特許第6691412号(P6691412)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6691412-ポリイミドフィルム 図000004
  • 特許6691412-ポリイミドフィルム 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691412
(24)【登録日】2020年4月14日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】ポリイミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20200421BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20200421BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20200421BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20200421BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C08J5/18CFG
   B32B27/34
   B32B15/04 A
   B32B15/088
   H05K1/03 610N
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-69653(P2016-69653)
(22)【出願日】2016年3月30日
(65)【公開番号】特開2017-179148(P2017-179148A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年1月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 隼平
(72)【発明者】
【氏名】細貝 誠二
(72)【発明者】
【氏名】後 裕之
(72)【発明者】
【氏名】小野 和宏
【審査官】 岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/192733(WO,A1)
【文献】 特開昭60−040135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00− 5/02
5/12− 5/22
B32B1/00−43/00
H05K1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
応力−歪み曲線における塑性変形領域の傾きが1.0以上、2.0未満であり、
応力−歪み曲線における10%歪み時応力が180MPa以上であり、
動的粘弾性測定における380℃における貯蔵弾性率が0.6GPa〜2.0GPaであり、貯蔵弾性率の変曲点が示す温度が270℃〜340℃であり、
ポリイミドが柔軟性ブロック成分と剛直性ブロック成分を含み、
前記柔軟性ブロック成分は、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれるジアミンと、
4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物から選ばれる酸二無水物と、の組み合わせを含み、
前記剛直性ブロック成分は、
4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンから選ばれるジアミンと、
4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物から選ばれる酸二無水物と、の組み合わせを含むことを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
前記柔軟性ブロック成分は、ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、酸二無水物として4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物及びベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を含む組み合わせを含み、
前記剛直性ブロック成分は、ジアミンとして4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物を含む組み合わせを含むことを特徴とする、請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
ポリイミドフィルムが非熱可塑性ポリイミドフィルムであることを特徴とする、請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミドフィルムの密度が1.40g/cm〜1.55g/cmであることを特徴とする、請求項1〜のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリイミドフィルムの少なくとも片面に、熱可塑性ポリイミド層を有することを特徴とするポリイミド積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル金属張積層板の製造工程におけるフィルムの裂けの発生を抑制し得るポリイミドフィルムおよびにポリイミドフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、タブレットパソコン、ノートパソコン等を中心としたエレクトロニクス製品の需要拡大に伴い、各種フレキシブルプリント配線板(以下、FPCともいう)の需要が伸びている。中でも接着層として熱可塑性ポリイミドを用いた2層フレキシブルプリント配線板(以下、2層FPCともいう)は、耐熱性、屈曲性に優れることから需要が更に伸びることが期待される。最近は、従来以上の電子機器の軽量化、小型化、薄膜化の要求が進んでおり、市場からはこれを達成するために、実装するFPCも薄膜化することが望まれている。また、生産性向上(コストダウン化)に伴うフレキシブル銅張積層板の製造工程の変更に伴い、ポリイミドフィルムなどの材料にかかる負荷、特に機械強度の向上などの要求も増している。
【0003】
FPCの従来の製造方法は、現像工程、エッチング処理工程、レジスト剥離工程などからなる製造工程が、各工程をバッチ式(非連続工程)で行っていた。従来、現像・エッチング処理・レジスト剥離工程で使用するアルカリ溶液に対する耐性を制御したポリイミド(例えば、特許文献1)により報告がなされている。また、高配向化によりポリイミドフィルムの強度を改善する方法も開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−186377号公報
