(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のシェルターでは、シェルターが海上を浮遊している時、シェルター底部に開口する排出口の出口は海水中に位置する。よって、海水中に位置する排出口からは、海水がシェルター内部に流入することはあっても、シェルター内部に流入した海水が排出されることはない。また、特許文献1の発泡スチロール製のシェルターでは、シェルターを海水に沈み込ませるための重りは、シェルター室内にある避難者、ペットボトル等の総重量であり、構造体としての重りではないので不安定であり、重心移動によりシェルターが横転し易い。また、排出口が貫通形成される床部の厚さを厚くしないと、シェルターの最下面から水面までの距離である喫水、つまりシェルターが海水に沈む深さを確保できないことからも、シェルターが横転し易い。
【0006】
特許文献2のシェルターは、安定性は良好かもしれないが、球体と突出体とを含む複雑な構造により製造が困難である。また、万一開放されたハッチ蓋を介して、シェルター室内を構成する球体内に浸水すると、球体外に排水することは極めて困難である。
【0007】
本発明の幾つかの態様は、不完全水密性の箱型構造体内の避難室に浸水しても容易に排水できる製造が容易な避難用構造物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様は、
少なくとも一つのハッチ扉を備えた不完全水密性の箱型構造体と、
前記箱型構造体に設けられたフロートと、
一端が前記箱型構造体の内部に開口し、他端が前記箱型構造体の満載喫水線よりも上方の位置にて前記箱型構造体の外壁に開口する少なくとも一つの排水管と、
前記少なくとも一つの排水管に設けられ、前記箱型構造体の内部への水の流入を防止し、かつ、前記箱型構造体の内部からの排水の水圧が作用した時に開く弁を備える逆止弁と、
を有する避難用構造物に関する。
【0009】
本発明の一態様(1)によれば、水害時には一部のフロートが水没して浮力が作用して、避難用構造物に上限の積載量が搭載されたときの満載喫水線(load water line:LWL)以下の位置に喫水線(箱型構造体外の水面の位置)が設定されて、避難用構造物は浮遊可能である。特に、排水管の他端は満載喫水線よりも上方の位置に開口しているので、排水管には排水を阻害する箱型構造体の外部からの水圧は作用しない。排水管は、箱型構造体の内部からの排水の水圧が作用した時に開く弁を備える逆止弁を有する。よって、箱型構造体の内部に開口する一端が水没し、かつ、他端が箱型構造体外の水面の上方に位置する排水管により、円滑な排水作用が確保される。従って、箱型構造体内の避難室が水浸しとなることを防止できる。しかも、排水管には逆止弁が設けられているので、排水管を介して箱型構造体の内部に水が流入することが防止される。
【0010】
(2)本発明の一態様では、前記フロートは、前記箱型構造体内が浸水で満たされても、前記箱型構造体を完全に水没させない体積が確保されている。この時の喫水線である最大荷重喫水線(Max load water line:MLWL)は、後述する通り、箱型構造体の天面よりも低い位置に設定されるように計算される。こうすると、箱型構造体が沈没することはなく、避難者は、箱型構造体内にとどまるか、あるいは少なくとも一つのハッチ扉を介して避難用構造物の外部に脱出して待機していれば、救助可能となる。
【0011】
(3)本発明の態様(1)または(2)では、
前記箱型構造体の内部に配置され、前記満載喫水線よりも上方の位置に床面を有する床盤をさらに有し、
前記少なくとも一つの排水管は、前記一端が前記床盤の前記床面以下の高さに開口していてもよい。
【0012】
本発明の一態様(3)によれば、箱型構造体内に水が流入しても、床面以下の高さに開口する排水管を介して排水できる。よって、床面上が水浸しになることを防止できる。
【0013】
(4)本発明の態様(3)では、
前記床盤の下方の位置にて前記箱型構造体の内部に配置される排水貯蓄室をさらに有し、
前記床盤は、上下に貫通する貫通孔を含み、
前記少なくとも一つの排水管は、前記一端が前記排水貯蓄室に開口していてもよい。
【0014】
本発明の一態様(4)によれば、箱型構造体内に水が流入しても、床盤に貫通する貫通口から床盤の下方の排水貯蓄室に速やかに排水される。従って、浸水量が比較的大量であっても、床盤の上方の避難室が水浸しとなることを防止できる。排水貯蓄室に集められる水は、排水管を介して箱型構造体の外部に排水される。
【0015】
(5)本発明の一態様(1)〜(4)では、
前記少なくとも一つの排水管の前記他端は、鉛直方向での高さが順次高くなるN(Nは2以上の整数)個の異なる高さ位置にて前記外壁に開口するN個の排水出口を有することができる。不完全水密性の箱型構造体内に水が流入して、流入された水の分だけ重量が増加して喫水線が満載喫水線LWLよりも上方に移行しようとしても、排水管の一端から流入する水を、全N個の排水出口のうち喫水線よりも上方にて開口するいずれかの排水管の排水出口から排水し続けることができる。こうして、避難用構造物に流入した水を高さの異なる複数の排水出口を介して排出し続けることで、喫水線が満載喫水線LWLを超えないようにすることができる。
【0016】
(6)本発明の一態様(4)では、
前記少なくとも一つの排水管は、前記N個の排水出口と、前記N個の排水出口とそれぞれ分離されて連通するN個の排水入口と、を含むN個の排水管を有することができる。つまり、一つの排水入口がN個の排水出口に連通していても良いし、N個の排水入口をそれぞれN個の排水出口に分離させて連通させても良い。
【0017】
(7)本発明の一態様(5)または(6)では、
