特許第6691415号(P6691415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6691415セシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691415
(24)【登録日】2020年4月14日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】セシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/30 20060101AFI20200421BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20200421BHJP
   B01J 20/10 20060101ALI20200421BHJP
   C01B 33/32 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   B01J20/30
   G21F9/12 501D
   B01J20/10 C
   C01B33/32
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-74891(P2016-74891)
(22)【出願日】2016年4月4日
(65)【公開番号】特開2017-185432(P2017-185432A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2019年2月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000230593
【氏名又は名称】日本化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木ノ瀬 豊
(72)【発明者】
【氏名】宮部 慎介
(72)【発明者】
【氏名】坂本 剛
(72)【発明者】
【氏名】野口 英治
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−003151(JP,A)
【文献】 特開平02−302314(JP,A)
【文献】 特開2014−122806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00−20/34
G21F9/00−9/36
C01B33/20−39/54
J21/00−38/74
B01J39/00−49/90
C02F1/28−1/28
C02F1/42−1/42
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式;ATiSi16・nHO(式中、AはNa及びKから選ばれる1種又は2種のアルカリ元素を示す。nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートを含む原料を、有機カルボン酸に接触させる酸処理を行い、次いで、得られた酸処理物をアルカリ金属剤に接触させる、セシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法。
【請求項2】
有機カルボン酸が、クエン酸である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
酸処理は、有機カルボン酸の濃度が0.05mol/L以上で行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
有機カルボン酸との接触を温度5℃〜80℃で行う、請求項1乃至3の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
有機カルボン酸との接触時間は、0.5時間以上である、請求項1乃至4の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項6】
アルカリ金属剤が、アルカリ金属水酸化物である、請求項1乃至5の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項7】
アルカリ金属剤との接触を温度5℃〜80℃で行う、請求項1乃至6の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項8】