【特許文献2】WO01/081456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
FPCに加工する際には、アルカリ水溶液に接触する工程があり、耐アルカリ性も求められているが、連続式の一例であるロールトゥロール式においては、従来のバッチ式とは異なり、基材の長手方向に張力がかかった状態でアルカリ水溶液と接触することとなる。その結果、本発明者らは、従来のバッチ式におけるアルカリ処理では認められていなかったポリイミド積層フィルムにおける裂けといった現象が発生するという課題が生じることが顕在化した。また、アルカリ水溶液に接触する工程では、薬液のスプレー噴射により基材の厚み方向に繰り返し応力がかかる状態となる。更に、基材の搬送時には、基材を支持するロールに沿って基材が搬送されるため、薬液と接触した状態で、フィルムには曲げ応力も発生することとなる。これらの応力もフィルムに対する負荷を与えるために、フィルムの裂けの原因となる。
【0006】
これらの課題に対して、特許文献1に開示されたようなβ緩和温度域で熱処理を施して裂けを抑制する方法が報告されているが、この方法では、別途熱処理の工程が増えるため生産性の低下をもたらす。
【0007】
更に、特許文献2に開示された材料では、靭性と高強度化の達成のためにゲル状フィルムの二軸延伸を行っている。そのため、工程が増加し、生産性の低下をもたらす。また、延伸されたフィルムにおいては分子鎖の強い面内配向のため、比較的靭性に乏しくなる傾向にある。そのため、従来のバッチ式のFPC製造工程においては問題にならずとも、上記のようなロールツーロール式により連続的にFPCを製造する工程に耐えるには靭性が不十分であり、このような工程を経ても裂けが発生しないようなポリイミド材料は、これまで提供されていなかった。
【0008】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、近年の材料の薄化、生産性向上のためのロールツーロール式への工程変更に伴うフレキシブル金属積層板の製造工程におけるアルカリ環境下で発生するフィルムの裂けを、別途熱処理や延伸を行わずに抑制できるポリイミドフィルム、ポリイミド積層フィルム、並びに金属張積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み鋭意検討をした結果、フィルムの裂けを抑制するためには、非熱可塑性ポリイミドに凝集構造を持たせ、それを樹脂の一次構造および製造方法により凝集構造を制御することにより、フィルム製造工程に大きな変更を加えることなく、アルカリ環境下でのフィルムの裂けを抑制して強靭性を改良することが可能となる。
【0010】
本発明では、裂けの抑制において、降伏強度と塑性変形のしにくさを改善することが重要であることを見出し、ポリイミドの一次構造、重合方法を、さらに当該ポリイミドを用いるポリイミドフィルムを検討することで本発明の完成に至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下のポリイミドフィルムに関する。
1)応力―歪み曲線における塑性変形領域の傾きが1.0以上、2.0未満であることを特徴とするポリイミドフィルム。
2)ポリイミドフィルムが非熱可塑性ポリイミドフィルムであることを特徴とする、1)に記載のポリイミドフィルム。
3)応力―歪み曲線における10%歪み時応力が180MPa以上であることを特徴とする、1)または2)に記載のポリイミドフィルム。
4)動的粘弾性測定における380℃における貯蔵弾性率が0.6GPa〜2.0GPaであり、貯蔵弾性率の変曲点が示す温度が270℃〜340℃であることを特徴とする、1)〜3)のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
5)ポリイミドフィルムの密度が1.40g/cm〜1.55g/cmであることを特徴とする、1)〜4)のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
6)ポリイミドが柔軟性ブロック成分と剛直性ブロック成分を含むことを特徴とする、1)〜5)のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られるポリイミドフィルムは、フィルムの製造工程に特別な変更を施さずに、フレキシブル金属張積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例に係るシェイキングテストの試験方法を示す模式図である。
図2】本発明の実施例に係る塑性変形領域の傾きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施の形態について、以下に説明する。まず、本発明に係るポリイミドフィルムの場合について、その実施の形態の一例に基づき説明するが、本発明は、これに限定されるものではない。本発明は、以下に説明する各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。なお、本明細書中に記載された学術文献及び特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)B以下(Bを含みかつBより小さい)」をそれぞれ意味する。
【0015】
上記した様に、ロールトゥロール式でFPCを加工する場合、基材にはアルカリ水溶液の存在下において、長手方向への張力に加えて、厚み方向への繰り返し応力や曲げ応力などのバッチ式よりも基材に負荷がかかった状態となる。溶剤が介在する場合、一般的に高分子の強度は溶剤が介在しない場合と比較して低くなる。そのため、塑性変形を抑制するためにも降伏強度は高い方が好ましい。また、繰り返し応力下では、高分子は疲労し、徐々に塑性変形を開始する。そのため、塑性変形が開始した後もその応力に対する抵抗値が大きい(塑性変形しにくさ)方が裂けの抑制には有効なのではないかと考えた。
【0016】
本発明者らは、ポリイミド積層フィルムのアルカリ環境下での強靭性を改良するためにポリイミドの分子設計を鋭意検討した。その結果、ポリイミド積層フィルムに含まれる非熱可塑性ポリイミド層の凝集構造がポリイミドフィルムのアルカリ環境下での強靭化に寄与しており、ポリイミドの一次構造およびポリイミドの製造方法により凝集構造を制御することにより、フィルム製造工程に大きな変更を加えることなく、アルカリ環境下でのフィルムの裂けを抑制可能であることを見出した。つまり、ポリマーが凝集構造を形成しやすくすることにより、これらの特性を発現できるような分子設計を行い、アルカリ環境下での強靭性が改良されるという知見は、本発明者らが初めて見出したものである。
【0017】
