特許第6691924号(P6691924)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6691924導電性多孔シート、固体高分子形燃料電池、及び導電性多孔シートの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6691924
(24)【登録日】2020年4月15日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】導電性多孔シート、固体高分子形燃料電池、及び導電性多孔シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 5/02 20060101AFI20200427BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20200427BHJP
   H01M 4/96 20060101ALI20200427BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20200427BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20200427BHJP
   D04H 3/002 20120101ALI20200427BHJP
【FI】
   H01B5/02 Z
   H01B13/00 501Z
   H01M4/96 M
   H01M4/88 C
   H01M8/10 101
   D04H3/002
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2017-550347(P2017-550347)
(86)(22)【出願日】2016年11月9日
(86)【国際出願番号】JP2016083179
(87)【国際公開番号】WO2017082276
(87)【国際公開日】20170518
【審査請求日】2019年8月26日
(31)【優先権主張番号】特願2015-219964(P2015-219964)
(32)【優先日】2015年11月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229542
【氏名又は名称】日本バイリーン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090251
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 達規
(72)【発明者】
【氏名】針谷 佳織
(72)【発明者】
【氏名】多羅尾 隆
【審査官】 土谷 慎吾
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/087470(WO,A1)
【文献】 特開2007−184224(JP,A)
【文献】 特開2012−099363(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098530(WO,A1)
【文献】 国際公開第2004/085728(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/070893(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 5/00−5/16
H01B 13/00
D04H 1/00−18/04
H01M 4/86−4/98
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維を主体とし、炭素繊維同士が交差点で接合した導電性多孔シートであり、前記導電性多孔シートが三点曲げ試験において破断しないことを特徴とする、導電性多孔シート。
【請求項2】
炭素繊維が湾曲していることを特徴とする、請求項1記載の導電性多孔シート。
【請求項3】
破断強度が0.30MPa以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の導電性多孔シート。
【請求項4】
電極用基材として用いる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の導電性多孔シート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の導電性多孔シートを、ガス拡散電極用基材として備えていることを特徴とする、固体高分子形燃料電池。
【請求項6】
第1炭化可能有機材料と、第1炭化可能有機材料とは異なる有機材料からなる第2炭化可能有機材料とを含む前駆繊維を形成する工程、
前記前駆繊維の交差点を第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合して、前駆繊維を主体とする前駆繊維シートを形成する工程、
前記前駆繊維シートを構成する前駆繊維を、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維とする工程、
を備えている、三点曲げ試験で破断しない導電性多孔シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、導電性多孔シート、固体高分子形燃料電池、及び導電性多孔シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から導電性多孔シートはその導電性と多孔性を利用して、燃料電池用のガス拡散電極用基材として、また、電気二重層キャパシタの電極として、或いは、リチウムイオン二次電池の電極としての使用が検討されている。
【0003】
このような導電性多孔シートとして、炭素繊維と抄造用バインダとを混合した繊維ウエブを抄造し、前記繊維ウエブにフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸し、硬化させた後に、1000℃以上の温度で焼成することにより製造した、炭素繊維シートが知られている。この炭素繊維シートは導電性の優れるものであったが、繊維間をフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を用いて接着しているため、表面積の小さいものであった。
【0004】
このような問題点を解決できる導電性多孔体として、本願出願人は、「第1導電性材料と第1導電性材料間を繋ぐ第2導電性材料とを有する繊維状物が集合した導電性多孔体であり、前記導電性多孔体は比表面積が100m/g以上、かつ2MPa加圧後における厚さの維持率が60%以上であることを特徴とする、導電性多孔体」(特許文献1)を提案した。この導電性多孔体は比表面積の広いものであったが、少しの曲げで破断するなど柔軟性に劣り、ハンドリング性に劣るものであった。
【0005】
このようなハンドリング性を改善した炭素繊維不織布として、「電界紡糸可能な高分子物質と、この高分子物質とは異なる有機化合物と、遷移金属とを含む組成物を電界紡糸して得られた不織布を炭素化してなることを特徴とするフレキシブル炭素繊維不織布。」(特許文献2)が提案されている。この炭素繊維不織布は確かにフレキシブルであったが、機械的強度が劣り、しかも導電性に劣るものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/146984号
【特許文献2】国際公開第2011/070893号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明はこのような状況下においてなされたものであり、柔軟性に優れるためハンドリング性に優れるとともに、機械的強度及び導電性の優れる導電性多孔シート、及びその製造方法を提供することを目的とする。また、この導電性多孔シートを用いた固体高分子形燃料電池を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
[1]炭素繊維を主体とし、炭素繊維同士が交差点で接合した導電性多孔シートであり、前記導電性多孔シートが三点曲げ試験において破断しないことを特徴とする、導電性多孔シート、
[2]炭素繊維が湾曲していることを特徴とする、[1]の導電性多孔シート、
[3]破断強度が0.30MPa以上であることを特徴とする、[1]又は[2]の導電性多孔シート、
[4]電極用基材として用いる、[1]〜[3]のいずれかの導電性多孔シート、
[5][1]〜[4]のいずれかの導電性多孔シートを、ガス拡散電極用基材として備えていることを特徴とする、固体高分子形燃料電池、
[6]第1炭化可能有機材料と、第1炭化可能有機材料とは異なる有機材料からなる第2炭化可能有機材料とを含む前駆繊維を形成する工程、前記前駆繊維の交差点を第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合して、前駆繊維を主体とする前駆繊維シートを形成する工程、前記前駆繊維シートを構成する前駆繊維を、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維とする工程、を備えている、三点曲げ試験で破断しない導電性多孔シートの製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の[1]の導電性多孔シートは、三点曲げ試験においても破断しない柔軟性を有するため、ハンドリング性に優れている。また、炭素繊維同士の交差点で接合しているため、機械的強度が優れているばかりでなく、導電性にも優れている。
【0010】
