(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1のゲル膜及び前記第2のゲル膜の一方は、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の両方に親和性のあるモノマーと、前記第1の溶媒に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含み、他方は、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の両方に親和性のあるモノマーと、前記第2の溶媒に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含む、
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のバルブ。
前記第1のゲル膜は、N,N−ジメチルアクリルアミドと、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液との重合体を架橋したものを含む、
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のバルブ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来技術では得られていなかったような、外部からエネルギーを供給することなく液体の移動を制御することのできるバルブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、2種類の溶媒を含む液体の移動を制御するにあたり、液体の溶媒濃度に依存する平衡膨潤時の含溶媒率の挙動が異なる2種類のゲル膜を組み合わせてバルブに使用することにより、上記課題を解決することができることを見出した。
すなわち、本発明は、第1の溶媒及び第2の溶媒を含む液体の移動を制御するためのバルブであって、
該バルブは、第1のゲル膜及び第2のゲル膜を備え、
前記第1のゲル膜及び前記第2のゲル膜は、それぞれ第1の主面及び第2の主面を有し、前記第1のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部が、前記第2のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部と接するとともに、前記第1のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部及び前記第2のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部が、いずれも前記液体と接するように、前記バルブ内に配置され、
前記液体中の前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の合計重量を基準として、前記第2の溶媒を、所定の濃度C
1[質量%]で含む前記液体を第1の混合溶媒、前記濃度C
1[質量%]よりも高い所定の濃度C
2[質量%]で含む前記液体を第2の混合溶媒とした場合に、
前記第1のゲル膜の前記第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
11[%]、該第1のゲル膜の前記第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
12[%]とすると、SC
11>SC
12であり、
前記第2のゲル膜の前記第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
21[%]、該第2のゲル膜の前記第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
22[%]とすると、SC
21<SC
22であることを特徴とする、前記バルブである。
【0007】
本発明のバルブにおいて、前記第1のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率と、前記第2のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率とは、前記第2の溶媒を所定の濃度C
3[質量%]で含む前記液体であって、C
1<C
3<C
2なる関係が成立する第3の混合溶媒について等しくなるのが望ましい。
この場合において、前記第1のゲル膜の、前記第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]は、SC
13>SC
12であり、前記第2のゲル膜の、前記第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
23[%]は、SC
23>SC
21であるのが好ましい。
また、前記第1のゲル膜の、前記第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]は、SC
13≦SC
11であり、前記第2のゲル膜の、前記第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
23[%]は、SC
23≦SC
22であるのが好ましい。
さらに、前記第1のゲル膜又は前記第2のゲル膜の、前記第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]は、25[%]よりも大きいのが好ましい。平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]は、40[%]よりも大きいのがさらに好ましく、60[%]よりも大きいのがより好ましく、80[%]よりも大きいのが最も好ましい。
【0008】
