特許第6691609号(P6691609)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6691609新規の組換え高安定性スーパーオキシドジスムターゼおよびその応用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691609
(24)【登録日】2020年4月14日
(45)【発行日】2020年4月28日
(54)【発明の名称】新規の組換え高安定性スーパーオキシドジスムターゼおよびその応用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/53 20060101AFI20200421BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20200421BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20200421BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20200421BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20200421BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 38/44 20060101ALI20200421BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/48 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/02 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/12 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20200421BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20200421BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20200421BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20200421BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200421BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20200421BHJP
   A61P 17/02 20060101ALI20200421BHJP
   A61P 17/08 20060101ALI20200421BHJP
   A61Q 19/02 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 8/64 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 8/73 20060101ALI20200421BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20200421BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20200421BHJP
【FI】
   C12N15/53
   C12N9/02ZNA
   C12N15/63 Z
   C12N1/15
   C12N1/19
   C12N1/21
   A61K38/44
   A61P43/00 121
   A61K9/06
   A61K9/20
   A61K9/70 401
   A61K9/48
   A61K9/08
   A61K9/02
   A61K9/12
   A61K9/72
   A23L33/18
   A61K48/00
   A61K35/76
   A61K35/12
   A61P29/00
   A61P17/00
   A61P17/02
   A61P17/08
   A61Q19/02
   A61K8/64
   A61K8/73
   A61K8/98
   A61Q19/08
【請求項の数】24
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2018-545540(P2018-545540)
(86)(22)【出願日】2016年12月26日
(65)【公表番号】特表2018-533981(P2018-533981A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】CN2016112123
(87)【国際公開番号】WO2017143850
(87)【国際公開日】20170831
【審査請求日】2018年5月18日
(31)【優先権主張番号】201610099824.8
(32)【優先日】2016年2月23日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】518176275
【氏名又は名称】杭州睿道医薬科技有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】孟凡国
【審査官】 鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−005797(JP,A)
【文献】 特開平05−030976(JP,A)
【文献】 特開平07−135970(JP,A)
【文献】 特開昭61−185184(JP,A)
【文献】 特表2008−530241(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/108434(WO,A1)
【文献】 特開2010−270222(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第104357410(CN,A)
【文献】 J. Mol. Biol.,1991年,Vol. 219,pp. 335-358
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12N 9/02
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミノ酸配列が配列表中の配列番号4に示されることを特徴とするスーパーオキシドジスムターゼ。
【請求項2】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子。
【請求項3】
上記遺伝子の配列が、配列表中の配列番号3に示されるDNA配列である、請求項2に記載の遺伝子。
【請求項4】
請求項2もしくは3に記載の遺伝子を含む発現ベクター、遺伝子導入細胞系、または宿主菌。
【請求項5】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼを有効治療量で含むことを特徴とする薬物組成物。
【請求項6】
抗菌剤、および/または薬学的に許容可能な担体、および/または賦形剤をさらに含むことを特徴とする請求項5に記載の薬物組成物。
【請求項7】
調剤の形態が内服型または外用型であることを特徴とする請求項5または6に記載の薬物組成物。
【請求項8】
上記内服型は、経口液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、または経口散剤であることを特徴とする請求項7に記載の薬物組成物。
【請求項9】
上記外用型は、外用散剤、軟膏剤、貼布剤、外用液剤、坐剤、スプレー剤、エアゾール剤、または吸入剤であることを特徴とする請求項7に記載の薬物組成物。
【請求項10】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼを有効量で含むことを特徴とする化粧品組成物。
【請求項11】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼを含むことを特徴とする食品添加剤。
【請求項12】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼを作製する方法であって、
スーパーオキシドジスムターゼをコードする請求項2もしくは3に記載の遺伝子を発現させることによるか、または化学的合成方法により、請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼを得ることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼ、または請求項2もしくは3に記載の遺伝子、または請求項4に記載の発現ベクター、遺伝子導入細胞系、もしくは宿主菌、または請求項5〜9のいずれか1項に記載の薬物組成物の、抗炎症薬物の作製における使用
【請求項14】
上記炎症は、粘膜炎症、外因性炎症因子による炎症、または皮膚炎症を含む請求項13に記載の使用
【請求項15】
上記粘膜炎症は、呼吸器系、消化管、生殖器官、聴覚器官、および視覚器官の粘膜炎症を含み、
上記外因性炎症因子による炎症は、生物的因子、物理的因子、外因性化学的因子またはこれらの組み合わせによる炎症を含み、
上記皮膚炎症は、手・足の白癬、毛嚢炎、接触性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、神経性皮膚炎、および脂漏性皮膚炎を含むことを特徴とする請求項14に記載の使用
【請求項16】
上記粘膜炎症は、口腔潰瘍、歯齦炎、腸炎、胃炎、膣炎、骨盤内炎症、膀胱炎、子宮頸管炎、鼻炎、咽頭炎、中耳炎、外耳道炎、結膜炎、および角膜炎を含む請求項15に記載の使用
【請求項17】
上記生物的因子による炎症は、細菌、ウイルス、リケッチア、病原虫、真菌、スピロヘータおよび寄生虫が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含む請求項15に記載の使用
