特許第6691657号(P6691657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6691657熱履歴検出剤、熱履歴評価方法、装置性能評価方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691657
(24)【登録日】2020年4月15日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】熱履歴検出剤、熱履歴評価方法、装置性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01K 11/00 20060101AFI20200427BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20200427BHJP
   C07C 235/34 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   G01K11/00 Z
   A23L5/10 Z
   !C07C235/34
【請求項の数】4
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2016-33560(P2016-33560)
(22)【出願日】2016年2月24日
(65)【公開番号】特開2017-149672(P2017-149672A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2019年1月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 日本食品科学工学会第62回大会事務局 刊行物名 日本食品科学工学会第62回大会講演集 発行年月日 2015年8月27日 集会名 日本食品科学工学会第62回大会 開催場所 京都大学吉田キャンパス北部構内(京都市左京区北白川追分町) 開催日 2015年8月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】隅谷 栄伸
(72)【発明者】
【氏名】大木 伽耶子
【審査官】 山本 昌広
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−40640(JP,A)
【文献】 Scientific Reports,2012年,Vol.2,Article number 689
【文献】 Journal of Agricultural and Food Chemistry,2015年,Vol.63, No.13,p.3426-3436
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 11/00−11/32
A23L 5/00−5/49
C07C 231/00−237/52
CAplus(STN)
CASREACT(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学構造式(1):
【化2】

で表される熱履歴検出化合物を含む熱履歴検出剤。
【請求項2】
加熱前の飲食品における下記化学構造式(1):
【化4】

で表される化合物の含有量を測定する加熱前測定工程と、
加熱後の前記飲食品における前記化合物の含有量を測定する加熱後測定工程と、
前記加熱前測定工程及び前記加熱後測定工程のそれぞれにおいて得られた測定値に基づいて前記化合物の変動度を算出する変動度算出工程と、
前記変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記化合物の変動度との関係式から前記飲食品の加熱量を算出する加熱量算出工程と、を包含する熱履歴評価方法。
【請求項3】
下記化学構造式(1):
【化5】

で表される化合物の所定量を加熱前の飲食品に添加する加熱前添加工程と、
加熱後の前記飲食品における前記化合物の含有量を測定する加熱後測定工程と、
前記加熱前添加工程における添加量及び前記加熱後測定工程において得られた測定値に基づいて前記化合物の変動度を算出する変動度算出工程と、
前記変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記化合物の変動度との関係式から前記飲食品の加熱量を算出する加熱量算出工程と、を包含する熱履歴評価方法。
【請求項4】
下記化学構造式(1):
【化6】

で表される化合物を所定量収容した遮光容器を、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の中に設置した状態で該装置を稼働させる保存工程と、
前記保存工程後の前記化合物の量を測定して、前記保存工程前の前記化合物の量と比較する測定工程と、を包含する装置性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェルロイルプトレシンの異性体である新規化合物とその用途、及び当該新規化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
市販される飲食品の中には、その調理・製造過程において加熱されたり、また安全性確保のために加熱殺菌処理されたり、あるいは売店等で加温販売されるものがある。
【0003】
そのような飲食品の品質や殺菌効果は、加熱条件、例えば加熱温度や加熱時間等に影響を受けるため、飲食品がどの程度の熱を受けているのかを正確に把握することは食品企業にとって重要な課題となっている。
【0004】
