(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂であって、炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量が、前記エステル交換油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して18質量%未満である前記エステル交換油脂を、全油脂の質量に対して60〜96質量%含有し、
飽和脂肪酸の含有量が、全油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して63〜75質量%であるロングライフ層状食品用油脂組成物。
トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して18〜34質量%である請求項1または2に記載のロングライフ層状食品用油脂組成物。
【背景技術】
【0002】
従来、パイ、クロワッサン、デニッシュなどの層状食品の多くは、賞味期限が2〜5日程度であった。しかし近年では、消費しながら必要量を買い足して家庭内に備蓄する常備食、災害時の非常食、あるいは残業食、おやつ、夜食などの買い置きに、あると便利で、備えて安心、かつおいしさが長持ちするサイクル保存の需要が増えてきている。このような需要に対応するものとして、賞味期限が通常品よりも長く、例えば30日以上、さらには60日以上に設定された層状食品が、ロングライフ製品として市場に供給されてきている。
【0003】
このようなロングライフの層状食品においては、油脂の酸化安定性に優れ、風味やフレーバーリリースが長持ちすることが求められる。特に、層状食品の経時的な風味の劣化は、層状食品用可塑性油脂の劣化臭の影響を大きく受けるため、油脂の酸化安定性が良くないと長期保存により経時で油脂の劣化臭が生じて風味が劣化し、フレーバーリリースも悪くなるため、長期保存は可能とならない。
【0004】
また、このようなロングライフ製品は、大量生産ラインで製造される。一般的に、層状食品のロールイン工程では、例えば、層状食品用可塑性油脂を生地で包み込み、リバースシートで折り畳み、展延する。このとき、生地の硬さと層状食品用可塑性油脂の硬さを調整し、層状食品用可塑性油脂をきれいに層状に折り込むため、フリーザーでリタードをとるなどの方法で生地を低温処理し、ロールイン工程や成形作業は20℃未満に調温された作業環境下で行うことが多い。しかし、1日に大量の層状食品を製造する大量生産ラインにおいては、これらのロールイン工程を自動的に行う装置が開発されている。この装置は、層状食品用可塑性油脂を連続的なシート生地上に押し出すか、生地と層状食品用可塑性油脂を同時に押し出したものを、種々の機械的操作によって所定の数の層状構造に仕上げることができる。この工程において、ロールイン工程や成形作業は常温域(20〜25℃)の作業環境下で行われることが多い。ところが、常温域での作業では、ロールイン時の生地温度が高くなり、層状食品用可塑性油脂の硬さが失われることから、ロールイン工程において層状食品用可塑性油脂が生地に練り込まれたり、ローラーに生地が付着したりして機械耐性が低下しやすくなる。さらに、その後の生地の成形作業時においても、常温域が主となる場合、層状食品用可塑性油脂に起因して生地のベタツキが生じ、作業性が悪くなりやすい。リバースシートおよび自動化作業の何れに関しても、適切な品質の製品を製造するためには層状食品用可塑性油脂の選択が極めて重要である。
【0005】
ロングライフ製品の層状食品に関する従来技術として、特許文献1には、15℃で液状を呈する油脂を含んだ油脂を配合し、かつ日持ち向上剤として茶抽出物およびトコフェロールを配合したロールイン用可塑性油脂を使用することが提案されている。実施例では保存に際し鮮度保持剤であるアルコール製剤と共に透明な袋に入れ30℃の条件下で長期保存(最長60日)しているが、油脂配合のみならず日持ち向上剤を併用しなければロングライフは可能とならない。また実施例における油脂配合では硬化油を使用しているが、硬化油に含まれるトランス脂肪酸は動脈硬化症のリスクを増加させるとも言われており、健康への影響が懸念される点を考慮し、近年では、原料油脂にはトランス脂肪酸量が少ないことが望まれている。
【0006】
特許文献2には、パネトーネ種を用いたパン生地製発泡層に、油脂を配合していない風味原料を調合した風味原料添加層を積層したロングライフの層状食品が提案されている。この技術は、発酵種を配合し生地のpHを下げることにより製品の菌的な日持ち向上を図ったものであるが、可塑性油脂を生地に折り込む本来の層状食品においては、油脂の酸化安定性、風味が製品の日持ちに影響を与えるため、可塑性油脂を配合している層状食品の日持ち向上にはならない。
【0007】
従来、マーガリンやショートニングなどの食用油脂には部分水素添加した硬化油が多く使用されてきた。しかし、上記のように硬化油に含まれるトランス脂肪酸の点から、近年では、原料油脂にはトランス脂肪酸量が少ないことが望まれている。そのような中で、層状食品用可塑性油脂においてもトランス脂肪酸量の少ない油脂配合が検討されてきており、例えば、エステル交換油脂を使用してトリグリセリド組成や脂肪酸組成を調整することが行われている。
【0008】
