特許第6692016号(P6692016)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692016
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】微生物の識別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20200427BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20200427BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20200427BHJP
【FI】
   G01N27/62 VZNA
   !C12Q1/04
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】6
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2018-508328(P2018-508328)
(86)(22)【出願日】2016年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2016060865
(87)【国際公開番号】WO2017168740
(87)【国際公開日】20171005
【審査請求日】2019年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500254354
【氏名又は名称】公益財団法人科学技術交流財団
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 廣人
(72)【発明者】
【氏名】山本 奈保美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 晃代
(72)【発明者】
【氏名】島 圭介
(72)【発明者】
【氏名】船津 慎治
【審査官】 藤田 都志行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−184020(JP,A)
【文献】 特開2007−316063(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0107864(US,A1)
【文献】 DIECKMANN, Ralf and MALORNY, Burkhard,"Rapid Screening of Epidemiologically Important Salmonella enterica subsp. enterica Serovars by Whole-Cell Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization-Time of Flight Mass Spectrometry",Applied and Environmental Microbiology,American Society for Microbiology,2011年 6月,Vol.77, No.12,pp.4136-4146,ISSN 0099-2240
【文献】 渡 智久,「質量分析装置を用いた微生物の同定と現場での応用」,Medical Technology,医歯薬出版株式会社,2014年 7月,Vol.42, No.7,pp.718-728,ISSN 0389-1887
【文献】 寺本 華奈江,佐藤 浩昭,孫 麗偉,鳥村 政基,田尾 博明,「リボソームタンパク質をバイオマーカーとしたマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析によるバクテリアの迅速分類同定」,Journal of the Mass Spectrometry Society of Japan,日本質量分析学会,2007年 6月 1日,Vol.55, No.3,pp.209-216,ISSN 1340-8097
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
G01N 27/64
C12Q 1/04
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルを得るステップと、
b)前記マススペクトルから、マーカータンパク質由来のピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
c)前記質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に含まれる微生物が、Salmonella属菌のいずれの血清型の菌を含むかを識別する識別ステップと
を有し、
前記マーカータンパク質として2種類のリボソームタンパク質S8、Peptidylpropyl isomeraseの少なくとも一方を用いることを特徴とする微生物の識別方法。
【請求項2】
請求項1に記載の微生物の識別方法において、
前記マーカータンパク質として、少なくとも12種類のリボソームタンパク質S8、L15、L17、L21、L25、S7、SODa、Peptidylpropyl isomerase、gns、YibT、YaiA、YciFに由来する質量電荷比m/zを指標とするクラスター解析を用いて、Salmonella属菌の血清型を分類することを特徴とする識別方法。
【請求項3】
請求項2に記載の微生物の識別方法において、
前記クラスター解析による識別結果を表すデンドログラムを作成するステップを、さらに有することを特徴とする微生物の識別方法。
【請求項4】
請求項1に記載の微生物の識別方法において、
Salmonella属菌の血清型が Orionであって、
前記マーカータンパク質として少なくとも、Peptidylpropyl isomeraseを含むことを特徴とする微生物の識別方法。
【請求項5】
請求項1に記載の微生物の識別方法において、
Salmonella属菌の血清型が Rissenであって、
前記マーカータンパク質として少なくとも、S8を含むことを特徴とする微生物の識別方法。
【請求項6】
コンピュータに請求項1〜5のいずれかに記載の各ステップを実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析を利用した微生物の識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