満載時の前記箱型構造体の内部の空間が浸水で満たされた最大荷重の時の最大荷重喫水線は、前記N個の排水出口の少なくとも一つの位置よりも低い位置とすることができる。こうすると、満載時の箱型構造体の内部の空間が浸水で満たされる以前に、換言すれば最大荷重喫水線MLWLに到達する以前に、喫水線よりも高い位置にある高さの異なるN個の排水出口の少なくとも一つ、好ましくはN個の排水出口から、浸水した水を排水し続けることができる。よって、通常の使用形態では箱型構造体の内部の空間が浸水で満たされることはなく、最大荷重喫水線MLWLに到達するような事態も起こりえない。
【0018】
(8)本発明の一態様(1)〜(7)では、前記満載喫水線の下方に、前記箱型構造体に復元力を付与する重りを配置することができる。この重りは、避難用構造物の横転防止のためのバランサーとして機能する。
【0019】
(9)本発明の一態様(8)では、前記箱型構造体の横断面の輪郭が、底部と頂部との各水平幅が、前記底部と前記頂部との間の位置での水平幅よりも狭い多角形に形成されることが好ましい。こうすると、避難用構造物が横転しようとしても重りによる復元がし易くなる。
【0020】
(10)本発明の一態様(1)〜(9)では、前記箱型構造体は、骨組み構造体と、前記骨組み構造体の上面に取り付けられる天井壁とを有し、前記天井壁は、前記箱型構造体に設けられる前記少なくとも一つのハッチ扉から脱出可能な天面領域を囲んで配置される手すりを有することができる。こうすると、ハッチ扉を介して天井壁の外部に脱出した避難者は、天井壁に設けられた手すりにつかまった状態で、安全に救助を待機することができる。また、万一組み構造体から天井壁が離脱されても、天井壁は筏のように浮上したまま避難者を搭載し続けることができる。
【0021】
(11)本発明の一態様(1)〜(10)では、前記箱型構造体は、前記箱型構造体の長手軸と直交する横断面視で対向している2つの外壁側より前記箱型構造体外の水面上に突出可能な複数のスタビライザー盤を収容することができる。箱型構造体の対向する2つの外壁側より複数のスタビライザー盤を箱型構造体外の水面上に突出させることで、箱型構造体の横転が防止されて姿勢が安定する。
【0022】
(12)本発明の一態様(11)では、前記複数のスタビライザー盤の各々は、前記箱型構造体内に折り畳まれて収納されてもよい。こうすると、避難用構造物の幅を大きくしなくてもスタビライザー盤を収納するスペースが確保される。
【0023】
(13)本発明の一態様(11)では、前記複数のスタビライザー盤の各々は、前記箱型構造体外に回動自在に支持され、立設状態で収容されてもよい。こうすると、避難用構造物の内部が複数のスタビライザー盤の収容スペースとして占有されない。なお、複数のスタビライザー盤は2つの外壁のいずれか一方と空隙を隔てて収容されるようにすれば、その外壁に排水管が設けられたとしても、その排水管の他端が塞がれることがない。
【0024】
(14)本発明の一態様(13)では、前記複数のスタビライザー盤の少なくとも一つを立設状態で係止する係止部と、前記複数のスタビライザー盤の少なくとも一つが前記係止部によって係止された状態を、前記箱型構造体の内部で操作されることで解除する解除操作部と、をさらに有することができる。こうすると、避難時に箱型構造体内に避難した避難者は、箱型構造体の浮上を確認した後に、箱型構造体の内部で解除操作部を操作して、複数のスタビライザー盤を箱型構造体外の水面上に突出させることができる。
【0025】
(15)本発明の一態様(1)〜(14)では、前記箱型構造体は、前記箱型構造体に推進力を付与する推進具を取り付ける取付部を備えることができる。推進具として、電動式スクリューや手動式オールを挙げることができる。推進具を取り付けることによって、水面上を自走可能な自走式避難用構造物を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0028】
1.第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態である避難用構造物1を示す。
図1において、避難用構造物1は、箱型構造体6を含む。箱型構造体6は、例えば骨組み構造体2と外壁3とにより構成される。骨組み構造体2は、例えば鋼管等の梁2Aや柱(図示せず)により形成される。骨組み構造体2の例えば六面には、例えば鋼板等の外壁3が支持される。六面の外壁3の少なくとも一面例えば四面には、
図1及び
図2に示すようにハッチ扉4が設けられる。ハッチ扉4は、外壁3に形成される穴部にハッチ枠5が組みつけられ、ハッチ枠5に対してヒンジ等により開閉可能に支持される。ハッチ扉4はハッチ枠5に対して水密にシールされることが好ましい。箱型構造体6の下部には、地上に設置される基礎構造と連結するための鋼材等で形成される土台2Bを設けることができる。土台2Bは階下の構造体と連結され、避難用構造物1が階上に設置されてもよい。土台2Bは、基礎又は階下との連結を容易に、好ましくは箱型構造体6内での操作により解除して、水害時には浮上可能である。
【0029】
箱型構造体6の例えば内部にフロート10が設けられる。フロート10は密度が水よりも小さい(比重が1未満)材料で形成され、例えば密度45kg/m
3のポリスチレンが用いられる。
図1では、六面の外壁3のうちの底壁3A上にフロート10Aが配置される。このフロート10Aの大部分が水没することで、
図2に示すように避難用構造物1が浮遊する浮力が確保される。
【0030】