【請求項18】
上記物理的因子による炎症は、物理的力、高温、低温、電離放射線、または紫外線が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含む請求項15に記載の使用
【請求項19】
上記物理的因子による炎症は、やけど、熱傷、凍傷、日焼け、切り傷、もしくは放射線ダメージにより引き起こされる炎症、または、外科手術後もしくは放射線治療後に発生する炎症である請求項15に記載の使用
【請求項20】
外因性化学的因子による炎症は、放射性物質、強酸、強アルカリ、強酸化剤、アルコール、または化学品が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含む請求項15に記載の使用
【請求項21】
外因性化学的因子による炎症は、アルコール性もしくは薬物誘発性肝炎、および化学療法後に発生する炎症を含む請求項15に記載の使用
【請求項22】
上記皮膚炎症は、乳幼児湿疹である請求項15に記載の使用
【請求項23】
請求項1に記載のスーパーオキシドジスムターゼ、または請求項2もしくは3に記載の遺伝子、または請求項4に記載の発現ベクター、遺伝子導入細胞系、もしくは宿主菌の、化粧品の作製における使用
【請求項24】
上記化粧品は、老化または皮膚の色素沈着を防止する化粧品である請求項23記載の使用
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物医薬、化粧品および機能性食品等の分野に属する。具体的には、消化管の酵素による分解に対する耐性と、耐酸性・耐アルカリ性と、耐高温性とを有するスーパーオキシドジスムターゼ(superoxide dismutase;SOD)、それをコードする遺伝子およびその応用、並びに、該耐高温性のスーパーオキシドジスムターゼを含む化粧品、健康食品や薬物組成物およびこれらの応用に関する。
【背景技術】
【0002】
フリーラジカルは生命科学の分野において盛んに研究されてきた。1956年、アメリカ人のHarmanによって、放射線化学分野のフリーラジカルという概念が生物分野に導入され、著名なフリーラジカル説(Free radial theory)が提唱された。活性酸素(ROS)は生体内の最も一般的なフリーラジカルであり、そして人体内の主なフリーラジカルは酸素フリーラジカルである。活性酸素が生体内に過剰に存在すると、脂質の過酸化、生体の膜組織の構造や機能の変化が生じ、タンパク質の変性や架橋、酵素の失活等が起こる。そのため、活性酸素は、心筋梗塞、放射線ダメージ、アテローム性動脈硬化、免疫不全等の疾患の発生や進行に深く関係している。また、フリーラジカルが過剰に存在すると、生体内の酸化反応が誘発され、生体組織および細胞がダメージを受けるため、老化が引き起こされる。これについては、Harmanによる著名なフリーラジカル老化説が提唱されている。また、酸化ストレスは、生体分子の酸化ダメージを引き起こすため、生体内因性のダメージ関連分子パターン(DAMPs;Damage‐Associated Molecular Patterns)によるサイトカイン生成および放出を誘起する。サイトカインは、パターン認識受容体(PRRs;pattern-recognition receptors)の下流シグナル経路、たとえば核内因子κB(NF−κB)、JAK、STATおよびMAPK等を活性化させ得るため、サイトカインおよびケモカインの放出が増加し、より多くの炎症細胞が動員、活性化され、生体システム的慢性炎症反応が発生する。酸化ストレスと炎症や老化との密接な関連性に基づく酸化−炎症老化説を提唱したDe la Fuenteらによれば、酸化ストレスは、炎症性老化を引き起こすと考えられている。
【0003】
スーパーオキシドジスムターゼは、幅広く様々な生物の体内に存在しており、生体に欠かせない重要な酸素フリーラジカル除去剤であり、酸化ダメージに対する生物体防御において重要な役割を果たす。SODは、結合されている金属イオン基に応じて、Cu/Zn−SOD、Fe−SOD、Mn−SODおよびNi−SODの4つの種類に大別される。また、研究によると、SODは、酸素フリーラジカルを効果的に除去でき、様々な炎症の治療に有用であると共に、放射線ダメージの予防および治療にも重要な役割を果たすことが明らかになっている。中でも、性質が最も安定し、且つ毒性が最も低いものはMn−SODである。
【0004】
ミトコンドリアの酸化的リン酸化電子伝達システムでは、O分子が最後の受容体である。通常、Oは4つの電子を取り入れることでHOを形成するが、部分的な電子伝達の場合には、強活性の酸素フリーラジカル(ROS)が形成される。この酸素フリーラジカルは、脂質膜組織、タンパク質、DNAにアタックし、神経の退行、老化、ガン、肺繊維化、血管疾患を引き起こす。また、ROSは炎症反応を誘発する要因でもある。炎症とは、感染源、外傷または組織性虚血に対する生体の防御反応である。異常な炎症反応は様々な疾患を引き起こす。炎症に共通する最も重要な病理学的特徴は、白血球(好中球細胞および大食細胞)の遷移、集結および浸潤である。炎症を研究する最も一般的な方法としては、好中球細胞の集結部位およびその数量を研究する方法が挙げられる。また、抗酸化酵素が炎症反応の主要な調節因子であることが、多くの実験を通じて証明されている。そして、ミトコンドリア内のMn−SODは、酸素フリーラジカルを除去する初期酵素であり、その活性は、フリーラジカルの除去レートおよび炎症の回復効率に関わっている。
【0005】
哺乳類動物のMn−SODは、ミトコンドリア内に存在し、その機能は、ミトコンドリア内のOレベルを制御し、酸素フリーラジカルによるミトコンドリアへのダメージを避けることにある。生体内のMn−SODの機能についての研究により、Mn−SODは炎症反応、細胞の老化に深く関係することが証明されている。なお、当該遺伝子が欠如しているマウスは、複数の器官においてミトコンドリアに大きなダメージが発生していた。また、当該遺伝子がノックアウトされたマウスは、その多くが胎児期で死亡するが、Mn−SODを補充すれば、その生存期間を延ばすことができた。したがって、Mn−SODは新規の抗炎症薬物となり得る。
【0006】
環境汚染、心的ストレス、喫煙や飲酒等の悪生活習慣により体内代謝が異常化する。酸素フリーラジカルの大量蓄積によって意気消沈、疲労や免疫力の低下が引き起こされ、長期的に未病の状態に陥るおそれがある。これらの未病症状は、適量のSODを補充すれば改善される。そのため、SODは健康食品に用い、または食品添加剤として使用することができる。さらに、Mn−SODは、老化防止、皮膚の色素沈着の防止等の働きがあり、化粧品に添加し使用することもできる。
【0007】
SODによる作用のメカニズムおよびその効果は、従来の基礎研究によって証明されているが、SODの実用は未だ困難であり、所望の治療効果には達成できていない。その要因は次のように考えられる。まず、薬物の製造、化粧品や食品の加工過程において、滅菌、加熱抽出等の工程がよく用いられる。しかし、通常のSODは、安定性が悪く、耐高温性を有しておらず、長期間の貯蔵に適さないという特性があるため、産業上の応用が大きく制限されている。次に、SODは生体高分子であるため、経皮吸収の量が限られ、その治療効果に限界がある。最後に、経口薬物や食品はいずれも消化管によって消化、吸収されるため、タンパク質としてのSODは胃液や腸液中のプロテアーゼに消化、分解されることが多く、本来の効果が得られない。なお、欧州食品安全機関(European Food Safety Authority;EFSA)によると、SODによる健康促進効果は、より多くの証拠で証明する必要がある(EFSA Journal 2010;8(10):1753)とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の欠点を克服するために、多くの研究者が、たとえば遺伝子工学的方法による耐高温性SODの生産を模索してきた。しかし、従来の技術における以下の技術的課題は未だ解決されていない。
1)組換えて発現させたSODは、耐酸性・耐アルカリ性が不十分である。
2)生成されたSODは、消化管内のペプシンやトリプシンによって分解され、失活し易い。
【0009】
したがって、従来の技術のSODは、耐高温性、耐酸性・耐アルカリ性、ペプシンやトリプシンによる分解に対する耐性等において問題があるため、化粧品、食品および医学分野におけるSODの応用が大いに限られている。それゆえ、耐高温性と、耐酸性・耐アルカリ性と、ペプシンやトリプシン等による分解に対する耐性とを有するスーパーオキシドジスムターゼの開発は、現在の急務である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、遺伝子工学的手法を用いて従来技術における上記課題を解決する。したがって、本発明の1つの目的は、耐高温性と、耐酸性・耐アルカリ性と、消化管の酵素による分解に対する耐性とを有する新規のスーパーオキシドジスムターゼ、それをコードする遺伝子およびその応用を提供することにある。
【0011】
本発明は、耐高温性と、耐酸性・耐アルカリ性と、消化管の酵素による分解に対する耐性とを有するスーパーオキシドジスムターゼであって、アミノ酸配列が配列番号4に示されるスーパーオキシドジスムターゼを提供する。
【0012】
本発明は、耐高温性と、耐酸性・耐アルカリ性と、消化管酵素による分解に対する耐性とを有する上記スーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子をさらに提供する。上記遺伝子の配列は、配列表中の配列番号3に示されるDNA配列であることが好ましい。
【0013】
本発明の他の態様によれば、本発明は上記遺伝子を含む発現ベクター、遺伝子導入細胞系、宿主菌をさらに提供する。
【0014】
