(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステージの表面は、前記複数の発光デバイスに対向する第1領域と、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域に対向する第2領域とを有しており、前記第1領域における吸着力は、前記第2領域における吸着力よりも高い、請求項1に記載の製造方法。
前記ステージの表面は、前記複数の発光デバイスに対向する第1領域と、前記合成樹脂フィルムの前記中間領域に対向する第2領域とを有しており、前記第1領域における吸着力は、前記第2領域における吸着力よりも高い、請求項11に記載の製造装置。
【発明を実施するための形態】
【0033】
図面を参照しながら、本開示によるフレキシブル発光デバイスの製造方法および製造装置の実施形態を説明する。「発光デバイス」の例は、ディスプレイおよび照明装置を含む。以下の説明において、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明や実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が不必要に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。本発明者らは、当業者が本開示を十分に理解するために添付図面および以下の説明を提供する。これらによって特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図しない。
【0034】
<積層構造体>
図1Aおよび
図1Bを参照する。本実施形態におけるフレキシブル発光デバイスの製造方法では、まず、
図1Aおよび
図1Bに例示される積層構造体100を用意する。
図1Aは、積層構造体100の平面図であり、
図1Bは、
図1Aに示される積層構造体100のB−B線断面図である。
図1Aおよび
図1Bには、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸を有するXYZ座標系が示されている。
【0035】
積層構造体100は、ガラスベース(マザー基板またはキャリア)10と、それぞれがTFT層20Aおよび発光素子層20Bを含む複数の機能層領域20と、ガラスベース10と複数の機能層領域20との間に位置してガラスベース10に固着している合成樹脂フィルム(以下、単に「樹脂膜」と称する)30と、複数の機能層領域20を覆う保護シート50を備えている。積層構造体100は、更に、複数の機能層領域20と保護シート50との間において、機能層領域20の全体を覆うガスバリア膜40を備えている。積層構造体100は、バッファ層などの図示されていない他の層を有していてもよい。
【0036】
本実施形態における発光素子層20Bは、例えば、2次元的に配列された複数のOLED素子を有している。本開示における「発光素子層」は、発光素子の2次元アレイを意味する。個々の発光素子は、OLED素子に限定されず、マイクロLED素子であってもよい。また、本実施形態におけるフレキシブル発光デバイスの典型例は、「フレキシブルディスプレイ」であるが、「フレキシブル照明装置」であってもよい。
【0037】
積層構造体100の第1の表面100aはガラスベース10によって規定され、第2の表面100bは保護シート50によって規定されている。ガラスベース10および保護シート50は、製造工程中に一時的に用いられる部材であり、最終的なフレキシブル発光デバイスを構成する要素ではない。
【0038】
図示されている樹脂膜30は、複数の機能層領域20をそれぞれ支持している複数のフレキシブル基板領域30dと、個々のフレキシブル基板領域30dを囲む中間領域30iとを含む。フレキシブル基板領域30dと中間領域30iは、連続した1枚の樹脂膜30の異なる部分にすぎず、物理的に区別される必要はない。言い換えると、樹脂膜30のうち、各機能層領域20の真下に位置している部分がフレキシブル基板領域30dであり、その他の部分が中間領域30iである。
【0039】
複数の機能層領域20のそれぞれは、最終的にフレキシブル発光デバイスのパネル(例えば「ディスプレイパネル」)を構成する。言い換えると、積層構造体100は、分割前の複数のフレキシブル発光デバイスを1枚のガラスベース10が支持している構造を有している。各機能層領域20は、例えば厚さ(Z軸方向サイズ)が数十μm、長さ(X軸方向サイズ)が12cm程度、幅(Y軸方向サイズ)が7cm程度のサイズを持つ形状を有している。これらのサイズは、必要な表示画面または発光面領域の大きさに応じて任意の大きさに設定され得る。各機能層領域20のXY平面内における形状は、図示されている例において、長方形であるが、これに限定されない。各機能層領域20のXY平面内における形状は、正方形、多角形、または、輪郭に曲線を含む形状を有していてもよい。
【0040】
図1Aに示されるように、フレキシブル基板領域30dは、フレキシブル発光デバイスの配置に対応して、行および列状に、二次元的に配列されている。中間領域30iは、直交する複数のストライプから構成され、格子パターンを形成している。ストライプの幅は、例えば1〜4mm程度である。樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dは、最終製品の形態において、個々のフレキシブル発光デバイスの「フレキシブル基板」として機能する。これに対して、樹脂膜30の中間領域30iは、最終製品を構成する要素ではない。
【0041】
本開示の実施形態において、積層構造体100の構成は、図示されている例に限定されない。1枚のガラスベース10に支持されている機能層領域20の個数は、任意である。
【0042】
なお、各図面に記載されている各要素のサイズまたは比率は、わかりやすさの観点から決定されており、実際のサイズまたは比率を必ずしも反映していない。
【0043】
本開示の製造方法に用いられ得る積層構造体100は、
図1Aおよび
図1Bに示される例に限定されない。
図1Cおよび
図1Dは、それぞれ、積層構造体100の他の例を示す断面図である。
図1Cに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、樹脂膜30よりも外側に拡がっている。
図1Dに示される例において、保護シート50は、樹脂膜30の全体を覆い、かつ、ガラスベース10よりも外側に拡がっている。後述するように、積層構造体100からガラスベース10が隔離された後、積層構造体100は、剛性を有しないフレキシブルな薄いシート状の構造物になる。保護シート50は、ガラスベース10の剥離を行う工程、および、剥離後の工程において、機能層領域20が外部の装置または器具などに衝突したり、接触したりしたとき、機能層領域20を衝撃および摩擦などから保護する役割を果たす。保護シート50は、最終的に積層構造体100から剥がし取られるため、保護シート50の典型例は、接着力が比較的小さな接着層(離型剤の塗布層)を表面に有するラミネート構造を有している。積層構造体100のより詳細な説明は、後述する。
