(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程は、超急冷法によって作製された合金を作製し、その後、熱間加工を行うことを含む、請求項1から4のいずれかに記載のR3−T2−B−Cu−M2系磁石の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示によるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の製造方法は、
図1に示す様に、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程S10と、R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程S20とを含む。R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程S10と、R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程S20との順序は任意であり、それぞれ、異なる場所で製造されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体及びR2−Ga−Fe−A系合金を用いてもよい。
【0022】
本開示において、第二の熱処理前及び第ニの熱処理中のR3−T2−B−Cu−M2系磁石をR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体と称し、第二の熱処理後のR3−T2−B−Cu−M2系磁石を単にR3−T2−B−Cu−M2系磁石と称する。
【0023】
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体は、以下の要件(1)〜(7)を満たす。
(1)R1は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の27mass%以上35mass%以下である。
(2)T1はFe又はFeとX1であり、X1はAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(3)[T1]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下である。
(4)CuはR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(5)M1はGa及びAgの少なくとも一方であり、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の0mass%以上1mass%以下である。
(6)不可避的不純物を含んでも良い。
なお、本開示においては、M1が0mass%の場合であってもR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体と称することとする。
(7)主相であるR
2T
14B相の平均結晶粒径が1μm以下で磁気的異方性を有する。
前記(3)[T1]/[B]のmol比が14.0以下であるということは、Bの含有量がR
2T
14B化合物の化学量論組成比よりも多い(又は同じ)、すなわち、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT1量に対して相対的にB量が多い(又は同じ)ことを意味している。尚、[T1]は質量%で示すT1で規定された各元素(例えばFe)の含有量をその元素(例えばFe)の原子量で除したものであり、[B]は質量%で示すBの含有量をBの原子量で除したものである。
【0024】
R2−Ga−Fe−A系合金は、以下の要件(8)〜(12)を満たす。
(8)R2は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R2−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。
(9)GaはR2−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。
(10)FeはR2−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。
(11)AはAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R2−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。
(12)不可避的不純物を含んでも良い。
なお、本開示においては、Aが0mass%の場合であってもR2−Ga−Fe−A系合金と称することとする。
【0025】
R3−T2−B−Cu−M2系磁石(第二の熱処理後のR3−T2−B−Cu−M2系磁石)は、以下の要件(13)〜(19)を満たす。
(13)R3は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含み、R3−T2−B−Cu−M2系磁石全体の27mass%以上35mass%以下である。
(14)T2はFe又はFeとX2であり、X2はAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Moから選択される一種以上である。
(15)[T2]/[B]のmol比が14.0超である。
(16)CuはR3−T2−B−Cu−M2系磁石全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。
(17)M2はGa及びAgでありGaを必ず含み、R3−T2−B−Cu−M2系磁石全体の0.1mass%以上3mass%以下である。
(18)不可避的不純物を含んでいても良い。
(19)主相であるR
2T
14B相の平均結晶粒径が1μm以下であり磁気的異方性を有する。
前記(14)[T2]/[B]のmol比が14.0超であるということは、Bの含有量がR
2T
14B化合物の化学量論組成比よりも少ない、すなわち、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT2量に対して相対的にB量が少ないことを意味している。尚、[T2]は質量%で示すT2で規定された各元素(例えばFe)の含有量をその元素(例えばFe)の原子量で除したものであり、[B]は質量%で示すBの含有量をBの原子量で除したものである。
【0026】
本開示によるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の製造方法は、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT量に対して化学量論比で相対的にB量が多い(又は同じ、すなわち、[T1]/[B]のmol比が14.0以下である)R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の表面の少なくとも一部にR2−Ga−Fe−A系合金を接触させ、
図1に示す様に、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で第一の熱処理を実施する工程S30と、この第一の熱処理が実施されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体に対して真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で第二の熱処理を実施する工程S40を行うことで、主相形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないR3−T2−B−Cu−M2系磁石を作製する。第一の熱処理を実施する工程S30と、第二の熱処理を実施する工程S40との間に他の工程、例えば冷却工程や合金バルク体表面に残存しているR2−Ga−Fe−A系合金を除去する工程などが実行され得る。
【0027】
まず、R3−T2−B−Cu−M2系磁石の基本構造を説明する。
R3−T2−B−Cu−M2系磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相と、この主相の粒界部分に位置する粒界相とから構成されている。
図2Aは、R3−T2−B−Cu−M2系磁石の主相と粒界相を示す模式図であり、
図2Bは
図2Aの破線矩形領域内を更に拡大した模式図である。
図2Aには、一例として長さ5μmの矢印が大きさを示す基準の長さとして参考のために記載されている。
図2A及び
図2Bに示されるように、R3−T2−B−Cu−M2系磁石は、主としてR
2T
14B化合物からなる主相12と、主相12の粒界部分に位置する粒界相14とから構成されている。また、粒界相14は、
図2Bに示されるように、2つのR
2T
14B化合物粒子(グレイン)が隣接する二粒子粒界相14aと、3つ以上のR
2T
14B化合物粒子が隣接する粒界三重点14bとを含む。
主相12であるR
2T
4B化合物は高い飽和磁化と異方性磁界を持つ強磁性化合物である。したがって、R3−T2−B−Cu−M2系磁石では、主相12であるR
2T
14B化合物の存在比率を高めることによってB
rを向上させることができる。R
2T
14B化合物の存在比率を高めるためには、原料合金中のR量、T量、B量を、R
2T
14B化合物の化学量論比(R量:T量:B量=2:14:1)に近づければよい。R
2T
14B化合物を形成するためのB量又はR量が化学量論比を下回ると、一般的には、粒界相14にFe相又はR
2T
17相等の磁性体が生成し、H
cJが急激に低下する。
【0028】
特許文献1に記載されている方法では、B量をR
2T
14B化合物の化学量論比よりも少なくし、且つ、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mを含有することで、R
