【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (公開者)The International Union of Crystallography(刊行物名)JOURNAL OF APPLIED CRYSTALLOGRAPHY 第49巻、第2号、第426〜432頁(発行日)平成28年4月1日、において発表 http://journals.iucr.org/j/issues/2016/02/00/to5125/index.htmlに、平成28年4月に掲載
【文献】
佐々木敏彦ほか,イメージングプレートによる二次元検出回析像を用いたX線三軸応力解析,日本機械学会論文集,日本,日本機械学会,1995年10月,61巻590号,第181−183頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記回折環上の2つ以上の位置でそれぞれ前記回折環を形成する2つ以上の前記回折ビームと前記特定部分に入射する前記ビームとから2つ以上の前記回折ベクトルを決定し、
前記回折ベクトルを用いた変換では、前記2つ以上の位置での前記回折環のひずみの測定結果と、前記2つ以上の位置に対応する前記2つ以上の回折ベクトルとを用いる
請求項1〜3のいずれか一項に記載の応力測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的又は具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、工程(ステップ)、工程の順序等は、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
また、添付の図面における各図は、模式的な図であり、必ずしも厳密に図示されたものでない。さらに、各図において、同一又は同様な構成要素については同じ符号を付している。また、以下の実施の形態の説明において、略平行、略直交のような「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、略平行とは、完全に平行であることを意味するだけでなく、実質的に平行である、すなわち、例えば数%程度の差異を含むことも意味する。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0013】
[実施の形態]
図1を参照して、実施の形態に係る応力測定装置10の構成を説明する。
図1は、実施の形態に係る応力測定装置10の構成の一例を示すブロック図であるが、応力測定装置10の構成は、
図1の構成に限定されるものでない。応力測定装置10は、測定対象物にビームとしてのX線を照射し、X線が測定対象物で回折を伴って反射した回折ビームが形成する回折環を解析し、測定対象物の応力を求める装置である。なお、測定対象物に照射されるビームは、X線に限定されるものでなく、測定対象物を形成する材料の結晶粒で回折する性質のあるビームであればよい。具体的には、ビームは、結晶粒で回折する波長を有するビームであってよく、より具体的には、結晶粒間の距離よりも小さい波長を有するビームであってよい。さらに、ビームは、規則的な回折ビームを形成するために一定の波長つまり単一波長を有することが望ましい。例えば、ビームは、X線及びガンマ線等の電磁波であってもよく、中性子線等の粒子線であってもよく、電子線であってもよい。また、回折環は、デバイ環、デバイ・シェラー環とも呼ばれる。
【0014】
応力測定装置10は、高圧電源11、冷却部12、制御部13、X線照射部14、撮像部15、画像処理部16、データ処理部17、出力部18、記憶部19及び移動検知部20を備える。高圧電源11は、X線を生成するための電子線加速用の高電圧をX線照射部14に供給する。冷却部12は、X線照射部14を冷却する。例えば、冷却部12は、X線照射部14を空冷及び/又は液冷する。ここで、X線照射部14は、ビーム照射部の一例である。
【0015】
制御部13は、応力測定装置10全体の動作を制御する。例えば、制御部13は、専用のハードウェアで構成されてもよい。また例えば、制御部13は、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。この場合、制御部13は、例えば、演算処理部(図示せず)と、制御プログラムを記憶する記憶部(図示せず)とを備えてもよい。演算処理部としては、MPU(Micro Processing Unit)、CPU(Central Processing Unit)などが例示される。記憶部としては、メモリなどが例示される。なお、制御部13は、集中制御を行う単独の制御部で構成されていてもよく、互いに協働して分散制御を行う複数の制御部で構成されていてもよい。
記憶部19は、種々の情報を記憶するものであればよい。例えば、記憶部19は、半導体メモリ等から構成されてもよく、揮発性メモリ又は不揮発性メモリ等から構成されてよい。不揮発性メモリとして、フラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等が使用され得る。また、記憶部19は、読み取り専用のメモリ、つまり、書き換え不可のメモリでもよい。