アルカリ金属塩との接触時間は、0.5時間以上である、請求項1乃至7の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法に関し、特に海水中のストロンチウムを効率的に分離又は回収しうる吸着剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、放射性物質を含む排水の処理技術としては共沈処理が知られている(下記特許文献1参照)。しかし、水溶性である放射性ストロンチウム及び放射性セシウムについては、前記共沈処理は有効ではなく、現在、ゼオライトなどの無機系吸着剤による吸着除去が行われている(下記特許文献2参照)。
【0003】
セシウム及び/又はストロンチウムの吸着性についてこれまでに研究されている無機系吸着材の一つとして、結晶性シリコチタネートが挙げられる。結晶性シリコチタネートは、Ti/Si比が1:1のもの、5:12のもの、2:1のもの等、複数種類の組成のものが知られているが、その他に、Ti/Si比が4:3である結晶性シリコチタネートが存在することが知られている。非特許文献1には、Ti源としてTi(OET)というアルコキシドを用い、Si源としてコロイダルシリカを用いた水熱処理により製造した製造物3B及び3Cは、そのX線回折パターンから、3次元的な8員環構造を有していること、この構造の結晶性シリコチタネートは、理想的にはATiSi16(AはNa、K等)で表される組成を有することを報告し、この構造の結晶性シリコチタネートにGrace titanium silicate(GTS−1)と名付けている。また、非特許文献2にはTi/Si比が4:3である結晶性シリコチタネートを、Ti/Si比が0.32の混合溶液に水熱合成処理を行うことにより製造した旨が記載されている。同文献には、合成した結晶性シリコチタネートが、ストロンチウムイオン交換能を有する旨が記載されている。
また、セシウム及びストロンチウムを両方吸着できる吸着剤として、本出願人は先に、A4Ti4Si316・nH2O(AはNa及び/又はKであり、nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートと、A4Ti920・mH2O(AはNa及び/又はKであり、mは0〜10の数を示す。)で表されるチタン酸塩とを含む組成物を報告している(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62−266499号公報
【特許文献2】特開2013−57599号公報
【特許文献3】特開2015−188782号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】ZEOLITES,1990,Vol 10,November/December
【非特許文献2】藤原 恵子、“ヒートポンプ吸着材としてのマイクロポーラスクリスタルの改質と評価”、[online]、[2014年3月3日検索]、インターネット<URL:http://kaken.nii.ac.jp/pdf/2011/seika/C-19/15501/21560846seika.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のとおり、従来、Ti/Si比が4:3である結晶性シリコチタネートに関するセシウム及び/又はストロンチウム吸着性能が報告されているものの、更なるストロンチウムやセシウムの吸着性能の向上が望まれている。特にストロンチウムを低濃度で含む液を効率的に吸着する吸着剤が求められているところ、Ti/Si比が4:3である結晶性シリコチタネートを用いた従来の吸着剤は、ストロンチウムを低濃度で含む液からのストロンチウム吸着性能について十分なものと言い難い。
したがって本発明の課題は、上記課題を解決できる吸着剤の工業的に有利な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、Ti/Si比が4:3である結晶性シリコチタネート即ちA4Ti4Si316・nH2O(AはNa及び/又はKであり、nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートを含有し特定の酸処理に供した吸着剤は、驚くべきことに、低濃度でのストロンチウムの吸着効率が高いことを見出した。
