【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、上記の目的を達成するために、まず、傾斜機能材料に係る第1の本発明は、物質Aの粒子または物質Bの粒子のいずれか一方を母粒子、他方を子粒子として該母粒子の表面に該子粒子が静電吸着されてなる複合粒子を原料粒子とする傾斜機能材料であって、前記物質Aまたは物質Bのうち子粒子とした物質の平均的な体積相当量を単位とする傾斜率によって、組成が傾斜されていることを特徴とするものである。
【0014】
ここで、物質Aの粒子および物質Bの粒子とは、いずれも単一の物質である場合のほか、複数の物質により複合粒子が形成された結果、複数の物質が混合された状態の粒子である場合もある。また、物質Aと物質Bとは、化学的組成は同一であっても異なっていても良いものである。さらに、物質Aと物質Bは、異なる種類によって区分することができ、ここでの種類とは、化学的組成が異なることのみを意味するものではなく、物性が異なることを含む概念である。このため、例えば、物質粒子の化学組成、形態や粒径等の形状、結晶構造や比重などを含む物理的性質、電気的性質、磁気的性質のいずれかが異なることで、異なる種類とされる。更に、物質の平均的な体積相当量とは、ほぼ均一な粒径の粒子を子粒子として使用する場合であっても、微細な粒子の体積を一定にさせることが困難であるため、そのような場合の体積差を調整するために、平均的としたものであり、子粒子相互の体積の相違が誤差の範囲内であれば、格別に平均値を算定する必要はないものである。
【0015】
本発明によれば、原料粒子は、物質Aおよび物質Bのうち、一方を母粒子とし他方を子粒子とする複合粒子で形成されるものであるから、子粒子が静電吸着される個数が制御されることによって、組成の傾斜が自在に調整された傾斜機能材料を得ることができる。さらに、子粒子とされた物質を個数で制御することにより、1個当たりの平均的な体積相当量を単位として組成が傾斜することから、組成の変化の程度を微細に調整でき、緩やかな傾斜率を有する傾斜機能材料を得ることができる。尚、ここで、粒子とは、微小な固形物を意味するものであって、粒状のものに限定されるものではなく、例えば、塊状、扁平状、異形状、柱状、繊維状のものを含み、中空の形態のものをも包含され、剛直なものに限られず可撓性を有するものを含む概念である。
【0016】
傾斜機能材料に係る第2の発明は、前記第1の発明において、前記傾斜率が、その全部または一部が略線形であることを特徴とするものである。
【0017】
ここで、略線形とは、線形に近似することを意味するが、子粒子として使用される個々の粒子における体積の相違、または子粒子1個に相当する体積量を最小単位とするときの段階的な微小変化を考慮しない場合に線形となることを意味するものである。
【0018】
本発明によれば、第1の発明に加え、組成の傾斜率が略線形となっているため、組成の変化の不連続性を抑制でき、シームレスに変化する組成を有する傾斜機能材料を得ることができる。従って、例えば、粉末冶金法により焼成される場合において、収縮率または熱膨張係数等の相違に基づく歪みの発生を制限させることができる。
【0019】
また、複合粒子スラリの製造方法に係る第1の発明は、二種類に区分された物質粒子群の混合割合が調整されたスラリの製造方法であって、前記二種類の物質粒子群のそれぞれに属する物質粒子が、区分ごとに溶液中で相互に反対の極性に帯電するように、各物質粒子の電荷を調整してなる電荷調整工程と、前記電荷調整工程によって作製された二種類の物質粒子群が個別に含有される二種類の液体を、相対的な流量を調整しつつ合流させ、二種類の物質粒子群に属する双方の物質粒子が相互に静電吸着して複合粒子を形成させるとともに、その複合粒子の態様で一方の物質粒子群に属する物質粒子と他方の物質粒子群に属する物質粒子との比率を流量に応じて変化させる混合工程とを含み、二種類の物質粒子群の混合割合が調整されたスラリを得ることを特徴とするものである。
【0020】