図1には、満載喫水線LWL(load water line)が示されている。満載喫水線LWLの位置は次の通り求められる。先ず、満載時の避難用構造物1の総重量が求められる。この総重量とは、避難用構造物1自体の総重量と、避難用構造物1内への満載時の総重量との和である。避難用構造物1内への満載時の総重量には、最大収容人員の想定される総体重(例えば人員数×65kg)や、搭載物(飲料用ペットボトルや救急用具等)の総重量が含まれる。そして、満載喫水線LWLの位置は、避難用構造物1が水没する深さをHとしたとき、(深さHで水没する避難用構造物1が水を排除する体積)×(水の比重)=(満載時の避難用構造物1の総重量)が成立する深さHとして求められる。なお、本明細書において、「水」とは、海水、淡水または海水と淡水とが混在した汽水等を含む。
【0031】
図1において、箱型構造体6の満載喫水線LWLよりも上方の位置にて、箱型構造体6の内部に床盤20が配置される。床盤20と、天井壁3Bと、2つの側壁3C,3Dとに囲まれた空間が、避難室30の最大体積である。床盤20は、満載喫水線LWLよりも高い位置に床面21を有する。床盤20は、上下に貫通する一つ以上例えば複数の排水口20Aを備える。床盤20の下面と、床盤20の下方に位置するフロート10Aの上面との間に、排水貯蓄室40が設けられる。本実施形態では、排水貯蓄室40の底板として、フロート10Aの上面には防水板41が設けられている。それにより、排水貯蓄室40内の水がフロート10A側に漏れることがない。排水貯蓄室40は、箱型構造体6の満載喫水線LWLよりも上方にて箱型構造体6の内部に配置される。万一避難室30に浸水すると、床盤20の床面21に開口する排水口20Aを介して排水貯蓄室40に配水される。従って、避難室30への浸水量が比較的大量であっても、床盤20の上方の避難室30が水浸しとなることを防止できる。なお、排水貯蓄室40は、
図1のように床盤20の下方全域に設けるものに限らず、床盤20の下方の一部(例えば周縁領域)に設けても良い。
【0032】
排水貯蓄室40に集められた水を箱型構造体6の外部に配水するために排水管50が設けられる。排水管50は、一端の入口50Aが箱型構造体6の内部例えば排水貯蓄室40に開口し、他端の出口50Bが満載喫水線LWLの上方にて側壁3C,3D外部に開口する。こうして、排水貯蓄室40に集められる水は、排水管50を介して箱型構造体の外部に排水される。特に、排水管50の出口50Bは満載喫水線LWLよりも上方に開口しているので、排水管には排水を阻害する外圧となる水圧は作用しない。よって、排水管50での円滑な排水作用が確保される。排水管50は、入口50Aよりも出口50Bが低い位置に設定され、特に入口50Aから出口50Bに向けて水勾配が設定されていることが好ましい。こうして、床盤20の上方の避難室30に水が貯まることが防止される。なお、排水貯蓄室40を設けずに、排水管50の一端を床盤20の床面21の高さ以下の位置に開口するように配置しても良い。
【0033】
本実施形態では、排水管50は、箱型構造体6の外部からの水の流入を防止する逆止弁60を備えることができる。こうして、排水管50を介して箱型構造体6の内部に水が流入することが防止される。特に、逆止弁60は、
図3に示すように、排水貯蓄室40からの排水の水圧が作用した時に開く弁61を備えることができる。弁61は、例えばヒンジ62により回動自在に垂下して支持される。それにより、排水貯蓄室40からの排水の水圧が作用しない時には、弁61は弁61自体の自重により垂下されて、排水管50の出口50Bを閉鎖する。よって、常時は弁61により排水管50の出口50Bから入口50Aに向かう逆流は防止される。排水貯蓄室40からの排水により所定の水圧が弁61に作用すると、弁61は
図3の矢印方向に回動して開放される。
図3では、弁61やヒンジ62を包囲して保護するカバー63を設けている。逆止弁60は他の構造を採用しても良く、カバー63を設けなくても良い。なお、排水管50や逆止弁60は、
図2に示すように、箱型構造体6が略直方体であるとき、その略直方体の長手軸と平行な2つの側壁3C,3Dにそれぞれ一つまたは複数設けることに加え、略直方体の長手軸と直交する2つの端壁3E,3Fにも設けることができる。
【0034】
本実施形態では、満載喫水線LWLの下方に位置する底壁3Aに、風や波で傾く箱型構造体6に復元力を付与する重り70を配置することができる。この重り70は、避難用構造物1の横転防止のためのバランサーとして機能する。そのため、重り70は、
図2に示す避難用構造物1の横断面の中心に位置する。また、
図2に示すように、箱型構造体6が略直方体である場合には、重り70は、略直方体の長手軸に沿って配置することが好ましい。
【0035】
本実施形態では、フロート10は、箱型構造体6内に浸水しても、箱型構造体6を完全に水没させない体積が確保されていることが好ましい。
図1に示す避難室30に浸水すると、避難用構造物1の総重量が増加し、満載喫水線LWLを超える位置に喫水線が上昇する。その場合でも、避難用構造物1を完全に水没させないために、箱型構造体6の避難室30にフロート10Bを増設することができる。避難用構造物1に浸水があったとしても避難用構造物1が完全に水没することがないので、避難室30には完全水密性が求められない。本実施形態では、天井壁3Bの内側にフロート10Bを増設しているが、床盤20、2つの側壁3C,3Dの内側にもフロート10Bを増設することが好ましい。この増設フロート10Bが水を排除する体積に比例して浮力が増加するので、避難用構造物1を完全に水没させないようにすることができる。このために、本実施形態では、フロート10A,10A1,10B,10B1の全てが水没することで水を排除する体積Vに水の密度ρを乗じた重量V×ρ×G(Gは重力加速度)を、避難用構造物1の総重量よりも大きくしている。特に、フロート10は、箱型構造体6内に浸水しても、排水管50の出口50Bが箱型構造体外の水面の上方に位置するように、箱型構造体6を完全に水没させない体積が確保されている。なお、避難用構造物1の総重量には、最大搭載人数の体重や搭載設備の重量を含めても良いし、含めなくても良い。実際には、フロート以外の部材も水を排除するのでV×ρ×Gよりも大きな浮力が得られ、避難用構造物1自体の重量以外は無視しても良い場合がある。