本発明のバルブにおいて、前記第1のゲル膜及び前記第2のゲル膜の一方は、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の両方に親和性のあるモノマーと、前記第1の溶媒に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含み、他方は、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の両方に親和性のあるモノマーと、前記第2の溶媒に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含むものとすることができる。
本発明のバルブにおいて、前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の一方が、メタノール、エタノール及びプロパノールからなる群から選ばれるアルコールであり、他方が水であってよい。
また、本発明のバルブにおいて、前記第1のゲル膜は、N,N−ジメチルアクリルアミドと、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液との重合体を架橋したものを含むものとすることができる。
さらに、本発明のバルブにおいて、前記第2のゲル膜は、メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルと、アクリル酸ステアリル(SA)又はアクリル酸ラウリル(LA)との共重合体を架橋したものを含むものとすることができる。
【0009】
本発明のバルブは、前記第1のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部が前記第1の混合溶媒と接するとともに、前記第2のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部が前記第2の混合溶媒と接する第1の状態と、
前記第1のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部が前記第2の混合溶媒と接するとともに、前記第2のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部が前記第1の混合溶媒と接する第2の状態とを有し、前記第1の状態と前記第2の状態とを切り替えることにより、前記液体の移動を制御するものとすることができる。
【0010】
本発明はさらに、第1の溶媒及び第2の溶媒を含む液体の移動を制御するためのバルブであって、
該バルブは、2つの第1のゲル膜及び第2のゲル膜を備え、
前記2つの第1のゲル膜及び前記第2のゲル膜は、それぞれ第1の主面及び第2の主面を有し、前記2つの第1のゲル膜のうちの一方の第2の主面の少なくとも一部が、前記第2のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部と接し、前記2つの第1のゲル膜のうちの他方の第1の主面の少なくとも一部が、前記第2のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部と接するとともに、前記2つの第1のゲル膜のうちの前記一方の第1の主面の少なくとも一部及び前記他方の第2の主面の少なくとも一部が、いずれも前記液体と接するように、前記バルブ内に配置され、
前記液体中の前記第1の溶媒及び前記第2の溶媒の合計重量を基準として、前記第2の溶媒を、所定の濃度C
1[質量%]で含む前記液体を第1の混合溶媒、前記濃度C
1[質量%]よりも高い所定の濃度C
2[質量%]で含む前記液体を第2の混合溶媒とした場合に、
前記第1のゲル膜の前記第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
11[%]、該第1のゲル膜の前記第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
12[%]とすると、SC
11>SC
12であり、
前記第2のゲル膜の前記第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
21[%]、該第2のゲル膜の前記第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
22[%]とすると、SC
21<SC
22であり、
前記第2のゲル膜の前記第1のゲル膜と接している部分以外の部分が、前記液体と接するようにすることにより、前記2つの第1のゲル膜の間の液体の移動を制御するものであることを特徴とする、前記バルブである。
【0011】
この本発明のバルブにおいて、前記第2のゲル膜の前記第1のゲル膜と接している部分以外の部分が接する前記液体が、C
1≦C
N≦C
2である所定の濃度C
N[質量%]で前記第2の溶媒を含むものとすることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のバルブによれば、外部からエネルギーを供給することなく液体の移動を制御することが可能となり、本発明のバルブを送液システムなどに使用することにより、電力の供給を受けることが困難であるような場合であっても、送液システム等を作動させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を実施するための形態について説明する。
【0015】
本発明による液体移動制御用バルブは、2種類の溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)を含む液体の移動を制御するために使用されるものである。本発明のバルブにより移動を制御する液体は、第1の溶媒及び第2の溶媒のみからなるものであってもよいが、これら2種類の溶媒のほかに、バルブの動作あるいはバルブの制御に従う液体の移動を阻害するものでない限り、任意の溶媒あるいは溶質その他のものを含んでいてよい。
【0016】
図1は、本発明による液体移動制御用バルブの一態様の概略的な断面模式図である。