サルモネラはグラム陰性通性嫌気桿菌の腸内細菌科に属し、Salmonella属にはSalmonella enterica、Salmonella bongoriとSalmonella subterraneaの3つの菌種が属し、さらにSalmonella entericaには6つの亜種(Salmonella(以下「S.」と略すこともある)enterica subsp. enterica 、S. enterica subsp. salamae 、S. enterica subsp. arizonae 、S. enterica subsp. diarizonae 、S. enterica subsp. houtenae 、S. enterica subsp. indica)に分類される。
【0003】
Salmonella属には約2500の血清型が存在し、これは細胞壁リポ多糖体であるO抗原と、鞭毛タンパク質であるH抗原の組み合わせの違いに基づいたKaffmann-Whiteの分類によって決定される。食中毒性サルモネラなどの病原性サルモネラは、ほとんどS. enterica subsp. entericaに属する。この亜種も約1500種の血清型(serovar)に分類されている(非特許文献1)。現在、血清型を決定するためには抗血清による凝集試験が用いられている。それはスライド凝集によるO群別試験と試験管凝集によるH型別試験であり、H型別試験は運動性を高めるため、かつ1相、2相決定のための相誘導を行うため、血清型決定には時間と熟達した技術を要する。
【0004】
一部の血清型は病原性を示す宿主が決まっている。たとえばTyphi,、Choleraesuis、 Dublin、 Gallinarumは、人間、ブタ、牛、鶏に特異的に全身感染症を引き起こす。しかし、これら以外の多くの血清型は人、家畜、ペット、野生動物と複数の宿主に感染し、非チフス性急性胃腸炎(食中毒)の原因菌となっている。非チフス性サルモネラ菌の感染経路としては河川等の環境、野生動物、ペット、食品(1次汚染のみならず鼠族、昆虫などの2次汚染も含む)等多岐にわたっており、血清型の決定は感染防止及び疫学的分析のため重要であり、80年以上使用されている(非特許文献2)。
【0005】
非チフス性サルモネラ菌感染症の近年における高検出血清型は、Enteritidis、Thompson、Infantis、Typhimurium、Saintpaul、Braenderup、Schwarzengrund、Litchfield、Montevideoであり(IASR HP(参考資料1))、我が国の家畜伝染病予防法ではDublin、Enteritidis、Typhimurium、 Choleraesuisに家畜が感染した場合、農林水産省への届出が義務付けられている。
【0006】
これまでにサルモネラ菌の検出および血清型を決定する方法として、マルチプレックスPCR(非特許文献3,4)、パルスフィールドゲル電気泳動法(非特許文献5)、マルチローカスシーケンスタイピング法(非特許文献6)等が報告されている。しかしながら、マルチプレックスPCRでは、数個の血清型を決定するか、あるいは一部のO抗原、H抗原を決定するにとどまり、またこれ以外の手法は煩雑な操作が必要で時間がかかるという課題がある。
【0007】
一方、近年ではマトリックス支援レーザ脱離イオン化法飛行時間型質量分析法(MALDI−TOF MS)による微生物同定技術が臨床ならび食品分野で急速に広がっている。本法は、ごく微量の微生物試料を用いて得られたマススペクトルパターンに基づいて微生物同定を行う手法であり、短時間で分析結果を得ることができ、且つ多検体の連続分析も容易であるため、簡便且つ迅速な微生物同定が可能である。これまでに、複数の研究グループによりMALDI−TOF MSを用いたサルモネラ菌の識別が試みられてきた(非特許文献7,8,9,10)
【0008】
非特許文献10ではバイオマーカーを選出し決定木(Decision Tree)を作製することでSalmonella enterica subsp. entericaの亜種及び主要な5種類の血清型を区別している。Dieckmanらの研究は非常に細かくタンパク質のピークを精査しているが、バイオマーカーピークが出る株と出ない株があり、またピークの確認に時間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006-191922号公報
【特許文献2】特開2013-085517号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ANTIGENIC FORMULAE OF THE SALMONELLA SEROVARS 2007 9th edition WHO Collaborating Centre for Reference and Research on Salmonella Patrick A.D. Grimont, Fran?ois-Xavier Weill Institut Pasteur, 28 rue du Dr. Roux, 75724 Paris Cedex 15, France
【非特許文献2】Winfield&Groisman, 2003, 福岡県環境研究所
【非特許文献3】M Akiba Et.al., Microbiological Methods, 2011, 85, 9-15
【非特許文献4】Y Hong et al.,BMC microbiology 2008, 8:178
【非特許文献5】F Tenover, et al. Journal of clinical microbiology 33.9 (1995): 2233.
【非特許文献6】M Achtman, et al. PLoS Pathog 8.6 (2012): e1002776.
【非特許文献7】Seng, Piseth, et al. Future microbiology 5.11 (2010): 1733-1754.
【非特許文献8】M Kuhns et al. PLoS One 7.6 (2012): e40004.
【非特許文献9】R Dieckmann et al. AEM, 74.24 (2008): 7767-7778.
【非特許文献10】R Dieckmann, et al. (2011): AEM-02418.