本発明の[2]の導電性多孔シートは、炭素繊維が湾曲しているため、導電性多孔シートを曲げた場合に、炭素繊維の湾曲部が引き伸ばされるため柔軟性に優れており、また、炭素繊維の湾曲部が引き伸ばされるだけで炭素繊維同士が接合した交差点が破壊されにくいため、曲げた際に破断しにくいものである。
【0011】
本発明の[3]の導電性多孔シートは、破断強度が0.30MPa以上の機械的強度の優れるものである。
【0012】
本発明の[4]の導電性多孔シートは、柔軟性、機械的強度及び導電性に優れているため、電極用基材として用いると、優れた電極性能を発揮できる。
【0013】
本発明の[5]の固体高分子形燃料電池は、前記導電性多孔シートをガス拡散電極用基材として備えている。前記導電性多孔シートは導電性、機械的強度に優れ、更に、曲げても破断しにくい柔軟性に優れたものであり、固体高分子膜の膨潤と収縮によって引き伸ばされたとしても破損しにくいため、安定して発電性能を発揮できる。
【0014】
本発明の[6]の導電性多孔シートの製造方法は、前駆繊維同士の交差点を接合した後に、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維としているため、柔軟性、機械的強度、及び導電性の優れる導電性多孔シートを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例1の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図2】実施例2の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図3】実施例3の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図4】実施例4の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図5】比較例1の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図6】比較例2の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図7】比較例3の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図8】比較例4の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図9】比較例5の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図10】比較例6の導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)
図11】炭素繊維の交差点で接合した状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)
図12】炭素繊維の交差点が接合していない状態を示す電子顕微鏡写真(50000倍)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の導電性多孔シートは炭素繊維を主体とし、炭素繊維同士の交差点で接合しているため、機械的強度が優れているとともに、導電性に優れている。また、三点曲げ試験において破断しない柔軟性を有するため、ハンドリング性に優れている。
【0017】
本発明で用いる炭素繊維は、例えば、PAN系炭素繊維であることができる。また、炭素繊維は導電性材料を含んでいることができる。このように導電性材料を含んでいると、より導電性、機械的強度が優れているため好適である。このような導電性材料は、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属(例えば、金、白金、チタン、ニッケル、アルミ、銀、亜鉛、鉄、銅、マンガン、コバルト、ステンレスなど)、前記金属の金属酸化物の群の中から選ばれる1種類、又は2種類以上から構成することができる。これらの中でも、カーボンナノチューブは導電性に優れ、しかも炭素繊維中において長さ方向に配向しやすく、導電性、機械的強度を高めることができるため好適である。更に、炭化する際における、カーボンナノチューブの存在する部分における収縮率と、カーボンナノチューブの存在しない部分における収縮率との間に差が生じ、湾曲した炭素繊維となりやすく、このような湾曲した炭素繊維は曲げた場合に湾曲した部分が伸びやすく、柔軟性に優れていることからも、カーボンナノチューブを含んでいるのが好ましい。なお、好適であるカーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであっても、多層カーボンナノチューブであっても、コイル状となったものであっても良い。
【0018】
この好適である導電性材料の大きさは特に限定するものではないが、導電性材料が粒子形状の場合、炭素繊維を形成しやすいように、平均粒径は5nm〜50μmであるのが好ましく、20nm〜25μmであるのがより好ましく、30nm〜10μmであるのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。この「平均粒径」は、基本的に、動的光散乱法による粒度分布計から求めた粒子の数平均粒子径を表すが、例えば、カーボンブラックなどのアグリゲートもしくはストラクチャーと呼ばれる状態を形成した粒子などの、上記動的光散乱法による測定が難しい場合には、粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、電子顕微鏡写真に写っている50個の粒子の直径の算術平均値を平均粒径とする。この場合、粒子の形状が写真上、非円形である場合には、写真上における、粒子の面積と同じ面積を有する円の直径を、粒子の直径とみなす。
【0019】
また、導電性材料が繊維形状をしている場合、繊維径は10nm〜5000nmであるのが好ましく、10nm〜1000nmであるのがより好ましく、10nm〜500nmであるのが更に好ましく、10nm〜250nmであるのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。なお、繊維長は炭素繊維中で分散しやすいように、アスペクト比が1000以下となる繊維長であるのが好ましく、500以下となる繊維長であるのがより好ましい。
【0020】
このように炭素繊維が導電性材料を含んでいる場合、導電性材料の量は特に限定するものではないが、導電性、機械的強度及び柔軟性に優れているように、炭素繊維中、1mass%以上含まれているのが好ましく、5mass%以上含まれているのがより好ましく、10mass%以上含まれているのが更に好ましい。一方で、柔軟性が低くなる傾向があるため、80mass%以下含まれているのが好ましく、50mass%以下含まれているのがより好ましく、40mass%以下含まれているのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0021】
本発明の炭素繊維は導電性材料を含んでいるか、含んでいないかに関わらず、湾曲しているのが好ましい。炭素繊維が湾曲していると、炭素繊維同士が交差点で接合していたとしても、導電性多孔シートを曲げた場合に、炭素繊維の湾曲部が引き伸ばされるため柔軟性に優れており、また、炭素繊維の湾曲部が引き伸ばされるだけで炭素繊維同士が接合した交差点が破壊されにくいため、曲げた際に破断しにくいためである。
【0022】
本発明の炭素繊維は繊維内部に空隙のない状態にあると、機械的強度及び導電性に優れているため好適である。この「繊維内部に空隙がない」とは、導電性多孔シートの厚さ方向における切断面において、輪郭が連続しており、横断面形状が明確な炭素繊維の横断面全体が1〜3本納まる視野での炭素繊維の観察を10箇所で実施し、空隙が観察されない炭素繊維の本数が70%以上であることを意味する。なお、炭素繊維が前述のような導電性材料を含んでおり、導電性多孔シートを厚さ方向に切断した時に、導電性材料が脱落して形成されたことが明らかな空隙は、上記空隙に含まない。また、導電性材料自体が多孔で空隙を含んでいたとしても、導電性材料は不連続で、炭素繊維の機械的強度等へ与える影響が小さいため、炭素繊維が空隙を含む導電性材料を含んでいても、繊維内部に空隙がないとみなす。なお、炭素繊維は導電性多孔シートを主体として構成する炭素繊維が「繊維内部に空隙がない」のが好ましく、つまり、交差点で接合した炭素繊維が「繊維内部に空隙がない」のが好ましく、接合していない炭素繊維は、導電性多孔シートの機械的強度等へ与える影響が小さいため、繊維内部に空隙があっても、なくても良い。
【0023】
本発明の炭素繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、50μm以下であるのが好ましく、30μm以下であるのがより好ましく、20μm以下であるのが更に好ましい。平均繊維径が50μmを上回ると、導電性多孔シートにおける炭素繊維同士の接触点数が少なく、導電性多孔シートの機械的強度、導電性に劣る傾向があるためである。なお、炭素繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.1μm以上であるのが現実的である。なお、前記の下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0024】
本発明における「平均繊維径」は、炭素繊維の40点における繊維径の算術平均値を意味し、「繊維径」は、炭素繊維を顕微鏡写真で観察した際の長さ方向に直交する幅である。
【0025】