図1を参照して、本発明によるバルブ1は、第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2を備えるものである。
第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第1のゲル膜GM1の第2の主面の一部又は全部が、第2のゲル膜GM2の第1の主面の一部又は全部と接するように、バルブ1内に配置されている。一方、第1のゲル膜GM1の第1の主面の一部又は全部、及び、第2のゲル膜GM2の第2の主面の一部又は全部は、いずれも、バルブ1によって移動が制御される液体Lqと接するようにされている。
本発明によるバルブ1は、液体Lqを保持することのできるチャンバ2に隣接するように配置することができる。このチャンバ2には、液体Lqの流入口3及び流出口4を通じて、それぞれ液体Lqを供給及び排出することができる。チャンバ2の内部に撹拌子5を入れ、チャンバの外側からスターラー(図示せず)などを用いて撹拌子5によりチャンバ2内の液体Lqを撹拌し、本発明のバルブにより移動を制御する液体Lqに含まれる2種類の溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)が効率よく定常的に混合されるようにすることができる。
【0017】
本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、本発明のバルブにより移動を制御する液体Lqに含まれる2種類の溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)について、平行膨潤時の含溶媒率SCが、溶媒の濃度に関連して所定の要件を満たすものであることを要する。
ここで、ゲル膜の平行膨潤時の含溶媒率SCとは、膨潤させる前の乾燥状態でのゲル膜の質量W
0と、ゲル膜を液体に浸漬することによりゲル膜が膨潤し、平衡状態に達した際のゲル膜の質量W
eqとを測定することにより、次式(1)から算出される値である:
【0018】
SC = (W
eq-W
0)/W
eq×100[%] (1)
【0019】
そして、液体Lq中の第1の溶媒及び第2の溶媒の合計重量を基準として、第2の溶媒を、所定の濃度C
1[質量%]で含む液体を第1の混合溶媒、濃度C
1[質量%]よりも高い所定の濃度C
2[質量%]で含む液体を第2の混合溶媒とした場合に、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、次のとおりの平行膨潤時の含溶媒率SCを有するものであることを要する:
− 第1のゲル膜の第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
11[%]、第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
12[%]とすると、SC
11>SC
12である。
− 第2のゲル膜の第1の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
21[%]、第2の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率をSC
22[%]とすると、SC
21<SC
22である。
すなわち、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、発明のバルブにより移動を制御する液体Lq中の第1の溶媒の濃度が上昇した場合に、第1のゲル膜GM1の平衡膨潤時の含溶媒率が減少するのに対し、第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率は増加するようなものである。
【0020】
本発明によるバルブ1は、上記特定の平衡膨潤時の含溶媒率の液体Lq中の溶媒濃度依存性を有する第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2を使用することにより、溶媒を含む液体の移動を制御するためのバルブとしての機能を有することとなるものであるが、液体Lq中の溶媒の濃度変化に応じて迅速に液体の移動を制御する観点から、第1のゲル膜GM1の平衡膨潤時の含溶媒率と、第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率とが、第2の溶媒を所定の濃度C
3[質量%]で含む前記液体であって、C
1<C
3<C
2なる関係が成立する第3の混合溶媒について等しくなるのが望ましい。
すなわち、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、発明のバルブにより移動を制御する液体Lq中の第2の溶媒の濃度が上昇した場合に、第1のゲル膜GM1の平衡膨潤時の含溶媒率が減少し、第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が増加するが、その際、第2の溶媒の濃度がある値に達した時に、第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなるのが望ましい。例えば、第2の溶媒の濃度を、10%〜30%の間の所定の濃度(例えば20%)から70%〜90%の間の所定の濃度(例えば75%)まで上昇させた場合に、濃度65%において第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなるような場合が考えられる。
【0021】
本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第1のゲル膜の第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]がSC
13>SC