【0008】
即ち本発明は、一般式;ATiSi16・nHO(式中、AはNa及びKから選ばれる1種又は2種のアルカリ元素を示す。nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートを含む原料を、有機カルボン酸に接触させる酸処理を行い、次いで、得られた酸処理物をアルカリ金属剤に接触させる、セシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の方法で製造されたセシウム及び/又はストロンチウム吸着剤は、特に、ストロンチウムを低濃度で含有する水等の媒体から、ストロンチウムを効率よく吸着できる。
また、本発明のセシウム及び/又はストロンチウム吸着剤の製造方法によれば、前記のセシウム及び/又はストロンチウム吸着剤を工業的に有利な方法で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、比較例1と実施例1の粒状物のX線回折チャートである。
図2図2は、比較例3と実施例2の粒状物のX線回折チャートである。
図3図3は、比較例1〜2及び実施例1の粒状物の<Srカラム吸着試験>の結果を示すグラフである。
図4図4は、比較例3及び実施例2の粒状物の<Srカラム吸着試験>の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
まず、本発明の製造方法で得られる吸着剤について説明する。本発明の製造方法で得られるセシウム及び/又はストロンチウム吸着剤(以下、単に「本発明の吸着剤」と記載する場合もある)は、一般式;ATiSi16・nHO(式中、AはNa及びKから選ばれる1種又は2種のアルカリ元素を示す。nは0〜8の数を示す。)で表される結晶性シリコチタネートを含有する。以下では、この結晶性シリコチタネートをGTS(Grace titanium silicate)とも記載する。なお、前記のATiSi16・nHOは、一般式;Na4Ti4Si316・nH2O、(Nax(1-x)4Ti4Si316・nH2O及びK4Ti4Si316・nH2O(これらの式中、xは0超1未満の数を示し、nは0〜8の数を示す。)として表すこともできる。AがNa及びKの両方を含む場合、Na4Ti4Si316・nH2O及びK4Ti4Si316・nH2O(これらの式中、xは0超1未満の数を示し、nは0〜2を示す。)を含有していても良く、(Nax(1-x)4Ti4Si316・nH2Oを含有していても良い。
【0012】
本発明の製造方法で得られるセシウム及び/又はストロンチウム吸着剤は、上記一般式におけるAが、Kであるか、Na及びKであることが、セシウム及びストロンチウムの吸着性能を高めやすいために好ましい。
【0013】
本発明の製造方法で得られる吸着剤は、GTSによるセシウム及び/又はストロンチウムの吸着性能を高く維持する観点から、Cu−KαをX線源に用いて回折角(2θ)が5°以上80°以下の範囲でX線回析測定したときに、GTSの結晶構造に特徴的なピークが観察されることが好ましい。例えば本発明の製造方法で得られる吸着剤は上記走査範囲におけるメーンピークとして、10°以上13°以下の範囲にGTSの結晶構造に由来するメーンピークが観察されることが好ましい。
【0014】
本発明の製造方法で得られる吸着剤は、更に、後述するGTSを含む原料に起因して含有される一般式;ATi20・mHO(式中、AはNa、K及びCsから選ばれる1種又は2種の金属を示し、mは0〜10の数を示す。)で表されるチタン酸塩を含有していてもよい。
【0015】
本発明の吸着剤の製造方法は、GTSを含む原料(以下、「GTS含有原料」と言うこともある)を、有機カルボン酸に接触させる酸処理を行い、次いで、得られた酸処理物をアルカリ金属剤に接触させることを特徴の一つとするものである。
【0016】
GTS含有原料の好適な製造方法の例を以下説明するが、GTS含有原料の製造方法はこれに限定されるものではない。
<GTS含有原料の好適な製造方法>
本製造方法は、ケイ酸源と、アルカリ金属化合物、四塩化チタン及び水を混合して混合ゲルを製造する第一工程と、第一工程により得られた混合ゲルを水熱反応させる第二工程とを有する。第一工程においてはケイ酸源と、アルカリ金属化合物、四塩化チタン及び水に加えて混合させて混合ゲルを得る。
【0017】