本発明における凝集構造とは、局所的な秩序性を持った分子鎖のパッキングを意味する。ポリイミドは芳香環あるいは芳香族複素環などの剛直な構成単位からなるため絡み合いも少なく、一般的な高分子のように折りたたみ鎖を形成しにくい。一方で、イミド環を有する分子鎖に特有な分子鎖のパッキングが起こり、その局所的な秩序性をもった分子鎖のパッキングが起こる。そのポリイミドの凝集構造がアルカリ環境下での強靭性に関係していることを本発明で見出した。凝集構造はポリイミドフィルムの製膜条件と一次構造により、制御することが可能である。
【0018】
本発明における熱可塑性ポリイミドとは、フィルムの状態で金属製の固定枠に固定して450℃で2分間加熱した際に軟化し、元の形状を保持しないようポリイミドをいう。
【0019】
本発明における非熱可塑性ポリイミドとは、フィルムの状態で金属製の固定枠に固定して450℃、2分間加熱を行った際に、シワが入ったり伸びたりせず、形状を保持しているポリイミドをいう。
【0020】
(応力―歪み曲線における塑性変形領域の傾き)
本発明のポリイミドフィルムは、応力―歪み曲線における塑性変形領域の傾きが1.0以上2.0未満であることを特徴とする。本発明者らは、アルカリ環境下におけるポリイミドフィルムの裂けに対する耐久性について鋭意検討を重ねた結果、ポリイミドフィルムが、塑性変形しにくいこと、かつ高い降伏強度を有すること、の二つの条件を満たす場合、アルカリ環境下における裂けに対する高い耐久性を示すという新規知見を見出した。本発明では、熱可塑性ポリイミドと非熱可塑性ポリイミドを含むポリイミド積層フィルムにおいて、特に非熱可塑性ポリイミドに対して、応力−歪み曲線における塑性変形領域の傾きを大きくすること、かつ降伏強度を高くすることの二つの特性を付与することでより効果を得やすい。
【0021】
本発明における塑性変形領域およびその傾きについて説明する。塑性変形領域とは、ポリイミドフィルムを用いる引張試験における応力―歪み曲線において、降伏点以降の歪みの領域をいう。「塑性変形しにくい」特性は、塑性変形領域において、応力が大きく増加すること、又は塑性変形時に必要な応力が大きいこと、を意図したものである。「塑性変形しにくい」特性は、塑性変形領域における傾きと言い換えることが出来る。例えば、ASTM D882にしたがって引張特性を測定した結果を、縦軸に“応力(MPa)”、横軸に“歪み(ストロークともいう(mm))”のグラフとして表した際の「傾き(すなわちs−s曲線の傾き)」である。本発明においては、s−s曲線における“10%歪み時応力”〜“破断応力”の間の傾きである。計算式を下記に示す。
【0022】
塑性変形領域の傾き=(stress2−stress1)/(strain2−strain1)
ここで、
stress1:10%歪み時応力
stress2:破断応力
strain1:10%歪み
strain2:破断歪み
である。
【0023】
本発明における「塑性変形しにくい材料」とは、「塑性変形領域の傾きが1.0以上2.0未満」であることを特徴とする。
【0024】
「降伏強度」は、ASTM D882にしたがって引張特性を測定した際の「10%ひずみ時応力」により評価することが出来る。例えば、「高い降伏強度を有する材料」とは、本明細書では「10%ひずみ時応力が180MPa以上であること」を意図する。
【0025】
(シェイキングテスト)
ロールツーロール式で連続的にFPCを製造する工程を経ても裂けない材料かどうかを確認するには、幅広かつ長尺の材料に連続的方法で金属箔を設け、得られた幅広かつ長尺のフレキシブル金属張積層板を用いてロールツーロール式で現像工程、エッチング処理工程、レジスト剥離工程の3つの工程を含むFPCの製造工程により回路を形成する作業が必要になる。しかし、この方法はコストと時間がかかるため、現実的ではない。本発明者らは、材料となる長尺フィルムまたは長尺フレキシブル金属張積層板として、その両端部および中央部から試験片を切り出し、シェイキングテストにおけるSTを測定した場合に700秒以上となっているような材料を用いれば、裂けが発生しないことを見出した。シェイキングテストは簡単かつ低コストで行うことができ、STが700秒以上となっている材料を用いることにより、きわめて簡単に裂けを発生しないフレキシブル金属張積層体を得ることができる。
【0026】
フィルムの両端部および中央部においてシェイキングテストを行ったときのポリイミドフィルムのSTが700秒以上であると、これを用いてフレキシブル金属張積層板とし、ロールツーロール式の連続的なFPC製造工程によってフレキシブル配線板を製造した場合であっても、裂けの発生が抑制されるが、好ましくは1500秒以上であり、さらに好ましくは2000秒以上である。
【0027】
本発明のポリイミドフィルムは、上述のように連続的なFPCの製造に使用される材料となるので、幅広かつ長尺状のポリイミドフィルムである。そして、フィルムの両端および中央部の3点において、シェイキングテストを行った場合のSTが700秒以上となっているフィルムである。このようなフィルムを用いれば、連続的なFPCの工程を経ても得られるFPCに裂けが発生しないので、FPCを効率よく生産することが可能となる。
【0028】
(ポリイミド)
本発明のポリイミドフィルムは、柔軟性ブロック成分と剛直性ブロック成分を含むポリイミドから構成されることを特徴とする。
【0029】
本発明者らは、鋭意検討した結果、アルカリ環境下におけるフィルムの裂けの抑制には、柔軟性ブロック成分が特に重要であることを見出した。
【0030】
柔軟性ブロック成分は、熱可塑性であることが好ましい。さらに、ブロック成分の側鎖に嵩高い置換基を含まず、平面性の高い骨格とエーテル結合などの分子鎖の分子運動性が高い骨格から構成されることがより好ましい。これにより分子鎖のパッキングが密となり、凝集構造の成長が促進され、最終的なフィルムに強靭性を付与することが可能となる。
【0031】
剛直性ブロック成分は、非熱可塑性であることが好ましい。さらに、ブロック成分を構成するモノマーがエーテル結合などの屈曲鎖を含有することがより好ましい。ピロメリット酸二無水物や、4,4’−ジアミノベンゼンのようなベンゼン環のみで構成される平面性の高い骨格だけではポリマーの分子鎖の分子運動性が不十分となる可能性があるため、屈曲鎖の導入により分子運動性を増加させ、凝集構造の形成を促進することが可能となる。屈曲鎖を有するモノマーは側鎖に嵩高い置換基を含まず、さらにエーテル結合のような構造を有すれば制限されない。剛直性ブロック成分を構成するジアミンモノマー成分100%のうち、屈曲鎖を有するモノマー成分は10モル%〜30モル%の範囲である場合に凝集構造の形成促進に有効であり、好ましい。
【0032】
本発明における非熱可塑性ポリイミドは、柔軟性ブロックと剛直性ブロックの組成は、40モル%:60モル%〜60モル%:40モル%の範囲であることが好ましい。
