(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
動脈の第1位置の血管径を測定した測定結果と、前記動脈の第2位置の血管径を測定した測定結果とを用いて、拍動に伴う前記動脈の血管径変動の特徴期である第1時期の第1脈波伝播速度および第2時期の第2脈波伝播速度を測定する脈波伝播速度測定部と、
前記第1脈波伝播速度、前記第2脈波伝播速度、および、前記第1時期並びに前記第2時期それぞれの前記第1位置の血管径、を用いて前記動脈の血管弾性指標値を算出する血管弾性指標値算出部と、
を備えた血管弾性指標値測定装置。
前記脈波伝播速度測定部は、前記第1時期および前記第2時期のうちの一方を拡張期とし、他方を重複切痕期として、前記第1脈波伝播速度および前記第2脈波伝播速度を測定する、
請求項1〜3の何れか一項に記載の血管弾性指標値測定装置。
前記血圧算出部は、前記血圧が、前記脈波伝播速度測定部により測定された脈波伝播速度の2乗に比例し、且つ、前記血管径の逆数に比例する所定の演算処理を行って前記血圧を算出する、
請求項8に記載の血圧測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血圧測定においては、非侵襲的な測定であっても精度良く血圧を測定したいという要望や、精度の良い血圧測定を一拍ごとの継続的な測定(常時測定或いは常時計測ともいう)として実現したいという要望がある。上述の特許文献1に開示された血圧測定方法によれば、血管径を高精度に測定することができれば、血圧の高精度な常時測定が実現できるようにも思われる。しかし、血圧の高精度な常時測定の実用化はそう単純ではない。
【0005】
実用化を困難とする原因の1つが、血管弾性指標値である。例えば、血管弾性指標値の1つであるスティフネスパラメーターβを用いた従来の血圧測定法では、事前に、加圧式の血圧計を用いた校正処理を行ってスティフネスパラメーターβを校正しておく必要がある。そして、非加圧で血圧を測定する間は、事前に校正したスティフネスパラメーターβを固定値として用いていた。
【0006】
ところが、血管の硬さ(弾性)は、自律神経の働き等により変化するため、血管弾性指標値を固定値としなければならない従来手法では、血圧の測定精度が低下してしまう。すなわち、血管弾性指標値の校正から時間が経過するほど、測定された血圧の値の信頼性が低下し得る。そのため、常時測定の精度を保証できる時間には、自ずと限界があった。
【0007】
従来手法の問題点は、常時測定を行う前に校正処理を行う必要があったことであり、常時測定を行いつつ校正処理を行うことができないことである。突き詰めると、加圧式の血圧計を用いて血管弾性指標値を算出する校正処理が必要であったことが問題であった。
【0008】
本発明は、上述した課題を解決するために考案されたものであり、その目的とするところは、加圧式の血圧計を不要とし、非加圧下において血管弾性指標値の測定を可能とする技術を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための第1の発明は、動脈の第1位置の血管径を測定した測定結果と、前記動脈の第2位置の血管径を測定した測定結果とを用いて、拍動に伴う前記動脈の血管径変動の特徴期である第1時期の第1脈波伝播速度および第2時期の第2脈波伝播速度を測定する脈波伝播速度測定部と、前記第1脈波伝播速度、前記第2脈波伝播速度、および、前記第1時期並びに前記第2時期それぞれの前記第1位置の血管径、を用いて前記動脈の血管弾性指標値を算出する血管弾性指標値算出部と、を備えた血管弾性指標値測定装置である。
【0010】
第1の発明によれば、拍動に伴う動脈の血管径変動の特徴期である第1時期の第1脈波伝播速度と、第2時期の第2脈波伝播速度と、その第1時期並びに第2時期それぞれの血管径とを用いて、血管弾性指標値を算出することができる。第1脈波伝播速度、第2脈波伝播速度、血管径の何れも、非加圧下において測定することができるため、非加圧下における血管弾性指標値の測定を実現することができる。
【0011】
第2の発明は、前記脈波伝播速度測定部が、前記第1時期と前記第2時期とを同一拍内の異なる時期として、前記第1脈波伝播速度および前記第2脈波伝播速度を測定する、第1の発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0012】
第2の発明によれば、第1脈波伝播速度および第2脈波伝播速度とは、同一拍内の異なる時期である第1時期および第2時期の脈波伝播速度として測定される。すなわち、毎拍、脈波伝播速度を測定することができるため、毎拍、血管弾性指標値を算出することができる。
【0013】
第3の発明は、前記脈波伝播速度測定部が、複数拍の間の脈波伝播速度を所定の統計演算処理することで前記第1脈波伝播速度および前記第2脈波伝播速度を算出する、第1の発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0014】
第3の発明によれば、第1脈波伝播速度および第2脈波伝播速度は、複数拍の間の脈波伝播速度を所定の統計演算処理することで算出される。所定の統計演算処理としては、例えば平均値や中央値を採用することができる。したがって、脈波伝播速度のバラツキを抑えて、血管弾性指標値をより精度よく測定することができる。
【0015】
第4の発明は、前記脈波伝播速度測定部が、前記第1時期および前記第2時期のうちの一方を拡張期とし、他方を重複切痕期として、前記第1脈波伝播速度および前記第2脈波伝播速度を測定する、第1〜第3の何れかの発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0016】
第4の発明によれば、第1時期および第2時期のうちの一方が拡張期とされ、他方が重複切痕期とされるため、比較的容易に第1時期および第2時期を捉えることができる。その結果、第1脈波伝播速度および第2脈波伝播速度の測定精度が向上し、血管弾性指標値の測定精度を向上させることができる。
【0017】
第5の発明は、前記脈波伝播速度測定部が、各心拍毎に前記第1脈波伝播速度および前記第2脈波伝播速度を測定し、前記血管弾性指標値算出部が、各心拍毎に前記血管弾性指標値を算出する、第1〜第4の何れかの発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0018】