【0036】
ここで、箱型構造体6は完全に水密シールされていない不完全水密性であってよく、避難される少なくとも数時間に亘って大量の水が一気に侵入されるものでなければよい。不完全水密性の箱型構造体6は構造原理上自ずと空気孔を含むことができ、あるいは箱型構造体6の上部側に空気孔を配置しても良い。それにより、ハッチ扉4を密閉しても避難者が窒息することはない。
【0037】
図4は、箱型構造体6内に浸水した状態での避難用構造物1の浮遊状態を示している。この場合、少なくとも天井壁3Bの天面は喫水線よりも上方の位置に確保される。従って、
図4のような状態では、避難者は天井壁3Bのハッチ扉4を介して天井壁3Bの天面に脱出すればよい。このとき、天井壁3Bのハッチ扉4と対向する位置のフロート10B1は取外し可能とするか、あるいはその位置にフロート10B1を設けないでおくと、脱出の妨げとならない。
【0038】
上記の通り、避難室30内に増設フロート10Bを設けると、避難用構造物1が如何なる姿勢となっても完全に水没することはなく、少なくとも一つのハッチ扉4を介して避難用構造物1の外部に脱出して待機していれば、人命を救助可能となる。また、増設フロート10Bが避難室30を囲む六面に配置されると、発泡体などで形成されるフロート10Bは揺れや横転時に避難者を保護するクッション材として利用できる。
【0039】
上述した通り、ハッチ扉4は、六面の外壁3うちの略直方体の長手軸と平行な四面である底壁3A、天井壁3B、及び2つの側壁3C,3Dに設けることができる。箱型構造体6が万一横転する場合、箱型構造体6の長手軸と平行な四面のいずれかが上向きとなる姿勢で安定する。従って、箱型構造体6の長手軸と平行な四面である底壁3Aと、天井壁3Bと、2つの側壁3C,3Dとにハッチ扉4を設けておけば、横転時に箱型構造体6からの脱出が容易となる。なお、
図1において、底壁3Aのハッチ扉4と対向する位置のフロート10A1、床盤20及び防水板41の一部は取外し可能とするか、あるいはその位置にフロート10A1を設けないでおくと、脱出の妨げとならない。
【0040】
本実施形態では、
図2に示すように、2つの側壁3C,3Dの一方3Cに設けられるハッチ扉4は、略直方体の長手軸の方向で両端に位置する2つの端壁3E,3Fの一方3Eに偏った位置に配置することができる。同様に、2つの側壁3C,3Dの他方3Dに設けられるハッチ扉4は、2つの端壁3E,3Fの他方3Fに偏った位置に配置することができる。こうすると、2つの端壁3E,3Fの何れかかが天面となるように避難用構造物1が縦に反転しても、2つの側壁3C,3Dのいずれか一方に設けたハッチ扉4が水面より上に配置され易くなり、避難用構造物1からの脱出が可能となる。
【0041】
本実施形態では、少なくとも一つのハッチ扉4が
図1または
図4に示すように天井壁3Bに設けられる場合には、天井壁3Bは、例えばヒンジ81により立て起こし自在な手すり80を有することができる。こうすると、ハッチ扉4を介して天井壁3Bの外部に脱出した避難者は、天井壁3Bに設けられた手すり80を立て起こすことで、手すり80につかまった状態で、安全に救助を待機することができる。なお、
図4では、立て起こされた状態で手すり80を維持するため、隣り合う手すり80同士が4つの連結具82で連結されている。
【0042】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できるであろう。従って、このような変形例はすべて本発明の範囲に含まれるものとする。例えば、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。また本実施形態及び変形例の全ての組み合わせも、本発明の範囲に含まれる。
【0043】
2.第2実施形態
図5は、本発明の第2実施形態に係る避難用構造物1Aを示す。第1実施形態では、避難室30に浸水して喫水線が満載喫水線LWLよりも上昇すると、逆止弁60の弁61が外部の水圧によって閉鎖される。そうすると、排水管50を介した排水が不可能となる。
図5に示す避難用構造物1Aは、避難室30に浸水して喫水線が上昇した時に避難室30内を水抜きする追加の排水管90を有する。
【0044】
図5において、床盤20と交差する外壁3C〜3Fの少なくとも一つ、例えば外壁3Cに、追加の排水管90が設けられる。この排水管90は、避難室30の下部に開口する一端90Aが排水入口となる。排水管90は、外壁3Cの外側に開口する複数の分岐端(排水出口とも言う)90B1〜90Bm(mは2以上の整数)がそれぞれ排水出口となる。
【0045】
複数の分岐端90B1〜90Bmの各々は、排水管50の出口50Bと同一の構造を有する。つまり、複数の分岐端90B1〜90Bmの各々は、逆止弁60(弁61及びヒンジ62)とカバー63とを有する。よって、複数の分岐端90B1〜90Bmでは、避難室30の水圧が排水管90の入口90Aを介して作用すると、
図3に示す弁61が開放されて排水可能となる。
【0046】
複数の分岐端90B1〜90Bmを設けた理由は、避難室30に浸水して喫水線が満載喫水線LWLよりも上昇しようとしても、複数の分岐端90B1〜90Bmの少なくとも一つが喫水線よりも上方に配置されるので、避難室30内の水圧によって、浸水した水を排水させることができるからである。それにより、喫水線が満載喫水線LWLよりも上昇することを防止できる。
【0047】
3.第3実施形態
図6及び
図7は、本発明の第3実施形態に係る避難用構造物100を示す。避難用構造物100は、横断面の輪郭が、第1、第2実施形態のような四角形よりも角数が多い多角形例えば略六角形である。特に、浮遊状態での避難用構造物100は、
