【文献】
ダイセル・エボニック株式会社、"DAIAMID(R) L1600 Natural"安全データシート,2014年 5月29日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
本発明の一実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂
の樹脂エマルジョンと、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と、液媒体と、を混合して第1の混合物を得る混合工程と、前記第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る乾燥工程と、前記第2の混合物を前記熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より5℃高い温度までの範囲の混練温度で4分〜20分間混練する低温混練工程と、を含み、前記混練温度は、混練中の前記第2の混合物の温度であり、前記低温混練工程は、前記第2の混合物を、ロール間隔が0mm〜0.5mmでロール温度が前記混練温度に設定されたオープンロールを用いて薄通しする
工程であり、前記低温混練工程は、熱可塑性樹脂100質量部に対して酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を5質量部〜40質量部含む前記第2の混合物を混練することを特徴とする。
また、本発明の一実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、熱可塑性樹脂
の樹脂エマルジョンと、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と、液媒体と、を混合して第1の混合物を得る混合工程と、前記第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る乾燥工程と、前記第2の混合物を前記熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より5℃高い温度までの範囲の混練温度で4分〜20分間混練する低温混練工程と、を含み、前記混練温度は、混練中の前記第2の混合物の温度であり、前記低温混練工程は、前記第2の混合物を、少なくともスクリュウとバレルとを有する混練機で混合し、前記バレル内に、バレルを加熱する加熱機構と、バレルを強制的に冷却する冷却機構と、を有
し、前記低温混練工程は、熱可塑性樹脂100質量部に対して酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を5質量部〜40質量部含む前記第2の混合物を混練することを特徴とする。
【0017】
A.原料
A−1.酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバー
酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーは、水を分散媒とした水溶液として
後述する製造方法に用いることができる。このような水溶液は、酸化セルロース繊維を含む水溶液と、セルロースナノファイバーを含む水溶液と、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを含む水溶液がある。
【0018】
酸化セルロース繊維を含む水溶液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程により製造することができる。
【0019】
セルロースナノファイバーを含む水溶液は、例えば天然セルロース繊維を酸化して酸化セルロース繊維を得る酸化工程と、酸化セルロース繊維を微細化処理する微細化工程と、を含む製造方法によって得ることができる。
【0020】
酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを含む水溶液は、酸化セルロース繊維を含む水溶液と、セルロースナノファイバーを含む水溶液と、を混合することで得ることができる。
【0021】
まず、酸化工程は、原料となる天然セルロース繊維に対して水を加え、ミキサー等で処理して、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。
【0022】
ここで、天然セルロース繊維としては、例えば、木材パルプ、綿系パルプ、バクテリアセルロース等が含まれる。より詳細には、木材パルプとしては、例えば針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等を挙げることができ、綿系パルプとしては、コットンリンター、コットンリントなどを挙げることができ、非木材系パルプとしては、麦わらパルプ、バガスパルプ等を挙げることができる。天然セルロース繊維は、これらの少なくとも1種以上を用いることができる。
【0023】
天然セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリル束とその間を埋めているリグニン及びヘミセルロースから構成された構造を有する。すなわち、セルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束の周囲をヘミセルロースが覆い、さらにこれをリグニンが覆った構造を有していると推測される。リグニンによってセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束間は、強固に接着しており、植物繊維を形成している。そのため、植物繊維中のリグニンはあらかじめ除去されていることが、植物繊維中のセルロース繊維の凝集を防ぐことができるという点で好ましい。具体的には、植物繊維含有材料中のリグニン含有量は、通常40質量%程度以下、好ましくは10質量%程度以下である。また、リグニンの除去率の下限は、特に限定されるものではなく、0質量%に近いほど好ましい。なお、リグニン含有量の測定は、Klason法により測定することができる。
【0024】