なお、炭素繊維は導電性に優れているように、連続しているのが好ましい。このような連続した炭素繊維は、例えば、炭化可能な有機材料を含む紡糸液を用いて、静電紡糸法又はスパンボンド法により連続した前駆繊維を紡糸した後に、前記炭化可能な有機材料を炭化して製造することができる。
【0026】
本発明の導電性多孔シートは炭素繊維を主体としているが、2種類以上の炭素繊維から構成することができる。例えば、導電性材料の有無、導電性材料の相違(種類、形状、大きさ、長さなど)、導電性材料の含有量の相違、炭素繊維内部の空隙の有無、平均繊維径、繊維長など、少なくとも1点で相違する2種類以上の炭素繊維から構成することができる。
【0027】
本発明の導電性多孔シートは上述のような炭素繊維を主体としているため、導電性に優れている。本発明における「主体」とは、導電性多孔シートの50mass%以上を炭素繊維が占めることを意味するが、炭素繊維の占める割合が高い程、導電性に優れているため、炭素繊維は導電性多孔シートの70mass%以上を占めているのが好ましく、90mass%以上を占めているのがより好ましく、100mass%炭素繊維からなるのが最も好ましい。
【0028】
なお、炭素繊維以外に導電性多孔シートを構成できる材料としては、例えば、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラック、金属や金属酸化物などの微粒子;レーヨン、ポリノジック、キュプラなどの再生繊維、アセテート繊維などの半合成繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、フッ素繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィン繊維又はポリウレタン繊維などの合成繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの無機繊維、綿、麻などの植物繊維、羊毛、絹などの動物繊維;活性炭粉体(例えば、水蒸気賦活炭、アルカリ処理活性炭、酸処理活性炭など)、無機粒子(例えば、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化銅、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化亜鉛、チタン含有酸化物、ゼオライト、触媒担持セラミックス、シリカなど)、イオン交換樹脂粉体、植物の種子などの非導電性材料;を挙げることができる。
【0029】
本発明の導電性多孔シートは炭素繊維同士が交差点で接合しているため、機械的強度、導電性に優れている。なお、炭素繊維同士の接合は炭素繊維同士の密着性に優れ、導電性に優れているように、有機材料の炭化物によって接合しているのが好ましい。例えば、炭化可能な有機材料を2種類以上含む有機繊維を用い、この有機繊維同士を1種類以上の炭化可能な有機材料によって接合した後に炭化させることによって、炭素繊維同士が交差点で接合した導電性多孔シートとすることができる。
【0030】
このような炭素繊維同士が交差点で接合した状態は、電子顕微鏡写真で確認することができる。例えば、図11は導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(50000倍)であるが、炭素繊維同士の交差点に水掻き状の膜を観察できることから、炭素繊維同士が接合していることを確認できる。一方で、図12は導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(50000倍)であるが、炭素繊維同士の交差点に水掻き状の膜を観察できないことから、炭素繊維同士が接合していないことを確認できる。
【0031】
本発明の導電性多孔シートは炭素繊維を主体としている限り、一層構造を有するものであっても、二層以上の多層構造を有するものであっても良いし、炭素繊維の含有比率が徐々に変化していても良い。例えば、繊維径の異なる炭素繊維からなる層を二層以上有する多層構造であっても良い。
【0032】
また、導電性多孔シートの主面において、炭素繊維の存在比率が異なっていても良い。例えば、導電性多孔シートの主面において、繊維径の細い炭素繊維を主体とする領域と繊維径の太い炭素繊維を主体とする領域とを有し、いずれかの領域が点状、直線状及び/又は曲線状(円状など)に有することができる。更に、導電性多孔シートの主面において、炭素繊維の存在比率が徐々に変化していても良い。
【0033】
本発明の導電性多孔シートの形態は特に限定するものではないが、例えば、繊維がランダムに配向した不織布形態、繊維が規則正しく配向した織物又は編物形態であることができる。特に、不織布形態であると、炭素繊維同士の交差点が多く、導電性に優れ、また空隙が微細で、高空隙率であるため好適であり、不織布形態のみからなるのが好ましい。
【0034】
本発明の導電性多孔シートは上述のような炭素繊維を主体としているが、三点曲げ試験において破断しない柔軟性を有する、ハンドリング性に優れるものである。本発明における「三点曲げ試験」は、荷重−変位測定ユニット(株式会社イマダ製、FSA−1KE−5N+GA−10N)を用い、次の手順により行なう。
(1)導電性多孔シートを裁断し、50mm(導電性多孔シートの製造時の流れ方向)×10mm[幅方向(流れ方向と直交する方向)]の試験片(流れ方向試験片)を5枚と、50mm[幅方向]×10mm(導電性多孔シートの製造時の流れ方向)の試験片(幅方向試験片)を5枚採取する。
(2)先端が2±0.2mmの丸みを有する金属製棒状支点の間の距離が16mmとなるように、支点を配置する。
(3)支点間を跨ぐように、試験片を配置する。
(4)試験片の支点間の中央部(一方の支点から8mmの地点)に対して、先端が5±0.1mmの丸みを有する棒状の金属製加圧くさびを、速度1mm/min.で、試験片の上方から前記支点間へ、試験片の上面又は下面の初期位置と折れた位置との距離が4mmとなるまで押し込む。この時、押し込み長さと応力とを逐次測定し、応力が急激に降下した場合、この時の押し込み長さを曲げたわみ量(mm)とする。なお、4mmとなるまで押し込んでも、応力が急激に降下しなかった場合、曲げたわみ量は4mm超と判断する。(5)前記曲げたわみ量の測定を、流れ方向試験片5枚と幅方向試験片5枚のそれぞれについて行い、流れ方向試験片5枚のうち、最大値を示す曲げたわみ量と最小値を示す曲げたわみ量を除いた3枚の流れ方向試験片3枚の算術平均値と、幅方向試験片5枚のうち、最大値を示す曲げたわみ量と最小値を示す曲げたわみ量を除いた3枚の幅方向試験片3枚の算術平均値をそれぞれ算出する。その結果、曲げたわみ量の算術平均値のより大きい値を「曲げたわみ量」として採用する。
(6)前記曲げたわみ量が4mm超である場合、その試験片の導電性多孔シートを「破断しない」と判断する。
【0035】
本発明の導電性多孔シートの目付は特に限定するものではないが、機械的強度、導電性に優れているように、目付は0.5〜500g/mであるのが好ましく、1〜400g/mであるのがより好ましく、5〜300g/mであるのが更に好ましく、5〜200g/mであるのが更に好ましい。また、厚さも特に限定するものではないが、1〜2000μmであるのが好ましく、3〜1000μmであるのがより好ましく、5〜500μmであるのが更に好ましく、10〜300μmが更に好ましい。なお、前記目付と厚さにおける、各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。本発明における「目付」は、導電性多孔シートを10cm角に切断して得た試料の質量を測定し、1mの大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」は、シックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−401:測定力3.5N以下)を用いて測定した値をいう。
【0036】
本発明の導電性多孔シートは導電性に優れるものであるが、その程度は電気抵抗が20mΩ・cm以下であるのが好ましく、15mΩ・cm以下であるのがより好ましく、10mΩ・cm以下であるのが更に好ましく、8mΩ・cm以下であるのが更に好ましく、6mΩ・cm以下であるのが更に好ましい。この「電気抵抗」は、5cm角に切断した導電性多孔シート(25cm)を、両面側から金メッキを施した金属プレートで挟み、金属プレートの積層方向に、2MPaで加圧下、1Aの電流(I)を印加した状態で、電圧(V)を計測する。続いて、抵抗(R=V/I)を算出し、更に、導電性多孔シートの面積(25cm)を乗じることによって得られる値である。
【0037】
また、本発明の導電性多孔シートは機械的強度の優れるものであるが、その程度は破断強度が0.30MPa以上であるのが好ましく、0.40MPa以上であるのがより好ましく、0.50MPa以上であるのが更に好ましく、0.60MPa以上であるのが更に好ましい。この破断強度は破断荷重を導電性多孔シートの断面積で除した商であり、破断荷重は次の条件で測定した値であり、断面積は測定時の導電性多孔シート(試験片)の幅と厚さの積から得られる値である。なお、流れ方向試験片10枚と幅方向試験片10枚について破断荷重の測定を行ない、20枚の試験片の算術平均値を破断荷重とする。
【0038】
試験片:50mm(試験片の製造時の流れ方向)×5mm[幅方向(流れ方向と直交する方向)]の試験片(流れ方向試験片)10枚、50mm[幅方向]×5mm(試験片の製造時の流れ方向)の試験片(幅方向試験片)10枚
製品名:小型引張試験機(型式:TSM−41−cre、サーチ株式会社製)
チャック間間隔:20mm
引張速度:20mm/min.