本発明の他の態様によれば、本発明は、アミノ酸配列が配列番号4に示されるスーパーオキシドジスムターゼを有効治療量で含む薬物組成物をさらに提供する。なお、「有効治療量」とは、「本発明に記載の薬物組成物において、所望の結果または治療効果を達成するのに必要な投与量、および、投与周期に応じた有効な量」を指す。有効治療量は、たとえば、治療対象のヒトまたは動物の疾患状況、年齢、性別および重量等、本分野の周知要素に応じて変更してもよい。なお、当業者に理解されるように、最適な治療反応を実現するために、上記投与量の構成は変更可能である。たとえば、投与量を日ごとの複数回分に分けてもよく、治療状況の緊急度に比例して投与量を増減してもよい。さらに、本発明の組成物は、有効治療量を実現するために、必要な頻度で投与することができる。
【0015】
本発明の他の態様によれば、本発明によって提供される上記薬物組成物は、抗菌剤、および/または薬学的に許容可能な担体(pharmaceuticallyacceptable carrier)、および/または賦形剤をさらに含む。上記薬物組成物の調剤の形態は、内服型または外用型である。上記内服型は、経口液剤、錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、経口散剤等が好ましく、上記外用型は、外用散剤、軟膏剤、貼布剤、外用液剤、坐剤、スプレー剤、エアゾール剤、吸入剤が好ましい。また、タンパク質薬物の血中滞留時間を延ばすために、本発明は、耐高温性のSODを化学的修飾する脂肪酸、多糖類物質、ラウロイルクロリド、デキストラン、ポリエチレングリコール(PEG)等、製薬分野における常用の修飾剤を用いてもよい。
【0016】
本発明の他の態様によれば、本発明は、本発明の上記スーパーオキシドジスムターゼを有効量で含むことを特徴とする化粧品組成物をさらに提供する。
【0017】
本発明の他の態様によれば、本発明は、本発明の上記スーパーオキシドジスムターゼを含む食品添加剤をさらに提供する。
【0018】
本発明の他の態様によれば、本発明は、アミノ酸配列が配列番号4に示される耐高温性スーパーオキシドジスムターゼの作製方法を提供する。上記作製方法は、具体的には、上記耐高温性スーパーオキシドジスムターゼをコードする遺伝子の発現、たとえば配列表中の配列番号3に示されるDNA配列を発現させることによるか、または化学的合成方法により、上記耐高温性スーパーオキシドジスムターゼを得る。
【0019】
本発明の他の態様によれば、本発明は、本発明の上記スーパーオキシドジスムターゼ、上記遺伝子、上記発現ベクター、遺伝子導入細胞系、宿主菌、または上記薬物組成物の、抗炎症薬物の作製における応用をさらに提供する。上記炎症は、粘膜炎症、外因性炎症因子(inflammatory agent)による炎症、または皮膚炎症を含む。また、上記粘膜炎症は、呼吸器系、消化管、生殖器官、聴覚器官、視覚器官の粘膜炎症を含み、好ましくは口腔潰瘍、歯齦炎、腸炎、胃炎、膣炎、骨盤内炎症、膀胱炎、子宮頸管炎、鼻炎、咽頭炎、中耳炎、外耳道炎、結膜炎、角膜炎である。上記外因性炎症因子による炎症は、生物的因子、物理的因子、外因性化学的因子、またはこれら炎症因子の組み合わせによる炎症を含む。生物的因子による炎症は、好ましくは細菌、ウイルス、リケッチア、病原虫、真菌、スピロヘータおよび寄生虫が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含む。物理的因子による炎症は、好ましくは物理的力、高温、低温、電離放射線、紫外線が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含み、さらに好ましくはやけど、熱傷、凍傷、日焼け、切り傷、放射線ダメージにより引き起こされる炎症、または、外科手術後もしくは放射線治療後に発生する炎症である。外因性化学的因子による炎症は、好ましくは放射性物質、強酸、強アルカリ、強酸化剤、アルコール、化学品が生体に作用することにより引き起こされる炎症を含み、さらに好ましくはアルコール性もしくは薬物誘発性肝炎、化学療法後に発生する炎症である。上記皮膚炎症は、手・足の白癬、毛嚢炎、接触性皮膚炎、湿疹、蕁麻疹、神経性皮膚炎、脂漏性皮膚炎を含み、好ましくは乳幼児湿疹である。
【0020】
具体的には、生物的因子は炎症を引き起こす最も一般的な原因であり、生物的因子による炎症は感染とも呼ばれる。たとえば、細菌から放出された内毒素と外毒素により引き起こされる炎症、細胞内でのウイルス複製より感染された細胞の壊死、特定病原体の抗原性により誘発された過敏反応性炎症(たとえば結核病等)がある。また、物理的因子は物理的力(たとえば切り傷)、高温(たとえばやけど、熱傷)、低温(たとえば凍傷)、電離放射線(たとえば核放射線ダメージ)、紫外線(たとえば紫外線ダメージ)等、様々な物理性因子を含み、これらによる人体への作用は、一定の強さまたは一定の作用時間に達した場合、何れも炎症を引き起こし得る。中でも、外因性化学的因子は、放射性物質、強酸、強アルカリ、強酸化剤またはその他の化学物質を含み、これらが体内で一定の濃度または量に達した場合、炎症を引き起こし得る。
【0021】
本発明の他の態様によれば、本発明は、本発明の上記スーパーオキシドジスムターゼ、上記遺伝子、上記発現ベクター、遺伝子導入細胞系、宿主菌の、化粧品および健康食品の作製における用途をさらに提供する。なお、化粧品は、老化や皮膚の色素沈着を防止する化粧品が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】野生型耐高温性SOD、突然変異型耐高温性SODおよび通常SODに関する熱安定性の比較グラフである。
図2】野生型耐高温性SOD、突然変異型耐高温性SODおよび通常SODに関する耐酸・アルカリ性の比較グラフである。
図3】通常SOD、突然変異型耐高温性SODに関する、ペプシンによる分解に対する耐性の比較グラフである。
図4】通常SOD、突然変異型耐高温性SODに関する、トリプシンによる分解に対する耐性の比較グラフである。
図5】結腸炎に対する、突然変異型耐高温性SODによる治療効果を示す表現型の図である。
図6】結腸炎に対する、突然変異型耐高温性SODによる治療効果(腸内腔面積)の比較グラフである。
図7】結腸炎に対する、突然変異型耐高温性SODによる治療効果(腸内腔の相対面積)の比較グラフである。
図8】結腸炎に対する、突然変異型耐高温性SODによる治療効率の比較グラフである。
図9】結腸炎の炎症解消に対する、突然変異型耐高温性SODによる促進効果を示す表現型の図である。
図10】結腸炎の炎症解消に対する、突然変異型耐高温性SODによる促進効果(好中球細胞数)の比較グラフである。
図11】結腸炎の炎症解消に対する、突然変異型耐高温性SODによる促進率の比較グラフである。
図12】結腸炎に対する、突然変異型耐高温性SODによる治療効果を組織病理学から分析する図である。
図13】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果を示す表現型の図である(注:矢印は炎症部位における好中球細胞を示す)。
図14】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果(好中球細胞数)の比較グラフである(モデルのコントロールグループと比べ、**p<0.01、***p<0.001)。
図15】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる炎症解消率の比較グラフである(モデルのコントロールグループと比べ、**p<0.01、***p<0.001)。
図16】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果を示す表現型の図である(注:四角い領域は炎症部位における好中球細胞を示す)。
図17】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果(好中球細胞の個数)の比較グラフである(モデルのコントロールグループと比べ、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図18】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる炎症解消率の比較グラフ(モデルコントロールグループと比べ、p<0.05、**p<0.01、***p<0.001)。
図19】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果を示す表現型の図である(注:四角い領域は炎症部位における好中球細胞を示す)。
図20】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる抗炎症効果(好中球細胞の個数)の比較グラフである(モデルコントロールグループと比べ、**p<0.01、***p<0.001)。
図21】ゼブラフィッシュの炎症に対する、突然変異型耐高温性SODによる炎症解消率の比較図である(モデルコントロールグループと比べ、**p<0.01、***p<0.001)。
図22】本発明の突然変異型耐高温性SODを適用した場合の、皮膚炎性湿疹に対する治療効果の比較図である。
図23】本発明の突然変異型耐高温性SODを適用した場合の、足白癬に対する治療効果の比較図である。
図24】本発明の突然変異型耐高温性SODを適用した場合の、過敏性皮膚炎に対する治療効果の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
〔実施例1〕本発明の突然変異型耐高温性スーパーオキシドジスムターゼの作製
<1>高収率の突然変異型耐高温性SOD菌株の取得
好熱菌HB27(米国ATCC(American Type CultureCollection)細胞バンクから購入)のSODをコードする遺伝子を鋳型とし、以下の配列のプライマーで増幅させ、目標遺伝子を得た。
フォワードプライマー:5’−AAGAATTCATGCCGTACCCGTTCAAGCT−3’(配列番号1);
リバースプライマー:5’−CTGTCGACTCAGGCTTTGTTGAAGAAC−3’(配列番号2)。