ここで、物質粒子には、個々の物質粒子が単一の物質である場合のほか、いずれか一方または双方が、複合粒子によって形成され、当該物質粒子が複数の物質を混合している粒子の場合もある。また、物質粒子群とは、物質粒子の集合体を意味し、同種の物質粒子による集合体である場合のほか、同じ物質でありながら、平均粒径等を異ならせた物質粒子の集合体とする場合もあり、さらには、異種の物質粒子を集合させるような場合をも含むものである。そこで、物質粒子群に属する物質粒子の選定は任意であり、個々の物質粒子の化学的組成のみならず、物性によっても選択することができる。このため、例えば、物質粒子の化学組成、形態や粒径等の形状、結晶構造や比重などを含む物理的性質、電気的性質、磁気的性質のいずれかを基準として選定することができる。従って、二種類に区分された物質粒子群には、異なる物性を有する二種の物質粒子によって区分される場合のほか、同一の物性を有する物質粒子を形状や粒径等によって区分されることもあり、また、複数の異なる物性を有する物質粒子を二つのグループとして区分するような場合もあり得る。
【0021】
本発明によれば、電荷調整工程によって、物質粒子群の一方に属する物質粒子が正極に帯電し、他方に属する物質粒子が負極に帯電された状態であるから、混合工程において、相対的な流量を調整しつつ合流させることにより、二種類の物質粒子群に属する物質粒子が静電吸着によって複合粒子を形成し、当該流量の変化に応じて両粒子が吸着する比率が異なることとなる。このとき、物質粒子の一方を粒径の大きい母粒子とし、他方を粒径の小さい子粒子とすることにより、母粒子の表面に静電吸着される子粒子の数が異なる複数種類の複合粒子を形成させることができ、これにより複合粒子の状態における両物質粒子群の混合割合が調整されることとなる。ゆえに、二種類の物質粒子群を個別に含有する二種類の液体の流量調整をもって、二種類の物質粒子群の混合割合を調整することができるのである。さらに、前記の混合工程は、二種類の液体の流量調整によって複合材料の状態における吸着比率を変化させるものであるため、個々の液体に含有される個々の物質粒子の濃度を変更するような煩瑣な工程が不要なものである。
【0022】
複合粒子スラリの製造方法に係る第2の発明は、前記第1の発明において、さらに、二種類の物質粒子群に属する物質粒子のそれぞれについて、平均粒径を調整するための粒径調整工程を含むことを特徴とするものである。
【0023】
本発明によれば、第1の発明に加え、物質粒子群に属する個々の物質粒子の粒径を所定の範囲内に規定することや、ほぼ均一な状態とすることができることから、混合工程において混合される双方の物質粒子の数を調整することによって、混合割合を所望状態に制御することができる。さらに、母粒子とすべき粒径の大きい物質粒子と、子粒子とすべき粒径の小さい物質粒子とを予め作製することができる。
【0024】
複合粒子スラリの製造方法に係る第3の発明は、前記第2の発明において、前記粒径調整工程は、スプレードライ法により造粒する造粒工程であることを特徴とするものである。
【0025】
本発明によれば、第2の発明に加え、汎用される方法を利用しつつ、物質粒子群に属する個々の物質粒子の粒径を調整することができ、また、混合すべき子粒子の粒径を微細に粉砕することも可能であるため、微細な子粒子が提供されることによって混合割合を細分化することも可能となる。
【0026】
複合粒子スラリの製造方法に係る第4の発明は、前記第1〜3のいずれかの発明において、前記混合工程は、上流側が分岐してなるY字形を形成する流路を使用し、該分岐する上流側から二種類の液体を流入させ、該流路内において合流させることにより混合するものであることを特徴とするものである。
【0027】
本発明によれば、第1〜第3の発明に加え、簡易な流路構成によって二種類の液体を合流させることができる。また、この流路は、マイクロリアクタ等の微細な流路を使用するものではなく、数mm程度の流路径を有するものであればよく、少なくとも略1mm程度の流路径を有しているものとされる。従って流路設計が極めて容易となる。さらに、Y字形の流路としていることから、二種類の液体は、上流側の二つの流路から個別に供給することができ、相互の流量調整は、上流側の流路によって行うことが可能となる。そして、上流側の両流路が合流点において、二種類の液体が合流されることとなり、震盪混合などの特別な混合を行う必要もないものである。
【0028】
複合粒子スラリの製造方法に係る第5の発明は、前記第1〜4のいずれかの発明において、前記混合工程における相対的な流量は、二種類の液体のうちの一方のみを調整するものであることを特徴とするものである。
【0029】