例えば、特許文献3には、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸、炭素数12以下の飽和脂肪酸、炭素数14〜18の飽和脂肪酸を特定範囲とした、トランス脂肪酸量が3質量%以下であるランダムエステル交換した可塑性油脂が提案されている。トランス脂肪酸量を低減しても従来品と同等の品質を得ることを目的としたものであるが、飽和脂肪酸量の多い可塑性油脂を配合しているため、口溶けが悪くなる。さらに炭素数12以下の飽和脂肪酸量も多く配合されているため、ロールイン工程や成形作業時における常温域(20〜25℃)での作業性や、製品のフレーバーリリースが悪くなる。また、液状油が多く配合されているため、常温での長期保存はできない。
【0009】
特許文献4には、全油脂中のトリグリセリド組成を特定範囲とし、エステル交換油脂を配合することで、歯切れの良い食感を経日的に維持し、口溶けの良い層状食品を製造することが提案されている。しかし、実施例においては3日後の歯切れ、1日後の口溶けが評価されているものの、ロングライフ製品に要求されるような長期間での風味やフレーバーリリースについては評価されていない。
【0010】
本出願人は、ラウリン系油脂とパーム系油脂とのエステル交換油脂について検討を行ってきた(特許文献5〜8)。これらの技術においては、製造から使用までに際しては、高温や経時による、2不飽和トリグリセリド、3不飽和トリグリセリドなどの低融点トリグリセリドである液状油の染みだしが少ないこと、長期保存しても硬さ変化が少ないことや、高温や経時によって形状が崩れにくい保型性などを改良することに着目して検討を行ってきた。しかし、ロングライフ製品に要求されるような長期間での評価、特にこのような長期間での風味やフレーバーリリースについては評価されていない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量を特定範囲としたラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換油脂(a)を使用し、このエステル交換油脂(a)を特定範囲の量で配合し、かつ全油脂の飽和脂肪酸の含有量を特定範囲としたことを特徴としている。
【0019】
本発明において「ロングライフ」とは、市場に供給される製品に賞味期限として例えば60日以上、さらには180日以上の表示がされることを意味する。
【0020】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)を用いた可塑性油脂(B)は、風味やフレーバーリリースが長持ちし、経時での保存安定性に優れている。すなわち、製品化後の常温域(20〜25℃)での油脂の酸化安定性が良好で、可塑性油脂(B)を用いたロングライフ層状食品の長期保存に際してエージレス等の脱酸素剤も通常は不要であり、常温域でのロングライフに対応できる。可塑性油脂(B)を用いたロングライフ層状食品は、長期保存により経時で油脂の劣化臭が生じて風味が劣化することがなく、可塑性油脂(B)によるフレーバーリリースはロングライフ製品の賞味期限まで良好である。
【0021】
また、このようなロングライフ製品は、層状食品のロールイン工程やその後の成形作業が常温域(20〜25℃)の作業環境下で行われるが、本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)を用いた可塑性油脂(B)は、硬質でベタツキの少ないものであり、リバースシートによるロールイン工程やロールイン工程を自動的に行う装置において層状食品用の可塑性油脂(B)が生地に練り込まれたり、ローラーに生地が付着したりして機械耐性が低下することを抑制できる。さらに、その後の生地の成形作業時において、常温域が主となる作業であっても、層状食品用の可塑性油脂(B)に起因して生地のベタツキが生じることがなく、作業性が良好である。
【0022】
1.油脂
本発明において、飽和脂肪酸(以下、Sとも表記する。)は、油脂中に含まれるすべての飽和脂肪酸である。飽和脂肪酸Sとしては、特に限定されないが、例えば、酪酸(4)、カプロン酸(6)、カプリル酸(8)、カプリン酸(10)、ラウリン酸(12)、ミリスチン酸(14)、パルミチン酸(16)、ステアリン酸(18)、アラキジン酸(20)、ベヘン酸(22)、リグノセリン酸(24)などが挙げられる。なお、上記の数値表記は、脂肪酸の炭素数である。
【0023】
本発明において、不飽和脂肪酸(以下、Uとも表記する。)は、油脂中に含まれるすべての不飽和脂肪酸である。また、各トリグリセリド分子に結合している2つまたは3つの不飽和脂肪酸Uは、同一の不飽和脂肪酸であってもよいし、異なる不飽和脂肪酸であってもよい。不飽和脂肪酸Uとしては、特に限定されないが、例えば、ミリストレイン酸(14:1)、パルミトレイン酸(16:1)、ヒラゴン酸(16:3)、オレイン酸(18:1)、リノール酸(18:2)、リノレン酸(18:3)、エイコセン酸(20:1)、エルカ酸(22:1)、セラコレイン酸(24:1)などが挙げられる。なお、上記不飽和脂肪酸についての括弧内の数値表記は、左側が脂肪酸の炭素数であり、右側が二重結合数を意味する。
【0024】
本発明において、油脂中のトリグリセリドとは、1分子のグリセロールに3分子の脂肪酸がエステル結合した構造を有するものである。トリグリセリドの1位、2位、3位とは、脂肪酸が結合した位置を表す。