第一工程において用いられるケイ酸源としては、例えば、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリが挙げられる。また、ケイ酸アルカリ(すなわちケイ酸のアルカリ金属塩)をカチオン交換することにより得られる活性ケイ酸も用いることができる。
【0018】
第一工程において用いられるアルカリ金属化合物としては、例えば、ナトリウム、カリウムを含有する化合物である。ナトリウムを含有する化合物としては、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムが挙げられる。またカリウムを含有する化合物としては、水酸化カリウムや炭酸カリウムが挙げられる。これらの化合物のうち、炭酸塩を用いると炭酸ガスが発生する一方、水酸化物にはそのようなガスの発生がない水酸化物という利点を有する。
【0019】
第一工程において、下記モル比で表される組成の混合ゲルとなるようにケイ酸源、アルカリ金属化合物、四塩化チタン及び水を混合することが、目的とするGTSの収率を満足すべき程度に高くすることができ、かつGTS以外の不純物の副生物を抑制できる観点から好ましい。
(TiO)/SiO=1.25〜1.60、好ましくは1.30〜1.50 AO/SiO=0.80〜1.05、好ましくは0.85〜1.00 HO/SiO=65〜100、好ましくは75〜90。
【0020】
なお、ケイ酸源として、ケイ酸ナトリウムやケイ酸カリウム等のケイ酸アルカリを用いた場合には、ケイ酸アルカリに含まれるアルカリ金属成分であるナトリウムやカリウムは同時にNaOHやKOHとみなされ、アルカリ成分でもある。したがって、前記のAOは全てのアルカリ成分の和として計算される。
【0021】
第一工程により得られた混合ゲルは、後述する第二工程である水熱反応を行う前に、0.5時間以上2時間以下の時間にわたり、20℃以上100℃以下で熟成を行うことが、均一な生成物を得る点で好ましい。熟成工程は、例えば静置状態で行ってもよく、あるいはラインミキサーなどを用いた撹拌状態で行ってもよい。
【0022】
本製造方法では、第一工程において得られた前記混合ゲルを、第二工程である水熱反応に付してGTS含有原料を得る。水熱反応としては、結晶性シリコチタネートが合成できる条件であればよい。通常、オートクレーブ中で好ましくは120℃以上200℃以下、更に好ましくは140℃以上180℃以下の温度において、好ましくは6時間以上100時間以下、更に好ましくは12時間以上80時間以下の時間にわたって、加圧下に反応させる。
【0023】
上記で得られるGTS含有原料には、製造方法に起因して、更に一般式;ATi20・mHO(式中、AはNa、K及びCsから選ばれる1種又は2種の金属を示し、mは0〜10の数を示す。)で表されるチタン酸塩が含有されていてもよい。
【0024】
得られたGTS含有原料は粉末状、顆粒状、顆粒以外の成形体(球状、円柱状)等のいずれであってもよい。例えば含水状態のGTS含有原料を複数の開孔が形成された開孔部材から押出成形して棒状成形体を得、得られた該棒状成形体を乾燥させて柱状にしたり、乾燥させた該棒状成形体を球状に成形したり、解砕又は粉砕して粒子状とすることができる。このような押出成形(押出造粒)のほか、例えば撹拌混合造粒、転動造粒、破砕造粒、流動層造粒、噴霧乾燥造粒(スプレードライ)、圧縮造粒等の各種造粒方法を採用することができる。造粒の過程において必要に応じ、結合剤成分や溶媒を添加してもよい。結合剤成分としては、例えばシリカゾル、アルミナゾル、ジルコニアゾルなどの無機バインダー;ベントナイト、カオリナイトなどの粘土系バインダー;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース系バインダー;ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイドなどの高分子バインダーなどを用いることができる。これらの結合剤成分は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。造粒されたGTS含有原料に占める結合剤成分の好ましい割合は上述した吸着剤中の結合剤成分の好ましい割合と同様である。溶媒としては、各種の水性溶媒や有機溶媒を用いることができる。
【0025】