図6に示すように、底部(底壁)103Aの水平幅W1と頂部(天井壁)103Bの水平幅W2とが、底部103Aと頂部103Bとの間の位置での水平幅W3よりも狭い(W1<W3,W2<W3)。特にW1<W3であると、避難用構造物100が横転しようとしても、第1、第2実施形態の避難用構造物1、1Aよりも正立状態に復元し易くなる。
【0048】
避難用構造物100は、
図7に示すように、例えば骨組み構造体102、壁材(底壁103A、天井壁103B、側壁103C,103D等)及びフロート110により形成される箱型構造体106を有し、箱型構造体106の横断面の輪郭は略六角形である。外部に露出するフロート110は、露出面が鉄板などで覆われても良い。ハッチ扉104は、第1実施形態のハッチ扉4と同様の位置に配置される。つまり、ハッチ扉104は、箱型構造体106の長手軸と平行な四面である底壁103A、天井壁103B及び2つの側壁103C,103Dに設けることができる。避難用構造物100が万一横転する場合、箱型構造体106の長手軸と平行な四面のいずれかが上向きとなる姿勢で安定する。従って、箱型構造体106の長手軸と平行な四面である底壁103A、天井壁103B及び2つの側壁103C,103Dにハッチ扉104を設けておけば、横転時に避難用構造物100からの脱出が容易となる。
【0049】
箱型構造体106の内部には床盤120が配置され、床盤120の下方であってハッチ扉104を避けた位置に重り170が配置される。箱型構造体106の頂部103Bには手すり180が設けられ、第1実施形態の手すり80と同様に折りたたみ可能である。
【0050】
箱型構造体106は、
図5に示す排水管90を有することができ、あるいは排水管90に代えて、
図7に示すように複数の排水管150を有することができる。複数の排水管150の各々は、一端150Aが避難室130に開口し、その他端150Bは箱型構造体106の側壁103C,103Dに開口している。なお、
図6では複数の排水管150の他端150Bの開口は省略されている。また、複数の排水管150の各々は、弁161を備えた逆止弁160を有する。複数の排水管150は、それぞれ異なる高さ位置に配置されている。こうして、複数の排水管150は、異なる高さに分岐端90B1〜90Bmを有する
図5の排水管90と同様に作用する。
図7の構造においても、
図5に示す排水貯蓄室40及び排水管50を設けることができる。こうして、床盤120の床面よりも上方の避難室130に水が貯まることが防止される。
【0051】
4.第4実施形態
図8〜
図10は、本発明の第4実施形態に係る避難用構造物200を示す。避難用構造物200は、横断面の輪郭が、第1、第2実施形態のような四角形よりも角数が多い多角形例えば略八角形である。特に、浮遊状態での避難用構造物200は、底部(底壁)203Aの水平幅と頂部(天井壁)203Bの水平幅とが、底部203Aと頂部203Bとの間の位置での水平幅よりも狭い。こうすると、避難用構造物200が横転しようとしても、第1、第2実施形態の避難用構造物1、1Aよりも正立状態に復元し易くなる。
【0052】
避難用構造物200は、
図10に示すように、例えば骨組み構造体202、壁材(底壁203A、天井壁203B、側壁203C,203D等)及びフロート210等により形成される箱型構造体206を有し、箱型構造体206の横断面の輪郭が略八角形である。ハッチ扉204は、第1実施形態のハッチ扉4と同様の位置に配置される。つまり、ハッチ扉204は、箱型構造体206の長手軸と平行な四面である底壁203A、天井壁203B及び2つの側壁203C,203Dに設けることができる。避難用構造物200が万一横転する場合、箱型構造体206の長手軸と平行な四面のいずれかが上向きとなる姿勢で安定する。従って、箱型構造体206の長手軸と平行な四面である底壁203A、天井壁203B及び2つの側壁203C,203Dにハッチ扉204を設けておけば、横転時に避難用構造物200からの脱出が容易となる。
【0053】
箱型構造体206の内部には床盤220が配置され、床盤220の下方であってハッチ扉204を避けた位置に重り270が配置される。箱型構造体206の頂部203Bには手すり280が設けられる。手すり280は、第1実施形態の手すり80と同様に折りたたみ可能としてもよいが、
図8に示す不使用時の位置と
図9に示す使用時の位置とに位置調整できるようにしても良い。
【0054】
箱型構造体206は、
図5に示す排水管90を有することができ、あるいは排水管90に代えて、
図10に示すように、
図7の複数の排水管150と同様な複数の排水管250を有することができる。なお、
図8及び
図9では複数の排水管250の他端の開口は省略されている。複数の排水管250は、異なる高さに分岐端90B1〜90Bmを有する
図5の排水管90と同様に作用する。
図10の構造においても、
図5に示す排水貯蓄室40及び排水管50を設けることができる。こうして、床盤220の上方の避難室230に水が貯まることが防止される。
【0055】
5.第5実施形態
図11及び
図12は、本発明の第5実施形態に係る避難用構造物300を示す。避難用構造物300は、以下で説明するスタビライザー盤310の収容構造を除いて、本発明の第4実施形態と同じ構造を有する。ただし、スタビライザー盤310は、本発明の第1実施形態〜第4実施形態のいずれの避難用構造物に追加しても良い。
【0056】
避難用構造物300は、避難用構造物300の箱型構造体206のうち、横断面視で対向する2つの側壁203C,203Dより水平に突出可能な複数のスタビライザー盤310を収容することができる。避難用構造物300の浮遊時には、避難用構造物300の2つの側壁203C,203Dより複数のスタビライザー盤310を水平に突出させる。こうすると、スタビライザー盤310が水と接触することで生ずる抵抗力により、避難用構造物300の横転が防止されて姿勢が安定する。スタビライザー盤310は、特に