セルロースミクロフィブリルとしては、幅4nm程のセルロースミクロフィブリルが最小単位として存在し、これをシングルセルロースナノファイバーと呼ぶことができる。本発明において、「セルロースナノファイバー」とは、天然セルロース繊維及び/又は酸化セルロース繊維をナノサイズレベルまで解きほぐしたものであり、特に繊維径の平均値が1nm〜200nmであることができ、さらに1nm〜150nmであることができ、特に1nm〜100nmのセルロースミクロフィブリル及び/又はセルロースミクロフィブリル束であることができる。すなわち、セルロースナノファイバーは、シングルセルロースナノファイバー単体、またはシングルセルロースナノファイバーが複数本集まった束を含むことができる。
【0025】
セルロースナノファイバーのアスペクト比(繊維長/繊維径)は、平均値で、10〜1000であることができ、さらに10〜500であることができ、特に100〜350であることができる。
【0026】
なお、セルロースナノファイバーの繊維径及び繊維長の平均値は、電子顕微鏡の視野内のセルロースナノファイバーの少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0027】
次に、酸化工程として、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して酸化セルロース繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0028】
酸化工程後、例えば水洗とろ過を繰り返す精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、スラリー中に含まれる酸化セルロース繊維以外の不純物を除去することができる。酸化セルロース繊維を含む溶媒は、例えば水に含浸させた状態であり、この段階では酸化セルロース繊維はセルロースナノファイバーの単位まで解繊されていない。溶媒は、水を用いることができるが、例えば、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用することができる。
【0029】
酸化セルロース繊維は、セルロースナノファイバーの水酸基の一部がカルボキシル基を有する置換基で変性され、カルボキシル基を有する。
【0030】
酸化セルロース繊維は、繊維径の平均値が10μm〜30μmであることができる。なお、酸化セルロース繊維の繊維径の平均値は、電子顕微鏡の視野内の酸化セルロース繊維の少なくとも50本以上について測定した算術平均値である。
【0031】
酸化セルロース繊維は、セルロースミクロフィブリルの束であることができる。酸化セルロース繊維は、後述する混合工程および乾燥工程において、セルロースナノファイバーの単位まで解繊されることを要しない。酸化セルロース繊維は微細化工程においてセルロースナノファイバーに解繊することができる。
【0032】
微細化工程は、酸化セルロース繊維を水等の溶媒中で撹拌処理することができ、セルロースナノファイバーを得ることができる。
【0033】
微細化工程において、分散媒としての溶媒を水とすることができる。また、水以外の溶媒として、水に可溶な有機溶媒、例えば、アルコール類、エーテル類、ケトン類等を単独でまたは組み合わせて使用することができる。
【0034】
微細化工程における撹拌処理は、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。
【0035】
また、微細化処理における酸化セルロース繊維を含む溶媒の固形分濃度は、例えば50質量%以下とすることができる。この固形分濃度が50質量%を超えると、分散に高いエネルギーを必要とすることになる。
【0036】
微細化工程によってセルロースナノファイバーを含む水溶液を得ることができる。セルロースナノファイバーを含む水溶液は、無色透明又は半透明な懸濁液であることができる。懸濁液には、表面酸化されると共に解繊されて微細化した繊維であるセルロースナノファイバーが水中に分散されている。すなわち、この水溶液においては、ミクロフィブリル
間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、酸化工程によるカルボキシル基の導入によって弱め、更に微細化工程を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、酸化工程の条件を調整することにより、カルボキシル基含有量、極性、平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0037】
このようにして得られた水溶液は、セルロースナノファイバーを0.1質量%〜10質量%含むことができる。また、例えば、セルロースナノファイバーの固形分1質量%に希釈した水溶液であることができる。さらに、水溶液は、光透過率が40%以上であることができ、さらに光透過率が60%以上であることができ、特に80%以上であることができる。水溶液の透過率は、紫外可視分光硬度計を用いて、波長660nmでの透過率として測定することができる。
【0038】
A−2.熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は、あらかじめ液体を分散媒として熱可塑性樹脂の微粒子を分散させた分散体として後述する製造方法に用いることができる。分散体は、例えば水溶性及び/または非水溶性の熱可塑性樹脂を分散させたものであることができ、エマルジョンの状態(以下、「樹脂エマルジョン」という)として用い
る。
【0039】
樹脂エマルジョンは、熱可塑性樹脂の微粒子を界面活性剤と共に水に混合するなどして得ることができる。また、樹脂エマルジョンとして市販されているものを用いることができる。熱可塑性樹脂の微粒子の形状には特に制限はなく、液体を分散媒として分散することができればよい。
【0041】
熱可塑性樹脂としては、溶融成形可能な熱可塑性樹脂を用いることができる。
樹脂エマルジョンとして用いることができる例えばポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアミド
、ポリ乳酸、ポリウレタンなどを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。2種以上の樹脂を組み合わせて用いる場合には、それらの異なる樹脂の混合物又は異なる樹脂が溶融ブレンドしたもの又は共重合体として用いることができる。
