特許第6691454号(P6691454)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691454
(24)【登録日】2020年4月14日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】無段変速機用チェーン構造
(51)【国際特許分類】
   F16G 5/18 20060101AFI20200421BHJP
   F16H 9/24 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   F16G5/18 C
   F16H9/24
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-151417(P2016-151417)
(22)【出願日】2016年8月1日
(65)【公開番号】特開2018-21578(P2018-21578A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年5月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000936
【氏名又は名称】特許業務法人青海特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】右近 靖幸
【審査官】 山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−228702(JP,A)
【文献】 特開2006−077890(JP,A)
【文献】 特開2008−267579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16G 5/18
F16H 9/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先行のリンクプレートおよび後続のリンクプレートに挿通され、プーリのコーン面に対向する両端面の間に第1転動面および第2転動面が形成された第1ピンと、
前記コーン面に対向する両端面の間に、前記第1転動面に対向する第1対向面が形成された第2ピンと、
前記第2転動面に対向する第2対向面が形成された第3ピンと、
前記第1ピンまたは前記第2ピンに設けられ、前記第1転動面と前記第1対向面とが離隔すると、前記第3ピンを前記コーン面側に押し出す作動部と、
を備えた無段変速機用チェーン構造。
【請求項2】
前記作動部は、
前記第1ピンおよび前記第2ピンが対向する対向方向に突出するとともに、突出方向の基端から先端へ向けて、前記第3ピンが押し出される方向の幅が漸減する突起で構成される請求項1に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項3】
前記第2ピンは、前記第1対向面よりも前記第1ピンから離隔する方向に窪み、前記第3ピンが収容される収容部を備えた請求項2に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項4】
前記収容部は前記作動部を挟んで2つ形成され、前記第3ピンは該収容部ごとに設けられている請求項3に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項5】
前記第3ピンは、該第3ピンが押し出される方向に複数積層される前記リンクプレートのうち、もっとも外側に位置する該リンクプレートに対して、該押し出される方向に接触する抜け止め部を備えた請求項1〜4のいずれか1項に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項6】
前記第1ピンは、前記第2転動面を、前記第1転動面よりも前記プーリの回転中心側に位置させている請求項1〜5のいずれか1項に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項7】
前記第1ピンの端面および前記第2ピンの端面は、いずれも前記第3ピンの端面よりも面積が大きい請求項1〜6のいずれか1項に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項8】
前記第1ピンの端面および前記第2ピンの端面は面積が等しい請求項7に記載の無段変速機用チェーン構造。
【請求項9】
入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリとの間に張架され、該プライマリプーリと該セカンダリプーリとの間で動力を伝達する無段変速機用チェーン構造であって、