【0039】
本発明の導電性多孔シートは炭素繊維を主体としているが、比見掛ヤング率が100[MPa/(g/cm)]以上であるのが好ましい。この比見掛ヤング率が高いということは剛性が高いことを意味し、剛性の高い導電性多孔シートであることによって、寸法安定性に優れており、また、単独で取扱いやすく、ロール形状に巻き取って保管又は輸送できるという利点がある。例えば、このような比見掛ヤング率の高い導電性多孔シートを固体高分子形燃料電池の電極用基材として使用すると、固体高分子膜の膨潤及び収縮を抑制することができるため、固体高分子膜の膨潤及び収縮による亀裂を防止することができる。
【0040】
この比見掛ヤング率は後述の測定方法から理解できるように、導電性多孔シートの剛性の指標である見掛ヤング率を、導電性多孔シートの見掛密度で除して得られる値である。つまり、同じ見掛ヤング率であっても、見掛密度が高い場合と低い場合とでは、見掛密度が低い方が炭素繊維の量が少ないにも関わらず、同じ見掛ヤング率であるということは、それだけ1本1本の炭素繊維の剛性が高いことを意味しているため、導電性多孔シートの見掛ヤング率を見掛密度で除した値である比見掛ヤング率で表現している。この比見掛ヤング率が高い程、個々の炭素繊維の剛性が高いため、200[MPa/(g/cm)]以上であるのがより好ましく、300[MPa/(g/cm)]以上であるのが更に好ましく、400[MPa/(g/cm)]以上であるのが更に好ましく、500[MPa/(g/cm)]以上であるのが更に好ましく、550[MPa/(g/cm)]以上であるのが更に好ましく、600[MPa/(g/cm)]以上であるのが更に好ましい。一方で、比見掛ヤング率が高すぎると、炭素繊維の剛性が高すぎて、固体高分子膜を損傷するなど、悪影響を及ぼす場合があるため、2000[MPa/(g/cm)]以下であるのが好ましい。なお、前記の各下限と上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0041】
この「比見掛ヤング率」は、次の手順により得られる値である。
(1)評価対象の導電性多孔シートの目付(g/cm)を厚さ(cm)で除して、見掛密度(g/cm)を算出する。
(2)導電性多孔シートを、導電性多孔シートの製造時の流れ方向に50mmで、幅方向(流れ方向と直交する方向)]に5mmの長方形状に裁断したたて方向試験片10枚、及び幅方向に50mmで、流れ方向に5mmの長方形状に裁断したよこ方向試験片10枚を、それぞれ採取する。
(3)前記各試験片の引張りせん断試験を、小型引張試験機(サーチ社製、TSM−41−cre)を用い、チャック間距離20mm、引張り速度20mm/min.の条件で実施し、各々荷重−伸び曲線を描く。
(4)前記各々の荷重−伸び曲線における原点近くで伸長変化に対する荷重変化の最大点(接線角の最大点)における荷重(N)を、引張りせん断試験をする前の試験片の断面積[厚さ(T)×5](単位:mm)で除して、引張り応力(MPa)を算出する。
(5)前記引張り応力を、最大点におけるひずみ(無次元)[試験片の伸び長さ(mm)÷初期試験片長さ(mm)]で除することで、見掛けヤング率を各々求める。
(6)20枚の試験片の見掛けヤング率の算術平均値を算出し、「平均見掛けヤング率」とする。
(7)前記平均見掛けヤング率を前記見掛密度で除して、「比見掛ヤング率」を算出する。
【0042】
また、本発明の導電性多孔シートを固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として使用し、ガス拡散層を形成した場合のように、表面平滑性が低いと、導電性多孔シートと当接する他の材料(固体高分子形燃料電池の場合には、固体高分子膜)に導電性多孔シートが突き刺さり、他の材料を損傷させる可能性があり、また、他の材料(固体高分子形燃料電池の場合には、固体高分子膜及び/又はセパレータ)と導電性多孔シートとの間に隙間が生じて密着性が悪くなり、十分な性能(固体高分子形燃料電池の場合には、発電性能)を発揮しにくい傾向がある。そのため、他の材料を損傷しにくいように、また、十分な性能を発揮しやすいように、導電性多孔シートの表面は平滑であるのが好ましい。具体的には、導電性多孔シートの主面における「平均算術平均表面粗さ」は0.01μm〜20μmであるのが好ましく、0.1μm〜10μmであるのがより好ましく、0.1μm〜5μmであるのが更に好ましく、0.1〜4μmであるのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。この「平均算術平均表面粗さ」は、導電性多孔シートを5cm角に裁断して試料を用意し、ISO25178に準拠した粗さ(3次元)パラメーターを測定可能なレーザー顕微鏡(オリンパス製、OLS4100)を用いて、試料における5箇所の評価領域(260μm×260μm)について、それぞれ算術平均表面粗さ(Sa)を測定した後、各算術平均表面粗さ(Sa)の値を更に平均した値を意味する。
【0043】
更に、本発明の導電性多孔シートは空隙を有効に活用できるように、空隙率が50%以上であるのが好ましい。このような空隙率の導電性多孔シートを、例えば、固体高分子形燃料電池の電極基材として使用すると、排水性およびガス拡散性に優れ、発電性能の高い燃料電池を作製することができる。空隙率が高い方が、空隙がより多く、空隙をより有効に活用できるため、空隙率は60%以上であるのがより好ましく、70%以上であるのが更に好ましく、80%以上であるのが更に好ましく、90%以上であるのが更に好ましい。一方で、99%を超えると、導電性多孔シートの形態安定性が極端に低下する傾向があるため、99%以下であるのが好ましい。なお、前記の各下限と上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0044】
この空隙率P(単位:%)は、次の式から得られる値をいう。
P=100−(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは導電性多孔シートを構成する成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn=[M×Prn/(T×SGn)]×100
ここで、Mは導電性多孔シートの単位あたりの質量(単位:g/cm)、Tは導電性多孔シートの厚さ(cm)、Prnは導電性多孔シートにおける成分n(例えば、炭素繊維)の存在質量比率、SGnは成分nの比重(単位:g/cm)をそれぞれ意味する。
【0045】
本発明の導電性多孔シートは機械的強度、導電性に優れているばかりでなく、柔軟でハンドリング性に優れるものであるため、電極用基材として好適に用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池又は電気二重層キャパシタの電極として用いた場合、容量の大きい二次電池又はキャパシタを作製できる。また、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として用いた場合、優れた発電性能を発揮できる固体高分子形燃料電池を作製できる。
【0046】
このように固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として、本発明の導電性多孔シートを備えている場合、本発明の導電性多孔シートは多孔性であるため、炭素繊維間の空隙に何も充填されていなければ、ガス拡散電極用基材(導電性多孔シート)の厚さ方向及び面方向への排水性に優れているとともに、供給したガスの拡散性に優れている。
【0047】
なお、ガス拡散電極用基材(導電性多孔シート)の炭素繊維間の空隙に、フッ素系樹脂及び/又はカーボンを含んでいると、前者のフッ素系樹脂を含有していることによって、液水が押し出されやすいため、排水性に優れ、後者のカーボンを含有していることによって、導電性に優れている。
【0048】
このフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などを挙げることができる。
【0049】
また、カーボンとしては、例えば、炭素繊維、フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、グラファイト、グラフェン、気相成長カーボンファイバー、カーボンブラックなどを挙げることができる。
【0050】
本発明の固体高分子形燃料電池は、前述の導電性多孔シートをガス拡散電極用基材として備えていること以外は、従来の固体高分子形燃料電池と全く同様であることができる。つまり、上述のようなガス拡散電極用基材(導電性多孔シート)の表面に触媒が担持されたガス拡散電極と、固体高分子膜との接合体を、1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。
【0051】
このような本発明の導電性多孔シートは、例えば、第1炭化可能有機材料と、第1炭化可能有機材料とは異なる有機材料からなる第2炭化可能有機材料とを含む前駆繊維を形成する工程、前記前駆繊維の交差点を第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合して、前駆繊維を主体とする前駆繊維シートを形成する工程、前記前駆繊維シートを構成する前駆繊維を、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維とする工程、により、三点曲げ試験で破断しない導電性多孔シートを製造することができる。この製造方法によると、前駆繊維同士の交差点を接合した後に、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維としているため、柔軟性、機械的強度、及び導電性の優れる導電性多孔シートを製造することができる。