【0042】
B.熱可塑性樹脂組成物の製造方法
まず、本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法について説明する。本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、混合工程と、乾燥工程と、低温混練工程と、を含む。以下、各工程について工程の順に説明する。
【0043】
B−1.混合工程
混合工程は、熱可塑性樹脂と、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と、液媒体と、を混合して第1の混合物を得る。
【0044】
液媒体は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む水溶液を用いる場合にはその水溶液の水を含むことができ、熱可塑性樹脂を含む分散体を用いる場合にはその分散媒を含むことができる。
【0045】
混合工程としては、例えばロール混練装置によるロール混練法や、プロペラ式撹拌装置、ホモジナイザー、ロータリー撹拌装置、及び電磁撹拌装置による撹拌操作又は手動での撹拌操作などを用いることができ、これらを適宜組み合わせて用いることができる。特に、混合工程は、ロール混練法を用いることができる。
【0046】
ここでは、混合工程として、例えば、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を含む水溶液と、熱可塑性樹脂の微粒子を含む樹脂エマルジョンと、を混合して第1の混合物を得る方法について説明する。
【0047】
ロール混練法に用いるロール混練装置は、例えばオープンロールを用いることができる。また、ロール混練法に用いるロール混練装置は、例えば二本ロール又は三本ロールを用いることができる。
【0048】
水溶液と樹脂エマルジョンとの混合物は、ロール間距離を所定間隔に設定したロール混練装置に徐々に投入する。ロール間距離は、水溶液と樹脂エマルジョンの混合物がロールに巻き付く程度であって、かつロール間から混合物が落下しない程度の距離に設定することができる。ロール混練装置に投入された混合物は、混練されることによって徐々に粘度が高くなる。混合物の粘度が高くなったら、混合物をロール混練装置から取り出し、ロール間距離をさらに狭く設定して、再びロール混練装置に投入することができる。この工程を複数回実施することができる。なお、この工程の前に、水溶液と樹脂エマルジョンとをミキサーなどであらかじめ予備混合してもよい。
【0049】
混合工程を実施することによって、ロール間を通る間に、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が樹脂の微粒子の中に入り込むことが予想できる。特に、ロール混練法を用いることによって、他の撹拌操作に比べて、繊維による補強効果がより向上することができる。
【0050】
B−2.乾燥工程
乾燥工程は、混合工程で得られた第1の混合物を乾燥して第2の混合物を得る。乾燥工程は、第1の混合物の液媒体を除去するための工程である。したがって、第1の混合物中の液媒体の種類に応じて公知の方法を採用することができる。例えば、第1の混合物は、水分を含む場合には、水を除去するための一般的な方法を採用することができる。例えば、乾燥工程は、自然乾燥、オーブン乾燥、凍結乾燥、噴露乾燥、パルス燃焼などの公知の乾燥方法を採用することができる。
【0051】
乾燥工程は、熱可塑性樹脂、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーが熱分解しない温度で実施することができ、例えば60℃で加熱して乾燥することができる。
【0052】
第2の混合物は、熱可塑性樹脂成分と、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方と、を含む。第2の混合物は
、熱可塑性樹脂100質量部に対して酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方
を5質量部〜40質量部含
む。第2の混合物中に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を0.1質量部以上含むと熱可塑性樹脂組成物の補強効果を得ることができ、溶媒中に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を60質量部以下含むと容易に加工することができる。
【0053】
B−3.低温混練工程
低温混練工程は、第2の混合物を熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より
5℃高い温度までの範囲の混練温度で4分〜20分間混練する。混練温度は、混練中の第2の混合物の温度である。
図1は、一実施の形態に係る熱可塑性樹脂組成物の製造方法の低温混練工程を模式的に示す図である。なお、第2の混合物としては、前記B−2の乾燥工程によって得られたものを用いることができる。
【0054】
低温混練工程における第2の混合物を混練温度で混練する工程は、熱可塑性樹脂を溶融して成形加工するための装置、例えば、オープンロール、密閉式混練機、押出機、射出成形機などを用いることができる。混合工程と同様に、
図1に示すようなオープンロール2を用いる方法について説明する。
【0055】
この工程では、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0mm〜0.5mmの間隔に設定し、混合工程で得られた第2の混合物をオープンロール2に投入して混練を行なうことができる。
【0056】
第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、この工程における両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることができる。このような表面速度比を用いることにより、所望の高い剪断力を得ることができる。このように狭いロール間から押し出された第2の混合物は、混練温度で適度な弾性を有し、かつ、適度な粘性を有している温度範囲であることから、熱可塑性樹脂の弾性による復元力で大きく変形し、その際の熱可塑性樹脂の変形と共に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が大きく移動することができる。ゴム弾性領域については後述する。
