【文献】
酒井忠基,リアクティブプロセシング技術と二軸スクリュ押出機の役割,プラスチックエージ,2012年,Vol.56, No.6,p.56-71
【文献】
附木貴行他,二軸押出成形機によるポリ乳酸/ポリエチレンブレンドからのラクチド還元リサイクル,高分子論文集,2006年,Vol.63, No.4,p.241-247
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記押出機には、キャリヤ樹脂を投入せずに、ポリ乳酸と解重合触媒を投入し、キャリヤ樹脂を使用せずに、前記ポリ乳酸溶融混練物を前記ベント室内に供給する請求項1に記載の回収方法。
【背景技術】
【0002】
近年におけるプラスチック使用量の増大に伴うプラスチック廃棄物の異常な増大を解決する手段として、バクテリヤや真菌類が体外に放出する酵素の作用で崩壊する生分解性プラスチックが注目されている。このような生分解性プラスチックの中でも、工業的に量産されて入手が容易であり、環境にも優しい脂肪族ポリエステルとして、ポリ乳酸が注目され、広範囲の分野での使用が種々提案されている。
【0003】
ポリ乳酸(PLA)は、トウモロコシなどの穀物でんぷんを原料とする樹脂であり、でんぷんの乳酸発酵物、L−乳酸をモノマーとする直接重縮合の重合体や、そのダイマーであるラクチドの開環重合により製造される重合体である。この重合体は、自然界に存在する微生物により、水と炭酸ガスに分解され、生物的な完全リサイクルシステム型の樹脂としても着目されている。
【0004】
最近では、ポリ乳酸のリサイクルシステムとして、ポリ乳酸を分解して再利用し得るケミカルリサイクル法が最も注目を浴びている。この方法は、ポリ乳酸を解重合触媒の存在下で加熱することにより解重合を行い、得られるラクチドを再度開環重合に供してポリ乳酸として再利用するというものである。
【0005】
このようなケミカルリサイクルに適用されるポリ乳酸からのラクチド回収装置は、例えば特許文献1及び2で提案されている。これら特許文献で提案されている装置では、ポリ乳酸と解重合触媒及びキャリヤ樹脂が、二軸押出機中に投入されて溶融混練され、溶融混練物は、二軸押出機中のスクリューによりベント室(ベントゾーン)に搬送され、このベント室でポリ乳酸の解重合により生成したラクチドがガス化して他の成分と分離して回収される。即ち、ポリ乳酸の解重合により生成する低分子量のラクチド(分子量144)は、標準大気圧下の沸点が255℃と高いため、減圧下に保持されたベント室にポリ乳酸と解重合触媒とを含む溶融混練物を供給することにより、生成するラクチドをガス状化して回収するというものである。
【0006】
このような回収装置で実施されるラクチドの回収方法は、実験室レベルでの実施には問題は無いのであるが、大量のポリ乳酸が投入される工業的実施には、解決すべき問題が残されている。
例えば、上記の方法では、押出機中で解重合触媒の混合と解重合とを実行しているため、押出機内の温度制御が難しく、高温で解重合が生じることがあり、この結果、ラセミ化が促進され、得られるラクチドの純度が低下するという問題がある。例えば、L−ラクチドの回収を目的とする場合には、ラセミ化の進行により、meso−ラクチド、さらにはD−ラクチドへの光学異性転移を生じ、目的とするL−ラクチドの純度が低下してしまう。
また、押出機内中では、キャリヤ樹脂が溶融圧縮されながら移動しており、このキャリヤ樹脂によって溶融粘度の小さなポリ乳酸の溶融物や解重合触媒が搬送されるのであるが、溶融圧縮されたキャリヤ樹脂が減圧されているベント室に導入されたとき、圧力開放によって膨張、及び解重合ラクチドの膨張により、キャリヤ樹脂が樹脂塊となってスクリュー搬送路から浮いてしまうという現象を生じることが本発明者等による研究により判っている。このような樹脂塊が大きく成長すると、キャリヤ樹脂表面全面を覆いガス状ラクチドが揮発しなくなったり、ポリ乳酸の解重合により生成しガス状化したラクチドの流路を塞いでしまい、ラクチドの回収効率が大幅に低下してしまったり、さらには、樹脂塊が飛散してベント室から捕集されたラクチドに混ざってしまうという重大な問題が生じることもある。
