【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度、独立行政法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム フィージビリティスタディステージ シーズ顕在化タイプ「イオン液体を用いた革新的光アップコンバーターの多元的研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
三重項−三重項消滅過程を示す組み合わせである有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を、イオン液体(C)中に溶解および/または分散させてなる、目視上均質かつ透明な光波長変換要素であって、
前記有機光増感分子(A)の吸収極大波長が、500〜700nmの範囲内にあり、
前記イオン液体(C)は、26℃における粘度が45.7mPa・s以上となり、かつ、前記イオン液体(C)をその9倍の体積の超純水で洗浄したときに、洗浄後の水のpHが5より大きくなるものであることを特徴とする光波長変換要素。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0034】
本発明の光波長変換要素は、TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を、イオン液体(C)中に溶解および/または分散させてなる、目視上均質かつ透明な光波長変換要素であって、前記イオン液体(C)が、前記イオン液体(C)をその9倍の体積の超純水で洗浄したときに、洗浄後の水のpHが5より大きくなるものである。
【0035】
前記有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)としては、その組み合わせがTTA過程を示す(TTA過程に基づいて発光する)ものであれば、制限なく用いることができる。前記有機光増感分子(A)の吸光波長、および前記有機発光分子(B)の発光波長は、太陽光の波長範囲内から、制限なく選択することができる。例を挙げると、可視〜近赤外域の光をアップコンバージョンする態様の光波長変換要素においては、前記有機光増感分子(A)として可視〜近赤外域に光吸収帯を有するπ共役分子を用いることができ、前記有機発光分子(B)として可視〜近赤外域に発光帯を有するπ共役分子を用いることができる。前記有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)としては、芳香族π電子共役系化合物、特に多環芳香族π電子共役系化合物など、および、例えば非特許文献5に記載されている化合物などを含め、低分子や高分子を広く用いることができる。
【0036】
前記有機光増感分子(A)としては、太陽光の波長範囲内に吸収極大波長を有するものであれば制限されなく使用できるが、通常は200〜1000nmの範囲内に吸収極大波長を有するものが使用され、好ましくは500〜700nmの範囲内に吸収極大波長を有するものが使用される。これにより、一般的な太陽電池や水素発生光触媒等の光−二次エネルギー変換要素では利用されない比較的長い波長の光を、一般的な光−二次エネルギー変換要素に利用される比較的短い波長の光に変換できるので、太陽光に含まれる広範な波長範囲の光を光−二次エネルギー変換要素で有効に利用することが可能となる。
【0037】
前記有機光増感分子(A)としては、紫外領域から赤外領域までの範囲に光吸収を有するものであれば、これまでに色素と呼ばれていない分子種でも使用できる。前記有機光増感分子(A)としては、例えば、アセナフテン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラセン誘導体、ジフェニルアセチレン誘導体、アクリダン誘導体、アクリジン誘導体、アクリドン誘導体、チオアクリドン誘導体、アンゲリシン誘導体、アントラセン誘導体、アントラキノン誘導体、アザフルオレン誘導体、アズレン誘導体、ベンジル誘導体、カルバゾール誘導体、コロネン誘導体、スマネン誘導体、ビフェニレン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェナントロリン誘導体、フェナジン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ピレン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ビアセチル誘導体、ビアントラニル誘導体、フラーレン誘導体、グラフェン誘導体、カロテン誘導体、クロロフィル誘導体、クリセン誘導体、シンノリン誘導体、クマリン誘導体、クルクミン誘導体、ダンシルアミド誘導体、フラボン誘導体、フルオレノン誘導体、フルオレセイン誘導体、ヘリセン誘導体、インデン誘導体、ルミクロム誘導体、ルミフラビン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ペリフランテン誘導体、ペリレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェナントロリン誘導体、フェナジン誘導体、フェノール誘導体、フェノチアジン誘導体、フェノキサジン誘導体、フタラジン誘導体、フタロシアニン誘導体、ピセン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポルフィセン誘導体、ヘミポルフィセン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、プソラレン誘導体、アンゲリシン誘導体、プリン誘導体、ピレン誘導体、ピロメテン誘導体、ピリジルケトン誘導体、フェニルケトン誘導体、ピリジルケトン誘導体、チエニルケトン誘導体、フラニルケトン誘導体、キナゾリン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、レチナール誘導体、レチノール誘導体、ローダミン誘導体、リボフラビン誘導体、ルブレン誘導体、スクアリン誘導体、スチルベン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラセンキノン誘導体、ペンタセンキノン誘導体、チオホスゲン誘導体、インジゴ誘導体、チオインゾゴ誘導体、チオキサンテン誘導体、チミン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、トリアリール誘導体、トリプトファン誘導体、ウラシル誘導体、キサンテン誘導体、フェロセン誘導体、アズレン誘導体、ビアセチル誘導体、ターフェニル誘導体、ターフラン誘導体、ターチオフェン誘導体、オリゴアリール誘導体、フラーレン誘導体、共役ポリエン誘導体、含14族元素縮合多環芳香族化合物誘導体、縮合多環複素芳香族化合物誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0038】
前記有機光増感分子(A)としては、具体的には、金属ポルフィリン類(ポルフィリン類の金属錯体);金属テトラアザポルフィリン類;金属フタロシアニン類;3,5−ジメチル−ボロンジピロメテンのヨウ素誘導体;3,5−ジメチル−8−フェニルボロンジピロメテンのヨウ素誘導体等のようなボロンジピロメテン類;サレン金属錯体等のようなシッフ塩基金属錯体類;ルビジウム−ビピリジン錯体やイリジウム−フェナントロリン錯体等の金属ビピリジン錯体;金属フェナントロリン錯体;N−アルキルナフタレンジイミド等のナフタレンジイミド類;N−メチルアクリドン等のようなアクリドン類等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。前記金属ポルフィリン類および金属フタロシアニン類に含まれる金属原子としては、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Zn、Cu等を用いることができる。前記金属テトラアザポルフィリン類としては、後述の一般式(5)における5,10,15,20位の炭素原子及びそれに結合したR
8を窒素原子に置き換えた構造の金属テトラアザポルフィリン類が挙げられる。
【0039】
前記有機光増感分子(A)として好ましい化合物の例として、500〜700nmの範囲内に吸収極大波長を有する化合物としては、下記一般式(5)
【0041】
(式中、R
7はそれぞれ、水素原子を含む任意の置換基を表し、R
7は同じでも異なっていてもよく、互いに隣接する2つのR
7が互いに連結して水素原子を含む任意の置換基を有する5員環または6員環を形成してもよく、R
8はそれぞれ、水素原子を含む任意の置換基を有するアリール基を表し、R
8は同じでも異なっていてもよく、Mは金属原子を表す)
で表される化合物が挙げられる。ここで、「水素原子を含む任意の置換基」とは、水素原子、又は水素原子を除く任意の置換基を意味する。
【0042】
前記一般式(5)中のR
7の例としては、水素原子、アルキル基(例えば炭素数1〜12のアルキル基)、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(水酸基)、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、カルボン酸塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルコキシル基、リン酸塩基、ホスホン酸塩基、ホスフィン酸塩基、シアノ基、アミノ基(アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、およびアルキルアリールアミノ基を含む)、アシルアミノ基(アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルバモイル基、およびウレイド基が含まれる)、アミジノ基、イミノ基、スルフヒドリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオカルボン酸塩基、硫酸塩基、アルキルスルフィニル基、スルホン酸塩基、スルファモイル基、スルホンアミド基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、アジド基、複素環、アルキルアリール基、またはアリール基、もしくはヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。前記一般式(5)中に含まれうる、互いに隣接する2つのR
7が互いに連結して形成された5員環または6員環が有する置換基の例としては、R
7の例として挙げた置換基が挙げられるが、これらに限定されない。前記5員環または6員環は、置換基を有していてもよい他のポルフィリン環と連結していてもよい。前記一般式(5)中のR
8の例としては、R
7の例として挙げた置換基が挙げられるが、これらに限定されない。前記金属ポルフィリン類および金属フタロシアニン類に含まれる金属原子としては、前記一般式(5)中の金属原子Mとしては、Pt、Pd、Ru、Rh、Ir、Zn、Cu等が挙げられる。
【0043】
前記一般式(5)で表される金属ポルフィリン類としては、例えば、メソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリンパラジウム(CAS番号:119654−64−7)等のメソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリン金属錯体、オクタエチルポルフィリンパラジウム(CAS番号:24804−00−0)等のオクタエチルポルフィリン金属錯体、非特許文献5に記載されているメソ−テトラフェニル−オクタメトキシ−テトラナフト[2,3]ポルフィリンパラジウム等のオクタエチルポルフィリン金属錯体等が挙げられる。これらの中でも、メソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリンパラジウム等のメソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリン金属錯体や、オクタエチルポルフィリンパラジウム等のオクタエチルポルフィリン金属錯体が好ましい。
【0044】