【0044】
<発光デバイスの分割>
本実施形態のフレキシブル発光デバイスの製造方法によれば、上記の積層構造体100を用意する工程を実行した後、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する工程を行う。
【0045】
図2は、樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割する位置を模式的に示す断面図である。照射位置は、個々のフレキシブル基板領域30dの外周に沿っている。
図2において、矢印で示される位置を切断用のレーザビームで照射し、積層構造体100のうちでガラスベース10以外の部分を複数の発光デバイス(例えばディスプレイパネル)1000とその他の不要部分とに切断する。切断により、個々の発光デバイス1000と、その周囲との間に数十μmから数百μmの隙間が形成される。このような切断は、レーザビームの照射に代えて、固定刃や回転刃を有するカッターによって行うことも可能である。切断後も、発光デバイス1000およびその他の不要部分は、ガラスベース10に固着されている。
【0046】
レーザビームによって切断を行う場合、レーザビームの波長は、赤外、可視光、紫外のいずれの領域にあってもよい。ガラスベース10に及ぶ切断の影響を小さくすると言う観点からは、波長が緑から紫外域に含まれるレーザビームが望ましい。例えば、Nd:YAGレーザ装置によれば、2次高調波(波長532nm)、または3次高調波(波長343nmまたは355nm)を利用して切断を行うことができる。その場合、レーザ出力を1〜3ワットに調整して毎秒500mm程度の速度で走査すれば、ガラスベース10に損傷を与えることなく、ガラスベース10に支持されている積層物を発光デバイスと不要部分とに切断(分割)することができる。
【0047】
本開示の実施形態によれば、上記の切断を行うタイミングが従来技術に比べて早い。樹脂膜30がガラスベース10に固着した状態で切断が実行されるため、隣接する発光デバイス1000の間隔が狭くても、高い正確度および精度で切断の位置合わせが可能になる。このため、隣接する発光デバイス1000の間隔を短縮して、最終的に不要になる無駄な部分を少なくできる。また、従来技術では、ガラスベース10から剥離した後、樹脂膜30の表面(剥離表面)の全体を覆うように、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドなどが張り付けられることがある。そのような場合、切断により、偏光板、放熱シート、および/または電磁シールドも発光デバイス1000を覆う部分と、その他の不要な部分とに分割される。不要な部分は無駄に廃棄されることになる。これに対して、本開示の製造方法によれば、後に説明するように、このような無駄の発生を抑制できる。
【0048】
<剥離光照射>
樹脂膜30の中間領域30iと複数のフレキシブル基板領域30dのそれぞれとを分割した後、剥離装置により、樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面を剥離光で照射する工程を行う。
【0049】
図3Aは、不図示の製造装置(剥離装置)におけるステージ212が積層構造体100を支持する直前の状態を模式的に示す図である。本実施形態におけるステージ212は、吸着のための多数の孔を表面に有する吸着ステージである。吸着ステージの構成の詳細は、後述する。積層構造体100は、積層構造体100の第2の表面100bがステージ212の表面212Sに対向するように配置され、ステージ212によって支持される。
【0050】
図3Bは、ステージ212が積層構造体100を支持している状態を模式的に示す図である。ステージ212と積層構造体100との配置関係は、図示される例に限定されない。例えば、積層構造体100の上下が反転し、ステージ212が積層構造体100の下方に位置していてもよい。
【0051】
図3Bに示される例において、積層構造体100は、ステージ212の表面212Sに接しており、ステージ212は積層構造体100を吸着している。
【0052】
次に、
図3Cに示されるように、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとガラスベース10との界面を剥離光216で照射する。
図3Cは、図の紙面に垂直な方向に延びるライン状に成形された剥離光216によって積層構造体100のガラスベース10と樹脂膜30との界面を照射している状態を模式的に示す図である。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10と樹脂膜30との界面において、剥離光216を吸収して分解(消失)する。剥離光216で上記の界面をスキャンすることにより、樹脂膜30のガラスベース10に対する固着の程度を低下させる。剥離光216の波長は、典型的には紫外域にある。剥離光216の波長は、剥離光216がガラスベース10には、ほとんど吸収されず、できるだけ樹脂膜30によって吸収されるように選択される。ガラスベース10の光吸収率は、例えば波長が343〜355nmの領域では10%程度だが、308nmでは30〜60%に上昇し得る。
【0053】
以下、本実施形態における剥離光の照射を詳しく説明する。
【0054】
<剥離光照射装置1>
本実施形態における剥離装置は、剥離光216を出射するラインビーム光源を備えている。ラインビーム光源は、レーザ装置と、レーザ装置から出射されたレーザ光をラインビーム状に成形する光学系とを備えている。
【0055】
図4Aは、剥離装置220のラインビーム光源214から出射されたラインビーム(剥離光216)で積層構造体100を照射する様子を模式的に示す斜視図である。わかりやすさのため、ステージ212、積層構造体100、およびラインビーム光源214は、図のZ軸方向に離れた状態で図示されている。剥離光216の照射時、積層構造体100の第2の表面100bはステージ212に接している。
【0056】
図4Bは、剥離光216の照射時におけるステージ212の位置を模式的に示している。
図4Bには表れていないが、積層構造体100はステージ212によって支持されている。
【0057】
剥離光216を放射するレーザ装置の例は、エキシマレーザなどのガスレーザ装置、YAGレーザなどの固体レーザ装置、半導体レーザ装置、および、その他のレーザ装置を含む。XeClのエキシマレーザ装置によれば、波長308nmのレーザ光が得られる。ネオジウム(Nd)がドープされたイットリウム・四酸化バナジウム(YVO
4)、またはイッテルビウム(Yb)がドープされたYVO