2T
17相から粒界に遷移金属リッチ相(R
6T
13M)を生成させてH
cJを向上させている。しかし、本発明者らは検討の結果、R−T−Ga相(R
6T
13M)は原料合金段階では生成し難くその後の熱処理時に生成され易いことがわかった。そして、特許文献1に記載されている方法の様に原料合金段階から低B組成(B量がR
2T
14B化合物の化学量論比よりも少ない組成)にすると、原料合金段階において粒界にR
2T
17相等が多く残存し、それにより最終的に得られる焼結磁石のH
cJを低下させていることがわかった。そのため、高いH
cJを得るためには、原料合金段階では高B組成(B量がR
2T
14B化合物の化学量論比よりも多い(又は同じ)組成)にしてR
2T
17相等の生成を抑制させる必要がある。本発明者らは更に検討の結果、高B且つ特定の組成を有するR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の表面の少なくとも一部に、R2−Ga−Fe−A系合金を接触させて特定の熱処理を実施することにより、R2−Ga−Fe−A系合金中のFeをR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体内部に導入し、熱処理後のR3−T2−B−Cu−M2系磁石を低B組成にする(FeをR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体内部に導入することで相対的にB量をR
2T
14B化合物の化学量論比よりも少なくする)ことができることを見い出した。通常Feを含む合金(例えばDyFeやTbFe)を熱処理等により磁石表面から導入させても1mass%以下程度の少量しか磁石内部に導入されないため、[T]/[B]のmol比が14.0以下の磁石を14.0超にすることは困難である。本開示におけるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の製造方法は、特定組成のR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の表面に特定組成のR2、Ga、Feを全て含む合金を接触させることで、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比が14.0超となるために必要な量のFeを磁石表面から内部に導入させることを可能とする。これにより、特許文献1に記載されている方法の様な最初(原料合金段階)から低B組成の場合と比べて、原料合金段階におけるR
2T
17相等の生成を抑制することができるため、より高いH
cJを得ることができると考えられる。更に、最初(原料合金段階)から低B組成且つGa等を含有する組成(例えば特許文献1に記載されている組成)の場合、R−T−Ga相は磁石内部にほぼ均一に生成される。これに対し、本開示によるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の製造方法は、磁石表面よりR、Ga、Feを導入させることで、最も耐熱性の要求される磁石表面付近で最も効率的にH
cJを向上させることができ、その結果、B
rの低下を抑えることができる。また、特許文献2は、実施例における磁石組成が不明であり、拡散合金及び熱処理条件も本開示とは異なる。
【0029】
(R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程)
まず、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体(以下、単に「バルク体」という場合がある)を準備する工程におけるバルク体の組成を説明する。
R1は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。更に、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体のH
cJを向上させるために一般的に用いられるDy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示は前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いH
cJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の1mass%以下(R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体中の重希土類元素が1mass%以下)であることが好ましく、0.5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。
【0030】
R1はR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の27mass%以上35mass%以下である。R1が27mass%未満では加熱圧縮や熱間加工の過程で液相が十分に生成せず、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を十分に緻密化することが困難になる。一方、R1が35mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じたり、加熱圧縮や熱間加工の際に液相の染み出しが起こってバルク体を安定に作製することが困難になることがあるため、35mass%以下が好ましい。R1は28mass%以上33mass%以下であることがより好ましく、28.5mass%以上32mass%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
T1はFe又はFeとX1であり、X1はAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、から選択される一種以上である。すなわち、T1はFeのみであってもよいし、FeとX1からなってもよい。T1がFeとX1からなる場合、T1全体に対するFe量は80mass%以上であることが好ましい。T1はR1、B、Cu、M1及び不可避的不純物以外の残部を占めることが好ましい。
【0032】
前記T1とBとは、[T1]/[B]のmol比が13.0以上14.0以下となるように設定する。[T1]/[B]のmol比が13.0未満であると、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いH
cJを得ることができない恐れがある。一方、[T1]/[B]のmol比が14.0を超えると、原料段階におけるR
2T
17相等の生成を抑制することができず、高いH
cJを得ることができない。[T1]/[B]のmol比が14.0以下という条件は、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が多い(又は同じ)ことを示している。また、BはR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の0.9mass%以上1.1mass%未満が好ましい。
【0033】
CuはR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体全体の0.1mass%以上1.5mass%以下である。Cuが0.1mass%未満であると、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いH
cJを得ることができない恐れがある。一方、Cuが1.5mass%を超えるとB
rが低下する恐れがある。
【0034】
M1はGa及びAgの少なくとも一方であり、M1は0mass%以上1mass%以下である。M1を含有しなくても本開示の効果を奏することができるが、特にGaを少量(0.2mass%程度)含有させた方がより高いH
cJを得ることができるため好ましい。
【0035】
さらに、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0036】
次にR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程について説明する。本実施形態で用いられる、主相であるR
2T
14B相の結晶粒径が1μm以下でかつ磁気的な異方性を有するR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程としては公知の方法が採用できる。以下にバルク体を作製するための具体例をいくつか示す。
【0037】
[微粉砕粉配向成形体のHDDR処理で得られた多孔質材料の加圧圧縮]
この方法は、粒径D
50(粒径D
50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径))が10μm程度の粉末を磁界中配向して作製した成形体にHDDR処理を行うことで、部分的に焼結されて多孔質となり、さらに加熱圧縮により緻密化することで得られる、平均結晶粒径
1μm以下で磁気的異方性を有するバルク体を作製する方法である。以下に作製工程の一例を示す。
【0038】
<原料粉末>
まず、R
2T
14B相を主体とする原料合金を作製する。原料合金の作製方法としては、例えば、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、拡散還元法など、R−T−B系磁石の作製に用いられる公知の方法を適用することができるが、α‐Fe相の生成を抑制するという観点からは、ストリップキャスト法を採用することが好ましい。得られた原料合金は、さらに、原料合金における組織均質化などを目的として、粉砕前の原料合金に対して熱処理を施してもよい。このような熱処理は、真空または不活性雰囲気において、典型的には1000℃以上の温度で実行され得る。