12であり、第2のゲル膜の第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
23[%]がSC
23>SC
21であるのが好ましい。
すなわち、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第2の溶媒の濃度を、初期濃度(C
1)から上昇させていき、ある濃度(C
3)で第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなった後に、さらに上昇させて最終濃度(C
2)に到達した場合に、第1のゲル膜GM1は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率が最終濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも大きい一方、第2のゲル膜GM2は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率が初期濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも大きいのが好ましい。
また、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第1のゲル膜の第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
13[%]がSC
13≦SC
11であり、第2のゲル膜の第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率SC
23[%]がSC
23≦SC
22であるのが好ましい。
すなわち、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第2の溶媒の濃度を、初期濃度(C
1)から上昇させていき、ある濃度(C
3)で第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなった後に、さらに上昇させて最終濃度(C
2)に到達した場合に、第1のゲル膜GM1は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率が初期濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも小さい一方、第2のゲル膜GM2は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率が最終濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも小さいのが好ましい。
【0022】
さらに、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第1のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率がSC
11≧SC
13>SC
12であり、第2のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率がSC
21<SC
23≦SC
22であるのが好ましい。
すなわち、本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第2の溶媒の濃度を、初期濃度(C
1)から上昇させていき、ある濃度(C
3)で第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなった後に、さらに上昇させて最終濃度(C
2)に到達した場合に、第1のゲル膜GM1は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率は初期濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも小さくかつ最終濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも大きい一方、第2のゲル膜GM2は、等しくなった平衡膨潤時の含溶媒率が初期濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも大きくかつ最終濃度における平衡膨潤時の含溶媒率よりも小さいのが好ましい。
例えば、第2の溶媒の濃度を初期濃度20%から最終濃度75%まで上昇させた場合に、第1のゲル膜GM1は、平衡膨潤時の含溶媒率が95%から30%まで減少する一方、第2のゲル膜は、平衡膨潤時の含溶媒率が40%から90%まで増加し、濃度65%において、第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率はいずれも85%となるような場合が考えられる。
【0023】
本発明によるバルブ1に使用される第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、第3の混合溶媒についての平衡膨潤時の含溶媒率、換言すれば、第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなった時の平衡膨潤時の含溶媒率が、25%よりも大きいのが好ましい。液体Lq中の溶媒の濃度変化に応じて迅速に液体の移動を制御する観点からは、第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2の平衡膨潤時の含溶媒率が等しくなった時の平衡膨潤時の含溶媒率が40%よりも大きいのがさらに好ましく、60%よりも大きいのがより好ましく、80%よりも大きいのが最も好ましい。
【0024】
