特許第6691736号(P6691736)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691736
(24)【登録日】2020年4月15日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】気密構造、及び浴室ユニットの施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/684 20060101AFI20200427BHJP
   E04H 1/12 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
   E04B1/684 B
   E04H1/12 301
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-25937(P2015-25937)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-148200(P2016-148200A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年7月27日
【審判番号】不服2019-10049(P2019-10049/J1)
【審判請求日】2019年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】302045705
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】山中 めぐみ
【合議体】
【審判長】 森次 顕
【審判官】 小林 俊久
【審判官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 実開平4−36054(JP,U)
【文献】 特開平6−322849(JP,A)
【文献】 特開平11−123151(JP,A)
【文献】 特開平7−197552(JP,A)
【文献】 特開2012−144849(JP,A)
【文献】 特開2000−160714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 1/12
E04H 1/684
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、この設置空間に設置される浴室ユニットの外面と、の隙間を気密部材で塞ぐ気密構造であって、
前記浴室ユニットは、浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、
前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、
前記気密部材は、前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げられるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように前記隙間に圧入されることで前記基材が押圧されて反発力を発生し、この反発力によって前記表皮材が前記設置空間の内面と前記浴室ユニットの外面とに密接されることを特徴とする気密構造。
【請求項2】
前記設置空間の内面と前記気密部材との間、及び、前記浴室ユニットの外面と前記気密部材との間、の少なくとも一方には接着層が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の気密構造。
【請求項3】
浴室ユニットを構成するユニット部材の外面と、前記浴室ユニットが設置される建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、の隙間を気密部材で塞ぐ浴室ユニットの施工方法であって、
前記浴室ユニットは、前記ユニット部材である浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、
前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、
前記気密部材は、接着層及び剥離紙を有した両面テープによって、前記ユニット部材の外面と前記設置空間の内面との少なくとも一方に接着され、
前記ユニット部材の外面と前記設置空間の内面との少なくとも一方に前記両面テープの接着層を接着するとともに、前記剥離紙を残しておき、
前記気密部材の前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように、前記設置空間と前記浴室ユニットとの前記隙間に前記気密部材を圧入してから前記両面テープの剥離紙を引き抜くことで、押圧された前記基材の反発力によって、前記表皮材の表面を前記設置空間の内面と前記ユニット部材の外面とに密接させるとともに、該気密部材を前記隙間に保持させることを特徴とする浴室ユニットの施工方法。