【0033】
本発明のポリイミドフィルムを構成するポリイミドは前駆体となるポリアミド酸をイミド化して得られる。ポリアミド酸を形成するモノマーについて下記にて説明する。
【0034】
本発明のポリイミドに主成分として用いられるジアミンは特に制限されないが、耐熱性等の点から芳香族ジアミンが好ましい。例えば、2,2’-ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−オキシジアニリン、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−ジアミノジフェニルジエチルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルシラン、4,4’−ジアミノジフェニルエチルホスフィンオキシド、4,4’−ジアミノジフェニルN−メチルアミン、4,4’−ジアミノジフェニル N−フェニルアミン、1,4−ジアミノベンゼン(p−フェニレンジアミン)、ビス{4−(4−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン、2,2’−ジメチルベンジジン等が挙げられ、これらを単独または複数併用することができる。本発明のポリイミドに特に好適に用いられる芳香族ジアミンは、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’―ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、1,3−ビス(4―アミノフェノキシ)ベンゼンなどが例示される。
【0035】
本発明のポリイミドの酸二無水物として用いられる酸二無水物は特に制限されないが、耐熱性等の点から芳香族酸二無水物が好ましい。例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物、3,4’−オキシフタル酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン酸二無水物、1,1−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、1,1−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エタン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン酸二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、エチレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、ビスフェノールAビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)及びそれらの類似物等が挙げられる。本発明のポリイミドに特に好適に用いられる酸二無水物は、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物などが例示される。
【0036】
柔軟性ブロック成分のジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’―ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが好適に用いられる。また、酸二無水物としては、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−オキシフタル酸二無水物が好適に用いられる。さらに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を含む組み合わせが特に好ましい。
剛直性ブロック成分のジアミンとしては、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’―ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、p−フェニレンジアミン、1,3−ビス(4―アミノフェノキシ)ベンゼンが好適に用いられる。酸二無水物としては、4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物が好適に用いられる。さらに、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、p−フェニレンジアミン、ピロメリット酸二無水物を含む組み合わせが特に好ましい。
【0037】
(ポリアミド酸製造時の溶媒)
ポリアミド酸を製造するための好ましい溶媒は、ポリアミド酸を溶解する溶媒であればいかなるものも用いることができる。例えば、、アミド系溶媒、すなわちN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンなどを例示することができる。これらの中でも、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドが特に好ましい。
【0038】
(ポリアミド酸の製造)
本発明におけるポリアミド酸の製造方法としては、あらゆる公知の方法およびそれらを組み合わせた方法を用いることができる。ポリアミド酸の重合における重合方法の特徴は、そのモノマーの添加順序にあり、このモノマーの添加順序を制御することにより得られるポリイミドの諸物性を制御することができる。従い、本発明においてポリアミド酸の重合にはいかなるモノマーの添加方法を用いても良い。代表的な重合方法として以下のような方法が挙げられる。
【0039】
例えば、下記の工程(A−a)〜(A−c):
(A−a)芳香族ジアミンと、芳香族酸二無水物とを、芳香族ジアミンが過剰の状態で有機極性溶媒中で反応させ、両末端にアミノ基を有するプレポリマーを得る工程、
(A−b)工程(A−a)で用いたものとは構造の異なる芳香族ジアミンを追加添加する工程、
(A−c)更に、工程(A−a)で用いたものとは構造の異なる芳香族酸二無水物を、全工程における芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物が実質的に等モルとなるように添加して重合する工程、
によって製造することができる。
【0040】
または、下記の工程(B−a)〜(B−c):
(B−a)芳香族ジアミンと、芳香族酸二無水物とを、芳香族酸二無水物が過剰の状態で有機極性溶媒中で反応させ、両末端に酸無水物基を有するプレポリマーを得る工程、
(B−b)工程(B−a)で用いたものとは構造の異なる芳香族酸二無水物を追加添加する工程、