図6以降の各図に示すように縦断面が多角形で横転し易い箱型構造体に設けることが好ましい。スタビライザー盤310は、異なる高さ位置の複数段に配置しても良い。
【0057】
複数のスタビライザー盤310は、
図13(A)に示すように、避難用構造物300の箱型構造体206に収容可能である。ここで、スタビライザー盤310は、
図13(A)に示すように、ヒンジで連結されて折り畳み可能な第1,第2のスタビライザー盤311,312を含むことができる。スタビライザー盤310を突出させるには、
図13(A)に示す収容状態から、
図13(B)に示すようにスタビライザー盤310を外方にスライドさせる。このスライド移動は、例えば
図10に示す床盤220上で行うことができる。次に、
図13(C)に示すように、第2のスタビライザー盤312を第1のスタビライザー盤311に対して90°回転させて起立させる。その後、
図13(D)に示すように、スタビライザー盤310をスライドさせながら、第2のスタビライザー盤312を第1のスタビライザー盤311に対してさらに90°回転させる。こうして、第1,第2のスタビライザー盤311,312を平板状態として、スタビライザー盤310を最終位置まで突出させることができる。このようにすると、避難用構造物300を無駄に大きくしなくても、所定の突出長となるスタビライザー盤310を避難用構造物300内に収容することができる。
【0058】
6.第6実施形態
6.1. 外観および内部構造
図14〜
図18は、発明の第6実施形態に係る避難用構造物400を示す。避難用構造物400は箱型構造体406を有する。箱型構造体406のうち、本発明の第4実施形態に係る避難用構造物200の箱型構造体206と同一機能を有する部材については、箱型構造体206と同一符号を付し、その説明を省略する。また、箱型構造体206として既に説明された部材のうち、箱型構造体406として変更されていない部材については、箱型構造体406にも備えられているものとする。
【0059】
箱型構造体406は、
図14及び
図15に示すように、その長手軸と直交する方向する横断面視で対向している2つの外壁203C及び203Dの各々に、2つのハッチ扉204を有する。つまり、箱型構造体406は、底壁203A及び天井壁203Bに各一つ、外壁203C及び203Dに各2つ、計6つのハッチ扉204を備える。ただし、ハッチ扉204の数はこれに限定されない。2つのハッチ扉204の両側の3つの領域の外壁203Dは、スタビライザー盤450、451、452で覆われている。
図24に示すように、スタビライザー盤450、451、452を下部支点の周りに回転させると、3つの領域の外壁203Dが露出される。
【0060】
箱型構造体406は、その天井壁203Bに、
図15に示すように不使用時には折り畳まれる280が、
図14及び
図18に示すように立設可能に設けられる。
図14及び
図18に示すように、手すり280には、天井壁203Bを覆う日除け部材290を装着可能である。箱型構造体406より天井壁203Bに避難する避難路として、
図14及び
図15では図示が省略されている
図8に示す天井用ハッチ扉204に加え、両側の外壁203Dにラダー410を設けても良い。ラダー410が設けられる外壁203Dのうちスタビライザー盤452に覆われる領域のラダー410は、スタビライザー盤452に形成された貫通孔452Aを介して突出可能である。
【0061】
図16及び
図17に示すように、箱型構造体406には、例えば、2列の各列で6人、計12人が搭乗可能である。ただし、搭乗人数は変更可能である。本実施形態では、2つのハッチ扉204の両側の3つの領域には、それぞれ、搭乗者が着席できる手段として、固定または可動の椅子例えば固定椅子420が配置されている。2つのハッチ扉204と対向する2つの領域には、
図16及び
図18に示すように、それぞれ搭乗者が着席できる手段としての可動の椅子例えば可動椅子板421が支点422の廻りに回動可能に配置されている。可動椅子板421は、2つのハッチ扉204の使用時には、支点422の上方にて立て掛けられて、出入口の妨げとはならない。なお、
図17に示すように、底面用ハッチ扉204及び重り270は、横断面が略六角形の底面と面一になるように配置されている。
【0062】
6.2. 排水動作
次に、
図16、
図19及び
図20を用いて、箱型構造体406内に侵入した水の排水について説明する。本実施形態では、例えば
図19に示す排水管91が、
図20に示すような縦横配列で、
図24に示すように、スタビライザー盤450〜452の回動によって露出される外壁203Dに配置されている(
図24では排水管91は省略されている)。
【0063】
ここで、本実施形態においても、
図16に示すように満載喫水線LWLが箱型構造体406の床面レベルFLよりも低く設定されていることは、
図1及び
図5と同様である。また、
図16に示すように、箱型構造体406の天井壁203Bの最上面レベルをUML(Upper Most Level)とし、最下面レベルをLML(Lower Most Level))とする。
図16に示すMLWL(Max Load Water Line)とは、満載された箱型構造体406の内部が浸水で満たされた時に浮上している箱型構造体406の最大荷重喫水線である。最大荷重喫水線MLWLは、満載喫水線LWLよりも高さhだけ上方に位置するが、最上面レベルUMLよりも低い。
【0064】