【請求項4】
浴室ユニットを構成するユニット部材の外面と、前記浴室ユニットが設置される建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、の隙間を気密部材で塞ぐ浴室ユニットの施工方法であって、
前記浴室ユニットは、前記ユニット部材である浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、
前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、
前記気密部材の前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように、前記ユニット部材の外面に仮止めテープを用いて前記気密部材を保持しておき、前記設置空間を構成する面材を前記気密部材に向かって外方から建て込み、該面材の内面と前記ユニット部材の外面との間に前記気密部材を挟み込み、押圧された前記基材の反発力によって、前記表皮材の表面を前記設置空間の内面と前記ユニット部材の外面とに密接させることを特徴とする浴室ユニットの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物等における設置空間に設けられる浴室ユニットと、この浴室ユニットを囲む設置空間の内面と、の間を塞ぐための気密構造、この気密構造を備えた浴室ユニット及び浴室ユニットの施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、浴室ユニットと設置空間の内面との間を塞ぐための気密構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載された気密構造は、建物の土台と浴室ユニットの防水パンとに亘って遮断フィルムを取り付けて構成されている。この遮断フィルムは、その一端側が予め建物の土台に押え板及びねじによって固定され、防水パンを設置した後に、その他端側が防水パンの外周部に立設された垂直部の内面にねじによって固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3091709号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたような従来の気密構造では、防水パンの設置前に遮断フィルムの一端側を建物の土台に固定しておき、防水パンの設置後に遮断フィルムの他端側を垂直部に固定するようになっているため、施工手順が制約を受けることから、施工の効率化を十分に図ることが難しかった。さらに、従来の気密構造では、遮断フィルムをねじ止めによって固定することから、この遮断フィルムと土台や垂直部との間に隙間が形成され、気密性が十分に高められない可能性もある。
【0005】
本発明の目的は、良好な施工性によって施工効率を向上させるとともに、気密性を高めることができる気密構造、浴室ユニット及び浴室ユニットの施工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の気密構造は、建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、この設置空間に設置される浴室ユニットの外面と、の隙間を気密部材で塞ぐ気密構造であって、前記浴室ユニットは、浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、前記気密部材は、前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げられるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように前記隙間に圧入されることで前記基材が押圧されて反発力を発生し、この反発力によって前記表皮材が前記設置空間の内面と前記浴室ユニットの外面とに密接されることを特徴とする。
【0007】
以上のような本発明によれば、弾性を有する基材と気密性を有する表皮材とを有して気密部材が構成され、この気密部材が設置部材の外面と設置空間の内面との隙間に圧入され、押圧された基材の反発力によって表皮材を設置空間の内面と設置部材の外面とに密接させることで、隙間を塞ぐことができる。このような気密構造によれば、設置空間に設置部材を設置した後に、設置部材の外面と設置空間の内面との隙間に気密部材を圧入してもよいし、設置部材の外面及び設置空間の内面のいずれか一方に気密部材を取り付けておき、他方との間に気密部材を挟み込むようにしてもよく、施工手順の制約を受けることがない。
【0008】
