特許第6691915号(P6691915)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691915
(24)【登録日】2020年4月15日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】エタノール脱水のための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   C07C 1/24 20060101AFI20200427BHJP
   C07C 11/04 20060101ALI20200427BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   C07C1/24
   C07C11/04
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-531149(P2017-531149)
(86)(22)【出願日】2015年12月8日
(65)【公表番号】特表2018-500307(P2018-500307A)
(43)【公表日】2018年1月11日
(86)【国際出願番号】EP2015079030
(87)【国際公開番号】WO2016096544
(87)【国際公開日】20160623
【審査請求日】2018年11月12日
(31)【優先権主張番号】14198385.8
(32)【優先日】2014年12月16日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516190149
【氏名又は名称】テクニップ イーアンドシー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】Technip E&C Limited
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100188352
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 一弘
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100145920
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(72)【発明者】
【氏名】ボルトン レスリー ウィリアム
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2013/0178674(US,A1)
【文献】 特開昭54−036203(JP,A)
【文献】 特開昭58−038220(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第02759338(EP,A1)
【文献】 特公昭54−010539(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/24
C07C 11/04
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱反応器を使用したエタノールの気相化学的脱水によりエテンを調製するための方法であって、前記断熱反応器の内部が、第1の反応ゾーン、少なくとも1の中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを含む少なくとも3の反応ゾーンに分離され、各ゾーンが、エタノール脱水触媒を含有し;前記方法が、
a)予熱された反応物質供給物ストリームを、前記第1の反応ゾーンの入口に供給するステップと;
b)前記第1の反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するステップと;
c)前記排出物ストリームを、後続の中間反応ゾーンの入口に供給するステップと;
d)前記中間反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するステップと;
e)存在する場合には、任意の後続の中間反応ゾーンに対してステップ(c)及び(d)を繰り返すステップと;
f)前記最終反応ゾーンの入口に、先行する中間反応ゾーンからの前記排出物ストリームを供給するステップと;
g)前記最終反応ゾーンの出口から生成物ストリームを抽出するステップと
を含み、
前記排出物ストリームが、後続の反応ゾーンに供給される前に1又は2以上の熱交換器を用いて再加熱され;かつ
前記方法において再加熱される2の排出物ストリーム毎に1の熱交換器のみが存在するよう、単一の熱交換器が少なくとも2の前記排出物ストリームを同時に再加熱する、
前記方法。
【請求項2】
