【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の処理方法は、ヒ素がスコロダイトとして固定化され、スコロダイト中のヒ素濃度が高く、中間生成物の鉄ヒ素殿物からスコロダイトへの転換効率も良いと云う利点を有している。一方、鉄ヒ素殿物を生成する際に高価な第二鉄塩を用いるので、コスト高になる傾向がある。また、スコロダイト合成後に、付着しているヒ素を水洗浄して除去するのでヒ素を含む排液の処理費が高くなる。さらに、スコロダイトは嵩比重が約1と小さいので、スコロダイトの状態で廃棄処分すると処分場の容積を圧迫する。
【0009】
特許文献2の処理方法は、ヒ素含有煙灰を水浸出して亜ヒ酸溶液を濾別し、これに酸化マグネシウムと消石灰を添加してヒ酸カルシウムにする工程に手間がかかり、コスト高である。またガラス固化体に含まれるヒ素の固定が十分ではない問題がある。
特許文献3の処理方法は、ヒ酸ナトリウムをガラス固化する方法であり、これは1000℃以上でヒ素酸化物が揮発するため、排ガス処理が困難になる。
非特許文献1の処理方法は、CaO−SiO
2系スラグを用いてヒ酸カルシウムを一定の酸素分圧下でガラス化するために酸素分圧の制御を必要とし、実操業が難しいと云う問題がある。
【0010】
本発明は、ヒ素をガラス化して固定する処理方法について、従来の処理方法における上記問題を解決したヒ素のガラス固定化方法を提供する。本発明によれば、ヒ素のガラス固定化が容易であり、ガラス固化体に含まれるヒ素の溶出量が環境基準以下のヒ素含有ガラス固化体を得ることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の構成によって上記問題を解決したヒ素の固定化方法を提供する。
〔1〕
銅ヒ素含有物にアルカリ溶液と酸化剤を加えてヒ素を浸出させる酸化浸出を行い、浸出残渣を固液分離して回収したヒ酸アルカリ溶液に消石灰を加えてヒ酸カルシウムを生成させ、これを固液分離して回収したヒ酸カルシウムに、鉄とシリカとアルカリ成分を含むガラス化材料を加えて、鉄シリカ重量比(Fe/SiO
2)が0.5〜0.9であってアルカリ成分量が14wt%〜26wt%のガラス固化体を形成することによってヒ素を固定することを特徴とするヒ素の固定化方法。
〔2〕上記銅ヒ素含有物がヒ化銅含有スライムであり、該ヒ化銅含有スライムに水酸化ナトリウムと酸化剤を加え、加熱してヒ素を浸出させる酸化浸出を行い、浸出残渣を固液分離して回収したヒ酸ナトリウム溶液に消石灰を加えてヒ酸カルシウムを生成させ、これを固液分離して回収したヒ酸カルシウムを用いる上記[1]に記載するヒ素の固定化方法。
〔3〕上記ヒ酸ナトリウム溶液に消石灰を加えてヒ酸カルシウムを生成させ、固液分離して該ヒ酸カルシウムを回収し、一方、固液分離された水酸化ナトリウムを含む濾液を上記酸化浸出の工程に返送し、該酸化浸出のアルカリ源として再利用する上記[2]に記載するヒ素の固定化方法。
【0012】
〔具体的な説明〕
以下、本発明の処理方法を実施例と共に具体的に説明する。
本発明の処理方法は、
銅ヒ素含有物にアルカリ溶液と酸化剤を加えてヒ素を浸出させる酸化浸出を行い、浸出残渣を固液分離して回収したヒ酸アルカリ溶液に消石灰を加えてヒ酸カルシウムを生成させ、これを固液分離して回収したヒ酸カルシウムに、鉄とシリカとアルカリ成分を含むガラス化材料を加えて、鉄シリカ重量比(Fe/SiO
2)が0.5〜0.9であってアルカリ成分量が14wt%〜26wt%のガラス固化体を形成することによってヒ素を固定することを特徴とするヒ素の固定化方法である。
【0013】
上記ヒ酸カルシウムは、例えば、銅ヒ素含有物にアルカリ溶液と酸化剤を加えて酸化浸出して回収したヒ酸アルカリ溶液に消石灰を加えて生成させたヒ酸カルシウムなどを用いることができる。上記銅ヒ素含有物は、例えば、銅電解製錬において発生するヒ化銅含有スライムなどを用いることができる。上記アルカリ溶液としては水酸化ナトリウム溶液を用いることができる。
【0014】
銅電解製錬において発生するヒ化銅含有スライムを回収して水洗浄し、水酸化ナトリウムを加えてpH7.5以上にすると共に酸化剤を加え、加熱してヒ素を浸出させ、該浸出液を固液分離してヒ酸ナトリウム溶液を回収し、該ヒ酸ナトリウム溶液に消石灰を加えるとヒ酸カルシウムが生成する。本発明の処理方法のヒ酸カルシウムとして、このような銅電解精錬において生じたヒ化銅含有スライム溶液から回収したヒ酸カルシウムを用いることができる。ヒ化銅含有スライム溶液からヒ酸カルシウムを回収してガラス化する工程を以下に説明する。また、この工程を