造粒装置によって造粒された造粒体は、これ乾燥させ、必要に応じて焼成した後、粒度調整を行って次の有機カルボン酸処理に供する。造粒体の形状や大きさは、該造粒体を吸着容器や充填塔に充填した状態で、ストロンチウム及び/又はセシウムを含む処理水を通水するのに適応するように適宜調整することが好ましい。造粒体の大きさに関しては、JIS Z8801規格による標準フルイによって測定された粒径が好ましくは200μm以上1000μm以下であり、更に好ましくは300μm以上600μm以下である。この範囲の粒径を有する造粒体から得られる吸着剤を用いると、例えば該吸着剤を吸着塔に充填した場合に、目詰まりが起こりにくくなるという利点がある。
【0026】
また、GTS含有原料は造粒過程に供さずに、粉末状等の未成形体の状態のまま有機カルボン酸及びアルカリ金属剤と接触させてもよい。
【0027】
GTS含有原料を処理する有機カルボン酸としては、クエン酸、リンゴ酸、乳酸、シュウ酸、マロン酸等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でもクエン酸を用いると、ニオブ溶出量が高く、望ましい低濃度域のストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を製造しやすい観点から好ましい。
【0028】
有機カルボン酸は溶媒に溶解させて使用することが好ましい。この場合の溶媒としては、水が挙げられる。得られる溶液中の有機カルボン酸の濃度は、望ましいストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を効率よく得る観点から0.05mol/L以上が好ましい。また溶液中の有機カルボン酸の濃度は、GTSの過度の溶解を防止するという観点から1mol/L以下が好ましい。これらの観点から、溶液中の有機カルボン酸の濃度は0.1mol/L以上0.5mol/L以下がより一層好ましく、0.1mol/L以上0.3mol/L以下が特に好ましい。
【0029】
GTS含有原料を有機カルボン酸と接触させる際の有機カルボン酸の温度としては、望ましいストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を効率よく得る観点から5℃以上であることが好ましい。またこの時の有機カルボン酸の温度は、高温の酸処理によりGTSの吸着性能を損なうことを防止する観点から、80℃以下であることが好ましい。これらの観点から有機カルボン酸の温度は15℃以上60℃以下がより一層好ましく、20℃以上50℃以下が特に好ましい。
【0030】
GTS含有原料を有機カルボン酸と接触させる時間としては、有機カルボン酸の温度が上記範囲であることを前提として、望ましいストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を効率よく得る観点から0.5時間以上であることが好ましい。またこの時間は、長時間の酸処理によりGTSの吸着性能を損なうことを防止する観点から、2時間以下であることが好ましい。これらの観点から接触時間は0.5時間以上1.5時間以下がより一層好ましい。
【0031】
GTS含有原料を有機カルボン酸と接触させる方法としては、GTS含有原料を有機カルボン酸溶液中に分散させたり、浸漬させたりする方法のほか、GTS含有原料に有機カルボン酸溶液をスプレーする方法、あるいはGTS含有原料をカラムに充填し、有機カルボン酸を溶解した溶液をカラムに通水する方法等が挙げられる。GTS含有原料を有機カルボン酸溶液に分散させたり、浸漬させたりする場合には、適宜撹拌を行っても良い。有機カルボン酸溶液に分散させたり、浸漬させたりする場合、得られるスラリー中の吸着剤の濃度を3質量%以上15質量%以下、特に5質量%以上10質量%以下とすることが効率よい酸処理のために好ましい。
【0032】
有機カルボン酸と接触させた酸処理物を、アルカリ金属剤と接触させる。GTS中の細孔中に存在するプロトンはストロンチウムと置換しがたい。このため、クエン酸処理後のGTS含有原料をアルカリ金属剤で処理して、GTS中の細孔中に存在するプロトンをストロンチウムと交換可能なアルカリ金属と置換させる必要がある。アルカリ金属剤としては、アルカリ金属水酸化物やアルカリ金属炭酸塩等が挙げられ、特にアルカリ金属水酸化物が価格や取り扱いやすさ(溶解性)の観点から好ましい。アルカリ金属水酸化物の中でも、扱いやすさや価格の観点から水酸化ナトリウムが好ましい。酸処理物は水等で洗浄した後にアルカリ金属剤と接触させることが好ましい。