【0025】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)および可塑性油脂(B)に使用される油脂は、飽和脂肪酸Sを含む。
【0026】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)および可塑性油脂(B)に使用される油脂は、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを含んでもよく、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がオレイン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SOS型トリグリセリド、SOU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、UOU型トリグリセリドなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、「O」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるオレイン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14〜18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sと不飽和脂肪酸Uである場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4〜24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14〜18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0027】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)および可塑性油脂(B)に使用される油脂は、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドを含んでもよく、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1、3位の構成脂肪酸は、飽和脂肪酸Sまたは不飽和脂肪酸Uのいずれであってもよい。2位がラウリン酸であるトリグリセリドとしては、例えば、SLS型トリグリセリド、SLU型トリグリセリド(位置異性体も含む)、ULU型トリグリセリドなどが挙げられるが、特に限定されない。なお、「L」とは、トリグリセリドの構成脂肪酸であるラウリン酸を意味する。本発明の効果を得る点から、2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sである場合、炭素数4〜24の飽和脂肪酸であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が不飽和脂肪酸Uである場合、炭素数14〜18の不飽和脂肪酸(ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等)であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドの1位または3位の構成脂肪酸が飽和脂肪酸Sと不飽和脂肪酸Uである場合、上述の飽和脂肪酸(炭素数4〜24の飽和脂肪酸)と不飽和脂肪酸(炭素数14〜18の不飽和脂肪酸)であることが好ましい。
【0028】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)および可塑性油脂(B)に使用される油脂は、1位、2位、3位のすべてに飽和脂肪酸Sが結合した3飽和トリグリセリド(SSS)を含んでいてもよく、1分子のグリセロールに2分子の飽和脂肪酸Sと1分子の不飽和脂肪酸Uが結合した2飽和トリグリセリドとして、1位および3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ2位に不飽和脂肪酸Uが結合した対称型トリグリセリド(SUS)を含んでいてもよく、1位と2位、または2位と3位に飽和脂肪酸Sが結合し、かつ3位または1位に不飽和脂肪酸Uが結合した非対称型トリグリセリド(SSU、USS)を含んでいてもよい。また、1分子のグリセロールに2分子の不飽和脂肪酸Uと1分子の飽和脂肪酸Sが結合した2不飽和トリグリセリド(SUU、UUS、USU))を含んでいてもよく、1位、2位、3位のすべてに不飽和脂肪酸Uが結合した3不飽和トリグリセリド(UUU)を含んでいてもよい。
【0029】
2.ロングライフ層状食品用油脂組成物(A)
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換油脂(a)を含有する。
【0030】
エステル交換油脂(a)の原料であるラウリン系油脂(a1)は、全構成脂肪酸中のラウリン酸含有量が30質量%以上の油脂であり、例えば、パーム核油、ヤシ油、これらの分別油、硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらのラウリン系油脂(a1)のうち、ヤシ油に比べて融点が高く、高融点のエステル交換油脂(a)を容易に得ることができる点を考慮すると、パーム核油、その分別油や硬化油が好ましい。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0031】