図20に示すゾーンZ1〜Z8は、箱型構造体406の床面レベルFLから天井壁203Bの最上面レベルUMLまでの高さ範囲を例えば8つに分割したゾーンを示し、ゾーンZ1が最下位、ゾーンZ8が最上位に位置する。ゾーンZ1〜Z8の各ゾーンに、垂直方向で少なくとも一つの排水管91が配置され、水平方向では複数の排水管91が所定のピッチPで配置される。なお、このゾーン分割は一例であり、ゾーンが設定される内部空間内の高さ範囲や、ゾーン数は、これに限定されない。ここで、
図20は、鉛直方向での高さが順次高くなるN(Nは2以上の整数)個、例えば=8個の異なる高さ位置に出口を有するN個の排水管91の例である。
図20において、ゾーンZ1に配置される排水管91は床面レベルFLから例えば0.12mだけ上方に配置され、排水管91は鉛直方向で例えばピッチP=0.15mで配置されている。なお、
図5に示すように床面21の下方でかつ満載喫水線LWLの上方に出口(他端)を有する排水管50を有する場合には、鉛直方向での高さが順次高くなるN=9個の異なる高さ位置に出口(他端)を有するN個の排水管の例となる。
【0065】
排水管91は、
図19に示すように、箱型構造体406の内部に開口する一端91Aと、外壁204Dに開口する他端91Bと、それらの間に配置される弁92と、を有する。排水管91の内径は例えば52mmである。排水管91は、一端91Aと他端91Bとの間に、内径を狭める環状突起93と、周方向で間隔をおいた複数個所で突出する複数の局所突起94とを有する。環状突起93と局所突起94との間の管路に例えば球体の弁92が配置される。箱型構造体206の内部から外部に向けて排水する時には、弁92はその水圧で局所突起94側に移動する。よって、周方向で所突起94が無い領域を介して排水される。一方、箱型構造体206の外部から内部に向けて浸水する時には、弁92はその水圧で環状突起93側に移動する。よって、排水管91は球体92と環状突起93とにより通路が塞がれ、浸水が防止される。
【0066】
避難用構造物400のサイズは、長さ×高さ×幅が、例えば概略で5.8m×2.1m×2.3mである。また、避難用構造物400の総重量は、骨組み構造体が350kg、フロートが260kg、壁材が180kg、重り270が350kg、搭乗員12名が840kg、その他420kgを加算して2400kgと想定する。
【0067】
6.2.1. 満載喫水線LWL
本実施形態で、床面FLの下方にあるフロートの総体積を5.3m
3(平均面積8.84m
2×高さ0.6m)とする。このとき、このフロートのみにより箱型構造体406に作用する浮力F
Fは、フロートの密度を24kg/m
3とし、水の密度を1000kg/m
3とすると、
F
F=(フロートが水を排除した容積重さ)−(フロート自体の重さ)
=5.3m
3×1000kg/m
3×9.81m/s
2
-5.3m
3×24kg/m
3×9.18m/s
2
=(1000−24)×5.3×9.81
=50754(N)
【0068】
一方、総重量2400である避難用構造物400と釣り合う浮力は2400×9.81=23544Nであるが、そのためには床面FLの下方にあるフロートの全体積5.3m
3の約46%(100×23544/50745)に相当する体積2.4m
3が沈没していれば足りる。よって、
図16に示す通り、満載喫水線LWLは床面FLよりもの下方で、床面FLと最下面MLLと高さ0.6mのほぼ中間に位置することがわかる。
図16では、最下面LMLから満載喫水線LWLまでの高さを0.3mとする。
【0069】
6.2.2. 最大荷重喫水線MLWL
次に、最大荷重喫水線MLWLを求める。最大荷重喫水線MLWLとは、箱型構造体406の総重量に、さらに箱型構造体406の内部の空間が水に満たされた時の重量が作用した最大荷重時の喫水線である。このような事態は通常は想定されないが、安全性確保のために、搭載重量を超える最大荷重の時にも箱型構造体が沈没しないことを保証している。
【0070】
ここで、箱型構造体406の内部の空間の容量は、搭乗員や椅子を除いた平均面積を8m
2とし、高さを1.5mとすると、12m
3となる。この空間に浸水して、この空間が空気(比重1.225kg/m
3)から水(比重1000kg/m
3)に置き換えられたときに、箱型構造体406には次の式で求まる追加の重力F
Wが作用する。
F
W=(空間に進水した水の重さ)−(空間自体の重さ)
=(8m
3×1000kg/m
3×9.81m/s
2)
−(8m
3×1.225kg/m
3×9.18m/s
2)
=(1000−1.225)×8×9.81
=78384(N)
【0071】
ここで、最大荷重喫水線MLWLが
図16の位置にあると仮定すると、満載喫水線LWLよりも高さh分の箱型構造体406が水に沈むことにより増加する浮力F
Aが生ずる。ここで、箱型構造体406の輪郭で区画される平均面積A=10m
2とすると、浮力F
Aは次のように示される。
F
A=体積(h×A)×水の比重(1000kg/m
2)×9.81(m/s
2)
=98100×h
【0072】
箱型構造体406が浮くためには、F
W=F
Aが成立する。
よって、h=78384/98100=0.8mとなる。
つまり、箱型構造体406の最下面LMLから最大荷重喫水線MLWLまでの高さは、0.3m(箱型構造体406の最下面LMLから満載喫水線LWLまでの高さ)+0.8m(満載喫水線LWLから最大荷重喫水線MLWLまでの高さh)=1.1mとなる。
【0073】
箱型構造体406の全高は2.1mであり、
図20中で最も高い排水管91の位置は箱型構造体406の最下面LMLから1.77m(0.6+0.12+0.15×7)の高さである。このことから、フロートの体積は、箱型構造体406内が浸水で満たされても、N個の排水管91の少なくとも一つの他端が箱型構造体406外の水面の上方に位置するように、箱型構造体406を完全に水没させない体積であることがわかる。