4をレーザ発振媒体として使用する場合は、レーザ発振媒体から放射されるレーザ光(基本波)の波長が約1000nmであるため、波長変換素子によって340〜360nmの波長を有するレーザ光(第3次高調波)に変換してから使用され得る。これらのレーザ装置から出射されたスポットビーム状のレーザ光を、ラインビーム状に成形するレンズやプリズムなどから構成された光学系と組み合わせてラインビーム状の剥離光216を得る。
【0058】
樹脂膜30とガラスベース10との界面に犠牲層(金属または非晶質シリコンから形成された薄層)を設けてもよい。アッシュの生成を抑制するという観点からは、波長が340〜360nmのレーザ光よりも、エキシマレーザ装置による波長308nmのレーザ光を利用することが、より有効である。また、犠牲層を設けることはアッシュ生成の抑制に顕著な効果がある。
【0059】
剥離光216の照射は、例えば250〜300mJ/cm
2のエネルギ照射密度で実行され得る。ラインビーム状の剥離光216は、ガラスベース10を横切るサイズ、すなわちガラスベースの1辺の長さを超えるライン長さ(長軸寸法、
図4BのY軸方向サイズ)を有する。ライン長さは、例えば750mm以上であり得る。ただし、1m以上のライン長さを有するラインビームを得ようとすると、レーザ光を成形する光学系が巨大になりすぎて製造が困難になること、およびそれに伴いラインビームの品質(均一性)の低下が不可避であることから、一般的にはG6H基板サイズ(1800mm×750mmの短辺側)程度に対応するラインビーム(ビーム長さが750mm程度まで)が限界であった。一方、剥離光216のライン幅(短軸寸法、
図4BのX軸方向サイズ)は、例えば0.2mm程度であり得る。これらの寸法は、樹脂膜30とガラスベース10との界面における照射領域のサイズである。剥離光216は、パルス状または連続波として照射され得る。パルス状の照射は、例えば毎秒200回程度の周波数で行われ得る。
【0060】
剥離光216の照射位置は、ガラスベース10に対して相対的に移動し、剥離光216のスキャンが実行される。剥離装置220内において、剥離光を出射する光源214および光学装置(不図示)が固定され、積層構造体100が移動してもよいし、その逆であってもよい。本実施形態では、ステージ212が
図4Bに示される位置から
図4Cに示される位置に移動する間、剥離光216の照射が行われる。すなわち、X軸方向に沿ったステージ212の移動により、剥離光216のスキャンが実行される。
【0061】
<剥離光照射装置2>
上記の実施形態における剥離光照射装置が備える光源は、レーザ光源であるが、本開示の剥離光照射装置は、この例に限定されない。剥離光は、レーザ光源のようなコヒーレント光源の代わりに、非コヒーレント光源から放射されてもよい。以下、紫外線ランプから放射された剥離光で樹脂膜とガラスベースとの界面を照射する例を説明する。
【0062】
図22Aは、剥離光216を放射する面光源215の構成例を模式的に示す断面図である。
図22Bは、この面光源215の構成例を示す上面図である。
【0063】
図示されている面光源215は、積層構造体100に対向する領域に配列された複数の紫外ランプ380と、各紫外ランプ380から放射された紫外光を反射するリフレクタ390とを備えている。この紫外ランプ380は、例えば、波長365nmのi線を放射する高圧水銀ランプであり得る。図示されている例におけるリフレクタ390は、紫外ランプ380から周囲に放射された紫外光を反射して実質的に平行光にすることができる。リフレクタ390がコールドミラーから形成されていると、高圧水銀ランプから放射された光に含まれる赤外成分が積層構造体100に入射することを抑制できる。紫外ランプ380と積層構造体100との間に赤外カットフィルタを配置してもよい。剥離光216に含まれ得る赤外成分を低減またはカットすることにより、赤外線照射による積層構造体100の昇温を抑制また防止することができる。
【0064】
樹脂膜30の剥離に必要な剥離光の照射エネルギは、例えば100mJ/cm
2以上300mJ/cm
2以下の範囲にある。紫外ランプ380のような光源(非コヒーレント光源)は、前述したレーザ光源に比べて一般に単位面積あたりの照射強度が小さい。このため、充分な照射エネルギを達成するためには、レーザ光源を用いる場合に比べて剥離光照射時間を長くすればよい。
【0065】
図22Aおよび
図22Bに示される面光源215は、面状に広がる剥離光216を形成できるため、ラインビームをスキャンする場合に比べて、それぞれの位置での照射時間を長くすることが容易である。
【0066】
なお、
図22Aの例では、リフレクタ390によって平行化された剥離光216が形成されているが、本開示の実施形態は、この例に限定されない。リフレクタ390および不図示のレンズを利用して、各紫外ランプ380から放射された光を幅が1〜3mm程度のライン状に集光してもよい。そのようなストライプ状の剥離光216で積層構造体100を照射する場合は、積層構造体100に対する面光源215の相対位置をシフトさせることより、積層構造体100の全面を剥離光216で照射することができる。
【0067】
紫外ランプ380から放射される紫外光の照射強度が高い場合、1本または数本の紫外ランプ380でスキャンすることにより、積層構造体100の全面を剥離光216で照射することも可能である。紫外ランプ380から放射される紫外光の照射強度が高くない場合でも、スキャン速度を低下させれば、1本または数本の紫外ランプ380のスキャンにより、積層構造体100の全面を剥離光216で照射することが可能である。ただし、紫外ランプ380のランプ長の制約から、G8基板(2400mm×2200mm)やそれ以上のサイズの超大型基板への対応は困難な面もある。
【0068】
<剥離光照射装置3>
以下、複数の発光ダイオード素子を備える非コヒーレント光源から放射された剥離光で樹脂膜とガラスベースとの界面を照射する例を説明する。
【0069】
剥離光を放射する光源として、紫外光を放射する複数の発光ダイオード(UV−LED)素子を用いることができる。このような発光ダイオード素子は、それぞれが、例えば縦3.5mm×横3.5mm×厚さ1.2mmのサイズを有している。複数の発光ダイオード素子は、1列または複数列に並べられて使用され得る。前述したとおり、従来のエキシマレーザやYAGレーザから出射するスポットビーム状のレーザ光を、レンズやプリズムなどの光学系を用いてラインビーム状に成形する際には、光学系の製造コストやレーザ光成形後のラインビームの不均一性の増大の問題から1m以上のライン長さを実現することは困難であった。また、紫外線ランプを用いても、そのランプ長に制約があるため、無制限に長いライン長さを実現することはできない。しかしながら、本実施形態のように複数の紫外光を放射する光源を並べて使用することにより、ラインビーム状の剥離光のライン長さを容易に1m以上とすることができ、G8サイズの基板(2400mm×2200mm)やそれ以上の超大型基板への対応も可能となる。
【0070】