【非特許文献11】T, Ojima-Kato, et al. PLOS one 2014: e113458.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一方、特許文献1には、微生物菌体を質量分析して得られるピークの約半分がリボソームタンパク質由来であることを利用し、質量分析で得られるピークの質量電荷比を、リボソームタンパク質遺伝子の塩基配列情報を翻訳したアミノ酸配列から推測される計算質量と関連づけることで該ピークの由来となるタンパク質の種類を帰属する手法(S10−GERMS法)が有用であることが示されている(特許文献1)。この手法によれば、質量分析およびそれに付属するソフトウェアを用いて理論的根拠に基づいた信頼性の高い微生物同定を行うことが可能となる(特許文献2)。
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型を迅速かつ簡単に識別することができる、遺伝的情報に基づいた信頼性の高いバイオマーカーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、質量分析によって試料に含まれる菌種がSalmonella属菌のいずれの血清型であるかを識別するために用いられるマーカータンパク質として2種類のリボソームタンパク質S8、Peptidylpropyl isomeraseが有用であること、これらリボソームタンパク質の少なくとも一つを用いることにより再現性よく、且つ迅速にSalmonella属菌の血清型の識別が可能であることを発見し、本発明に至った。
【0014】
すなわち、上記課題を解決するために成された本発明に係る微生物の識別方法は、
a)微生物を含む試料を質量分析してマススペクトルを得るステップと、
b)前記マススペクトルから、マーカータンパク質由来のピークの質量電荷比m/zを読み取るステップと、
c)前記質量電荷比m/zに基づいて、前記試料に含まれる微生物が、Salmonella属菌のいずれの血清型の菌を含むかを識別する識別ステップと
を有し、
前記マーカータンパク質として2種類のリボソームタンパク質S8、Peptidylpropyl isomeraseの少なくとも一方を用いることを特徴とする。
【0015】
上記の微生物の識別方法においては、
前記マーカータンパク質として、少なくとも12種類のリボソームタンパク質S8、L15、L17、L21、L25、S7、SODa、Peptidylpropyl isomerase、gns、YibT、YaiA、YciFに由来する質量電荷比m/zを指標とするクラスター解析を用いて、Salmonella属菌の血清型を分類することが好ましい。
【0016】
この場合、前記クラスター解析による識別結果を表すデンドログラムを作成するステップを、さらに有することが好ましい。
【0017】
また、上記の微生物の識別方法において、Salmonella属菌の血清型が Orionであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、Peptidylpropyl isomeraseを含むことが好ましい。
【0018】
さらに、Salmonella属菌の血清型が Rissenであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、S8を含むことが好ましい。
【0019】
また、Salmonella属菌の血清型が Saintpaulであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、L21、S7、YaiA、YciFを含むことが好ましい。
【0020】
さらに、Salmonella属菌の血清型が Braenderupであるときは、前記マーカタンパク質として少なくとも、SOD、又はgns及びL25から成る群を含むことが好ましい。
【0021】
さらにまた、Salmonella属菌の血清型が Montevideo、又はSchwarzengrundであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、SOD及びL21のいずれか一方と、S7を含むことが好ましい。
【0022】
また、Salmonella属菌の血清型が Enteritidisであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、SOD、L17、及びS7を含むことが好ましい。
【0023】
さらに、Salmonella属菌の血清型が Infantisであるときは、前記マーカータンパク質として少なくとも、SOD、L21、S7、YibT、及びYciFを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、Salmonella属菌の血清型に特有な変異を示すリボソームタンパク質をマーカータンパク質として用いたため、Salmonella属菌の血清型を再現性よく、且つ迅速に識別することができる。
また、Salmonella属菌の血清型に特有な変異を示すリボソームタンパク質をマーカータンパク質として用い、マススペクトル上におけるマーカータンパク質由来のピークの質量電荷比m/zを指標としてクラスター解析を行うことにより、複数の試料に含まれるSalmonella属菌の血清型の識別を一括で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明に係る微生物の識別方法に用いられる微生物識別システムの要部を示す構成図。
図2】本発明に係る微生物の識別方法の手順の一例を示すフローチャート。
図3】実施例で使用したSalmonella属菌の菌種名、亜種名および血清型の一覧を示す図。
図4】凝集した免疫血清の組み合わせと血清型の関係を示す図。
図5】実施例で使用したプライマーの一覧を示す図。
図6】各アミノ酸の質量を示す図。
図7A】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その1)。
図7B】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その2)。
図7C】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その3)。
図7D】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その4)。
図7E】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その5)。
図7F】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その6)。