回収キット(生工生物工程上海(股ふん)有限公司から購入)を用いて増幅後の産物を回収した。それを2種類の酵素(EcoRIとSalI)で切断し(Double Digestion)、同様の2種類の酵素で切断されたプラスミドベクターpET28a(+)(生工生物工程上海(股ふん)有限公司から購入)に連結させた。該組換えプラスミドをコンピテント化大腸菌BL21(DE3)(生工生物工程上海(股ふん)有限公司から購入)に形質転換し、スクリーニング、配列解析を経た後、高収率の突然変異型耐高温性SOD(以下、M型−SODと略称する)の菌株を得た。配列決定された、M型−SODをコードする遺伝子の具体的にヌクレオチド配列を以下に示す。
【0024】
【化1】
【0025】
<2>M型−SODタンパクの発現および精製
発酵工程は、一次菌種培養、二次菌種培養、タンク発酵、発現誘導という4つのステップを経て、最終的に発酵産物としてM型−SODを得た。具体的な過程は以下の通りである。
【0026】
発酵用タンクにおける基礎LB培地の成分、補充成分を下表に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
(1)一次菌種培養:20mLのLB液体培養。
【0029】
(2)上記培養液をグリセロールストック5μLに接種し、カナマイシンの最終濃度を50mg/Lとし、37℃、220rpmで10時間培養した。
【0030】
(3)二次菌種培養:上記ステップで培養した菌液を200mLのLB液体培地に移し、カナマイシンの最終濃度を50mg/Lとし、37℃、220rpmで4時間培養した。
【0031】
(4)タンク発酵:上記ステップで培養した200mLの二次菌種の菌液を、容積6.6Lの発酵用タンクに接種した。発酵条件は溶存酸素30%、温度30℃、pH7.0、200rpm〜800rpmの回転速度(溶存酸素に応じて自動調節される)であった。
【0032】
(5)5〜6時間発酵し、OD600が約28となった時点で、誘導剤IPTGを最終濃度が1mMとなるように入れた。24時間発酵した後、発酵を停止し、遠心分離して菌体を回収した。
【0033】
(6)遠心分離した菌体をBuffer A(10mM Tris−HCl、pH8.0)に溶解した後、300Wの超音波下で菌体を超音波破砕した。超音波をかける合計時間は45分間であった。
【0034】
(7)90℃で1時間加熱した。
【0035】
(8)室温まで冷却した後、4℃、12000Gで30分間遠心分離した。
【0036】
(9)上清を回収し、50%硫酸アンモニウムを入れて酵素を沈澱させた。
【0037】
(10)4℃で120分間静置した後、4℃、12000Gで30分間遠心分離した。
【0038】
(11)溶解、沈澱した後、一夜かけて透析した。
【0039】
(12)透析した産物を分けて乾燥し、完成品を得た。
【0040】
精製後のM型−SOD(純度は98%に到達可能)のアミノ酸配列を以下に示す。
【0041】
【化2】
【0042】
GenBankにおいて開示されている耐高温性SOD(GenBank:BAA25701.1;野生型耐高温性SOD;以下は「W型−SOD」と略称する)と比べ、本発明で提供されるM型−SODは、その第202位のアミノ酸が、W型−SODにおける同位置のリジン(LysまたはK)からアスパラギン(AsnまたはN)に突然変異した点で、異なっている。
【0043】
〔実施例2〕本発明の突然変異型耐高温性スーパーオキシドジスムターゼの物理化学的性質の分析
<1>耐熱性の比較
W型−SOD(Jianguo Liuら,Extremophiles, 2011:15:221 226,以下は同様)、本発明で提供されるM型−SODおよび通常SOD(Sigma、MFCD00132404)について、その熱安定性を比較した(Jianguo Liuら,Extremophiles, 2011:15:221 226に記載の条件と完全に同様の条件下で、異なる温度で1時間処理し、残留酵素の活性を測定した)。結果を図1に示す。図1から分かるように、本発明で提供されるM型−SODは、より幅広い温度範囲において、極めて高い安定性が維持されている。
【0044】
<2>pHに関する耐性の比較
W型−SOD、M型−SODおよび通常SOD(Sigma、MFCD00132404)について、異なるpH値での安定性を比較した(Jianguo Liuら,Extremophiles, 2011:15:221 226に記載の条件と完全に同様の条件で)。結果を図2に示す。図2から分かるように、M型−SODは、pH12の場合であっても97%の活性を有するが、W型−SODは、pH11の時点で40%未満の活性しかなかった。つまり、M型−SODは極めて突出した耐酸性・耐アルカリ性を有することが分かる。
【0045】
<3>ペプシンに対する耐性の実験
中国薬典2010年版の基準に沿って、人工疑似胃液を作製した。即ち、希塩酸(塩酸234mLに水を加え、1000mLになるまで希釈したもの。該希釈液は9.5%〜10.5%のHClを含む)16.4mLに、水約800mLとペプシン(SINOPHARM、20141209)10gを加え、均一に振とうした後、1000mLになるまで水を加えて希釈し、人工疑似胃液を得た。
【0046】
SODもタンパク質の1種であるため、消化管内のプロテアーゼによる分解で失活しやい。M型−SODと通常SODとの2種類の酵素を、上記人工疑似胃液で2時間処理したところ、M型−SODは、通常SODよりも、ペプシンによる分解に対する耐性が明らかに優れることが分かった。具体的には図3に示す。
【0047】
<4>トリプシンに対する耐性の実験
10U/mL〜300U/mLのトリプシン溶液(上海瑞永生物科技公司、RM1021−100g)を用い、M型−SODと通常SODとを、37℃で3時間インキュベートしたところ、M型−SODは活性が損なわれないが、通常SODは活性を約60%失ったことが分かった。これは、M型−SODは、トリプシンによる分解に対する耐性が極めて強いことを意味する。具体的には図4に示す。
【0048】
なお、上記SODに関する酵素活性の測定は、ピロガロール自動酸化法によって行われた。
【0049】
以上をまとめると、当該突然変異型SOD(M型−SOD)は、耐高温性、pH変化に対する耐性、および消化プロテアーゼによる分解に対する耐性において非常に優れている。したがって、経口や外用薬物、食品や化粧品に適用し、良好な治療効果、美容効果および健康効果を得ることが期待される。
【0050】
〔実施例3〕粘膜炎症に対する、本発明の突然変異型耐高温性スーパーオキシドジスムターゼ(M型−SOD)による抗炎症性の研究
<実験動物>
ゼブラフィッシュモデルは、以下の要件を満たしているため、疾病研究や薬物スクリーニングにおいて幅広く使用されている。(1)サンプルの大量供与が可能であるため、薬物のハイスループットスクリーニングが可能となる。(2)免疫学やゲノム学等において、ヒトとは高度な保全性を有する。(3)良好な追跡性を有する。(4)炎症に共通する最も重要な病理的特徴が明白、明確に表れる。ゼブラフィッシュは、国際的に公認されている最も重要な、薬物スクリーニング用動物モデルの1つである。ゼブラフィッシュの透明な体は、非常に強い造影特性を有するため、研究者による遺伝子操作は扱い易くなる。そのため、ゼブラフィッシュは、様々な炎症に対する反応を研究するための理想的なモデルとなっている。ゼブラフィッシュの消化系は哺乳類動物と極めて類似し、同様に肝臓、膵臓、胆嚢、および、吸収と分泌機能を有する線状分節型腸管を含む。また、腸上皮は、腸管の全域に亘って機能しており、且つ、吸収性細胞、杯状細胞、内分泌性細胞等、哺乳類動物にも見つけられる上皮細胞を含んでいる。したがって、近年、ゼブラフィッシュは、粘膜炎症、特に消化管の粘膜炎症を含む様々な炎症を研究するための典型的な動物モデルとなっている。中でも、最も代表的なものは炎症性腸疾患(IBD)に関するゼブラフィッシュ(動物)モデルである。
【0051】
実験動物は、野生型AB系ゼブラフィッシュ(杭州環特生物科技有限公司より入手)を選択し、自然交尾、繁殖させた。受精後3日の合計630匹を実験グループごとに30匹ずつ振り分け、結腸炎に対する、M型−SODによる治療効果の評価、および腸管組織の病理学的分析に用いた。遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュ(杭州環特生物科技有限公司より入手)を自然交尾、繁殖させた。受精後3日の合計210匹を実験グループごとに30匹ずつ振り分け、結腸炎の炎症解消に対する、M型−SODによる影響の評価に用いた。なお、実験動物は、28℃の養魚用水(水質:逆浸透水1Lあたり200mgの快速溶解性海塩を添加したもの;導電率480〜510μS/cm、pH6.9〜7.2、硬度53.7〜71.6mg/L CaCO)中で飼育していた(実験動物の使用許可証番号は、SYXK(浙)2012−0171)。また、飼育の管理は国際AAALACの認可基準を満たしていた。
【0052】
<実験用薬物>
実施例1で作製したM型−SOD(白色の粉末;使用直前に、超純水を用いて濃度20mg/mLの母液(mother solution)に調製する、即ち、その都度調製する)
プレドニゾン(白色粉末;バッチ番号28778;上海晶純実業有限公司より入手;使用直前に、100%ジメチルスルホキシドを用いて濃度15mg/mLの母液に調製する)
トリニトロベンゼンスルホン酸(以下、TNBSと略称する;茶褐色の液体;バッチ番号D1326018;上海晶純実業有限公司により入手)。
【0053】
<使用器材>
解剖顕微鏡(SZX7;OLYMPUS社、日本)
電動ズーム式連続倍率変更型蛍光顕微鏡(AZ100;Nikon社)
6穴プレート(Nest Biotech社)
メチルセルロース(Aladdin社、Shanghai、中国)。
【0054】
<モデルの構築>