また、押圧された基材の反発力によって、気密部材が設置部材の外面と設置空間の内面との隙間に保持されるので、ねじ止め等による固定作業が不要にでき、施工手間を軽減させることができる。従って、施工手順の制約を受けず、かつ、施工手間が軽減できることから、施工性を良好にすることができる。さらに、押圧された基材の反発力によって、表皮材を設置空間の内面と設置部材の外面とに密接させることで、これらの各面と表皮材との間に隙間が形成されることを防ぐことができ、気密性を高めることができる。
【0010】
このような構成によれば、基材の片側の表面に表皮材が設けられた気密部材を折り曲げることで、その両側に表皮材を向けた状態で設置部材の外面と設置空間の内面との隙間に圧入することができ、これらの各面に表皮材を密接させることができる。即ち、弾性を有した基材が折り曲げられることで、その復元力が気密部材を拡げようとする方向に作用することから、基材の圧縮による反発力に加えて折り曲げに対する復元力によっても密接力を高めることができる。従って、基材の両面に表皮材を設ける場合と比較して、簡単かつ安価に気密部材を製造することができる。さらに、気密部材を折り曲げながら設置部材の外面と設置空間の内面との隙間に圧入するようにすれば、圧入の作業性が良好になり、施工性をさらに良好にすることができる。
【0013】
さらに、本発明の気密構造では、前記設置空間の内面と前記気密部材との間、及び、前記設置部材の外面と前記気密部材との間、の少なくとも一方には接着層が設けられていることが好ましい。
【0014】
このような構成によれば、基材の反発力によって気密部材を保持する保持力に加え、接着層による接着力によって気密部材を固定することができるので、気密部材の位置ずれや脱落を防止して、気密性を維持させることができる。この際、接着層は、例えば、両面テープなどであり、この両面テープの一方の接着面を設置空間の内面や設置部材の外面に貼付しておき、他方の接着面の剥離紙を残したままで気密部材を圧入し、その圧入後に他方の剥離紙を剥がして引き抜き、他方の接着面と気密部材の表皮材とを接着すればよい。このような手順を採用することで、施工性を低下させることなく気密部材の固定強度を容易に高めることができる。
【0017】
一方、本発明の浴室ユニットの施工方法は、浴室ユニットを構成するユニット部材の外面と、前記浴室ユニットが設置される建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、の隙間を気密部材で塞ぐ浴室ユニットの施工方法であって、前記浴室ユニットは、前記ユニット部材である浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、前記気密部材は、接着層及び剥離紙を有した両面テープによって、前記ユニット部材の外面と前記設置空間の内面との少なくとも一方に接着され、前記ユニット部材の外面と前記設置空間の内面との少なくとも一方に前記両面テープの接着層を接着するとともに、前記剥離紙を残しておき、前記気密部材の前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように、前記設置空間と前記浴室ユニットとの前記隙間に前記気密部材を圧入してから前記両面テープの剥離紙を引き抜くことで、押圧された前記基材の反発力によって、前記表皮材の表面を前記設置空間の内面と前記ユニット部材の外面とに密接させるとともに、該気密部材を前記隙間に保持させることを特徴とする。
【0018】
このような本発明の施工方法によれば、設置空間に浴室ユニットを設置してから、そのユニット部材の外面と設置空間の内面との間に形成された隙間に対し、気密部材を圧入することで、浴室ユニットの設置前に設置空間の内面に気密材を取り付けておく必要がなくなり、施工手順を簡単化することができる。そして、押圧された基材又は気密部材の反発力によって、表皮材又は気密部材の表面を設置空間の内面とユニット部材の外面とに密接させるとともに、気密部材を前記隙間に保持させることで、気密性を高めるとともに施工手間を軽減させることができる。
【0019】
また、本発明の浴室ユニットの施工方法は、浴室ユニットを構成するユニット部材の外面と、前記浴室ユニットが設置される建物における複数の壁、天井および床によって囲まれた設置空間の内面と、の隙間を気密部材で塞ぐ浴室ユニットの施工方法であって、前記浴室ユニットは、前記ユニット部材である浴槽、洗い場床、壁パネル、天井パネルおよび浴槽エプロンによって囲まれた浴室空間を形成し、前記気密部材は、弾性を有する基材と、この基材の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材と、を備えて構成され、前記気密部材の前記表皮材を下に向けた状態で該表皮材が外側を向くように二つに折り曲げるとともに、前記表皮材が前記設置空間の床面に向くように、前記ユニット部材の外面に仮止めテープを用いて前記気密部材を保持しておき、前記設置空間を構成する面材を前記気密部材に向かって外方から建て込み、該面材の内面と前記ユニット部材の外面との間に前記気密部材を挟み込み、押圧された前記基材の反発力によって、前記表皮材の表面を前記設置空間の内面と前記ユニット部材の外面とに密接させることを特徴とする。