【0039】
次に、原料合金(出発合金)を公知の方法で粉砕することにより原料粉末を作製する。本実施形態では、まず、ジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や水素粉砕法などを用いて出発合金を粗粉砕し、大きさ50μm〜1000μm程度の粗粉砕粉を作製する。この粗粉砕粉末に対してジェットミルなどによる微粉砕を行い、粒径D
50が1μm以上20μm以下、好ましくは、粒径D
50が3μm以上10μm以下の原料粉末を作製する。粒径D
50が1μm以下となると生産性の悪化や、酸化などの問題が顕在化してしまう。一方、粒径D
50が20μm以上を超えると、その後のHDDR処理による緻密化が十分進行せず、HDDR処理工程以降のハンドリングが困難になる場合がある。
【0040】
<配向成形体>
次に、上記の原料粉末を用いて圧粉体(成形体)を成形する。圧粉体を成形する工程は、0.5T〜20Tの磁界中(静磁界、パルス磁界など)で、10MPa〜200MPaの圧力を印加して行うことが望ましい。成形は、公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出したときの圧粉体密度(成形体密度)は、3.5Mg/m
3〜5.2Mg/m
3程度である。
【0041】
なお、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の磁気特性の向上などを目的として、出発合金の粉砕工程の前に、別の合金を混合したものを微粉砕し、微粉砕後に圧粉体を成形してもよい。あるいは、出発合金を微粉砕した後に、別の金属、合金および/または化合物の粉末を混合し、それらの圧粉体を作製してもよい。さらには、金属、合金および/または化合物を分散または溶解させた液を圧粉体に含浸させ、その後、溶媒を蒸発させてもよい。これらの方法を適用する場合の合金粉末の組成は、混合粉全体として前述の範囲内に入ることが望ましい。
【0042】
<HDDR処理>
次に、上記成形工程によって得られた圧粉体(成形体)に対し、HDDR処理を施す。
【0043】
HDDR処理の条件は、添加元素の種類・量などによって適宜選定され、従来のHDDR処理における処理条件を参考にして決定することができる。
【0044】
HD反応のための昇温工程は、水素分圧10kPa以上500kPa以下の水素ガス雰囲気または水素ガスと不活性ガス(ArやHeなど)の混合雰囲気、不活性ガス雰囲気、真空中のいずれかで行う。CoやGaを含まない原料粉末の圧粉体を処理する場合は、高い主相配向度を得るために、昇温工程を不活性ガス雰囲気または真空中で行うことが望ましい。
【0045】
HD処理は、前記雰囲気中で、650℃以上1000℃未満で行う。HD処理時の水素分圧は20kPa以上200kPa以下がより好ましい。処理温度は700℃以上950℃以下であることがより好ましく、750℃以上920℃以下であることがさらに好ましい。HD処理に要する時間は、5分以上10時間以下であり、典型的には10分以上5時間以下の範囲に設定される。
【0046】
なお、バルク体中のTについて、Co量が合金全体の組成に対し、3mol%以下の場合は、昇温および/またはHD処理時の水素分圧を5kPa以上100kPa以下、より好ましくは、10kPa以上50kPa以下とすることで、HDDR処理における異方性の低下を抑制できる。
【0047】
HD処理のあと、DR処理を行う。HD処理とDR処理は同一の装置内で連続的に行うことも、別々の装置を用いて不連続的に行うこともできる。
【0048】
DR処理は、真空または不活性ガス雰囲気下において650℃以上1000℃未満で行う。処理時間は、通常、5分以上10時間以下であり、典型的には10分以上、2時間以下の範囲に設定される。なお、雰囲気を段階的に制御する(例えば水素分圧を段階的に下げたり、減圧圧力を段階的に下げたりする)ことができることは言うまでもない。
【0049】
上述したHD反応前の昇温工程を含むHDDR工程の全般を通じて焼結反応が起こる。このため、圧粉体は細孔を有する多孔質材料となる。
【0050】
<多孔質材料の加熱圧縮処理>
上記の方法によって得られた多孔質材料にホットプレス法などの加熱圧縮処理を適用することによって、緻密化を行い、密度7.3g/m
3以上、典型的には7.5g/m
3以上のバルク体を作製する。多孔質材料に対する加熱圧縮は、公知の加熱圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS、(spark plasma sintering)、HIP(hot isostatic press)、熱間圧延などの加熱圧縮処理を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられ得る。本実施形態では以下の手順でホットプレスを行う。
【0051】
実施形態の一例を示す。本実施形態では、
図4に示す構成を有するホットプレス装置を用いる。この装置は、中央に開口部を有する金型(ダイ)27と、多孔質材料を加圧するための上パンチ28aおよび下パンチ28bと、これらのパンチ28a、28bを昇降する駆動部(上ラム、下ラム)30a、30bとを備えている。
【0052】
上述した方法によって作製した多孔質材料(
図4では参照符号「10」を付している)を、
図4に示す金型27に装填する。このとき、磁界方向(配向方向)とプレス方向とが一致するように装填を行うことが好ましい。金型27およびパンチ28a、28bは、使用する雰囲気ガス中で加熱温度および印加圧力に耐えうる材料から形成される。このような材料としては、カーボンや超硬合金(タングステンカーバイド−コバルト系など)が好ましい。なお、多孔質材料10の外形寸法を金型27の開口部寸法よりも小さく設定しておくことにより、異方性を高められる。次に、多孔質材料10を装填した金型27をホットプレス装置にセットする。ホットプレス装置は、不活性ガス雰囲気または10
−1Torr以上の真空に制御することが可能なチャンバ26を備えていることが好ましい。チャンバ26内は、例えば抵抗加熱によるカーボンヒーターなどの加熱装置と、試料を加圧して圧縮するためのシリンダーとが備え付けられている。加熱装置としては、カーボンヒータの代わりにダイ27やサンプル(多孔質材料)10を高周波加熱したり、放電プラズマ焼結法(SPS)のように通電加熱する機構を有していても構わない。
【0053】
チャンバ26内を真空または不活性ガス雰囲気で満たした後、加熱装置により金型27を加熱し、金型27に装填された多孔質材料10の温度を600℃〜950℃に高める。このとき、10〜1000MPaの圧力Pで多孔質材料10を加圧する。多孔質材料10に対する加圧は、金型27の温度が設定レベルに到達してから開始することが好ましい。加圧しながら600〜950℃の温度で10分以上保持した後、冷却する。加熱圧縮によりフルデンス化された磁石が大気と接触して酸化しない程度の低い温度(100℃以下程度)まで冷却が進んだ後、本実施形態の磁石をチャンバ26から取り出す。こうして、上記の多孔質材料から本実施形態のR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を得ることができる。
【0054】
こうして得られたバルク体の密度は真密度の95%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織は、配向方向に平行となる断面の結晶粒の円相当径の平均が1μm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。
【0055】
[HDDR処理で得られた粉末の加圧圧縮]
この方法は、HDDR(水素化−不均化−脱水素−再結合)によって作製された異方性を有する原料粉末を磁界中で配向した後、ホットプレス法などの加圧圧縮処理を用いて緻密化し、バルク体を得る手法である。以下に作製工程の一例を示す。
【0056】
<出発合金>
出発合金は、ブックモールド法、遠心鋳造法、ストリップキャスト法、アトマイズ法、拡散還元法などの公知の合金作製方法によって得られる。これらの方法によって作製された出発合金に対しては、マクロ偏析の解消、結晶粒の粗大化、α−Fe相の減少などを目的として、均質化熱処理を行なっても良い。均質化熱処理としては、例えば窒素以外の不活性ガス雰囲気中で1000〜1200℃、1〜48時間の処理を行う。なお、このような均質化処理により、R
2T
14B相の平均結晶粒径は約100μm以上に粗大化する。平均結晶粒径の粗大化は、HDDR処理磁粉が大きな磁気的異方性を有するためには好ましい。
【0057】
<粉砕>
次に、出発合金を公知の方法で粉砕することにより、粗粉砕粉を作製する。粉砕は、例えばジョークラッシャーなどの機械的粉砕法や、水素粉砕法を用いて行うことができる。
【0058】
水素粉砕法による場合は、上記の出発合金を水素雰囲気で保持することにより合金に水素を吸蔵させ、合金を脆化させればよい。出発合金は水素を吸蔵すると、自然崩壊を起こし、亀裂が生じる。このような水素粉砕は、合金インゴットを圧力容器中に入れた後、純度99.9%以上のH
2ガスを50〜1000kPaまで導入し、次いでその状態を5分〜10時間保持することによって行うことができる。こうして、粒径1000μm以下の粗粉砕粉を得る。水素粉砕後に行う機械粉砕は、例えば、フェザーミル、ボールミル、またはパワーミルなどの粉砕機を用いて行うことができる。
【0059】
こうして得た粗粉砕粉は、略単一の結晶方位を有する粒子から構成されており、各粒子の中では磁化容易軸が一方向にそろっている。この結果、HDDR処理によって得られる合金粉末が異方性を示すことが可能になる。本実施形態で使用する粗粉砕粉は、結晶方位が同一方向に揃ったNd
2Fe
14B型化合物相が20μm以上のサイズを有している。このことは、最終的に高い磁気特性、特に高い飽和磁束密度B
rを得る上で重要である。