先行のリンクプレートおよび後続のリンクプレートに挿通され、挿通方向の両端面の間に第1転動面および第2転動面が形成された第1ピンと、
前記挿通方向の両端面の間に、前記第1転動面に対向する第1対向面が形成された第2ピンと、
前記第2転動面に対向する第2対向面が形成された第3ピンと、
前記第1ピンまたは前記第2ピンに設けられ、前記第2転動面と前記第2対向面とが近接すると、前記第3ピンを前記挿通方向に押し出す作動部と、
を備えた無段変速機用チェーン構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される無段変速機用チェーン構造に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速機では、例えば特許文献1に示されるように、プライマリプーリとセカンダリプーリとの間にチェーンベルトが巻き回されている。チェーンベルトは、複数のリンクプレートがロッカーピンによって無端状に連結されて構成される。ロッカーピンは、一対のピンで構成されており、双方のピンの転動面を対向させた状態で、先行のリンクプレートと後続のリンクプレートとに挿通されている。チェーンベルトは、ロッカーピンを構成する一対のピンの転動面を互いに転動させることで、形状の変化を実現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−208921号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
チェーンベルトがプーリから離脱する際に、ロッカーピンを特定の方向に強く弾き出す力が作用することがある。この場合、弾き出されたロッカーピンがチェーンベルトを振動させ、騒音が発生するという課題がある。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑み、騒音を低減することができる無段変速機用チェーン構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の無段変速機用チェーン構造は、先行のリンクプレートおよび後続のリンクプレートに挿通され、プーリのコーン面に対向する両端面の間に第1転動面および第2転動面が形成された第1ピンと、前記コーン面に対向する両端面の間に、前記第1転動面に対向する第1対向面が形成された第2ピンと、前記第2転動面に対向する第2対向面が形成された第3ピンと、前記第1ピンまたは前記第2ピンに設けられ、前記第1転動面と前記第1対向面とが離隔すると、前記第3ピンを前記コーン面側に押し出す作動部と、を備える。
【0007】
また、前記作動部は、前記第1ピンおよび前記第2ピンが対向する対向方向に突出するとともに、突出方向の基端から先端へ向けて、前記第3ピンが押し出される方向の幅が漸減する突起で構成されてもよい。
【0008】
また、前記第2ピンは、前記第1対向面よりも前記第1ピンから離隔する方向に窪み、前記第3ピンが収容される収容部を備えてもよい。
【0009】
また、前記収容部は前記作動部を挟んで2つ形成され、前記第3ピンは該収容部ごとに設けられてもよい。
【0010】
また、前記第3ピンは、該第3ピンが押し出される方向に複数積層される前記リンクプレートのうち、もっとも外側に位置する該リンクプレートに対して、該押し出される方向に接触する抜け止め部を備えてもよい。
【0011】
また、前記第1ピンは、前記第2転動面を、前記第1転動面よりも前記プーリの回転中心側に位置させてもよい。
【0012】
また、前記第1ピンの端面および前記第2ピンの端面は、いずれも前記第3ピンの端面よりも面積が大きくてもよい。
【0013】
また、前記第1ピンの端面および前記第2ピンの端面は面積が等しくてもよい。
【0014】
上記課題を解決するために、本発明の無段変速機用チェーン構造は、入力軸に設けられるプライマリプーリと、出力軸に設けられるセカンダリプーリとの間に張架され、該プライマリプーリと該セカンダリプーリとの間で動力を伝達する無段変速機用チェーン構造であって、先行のリンクプレートおよび後続のリンクプレートに挿通され、挿通方向の両端面の間に第1転動面および第2転動面が形成された第1ピンと、前記挿通方向の両端面の間に、前記第1転動面に対向する第1対向面が形成された第2ピンと、前記第2転動面に対向する第2対向面が形成された第3ピンと、前記第1ピンまたは前記第2ピンに設けられ、前記第2転動面と前記第2対向面とが近接すると、前記第3ピンを前記挿通方向に押し出す作動部と、を備える。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、騒音を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】無段変速機の基本構造を説明する図である。