ラウリン系油脂(a1)は、ヨウ素価が2以下の油脂を含有することが好ましい。ヨウ素価が2以下の油脂を用いると、トランス脂肪酸の生成の虞が少なく、エステル交換油脂(a)を他の油脂と混合する際に結晶核となり、固化し易くかつ口溶けの良い油脂組成物となる。ヨウ素価が2以下の油脂としては、極度硬化油が挙げられる。
【0032】
エステル交換油脂(a)の原料であるパーム系油脂(a2)は、全構成脂肪酸中の炭素数16以上の脂肪酸含有量が35質量%以上である。パーム系油脂(a2)としては、パーム油、パーム分別油やこれらの硬化油などが挙げられ、これらは1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよい。パーム分別油としては、硬質部、軟質部、中融点部などを用いることができる。硬化油の場合、水素添加量によってトランス脂肪酸の含有量が増加する虞があるため、硬化油を用いる場合には微水素添加したものか、低温硬化したもの、または完全水素添加した極度硬化油が好ましく、特に極度硬化油が好ましい。
【0033】
パーム系油脂(a2)は、ヨウ素価が50〜60の油脂を含有することが好ましい。ヨウ素価が50〜60の油脂を用いることで、含有する飽和脂肪酸量から結晶性に優れ、また不飽和脂肪酸を含む点からフレーバーリリースと可塑性に優れた油脂の作製が可能となる。またパーム系油脂(a2)は、極度硬化油を含有することが好ましい。パーム系油脂(a2)に極度硬化油が含有されていると、エステル交換油脂(a)の融点を高めることができ、結晶性が良好になる。
【0034】
エステル交換油脂(a)において、ラウリン系油脂(a1)と、パーム系油脂(a2)とのエステル交換反応には、エステル交換触媒として化学触媒や酵素触媒が用いられる。化学触媒としてはナトリウムメチラートや水酸化ナトリウム等が用いられ、酵素触媒としてはリパーゼ等が用いられる。リパーゼとしてはアスペルギルス属、アルカリゲネス属等のリパーゼが挙げられ、イオン交換樹脂、ケイ藻土、セラミック等の担体上に固定し固定化したものを用いても、粉末の形態として用いても良い。また位置選択性のあるリパーゼ、位置選択性のないリパーゼのいずれも用いることができるが、位置選択性のないリパーゼを用いることが好ましい。エステル交換触媒として化学触媒や位置選択性のない酵素触媒を用いた場合、ラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が完了すると、構成脂肪酸として飽和脂肪酸(S)を2個、不飽和脂肪酸(U)を1個含む2飽和トリグリセリドのうち、対称型トリグリセリド(SUS)と非対称型トリグリセリド(SSU)とのエステル交換油脂(a)中における質量比(SUS/SSU)が0.45〜0.55の範囲内となる。
【0035】
エステル交換反応に化学触媒を用いる場合、触媒を油脂質量の0.05〜0.15質量%添加し、減圧下で80〜120℃に加熱し、0.5〜1.0時間攪拌することでラウリン系油脂(a1)とパーム系油脂(a2)とのエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。また酵素触媒を用いる場合、リパーゼ等の酵素触媒を油脂質量の0.01〜10質量%添加し、40〜80℃でエステル交換反応を行うことによりエステル交換反応が平衡状態となって完了し、エステル交換油脂(a)を得ることができる。エステル交換反応はカラムによる連続反応、バッチ反応のいずれの方法で行うこともできる。エステル交換反応後、必要に応じて脱色、脱臭等の精製を行うことができる。
【0036】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、エステル交換油脂(a)は、炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量が、前記エステル交換油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して18質量%未満である。炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量がこの範囲内であると、油脂の酸化安定性に優れ、長期保存後も油脂の劣化臭が生じずフレーバーリリースが持続してロングライフを可能とし、常温域(20〜25℃)の作業環境下でのロールイン工程においても作業性が良好で、成形作業時にも生地のベタツキが少ない。
【0037】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、エステル交換油脂(a)を、全油脂の質量に対して60〜96質量%含有し、好ましくは65〜96質量%含有し、より好ましくは75〜96質量%含有する。エステル交換油脂(a)の含有量が60質量%以上であると、特に油脂の劣化臭を抑制でき、かつ成形作業時には生地のベタツキが少ない。エステル交換油脂(a)の含有量が96質量%以下であると、特にフレーバーリリースが良好で、かつ常温域(20〜25℃)の作業環境下でのロールイン工程においても作業性が良好である。