【0060】
本実施形態における粗粉砕粉の平均粒径は、20μm未満になると、HDDR処理によって粉末を構成する粒子間の拡散凝集が過度に生じるため、HDDR処理後の解砕が困難となり、結果として高い磁気異方性を有する磁粉を得ることが困難となる。一方、平均粒径が300μmを超えると、結晶方位が同一方向に揃ったNd
2Fe
14B型化合物相のみから構成され、かつ、α−Fe相のない合金組織を得ることが困難となり、結果として、高い飽和磁束密度B
rおよび保磁力H
cJを両立する磁粉を得ることが困難となる。これらの理由により、粗粉砕粉の平均粒径は、20〜300μmであることが好ましく、30〜150μmであることが更に好ましい。
【0061】
<HDDR処理>
次に、上記粉砕工程によって得られた粗粉砕粉に対し、HDDR処理を施す。なお、粗粉砕はHDDR処理と同じ容器内で、HD処理の前に水素を吸蔵させるなどの方法で行うこともできる。
【0062】
HDDR処理の条件は、先述した多孔質バルク体へのHDDR処理と同様の方法を採用することができる。
【0063】
<解砕、粉砕>
脱水素化・再結合処理(HDDR処理)が終了した後、室温まで冷却された合金粉末は、弱い凝集体を形成している場合がある。このような場合、公知の方法で解砕を行えばよい。また、最終的な目的に応じて、さらに粉砕による粒度調整を行なってもよい。粉砕方法は、公知の粉砕技術を使用することができるが、粉砕時の合金粉末の酸化を抑制するために、Arなどの不活性ガス雰囲気で粉砕を行うことが好ましい。
【0064】
<HDDR磁粉の磁界中成形>
得られた合金粉末(HDDR粉末)を用いて圧粉体(コンパクト)を作製する。バルク体を製造するためには、磁界中でHDDR粉末をプレス成形した圧粉体を用いる。例えば、0.5T〜20T(0.4MA/m〜1.6MA/m)の磁界中(静磁界、パルス磁界など)で10MPa〜1000MPaの圧力を印加してプレス成形する。成形は、公知の粉末プレス装置によって行うことができる。粉末プレス装置から取り出したときの圧粉体密度(成形体密度)は、例えば4.5M/m
3〜6.5Mg/m
3(真密度を7.6Mg/m
3とするとその59%〜86%)程度である。このとき、圧粉体の外形寸法を、次の加熱圧縮工程で用いる装置の金型の開口部の寸法よりも数%以上小さくしておくと、加熱圧縮時に熱間塑性変形が起こることにより異方性のより高いバルク磁石を得ることができる。
【0065】
<圧粉体への加熱圧縮処理>
得られた成形体にホットプレス法などの加熱圧縮処理を適用することによって、緻密化を行い、密度7.3g/m
3以上、典型的には7.5g/m
3以上のバルク体を作製する。圧粉体に対する加熱圧縮は、先述した多孔質バルク体へのホットプレスと同様の方法を採用することができる。これにより、本実施形態のR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を得ることができる。
【0066】
こうして得られたバルク体の密度は真密度の95%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織は、配向方向に平行となる断面の結晶粒の円相当径の平均が1μm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。
【0067】
[超急冷合金の熱間加工]
この方法は液体超急冷法などで作製された、主相の磁化容易方向がランダムなナノ結晶で構成される等方性合金に熱間加工を施すことにより、磁気的異方性を有するバルク体を作製する方法である。熱間加工の方法としては、超急冷合金をそのまま熱間圧延するなどの方法も活用できるが、超急冷合金を粉砕し、ホットプレスなどの加熱圧縮処理で一旦緻密化した後、さらに、高温で応力を付与して変形させる手法を採用すると、磁気的異方性を有するバルク体が容易に作製できるため、好適である。以下具体的な作製手順の一例を示す。
【0068】
<超急冷合金の作製>
まず、液体超急冷法で磁気的に等方性である合金を作製する。液体超急冷法としては、単ロール超急冷法、双ロール超急冷法、ガスアトマイズ法など、公知の方法を用いることができるが、これらの中で高速回転する銅製などの急冷ロール上に溶解した合金を供給して急冷する、単ロール急冷法が特に好適に用いられる。急冷ロールの典型的なロール周速度は、10m/秒以上50m/秒以下である。得られた合金中の典型的な平均結晶粒径は0.1μm以下で、主相の結晶方位はランダムである。作製条件によっては合金の一部または全部が非晶質の場合もあるが、その場合は合金に熱処理を施す場合もある。なお、市販の超急冷合金を購入して用いてもよいことは言うまでもない。
【0069】
<超急冷合金の緻密化>
得られた薄帯をパワーミルやピンミルなどの公知の方法で粉砕し、フレーク状の合金粉末を得た後、ホットプレス法などの加熱圧縮処理を適用することによって、緻密化を行い、密度7.3Mg/m
3以上、典型的には7.5Mg/m
3以上のバルク体を作製する。加熱圧縮は、公知の加熱圧縮技術を用いて行うことができる。例えば、ホットプレス、SPS、(spark plasma sintering)、HIP(hot isostatic press)、熱間圧延などの加熱圧縮処理を行うことが可能である。なかでも、所望の形状を得やすいホットプレスやSPSが好適に用いられる。なお、加熱圧縮処理の前に、10MPa〜2000MPaの圧力を印加してプレス成形する冷間成形により、合金粉末の圧粉体を作製し、それを加熱圧縮することもできる。
【0070】
加熱圧縮条件は、成分組成などに応じて適宜設定されるが、処理温度は、600℃以上950℃以下が好ましく、700℃以上900℃以下がより好ましい。また加熱圧縮時の圧力は10MPa以上1000MPa以下が好ましい。また、加熱圧縮における保持時間は、1分以上1時間以内が好ましいが、密度が十分向上する時間内であればできるだけ短時間であることが生産性の観点から好ましい。加熱圧縮時の雰囲気は、真空又は不活性雰囲気が好ましい。
【0071】
<熱間加工>
緻密化された加熱圧縮成形体を熱間加工して塑性変形させる。熱間加工方法は、目的に応じて公知の方法を採用することができるが、熱間押出し加工(後方押出し加工及び前方押出し加工を含む)や熱間据え込み加工が好適に用いられ、生産性の観点から、熱間押出し加工が特に好適である。
【0072】
熱間加工条件は、成分組成などに応じて適宜設定されるが、加工温度は、700℃以上950℃以下が好ましく、750℃以上900℃以下がより好ましい。一般的に歪速度が配向度に影響を与えることが知られていることから、歪速度が所望の範囲になるように、加工圧力を設定することが好ましい。加工時の雰囲気は、真空または不活性雰囲気が好ましい。
【0073】
こうして得られたバルク体の密度は真密度の95%以上に達する。また、本実施形態によれば、最終的な結晶相集合組織は、配向方向に平行となる断面の結晶粒の円相当径の平均が1μm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2以上である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在する。
【0074】
[サブミクロンサイズに粉砕した合金の焼結]
上記に示した方法の他に、HDDR法で作製した微細結晶の合金に水素粉砕法と微粉砕を用いて作製した、サブミクロンサイズの合金粉末を磁界中成形、焼結を行うことにより、主相であるR
2T
14B相の結晶粒径が1μm未満で磁気的異方性を有するバルク体を作製する方法を適用することもできる。HDDRや水素粉砕法、焼結などの条件は公知のものを適用すればよい。
【0075】
(R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程)
まず、R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程におけるR2−Ga−Fe−A系合金の組成を説明する。以下に説明する特定の範囲でR、Ga、Feを全て含有することにより、後述する第一の熱処理を実施する工程においてR2−Ga−Fe−A系合金中のFeをR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体内部に導入することができる。
R2は希土類元素のうち少なくとも一種でありNd及びPrの少なくとも一方を必ず含む。R2の50%以上がPrであることが好ましい。より高いH
cJを得ることができるからである。ここで「R2の50%以上がPrである」とは、例えばR2−Ga−Fe−A系合金中におけるR2が50mass%である場合、25mass%以上がPrであることを言う。さらに好ましくは、R2はPrのみ(不可避的不純物は含む)である。さらに高いH
cJを得ることができるからである。また、Dy、Tb、Gd、Hoなどの重希土類元素を少量含有してもよい。但し、本開示は前記重希土類元素を多量に用いずとも十分に高いH
cJを得ることができる。そのため、前記重希土類元素の含有量はR2−Ga−Fe−A系合金全体の10mass%以下(R2−Ga−Fe−A系合金中の重希土類元素が10mass%以下)であることが好ましく、5mass%以下であることがより好ましく、含有しない(実質的に0mass%)ことがさらに好ましい。R2−Ga−Fe−A系合金のRに前記重希土類元素を含有する場合も、R2の50mass%以上がPrであることが好ましく、重希土類元素を除いたR2がPrのみ(不可避的不純物は含む)であることがより好ましい。
【0076】
R2はR2−Ga−Fe−A系合金全体の35mass%以上91mass%以下である。R2が35mass%未満では後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いH