そのため食品企業は、例えば、コンビニエンスストア等に設置されている加温販売用の加温器(ホットウォーマー)や加熱殺菌に使用するレトルト装置等に、熱電対による温度センサーやデータロガー温度計を設置して、これにより温度や時間等の加熱条件を記録しておくことによって、飲食品に関する熱履歴の評価を行っている。
【0005】
尚、上述の様な従来の熱履歴評価方法に関しては、当業者の間で広く知られているものであるため、先行技術文献を示さない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
温度センサーやデータロガー温度計は高価な機器であり、コスト増となるため設置できる数に限りがある。またそもそも飲食品の熱伝導率は飲食品のそれぞれの物性によって異なるため、温度や時間等の加熱条件の記録だけでは、飲食品が実際に受けた熱履歴を正確に把握することは困難であった。
【0007】
本発明の目的は、所定の温度で加熱される飲食品の熱履歴や、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の性能を簡便且つ安価な方法で正確に把握することを可能にする、新規化合物及びその製造方法、熱履歴検出化合物、熱履歴検出剤、熱履歴評価方法、装置性能評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の熱履歴検出剤は、下記化学構造式(1):
【化3】
で表される熱履歴検出化合物を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明の熱履歴評価方法は、加熱前の飲食品における下記化学構造式(1):
【化5】
で表される化合物の含有量を測定する加熱前測定工程と、
加熱後の前記飲食品における前記化合物の含有量を測定する加熱後測定工程と、
前記加熱前測定工程及び前記加熱後測定工程のそれぞれにおいて得られた測定値に基づいて前記化合物の変動度を算出する変動度算出工程と、
前記変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記化合物の変動度との関係式から前記飲食品の加熱量を算出する加熱量算出工程と、を包含することを特徴とする。
【0013】
本発明の熱履歴評価方法は、下記化学構造式(1):
【化6】
で表される化合物の所定量を加熱前の飲食品に添加する加熱前添加工程と、
加熱後の前記飲食品における前記化合物の含有量を測定する加熱後測定工程と、
前記加熱前添加工程における添加量及び前記加熱後測定工程において得られた測定値に基づいて前記化合物の変動度を算出する変動度算出工程と、
前記変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記化合物の変動度との関係式から前記飲食品の加熱量を算出する加熱量算出工程と、を包含することを特徴とする。
【0014】
本発明の装置性能評価方法は、下記化学構造式(1):
【化7】

で表される化合物を所定量収容した遮光容器を、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の中に設置した状態で該装置を稼働させる保存工程と、前記保存工程後の前記化合物の量を測定して、前記保存工程前の前記化合物の量と比較する測定工程と、を包含することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の新規化合物は、果実や野菜等に含まれるフェルロイルプトレシン(Feruloylputrescine)の異性体であり、フェルロイルプトレシン(トランス体)に光が照射されて、シス体に変換されることによって生成される。
【0016】
本発明の新規化合物は、所定の温度で加熱されることによって、フェルロイルプトレシンに変換されるという性質を有する。そのため、本発明の新規化合物を熱履歴検出化合物として使用することによって、所定の温度で加熱される飲食品の熱履歴や、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の性能を簡便且つ安価な方法で正確に把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】オレンジ果汁飲料のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図2】オレンジ果汁飲料に含まれる光変動物質(成分A及び成分B)の濃度と保存期間との関係を示すグラフである。
図3】試料DのLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図4】フェルロイルプトレシン標準品のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図5】試料Dとフェルロイルプトレシン標準品との混合物のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図6】試料DのLC−MS/MSプロダクトイオンスキャンスペクトルを示す図である。
図7】フェルロイルプトレシン標準品のLC−MS/MSプロダクトイオンスキャンスペクトルを示す図である。
図8】光照射前のフェルロイルプトレシン溶液のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図9】光照射1週間のフェルロイルプトレシン溶液のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図10】光照射2週間のフェルロイルプトレシン溶液のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図11】試料LW4における成分AのLC−MS/MSプロダクトイオンスキャンスペクトルを示す図である。