単一の熱交換器が、2〜4の排出物ストリームを同時に再加熱する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
単一の熱交換器が、2のストリームを同時に再加熱する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
3以上の中間反応ゾーンが存在する、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
熱交換器が、シェルアンドチューブ熱交換器及び/又はプレート/フレーム熱交換器から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
単一の熱交換器において再加熱される2又は3以上の排出物ストリームと前記熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積の差が、10%未満である、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
単一の熱交換器において再加熱される2又は3以上の排出物ストリームと前記熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積が、同一である、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
個々の反応ゾーンの間の圧力差が、1MPa未満である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
再加熱された後の個々の中間排出物ストリームの温度差が、20℃未満である、請求項1〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
再加熱される前の個々の中間排出物ストリームの温度差が、20℃未満である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
エタノールの気相化学的脱水によりエテンを調製するための装置であって、
i.断熱反応器であって、前記断熱反応器の内部が、第1の反応ゾーン、少なくとも1の中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを含む少なくとも3の反応ゾーンに分離される、断熱反応器と;
ii.予熱された反応物質ストリームを、前記第1の反応ゾーンの入口に供給するための手段と;
iii.前記第1の反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するための手段と;
iv.前記排出物ストリームを、後続の中間反応ゾーンの入口に供給するための手段と;
v.前記中間反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するための手段と;
vi.存在する場合には、任意の追加的な中間反応ゾーンに供給するための1又は2以上の手段、及び前記任意の追加的な中間反応ゾーンから排出物ストリームを抽出するための1又は2以上の手段と;
vii.前記最終反応ゾーンの入口に、先行する中間反応ゾーンからの前記排出物ストリームを供給するための手段と;
viii.前記最終反応ゾーンの出口から生成物ストリームを抽出するための手段と;
ix.後続の反応ゾーンに供給される前に、各排出物ストリームを再加熱するための1又は2以上の熱交換器であって、再加熱されている2の排出物ストリーム毎に1の熱交換器のみが存在するように、単一の熱交換器が少なくとも2の前記排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される、1又は2以上の熱交換器と
を備える、前記装置。
【請求項12】
熱交換器のそれぞれが、シェルアンドチューブ熱交換器又はプレート/フレーム熱交換器から選択される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つが、シェルアンドチューブ熱交換器であり、2〜4の排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される、請求項12に記載の装置。
【請求項14】
1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つが、プレート/フレーム型熱交換器であり、少なくとも2の排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される、請求項12に記載の装置。
【請求項15】