【0033】
アルカリ金属剤は溶媒に溶解させて用いることが好ましく、その場合の溶媒としては、有機カルボン酸を溶解させる溶媒と同様のものを用いることができる。アルカリ金属剤を溶解してなる溶液中のアルカリ金属剤の濃度は、望ましいストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を効率よく得る観点から0.1mol/L以上が好ましい。また溶液中のアルカリ金属剤の濃度は、プロトン置換後の洗浄の容易性の観点から2.0mol/L以下が好ましい。これらの観点から、溶液中のアルカリ金属剤の濃度は0.2mol/L以上1.5mol/L以下がより一層好ましく、0.3mol/L以上1.0mol/L以下が特に好ましい。
【0034】
酸処理物をアルカリ金属剤と接触させる際のアルカリ金属剤の温度としては、5℃以上であれば良い。また酸処理物をアルカリ金属剤と接触させる際のアルカリ金属剤の温度は、高温のアルカリ金属剤処理によりGTSの吸着性能を損なうことを防止する観点から、80℃以下であることが好ましい。これらの観点から前記のアルカリ金属剤の温度は5℃以上50℃以下がより一層好ましく、5℃以上40℃以下が特に好ましい。
【0035】
酸処理物をアルカリ金属剤と接触させる時間としては、アルカリ金属剤の温度が上記範囲であることを前提として、望ましいストロンチウム吸着性能を有する吸着剤を効率よく得る観点から0.5時間以上であることが好ましい。またこの時間は、長時間のアルカリ金属剤による処理によりGTSの吸着性能を損なうことを防止する観点から、2時間以下であることが好ましい。これらの観点から酸処理物をアルカリ金属剤と接触させる接触時間は0.5時間以上1.5時間以下がより一層好ましい。
【0036】
酸処理物をアルカリ金属剤と接触させる方法としては、酸処理物をアルカリ金属剤の溶液中に分散させたり、浸漬させたりする方法のほか、酸処理物にアルカリ金属剤の溶液をスプレーする方法、あるいは酸処理物をカラムに充填し、アルカリ金属剤を溶解した溶液をカラムに通水する方法等が挙げられる。酸処理物をアルカリ金属剤の溶液に分散させたり、浸漬させたりする場合には、適宜撹拌を行っても良い。酸処理物をアルカリ金属剤溶液に分散させたり、浸漬させたりする場合、得られるスラリー中の吸着剤の濃度を3質量%以上15質量%以下、特に5質量%以上10質量%以下とすることが効率よいアルカリ金属剤処理のために好ましい。
【0037】
上記のアルカリ金属剤処理後に得られた処理物は、適宜後、ろ過し、乾燥させて使用することができる。乾燥は80℃以上150℃以下で2時間以上12時間以下行うことが好ましい。
【0038】
得られた吸着剤はそのままの状態で用いることができる。また、吸着剤が粉末状等の未成形体である場合は、この後に、上述したGTS含有材料の造粒過程と同様の造粒過程による造粒を行ってもよい。好ましい造粒体の粒径は、GTS含有材料の造粒体の好ましい粒径として上記で述べた粒径と同様である。
【0039】
また、本発明の製造方法で得られた吸着剤は、これを例えば不織布などの各種の吸着シートやマットに使用する場合、そのまま粉末状体として材料を加工する際に添加することにより用いられる。不織布に吸着剤を固定する具体的な方法としては、粉末状の吸着剤を、エマルジョン化した樹脂バインダーとともに、水に分散させ、これに、不織布を含浸添着させたのち乾燥する方法が挙げられる。この樹脂バインダーとしては、例えば、ラテックスバインダ、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、アクリレートの共重合体、メタクリレートの共重合体、スチレンブタジエン共重合体、スチレンアクリル共重合体、エチレンビニルアセテート共重合体、ニトリルゴム、アクリルニトリルブタジエン共重合体、ポリビニルアルコールなどが挙げられる。不織布としては例えばポリエステル及び/又はポリオレフィン繊維で構成されるものが用いられる。
このように吸着剤を塗布した不織布を、例えば吸着剤を塗布した面を内側にして巻回した形態とすることによっても、水処理に好適に用いることができる。
【0040】