【0016】
X線照射部14は、電子線をターゲットに衝突させてX線を発生させる装置と、発生したX線を細束のX線ビームとして測定対象物に照射するX線照射管とを備えている。X線を発生する装置は、例えば、電子線を高電圧で加速して陽極に衝突させて、それによりCuKα特性X線を発生させるためのX線管球である。X線管球の内部は、真空である。X線ビームを照射するX線照射管は、例えば、発生したX線を細い平行ビームに絞り照射するピンホールコリメータである。測定対象物の表面とX線ビームとのなす角である照射角は、0°と180°とを除く0°〜180°の範囲で設定可能である。照射されるX線ビームの直径は、1〜2mmよりも小さくてよく、例えば数100μm以下の大きさでもよい。またX線の強度は、4〜20keV程度の軟X線でよい。このX線の強度は、撮像部15の感度と、撮像部15の撮像エリア及び測定対象物の間の距離とに依存するが、例えば、4.9〜8.1keVでもよい。
【0017】
図2を参照すると、撮像部15は、X線ビームが測定対象物で回折を伴って反射することによって形成する回折ビームにより形成される回折環を撮像する、1つ以上の固体撮像素子又はイメージングプレート等の撮像体15bを、例えば基台15aの平坦な表面15aa上に備える。
図2は、
図1の撮像部15の構成を示す模式的な斜視図である。固体撮像素子には、CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、MOS(Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等が用いられ得る。撮像体15bが配置される表面15aaでは、X線ビームが通過する貫通孔15abが、撮像体15bの中央部分に形成され、撮像体15bが、回折環全体を撮像する。なお、撮像体15bを構成する1つ以上の固体撮像素子は、回折環の一部分、若しくは複数の部分を撮像してもよい。撮像体15bとしてイメージングプレートが用いられる場合、露光された回折環像を読み出すための読み出し装置が設けられ得る。
【0018】
図1及び
図2を参照すると、X線照射部14及び撮像部15は一体となって、水平方向及び鉛直方向を組み合わせた様々な方向への移動が可能であると共に、撮像部15の基台15aの向きを変えるように、例えばヨーイング、ピッチング及びローリングの3軸周りの回動が可能である。各動作は、モータ、アクチュエータ等の駆動装置によって実施されてよく、制御部13が、各駆動装置を制御してもよい。又は、各動作は、手動で実施されてもよい。上述のようなX線照射部14及び撮像部15は、測定対象物1の特定の部分に対して、撮像部15の基台15aを所定の位置及び向きに配置することができる。また、移動検知部20は、X線照射部14及び撮像部15の移動量及び移動方向を検知して制御部13に送り、制御部13は、移動検知部20の検知結果から撮像部15の基台15aの位置及び向きを算出する。本実施の形態では、移動検知部20は、撮像部15の移動を検知する。
【0019】
画像処理部16は、撮像部15により撮像された回折環を表す回折環画像を生成する。画像処理部16は、制御部13と同様に、専用のハードウェアで構成されてもよく、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。例えば、画像処理部16は、撮像体15bを構成する1つ以上の固体撮像素子による1つ以上の撮像画像を合成して、回折環全体を含む1つの画像を生成する。
【0020】
データ処理部17は、画像処理部16により生成された回折環画像を解析する。データ処理部17は、制御部13と同様に、専用のハードウェアで構成されてもよく、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。具体的には、データ処理部17は、真円回折環に対する回折環の変形等のひずみに基づき、後述する方法を用いて、測定対象物におけるビームを照射した部分の応力を求める。なお、真円回折環は、測定対象物におけるビームが照射される部分が無応力で無ひずみである場合の回折環である。
出力部18は、表示装置を備える。出力部18は、データ処理部17による解析結果を表示し、解析結果を示すデータを記憶部19に電子データとして記録する。また、撮像部15により撮像された撮像画像、及び画像処理部16により生成された回折環画像等も、記憶部19に記憶されてもよい。
【0021】
さらに、
図3を参照して、撮像部15と測定対象物の配置構成を説明する。
図3は、