上記のようなキャリヤ樹脂の樹脂塊によりガス状ラクチドが揮発しにくい状態、あるいは揮発しなくなった状態を、一般に「ベントアップ」と呼んでいる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、ポリ乳酸の解重合により生成するラクチドを高純度で回収することが可能なラクチドの回収方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、樹脂塊の生成を有効に回避し、ベントアップを発生することなく、有効に回収することが可能なラクチドの回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、減圧下に保持されたベント室に通じる押出機にポリ乳酸及び解重合触媒を投入し、該押出機中でポリ乳酸と解重合触媒とを溶融混練し、該溶融混練物を前記ベント室内に供給し、該ベント室内でポリ乳酸の解重合を行い、生成したラクチドをガス化して該ベント室から回収することを特徴とするラクチド回収方法が提供される。
【0010】
本発明のラクチドの回収方法においては、
(1)前記押出機には、キャリヤ樹脂を投入せずに、ポリ乳酸と解重合触媒を投入し、キャリヤ樹脂を使用せずに、前記ポリ乳酸溶融混練物を前記ベント室内に供給すること、
(2)前記ベント室には、ガス化したラクチドを捕集するための捕集装置が連結されていること、
(3)前記ベント室の底部には、ガス化したラクチドが除去された後の残渣を排出するための排出管が設けられていること、
(4)前記解重合触媒を、押出機の押出方向に対して、ポリ乳酸よりも下流側で該押出機内に投入すること、
(5)前記押出機の吐出口でのポリ乳酸溶融物の温度が270℃以下となるように該押出機内の温度を設定し、前記ベント室を8kPaA以下の圧力で250〜330℃の温度に設定すること、
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、ポリ乳酸と解重合触媒との溶融混練を押出機中で行い、ポリ乳酸の解重合は、該押出機に連なるベント室で生成ラクチドをガス状化するベント室内で行われる。
即ち、押出機内でポリ乳酸の解重合を行う場合には、解重合により生成するラクチドのラセミ化を生じ易く、光学異性体を含まない高純度のラクチドを得難い。押出機内では、押出スクリューによりポリ乳酸を含む溶融混練物の搬送が行われるため、スクリューとシリンダー壁との間の空隙が狭く、シリンダー壁に取り付けられたヒータにより加熱を行う場合、押出機内の溶融混練物の調整が極めて難しい。ヒータ(シリンダー壁)からの外部加熱と同時に、押出スクリューの回転による内部加熱(剪断発熱)によって溶融混練物が加熱されてしまうためである。このため、ポリ乳酸が、局部的に必要以上に高い温度に加熱されてしまう場合が多く、高温での解重合は生成するラクチドのラセミ化をもたらしてしまう。
しかるに、本発明では、押出機中ではポリ乳酸の解重合を行わず、押出機とは異なり温度コントロールの容易なベント室内で解重合を行うため、生成するラクチドのラセミ化を有効に防止し、光学的に高純度のラクチドを回収することができる。
【0012】
また、本発明においては、キャリヤ樹脂を使用せずに、ラクチドの回収を行うことができるという大きな利点がある。押出機中で解重合を行う場合に比して、低い樹脂温度、即ち、比較的高い溶融粘度でポリ乳酸を押し出すことができるため、キャリヤ樹脂を使用しなくとも、その搬送性を確保することができ、しかも、押出スクリューとシリンダー壁との間のシール性を溶融樹脂によって確保することができるからである。
即ち、本発明では、ベントアップを引き起こす樹脂塊の基となるキャリヤ樹脂を使用せずにラクチドの回収工程を実行することができるということは、ベント室での閉塞や樹脂塊の捕集ラクチドへの混入等の問題を確実に防止することができることを意味し、これは、本発明の大きな利点である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本発明のラクチド回収方法を実施するために使用される回収装置は、大まかに言って、押出機(溶融混練装置)1、押出機1に連なるベント室3、ベント室3に連なる捕集装置5から構成されており、通常、捕集装置5側に設けられている真空ポンプ7により、ベント室3が所定の減圧度に保持されるようになっている。