図23は、2次元的に配列された複数の発光ダイオード素子400を備える面光源215を模式的に示す断面図である。個々の発光ダイオード素子400から放射された光は、Z軸方向を中心として拡がる。この光は、Z軸からの傾きである放射角度θに依存した相対放射強度の分布(指向性)を示す。ある例において、発光ダイオード素子の相対放射強度は、θ=45°で約75%、θ=65°で約50%であり得る。発光ダイオード素子の指向性は、レンズおよび/またはリフレクタを配置することにより、調節され得る。この場合も、複数の発光ダイオード素子400を2次元的に多数個配列させることにより、従来光源(レーザ光源と光学系の組合せや紫外線ランプ)では実現不可能であった超大型基板への対応が可能となる。
【0071】
市販されている発光ダイオード素子によれば、例えば電圧:3.85ボルト、電流:1000ミリアンペアの駆動条件で波長365nmの紫外光を1450ミリワットの出力で放射することができる。
【0072】
図24は、
図23に示される例に比べて発光ダイオード素子400の面内個数密度を高めた面光源215を示す断面図である。発光ダイオード素子400の面内個数密度が高くなるほど、照射強度を高めることができる。
【0073】
図25は、行および列状に配列された発光ダイオード素子400のアレイを示す図である。隣接する発光ダイオード素子400の間隔(配列ピッチ)Pは、樹脂膜とガラスベースとの界面の全体において、照射強度が剥離に必要なレベルを超えるように選択される。
【0074】
<剥離光照射装置4>
発光ダイオード素子は、駆動電流の大きさを調整することにより、その発光強度が制御される。従って、複数の発光ダイオード素子を1次元または2次元的に配列した状態において、個々の発光ダイオード素子を流れる駆動電流を変調することにより、剥離光の照射強度を時間的および/または空間的に変調することもできる。
【0075】
発光ダイオード素子の配列ピッチは、例えば3mm以上10mm以下の範囲にある。発光ダイオード素子から放射される光は、レーザ光とは異なり、インコヒーレント(非コヒーレント)光である。発光ダイオード素子から放射される光の波長は、例えば300nm以上380nm以下の範囲にある。
【0076】
図27A、
図27Bおよび
図27Cを参照しながら、複数の発光ダイオード素子が配列されたラインビーム光源の例を説明する。
【0077】
図27Aは、Y軸方向に配列された複数の発光ダイオード素子400を備えるラインビーム光源214の上面を模式的に示している。
図27Bは、
図27Aに示されるラインビーム光源214のB−B線断面である。
図27Bには、積層構造体100も記載されている。
図27Cは、積層構造体100に対するラインビーム光源214の移動方向を示す図である。
【0078】
この例において、発光ダイオード素子400から放射された紫外光は、単位面積あたりの照射エネルギ(照射強度:単位はジュール/cm
2)を高めるために、シリンドリカルレンズ410を通って積層構造体100のガラスベース10に入射する。紫外光はX軸方向にフォーカスされるため、剥離が生じる界面(剥離面)における照射領域の幅(X軸方向サイズ)を例えば0.2mm程度またはそれ以下に狭くすることができる。シリンドリカルレンズ410は、X軸方向におけるフォーカスは行わないため、照射領域のY軸方向サイズは短縮されない。
【0079】
剥離光の照射強度を高めるためには、発光ダイオード素子400の配列ピッチを縮小して発光ダイオード素子400の個数密度を高めればよい。例えば、個々の発光ダイオード素子400のサイズが前述した大きさを有する場合、3.5mm〜10mm間隔(配列ピッチ:隣接する光源の中心間距離)で数10個または100個以上の個数の発光ダイオード素子400を配列してもよい。より小さな発光ダイオード素子400を用いる場合は、例えば2.0mm〜10mm間隔で配置することも可能である。発光ダイオード素子400の配列ピッチは5mm以下であることが好ましい。
【0080】
図27Cに示すように積層構造体100に対してラインビーム光源214を移動させることにより、積層構造体100の全面に対する剥離光の照射を実行できる。
【0081】
ラインビーム光源214の照射強度を高めるため、発光ダイオード素子400を複数列に並べてもよい。
【0082】
図27Aは、Y軸方向に配列された複数列の発光ダイオード素子400を備えるラインビーム光源214の上面を模式的に示している。
図27Bは、
図27Aに示されるラインビーム光源214のB−B線断面である。
図27Bには、積層構造体100も記載されている。
図27Cは、積層構造体100に対するラインビーム光源214の移動方向を示す図である。
【0083】
この例のラインビーム光源214は、それぞれがY軸方向に延びる5列の発光ダイオード素子400を備えている。Y軸方向における5列の発光ダイオード素子400の位置は、それぞれ、異なる。配列ピッチをPとするとき、発光ダイオード列の位置は、隣接する列の間で、Y軸方向にP/5ずつシフトしている。
図27Cに示すように積層構造体100に対してラインビーム光源214を移動させることにより、積層構造体100の全面に対する剥離光の照射を実行できる。
【0084】
剥離光の照射は、積層構造体100に対して複数の光源を静止させた状態で行ってもよい。
【0085】
図28は、多数の発光ダイオード素子400がマトリックス状に配列された面光源215の例を模式的に示す上面図である。縦、横の発光ダイオードの配列個数は、使用する基板サイズに応じて任意に設定すればよく、この場合もG8サイズやそれ以上の超大型基板に対応する剥離装置の実現が可能となる。また剥離するべき面内を複数の領域に区分し、ステッパによる順次露光と同様に、各領域を剥離光のフラッシュで照射してもよい。
【0086】
なお、積層構造体100および面光源215を共に静止した状態で剥離光照射を行う場合、光スキャンのための精密な駆動装置が不要になる。また、固定されたラインビーム光源に対して積層構造体100を移動させながら剥離光照射を行う場合(
図4A−
図4C)は、積層構造体100の移動のために積層構造体100の少なくとも2倍の面積を持つエリアが必要である。しかし、面光源215を使用すれば、積層構造体100の移動に必要な余分のエリアが不要になり、装置の設置面積が半減する利点がある。
【0087】
このように発光ダイオード素子を用いることにより、比較的に高価な半導体レーザ素子を用いるよりも多数の光源を用いて剥離光照射を実行することが低コストで可能になる。また、個々の発光ダイオード素子から剥離光を放射する時間を長くすることも容易であるため、各発光ダイオード素子の光出力が小さくても、照射時間を調整することにより、剥離に必要な照射エネルギを達成できる。さらには、レーザ光を使用しないため、人間の眼に対する安全性(アイセーフ)の面でも有利であり、より容易な装置設計や運用が可能となる。
【0088】
<リフトオフ>