3以上の中間反応ゾーンが存在する、請求項11〜14のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールの気相化学的脱水によりエテンを製造するための方法及び装置に関する。特に、本発明の方法は、排出物ストリーム再加熱システムと組み合わせた複数の反応ゾーンを備える断熱反応器の使用を含み、エタノール脱水プロセスの有効性を低下させることなく、2又は3以上の異なる中間排出物ストリームが、単一の熱交換器を用いて再加熱される。
【背景技術】
【0002】
エテンは、従来、原油由来の炭化水素の水蒸気又は触媒分解により工業的に製造されている重要な汎用化学製品であり、モノマーである。しかしながら、原油埋蔵量が減少し、価格が上昇するにつれて、この生成物を製造する経済的に実行可能な代替方法を見出す必要性が増加している。エタノールは、バイオマスの発酵及び合成ガスに基づく技術から容易に入手可能であるために、そこから将来エテンを製造することができる重要な潜在的原料として注目されている。
【0003】
エタノールからエテンへの脱水は周知の反応であり、1930年代以降様々な商業プロセスにおいて使用されている。反応は極めて吸熱性であり、したがってエタノールからエテンへの効率的な変換を達成するために高温を必要とする。初期のシステムは、この目標を達成するために等温反応器を使用していたが、1970年代には大部分が断熱反応器システムに置き換えられた。
【0004】
典型的な脱水プロセスにおいて、エタノールを含み、水及び他の成分を含んでもよい供給物が、ヘテロポリ酸触媒床を含有する反応器に連続的に供給され、生成物が連続的に取り出される。定常状態条件下で、反応器に進入する供給物は、入口近くで、水、エタノール及びエトキシエタン(エタノールの急速な第1段階脱水の生成物)の平衡混合物に急速に変換される。そのようなプロセスは、典型的には、高い温度及び圧力で行われる。
【0005】
エタノール脱水は、直列に配置され、反応器間に中間加熱を有する複数の断熱反応器を使用して有利に行うことができる。そのようなシステムは、典型的には、いくつかの個々の圧力容器を含み、各反応器からの排出物ストリームはそれぞれ、後続の反応器に供給される前に、熱源により加熱される。
【0006】
米国特許第4,232,179号明細書は、いくつかの断熱反応器が直列に配置された、エタノールを脱水するための方法を開示している。各反応器内の必要とされる高温を維持するために、各反応器に熱輸送流体が導入され、反応器供給物と混合される。この方法の分離された反応器によって、反応器又は一連の反応器の動作は、システム内の他の反応器の性能に干渉することなく保守サービスのために中断され得、それにより連続的なプロセスが可能となる。
【0007】
米国特許出願公開第2013/0178674号明細書は、単一反応器内に複数の段階を備える反応器を使用した、エタノールの脱水のための方法を記載しており、各段階は、異なる長さ、内径、体積及び触媒量を有する。各段階への供給物の加熱は、複数の熱交換器を用いて個々に制御され、それにより、個々の段階のそれぞれの温度プロファイルの最適化が可能となる。さらに、反応ゾーンはそれぞれ、エタノール変換、エテン選択性、及び収率の最大の効率を得るために、異なる温度及び圧力条件下、反応物質滞留時間、並びに触媒量で動作するように設計される。米国特許第4,232,179号明細書に関して、この設計のさらなる利益は、各段階の分離された特性によって、プロセス全体を中断することなく個々の段階が保守のために停止され得ることである。
【0008】
しかしながら、米国特許第4,232,179号明細書に開示されるシステムの重大な欠点は、使用される装置に関連した複雑性及び設置面積である。例えば、異なるプロセス条件下で動作する反応ゾーンを提供するためには、後続の反応ゾーンにおいて実施される特定のプロセス条件に従って異なるレベルの再加熱に供される排出物ストリームに対して複雑な配管網が必要とされる。
【0009】
予想外にも、先行技術によれば各反応器又は反応ゾーンの温度を個別に最適化することが好ましいにもかかわらず、エタノール脱水システムの反応器又は反応ゾーンの排出物ストリームを再加熱するために使用される熱交換器は、全システムを単純化するため、単一のユニットに有効に組み合わせることができることが判明した。驚くべきことに、単一の熱交換器を用いて2又は3以上の異なる排出物ストリームを実質的に同程度に再加熱することは、複数の反応ゾーンで操作されるエタノール脱水プロセスの有効性を低下させず、より少ない圧力容器及び単純化された配管構成の使用により、複雑性及び全体的コストを低減することができることが判明した。これは、反応ゾーンの数が多くなる(例えば5以上)場合、これらの反応器付近の配管及び機器のレイアウトが、必要とされる接続部及び外部アイテムの数に起因して著しく複雑化するため、特に重要である。
【0010】
