(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691723
(24)【登録日】2020年4月15日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】電気治療器
(51)【国際特許分類】
A61N 1/04 20060101AFI20200427BHJP
【FI】
A61N1/04
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-242624(P2017-242624)
(22)【出願日】2017年12月19日
(65)【公開番号】特開2019-107261(P2019-107261A)
(43)【公開日】2019年7月4日
【審査請求日】2019年5月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000114190
【氏名又は名称】ミナト医科学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】笹岡寛正
【審査官】
宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第1993/018813(WO,A1)
【文献】
特開2010−099427(JP,A)
【文献】
特開平11−197238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/02 − A61N 1/06
A61N 1/36 − A61N 1/378
F16L 11/127
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力供給部及び吸引供給部を有する本体と、前記本体に接続された吸引導子コードと、前記吸引導子コードを介して前記本体に接続された吸引導子と、前記吸引導子に配された導電部及び吸湿体とを有し、前記吸引導子コードは、前記電力供給部で供給された電力を前記導電部に供給するための電気信号線と、前記吸引供給部で供給された吸引力により前記吸引導子を患者の表面に吸着させるため管状の中空部を備え、前記電気信号線は、前記管状の中空部を形成する外皮部分に埋設されるとともに、前記外皮の磨耗による磨り減り時に、前記電気信号線より先に前記中空部が露出するように、前記吸引導子コードの長手方向の垂直断面における中空部の中心点から前記電気信号線の埋設位置を見る方向の45度角以内に、前記外皮の外表面全周における最小曲率半径を有するとともに、その外皮の最大の曲率半径を有する箇所の接線上の位置から前記電気信号線の埋設箇所までの最短距離を、同接線上の位置から前記中空部までの最短距離より大としてなる電気治療器。
【請求項2】
前記吸引導子コードは、前記電気信号線の埋設以外の箇所の外皮表面に平坦部もしくは最大の曲率半径部を設けてなる請求項1記載の電気治療器。
【請求項3】
前記吸引導子コードは、複数本を連結部で連結して形成されるとともに、前記吸引導子コードの長手方向の垂直断面における中空部の中心点から前記電気信号線の埋設位置を見る方向の±45度角以内に、前記連結部を有してなる請求項1または2記載の電気治療器。
【請求項4】
前記吸引導子コードは、前記連結部と90度を為す箇所の外皮の肉厚を、前記電気信号線の埋設箇所の外皮からの距離より小さくしてなる請求項3記載の電気治療器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気治療器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気治療器を使用する電気療法は、
図10に示すように、治療電流を治療部位の皮膚表面に付与するため、電極とこれに接する吸湿体(水を含ませたスポンジ等)を有する吸引導子30を皮膚表面に固定する必要がある。当該吸引導子30を皮膚表面に固定する方法として、吸引圧を利用して吸引導子30を皮膚表面に吸着させる吸引方式がある。この吸引方式では、電気治療器本体32と吸引導子30を接続する吸引導子コード31を有し、例えば、特許文献1に開示されるように、吸引導子コード31の中空部45を介して吸引している。