図7G】実施例で使用したSalmonella属菌の各リボソームタンパク質の理論質量値とMALDI−TOF MSによる実測値の一覧を示す図(その7)。
図8A】12種類のリボソームタンパク質の実測値による帰属結果(その1)。
図8B】12種類のリボソームタンパク質の実測値による帰属結果(その2)。
図8C】12種類のリボソームタンパク質の実測値による帰属結果(その3)。
図8D】12種類のリボソームタンパク質の実測値による帰属結果(その4)。
図9】MALDI−TOF MS測定により得られたチャート。
図10A】SARAMISによる識別結果(その1)。
図10B】SARAMISによる識別結果(その2)。
図11】リボソームタンパク質SODのピークチャート。
図12】リボソームタンパク質L17のピークチャート。
図13】リボソームタンパク質L21のピークチャート。
図14】リボソームタンパク質S8のピークチャート。
図15】リボソームタンパク質L15のピークチャート。
図16】リボソームタンパク質S7のピークチャート。
図17】リボソームタンパク質gnsのピークチャート。
図18】リボソームタンパク質YibTのピークチャート。
図19】リボソームタンパク質ppicのピークチャート。
図20】リボソームタンパク質L25のピークチャート。
図21】リボソームタンパク質YaiAのピークチャート。
図22】リボソームタンパク質YciFのピークチャート。
図23】12種類のリボソームタンパク質を使って作成したデンドログラム。
図24A】リボソームタンパク質S8のDNA配列(その1)。
図24B】リボソームタンパク質S8のDNA配列(その2)。
図24C】リボソームタンパク質S8のDNA配列(その3)。
図24D】リボソームタンパク質S8のDNA配列(その4)。
図25A】リボソームタンパク質L15のDNA配列(その1)。
図25B】リボソームタンパク質L15のDNA配列(その2)。
図25C】リボソームタンパク質L15のDNA配列(その3)。
図25D】リボソームタンパク質L15のDNA配列(その4)。
図25E】リボソームタンパク質L15のDNA配列(その5)。
図26A】リボソームタンパク質L17のDNA配列(その1)。
図26B】リボソームタンパク質L17のDNA配列(その2)。
図26C】リボソームタンパク質L17のDNA配列(その3)。
図26D】リボソームタンパク質L17のDNA配列(その4)。
図26E】リボソームタンパク質L17のDNA配列(その5)。
図27A】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その1)。
図27B】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その2)。
図27C】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その3)。
図27D】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その4)。
図27E】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その5)。
図27F】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その6)。
図27G】リボソームタンパク質sodAのDNA配列(その7)。
図28A】リボソームタンパク質L21のDNA配列(その1)。
図28B】リボソームタンパク質L21のDNA配列(その2)。
図28C】リボソームタンパク質L21のDNA配列(その3)。
図28D】リボソームタンパク質L21のDNA配列(その4)。
図29A】リボソームタンパク質L25のDNA配列(その1)。
図29B】リボソームタンパク質L25のDNA配列(その2)。
図29C】リボソームタンパク質L25のDNA配列(その3)。
図30A】リボソームタンパク質S7のDNA配列(その1)。
図30B】リボソームタンパク質S7のDNA配列(その2)。
図30C】リボソームタンパク質S7のDNA配列(その3)。
図30D】リボソームタンパク質S7のDNA配列(その4)。
図30E】リボソームタンパク質S7のDNA配列(その5)。
図31A】リボソームタンパク質gnsのDNA配列(その1)。
図31B】リボソームタンパク質gnsのDNA配列(その2)。
図32A】リボソームタンパク質yibTのDNA配列(その1)。
図32B】リボソームタンパク質yibTのDNA配列(その2)。
図33A】リボソームタンパク質ppiCのDNA配列(その1)。
図33B】リボソームタンパク質ppiCのDNA配列(その2)。
図34】リボソームタンパク質yaiAのDNA配列。
図35A】リボソームタンパク質yciFのDNA配列(その1)。
図35B】リボソームタンパク質yciFのDNA配列(その2)。
図36A】リボソームタンパク質SODのアミノ酸配列(その1)。
図36B】リボソームタンパク質SODのアミノ酸配列(その2)。
図36C】リボソームタンパク質SODのアミノ酸配列(その3)。
図37A】リボソームタンパク質L17のアミノ酸配列(その1)。
図37B】リボソームタンパク質L17のアミノ酸配列(その2)。
図38A】リボソームタンパク質L21のアミノ酸配列(その1)。
図38B】リボソームタンパク質L21のアミノ酸配列(その2)。
図39A】リボソームタンパク質S8のアミノ酸配列(その1)。
図39B】リボソームタンパク質S8のアミノ酸配列(その2)。
図40A】リボソームタンパク質L15のアミノ酸配列(その1)。
図40B】リボソームタンパク質L15のアミノ酸配列(その2)。
図41A】リボソームタンパク質S7のアミノ酸配列(その1)。
図41B】リボソームタンパク質S7のアミノ酸配列(その2)。
図42】リボソームタンパク質gnsのアミノ酸配列。
図43】リボソームタンパク質YibTのアミノ酸配列。
図44】リボソームタンパク質ppicのアミノ酸配列。
図45】リボソームタンパク質L25のアミノ酸配列。
図46】リボソームタンパク質YaiAのアミノ酸配列。
図47】リボソームタンパク質YciFのアミノ酸配列。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る微生物の識別方法の具体的な実施形態について説明する。