第5の発明によれば、各心拍毎に、第1脈波伝播速度および第2脈波伝播速度が測定されるため、毎拍の血管弾性指標値の算出を実現することができる。
【0019】
第6の発明は、前記血管弾性指標値算出部が、前記血管弾性指標値の算出に当たり血圧を用いない、第1〜第5の何れかの発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0020】
第6の発明によれば、血管弾性指標値の算出に当たり血圧を用いないため、血圧を測定する必要がない。すなわち、従来のような加圧式血圧計を用いた血圧測定を行わずして、血管弾性指標値を測定することができる。
【0021】
第7の発明は、前記動脈の前記第1時期の第1血流速度および前記第2時期の第2血流速度を測定する血流速度測定部、を更に備え、前記血管弾性指標値算出部が、前記第1脈波伝播速度の代わりに前記第1脈波伝播速度から前記第1血流速度を差し引いた速度、前記第2脈波伝播速度の代わりに前記第2脈波伝播速度から前記第2血流速度を差し引いた速度、を用いて前記動脈の血管弾性指標値を算出する、第1〜第6の何れかの発明の血管弾性指標値測定装置である。
【0022】
第7の発明によれば、血管弾性指標値の算出に当たり、脈波伝播速度に血流速度の影響が表れている場合に、その影響を低減させることができる。
【0023】
第8の発明は、第1〜第6の何れかの発明の血管弾性指標値算出装置と、前記血管弾性指標値算出装置により算出された血管弾性指標値と、前記動脈の血管径を測定した測定結果とを用いて、血圧を算出する血圧算出部と、を備えた血圧測定装置である。
【0024】
第8の発明によれば、上述した血管弾性指標値算出装置により算出された血管弾性指標値と、血管弾性指標値の算出に当たり測定される血管径とを用いて血圧を算出することができる。すなわち、非加圧下において血圧を測定することが可能となる。
【0025】
第9の発明は、前記血圧算出部は、前記血圧が、前記脈波伝播速度測定部により測定された脈波伝播速度の2乗に比例し、且つ、前記血管径の逆数に比例する所定の演算処理を行って前記血圧を算出する、第8の発明の血圧測定装置である。
【0026】
第9の発明によれば、血圧を、脈波伝播速度の2乗に比例し、且つ、血管径の逆数に比例する所定の演算処理を行って算出することができる。
【0027】
第10の発明は、第7の発明の血管弾性指標値算出装置と、前記血管弾性指標値算出装置により算出された血管弾性指標値と、前記動脈の血管径を測定した測定結果とを用いて、前記脈波伝播速度測定部により測定された脈波伝播速度から前記血流速測定部により測定された血流速度を差し引いた速度の2乗に比例し、且つ、前記血管径の逆数に比例する所定の演算処理を行って血圧を算出する血圧算出部と、を備えた血圧測定装置である。
【0028】
第10の発明によれば、第7の発明の血管弾性指標値算出装置により算出された血管弾性指標値と、血管弾性指標値の算出に当たり測定される血管径とを用いて血圧を算出することができる。すなわち、非加圧下において血圧を測定することが可能となる。また、血圧の算出に当たり、脈波伝播速度に血流速度の影響が表れている場合に、その影響を低減させることができる。
【0029】
第11の発明は、演算装置に内蔵された演算処理部が、動脈の第1位置の血管径を測定した測定結果と、前記動脈の第2位置の血管径を測定した測定結果とを用いて、拍動に伴う前記動脈の血管径変動の特徴期である第1時期の第1脈波伝播速度および第2時期の第2脈波伝播速度を測定することと、前記第1脈波伝播速度、前記第2脈波伝播速度、および、前記第1時期並びに前記第2時期それぞれの前記第1位置の血管径、を用いて前記動脈の血管弾性指標値を算出することと、を実行する血管弾性指標値測定方法である。
【0030】
第11の発明によれば、第1の発明と同様の作用効果を発揮する血管弾性指標値測定方法を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を適用した一実施形態について説明するが、本発明の適用可能な形態が以下の実施形態に限られるものではないことは勿論である。
【0033】
図1は、本実施形態における血圧測定装置1の全体構成を説明するための図であり、プローブ部30の取り付け状態を示す図である。
血圧測定装置1は、本体装置10とプローブ部30とがケーブルによって電気的に接続された構成を有し、血管弾性指標値の測定機能を有することから血管弾性指標値測定装置ということもできる。
【0034】
本体装置10は、一種のコンピューター制御装置であり、プローブ部30を制御して、測定対象の血管5の血管径をリアルタイムに測定する。そして、測定結果から脈波伝播速度を求め、測定した血管径および脈波伝播速度を用いて血管5の血管弾性指標値を算出する。血管弾性指標値の算出は、毎拍、行うことができる。また、本体装置10は、算出した血管弾性指標値と、測定した血管径とを用いて血圧を算出する。血圧の算出もまた、毎拍、行うことができる。すなわち、血管弾性指標値を各心拍ごとに最新の値に更新(校正)しつつ、毎拍の血圧を継続的に測定するという常時測定(或いは常時計測ともいう)を実現することができる。
本実施形態では、血管弾性指標値をスティフネスパラメーターβとすることとして以下説明する。
【0035】
本体装置10の具体的な機能構成は、
図5を参照して後述するが、プロセッサー等を有して各種の演算制御を行う処理部100、タッチパネルやボタンなどを有してユーザーが操作入力するための操作入力部200、液晶画面などを有してユーザーに各種の情報を表示するための表示部400、スピーカーなどの音出力部430、外部機器と通信を行う通信部450、ハードディスクやメモリーなどを有してプログラムやデータを記憶する記憶部500、などを備えて構成される。
【0036】
プローブ部30は、同一仕様の超音波プローブとして第1超音波プローブ31と第2超音波プローブ32とを有する。第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32は、被検者3の皮膚に貼り付けられる薄型プローブであり、被検者3へ超音波パルスを発信・照射し、その反射波を受信する。