本発明によるバルブ1において、第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2の一方(例えば第1のゲル膜GM1)が、本発明のバルブ1により移動を制御する液体Lqに含まれる2種類の溶媒(第1の溶媒及び第2の溶媒)の両方に親和性のあるモノマーと、一方の溶媒(例えば第1の溶媒)に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含み、他方(例えば第2のゲル膜GM2)が、2種類の溶媒の両方に親和性のあるモノマーと、一方の溶媒(例えば第2の溶媒)に親和性のあるモノマーとの共重合体を架橋したものを含むものとすることができる。
本発明のバルブ1により移動を制御する液体Lqに含まれる2種類の溶媒としては、特に限定されるものではないが、第1の溶媒及び第2の溶媒の一方(例えば第2の溶媒)をメタノール、エタノール及びプロパノールからなる群から選ばれるアルコールとし、他方(例えば第1の溶媒)を水とすることができる。
本発明のバルブ1に使用する第1のゲル膜GM1としては、例えば、第2の溶媒がアルコールである場合に、両親媒性のモノマーであるN,N−ジメチルアクリルアミドと、親水性のモノマーである2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液との重合体を架橋したものを含むものとすることができる。架橋剤としては、例えばN,N’−メチレンビスアクリルアミドを使用することができ、反応開始剤として、ベンゾフェノンなどを使用することができる。
本発明のバルブ1に使用する第2のゲル膜GM2としては、例えば、第2の溶媒がアルコールである場合に、両親媒性のモノマーであるメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチルと、アルコール親和性のモノマーであるアクリル酸ステアリル又はアクリル酸ラウリルとの共重合体を架橋したものを含むものとすることができる。架橋剤及び反応開始剤は、第1のゲル膜GM1について上記したものと同じものを使用することができるが、異なるものを使用しても良い。
本発明によるバルブ1に使用する第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2の膜厚は、1mm程度あればよいが、0.5mm程度であっても構わない。また、第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜GM2は、バルブ1を使用する前に、あらかじめ第1の溶媒及び第2の溶媒を含む液体Lqで膨潤させておくのが望ましい。
【0025】
本発明のバルブ1の動作としては、例えば、第1のゲル膜GM1の第1の主面の少なくとも一部が第1の混合溶媒と接するとともに、第2のゲル膜GM2の第2の主面の少なくとも一部が第2の混合溶媒と接する第1の状態と、第1のゲル膜GM1の第1の主面の少なくとも一部が第2の混合溶媒と接するとともに、第2のゲル膜GM2の第2の主面の少なくとも一部が第1の混合溶媒と接する第2の状態とを切り替えることにより、液体Lqの移動を制御するものとすることができる。
切り替えは、第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜GM2との位置関係を入れ替えることにより行ってもよく、第1の混合溶媒と第2の混合溶媒とを入れ替える(あるいは、混合溶媒中の溶媒濃度を変化させる)ことにより行ってもよい。
【0026】
上記したようなゲル膜バルブを本発明による第1の形態のゲル膜バルブとした場合、本発明による第2の形態のゲル膜バルブとして、2つの第1のゲル膜及び第2のゲル膜を備え、2つの第1のゲル膜のうちの一方の第2の主面の少なくとも一部が、第2のゲル膜の第1の主面の少なくとも一部と接し、2つの第1のゲル膜のうちの他方の第1の主面の少なくとも一部が、第2のゲル膜の第2の主面の少なくとも一部と接するとともに、2つの第1のゲル膜のうちの一方の第1の主面の少なくとも一部及び他方の第2の主面の少なくとも一部が、いずれも上記の液体と接するように、バルブ内に配置され、第2のゲル膜の第1のゲル膜と接している部分以外の部分が、液体と接するようにすることにより、2つの第1のゲル膜の間の液体の移動を制御するものとすることができる。
第2の形態のゲル膜バルブには、第1の形態のゲル膜バルブについて上に詳述した内容、すなわち、ゲル膜の含溶媒率や材質、溶媒の種類などを、いずれも適用することが可能であるが、第1の形態のゲル膜バルブの場合のように、第1のゲル膜と第2のゲル膜との位置関係を入れ替えることにより液体の移動を制御することに代えて、例えば、第2のゲル膜の第1のゲル膜と接している部分以外の部分が接する液体として、C
1≦C
N≦C
2である所定の濃度C
N[質量%]で第2の溶媒を含むものを使用することにより、液体の移動を制御することが可能となる。
【実施例】
【0027】
以下に実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
<第1のゲル膜の作製>
2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液(NaAMPS)4モルに対し、1モルのN,N−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)準備し、これら2つのモノマーを結合させる架橋剤として、0.05モル%のN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)を用い、反応開始剤として0.01モル%のベンゾフェノンを使用して、ゲル溶液を作製した。
このゲル溶液を、ガラス板に1mmのシリコンスペーサーを挟んだ鋳型に流し込み、パラフィルムで導入口を閉じた後、UVランプを用いて約24時間紫外線照射を行いてゲルを合成して、第1のゲル膜(Na80とも呼ぶ。)を作製した。
【0029】
<第2のゲル膜の作製(1)>