図2】本実施形態のチェーンベルトを部分的に示す斜視図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】ロッカーピンおよびリンクプレートの側面図である。
図5】ロッカーピンを構成する第2ピンおよび第3ピンを概念的に示す斜視図である。
図6】比較例のロッカーピンの状態の遷移を説明する図である。
図7】本実施形態のロッカーピンの状態の遷移を説明する図である。
図8】本実施形態のロッカーピンの動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易にするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
図1は、無段変速機1の基本構造を説明する図である。無段変速機1は、入力側となるプライマリプーリ10と、出力側となるセカンダリプーリ20と、を備えている。プライマリプーリ10は、回転軸方向の移動が規制されている固定プーリ11と、固定プーリ11に対して回転軸方向に移動可能な可動プーリ12と、を備えている。固定プーリ11および可動プーリ12は、それぞれ円錐状のコーン面11a、12aを備えており、これらコーン面11a、12aを回転軸方向に対向させている。
【0019】
同様に、セカンダリプーリ20は、回転軸方向の移動が規制されている固定プーリ21と、固定プーリ21に対して回転軸方向に移動可能な可動プーリ22と、を備えている。固定プーリ21および可動プーリ22は、それぞれ円錐状のコーン面21a、22aを備えており、これらコーン面21a、22aを回転軸方向に対向させている。
【0020】
そして、プライマリプーリ10とセカンダリプーリ20とには、図中一点鎖線で示すチェーンベルト100が巻き回されている。チェーンベルト100は、プライマリプーリ10のコーン面11a、12aによって挟持されており、プライマリプーリ10が回転すると、コーン面11a、12aとの摩擦抵抗によってチェーンベルト100が回転する。また、チェーンベルト100は、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aにも挟持されており、チェーンベルト100が回転すると、摩擦抵抗によってコーン面21a、22a、すなわち、セカンダリプーリ20が回転することとなる。なお、以下では、プライマリプーリ10およびセカンダリプーリ20を総称して単にプーリと呼び、コーン面11a、12a、21a、22aを総称して単にコーン面と呼ぶ場合がある。
【0021】
図2は、本実施形態のチェーンベルト100を部分的に示す斜視図であり、図3は、図2の部分拡大図である。チェーンベルト100は、リンクプレート110とロッカーピン120とを備えて構成される。リンクプレート110は、貫通孔111が形成された金属製の薄板の部材で構成されている。貫通孔111は、チェーンベルト100の回転方向(図中矢印で示す)前方側に位置する前方孔部111aと、チェーンベルト100の回転方向(以下、単に「回転方向」という)後方側に位置する後方孔部111bと、これら前方孔部111aおよび後方孔部111bを繋ぐ中央孔部111cと、が形成されている。
【0022】
ロッカーピン120は、リンクプレート110の貫通孔111のうち、前方孔部111aと後方孔部111bとに挿通される。つまり、1つのリンクプレート110には、中央孔部111cを挟んで2つのロッカーピン120が挿通される。また、リンクプレート110は、ロッカーピン120の挿通方向に複数積層されており、一つのロッカーピン120は、複数のリンクプレート110を貫通している。
【0023】
ここで、共通のロッカーピン120が挿通される複数のリンクプレート110には、当該ロッカーピン120が前方孔部111aに挿通されるものと、後方孔部111bに挿通されるものとがある。以下では、共通のロッカーピン120が挿通される2つのリンクプレート110について、相対的に回転方向の前方側に位置するリンクプレート110を先行のリンクプレート110Aとし、相対的に回転方向の後方側に位置するリンクプレート110を後続のリンクプレート110Bとする。つまり、先行のリンクプレート110Aおよび後続のリンクプレート110Bの双方を貫通するロッカーピン120は、リンクプレート110Aにおいては後方孔部111bに挿通され、リンクプレート110Bにおいては前方孔部111aに挿通されることとなる。このように、チェーンベルト100は、先行のリンクプレート110Aと、後続のリンクプレート110Bとが、ロッカーピン120によって無端状に連結されて構成されている。