【0037】
[原理の説明]
次に、本実施形態における血管弾性指標値の算出、および、血圧測定の原理について説明する。
第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32は、走査面を平行にして所定のプローブ間距離Lp(好適には10mm〜30mm程度)だけ離して粘着台座34に固定されており、同じ血管5の血管短軸方向断面を測定するように構成されている。
【0038】
粘着台座34は、皮膚面に着脱可能な粘着層を有しており、被検者3が身体を動かしても容易に外れたり剥がれたりしない。粘着台座34は、第1超音波プローブ31と第2超音波プローブ32とが血管5(本実施形態では上腕動脈)の短軸を描出できるように、且つ第1超音波プローブ31が心臓側(上流側)で第2超音波プローブ32が指先側(下流側)になるように、貼り付けされる。
【0039】
なお、第1超音波プローブ31と第2超音波プローブ32を一体の粘着台座34に搭載せずにそれぞれ別個の粘着台座34に搭載する構成としてもよい。
また、測定対象とされる血管5は上腕動脈に限らず、他の動脈としてもよい。自律神経の働き等により血管の硬さ(弾性)が比較的変化し易い動脈、例えば橈骨動脈や大腿動脈などを測定対象とする場合には、本実施形態の作用効果が大きく働く。勿論、その他の動脈、例えば頸動脈や鎖骨下動脈、大動脈などを測定対象としてもよい。
【0040】
図2は、第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32の貼り付け位置における断面図である。第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32は、それぞれ内蔵する発信部から数MHz〜数十MHzの超音波パルス信号やバースト信号を血管5に向けて送出し、内蔵する受信部で血管5の前壁5aおよび後壁5pそれぞれから反射波を受信する。そして、本体装置10は、前壁5aからの受信波と、後壁5pからの受信波との到達時間差から血管5の直径、すなわち第1超音波プローブ31で測定した第1血管径D1と、第2超音波プローブ32で測定した第2血管径D2とを算出する。超音波の送出および反射波の受信は極く短い時間間隔で連続的に行われる。このため、第1血管径D1と第2血管径D2との算出も連続的に行うことができる。この結果、血管径が時系列に変化する波形が得られる。
【0041】
図3は、第1血管径D1と第2血管径D2の時系列波形例であって、(1)血管径波形、(2)血管径を時間で二階微分した加速度波形、(3)拡張期の加速度波形の拡大図、に相当する。なお、波形は理解を容易にするために簡略化している。
【0042】
図3(1)によれば、第1血管径D1と第2血管径D2の変化から拡張期Td、収縮期Ts、重複切痕期Tnが分かる。また、第1超音波プローブ31は、第2超音波プローブ32よりも心臓側に配置されているため、心臓収縮に伴う圧力波は第1超音波プローブ31の方が早く到達する。そのため、第1血管径D1は第2血管径D2より拡張/収縮のタイミングが早い。
【0043】
しかし、実際の血管径の変化は
図3(1)に示したように拡張期Td、収縮期Ts、重複切痕期Tnが明確に現れるとは限らない。特に、収縮期Tsのピークはその時点を明確に特定できないケースが比較的多く、例えば心疾患等が懸念される被検者3では心雑音の影響が現れる。
【0044】
そこで、本実施形態では、収縮期Tsのピークではなく、拡張期Tdおよび重複切痕期Tnのピークを検出する。具体的には、第1血管径D1および第2血管径D2を逐一、時刻tで二階微分し、それぞれの径変化の加速度を求める。そして、二階微分値が所定のピーク条件(例えば基準値を超えること)を満たすピークを見つけることで、拡張期Tdおよび重複切痕期Tnを検出する。本手法によれば、拡張期Tdおよび重複切痕期Tnを確実に見つけることができる。二階微分は、所定の微分演算の一例である。
【0045】
なお、二階微分値を用いることは副次的に血管径測定のロバスト性を高めることになる。すなわち、第1超音波プローブ31や第2超音波プローブ32から送出される超音波の方向(以下「送出ライン」という)が血管5の短軸方向断面の中心を通る場合、送出ライン上に現れる血管径の変動が最も大きくなるため、血管径の変化がはっきりと波形に現れる。しかし、送出ラインが、短軸方向断面の中心からずれてしまうと血管径の変動が小さくなるため、波形がなまってしまう。微分演算を行わずに血管径波形のピークから拡張期Tdおよび重複切痕期Tnを見つける構成では、被検者3が身体を動かすことで、血管5に対する送出ラインがずれてしまい、血管径波形のピークが表出し難くなって、拡張期Tdおよび重複切痕期Tnを見つけられずに継続的な測定が途切れる可能性がある。しかし、本実施形態のように二階微分すると、送出ラインが血管5の短軸方向断面の中心を通っていない状態であっても、血管5の壁部を捉えてさえいれば加速度波形には明確なピークが表出する。つまり、被検者3の体動に対する高いロバスト性が得られる。被検者3が身体を動かしたとしても継続的な血圧測定が途切れる可能性は従来技術よりも遙かに小さくなる。
【0046】
微分演算として二階微分を行うこととして説明するが、一回微分を行って拡張期Tdおよび重複切痕期Tnを検出することとしてもよい。一回微分であっても、従来技術に比べて、被検者3の体動に対するロバスト性は高いものとなる。
【0047】
さて、第1血管径D1および第2血管径D2それぞれの二階微分値のピーク時刻t1,t2の差から脈波伝播時間差Δtが得られる。脈波伝播時間差Δtが得られたならば、この脈波伝播時間差Δtとプローブ間距離Lpとから脈波伝播速度PWVを求める。この脈波伝播速度PWVの算出を、ピーク時刻t3,t4の差についても行う。ピーク時刻t1,t2は、拡張期Tdに対応する時刻(時期)であり、ピーク時刻t3,t4は、重複切痕期Tnに対応する時刻である。拡張期Tdおよび重複切痕期Tnそれぞれの脈波伝播速度PWVである、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnを算出すると、次に、本実施形態の「血管弾性指標値算出式」に、拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dnと、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnとを代入して血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβを求める。