また、その中空部45内に、治療電流を吸引導子30の電極へ供給するための電気信号線41を配設している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016−63913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の電子信号線41を中空部45に配する構造の吸引導子コード31では、治療中に、患者の皮膚表面に吸着させた吸引導子30の吸湿体(水を含ませたスポンジ等)の一部が分離した欠片や、皮膚表面に付着していた汗、皮脂等の不要物が吸引導子を介して吸引される場合があり、当該不要物が、吸引導子コード31の中空部45を通過する際に、その一部が電気信号線41に付着し、この付着が堆積することによって、吸引導子コード31の流路を塞ぐ場合があった。そのため、吸引不良となり吸引導子30を皮膚表面に固定できなくなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明に係る電気治療器は、電力供給部と吸引供給部を有する本体と、前記本体と接続された吸引導子コードと、前記吸引導子コードを介して前記本体に接続された吸引導子と、前記吸引導子に配された導電部及び吸湿体と、前記吸引導子コードは、前記電力供給部で供給された電気を導電部に送電するための電気信号線と、前記吸引供給部で供給された吸引力により前記吸引導子を人体表面に吸着させるため管状の中空部を備え、前記電気信号線は、前記管状の中空部を形成する外皮部分に埋設されるとともに、前記外皮の磨耗による磨り減り時に、前記電気信号線より先に中空部が露出するように、前記吸引導子コードの長手方向の垂直断面における中空部の中心点から前記電気信号線の埋設位置を見る方向の45度角以内に、前記外皮全周における最小曲率半径を有
するとともに、その外皮の最大の曲率半径を有する箇所の接線上の位置から前記電気信号線の埋設箇所までの最短距離を、同接線上の位置から前記中空部までの最短距離より大としてなるものである。
【発明の効果】
【0006】
上記構成により、本発明に係る電気治療器は、吸引導子コードの目詰まりを抑制できるとともに、吸引不良による吸引導子の皮膚表面からの離脱を効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る電気治療器の本体を示す図
【
図2】同実施形態に係る電気治療器の構成ブロック図
【
図3】同実施形態に係る吸引導子の各構成を示す斜視図
【
図4】同実施形態に係る吸引導子コードの長手方向に対する垂直断面図
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る吸引導子コードの長手方向に対する垂直断面図
【
図6】本発明の第3の実施形態に係る複数の吸引導子コードを連結した状態を示す図
【
図7】本発明の第1の実施例に係る吸引導子コードの長手方向に対する垂直断面図
【
図8】本発明の第2の実施例に係る吸引導子コードの長手方向に対する垂直断面図
【
図9】本発明の第3の実施例に係る吸引導子コードの長手方向に対する垂直断面図
【
図10】従来の電気治療器に係る本体と導子コードの長手方向に対する垂直断面を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の第1の実施の形態について、
図1〜
図5を用いて説明する。本実施形態に係る電気治療器は、本体12に、低周波電流を供給する電力出力部15と、吸引導子10に対する吸引圧を供給するための吸引ポンプ16を有する。この本体の各供給部15、16は、本体接続部13を介して電気的かつ空気流路的に吸引導子コード11に接続される。また、この吸引導子コード11は、その他端側を、電極接続部14を介して、吸引導子10の電極板18に接続される。この吸引導子10の内部には、電極板18を、電気的に患者の皮膚表面に導通させる吸湿体17が配設されている。
具体的には、吸引導子コード11は、吸引ポンプ16によって供給される吸引圧を吸引導子10へ伝達するための中空部5を有し、この中空部5を形成するための外皮2内に、電力出力部15で出力された低周波電流を電極板18へ伝達するための電気信号線1を埋設している。吸引導子コード11は性質上、可撓性が高く、電気絶縁性があり耐水・耐薬品性に優れた材料、例えばPVCなどが使用され、また、この電気信号線1には、剛性、可撓性に優れているステンレスワイヤーの撚り線(φ0.27〜φ0.63)を使用する場合が多い。
【0009】