【0024】
図4は、ロッカーピン120およびリンクプレート110の側面図である。図4では、先行のリンクプレート110Aの前方孔部111aを貫通するロッカーピン120、および、後続のリンクプレート110Bの後方孔部111bを貫通するロッカーピン120を省略している。ロッカーピン120は、第1ピン130、第2ピン140、第3ピン150を備えている。
【0025】
第1ピン130は、第2ピン140および第3ピン150よりも回転方向(図中矢印で示す)後方側に設けられる。また、第1ピン130は、先行のリンクプレート110Aおよび後続のリンクプレート110Bに挿通され、両端面がプライマリプーリ10のコーン面11a、12a、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aに対向する(図1参照)。そして、第1ピン130には、両端面の間に第1転動面130aおよび第2転動面130bが形成されている。
【0026】
第1転動面130aおよび第2転動面130bは、いずれも回転方向前方側に臨んでいる。第2転動面130bは、第1転動面130aよりもプーリの回転中心側(図中下側)に位置している。また、第1転動面130aおよび第2転動面130bは連続する面であるが、頂点130cにおいて僅かな角度(頂点130cに近づくにしたがって第2ピン140および第3ピン150側に位置する角度)が設けられている。
【0027】
第2ピン140は、第1ピン130よりも回転方向前方側に設けられる。第2ピン140も、第1ピン130と同様、先行のリンクプレート110Aおよび後続のリンクプレート110Bに挿通され、両端面がプライマリプーリ10のコーン面11a、12a、セカンダリプーリ20のコーン面21a、22aに対向する。そして、第2ピン140には、両端面の間に、第1ピン130の第1転動面130aに対向する第1対向面140aが形成されている。
【0028】
図5は、ロッカーピン120を構成する第2ピン140および第3ピン150を概念的に示す斜視図である。第2ピン140は、第1ピン130の第1転動面130aに対向する第1対向面140aと、第1ピン130の第2転動面130bに対向する位置に設けられる収容壁面140bと、を備える。収容壁面140bは、第1対向面140aよりも第1ピン130から離隔している。また、第2ピン140には、リンクプレート110への挿通方向(以下、単に「挿通方向」という)の中央に位置する作動部141が設けられている。
【0029】
作動部141は、収容壁面140bから第1ピン130側に突出する突起で構成される。より具体的には、作動部141は、第1ピン130および第2ピン140が対向する対向方向に突出するとともに、突出方向の基端から先端へ向けて、挿通方向の幅が漸減する突起で構成されている。この突起からなる作動部141は、挿通方向の一方側および他方側に傾斜面141aを臨ませている。つまり、傾斜面141aは、収容壁面140bから挿通方向の中央側に向かって傾斜している。なお、作動部141の突出高さは、第1対向面140aと収容壁面140bとの間に形成される段差の範囲内である。
【0030】
そして、第2ピン140には、第1対向面140aと収容壁面140bとの間の段差によって収容部142が形成される。つまり、第2ピン140は、第1対向面140aよりも第1ピン130から離隔する方向に窪む収容部142を備える。上記したように、第2ピン140には、挿通方向の中央に作動部141が設けられていることから、収容部142は、作動部141を挟んで2つ形成されることとなる。これら収容部142には、第3ピン150がそれぞれ収容される。
【0031】
第3ピン150は、第2ピン140の収容部142ごとに設けられる。上記のとおり、収容部142は2つ形成されていることから、第3ピン150は2つ設けられることとなる。第3ピン150は、第1ピン130の第2転動面130bに対向する第2対向面150aを備える。また、第3ピン150は、挿通方向の一端側に押圧面150bが設けられ、挿通方向の他端側に伝達面150cが設けられている。押圧面150bは、作動部141の傾斜面141aに対して挿通方向に対向している。この押圧面150bは、収容壁面140bに対向する面から第2対向面150aに近づくにしたがって、挿通方向の中央側に位置するように傾斜している。つまり、押圧面150bは、傾斜面141aに対して平行となるように傾斜している。