【0048】
スティフネスパラメーターβを求めた後は、本実施形態の「血圧算出式」を用いて脈波伝播速度PWVに基づいて血圧Pを求める。
【0049】
では次に、本実施形態の「血圧算出式」および「血管弾性指標値算出式」について説明する。
まず、非加圧状態での血管径血圧特性は、例えば
図4に示すような非線形特性を有することが知られている。測定血圧P、収縮期血圧Ps、拡張期血圧Pd、測定血管径D、収縮期血管径Ds、拡張期血管径Dd、スティフネスパラメーターβの間には、式(1)および式(2)の関係がある。
【数1】
【数2】
【0050】
式(1)および式(2)は、上述した特許文献1に開示された、血圧算出およびスティフネスパラメーターβの校正用の従来の式である。
式(1)を用いて血圧を算出する場合には、測定された血管径Dの値がべき乗(累乗ともいう)の指数として作用するため、血管径Dの少しの測定誤差が、測定される血圧Pの値に大きく影響を及ぼしてしまう。このため、被検者の体動に対するロバスト性に劣るため、一拍ごとの継続的な測定(常時測定)には式(1)は不向きである。また、式(2)は、カフ式血圧計などの加圧式血圧計でより正確な血圧を事前に求めてスティフネスパラメーターβを校正する式であるため、上述した通りの課題があり、本実施形態では採用することができない。
【0051】
さて、脈波伝播速度PWVと血管弾性との関係として、メーンズ・コルテベークの式である式(3)が知られている。但し、血管の壁厚h、血管半径r、血液密度ρ、増分弾性係数Einc、とする。増分弾性係数Eincは、式(4)で表される。
【数3】
【数4】
【0052】
ここで、式(3)に式(4)を代入して整理すると式(5)が得られる。
【数5】
【0053】
また、式(1)をDで微分して整理すると式(6)が得られる。
【数6】
【0054】
そして、式(5)に式(6)を代入すると式(7)となり、当該式を変形することで、本実施形態の「血圧算出式」である式(8)が得られる。本実施形態の「血圧算出式」は、スティフネスパラメーターβと、血管径Dと、脈波伝播速度PWVとの関係を示す式となる。
【数7】
【数8】
式(8)において血液密度ρの変化は極めて小さいため、定数として扱うことができる。
【0055】
次に、本実施形態の「血管弾性指標値算出式」について説明する。
ある第1時期T1での血管径D
1および脈波伝播速度PWV
1と、第2時期T2での血管径D
2および脈波伝播速度PWV
2とを求めることができた場合に、これらの値を式(8)に代入すると、式(9)および式(10)の関係式が得られる。
【数9】
【数10】
【0056】
ここで、式(10)を式(9)で除算すると、式(11)が得られる。
【数11】
【0057】
式(2)は、収縮期・拡張期に限定せず任意の時相で成立する。つまり、式(11)を式(2)に代入すると、式(12)が得られる。
【数12】
【0058】
この式(12)が本実施形態の「血管弾性指標値算出式」である。本実施形態の「血管弾性指標値算出式」は、2つの時期における血管径Dおよび脈波伝播速度PWVから、スティフネスパラメーターβを算出できることを示している。2つの時期は任意に定めることができるが、本実施形態では、血管径波形のうち、明確に現れる特徴的な変化部分である、拡張期Tdおよび重複切痕期Tnの2つの時期を用いる。すなわち、第1時期T1を拡張期Td、第2時期T2を重複切痕期Tnとして、拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dnと、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnとを「血管弾性指標値算出式」に代入することで、血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβを算出することができる。勿論、第1時期T1を重複切痕期Tnとし、第2時期を拡張期Tdとしてもよい。
【0059】
拡張期Tdおよび重複切痕期Tnは、同一拍内の時期として採用することができるため、1拍毎のスティフネスパラメーターβの継続的な測定(常時測定)が可能となる。すなわち、カフ式血圧計などの加圧式血圧計を用いずに、非加圧下(すなわち非侵襲)で、血管弾性指標値を毎拍測定することができる。
このことは、式(8)の「血圧算出式」のスティフネスパラメーターβを、毎拍、最新の値に更新(校正)することができることを意味する。
【0060】
よって、本実施形態では、血管弾性指標値を最新の値に更新する処理を並行に行いつつ、一拍ごとの継続的な血圧の測定(常時測定)を、非加圧下で実現することができる。
【0061】
また、式(8)に基づき血圧を測定するため、被検者3の体動に対するロバスト性を高めることができる。すなわち、式(1)に基づく従来技術では、血管径Dの値がべき乗の指数となって作用する。このため、被検者3が身体を動かして血管径Dの測定に誤差が混入すると、算出される血圧値に与える影響は甚大となる。一方、本実施形態の式(8)では、血管径Dの値は、べき乗の指数として用いられておらず、またべき乗される値でもない。従って、血管径Dの測定誤差が、算出される血圧値に与える影響は、従来よりも遙かに小さくて済むため、被検者3の体動に対するロバスト性を高めることができる。
【0062】
[機能構成の説明]
次に、本実施形態を実現するための機能構成について説明する。
図5は、本実施形態の血圧測定装置1の機能構成例を示すブロック図である。血圧測定装置1は、本体装置10と、プローブ部30とを備え、本体装置10は、処理部100と、操作入力部200と、表示部400と、音出力部430と、通信部450と、記憶部500とを備える。
【0063】
プローブ部30は、第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32を有する。第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32は、処理部100から出力される発信制御信号に基づいて超音波測定のための超音波の発信・照射と、その反射波の受信とを行う。例えば、超音波振動素子や当該素子のドライバー回路により実現される。