多数の反応器又は反応ゾーンを有する複数反応器システムの複雑なレイアウト及び配管構成によって、システムは、組立て及び保守が過度に困難及び高コストとなり、そのようなシステムの使用があまりにも費用を要するものとなる。特に、複数の反応ゾーンを有する単一の反応器への多数の熱交換器の接続は、構造的に扱いにくく、したがって保守を行うのに高コスト及び物流的に困難となることが多い。本発明の具体的な利益は、反応器の周囲に配置する必要がある熱交換器の数を低減し、より単純な配管構成及び改善された保守アクセスを可能にすることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第4,232,179号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0178674号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
したがって、本発明は、複数の反応器を、複数の反応ゾーンを備える単一の圧力容器として組み合わせること、及び2又は3以上の中間排出物ストリームの再加熱を単一の外部デバイス内で組み合わせることにより、エタノール脱水反応器付近の配管及び機器のレイアウトを単純化する方法及び装置に関する。本明細書において、「中間排出物ストリーム」又は「排出物ストリーム」への言及は、さらなる処理のため、反応器の後続の反応ゾーンに搬送される前に再加熱される、反応器の反応ゾーンからの排出物ストリームへの言及を意図する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の態様において、本発明は、断熱反応器を使用したエタノールの気相化学的脱水によりエテンを調製するための方法であって、断熱反応器の内部は、第1の反応ゾーン、少なくとも1の中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを含む少なくとも3の反応ゾーンに分離され、各ゾーンが、エタノール脱水触媒を含有し;前記方法が、
a)予熱された反応物質供給物ストリームを、第1の反応ゾーンの入口に供給するステップと;
b)第1の反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するステップと;
c)前記排出物ストリームを、後続の中間反応ゾーンの入口に供給するステップと;
d)中間反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するステップと;
e)存在する場合には、任意の後続の中間反応ゾーンに対してステップ(c)及び(d)を繰り返すステップと;
f)最終反応ゾーンの入口に、先行する中間反応ゾーンからの排出物ストリームを供給するステップと;
g)最終反応ゾーンの出口から生成物ストリームを抽出するステップと
を含み、
排出物ストリームが、1又は2以上の熱交換器を用いて、後続の反応ゾーンに供給される前に再加熱され;かつ
本方法で再加熱される2の排出物ストリーム毎に1の熱交換器のみが存在するよう、単一の熱交換器が少なくとも2の排出物ストリームを同時に再加熱する、
方法に関する。
【0014】
プロセスの要素の組合せ及び再利用は、複数反応器システムの構成を大幅に単純化し、従来のプロセスと比較してコストの低減を可能にする。特に、熱交換器を単一のユニットとして組み合わせることにより、複数の排出物ストリームを同時に再加熱することが可能になる。これによって、反応器の周囲に配置する必要がある熱交換器の数が、ひいては、複数の反応ゾーンが存在する場合に必要とされる接続部及び外部アイテムの数に起因して著しく複雑化する、反応器付近の配管及び機器のレイアウトの複雑性が、大幅に低減される。
【0015】
本発明による方法において使用される反応器は、少なくとも3の反応ゾーン、すなわち、第1の反応ゾーン、少なくとも1の中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを備える。本発明は、反応器の周囲の配管及び機器のレイアウトがますます複雑化する際に、中間反応ゾーンの数が3又は4以上(例えば、4又は5の中間反応ゾーン)である場合特に効果的である。本発明は、増加した数の反応ゾーン(例えば、4又は5の中間反応ゾーン)を有する大型反応器を有するスケールアップされたエタノール脱水システムに適合する。
【0016】
本発明の熱交換器は、当技術分野において一般に知られている任意の複数ストリーム熱交換器から選択され得る。好ましくは、本発明において使用される熱交換器は、シェルアンドチューブ熱交換器又はプレート/フレーム熱交換器である。熱交換器は、単相又は二相熱交換器であってもよい。
【0017】
シェルアンドチューブ熱交換器は、一般に、大型圧力容器(シェル)を備え、これにチューブ又はチューブの束が通っている。1の流体がシェルを通って流れる一方で第2の流体がチューブを通って流れ、前記流体は、チューブの表面を介して熱接触している。シェル内の流体とチューブ内の流体との間で、チューブ壁を介して熱が伝達される。