図5Aは、剥離光の照射後、積層構造体100がステージ212に接触した状態を記載している。この状態を維持したまま、ステージ212からガラスベース10までの距離を拡大する。このとき、本実施形態におけるステージ212は積層構造体100の発光デバイス部分を吸着している。このとき、樹脂膜30の端部に位置する中間領域30iの一部を不図示のピンまたは治具によってガラスベース10に固定しておいてもよい。固定の位置は、例えば、樹脂膜30の4隅であり得る。
【0089】
不図示の駆動装置がガラスベース10を保持してガラスベース10の全体を矢印Lの方向に移動させることにより、剥離(リフトオフ)が実行される。ガラスベース10は、不図示の吸着ステージによって吸着した状態で吸着ステージとともに移動し得る。ガラスベース10の移動の方向は、積層構造体100の第1の表面100aに垂直である必要はなく、傾斜していてもよい。ガラスベース10の移動は直線運動である必要はなく、回転運動であってもよい。また、ガラスベース10が不図示の保持装置または他のステージによって固定され、ステージ212が図の上方に移動してもよい。
【0090】
図5Bは、こうして分離された積層構造体100の第1部分110と第2部分120とを示す断面図である。
図6は、積層構造体100の第2部分120を示す斜視図である。積層構造体100の第1部分110は、ステージ212に接触した複数の発光デバイス1000を含む。各発光デバイス1000は、機能層領域20と、樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dとを有している。これに対して、積層構造体100の第2部分120は、ガラスベース10と、樹脂膜30の中間領域30iとを有している。
【0091】
図6の例では、剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方が、ステージ212を備える剥離装置220によって実行されている。本開示の実施形態は、このような例に限定されない。剥離光の照射プロセスは、ステージ212とは異なる他のステージを備える剥離光照射装置によって実行し、剥離プロセスは、ステージ212を備える剥離装置を用いて実行してもよい。この場合、剥離光の照射後に、積層構造体100を不図示の他のステージからステージ212に移動させる必要がある。同一のステージを用いて剥離光の照射プロセスと剥離プロセスの両方を実行すれば、ステージ間で積層構造体を移動させる工程を省くことができる。
【0092】
上述のように、本実施形態において積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離する工程は、ステージ212が積層構造体100の第2の表面100bを吸着している状態で実行される。この分離工程で重要な点は、積層構造体100のうち、発光デバイス1000を構成しない不要な部分がガラスベース10とともにステージ212から離れることにある。本実施形態では、
図2に示される切断工程、すなわち、積層構造体100のうちでガラスベース10以外の部分を複数の発光デバイス1000とその他の不要部分とに切断する工程を剥離光の照射前に行う。このように切断工程を剥離光照射工程の前に行うことが、
図5Bおよび
図6に示される分離を実現するために有効である。
【0093】
本実施形態では、上記の「分離」に際して、ステージ212が重要な役割を果たしている。以下、本実施形態に好適に用いられ得るステージ212の構造例を説明する。
【0094】
<ステージの構造例1>
図7は、この例におけるステージ212の表面を模式的に示す斜視図である。
図8は、ステージ212の表面を模式的に示す平面図である。
【0095】
図示されるステージ212は、それぞれが複数の発光デバイス1000(不図示)に対向する複数の第1領域300Aと、樹脂膜30の中間領域30iに対向する第2領域300Bとを有している。第1領域300Aにおける吸着力は、第2領域300Bにおける吸着力よりも大きい。
【0096】
図9Aは、第1領域300Aと第2領域300Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図9Bは、
図9AのB−B線断面図である。この例におけるステージ212は、
図9Bに示されるように、多孔質の正面プレート222と、正面プレート222に平行な背面プレート224と、これらのプレート間に形成されたスペース226と、正面プレート222上に配置された吸着シート300とを有している。スペース226は、ポンプなどの吸引装置(不図示)に接続される。動作時、吸引装置によってスペース226が負圧になるため、多孔質の正面プレート222が有する多数の空隙、および、吸着シートの300の開口部(貫通孔300H)を介して外部の空気がスペース226に流入する。このため、吸着シート300に接する物体はステージ212に吸引され、ステージ212に吸着する。
【0097】
多孔質の正面プレート222は、種々の多孔質材料から形成され得る。多孔質材料の気孔率は、例えば20%以上60%以下の範囲内にある。平均気孔径は、例えば5μm以上600μm以下の範囲内にある。多孔質材料の例は、金属もしくはセラミックスの焼結体、または樹脂である。正面プレート222を構成する多孔質材料の厚さは、例えば1mm以上50mm以下の範囲内にある。
【0098】
吸着シート300は、
図9Aおよび
図9Bに示されるように、複数の貫通孔300Hを有しているが、その開口率は、発光デバイス1000に接する第1領域300Aと、樹脂30の中間領域30iに対向する第2領域300Bとで異なっている。吸着シート300の「開口率」は、ステージ212の表面において、多孔質の正面プレート222が露出して吸着機能を発揮し得る領域(開口部)の面積割合である。
【0099】
吸着シート300は、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PVC(ポリ塩化ビニル)、PP(ポリプロピレン)、フッ素樹脂(ポリフロン等)、ポリイミド(PI)、PC(ポリカーボネート)、ABS樹脂などの種々の材料から形成され得る。また、吸着シート300は、織布、不織布、多孔質フィルムなどから形成されていてもよい。吸着シート300の厚さは、例えば0.05〜3.0mm程度であり得る。
【0100】
多孔質の正面プレート222の表面は、ほぼ一様な吸引力を発揮し得るが、吸着シート300を載せることにより、第1領域300Aと第2領域300Bとで吸着力に差が生じる。正面プレート222の表面のうち、吸着シート300の非開口部によって覆われた領域は、空気を吸引できず、吸着力を発揮しない。吸着シート300は、多孔質の正面プレート222によって吸着された状態で使用され得る。吸着シート300を正面プレート222の表面に固定する方法は、吸着に限定されず、接着層または治具を介して正面プレート222またはステージ212に固定してもよい。
【0101】