【0064】
処理部100は、血圧測定装置1を統括制御して、被検者3の生体情報の測定に係る各種演算処理を行う。処理部100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)等のマイクロプロセッサーや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、IC(Integrated Circuit)メモリーなどの電子部品によって実現される。そして、各機能部との間でデータの入出力制御を行い、所定のプログラムやデータ、操作入力部200からの操作入力信号等に基づいて各種の演算処理を実行して被検者3の生体情報(本実施形態では血管弾性指標値や血圧)を算出する。
【0065】
処理部100は、超音波測定制御部102と、血管径測定部104と、特徴期判定部106と、心拍判定部108と、脈波伝播速度測定部110と、血管弾性指標値算出部122と、血圧算出部124と、表示情報生成部132と、計時部134とを有する。
【0066】
超音波測定制御部102は超音波測定を統合的に制御する。具体的には、第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32による超音波の発信と受信の制御、並びに反射波の受信信号を増幅してデジタル信号に変換する処理等を行う。
【0067】
血管径測定部104は、超音波の受信信号に基づいて血管5(本実施形態では上腕動脈)の血管径を連続的に測定する。この連続的な測定によって血管径の時間変化波形が得られることになる。本実施形態では、第1超音波プローブ31の受信信号から第1血管径D1を測定するとともに、第2超音波プローブ32の受信信号から第2血管径D2を測定する。なお、血管径の測定にあたり、受信信号から血管5の前壁5aおよび後壁5pを検出し(
図2参照)、前壁5aから後壁5pまでの距離差を求めるが、これ以外の方法で血管径を測定してもよい。
【0068】
また、血管径測定部104が測定した血管径の時間変化波形に基づいて、特徴期判定部106が第1時期および第2時期を判定する。本実施形態では、第1時期を拡張期Td、第2時期を重複切痕期Tnとするが、逆でもよいことは勿論である。特徴期判定部106は、第1血管径D1に対応する拡張期Tdおよび重複切痕期Tnと、第2血管径D2に対応する拡張期Tdおよび重複切痕期Tnとを判定する。血管径測定部104は、この特徴期判定部106によって判定された特徴期の血管径を特定する。具体的には変化する第1血管径D1のうち、拡張期Tdに対応する拡張期血管径Ddと重複切痕期Tnに対応する重複切痕期血管径Dnとを特定する。また、第2血管径D2のうち、拡張期に対応する拡張期血管径Ddと重複切痕期に対応する重複切痕期血管径Dnとを特定する。
【0069】
特徴期判定部106は、血管径の時間変化波形に所定の微分演算を施し、脈波の特徴期である拡張期Tdと重複切痕期Tnとを判定する。本実施形態では、二階微分を行い、二階微分値が基準以上のピークであることを示すピーク条件を満たした時点(時期)を検出することで特徴期を判定する。
【0070】
心拍判定部108は、特徴期判定部106の結果から超音波測定結果における心拍の区切りを判定する。心拍数を算出する機能を含むとしてもよい。
【0071】
脈波伝播速度測定部110は、血管5における脈波伝播速度PWVを測定する。本実施形態では、拡張期Tdと重複切痕期Tnとのそれぞれについて、当該特徴期における脈波伝播時間差Δtを算出し、当該時間差Δtとプローブ間距離Lpとから脈波伝播速度PWVを求める。すなわち、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnを求める。
【0072】
血管弾性指標値算出部122は、(1)血管径測定部104によって特定された第1血管径D1に係る拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dnか、或いは、第2血管径D2に係る拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dnと、(2)脈波伝播速度測定部110によって測定された拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnとを、式(12)に代入して、血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβの値を求める。
【0073】
血圧算出部124は、血管径測定部104により測定された血管径Dと、脈波伝播速度測定部110により測定された脈波伝播速度PWVと、血管弾性指標値算出部122により算出されたスティフネスパラメーターβとを変数とする所定の演算処理を行って血圧を算出する。本実施形態では、血圧が脈波伝播速度の2乗に比例し、且つ、血管径Dの逆数に比例する式(8)による演算処理を行って血圧を算出する。
【0074】
より具体的には、式(8)を用いて拡張期血圧Pdと重複切痕期血圧Pnとを求めるが、拡張期血圧Pdを求める際には、血圧算出部124は、測定された拡張期血管径Dd、拡張期脈波伝播速度PWVd、スティフネスパラメーターβを式(8)に代入することで拡張期血圧Pdを求める。このとき、式(8)中の血管径Dには、測定された拡張期血管径Ddの値が代入される。
【0075】
また、重複切痕期血圧Pnを求める際には、血圧算出部124は、測定された重複切痕期血管径Dn、重複切痕期脈波伝播速度PWVn、スティフネスパラメーターβ、拡張期血管径Ddを式(8)に代入することで重複切痕期血圧Pnを求める。このとき、式(8)中の血管径Dには、測定された重複切痕期血管径Dnの値が代入される。
【0076】
式(8)中の血管径Dに代入する値は、第1血管径D1および第2血管径D2のどちらの値でもよい。
【0077】
なお、本実施形態においては、式(8)に含まれるスティフネスパラメーターβを、血管弾性指標値算出部122により算出された値とする変数とし、一拍毎に最新の値に更新することとするが、更新間隔を一拍毎ではなく所定拍数(例えば100拍)や所定時間(例えば10分)毎として、その更新間隔の間は定数の扱いとしてもよい。