【0020】
このような本発明の施工方法によれば、ユニット部材の外面に気密部材を取り付けておき、その気密部材に向かって外方から面材を建て込み、面材の内面とユニット部材の外面とで気密部材を挟み込むことで、浴室ユニットの設置後に面材を建て込む必要がある部位においても、面材の建込みと同時に気密部材の保持が可能となる。従って、面材の建込み後に気密部材を圧入する必要がなくなることで、施工手順を簡単化することができるとともに、施工手間を軽減させることができる。そして、押圧された基材又は該気密部材の反発力によって、表皮材又は気密部材の表面を設置空間の内面とユニット部材の外面とに密接させることで、気密性を高めることができる。
【発明の効果】
【0021】
以上のような本発明の気密構造、浴室ユニット及び浴室ユニットの施工方法によれば、設置部材(ユニット部材)の外面と設置空間の内面との隙間に圧入された気密部材の基材(又は気密部材自体)の反発力によって、表皮材(又は気密部材の表面)を設置空間の内面と設置部材(ユニット部材)の外面とに密接させて隙間を塞ぐことができ、気密性を高めることができる。また、設置部材(ユニット部材)の外面と設置空間の内面とに対して各々個別に固定作業を行う必要がないことから、施工手順を簡素化できるとともに施工手間を軽減することができ、施工効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の実施形態に係る気密構造を用いた浴室を示す断面図である。
図2】前記浴室における浴室ユニットの設置状態を示す斜視図である。
図3】前記気密構造を拡大して示す断面図である。
図4】前記気密構造における気密部材を示す斜視図である。
図5】前記気密構造の施工手順を示す断面図である。
図6】前記気密構造の他の施工手順を示す断面図である
図7参考例に係る気密構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の気密構造は、図1、2に示すように、浴室ユニット1と、この浴室ユニット1を設置する設置空間Sの内面(後述する外壁W1及び内壁W2の内面WS)と、の隙間Gを気密部材10で塞ぐことで、隙間Gを通した空気の流通を遮断し、これにより建物の断熱性能を確保するための構造である。
【0024】
建物は、例えば、基礎F及び基礎スラブFSと、基礎Fの上側に支持される複数の外壁W1及び内壁W2や1階床F1と、外壁W1及び内壁W2の上側に架設される天井(2階床)F2と、を備えて構成されている。一方、基礎スラブFSと1階床F1との間には床下空間UFが形成されており、この床下空間UFは、基礎Fと外壁W1との間などに形成された通気口を介して屋外と連通され、これにより床下空間UFに外気を通気させる床下換気が構成されている。また、建物は、外壁W1及び1階床F1の内部に断熱材が設けられた断熱構造となっており、屋外と建物内部との間で熱の伝達が抑制されるようになっている。
【0025】
浴室ユニット1を設置する設置空間Sは、基礎F及び基礎スラブFSと、四方の外壁W1及び内壁W2と、天井F2と、によって囲まれて構成されている。この設置空間Sは、床下空間UFと連通されており、通気口を介して屋外から流入した外気が床下空間UFを介して設置空間Sの下部に入り込むこととなる。このため、本実施形態の気密構造は、設置空間Sの下部に入り込んだ外気が設置空間S内部を上昇しないように、外気の流通を遮断することで、内壁W2や天井F2に対する断熱性能を確保しようとするものである。
【0026】
浴室ユニット1は、基礎スラブFS上に束材2等を介して支持された浴槽3及び洗い場床(防水パン)4と、浴槽3及び洗い場床4の周縁から立設された複数のポストに支持される壁パネル5と、複数のポストの頂部を連結した天井つなぎ梁に支持される天井パネル6と、図示しない浴室出入口や窓等を備えて構成されている。浴槽3と洗い場床4の段差部分には浴槽エプロン7が設けられ、この浴槽エプロン7の側端縁は、浴槽3と洗い場床4とに亘る側部縦材8によって支持されている。従って、浴室ユニット1は、浴槽3、洗い場床4、壁パネル5、天井パネル6、及び浴槽エプロン7によって囲まれた浴室空間を形成するものであって、この浴室空間は所定の気密性能を有し、設置空間Sとの間で空気が流通不能に構成されている。
【0027】
気密部材10は、図3にも示すように、外壁W1や内壁W2を構成する設置空間S側の面材Pの内面WSと、浴槽3や洗い場床4の周縁から立ち上がる立上片9の外面9Aと、の間に圧入されている。また、図示を省略するが、気密部材10は、面材Pの内面WSと、浴槽エプロン7の側端縁を支持する側部縦材8の外面8Aと、の間にも圧入されている。従って、気密部材10は、浴槽3、洗い場床4、浴槽エプロン7、側部縦材8等で構成される浴室下部構造体(ユニット部材)1Aの全周に連続する外面8A,9Aと、浴室下部構造体の四周を囲む設置空間Sの内面である外壁W1や内壁W2の面材Pの内面WSと、に形成される隙間Gを塞いで設けられている。