アクリル酸ステアリル(SA)1モルに対し、3モルのメタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMMA)を準備し、これら2つのモノマーを結合させる架橋剤として、0.05モル%のN,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)を用い、反応開始剤として0.01モル%のベンゾフェノンを使用して、ゲル溶液を作製した。
さらに、アクリル酸ステアリル(SA):メタクリル酸2−(ジメチルアミノ)エチル(DMMA)のモル比がそれぞれ1:1及び3:1であって、その他は同様の追加の2種類のゲル溶液を作製した。
これら3種類のゲル溶液を用いて、上記第1のゲル膜の作製と同様の手法により、3種類の第2のゲル膜(全モノマー中のアクリル酸ステアリル(SA)の割合により、それぞれSA25%、SA50%、及びSA75%と呼ぶ。)を作製した。
【0030】
<第2のゲル膜の作製(2)>
アクリル酸ステアリル(SA)に代えてアクリル酸ラウリル(LA)を使用したことを除き、上記第2のゲル膜の作製(1)と同様の手法により、さらに3種類の第2のゲル膜(全モノマー中のアクリル酸ラウリル(LA)の割合により、それぞれLA25%、LA50%、及びLA75%と呼ぶ。)を作製した。
【0031】
<ゲル膜の含溶媒率の測定>
作製したゲル膜を、それぞれ1cm四方の大きさにカットし、エタノールと水の混合溶媒であってエタノールの質量割合(エタノール濃度)がそれぞれ0%(すなわち水)、20%、40%、60%、80%、及び100%(すなわちエタノール)であるものに、30℃で48時間静置して、充分に平衡膨潤に達するようにした。平行膨潤時の含溶媒率SC48hを、次式(2)により決定した。
【0032】
【数1】
(2)
【0033】
(式中、W
0は膨潤させる前の乾燥状態でのゲルの質量、W
48hは平衡膨潤に達した際のゲルの質量である。)
【0034】
なお、第1のゲル膜については、2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液(NaAMPS)が50質量%の水を含むものであったため、次式(3)により含溶媒率SC
Na80を再計算した。
【0035】
【数2】
(3)
【0036】
(式中、W
0は膨潤させる前の乾燥状態でのゲルの質量、W
48hは平衡膨潤に達した際のゲルの質量である。)
【0037】
【数3】
【0038】
であって、W
NaAMPS、W
DMAAm、W
MBAA、及びW
bpはそれぞれ、ゲル溶液を作製する際に仕込んだ2−アクリルアミド−2−メチル−1−プロパンスルホン酸ナトリウム塩溶液(NaAMPS)、N,N−ジメチルアクリルアミド(DMAAm)、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、及びベンゾフェノンの質量であり、その他は式(1)の場合と同様である。)
【0039】
作製した第1のゲル膜Na80及び3種類の第2のゲル膜SA25%、SA50%、及びSA75%について測定された、平行膨潤時の含溶媒率の混合溶媒のエタノール濃度依存性を、
図2に示す。
第1のゲル膜Na80は、エタノール濃度が上昇すると、平行膨潤時の含溶媒率が減少する傾向を示した。
これに対して、第2のゲル膜SA25%、SA50%、及びSA75%は、エタノール濃度が上昇すると、平行膨潤時の含溶媒率が増加する傾向を示し、その増加の程度は、全モノマー中のアクリル酸ステアリル(SA)の割合が少ないほど大きかった。
図2に示されているとおり、第1のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率と、第2のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率とは、第2のゲル膜がSA25%である場合、エタノール濃度が75%の時にいずれも69%で等しくなり、第2のゲル膜がSA50%である場合、エタノール濃度が93%の時にいずれも34%で等しくなった。
【0040】
同様に、作製した第1のゲル膜Na80及びさらに3種類の第2のゲル膜LA25%、LA50%、及びLA75%について測定された、平行膨潤時の含溶媒率の混合溶媒のエタノール濃度依存性を、
図3に示す。
第2のゲル膜LA25%、LA50%、及びLA75%は、エタノール濃度が上昇すると、平行膨潤時の含溶媒率が増加する傾向を示し、その増加の程度は、全モノマー中のアクリル酸ラウリル(LA)の割合が少ないほど大きかった。
図3に示されているとおり、第1のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率と、第2のゲル膜の平衡膨潤時の含溶媒率とは、第2のゲル膜がLA25%である場合、エタノール濃度が65%の時にいずれも89%で等しくなり、第2のゲル膜がLA50%である場合、エタノール濃度が79%の時にいずれも69%で等しくなり、第2のゲル膜がLA75%である場合、エタノール濃度が98%の時にいずれも27%で等しくなった。
【0041】
(実施例1)
<ゲル膜を用いた液体移動制御用のバルブの作製>
1mmのシリコンスペーサーに代えて0.5mmのシリコンスペーサーを使用したことを除き、上記第1のゲル膜の作製と同様の手法により、液体移動制御用のバルブを作製するための、厚さ0.5mmの第1のゲル膜を作製した。
同様に、厚さ0.5mmの第2のゲル膜LA25%を作製した。
作製したゲル膜を膨潤後にそれぞれ2.5cm四方の大きさにカットした。
第1のゲル膜及び第2のゲル膜LA25%を、濃度60%のエタノール水溶液を用いて膨潤させ、それぞれ厚さ1mmのゲル膜とした。
これら第1のゲル膜及び第2のゲル膜LA25%と、PermeGear社製の1組の水平ガラスセル(商品名:Side−Bi−Sideセル)により、ゲル膜を用いた液体移動制御用のバルブを作製した。作製したバルブの概略的な断面模式図を、
図4に示す。
