例えば、樹脂等の錆びない材料で被覆されている。この腐食センサ13の寸法は、「30mm×120mm」である。なお、本実施形態において、設けられている複数の貫通孔の平面形状は、円である。これにより、センサの形成精度や歩留まりが向上する。
【0041】
[腐食センサの製造方法]
図6は、本実施形態に係る腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。まず、鉄を圧延して鉄箔を製造する(ステップS101)。鉄箔は、3μm以上200μm以下の厚さを有するものとする。ここで、鉄箔は、蒸着やメッキにより形成される薄膜であっても良いし、板状に形成されていても良い。厚さを3μm以上200μm以下としたのは、薄すぎるとセンサの取り扱い時に検知部にひび割れが生じやすく、厚すぎるとセンサの感度が低下する恐れがあるためである。
【0042】
なお、長期にわたり測定を可能とするためには、検知部の厚さを30μm以上200μm以下とする。
図7に示すように、検知部を厚くしても、誘電正接値は、式(1)から明らかなように検知部の表面腐食による抵抗増大に依存するため、断面欠損に依存する静電容量よりも早期に腐食開始を検知することが可能である。また、静電容量は、検知部の断面欠損の変化に対応するため、検知部が厚いものほど鉄箔が長く残存するのでその分長期にわたり静電容量の測定が可能となる。
【0043】
次に、鉄箔材とポリイミド材との貼り合わせを行ない(ステップS102)、センサパターンのレジスト印刷を行なう(ステップS103)。次に、ケミカルエッチングを行なう(ステップS104)。ここでは、貫通孔も形成される。次に、対向電極としての対極板を形成する(ステップS105)。ここでは、例えば、スパッタリング、金属蒸着、プレーティング、金属塗料、金属板・金属箔の貼付や接着などを用いることができる。次に、リード線の接続と防水加工を施し(ステップS106)、センサの外装を行なって(ステップS107)、終了する。
【0044】
検知部としての鉄箔の面積は、腐食進行状況を段階的に捉えることができるよう、また、鉄箔の形状は、矩形としているが、本発明は、これに限定されるわけではない。検知部は鉄箔に変えて、腐食状態を測定したい材質と同じものに換えることができ、ステンレスやアルミニウム、亜鉛等の金属としても良い。
【0045】
検知部としての鉄箔の領域には、複数の貫通孔が設けられ、メッシュ状に形成されている。このような複数の貫通孔が設けられているので、腐食が容易に進行し、一部が限定的に腐食して欠損した場合においても、鉄箔が島状に取り残されることが少なく、電気的な導通が確保され、検知部面積の減少量を電気特性の変化で正確に捉えることが可能となる。なお、
図4および
図5では、歩留まりの観点から、各貫通孔の形状を円形としているが、本発明は、これに限定されるわけではなく、矩形や他の形状とすることもできる。
【0046】
また、検知部は、目的に応じて、腐食感度を高めるために貫通孔を設けた領域と、貫通孔のない領域を選択的に組み合わせることもできる。前記のように組み合わせて作成することにより、通電部近傍などの腐食による断面欠損が進行しにくい箇所や、あるいは腐食を早期に発生させる箇所を作成することができる。
【0047】
式(2)から明らかなように、誘電率の大きさと鉄箔の面積の減少が、静電容量の減少に大きく関与するため、誘電体は、誘電率が3以上の誘電体であることが望ましく、その厚さは0.05mm〜2mmが望ましく、温度による変化が少ない誘電体が望ましい。これにより、センサの測定感度を向上させることが可能となる。
【0048】
また、対向電極は、耐腐食性が高い性能を有した金属が望ましい。鉄箔の腐食による減少を電気特性で捉えるためには、金属部の面積が変化しないことが前提である。対向電極には、金または白金、パラジウム等に代表される貴金属をはじめ、対象である金属よりイオン化傾向の小さく導電性を有した金属であり、鉄が対象の場合はパラジウム、銅、ニッケル等を用いることができる。また、圧延されたそれらの金属箔以外にもスパッタリングや蒸着、めっき等で成膜して形成する方法もある。対向電極の厚さは問わない。
【0049】
なお、