【0015】
本発明では、このような回収装置を使用し、ポリ乳酸及び解重合用触媒、さらには必要によりキャリヤ樹脂を、押出機1に投入して押出機1のシリンダー内で溶融混練し、この溶融混練物(溶融樹脂)をベント室3に供給し、このベント室3において、ポリ乳酸を解重合させ、ポリ乳酸の解重合により生成したラクチドをガス状化し、ガス状化したラクチドは、捕集管15を介してベント室3から捕集装置5に導入され、気液分離塔51と第1の凝集器53を経て液化して、受け器59から回収される。
【0016】
ラクチド回収のために使用されるポリ乳酸としては、市場回収品(Post Consumer)や樹脂加工メーカー工場から排出される産業廃棄物、或いはポリ乳酸樹脂の製造工程で発生するスペックアウト樹脂などが使用される。さらに、L−乳酸(PLLA)とD−乳酸(PDLA)とを混合したステレオコンプレックスタイプでもよいし、分子鎖中のL−乳酸単位とD−乳酸単位とが混在するメソタイプのものであっても差し支えない。勿論、バージンのポリ乳酸であっても問題はない。
また、用いるポリ乳酸は、少量の共重合単位が組みこまれているもの、例えば、50モル%以上が乳酸単位であることを条件として、ラクチドと共重合可能なラクトン類、環状エーテル類、環状アミド類、各種アルコール類、カルボン酸類などに由来する単位を含んでいてもよい。
【0017】
ポリ乳酸の解重合用触媒としては、MgOが代表的であり、最も好適に使用されるが、CaO、SrO、BaO等のアルカリ土類金属酸化物なども使用し得る。更に、重合触媒に使用されるSn(II)2−ethyle hexanoateや難燃剤である水酸化アルミニウムAl(OH)
3も好適に使用することができる。またこれら触媒を混合して使用することもできる。かかる解重合触媒は、ポリ乳酸の解重合温度を低下させるものであり、解重合触媒の使用により、ポリ乳酸の熱分解が促進され、ポリ乳酸の低分子量化が進行し、例えば押出機1のホッパー投入時に約20万の分子量を有していたポリ乳酸が、分子量が144のラクチドまで分解する。また、MgOなどは、熱反応時のラセミ化現象を抑制する効果もあり、本発明では、最も好適に使用される。
【0018】
上記のポリ乳酸の解重合用触媒は、通常、ポリ乳酸100質量部当り、0.1〜5質量部の量で使用される。
【0019】
また、必要により使用されるキャリヤ樹脂としては、ポリ乳酸の解重合に悪影響を与えず、且つポリ乳酸の解重合により生成するラクチドに対して反応性を示さない限りにおいて、種々の熱可塑性樹脂を使用することができるが、一般的には、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、ポリプロピレン(PP)等のオレフィン系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリカーボネート(PC)等のポリエーテル、ポリスチレン(PS)などのスチロール樹脂などが好適に使用される。なかでも溶融粘度の高い、HDPE、LDPE、PPを好適に使用できる。
【0020】
押出機1及びベント室3の断面構造の一例を示す
図2を参照して、上記で述べたポリ乳酸、解重合触媒及び必要により使用されるキャリヤ樹脂は、先端がベント室3に通じている押出機1内に投入される。
図2において、押出機1は、筒状のシリンダー壁20の内部に押出スクリュー21,23を備えた2軸構造を有しているが、勿論、押出スクリューが1本の短軸構造を有する一軸押出機を使用することもできる。
かかる押出機1は、2つのホッパー1a,1bを有しており、押出スクリュー21,23の押出方向に対して、ホッパー1aは上流側に位置し、ホッパー1bは下流側に位置している。
尚、この押出機1の先端の吐出口1’はこの形状には限らないがテーパー状の先細形状を有しており、ベント室3内にまで延びている。これにより、溶融樹脂がスムーズにベント室3内に押し出され、且つベント室3の真空度が損なわれないようなシールを効果的に行い得るようになっている。
【0021】