前記有機光増感分子(A)は、その構造中に金属を含まない構造の有機光増感分子であることがより好ましい。これにより、光波長変換要素の製造時や廃棄時における金属による環境汚染の発生を回避できる。
【0045】
その構造中に金属を含まない構造の有機光増感分子としては、具体的には、下記一般式(1)
【0047】
(前記式中、R
1〜R
5はそれぞれ独立に水素原子を含む任意の置換基を表し、互いに隣接する置換基(R
1とR
2との対、R
2とR
4との対、R
1とR
3との対、R
3とR
4との対)はそれぞれ互いに連結して水素原子を含む任意の置換基を有する5員環または6員環を形成してもよく、R
6はハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシル基を表す)
で表される化合物(ボロンジピロメテン類)、C
70等が挙げられる。
【0048】
前記一般式(1)中のR
1〜R
5の例としては、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基(水酸基)、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、カルボン酸塩、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルコキシカルボニル基、アミノカルボニル基、アルキルアミノカルボニル基、ジアルキルアミノカルボニル基、アルキルチオカルボニル基、アルコキシル基、リン酸塩基、ホスホン酸塩基、ホスフィン酸塩基、シアノ基、アミノ基(アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アリールアミノ基、ジアリールアミノ基、およびアルキルアリールアミノ基を含む)、アシルアミノ基(アルキルカルボニルアミノ基、アリールカルボニルアミノ基、カルバモイル基、およびウレイド基が含まれる)、アミジノ基、イミノ基、スルフヒドリル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、チオカルボン酸塩基、硫酸塩基、アルキルスルフィニル基、スルホン酸塩基、スルファモイル基、スルホンアミド基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、シアノ基、アジド基、複素環、アルキルアリール基、またはアリール基、もしくはヘテロアリール基が挙げられるが、これらに限定されない。前記一般式(1)中に含まれうる、互いに隣接する置換基(R
1とR
2との対、R
2とR
4との対、R
1とR
3との対、R
3とR
4との対)が互いに連結して形成された5員環または6員環が有する置換基の例としては、R
1〜R
5の例として挙げた置換基が挙げられるが、これらに限定されない。
【0049】
前記一般式(1)中のR
1およびR
4は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいフェノキシ基、置換基を有してもよいチエニル基、置換基を有してもよいチエノキシ基、下記式(2)
【0051】
で表される2−カルボキシルエテニル基、または下記式(3)
【0053】
で表される2−カルボキシル−2−シアノエテニル基であることが好ましく、置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基であることがより好ましく、無置換の炭素数1〜3のアルキル基であることがさらに好ましく、無置換のメチル基であることが最も好ましい。
【0054】
前記一般式(1)中のR
2およびR
3は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいフェノキシ基、置換基を有してもよいチエニル基、置換基を有してもよいチエノキシ基、前記式(2)で表される2−カルボキシルエテニル基、または前記式(3)で表される2−カルボキシル−2−シアノエテニル基であることが好ましく、水素原子、臭素原子、またはヨウ素原子である(ただしR
2およびR
3の少なくとも一方が臭素原子またはヨウ素原子である)ことがより好ましく、水素原子またはヨウ素原子である(ただしR
2およびR
3の少なくとも一方がヨウ素原子である)ことがさらに好ましい。
【0055】
前記一般式(1)中のR
5は、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいフェノキシ基、置換基を有してもよいチエニル基、置換基を有してもよいチエノキシ基、前記式(2)で表される2−カルボキシルエテニル基、または前記式(3)で表される2−カルボキシル−2−シアノエテニル基であることが好ましく、置換基を有してもよいフェニル基であることがより好ましく、無置換またはアルキル置換のフェニル基であることがさらに好ましい。
【0056】
前記一般式(1)中のR
6は、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルキル基、または置換基を有してもよい炭素数1〜5のアルコキシル基であるが、フッ素原子であることが好ましい。
【0057】
前記有機光増感分子(A)は、前記一般式(5)で表される金属ポルフィリン類、または前記一般式(1)で表される化合物であることが好ましく、前記一般式(1)で表される化合物であることがより好ましく、前記一般式(1)で表される化合物において前記一般式(1)中のR
1〜R
5がそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有してもよい炭素数1〜4の脂肪族炭化水素基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいフェノキシ基、置換基を有してもよいチエニル基、置換基を有してもよいチエノキシ基、前記式(2)で表される2−カルボキシルエテニル基、または前記式(3)で表される2−カルボキシル−2−シアノエテニル基である化合物であることがさらに好ましく、下記一般式(4)
【0059】
(前記式中、R
1およびR
4はそれぞれ独立に置換基を有してもよい炭素数1〜3のアルキル基を表し、R
2およびR
3はそれぞれ独立に水素原子、臭素原子、またはヨウ素原子を表し、R
2およびR
3の少なくとも一方が臭素原子またはヨウ素原子であり、R
5は置換基を有してもよいフェニル基を表す)
で表される化合物であることが最も好ましい。これにより、さらに高い光波長変換効率を有する光波長変換要素を実現できる。
【0060】
前記一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、下記式
【0062】
で表される化合物(2−ヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)(吸収極大波長510nm)、下記式
【0064】
で表される化合物(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)(吸収極大波長529nm)、下記式
【0066】
で表される化合物(吸収極大波長629nm)、下記式
【0068】
で表される化合物(吸収極大波長539nm)、下記式
【0070】
で表される化合物(吸収極大波長557nm)、下記式
【0072】
で表される化合物(吸収極大波長576nm)、下記式
【0074】
で表される化合物(吸収極大波長575nmおよび618nm)、下記式
【0076】
で表される化合物(吸収極大波長532nm)、下記式
【0078】
で表される化合物(吸収極大波長526nm)等が挙げられる。これら有機光増感分子(A)は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0079】
前記有機発光分子(B)としては、前記有機光増感分子(A)と共に使用することでTTA過程により光アップコンバージョンされた光を発することのできる有機化合物であれば、特に限定されることなく使用することができる。前記有機発光分子(B)としては、例えば、アセナフテン誘導体、アセトフェノン誘導体、アントラセン誘導体、ジフェニルアセチレン誘導体、アクリダン誘導体、アクリジン誘導体、アクリドン誘導体、チオアクリドン誘導体、アンゲリシン誘導体、アントラセン誘導体、アントラキノン誘導体、アザフルオレン誘導体、アズレン誘導体、ベンジル誘導体、カルバゾール誘導体、コロネン誘導体、スマネン誘導体、ビフェニレン誘導体、フルオレン誘導体、ペリレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェナントロリン誘導体、フェナジン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、ピレン誘導体、ベンゾキノン誘導体、ビアセチル誘導体、ビアントラニル誘導体、フラーレン誘導体、グラフェン誘導体、カロテン誘導体、クロロフィル誘導体、クリセン誘導体、シンノリン誘導体、クマリン誘導体、クルクミン誘導体、ダンシルアミド誘導体、フラボン誘導体、フルオレノン誘導体、フルオレセイン誘導体、ヘリセン誘導体、インデン誘導体、ルミクロム誘導体、ルミフラビン誘導体、オキサジアゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ペリフランテン誘導体、ペリレン誘導体、フェナントレン誘導体、フェナントロリン誘導体、フェナジン誘導体、フェノール誘導体、フェノチアジン誘導体、フェノキサジン誘導体、フタラジン誘導体、フタロシアニン誘導体、ピセン誘導体、ポルフィリン誘導体、ポルフィセン誘導体、ヘミポルフィセン誘導体、サブフタロシアニン誘導体、プソラレン誘導体、アンゲリシン誘導体、プリン誘導体、ピレン誘導体、ピロメテン誘導体、ピリジルケトン誘導体、フェニルケトン誘導体、ピリジルケトン誘導体、チエニルケトン誘導体、フラニルケトン誘導体、キナゾリン誘導体、キノリン誘導体、キノキサリン誘導体、レチナール誘導体、レチノール誘導体、ローダミン誘導体、リボフラビン誘導体、ルブレン誘導体、スクアリン誘導体、スチルベン誘導体、テトラセン誘導体、ペンタセン誘導体、アントラキノン誘導体、テトラセンキノン誘導体、ペンタセンキノン誘導体、チオホスゲン誘導体、インジゴ誘導体、チオインゾゴ誘導体、チオキサンテン誘導体、チミン誘導体、トリフェニレン誘導体、トリフェニルメタン誘導体、トリアリール誘導体、トリプトファン誘導体、ウラシル誘導体、キサンテン誘導体、フェロセン誘導体、アズレン誘導体、ビアセチル誘導体、ターフェニル誘導体、ターフラン誘導体、ターチオフェン誘導体、オリゴアリール誘導体、フラーレン誘導体、共役ポリエン誘導体、含14族元素縮合多環芳香族化合物誘導体、縮合多環複素芳香族化合物誘導体等が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。
【0080】
前記有機発光分子(B)としては、具体的には、例えば、9,10−ジフェニルアントラセン(CAS番号:1499−10−1)およびその誘導体、9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン(CAS番号:10075−85−1)およびその誘導体(例えば1−クロロ−9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン)、ペリレン(CAS番号:198−55−0)およびその誘導体(例えばペリレンジイミド)、ピレンおよびその誘導体、ルブレンおよびその誘導体、ナフタレンおよびその誘導体(例えばナフタレンジイミド、パーフルオロナフタレン、1−シアノナフタレン、1−メトキシナフタレン)、9,10−ビス(フェニルエチニル)ナフタセン、4,4’−ビス(5−テトラアセニル)−1,1’−ビフェニレン、インドール、ベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ビフェニル、ビフラン、ビチオフェン、4,4−ジフルオロ−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン(ボロンジピロメテン)等が挙げられるが、これらに限定されない。前記有機発光分子(B)としては、ペリレン、ピレン、アントラセンのような縮合多環芳香族化合物やその誘導体が好ましい。これら有機発光分子(B)は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0081】