(B−c)更に、工程(B−a)で用いたものとは構造の異なる芳香族ジアミンを、全工程における芳香族ジアミンと芳香族酸二無水物が実質的に等モルとなるように添加して重合する工程、
を経ることによってポリアミド酸を得ることも可能である。
任意のジアミンもしくは酸二無水物に、特定のジアミンもしくは酸二無水物が選択的に結合するように添加順序を設定する合成方法(例えば工程(A−a)〜(A−c)、および(B−a)〜(B−c))を本発明ではシーケンス重合と呼ぶ。これに対し、結合するジアミンと酸二無水物を投入順序で選択しない合成方法を本発明ではランダム重合と呼ぶ。
【0041】
本発明において、フィルムの裂けの抑制に有効なポリイミド樹脂を得るための好ましい重合方法としては、理想的にブロック成分を形成する目的で柔軟性ブロック成分を形成した後、残りのジアミン及び/又は酸二無水物を用いて剛直性ブロック成分を形成して非熱可塑性ポリイミドの前駆体を形成する方法を用いるのが特に好ましい。
【0042】
(ポリアミド酸の固形分濃度)
本発明の非熱可塑性ポリアミド酸の固形分濃度は特に限定されず、通常5重量%〜35重量%、好ましくは10重量%〜30重量%の濃度で得られる。この範囲の濃度である場合に適当な分子量と溶液粘度を得ることが可能である。
【0043】
(ポリアミド酸の組成物)
本発明の非熱可塑性ポリアミド酸には、摺動性、熱伝導性、導電性、耐コロナ性、ループスティフネス等のフィルムの諸特性を改善する目的でフィラーを添加することもできる。フィラーとしてはいかなるものを用いても良いが、好ましい例としてはシリカ、酸化チタン、アルミナ、窒化珪素、窒化ホウ素、リン酸水素カルシウム、リン酸カルシウム、雲母などが挙げられる。
【0044】
得られるポリイミドフィルムとしての特性を損なわない範囲で、他の熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を本発明のポリイミドと混合しても良い。これらの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂の添加方法も種々の公知の技術を適用できる。例えば、溶剤に可溶のものであればポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の状態に添加する方法が挙げられる。
【0045】
(ポリイミドフィルムの製造方法)
本発明におけるポリイミドフィルムを得る方法も特に制限されず、種々の公知の方法を適用できる。例えば、以下の工程
i) 有機溶剤中で芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物を反応させて非熱可塑性ポリアミド酸溶液を得る工程、
ii)上記非熱可塑性ポリアミド酸溶液を含む製膜ドープをダイスから支持体上に流延して、樹脂層(液膜ともいうことがある)を形成する工程、
iii)樹脂層を支持体上で加熱して自己支持性を持ったゲルフィルムとした後、支持体からゲルフィルムを引き剥がす工程、
iv)更に加熱して、残ったアミド酸をイミド化し、かつ乾燥させ非熱可塑性ポリイミドフィルムを得る工程、
を含むことが好ましい。
【0046】
ii)以降の工程においては、熱イミド化法と化学イミド化法に大別される。熱イミド化法は、脱水閉環剤等を使用せず、ポリアミド酸溶液を製膜ドープとして支持体に流延、加熱だけでイミド化を進める方法である。一方の化学イミド化法は、ポリアミド酸溶液に、イミド化促進剤として脱水閉環剤及び触媒の少なくともいずれかを添加したものを製膜ドープとして使用し、イミド化を促進する方法である。どちらの方法を用いても構わないが、化学イミド化法の方が生産性に優れる。
【0047】
脱水閉環剤としては、無水酢酸に代表される酸無水物が好適に用いられ得る。触媒としては、脂肪族第三級アミン、芳香族第三級アミン、複素環式第三級アミン等の三級アミンが好適に用いられ得る。
【0048】
製膜ドープを流延する支持体としては、ガラス板、アルミ箔、エンドレスステンレスベルト、ステンレスドラム等が好適に用いられ得る。最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて加熱条件を設定し、部分的にイミド化または乾燥の少なくとも一方を行った後、支持体から剥離してポリアミド酸フィルム(以下、ゲルフィルムという)を得る。
【0049】
上記ゲルフィルムの端部を固定して硬化時の収縮を回避して加熱処理し、ゲルフィルムから、水、残留溶媒、イミド化促進剤、脱水閉環剤等を除去し、そして残ったアミド酸を完全にイミド化して、ポリイミドを含有するフィルムが得られる。加熱条件については、最終的に得られるフィルムの厚み、生産速度に応じて適宜設定すれば良い。
【0050】
(ポリイミド積層フィルムの製造)
本発明のポリイミドフィルムを用いて、その少なくとも片面に、他のポリイミド層や接着剤層などを積層したポリイミド積層フィルムを製造することも可能である。ポリイミド積層フィルムを製造する方法も特に制限されず、種々の公知の方法を適用できる。例えば、共押出しダイを使用して、本発明のポリイミドの前駆体である非熱可塑性ポリアミド酸および接着層となりうる熱可塑性ポリアミド酸を含む複層の樹脂層を同時に形成しても良い。また本発明のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸を合成し、それを用いてフィルム化して得られたポリイミドフィルムを一旦回収した後、その上に塗工などで新たに熱可塑性ポリアミド酸を含む樹脂層を形成しても良い。イミド化には非常に高い温度が必要となるため、ポリイミド以外の樹脂層を設ける場合は、熱分解を抑えるために後者の手段を採る方が好ましい。なお、塗工により熱可塑性ポリイミド層を設ける場合は、熱可塑性ポリアミド酸を塗布し、その後イミド化を行ってもよいし、熱可塑性ポリイミド層を形成することができる熱可塑性ポリイミド溶液を塗布・乾燥してもよい。また、ポリイミドフィルムに、アクリル系接着剤やエポキシ系接着剤などを塗布して、ポリイミド積層フィルムを製造することも可能である。ポリイミド積層フィルムの最表面に、コロナ処理やプラズマ処理のような種々の表面処理を行うことも可能である。
【0051】
本発明のポリイミド積層フィルム全体の厚みは6μm〜60μmであることが好ましい。その範囲内でも厚みが薄い方が、FPCとしての軽量化に貢献し、また折り曲げ性が向上するので好ましく、例えば、7μm〜20μmがより好ましく、7μm〜15μmがさらに好ましい。
【0052】
(フレキシブル金属張積層体)
ポリイミド積層フィルムの少なくとも片面に金属箔を貼り合わせることより、フレキシブル金属張積層板を製造することが可能である。フレキシブル金属張積層板を製造する方法も特に制限されず、種々の公知の方法を適用できる。例えば、一対以上の金属ロールを有する熱ロールラミネート装置或いはダブルベルトプレス(DBP)による連続処理を用いることができる。