上述したセシウム又は/及びストロンチウム吸着剤の製造方法によって得られる顆粒状の吸着剤や粉末状体として不織布に固定させた吸着剤は、放射性物質吸着剤を充填してなる吸着容器及び吸着塔を有する水処理システムの吸着剤として好適に使用することができる。特に、本発明の製造方法で得られた吸着剤はストロンチウムが低濃度である液におけるストロンチウム吸着性能に優れたものである。ここでいう低濃度とは、本発明の製造方法で得られた吸着剤の性能を充分に発揮する観点、及び、求められる用途に対応する観点から、吸着対象の液中のストロンチウムが0.01ppm以上10ppm以下であることが好ましく、0.05ppm以上5ppm以下であることがより好ましく、0.1ppm以上5ppm以下であることが特に好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。特に断らない限り「%」は「質量%」を表す。実施例及び比較例で使用した評価装置及び評価方法並びに使用材料は以下のとおりである。
【0042】
<評価装置及び評価方法>
・X線回折:Bruker社 D8 AdvanceSを用いた。線源としてCu−Kαを用いた。測定条件は、管電圧40kV、管電流40mA、走査速度0.1°/secとした。
・ICP−AES:Varian社720−ESを用いた。Srの測定波長は216.596nmとしてSrの吸着試験を行った。標準試料はNaClを0.3%含有したCs:100ppm、50ppm及び10ppmの水溶液、並びにNaClを0.3%含有したSr:100ppm、10ppm及び1ppmの水溶液を使用した。
・XRF:蛍光X線装置(装置名:ZSX100e、管球:Rh(4kW)、雰囲気:真空、分析窓:Be(30μm)、測定モード:SQX分析(EZスキャン)、測定径:30mmφ、(株)リガク製)で全元素測定した。測定用試料は、適当な容器(アルミリング等)に入れ、ダイスで挟みこんでからプレス機で10MPaの圧力をかけてペレット化することにより得た。
【0043】
<使用材料>
・3号ケイ酸ソーダ:日本化学工業株式会社製(SiO2:28.5%、Na2O:9.2%、H2O:62.3%、SiO2/Na2O=3.1)。
・25%液体苛性ソーダ:工業用25%水酸化ナトリウム(NaOH:25%、H2O:75%)。
・四塩化チタン水溶液:株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ社製36.48%水溶液
・85%苛性カリ:固体試薬 水酸化カリウム(KOH:85%)
・ケイ酸カリ:日本化学工業株式会社製(SiO:26.5%、KO:13.5%、HO:60.0%
・模擬海水1:Sr及びCsをそれぞれ100ppm含有した0.3%NaCl水溶液を模擬海水とした。模擬海水は、NaCl(99.5%):3.0151g、SrCl・6HO(99%):0.3074g、CsNO(99%):0.1481g、HO:996.5294gを混合して得た。
・模擬海水2:人工海水(富田製薬製「マリンアート」1kgをイオン交換水25Lに溶解したもの)を1/20に希釈し、Srを3ppm、Csを10ppm含有した水溶液を模擬海水とした。
【0044】
〔比較例1〕
(1)第一工程
ケイ酸カリ64.5g、85%苛性カリ126.7g及びイオン交換水210.2gを混合し撹拌して混合水溶液を得た。この混合水溶液に、四塩化チタン水溶液203.3gをペリスタポンプで30分にわたって連続的に添加して混合ゲルを製造した。当該混合ゲルは、四塩化チタン水溶液の添加後、1時間にわたり70℃で混合して熟成した。
【0045】
(2)第二工程
第一工程で得られた混合ゲルをオートクレーブに入れ、1.5時間かけて170℃に昇温したのち、この温度を維持しながら静置下に72時間反応を行った。反応後のスラリーをろ過し、得られたケーキを直径0.6μmの円形の開孔部材で押出成形した後、乾燥し、分級して粒度が300μm以上600μm以下の粒状物を得た。
【0046】
〔実施例1〕
比較例1で得られた粒状物を、0.1mol/Lクエン酸水溶液に分散させ、これを50℃で2時間撹拌した。スラリー中の粒状物の濃度は5.0%とした。クエン酸処理終了後、粒状物をイオン交換水で置換洗浄したのち、1.0mol/L苛性カリ水溶液に分散させ、常温(25℃)で1時間撹拌した。スラリー中の粒状物の濃度は5.0%とした。終了後に粒状物をイオン交換水で置換洗浄したのち、ろ過し、110℃で3時間乾燥後、フルイで分級して粒度が300μm以上600μm以下の粒状物を得た。