【0052】
より具体的には、まず、第1炭化可能有機材料と、第1炭化可能有機材料とは異なる有機材料からなる第2炭化可能有機材料とを用意する。この第1炭化可能有機材料、第2炭化可能有機材料としては特に限定するものではないが、例えば、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、キシレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリアミド樹脂などの熱硬化性樹脂;ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリル樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ピッチ、ポリアミノ酸樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂などの熱可塑性樹脂;セルロース(多糖類)、タール;又はこれら樹脂のモノマーを成分とする共重合体(例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン共重合体など)などを挙げることができる。
【0053】
これらの中でも、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂を含んでいるのが好ましい。熱硬化性樹脂を含んでいると、後述のように、第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料とを含む前駆繊維同士の交差点を熱硬化性樹脂によって接合し、炭化の際に、その接合状態を維持しやすいためである。特に、フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂は前記作用に加えて、炭化後の導電性にも優れているため好適である。
【0054】
また、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂とは炭化過程又は炭化率の異なる炭化可能有機材料を使用するのが好ましい。つまり、炭化過程が異なる第1又は第2炭化可能有機材料を含んでいることによって、紡糸性が改善されるだけでなく、炭化過程における化学変化機構(最適温度、時間、分解等)が異なり、収縮率や流動性等の差が生じることによって、炭化時に湾曲し、湾曲した炭素繊維を形成しやすいためである。例えば、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、フェノール樹脂及び/又はエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂と、第2炭化可能有機材料又は第1炭化可能有機材料として、ポリアクリロニトリル樹脂、ピッチなどの熱可塑性樹脂とを使用すると、炭化時における収縮率が異なることから、湾曲した炭素繊維を形成することができる。特に、ポリアクリロニトリル樹脂は炭化率が高く、繊維内部に空隙がない炭素繊維を形成しやすいことから、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として好適である。
【0055】
なお、炭素繊維の導電性、機械的強度に優れているように、また、湾曲した炭素繊維を形成しやすいように、導電性材料を用意するのが好ましい。この導電性材料としては前述のような導電性材料であることができ、カーボンナノチューブであるのが好ましい。つまり、炭化する際における、カーボンナノチューブの存在する部分における収縮率と、カーボンナノチューブの存在しない部分における収縮率との間に差が生じ、湾曲した炭素繊維となりやすく、このような湾曲した炭素繊維は曲げても湾曲した部分が伸びやすいため、柔軟性に優れている。
【0056】
また、前述のような第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料に加えて、ポリジメチルシロキサンなどのシリコーンや、金属アルコキシド(ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、ホウ素、スズ、亜鉛などのメトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシドなど)が重合した無機ポリマーなど、公知の無機系化合物が重合してなるポリマーを併用することもできる。
【0057】
前述のような材料を準備した後、前駆繊維を形成するために、前述のような第1炭化可能有機材料及び第2炭化可能有機材料を含む紡糸液を調製する。好ましくは、導電性材料も含む紡糸液を調製する。場合によっては、シリコーンや無機ポリマーも含む紡糸液を調製する。
【0058】
紡糸液を構成する溶媒は、第1炭化可能有機材料及び第2炭化可能有機材料が溶解可能な溶媒であれば良く、特に限定するものではないが、例えば、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、1,4−ジオキサン、ピリジン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ギ酸、トルエン、ベンゼン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、四塩化炭素、塩化メチレン、クロロホルム、トリクロロエタン、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート、水等を挙げることができ、これらの溶媒の単独溶媒、又は混合溶媒であることができる。なお、紡糸性に問題がない範囲で、貧溶媒を添加することもできる。
【0059】
なお、紡糸液における固形分濃度は特に限定するものではないが、1〜50mass%であるのが好ましく、5〜30mass%であるのがより好ましい。1mass%を下回ると、生産性が極端に低下し、50mass%を上回ると、紡糸が不安定になる傾向があるためである。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0060】
また、紡糸液における第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料との固形分質量比は、第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料の組合せによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、第1炭化可能有機材料がポリアクリロニトリル樹脂のような炭化率の高い有機材料からなり、第2炭化可能有機材料がエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂からなる場合には、第1炭化可能有機材料による導電性に優れ、しかも第2炭化可能有機材料による接合による機械的強度、導電性、及び湾曲することによる柔軟性に優れているように、第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料との固形分比は40〜90:60〜10であるのが好ましく、50〜80:50〜20であるのがより好ましく、50〜70:50〜30であるのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0061】
なお、第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料に加えて、好適である導電性材料を含んでいる場合には、導電性に優れているように、第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料の固形分の総質量100に対して、1〜90の質量の導電性材料を含ませるのが好ましく、5〜50の質量の導電性材料を含ませるのがより好ましく、10〜40の質量の導電性材料を含ませるのが更に好ましい。なお、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0062】
次いで、上述のような第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料とを含む紡糸液を紡糸して前駆繊維を形成する。この前駆繊維を形成する方法として、例えば、乾式紡糸法、静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に対して、1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法、を挙げることができる。これらの中でも、静電紡糸法、又は特開2009−287138号公報に開示された紡糸方法によれば、平均繊維径が3μm以下の繊維径の小さい前駆繊維を紡糸しやすいため好適である。また、乾式紡糸法又は静電紡糸法によれば、連続した前駆繊維を紡糸できるため好適である。特に、静電紡糸法によれば、繊維径が小さいことに加えて、連続した繊維長を有する前駆繊維を紡糸できるため好適である。なお、前述のような方法により紡糸した前駆繊維を直接、捕集体で捕集することによって、シート状に集積した前駆繊維を形成することができる。
【0063】
なお、本発明における「前駆繊維」とは、第1炭化可能有機材料、第2炭化可能有機材料のいずれもが炭化していない状態の繊維を意味し、第1炭化可能有機材料、第2炭化可能有機材料のいずれもが炭化して炭素繊維を構成するため、炭素繊維の素となる繊維という意味で、前駆繊維と表現している。