図12】試料LW4における成分BのLC−MS/MSプロダクトイオンスキャンスペクトルを示す図である。
図13】フェルロイルプトレシン標準品のLC−MS/MSプロダクトイオンスキャンスペクトルを示す図である。
図14】フェルロイルプトレシン標準品(成分B)の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図15】単離した成分Aの13C−NMRスペクトルを示す図である。
図16】フェルロイルプトレシンの炭素原子、酸素原子、水素原子のそれぞれに番号を付した図である。
図17】成分A及び成分Bのそれぞれの13C−NMRスペクトルにおける化学シフトを示す図である。
図18】フェルロイルプトレシン標準品(成分B)のH−NMRスペクトルを示す図である。
図19】単離した成分AのH−NMRスペクトルを示す図である。
図20】成分A及び成分BのそれぞれのH−NMRスペクトルにおける化学シフトを示す図である。
図21】成分B(トランス体)が光によって成分A(シス体)に変換され、成分A(シス体)が加熱により成分B(トランス体)に変換される様子を示す図である。
図22】成分Aの加熱試験におけるLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)を示す図である。
図23】加熱試験における成分Aの割合を示す図である。
図24】加熱試験における成分Aの割合を示す図である。
図25】加熱試験における成分Aの割合を示す図である。
図26】加熱前後の成分Aのベースピーククロマトグラムを示す図である。
図27】成分Aの加熱試験(30℃、40℃、50℃)における成分Bの生成速度に関するアレニウスプロットを示す図である。
図28】成分Aの加熱試験(60℃、70℃、80℃)における成分Bの生成速度に関するアレニウスプロットを示す図である。
図29】各温度における成分Bの生成速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔本発明の新規化合物〕
本発明の新規化合物は、下記化学構造式(1):
【化8】
で表されるものである。
【0019】
図21に示すように、本発明の新規化合物(化学構造式(1))は、所定の温度で加熱されることによって、フェルロイルプトレシン(化学構造式(2))に変換されるという性質を有する。そのため、飲食品の加熱前後において、本発明の新規化合物の含有量を測定することによって、当該飲食品がどの程度の熱を受けたのかを正確に把握することができる。即ち、本発明の新規化合物を、熱履歴検出化合物として利用することができる。また本発明の新規化合物は、所定の果実や野菜等に由来する化合物であるため人体に安全であり、また水溶性であるため、飲食品中に溶け易く、洗浄による除去も容易である。
【0020】
〔熱履歴検出剤〕
本発明の熱履歴検出剤は、上記化学構造式(1)で表される新規化合物を所定量含むものである。本発明の熱履歴検出剤は好ましくは水溶液であり、必要に応じて公知の増粘剤や、腐敗防止のためのアルコール等を含んでいても良い。
【0021】
また、本発明の熱履歴検出剤は、上記新規化合物の他にも、例えば、フェルロイルプトレシン(Feruloylputrescine)を所定量含んでいても良い。そのような熱履歴検出剤としては、例えば、上記新規化合物とフェルロイルプトレシンとを含み、且つそれらの濃度が予め測定されている、果物や野菜の搾汁等が挙げられる。
【0022】
尚、加熱されてフェルロイルプトレシンに変換されたものが、光によって再び上記新規化合物に変換されてしまうことを防ぐために、本発明の熱履歴検出剤については、遮光状態で使用する必要がある。
【0023】
〔製造方法〕
本発明の新規化合物の製造方法は、下記化学構造式(2):
【化9】
で表される化合物に光を照射する工程を包含する。
【0024】
上記化学構造式(2)で表される化合物は、フェルロイルプトレシンである。図21に示すように、フェルロイルプトレシン(化学構造式(2))は、光が照射されることによって、本発明の新規化合物(化学構造式(1))に変換されるという性質を有する。そのため、市販のフェルロイルプトレシン標準品や、フェルロイルプトレシンを含む飲食品に光を照射することによって、本発明の新規化合物を生成することができる。
【0025】
フェルロイルプトレシンを含む飲食品としては、例えば、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、パインアップル、クランベリー等の果実、果実の搾汁、果実飲料、及びトマト等の野菜、野菜の搾汁、野菜飲料、さらに果実・野菜混合飲料等が挙げられるが、特にオレンジやグレープフルーツ等の柑橘類に多く含まれている。
【0026】
照射する光としては、自然光及び人工光のいずれでも良く、特に限定されるものではない。自然光としては例えば、太陽光が挙げられる。また人工光としては、例えば、白熱灯、蛍光灯、LED等が挙げられる。
【0027】
光照射の条件としては、例えば、室温において、4000lx〜6000lxの光を、1日以上照射することが望ましいが、この条件に限定されるものではない。一例を挙げると、透明ガラス試験管にフェルロイルプトレシン標準品50mgを70容量%エタノール30mLに溶解した後、室温25℃において、6000lxの蛍光灯下で1〜2日放置すると良い。
【0028】
光照射した試料について、例えば、公知の液体クロマトグラフィー等によって、本発明の新規化合物を含む画分を分取して、単離・精製することができる。
【0029】
尚、フェルロイルプトレシンや上記新規化合物は、果実の果皮等にも含まれ得る。そのため本発明の製造方法によれば、果皮等を原料として使用することにより食品廃棄物の有効利用を図ることができる。