【0053】
熱ラミネートを実施する手段の具体的な構成は特に限定されるものではないが、得られる積層板の外観を良好なものとするために、加圧面と金属箔との間に保護材料を配置することも好ましい。
【0054】
金属箔上に熱可塑性ポリアミド酸溶液または非熱可塑性ポリアミド酸溶液の少なくともいずれか一方の溶液を含有する多層の有機溶剤溶液をキャストする手段も用いることが出来る。金属箔上にポリアミド酸を含有する有機溶剤溶液をキャストする手段については特に限定されず、ダイコーターやコンマコーター(登録商標)、リバースコーター、ナイフコーターなどの従来公知の手段を使用できる。本発明における熱可塑性ポリイミド層と非熱可塑性ポリイミドフィルムを含む場合などポリイミド樹脂層を複層設ける場合、もしくはポリイミド以外の樹脂層も設ける場合は、上記キャスト、加熱工程を複数回繰り返すか、共押出しや連続キャストによりキャスト層を複層形成して一度に加熱する手段が好適に用いられうる。この手段では、イミド化が完了すると同時に、フレキシブル金属張積層体が得られる。樹脂層の両面に金属箔を設ける場合、加熱加圧により反対側の樹脂層面に金属箔を貼り合わせれば良い。
【0055】
金属箔は、特に限定されるものではなく、あらゆる金属箔を用いることができる。例えば、銅、ステンレス、ニッケル、アルミニウム、およびこれら金属の合金などを好適に用いることができる。また、一般的な金属張積層板では、圧延銅、電解銅といった銅が多用されるが、本発明においても好ましく用いることができる。
【0056】
また、金属箔は、目的に応じて表面処理、表面粗さ等種々特性を有したものを選択できる。さらに、上記金属箔の表面には、防錆層や耐熱層あるいは接着層が塗布されていてもよい。上記金属箔の厚みについては特に限定されるものではなく、その用途に応じて、十分な機能が発揮できる厚みであればよい。
【0057】
(フィルムの密度)
本発明のポリイミドフィルムの密度は1.40g/cm〜1.55g/cmの範囲内にあることが好ましく、1.40g/cm〜1.50g/cmの範囲内にあることがより好ましい。ポリイミドが凝集構造をとる場合、ポリイミドフィルムの密度がこの範囲となり、アルカリ水溶液などの溶剤が介在した場合でも分子鎖間に溶剤が入り難くなり、分子鎖がすべにくいため、フィルムへの裂けが発生しにくくなる。また分子鎖の剛直性も適切となるために、フィルムが硬くて脆くなることも防止可能である。密度は、ポリイミドフィルムの製膜条件でも適切に設定でき、ポリイミドフィルムの後処理によってもこの範囲に調整することが出来る。更に、ポリイミドフィルムの延伸により密度を調整することも可能である。
【0058】
(貯蔵弾性率の変曲点が示す温度)
本発明のポリイミドフィルムの動的粘弾性測定による貯蔵弾性率の変曲点が示す温度(E’変曲点温度ともいう)は、ラミネート法で金属箔を貼り合わせる際の熱応力の緩和の観点から、270℃〜340℃の範囲内が好ましく、280℃〜330℃の範囲内がより好ましい。貯蔵弾性率の変曲点が示す温度がこの範囲内であれば、フレキシブル金属張積層板の加熱後寸法変化を評価する温度(二層FPCの分野においては、250℃で評価されることが多い)における寸法変化が小さく、良好である。さらに、コア層の軟化が始まる温度が熱ラミネート時の温度よりも低いために、その温度で十分に緩和し、やはり寸法変化が小さく、良好である。
【0059】
(380℃における貯蔵弾性率)
本発明のポリイミドフィルムの動的粘弾性測定による380℃における貯蔵弾性率は、0.6GPa〜2.0GPaの範囲内が好ましく、0.8GPa〜1.8GPaの範囲内がより好ましく、0.9GPa〜1.6GPaの範囲にあることがさらに好ましい。
【0060】
380℃における貯蔵弾性率が0.6GPa〜2.0GPaの範囲である場合、フィルムのイミド化時または熱ラミネート時に、フィルムが自己支持性を保つことができ、フィルムの生産性を向上させたり、外観が良好なフレキシブル金属張積層板をえることができる。さらに熱ラミネート時の応力緩和効果も十分に発現する。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0062】
なお、合成例、実施例及び比較例における非熱可塑性ポリイミドの動的粘弾性、熱線膨張係数、引張特性、10%歪み時応力、密度、強靭性の指標となるSTの求め方の評価方法は次の通りである。
【0063】
(動的粘弾性)
貯蔵弾性率は、SIIナノテクノロジー社製 DM6100により空気雰囲気下において動的粘弾性を測定し、測定温度との相関をプロットして変曲点温度及び380℃における貯蔵弾性率を読み取った。
サンプル測定範囲;幅9mm、つかみ具間距離;20mm
測定温度範囲;0℃〜440℃
昇温速度;3℃/min
歪み振幅;10μm
測定周波数;1Hz,5Hz,10Hz
最小張力/圧縮力;100mN
張力/圧縮ゲイン;1.5
力振幅初期値;100mN
【0064】
(熱線膨張係数)
熱線膨張係数の測定は、SIIナノテクノロジー社製TMA/SS6100を用いて窒素雰囲気下において−10℃から+400℃まで一旦昇温させた後、−10℃まで冷却し、さらに再度+400℃まで昇温させて、2回目の昇温時の+100℃から+200℃における線熱膨張率から平均値として計算した。
サンプル形状;幅3mm
長さ10mm
荷重;3g(29.4mN)
昇温速度;10℃/min
【0065】
(引張特性、10%歪み時応力、塑性変形領域の傾き)
引張弾性率の測定データから10%歪み時応力は求められる。引張弾性率はASTM D882に準じて行った。測定には、島津製作所製のAUTOGRAPH AGS−Jを使用し、23℃、55%RHの環境下で測定した。
サンプル測定範囲;15mm
つかみ具間距離;100mm
引張速度;200mm/min
【0066】
(密度)
密度は、密度勾配管法を用いて、JIS K7112に準じて、試験温度23℃で行った。5mm角の試料を密度勾配管の中に静かに入れた後、試料が液の中で
平衡位置に達し静止したら、その位置を密度勾配管の目盛りから読み取った。最終的な密度は、密度と目盛りの補正曲線より算出した。
【0067】
(シェイキングテスト)