既存の吸着ステージに吸着シート300を組み合わせて使用することにより、積層構造体100の様々な設計に容易に対応することができる。例えば、発光デバイス1000の形状、寸法、個数、または配列パターンが変更された場合、この変更に応じた吸着シートに交換すれば、ステージ212の吸着力の面内分布を変更することが容易である。言い換えると、ステージ212の全体を変更することなく、吸着シート300のみを交換すればよい。
【0102】
本実施形態において、吸着シート300における第1領域300Aの貫通孔300Hの面内個数密度(以下、単に「密度」)は、第2領域300Bの貫通孔300Hの密度よりも高い。言い換えると、第1領域300Aの開口率は第2領域300Bの開口率よりも高い。このため、第1領域300Aの吸着力(吸引力)に比べて第2領域300Bの吸着力は小さい。第2領域300Bにおける貫通孔の密度は第1領域300Aにおける貫通孔300Hの密度の0〜50%程度、好ましくは0〜30%程度である。ある態様において、第2領域300Bの貫通孔300Hの密度は0個/cm
2であってもよい。
【0103】
第1領域300Aと第2領域300Bとの間で吸着力の強弱を設ける方法は、吸着シート300における貫通孔300Hの密度に差を与えることに限定されない、貫通孔300Hの大きさおよび/または形状に差を与えることによっても開口率に差を与え、吸着力を調整することができる。更に、吸着シート300の第2領域300Bの厚さを第1領域300Aの厚さよりも小さくすることにより、積層構造体100が第1領域300Aに接しているとき、積層構造体100と第2領域300Bとの間に隙間が発生するようにしてもよい。そのような隙間の存在により、第2領域300Bの吸着力を低下させることが可能である。
【0104】
上記の構成を有するステージ212を用いることにより、
図5Aに示される状態において、ステージ212の第1領域300Aに接している樹脂膜30の複数のフレキシブル基板領域30dを、それぞれ、ステージ212の第1領域300Aに強く吸着させることができる。一方、樹脂膜30の中間領域30iとステージ212の第2領域300Bとの間には強い吸着力は発生していない。樹脂膜30の中間領域30iは、むしろガラスベース10に付着している。樹脂膜30の中間領域30iとガラスベース10との界面には剥離光が照射されているが、フォンデルワールス力などの分子間力などによって樹脂膜30の中間領域30iはガラスベース10に付着した状態を維持し得る。また、前述したように、樹脂膜30の端部に位置する中間領域30iの一部をピンまたは治具によってガラスベース10に固定しておけば、中間領域30iの全体をガラスベース10上に残すことが容易になる。
【0105】
更に、剥離光を照射するとき、樹脂膜30における中間領域30iの少なくとも一部に対して、照射強度を低下させてもよい。剥離光の照射強度が剥離に必要なレベルに達していないと、その部分で樹脂膜30の中間領域30iがガラスベース10に固着しているため、樹脂膜30の中間領域30iをガラスベース10に残すことが容易になる。
【0106】
このようなステージ212が積層構造体100の第2の表面100bを吸着した状態で、ステージ212からガラスベース10までの距離を拡大すると、積層構造体100のうちの不要な部分をガラスベース10とともに発光デバイス1000から分離することができる。積層構造体100のうちの不要な部分は、ステージ212の第2領域300Bに吸着されず、ガラスベース10に付着した状態を維持することができる。
【0107】
図9Aおよび
図9Bを参照しながら説明した構成例では、吸着シート300のうちで発光デバイス1000に接する第1領域300Aの形状および大きさが、発光デバイス1000の形状および大きさに一致しているが、本開示の実施形態は、この例に限定されない。第1領域300Aの吸着力が充分に強ければ、第1領域300Aは、個々の発光デバイス1000の全体ではなく、少なくとも一部に対向していればよい。
【0108】
図10は、他の構成例における吸着シート300を示す平面図である。吸着シート300の第1領域300Aは、積層構造体100に含まれる個々の発光デバイス1000をしっかりと吸着し、かつ、樹脂膜30の中間領域30iに接触しないかぎり、任意の形状および寸法を有し得る。
【0109】
図11Aは、吸着シート300の他の構成例における第1領域212Aと第2領域212Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図11Bは、
図11AのB−B線断面図である。この例において、第1領域300Aは、多孔質材料から形成された正面プレート222の表面212Sを露出させる大きな開口部300Pによって規定されている。一方、第2領域300Bは、多孔質材料から形成された正面プレート222の表面212Sを覆い、吸着力を低下させる機能を発揮する。図示される例において、第2領域300Bには貫通孔300Hが設けられているが、第2領域300Bに貫通孔300Hは不可欠ではない。
【0110】
<ステージの構造例2>
図12Aは、正面プレート222が多孔質材料ではなく、貫通孔を有するプレートから形成されたステージ212における第1領域212Aと第2領域212Bとの境界近傍の一部を拡大した模式図である。
図12Bは、
図12AのB−B線断面図である。
【0111】
この例において、第1領域212Aの貫通孔300Hの密度または開口率は第2領域212Bの貫通孔300Hの密度または開口率よりも高い。このため、第2領域212Bの吸着力は第1領域212Aの吸着力に比べて小さい。
【0112】
このようにステージ212そのものに吸着力が異なる複数の領域が設けられていてもよい。
【0113】
<剥離後の工程>
図13は、ステージ212に吸着された状態にある積層構造体100の第1部分110(発光デバイス1000)と、ステージ212から離れた位置にある第2部分120(ガラスベース10と付着物)とを示す斜視図である。積層構造体100のうち、発光デバイス1000を構成しない不要な部分がガラスベース10に付着している。
【0114】
図14は、ステージ212に吸着された状態にある積層構造体100の第1部分110を示す斜視図である。ステージ212に支持された積層構造体100の第1部分110は、行および列状に配列された複数の発光デバイス1000である。
図14の例においては、樹脂膜30のうち、フレキシブル基板領域30dの表面(剥離表面)30Sが露出している。
【0115】
図15は、ステージ212が発光デバイス1000を吸着している状態を示す断面図である。この断面は、ZX面に平行な断面である。
図15のZ軸の方向は、
図13および
図14のZ軸の方向から反転している。
【0116】
ステージ212に接触した複数の発光デバイス1000のそれぞれに対しては、順次または同時に、様々な処理を実行することができる。
【0117】