【0030】
〔熱履歴評価方法〕
(第1実施形態)
本発明の熱履歴評価方法は、以下の(1)加熱前測定工程、(2)加熱後測定工程、(3)変動度算出工程、(4)加熱量算出工程を包含する。
【0031】
(1)加熱前測定工程
この工程では、加熱前の飲食品における下記化学構造式(1):
【化10】
で表される新規化合物の含有量を測定する。
【0032】
上記新規化合物を含み得る飲食品としては、フェルロイルプトレシンを元々含む飲食品であって、所定の条件下で光を照射されたものが挙げられる。そのような飲食品としては、例えば、オレンジ、グレープフルーツ、ユズ、パインアップル、クランベリー等の果実、果実の搾汁、果実飲料、及びトマト等の野菜、野菜の搾汁、野菜飲料、さらに果実・野菜混合飲料等が挙げられる。尚、飲食品の包装形態としては、例えば、ボトル、カップ、パウチなどの形状で、材質はガラス、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、紙、多層容器などが挙げられるが、特に限定されるものではない。また含有量の測定方法としては、例えば、液体クロマトグラフ質量分析法等が挙げられる。
【0033】
(2)加熱後測定工程
次いで、加熱後の飲食品における前記新規化合物の含有量を測定する。測定方法としては、例えば、液体クロマトグラフ質量分析法等が挙げられる。
【0034】
(3)変動度算出工程
次いで、前述の加熱前測定工程及び加熱後測定工程のそれぞれにおいて得られた測定値に基づいて前記新規化合物の変動度を残存率(%)として算出する。
【0035】
(4)加熱量算出工程
次いで、前述の変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記新規化合物の変動度との関係式から飲食品の加熱量を算出する。
【0036】
関係式としては、例えば、多点検量線を用いて良く、場合によっては一点検量線を用いても良い。多点検量線は、例えば、所定の温度や湿度などの加熱条件を設定して、当該加熱条件下で飲食品を加熱する。そして、所定時間経過毎(例えば、10分経過毎)に飲食品中の上記新規化合物の含有量を測定して残存率(%)を算出し、各所定時間と残存率(%)との関係をプロットすることによって作成する。一点検量線は、例えば、所定の温度や湿度などの加熱条件を設定して、当該加熱条件下で飲食品を所定時間(例えば20分間)加熱した後、飲食品中の上記新規化合物の含有量を測定して残存率(%)を算出することにより求める。
【0037】
次いで、先の(3)変動度算出工程において得られた残存率(%)及び作成した検量線から、検量線を作成したときの所定の加熱条件下で、加熱された飲食品がどのくらいの時間加熱されたものに相当するか、即ち飲食品の加熱量が導き出される。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の熱履歴評価方法は、以下の(1)加熱前添加工程、(2)加熱後測定工程、(3)変動度算出工程、(4)加熱量算出工程を包含する。
【0039】
(1)加熱前添加工程
この工程では、下記化学構造式(1):
【化11】
で表される新規化合物の所定量を加熱前の飲食品に添加する。
【0040】
飲食品には、上記新規化合物を含まないものも存在するため、予め所定量の上記新規化合物を添加しておくものである。尚、上記新規化合物は、所定の果実や野菜等に由来する化合物であるため人体に安全であり、また水溶性であるため、飲食品中に溶け易い。
【0041】
(2)加熱後測定工程
次いで、加熱後の飲食品における前記新規化合物の含有量を測定する。測定方法としては、例えば、液体クロマトグラフ質量分析法等が挙げられる。
【0042】
(3)変動度算出工程
次いで、前術の加熱前添加工程における添加量及び加熱後測定工程において得られた測定値に基づいて前記新規化合物の変動度を残存率(%)として算出する。
【0043】
(4)加熱量算出工程
次いで、前述の変動度算出工程において得られた変動度と、予め作成された加熱量と前記新規化合物の変動度との関係式から飲食品の加熱量を算出する。
【0044】
関係式としては、例えば、多点検量線を用いて良く、場合によっては一点検量線を用いても良い。多点検量線は、例えば、所定の温度や湿度などの加熱条件を設定して、当該加熱条件下で、予め所定量の新規化合物を添加した飲食品を加熱する。そして、所定時間経過毎(例えば、10分経過毎)に飲食品中の上記新規化合物の含有量を測定して残存率(%)を算出し、各所定時間と変動度との関係をプロットすることによって作成する。一点検量線は、例えば、所定の温度や湿度などの加熱条件を設定して、当該加熱条件下で、予め所定量の新規化合物を添加した飲食品を所定時間(例えば20分間)加熱した後、飲食品中の上記新規化合物の含有量を測定して残存率(%)を算出することにより作成する。
【0045】
次いで、先の(3)変動度算出工程において得られた残存率(%)及び作成した検量線から、検量線を作成したときの所定の加熱条件下で、加熱された飲食品がどのくらいの時間加熱されたものに相当するか、即ち飲食品の加熱量が導き出される。
【0046】
本発明の熱履歴評価方法(第1及び第2実施形態)によれば、飲食品の加熱前後において、本発明の新規化合物の含有量を測定することによって、当該飲食品がどの程度の熱を受けたのかを正確に把握することができる。そのため、従来行われてきた飲食品のクッキングバリュー(C値)調査や、殺菌効果の判定方法に替わるものとして、本発明を利用することができる。
【0047】
尚、殺菌効果を確認する従来の方法の一つとして、予め所定数の菌を接種した飲食品について加熱処理を行う方法が挙げられる。しかしながら、当該従来方法は、菌を取り扱うことになるため操作が煩雑であるのに対し、本発明の新規化合物を使用する殺菌効果の確認では操作が簡便である。