【0057】
混練温度は、低温混練工程における第2の混合物の表面温度であり、加工装置の設定温度ではない。混練温度はできるだけ実際の樹脂の表面温度を測定することが望ましいが、測定できない場合は加工装置から熱可塑性樹脂組成物を取り出した直後の樹脂の表面温度を測定してその温度から加工中の混練温度とすることができる。
【0058】
オープンロール2の場合は、
図1に示すように、第1のロール10に巻き付いた第2の混合物に対して非接触温度計40を用いて表面温度を測定することができる。非接触温度計40の配置は、ニップを通過した直後の位置以外であればよく、好ましくは第1のロール10の上方である。ニップを通過した直後は、第2の混合物の温度が急激に変化する不安定な温度であるため、避けた方が望ましい。
【0059】
また、密閉式混練機や押出機などのように、低温混練工程における第2の混合物の表面温度を測定することができない場合には、混練した後装置から取り出した直後の熱可塑性樹脂組成物の表面温度を測定し、混練温度の範囲内にあることを確認することができる。また、混合中の樹脂の温度を正確にモニタリングできる混練機を用いる場合には、そのモニタリングした温度で所定の混練温度の範囲内にあることを確認してもよい。
【0060】
図1で説明したオープンロールの代わりに、低温混練工程は、第2の混合物を、少なくともスクリュウとバレルとを有する混練機で混合することができる。混練機は、バレル内に、バレルを加熱する加熱機構と、バレルを強制的に冷却する冷却機構と、を有することができる。このような混練機としては、
図8に示すような二軸混練機50を用いることができる。
【0061】
図8は、二軸混練機50による熱可塑性樹脂組成物の製造方法を模式的に示す図である。二軸混練機50は、2本のコニカル型(円錐型)のスクリュウ51,53と、スクリュウ51,53を内部に備えるバレル(シリンダ)60と、バレル60内に形成された戻り流路62と、切換え部64と、を有する。第2の混合物はスクリュウ51,53の後端側(太い側)から投入され、先端側(細い側)へ押し出され、切換え部64を介して戻り流路62を通って再び後端側へ送られて、繰り返し混練が行われる。切換え部64は、戻り流路62と外部へ排出する流路とを切り換える機構を有し、
図8ではスクリュウ51,53の先端から戻り流路62に流路を形成している。内部の混練されている混合物の温度は
、例えば切換え部64内の流路に突出する熱電対により第2の混合物に接することで実際の第2の混合物の温度を測定することが望ましい。
【0062】
また、二軸混練機50は、加工温度の正確性・応答性に優れたものが好ましく、加工中にせん断熱による昇温分を効率よく逃がして所望の温度範囲に維持できるものが好ましい。バレル60は、内部に図示しない加熱機構と冷却機構とを有してもよい。加熱機構は、例えばシーズヒーターやカートリッジヒーターなどの抵抗加熱を利用した電気ヒーターを採用でき、このような電気ヒーターをバレル60内に埋め込むことができる。冷却機構は、バレル60内に形成された冷却用の流路に冷却媒体を流すことでバレル60を内部から強制的に冷却する機構を採用できる。冷却媒体としては圧縮空気や温度調節された液体を用いることができる。加熱機構及び冷却機構は、樹脂の流路であるスクリュウ51,53の周囲と戻り流路62の周囲に沿って配置される。このような加熱機構と冷却機構を有する二軸混練機50は、例えば、ヒーターによる昇温制御だけではなく、エアブローや冷却水による強制的な降温制御もできることによって、正確で応答性に優れた温度調節ができるため好ましい。
【0063】
低温混練工程は、混練温度において、例えば4分間〜20分間であることができ、さらに5分間〜20分間であることができる。混練温度での混練時間を十分にとることによって、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の解繊をより確実に実施することができる。
【0064】
第2の混合物は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が配合されたことによって加工性が低下しており、これを混練することによるせん断発熱によって、第2の混合物の温度は装置の設定温度よりもさらに高くなる。そのため、低温混練工程に適した混練温度範囲に第2の混合物の表面温度を維持するために、オープンロールであればロールの温度を調節して第2の混合物の温度が高くならないように、積極的に冷やすように温度調節しなければならない。これは密閉式混練機、押出機または射出成形機などにおいても同様であり、装置の加工設定温度を積極的に冷やすように調節することで第2の混合物の表面温度を混練温度範囲に一定時間維持することができる。例えば、押出機においては材料を供給する付近においては加熱筒の設定温度を一般的な加工温度よりも高い温度に設定し、他のゾーンを混練温度よりも低温に設定し、加工中の樹脂の表面温度が混練温度になるように調節することができる。
【0065】
低温混練工程によって得られた熱可塑性樹脂組成物は、例えば、金型内に投入されてプレス加工することができ、あるいは、例えば、さらに押出機を用いてペレットに加工するなどして、公知の熱可塑性樹脂の加工方法を用いて所望の形状に成形することができる。
【0066】
低温混練工程において得られた剪断力により、熱可塑性樹脂に高い剪断力が作用し、凝集していた酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が熱可塑性樹脂の分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離し、解繊され、熱可塑性樹脂中に分散される。特に、熱可塑性樹脂は、混練温度範囲における弾性と、粘性と、を有するため、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を解繊し、分散することができる。そして、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の分散性および分散安定性(酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が再凝集しにくいこと)に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0067】