【0018】
プレート/フレーム熱交換器は、一般に、奥行きが浅く、その最大表面上で熱的に接触する一連のプレート状チャンバを備える。「高温」及び「低温」流体ストリームが一連の交互するプレートを通過し、流体間の効率的な熱伝達が促進される。
【0019】
本発明の一実施形態において、1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つが、シェルアンドチューブ型熱交換器である。好ましくは、シェルアンドチューブ熱交換器は、2〜4の排出物ストリームを同時に、より好ましくは2の排出物ストリームを同時に再加熱する。複数の排出物ストリームは、別個の排出物ストリームを単一シェル内の別個のチューブ又はチューブの群に通過させることにより、同時に再加熱され得る。
【0020】
本発明の別の実施形態において、1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つが、プレート/フレーム型熱交換器である。好ましくは、プレート/フレーム型熱交換器は、少なくとも4の排出物ストリームを同時に再加熱する。複数の排出物ストリームは、別個の排出物ストリームを単一の熱交換器内の別個のプレート又は一連のプレートに通過させることにより、同時に再加熱され得る。
【0021】
再加熱のための複数の排出物ストリームに対応する熱交換器であって、複数の排出物ストリームの加熱の程度を実質的に同一とすることができる熱交換器を提供することが可能である。これは、1の排出物ストリームと熱交換器の加熱体との間の接触表面積が、同じユニット内で再加熱される別の排出物ストリームの接触表面積に可能な限り近いことを確実にすることにより達成され得る。本発明の好ましい実施形態において、単一の熱交換器において再加熱される2又は3以上の排出物ストリームと、熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積の差は10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満である。本発明のより好ましい実施形態において、単一の熱交換器において再加熱される2又は3以上の排出物ストリームと、熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積は、同一である。
【0022】
本発明による原料の脱水は、オレフィン及び水への直接的な脱水により(式1)、又はエーテル中間体を介して(式2及び3)進行すると考えられている(Chem. Eng Comm. 1990, 95, 27 to 39)。
【0023】
【化1】
【0024】
エーテルから2モルのオレフィン及び水への直接変換もまた報告されている(Chem. Eng. Res. and Design 1984, 62, 81 to 91)。上に示される反応は全て、典型的にはルイス及び/又はブレンステッド酸により触媒される。式1は、エタノールからエテン及び水への吸熱直接脱離を示し、式2及び3、すなわち発熱エステル化反応(式2)並びにエテン及びエタノールを製造するエトキシエタンの吸熱脱離(式3)が、式1と競合する。しかしながら、エタノールからエテンへの脱水反応は、全体として極めて吸熱性であると言われている。
【0025】
本発明の方法において使用されるエタノール脱水触媒は、固定床脱水触媒等の、当技術分野において一般に知られているものから選択され得る。触媒は、好ましくは、国際公開第2008062157号パンフレット、国際公開第2007063282号パンフレット、国際公開第2007063281号パンフレット、国際公開第2007063280号パンフレット、国際公開第2007063279号パンフレット、欧州特許第1925363号明細書及び欧州特許第1982761号明細書に記載のものから選択されるヘテロポリ酸触媒である。
【0026】
本発明によれば、エタノール(並びに好ましくは水及び/又はエトキシエタン)を含む供給物ストリームの気相化学的脱水によりエテンを調製するための方法が提供され、前記方法は、断熱反応器の複数の反応ゾーン内で供給物ストリームを触媒と接触させるステップを含み、反応器付近の配管及び機器のレイアウトの複雑性が大幅に低減される。
【0027】
好ましくは、本発明の方法の供給物ストリーム(feed stream)中の水の量は、反応物質供給物ストリーム中の水、エタノール及びエトキシエタンの総重量を基準として最大約50重量%、より好ましくは最大約20重量%、最も好ましくは最大約10重量%であり、さらには最大約7重量%でさえあり得る。好ましくは、反応物質供給物ストリーム(reactant feed stream)中の水の量は、反応物質供給物ストリーム中の水、エタノール及びエトキシエタンの総重量を基準として少なくとも約0.1重量%、より好ましくは少なくとも約0.5重量%、最も好ましくは少なくとも約1重量%である。