上記構成において、その動作等を説明する。吸引導子10を吸引ポンプ16によって供給された吸引圧により患者の治療部位へ固定する。この固定された状態で、電力出力部15より供給された低周波電流を患者に供給することで、患部に適度な電気的刺激を与え、その血行促進等を図るものである。ここで、吸引導子コード11は、本体12から、吸引導子10までを、電気的、空気回路的に接続するが、本体の設置場所から、患者の居る場所までは、その距離が様々であり、長いもので、10mを超える吸引導子コードが存在する。
【0010】
また、吸引導子コード11は、治療室内において、本体12から患者までの距離を、床面を這わせて配置する場合も多く、長年の使用により、吸引導子コード11の外皮は、磨耗等で磨り減る場合が生じ得る。この場合、従来の吸引導子コードであれば、電気信号線が、中空部内に配されるため、当該磨耗によって外皮が磨り減った場合に、電気信号線の被覆が削られるより前に、中空部が露出して、内部の吸引時の液体等が外部に流出する。中空部の一部に孔が空くことにより、吸引ポンプ16による吸引動作が不良になり、また、床面が汚れるなど、不具合が生ずるが、電気信号線の被覆が破られる前に、中空部が露出することで、感電等に至ることが無い。
【0011】
一方、本実施形態に示すように、電気信号線1を吸引導子コード11の外皮内に埋設した場合には、外皮の磨耗等による磨り減りによって、中空部が露出するより前に、電気信号線1の被覆が削り取られる可能性が生じ得る。
この吸引導子コード11は、前述のように、床面上を自由に引き回されることが多い。その場合、吸引導子コード11の外皮の外周部の曲率半径を変化させることによって、意図的に、曲率半径の大きな面を床面に多く接触させることが可能となる。従って、電気信号線1の埋設位置を、この曲率半径の大きな位置から意図的に外すことで、吸引導子コード11が磨耗しても、電気信号線1の切削より先に、中空部5を露出させることができる。
【0012】
具体的には、
図4に示すように、外皮2の磨耗による磨り減り時に、電気信号線1より先に中空部5が露出するように、吸引導子コード11の長手方向の垂直断面における中空部5の中心点から電気信号線1の埋設位置を見る方向の45度角以内に、外皮2の全周における最小曲率半径を配することで、当該電気信号線1を埋設した箇所が床面に接する機会を極力減らすことが可能となる。
【0013】
なお、吸引導子コード11の外皮の肉厚を極端に厚くして、電気信号線1を、その中空部5側に寄らせて埋設すれば、最小曲率半径を有する場所に拘らず、電気信号線1が露出し難くなる。しかしながら、この場合、外皮2の肉厚が厚くなることによって、吸引導子コード11の重量が増えるため、操作性が悪くなる。しかも、吸引導子10は、吸引ポンプ(吸引供給部)16による吸引動作によって、患者の皮膚表面に吸着するに過ぎないため、この吸引導子コード11の外皮肉厚が厚くなり、重量が増すことによって、吸引ポンプ16の吸引能力を上げる必要があり、結果として、患者の皮膚表面の吸引動作が強くなり、皮膚表面の負担も過重となる。また、吸引導子コード11の重量が増すことにより、床面から患者の皮膚表面に吸着された吸引導子10までの吸引導子コード11の重量が、患者に加担されることにより、高齢の患者にとっては、患部を持ち上げる際に、過度な負担を強要され、却って、患部を悪化させる事態も想像し得る。
【0014】
そのため、外皮2の肉厚をできるだけ薄い状態に保ちながら、中空部5よりも先に電気信号線1を切削させない(露出させない)ために、本実施形態に示すように、外皮5の表面の曲率半径および中空部5の形状を適切に整合させるが有効となる。
【0015】
次に、本発明の第2の実施の形態について
図5を用いて説明する。吸引導子コード11の外皮2の最大の曲率半径を有する箇所の接線上の位置から電気信号線1の埋設箇所までの最短距離d2を、同接線上の位置から中空部5までの最短距離d1より大とするものである。当該構成によって、吸引導子コード11が、治療室の床面を這う際に、もっとも床面に接する時間が長いことが想定される位置の磨耗があっても、電気信号線1が切削されるより先に中空部5を露出させることで、感電等のリスクを効果的に抑制することができる。
【0016】
次に、本発明の第3の実施の形態について
図6を用いて説明する。
図6には、複数の吸引導子コード11を、連結部8で連結した状態が図示されている。当該連結された吸引導子コード11は、本体12から患者のいる場所まで配される。患者に吸引導子10を取り付ける際には、患部が複数の離間位置にある場合が多いことから、複数の吸引導子10を離間して配置する必要がある。そのため、連結された吸引導子コード11を分離して、枝分かれする必要がある。一方、患者に吸引導子10を取り付ける間際までは、当該連結された吸引導子コード11を分離して枝分かれさせる必要性に乏しい。そのため、通常は、連結された吸引導子コード11は、連結された状態で、患者の手前まで治療室の床面を這わせる場合が多い。