また、図示されていないが、シリンダー壁20にはヒータが装着されており、このヒータにより押出機1の内部が加熱されるようになっている。本発明では、押出機1の内部は、押出機1内に投入されるポリ乳酸の溶融温度よりも高いが解重合を生じない程度の温度に加熱され、例えば押出機1の吐出口1’での樹脂温度が270℃以下、特に170〜270℃、より好ましくは200〜255℃の範囲となるように押出機1の内部が加熱される。
即ち、押出機1の吐出口1’から押し出される溶融樹脂の温度が必要以上に高いと、押出機1内でポリ乳酸の熱分解が生じたり、生成するラクチドのラセミ化が生じ易くなってしまうし、ベント室3内に高温の溶融樹脂が供給されることによってベント室3内の温度調整が損なわれてしまい、生成するラクチドのラセミ化が多くなってしまうこともある。さらに、吐出口1’での溶融樹脂の温度が低すぎると、溶融していない樹脂が含まれていたり、ポリ乳酸と解重合触媒との混練が不足する恐れもある。従って、押出機1の吐出口1’での樹脂温度が上記範囲となるように、押出機1の内部が加熱されることが好適となる。
尚、上述したように、吐出口1’での樹脂温度が270℃以下となるように設定したとしても、押出スクリュー21,23等との接触面では、スクリュー回転による剪断発熱により、ミクロ的に見れば極めて少量のポリ乳酸が270℃を超える温度に加熱されることもある。しかしながら、本発明では、このような高温に加熱されたポリ乳酸が解重合触媒と接触したとしても、押出機1内での滞留時間が極めて短く、ベント室3内に放出されてしまうため、このような高温加熱された微量のポリ乳酸の存在によるラセミ化は無視できるレベルである。
【0022】
前述したポリ乳酸、解重合触媒及び必要により使用されるキャリヤ樹脂は、吐出口1’での樹脂温度が上記の範囲となるように、内部が加熱されている押出機1内に投入され、溶融混練され、押出スクリュー21,23により搬送されて吐出口1’から、減圧されているベント室3内に押し出される。
この場合、ポリ乳酸及び必要により使用されるキャリヤ樹脂は、上流側のホッパー1aから投入されるが、解重合触媒は、下流側に位置しているホッパー1bから投入されることが望ましい。
【0023】
即ち、ポリ乳酸と解重合触媒とが接触している状態で高温に加熱されると、解重合により生成するラクチドのラセミ化を生じ、回収されるラクチドの純度が低下するおそれがある。押出機1内の温度は、解重合が生じない程度の温度に設定されているため、原理的には解重合もラセミ化も生じないのであるが、
図2から理解されるように、押出機1内には押出スクリュー21,23が設けられており、シリンダー壁20と押出スクリュー21,23との間の非常に狭い空間にポリ乳酸等が投入されて溶融混練及び混練物の溶融押出が行われるため、その温度調整が非常に難しく、特に押出スクリュー21,23の回転による剪断発熱も生じるため、混練物が局部的にかなりの高温に達してしまうことがある。このような高温状態の溶融物中に解重合触媒が存在していると、局部的に解重合が生じ、さらには解重合により生成したラクチドのラセミ化を生じてしまうわけである。
しかるに、解重合触媒を、後流側のホッパー1bから投入することにより、局部的な高温状態が生じていたとしても、押出機1内での滞留時間が短く、解重合触媒の存在下で高温状態に維持される時間が大幅に短縮されるため、解重合によりラクチドが生成したとしても、そのラセミ化をより有効に回避することができる。
【0024】
尚、ラセミ化を確実に防止するために、解重合触媒をベント室3で供給する手法も考えられるが、かかる手段は採用できない。ベント室3での混合撹拌能力は、押出機1に比してかなり劣っているため、ポリ乳酸と解重合触媒とをムラなく均一に接触させることが困難となり、解重合を効果的に行うことが困難となってしまうからである。
【0025】
また、本発明においては、通常の回収方法では不可欠のキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらには、その使用を省略し、キャリヤレスとすることもできる。
【0026】