本発明の光波長変換要素中における有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)の含有量は、特に制限はないが、光波長変換要素を100質量部とした場合、それぞれ、通常は0.000001〜10質量部であり、好ましくは0.00001〜5質量部であり、より好ましくは0.0001〜1質量部である。
【0082】
前記イオン液体(C)は、カチオンとアニオンとからなる常温溶融塩(常温(25℃)で溶融状態(液体状態)にある塩)である。一般的に、イオン液体として、カチオンとアニオンとの組み合わせによって少なくとも1,000,000種類以上の化合物が存在することが知られている。前記イオン液体(C)は、前記TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)の媒体として作用し、その内部で有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)の拡散運動を許容するものである。
【0083】
本発明の光波長変換要素においては、TTA過程を示す組み合わせである有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を、イオン液体(C)中に溶解および/または分散させて目視上均質かつ透明にする必要があるため、前記イオン液体(C)としては、前記有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)とカチオン−π相互作用を有し、かつ非水混和性であるものが好ましい。本明細書において、イオン液体(C)が「非水混和性」とは、25℃において、50質量%以下の水がイオン液体(C)に目視上均質かつ透明に混和する場合がある(例えば5質量%以下の水がイオン液体(C)に目視上均質かつ透明に混和する場合がある)が、50質量%超の水がイオン液体(C)に目視上均質かつ透明に混和しないことを意味する。
【0084】
前記イオン液体(C)を構成するカチオンの具体例としては、例えば、窒素含有化合物カチオン、第四級ホスホニウムカチオン、スルホニウムカチオン等が挙げられる。前記窒素含有化合物カチオンとしては、例えば、イミダゾリウムカチオン、ピリジニウムカチオン等の複素環式芳香族アミンカチオン;ピペリジニウムカチオン、ピロリジニウムカチオン、ピラゾリウムカチオン、チアゾリウムカチオン、モルフォリニウムカチオン等の複素環式脂肪族アミンカチオン;第四級アンモニウムカチオン;芳香族アミンカチオン;脂肪族アミンカチオン;脂環式アミンカチオン等が挙げられる。前記イミダゾリウムカチオンとしては、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム等の1−アルキル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ペンチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘプチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−オクチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム等の1−アルキル−2,3−ジメチルイミダゾリウム;1−シアノメチル−3−メチルイミダゾリウム、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウム等が挙げられる。前記ピリジニウムカチオンとしては、例えば、1−ブチルピリジニウム、1−ヘキシルピリジニウム、N−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウム、N−ヘキシル−4−ジメチルアミノピリジニウム等が挙げられる。前記ピペリジニウムカチオンとしては、例えば、1−(メトキシエチル)−1−メチルピペリジニウム等が挙げられる。前記ピロリジニウムカチオンとしては、例えば、1−(2−メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウム、N−(メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウム等が挙げられる。前記モルフォリニウムカチオンとしては、例えば、N−(メトキシエチル)−N−メチルモルフォリウム等が挙げられる。前記第四級アンモニウムカチオンとしては、例えば、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム、N−エチル−N,N−ジメチル−2−メトキシエチルアンモニウム等が挙げられる。前記第四級ホスホニウムカチオンとしては、例えば、テトラアルキルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。前記スルホニウムカチオンとしては、例えば、トリアルキルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム等が挙げられる。前記イオン液体(C)中には、これらカチオンの1種が存在していてもよく2種以上が存在していてもよい。
【0085】
有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)のイオン液体(C)中への溶解・分散安定性を考慮すると、イオン液体(C)を構成するカチオンとしては、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)との間に「カチオン−π相互作用」を有するものが好ましい。
【0086】
前記イオン液体(C)を構成するアニオンとしては、特に限定されるものではないが、例えば、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドアニオン([N(SO
2CF
3)
2]
-)、トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチドアニオン([C(SO
2CF
3)
3]
-)、ヘキサフルオロホスフェートアニオン([PF
6]
-)、トリス(ペンタフルオロエチル)、トリフルオロホスフェートアニオン([(C
2F
5)
3PF
3]
-)等のフッ素含有化合物アニオン;[BR
11R
12R
13R
14]
-(このアニオン構造式および以下のアニオン構造式中において、R
11、R
12、R
13、およびR
14はそれぞれ独立して、−(CH
2)
nCH
3(ここでnは1〜9の整数を表す)で表される基、すなわち炭素数1〜9の直鎖アルキル基、または、アリール基を表す)で表されるホウ素含有化合物アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオン([N(FSO
2)
2]
-)等が挙げられる。前記イオン液体(C)中には、これらアニオンの1種が存在していてもよく2種以上が存在していてもよい。
【0087】
一般的に、イオン液体は、イオン液体を構成するアニオンの種類によっては水と上限なく混和するが、イオン液体を構成するアニオンの種類によってはイオン液体が水とある程度以上混和しないか、またはごく微量しか混和しない。本発明においては、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)のイオン液体(C)中への溶解・分散安定性を考慮すると、イオン液体(C)のアニオンが、イオン液体に非水混和性を与えるようなアニオンであることが好ましい。
【0088】
前記イオン液体(C)としては、前記アニオンの具体例と前記カチオンの具体例とを組み合わせたものを用いることができる。前記イオン液体(C)としては、より具体的には、例えば、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−82−2、例えば製造元がIonic Liquids Technologies GmbHの市販品を入手可能)、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:169051−76−7、例えば製造元がIonic Liquids Technologies GmbHの市販品や製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−83−3、例えば製造元がIonic Liquids Technologies GmbHの市販品や製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド(CAS番号:169051−77−8、例えば製造元がCovalent Associates Inc.の市販品を入手可能)、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:464927−84−2、例えば製造元が日清紡績株式会社で販売元が関東化学株式会社の市販品(製品番号:11468−55)を入手可能)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:382150−50−7、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:178631−04−4、例えば製造元が日清紡績株式会社で販売元が関東化学株式会社の市販品(製品番号:49514−85)を入手可能)、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−90−2、例えば販売元が関東化学株式会社の市販品(製品番号:49515−52)を入手可能)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:350493−08−2、例えば製造元がIonic Liquids Technologies GmbHの市販品や製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、エチルジメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:258273−77−7、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:377739−43−0、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:713512−19−7、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:223437−11−4、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:851856−47−8、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、メチルトリ−n−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:375395−33−8、例えば製造元がMerck KGaAの市販品を入手可能)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスフェート、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムヘキサフルオロホスフェート、1−エチル−3−メチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウム[BR
11R
12R
13R
14]