発光デバイス1000に対する「処理」は、複数の発光デバイス1000のそれぞれに、誘電体および/または導電体のフィルムを貼ること、クリーニングまたはエッチングを行うこと、ならびに、光学部品および/または電子部品を実装することを含み得る。具体的には、個々の発光デバイス1000のフレキシブル基板領域30dに対して、例えば、偏光板、封止フィルム、タッチパネル、放熱シート、電磁シールド、ドライバ集積回路などの部品が実装され得る。シート状の部品には、光学的、電気的、または磁気的な機能を発光デバイス1000に付加し得る機能性フィルムが含まれる。
【0118】
複数の発光デバイス1000がステージ212に吸着した状態で支持されているため、各発光デバイス1000に対する様々な処理が効率的に実行できる。
【0119】
ガラスベース10から剥離された樹脂膜30の表面30sは、活性であるため、表面30sを保護膜で覆ったり、疎水化の表面処理を行ったりした後、その上に各種の部品を実装してもよい。
【0120】
図16は、シート状の部品(機能性フィルム)60が実装された後、発光デバイス1000がステージ212から取り外された状態を模式的に示す断面図である。
【0121】
従来技術によれば、発光デバイス1000を分割する前に樹脂膜をガラスベースから剥離するため、その後の処理を行うときには、多数の発光デバイス1000が一枚の樹脂膜に固着した状態にある。そのため、個々の発光デバイス1000に対して効率的な処理を実行することが困難である。また、シート状の部品を取り付けた後に、発光デバイス1000を分割する場合、シート状部品のうち、隣接する2個の発光デバイス1000の中間領域に位置する部分は無駄になる。
【0122】
これに対して、本開示の実施形態によれば、ガラスベース10から剥離した後も多数の発光デバイス1000がステージ212上に整然と配列されているため、個々の発光デバイス1000に対して、順次または同時に、様々な処理を効率的に実行することが可能になる。
【0123】
積層構造体100を第1部分110と第2部分120とに分離する工程を行った後、
図17に示すように、ステージ212に接触した複数の発光デバイス1000に他の保護シート(第2の保護シート)70を固着する工程を更に実行してもよい。第2の保護シート70は、ガラスベース10から剥離した樹脂膜30のフレキシブル基板領域30dの表面を一時的に保護する機能を発揮し得る。第2の保護シート70は、前述の保護シート50と同様のラミネート構造を有し得る。保護シート50を第1の保護シート50と呼ぶことができる。
【0124】
第2の保護シート70は、ステージ212に接触した複数の発光デバイス1000のそれぞれに対して上記の様々な処理を実行した後、複数の発光デバイス1000に固着されてもよい。
【0125】
第2の保護シート70を付着した後、発光デバイス1000に対するステージ212による吸着を停止すると、第2の保護シート70に固着された状態にある複数の発光デバイス1000をステージ212から離すことができる。その後、第2の保護シート70は、複数の発光デバイス1000のキャリアとして機能し得る。これは、ステージ212から第2の保護シート70への発光デバイス1000の転写である。第2の保護シート70に固着された状態にある複数の発光デバイス1000のそれぞれに対して、順次または同時に、様々な処理を実行してもよい。
【0126】
図18は、複数の発光デバイス1000にそれぞれ実装される複数の部品(機能性フィルム)80を載せたキャリアシート90を示す断面図である。このようなキャリアシート90を矢印Uの方向に移動させることにより、各部品80を発光デバイス1000に取り付けることが可能である。部品80の上面は、発光デバイス1000に強く付着する接着層を有している。一方、キャリアシート90と部品80との間は、比較的弱く付着している。このようなキャリアシート90を用いることにより、部品80の一括的な「転写」が可能になる。このような転写は、複数の発光デバイス1000がステージ212に規則的に配置された状態で支持されているため、容易に実現する。
【0127】
以下、
図2の分割を行う前における積層構造体100の構成をより詳しく説明する。
【0128】
まず、
図19Aを参照する。
図19Aは、表面に樹脂膜30が形成されたガラスベース10を示す断面図である。ガラスベース10は、プロセス用の支持基板であり、その厚さは、例えば0.3〜0.7mm程度であり得る。
【0129】
本実施形態における樹脂膜30は、例えば厚さ5μm以上100μm以下のポリイミド膜である。ポリイミド膜は、前駆体であるポリアミド酸またはポリイミド溶液から形成され得る。ポリアミド酸の膜をガラスベース10の表面に形成した後に熱イミド化を行ってもよいし、ポリイミドを溶融または有機溶媒に溶解したポリイミド溶液からガラスベース10の表面に膜を形成してもよい。ポリイミド溶液は、公知のポリイミドを任意の有機溶媒に溶解して得ることができる。ポリイミド溶液をガラスベース10の表面30sに塗布した後、乾燥することによってポリイミド膜が形成され得る。
【0130】
ポリイミド膜は、発光デバイスがボトムエミッション型のフレキシブルディプレイの場合、可視光領域の全体で高い透過率を実現することが好ましい。ポリイミド膜の透明度は、例えばJIS K7105−1981に従った全光線透過率によって表現され得る。全光線透過率は80%以上、または85%以上に設定され得る。一方、トップエミッション型のフレキシブルディスプレイの場合には透過率の影響は受けない。
【0131】
樹脂膜30は、ポリイミド以外の合成樹脂から形成された膜であってもよい。ただし、本開示の実施形態では、薄膜トランジスタを形成する工程において、例えば350℃以上の熱処理を行うため、この熱処理によって劣化しない材料から樹脂膜30は形成される。
【0132】
樹脂膜30は、複数の合成樹脂層の積層体であってもよい。本実施形態のある態様では、フレキシブルディスプレイの構造物をガラスベース10から剥離するとき、ガラスベース10を透過する紫外線剥離光を樹脂膜30に照射するレーザリフトオフが行われる。樹脂膜30の一部は、ガラスベース10との界面において、このような紫外線剥離光を吸収して分解(消失)する必要がある。また、例えば、ある波長帯域の剥離光を吸収してガスを発生する犠牲層をガラスベース10と樹脂膜30との間に配置しておけば、その剥離光の照射により、樹脂膜30をガラスベース10から容易に剥離することができる。犠牲層を設けると、アッシュの生成が抑制されるという効果も得られる。
【0133】
<研磨処理>
樹脂膜30の表面30x上にパーティクルまたは凸部などの研磨対象(ターゲット)が存在する場合、研磨装置によってターゲットを研磨し平坦化してもよい。パーティクルにどの異物の検出は、例えばイメージセンサによって取得した画像を処理することによって可能である。研磨処理後、樹脂膜30の表面30xに対する平坦化処理を行ってもよい。平坦化処理は、平坦性を向上させる膜(平坦化膜)を樹脂膜30の表面30xに形成する工程を含む。平坦化膜は樹脂から形成されている必要はない。
【0134】
<下層ガスバリア膜>