図1に示す。
【0015】
〔アルカリ酸化浸出工程〕
ヒ化銅含有スライムにアルカリ溶液と酸化剤を加えてヒ素を浸出させる。このアルカリ酸化浸出において、該溶液のpHは7.5以上が好ましい。酸化剤としては、空気や酸素、塩素、塩素化合物などを用いることができる。空気や酸素はマイクロバブルの状態で該溶液に吹き込んでも良い。酸化浸出の加熱温度は90℃以下が好ましい。
【0016】
アルカリ溶液として水酸化ナトリウム溶液を用いた酸化浸出において、次式[1]に示すように、ヒ化銅が水酸化ナトリウム液中で酸化され、銅が酸化銅または水酸化銅を形成して固形分の残渣になり、ヒ素がヒ酸ナトリウムを形成して液中に浸出する。
2Cu
3As +4NaOH+4O
2 = 3Cu
2O↓+2Na
2HAsO
4+ H
2O ・・・[1]
【0017】
上記アルカリ酸化浸出のpHが7.5より低い領域では、例えば、微量の銅イオンとヒ素(V)イオンが反応してヒ酸銅〔Cu
3(AsO
4)
2〕の沈澱が生じるので液中のヒ素濃度は低下する。水酸化ナトリウムを添加してpHを7.5以上に調整すれば、ヒ素の浸出が進むので、pH7.5以上に調整して酸化浸出を行うのが好ましい。
【0018】
上記反応式[1]に示すように、ヒ素1モルを酸化浸出するには水酸化ナトリウム2モルが消費されるので、NaOHの添加量はNaOH/Asモル比=2倍(1当量)に基づいて調整すればよい。また、原料中のヒ素濃度が明らかなときには必要量の水酸化ナトリウム全量を浸出開始時に添加してもよい。この場合、浸出初期の液性が強アルカリ(pH14程度)になる場合でも浸出終了時のpHが7.5〜10の範囲になるようにすれば、銅、鉛などの重金属イオン濃度を抑えて、比較的に高純度のヒ素(V)を含むヒ素浸出液を得ることができる。
【0019】
浸出温度は30℃〜90℃がよく、30℃より低いと浸出時間が長くなり、90℃より高いと蒸気の発生量が多く、加熱コストが無駄になる。
【0020】
上記アルカリ酸化浸出によれば、ヒ化銅含有スライムからヒ素が選択的に浸出され、該スライムに含まれる銅や鉛などの共存金属との分離性が良い。さらに、浸出後のスラリーの濾過性が良く、短時間で濾過することができる。また、浸出残渣に含まれる銅の品位が80〜85%と高く、銅製錬処理が容易である。
【0021】
〔ヒ酸カルシウムの生成工程〕
上記アルカリ酸化浸出の浸出液を固液分離して、酸化銅を含む浸出残渣を除き、濾液のヒ酸ナトリウム溶液を回収する。このヒ酸ナトリウム溶液に消石灰を加えると、次式[2]に示すように、ヒ酸カルシウム(As
3Ca
5O
13H)が生成する。このヒ酸カルシウムを回収する。
3Na
2HAsO
4+ 5Ca(OH)
2 = 6NaOH + As
3Ca
5O
13H↓+ 3H
2O ・・・[2]
【0022】
ヒ酸カルシウムの生成工程において、上記反応式[2]に示すように、ヒ酸カルシウムが生成する消石灰の量は、Ca/Asモル比が5/3であるので、Ca/Asモル比1.7〜2.0になる量の消石灰を加えると良い。Ca/Asモル比1.7以下では、Asの回収率が低下し、2.0以上では、不純物として未反応の消石灰が残留するので好ましくない。
【0023】
また、上記反応式[2]に示すように、ヒ酸カルシウムと共に水酸化ナトリウムが生成するので、ヒ酸カルシウムを固液分離した濾液に含まれる水酸化ナトリウムを上記酸化浸出工程に返送し、アルカリ源として再利用することができる。
【0024】
ヒ酸カルシウムの生成工程において、溶液pHは7.5〜11が好ましく、pH9〜10がより好ましい。pH7.5未満では次式[3]に示すように、再生する水酸化ナトリウム濃度が低下し、pH11以上ではヒ酸カルシウムの生成が不十分になるので好ましくない。
3NaH
2AsO
4+ 5Ca(OH)
2 =3NaOH + As
3Ca
5O
13H↓+ 6H
2O ・・・[3]
【0025】
ヒ酸カルシウム生成工程の液温は50℃〜70℃が好ましい。液温が50℃未満ではヒ酸カルシウムが十分に生成しない。液温が70℃を超えると結晶性ヒ酸カルシウムが水酸化カルシウムの周りに成長して反応を阻害するので好ましくない。加熱時間は1〜4時間が好ましい。
【0026】
〔ヒ酸カルシウムのガラス化工程〕
ヒ酸カルシウムに、鉄シリカ重量比が0.5〜0.9、アルカリ成分量が14wt%〜26wt%になるように、鉄とシリカとアルカリ成分を含むガラス化材料を加えて、ヒ酸カルシウムをガラス固化体にする。
【0027】