-、1−ブチルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−ヘキシルピリジニウムヘキサフルオロホスフェート、1−シアノメチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−ヘキシル−4−ジメチルアミノピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−エチル−N,N−ジメチル−2−メトキシエチルアンモニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−(2−ヒドロキシエチル)−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N−(3−ヒドロキシプロピル)ピリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、N−(メトキシエチル)−N−メチルモルフォリウムトリス(ぺンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−(2−メトキシエチル)−1−メチル−ピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−(メトキシエチル)−1−メチルピペリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−(メトキシエチル)−1−メチルピペリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(メトキシエチル)−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、N−(メトキシエチル)−N−メチルモルフォリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)等が挙げられるが、これらに限定されない。これらイオン液体(C)は、1種を用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0089】
本発明においては、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)のイオン液体(C)中への溶解・分散の安定性を考慮すると、これらイオン液体(C)のうち、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)との間に「カチオン−π相互作用」を有するカチオンと、イオン液体に非水混和性を与えるアニオンとの組み合わせが好ましく、イオン液体(C)としても非水混和性のものが好ましい。
【0090】
前記イオン液体(C)としては、上に挙げた具体例のうちで、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムトリス(トリフルオロメチルスルホニル)メチド、N,N−ジエチル−N−メチル−N−(2−メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、エチルジメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート、およびメチルトリ−n−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが特に好ましい。
【0091】
前記イオン液体(C)の26℃における粘度は、通常は10mPa・s以上であり、好ましくは50mPa・s以上であり、より好ましくは70mPa・s以上である。これにより、より高い光波長変換効率を有する光波長変換要素を実現できる。
【0092】
本発明の光波長変換要素に含まれるイオン液体(C)は、イオン液体をその9倍の体積の超純水で洗浄したときに、洗浄後の水のpHが5より大きくなるものである。これにより、より高い光波長変換効率及びより良好な経時安定性を有する光波長変換要素を実現できる。イオン液体(C)をその9倍の体積の超純水で洗浄したときにおける、洗浄後の水のpHの測定方法としては、イオン液体(C)に対してその9倍の体積(体積比でその9倍量)の超純水を入れて撹拌した後に、水層を分離し、水層のpHを測定する方法を用いる。
【0093】
市販のイオン液体は、イオン液体をその9倍の体積の超純水で洗浄したときに洗浄後の水のpHが5以下の酸性を示すことが多い。そのような市販のイオン液体を使用する場合には、市販のイオン液体から不純物を除去することにより、その9倍の体積の超純水で洗浄したときに洗浄後の水のpHが5より大きくなるようなイオン液体(C)を得て、そのイオン液体(C)を使用する必要がある。
【0094】
前記イオン液体からの不純物除去方法としては、例えば、(1)イオン液体を活性炭で処理する方法、(2)イオン液体を水で洗浄する方法、(3)イオン液体を有機溶媒で洗浄する方法(例えば特開2012−144441号公報参照)、(4)イオン液体を溶媒に溶解させて溶液を得た後、前記溶液の温度を下げて前記イオン液体を溶液中から結晶させ、結晶した前記イオン液体を濾過により溶液から分離する方法(再結晶法;例えば特開2010−184902号公報参照)、(5)イオン液体を溶媒に溶解させて溶液を得た後、アルミナ等の充填剤を充填したカラムに前記溶液を通す方法(カラム法;例えば特開2005−314332号公報)、(6)イオン液体を金属水素化物で処理する方法(特開2005−89313号公報参照)等が挙げられる。これらの方法を複数組み合わせて使用してもよい。前記(2)の方法としては、例えば、イオン液体に水(好ましくは超純水)を加えて撹拌した後で水層を除去する洗浄処理を洗浄後の水のpHが5より大きくなるまで繰り返し、次いで、減圧下で加熱することにより水を留去する(乾燥する)方法を用いることができる。
【0095】
本発明の光波長変換要素は、通常公知の技術を用いて有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)をイオン液体(C)中に溶解および/または分散させて溶液または分散液を得る方法によって製造することができる。前記方法において、必要に応じて、通常公知の技術を用いてその他の添加剤をイオン液体(C)中で有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)に混合して、溶液または分散液を得てもよい。また、前記方法において、必要に応じて、超音波分散機、ビーズミル、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、ボールミル、アトライター、サンドミル、ロールミル、マイクロ波分散機等の公知の分散機を単独または組み合わせて使用し、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を微粉砕、微分散して、溶液または分散液を得てもよい。
【0096】
また、本発明の光波長変換要素を製造する他の方法として、例えば、まず、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を揮発性有機溶媒中に溶解および/または分散させ、次に、得られた溶液および/または分散体をイオン液体(C)と撹拌混合して目視上均質かつ透明な溶液および/または分散体を生成させ、さらにその溶液および/または分散体から減圧下でこの揮発性有機溶媒を痕跡量以下まで除去する方法を用いることもできる。この方法は、均質かつ透明に混和した状態の光波長変換要素を得られやすく、安定性や光波長変換効率の高い光波長変換要素を得ることができるので、本発明の光波長変換要素を得る方法としてより好ましい。
【0097】
前記方法に用いる揮発性有機溶媒は、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を溶解および/または分散させることができ、かつイオン液体(C)と均質かつ透明に混和でき、さらに減圧下で痕跡量程度まで除去できるような揮発性を有する有機溶媒であれば、特に制限はない。ここで、「痕跡量」とは、光吸収スペクトルの測定に基づいてイオン液体(C)中に混在する揮発性有機溶媒をノイズレベル以下でしか検出できない量とする。前記揮発性有機溶媒は、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を溶解させることができる揮発性有機溶媒であることが好ましい。前記揮発性有機溶媒としては、トルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族系溶媒等を用いることができる。有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)を溶解させることができる揮発性有機溶媒を使用する場合、その揮発性有機溶媒は有機光増感分子および有機発光分子の溶解性に合わせて適宜選択できる。
【0098】
前記撹拌混合の手段としては、超音波、バブリング、撹拌機、液送ポンプ、粉砕機、ビーズミル、ホモジナイザー、湿式ジェットミル、マイクロ波等の公知の技術または装置を用いることができる。これらの手段は、1種を使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0099】
本発明の光波長変換要素は、その水分量が、1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0.001質量%以下であることが最も好ましい。これにより、より高い光波長変換効率を有する光波長変換要素を実現できる。
【0100】
また、本発明の光波長変換要素は、その酸素濃度が、100質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましく、1質量ppm以下であることがさらに好ましく、0.1質量ppm以下であることが最も好ましい。これにより、より高い光波長変換効率を有する光波長変換要素を実現できる。
【0101】
本発明の光波長変換要素は、目視上均質かつ透明な溶液および/または分散体であり、さらに安定性も良好である。本発明の光波長変換要素は、太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置、光アップコンバージョンフィルター等に用いることができる。
【0102】
本発明の太陽電池は、本発明の光波長変換要素を用いたものである。
【0103】
本発明の太陽電池の一例を、
図1に基づいて説明する。本発明の一例に係る太陽電池は、
図1に示すように、光電変換層(太陽電池層)1と、光電変換層1における光入射側の面上に配設された短冊状の受光面電極7と、光電変換層1における光入射側の面の裏面上に積層された透明背面電極2と、透明背面電極2における光入射側の面の裏面上に積層された透明絶縁膜3と、透明絶縁膜3における光入射側の面の裏面上に積層された、本発明の光波長変換要素を用いたアップコンバージョン層4と、アップコンバージョン層4における光入射側の面の裏面上に積層された光反射膜5とを備えている。
【0104】
光電変換層1としては、特に限定されるものではなく、色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池等の有機系光電変換層、化合物半導体系光電変換層、シリコン系光電変換層等を用いることができる。
【0105】
受光面電極7および光反射膜5は、Ag、Al、Ti、Cr、Mo、W、Ni、Cu等の金属で形成することができる。透明背面電極2は、ITO(酸化インジウムスズ)、SnO
2、ZnO等の透明導電体で形成することができる。透明絶縁膜3は、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、およびポリエーテルニトリル等の樹脂で形成することができる。
【0106】
アップコンバージョン層4は、後述する本発明の光アップコンバージョンフィルターと同様に、セルと、セル中に封入された光波長変換要素とで形成されていてもよく、光波長変換要素のみで形成されていてもよい。アップコンバージョン層4が光波長変換要素のみで形成されている場合、透明絶縁膜3、アップコンバージョン層4、および光反射膜5をそれらの周縁で封止樹脂等の封止部材により封止すればよい。
【0107】
図1の構成により、太陽からの入射光6を、アップコンバージョン層4がアップコンバートする(より短い波長の光に変換する)ことにより、光電変換層1が発電に使用できる波長範囲の光の強度を高めて、太陽電池の発電効率をさらに高めることができる。
【0108】
なお、