【0028】
気密部材10は、図4(A)に示すように、全体長尺状のシート材からなり、所定の厚みに形成されて弾性を有する基材11と、この基材11の片側の表面に設けられて気密性を有する表皮材12と、を備えて構成され、表皮材12が外側を向くように折り曲げ可能に構成されている。この気密部材10の厚さ寸法は、隙間Gの大きさに応じて設定されるものであって、例えば、隙間Gの大きさの設計値に対し、折り曲げた状態の気密部材10の厚さ寸法が1.1倍〜3.0倍の範囲となるように設定されている。また、気密部材10の幅寸法は、例えば、300mm程度に設定されている。
【0029】
基材11は、例えば、樹脂製の不織布や多孔質材などから構成されているが、圧縮されることで反発力を発揮するものであれば、その素材は特に限定されない。表皮材12は、樹脂製のフィルム状材料から構成されているが、気密性を有したものであれば、その素材は特に限定されない。基材11と表皮材12とは、それぞれ別体に形成されてから互いに接着等によって一体化されたものでもよいし、一体成形によって形成されたものであってもよい。
【0030】
この気密部材10は、図4(B)に示すように、表皮材12が外側を向くように二つに折り曲げられて隙間Gに圧入される。即ち、二つ折りした状態の気密部材10は、その厚さ寸法が元の寸法の略倍の寸法となり、隙間Gの大きさ(例えば、20mm)よりも1.1倍〜3.0倍だけ大きな厚さ寸法(22mm〜60mm)になる。従って、隙間Gに圧入された気密部材10は、基材11が押圧されて厚さが縮められるように弾性変形し、その反発力によって外壁W1や内壁W2の内面WS及び浴室下部構造体(浴槽3や洗い場床4の立上片9、側部フレーム8)の各外面8A,9Aを押し返すことになる。
【0031】
このように、隙間Gに圧入された気密部材10は、基材11の反発力によって外壁W1や内壁W2の内面WS及び浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aを押し返すことで、隙間Gに保持されるようになっている。さらに、表皮材12は、基材11の反発力によって、外壁W1や内壁W2の内面WS及び浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aに密接されるようになっている。従って、表皮材12は、それぞれ密接される外壁W1や内壁W2の内面WSと浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aとに亘って連続して設けられることになり、これにより空気が流通不能に隙間Gが塞がれ、設置空間Sの上部と床下空間UFとが非連通に構成されることになる。
【0032】
次に、浴室ユニット1の施工方法として、気密部材10の取付手順について説明する。先ず、図2に示すように、設置空間Sにおける基礎スラブFSの上に束材2等を介して浴槽3及び洗い場床4を設置するとともに、浴槽3と洗い場床4との間に側部縦材8を取り付け、浴室下部構造体1Aを組み立てる。この際、浴室ユニット1の各構成部材を設置空間Sに搬入する必要があることから、内壁W2のうち、浴室と脱衣室とを仕切る部分の内壁W2(図2に二点鎖線で示す内壁W2)は建て込まれていないものとする。このように設置空間Sの内部に浴室下部構造体1Aを設置することで、外壁W1や内壁W2の内面WSと浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aとの間に隙間Gが形成される。
【0033】
浴室下部構造体1Aを設置した後、図4(B)に示すように、隙間Gに気密部材10を圧入する。気密部材10の圧入手順としては、例えば、浴室の入口から見て奥側に位置する浴槽3の立上片9の外面9Aと、外壁W1の内面WSと、の隙間Gから気密部材10の圧入を開始する。これに続いて、浴槽3の左右における外壁W1や内壁W2の内面WSとの隙間Gに気密部材10を圧入するとともに、浴槽エプロン7の側部縦材8の外面8Aと外壁W1や内壁W2の内面WSとの隙間Gに気密部材10を圧入してから、洗い場床4の立上片9の外面9Aと外壁W1や内壁W2の内面WSとの隙間Gに気密部材10を圧入する。
【0034】
各隙間Gに気密部材10を圧入する際は、図4に示すように、表皮材12が外側を向くように気密部材10を二つに折り曲げ、その折り曲げた先端側の表皮材12を隙間Gに挿入するとともに、裏側の基材11同士の間に手や工具を差し込んで押し込むことで、表皮材12を外面9A及び内面WSに沿って滑らせながら気密部材10を圧入する。以上の圧入手順によって、浴室下部構造体1Aの周囲のうち三方の外面8A,9Aと、外壁W1や内壁W2の内面WSと、の隙間Gに対する気密部材10の圧入が完了する。なお、浴室と脱衣室とを仕切る内壁W2は、まだ建て込まれていないため、後述する手順で気密部材10を圧入する。