【0032】
そして、2つの第3ピン150は、収容部142内において互いの押圧面150bが最も離隔した状態で、伝達面150cが第2ピン140の端面よりも挿通方向外側に突出する寸法関係を維持している。なお、詳しくは後述するが、第3ピン150は、第1ピン130と第2ピン140とが対向する対向方向に移動可能に収容部142に収容される。2つの第3ピン150が互いの押圧面150bを最も離隔させた状態では、収容部142内において、第3ピン150が最も収容壁面140b側に位置している。
【0033】
一方、2つの第3ピン150は、収容部142内において互いの押圧面150bを最も近接させた状態で、伝達面150cが第2ピン140の端面よりも挿通方向の内側に僅かに没入する寸法関係を維持している。2つの第3ピン150が互いの押圧面150bを最も近接させた状態では、収容部142内において、第3ピン150が最も第1ピン130(第2転動面130b)側に位置している。
【0034】
また、第3ピン150は、伝達面150cから挿通方向に一部が切り欠かれて形成される抜け止め部150dを備えている。この抜け止め部150dは、第3ピン150がリンクプレート110から挿通方向に脱落するのを防止する機能を担う。リンクプレート110は、挿通方向に複数積層されており、第3ピン150は、複数のリンクプレート110を貫通する。このとき、挿通方向の最も外側に位置するリンクプレート110の一部(図4に破線で示す部分)が、第3ピン150の抜け止め部150dに対向する。一方、挿通方向の最も外側に位置するリンクプレート110以外のリンクプレート110には、図4の破線で示す部分に切り欠きが形成されている。これにより、第3ピン150は、挿通方向に移動可能であるものの、その移動範囲が、挿通方向の最も外側に位置するリンクプレート110によって規制されることとなる。
【0035】
なお、抜け止め部150dと伝達面150cとの段差量は、伝達面150cと第2ピン140の端面とが面一の状態で、抜け止め部150dと、挿通方向の最も外側に位置するリンクプレート110との間に隙間が維持されるように設計されている。また、図4に示すように、第1ピン130の端面および第2ピン140の端面は面積が等しく、いずれも第3ピン150の端面(伝達面150c)よりも面積が大きい。
【0036】
次に、上記の構成からなるチェーンベルト100の作用について比較例を用いて説明する。図6は、比較例のロッカーピンRの状態の遷移を説明する図である。なお、図6(b)には、図6(a)の破線部分の囲み部分を拡大して示している。この比較例のロッカーピンRは、一般的なチェーンベルトCに用いられる従来公知の構成であり、チェーンベルトCの回転方向(図中白抜き矢印で示す)後方側に位置する後続ピンP1と、後続ピンP1よりもチェーンベルトCの回転方向前方側に位置する先行ピンP2と、を備える。なお、後続ピンP1は、本実施形態の第1ピン130と同一形状であり、第1転動面P1aおよび第2転動面P1bを備えている。そして、先行ピンP2は、後続ピンP1の第1転動面P1aに対向する第1対向面P2aと、後続ピンP1の第2転動面P1bに対向する第2対向面P2bと、を備えている。
【0037】
図6(a)に示すように、チェーンベルトCは、2つのプーリに巻き回されており、一方のプーリから他方のプーリへとトルクを伝達する。ロッカーピンRは、チェーンベルトCの回転に伴って、プーリ(一対のコーン面間)に進入したり、プーリ(一対のコーン面間)から離脱したりする。図6(b)に示すように、プーリへの進入側(図6(b)の左側)では、ロッカーピンRのうち、プーリの回転中心O側、すなわち、第2転動面P1bと第2対向面P2bとが離隔し、第1転動面P1aと第1対向面P2aとが近接している。そして、後続ピンP1および先行ピンP2は、プーリ(一対のコーン面間)から離脱するまでの間で、互いに転動して姿勢を変化させる。その結果、プーリからの離脱側(図6(b)の右側)では、ロッカーピンRのうち、プーリの回転中心O側、すなわち、第2転動面P1bと第2対向面P2bとが近接し、第1転動面P1aと第1対向面P2aとが離隔している。
【0038】