合成例9で得られたポリイミド前駆体を固形分濃度8重量%になるまでDMFで希釈した後、ポリイミドフィルムの両面に、熱可塑性ポリイミド層(接着層)の最終片面厚みが3μmになるようにポリイミド前駆体を塗布した。その後、120℃で2分間加熱を行った。続いて、350℃で15秒間加熱・イミド化を行い、ポリイミド積層フィルムを得た。得られたポリイミド積層フィルムの両面に12μm電解銅箔(3EC−M3S−HTE、三井金属製)を配し、さらに銅箔の両側に保護フィルム(アピカル125NPI;カネカ製、厚み125μm)を用いて、ラミネート温度360℃、ラミネート圧力265N/cm(27kgf/cm)、ラミネート速度1.0m/分の条件で熱ラミネートを行い、フレキシブル金属張積層板とした。6.0cm×5.5cm角の大きさにフレキシブル金属張積層板を切り取り、その金属箔の一部を図1に示すように格子状(格子サイズ;1.3mm×1.5mm)にエッチングして試験片を得た。800mLの濃度4%の水酸化ナトリウム水溶液(23±2℃)が入った容器に試験片を入れ、230rpmの振とう速度で、23±2℃において振とうしてフィルムが裂けるまでの時間(ST(秒))を測定する。なお、エッチング後、格子状の各角部の内側の曲率半径が50μm以下となっていることを光学顕微鏡にて確認して、50μm以下となっているものを試験片とした。この試験片を水酸化ナトリウム水溶液に投入した。フィルムが裂けたどうかの判定は、震とうを100秒毎に止め、試験片を入れた容器ごとにライトボックスにより光を当てて、試験片に光が透過したらフィルムが裂けたと判断した。
【0068】
(FPC製造工程における模擬試験)
導体パターンをあらかじめ形成した長尺のフレキシブル金属張積層板に張力60Nをかけ、45℃の5%水酸化ナトリウム水溶液をスプレーで吹きつけた際の裂け発生有無を目視で観察した。裂けが発生しなかったものを合格(○)、1つでも裂けが発生したものを不合格(×)とした。
【0069】
(非熱可塑性ポリイミド前駆体の合成)
(合成例1)
容量2000mlのガラス製フラスコにN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFともいう)を655.69g、ジアミノジフェニルエーテル(以下、ODAともいう)を28.86g加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、BPDAともいう)25.44gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(以下、BTDAともいう)13.93gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度ODAを3.46g、p−フェニレンジアミン(以下、PDAともいう)を13.72g加えて5分間攪拌を行った。続いて、ピロメリット酸二無水物(以下、PMDAともいう)32.70gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.89gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0070】
(合成例2)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを655.36g、ODA29.25gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA25.79gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA14.12gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、PDAを15.80g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA33.14gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.91gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0071】
(合成例3)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを656.91g、ODA21.93g、2,2’−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、BAPPともいう)11.24gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA16.11gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA22.06gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度ODAを2.19g、PDAを13.62g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA31.06gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.79gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0072】
(合成例4)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを657.90g、ODA15.74g、BAPP21.52gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA19.28gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA16.89gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度ODAを2.10g、PDAを13.04g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA29.72gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.71gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0073】
(合成例5)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを656.86g、ODA21.98g、BAPP11.26gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA24.22gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA13.26gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度ODAを3.30g、PDAを13.06g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA31.12gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.80gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0074】