【0035】
以上のように圧入することで、基材11の弾性による反発力が外壁W1や内壁W2の内面WS及び浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aに作用し、この反発力に起因して生じる摩擦力によって気密部材10が隙間Gに保持される。このような気密部材10の保持力を高める手段として、図5に示すように、両面テープTを用いて内面WS及び外面8A,9Aに気密部材10を貼付するようにしてもよい。具体的には、図5(A)に示すように、両面テープTの接着層T1のうち、一方の面を外壁W1や内壁W2の内面WS及び浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aに接着し、他方の剥離紙T2を剥がさずに残した状態としておく。その剥離紙T2間に表皮材12を滑らせながら気密部材10を圧入した後に、図5(B)に示すように、剥離紙T2を端から順に剥がしながら引き抜くことで、気密部材10の表皮材12と両面テープTの接着層T1の他方の面とが接着される。
【0036】
次に、浴室と脱衣室とを仕切る内壁W2の内面WSと、洗い場床4の立上片9の外面9Aと、の隙間Gに気密部材10を圧入する手順について、図6を参照して説明する。先ず、脱衣室側の内壁W2を建て込む前に、設置空間Sにおいて壁パネル5及び天井パネル6を取り付け、浴室ユニット1の組み立てを完了させる。その後、図6(A)に示すように、洗い場床4の立上片9に気密部材10を仮止めする。この際、外面9Aに対して両面テープTで気密部材10を接着するとともに、表皮材12が外側を向くように気密部材10を丸めた状態として、仮止めテープT3で気密部材10を保持する。また、気密部材10における脱衣室側の内壁W2が当接する部分に両面テープTを貼付しておく。
【0037】
以上のように洗い場床4の立上片9に仮止めした気密部材10に対し、脱衣室側から内壁W2を建て込み、立上片9との間に気密部材10を挟み込むことで、図6(B)に示すように、内壁W2の面材Pに押圧されて気密部材10が二つ折りに折り曲げられるとともに、基材11の反発力によって表皮材12が洗い場床4の立上片9の外面9Aと内壁W2の内面WSとに密接される。さらに、両面テープTによって、外面9A及び内面WSに接着されて隙間Gに気密部材10が保持される。このように、組み立てが完了した浴室ユニット1の壁パネル5と脱衣室側の内壁W2との間であって、内壁W2を建て込んだ後に手や工具を入れて作業することが困難な場所において、予め洗い場床4の立上片9に気密部材10を仮止めしておくことで、内壁W2の建て込みと同時に気密部材10の圧入作業を実施することができる。
【0038】
以上のような本実施形態によれば、以下のような効果がある。即ち、気密部材10が弾性を有した基材11と、気密性を有する表皮材12と、を有して構成され、この気密部材10を浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aと、設置空間Sを構成する外壁W1や内壁W2の内面WSと、の隙間Gに圧入することで、押圧された基材11の反発力によって表皮材12を外面8A,9A及び内面WSに密接させて隙間Gを塞ぐことができる。また、押圧された基材11の反発力によって、気密部材10が隙間Gに保持されるので、別途の固定作業が不要にでき、施工手間を軽減させることができる。従って、施工手順の制約を受けず、かつ、施工手間が軽減できることから、施工性を良好にすることができる。さらに、押圧された基材11の反発力によって、表皮材12を外面8A,9A及び内面WSに密接させることで、これらの各面と表皮材12との間に隙間が形成されることを防ぐことができ、気密性を高めることができる。
【0039】
また、気密部材10は、基材11の片側の表面に表皮材12を有して形成され、表皮材12が外側を向くように気密部材10を折り曲げるとともに、外壁W1や内壁W2の内面WSと浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aとの隙間Gに圧入することで、これらの内面WS及び外面8A,9Aに表皮材12を密接させることができる。従って、基材11の両面に表皮材12を設ける場合と比較して、簡単かつ安価に気密部材10を製造することができる。さらに、気密部材10を折り曲げながら隙間Gに圧入するようにすれば、圧入の作業性が良好になり、施工性をさらに良好にすることができる。
【0040】