モデル1:受精後3日の野生型AB系ゼブラフィッシュを、最終濃度4.5μMのTNBSを含む養魚用水で48時間培養し、ゼブラフィッシュの結腸炎モデルを作製した(具体的なプロセスは、A. Jemal, R. Siegel, J. Xuら. Ward. Clinicians, 2010,277-300;および、Intestinal Upregulation of Melanin-Concentrating Hormone inTNBS-Induced Enterocolitis in Adult Zebrafish. Plos One, 2013,8(12):1524-1528を参照)。モデルを作製した結果、モデルコントロールグループの腸内腔面積(197660)は、正常コントロールグループ(130711)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する。当該モデルは後述する実験1に用いられる。
【0055】
モデル2:受精後3日の、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュを、最終濃度4.5μMのTNBSを含む養魚用水で48時間培養し、ゼブラフィッシュの結腸炎モデルを作製した。手順は上記モデル1と同様である。結果、モデルコントロールグループのゼブラフィッシュの腸管における好中球細胞の個数(9.4)は、正常コントロールグループ(1.6)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する。当該モデルは後述する実験2に用いられる。
【0056】
(実験1 結腸炎に対する、M型−SODによる治療効果)
<実験方法>
(1)M型−SODの非致死最大濃度(MNLC)の特定
異なる複数の濃度に設定したM型−SODを用いてゼブラフィッシュを処理(48時間処理)した。
【0057】
M型−SODの初期のテスト濃度は、150μg/mL、200μg/mL、333μg/mL、1000μg/mL、および2000μg/mLの5つとした。
【0058】
各実験グループは何れも30匹のゼブラフィッシュを処理した。
【0059】
実験期間中は、毎日、死亡したゼブラフィッシュの数をカウントし、死亡したゼブラフィッシュを取り除いた。
【0060】
M型−SODでの処理が完了した後、各実験グループのゼブラフィッシュ死亡数を統計することで、MNLCを特定した。
【0061】
<実験結果>
表1の濃度−致死データによると、M型−SODのMNLCは150μg/mLであった。15μg/mL、50μg/mLおよび150μg/mLの3つの濃度を選択し、薬効学的評価実験に供する。
【0062】
【表2】
【0063】
(2)結腸炎に対する、M型−SODによる治療効果の評価
モデルコントロールグループ:TNBSでゼブラフィッシュモデルの結腸炎を誘発した(モデル1)。
【0064】
陽性コントロールグループ:プレドニゾンを最終濃度が15μg/mLとなるように、養魚用水に入れた。
【0065】
治療グループ:M型−SODを、選択された3つの濃度で養魚用水に入れた。M型−SODの最終濃度は、それぞれ1MNLC、1/3MNLCおよび1/10MNLCとした。
【0066】
なお、正常コントロールグループまたは溶剤グループは、文脈上において同じ意味を指し、具体的には、何ら処理されていない受精後3日の野生型AB系ゼブラフィッシュを指す。
【0067】
<手順の説明>
各実験グループは何れも30匹のゼブラフィッシュを処理した(処理時間は何れも48時間)。M型−SODでの処理が完了した後、グループごとに、ランダムに15匹のゼブラフィッシュを選び、顕微鏡で観察し、撮影した画像を保存した。画像分析ソフトで画像を分析し、ゼブラフィッシュの腸内腔面積を計算すると共に、定量分析を行った。統計学的に処理した結果を下記式で表す。
【0068】
【数1】
【0069】
結腸炎に対する、M型−SODによる治療効果の計算式は以下の通りである。
【0070】
【数2】
【0071】
また、陽性コントロールグループの治療効率は、上式中の治療グループを陽性コントロールグループに置き換えることによって、算出した。
【0072】
分散分析およびDunnett's T−テストで統計学的分析を行ったところ、p<0.05であった。これは、有義差の存在を意味する。
【0073】
代表的な実験グラフを作成した。
【0074】
<実験結果>
モデルコントロールグループの腸内腔面積(197660)は、正常コントロールグループ(130711)と比較すると、p<0.001であった。これは、モデル構築が大いに成功したことを意味する。プレドニゾン剤を用いた陽性コントロールの腸内腔面積(147876)は、モデルコントロールグループと比べ、p<0.001であった。また、ゼブラフィッシュの結腸炎に対する、プレドニゾンによる治療効率は74%であった。また、濃度15μg/mL、50μg/mLおよび150μg/mLの各M型−SODは、結腸炎に対する治療効率が、それぞれ66%、82%および84%であった。各グループは、モデルコントロールグループと比べ、p<0.001であった。これは、M型−SODが結腸炎に対して顕著な治療効果を有することを意味する。詳細を表2、図5図6図7および図8に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
(実験2 結腸炎の炎症解消に対する、M型−SODによる影響)
<実験方法>
テストのためにM型−SODの濃度を3つ選択した(15μg/mL、50μg/mLおよび150μg/mLの最終濃度で養魚用水に入れた)。
【0077】
モデルコントロールグループ:TNBSで結腸炎を誘発したモデル(結腸炎モデルゼブラフィッシュ;モデル2)。
【0078】
治療グループ:M型−SODを用いて結腸炎モデルゼブラフィッシュを処理した。
【0079】
陽性コントロールグループ:プレドニゾンを、最終濃度が15μg/mLとなるように、結腸炎モデルゼブラフィッシュの養魚用水に入れた。
【0080】
なお、正常コントロールグループまたは溶剤グループは、文脈上において同じ意味を指し、具体的には、何ら処理されていない、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュを指す。
【0081】
各実験グループは何れも30匹の、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュを処理した。処理時間は48時間であった。
【0082】
M型−SODでの処理が完了した後、グループごとに、ランダムに12匹のゼブラフィッシュを選び、蛍光顕微鏡で観察し、撮影した画像を保存した。
【0083】
画像分析ソフトを用い、結腸炎組織における好中球細胞の分布を定量した。統計学的に処理した結果を下記式で表す。
【0084】
【数3】
【0085】
結腸炎の炎症解消に対する、M型−SODによる薬効学的効果の計算式は以下の通りである。
【0086】
【数4】
【0087】
また、陽性コントロールグループの治療効率は、上式中の治療グループを陽性コントロールグループに置き換えることによって、算出した。
【0088】
分散分析およびDunnett's T−テストで統計学的分析を行ったところ、p<0.05であった。これは、有義差の存在を意味する。
【0089】
代表的な実験グラフを作成した。
【0090】
<実験結果>
モデルコントロールグループのゼブラフィッシュの腸管における好中球細胞の個数(9.4)は、正常コントロールグループ(1.6)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築が大いに成功したことを意味する。プレドニゾン剤を用いた陽性コントロールにおける好中球細胞の個数(3.8)は、モデルコントロールグループと比べ、p<0.001であった。これは、プレドニゾンが、結腸炎の炎症解消に対して促進作用を有することを意味する。その炎症解消の促進率は71%であった。また、濃度15μg/mL、50μg/mLおよび150μg/mLの各M型−SODは、結腸炎の炎症解消に対する促進率がそれぞれ34%、49%よび74%であった。各グループは、モデルコントロールグループと比べ、それぞれp<0.05、p<0.01、およびp<0.001であった。これは、M型−SODが結腸炎の炎症解消に対して顕著な促進作用を有することを意味する。詳細を表3、図9図10および図11に示す。
【0091】
【表4】
【0092】
(実験3 腸管組織の病理学的分析)
<グループ>
実験グループ1:正常コントロールグループ;
実験グループ2:モデルコントロールグループ;
実験グループ3:15μg/mLのプレドニゾン剤を用いる陽性コントロール;
実験グループ4:15μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ5:50μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ6:150μg/mLのM型−SODを用いる。
【0093】
<実験方法>
M型−SODで処理するグループ:処理方法、グループ別での濃度設定は、実験1と同様である。
【0094】
陽性コントロールグループ:プレドニゾンで処理したグループ(処理方法は上記と同様)。
【0095】
腸炎モデルグループ:モデル1。
【0096】
正常コントロールグループ:具体的には、何ら処理されていない受精後3日の野生型AB系ゼブラフィッシュを用いた。
【0097】
各実験グループでは、30匹のゼブラフィッシュを処理した。処理時間は48時間であった。
【0098】
M型−SODによる処理が完了した後、4%パラホルムアルデヒドで固定し、固定後のゼブラフィッシュを70%エタノール中に移した。
【0099】
顕微鏡で、固定後のゼブラフィッシュの腸内腔組織を観察し、撮影した写真を記録すると共に、組織の病理学的分析を行った。結果は、下記の実験結果の通りである。
【0100】
<実験結果>
正常コントロールグループのゼブラフィッシュは、腸粘膜が滑らかで無傷であり、腸のヒダが明確に見える。モデルコントロールグループのゼブラフィッシュは、腸内が拡張し、腸粘膜が薄くなり、腸のヒダが消え、粘膜の糜爛や潰瘍が見られた。また、プレドニゾン剤で治療した陽性コントロールは、組織学の観点から、腸粘膜が明らかに改善された。また、濃度15μg/mL、50μg/mLおよび150μg/mLのM型−SODで処理したグループは、腸内腔面積や腸のヒダがほぼ回復し、腸粘膜の炎症が顕著に改善され、炎症による目立った潰瘍が見られなかった。詳細を図12に示す。