cJを得ることができない恐れがある。一方、R2が91mass%を超えても本開示の効果を得ることはできるが、R2−Ga−Fe−A系合金の製造工程中における合金粉末が非常に活性になり、合金粉末の著しい酸化や発火などを生じることがあるため、91mass%以下が好ましい。R2は50mass%以上91mass%以下であることがより好ましく、60mass%以上85mass%以下であることがさらに好ましい。より高いH
cJを得ることができるからである。
【0077】
Gaは、R2−Ga−Fe−A系合金全体の2.5mass%以上40mass%以下である。Gaが2.5mass%未満では、後述する第1の熱処理を実施する工程においてR2−Ga−Fe−A系合金中のFeがR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の内部に導入され難くなる。これにより、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いH
cJを得ることができない。一方、Gaが40mass%以上であると、B
rが大幅に低下する恐れがある。Gaは4mass%以上30mass%以下であることがより好ましく、4mass%以上20mass%以下であることがさらに好ましい。より高いH
cJを得ることができるからである。
【0078】
Feは、R2−Ga−Fe−A系合金全体の4mass%以上40mass%以下である。Feが4mass%未満では、後述する第1の熱処理を実施する工程においてR2−Ga−Fe−A系合金中のFeのR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体への導入量が少なすぎるため、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いH
cJを得ることができない。一方、Feが40mass%以上であると、後述する第一の熱処理で拡散が十分に進行せず、[T2]/[B]のmol比を14.0超にすることができず、高いH
cJを得ることができない恐れがある。Feは4mass%以上30mass%以下であることがより好ましく、4mass%以上25mass%以下であることがさらに好ましい。より高いH
cJを得ることができるからである。
【0079】
Aは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Co、Ni、Zn、Ge、Zr、Nb、Mo、Agから選択される一種以上であり、R2−Ga−Fe−A系合金全体の0mass%以上1mass%以下である。Aは1mass%以下含有しても構わないが、より高いH
cJを得るためには、Aは含有しない(すなわち0mass%)ことが好ましい。
【0080】
さらに、R2−Ga−Fe−A系合金は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄などの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0081】
次にR2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程について説明する。R2−Ga−Fe−A系合金は、Nd−Fe−B系磁石に代表される一般的な製造方法において採用されている原料合金の作製方法、例えば、金型鋳造法やストリップキャスト法や単ロール超急冷法(メルトスピニング法)やアトマイズ法などを用いて準備することができる。また、R2−Ga−Fe−A系合金は、前記によって得られた合金をピンミルなどの公知の粉砕手段によって粉砕されたものであってもよい。
【0082】
(第一の熱処理を実施する工程)
前記によって準備したR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の表面の少なくとも一部に、前記R2−Ga−Fe−A系合金の少なくとも一部を接触させ、真空又は不活性ガス雰囲気中、700℃以上950℃以下の温度で熱処理をする。本開示においてこの熱処理を第一の熱処理という。これにより、R2−Ga−Fe−A系合金からGaやFeを含む液相が生成し、その液相がR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の粒界を経由してバルク体表面から内部に拡散導入される。第一の熱処理温度が700℃以下であると、GaやFeを含む液相量が少なすぎて後述する第二の熱処理を実施する工程により生成されるR−T−Ga相の生成量が少なくなったり、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石の[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず、高いH
cJを得ることが出来ない。一方、950℃を超えると主相であるR
2T
14B相が過剰に結晶粒成長してH
cJが低下する恐れがある。熱処理温度は、750℃以上900℃以下が好ましい。より高いH
cJを得ることが出来るからである。なお、熱処理時間はR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体やR2−Ga−Fe−A系合金の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0083】
第一の熱処理は、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体表面に、任意形状のR2−Ga−Fe−A系合金を配置し、公知の熱処理装置を用いて行うことができる。例えば、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体表面をR2−Ga−Fe−A系合金の粉末層で覆い、第一の熱処理を行うことができる。例えば、R2−Ga−Fe−A系合金を分散媒中に分散させたスラリーをR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体表面に塗布した後、分散媒を蒸発させてR2−Ga−Fe−A系合金とR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体とを接触させてもよい。また、後述する実験例に示す様に、R2−Ga−Fe−A系合金は、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の配向方向に対して垂直な表面に接触させるように配置することが好ましい。なお、分散媒として、アルコール(エタノール等)、アルデヒド及びケトンを例示できる。また、第一の熱処理が実施されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体に対して切断や切削など公知の機械加工を行ってもよい。
【0084】
(第二の熱処理を実施する工程)
第一の熱処理が実施されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体に対して、真空又は不活性ガス雰囲気中、450℃以上600℃以下の温度で熱処理を行う。本開示においてこの熱処理を第二の熱処理という。第二の熱処理を行うことにより、磁石内部の少なくとも一部にR−T−Ga相、典型的にはR
6T
13Z相(ZはCu及び/又はGaを必ず含む)を生成させる。これにより、GaやCuを含む厚い二粒子粒界が得られ、高いH
cJを得ることができる。第二の熱処理の温度が450℃未満及び600℃超の場合は、R−T−Ga相の生成量が少なすぎて、高いH
cJを得ることができない恐れがある。熱処理温度は、480℃以上560℃以下が好ましい。より高いH
cJを得ることが出来る。なお、熱処理時間はR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の組成や寸法、熱処理温度などによって適正値を設定するが、5分以上20時間以下が好ましく、10分以上15時間以下がより好ましく、30分以上10時間以下がさらに好ましい。
【0085】
なお、前記のR
6T
13Z相(R
6T
13Z化合物)において、Rは希土類元素のうち少なくとも一種でありPr及びNdの少なくとも一方を必ず含み、Tは遷移金属元素のうち少なくとも一種でありFeを必ず含む。R
6T
13Z化合物は代表的にはNd
6Fe
13Ga化合物である。また、R
6T
13Z化合物はLa
6Co
11Ga
3型結晶構造を有する。R
6T
13Z化合物はその状態によってはR
6T
13−δZ
1+δ化合物になっている場合がある。なお、R3−T2−B−Cu−M2系磁石中に比較的多くのCu、Al及びSiが含有される場合、R
6T
13−δ(Ga
1−a−b−cCu
aAl
bSi
c)
1+δになっている場合がある。
【0086】
(R3−T2−B−Cu−M2系磁石)
前記第二の熱処理を実施する工程後のR3−T2−B−Cu−M2系磁石の組成について説明する。
尚、R3−T2−B−Cu−M2系磁石におけるR3、T2及びCuについては、上述したR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体のR1、T1及びCuと同じ組成であるため、説明を省略する。
前記T2とBとは、[T2]/[B]のmol比が14.0超となるように設定する。[T2]/[B]のmol比が14.0超にすることにより高いH
cJを得ることができる。この条件は、主相(R
2T
14B化合物)形成に使われるT量に対して相対的にB量が少ないことを示している。また、BはR3−T2−B−Cu−M2系磁石全体の0.8mass%以上1.0mass%未満が好ましい。Bが0.8mass%未満であると、B
rの大幅な低下を招く恐れがあるため好ましくない。一方、Bが1.0mass%以上であると[T2]/[B]のmol比を14.0超にできず高いH