また、図5に示すように、両面テープTを用いて外壁W1や内壁W2の内面WSと浴室下部構造体1Aの外面8A,9Aとに気密部材10を貼付すれば、基材11の反発力によって気密部材10を保持する保持力に加え、接着層T1による接着力によって気密部材10を固定することができるので、気密部材10の位置ずれや脱落を防止して、気密性を維持させることができる。この際、内面WSや外面8A,9Aに接着層T1の一方の面を貼付し、他方の面の剥離紙T2を残したままで気密部材10を圧入し、その圧入後に剥離紙T2を剥がして引き抜くことで、施工性を低下させることなく気密部材10の固定強度を容易に高めることができる。
【0041】
なお、本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的が達成できる他の構成等を含み、以下に示すような変形等も本発明に含まれる。例えば、前記実施形態では、設置空間Sに設置される浴室ユニット1の気密構造を例示したが、本発明の気密構造は、浴室ユニット1に限らず、任意の設置部材が設置空間に設置される際に、その設置部材の外面と設置空間の内面との隙間を気密部材で塞ぐ構成を備えていればよく、設置部材や設置空間は特に限定されない。即ち、設置空間は、建物の内部に設けられて外壁W1や内壁W2で囲まれたものに限らず、壁以外の部材によって囲まれた空間であってもよい。また、設置部材としては、浴室下部構造体(ユニット部材)1Aに限らず、浴室ユニット1の構成部材とは別の部材が取り付けられて、この部材に気密部材が密接するように構成されていてもよい。
【0042】
また、前記実施形態では、気密部材10として、基材11の片側の表面に表皮材12が設けられたものを用いたが、これに限らず、基材11の両面に表皮材12が設けられていてもよい。さらに、前記実施形態では、気密部材10を二つ折りに折り曲げて隙間Gに圧入したが、これに限らず、表皮材12が外側を向くように折り曲げられればよく、その折り曲げ回数は特に限定されない。また、前記実施形態では、隙間Gの間隔寸法が20mmの場合に、二つ折りに折り曲げられた気密部材10の厚さ寸法が隙間Gの間隔寸法の1.1倍〜3.0倍となるように設定されていたが、このような寸法に限定されるものではない。即ち、隙間Gの間隔寸法に対し、圧入される気密部材の厚さ寸法は、1.1倍以上かつ3.0倍以下の範囲において適宜に設定すればよく、この範囲内において気密部材の厚さ寸法を大きくすれば表皮材の密接力を高めることができ、小さくすれば圧入作業の作業性を向上させることができ、材料が節約できる。
【0043】
また、前記実施形態では、隙間Gに対する気密部材10の圧入手順として、設置空間Sに浴室下部構造体1Aを設置してから、その外面8A,9Aと外壁W1や内壁W2の内面WSとの隙間Gに圧入する場合と、浴室下部構造体1Aの外面9Aに気密部材10を仮止めしてから内壁W2を建て込み、その内面WSと浴室下部構造体1Aの外面9Aとの間に気密部材10を挟み込むことで圧入する場合と、の2つの手順を説明したが、これらの圧入手順に限られない。即ち、浴室下部構造体1Aを設置する前に、外壁W1や内壁W2の内面WSに気密部材10を仮止めしておき、浴室下部構造体1Aを設置する際に気密部材10を挟み込むようにしてもよい。さらには、浴室下部構造体1Aを設置した後に内壁W2を建て込む場合には、内壁W2の内面WSに気密部材10を仮止めしておき、内壁W2の建込みに伴って室下部構造体1Aの外面9Aとの間に気密部材10を挟み込むようにしてもよい。
【0044】
また、前記実施形態では、気密部材10が基材11と表皮材12とを備えて構成されて
いたが、図7に示す参考例において、気密部材10Aは、弾性及び気密性を有する単層の弾性気密材料13から構成されてい。この気密部材10Aの弾性気密材料13は、例えば、ゴム製や軟質樹脂製の素材をシート状に成形したものであって、圧縮されることで反発力を発揮する弾性を有するとともに、空気を通さない気密性を有したものであればよい。なお、弾性気密材料13は、多孔質材料であっても空気を通さないものであればよく、その素材は特に限定されない。このような気密部材10Aは、前記実施形態と略同様に、二つに折り曲げられて隙間Gに圧入され、押圧された気密部材10Aの反発力によってその表面を浴室下部構造体1Aの外面9A及び外壁W1や内壁W2の内面WSに密接させて隙間Gを塞ぐことができる。
【0045】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に図示され、且つ、説明されているが、本発明の技術的思想および目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0046】
1 浴室ユニット
1A 浴室下部構造体(ユニット部材)
3 浴槽(ユニット部材)
4 洗い場床(ユニット部材)
7 浴槽エプロン(ユニット部材)
8 側部縦材(ユニット部材)
8A,9A 外面
10,10A 気密部材
11 基材
12 表皮材
G 隙間
P 面材
T1 接着層
WS 内面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7