鉄とシリカとアルカリ成分を含むガラス化材料としては、例えば、鉄、シリカ、カルシウム、ナトリウムを含む廃ガラスや、銅スラグなどを用いることができる。廃ガラスおよび銅スラグは、本発明の鉄シリカ重量比およびアルカリ成分量の範囲になるように、シリカ源の珪砂等と混合して用いると良い。また廃ガラスと銅スラグを混合して用いても良い。
【0028】
ガラス化材料とヒ酸カルシウムを、ガラス固化体の鉄シリカ重量比(Fe/SiO
2)が0.5〜0.9、アルカリ成分量が14wt%〜26wt%になるように混合し、加熱熔融してガラス固化体にする。
【0029】
ガラス固化体の鉄分およびシリカ分は主にガラス化材料に含まれている鉄分とシリカ分である。また、ガラス固化体のアルカリ成分は、ヒ酸カルシウムのCa分、およびガラス化材料に含まれているCa分やNa分などである。アルカリ成分量は、これらのアルカリ成分酸化物の合計量であり、アルカリ成分としてナトリウムとカルシウムを含むガラス固化体では、アルカリ成分量はNa
2OとCaOの合計量である。
【0030】
ガラス固化体の鉄シリカ重量比(Fe/SiO
2)が0.5未満であり、または0.9を超えると、ガラス固化体の溶出試験(環境省告示13号に準拠した溶出試験)において、ヒ素の溶出量が環境基準(0.3ppm)を上回るようになる。また、ガラス固化体のアルカリ成分量、例えば、Na
2OとCaOの合計量が14wt%未満ではヒ素濃度が5wt%未満になり経済的な利点が少なくなり、26wt%を超えるとヒ素濃度が15wt%以上になり、ヒ素の溶出量が多くなるので好ましくない。
【0031】
ガラス化工程の加熱温度の上限は1400℃が好ましい。加熱温度が1450℃以上になるとヒ酸カルシウムが分解してヒ素酸化物が揮発し、ヒ素を固定できなくなる。一方、加熱温度の下限はヒ酸カルシウムとガラス化材料の混合物が熔融する温度である。一般には、ガラス化工程の温度は1000℃〜1400℃が良く、1100℃〜1350℃が好ましい。加熱熔融時間は概ね15分〜30分であれば良い。加熱手段は上記加熱温度になるものであれば良く制限されない。一般には溶融炉などを用いることができる。
【0032】
本発明の処理方法によって製造するヒ素含有ガラス固化体は、該ガラス固化体に含まれるヒ素濃度が5wt%以上〜15wt%以下になるようにすると良い。ガラス固化体のヒ素濃度が5wt%未満では経済的な利点が少ない。一方、ガラス固化体のヒ素濃度が15wt%を上回るには、CaO濃度が26wt%以上のヒ酸カルシウムを用いる必要があり、ガラス固化体のCaO濃度も高くなり、本発明に係る処理方法のアルカリ成分量の範囲を超えるようになるので、ヒ素の溶出量が多くなる。
【発明の効果】
【0033】
本発明の処理方法によって製造したガラス固化体は、モールドとして長期間の保管が可能であるため、粉体であるスコロダイトのように飛散することなく、安定的な貯蔵が可能である。
【0034】
本発明の処理方法によれば、廃ガラスを用いたガラス固化体ではガラス固化体中のヒ素濃度を13wt%以上に高めることができ、また銅スラグを用いたガラス固化体ではガラス固化体中のヒ素濃度を11wt%以上に高めることができる。これらは何れもスコロダイトより容積が小さいため、最終処分場の限られた容積を有効に利用することができる。
【0035】
本発明の処理方法は、水酸化ナトリウムを用いた酸化浸出によってヒ酸ナトリウムを回収し、このヒ酸ナトリウム溶液に消石灰を加えて生じたヒ酸カルシウムを用いることができ、この場合、ヒ酸カルシウムの生成と共に水酸化ナトリウムが生成するので、この水酸化ナトリウムの大部分を浸出工程に返送して再利用することができる。このため水酸化ナトリウムを効率よく使用することができ、またその消費量を低減することができる。
【0036】
本発明の処理方法はヒ酸カルシウムをガラス化して固定する方法であり、従来方法のようなヒ酸アルカリ溶液に第二鉄化合物を加えて生成させた鉄ヒ素殿物を対象にする方法ではないので、高価な第二鉄化合物を使用せず、処理コストを低減することができる。
【0037】
本発明の処理方法によって製造したヒ素含有ガラス固化体は、スコロダイトと異なり、水洗浄する必要がなく、排液のヒ素含有量が少ないので、排液処理の負担が小さい。
また、廃ガラスには微量のヒ素が含有されているものが多いので、リサイクルが難しく、大部分は埋立処分されているが、本発明の処理方法によれば、ガラス固化体のヒ素濃度を高めることができるので、廃ガラスのまま埋立処分するよりも、最終処分場の限られた容積を有効に利用することができる。