【0038】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、エステル交換油脂(a)は、ヨウ素価が15〜45であることが好ましい。ヨウ素価がこの範囲内であると、他の油脂との相溶性がよく、長期保存後も油脂の劣化臭が生じずフレーバーリリースが持続してロングライフを可能とし、常温域(20〜25℃)の作業環境下でのロールイン工程においても作業性が良好で、成形作業時にも生地のベタツキが少ない。
【0039】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)の製造に用いられる、エステル交換油脂(a)以外の油脂としては、特に限定されるものではないが、パーム油、パーム核油、ヤシ油、菜種油、大豆油、綿実油、ヒマワリ油、米油、サフラワー油、オリーブ油、ゴマ油、シア脂、サル脂、マンゴー油、イリッペ脂、カカオ脂、豚脂(ラード)、牛脂、乳脂、それらの分別油またはそれらの脱臭油、加工油(硬化およびエステル交換反応のうち1つ以上の処理がなされたもの)などが挙げられる。飽和脂肪酸の含有量およびトリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸やオレイン酸の含有量などを適宜調整するために、これらの油脂は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、飽和脂肪酸の含有量は、全油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して63〜75質量%である。飽和脂肪酸の含有量が63質量%以上であると、特に油脂の劣化臭を抑制でき、かつ成形作業時には生地のベタツキが少ない。飽和脂肪酸の含有量が75質量%以下であると、特にフレーバーリリースが良好で、かつ常温域(20〜25℃)の作業環境下でのロールイン工程においても作業性が良好である。
【0041】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、炭素数20以上の脂肪酸の含有量は、全油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して3質量%以下であることが好ましい。したがって、エルカ酸を多く含む菜種油や魚油などの硬化油を多量に含有せず、炭素数20以上の脂肪酸の含有量をこの範囲内とすることで、口溶けが良好である。
【0042】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、トリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量が、全油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して18〜34質量%であることが好ましい。2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドは、分子構造上歪を形成しており、回転運動する際に、分子構造の障害となりやすい状態となる。これにより油脂中の各トリグリセリドの分子同士が近付きにくくなることから、固化しにくい状態となる。このような特性を持つ2位に結合されたオレイン酸の含有量を上記範囲とすることが、本発明の効果を得る点から好適である。
【0043】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量は、油脂の2位構成脂肪酸全体の質量に対して3〜13質量%であることが好ましい。2位にラウリン酸が結合されたトリグリセリドは、ラウリン酸の分子量が小さいことに起因し、分子運動がおこりやすい。そのため固化後に油脂中で、分子同士が離れやすい状態となる。このような特性を持つ2位に結合されたラウリン酸の含有量を上記範囲とすることが、本発明の効果を得る点から好適である。
【0044】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)において、P2Oの含有量は、油脂のトリグリセリド全体の質量に対して5〜15質量%であることが好ましい。ここでP2Oは、PPOおよびPOPを示す。PPOは、1位と2位または2位と3位にパルミチン酸、3位または1位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを示し、POPは、1位と3位にパルミチン酸、2位にオレイン酸が結合されたトリグリセリドを示し、Pはパルミチン酸、Oはオレイン酸を示す。
【0045】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、油脂の構成脂肪酸としてトランス脂肪酸を含んでもよく、含まなくてもよいが、トランス脂肪酸の摂取量が多くなると、血液中におけるLDLコレステロール量が増加しうる。よって、これを抑制しやすい点から、本発明においては、油脂の構成脂肪酸中のトランス脂肪酸の含有量は、油脂の構成脂肪酸全体の質量に対して10質量%未満であることが好ましく、5質量%未満であることがより好ましく、3質量%未満であることが最も好ましい。
【0046】