このプーリからの離脱側においては、後続ピンP1および先行ピンP2の両端面がコーン面に接触した状態から、非接触の状態に切り替わる。このとき、ロッカーピンRは、コーン面に対して、プーリの回転中心Oから径方向に離隔する方向(図中、右側の白抜き矢印a方向)、すなわち、チェーンベルトCの張力方向に移動する。しかしながら、先行ピンP2は、プーリから離脱する直前まで、両端面がコーン面に挟持されており、先行ピンP2に対して、プーリの回転方向(図中実線矢印で示す)に大きなトルクが作用している。
【0039】
つまり、プーリから離脱する際、先行ピンP2には、プーリに巻き付く方向のトルクと、プーリの径方向に引き剥がされるトルクとの双方が作用する。そして、プーリの径方向に引き剥がそうとするトルクが、プーリに巻き付く方向のトルク(先行ピンP2の両端面とコーン面との摩擦抵抗)を上回ったところで、先行ピンP2が、図中、右側の白抜き矢印b方向に一気に弾き出される。その結果、先行ピンP2がチェーンベルトCを振動させ、騒音が発生してしまう。本実施形態のロッカーピン120は、プーリからの離脱側における上記の振動および騒音を低減することができるが、そのメカニズムについて説明する。
【0040】
図7は、本実施形態のロッカーピン120の状態の遷移を説明する図であり、図8は、本実施形態のロッカーピン120の動作を説明する図である。チェーンベルト100は、プーリへの進入側(図7の左側)では、第1ピン130の第1転動面130aと、第2ピン140の第1対向面140aとが近接している。
【0041】
このように、第1ピン130の第1転動面130aと、第2ピン140の第1対向面140aとが近接した状態を図8(a1)に示し、図8(a1)のII線断面を図8(a2)に示す。第1転動面130aと第1対向面140aとが近接した状態では、第2転動面130bと収容壁面140bとが離隔する。つまり、第2転動面130bと収容壁面140bとの対向間隔が大きくなる。この状態では、第2ピン140に設けられた作動部141の突出方向先端部が、第1ピン130の第2転動面130bから離隔している。また、このとき、第3ピン150は、伝達面150cが第2ピン140の端面と面一であるか、もしくは、第2ピン140の端面よりも内側に位置している。
【0042】
一方、図7に示すように、プーリからの離脱側(図7の右側)では、第1ピン130の第1転動面130aと、第2ピン140の第1対向面140aとが離隔する。このように、第1転動面130aと第1対向面140aとが離隔した状態を図8(b1)に示し、図8(b1)のII線断面を図8(b2)に示す。第1転動面130aと第1対向面140aとが離隔した状態では、第2転動面130bと収容壁面140bとが近接する。つまり、第2転動面130bと収容壁面140bとの対向間隔が小さくなる。
【0043】
このように、第2転動面130bと収容壁面140bとの対向間隔が小さくなると、第3ピン150の押圧面150bが、作動部141の傾斜面141aによって押圧される。作動部141は、第1ピン130および第2ピン140が対向する対向方向に突出するとともに、突出方向の基端から先端へ向けて、第3ピン150が押し出される方向の幅が漸減する突起で構成されている。そのため、図8(a2)に示す状態から、図8(b2)に示す状態まで、第2転動面130bと収容壁面140bとが対向方向に近接すると、伝達面150cが、第1ピン130および第2ピン140の両端面よりも突出する。
【0044】
ただし、第3ピン150は、この第3ピン150が押し出される方向に複数積層されるリンクプレート110のうち、もっとも外側に位置するリンクプレート110に対して、抜け止め部150dが接触する。そのため、第3ピン150は、作動部141によって押し出されたとしても、リンクプレート110から脱落することはない。
【0045】
また、第3ピン150がコーン面間に位置している状態では、伝達面150cがコーン面に当接する。そのため、プーリからの離脱側では、伝達面150cは、第1ピン130および第2ピン140の両端面と面一となる。つまり、プーリからの離脱側において、第1転動面130aと第1対向面140aとが離隔すると、第3ピン150は、作動部141によってコーン面側に押し出される。この状態では、プーリとチェーンベルト100とのトルク伝達に第3ピン150も寄与することとなる。
【0046】
上記の比較例を用いて説明したように、プーリからの離脱側では、第2ピン140に対して、プーリに巻き付く方向のトルクが作用する。このとき、第2ピン140の両端面の面積が、比較例の先行ピンP2の両端面の面積と同じだとする。本実施形態では、第3ピン150の伝達面150cがトルク伝達に寄与しているため、プーリに巻き付く方向のトルク、すなわち、第2ピン140の両端面とコーン面との間に生じる摩擦抵抗は、第2ピン140の方が、比較例の先行ピンP2よりも小さくなる。