本発明によれば、第1〜第4の発明に加え、二種類の液体の一方のみについて流量調整を行うことから、二種類の液体の供給量を容易に調整でき、これらに含有される二種類の物質粒子群を供給する量の調整が簡便となる。例えば、子粒子とすべき物質粒子を含有する液体の流量のみを調整する場合には、母粒子の表面に静電吸着される子粒子の数を制御することができる。ゆえに、形成される複合粒子は、母粒子に対する子粒子の割合が変化することとなり、混合割合(吸着比率)の異なる複合粒子を自在に作製することができる。
【0030】
さらに、傾斜機能材料の製造方法に係る第1の発明は、前記複合粒子スラリの製造方法に係る発明によって製造された複合粒子スラリを使用する傾斜機能材料の製造方法であって、前記混合工程における相対的な流量を順次変化させることにより、二種類の物質粒子群の混合割合を連続的に変化させた複合粒子スラリを作製する連続混合工程と、前記連続混合工程により二種類の物質粒子群に属する双方の物質粒子が異なる比率で静電吸着された複合粒子を、順次所定方向に積み重ねる重積工程とを含むことを特徴とする。
【0031】
本発明によれば、連続混合工程により、二種類の物質粒子群の混合割合が順次かつ連続して変化し、すなわち二種類の物質粒子群に属する個々の物質粒子による静電吸着の比率が適宜変化した複合粒子を、スラリとして得ることができる。このとき、二種類の物質粒子群を含有する二種類の液体について、相対的な流量を変化させるものであるから、流量の変化に応じた複合粒子の状態における両群に属する物質粒子の比率を自由に調整することができる。そして、このように形成された複合粒子を所定方向に順次積み重ねることにより、当該所定方向の組成の変化を自在に設計することができる。ゆえに、このような製造方法によって作製される傾斜機能材料は、複合粒子を形成する子粒子の物質粒子の平均的な体積相当量を単位として組成を傾斜させることができ、組成の変化の程度を微細に調整することにより、緩やかな傾斜率を有する傾斜機能材料を得ることができる。なお、所定方向に積み重ねるとは、一般的には高さ方向へ堆積させることがであるが、これに限定されず、横方向または斜め方向へ積み重ねるような状態を含むものである。
【0032】
傾斜機能材料の製造方法に係る第2の発明は、前記第1の発明において、さらに、前記重積工程前に前記一方の物質粒子群に属する物質粒子のみを前記重積工程にて重積される複合粒子に連続するように導入し、または前記重積工程の後に、前記重積工程にて重積された複合粒子に連続するように前記他方の物質粒子群に属する物質粒子のみを導入する少なくともいずれかの予備工程を含むことを特徴とするものである。
【0033】
本発明によれば、第1の発明に加え、二種類の物質粒子群に属する物質粒子のいずれか一方のみが導入される領域を形成することができ、他方の物質粒子の混合割合が0%の状態から組成の傾斜を開始させ、100%に変化するまでの範囲で組成を傾斜させることも可能となる。なお、本発明の予備工程における物質粒子は、複合粒子スラリを製造する際の混合工程を経由させることも可能である。すなわち、流量調整において、一方の液体の流量を0とすれば、他方の液体と合流することなく、いずれか一方の物質粒子群を含む液体のみが複合粒子スラリと同様に流路内を流下させることができるのである。これにより、流量変化によってのみ、連続して0%〜数%へ移行させることができ、また、数十%〜100%への移行も連続させることができる。
【0034】
傾斜機能材料の製造方法に係る第3の発明は、前記第1または第2の発明において、前記重積工程は、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を小さくして形成された複合粒子から、該混合割合を増加させて形成された複合粒子に移行させつつ、連続的に積み重ねる連続重積工程であることを特徴とするものである。
【0035】
本発明によれば、第1および第2の発明に加え、連続重積工程により、複合粒子を連続的に積み重ねることができる。積み重ねられる複合粒子における吸着比率は、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を小さくしたものから連続して増加することに伴うものであるので、順次連続して変化することとなり、間断なくかつ円滑な組成の変化を可能とする。
【0036】
傾斜機能材料の製造方法に係る第4の発明は、前記第3の発明において、前記連続重積工程は、前期工程と後期工程とに区分され、前期工程は、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を変化させて形成された複合粒子を積み重ねる工程であり、後期工程は、他方の物質粒子群に対する一方の物質粒子群の混合割合を変化させて形成された複合粒子を積み重ねる工程であることを特徴とするものである。