本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法によれば、第2の混合物の熱可塑性樹脂中に凝集塊として存在していた酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を相互に分離した状態で分散させることができる。
【0068】
ゴム弾性領域について説明する。発明者等の研究により、第2の混合物について、動的粘弾性試験(以下、DMA試験という。)を行うと、原料の熱可塑性樹脂とは異なる挙動を示すことがわかった。原料の熱可塑性樹脂は、融点付近で貯蔵弾性率(E’)が急激に低下し、流動する。しかし、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を混合した第2の混合物は、所定量以上の酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を分散させることにより、融点を超えても貯蔵弾性率(E’)がほとんど低下しない、すなわちエラストマーのようなゴム弾性領域が発現することがわかった。
【0069】
本発明にかかる熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、融点付近の温度及びこのゴム弾性領域を利用して、凝集している酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方をほぐすように解繊して、熱可塑性樹脂中に分散させるものである。したがって、本発明を実施する上で、その配合の第2の混合物のサンプルについてあらかじめDMA試験を行い、ゴム弾性領域が発現しているかどうかを確認しておき、その温度領域を用いて、熱可塑性樹脂組成物を生産することができる。
【0070】
混練温度は、この製造方法に用いる熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より
5℃高い温度までの範囲である
。
【0071】
DMA試験の結果からみると、混練温度は、加工可能な熱可塑性樹脂の融点(Tm)付近の温度であって流動しない温度範囲であり、第2の混合物のDMA試験におけるゴム弾性領域を示す場合にはその温度範囲を含むことが好ましいが、加工中における第2の混合物の内部温度を測定することは困難である。したがって、混練温度は樹脂の表面温度であり、そのため、混練温度は、ゴム弾性領域を示す温度範囲よりも若干低い温度まで含む。すなわち、加工中における第2の混合物の内部温度がゴム弾性領域を示す温度範囲となるように、樹脂の表面温度である混練温度を設定するためである。熱可塑性樹脂の場合、混練温度がゴム弾性領域よりも低い、例えば融点(Tm)よりも5℃低い範囲まで加工が可能である。
【0072】
混練温度は、熱可塑性樹脂の加工温度として採用されない比較的低い温度であり、特に、第2の混合物の加工温度としてはこれまで採用されなかった低い温度範囲となる。
【0073】
混練温度が融点(Tm)よりも25℃高い温度以上では、低温混練工程において酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の凝集塊をほぐすことができないと考えられる。
【0074】
また、混練温度は、熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より5℃高い温度までの範囲であ
る。酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの配合量が少ないと、第2の混合物のDMA試験において融点(Tm)以上でゴム弾性領域は発現しない場合がある。そのような場合には、混練温度の温度範囲は、第2の混合物がDMA試験において流動する前の温度を上限とすることができ、例えば、熱可塑性樹脂の融点(Tm)より5℃低い温度から融点(Tm)より5℃高い温度までの範囲であることができる。
【0075】
本発明において「融点(Tm)」は、示差走査熱量測定(DSC)を用いてJIS K7121に準拠して測定した値をいう。
【0076】
B−4.第2の低温混練工程
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は、第2の混合物における熱可塑性樹脂は第1の熱可塑
性樹脂であり、低温混練工程で得られた熱可塑性樹脂組成物に、第2の熱可塑性樹脂をさらに加えて第3温度で混練して第3の混合物を得る第2の低温混練工程をさらに含むことができる。
【0077】
第2の熱可塑性樹脂は、第1の熱可塑性樹脂と同じ種類の熱可塑性樹脂であることができる。ここで、同じ種類の熱可塑性樹脂とは、第2の熱可塑性樹脂と第1の熱可塑性樹脂とが少なくとも主構成モノマーが同じであるということである。
【0078】
第3温度は、前記B−3において説明した混練温度と同じ温度範囲とすることができる。また、混練工程における装置と各種条件は、前記B−3において説明した装置と各種条件と同じものを用いることができる。
【0079】
前記B−3における第2の混合物中の酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の配合量が少ないと、第2の混合物におけるDMA試験でのゴム弾性領域が発現しない場合がある。そのような第2の混合物では低温混練工程の第2温度を融点付近の狭い温度範囲内にするため、加工の難易度が上がってしまう。そのため、比較的少量の酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方を配合した熱可塑性樹脂組成物を加工したい場合には、このように第2の低温混練工程を実施することによって、第2の熱可塑性樹脂を任意の量追加することにより、熱可塑性樹脂組成物における酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の含有量を少なくすることができる。