図1の構成では、アップコンバージョン層4を透明絶縁膜3と光反射膜5との間に配置していたが、アップコンバージョン層4の配置位置を、受光面電極7における光入射側等のような他の配置位置に変更してもよい。その場合には、アップコンバージョン層4と受光面電極7との間に透明絶縁膜を設けてもよい。
【0109】
また、
図1の太陽電池において、受光面電極7を、光電変換層1における光入射側の面の全体に形成された透明電極に置き換えてもよい。また、
図1の太陽電池において、透明絶縁膜3を省略してもよい。ただし、アップコンバージョン層4が光波長変換要素のみで形成されている場合には、光波長変換要素と透明背面電極2との接触を避けるために透明絶縁膜3を光波長変換要素と透明背面電極2との間に配置することが好ましい。また、
図1の太陽電池において、アップコンバージョン層4の配置位置を受光面電極7における光入射側に変更し、かつ透明絶縁膜3を省略した場合には、透明背面電極2を光反射電極に置き換えて光反射膜5を省略してもよい。
【0110】
本発明の光触媒は、本発明の光波長変換要素を用いたものである。例えば、
図1の太陽電池における受光面電極7、光電変換層1、透明背面電極2、および透明絶縁膜3に代えて、光触媒層を配置することにより、触媒効率の高い、光触媒を実現することができる。
【0111】
本発明の一例に係る光触媒は、
図2に示すように、光触媒が添加された水10(光触媒層)が収容され、光触媒が添加された水10以外の空間にガス9が充填されたガラスチャンネル8と、ガラスチャンネル8の側面上および底面上に形成されたアップコンバージョン層4と、アップコンバージョン層4の外側の面上に形成された光反射膜5と、光反射膜5を支持するために光反射膜5の外側の面上に形成された機械的支持体11とを備えている。
【0112】
図2の構成により、太陽からの入射光6を、アップコンバージョン層4がアップコンバートする(より短い波長の光に変換する)ことにより、水10に添加された光触媒が触媒反応に使用できる波長範囲の光の強度を高めて、光触媒の変換効率をさらに高めることができる。
【0113】
本発明の光触媒型水素・酸素発生装置は、本発明の光波長変換要素を用いたものである。例えば、
図1の太陽電池における受光面電極7、光電変換層1、透明背面電極2、および透明絶縁膜3に代えて、光触媒層を配置することにより、水素・酸素発生効率の高い光触媒型水素・酸素発生装置を実現することができる。
【0114】
また、本発明の光アップコンバージョンフィルターは、光をより短い波長の光に変換する光アップコンバージョンフィルターであって、前記光波長変換要素と、セルとを備えている。
【0115】
前記セルとしては、光を透過しうるセルであれば特に限定されるものではないが、例えば、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等からなる2枚のガラス板を重ね合わせてそれらの周縁部を融着接合した構成のセルを用いることができる。
【0116】
前記光波長変換要素は、その酸素濃度が、100質量ppm以下の状態で前記セル中に封入されていることが好ましく、10質量ppm以下の状態で前記セル中に封入されていることがより好ましく、1質量ppm以下の状態で前記セル中に封入されていることがさらに好ましく、0.1質量ppm以下の状態で前記セル中に封入されていることが最も好ましい。前記光波長変換要素が、その酸素濃度が100質量ppm以下の状態で前記セル中に封入されている場合、酸素濃度が低い状態に保たれている。その結果、太陽光強度程度の弱い光にも適用可能な高い光波長変換効率を安定して示す光アップコンバージョンフィルターを実現できる。
【0117】
前記光アップコンバージョンフィルターは、例えば、光波長変換要素をセル中に注入し、必要に応じてその酸素濃度が100質量ppm以下となるまで脱酸素処理を行った後、セルを封止する方法によって得ることができる。前記脱酸素処理の方法としては、例えば、ロータリーポンプやターボ分子ポンプ等の真空ポンプを用いて光波長変換要素を減圧処理する方法、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを光波長変換要素中にバブリングさせる方法、光波長変換要素を凍結させた後で真空ポンプを用いて減圧処理(真空脱気)する方法(凍結真空脱気法)等が挙げられる。
【0118】
前記光アップコンバージョンフィルターは、前記太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置のアップコンバージョン層4として利用することができる。
【0119】
なお、本発明の光波長変換要素を用いた太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置、光アップコンバージョンフィルター等の物品においては、光波長変換要素の酸素濃度を低減するために酸素ゲッターを共存させてもよい。また、本発明の光波長変換要素を用いた太陽電池、光触媒、光触媒型水素・酸素発生装置、光アップコンバージョンフィルター等の物品においては、光波長変換要素の酸素濃度を低減するために水吸収材料を共存させてもよい。
【実施例】
【0120】
次に、実施例により本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。以下のイオン液体(C)の作製例で用いる超純水については以下の通りである。
【0121】
〔超純水の製造〕
以下のイオン液体(C)の作製例では、超純水として、超純水製造装置(製造元:Merck KGaA、型番:Direct−Q(登録商標)UV3)で製造した超純水を用いた。
【0122】
〔有機光増感分子(A)の合成例1〕
非特許文献6に記載の方法で、下記式
【0123】
【化15】
で表される有機光増感分子(A)(2−ヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)を合成した。得られた化合物の同定は、以下のNMRスペクトルにより行った。
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.51−7.48(m,3H),7.27−7.25(m,2H),6,04(s,1H),2.63(s,3H),2.57(s,3H),1.38(s,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ 157.9,154.7,145.3,143.4,141.7,135.0,132.0,131.1,129.8,129.5,129.4,128.0,122.5,84.4,16.8,16.0,14.9,14.7
〔有機光増感分子(A)の合成例2〕
非特許文献6に記載の方法で、下記式
【0124】
【化16】
で表される有機光増感分子(A)(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)を合成した。得られた化合物の同定は、以下のNMRスペクトルにより行った。
1H NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.54−7.51(m,3H),7.26−7.24(m,2H),2.65(s,6H),1.38(s,6H)
13C NMR(100MHz,CDCl
3):δ 156.9,145.5,141.5,134.4,129.7,129.6,127.9,85.8,17.1,16.2
〔イオン液体(C)の作製例1〕
非水混和性のイオン液体である1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:169051−76−7;以下「イオン液体#1」と称する)の市販品(製造元:Ionic Liquids Technologies GmbH)をガラスバイアル瓶にとり、そのイオン液体#1の市販品にその9倍の体積の超純水を加え、汎用のマグネチックスターラーおよび撹拌子を用いて撹拌し静置した(その9倍の体積の超純水により洗浄した)。このとき、ガラスバイアル瓶の内容物は、ガラスバイアル瓶の底部にある当該イオン液体層と、その上にある水層とに分離した。その後、水層を取得し、水層のpH(洗浄後の水のpH)を測定したところ、水層のpHは3.9であった。
【0125】
一方、このイオン液体#1の市販品1mlを内容量約8mlのガラスバイアル瓶にとり、イオン液体#1の市販品に活性炭30mgを加え、真空乾燥オーブン(製造元:ヤマト科学株式会社、型番:ADP200)中で140℃にて3時間真空乾燥した。真空乾燥オーブンからガラスバイアル瓶を取り出した後、遠心分離を行い、活性炭を殆ど含まない上澄み部分を取得した。取得した上澄み部分を、孔径約0.2μmの使い捨てシリンジフィルター(製造元:Merck KGaA、型番:IC Millex(登録商標)−LG)に通して残存する活性炭を除去し、内容量約20mlのガラスバイアル瓶内に注いだ。ガラスバイアル瓶の内容物にその9倍の体積の超純水を加え、汎用のマグネチックスターラーおよび撹拌子を用いて5分間撹拌し数分間静置した後に水層を除去する、という洗浄操作を、3回繰り返した。3回目の洗浄操作で除去された水層のpH(洗浄後の水のpH)を測定したところ、水層のpHは6.5であった。
【0126】
最後に、ガラスバイアル瓶内に残った水層をガラス製パスツールピペット(製造元:Fisher Scientific Inc.、製品番号:5−5351−01)で可能な限り取り除いた。ガラスバイアル瓶の内容物(イオン液体層)を強制対流乾燥オーブン(販売元:アドバンテック東洋株式会社、製造元:東洋製作所、型番:DRM320DB)にて70℃で一晩乾燥した後、さらに真空乾燥オーブン(先の真空乾燥に使用したものと同じ)にて120℃で3時間真空乾燥し、イオン液体(C)であるイオン液体#1を得た。
【0127】
〔イオン液体(C)の作製例2〕
イオン液体(C)の作製例1で用いたイオン液体#1の市販品に代えて非水混和性のイオン液体である1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:350493−08−2;以下「イオン液体#2」と称する)の市販品(製造元:Ionic Liquids Technologies GmbH)を用いる以外は、イオン液体(C)の作製例1と同様の処理(イオン液体の9倍の体積の超純水による洗浄(撹拌および水層除去)の3回繰り返し)を行った。その結果、3回目の洗浄操作で除去された水層のpH(洗浄後の水のpH)が6.4となり、イオン液体(C)であるイオン液体#2が得られた。
【0128】
〔イオン液体(C)の作製例3〕