本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)は、トランス脂肪酸の含有量を上記の範囲とするために、部分硬化油を含有しないことが好ましい。
【0047】
3.可塑性油脂(B)
本発明の可塑性油脂(B)は、以上に説明した本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)を油相中に含有する。
【0048】
本発明の可塑性油脂(B)は、水相を実質的に含有しない形態と、水相を含有する形態をとることができる。水相を含有する形態としては油中水型、水中油型、油中水中油型、水中油中水型が挙げられ、油相の含有量は、好ましくは60〜99.4質量%、より好ましくは65〜98質量%であり、水相の含有量は、好ましくは0.6〜40質量%、より好ましくは2〜35質量%である。水相を含有する形態としては油中水型が好ましく、例えばマーガリンが挙げられる。
【0049】
また水相を実質的に含有しない形態としてはショートニングが挙げられる。ここで「実質的に含有しない」とは日本農林規格のショートニングに該当する、水分(揮発分を含む。)の含有量が0.5質量%以下のことである。
【0050】
本発明の可塑性油脂(B)には、水以外に、従来の公知の成分を含んでもよい。公知の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、乳、乳製品、蛋白質、糖質、塩類、酸味料、pH調整剤、抗酸化剤、香辛料、増粘剤、着色成分、フレーバー、乳化剤、酒類、酵素、粉末油脂などが挙げられる。乳としては、牛乳などが挙げられる。乳製品としては、脱脂乳、生クリーム、チーズ(ナチュラルチーズ、プロセスチーズなど)、発酵乳、濃縮乳、脱脂濃縮乳、無糖れん乳、加糖れん乳、無糖脱脂れん乳、加糖脱脂れん乳、全脂粉乳、脱脂粉乳、クリームパウダー、ホエイパウダー、蛋白濃縮ホエイパウダー、ホエイチーズ(WC)、ホエイ蛋白コンセントレート(WPC)、ホエイ蛋白アイソレート(WPI)、バターミルクパウダー、トータルミルクプロテイン、カゼインナトリウム、カゼインカリウムなどが挙げられる。蛋白質としては、大豆蛋白、エンドウ豆蛋白、小麦蛋白などの植物蛋白などが挙げられる。糖質としては、単糖(グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノースなど)、二糖類(ラクトース、スクロース、マルトース、トレハロースなど)、オリゴ糖、糖アルコール、ステビア、アスパルテームなどの甘味料、デンプン、デンプン分解物、多糖類などが挙げられる、抗酸化剤としては、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸誘導体、トコフェロール、トコトリエノール、リグナン、ユビキノン類、キサンチン類、オリザノール、植物ステロール、カテキン類、ポリフェノール類、茶抽出物などが挙げられる。香辛料としては、カプサイシン、アネトール、オイゲノール、シネオール、ジンゲロンなどが挙げられる。増粘剤としては、カラギナン、キサンタンガム、グァガム、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などが挙げられる。着色成分としては、カロテン、アナトー、アスタキサンチンなどが挙げられる。フレーバーとしては、バターフレーバー、ミルクフレーバーなどが挙げられる。乳化剤としては、レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0051】
本発明の可塑性油脂(B)は、公知の方法により製造することができる。例えば水相を含有する形態のものは、本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)を含む油相と水相とを適宜に加熱し混合して乳化した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサスなどの冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。水相を含有しない形態のものは、本発明のロングライフ層状食品用油脂組成物(A)を含む油相を加熱した後、コンビネーター、パーフェクター、ボテーター、ネクサスなどの冷却混合機により急冷捏和し得ることができる。冷却混合機において、必要に応じて窒素ガスなどの不活性ガスを吹き込むこともできる。また急冷捏和後に熟成(テンパリング)してもよい。
【0052】
4.ロングライフ層状食品
本発明の可塑性油脂(B)は、パイ、クロワッサン、デニッシュなどの層状食品(焼成品)の生地に折り込んで使用することができる。例えば、生地の間に可塑性油脂(B)を包み込み、その後、折り畳みと圧延を繰り返すことによって生地中に可塑性油脂(B)を層状に折り込んで、生地と可塑性油脂(B)の薄い層を何層にも作り上げる。そして、この可塑性油脂(B)を含有する生地を焼成することによって、層状焼成品が得られる。この可塑性油脂(B)は、シート状、ブロック状、円柱状、直方体状、ペンシル状、チップ状などの様々な形状とすることができる。その中でも、加工が容易である点等から、シート状とすることが好ましい。可塑性油脂(B)をシート状とした場合のサイズは、特に限定されるものではないが、例えば、幅50〜1000mm、長さ50〜1000mm、厚さ1〜50mmとすることができる。
【0053】