【0064】
このように前駆繊維を形成した後に、前駆繊維の交差点を第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合して、前駆繊維を主体とする前駆繊維シートを形成する。そのため、まず、前駆繊維が集合したシートを形成する。この前駆繊維が集合したシートは、例えば、紡糸した前駆繊維を直接、捕集体で捕集することによって形成することができるし、紡糸した前駆繊維を連続繊維として巻き取り、次いで所望繊維長に切断して短繊維とした後、カード法、エアレイ法などの乾式法、又は湿式法により形成することができるし、連続した前駆繊維を用いて、常法により織ったり、編んだりして形成することもできる。これらの中でも、紡糸した前駆繊維を直接、捕集体で捕集する方法は、連続した繊維長を有する前駆繊維であることができ、生産性にも優れているため好適である。
【0065】
このような前駆繊維が集合したシートを構成する前駆繊維同士の交差点を、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合する。この接合方法は特に限定するものではないが、例えば、前述のように、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂を含んでいる場合は、熱硬化性樹脂が硬化するように、熱硬化性樹脂が熱硬化する温度で熱処理を実施して接合することができる。この熱処理温度、時間等の熱硬化条件は、熱硬化性樹脂によって異なるため、熱硬化性樹脂に応じて、適宜調整する。また、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料を溶解させることのできる溶媒を前駆繊維が集合したシートに付与し、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料を溶解させた後に、前記溶媒を乾燥除去することによって接合することができる。この溶媒の種類、溶媒付与量、溶媒温度、乾燥温度、乾燥時間等の可塑化接合条件は、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料によって異なるため、第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料に応じて、適宜調整する。
【0066】
なお、前駆繊維同士の交差点の接合を、バインダにより実施することも考えられるが、バインダを使用した場合、バインダが前駆繊維によって形成される空隙を埋めたり、バインダが前駆繊維同士の交差点周辺を必要以上に覆ってしまい、結果として得られる導電性多孔シートの空隙を十分に利用できなくなる場合があるため、前駆繊維を構成する第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料によって接合するのが好ましい。例えば、導電性多孔シートをガス拡散電極用基材として使用する場合、ガス又は液水の透過性が低下する傾向がある。
【0067】
なお、前駆繊維を主体とする前駆繊維シートは、上述のような方法により形成することができるが、前駆繊維以外の材料を含む場合には、前駆繊維を紡糸する際、前駆繊維の集合したシートを形成する際、或いは前駆繊維の集合したシートを形成した後に、前駆繊維以外の材料を付与することができる。例えば、カーボンナノチューブを、紡糸した前駆繊維の流れに対して噴霧することにより、カーボンナノチューブの混在する前駆繊維シートを形成することができる。
【0068】
そして、前駆繊維シートを構成する前駆繊維を、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維として、三点曲げ試験で破断しない導電性多孔シートを製造する。本発明においては、前駆繊維の交差点を接合した後に、その交差点で接合した状態のまま炭化して、湾曲した炭素繊維としているため、柔軟性、機械的強度、及び導電性の優れる導電性多孔シートを製造することができる。つまり、前駆繊維は第1炭化可能有機材料と第2炭化可能有機材料を含んでおり、炭化する際の収縮率が異なるため、湾曲した炭素繊維となる。
【0069】
この炭化は第1炭化可能有機材料及び第2炭化可能有機樹脂を炭化できれば良く、特に限定するものではないが、例えば、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性気体雰囲気中、最高温度800〜3000℃で加熱して行うことができる。なお、昇温速度は5〜100000℃/分であるのが好ましく、5〜1000℃/分であるのがより好ましい。また、最高温度での保持時間は、3時間以内であるのが好ましく、1〜120分間であるのがより好ましい。なお、これらの各パラメータにおいて、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【0070】
以上のような方法により、本発明の導電性多孔シートを製造することができるが、前駆繊維を構成する第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、ポリアクリロニトリル樹脂を含んでいる場合には、炭化処理後も繊維形状を維持できるように、炭化処理の前に不融化工程を実施してもよい。この不融化は、酸化雰囲気中、温度200〜300℃で10〜120分間加熱して実施できる。なお、不融化の加熱は2回以上、温度又は時間の異なる条件で実施することができる。
【0071】
なお、本発明の導電性多孔シートは空隙率が50%以上と空隙が多いのが好ましいが、このような空隙率の高い導電性多孔シートは、平均繊維径が0.1μm〜50μmの炭素繊維を主体としていると、前記空隙率を満たしやすい。このような平均繊維径の炭素繊維の素となる前駆繊維は、例えば、静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示されている紡糸方法により製造しやすい。また、前駆繊維同士の交差点を接合するためにバインダを使用すると、バインダが前駆繊維間の空隙を埋めたり、前駆繊維同士の交差点の周辺を必要以上に覆ってしまい、空隙率が低くなる傾向があるため、バインダを使用することなく、前駆繊維を構成する第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料で接合させると、前記空隙率を満たしやすい。
【0072】
また、本発明の導電性多孔シートは、各種後加工により、各用途に適合する物性を付与又は向上させることができる。例えば、本発明の導電性多孔シートを固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として使用する場合、導電性多孔シートの撥水性を高め、排水性及びガス拡散性を高めるために、ポリテトラフルオロエチレンディスパージョンなどのフッ素系ディスパージョン中に、導電性多孔シートを浸漬して、フッ素系樹脂を付与した後、温度300〜350℃で焼結することができる。
【0073】
更に、内部に空隙のない炭素繊維は、第1炭化可能有機材料、第2炭化可能有機材料のいずれも炭化率の高い有機材料を使用することによって製造しやすい。つまり、炭化時に消失する有機材料が少ないため、内部に空隙のない炭素繊維を製造しやすい。この炭化率の高い第1炭化可能有機材料又は第2炭化可能有機材料として、例えば、ポリアクリロニトリル、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などを挙げることができる。
【0074】
更に、比見掛ヤング率が100MPa/(g/cm)以上の剛性のある導電性多孔シートは、炭素繊維を剛性のある材料から形成することによって製造しやすい。つまり、第1炭化可能有機材料及び/又は第2炭化可能有機材料として、熱硬化性樹脂、特にはエポキシ樹脂、フェノール樹脂を使用することによって、製造しやすい。
【0075】
更に、主面における平均算術平均表面粗さが0.01μm〜20μm(0.1μm〜10μmであるのが好ましく、0.1μm〜5μmであるのがより好ましく、0.1〜4μmであるのが更に好ましい)である導電性多孔シートは、例えば、平均繊維径が20μm以下の炭素繊維を使用することにより、導電性多孔シートの形態を不織布とすることにより、及び/又は導電性多孔シートを静電紡糸法、特開2009−287138号公報に開示されているような方法により直接製造することによって、製造しやすい。なお、前記平均算術平均表面粗さにおける、前記の各下限と各上限は、所望により、任意に組み合わせることができる。
【実施例】
【0076】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0077】
<第1紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(=PAN、第1炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、固形分濃度20mass%の溶液を得た。
【0078】
次いで、前記溶液に、クレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第2炭化可能有機材料(=EP)を加えて混合し、攪拌した後、さらにDMFを加えて希釈して、PAN:EPの固形分質量比が70:30で、固形分濃度が25mass%の第1紡糸液を調製した。
【0079】