図5に示すように、リード線15を含む検知部14の外縁部には、腐食しない材質で腐食防止膜を設けても良く、例えば、樹脂や白金等の金属等を用いることができる。中でも、腐食進行状況を段階的に捉えるために樹脂等の絶縁体を用いることが好ましい。この樹脂は、塗布したりシールを貼り付けたりすれば良い。一方、金属とする場合は、金または白金の他、パラジウム、銅、鉛、スズ、ニッケル、またはこれらの合金等、被膜の材料である検知部より貴な金属を用いることが可能であり、湿式めっき法および乾式めっき法、あるいは蒸着により箔層を形成できる。金属を用いる場合は、検知部との電位差が生じて腐食が早く進展するので、早期の腐食検知を行ないたい場合に有用である。
【0050】
また、外装材は、絶縁体で形成されることが好ましい。例えば、樹脂材料やセラミックスである。導電材料の場合、外部のコンクリートと導通したり、交流計測において検知部の電気特性が不安定になる場合があるので好ましくない。腐食センサをコンクリート中に設置する場合は、結束線などで実鉄筋に固定し、施工中にセンサが移動したり脱落したりしないように固定する。また、接着剤などで鉄筋に貼り付けても良い。
【実施例1】
【0051】
図8Aは、実施例1を示す図である。カード形状の腐食センサ10をコンクリート構造物60のかぶり内に、コンクリート表面に対して平行となるように設置する。
【実施例2】
【0052】
図8Bは、実施例2を示す図である。長軸形状の腐食センサ13をコンクリート構造物60内の鉄筋61に沿わせて設置する。
【実施例3】
【0053】
図8Cは、実施例3を示す図である。長軸形状の腐食センサ13を棒状の基材63に巻き付けて、センサユニットとして使用する。基材63は、例えば、みがき棒鋼を用い、これに長軸形状の腐食センサ13を沿わせて設置する。このように、棒状のセンサ形状とすることにより、構造物中の鉄筋に沿わせて設置すること可能となるため、センサが破損しにくいことに加え、コンクリートの流し込みにおいて、コンクリートの型枠への充填を阻害することがないため、特段の配慮をせずに、構造物へ設置することが可能となる。この場合は、接着剤や塩化ビニル製のカプラ等を用いて鋼材と対向電極を絶縁することが好ましい。
【0054】
なお、棒状の基材を金属材料で形成し、誘電体と検知部を貼付し、リード線をその基材に接続することによっても、腐食センサを構成することが可能である。この場合、棒状の基材が対向電極を兼ねるため、壊れにくく、検知部の面積が大きくてもコンパクト化することが可能である。
【0055】
また、腐食センサ13を直接鉄筋等の鋼材に巻き付けることも可能である。この場合、センサが破損しにくいことに加え、コンクリートの流し込みにおいて、コンクリートの型枠への充填を阻害することがない。この場合は、構造物中の電気の影響を受ける恐れがあるので、接着剤や塩化ビニル製のカプラ等を用いて鋼材と対向電極を絶縁することが好ましい。
【実施例4】
【0056】
図9は、上記の検知部の厚さが異なる腐食センサを2つ並列に接続して連設センサ50を構成した様子を示す図である。連設センサ50は、2つの腐食センサ51、52の検知部の厚さを変えたので、薄い検知部とした腐食センサが早期に腐食因子を検知し、厚い検知部とした腐食センサが長期にわたり腐食進展状況を捉えるので、長期にわたる腐食環境の進展を測定することができる。
【0057】
また、薄い検知部の腐食開始時期とコンクリート表面からの深さ、および時間から、腐食因子の浸透予測を行なう。加えて、薄い検知部の腐食の進行(静電容量の減少)と、厚い検知部の腐食の開始および進行から、時間差と、もともとの検知部の厚みの差から、鋼材の厚み方向への腐食の進行度合いが把握できる。
【0058】
上記の2つを組み合わせることにより、仮に、ある深さで当該の関係が求められた場合、任意の深さ位置における腐食環境の到達と、その到達位置での金属腐食の進行をある程度予測することが可能となる。
【実施例5】
【0059】
図10は、2つの検知部1を用いた連設センサ53を示す図である。連設センサ53では、誘電体7と対向電極3aを共通として、異なる厚さの2つの検知部1が配置されている。対向電極3aは、検知部全体と同じかそれ以上の面積を有する。測定時は、合成静電容量値の変化を計測しても良いが、検知部間に切替えスイッチを配置して、導通・非導通の切り替えを行なうことにより、全体の電気特性、薄い検知部の電気特性、厚い検知部の電気特性を個別に計測することが好ましい。