【0028】
オレフィン除去後の液体生成物ストリームは、主に未反応のエタノール、ジエチルエーテル及び水を含む。出願人は、水副生成物の除去後、アルコール及びエーテルの大部分を再び気相脱水反応器にリサイクルすることが特に好ましいことを見出した。
【0029】
本発明のいくつかの実施形態において、供給物ストリーム(feed stream)は、不活性希釈剤を含む。他の実施形態において、不活性希釈剤は、反応ゾーンの間に添加される。好ましい希釈剤は、窒素、ヘリウム、エテン及び/又は飽和炭化水素、例えばヘキサン、2−メチルプロパン又はn−ブタンを含む。より好ましくは、供給物ストリーム希釈剤は、窒素及び/又はヘリウムから選択される。
【0030】
一実施形態において、本発明に従ってエタノールが脱水される反応ゾーンは、好ましくは、160℃〜270℃、より好ましくは180℃〜270℃、より好ましくは190℃〜260℃、最も好ましくは200℃〜250℃の温度で操作される。反応ゾーンは、好ましくは、0.1MPa〜4.5MPaの圧力、好ましくは1.5MPa〜3.5MPaの圧力、最も好ましくは1.8MPa〜2.8MPaの圧力で操作される。
【0031】
別の実施形態において、本発明によるエタノールが脱水される反応ゾーンの供給物温度は、好ましくは、少なくとも約252℃、より好ましくは少なくとも約255℃、さらにより好ましくは少なくとも約260℃、なおさらにより好ましくは少なくとも280℃、最も好ましくは少なくとも300℃である。供給物温度の上限は、エテンの選択性が悪影響を受ける温度、及び/又は過度にエネルギー集約的である温度未満である。好ましくは、供給物温度の上限は、約350℃、より好ましくは約325℃である。したがって、脱水反応に好ましい供給物温度範囲は、a)少なくとも約252℃〜約350℃;b)少なくとも約252℃〜約325℃;c)少なくとも約255℃〜約350℃;d)少なくとも約255℃〜約325℃;e)少なくとも約260℃〜約350℃;f)少なくとも約260℃〜約325℃;g)少なくとも約280℃〜約350℃;h)少なくとも約280℃〜約325℃;i)少なくとも約300℃〜約350℃;及びj)少なくとも約300℃〜約325℃を含む。この実施形態において、反応ゾーンは、約0.90MPa〜約1.60MPaの内部圧力、より好ましくは約0.95MPa〜約1.30MPaの内部圧力を有する。最も好ましくは、反応ゾーンは、約1.00MPa〜約1.20MPaの内部圧力を有する。
【0032】
本明細書において、「供給物温度」への言及は、反応器又は反応ゾーンに供給される点での特定のストリームの温度への言及を意図する。
【0033】
本明細書において、反応ゾーン内の圧力への言及は、反応物質の分圧、すなわちエタノール並びに(存在する場合には)水及びエトキシエタンの分圧だけでなく、エチレン生成物の分圧の和に対応する。本明細書において別段に指定されない限り、ヘリウム及び窒素等の不活性希釈剤、又は他の不活性成分の分圧は、記述された全圧から除外される。したがって、本明細書における反応ゾーン圧力への言及は、式:P反応器=P+Pエタノール+Pエトキシエタン+Pエチレンに従う。さらに、別段に指定されない限り、本明細書における反応器圧力への言及は、絶対圧力への言及であり、ゲージ圧への言及ではない。
【0034】
本発明による方法の好ましい実施形態において、再加熱された後の個々の中間排出物ストリームの温度の間の差は、20℃未満、より好ましくは10℃未満、最も好ましくは5℃未満である。好ましくは、再加熱される前の個々の中間排出物ストリームの温度の間の差は、20℃未満、より好ましくは10℃未満、最も好ましくは5℃未満である。
【0035】
好ましくは、本発明による方法における異なる反応ゾーンの間の反応圧力の差は、1MPa未満、より好ましくは0.5MPa未満、最も好ましくは0.3MPa未満である。
【0036】
本発明によるエタノール脱水用の反応器の連続操作のためのGHSVは、好適には、50〜50,000h−1、好ましくは1,000〜30,000h−1、より好ましくは2,000〜15,000h−1、最も好ましくは5,000〜8,000h−1の範囲内であってもよい。「ガス時空間速度」(GHSV、Gas hourly space velocity)は、標準温度(0℃)及び標準圧力(0.101325MPa)における、1時間当たり、触媒の単位体積当たりの供給ガスの体積として定義される。
【0037】
本発明は、さらに、エタノールの気相化学的脱水によりエテンを調製するための装置であって、