次に、樹脂膜30上にガスバリア膜を形成してもよい。ガスバリア膜は、種々の構造を有し得る。ガスバリア膜の例は、シリコン酸化膜またはシリコン窒化膜などの膜である。ガスバリア膜の他の例は、有機材料層および無機材料層が積層された多層膜であり得る。このガスバリア膜は、機能層領域20を覆う後述のガスバリア膜から区別するため、「下層ガスバリア膜」と呼んでもよい。また、機能層領域20を覆うガスバリア膜は、「上層ガスバリア膜」と呼ぶことができる。
【0135】
<機能層領域>
以下、TFT層20Aおよび発光素子層20Bなどを含む機能層領域20、ならびに上層ガスバリア膜40を形成する工程を説明する。
【0136】
まず、
図19Bに示されるように、複数の機能層領域20をガラスベース10上に形成する。ガラスベース10と機能層領域20との間には、ガラスベース10に固着している樹脂膜30が位置している。
【0137】
機能層領域20は、より詳細には、下層に位置するTFT層20Aと、上層に位置する発光素子層20Bとを含んでいる。TFT層20Aおよび発光素子層20Bは、公知の方法によって順次形成される。発光デバイスがディスプレイの場合、TFT層20Aは、アクティブマトリクスを実現するTFTアレイの回路を含む。発光素子層20Bは、各々が独立して駆動され得る発光素子(OLED素子および/またはマイクロLED素子)のアレイを含む。
【0138】
マイクロLED素子のチップサイズは、例えば、100μm×100μmよりも小さい。マイクロLED素子は、放射する光の色または波長に応じて異なる無機半導体材料から形成され得る。同一の半導体チップが組成の異なる複数の半導体積層構造を含み、それぞれの半導体積層構造から異なるR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の光が放射されてもよい。また、周知のように、紫外光を放射する半導体チップ、または青色光を放射する半導体チップと、種々の蛍光体材料とを組み合せることにより、R、G、Bの光を放射させてもよい。
【0139】
TFT層20Aの厚さは例えば4μm程度であり、OLED素子を含む発光素子層20Bの厚さは、例えば1μmである。マイクロLED素子を含む発光素子層20Bの厚さは、例えば10μm以上であり得る。
【0140】
図20は、発光デバイスの一例であるディスプレイにおけるサブ画素の基本的な等価回路図である。ディスプレイの1個の画素は、例えばR、G、Bなどの異なる色のサブ画素によって構成され得る。
図20に示される例は、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、保持容量CH、および発光素子ELを有している。選択用TFT素子Tr1は、データラインDLと選択ラインSLとに接続されている。データラインDLは、表示されるべき映像を規定するデータ信号を運ぶ配線である。データラインDLは選択用TFT素子Tr1を介して駆動用TFT素子Tr2のゲートに電気的に接続される。選択ラインSLは、選択用TFT素子Tr1のオン/オフを制御する信号を運ぶ配線である。駆動用TFT素子Tr2は、パワーラインPLと発光素子ELとの間の導通状態を制御する。駆動用TFT素子Tr2がオンすれば、発光素子ELを介してパワーラインPLから接地ラインGLに電流が流れる。この電流が発光素子ELを発光させる。選択用TFT素子Tr1がオフしても、保持容量CHにより、駆動用TFT素子Tr2のオン状態は維持される。
【0141】
TFT層20Aは、選択用TFT素子Tr1、駆動用TFT素子Tr2、データラインDL、および選択ラインSLなどを含む。発光素子層20Bは発光素子ELを含む。発光素子層20Bが形成される前、TFT層20Aの上面は、TFTアレイおよび各種配線を覆う層間絶縁膜によって平坦化されている。発光素子層20Bを支持し、発光素子層20Bのアクティブマトリクス駆動を実現する構造体は、「バックプレーン」と称される。
【0142】
図20に示される回路要素および配線の一部は、TFT層20Aおよび発光素子層20Bのいずれかに含まれ得る。また、
図20に示されている配線は、不図示のドライバ回路に接続される。
【0143】
本開示の実施形態において、TFT層20Aおよび発光素子層20Bの具体的な構成は多様であり得る。これらの構成は、本開示の内容を制限しない。TFT層20Aに含まれるTFT素子の構成は、ボトムゲート型であってもよいし、トップゲート型であってもよい。また、発光素子層20Bに含まれる発光素子の発光は、ボトムエミション型であってもよいし、トップエミション型であってもよい。発光素子の具体的構成も任意である。
【0144】
TFT素子を構成する半導体層の材料は、例えば、結晶質のシリコン、非晶質のシリコン、酸化物半導体を含む。本開示の実施形態では、TFT素子の性能を高めるために、TFT層20Aを形成する工程の一部が350℃以上の熱処理工程を含む。
【0145】
<上層ガスバリア膜>
上記の機能層を形成した後、
図19Cに示されるように、機能層領域20の全体をガスバリア膜(上層ガスバリア膜)40によって覆う。上層ガスバリア膜40の典型例は、無機材料層と有機材料層とが積層された多層膜である。なお、上層ガスバリア膜40と機能層領域20との間、または上層ガスバリア膜40の更に上層に、粘着膜、タッチスクリーンを構成する他の機能層、偏光膜などの要素が配置されていてもよい。上層ガスバリア膜40の形成は、薄膜封止(Thin Film Encapsulation:TFE)技術によって行うことができる。発光素子層20BがOLED素子を含む場合、封止信頼性の観点から、薄膜封止構造のWVTR(Water Vapor Transmission Rate)は、典型的には1×10
-4g/m
2/day以下であることが求められている。本開示の実施形態によれば、この基準を達成している。上層ガスバリア膜40の厚さは例えば2.0μm以下である。
【0146】
図21は、上層ガスバリア膜40が形成された段階における積層構造体100の上面側を模式的に示す斜視図である。1個の積層構造体100は、ガラスベース10に支持された複数の発光デバイス1000を含んでいる。
図21に示される例において、1個の積層構造体100は、
図1Aに示される例よりも多くの機能層領域20を含んでいる。前述したように、1枚のガラスベース10に支持される機能層領域20の個数は任意である。
【0147】
<保護シート>
次に
図19Dを参照する。
図19Dに示されるように、積層構造体100の上面に保護シート50を張り付ける。保護シート50は、保護シート50は、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ塩化ビニル(PVC)などの材料から形成され得る。前述したように、保護シート50の典型例は、離型剤の塗布層を表面に有するラミネート構造を有している。保護シート50の厚さは、例えば50μm以上200μm以下であり得る。
【0148】
こうして作製された積層構造体100を用意した後、前述の製造装置(剥離装置220)を用いて本開示による製造方法を実行することができる。