【実施例6】
【0060】
図11Aは、上記の腐食センサを3つ並列に接続した連設センサ55をコンクリートの表面から異なる深さに設置した様子を示す図である。測定時は、検知部間に切替えスイッチを配置して、導通・非導通の切り替えを行なうことにより、全体の電気特性、薄い検知部の電気特性、厚い検知部の電気特性を個別に計測することができる。また、連設センサ50、53、55のいずれかの静電容量型腐食センサの検知部が腐食することによる連設センサ50、53、55の合成静電容量値の変化を、例えば、
図11Bに示す実線で把握する。合成静電容量値に応じて、現時点でどの静電容量型腐食センサまで腐食しているかを把握することが可能となる。
【0061】
3つの腐食センサを、かぶり深さ方向に設置したので、腐食因子がどこまで浸透してきたかを知ることができ、また浸透時間から鉄筋までの腐食因子の到達時間を推定することができる。また、各々の深さ位置に厚みの異なる検知部を配置すれば、直接的に当該深さでの腐食の進行を把握できる。
【0062】
[鋼構造物への適用]
測定対象となる金属構造物、例えば、鋼橋やプラント設備、街路灯、土中埋設管、タンク、船舶などに保護塗料を塗布する場合、塗布前の金属材料の表面に、本実施形態に係るセンサを接着剤等で貼付する。貼付する際は、構造物の電気状態の影響を受ける場合があるので、樹脂のテープ、シール、あるいは接着剤自体で絶縁することが好ましい。センサの検知部は、腐食状態を測定したい材質と同じものに換えることができ、鉄箔に変えてステンレスやアルミニウム等の金属とすれば良い。その後、金属構造物と同様に保護塗料を塗布する。ケーブルは保護塗膜の外部に出しても出さなくても良い。ケーブルを出さない場合は、そのまま塗膜の下にセンサを埋設し、測定する際は、センサを被覆している塗膜を剥離し、直接計測器を接続して、腐食に伴う電気信号を計測する。また、無線方式を用いて、電磁的に測定を行なっても良い。これにより、ケーブルを引き出した場合に生じる塗膜の欠陥を生じることなく、センサを設置することができる。
【0063】
[腐食センサの性能評価]
本発明者らは、本実施形態に係る腐食センサの測定周波数による静電容量値の違いを確認した。本実施形態では、直径22mmの鉄箔で鉄箔部を形成し、0.105mm厚のポリイミドフィルム(誘電率を3.3)上に接着し、ケミカルエッチングで貫通孔を形成した。また、誘電体としてのポリイミドフィルムの鉄箔接着面の反対側の面に、対向電極として金をスパッタリングで成膜した。貫通孔は、メッシュタイプと、複数のスリットを有するものとした。本発明者らは、3%のNaCl水溶液に本実施形態に係る腐食センサを浸漬させ、7日を1サイクルとして、1サイクル毎に腐食状態の目視観察を行なった。静電容量の計測は、浸漬液から腐食センサを一旦取り出し、表面に付着した水分を取り除いた後、ピンセット状のプローブにて鉄箔部の端部と対向電極との間の静電容量を計測した。計測条件は、LCRメーターを用いて、100Hz〜100kHzまでの1Vの交流電界下にて実施した。実験で使用した装置は、以下の表の通りである。なお、目視による各サイクルの腐食面積は、1サイクル目は0%、2サイクル目は20%、3サイクル目は60%、4サイクル目は80%であった。
【0064】
【表1】
【0065】
図12は、本実施形態に係る腐食センサを塩水浸漬した際の測定周波数による各サイクルにおける静電容量値の違いを示す図である。
図12において、いずれの周波数においても、試験実施前から1サイクル目で静電容量が上昇し、その後、静電容量が低下していくことが分かる。また、測定周波数が高くなるほど、各サイクルの差は若干小さくなる傾向があった。また、いずれのサイクルにおいても、測定周波数が高くなるに従って、静電容量が低下する傾向があった。従って、腐食面積と静電容量との相関性が高くなり、腐食進行状況が良く把握できるようになるためや、塩分に代表される電解質の腐食因子による変動要因を排除できるため、測定周波数は50kHz以上、さらには100kHz以上として測定するのが好ましい。
【0066】
図13は、1サイクル経過後の静電容量値を腐食面積率0%の初期値として、面積減少率と静電容量との関係を理論値の実測値と併せて示した図である。