生地への可塑性油脂(B)の折り込みや、生地の焼成は、例えば公知の条件および方法に従って行うことができる。例えば、大量生産ラインにおける層状食品のロールイン工程では、可塑性油脂(B)を生地で包み込み、リバースシートで折り畳み、展延する。あるいは、ロールイン工程を自動的に行う装置によって、可塑性油脂(B)を連続的なシート生地上に押し出すか、生地と可塑性油脂(B)を同時に押し出したものを、種々の機械的操作によって所定の数の層状構造に仕上げる。その後、所望の形状となるように成形し、焼成する。これらのロールイン工程やその後の成形作業は、主に常温域(20〜25℃)の作業環境下で行われるが、本発明の可塑性油脂(B)は、硬質でベタツキの少ないものであり、リバースシートによるロールイン工程やロールイン工程を自動的に行う装置において可塑性油脂(B)が生地に練り込まれたり、ローラーに生地が付着したりして機械耐性が低下することを抑制できる。さらに、その後の生地の成形作業時において、常温域が主となる作業であっても、可塑性油脂(B)に起因して生地のベタツキが生じることがなく、作業性が良好である。
【0054】
本発明の可塑性油脂(B)を用いた生地は、穀粉を主成分とし、穀粉としては、通常、焼成品の生地に配合されるものであれば、特に限定されるものではないが、例えば、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉などが挙げられる。
【0055】
生地には、穀粉と本発明の可塑性油脂(B)以外にも、通常、焼成品の生地に使用されるものであれば、特に制限なく配合することができる。また、これらの配合量も、通常、焼成品の生地に配合される範囲を考慮して特に制限なく適宜の量とすることができる。具体的には、例えば、水、乳、乳製品、蛋白質、糖質、卵、卵加工品、澱粉、塩類、乳化剤、乳化起泡剤(乳化油脂)、粉末油脂、イースト、イーストフード、カカオマス、ココアパウダー、チョコレート、コーヒー、紅茶、抹茶、野菜類、果物類、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、肉類、魚介類、豆類、きな粉、豆腐、豆乳、大豆蛋白、膨張剤、甘味料、調味料、香辛料、着色料、フレーバーなどが挙げられる。
【0056】
本発明の可塑性油脂(B)を折り込んだ生地を用いた焼成品であるロングライフ層状食品としては、例えば、発酵過程のないパイなどのペストリー、イーストなどを使用して生地を発酵させるデニッシュやクロワッサンなどが挙げられる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
(1)測定方法
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.3.4.1−2013ヨウ素価(ウィイス−シクロヘキサン法)」で測定した。
【0058】
エステル交換油脂における炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量、全油脂における飽和脂肪酸の含有量、全油脂における炭素数20以上の脂肪酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおりガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。
【0059】
全油脂におけるトリグリセリドの2位に結合されたオレイン酸の含有量、トリグリセリドの2位に結合されたラウリン酸の含有量は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定した。なお、これらの含有量は、上記試験法のとおり、リパーゼ溶液で処理後のモノアシルグリセリン画分をガスクロマトグラフィーで測定した全ピーク面積である油脂全量(油脂の2位構成脂肪酸全体の質量)を基準としている。
【0060】
全油脂におけるP2Oの含有量(PPOおよびPOPの合計量)は、ガスクロマトグラフ法(基準油脂分析試験法(公益社団法人日本油化学会)の「2.4.2.2−2013 脂肪酸組成(FID昇温ガスクロマトグラフ法)」と「奨2−2013 2位脂肪酸組成」)で測定し、脂肪酸量を用いて計算にて求めた。
【0061】
(2)エステル交換油脂の作製
(エステル交換油脂1)
パーム核極度硬化油25質量%、パーム油50質量%、パーム極度硬化油25質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂1を得た。
(エステル交換油脂2)
パーム核油15質量%、パーム核極度硬化油12.5質量%、パーム油67.5質量%、パーム極度硬化油5質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂2を得た。
(エステル交換油脂3)
パーム核油40質量%、パーム油60質量%を混合して110℃に加熱し、十分に脱水させた後、化学触媒としてナトリウムメチラートを油脂量の0.08質量%添加し、減圧下、100℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。エステル交換反応後、水洗して触媒を除去し、活性白土を用いて脱色し、さらに脱臭を行ってエステル交換油脂3を得た。
(エステル交換油脂4)