(合成例6)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを657.92g、ODA15.73g、BAPP21.50gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA23.11gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA12.65gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度ODAを3.15g、PDAを12.46g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA29.70gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.71gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0075】
(合成例7)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを655.69g、ODA28.86gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA25.44gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、BTDA13.93gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、再度、ODAを3.46g、PDAを13.72g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA32.70gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.89gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0076】
(合成例8)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを657.82g、ODA10.53g、BAPP32.39gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BTDA16.95gを徐々に添加した。BTDAが溶解したことを目視で確認後、PMDA14.34gを添加し、30分間攪拌を行った。その後、PDAを14.22g加えて5分間攪拌を行った。続いて、PMDA29.83gを添加し、30分間撹拌した。最後に、1.72gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が2500ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0077】
合成例1〜8の重合処方、重合方法を表1に示す。
【0078】
(熱可塑性ポリイミド前駆体の合成)
(合成例9)
容量2000mlのガラス製フラスコにDMFを673.24g、BAPP71.83gを加え、窒素雰囲気下で攪拌しながら、BPDA7.72gを徐々に添加した。BPDAが溶解したことを目視で確認後、PMDA31.30gを添加し、30分間攪拌を行った。最後に、1.15gのPMDAを固形分濃度7.2%ととなるようにDMFに溶解した溶液を調整し、この溶液を粘度上昇に気を付けながら上記反応溶液に徐々に添加して、23℃での粘度が300ポイズに達した時点で添加、撹拌をやめ、ポリイミド前駆体を得た。
【0079】
このポリイミド前駆体(60g)に無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比6.89/2.14/20.97)からなる硬化剤を30.0g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を120℃×3分間秒で加熱した後、アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして金属製の固定枠に固定し、250℃×1分間、300℃×200秒で乾燥・イミド化させて厚み20μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持せず、熱可塑性であることを確認出来た。
【0080】
(実施例1)
合成例1で得られたポリイミド前駆体(65g)に、無水酢酸/イソキノリン/DMF(重量比11.48/3.40/18.18)からなる硬化剤を32.5g添加して0℃以下の温度で攪拌・脱泡し、コンマコーターを用いてアルミ箔上に流延塗布した。この樹脂膜を115℃×100秒で加熱した後、アルミ箔から自己支持性のゲル膜を引き剥がして金属製の固定枠に固定し、250℃×15秒、350℃×79秒で乾燥・イミド化させて厚み12.5μmのポリイミドフィルムを得た。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持し、非熱可塑性であることを確認出来た。得られたポリイミドフィルムのフィルム特性およびSTを表2に示す。
【0081】
(実施例2)
合成例1で得られたポリイミド前駆体を合成例6に変更する以外は、実施例1と同様に実施した。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持し、非熱可塑性であることを確認出来た。フィルム特性及びSTを表2に示す。
【0082】
(比較例1〜比較例6)
合成例1で得られたポリイミド前駆体を合成例2〜5、7、8に変更する以外は、実施例1と同様に実施した。このフィルムを金属製の固定枠に固定し、450℃で2分間加熱したところ形態を保持し、いずれも非熱可塑性であることを確認出来た。フィルム特性及びSTを表2に示す。
【0083】
(考察)
表2の結果から、柔軟性ブロック成分に嵩高い骨格を含まない実施例1,2、および比較例5では塑性変形領域の傾きが1.0以上となり、ST値も700秒以上となった。また、実施例1と2の比較から、剛直性ブロック成分に屈曲鎖を導入することにより、塑性変形領域の傾きは大きくなり、それに伴い、STも900秒以上となった。これらの結果から、樹脂層が塑性変形をしづらいことにより、裂け耐性に優れることを示している。
【符号の説明】
【0084】
1.金属箔
2.ポリイミドフィルム
3.Strain1(10%歪み)
4.Strain2(破断歪み)
5.Stress1(10%歪み時応力)
6.Stress2(破断応力)
7.比較例6のs−s曲線
8.実施例1のs−s曲線
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
図1
図2