イオン液体(C)の作製例1および2と同様の処理をそれぞれ行うことにより、イオン液体(C)である、イオン液体#1およびイオン液体#2を得た。また、イオン液体(C)の作製例1で用いたイオン液体#1の市販品に代えて、すべて非水混和性のイオン液体である、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−82−2;以下「イオン液体#3」と称する)の市販品(製造元:Ionic Liquids Technologies GmbH)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−83−3;以下「イオン液体#4」と称する)の市販品(製造元:Ionic Liquids Technologies GmbH)、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:174899−83−3;以下「イオン液体#5」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、エチルジメチルプロピルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:258273−77−7;以下「イオン液体#6」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:169051−76−7;以下「イオン液体#7」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:377739−43−0;以下「イオン液体#8」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:713512−19−7;以下「イオン液体#9」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:223437−11−4;以下「イオン液体#10」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:350493−08−2;以下「イオン液体#11」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:382150−50−7;以下「イオン液体#12」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CAS番号:851856−47−8;以下「イオン液体#13」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)、およびメチルトリ−n−オクチルアンモニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(CAS番号:375395−33−8;以下「イオン液体#14」と称する)の市販品(製造元:Merck KGaA)をそれぞれ用いる以外は、イオン液体(C)の作製例1と同様の処理を行うことにより、イオン液体(C)である、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#6、イオン液体#7、イオン液体#8、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#11、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14を得た。
【0129】
得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1〜#14のそれぞれの一部に対して、その9倍の体積の超純水を加え、汎用のマグネチックスターラーおよび撹拌子を用いて5分間撹拌し数分間静置した後、水層を取得し、水層のpH(洗浄後の水のpH)を測定したところ、何れの場合にも水層のpHは5より大きかった。
【0130】
〔イオン液体(C)中での有機光増感分子(A)の溶解安定性の確認〕
有機光増感分子(A)の合成例2で得られた有機光増感分子(A)(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)を、イオン液体(C)中に目視上均質かつ透明に溶解および/または分散させることができ、かつ、その状態が安定に保たれることを確認するため、以下の実験を行った。
【0131】
まず、内容積約8mlのガラスバイアル瓶を3個用意し、それぞれのガラスバイアル瓶内に、イオン液体(C)の作製例1に準じて予め洗浄水のpHが5より大きくなるように調製したイオン液体(C)であるイオン液体#1、イオン液体#3、およびイオン液体#12を各300μlずつ入れた。
【0132】
続いて、これらの3つのガラスバイアル瓶内にそれぞれ、有機光増感分子(A)の合成例2で得られた有機光増感分子(A)(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)をトルエン中に濃度3×10
-4Mで溶解させた溶液を100μlずつ加えた。そして、これらのガラスバイアル瓶の内容物に対してガラス製パスツールピペット(製造元:Fisher Scientific Inc.、製品番号:5−5351−01)を用いて「吸い・吐き」を繰り返し行って目視で均質かつ透明な混合液とした。その後、これらのガラスバイアル瓶に蓋をして、超音波バスソニケーター(製造元:Branson Ultrasonics Corp.、型番:Model3510)にて約7分間撹拌・均質化処理した。その後、各ガラスバイアル瓶の蓋を取り除き、各ガラスバイアル瓶を真空容器に入れて、スクロールポンプ(製造元:エドワーズ株式会社、型番:XDS35i、設計到達圧力:1Pa以下)を用いて室温で約8時間減圧処理を行った。その結果、トルエンが痕跡量以下まで除去された、目視上均質かつ透明な一層の溶液および/または分散体(液体)が得られた。
【0133】
続いて、これら液体の安定性を確かめるため、これらの3つのガラスバイアル瓶を大気中・室温の光の当たらない棚の中で静置保管し、162時間後に棚から取り出して確認したところ、これら液体は目視上均質かつ透明な状態のままであった。さらに、これらの3種類の液体をそれぞれスライドガラス上に少量滴下し、対物レンズ倍率10倍および50倍にて顕微鏡で観察した。観察の結果、いずれの液体にも微結晶等の固体析出は全く見られず、有機光増感分子(A)の合成例2で得られた有機光増感分子(A)が、目視上均質かつ透明に、イオン液体(C)中において溶解および/または分散した状態を安定に保っていることが確認された。
【0134】
〔実施例1〕
(光波長変換要素の作製)
室温下で、内容積約8mlのガラスバイアル瓶内に、イオン液体(C)の作製例1で得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1を400μl入れた。続いて、このイオン液体(C)であるイオン液体#1に、有機光増感分子(A)としてのメソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリンパラジウム(CAS番号:119654−64−7)をトルエン中に濃度2×10
-4Mで溶解させた溶液を約20μl、有機発光分子(B)としてのペリレン(CAS番号:198−55−0)をトルエン中に濃度4×10
-3Mで溶解させた溶液を約300μl加えた。これにより、目視で不均質な混合液体が得られた。この目視で不均質な混合液体に対して、特許文献3に記載した方法と同様にガラス製パスツールピペット(イオン液体(C)の作製例1で使用したものと同じ)を用いて「吸い・吐き」を繰り返し行うことにより、目視で均質かつ透明な混合液を得た。その後、そのガラスバイアル瓶に蓋をして、超音波バスソニケーター(製造元:Branson Ultrasonics Corp.、型番:Model3510)にて約10分間撹拌および均質化処理した。
【0135】
その後、ガラスバイアル瓶の蓋を取り除き、ガラスバイアル瓶を真空容器内に入れ、室温下でスクロールポンプ(製造元:エドワーズ株式会社、型番:XDS35i、設計到達圧力:1Pa以下)を用いて約8時間減圧処理を行った。その結果、揮発分であるトルエンは痕跡量以下まで除去され、目視上均質かつ透明な一層の溶液および/または分散体(液体)が得られた。さらに、このガラスバイアル瓶を、アルゴンで満たされたグローブボックス中に設置された真空チャンバー(アルミニウム製、内部寸法が直径10cm×高さ6cmの円筒形特注品)の中に設置し、専用の蓋で真空チャンバーを密閉した後、ターボ分子ポンプ(製造元:Pfeiffer Vacuum Technology AG、型番:HiCube 80、実質到達圧力:約10
-4〜10
-5Pa)で一晩、約10
-4〜10
-5Paの真空度にて真空引きを行うことにより、残留する酸素分子を徹底的に除去し、光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を得た。
【0136】
(光波長変換要素のアップコンバージョン発光の評価)
続いて、同グローブボックス中で真空チャンバーの蓋を開け、同グローブボックス中において、特許文献3に記載した方法と同様に、当該液体(光波長変換要素)の一部を、内寸1mm×1mm、外寸2mm×2mm、長さ約25mmの片端閉じ正方形石英管内にその全長の3/4程度、注入し、石英管の開口端を鉛ハンダで封止して、当該石英管に密閉されたアップコンバージョン発光評価用試料を得た。このアップコンバージョン発光評価用試料は、光波長変換要素とセルとしての石英管とを備え、光波長変換要素が、その酸素濃度が100質量ppm以下の状態で前記石英管中に封入されているものであり、本発明の光アップコンバージョンフィルターに相当する。
【0137】
作製したアップコンバージョン発光評価用試料を専用の試料ホルダーに固定し、励起光として、連続光レーザー発光器(製造元:CVI Melles Griot Inc.、型番:25LHP928−249)から出射させた連続光レーザー発光(波長:632.8nm、スポット径:約0.8mm、出力パワー:約28mW、以下「連続光レーザー発光#1」と称する)を照射したところ、目視で明るい青色のアップコンバージョン発光(波長475nm付近に最大ピーク)が観測された。そして、同じアップコンバージョン発光評価用試料からのアップコンバージョン発光を、入射励起光と直角の方向に集光レンズで取り出し、取り出したアップコンバージョン発光をもう一枚のレンズで分光器(製造元:Roper Scientific GmbH、型番:SP−2300i)の入口スリットに集光し、分光器の後に設置された電子冷却シリコンCCD検出器(製造元:Roper Scientific GmbH、型番:Pixis100BR)によりアップコンバージョン発光のスペクトル(スペクトル形状)および強度を測定した。測定されたアップコンバージョン発光スペクトルを
図3に示す。この強度を時間に対してモニターしたところ、アップコンバージョン発光評価用試料からのアップコンバージョン発光の強度は連続光レーザー発光#1の照射時間(数分間)の間不変であり、アップコンバージョン発光評価用試料が連続光レーザー発光#1の照射に対して高い安定性を有していることが判明した。
【0138】
(光波長変換要素の光吸収スペクトルの測定)
また、アップコンバージョン発光評価用試料の作製に使用しなかった残りの液体(光波長変換要素)を厚さ1mmの薄型石英セルに入れて、光吸収スペクトル測定用試料とした。紫外可視近赤外分光光度計(製造元:島津製作所、型番:UV−3600)により、光吸収スペクトル測定用試料の光吸収スペクトルを測定した。測定された光吸収スペクトルを
図4に示す。
【0139】
〔比較例1〕
イオン液体(C)の作製例1の方法により得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1の代わりに、イオン液体(C)の作製例1に使用したイオン液体#1の市販品(その9倍の体積の超純水で洗浄した後に洗浄後の水のpHが3.9であるもの)をそのまま用いる以外は、実施例1と同じ手順で比較用の光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を作製し、実施例1と同じ手順で比較用のアップコンバージョン発光評価用試料を作製し、続いて、実施例1と同じ条件でアップコンバージョン発光強度を測定した。
【0140】
その結果、この比較用のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度は目視で非常に弱く、実施例1で得られたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度と比べて格段に弱いものであった。また、この比較用のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度の時間変化をモニターしたところ、連続光レーザー発光#1の照射開始直後からアップコンバージョン発光強度が急速に低下し始め、照射開始から約10秒程度で殆どアップコンバージョン発光が無くなってしまった。したがって、前記の比較用のアップコンバージョン発光評価用試料が、連続光レーザー発光#1の照射に対して極めて不安定であることが判明した。
【0141】
実施例1および比較例1の結果からわかるように、本発明の光波長変換要素である実施例1の光波長変換要素はアップコンバージョン発光の安定性が良好であった。すなわち、イオン液体(C)の作製例1で使用したイオン液体#1の市販品(その9倍量の超純水で洗浄したときに、洗浄後の水のpHが3.9となるもの)を、イオン液体(C)であるイオン液体#1(その9倍量の超純水で洗浄したときに、洗浄後の水のpHが5より大きくなるもの)に置き換えることによって、光照射に対する光波長変換要素の安定性を著しく高め、応用に適する形態に改善することに成功した。
【0142】