i)断熱反応器であって、断熱反応器の内部は、第1の反応ゾーン、少なくとも1つの中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを含む少なくとも3の反応ゾーンに分離される、断熱反応器と;
ii)予熱された反応物質ストリームを、第1の反応ゾーンの入口に供給するための手段と;
iii)第1の反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するための手段と;
iv)前記排出物ストリームを、後続の中間反応ゾーンの入口に供給するための手段と;
v)中間反応ゾーンの出口から排出物ストリームを抽出するための手段と;
vi)存在する場合には、任意の追加的な中間反応ゾーンに供給するための1又は2以上の手段、及び任意の追加的な反応ゾーンから排出物ストリームを抽出するための1又は2以上の手段と;
vii)最終反応ゾーンの入口に、先行する中間反応ゾーンからの排出物ストリームを供給するための手段と;
viii)最終反応ゾーンの出口から生成物ストリームを抽出するための手段と;
ix)後続の反応ゾーンに供給される前に、各排出物ストリームを再加熱するための1又は2以上の熱交換器であって、再加熱される2の排出物ストリーム毎に1の熱交換器のみが存在するように、単一の熱交換器が少なくとも2の排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される、1又は2以上の熱交換器と
を備える装置を提供する。
【0038】
本発明の装置による反応器は、少なくとも3の反応ゾーン、すなわち第1の反応ゾーン、少なくとも1の中間反応ゾーン及び最終反応ゾーンを備える。本発明は、反応器の周囲の配管及び機器のレイアウトがますます複雑化する、中間反応ゾーンの数が3又は4以上であるケースにおいて、特に効果的である。
【0039】
本発明の装置による断熱反応器は、単一の圧力容器を備えてもよく、その場合反応器の内部は、3又は4以上の反応ゾーンに分割される。反応器の内部を分割するための手段は、単純な邪魔板であっても良い。その場合、反応器は、1MPa未満、より好ましくは0.5MPa未満、最も好ましくは0.3MPa未満の、異なる反応ゾーン間の反応圧力の差を許容するように構成される。
【0040】
本発明による断熱反応器の反応ゾーンはそれぞれ、当技術分野において一般的に知られている断熱反応器、例えば固定床管状反応器又は半径流反応器(radial flow reactor)の内部機能を個々に有してもよい。
【0041】
単純な固定床管状反応器は、供給物を通過させる触媒の固定床で充填された管状通路を備える。固定床半径流反応器は、供給物が触媒の固定環状床を通って半径方向外側に流動するように構成される反応器を含む。
【0042】
本発明による装置の熱交換器は、当技術分野において一般に知られている任意の複数ストリーム熱交換器から選択され得る。好ましくは、本発明において使用される熱交換器は、シェルアンドチューブ熱交換器又はプレート/フレーム熱交換器である。熱交換器は、単相又は二相熱交換器であってもよい。
【0043】
1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つがシェルアンドチューブ熱交換器である本発明の一実施形態において、装置は、各シェルアンドチューブ熱交換器が2又は4の排出物ストリームを同時に、好ましくは2の排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される。
【0044】
1又は2以上の熱交換器の少なくとも1つがプレート/フレーム熱交換器である本発明の別の実施形態において、装置は、各プレート/フレーム熱交換器が少なくとも2の排出物ストリームを同時に、好ましくは少なくとも4の排出物ストリームを同時に再加熱するように構成される。
【0045】
本発明の装置の好ましい実施形態による熱交換器は、単一の熱交換器において再加熱されている2又は3以上の排出物ストリームと熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積の差が10%未満、好ましくは5%未満、より好ましくは2%未満であるように構成され得る。
【0046】
異なる実施形態において、単一の熱交換器において再加熱されている2又は3以上の排出物ストリームと熱交換器のそれぞれの加熱体との間の接触表面積は、同一であるように構成される。
【0047】
ここで、添付の図面において例示される本発明の実施形態を参照しながら、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0048】
図1】各反応器からの排出物ストリームが後続の反応器に供給される前に個々に加熱される、熱交換器等の複数の再加熱手段(02、04)を有する直列の複数の反応器(01、03、05)を備える、従来のシステムを示す図である。