【0074】
なお、箱型構造体406の最下面LMLから床面FLまでの高さが大きければ、床面FLの下方に配置できるフロート体積は増大する。よって、最大荷重喫水線MLWLを床面FLの下方に設定することも可能である。こうすると、箱型構造体406の内部の空間が浸水で満たされた時の重量が作用した最大荷重時でも、
図20に示すN個の排水管91の全ての排水出口を最大荷重喫水線MLWLよりも上方に配置することができる。それにより、N個の排水管91を常に同時に使用できるので、排水速度をより速めることが可能となる。
【0075】
6.2.3. 高さの異なる排水管の使用
図16に示す満載時の箱型構造体406の内部の空間が浸水で満たされた最大荷重の時の最大荷重喫水線MLWLは、N個の排水管91の排水出口の少なくとも一つの位置よりも低い位置である。こうすると、満載時の箱型構造体406の内部の空間が浸水で満たされる以前に、換言すれば最大荷重喫水線MLWLに到達する以前に、喫水線よりも高い位置にあるN個の排水出口の少なくとも一つ、好ましくは高さの異なるN個の複数の排水出口から、浸水した水を排水し続けることができる。よって、通常の使用形態では、排水量よりも浸水量が上回って箱型構造体406の内部の空間が浸水で満たされるという事態は生じえない。換言すれば、最大荷重喫水線MLWLに到達するような事態は起こりえない。
【0076】
6.3. 自走式避難用構造物
図21〜
図23は、単に浮遊するだけでなく自走することができる避難用構造物を示している。先ず、
図14、
図15、
図18及び
図21に示すように、箱型構造体406は、箱型構造体406に推進力を付与する推進具例えば電動式スクリュー431を取り付ける取付部430を備えることができる。電動式スクリュー431は、扉432を開くことで露出されるコネクターに接続されることで通電される。
図21に示すように、取付部430は、
図21に示すように、箱型構造体406の長手方向の両端部に設けることができる。こうすると、
図21に示す矢印A及びB方向に箱型構造体406を前進させることができる。
【0077】
取付部430と併せて、あるいは取付部430に代えて、
図22に示すように、箱型構造体406の例えば両側面のハッチ扉204に、オール440の支点となるクラッチ(取付部)204Aを介してオール(推進具)440を外方に突出させることができる。箱型構造体406の内部の避難者が、クラッチ204Aを支点としてオール440を手で漕ぐことで、箱型構造体406を前進させることができる。
【0078】
あるいは、
図23に示すように、天井壁203Bに避難した避難者がオール440を漕ぐために、天井壁203Bまたは手すり280にクラッチ(図示は省略)を設けても良い。なお、
図23は、箱型構造体406に想定外の外力が作用し、外壁203D等が骨組み構造体から離脱して水面上に飛散した状態を示している。このような状態でも、天井壁203Bは筏として機能して、避難者の安全が最低限確保され得る。
【0079】
6.4. スタビライザー盤
図24〜
図27は、箱型構造体406の安定性を向上させるスタビライザー盤450〜452を示している。
図24に示すように、スタビライザー盤450〜452の各々は、箱型構造体406の例えば外壁203Dに回動自在に支持され、立設状態で収容されてもよい。こうすると、避難用構造物400の内部が複数のスタビライザー盤450〜452の収容スペースとして占有されない。また、複数のスタビライザー盤450〜452は2つの外壁203Dのいずれか一方と空隙を隔てて収容されるので、その外壁に設けられた排水管91の他端の排水出口が塞がれることがない。
【0080】
図25に示すように、スタビライザー盤450〜452の少なくとも一つ例えばスタビライザー盤450を立設状態で係止する係止部460と、そのスタビライザー盤450が係止部460によって係止された状態を、箱型構造体406の内部で操作することで解除する解除操作部470と、をさらに有することができる。
図26に示すように、係止部460は、スタビライザー盤450の上部に取り付けられた被係止部453を係止する。係止部460は回動自在である。係止部460を箱型構造体406の内部で操作するために、解除操作部470は、取っ手471と、取っ手471及び係止部460の回動部とを連結するワイヤー472とを含むことができる。こうすると、避難時に箱型構造体406内に避難した避難者は、箱型構造体406の浮上を確認した後に、箱型構造体406の内部で解除操作部470を操作して、スタビライザー盤450を箱型構造体406外の水面上に突出させることができる。それにより、箱型構造体406は水面上で安定する。この際、
図27に示すように、スタビライザー盤450の回動位置はストッパー480により規制されるので、スタビライザー盤450が例えば180°回転して安定化機能を果たせなくなる事態が阻止される。
【0081】
なお、本発明の避難用構造物は、特に海水で使用されることを想定すると、外壁が表面保護材により被服されていることが好ましい。表面保護材は、防錆性、防水性、紫外線耐性、耐摩耗性、及び/又は意匠性を有することが好ましく、例えば脂肪族系のポリウレア樹脂を用いることができる。
避難用構造物(1)は、少なくとも一つのハッチ扉(4)を備えた不完全水密性の箱型構造体(6)と、箱型構造体(6)に設けられたフロート(10)と、一端(50A)が箱型構造体(6)の内部に開口し、他端(50B)が満載喫水線(LWL)の上方にて外壁(3C〜3D)に開口する少なくとも一つの排水管(50)と、を有し、少なくとも一つの排水管(50)は箱型構造体(6)の内部への水の流入を防止し、かつ、箱型構造体(6)の内部からの排水の水圧が作用した時に開く弁を備える逆止弁(60)を有する。