図1は本発明に係る微生物の識別方法に用いられる微生物識別システムの全体図である。この微生物識別システムは、大別して質量分析部10と微生物判別部20とから成る。質量分析部10は、マトリックス支援レーザ脱離イオン化法(MALDI)によって試料中の分子や原子をイオン化するイオン化部11と、イオン化部11から出射された各種イオンを質量電荷比に応じて分離する飛行時間型質量分離器(TOF)12を備える。
【0027】
TOF12は、イオン化部11からイオンを引き出してTOF12内のイオン飛行空間に導くための引き出し電極13と、イオン飛行空間で質量分離されたイオンを検出する検出器14とを備える。
【0028】
微生物判別部20の実体は、ワークステーションやパーソナルコンピュータ等のコンピュータであり、中央演算処理装置であるCPU(Central Processing Unit)21にメモリ22、LCD(Liquid Crystal Display)等から成る表示部23、キーボードやマウス等から成る入力部24、ハードディスクやSSD(Solid State Drive)等の大容量記憶装置から成る記憶部30が互いに接続されている。記憶部30には、OS(Operating System)31、スペクトル作成プログラム32、属・種決定プログラム33、および下位分類決定プログラム35(本発明に係るプログラム)が記憶されると共に、第1データベース34および第2データベース36が格納されている。微生物判別部20は、更に、外部装置との直接的な接続や、外部装置等とのLAN(Local Area Network)などのネットワークを介した接続を司るためのインターフェース(I/F)25を備えており、該インターフェース25よりネットワークケーブルNW(又は無線LAN)を介して質量分析部10に接続されている。
【0029】
図1においては、下位分類決定プログラム35に係るように、スペクトル取得部37、m/z読み取り部38、下位分類判定部39、クラスター解析部40、およびデンドログラム(系統図)作成部41が示されている。これらはいずれも基本的にはCPU21が下位分類決定プログラム35を実行することによりソフトウェア的に実現される機能手段である。なお、下位分類決定プログラム35は必ずしも単体のプログラムである必要はなく、例えば属・種決定プログラム33や、質量分析部10を制御するためのプログラムの一部に組み込まれた機能であってもよく、その形態は特に問わない。なお、属・種決定プログラム33としては、例えば、従来のフィンガープリント法による微生物同定を行うプログラム等を利用することができる。
【0030】
また、図1では、ユーザが操作する端末にスペクトル作成プログラム32、属・種決定プログラム33、および下位分類決定プログラム35、第1データベース34、および第2データベース36を搭載する構成としたが、これらの少なくとも一部又は全部を前記端末とコンピュータネットワークで接続された別の装置内に設け、前記端末からの指示に従って前記別の装置内に設けられたプログラムによる処理および/又はデータベースへのアクセスが実行される構成としてもよい。
【0031】
記憶部30の第1データベース34には、既知微生物に関する質量リストが多数登録されている。この質量リストは、ある微生物細胞を質量分析した際に検出されるイオンの質量電荷比を列挙したものであり、該質量電荷比の情報に加えて、少なくとも、前記微生物細胞が属する分類群(科、属、種など)の情報(分類情報)を含んでいる。こうした質量リストは、予め各種の微生物細胞を前記質量分析部10によるものと同様のイオン化法および質量分離法によって実際に質量分析して得られたデータ(実測データ)に基づいて作成することが望ましい。
【0032】
前記実測データから質量リストを作成する際には、まず、前記実測データとして取得されたマススペクトルから所定の質量電荷比範囲に現れるピークを抽出する。このとき、前記質量電荷比範囲を2,000〜35,000程度とすることにより、主にタンパク質由来のピークを抽出することができる。また、ピークの高さ(相対強度)が所定の閾値以上のものだけを抽出することにより、不所望のピーク(ノイズ)を除外することができる。なお、リボソームタンパク質群は細胞内で大量に発現しているため、前記閾値を適切に設定することにより、質量リストに記載される質量電荷比の大部分をリボソームタンパク質由来のものとすることができる。そして、以上により抽出されたピークの質量電荷比(m/z)を細胞毎にリスト化し、前記分類情報等を付加した上で第1データベース34に登録する。なお、培養条件による遺伝子発現のばらつきを抑えるため、実測データの採取に用いる各微生物細胞は、予め培養条件を規格化しておくことが望ましい。
【0033】
記憶部30の第2データベース36には、既知微生物を種よりも下位の分類(亜種、病原型、血清型、株など)で識別するためのマーカータンパク質に関する情報が登録されている。該マーカータンパク質に関する情報としては、少なくとも既知微生物における該マーカータンパク質の質量電荷比(m/z)の情報が含まれる。本実施形態における第2データベース36には、被検微生物がSalmonella属菌のいずれの血清型であるかを判定するためのマーカータンパク質に関する情報として、少なくとも12種類のリボソームタンパク質S8、L15、L17、L21、L25、S7、SODa、Peptidylpropyl isomerase、gns、YibT、YaiA、YciFに由来する質量電荷比m/zの値が記憶されている。これらリボソームタンパク質の質量電荷比の値については後述する。
【0034】
第2データベース36に記憶するマーカータンパク質の質量電荷比の値としては、各マーカータンパク質の塩基配列をアミノ酸配列に翻訳することにより求められた計算質量と、実測により検出される質量電荷比を比較して選別することが望ましい。なお、マーカータンパク質の塩基配列は、シークエンスによって決定するほか、公共のデータベース、例えばNCBI(国立生物工学情報センター:National Center for Biotechnology Information)のデータベース等から取得したものを用いることもできる。前記アミノ酸配列から計算質量を求める際には、翻訳後修飾としてN−末端メチオニン残基の切断を考慮することが望ましい。具体的には、最後から2番目のアミノ酸残基がGly, Ala, Ser, Pro, Val, Thr, 又はCysである場合に、N−末端メチオニンが切断されるものとして前記理論値を算出する。また、MALDI−TOF MSで実際に観測されるのはプロトンが付加した分子であるため、そのプロトンの分も加味して前記計算質量(すなわち各タンパク質をMALDI−TOF MSで分析した場合に得られるイオンの質量電荷比の理論値)を求めることが望ましい。