【0037】
本発明によれば、第3の発明に加え、前期工程と後期工程とでは、変化させるべき物質粒子群の対象を逆にしており、前期工程において、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を増加させ、さらに、後期工程において、他方の物質粒子群に対する一方の物質粒子群を減少させれば、実質的には、他方の物質粒子群の混合割合が増加することとなる。これにより、前期工程および後期工程の全体として、他方の物質粒子群に属する物質粒子が吸着する比率の小さな複合粒子から順次吸着比率を増加させた複合粒子の連続的な重積が可能となる。ゆえに、広範囲な組成の変化においても間断なくかつ円滑な組成の変化を可能とする。なお、前期工程と後期工程における混合割合の変更対象の物質粒子群を逆にすれば、他方の物質粒子群の混合割合が大きくしたときに形成される複合粒子から、順次混合割合を減少させて形成される複合粒子の連続的な重積も可能である。
【0038】
傾斜機能材料の製造方法に係る第5の発明は、前記第4の発明において、前記前期工程は、一方の物質粒子群に属する物質粒子を母粒子とし、他方の物質粒子群に属する物質粒子を子粒子として、該母粒子の表面に静電吸着する該子粒子の数を変化させた複合粒子を積み重ねる工程であり、前記後期工程は、他方の物質粒子群に属する物質粒子を母粒子とし、一方の物質粒子群に属する物質粒子を子粒子として、該母粒子の表面に静電吸着する該子粒子の数を変化させた複合粒子を積み重ねる工程であることを特徴とするものである。
【0039】
本発明によれば、第4の発明に加え、母粒子の表面に子粒子を静電吸着させて形成される複合粒子を使用する場合、一つの母粒子に対し、その表面に静電吸着される子粒子の数を制御することによって、物質粒子群の混合割合を広範囲に変化させることができる。例えば、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を連続的に増加させる場合には、前期工程では、一方の物質粒子群に属する物質粒子を母粒子とし、他方を子粒子とするため、子粒子の個数を増加させることによって、複合粒子の状態おける他方の物質粒子群に属する物質粒子の吸着比率が増大し、それに応じて他方の物質粒子群の混合割合は増加する。また、後期工程では、他方の物質粒子群に属する物質粒子を母粒子とし、一方を子粒子とすることから、子粒子の個数を減少させることによって、それに応じて、実質的には、他方の物質粒子群の混合割合が増加することとなる。このように、母粒子の表面に静電吸着される子粒子の数を制御することにより、物質粒子群の混合割合を緻密に調整することができ、よって、組成の変化を自在に調整することが可能となる。
【0040】
傾斜機能材料の製造方法に係る第6の発明は、前記第4または第5の発明において、前記前期工程は、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を体積比1:1以下または未満まで増加させて形成された複合粒子を積み重ねる工程であり、前記後期工程は、他方の物質粒子群に対する一方の物質粒子群の混合割合が体積比1:1を超えまたはそれ以上から減少させて形成された複合粒子を積み重ねる工程であることを特徴とするものである。
【0041】
本発明によれば、第4および第5に加え、前期工程および後期工程のそれぞれにおいて、一方の物質粒子群に対する他方の物質粒子群の混合割合を、それぞれ1/2近傍とすることができ、前期工程の連続的な組成の変化に続けて、後期工程による継続的な連続的組成変化を可能とし、両群の物質粒子による複合粒子の形成可能な範囲内において、広範囲における混合割合を変化させることができる。すなわち、複合粒子は、母粒子の表面に子粒子を静電吸着させる構造であるから、母粒子の粒径に対し子粒子の粒径を適当な大きさとすることにより、母粒子の表面全体に子粒子を静電吸着させた状態において、体積比1:1を超える混合割合とすることができる。従って、これを1:1近傍までに制御し、子粒子の静電吸着量を適宜な範囲内で変化させることにより、両群に属する物質粒子の混合割合の調整範囲が拡大することとなる。さらに、前期予備工程を加えれば、0%〜100%の範囲で混合割合を変化させることができる。