【0017】
当該連結された吸引導子コード11は、床面に対して、その連結部8が、比較的、床面よりも高い位置にある。連結部8付近の曲率半径を、床面に接した外皮個所の曲率半径より小さく設計し、その連結部8付近に電子信号線1を埋設することにより、この連結された複数の吸引導子コード11が、床面との磨耗によって磨り減った場合でも、中空部5の露出が、電気信号線1の磨耗による切削よりも先となるため、電気信号線1の被覆の剥がれによる感電等のリスクを効果的に抑制することができる。
【0018】
また、当該連結された吸引導子コード11は、患者の1mほど手前から、枝分かれさせる場合が多いが、枝分かれした吸引導子コード11は、その連結部8付近の外皮の曲率半径を小さくしているため、実施形態1で説明したように、枝分かれ後の吸引導子コード11についても、中空部5の露出よりも先に、電気信号線1が切削等されるのを効果的に抑制することができる。
【0019】
(実施例1)
以下、本発明における吸引導子コードの第1の実施例について
図7を用いて説明する。
図7は吸引導子コードの断面であり、外皮内に電気信号線1を有する。中空部5の中心を通過し、かつ、この中心と電気信号線1の中心を繋ぐ線に対し垂直な線を一辺とする半円部21と半楕円部22を組み合わせた外形としている。電気信号線1は中空部5の中心と45度、望ましくは30度以内の角度内に配される。このとき、電気信号線1と半楕円部22の最大曲率半径位置での接線との最短距離d2は中空部5と前記接線との最短距離d1より大きくしている。
ここで、最短距離d1は吸引導子コードの軽量化を考えると極力薄くしたいが、過剰に薄くすると、吸引ポンプ16による吸引時に、その吸引圧に耐え切れず、収縮して、自身が閉塞する可能性がある。そのため、本実施例では、0.8mm以上としている。また、中空部が細すぎると、吸引時の空気抵抗が高くなりやすくなるため、本実施例では、中空部でφ2.0以上、外皮の半円部21をφ3.6以上で設計している。この場合、半楕円部22の短
軸方向は半円部21の直径と同様になり、電気信号線1が埋設される長軸方向は電気信号線1が線形φ0.5程度のSUSワイヤーを使用しており、また、短軸方向に対して+1mm程度肉厚に設計している。
【0020】
(実施例2)
以下、本発明における吸引導子コードの第2の実施例について
図8を用いて説明する。
図8は吸引導子コードの断面であり、中空部5の中心と同心となる円周部23と中空部5と異なる中心となり、かつ、円周部23より小なる曲率半径となる円周部24と円周部23、24を連続的に接続する接線25を外形とし、電気信号線1が中空部5の中心から円周部24の方向の外皮中に中空部5の中心と45度、望ましくは30度以内の角度内で配される。このとき、中空部5と外皮2の最大曲率半径位置における接線との最短距離d1に対して電気信号線1と前記接線との最短距離d2を大きくしている。こちらも実施例1と同様、最短距離1は0.8mm以上が望ましく、中空部でφ2.0以上、外皮の円周部23をφ3.6以上で設計するのが望ましい。d2は電気信号線1を挟む2本の接線25の為す角度と中空部からの距離で決まるが、中空部からの距離を近づけるため、本実施例では、この2本の接線25の為す角度を70度以下で設計している。
【0021】
(実施例3)
以下、本発明の第3の実施例について
図10を用いて説明する。
図10は本発明に係る吸引導子コードが複数本連結してなる場合の断面図である。単独の吸引導子コードに着目した場合、連結部は中空部の中心と電気信号線1を繋ぐ線に対して、中空部の中心から見て±45度以内に配置され、その厚み0.2mm以上で、且つ、隣接する吸引導子コードから3mm以下の間隔で設けている。また、連結部と90度をなす外皮箇所の接線と中空部5との最短距離d1が電気信号線1と前記の接線方向にある外皮との最短距離d2より小となるように設計される。
本実施例での複数本からなる吸引導子コードでは,使用環境における床や設備等の摺動で受ける外力から、より電気信号線への露出を効果的に抑制できるとともに、吸引導子コードの連結による可撓性の低下も効果的に抑制できる。
【符号の説明】
【0022】
1 電気信号線
2 外皮
5 中空部
10 吸引導子
11 吸引導子コード
12 本体
15 電力出力部
16 吸引供給部(吸引ポンプ)
17 吸湿体
18 電極板