【0035】
本実施形態に係る微生物識別システムを用いたSalmonella属菌の血清型の識別手順についてフローチャートを参照しつつ説明を行う。
【0036】
まず、ユーザは被検微生物の構成成分を含む試料を調製し、質量分析部10にセットして質量分析を実行させる。このとき、前記試料としては、細胞抽出物、又は細胞抽出物からリボソームタンパク質等の細胞構成成分を精製したものの他、菌体や細胞懸濁液をそのまま使用することもできる。
【0037】
スペクトル作成プログラム32は、質量分析部10の検出器14から得られる検出信号をインターフェース25を介して取得し、該検出信号に基づいて被検微生物のマススペクトルを作成する(ステップS101)。
【0038】
次に、種決定プログラム33が、前記被検微生物のマススペクトルを第1データベース34に収録されている既知微生物の質量リストと照合し、被検微生物のマススペクトルに類似した質量電荷比パターンを有する既知微生物の質量リスト、例えば被検微生物のマススペクトル中の各ピークと所定の誤差範囲で一致するピークが多く含まれている質量リストを抽出する(ステップS102)。種決定プログラム33は、続いてステップS102で抽出した質量リストと対応付けて第1データベース34に記憶された分類情報を参照することで、該質量リストに対応した既知微生物が属する生物種を特定する(ステップS103)。そして、この生物種がSalmonella属菌でなかった場合(ステップS104でNoの場合)は、該生物種を被検微生物の生物種として表示部23に出力し(ステップS116)、識別処理を終了する。一方、前記生物種がSalmonella属菌であった場合(ステップS104でYesの場合)は、続いて下位分類決定プログラム35による識別処理に進む。なお、あらかじめ他の方法で、試料中にSalmonella属菌を含むことが判定されている場合は、マススペクトルを用いた種決定プログラムを利用せずに、下位分類決定プログラム35に進めばよい。
【0039】
下位分類決定プログラム35では、まず下位分類判定部39がマーカータンパク質である12種類のリボソームタンパク質S8、L15、L17、L21、L25、S7、SODa、Peptidylpropyl isomerase、gns、YibT、YaiA、YciFの質量電荷比の値をそれぞれ第2データベース36から読み出す(ステップS105)。続いてスペクトル取得部37が、ステップS101で作成された被検微生物のマススペクトルを取得する。そして、m/z読み取り部38が、該マススペクトル上において、前記の各マーカータンパク質に関連付けて第2データベース36に記憶された質量電荷比範囲に現れるピークを各マーカータンパク質に対応するピークとして選出し、その質量電荷比を読み取る(ステップS106)。そして、読み取った質量電荷比を指標とするクラスター解析を実行する。具体的には、下位分類判定部39が、この質量電荷比と前記第2データベース36から読み出した各マーカータンパク質の質量電荷比の値を比較し、該読み取った質量電荷比についてタンパク質の帰属を決定する(ステップS107)。そして、決定した帰属に基づきクラスター解析を実行して被検微生物の血清型を判定し(ステップS108)、その旨を被検微生物の識別結果として表示部23に出力する(ステップS109)。
【0040】
以上、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明を行ったが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲で適宜変更が許容される。
【実施例】
【0041】
(1)使用菌株
図3に記載の通り、独立行政法人製品評価技術基盤機構バイオテクノロジーセンター(NBRC)、菌株保存機関である理化学研究所 バイオリソースセンター微生物材料開発室 (JCM)(つくば)、ナショナルバイオリソースプロジェクトGTCコレクション(岐阜)およびアメリカンタイプカルチャーコレクション(Manassas, VA, USA)から入手可能なサルモネラ菌、及び、一般財団法人日本食品分析センターの単離菌、並びに兵庫県健康生活科学研究所の単離菌、合計64株を解析に使用した。Salmonella enterica subsp. entericaの血清型は、サルモネラ免疫血清「生研」(デンカ生研株式会社)および非特許文献3、4により報告されたマルチプレックスPCR法により決定した。この方法では22の血清型に分類された。図4に、O抗原免疫血清と血清型の関係を示す。
【0042】
(2)DNAの解析
Escherichia coliのデータベース作成(非特許文献11)で使用したプライマーの中でSalmonella属菌と共用できないものをコンセンサス配列に基づいて設計した。設計したプライマーを図5に示す。これらのプライマーを用いてS10-spc-alphaオペロンおよびバイオマーカーとなりうるタンパク質遺伝子のDNA配列を解析した。詳述すると、各菌株より常法にてゲノム抽出し、それを鋳型としてKOD plusによりPCRを行い、目的遺伝子領域を増幅した。得られたPCR産物を精製し、それをシーケンス解析の鋳型とした。シーケンス解析にはBig Dye ver. 3.1 Cycle Sequencing Kit(アプライド・バイオシステムズ, Foster City、カリフォルニア州、米国)を用いて行った。遺伝子のDNA配列からそれぞれの遺伝子のアミノ酸配列に変換し、図6のアミノ酸質量に基づき質量電荷比を算出して、理論質量値とした。
【0043】
(3)MALDI−TOF MSによる分析
Luria Agar培地(Sigma-Aldrich Japan合同会社、東京、日本)に生育した菌体を回収し、およそ2コロニー分の菌体を10μLのシナピン酸マトリックス剤(50v/v%アセトニトリル、0.6 v/v%トリフルオロ酢酸溶液中に25mg/mLのシナピン酸(和光純薬工業株式会社、大阪、日本))に加えて良く撹拌し、そのうち1.2 μLをサンプルプレートに搭載し自然乾燥した。MALDI−TOF MS測定にはAXIMA微生物同定システム(島津製作所、京都市、日本)を使用し、ポジティブリニアモード、スペクトルレンジ2000m/z〜35000m/zにて試料の測定を行った。上述の計算質量を測定された質量電荷比と許容誤差500ppmでマッチングし、適宜修正を施した。なお、質量分析装置のキャリブレーションには大腸菌DH5α株を用い、説明書に従い実施した。
【0044】
(4)Salmonella enterica subsp. enterica データベースの構築