【0101】
〔実施例4〕ヒト腸炎に対する、本発明で提供されるM型−SODによる治療効果(臨床観察)
炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease;IBD)は、よく見られる疾患であり、通常、クローン病(Crohn's disease;CD)および潰瘍性結腸炎(ulcerative colitis;UC)と総称される。クローン病は、局所性腸炎、分節性腸炎または肉芽腫性小腸結腸炎とも呼ばれる。この疾患は、原因不明な胃腸の慢性肉芽腫性疾患であり、回腸末端および近位結腸によく見られ、段階的または跳躍的な病変分布を呈し、腸壁全層に亘る炎症である。潰瘍性結腸炎は、非特異性潰瘍性結腸炎とも呼ばれ、原因不明な直腸および結腸の慢性炎症性疾患である。その病変は、主に大腸粘膜および粘膜下組織に及び、最も一般的な患部は直腸および遠位結腸である。但し、重度な病変の場合、結腸全体および回腸末端にまで及ぶことがある。上記疾患は、通常、下痢、腹痛、ないしは血便といった人体症状が現れる。現在、IBDの発病メカニズムであろうものは次のように考えられている。何らかの遺伝的な決定要素によって罹患し易くなっている敏感性個体は、感染因子または腸内腔の抗原の作用により、粘膜関連リンパ組織が刺激され、アップレギュレーション化したT細胞反応が引き起こされる。これにより、様々なサイトカインによるネットワークが活性化し、局所組織の炎症発生、炎症拡大および炎症持続が誘発され、腸壁のダメージおよび対応する臨床症状が引き起こされる。その治療には、糖質ステロイド(GCS)系薬物(プレドニゾン、副腎皮質ホルモン)および抗生物質等がよく使用されるが、治療効果が薄く、副作用が強く、さらに薬物耐性が発生し易い。本発明者らは、本発明における錠剤(1錠あたり、10000UのM型−SODが含まれる)を作製し、本発明による治療効果を検証した。錠剤の作製方法は以下の通りである。
【0102】
M型−SOD錠剤の配合:M型−SOD2g、ラクトース40g、ゼラチン化澱粉50g、ポリビニルピロリドンK30 6g、ステアリン酸マグネシウム1g。
【0103】
<作製工程>
(1)80メッシュ篩で篩分けしたM型−SOD粉末を用意した。
【0104】
(2)バインダーの調製:配合量のポリビニルピロリドンK30を量り取り、適量(約60g)の75%エタノール中に入れ、攪拌し用意した。
【0105】
(3)配合量のゼラチン化澱粉、ラクトース、配合量のSODを量り取り、均一に混合した。
【0106】
(4)製錠:工程(2)で得られたバインダーを上記混合された粉体に加えて軟質の原料を作った後、20メッシュの篩で整粒した。
【0107】
(5)60±2℃で、湿顆粒を、水分が1.0%〜3.5%になるまで乾燥した後、20メッシュの篩で整粒した。
【0108】
(6)乾燥された顆粒を配合量のステアリン酸マグネシウムに均一混合した。
【0109】
(7)プレス製錠機でプレスし、1錠あたり10000ユニットのM型−SODを含む錠剤を得た。
【0110】
本実施例では、合計63名の被験者に本製品を試験的に投与した。実験の内訳は、男性37名および女性26名のうち、年齢30〜40歳の被験者が21名、40〜50歳の被験者が30名、50歳以上の被験者が12名であった。
【0111】
<診断基準>
UCでは、特異性に関する診断基準が不足しており、CDでは、診断を確定することが可能な病理組織学的結果(非乾酪性肉芽腫)が得られ難い。そのため、現在、IBDの病因および疾患類型を判断することは比較的困難である。しかし、IBD患者によく見られる臨床症状として、長年繰り返される腹痛、下痢等が現れるため、これらの症状の改善または緩和の有無を観察、記録することは可能である。
【0112】
<投与方法>
毎晩1錠、10日間の連続服用を1クールとした。
【0113】
<治療効果の評価基準>
有効:10日間の使用において、下痢や腹痛がなく、固形便が排便される。
【0114】
改善:時折、下痢や腹痛症状がある。
【0115】
無効:下痢や腹痛が改善されない。
【0116】
<結果>
【0117】
【表5】
【0118】
上記実施例3〜4によれば、それぞれ動物モデルおよび患者の臨床観察から、本発明のM型−SODが様々な炎症性腸疾患に顕著な治療効果を有し、その治療効果がホルモン剤プレドニゾンの治療効果よりも優れていることが証明された。
【0119】
〔実施例5〕外因性炎症因子による炎症に対する、本発明で提供されるM型−SODによる抗炎症性の研究
<実験動物>
遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュ(杭州環特生物科技股ふん有限公司)を自然交尾、繁殖させた。受精後3日の合計810匹を実験グループごとに30匹ずつ振り分けた。なお、実験動物は、28℃の養魚用水(水質:逆浸透水1Lあたり200mgの快速溶解性海塩を添加したもの;導電率480〜510μS/cm、pH6.9〜7.2、硬度53.7〜71.6mg/L CaCO)中で飼育していた(実験動物の使用許可証番号は、SYXK(浙)2012−0171)。また、飼育の管理は国際AAALACの認可基準を満たしていた。
【0120】
<実験用薬物>
実施例1で作製したM型−SOD(白色の粉末;使用直前に、超純水を用いて濃度20mg/mLの母液に調製する、即ち、その都度調製する)
インドメタシン(白色粉末;バッチ番号1108939;上海晶純実業有限公司より入手;100%ジメチルスルホキシドを用いて濃度60mMの母液に調製する)
LPS(リポ多糖類;白色粉末;バッチ番号L−2880;米sigma社より入手;100%ジメチルスルホキシドを用いて濃度10mg/mLの母液に調製する)
ジメチルスルホキシド(DMSO;Sigma社;バッチ番号BCBN0845V)
硫酸銅五水和物(西隴化工股ふん有限公司;バッチ番号120201)。
【0121】
<使用器材および試薬>
解剖顕微鏡(SZX7;OLYMPUS社、日本)
電動ズーム式連続倍率変更型蛍光顕微鏡(AZ100;Nikon社、日本)
6穴プレート(Nest Biotech社、中国)
メチルセルロース(Aladdin社、Shanghai、中国)。
【0122】
<M型−SODの非致死最大濃度(MNLC)>
M型−SODを用いてゼブラフィッシュを処理した(処理時間は5時間)。M型−SODのテスト濃度は、15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLの5つとした。各実験グループは何れも30匹のゼブラフィッシュを処理した。実験期間中は、毎日、死亡したゼブラフィッシュの数をカウントし、死亡したゼブラフィッシュを取り除いた。M型−SODでの処理が完了した後、各実験グループのゼブラフィッシュ死亡数を統計することで、MNLCを特定した。結果、M型−SODの濃度が2000μg/mLの場合、5時間作用した後でも、ゼブラフィッシュに対する毒害作用が現れないことが分かった。したがって、2000μg/mLを、SODによる抗炎症効果を評価する最高濃度とした。
【0123】
(実験1 硫酸銅で誘発された炎症に対する、M型−SODによる抗炎症効果の評価)
<グループ>
実験グループ1:正常対照グループ、具体的には何ら処理されていない、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュ;
実験グループ2:モデルコントロールグループ;
実験グループ3:60μMのインドメタシン剤を用いる陽性コントロール;
実験グループ4:15μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ5:50μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ6:150μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ7:450μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ8:1350μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ9:2000μg/mLのM型−SODを用いる。
【0124】
<濃度を決定する理由>
濃度を模索するテストの結果、SODの濃度が2000μg/mLまでの場合、ゼブラフィッシュに対する毒害作用が現れなかった。したがって、2000μg/mLを、SODによる抗炎症効果を評価する最高濃度とした。抗炎症効果を評価するための濃度をそれぞれ、15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLに設定した。
【0125】
<モデルの作製>
10μMの硫酸銅五水和物を水に溶解させた溶液を用いて、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュを処理し、ゼブラフィッシュ炎症モデルを構築した(具体的な方法は、d'Alenconら, BMC Biology. 2010,8:151,A high-throughputchemically inducedinflammation assay in zebrafish.を参照)。モデルコントロールグループでは、炎症部位(聴覚細胞領域)における好中球細胞の個数(15.5)は、正常コントロールグループ(1.3)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する。
【0126】
<実験方法>
遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュをランダムに選び、6穴プレートの1穴ごとに30匹を入れ、硫酸銅を用いてゼブラフィッシュ炎症モデルに誘発した。M型−SODを水溶液とし、それぞれ15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLの濃度にした。また、陽性コントロールのインドメタシン濃度を60μMにした。穴ごとに3mLの薬液を投入すると共に、正常コントロールグループおよびモデルコントロールグループを設けた。M型−SODによる処理の時間は5時間であった。処理が完了した後、グループごとに、ランダムに10匹のゼブラフィッシュを選び、蛍光顕微鏡で観察し、撮影した画像を保存した。NIKON製NIS−ElementsD 3.10(高級画像処理ソフト)で画像を分析し、炎症化ゼブラフィッシュにおける好中球細胞の個数(N)を計算し、定量分析を行った。試料の炎症解消率の計算式は以下の通りである。
【0127】
【数5】
【0128】
式中、試験対象グループは、M型−SODで処理されたグループと、インドメタシン剤で処理された陽性コントロールグループとを含む。
【0129】
分散分析およびDunnett's T−テストで統計学的分析を行ったところ、p<0.05であった。これは、有義差の存在を意味する。代表的な実験グラフを作成した。
【0130】
<実験結果>
モデルコントロールグループでは、炎症部位の好中球細胞の個数(15.5)は、正常コントロールグループ(1.3)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する。また、インドメタシンを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(1.9)は、モデルコントロールグループと比べてp<0.001であり、その炎症解消率は88%であった。これは、インドメタシンが抗炎症効果を有することを意味する。15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLのM型−SODを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数は、それぞれ14.9、11.8、8.3、3.6、1.4および1.2であり、その炎症解消率は、それぞれ4%、24%、47%、77%、91%および92%であった。モデルコントロールグループと比べ、M型−SODを用いたグループは、15μg/mLおよび50μg/mLのグループを除き、残りのグループが、p<0.05、p<0.01、およびp<0.001であった。これは、本実験の濃度条件下のM型−SODが、硫酸銅で誘発されたゼブラフィッシュ炎症に対して顕著な抗炎症効果を有することを意味する。また、効果と投与量との相関性を表している。詳細を表4、図13図14および図15に示す。
【0131】
【表6】
【0132】
(実験2 LPSで誘発された炎症に対する、M型−SODによる抗炎症効果の評価)
<濃度グループ>
実験グループ1:正常コントロールグループ、具体的には何ら処理されていない、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュ;
実験グループ2:モデルコントロールグループ;
実験グループ3:60μMのインドメタシン剤を用いる陽性コントロール;
実験グループ4:15μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ5:50μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ6:150μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ7:450μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ8:1350μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ9:2000μg/mLのM型−SODを用いる。
【0133】
<モデルの作製>
LPSを注射する方式で、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュを処理し、ゼブラフィッシュ炎症モデルを構築した。モデルコントロールグループでは、炎症部位(卵黄嚢領域)における好中球細胞の個数(17.8)は、正常コントロールグループ(2.4)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する(具体的なプロセスは、Li-LingYangら,Molecules2014,19,2390-2409.Endotoxin MoleculeLipopolysaccharide-Induced Zebrafish Inflammation Model:A Novel ScreeningMethod for Anti-Inflammatory Drugs.を参照)。
【0134】
<実験方法>
遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュをランダムに選び、6穴プレートの1穴ごとに30匹を入れ、LPSを用いてゼブラフィッシュ炎症モデルに誘発した。M型−SODを水溶液とし、それぞれ15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLの濃度にした。また、陽性コントロールのインドメタシン濃度を60μMにした。穴ごとに3mLの薬液を投入すると共に、正常コントロールグループおよびモデルコントロールグループを設けた。5時間処理した後、グループごとに、ランダムに10匹のゼブラフィッシュを選び、蛍光顕微鏡で観察し、撮影した画像を保存した。NIKON社製のNIS−Elements D 3.10(高級画像処理ソフト)で画像を分析し、炎症化ゼブラフィッシュにおける好中球細胞の個数(N)を計算し、定量分析を行った。試料の炎症解消率の計算式は以下の通りである。
【0135】
【数6】
【0136】
式中、試験対象グループは、M型−SODで処理されたグループと、インドメタシン剤で処理された陽性コントロールグループとを含む。
【0137】
分散分析およびDunnett's T−テストで統計学的分析を行ったところ、p<0.05であった。これは、有義差の存在を意味する。代表的な実験グラフを作成した。
【0138】
<実験結果>
モデルコントロールグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(17.8)は、正常コントロールグループ(2.4)と比べ、p<0.001であった。これはモデル構築の成功を意味する。また、インドメタシンを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(4.9)は、モデルコントロールグループと比べ、p<0.001であり、その炎症解消率は72%であった。これは、インドメタシンが抗炎症効果を有することを意味する。15μg/mL、50μg/mL、150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLのM型−SODを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数は、それぞれ17.7、14.9、12.3、11.7、7.4および6.3であり、その炎症解消率は、それぞれ0%、16%、31%、34%、58%および65%であった。モデルコントロールグループと比べ、M型−SODを用いたグループは、15μg/mLおよび50μg/mLのグループを除き、残りのグループが、p<0.05、p<0.01、およびp<0.001であった。これは、本実験の濃度条件下のM型−SODが、LPSで誘発されたゼブラフィッシュ炎症に対して顕著な抗炎症効果を有することを意味する。また、効果と投与量との相関性を表している。詳細を表5、図16図17および図18に示す。
【0139】
【表7】
【0140】
(実験3 尾切断損傷による炎症に対する、M型−SODによる抗炎症効果の評価)
<グループ>
実験グループ1:正常コントロールグループ、具体的には何ら処理されていない、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュ;
実験グループ2:モデルコントロールグループ;
実験グループ3:60μMのインドメタシン剤を用いる陽性コントロール;
実験グループ4:150μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ5:450μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ6:1350μg/mLのM型−SODを用いる;
実験グループ7:2000μg/mLのM型−SODを用いる。
【0141】
<モデルの作製>
遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュの尾ビレを器械で切断し、ゼブラフィッシュ炎症モデルを構築した。モデルコントロールグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(20.2)は、正常コントロールグループ(4.8)と比べ、p<0.001であった。これはモデル構築の成功を意味する。なお、稚魚の尾ビレの一部を切断した稚魚尾創傷モデルは、最も知られているゼブラフィッシュダメージモデルである。本発明者は、このような遺伝子導入ゼブラフィッシュの損傷モデルについて、好中球細胞の特有なペルオキシターゼ触媒の転写を制御しつつ発現させた緑色蛍光タンパク(EGFP)を利用し、損傷部位への好中球細胞の走化性に関する最新メカニズムを研究した(具体的には、J.Yuan, S.Shaham,S.Ledoux,et al. TheC.elegans cell death gene ced-3 encodes a protein similar to mammalianinterleukin-1β-converting enzyme[J].Cell, 1993,641-652.を参照)。
【0142】
<実験方法>
遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュの尾ビレを器械で切断した後、6穴プレートの1穴ごとに30匹をランダムに入れた。M型−SODを水溶液とし、それぞれ150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLの濃度にした。また、陽性コントロールのインドメタシン剤の濃度を60μMにした。穴ごとに3mLの薬液を投入すると共に、正常コントロールグループおよびモデルコントロールグループを設けた。5時間処理した後、グループごとに、ランダムに10匹のゼブラフィッシュを選び、蛍光顕微鏡で観察し、撮影した画像を保存した。NIKON社製のNIS−Elements D 3.10(高級画像処理ソフト)で画像を分析し、炎症化ゼブラフィッシュにおける好中球細胞の個数(N)を計算し、定量分析を行った。試料の炎症解消率の計算式は以下の通りである。
【0143】
【数7】
【0144】
式中、試験対象グループは、M型−SODで処理されたグループと、インドメタシン剤で処理された陽性コントロールグループとを含む。
【0145】
分散分析およびDunnett's T−テストで統計学的分析を行ったところ、p<0.05であった。これは、有義差の存在を意味する。代表的な実験グラフを作成した。
【0146】
<実験結果>
モデルコントロールグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(20.2)は、正常コントロールグループ(4.8)と比べ、p<0.001であった。これは、モデル構築の成功を意味する。また、インドメタシンを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数(7.6)は、モデルコントロールグループと比べ、p<0.001であり、その炎症解消率は62%であった。これは、インドメタシンが抗炎症効果を有することを意味する。150μg/mL、450μg/mL、1350μg/mLおよび2000μg/mLのM型−SODを用いたグループでは、炎症部位における好中球細胞の個数は、それぞれ14.3、9.9、8.4および8.3であり、その炎症解消率は、それぞれ29%、51%、58%および59%であった。モデルコントロールグループと比べ、M型−SODを用いたグループは、p<0.01、およびp<0.001であった。これは、本実験の濃度条件下のM型−SODが、ゼブラフィッシュの尾切断損傷による炎症に対して顕著な抗炎症効果を有することを意味する。また、効果と分量との相関性を表している。詳細を表6、図19図20および図21に示す。
【0147】
【表8】
【0148】
上記実験1〜3によると、本発明のM型−SODは、複数種の外因性刺激、たとえば、硫酸銅、LPSおよび尾切断により誘発されたゼブラフィッシュ炎症の何れに対しても顕著な抗炎症効果を有することが分かる。上記の幾つかの実験では、体の単核大食細胞システムは、LPSの継続的な刺激により、大量のサイトカインや活性酸素等の生物活性物質を生成し、細胞のダメージやアポトーシスを引き起こし、最終的には制御不能な炎症反応を誘起した。また、ゼブラフィッシュの聴覚細胞にダメージを与えて炎症を引き起こし得るCuSOは、局所性炎症反応の研究に用いられた。物理的な力でゼブラフィッシュの尾ビレを切断する尾切断実験は、ダメージ性炎症反応の研究に用いられた。また、遺伝子導入により好中球細胞を蛍光化したゼブラフィッシュにおける好中球細胞数を顕微鏡で観察することにより、モデル構築が成功したかどうかを確認し、その後、薬物(インドメタシン)およびM型−SODでの処理をそれぞれ行った。非ステロイド系抗炎症薬であるインドメタシンは、抗炎症、解熱および鎮痛の効果を有するが、不良反応の発生率が比較的高かった。なお、薬物で処理した後、炎症部位における好中球細胞数が少なければ少ないほど、炎症の解消が速くなり、薬物の抗炎症効果がより優れることを意味する。以上の実験データによると、全身性、局所性および物理的ダメージ性の炎症の何れにおいても、M型−SODによる治療効果は、薬物であるインドメタシンよりも優れ、またはそれに相当するものであった。
【0149】
〔実施例6〕皮膚炎症に対する、本発明の突然変異型耐高温性スーパーオキシドジスムターゼ(M型−SOD)による治療効果
(実験1 皮膚炎性湿疹に対する本発明による治療の臨床観察)
合計51名の被験者に、本製品(M型−SODをグリセリンに溶解、均一混合し、最終濃度が4000〜6000U/mgになるように調製したもの)を試験的に投与した。実験の内訳は、男性24名および女性27名のうち、年齢5〜15歳の被験者が14名、20〜30歳の被験者が26名、40〜50歳の被験者が6名、50歳以上の被験者が5名であった。
【0150】
<診断基準>
皮膚炎性湿疹の症状として、皮膚が赤色に変わり、重度な場合には、少々腫れ、または丘疹が発生して頂部に水疱が生じ、かゆくなる。掻き破った後、かさぶたが形成される(図22中、上側の写真を参照)。
【0151】
<投与方法>
1日3回、本発明の製品を患者の皮膚表面に塗布し、7日間の使用を1クールとした。
【0152】
<治療効果の評価基準>
有効:1週間使用した後、皮膚が正常に回復した。
【0153】
改善:80%の皮膚が正常に回復した(図22中、下側の写真を参照)。
【0154】
無効:一部の皮膚が改善基準に達さず、または改善されず、ないしは悪化し続けた。
【0155】
<結果>
【0156】
【表9】
【0157】
(実験2 白癬に対する本発明による治療の臨床観察)
合計47名の被験者に、本製品(M型−SODをグリセリンに溶解、均一混合し、最終濃度が4000〜6000U/mgになるように調製したもの)を試験的に投与した。実験の内訳は、男性22名および女性25名のうち、年齢15〜30歳の被験者が18名、30〜50歳の被験者が23名、50歳以上の被験者が6名であった。
【0158】
<診断基準>
手・足の白癬の症状として、足の指(手の指)の間の皮膚に角化、水疱、丘疹、糜爛、発赤性腫れが発生し、局所的発赤性腫れや、強烈な痒みが常に伴う(図23における上側の2つの写真を参照)。
【0159】
<投与方法>
1日3回、本発明の製品を患者の皮膚表面に塗布し、7日間の使用を1クールとした。
【0160】
<治療効果の評価基準>
有効:1週間使用した後、皮膚が正常に回復した(図23中、下側の2つの写真を参照)。
【0161】
改善:80%の皮膚が正常に回復した。
【0162】
無効:一部の皮膚が改善基準に達さず、または改善されず、ないしは悪化し続けた。
【0163】
<結果>
【0164】
【表10】
【0165】
(実験3 過敏性皮膚炎に対する本発明による治療の臨床観察)
合計74名の被験者に、本製品(M型−SODをグリセリンに溶解、均一混合し、最終濃度が4000〜6000U/mgになるように調製したもの)を試験的に投与した。実験の内訳は、男性38名および女性36名のうち、年齢15〜30歳の被験者が34名、30〜50歳の被験者が31名、50歳以上の被験者が9名であった。
【0166】
<診断基準>
抗原に起因する皮膚病である過敏性皮膚炎の主な症状として、人体が何らかの抗原に晒された場合に生じた皮膚の発赤性腫れ、痒み、膨疹、皮の剥け等(図24中、上側の写真を参照)。
【0167】
<投与方法>
1日3回、本発明の製品を患部の皮膚表面に塗布し、7日間の使用を1クールとした。
【0168】
<治療効果の評価基準>
有効:1週間使用した後、皮膚が正常に回復した(図24中、下側の写真を参照)。
【0169】
改善:80%の皮膚が正常に回復した。
【0170】
無効:一部の皮膚が改善基準に達さず、または改善されず、ないしは悪化し続けた。
【0171】
<結果>
【0172】
【表11】
【0173】
<結論>
炎症は、感染源、外傷または組織虚血に対する生体の防御反応である。炎症に共通する最も重要な病理学的特徴は、白血球(好中球細胞および大食細胞)の遷移、集結および浸潤である。中でも、好中球細胞の走化、遷移および集結による効果は、急性ダメージおよび炎症反応に対する効果的防御のための生体免疫反応メカニズムである。特に、生体自身の組織が損傷された場合や、体外の物質に侵された場合には、このような防御効果はさらに重要になる。
【0174】
しかし、このような防御プロセス(血管透過性の増加、白血球の遷移、集結および浸潤)では、局所的な酸化ストレスを引き起こすフリーラジカルが大量に生じるため、この酸化ストレスが解消(フリーラジカルが分解)されなければ、生体の組織および細胞のダメージ(脂質の過酸化、DNAダメージ等)が引き起こされ、炎症性細胞がダメージ箇所に過剰に集結し、継続的な、重度な炎症反応が誘起される。これは、ヒトに発生する様々な疾患、たとえば、慢性潰瘍性結腸炎、膣炎、咽頭炎等の粘膜炎症;やけど、熱傷、切り傷、感染、または外科手術もしくは放射線/化学的治療等の外因性炎症因子による炎症;手・足の白癬、皮膚炎、湿疹等の皮膚炎症、等において類似、共通の特徴である。
【0175】
様々な炎症反応の発生や進行には、病理学上で共通する基礎、即ち、好中球細胞の走化効果と遷移効果が存在する。炎症部位への好中球細胞の走化や遷移を効果的に抑制することは、有効な抗炎症薬物のスクリーニングの鍵となる。本発明は、複数種類のゼブラフィッシュ炎症モデルの構築に成功し、対応する臨床観察を実験として行った。その結果、本発明のM型−SODは、多くの炎症に対する治療効果が顕著であることが分かった。さらに、本発明は、炎症解消プロセスにおける好中球細胞の変化の規則を示した。このような細胞は、上記のように様々な炎症反応に関する特徴的な指標であるが、本発明のM型−SODは、上記プロセスにおける酸素フリーラジカルを除去することにより消炎効果を発揮している。したがって、本発明で提供されるM型−SODは、たとえば、様々な粘膜炎症、外因性炎症因子による炎症または皮膚炎症等、多くの炎症を効果的に治療することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
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図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]