即ち、ラクチドを含んだポリ乳酸は、その分子量によっても異なるが、概して溶融粘度が通常のポリマーに比してかなり低いため、一般的には、スクリューによるポリ乳酸溶融物の搬送を効率よく行うことが困難である。スクリューが空回りに近い状態となってしまうからである。このため、通常の回収方法では、キャリヤ樹脂を併用することにより、押出機中でのポリ乳酸溶融物を含む溶融樹脂の粘性を高め、効率よく、ポリ乳酸の溶融物をスクリュー搬送することができるようにしている。また、キャリヤ樹脂は、ラクチドを含んだポリ乳酸に比して溶融粘度が高いことから、これをある程度以上の量で使用してポリ乳酸と溶融混合することにより、押出機1のシリンダー20の内面とスクリュー21,23との間の空隙を溶融混合物が充満した状態を維持しながら、該溶融混合物をスクリュー搬送することができる。即ち、キャリヤ樹脂の使用により、シリンダー20の内面とスクリュー21,23との間の空隙が常にシールされている状態を保持することが可能となり、これにより、ベント室3の減圧を効果的に行うことができる。
このように、キャリヤ樹脂を用いることにより、ポリ乳酸の溶融物の搬送(押出)を効果的に行うことができ、さらに、ベント室3の減圧度も確保できるため、一般的な方法では、ポリ乳酸100質量部当り150質量部以上の量で使用されるわけであるが、本発明では、押出機1中で解重合を行わないため、押出機1の吐出口1’での樹脂温が270℃以下となるように低く設定されているため、キャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらには、キャリヤ樹脂を使用せずに、ラクチドの回収を実施することができる。
即ち、押出機1内の温度が低く設定されているため、押出機1内で溶融したポリ乳酸の溶融粘度が高く、この結果、キャリヤ樹脂の使用量を、例えば20質量部未満に低減させ、さらにはキャリヤ樹脂を使用しなくとも、ポリ乳酸のスクリュー搬送を効果的に行うことができ、しかも、シール性を確保し、ベント室3内の減圧度を維持することが可能となるわけである。
【0027】
さらに、本発明において、上記のようにキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらにキャリヤ樹脂を全く使用しない場合には、稼働コストの低減に極めて有利であるばかりか、ベントアップの要因となる樹脂塊の生成を防止することもでき、工業的実施に極めて有利となる。
【0028】
ポリ乳酸及び解重合触媒を含む溶融樹脂は、減圧状態に保持されたベント室3内に押し出され、このベント室3内でポリ乳酸の解重合及び解重合により生成したラクチドのガス化が行われる。
【0029】
かかるベント室3は、ポリ乳酸の解重合及び解重合により生成したラクチドのガス化を効果的に行うために、全体として漏斗形状を有しており、ベント室3の外壁に装着されているヒータ(図示せず)により、ベント室3内の溶融樹脂(
図2において33で示されている)の温度が250〜330℃、特に270〜320℃に保持されるように加熱され、さらに、真空ポンプ7の作動により、8kPaA以下、特に0.1〜8kPaAに減圧される。ベント室3内の樹脂温が上記範囲を下回ると、ラクチドが生成しないおそれがあり、また、上記範囲を上回ると、ラクチドのラセミ化が多くなり、回収されるラクチドの光学的純度が低下するおそれがある。
【0030】
また、ベント室3には、その中心部分を上下方向に延びている撹拌軸30が設けられており、この撹拌軸30には螺旋状の撹拌羽根31が設けられており、押出機1から供給された溶融樹脂33を撹拌しながらポリ乳酸の解重合及び生成するラクチドのガス化を有効に行われるように構成されている。
【0031】
即ち、ベント室3内では、解重合によりポリ乳酸の低分子量化が進行していき、ポリ乳酸の基本単位を形成しているラクチド(乳酸2量体)が得られるが、このラクチドの標準大気圧下での沸点は255℃であるため、大気圧下では、気体液体の相分離の境界領域であり、安定したガス捕集が困難である。即ち、ラクチドが液状のままの状態では、溶融キャリヤ樹脂との分離を効果的、且つ安定的に行うことができないため、上記のような減圧度にベント室3内を保持し、ラクチドの沸点を降下させ、ガス化を促進させる。
【0032】
また、ベント室3には、2つの排出管3a,3bが連結されていることが好適である。