【0048】
〔装置性能評価方法〕
本発明の装置性能評価方法は、以下の(1)保存工程、及び(2)測定工程を包含する。
【0049】
(1)保存工程
この工程では、下記化学構造式(1):
【化12】
で表される新規化合物を所定量収容した遮光容器を装置の中に所定期間保存する。即ち、所定量の上記新規化合物、又は所定量の上記新規化合物を含む熱履歴検出剤が収容された遮光容器を、性能評価の対象となる装置の中に設置する。そして、当該装置において、所定の加熱温度や加熱時間等の加熱条件を設定・入力し、稼働させる。
【0050】
(2)測定工程
次いで、保存工程後の前記遮光容器内の新規化合物の量を測定する。例えば、熱履歴検出剤として水溶液を使用した場合、遮光容器から当該水溶液の一部をサンプリングして新規化合物の濃度を測定して、残存率(%)を算出する。そして、予め測定してある装置の正常に稼働時における残存率(%)と比較し、もし残存率(%)に変化が無ければ、装置が正常に稼働していたことになる。
【0051】
また、所定の温度で物を保存するための装置(例えば、冷凍・冷蔵装置等)の性能を評価する場合には、例えば、装置内に設置した熱履歴検出剤の水溶液の一部をサンプリングして新規化合物の濃度を測定する。そして、装置に設置する前の新規化合物の濃度と比較して、もし濃度に変化が無ければ(即ち、濃度が低くなっていなければ)、装置内の温度が急上昇したりなどせずに安定して所定の温度に維持され、装置が正常に稼働していたことになる。
【0052】
上記新規化合物を使用する本発明の装置性能評価方法によれば、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の性能を簡便且つ安価な方法で正確に把握することができる。即ち、本発明の装置性能評価方法においては、新規化合物を所定量収容した遮光容器を使用するため、高価な温度センサーやデータロガー温度計を使用する必要がなくコスト増になることがない。従って、当該遮光容器を装置内の必要な箇所に設置して、例えば、ホットウォーマーやレトルト装置等の加熱装置内の温度ムラや、チューブラー型の熱交換充填機等の熱交換性能をより正確に評価することができる。
【0053】
〔その他の実施形態〕
1.上述の新規化合物については、冷凍又は冷蔵品が確実に冷温保存されていか否かの指標としても利用することができる。例えば、冷凍貨物品の箱に新規化合物を含むアルミ袋を添付しておき、当該冷凍貨物品が到着したときに、アルミ袋内の新規化合物量を測定して、その量に変化が無ければ(即ち、少なくなっていなければ)、当該冷凍貨物品は、予期しない高温条件に曝されることなく、所定の温度で冷蔵保存されていたことになる。
2.上述の熱履歴評価方法及び装置性能評価方法においては、新規化合物とフェルロイルプトレシン(トランス体)とを組み合わせて用いても良い。即ち、上述の実施形態では、新規化合物の変動度を、新規化合物の残存率(=加熱後の新規化合物量/加熱前の新規化合物量×100(%))で評価する例を示しているが、これに限定されるものでなく、新規化合物からフェルロイルプトレシン(トランス体)に変換される進行度により変動度を評価しても良い。このとき進行度は、進行度(%)=新規化合物量/(新規化合物量+フェルロイルプトレシン(トランス体)量)×100という式で表され、分母の(新規化合物量+フェルロイルプトレシン(トランス体)量)は、加熱前の新規化合物量と同じであり、一定となる。尚、以下の実施例では、進行度により評価を行った。
【実施例】
【0054】
(光変動物質の確認試験)
光変動物質の確認試験を行うため、市販のオレンジ果汁100%入りペットボトル飲料を、以下の条件下で所定期間保存した。
【0055】
【表1】
【0056】
上記各試料について、LC−MS(液体クロマトグラフ質量分析計)を用いて、以下の条件に従って分析した。
LC装置として、1260Infinity Seriies(アジレントテクノロジー社製)を使用した。
LC条件は、カラムとしてSynergi Hydro−RP−100A(100mm×3mm、φ2.5μm、Phenomenex社製)を使用した。また移動相は、I液として2%酢酸水溶液、II液として0.5%酢酸水溶液:アセトニトリル=1:1(v/v)を使用して、流速:0.4mL/minとして、以下の表2のグラジエント条件で流した。
【0057】
【表2】
【0058】
MS装置として、アジレントLCMS6430(アジレントテクノロジー社製)を使用した。
【0059】
MS条件は、フラグメンター電圧を100V、乾燥窒素ガス(350℃)を毎分12L、ネブライザー圧を60psi(0.4138MPa)、キャピラリー電圧を3500Vとした。カラムオーブン温度は40℃とした。イオン化はESI法(Positiveモード)で検出した。
【0060】
図1のLC−MS抽出イオンクロマトグラム(m/z265)に示すように、保持時間約5分に検出されたピーク(成分A)は、暗所保存ではほとんど検出されなかったのに対して(試料D参照)、光照射された場合はその期間が長くなるほどピーク面積が増加した(試料LW1、LW2、LW4参照)。
【0061】
また、保持時間約7分に検出されたピーク(成分B)は、暗所保存では、1週間、2週間、4週間と経過しても、そのピーク面積がほとんど変化しなかったのに対して(試料D参照)、光照射された場合はその期間が長くなるほどピーク面積が減少した(試料LW1、LW2、LW4参照)。
【0062】
以上より、成分A及び成分Bはいずれも光変動物質であり、特に成分Aは光照射によって含有量が増加する光増量物質であり、成分Bは光照射によって含有量が減少する光減量物質であることが確認された。また分析の結果、上記成分A及び成分Bのいずれについても[M+H]=265が検出された。