【0080】
C.熱可塑性樹脂組成物
最後に、本実施の形態によって得られた熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0081】
本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂中に解繊された酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が分散している熱可塑性樹脂組成物であることを特徴とする。熱可塑性樹脂組成物は、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の凝集塊が存在せず、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方は、相互に分離した状態で全体に分散している。
【0082】
熱可塑性樹脂組成物に酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の凝集塊がないことは、熱可塑性樹脂組成物の任意の断面を電子顕微鏡によって観察することによって確認することができる。電子顕微鏡写真には、解繊され、相互に分離した酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方が割断面で観察することができないが、凝集塊がある場合には割断面に凝集塊が除かれた空洞が表れる。
【0083】
本実施の形態にかかる熱可塑性樹脂組成物によれば、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の凝集塊が存在しないので、凝集塊における応力集中が原因の破壊が起こらないため、延性を犠牲にすることなく、高い弾性率を有することができる。
【0084】
前記のように、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【実施例】
【0085】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0086】
(A1−1)
参考例1〜3のサンプルの作製
水溶液を得る工程:
特開2013−18918号の製造例1に開示された方法と同様にして、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーを得た。具体的には、針葉樹の漂白クラフトパルプをイオン交換水で十分に攪拌した後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%を20℃でこの順で添加した。水酸化ナトリウムを滴下してpHを10.5に保持し、酸化反応を行った。酸化反応を120分行った後に滴下を停止し、TEMPO酸化した酸化セルロース繊維(表1では「T−CNF」で示した。)を10質量%含む水溶液を得た。酸化セルロース繊維は、元のパルプと同程度の繊維径10μm〜30μm、繊維長さ1mm〜5mmであった。
【0087】
さらに、イオン交換水を用いて酸化セルロース繊維を十分に洗浄し、次いで脱水処理を行った。その後、酸化セルロース繊維をイオン交換水により固形分1質量%に調整し、高
圧ホモジナイザーを用いて微細化処理を行い、セルロースナノファイバー(表1、2では「CNF」で示した。)を1質量%含む水分散液を得た。セルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225であった。
【0088】
混合工程:
このセルロースナノファイバーを1質量%含む水溶液に樹脂エマルジョンを投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、混合物を得た。さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。ここで樹脂エマルジョンは、住友精化社製のセポルジョン(登録商標)G315(商品名)(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合オレフィン系樹脂エマルジョン、融点85℃、固形分濃度40%、平均粒径1.5μm)を用いた。
【0089】
乾燥工程:
第1の混合物を60℃に設定したオーブン内で72時間加熱乾燥して、第2の混合物を得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、表1及び表2に示した。なお、表1及び表2における配合量は、質量部(phr)である。
【0090】
低温混練工程:
第2の混合物をオープンロールに再び投入し、ロール表面速度比を1:1.1、ロール間隙を1.5mmから0.3mmと狭くして混練を行った。また、必要に応じて、ロール間隔を0.3mm〜1.5mmの間で変化させながら切り返しを行った。この混練の間、第2の混合物の生地表面の温度(混練温度)を非接触型の赤外線温度計で測定して95℃〜110℃に維持されるように、ロールを温度調節した。特に、
参考例1では第2の混合物の生地表面の温度(第2温度)が110℃を超えないようにロールを温度調節した。十分に混練した後、ロール間隙を0.3mmから1.5mmに変更して、オープンロールから熱可塑性樹脂組成物を取り出した。
【0091】
プレス工程:
オープンロールから取り出された熱可塑性樹脂組成物を金型に入れ、真空下で加圧成形して、サンプルを作製した。真空加圧成形は、金型を100℃に加熱し、無負荷で2分間予熱した後、加圧(金型に対して)しながら2分間プレス成型し、金型を冷却プレスに移動して加圧(金型に対して)しながら室温まで冷却し、厚さ1mmのシート状サンプルを得た。
【0092】
(A1−2)
参考例4のサンプルの作製
混合工程:
前記(A1−1)におけるTEMPO酸化した酸化セルロース繊維10質量%を含む水溶液に
参考例1〜3と同じ樹脂エマルジョンを投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、混合物を得た。さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。
【0093】
乾燥工程、低温混練工程及びプレス工程は、