cJを得ることができない。Bは0.81mass%以上0.95mass%以下であることがより好ましく、0.82mass%以上0.93mass%以下であることがさらに好ましい。M2はGa及びAgでありGaを必ず含み、M2は0.1mass%以上3mass%以下である。M2が0.1mass%未満であると高いH
cJが得られない恐れがあり、3mass%を超えるとB
rが低下する恐れがある。T2は、R3、B、Cu,M2及び不可避的不純物以外の残部を占めることが好ましい。
【0087】
さらに、R3−T2−B−Cu−M2系磁石は、Ndメタル、Prメタル、ジジム合金(Nd−Pr)、電解鉄、フェロボロンなどの合金中及び製造工程中に通常含有される不可避的不純物及び少量の上記以外の元素を含んでいても良い。例えば、La、Ce、Sm、Ca、Mg、O(酸素)、N(炭素)、C(窒素)、Hf、Ta、Wなどをそれぞれ含有してもよい。
【0088】
前記の第二の熱処理を実施する工程によって得られたR3−T2−B−Cu−M2系磁石は、切断や切削など公知の機械加工を行ったり、耐食性を付与するためのめっきなど、公知の表面処理を行うことができる。
【実施例】
【0089】
本開示を実施例によりさらに詳細に説明するが、本開示はそれらに限定されるものではない。
【0090】
実験例1
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体(バルク体)を準備する工程]
バルク体がおよそ表1の符号1−Aから1−Hに示す組成となるように、各元素を秤量しストリップキャスト法により鋳造し、厚み0.2〜0.4mmのフレーク状の原料合金を得た。得られたフレーク状の原料合金を水素粉砕した後、550℃まで真空中で加熱後冷却する脱水素処理を施し粗粉砕粉を得た。次に、得られた粗粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を粗粉砕粉100mass%に対して0.04mass%添加、混合した後、気流式粉砕機(ジェットミル装置)を用いて、窒素気流中で乾式粉砕し、粒径D
50が4μmの微粉砕粉(合金粉末)を得た。なお、粒径D
50は、気流分散法によるレーザー回折法で得られた体積中心値(体積基準メジアン径)である。
【0091】
前記微粉砕粉に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を微粉砕粉100mass%に対して0.05mass%添加、混合した後磁界中で成形し成形体を得た。なお、成形装置には、磁界印加方向と加圧方向とが直交するいわゆる直角磁界成形装置(横磁界成形装置)を用いた。得られた成形体の密度は4.1〜4.3Mg/m
3であった。
【0092】
得られた成形体に対して、HDDR処理を行った。具体的には、圧粉体を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で880℃まで加熱し、その後、雰囲気を100kPa(大気圧)の水素流気に切り替えた後、880℃、2時間保持して水素化・不均化反応を行った。その後、温度を保持したまま、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、脱水素、再結合反応を行った後、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却した。HDDR処理後の成形体は、密度(寸法及び質量から計算)が7.0Mg/m
3以下であった。その後、成形体を
図4に示すホットプレス装置を用いて加熱圧縮を行い高密度化した。具体的には、HDDR処理後のサンプルを研削加工した後、カーボン製のダイス内にセットし、このダイスをホットプレス装置内にセットして、真空中において700℃の条件下、50MPaの圧力で圧縮した。ホットプレスで得られたバルク体の密度は7.5Mg/m
3以上であった。また、配向方向に平行な断面の走査電子顕微鏡観察(SEM観察)から求められた平均結晶粒径(円相当径)はいずれのサンプルも200nm以上800nm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在することを確認した。得られたバルク体の成分の結果を表1に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。なお、バルク体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。表1における「[T1]/[B]」は、T1を構成する各元素(ここではFe、Al、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(c)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(d)との比(c/d)である。以下の全ての表も同様である。なお、表1の各組成および酸素量、炭素量を合計しても100mass%にはならない。これは、前記の通り、各成分によって分析方法が異なるためである。その他表についても同様である。
【0093】
【表1】
【0094】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表2の符号1−aに示す組成となるように、各元素を秤量しそれらの原料を溶解して、単ロール超急冷法(メルトスピニング法)によりリボンまたはフレーク状の合金を得た。得られた合金を乳鉢を用いてアルゴン雰囲気中で粉砕した後、目開き425μmの篩を通過させ、R2−Ga−Fe−A系合金を準備した。得られたR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表2に示す。尚、表2における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。
【0095】
【表2】
【0096】
[第一の熱処理を実施する工程]
表1の符号1−Aから1−HのR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を切断、切削加工し、4.4mm×10.0mm×11.0mmの直方体(10.0mm×11.0mmの面が配向方向と垂直な面)とした。次に、
図3に示すように、ニオブ箔により作製した処理容器3中に、主に磁石素材の配向方向(図中の矢印方向)と垂直な面がR2−Ga−Fe−A系合金と接触するように、表2に示す符号1−aのR2−Ga−Fe−A系合金を、符号1−Aから1−HのR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体のそれぞれの上下に配置した。次に、管状流気炉を用いて、200Paに制御した減圧アルゴン中で、表3の第一の熱処理に示す温度及び時間で前記R2−Ga−Fe−A合金及び前記R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱して第一の熱処理を実施した後、冷却した。
【0097】
[第二の熱処理を実施する工程]
第二の熱処理を、管状流気炉を用いて200Paに制御した減圧アルゴン中で、表3の第二の熱処理に示す温度及び時間で、第一の熱処理が実施されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体に対して実施した後、冷却した。熱処理後の各サンプルに対して各サンプルを切断、切削加工し、4.0mm×4.0mm×4.0mmの立方体状のサンプル(R3−T2−B−Cu−M2系磁石)を得た。尚、第一の熱処理を実施する工程におけるR2−Ga−Fe−A合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の加熱温度、並びに、第二の熱処理を実施する工程におけるR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の加熱温度は、それぞれバルク体に熱電対を取り付けることにより測定した。
【0098】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表3に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表4に示す。表4における「[T2]/[B]」は、T2を構成する各元素(ここではFe、Al、Si、Mn)に対し、分析値(mass%)をその元素の原子量で除したものを求め、それらの値を合計したもの(c)と、Bの分析値(mass%)をBの原子量で除したもの(d)との比(c/d)である。以下の全ての表も同様である。表3の通り、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体における[T1]/[B]のmol比を13.0以上14.0以下とし、且つ、第二の熱処理が実施されたR3−T2−B−Cu−M2系磁石(表4)における[T2]/[B]のmol比が14.0超である本発明例はいずれも高いB
r及び高いH
cJが得られていることがわかる。これに対し、第二の熱処理が実施されたR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比が14.0以下であるサンプルNo.1−1は高いH
cJが得られなかった。さらに、第二の熱処理が実施されたR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比が14.0超であっても、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体における[T1]/[B]のmol比が本開示の範囲外であるサンプルNo.1−4([T]/[B]のmol比が14.2)はB
rが大幅に低下している。また、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体におけるCu量が0.1mass%以上1.5mass%以下でないサンプルNo.1−5、及びサンプルNo.1−8(Cu量がサンプルNo.1−5は0.04mass%、サンプルNo.1−8は2.01mass%)は、高いH