【0078】
また、血圧算出部124は、血管径測定部104に収縮期の血管径Dである収縮期血管径Dsを特定させ、この収縮期血管径Dsを式(1)に代入することで収縮期血圧Psを求める。但し、この時に用いる式(1)中の拡張期血管径Ddおよび拡張期血圧Pdは、先の式(8)に代入した拡張期血管径Ddおよび式(8)を用いて求めた拡張期血圧Pdを用いることができる。
【0079】
なお、式(1)中の拡張期血管径Ddおよび拡張期血圧Pdの代わりに、重複切痕期血管径Dnおよび重複切痕期血圧Pnを用いてもよい。
【0080】
また、別の方法を用いて収縮期血圧Psを求めてもよい。例えば、拡張期血圧Pdと重複切痕期血圧Pnとを用いた所定の収縮期血圧推定演算を行って収縮期血圧Psを算出する。具体的には重複切痕期血圧Pnを平均動脈圧とみなして、拡張期血圧Pdと重複切痕期血圧Pnとから収縮期血圧Psを求める。
【0081】
表示情報生成部132は、血圧測定に必要な各種操作画面や測定結果を表示するための画像を生成し表示部400へ出力する。表示部400は、表示情報生成部132からの画像データを表示する装置である。
【0082】
計時部134は、測定時刻の計時を行う。計時方法は適宜選択可能であるが、例えばシステムクロックを利用することができる。
【0083】
操作入力部200は、ユーザーによる各種操作入力を受け付け、操作入力に応じた操作入力信号を処理部100へ出力する。操作入力部200は、ボタンスイッチやレバースイッチ、ダイヤルスイッチ、トラックパッド、マウス、タッチパネルなどにより構成される。
【0084】
音出力部430は、処理部100から出力される音声信号に基づく音を放音する装置であり、スピーカーである。血圧が所定の異常値に達した場合などに報知音を発生させることとすると好適である。
【0085】
通信部450は、血圧測定装置1の外部装置と通信を行うための通信機である。通信は、有線であっても無線であっても構わない。各種の測定データを外部装置へ送信することができる。
【0086】
記憶部500は、ICメモリーやハードディスク、光学ディスクなどの記憶媒体により実現され、各種プログラムや、処理部100の演算過程のデータなどの各種データを記憶する。なお、処理部100と記憶部500とを別体とし、LAN(Local Area Network)やインターネットなどの通信回線を介して通信接続する構成で実現しても良い。例えばその場合、記憶部500は、インターネットに接続されたサーバーの記憶装置として実現することも可能である。
【0087】
そして、記憶部500は、血圧測定プログラム510と、血管径ログデータ520と、中間データ530と、血管弾性指標値ログデータ550と、血圧ログデータ560とを記憶する。勿論、これら以外にも、各種判定用のフラグや、計時用のカウンター値などを適宜記憶することができる。
【0088】
血圧測定プログラム510は、処理部100が実行することにより、超音波測定制御部102、血管径測定部104、特徴期判定部106、心拍判定部108、脈波伝播速度測定部110、血管弾性指標値算出部122,血圧算出部124、表示情報生成部132、計時部134等の機能を実現する。なお、これらの機能部の何れかを電子回路などのハードウェアで実現することも可能である。
【0089】
また、血圧測定プログラム510には、サブルーチンプログラムとして、血管弾性指標値を測定する血管弾性指標値測定方法を実現するための血管弾性指標値測定プログラム512が含まれる。
【0090】
血管径ログデータ520は、測定開始から終了まで、極く短い時間間隔で連続的に行われるプローブ部30による超音波の送出および反射波の受信によって得られた血管5の血管径に係る各種データを格納する。具体的には、
図6に示すように、超音波測定周期毎の測定時刻521と対応づけて、当該時刻における拍動を識別するための拍動番号522(例えば、測定開始から何回目の拍動であるかを示す値)と、その時に測定された第1血管径523および第2血管径524と、第1血管径二階微分値525と、第2血管径二階微分値526とを格納する。勿論、これら以外のデータも適宜格納することができる。
図6においては、測定時刻521が「t001」「t002」「t003」「t004」と徐々に経過しているが、拍動番号522が何れも「1」となっているため、同一の拍動に係るデータであることを示している。第1血管径523および第2血管径524を時系列に見ることで、血管径の時間変化波形が得られる。また、「t001」と「t002」において、第1血管径二階微分値525と第2血管径二階微分値526とが“NULL”となっているのは、時刻「t001」よりも前にデータがなく、二階微分値の算出に必要なデータが得られていないためである。
【0091】
拍動番号522は、心拍判定部108による心拍の判定に基づいて格納され、第1血管径523および第2血管径524は、血管径測定部104の測定結果が格納される。第1血管径二階微分値525および第2血管径二階微分値526は、特徴期判定部106が特徴期を判定する際に算出される値である。
【0092】
中間データ530は、特徴期判定部106により判定された特徴期に係るデータを格納する。具体的には、
図7に示すように、血管径ログデータ520の拍動番号522に対応する拍動番号531と対応付けて、当該拍動における第1血管径D1に係る拡張期血管径541aおよび重複切痕期血管径541bと、第2血管径D2に係る拡張期血管径542aおよび重複切痕期血管径542bと、拡張期脈波伝播速度543aと、重複切痕期脈波伝播速度543bとを格納する。
【0093】
第1血管径D1に係る拡張期血管径541aおよび重複切痕期血管径541bと、第2血管径D2に係る拡張期血管径542aおよび重複切痕期血管径542bとは、血管径測定部104によって特定された特徴期の血管径が格納される。拡張期脈波伝播速度543aと、重複切痕期脈波伝播速度543bとは、脈波伝播速度測定部110によって算出された脈波伝播速度が格納される。
【0094】
血管弾性指標値ログデータ550は、