【0063】
(光変動物質の定量試験)
上記成分A及び成分Bのそれぞれについて、内部標準法による定量操作を行った。
定量操作は、成分A及び成分Bに保持時間が近く、質量も目的成分と同程度のカテキン(組成式:C1514)を内標準物質とする内標準分析法で定量した。標準原液として0.5%カテキンのエタノール溶液を調製し、それを超純水で50倍希釈し100ppmの標準溶液を調製した。100ppmカテキン標準溶液5mLと、上記表1の各試料(D、LW1、LW2、LW4)5mLとを混合し、超純水で50mL定容とした。これにより、LC/MS測定時のカテキン濃度を10ppm、各試料を10倍希釈とした。これをLC/MSで測定し、カテキンの[M+H]=291の測定結果から、各試料における成分A及び成分Bのそれぞれの濃度をカテキン濃度(ppm)として換算した。
【0064】
図2に示されるように、成分A及び成分Bのいずれも、内部標準法による定量を行うことが可能であり、従って、これらのグラフを多点検量線として使用できることも明らかとなった。また、蛍光灯、約4000lxという光条件下において、成分Aは2週間で38%増加という変動度を示し、成分Bは4週間で52%減少という変動度を示すことが、図2から読み取れることから、これらの変動度を一点検量線として使用することも可能であると考えられた。
【0065】
(他の果実・野菜における光変動物質の確認)
オレンジ以外のその他の果実、及び野菜について、光変動物質(成分A及び成分B)が含まれているかどうか確認した。果実として、グレープフルーツ、レモン、ミカン、ブルーベリー、ユズ、パインアップル、クランベリーを使用した。野菜として、トマトを使用した。これらの果実及び野菜のそれぞれの果汁について上述の光変動物質の確認試験と同様の試験を実施した。
【0066】
その結果、グレープフルーツとトマトには、成分A及び成分Bの両方が含まれていることが確認された。ユズ、パインアップル、クランベリーには、成分Bのみが含まれていることが確認された。ミカン、レモン、ブルーベリーには成分A及び成分Bのいずれも含まれていないことが確認された。
【0067】
(光変動物質の精密質量測定)
上記成分A及び成分Bのそれぞれについて、四重極−飛行時間型質量分析計(LC−qTOFMS)による精密質量測定を2回行った。
【0068】
LC装置として、LC20A(島津製作所社製)を使用した。
LC条件は、カラムとしてSenergi Hydro−RP−100A(100mm×3mm、φ2.5μm、Phenomenex社製)を使用した。試料注入量を5μLとした。また移動相は、I液として2%酢酸水溶液、II液として0.5%酢酸水溶液:アセトニトリル=1:1(v/v)を使用して、流速:0.4mL/minとして、以下の表3のグラジエント条件で流した。
【0069】
【表3】
【0070】
MS装置として、micrOTOF−QII(ブルカーダルトニクス社製)を使用した。
MS条件は、乾燥窒素ガス(200℃)を毎分8L、ネブライザー圧を1.6bar、キャピラリー電圧を−4500V、カラムオーブン温度を40℃とした。イオン化はESI法(Positiveモード)で検出した。自動MS/MS測定を行った。
【0071】
上記四重極−飛行時間型質量分析計(LC−qTOFMS)によって得られた質量スペクトルについて、解析ソフト(Data Analysis(Bruker社製))を使用して解析した。成分A及び成分Bのそれぞれのプロトン付加分子質量[M+H](m/z)の精密質量測定結果を以下の表4に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
以上より、成分A及び成分Bのそれぞれの組成式[M]はいずれも、C1420(分子量:264.15)であることが確認された。
【0074】
(成分Bの同定)
上述の光変動物質の組成式の推定及び精密質量測定の結果から、成分Bの候補物質の一つとして、フェルロイルプトレシン(Feruloylputrescine)が挙げられた。そこで、三連四重極型液体クロマトグラフ質量分析計により、フェルロイルプトレシンと成分Bとの照合分析試験を行った。
【0075】
LC/MS装置として、アジレントLCMS6430(アジレントテクノロジー社製)を使用した。
【0076】
LC条件は、カラムとしてSenergi Hydro−RP−100A(100mm×3mm、φ2.5μm、Phenomenex社製)を使用した。試料注入量を5μLとした。また移動相は、I液として2%酢酸水溶液、II液として0.5%酢酸水溶液:アセトニトリル=1:1(v/v)を使用して、流速:0.4mL/minとして、以下の表5のグラジエント条件で流した。
【0077】
【表5】
【0078】
MS条件は、乾燥窒素ガス(350℃)を毎分12L、ネブライザー圧を60psi、キャピラリー電圧を−3500V、フラグメンター電圧を100V、カラムオーブン温度を40℃とした。イオン化はESI法(Positiveモード)で検出した。
【0079】
測定試料として、上記試料D(光条件:暗室)、市販のフェルロイルプトレシン標準品、及び試料Dとフェルロイルプトレシン標準品との混合物の3種類を用意し、それぞれの試料について液体クロマトグラフ質量分析を行った。結果を図3図5に示す。
【0080】
図3図5に示されるように、成分Bの保持時間は、フェルロイルプトレシンの保持時間と略一致した。
【0081】
また、上記三連四重極型液体クロマトグラフ質量分析計を用いて、試料D及びフェルロイルプトレシン標準品のそれぞれについてプロダクトイオンスキャン測定を行った。尚、LC条件及びMS条件は上記と同様であり、プロダクトイオンスキャン測定は、プリカーサーイオン:m/z265、コリジョンエネルギー:5eVとした。結果を図6及び図7に示す。