参考例1〜3と同様にして、熱可塑性樹脂組成物サンプルを得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、表1に示した。
【0094】
(1−3)比較例1,2のサンプル作製
比較例1は、熱可塑性樹脂単体であるので、
参考例1〜4と同じ樹脂エマルジョンをオーブンで60℃、72時間乾燥させた後、上記と同様にプレス工程を行って、熱可塑性樹脂組成物のサンプルを得た。
【0095】
比較例2は、
参考例2における低温混練工程における混練温度を125℃に調節して、その他は
参考例2と同様にして熱可塑性樹脂組成物のサンプルを得た。
【0096】
(A2)引張試験
参考例及び比較例のサンプルについて、JIS7号のダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製オートグラフAG−Xの引張試験機を用いて、23±2℃、標準線間距離10mm、引張速度50mm/minでJIS K7127に基づいて引張試験を行い、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))、10%モジュラス(σ10(MPa))、50%モジュラス(σ50(MPa))及び100%モジュラス(σ100(MPa))を測定した。測定結果を表1及び表2に示した。
【0097】
(A3)DMA測定
参考例及び比較例のサンプルについて、短冊形(40×4×1mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度20〜230℃、昇温ペース1.5℃、動的ひずみ±0.05%、周波数1HzでJIS K7244に基づいてDMA試験(動的粘弾性試験)を行った。
【0098】
この試験結果から測定温度が50℃、100℃、115℃、120℃、125℃、150℃における貯蔵弾性率(E’)を測定し、表1〜表3に示した。表1及び表2において、貯蔵弾性率は「E’(50℃)(MPa)」、「E’(100℃)(MPa)」、「E’(115℃)(MPa)」、「E’(120℃)(MPa)」、「E’(125℃)(MPa)」、「E’(150℃)(MPa)」として示した。また、DMA試験における流動開始温度(各表では「流動温度」と記載した)についても各表に記載した。各表において、各サンプルの測定限界まで流動しなかったサンプルについては「流動せず」と記載した。
【0099】
さらに、測定結果を貯蔵弾性率E’の温度依存性を示すグラフとして
図2に示した。
【0100】
図2において、曲線E2は、
参考例2に対応し、曲線C1は、比較例1に対応している。
【0101】
(A4)平均線膨張係数の測定
参考例及び比較例のサンプルについて、測定温度範囲における平均線膨張係数を測定した。これらの結果を表1及び表2に示す。測定装置はSII社製TMA/SS6100、測定試料形状は4mm×1mm×20mm、側長荷重は25kPa、測定温度は−100℃〜100℃、変位の微分値を取得して、その0℃〜50℃について平均値を計算した。
0℃〜50℃における平均線膨張係数を表1及び表2に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
表1及び表2の引張試験の結果によれば、以下のことがわかった。
【0105】
1.
参考例1〜3の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、比較例1に比べて引張強さ(TS(MPa))が向上し、10%モジュラス(σ10)が向上した。
【0106】
2.
参考例2の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、同じ配合の比較例2に比べて引張強さ(TS(MPa))及び切断時伸び(Eb)が向上し、10%モジュラス(σ10)が向上した。
【0107】
3.
参考例4の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、同じ配合の
参考例2に比べて切断時伸び(Eb)が向上した。
【0108】
表1、表2及び
図2のDMA試験の結果によれば、以下のことがわかった。
【0109】
1.
参考例1〜4の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、酸化セルロース繊維及びセルロースナノファイバーの少なくとも一方の添加量の増加に伴って貯蔵弾性率(E’)が向上した。
【0110】
2.
参考例1〜4の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、50℃及び90℃の貯蔵弾性率(E’)が比較例1に比べて大きく向上した。
【0111】
3.
参考例2〜4の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、測定限界まで流動しなかった。
参考例2の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、
図2に示すように、融点を過ぎても貯蔵弾性率(E’)が下がらない平坦領域を示した。
【0112】
(A5)引裂き疲労寿命試験
参考例及び比較例のサンプルについて、20mm×4mm×1mm試験片の長辺の中心から幅方向へカミソリ刃によって深さ1mmの切込みを入れ、SII社製TMA/SS6100試験機を用いて、試験片の両端の短辺付近をチャックにて保持して、50℃の大気雰囲気中、周波数1Hzの条件で繰り返し引張荷重(0.3N/mm〜2N/mm)をかけて引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するまでの回数を測定した。試験片が破壊されない場合には、10万回で試験を終了した。各測定結果を
図3に示した。
図3において、曲線E2は、
参考例2に対応し、曲線C1は、比較例1に対応している。
【0113】
(A6)SEM観察
参考例1のサンプル及び比較例2のサンプルの凍結割断面について、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)で観察した。
【0114】
図4は、
参考例1のサンプルの凍結割断面(2000倍)のSEM観察写真であり、
図5は、
参考例1のサンプルの凍結割断面(20000倍)のSEM観察写真である。