上記(2)で得られたリボソームタンパク質等の理論質量値と、(3)で得られたMALDI−TOF MSによるピークチャートを照合し、実測で検出できたタンパク質に関しては、遺伝子配列から求めた理論値と実測値に相違がないことを確認した。そして、S10−spc−αオペロン内のリボソームタンパク質、および菌株により異なる質量を示したその他バイオマーカーとなりうるタンパク質の理論値および実測値を、データベースとして図7A図7Gのようにまとめた。
【0045】
図7A図7Gに示す数字は、遺伝子から求めた質量電荷比(m/z)の理論質量である。また、符号「〇」、「△」、「×」は実測での質量ピーク検出結果を表している。具体的には、符号「〇」はAXIMA微生物同定システムのデフォルトのピーク処理設定(Threshold offset ; 0.015mV, Threshold response ; 1.200)で理論値の500 ppm範囲内のピークとして検出されたものを、符号「×」は検出できない場合があったことを示している。また、符号「△」は、各菌株における理論値質量差または他のタンパク質ピークとの差がそれぞれ500 ppm以内であり、ピークが検出されてもその質量差を識別できなかったことを意味する。
【0046】
図7A図7Gからわかるように、s10-spc-alphaオペロン内にコードされているリボソームタンパク質L23、L16、L24、S8、L6、S5、L15、L17、およびオペロン外のL21、L25、S7、SODa、gns、YibT、Peptidylpropyl isomerase、YaiAおよびYciF(計17種類)は、その理論質量値がSalmonella enterica subsp. entericaの菌株によって異なるため、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型識別に使用できる有用なタンパク質マーカーである可能性が示された。
【0047】
しかしながら、L23、L16、L24、L6およびS5は理論質量差が500 ppm以上離れている菌株が存在し、これら菌株の識別のための有力なバイオマーカーとなりうることが分かるが、実測において検出することができない株があった。
【0048】
一方、S8、L15、L17、L21、L25、S7およびPeptidylpropyl isomeraseの、計7種類のタンパク質は、菌株によらず安定的に検出され、さらに菌株による質量差も500 ppm以上であることから、MALDI−TOF MSにおけるSalmonella enterica subsp. entericaの血清型識別のためのバイオマーカーとして有用であることがわかった。
【0049】
また、SODaはSalmonella enterica subsp. entericaの血清型識別に重要なバイオマーカーであるが、遺伝子型が多様であり7種の異なる質量電荷比が確認された。これらの質量電荷比はいずれもm/zが23000付近と大きく、この領域では他の質量電荷比との差が800ppm以上でないと現在提供されているMALDI−TOF MSでの分析精度が低く、識別できないため、現時点で識別可能な4種類をバイオマーカーとして用いた。また、gns、YibT、YaiAおよびYciFに関しては、理論質量値の一方に夾雑ピークが存在するものの、血清型Infantis、Thompson、Typhimuriunmが特異的に変異をしているタンパク質のため、夾雑ピークのない理論質量値のみをバイオマーカーとして用いた。そこで、12種類のタンパク質をSalmonella enterica subsp. enterica血清型識別用バイオマーカーとして用いた。
【0050】
(5)ソフトウェアによる、MALDI−TOFMS実測値の帰属
以上より、菌株によらず安定して検出される8種類のタンパク質S8、L15、L17、L21、L25、S7、SODa、Peptidylpropyl isomerase と、1つの質量の有無を確認する4種のタンパク質gns、YibT、YaiAおよびYciFの計12種のタンパク質をバイオマーカーとして、その理論質量値を特許文献2に示されるようなソフトウェアに登録した。
【0051】
SODaの質量差800ppm以内であった5:22962.8は最も近い1:22948.82に、6:2296.82と7:23004.88は2:23010.84、として登録した。また、夾雑ピークが存在するgns、YibT、YaiAおよびYciFはそれぞれ6483.51、8023.08、7110.89及び18643.13/18653.16を登録した。
【0052】
次に、MALDI−TOF MSにおける実測データを本ソフトウェアで解析し、それぞれのバイオマーカーが、登録された質量ピークとして正しく帰属されるかを調べた。その結果、図8A図8Gに示すように、すべての菌株のすべてのバイオマーカー質量ピークが登録した質量数として帰属された。各帰属質量パターンをグループ1〜31に分類し、各菌株の血清型を照らし合わせたところ、1,2および3にはTyphimurium、4と5には血清型不明O4グループ、6にはSaintpaul、7には血清型不明O18グループ、8にはOrion、 9にはBraenderup、10にはMontevideoとSchwarzengrund、11にはSchwarzengrund、12にはAbonyとPakistan、13および14にはEnteritidis、15にはRissen、16にはGallinarum Pullorum、17にはAltona、18にはAmsterdam、19と20にはInfantis、21にはIstanbul、22には血清型不明O4グループ、23にはManhattan、24にはMbandaka、25にはSenftenbergと血清型不明O 1,3,19グループ、26にはThompson、27には血清型不明O4グループ、28には血清型不明O7グループ、29にはBrandenburg、Minnesota、Saintpaulおよび30にはBrandenburgとSaintpaul、31にはCholeraesuis菌株が属することが分かった。
【0053】