図13には、本実施形態に係る腐食センサのうち、検知部がメッシュタイプとスリットタイプの両方が示されている。2つの実線は、それぞれ、メッシュタイプとスリットタイプの理論値を示す。四角形のプロットがメッシュタイプの実測値を示し、三角形のプロットがスリットタイプの実測値を示す。
図13に示すように、本実施形態に係る腐食センサの静電容量の計測値は、理論値とはずれがあるものの、腐食面積率と静電容量の相関は高い。特に、60%以上の腐食面積率は、理論的な腐食面積率と静電容量の関係に良く近似しており、静電容量の計測によって、精度良く腐食面積が把握することができると言える。従って、電気特性の中でも、腐食環境の進行状況を正確に捉えることができる静電容量を用いることが好ましい。
【0067】
[モルタル試験体を用いた促進試験による腐食センサの性能評価]
モルタル中における本実施形態に係る腐食センサの性能を確認することを目的に、塩分を練り込んだ試験体を用いて促進試験で評価した。
【0068】
[試験体の概要]
モルタル試験体は、水セメント比65%の1:3モルタルとし、塩化物イオン量で4.8kg/m
3となるようにNaClを添加した。
図14は、試験体の概要を示す図である。ここでは、試験体を100mm×100mm×100mmのサイズとした。かぶり15mmの位置に腐食センサを埋設した水準(
図14(b))と、腐食面積計測用にφ20mm×130mmの磨き棒鋼を埋設した水準(
図14(a))を用意した。なお、試験体の表面は塩水浸透を行なう1面だけ残し、他の面をエポキシ樹脂で被覆した。
【0069】
[モルタル試験体に埋設するセンサ]
図15は、モルタル試験体に埋設するセンサの概要を示す図である。
図15に示すように、腐食センサ100は、Oリング115でアクリルケース113との間隔が設けられ、エポキシ樹脂117でアクリルケース113に接着されている。この腐食センサ100は、試験体外部より誘電正接及び静電容量の計測を行なうため、リード線109を半田付けし、リード線109の接続部が腐食しないよう、検知部103のみが表面に露出するように、アクリルケース113で外装され、ケース内部が樹脂121で充填されている。このように構成したのは、リード線の錆防止を図るためと、周りに充填されるコンクリート自体が誘電体で含水状態により誘電率が変動することから、その影響を回避するためである。また、センサをコンクリート充填時の衝撃から保護する意味もある。本実施形態では、アクリルケース113を用いたが、必ずしもこれを必要とするわけではなく、上記の目的を達成することができるのであれば、アクリルケース113を使用せずに、例えば、樹脂だけでも構わない。
【0070】
[モルタル試験体の促進試験条件]
促進試験の条件は、40℃で10%NaCl水溶液に2日間浸漬−60%RH環境下で5日間乾燥させる条件を1サイクルとし、合計10サイクルの促進試験を行なった。1サイクル終了毎にLCRメーターを用いて腐食センサの静電容量、誘電正接を測定した。計測条件は交流電圧1Vで、測定周波数は塩水浸漬実験の測定結果を参考に100kHz固定とした。
図16は、M−1、M−2及びM−3の3個の同一のセンサについて各サイクルで計測した誘電正接の結果を示す図である。
図17は、M−1、M−2及びM−3の3個の同一のセンサについて各サイクルで計測した静電容量の結果を示す図である。初期値は、試験体を脱型後、塩水に浸漬する前に計測した結果とした。
【0071】
誘電正接は、M−2及びM−3が3サイクルから段階的な上昇が見られ、M−1が6サイクルから除々に上昇した。一方、静電容量は、M−2及びM−3が6サイクルから、M−1は7サイクルからの低下が見られ、M−1、M−2は段階的に低下していることがわかる。
【0072】
以上説明したように、本実施形態によれば、検知部の面積に応じて腐食進行状況を捉えることが可能となる。すなわち、鉄箔や細線の切断による抵抗変化を検出する方式と比較して、板状、箔状または膜状の検知部の面積で腐食の現状をより正確に把握することが可能となる。また、検知部には、複数の貫通孔を有する領域が設けられているので、腐食環境の検知感度を高め、腐食され易くすることができる。その結果、検知部における腐食が、電気特性の変化を生じさせることが可能となる。これにより、腐食による検知部の面積の減少と実際の腐食状況とを正確に対応付けることが可能となり、測定感度を向上させることが可能となる。