【0047】
〔比較例2〕
比較例1で得られた粒状物を、クエン酸水溶液の代わりに、イオン交換水に分散させた以外は、実施例1と同様にして粒状物を得た。
【0048】
〔比較例3〕
(1)第一工程
3号ケイ酸ソーダ60g、苛性ソーダ水溶液224.3g、85%苛性カリ34.6g及びイオン交換水82.5gを混合し撹拌して混合水溶液を得た。この混合水溶液に、四塩化チタン水溶液203.3gをペリスタポンプで0.5時間にわたって連続的に添加して混合ゲルを製造した。当該混合ゲルは、四塩化チタン水溶液の添加後、1時間にわたり室温(25℃)で静置熟成した。
【0049】
(2)第二工程
第一工程で得られた混合ゲルをオートクレーブに入れ、1時間かけて170℃に昇温したのち、この温度を維持しながら撹拌下に96時間反応を行った。反応後のスラリーをろ過し、得られたケーキを直径0.6μmの円形の開孔部材で押出成形した後、乾燥し、分級して粒度が300μm以上600μm以下の粒状物を得た。
【0050】
〔実施例2〕
比較例3で得られた粒状物を、0.1mol/Lクエン酸水溶液に分散させ、これを50℃で1時間撹拌した。スラリー中の粒状物の濃度は5%とした。クエン酸処理終了後、粒状物をイオン交換水で置換洗浄したのち、1mol/L苛性ソーダ水溶液に分散させ、常温(25℃)で1時間撹拌した。スラリー中の粒状物の濃度は5%とした。終了後に粒状物をイオン交換水で置換洗浄したのち、ろ過し、110℃で3時間乾燥後、フルイで分級して粒度が300μm以上600μm以下の粒状物を得た。
【0051】
比較例1〜3、実施例1及び2で得られた粒状物を以下(1)〜(3)の評価に供した。
〔評価〕
(1)X線回折測定を行った。比較例1及び3、並びに実施例1及び2の粒状物より得られたX線回折チャートをそれぞれ、図1及び図2に示す。
【0052】
(2)組成分析
比較例1〜3、実施例1及び2の粒状物中のKO、NaO、SiO及びTiOの含有量(質量%)を上記条件のXRFにて、半定量分析法であるSQX法で計算することで算出した。この算出したKO、NaO、SiO及びTiOの含有量をもとに、SiO/TiO及びAO/SiOを求めた。結果を表1に示す。
(3)上記(1)のX線回折チャート及び上記の(2)の組成分析から判断される組成を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
比較例1〜3、実施例1及び2で得られた粒状物を以下の<Cs及びSrバッチ吸着試験>に供した。
<Cs及びSrバッチ吸着試験>
粒状物を、100mlのポリ容器に0.5g取り、上記模擬海水1(100.00g)を添加し、蓋をした後、内容物を振り混ぜた。内容物の振り混ぜは、ポリ容器の倒立を10回行うことにより行った。その後、静置して24時間経過した後、再び内容物を振り混ぜ、5Cのろ紙でろ過し、ろ過によって得られたろ液を採取した。
。採取されたろ液を対象として、ICP−AESを用い、ろ液中のCs及びSrの含有量を測定した。その結果を以下の表2に示す。
【0055】
【表2】
【0056】
また比較例1〜3、実施例1〜2で得られた粒状物を以下の<Srカラム吸着試験>に供した。
<Srカラム吸着試験>
カラムとして内径φ12mmのものを用いた。このカラムに高さが4.5cm(容積5ml)となるように、吸着剤試料を充填した。カラムに、上記模擬海水2を通液した。通液流量は、16.7(ml/min)、LV=8.9(m/h)、SV=200(1/h)とした。定期的にサンプリングした試験液におけるストロンチウム濃度をICP−AESにて測定し、初期ストロンチウム濃度Coに対する通液後ストロンチウム濃度Cの比率(Co/C)を求めた。縦軸にC/Coで表される数値を示し、横軸に前記の容量5mlに対する模擬海水の総通液容量(B.V.)を示したものを図3及び図4に示す。
【0057】
表2に示すように、Sr及びCsを高濃度で含有する模擬海水1を用いて行ったバッチ試験では、各実施例で得られたGTSは比較例のGTSと同程度のレベルでSr及びCsを吸着できることが判る。一方、Srが低濃度の模擬海水2を用いて行ったカラム試験では、図3及び図4に示すように、GTSを含有し且つTi溶出量が特定量以下の実施例1及び2の吸着剤は、溶出量が特定量超の比較例1〜3の吸着剤に比べ、低濃度におけるストロンチウム吸着能が大幅に高いことが判る。
図1
図2
図3
図4