〔実施例2〕
イオン液体(C)の作製例1で作製したイオン液体(C)であるイオン液体#1に代えてイオン液体(C)の作製例2で作製したイオン液体(C)であるイオン液体#2を用いる以外は、実施例1と同じ手順で光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を作製し、実施例1と同じ手順でアップコンバージョン発光評価用試料および光吸収スペクトル測定用試料を作製し、続いて、実施例1と同じ条件でアップコンバージョン発光スペクトル、アップコンバージョン発光強度(ピーク強度および積分強度)、および光吸収スペクトルを測定した。測定されたアップコンバージョン発光スペクトルおよび光吸収スペクトルをそれぞれ
図5および
図6に示す。
【0143】
〔比較例2〕
イオン液体(C)の作製例1で得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1に代えてイオン液体(C)の作製例2に使用したイオン液体#2の市販品をそのまま用いる以外は、実施例1と同じ手順で比較用の光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を作製し、実施例1と同じ手順で比較用のアップコンバージョン発光評価用試料および比較用の光吸収スペクトル測定用試料を作製し、続いて、実施例1と同じ条件でアップコンバージョン発光スペクトル、アップコンバージョン発光強度(ピーク強度および積分強度)、および光吸収スペクトルを測定した。測定されたアップコンバージョン発光スペクトルおよび光吸収スペクトルをそれぞれ
図5および
図7に示す。
【0144】
実施例2のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度と比較例2のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度とを比較するために、これらのアップコンバージョン発光強度を比較例2のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度(ピーク強度および積分強度)を1として規格化した。
図8に、そのようにして規格化した、実施例2および比較例2のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度(ピーク強度および積分強度)を縦軸に示す。これらのアップコンバージョン発光強度の大きさは、アップコンバージョン量子効率(光波長変換効率)に比例する。
【0145】
なお、本比較例における比較用のアップコンバージョン発光評価用試料の作製は、実施例2におけるアップコンバージョン発光評価用試料の作製と同じバッチで同じ日に同時並行して行った。また、本比較例における比較用のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度の測定も、実施例2におけるアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度の測定と同じ日に同じ光学測定条件の下で行った。そのため、本比較例では、アップコンバージョン発光強度の測定結果に関して実施例2における結果との定量的な相互比較が可能となっている
図8に示すように、その9倍量の超純水で洗浄したときに洗浄後の水のpHが5より大きくなるイオン液体(C)であるイオン液体#2を使用した本発明に係る光波長変換要素である実施例2の光波長変換要素では、その9倍量の超純水で洗浄したときに洗浄後の水のpHが5以下となる市販のイオン液体#2を使用した比較用の光波長変換要素である比較例2の光波長変換要素のアップコンバージョン発光強度の約1.4倍程度まで向上(改善)したアップコンバージョン発光強度が得られることが判明した。以上のように、実施例1と比較例1との比較、および実施例2と比較例2との比較から、光波長変換要素にイオン液体(C)を用いることの利点および改善効果が明らかになった。
【0146】
〔実施例3〕
(光波長変換要素の作製)
イオン液体(C)の作製例1で得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1(400μl)に代えてイオン液体(C)の作製例2で得られたイオン液体#2(400μl)を使用し、メソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリンパラジウムをトルエン中に濃度2×10
-4Mで溶解させた溶液約20μlに代えて、有機光増感分子(A)の合成例1で得られた有機光増感分子(A)(2−ヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)をトルエン中に濃度6×10
-4Mで溶解させた溶液約40μlを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を得た。続いて、実施例1と同じ手順でアップコンバージョン発光評価用試料および光吸収スペクトル測定用試料を作製し、続いて、実施例1と同じ条件で光吸収スペクトルを測定した。測定された光吸収スペクトルを
図9に示す。
【0147】
(光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率の測定)
本実施例で作製したアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン量子効率(光波長変換効率)を、特許文献3の[0099]に記載されている測定方法と同様に、参照法に基づき以下のように測定した。
【0148】
まず、本実施例で作製したアップコンバージョン発光評価用試料を、実施例1で使用したのと同じ試料ホルダーに固定し、励起光として、連続光レーザー発光器(製造元:Abal OptoTek Co., Ltd.(AOTK)、型番:Action532S)から出射させた連続光レーザー発光(波長:532nm、スポット径:約0.8mm、出力パワー:約30mW)を照射して、アップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光スペクトルを分光器(実施例1で使用したものと同じ)の後に設置した電子冷却シリコンCCD(Charge Coupled Device)検出器(実施例1で使用したものと同じ)で測定および記録した。測定されたアップコンバージョン発光スペクトルを
図10に示す。
【0149】
続いて、トルエンやベンゼン等の無極性溶媒中での蛍光量子効率が約85%であることが知られている色素である9,10−ビス(フェニルエチニル)アントラセン(CAS番号:10075−85−1)の濃度1×10
-5Mのトルエン溶液を作製した。この溶液を、実施例1および本実施例で使用したのと同じ内寸1mm×1mm、外寸2mm×2mm、長さ約25mmの片端閉じ正方形石英管にその全長の3/4程度、注入し、その開口端を鉛ハンダで封止して、リファレンス試料とした。そして、このリファレンス試料を実施例1で使用したのと同じ試料ホルダーに固定し、励起光として、連続光レーザー発光器(製造元:World Star Tech Inc.、型番:TECBL−30GC−405)から出射させた連続光レーザー発光(波長:405nm、スポット径:約0.8mm、出力パワー:約1mW)を照射して、リファレンス試料の蛍光発光スペクトルを分光器(実施例1で使用したものと同じ)の後に設置した電子冷却シリコンCCD検出器(実施例1で使用したものと同じ)で測定および記録した。
【0150】
このようにして記録されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光スペクトルおよびリファレンス試料の蛍光発光スペクトルは、分光器内に搭載された回折格子の回折効率波長依存性、および電子冷却シリコンCCD検出器の検出感度波長依存性について補正し、記録されたスペクトル形状の歪みを補正した。そして、アップコンバージョン発光評価用試料およびリファレンス試料の補正後のスペクトル(アップコンバージョン発光スペクトルおよび蛍光発光スペクトル)それぞれについての、励起波長における試料の吸光度および励起光強度の情報を基に、当業者に通常用いられる関係式を用いてアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン量子効率を決定した。
【0151】
以上の手順から、本実施例で作製した光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率が20.1%と判明した。
【0152】
〔実施例4〕
有機光増感分子(A)の合成例1で得られた有機光増感分子(A)(2−ヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)をトルエン中に濃度6×10
-4Mで溶解させた溶液約40μlに代えて、有機光増感分子(A)の合成例2で得られた有機光増感分子(A)(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)をトルエン中に濃度3×10
-4Mで溶解させた溶液約20μlを使用したこと以外は、実施例3と同じ手順で光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を得た。
【0153】
次いで、本実施例で作製した光波長変換要素を用いた以外は実施例3と同じ手順で、アップコンバージョン発光評価用試料および光吸収スペクトル測定用試料を作製し、その光吸収スペクトル、アップコンバージョン発光スペクトル、およびアップコンバージョン量子効率を測定した。測定された光吸収スペクトルを
図11に、アップコンバージョン発光スペクトルを
図12に示す。その結果、本実施例で作製した光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率が16.8%と判明した。
【0154】
〔実施例3および4と非特許文献6との比較〕
非特許文献6では、有機光増感分子および有機発光分子として、それぞれ実施例3において使用したのと同種類の分子、すなわち、それぞれ有機光増感分子(A)の合成例1で得られた有機光増感分子(A)(2−ヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)およびペリレンを用いて光波長変換要素が作製されているが、その光波長変換要素の媒体として古典的な有機溶媒(アセトニトリル)が用いられている。非特許文献6では、その光波長変換要素に励起光として波長532nmの連続光レーザー発光を照射して測定が行われ、そのアップコンバージョン量子効率が2.4%であったことが報告されている。
【0155】
また、非特許文献6では、有機光増感分子および有機発光分子として、それぞれ実施例4において使用したのと同種類の分子、すなわち、それぞれ有機光増感分子(A)の合成例2で得られた有機光増感分子(A)(2,6−ジヨード−1,3,5,7−テトラメチル−8−フェニル−4,4−ジフルオロボラジアザインダセン)およびペリレンを用いて光波長変換要素が作製されているが、その光波長変換要素の媒体として古典的な有機溶媒(アセトニトリル)が用いられている。非特許文献6では、その光波長変換要素に励起光として波長532nmの連続光レーザー発光を照射して測定が行われ、そのアップコンバージョン量子効率が5.4%であったことが報告されている。
【0156】
実施例3および実施例4と非特許文献6とでは、測定に関する諸条件が完全に同じではないため単純な比較は必ずしも容易ではないが、実施例3および実施例4において得られたアップコンバージョン量子効率(20.1%および16.8%)は、比較例3および4において測定されたアップコンバージョン量子効率(2.4%および5.4%)より一桁程度高くなっており、顕著な向上(改善)が得られたと判断できる。
【0157】
〔実施例5〕
続いて、イオン液体(C)として様々な粘度のイオン液体を検討し、その種類による光波長変換要素の光波長変換効率(アップコンバージョン量子効率)への影響を鋭意検討した結果、驚くべきことに、イオン液体の粘度が光波長変換要素の光波長変換効率を支配する設計上極めて重要な因子であることが初めて明らかになった。
【0158】