パーム分別軟質油(ヨウ素価56)を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂4を得た。
(エステル交換油脂5)
パーム油(ヨウ素価53)を原料として、エステル交換油脂1の製法に準じてエステル交換反応等を行い、エステル交換油脂5を得た。
【0062】
エステル交換油脂1〜5における、炭素数12以下の飽和脂肪酸の含有量とヨウ素価を表1に示す。
【0063】
【表1】
(3)可塑性油脂および焼成品の作製と評価
<可塑性油脂の作製>
表2に示す配合比の油脂を75℃で溶解、混合し、乳化剤を添加後、溶解させ、75℃に調温して85.7質量部の油相とした。一方、水に対し脱脂粉乳および食塩を添加し、85℃で加熱殺菌して水相を得た。次に、該油相に該水相を14.1質量部添加し、プロペラ攪拌機で撹拌して、油中水型に乳化した後、ミルクフレーバーを添加し、撹拌後、パーフェクターによって急冷捏和し、25cm×21cm×1cmのシート状に成型し、下記の配合割合の層状食品用マーガリンを可塑性油脂として得た。得られた層状食品用マーガリンは、5℃で保管した。なお、下記層状食品用マーガリンの配合は全体で100質量部である。
〈層状食品用マーガリンの配合〉
油脂 85.0質量部
乳化剤 0.7質量部
脱脂粉乳 1.0質量部
食塩 1.0質量部
ミルクフレーバー 0.2質量部
水 12.1質量部
【0064】
<層状食品用マーガリンを使用した焼成品の作製>
下記の配合および製造条件でリーフパイを作製した。
〈リーフパイの配合〉
強力粉 50質量部
薄力粉 50質量部
ショートニング 10質量部
(ミヨシショートニングZ:ミヨシ油脂製)
全卵(正味) 10質量部
食塩 1質量部
冷水(5℃) 40質量部
層状食品用マーガリン(20℃調温) 70質量部
【0065】
〈リーフパイ生地の作製条件〉
(1)ミキシング
層状食品用マーガリンを除く全材料をミキサーボールに仕込み
低速3分中高速6分
(2)捏ね上げた生地を丸めて5℃で2時間寝かせた。
(3)ロールイン
25℃の作業環境下で、(2)の生地で、あらかじめ20℃に調温しておいた層状食品用マーガリンを包み込み、リバースシートで3つ折り1回、4つ折り1回した。
その後、5℃にて60分寝かせた。
さらに25℃の作業環境下で3つ折り1回、4つ折り1回した。
その後、5℃にて60分寝かせた。
(4)成形
25℃の作業環境下で、
(4-1)リバースシートで生地を1.5ミリの厚さに伸ばした。
(4-2)リーフパイの抜き型で打ち抜き、天板に並べ、
5℃の冷蔵庫で2時間寝かせた。
(4-3)寝かせた生地の上面を木の葉模様になるように筋を入れた。
(5)焼成
180℃ 20分
(6)保管
焼成したリーフパイは20℃で2時間冷却後、透明なビニール袋に入れ25℃の条件下で暗所保存した。
【0066】
<評価>
[フレーバーリリース]
上記(5)の焼成後、上記(6)のとおり透明なビニール袋に入れ25℃の条件下で保存したリーフパイを60日後と180日後に試食し、パネルによりフレーバーリリースを以下の基準で評価した。
パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が良好であると評価した。
○:パネル10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:パネル10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:パネル10名中2名以下が良好であると評価した。
【0067】
[油脂の劣化臭]
上記(5)の焼成後、上記(6)のとおり透明なビニール袋に入れ25℃の条件下で保存したリーフパイを60日後と180日後に試食し、パネルにより油脂の劣化臭を以下の基準で評価した。
パネルは、五味(甘味、酸味、塩味、苦味、うま味)の識別テスト、味の濃度差識別テスト、食品の味の識別テスト、基準嗅覚テストを実施し、その各々のテストで適合と判断された20〜40代の男性4名、女性6名を選抜した。
評価基準
◎:パネル10名中8名以上が良好であると評価した。
○:パネル10名中7〜5名が良好であると評価した。
△:パネル10名中4〜3名が良好であると評価した。
×:パネル10名中2名以下が良好であると評価した。
【0068】
[付着性]
上記(3)のロールイン作業におけるローラーへの生地の付着防止に必要な手粉の使用量で付着性を以下の基準で評価した。
評価基準
◎:ロールイン作業トータルの手粉使用量は10g未満であった。
○:ロールイン作業トータルの手粉使用量は10g以上、20g未満であった。
△:ロールイン作業トータルの手粉使用量は20g以上、30g未満であった。
×:ロールイン作業トータルの手粉使用量は30g以上であった。
【0069】
[ベタツキ]
上記(4)の成形作業時における生地のベタツキを防止するのに必要な手粉の使用量でベタツキを以下の基準で評価した。
評価基準
◎:成型時のトータルの手粉使用量は10g未満であった。
○:成型時のトータルの手粉使用量は10g以上、20g未満であった。
△:成型時のトータルの手粉使用量は20g以上、30g未満であった。
×:成型時のトータルの手粉使用量は30g以上であった。
【0070】
上記の評価結果を表2に示す。また油脂配合と油脂組成も併せて表2に示した。
【0071】
【表2】