【0082】
図6及び図7に示されるように、成分Bの質量スペクトルは、フェルロイルプトレシンの質量スペクトルと略一致した。
【0083】
次いで、フェルロイルプトレシン標準品に光を照射して、成分Aが生成されるか否かを確認した。測定試料として、50mgのフェルロイルプトレシン標準品を30mLの70%エタノール溶液(v/v)に溶かして調製した。そのフェルロイルプトレシン溶液を室温25℃において蛍光灯6000lx下で1週間及び2週間保存した。
【0084】
光照射前のフェルロイルプトレシン溶液、光照射1週間のフェルロイルプトレシン溶液、及び光照射2週間のフェルロイルプトレシン溶液のそれぞれについて、上記三連四重極型液体クロマトグラフ質量分析計を使用して同様の液体クロマトグラフ質量分析を行った。結果を図8図10に示す。
【0085】
図8図10に示されるように、フェルロイルプトレシン標準品への光照射によって成分Aの生成が確認された。
【0086】
以上より、液体クロマトグラフ質量分析における成分Bとフェルロイルプトレシンの保持時間が略一致し、さらに成分Bとフェルロイルプトレシンの質量スペクトルが略一致し、また、フェルロイルプトレシン標準品の光照射によって成分Aが生成されたことから、成分Bをフェルロイルプトレシンと同定した。
【0087】
(成分Aの同定)
上記三連四重極型液体クロマトグラフ質量分析計を用いて、試料LW4及びフェルロイルプトレシン標準品のそれぞれについてプロダクトイオンスキャン測定を行った。尚、LC条件及びMS条件は上記と同様であり、プロダクトイオンスキャン測定は、プリカーサーイオン:m/z265、コリジョンエネルギー:5eV、10eV、15eV、20eVの4段階とした。結果を図11図13に示す。
【0088】
図11図13に示されるように、成分Aと成分Bとは組成式が同じであり、且つその基本骨格も同じである可能性が高いと考えられた。
【0089】
次に、成分Aの単離・精製作業を行った。50mgのフェルロイルプトレシン標準品を30mLの70%エタノール溶液に溶かし、そのフェルロイルプトレシン溶液を室温25℃において蛍光灯6000lx下で2週間保存した。そして、当該光照射したフェルロイルプトレシン溶液を分取精製クロマトグラフィーにかけて、成分Aを分取した。
【0090】
次に、フェルロイルプトレシン標準品及び単離した成分Aについて、13C−NMR及びH−NMRを行った。13C−NMRの結果を図14図17に示し、H−NMRの結果を図18図20に示す。尚、図16における各番号は、図17及び図20における番号(No.)に対応する。
【0091】
図14図17に示されるように、二重結合由来のC10及びC11のピークが移動していた。さらに、図18図20に示されるように、二重結合由来のプロトンであるH10及びH11のピークも大きく移動していた。また、フェルロイルプトレシン標準品におけるH10−H11のJ値は、15.9Hzであり、単離した成分AにおけるH10−H11のJ値は、12.4Hzであった。
【0092】
上述の光変動物質の精密質量測定の結果から成分A及び成分Bのそれぞれの組成式[M]はいずれも、C1420(分子量:264.15)であることが確認されたこと、そして、上述のプロダクトイオンスキャン測定の結果から成分Aと成分Bとはその基本骨格が同じである可能性が高いこと、さらに上述の13C−NMR及びH−NMRの測定結果を踏まえると、成分A及び成分Bは、図21に示すように、二重結合のシス−トランス異性の関係にあると結論付けられた。
【0093】
以上より、成分Bは、オレンジ果汁に元々含まれており、以下の化学構造式(2)に示されるフェルロイルプトレシン(CAS番号:501−13−3、分子式:C1420、化学名:N−(4−アミノブチル)−3−(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)プロペンアミド、英語化学名:Feruloylputrescine)のトランス体であることが判明した。
化学構造式(2)
【化13】
【0094】
そして、成分Aは、光照射によって生成される、以下の化学構造式(1)に示されるフェルロイルプトレシンのシス体であることが判明した。
化学構造式(1)
【化14】
【0095】
(成分Aの生成及び単離)
50mgのフェルロイルプトレシン標準品を30mLの70%エタノール溶液(v/v)に溶かし、そのフェルロイルプトレシン溶液を室温25℃において蛍光灯6000lx下で1週間及び2週間保存して成分Aを生成した。そして、当該光照射したフェルロイルプトレシン溶液を以下に示す分取精製クロマトグラフィーにかけて、成分Aを分取した。
【0096】
LC条件は、LC装置として、Delta600,Fraction CollectorIII(Waters社製)を使用した。カラムとしてDiscovery HSF5−5(250mm×10mm(i.d.)、粒径5μm、SUPELCO社製)を使用した。試料注入量を250μLとした。また移動相は、I液として0.1%ギ酸水溶液、II液としてアセトニトリルを使用して、流速を8mL/minとして、以下の表6のグラジエント条件で流した。カラム温度を40℃とし、分画溶液をLC−MS測定し単離画分を得た。
【0097】
【表6】
【0098】
分取した成分Aを含む画分について、有機溶媒を低温で遠心濃縮した後、凍結乾燥によって水分を留去した。
【0099】
(成分Aの加熱試験(1))
単離した成分Aについて、(1)単離直後のもの、(2)アルミホイルに包んで80℃にて乾燥させたものをそれぞれ用意した。そして、以下に示す三連四重極型液体クロマトグラフ質量分析計によって、それぞれの試料について液体クロマトグラフ質量分析を行った。