以上から、S8(m/z 13996.36または14008.41)、L15(m/z14967.38、14981.41または14948.33)、L17(m/z 14395.61または14381.59)、L21(m/z11579.36または11565.33)、L25(m/z10542.19または10528.17)、S7(m/z17460.15、17474.18または17432.1)、SODa(m/z22948.82、23010.84、22976.83または22918.79)、Peptidylpropyl isomerase (m/z10198.07または 10216.11)、gns (m/z6483.51)、YibT(m/z8023.08)、YaiA(m/z7110.89)およびYciF(m/z 18643.13)の質量をMALDI−TOF MS分析のバイオマーカーとすることは、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型識別に有用であることがわかった。
【0054】
今回見出したバイオマーカーのうちS8とPeptidylpropyl isomeraseを除く10種類は非特許文献10で報告されている。しかし、非特許文献10では、ピーク一つずつの確認を必要とし、血清型を識別するためのMALDI−TOF MSのスペクトル解析に時間を要する。また、非特許文献10でEnteriridisの識別に重要なピークであると報告されている質量電荷比m/z6036は、非特許文献10では32株中5株でピークが確認されず、本実施例では35株中8株でピークが確認できなかった。このため、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型識別用バイオマーカーには用いなかった。
【0055】
今回、バイオマーカーにS8、Peptidylpropyl isomeraseを加え、厳選した12種類のタンパク質をバイオマーカーとすることにより、はじめて自動でSalmonella enteriva subsp. entericaを31グループに識別するデータベースを提供することが可能になった。
【0056】
(6)フィンガープリント方式(SARAMIS)との比較
実際に、既存のフィンガープリント方式(SARAMIS)による識別結果と、表6の示すバイオマーカー理論質量値を指標とした識別結果を比較した。まず、MALDI−TOF MSにおける実測では図9に示すようなチャートが得られた。本結果をAXIMA微生物同定システムの説明書に従いSARAMISにて解析した。これにより得られた結果を図10A及び図10Bに示す。これらの図から分かるように、試料に用いた全てのSalmonella属菌が91%〜99.9%でSalmonella enterica subsp. entericaと同定され、種の識別、血清型の識別は行われなかった。
【0057】
そこで、異なる亜種の株の実測結果を図8Aに示した理論質量データベースをもとに識別可能かを試みた。図11図22図8のチャートのうち12種類のバイオマーカーピーク部分を拡大したものである。図11図22からわかるように、それぞれのバイオマーカー質量がシフトしていることにより、ピークを区別することができる。12種類のバイオマーカーの実測値と比較し帰属したところ、図8A図8Dに示す結果と一致した。
【0058】
次に、12種類のリボソームタンパク質の帰属結果を用いてクラスター解析を行い、系統分類図(デンドログラム)を作成した。その結果を図23に示す。この方法では、Infantis、Brandenburg、Minnesota、Saintpaulの血清型の識別はできなかったものの、その他の血清型はほぼ識別することができた。
【0059】
以上より次のことが分かる。
SODa、S7、gnsが複数の血清型の識別に関与しており、Salmonella enterica subsp. entericaの血清型識別のためのバイオマーカーとして特に重要である。
また、SODaとS7の変異の組み合わせでEnteritidis、Mbandaka、Choleraesuisを他の血清型から識別することができる。
さらに、gnsによって、Infantisを識別し、EnteritidisとMbandakaを識別する。
非チフス性サルモネラ菌感染症原因血清型の上位であるTyphimuriumはYaiAによって、ThompsonはYibTによって分けられる。また、Pullorm(Gallinarum)はL17によって、RissenはS8によって、OrionはPeptidylpropyl isomeraseによって、AltonaはL15によって識別される。L25はInfantisとAmsterdamを分け、L21はMontevideoおよびShwarzengrund、Minnesotaを識別するのに重要である。YciFはInfantisの識別に重要である。
【0060】
(7)バイオマーカーの遺伝子配列およびアミノ酸配列
Salmonella enterica subsp. entericaの菌株によって異なる理論質量値を示した、S10-spc-alphaオペロン内にコードされているリボソームタンパク質S8、L15、L17と、オペロン外のSODa、L21、L25、S7、gns、YibT、Peptidylpropyl isomeraseおよびYciFの、計12種類のリボソームタンパク質の各菌株におけるDNA配列及びアミノ酸配列を図24図47にまとめた。
【符号の説明】
【0061】
10…質量分析部
11…イオン化部
12…TOF
13…引き出し電極
14…検出器
20…微生物判別部
21…CPU
22…メモリ
23…表示部
24…入力部
25…I/F
30…記憶部
31…OS
32…スペクトル作成プログラム
33…属・種決定プログラム
34…第1データベース
35…下位分類決定プログラム
36…第2データベース
37…スペクトル取得部
38…m/z読み取り部
39…下位分類判定部
40…クラスター解析部
41…デンドログラム作成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図7G
図8A
図8B
図8C
図8D
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24A
図24B
図24C
図24D
図25A
図25B
図25C
図25D
図25E
図26A
図26B
図26C
図26D
図26E
図27A
図27B
図27C
図27D
図27E
図27F
図27G
図28A
図28B
図28C
図28D
図29A
図29B
図29C
図30A
図30B
図30C
図30D
図30E
図31A
図31B
図32A
図32B
図33A
図33B
図34
図35A
図35B
図36A
図36B
図36C
図37A
図37B
図38A
図38B
図39A
図39B
図40A
図40B
図41A
図41B
図42
図43
図44
図45
図46
図47