図8に示すように、血管弾性指標値算出部122によって算出された血管弾性指標値552(本実施形態はスティフネスパラメーターβの値)を、血管径ログデータ520の拍動番号522に対応する拍動番号551と対応付けて格納する。すなわち、一拍ごとの血管弾性指標値552が格納される。
【0095】
血圧ログデータ560は、
図9に示すように、血圧算出部124によって算出された拡張期血圧562、収縮期血圧563、重複切痕期血圧564を、血管径ログデータ520の拍動番号522に対応する拍動番号561と対応付けて格納する。すなわち、一拍ごとの血圧が格納される。
【0096】
[処理の流れの説明]
次に、血圧測定装置1の動作について説明する。
図10は、本実施形態における血圧測定装置1における主たる処理の流れを説明するためのフローチャートであり、血圧測定プログラム510を実行することで実現される処理の流れを示す。なお、第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32は予め被検者3の所定位置に貼り付けられているものとする。
【0097】
まず、処理部100は、プローブ部30を用いた超音波測定を開始し、血管径Dの測定および記録を開始する(ステップS2)。また、血管径Dの時間による二階微分値の算出および記録を開始する(ステップS4)。ステップS2,S4により、血管径ログデータ520へデータが格納されていく。
【0098】
また、処理部100は、血管径Dの変動に基づいて心拍の区切りを判定し、心拍の判定を開始する(ステップS6)。判定した心拍の識別情報は、測定開始からの心拍の番号として、血管径ログデータ520の拍動番号522に格納されていく。
【0099】
次いで、処理部100は、脈波伝播速度測定処理を行う(ステップS8)。
図11は、本実施形態における脈波伝播速度測定処理の流れを説明するためのフローチャートである。
脈波伝播速度測定処理において、処理部100は、血管径ログデータ520に基づいて、第1血管径D1に係る拡張期と、第2血管径D2に係る拡張期とを判定する(ステップS10〜S12)。また、この拡張期における血管径を特定する。そして、この2つの拡張期の時間差すなわち拡張期脈波伝播時間Δtdを求め、この拡張期脈波伝播時間Δtdと、予め分かっているプローブ間距離Lpとから拡張期脈波伝播速度PWVdを算出する(ステップS14)。
【0100】
続いて、処理部100は、血管径ログデータ520に基づいて、第1血管径D1に係る重複切痕期と、第2血管径D2に係る重複切痕期とを判定する(ステップS16〜S18)。また、この重複切痕期における血管径を特定する。そして、この2つの重複切痕期の時間差すなわち重複切痕期脈波伝播時間Δtnを求め、この重複切痕期脈波伝播時間Δtnと、予め分かっているプローブ間距離Lpとから重複切痕期脈波伝播速度PWVnを算出する(ステップS20)。脈波伝播速度測定処理において算出された各データは、中間データ530に格納される。
以上で脈波伝播速度測定処理を終了し、
図10に戻る。
【0101】
次に、処理部100は、先の脈波伝播速度測定処理において算出した拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dn(第1血管径D1の血管径でも、第2血管径D2の血管径でもよい)と、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnとを用いて、式(12)から、血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβの値を算出する(ステップS30)。算出されたスティフネスパラメーターβの値は、血管弾性指標値ログデータ550に格納される。
ステップS8〜S30の処理が、血管弾性指標値測定方法を実現するための血管弾性指標値測定プログラム512に係る処理である。
【0102】
そして、処理部100は、血圧算出処理を行う(ステップS40)。
図12は、本実施形態における血圧算出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
処理部100は、ステップS30で算出されたスティフネスパラメーターβと、ステップS10(或いはステップS12)で判定された拡張期血管径Ddと、ステップS14で算出された拡張期脈波伝播速度PWVdとを用いて、式(8)から、拡張期血圧Pdを算出する(ステップS42)。なお、式(8)の血圧算出式の変数である血管径Dには、拡張期血管径Ddが代入される。
【0103】
また、処理部100は、ステップS30で算出されたスティフネスパラメーターβと、ステップS10(或いはステップS12)で判定された拡張期血管径Ddと、ステップS16(或いはステップS18)で判定された重複切痕期血管径Dnと、ステップS20で算出された重複切痕期脈波伝播速度PWVnとを用いて、式(8)から、重複切痕期血圧Pnを算出する(ステップS44)。なお、式(8)の血圧算出式の変数である血管径Dには、重複切痕期血管径Dnが代入される。
【0104】
また、処理部100は、収縮期血圧Psを算出する(ステップS46)。収縮期血圧Psの算出は、例えば、血管径ログデータ520に基づいて、現在測定対象となっている拍動番号522のデータの中から収縮期を判定して収縮期血管径Dsを特定し、この収縮期血管径Dsを式(1)に代入することで収縮期血圧Psを求めることができる。或いは、ステップS44で求めた重複切痕期血圧Pnを平均動脈圧とみなして、この重複切痕期血圧Pnと、ステップS42で求めた拡張期血圧Pdとか収縮期血圧Psを求めることとしてもよい。
【0105】
処理部100は、ステップS42〜S46で求めた拡張期血圧Pd、重複切痕期血圧Pn、収縮期血圧Psを血圧ログデータ560に記憶するとともに、表示部400に表示させる(ステップS48)。この時、心拍数や血管径、血管弾性指標値などの情報も一緒に表示させてもよい。また、重複切痕期血圧Pnの表示は省略するとしてもよい。
【0106】
図10に戻り、処理部100は、血圧測定を終了するまで、ステップS8〜S60の処理を、心拍ごとに繰り返し実行する。
【0107】