【0100】
LC/MS装置として、アジレントLCMS6430(アジレントテクノロジー社製)を使用した。
【0101】
LC条件は、カラムとしてSenergi Hydro−RP−100A(100mm×3mm(i.d.)、粒子径2.5μm、Phenomenex社製)を使用した。試料注入量を5μLとした。また移動相は、I液として2%酢酸水溶液、II液として0.5%酢酸水溶液:アセトニトリル=1:1(v/v)を使用して、流速を0.4mL/minとして、以下の表7のグラジエント条件で流した。
【0102】
【表7】
【0103】
MS条件は、乾燥窒素ガス(350℃)を毎分12L、ネブライザー圧を60psi、キャピラリー電圧を−3500V、フラグメンター電圧を100V、カラムオーブン温度を40℃とした。イオン化はESI法(Positiveモード)で検出した。結果を図22に示す。
【0104】
図22に示されるように、加熱により成分Aが成分Bに変換され減少することが示された。
【0105】
(成分Aの加熱試験(2))
成分Aについて、以下の加熱条件において、より詳しい加熱試験を実施した。
<加熱条件>
加熱温度:30℃、40℃、50℃、60℃、70℃、80℃
加熱時間:1時間、2時間、4時間、23時間
加熱装置:マイクロチューブ用ヒートブロック
【0106】
約5ppmの成分Aの水溶液を調製し、2mL容量のマイクロチューブに1mLずつ分注して上記加熱条件にて加熱した。
【0107】
上述の成分Aの加熱試験(1)のときと同様に液体クロマトグラフ質量分析を行って成分A及び成分Bのそれぞれの濃度(ppm)を測定した。成分Aから成分Bに変換される進行度を、成分Aの濃度/(成分Aの濃度+成分Bの濃度)×100として、成分Aの割合(%)で示した。尚、(成分Aの濃度+成分Bの濃度)は、加熱前の成分Aの濃度と同じである。結果を図23に示す。
【0108】
図23によれば、成分Aの残存率が例えば90%となる加熱条件は、70℃ではおよそ4時間であり、80℃ではおよそ0.5時間となることが示された。ただし、本加熱試験は水溶液における結果であり、溶媒が変われば反応速度も変わるため、使用される溶媒の種類によって加熱条件もまた異なるものとなると考えられる。
【0109】
(成分Aの加熱試験(3))
具体的な実施例として、コンビニエンスストアなどの店頭販売で用いられるホットウォーマーを想定し、以下の保存条件において加熱試験を実施した。
【0110】
<保存条件>
保存温度:4℃、25℃、40℃、60℃、80℃
保存期間:1日間、4日間、7日間
加熱装置:器具乾燥用オーブン
【0111】
約3ppmの成分Aの水溶液を調製し、スクリューキャップ付き試験管に1mLずつ分注して上記保存条件にて試験した。
【0112】
上述の成分Aの加熱試験(1)のときと同様に液体クロマトグラフ質量分析を行って成分A及び成分Bのそれぞれの濃度(ppm)を測定した。成分Aから成分Bに変換される進行度を、成分Aの濃度/(成分Aの濃度+成分Bの濃度)×100として、成分Aの割合(%)で示した。尚、(成分Aの濃度+成分Bの濃度)は、加熱前の成分Aの濃度と同じである。結果を図24に示す。
【0113】
図24に示されるように、7日間の加熱試験において、成分Aから成分Bへの変換が、40℃以下では徐々に進む傾向が認められ、60℃以上で進行が加速することを確認した。また、成分Aが3割程度減じるのに必要な時間は、上記加熱試験(2)においては80℃で4時間であったが、今回の試験では80℃で3日程度必要であった。これは用いた容器や加熱装置の違いによる加熱度合いのばらつき、および溶媒の違いによる物質の安定性の影響と推定された。
【0114】
(成分Aの加熱試験(4))
さらなる具体的な実施例として、レトルト殺菌などの高温処理を想定し、以下の加熱条件において加熱試験を実施した。
【0115】
<加熱条件>
加熱温度:100℃、110℃、120℃、130℃
保存期間:10分間、30分間、60分間
加熱装置:オイルバス
【0116】
約3ppmの成分Aの水溶液を調製し、ガラス管に1mLずつ分注した後、バーナーで封入して上記加熱条件にて試験した。
【0117】
上述の成分Aの加熱試験(1)のときと同様に液体クロマトグラフ質量分析を行って成分A及び成分Bのそれぞれの濃度(ppm)を測定した。成分Aから成分Bに変換される進行度を、成分Aの濃度/(成分Aの濃度+成分Bの濃度)×100として、成分Aの割合(%)で示した。尚、(成分Aの濃度+成分Bの濃度)は、加熱前の成分Aの濃度と同じである。結果を図25に示す。
【0118】
図25に示されるように、130℃の加熱処理によって、成分Aが10分で40%、30分で90%、60分でほぼ100%が減じることが確認できた。また、図26に示されるように、130℃で加熱しても、成分Aのベースピーククロマトグラムからは、成分Aの分解物らしきピークは確認されなかった。
【0119】
(生成速度の計算)
上述の成分Aの加熱試験(2)で得られたデータを基に、各温度における成分Bの生成速度をアレニウスプロットにより算出した。結果を図27図29に示す。
【0120】
図27図29に示されるように、加熱温度が30℃〜50℃では、成分Bの生成速度にほとんど変化はないが、加熱温度60℃〜80℃では、温度が高くなるほど、成分Bの生成速度が増加することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明は、飲食品に関する熱履歴の評価や、所定の温度で物を加熱又は保存するための装置の性能評価等に適用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29