図2】本発明による、2のストリームの再加熱に単一の熱交換器を共用する、直列の3の反応ゾーンを備える単純化された反応器システムを示す図である。
図3】本発明による、それぞれが2のストリームを再加熱する2の熱交換器を有する、直列の5の反応ゾーンを備える単純化された反応器システムの異なる実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
図2に示される本発明の実施形態は、図1に示される同等の従来の複数反応器及び熱交換器システムと比較して、単純化された反応器システムを示す。具体的には、図2による本発明の実施形態において、断熱反応器(10)は、その内部において、それぞれが固定床脱水触媒(それぞれ11a、12a、及び13a)を含有する第1の反応ゾーン(11)、中間反応ゾーン(12)、及び最終反応ゾーン(13)に分離されている。
【0050】
予熱された反応物質ストリーム(1)は、第1の反応ゾーン(11)の入口に供給され、第1の脱水触媒(11a)と接触する。排出物ストリーム(2a)は、第1の反応ゾーン(11)の出口から抽出されて熱交換器(5)に供給され、同熱交換器内において、排出物ストリーム(2a)は、熱輸送ストリーム(5a)との熱交換により再加熱される。再加熱されたストリーム(2b)は、中間反応ゾーン(12)の入口に供給され、再加熱されたストリームは、中間脱水触媒(12a)と接触する。排出物ストリーム(3a)は、中間反応ゾーン(12)の出口から抽出され、同じ上記熱交換器(5)に供給され、排出物ストリーム(3a)は、熱輸送ストリーム(5a)との熱交換により再加熱される。再加熱されたストリーム(3b)は、最終反応ゾーン(13)の入口に供給され、再加熱されたストリームは、最終脱水触媒(13a)と接触する。次いで、排出生成物ストリーム(4)は、最終反応ゾーン(13)の出口から抽出される。
【0051】
本発明はまた、より大型の反応器システムの構成を単純化するのに特に効果的である。これは、図3に示される本発明の実施形態において示され、断熱反応器(20)は、内部で、それぞれが固定層脱水触媒(それぞれ21a、22a、23a、24a、及び25a)を含有する第1の反応ゾーン(21)、3つの中間反応ゾーン(22、23、及び24)、並びに最終反応ゾーン(25)に分離されている。
【0052】
予熱された反応物質ストリーム(31)は、第1の反応ゾーン(21)の入口に供給され、脱水触媒(21a)と接触する。排出物ストリーム(32a)は、第1の反応ゾーン(21)の出口から抽出されて第1の熱交換器(210)に供給され、排出物ストリーム(32a)は、熱輸送ストリーム(210a)との熱交換により再加熱される。再加熱されたストリーム(32b)は、第1の中間反応ゾーン(22)の入口に供給され、同ゾーン内において、再加熱されたストリームは、脱水触媒(22a)と接触する。排出物ストリーム(33a)は、第1の中間反応ゾーン(22)の出口から抽出され、同じ上記第1の熱交換器(210)に供給され、同熱交換機内において、排出物ストリーム(33a)は、熱輸送ストリーム(210a)との熱交換により再加熱される。
【0053】
再加熱されたストリーム(33b)は、第2の中間反応ゾーン(23)の入口に供給され、再加熱されたストリームは、脱水触媒(23a)と接触する。排出物ストリーム(34a)は、第2の中間反応ゾーン(23)の出口から抽出され、第2の熱交換器(211)に供給され、同熱交換器内において、排出物ストリーム(34a)は、熱輸送ストリーム(211a)との熱交換により再加熱される。再加熱されたストリーム(34b)は、第3の中間反応ゾーン(24)の入口に供給され、当該ゾーン内において、再加熱されたストリームは、脱水触媒(24a)と接触する。排出物ストリーム(35a)は、第3の中間反応ゾーン(24)の出口から抽出され、同じ上記第2の熱交換器(211)に供給され、排出物ストリーム(35a)は、熱輸送ストリーム(211a)との熱交換により再加熱される。再加熱されたストリーム(35b)は、最終反応ゾーン(25)の入口に供給され、同ゾーン内において、再加熱されたストリームは、最終脱水触媒(25a)と接触する。次いで、排出生成物ストリーム(36)は、最終反応ゾーン(25)の出口から抽出される。
【0054】
5つの反応器を備える従来のシステムは、中間ストリームを再加熱するために、反応器間に4つの熱交換器を必要とする。そのような大型システムのレイアウト及び配管構成は、構造的に扱いにくく、組立て及び保守が高コストとなり、そのためこのサイズのシステムの使用及び複雑性が経済的に実現可能とならない可能性がある。本発明は、反応器システムに必要とされる圧力容器の数を低減するための手段を提供し、これによってシステムのレイアウトが単純化され、建築及び保守操作の困難及びコストが低減される。
図1
図2
図3