cJが得られなかった。
【0099】
【表3】
【0100】
【表4】
【0101】
実験例2
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程]
バルク体がおよそ表5の符号2−Aに示すとなるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を作製した。
得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の密度は7.5Mg/m
3 以上であった。得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の成分の結果を表5に示す。表5における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0102】
【表5】
【0103】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表6の符号2−aから2−fに示す組成となるように各元素を秤量する以外は、実験例1と同じ方法でR2−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表6に示す。
【0104】
【表6】
【0105】
[第一の熱処理を実施する工程]
表7の第一の熱処理に示す温度及び時間でR2−Ga−Fe−A系合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0106】
[第二の熱処理を実施する工程]
表7の第二の熱処理に示す温度及び時間でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR3−T2−B−Cu−M2系磁石を得た。
【0107】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表7に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表8に示す。表7の通り、R2−Ga−Fe−A系合金のFe量が4mass%以上40mass%以下である本発明例は高いB
r及び高いH
cJが得られていることがわかる。また、表8の通り、R2−Ga−Fe−A系合金のFe量が本開示の範囲外であると、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表8中の比較例)、高いH
cJを得ることができなかった。
【0108】
【表7】
【0109】
【表8】
【0110】
実験例3
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程]
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体がおよそ表9の符号3−Aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を作製した。得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の密度は7.5Mg/m
3 以上であった。得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の成分の結果を表9に示す。表9における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0111】
【表9】
【0112】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表10の符号3−a〜3−jに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR2−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表10に示す。
【0113】
【表10】
【0114】
[第一の熱処理を実施する工程]
表11の第一の熱処理に示す温度及び時間でR2−Ga−Fe−A合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0115】
[第二の熱処理を実施する工程]
表11の第二の熱処理に示す温度及び時間でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。尚、サンプル3−17及び3−18は、第二の熱処理を実施しなかった。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR3−T2−B−Cu−M2系磁石を得た。
【0116】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表11に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表12に示す。表11の通り、R2−Ga−Fe−A系合金のR2量が35mass%以上91mass%以下、Ga量が2.5mass%以上40mass%以下である本発明例は高いB
r及び高いH
cJが得られていることがわかる。また、表12の通り、R2−Ga−Fe−A合金におけるR2、Gaのいずれかが本開示の範囲外であると、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表12中の比較例)、高いH
cJを得ることができない。このように、R1、Ga(及び実施例2に示す様にFe)の含有量が本開示の範囲内にあることにより、[T2]/[B]のmol比が14.0超となるFeの必要量を磁石表面から内部に導入させることが可能となる。
【0117】
【表11】
【0118】
【表12】
【0119】
実験例4
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を準備する工程]
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体がおよそ表13の符号4−Aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を作製した。
得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の密度は7.5Mg/m
3 以上であった。得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の成分の結果を表13に示す。表13における各成分は実験例1と同じ方法で測定した。なお、R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.5mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0120】
【表13】
【0121】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表14の符号4−aに示組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR2−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表14に示す。
【0122】
【表14】
【0123】
[第一の熱処理を実施する工程]
表15の第一の熱処理に示す温度及び時間でR2−Ga−Fe−A合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0124】
[第二の熱処理を実施する工程]
表15の第二の熱処理に示す温度及び時間でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法で加工しR3−T2−B−Cu−M2系磁石を得た。
【0125】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表15に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表16に示す。表15の通り、本開示の第一の熱処理温度(700℃以上950℃以下)及び第二の熱処理温度(450℃以上600℃以下)である本発明例は、高いB
r及び高いH
cJが得られていることがわかる。また、表16の通り、第一の熱処理温度又は第二の熱処理温度が本開示の範囲外である比較例は、最終的に得られるR3−T2−B−Cu−M2系磁石における[T2]/[B]のmol比を14.0超とすることができず(表16中の比較例)、高いH
cJを得ることができなかった。
【0126】
【表15】
【0127】
【表16】
【0128】
実験例5
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体(バルク体)を準備する工程]
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体がおよそ表17の符号5−Aに示す組成となるように、各元素を秤量しブックモールド法により鋳造し、厚み10〜20mmのブロック状の原料合金を得た。得られた原料合金を減圧アルゴン雰囲気中で1120℃×20時間の熱処理を行った後、冷却した。その後、絶対圧250kPaの加圧水素雰囲気で2時間保持することにより、合金に水素を吸蔵させた後、真空引きを行って水素を極力除去した。その後、500μmのメッシュにて解砕することで、粉末を得た。
【0129】
得られた粉末に対して、HDDR処理を行った。具体的には、粉末を100kPa(大気圧)のアルゴン流気中で890℃まで加熱し、その後、雰囲気を100kPa(大気圧)の水素流気に切り替えた後、890℃で2時間保持して水素化・不均化反応を行った。温度を保持したまま、5.3kPaに減圧したアルゴン流気中で1時間保持し、脱水素、再結合反応を行った後、大気圧アルゴン流気中で室温まで冷却した。HDDR処理により、粉末が若干凝集していたため、目開き500μmのメッシュで解砕した。