<第2紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(=PAN、第1炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、固形分濃度20mass%の溶液を得た。
【0080】
次いで、導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ[=CNT、商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合して分散液を調製した。
【0081】
そして、前記分散液にクレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第2炭化可能有機材料(=EP)を加えて混合し、攪拌した後、さらにDMFを加えて希釈して、CNT:PAN:EPの固形分質量比が10:60:30で、固形分濃度が25mass%の第2紡糸液を調製した。
【0082】
<第3紡糸液の調製>
カーボンナノチューブ(CNT)に替えて、カーボンブラック(=CB、電気化学工業(株)製、商品名:デンカブラック粒状品、平均粒径:35nm)を使用したこと以外は、第2紡糸液と同様に調製して、CB:PAN:EPの固形分質量比が10:60:30で、固形分濃度が20mass%の第3紡糸液を調製した。
【0083】
<第4紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリルをN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、固形分濃度が16ass%の第4紡糸液を調製した。
【0084】
<第5紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(=PAN)、フェノール樹脂(=PH、群栄化学工業製、PSK−2320)、Titanium(IV)butoxide(=TI、アルドリッチ社製)を、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させ、PAN:PH:TIの固形分質量比が44:44:12で、固形分濃度が25mass%の第5紡糸液を調製した。
【0085】
<第6紡糸液の調製>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物(=THV、第1炭化可能有機材料)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、固形分濃度10mass%の溶液を得た。
【0086】
次いで、導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ(CNT)[商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈し、カーボンナノチューブを分散させた分散溶液を得た。
【0087】
そして、前記分散溶液に、クレゾールノボラックエポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第2炭化可能有機材料(=EP)を加え、CNT:THV:EPの固形分質量比が40:30:30で、固形分濃度が20mass%の第6紡糸液を調製した。
【0088】
<第7紡糸液の調製>
ポリアクリロニトリル(=PAN)をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、固形分濃度18mass%の溶液を得た。
【0089】
次いで、導電性材料として、CVD法で合成されたカーボンナノチューブ(CNT)[商品名:VGCF−H(昭和電工(株)製)、繊維径:150nm、アスペクト比:40、多層カーボンナノチューブ]を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈し、カーボンナノチューブを分散させた分散溶液を得た。
【0090】
そして、前記分散溶液に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂を主剤とし、ノボラック型フェノール樹脂を硬化剤とする第2炭化可能有機材料(=EP)を加え、CNT:PAN:EPの固形分質量比が10:60:30で、固形分濃度が25mass%の第7紡糸液を調製した。
【0091】
(実施例1)
前記第1紡糸液を静電紡糸法により次の条件で前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積させて、前駆連続繊維のみからなり、繊維同士の交差点が接合していない不織布形態の前駆繊維集合シートを形成した。
【0092】
(静電紡糸条件)
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:5g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:10cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/30%RH
【0093】
次いで、前記前駆繊維集合シートを、温度150℃の熱風乾燥機で1時間熱処理してエポキシ樹脂を硬化させ、繊維同士の交差点を接合した前駆繊維シートを得た。
【0094】
続いて、前記前駆繊維シートに対して、空気中、温度220℃で30分、及び温度260℃で1時間の酸化処理を行い、前駆連続繊維を構成するPANを不融化し、不融化前駆繊維シートとした。
【0095】
そして、不融化前駆繊維シートを、真空置換式電気炉を用い、窒素ガス雰囲気下、温度1300℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施して、前駆連続繊維を構成するPANおよびEPを炭化して炭素連続繊維とし、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:6.5g/m、厚さ:65μm、繊維径:1.1μm、空隙率:91%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図1に示すように、炭素連続繊維は繊維同士の交差点間においても湾曲した状態にあった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあった。
【0096】
(実施例2)
紡糸液として第2紡糸液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:10g/m、厚さ:84μm、繊維径:0.7μm、空隙率:94%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図2に示すように、炭素連続繊維は繊維同士の交差点間においても湾曲した状態にあった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあり、また、炭素連続繊維におけるCNTの質量比率は12mass%であった。
【0097】
(実施例3)
酸化処理を行わず、前駆連続繊維を構成するPANを不融化しなかったこと以外は、実施例2と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:10g/m、厚さ:84μm、繊維径:0.7μm、空隙率:94%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図3に示すように、炭素連続繊維は繊維同士の交差点間においても湾曲した状態にあった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあり、また、炭素連続繊維におけるCNTの質量比率は12mass%であった。
【0098】
(実施例4)
紡糸液として第3紡糸液を用いたこと以外は実施例1と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:5.6g/m、厚さ:34μm、繊維径:0.8μm、空隙率:91%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図4に示すように、炭素連続繊維は繊維同士の交差点間においても湾曲した状態にあった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあり、また、炭素連続繊維におけるカーボンブラックの質量比率は12mass%であった。
【0099】
(比較例1)
紡糸液として第4紡糸液を用い、次の静電紡糸条件で紡糸したこと以外は実施例1と同様にして、PAN前駆連続繊維のみからなり、繊維同士の交差点が接合していない不織布形態の前駆繊維集合シートを形成した。
【0100】
(静電紡糸条件)
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:1g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/30%RH
【0101】
次いで、前記前駆繊維集合シートに対して、空気中、温度220℃で30分、及び温度260℃で1時間の酸化処理を行い、前駆連続繊維を構成するPANを不融化した後、真空置換式電気炉を用い、窒素ガス雰囲気下、温度1300℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施し、前駆連続繊維を構成するPANを炭化して炭素連続繊維とし、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点が接合していない導電性多孔シート(目付:5g/m、厚さ:20μm、繊維径:0.3μm、空隙率:86%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図5に示すように、炭素連続繊維は直線状であった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあった。