【0047】
その結果、プーリからの離脱側において、第2ピン140がチェーンベルト100の張力方向に抜けやすくなる。換言すれば、チェーンベルト100によって第2ピン140を張力方向に引き剥がそうとする力が過大となる前に、第2ピン140がプーリから抜け出ることになる。これにより、プーリからの離脱側において、第2ピン140によってもたらされるチェーンベルト100の振動および騒音を低減することができる。
【0048】
以上、添付図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されないことは勿論であり、特許請求の範囲に記載された範疇における各種の変更例又は修正例についても、本発明の技術的範囲に属することは言うまでもない。
【0049】
上記実施形態では、第1ピン130が、第2転動面130bを第1転動面130aよりもプーリの回転中心側に位置させ、第3ピン150をプーリの回転中心側に位置させることとした。しかしながら、第3ピン150の位置はこれに限らず、例えば、第3ピン150を第1転動面130aに対向させてもよい。さらには、上記実施形態では、チェーンベルト100の回転方向後方側に第1ピン130を位置させ、チェーンベルト100の回転方向前方側に第2ピン140および第3ピン150を位置させることとした。
【0050】
しかしながら、第1ピン130をチェーンベルト100の回転方向前方側に位置させ、第2ピン140および第3ピン150をチェーンベルト100の回転方向後方側に位置させてもよい。さらには、第2ピン140および第3ピン150が、第1ピン130よりも回転方向前方側に位置するロッカーピン120と、第2ピン140および第3ピン150が、第1ピン130よりも回転方向後方側に位置するロッカーピン120とを交互に配置する等、1つのチェーンベルト100に混在させることも可能である。
【0051】
また、上記実施形態では、第1ピン130の端面および第2ピン140の端面を、いずれも第3ピン150の端面よりも面積を大きくし、第1ピン130の端面および第2ピン140の端面の面積を等しくした。しかしながら、第1ピン130、第2ピン140、第3ピン150の端面の面積の寸法関係は適宜設計変更可能である。
【0052】
また、上記実施形態では、第2ピン140に作動部141を設けることとしたが、第1ピン130に作動部141を設けてもよい。いずれにしても、作動部141は、第1ピン130または第2ピン140に設けられればよい。さらには、上記実施形態では、第1ピン130および第2ピン140が対向する対向方向に突出するとともに、突出方向の基端から先端へ向けて、第3ピン150が押し出される方向の幅が漸減する突起で作動部141を構成した。しかしながら、作動部141の構成はこれに限らない。
【0053】
例えば、作動部141を、対向方向に平行に突出させても、第3ピン150の押圧面150bが傾斜していれば、上記実施形態と同様に、第3ピン150を挿通方向に出没させることができる。いずれにしても、作動部141は、第1ピン130または第2ピン140に設けられ、第1転動面130aと第1対向面140aとが離隔すると、第3ピン150をコーン面側に押し出す構成を広く含む。なお、上記実施形態では、作動部141に傾斜面141aが設けられているので、第3ピン150の押圧面150bを、対向方向に平行に延在させてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、第3ピン150を2つ設けることとしたが、第3ピン150は1つでもよいし、あるいは、複数に分割して3つ以上の第3ピン150を1つの収容部142に設けてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、車両に搭載される無段変速機に利用できる。
【符号の説明】
【0056】
1 無段変速機
10 プライマリプーリ
11a、12a、21a、22a コーン面
20 セカンダリプーリ
110、110A、110B リンクプレート
130 第1ピン
130a 第1転動面
130b 第2転動面
140 第2ピン
140a 第1対向面
141 作動部
142 収容部
150 第3ピン
150a 第2対向面
150d 抜け止め部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8