【0130】
その後、粉末をプレス装置の金型に充填し、1.2MA/mの磁界中において、磁界と垂直方向に60MPaの圧力を印加して圧粉体を作製した。得られた圧粉体をホットプレス装置の金型に充填し、その後金型をホットプレス装置内に設置して、1×10
−2Pa以下の真空中で200MPaの圧力を印加しながら、高周波加熱により金型を750℃まで加熱した。保持温度までの昇温時間は60秒とした。その後、750℃で2分間保持し加熱圧縮処理を行い、保持時間経過の10秒前にプレス圧力を解除し、保持時間経過後直ちにチャンバ内にヘリウムガスを導入して冷却して、実験に必要な数のR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を作製した。ホットプレスで得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の密度は7.5Mg/m
3以上であった。また、配向方向に平行な断面の走査電子顕微鏡観察(SEM観察)から求められた平均結晶粒径(円相当径)はいずれのサンプルも200nm以上800nm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2未満である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在することを確認した。得られた磁石素材の成分の結果を表17に示す。なお、表1における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。なお、磁石素材の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.1mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した
【0131】
【表17】
【0132】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表18の符号6−a〜6−eに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR2−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表18に示す。
【0133】
【表18】
【0134】
[第一の熱処理を実施する工程]
表19の第一の熱処理に示す温度及び時間でR2−Ga−Fe−A合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第一の熱処理を実施した。
【0135】
[第二の熱処理を実施する工程]
表19の第二の熱処理に示す温度及び時間でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを実験例1と同じ方法加工しR3−T2−B−Cu−M2系磁石を得た。
【0136】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表19に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表20に示す。表19の通り、平均粒子径20μm以上の合金をHDDR処理した後、得られた粉末を磁界中成形し、その後、加熱圧縮を行って得られたR1−T1−B―Cu−M1系合金バルク体を用いても高いH
cJが得られていることがわかる。また、表24の通り、高いH
cJが得られているサンプルは[T2]/[B]のmol比が14.0超となっていることがわかる。
【0137】
【表19】
【0138】
【表20】
【0139】
実験例6
[R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体(バルク体)を準備する工程]
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体がおよそ表21の符号6−Aに示す組成となるように、各元素を秤量しブックモールド法により鋳造し、厚み10〜20mmのブロック状の原料合金を得た。得られたブロック状の原料合金を単ロール超急冷法を用いて超急冷合金を作製した。具体的には周速度20m/秒で回転する純銅製のロール上に、石英管中で高周波溶解した原料合金を噴射することで厚さ20〜50μmのリボン状の合金を得た。得られた合金を乳鉢中で粉砕し、150μm以下の粉末を回収した。
【0140】
得られた粉末を直径6mmの金型に挿入し、室温、200MPaの圧力で圧縮して成形体を作製した。成形体の高さは約8mmで、密度は約5.6Mg/m
3であった。
【0141】
その後、得られた成形体をホットプレス装置の金型(内径6mm)に充填し、その後金型をホットプレス装置内に設置して、1×10
-2Pa以下の真空中で50MPaの圧力を印加しながら、高周波加熱により金型を750℃まで加熱した。保持温度までの昇温時間は60秒とした。その後、750℃で5分間保持して加熱圧縮処理を行い、保持時間経過の10秒前にプレス圧力を解除し、保持時間経過後直ちにチャンバ内にヘリウムガスを導入して冷却した。密度は7.5Mg/m
3以上まで向上した。
【0142】
その後、ホットプレスで得られた成形体に熱間加工を施した。具体的には、ホットプレス体(ホットプレスで得られた成形体)(直径6mm)を内径10mmの金型の中央部に設置し、その後金型をホットプレス装置内に設置して、1×10
−2Pa以下の真空中で高周波加熱により金型を800℃まで加熱した。保持温度までの昇温時間は60秒とした。その後、50MPaの圧力を印加しながらパンチの変位の変化がほぼゼロになるまで保持し、保持時間経過の10秒前にプレス圧力を解除し、保持時間経過後直ちにチャンバ内にヘリウムガスを導入して冷却してR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体6−Aを得た。熱間加工で得られたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の密度は7.5Mg/m
3以上であった。また、配向方向に平行な断面の走査電子顕微鏡観察(SEM観察)から求められた平均結晶粒径(円相当径)はいずれのサンプルも200nm以上800nm以下であり、個々の結晶粒の最長粒径bと最短粒径aの比b/aが2以上である結晶粒が全結晶粒の50体積%以上存在することを確認した。得られた磁石素材の成分の結果を表21に示す。なお、表21における各成分は、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した。なお、磁石素材の酸素量をガス融解−赤外線吸収法で測定した結果、すべて0.1mass%前後であることを確認した。また、C(炭素量)は、燃焼−赤外線吸収法によるガス分析装置を使用して測定した結果、0.1mass%前後であることを確認した。
【0143】
【表21】
【0144】
[R2−Ga−Fe−A系合金を準備する工程]
R2−Ga−Fe−A系合金がおよそ表22の符号6−aに示す組成となるように、各元素を秤量する以外は実験例1と同じ方法でR2−Ga−Fe−A系合金を準備した。高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定したR2−Ga−Fe−A系合金の組成を表22に示す。
【0145】
【表22】
【0146】
[第一の熱処理を実施する工程]
R1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を切断、切削加工し、1.4mm×8.0mm×8.0mmの直方体(8.0mm×8.0mmの面が配向方向と垂直な面)とした。その後、このR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体の配向方向に垂直な面(二面)に、R−Fe−B−Cu−M系合金バルク体の100質量部(100mass%)に対して、R2−Ga−Fe−A系合金0.4質量部(0.4mass%)を散布し、その後、管状流気炉を用いて、50Paに制御した減圧アルゴン中で、表23の第一の熱処理に示す温度及び時間でR2−Ga−Fe−A合金及びR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱した。
【0147】
[第二の熱処理を実施する工程]
表23の第二の熱処理に示す温度及び時間でR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を加熱すること以外は実験例1と同じ方法で第二の熱処理を実施した。熱処理後の各サンプルを。熱処理後の各サンプルの表面近傍に存在するR2−Ga−Fe−A系合金の濃化部を除去するため、表面研削盤を用いてR2−Ga−Fe−A系合金を散布した面を0.2mmずつ切削加工し、1.0×8.0mm×8.0mmの平板状のサンプル(R3−T2−B−Cu−M2系磁石)を得た。
【0148】
[サンプル評価]
得られたサンプルを、4枚重ねて、B−Hトレーサによって各試料のB
r及びH
cJを測定した。測定結果を表23に示す。また、サンプルの成分を高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−OES)を使用して測定した結果を表24に示す。表23の通り、超急冷法によって作製された合金を作製し、その後、熱間加工を行うことで作製されたR1−T1−B−Cu−M1系合金バルク体を用いても、高いH
cJが得られていることがわかる。また、表24の通り、高いH
cJが得られているサンプルは[T2]/[B]のmol比が14.0超となっていることがわかる。
【0149】
【表23】
【0150】
【表24】