一方の排出管3aは、ベント室3の底部に連結されており、ガス化によりラクチドが除去された後の溶融樹脂33の残渣(触媒残渣や必要により使用されるキャリヤ樹脂など)は、ベント室3の底部に設けられている排出管3aから排出されて廃棄されるようになっている。ベント室3は、溶融樹脂33の攪拌効率を高くするという点で、
図2に示されているように全体として漏斗形状を有していることが好ましいのであるが、かかる排出管3aからの残渣の排出を効果的に行うためにも、ベント室3は、漏斗形状を有していることが好ましい。
他方の排出管3bは、ベント室3の側壁に連結されており、溶融樹脂33の表面部に存在する低比重の不純物を除去するためのものである。即ち、本発明方法に使用されるポリ乳酸は、一般的には、種々の添加剤が配合されており、これらの中には、ポリ乳酸によりも比重の低いものが存在する。また、必要により使用されるキャリヤ樹脂の中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)などはポリ乳酸よりも比重が高いが、オレフィン系樹脂などはポリ乳酸よりも比重が低い。このような低比重の不純物は、ベント室3内の溶融樹脂33の表面に浮いてくるおそれがある。生成したラクチドのガス化は溶融樹脂33を撹拌しながら行われるため、このような低比重の不純物の存在はさほど問題とはならないが、表面に浮いた低比重不純物の量が多くなってしまうと、ラクチドのガス化が阻害されるおそれがある。このため、ベント室3の側壁部の上方に排出管3bを設け、溶融樹脂33の表面に浮いた低比重不純物を適宜除去し得るようにしておくことが好適となる。
【0033】
尚、従来行われている一般的な方法のように、キャリヤ樹脂を用いて解重合及びラクチドのガス化を行う場合、キャリヤ樹脂の塊状物が形成され、この塊状物がラクチドのガス化を妨げたり、或いは捕集管15内に入り込んでしまうなど、ベントアップを生じせしめることがあるが、前述したように、本発明ではキャリヤ樹脂の使用量を低減させ、さらにはキャリヤ樹脂の使用を省略することができ、このような問題を有効に或いは確実に回避することができる。
【0034】
さらに、ベント室3によりガス状化されたラクチドは、ベント室3の上部壁(或いは天井壁)に設けられている捕集管15を介して捕集装置5に導入されるが、
図2に示されているように、この捕集管15は、上方に傾斜して延びており且つ、真空ブレイク防止弁50が設けられており、異常時等に、この弁50を開閉し得るようになっている。
【0035】
また、この捕集管15の入り口部分には、還流液を受けるための受け槽15aを設けておくことが望ましい。即ち、捕集管15内で液化したラクチドは、この受け槽15aで捕集し、ベント室3内に流れ落ちないような構造としておくことがラクチドのラセミ化を防止する上で好適である。ラクチドの液化及びガス化が繰り返されると、ラセミ化を生じるおそれがあるためである。
尚、この受け槽15aには、真空ブレイク/復旧ライン15b及び回収ライン15cが設けられており、ベント室3の減圧度を保持し、受け槽15aに還流したラクチドを回収し得るようにしておくことが望ましい。
【0036】
尚、ベント室3の天井壁は、
図2に示されているように、径方向外方に向かって下方に傾斜した傾斜壁としておくことが好ましく、このような傾斜壁に、ベント室3内を観察するための覗き窓35を設けておくことが望ましい。即ち、ベント室3の天井部分或いは覗き窓35によってガス状化されたラクチドが液状に冷却されて還流液を生じた場合、このような還流液が、溶融樹脂33と混ざってラクチドの液化及びガス化が繰り返されないようにするためである。従って、覗き窓35は、二重窓とし、保温性を高めてガス化されたラクチドの液化を防止する構造とすることが好ましく、また、
図2では省略されているが、ベント室3の側壁部分には、上記の捕集管15と同様、このような還流液を回収するための受け槽を設けておくことが好ましい。
【0037】
上述した捕集管15が連結している捕集装置5においては、気液分離塔51、第1の凝縮器53、第2の凝縮器55及び深冷トラップ57を備えており、これにより、ベント室3から捕集されたラクチドのガス状化物から気液分離により不純物を除き、高純度のラクチドが回収されるようになっている。即ち、ベント室3から捕集されたラクチドのガス状化物には、ラクチド以外に、乳酸のオリゴマー、ポリ乳酸或いはキャリヤ樹脂に配合されていた滑剤等に由来する各種の低分子化合物などが含まれているため、これらを除去する必要がある。