参考例1のサンプルの凍結割断面にはセルロースナノファイバーの凝集塊(解繊されたセルロースナノファイバーは1本が3nm程度なので観察できない)やその凝集塊が除かれたことによって形成される空洞が確認できなかった。
【0115】
図6は、比較例2のサンプルの凍結割断面(2000倍)のSEM観察写真であり、
図7は、比較例2のサンプルの凍結割断面(20000倍)のSEM観察写真である。比較例2のサンプルの凍結割断面にはセルロースナノファイバーの凝集塊(
図7では白い繊維状のセルロースナノファイバーの束)が多数確認された。
【0116】
(B1−1)実施例5〜7のサンプルの作製
水溶液を得る工程:
参考例1〜3と同様に水溶液を得る工程を行い、セルロースナノファイバー(表3,4では「CNF」で示した。)を1質量%含む水分散液を得た。セルロースナノファイバーの平均繊維径は3.3nm、平均アスペクト比は225であった。
【0117】
混合工程:
このセルロースナノファイバーを1質量%含む水溶液に樹脂エマルジョンを投入し、ジューサーミキサーを用いて回転数10000rpmで混合して、混合物を得た。さらにミキサーの混合の後、ニップを10μmに設定したEXAKT社製の三本ロール(M−50)に回転数200rpmで通して、追加の混合を行い、第1の混合物を得た。ここで樹脂エマルジョンは、住友精化社製のセポルジョン(登録商標)PA200(商品名)(共重合ナイロン(ポリアミド)樹脂エマルジョン、融点120℃、固形分濃度40%)を用いた。
【0118】
乾燥工程:
第1の混合物を40℃に設定したオーブン内で72時間加熱乾燥して、第2の混合物を得た。乾燥後の第2の混合物における配合割合は、表3及び表4に示した。なお、表3及び表4における配合量は、質量部(phr)である。
【0119】
低温混練工程:
二軸混練機(Xplore社製卓上型二軸混練機MC15)のバレル設定温度を130℃に設定し、第2の混合物を混練機に投入した。混練を容易にするため、樹脂の初期投入時の温度は低温混練工程よりも高い温度に設定した。このときの第2の混合物の実際の温度は124℃、混練時間は3分間、スクリュウの回転数は90rpm、加工中の応力は4000N〜9000Nであった。
【0120】
さらに、エアブローによる冷却でバレルの温度を122℃まで強制的に冷却した。冷却時間は3分間であった。この温度にて低温混練工程を行った。このときの第2の混合物の実際の温度は117℃、混練時間は8分間であった。
【0121】
各実施例の設定条件と応力は、
実施例5:スクリュウの回転数は80rpm、加工中の応力は8000N〜9400N
実施例6:スクリュウの回転数は70rpm、加工中の応力は8000N〜9400N
実施例7:スクリュウの回転数は40rpm、加工中の応力は8500N〜9400N
であった。
【0122】
第2の混合物の加工中の実際の温度は、バレル内の切換え部で混合物に接触する熱電対を用いて測定した。十分に混練した後、ストランドを押し出して所定長さにカットして、二軸混練機から熱可塑性樹脂組成物のペレットを得た。
【0123】
プレス工程:
二軸混練機から取り出された熱可塑性樹脂組成物を金型に入れ、真空下、成形温度117℃でプレス成型し、厚さ0.3mm〜0.5mmのシート状サンプルを得た。
【0124】
比較例3は、混合工程を経ることなく、セポルジョン(登録商標)PA200のエマルジョンを用いて、実施例5〜7と同様に乾燥工程とプレス工程とを行って、シート状サンプルを得た。
【0125】
比較例4は、バレル温度を148℃に設定した以外は実施例7と同様にしてシート状サンプルを得た。
【0126】
(B2)引張試験
実施例5〜7及び比較例3,4のサンプルについて、上記A2と同様に引張試験を行い、引張強さ(TS(MPa))、切断時伸び(Eb(%))、降伏点引張応力(σy(MPa))及び100%モジュラス(σ100(MPa))を測定した。測定結果を表3及び表4に示した。
【0127】
(B3)DMA測定
実施例5〜7及び比較例3,4のサンプルについて、短冊形(40×10×0.3〜0.5mm)に切り出した試験片について、上記A3と同様にDMA試験(動的粘弾性試験)を行った。この試験結果から各測定温度における貯蔵弾性率(E’)を測定し、表3,4に示した。さらに、測定結果を貯蔵弾性率E’の温度依存性を示すグラフとして
図9に示した。
図9において、曲線E7は実施例7に対応し、曲線C3は比較例3に対応している。
【0128】
(B4)熱膨張による寸法変化の測定
実施例5〜7及び比較例3,4のサンプルについて、上記A4と同様に測定して、測定温度範囲における熱膨張による寸法変化を測定した。これらの結果を
図10に示す。
図10において、横軸は測定温度(℃)、縦軸は試験片の長手方向の長さの変位(μm)である。
【0129】
【表3】
【0130】
【表4】
【0131】
上記B2〜B4の引張試験の結果によれば、以下のことがわかった。
【0132】
1.実施例5〜6の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、比較例3に比べて降伏点引張応力(σy(MPa))及び100%モジュラス(σ100)が向上した。また実施例7は降伏点引張応力が向上した。
【0133】
2.実施例5〜7の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、セルロースナノファイバーの添加量の増加に伴って貯蔵弾性率(E’)が向上した。
【0134】
3.実施例7の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、測定限界まで流動しなかった。実施例7の熱可塑性樹脂組成物サンプルは、
図9に示すように、融点を過ぎても貯蔵弾性率(E’)が下がらない平坦領域を示した。
【0135】
4.
図10に示すように、比較例3は、50℃まで膨張し、50℃を超えたところで収縮を始めた。実施例7は、比較例3に比べて熱膨張による寸法の変化が小さかった。
【0136】
(B5)SEM観察
実施例5〜7のサンプルの凍結割断面について、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」という。)で観察したが、凍結割断面にはセルロースナノファイバーの凝集塊が確認できなかった。