図4を参照して、第1のゲル膜GM1の一方の主面が第2のゲル膜LA25%GM2の一方の主面と接するように並べたゲル膜の組を、水平ガラスセル10(1組の水平ガラスセルは対称形状を有するため、簡便のため一方のみについて言及する)のクランプ面11をそれぞれ第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜LA25%GM2の他方の主面に押し付けて挟み込み、水平ガラスセル10を固定した。水平ガラスセル10はそれぞれ、液体の流入口(流出口)12を備え、3.4cm
3の液体Lqを保持することのできるチャンバ13を有している。水平ガラスセル10はさらに、第1のゲル膜GM1及び第2のゲル膜LA25%GM2の他方の主面が液体Lqと接するように、クランプ面11にそれぞれ直径5mmのオリフィス14を有している。それぞれの水平ガラスセル10内には、5mmの撹拌子15を入れ、セルの外側からスターラー(図示せず)を用いて撹拌子15によりチャンバ13内の液体を撹拌することができるようにした。さらに、水平ガラスセル10内のチャンバ13の周りのウォータージャケット16に温水を循環させて、チャンバ13内の液体Lqの温度を制御した。
【0042】
<バルブの性能評価>
まず、第1のゲル膜GM1の主面が濃度75%のエタノール水溶液と接するように、第1のゲル膜GM1側の水平ガラスセル10のチャンバ13に、液体の流入口12を通して濃度75%のエタノール水溶液を入れ、第2のゲル膜LA25%GM2の主面が濃度20%のエタノール水溶液と接するように、第2のゲル膜LA25%GM2側の水平ガラスセル10のチャンバ13に、液体の流入口12を通して濃度20%のエタノール水溶液を入れて、これらの液体を撹拌子15及びスターラー(図示せず)を用いて撹拌しながら、ウォータージャケット16に温水を循環させて、チャンバ13内のエタノール水溶液の温度を30℃に維持した。時間の経過とともにチャンバ13内のエタノール水溶液の屈折率を測定することにより、ゲル膜の組によって隔てられた水溶液のエタノール濃度の経時変化を観察した。観察結果を
図5に示す。
図5から、この状態(第1の状態)では、長時間が経過しても濃度75%のエタノール水溶液がゲル膜の組を通して濃度20%のエタノール水溶液へ拡散することはほとんどなく、液体の移動が抑制されていることがわかる。
【0043】
次に、第1のゲル膜GM1の主面が濃度20%のエタノール水溶液と接するように、第1のゲル膜GM1側の水平ガラスセル10のチャンバ13に、液体の流入口12を通して濃度20%のエタノール水溶液を入れ、第2のゲル膜LA25%GM2の主面が濃度75%のエタノール水溶液と接するように、第2のゲル膜LA25%GM2側の水平ガラスセル10のチャンバ13に、液体の流入口12を通して濃度75%のエタノール水溶液を入れて、これらの液体を撹拌子15及びスターラー(図示せず)を用いて撹拌しながら、ウォータージャケット16に温水を循環させて、チャンバ13内のエタノール水溶液の温度を30℃に維持した。時間の経過とともにチャンバ13内のエタノール水溶液の屈折率を測定することにより、ゲル膜の組によって隔てられた水溶液のエタノール濃度の経時変化を観察した。観察結果を
図6に示す。
図6から、この状態(第2の状態)では、極めて速やかに濃度75%のエタノール水溶液がゲル膜の組を通して濃度20%のエタノール水溶液へ拡散し、液体の移動が促進されていることがわかる。
図5及び
図6に示されている結果から、本発明によるゲル膜バルブによれば、異なる2つの状態(第1の状態と第2の状態)を切り替えることにより、液体の移動を制御することが可能であることが理解される。
【0044】
(実施例2)
<第2の形態のゲル膜バルブの作製>
2つの第1のゲル膜GM1と第2のゲル膜LA25%GM2を準備し、第1のゲル膜GM1の一方の主面が第2のゲル膜LA25%GM2の一方の主面と接するように並べたゲル膜の組に代えて、第2のゲル膜LA25%GM2の一方の主面が一方の第1のゲル膜GM1の一方の主面と接し、第2のゲル膜LA25%GM2の他方の主面が他方の第1のゲル膜GM1の一方の主面と接するように並べたゲル膜の組を構成したことを除き、実施例1の場合と同様に、ゲル膜を用いた液体移動制御用のバルブを作製した。作製したバルブの概略的な断面模式図を、
図7に示す。
【0045】
<バルブの性能評価>
図中左側の第1のゲル膜GM1の主面が濃度20%のエタノール水溶液と接するように、図中左側の第1のゲル膜GM1側の水平ガラスセルのチャンバに濃度20%のエタノール水溶液を入れ、図中右側の第1のゲル膜GM1の主面が濃度75%のエタノール水溶液と接するように、図中右側の第1のゲル膜GM1側の水平ガラスセル10のチャンバ13に濃度75%のエタノール水溶液を入れて、これらの液体を撹拌子及びスターラーを用いて撹拌しながら、ウォータージャケット温水を循環させて、チャンバ内のエタノール水溶液の温度を30℃に維持した。
はじめに、第2のゲル膜LA25%GM2に、図中上下方向に設けられた孔部に常に供給されているような状態で、濃度75%のエタノール水溶液を供給した。実施例1の場合と同様に、時間の経過とともにチャンバのエタノール水溶液の屈折率を測定することにより、ゲル膜の組によって隔てられた水溶液のエタノール濃度の経時変化を観察したが、実質的な変化は認められなかった。
次に、第2のゲル膜LA25%GM2の孔部に、シリンジ(図示せず)を用いて濃度60%のエタノール水溶液を200μlずつ、最初の注入から2時間ごとに10時間経過するまで供給して、ゲル膜の組によって隔てられた水溶液のエタノール濃度の経時変化を観察した。観察結果を
図8に示す。
図8から、第2のゲル膜GM2へのエタノール水溶液の供給を止めた後(24〜48時間経過後)でも、ゲル膜の組によって隔てられた水溶液のエタノール濃度の変化が認められた。
これらのことから、第2のゲル膜GM2に所定濃度の液体を接触させることにより、2つの第1のゲル膜GM1の間の液体の移動を制御することが可能であることが理解される。