【0102】
(比較例2)
酸化処理を実施する前に、濃度7mass%に調整したDMF/水の混合溶液に、前駆繊維集合シートを浸漬し、一対のロール間で絞った後、温度80℃に設定したオーブン中で10分間、続いて温度160℃に設定したオーブンで加熱処理することによって混合溶媒を除去して、PAN前駆連続繊維同士の交差点を接着させたこと以外は、比較例1と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点が接合した導電性多孔シート(目付:5g/m、厚さ:18μm、繊維径:0.3μm、空隙率:85%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図6に示すように、炭素連続繊維は直線状であった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあった。
【0103】
(比較例3)
紡糸液として第5紡糸液を用い、次の静電紡糸条件で紡糸したこと以外は、実施例1と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点が接合していない導電性多孔シート(目付:8g/m、厚さ:62μm、繊維径:0.6μm、空隙率:93%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図7に示すように、炭素連続繊維は直線状であった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあった。
【0104】
(静電紡糸条件)
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:1g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:8cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/40%RH
【0105】
(比較例4)
酸化処理を行わず、前駆連続繊維を構成するPANを不融化しなかったこと以外は、比較例3と同様にして、炭素連続繊維のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維同士の交差点が接合していない導電性多孔シート(目付:8g/m、厚さ:62μm、繊維径:0.6μm、空隙率:93%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図8に示すように、炭素連続繊維は直線状であった。なお、炭素連続繊維は繊維内部に空隙のない内部充実した状態にあった。
【0106】
(比較例5)
前記第6紡糸液を静電紡糸法により次の条件で前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、前駆連続繊維のみからなり、繊維同士の交差点が接合していない不織布形態の前駆繊維集合シートを形成した。
【0107】
(静電紡糸条件)
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:14cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/30%RH
【0108】
次いで、前記前駆繊維集合シートを、温度150℃の熱風乾燥機で1時間熱処理して、エポキシ樹脂を硬化させ、繊維同士の交差点を接合した前駆繊維シートを得た。
【0109】
そして、前記前駆繊維シートを、管状炉を用いる、アルゴンガス雰囲気下、温度800℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施し、前駆連続繊維を構成するTHVおよびEPを炭化させるとともに、THVの大部分を消失させて炭素連続繊維状物とし、炭素連続繊維状物(CNT:EP炭化物とTHV炭化物の総量の質量比=52:48)のみからなり、不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維状物同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:20g/m、厚さ:40μm、平均繊維径:1.3μm、空隙率:73%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図9に示すように、炭素連続繊維状物の長さ方向に配向したCNTが全体に分散しており、これらCNT間がEP炭化物とTHVの炭化物で部分的に繋がって結合した、多孔性で連続した状態の炭素連続繊維状物からなり、炭素連続繊維状物同士の交差点がEP炭化物及びTHVの炭化物で結合した状態にあった。
【0110】
(比較例6)
前記第7紡糸液を静電紡糸法により次の条件で前駆連続繊維を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、前駆連続繊維のみからなり、繊維同士の交差点が接合していない不織布形態の前駆繊維集合シートを形成した。
【0111】
(静電紡糸条件)
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:4g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:14cm
印加電圧:17kV
温度/湿度:25℃/35%RH
【0112】
次いで、前記前駆繊維集合シートを、温度150℃の熱風乾燥機で1時間熱処理して、エポキシ樹脂を硬化させ、繊維同士の交差点を接合した前駆繊維シートを得た。
【0113】
続いて、前記前駆繊維シートに対して、空気中、温度220℃で30分、及び温度260℃で1時間の酸化処理を行い、前駆連続繊維を構成するPANを不融化およびEPの一部を流動させた不融化前駆繊維シートとした。
【0114】
そして、前記不融化前駆繊維シートを、管状炉を用い、窒素雰囲気下、温度800℃で1時間の炭化焼成処理(昇温速度:10℃/分)を実施し、前駆連続繊維を構成するPANおよびEPを炭化させ、(CNT:PAN炭化物とEP炭化物の総量の質量比=14:86)不織布構造を有する一層構造の、炭素連続繊維状物同士の交差点で接合した導電性多孔シート(目付:5g/m、厚さ:15μm、平均繊維径:0.8μm、空隙率:82%)を作製した。この導電性多孔シートの主面における電子顕微鏡写真(2000倍)を撮影し、観察したところ、図10に示すように、炭化の際に、樹脂の流動および炭化過程の違いから多孔化したPAN炭化物とEP炭化物からなる炭素連続繊維状物が見られた。
【0115】
(導電性多孔シートの評価)
実施例1〜4及び比較例1〜6の導電性多孔シートに関して、前述の方法により、三点曲げ試験(曲げたわみ量)、電気抵抗、破断強度、及び比見掛ヤング率の測定を行なった。この結果は表1に示す通りであった。
【0116】
【表1】
【0117】
比較例1〜2の導電性多孔シートは加圧くさびを1.5mm押し込むと応力が急激に降下し、破断するものであった。これは炭素繊維が湾曲していないためであると考えられた。また、比較例1の導電性多孔シートは比較的電気抵抗の高いものであった。これは炭素繊維の交差点で接合していないためであると考えられた。
【0118】
また、比較例3〜4の導電性多孔シートは比較的電気抵抗が高く、機械的強度も低いものであった。これは、炭素繊維同士の交差点が接合していないためであると考えられた。
【0119】
更に、比較例5の導電性多孔シートは加圧くさびを3.0mm押し込むと応力が急激に降下し、破断するものであった。これは炭素繊維が多孔質であり、また、導電性材料の含有割合が高いためであると考えられた。
【0120】
比較例6の導電性多孔シートは繊維状物が多孔性のため、繊維が脆く、加圧くさびを2.6mm以上押し込むと応力が急激に低下し、破断するものであった。
【0121】
これに対して、実施例1〜4の結果から、本発明の導電性多孔シートは剛直な炭素繊維から構成されているにも関わらず、柔軟性に優れ、しかも機械的強度及び導電性の優れるものであった。柔軟性に優れているのは、炭素繊維同士が接合した交差点間において、炭素繊維が湾曲しているため曲げに対する応力を分散できるためであり、また、機械的強度及び導電性に優れているのは、炭素繊維同士の交差点が接合しているためであると考えられた。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明の導電性多孔シートは機械的強度、導電性、及び柔軟性の優れるものであり、電極用基材として好適に用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池又は電気二重層キャパシタの電極として、また、固体高分子形燃料電池のガス拡散電極用基材として有用である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変法や改良は本発明の範囲に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
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図12