(イオン液体(C)の粘度の測定)
本実施例で使用する、イオン液体(C)の作製例3で作製したイオン液体(C)である、イオン液体#1、イオン液体#2、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#6、イオン液体#7、イオン液体#8、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#11、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14の粘度を、コーン/プレート型粘度計(製造元:Brookfield Engineering Laboratories, Inc.、型番:R/S Plus)を用いて26℃で測定した。その結果、イオン液体#1の26℃における粘度は86.8mPa・s、イオン液体#2の26℃における粘度は94.5mPa・s、イオン液体#3の26℃における粘度は28.4mPa・s、イオン液体#4の26℃における粘度は45.7mPa・s、イオン液体#5の26℃における粘度は47.0mPa・s、イオン液体#6の26℃における粘度が70.3mPa・s、イオン液体#7の26℃における粘度は87.3mPa・s、イオン液体#8の26℃における粘度は57.9mPa・s、イオン液体#9の26℃における粘度は86.7mPa・s、イオン液体#10の26℃における粘度は71.8mPa・s、イオン液体#11の26℃における粘度は94.7mPa・s、イオン液体#12の26℃における粘度は64.8mPa・s、イオン液体#13の26℃における粘度は200mPa・s、イオン液体#14の26℃における粘度は584mPa・sであった。
【0159】
(光波長変換要素の作製)
イオン液体(C)の作製例1で作製したイオン液体(C)であるイオン液体#1に代えて、イオン液体(C)の作製例3で作製したイオン液体(C)であるイオン液体#1、イオン液体#2、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#6、イオン液体#7、イオン液体#8、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#11、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14をそれぞれ用いる以外は、実施例1と同じ手順で14種類の光波長変換要素を作製した。
【0160】
(光波長変換要素のアップコンバージョン発光強度の測定)
上記の14種類の光波長変換要素を用いて、実施例1と同じ手順で14種類のアップコンバージョン発光評価用試料を作製し、続いて、実施例1と同じ条件でアップコンバージョン発光強度を測定した。
【0161】
イオン液体(C)であるイオン液体#2を用いて作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を1として、その他のイオン液体(C)で作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を相対的に規格化して、アップコンバージョン効率へのイオン液体の粘度の影響を検討した。
【0162】
なお、イオン液体(C)の作製例3における14種類のイオン液体(C)の作製、および本実施例における14種類のアップコンバージョン発光評価用試料の作製は、同じ条件下で行った。また、これら14種類のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度の測定も、同じ光学測定条件の下で行い、かつ、本実施例における測定はすべて、26±1℃の環境温度で行った。そのため、これら14種類のアップコンバージョン発光評価用試料の間では、アップコンバージョン発光強度の測定結果に関して定量的な相互比較が可能となっている。
【0163】
また、再現性を確かめるために、イオン液体#13から作製されたアップコンバージョン発光評価用試料については3回、イオン液体#14から作製されたアップコンバージョン発光評価用試料については2回、それぞれ、アップコンバージョン発光評価用試料の作製およびアップコンバージョン発光強度測定を繰り返した。
【0164】
図13のグラフに、イオン液体(C)であるイオン液体#1〜#14の26℃における粘度を横軸に、イオン液体(C)であるイオン液体#2から作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を1として規格化された、全てのアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を縦軸に示す。また、
図13のグラフにおけるイオン液体(C)であるイオン液体#1〜13から作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のプロットの部分を拡大したグラフを
図14に示す。
図13および
図14中では、各アップコンバージョン発光評価用試料のプロットをその作製に使用したイオン液体の種類で示している。
【0165】
なお、励起波長(632.8nm)における各アップコンバージョン発光評価用試料の吸光度の実測値には若干ではあるが互いにばらつきがあったため、この影響を取り除くために、この吸光度の実測値のばらつきに対する補正を行った。
図13及び
図14の縦軸の値は、この補正後の値である。
【0166】
図13及び
図14の結果から、光波長変換要素の相対アップコンバージョン発光強度(これはアップコンバージョン量子効率に比例する)と、光波長変換要素に使用されているイオン液体(C)の粘度との間に、明確かつ強い相関があることが発見された。さらに、少なくとも
図13及び
図14の横軸のレンジでは、より高い粘度をもつイオン液体(C)を使うことで、より高いアップコンバージョン発光強度(すなわち、より高いアップコンバージョン量子効率)を達成できることが明らかになった。これから、光波長変換要素に用いるイオン液体の粘度が光波長変換要素の設計における極めて重要な効率支配因子であることが初めて明確になった。
【0167】
(光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率の測定)
本実施例においてイオン液体(C)であるイオン液体#14を用いて作製されたアップコンバージョン発光評価用試料に対し、励起光として、実施例1で使用したものと同じ連続光レーザー発光器から出射させた連続光レーザー発光#1(波長:632.8nm、スポット径:約0.8mm、出力パワー:約28mW)を照射したこと以外は、実施例3と同じ手順で光吸収スペクトルおよびアップコンバージョン発光スペクトルを測定し、光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率(光波長変換効率)を測定した。測定された光吸収スペクトルを
図15に、アップコンバージョン発光スペクトルを
図16に示す。その結果、光波長変換要素のアップコンバージョン量子効率は15.4%と判明した。
【0168】
〔実施例6〕
(光波長変換要素の作製)
イオン液体(C)の作製例1で得られたイオン液体(C)であるイオン液体#1(400μl)に代えてイオン液体(C)の作製例3で得られたイオン液体#14(400μl)を使用し、有機光増感分子(A)としてメソ−テトラフェニル−テトラベンゾポルフィリンパラジウムをトルエン中に濃度2×10
-4Mで溶解させた溶液に代えてオクタエチルポルフィリンパラジウムをトルエン中に濃度4×10
-4Mで溶解させた溶液を使用し、有機発光分子(B)としてペリレンをトルエン中に濃度4×10
-3Mで溶解させた溶液に代えて9,10−ジフェニルアントラセンをトルエン中に濃度4×10
-3Mで溶解させた溶液を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、光波長変換要素としての目視上均質かつ透明な液体を得た。続いて、実施例1と同じ手順で光吸収スペクトル測定用試料アップコンバージョンおよび発光評価用試料を作製し、実施例1と同じ条件で光吸収スペクトルを測定した。測定された光吸収スペクトルを
図17に示す。
【0169】
次いで、本実施例で作製した光波長変換要素を用いた以外は実施例3と同じ手順で、上記アップコンバージョン発光評価用試料を用いてアップコンバージョン発光スペクトルを測定した。測定されたアップコンバージョン発光スペクトルを
図18に示す。
【0170】
また、実施例3と同じ手順で、上記アップコンバージョン発光評価用試料を用いて出力パワー30mWの条件におけるアップコンバージョン量子効率を測定し、連続光レーザー発光の出力パワーを20mWに変更したこと以外は実施例3と同じ手順で、上記アップコンバージョン発光評価用試料を用いて出力パワー20mWの条件におけるアップコンバージョン量子効率を測定した。その結果、本実施例で作製した光波長変換要素は、出力パワー30mWの条件におけるアップコンバージョン量子効率が31.3%、出力パワー20mWの条件におけるアップコンバージョン量子効率が29.2%と判明した。
【0171】
〔実施例7〕
(イオン液体(C)の粘度の測定)
本実施例で使用する、イオン液体(C)の作製例3で作製したイオン液体(C)である、イオン液体#1、イオン液体#2、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14の粘度を、コーン/プレート型粘度計(実施例5で使用したものと同じ)を用いて20℃で測定した。
【0172】
(光波長変換要素の作製)
イオン液体(C)の作製例2で得られたイオン液体(C)であるイオン液体#14に代えて、イオン液体(C)の作製例3で作製したイオン液体(C)であるイオン液体#1、イオン液体#2、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14をそれぞれ用いる以外は、実施例6と同じ手順で10種類の光波長変換要素を作製した。
【0173】
(光波長変換要素のアップコンバージョン発光強度の測定)
上記の10種類の光波長変換要素を用いて、実施例1と同じ手順で10種類のアップコンバージョン発光評価用試料を作製し、続いて、実施例3と同じ条件でアップコンバージョン発光強度を測定した。
【0174】
イオン液体(C)であるイオン液体#2を用いて作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を1として、その他のイオン液体(C)で作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を相対的に規格化して、アップコンバージョン効率へのイオン液体の粘度の影響を検討した。
【0175】
なお、これら10種類のアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度の測定も、同じ光学測定条件の下で行い、かつ、本実施例における測定はすべて、20±1℃の環境温度で行った。そのため、これら10種類のアップコンバージョン発光評価用試料の間では、アップコンバージョン発光強度の測定結果に関して定量的な相互比較が可能となっている。
【0176】
図19のグラフに、イオン液体(C)であるイオン液体#1、イオン液体#2、イオン液体#3、イオン液体#4、イオン液体#5、イオン液体#9、イオン液体#10、イオン液体#12、イオン液体#13、およびイオン液体#14の20℃における粘度を横軸に、イオン液体(C)であるイオン液体#2から作製されたアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を1として規格化された、全てのアップコンバージョン発光評価用試料のアップコンバージョン発光強度を縦軸に示す。
図19中では、各アップコンバージョン発光評価用試料のプロットをその作製に使用したイオン液体の種類で示している。
【0177】
図13、
図14、および
図19の結果から、有機光増感分子(A)および有機発光分子(B)の種類に係わらず、光波長変換要素に使用されているイオン液体(C)の粘度が高くなるにしたがって、光波長変換要素の相対アップコンバージョン発光強度(これはアップコンバージョン量子効率に比例する)が上昇することが判明した。