【0038】
具体的には、ガス回収したラクチドを、気液分離塔(整流塔)51に通し気液分離塔内のデミスターで高分子量オリゴマー成分を除去後、第1の凝縮器(熱交換器)53に導入し、ラクチドのみ相転換(Phase change)させ液状ラクチドとして回収する。
【0039】
相転換の適正熱交換温度は真空度に依存し変化するが、一般に、標準大気圧下のラクチド(L−ラクチド/D−ラクチド)の沸点と融点がそれぞれ、255℃、及び、92℃〜94℃であることから、0.1KPaA〜8KPaAの真空度範囲で熱交換温度は60℃〜140℃が好ましく、真空度範囲が0.5PaA〜4KPaAで熱交換温度は80℃〜100℃がより好ましい。
例えば、0.1KPaAよりも低いと、真空度が高すぎるため、気液分離塔51や第1の凝縮器53を通過するラクチドガスの速度が速くなり過ぎてしまうため、熱交換などに十分な時間がとれず、ラクチドの純度低下や回収効率低下のおそれがある。また、8KPaAよりも高いと、真空度が低すぎるため、ラクチドの沸点降下が不十分であり、ラクチドガス化が不十分となり、回収効率が低下する傾向がある。
また、熱交換温度が上記範囲よりも低いと、低沸点不純物の液状化を生じ、回収ラクチドの純度が落ちる虞があり、熱交換温度が上記範囲よりも高いと、ラクチドが液状化しにくいため、ラクチド回収効率が低下する虞がある。
【0040】
また、ポリ乳酸解重合物(ラクチド)をガス回収するため、捕集装置5内の設備(気液分離塔51,第1の凝集器53、第2の凝集器55など)はベント室3よりも高い位置に設置することが好ましい。
【0041】
このようにしてオリゴマーが除かれたガスは、第1の凝縮器(熱交換器)53により90℃程度に冷却され、これにより、目的とするラクチドが液化され、受け器59に回収される。残ったガスは、第2の凝縮器(熱交換機)55で5℃程度に冷却され、低沸点の低分子化合物が除去され、最後に、深冷トラップ57により−50℃程度まで冷却され、残存化合物も液体として除去されることとなる。
【0042】
尚、前述した受け槽15aの底部に溜まった液などは、そのまま廃棄することもできるし、問題が無ければ、受け器59で回収された液状ラクチドと合わせて、精製工程に導入することができる。
【0043】
尚、上述した
図1及び
図2の例では、押出機1が水平方向に延びているが、この押出機1は、傾斜して延びてベント室3に連結されていてもよいし、上下方向(垂直方向)に延びてベント室3に連結されていてもよい。
図3には、押出機1が上下方向に延びている例が示されている。
即ち、押出機1の吐出口1’からは、溶融樹脂33が紐状に押し出されるが、押出機1が傾斜して設けられている場合、或いは
図3に示されているように、垂直方向に延びている場合には、このような紐状に押し出される溶融樹脂33が、ベント室3の側壁に沿って垂れ落ちることなく、スムーズにベント室3内に供給できるという利点がある。
【0044】
また、
図3においては、基本的な構造は
図2に示されている装置と同じであり、全て同じ数字で各部材が示されている。例えば、
図3の例では、覗き窓35が垂直方向に延びている側壁に設けられているが、この場合においても、捕集管15と同様、この覗き窓35で冷却されて生じるラクチドの還流液を回収するための受け槽を覗き窓35の下方の側壁に設けておくことが望ましい。
【0045】
また、上述した装置を用いて行う本発明の回収方法においては、押出機1からポリ乳酸を含む溶融樹脂をベント室3内に供給しながら、ベント室3内で解重合及びラクチドのガス状化を連続的に行うことが好ましいが、勿論、バッチ式でラクチドの回収を行うこともできる。即ち、一定量の溶融樹脂をベント室3内に供給した後、押出機1を停止し、ベント室3内で解重合及びラクチドのガス状化を実施することもできる。
【0046】
かかる本発明によれば、ラクチドのラセミ化を有効に防止し、高純度のラクチドを回収することができる。
また、キャリヤ樹脂の使用量を低減でき、さらには、キャリヤ樹脂の使用を省略することもできる。