以上、本実施形態によれば、拡張期脈波伝播速度PWVdおよび重複切痕期脈波伝播速度PWVnと、拡張期血管径Ddおよび重複切痕期血管径Dnとを用いて、血管弾性指標値を算出することができる。拡張期脈波伝播速度PWVd、重複切痕期脈波伝播速度PWVn、拡張期血管径Dd、重複切痕期血管径Dnの何れも、非加圧下において測定することができるため、非加圧下における血管弾性指標値の測定を実現することができる。
【0108】
なお、本発明を適用可能な形態は上述した実施形態に限るものではなく、適宜構成要素の追加・省略・変更を施すことができる。
【0109】
(A)
例えば、血圧測定装置1は、血管弾性指標値測定装置でもあるとして説明したが、血圧まで測定せずに、血管弾性指標値を測定する専用装置として構成することもできる。その場合には、
図5の機能構成図における血圧算出部124の機能を削除すればよい。
【0110】
(B)
脈波伝播速度PWVは、血流速度Vの10倍程度と言われるが、測定対象とする血管の違いや測定位置、血管の弾性の程度によって、脈波伝播速度PWVに血流速度Vの影響が及ぶ可能性がある。すなわち、上述した実施形態の「血圧算出式」である式(8)や、「血管弾性指標値算出式」である式(12)で用いる脈波伝播速度PWVに血流速度Vが影響している場合がある。
【0111】
そこで、脈波伝播速度PWVの代わりに、脈波伝播速度PWVから血流速度Vを差し引いた速度を用いて「血圧算出式」を定義した式(13)や、「血管弾性指標値算出式」を定義した式(14)を採用した方が良い場合があることが分かった。つまり、ある第1時期T
1での血管径D
1および脈波伝播速度PWV
1および血流速度V
1と、第2時期T
2での血管径D
2および脈波伝播速度PWV
2および血流速度V
2とを求めることができた場合に、これらの値を式(14)に代入すると、血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβを算出することができる。
【数13】
【数14】
【0112】
この場合の変形例について、
図13〜
図17を参照して説明する。上述した実施形態と同じ構成箇所、同じ処理ステップには同じ符号を付している。
図13は、本変形例におけるプローブ部300の構成例を示す図である。
図2に対応する図として示している。プローブ部300は、第1超音波プローブ31と第2超音波プローブ32との間に、血管5に流れる血液の血流速度Vを測定するための第3超音波プローブ33を備える。血流速度Vの測定は、例えば、超音波ドップラー法を用いることで実現できる。
【0113】
図14は、本変形例における血圧測定装置2の機能構成例を示すブロック図である。本体装置12は、処理部100に、血流速度測定部112を更に備えた構成を有する。血圧測定装置2において、超音波測定制御部102は、第1超音波プローブ31および第2超音波プローブ32に加え、第3超音波プローブ33による超音波の発信と受信とを制御する。血流速度測定部112は、この超音波測定制御部102の制御によって第3超音波プローブ33から送信された超音波の周波数および受信された超音波の周波数に基づき、超音波ドップラー法により血流速度Vを測定する。血流速度Vの測定は、血管径の測定時刻521(
図6参照)と同じタイミングで行われ、測定時刻毎の血流速度Vとして、血流速度ログデータ529に記憶される。
【0114】
また、特徴期判定部106により判定された特徴期に係る血流速度Vが、血流速度ログデータ529から選択されて、中間データ532に記憶される。
図15は、中間データ532のデータ構成の一例を示す図である。上述した実施形態の中間データ530(
図7参照)のデータ構成に加えて、特徴期の一例である拡張期および重複切痕期の血流速度Vとして、拡張期血流速度544aおよび重複切痕期血流速度544bが、拍動番号531に対応付けて各拍動毎に中間データ532に格納される。
【0115】
図16は、血圧測定装置2が実行する主たる処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図10に示したフローチャートのステップS2に代えて、血管径および血流速度Vの測定と記録を開始している(ステップS3)。
また、ステップS30の血管弾性指標値の算出においては、式(14)を用いて血管弾性指標値を算出する。すなわち、第1時期T1を拡張期Td、第2時期T2を重複切痕期Tnとするならば、拡張期脈波伝播速度PWVd(第1脈波伝播速度といえる)の代わりに、拡張期脈波伝播速度PWVdから拡張期血流速度Vdを差し引いた速度を用い、重複切痕期脈波伝播速度PWVn(第2脈波伝播速度といえる)の代わりに、重複切痕期脈波伝播速度PWVnから重複切痕期血流速度Vnを差し引いた速度を用いて血管弾性指標値であるスティフネスパラメーターβを算出する(ステップS30)。このようにすることで、血管弾性指標値の算出に当たり、脈波伝播速度に血流速度が影響している場合にその影響を低減させることができる。
【0116】
図17は、血圧測定装置2が実行する血圧算出処理の流れを説明するためのフローチャートである。
図12に示したフローチャートのステップS42,S44をそれぞれステップS43,S45に置き換えている。
すなわち、ステップS43では、ステップS30で算出されたスティフネスパラメーターβと、ステップS10(或いはステップS12)で判定された拡張期血管径Ddと、ステップS14で算出された拡張期脈波伝播速度PWVdから拡張期血流速度Vdを差し引いた速度とを用いて、拡張期血圧Pdを算出する(ステップS43)。このときに用いる算出式は、式(13)である。
【0117】
また、ステップS45では、ステップS30で算出されたスティフネスパラメーターβと、ステップS10(或いはステップS12)で判定された拡張期血管径Ddと、ステップS16(或いはステップS18)で判定された重複切痕期血管径Dnと、ステップS20で算出された重複切痕期脈波伝播速度PWVnから重複切痕期血流速度Vnを差し引いた速度とを用いて、重複切痕期血圧Pnを算出する(ステップS45)。このときに用いる算出式も、式(13)である。
【0118】
式(13)は、言うなれば、脈波伝播速度PWVから血流速度Vを差し引いた速度の2乗に比例し、且つ、血管径Dの逆数に比例する所定の演算処理を行って血圧を算出する式である。このようにすることで、血圧の算出に当たり、脈波伝播速度に血流速度が影響している場合のその影響を低減させることができる。