図1の撮像部15と測定対象物1との配置構成を示す概略図である。上述したように、撮像部15は、平坦な板状の基台15aの一方の平坦な表面15aa上に、撮像体15bを有する。図示しないX線照射部14は、基台15aの表面15aaと反対側の表面に対向する位置、つまり表面15aaの背面側に配置されている。基台15aは、X線照射部14からのX線ビーム3を通過させる貫通孔15abを、撮像体15bが配置される領域の中央に有する。貫通孔15abは、貫通孔15abを通過するX線ビーム3と干渉しないような直径で形成される。基台15aの表面15aaは、X線照射部14からのX線ビーム3と略垂直に交差する。
【0022】
撮像体15bは、貫通孔15abを囲むように配置されている。さらに、X線照射部14からのX線ビーム3が形成する回折ビーム4によって形成される回折環5が、基台15aの表面15aa上に形成されるときに、回折環5の形成領域全体にわたるように、撮像体15bは配置されている。撮像体15bは、回折環5の形成領域全体を埋めるように配置されてもよく、回折環5の形成領域全体を埋めなくてもよい。例えば、複数の撮像体15bが、回折環5の形成領域全体にわたるように、貫通孔15abから径方向外側に向かって放射状に延在してもよい。又は、複数の環状の撮像体15bが、回折環5の形成領域全体にわたるように、貫通孔15abから径方向外側に向かって同心円状に配置されてもよい。
【0023】
撮像部15は、基台15aの表面15aaを測定対象物1に対向させるように配置される。ここで、測定対象物1は、例えば多結晶性材料等の結晶性の材料から形成される。X線照射部14から出射される直線状のX線ビーム3は、基台15aの貫通孔15abを通過した後、測定対象物1の表面1a上の特定部分である測定点2に到達するように、X線照射部14及び撮像部15は配置される。これにより、X線照射部14から出射されるX線ビーム3は、測定点2において、測定対象物1を形成する材料の結晶粒による回折を伴って反射して、多数の回折ビーム4を形成する。多数の回折ビーム4は、測定点2から円錐状に延び、基台15aの表面15aa上、つまり撮像体15b上で、回折環5を形成する。よって、撮像体15bは、回折環5の全体を撮像することができる。
【0024】
また、測定点2において測定対象物1に応力が存在する場合、測定点2での測定対象物1の結晶構造にひずみが生じている。このような測定点2に入射したX線ビーム3から形成される回折環5は、測定点2での結晶構造にひずみがない場合の回折環に対して、ひずみを有する。例えば、
図4に示すように、測定点2での結晶構造にひずみがない場合の回折環6は真円である。測定点2での結晶構造にひずみを含む場合の回折環5は、ひずみに応じて、真円の回折環6つまり真円回折環6から位置がずれる、及び/又は真円回折環6から変形する等のひずみを含む。ここで、本実施の形態で記載する回折環5の「ひずみ」は、回折環5における真円回折環6からの位置ずれ、及び/又は真円回折環6からの変形を含み得る。なお、
図4は、測定点2において測定対象物1にひずみが生じている場合の回折環5の一例と、測定点2において測定対象物1が無応力で無ひずみである場合の真円回折環6とを比較して示す図である。
【0025】
次に、応力測定装置10を用いた測定対象物1の応力測定動作を説明する。
図1、
図3及び
図5を参照すると、応力測定装置10は、測定対象物1の測定点2へ撮像部15をセットする。具体的には、応力測定装置10は、X線照射部14及び撮像部15を共に移動し、測定対象物1の表面1a上の測定点2及び表面1aに対して、撮像部15の基台15a及び表面15aaが予め設定された位置及び向きとなるように、基台15aを配置する(ステップS1)。このとき、X線照射部14から出射されるX線ビームが3測定点2に到達するように、X線照射部14は配置される。基台15aの配置完了後における測定点2及び表面1aに対する撮像部15の基台15a及び表面15aaの位置及び向きは、応力測定装置10の制御部13によって、記憶部19に記憶されてもよい。なお、
図5は、実施の形態に係る応力測定装置10による測定対象物1の応力測定動作の流れを示すフローチャートである。
【0026】
次いで、応力測定装置10の制御部13は、X線照射部14にX線ビーム3を出射させる(ステップS2)。出射されたX線ビーム3は、撮像部15の基台15aの貫通孔15abを通過した後、測定点2に到達し、測定点2において回折を伴って反射し、測定点2から円錐状に拡がる回折ビーム4を形成する。回折ビーム4は、基台15aの表面15aa上に到達し、表面15aa上で回折環5を形成する。回折環5は、貫通孔15abを略中心とする。
【0027】
さらに、制御部13は、撮像部15の撮像体15bに、回折ビーム4が撮像体15b上に形成する回折環5を撮像させ、撮像した画像データを画像処理部16に送らせる(ステップS3)。制御部13は、画像処理部16に、受け取った画像データから回折環5全体を含む1つの画像データを生成させ、生成した画像データをデータ処理部17に送らせる及び/又は記憶部19に記憶させる。(ステップS4)。制御部13は、データ処理部17に、画像処理部16又は記憶部19からの回折環5の画像データと、ステップS1での撮像部15の基台15aの配置完了後における測定対象物1の表面1a及び測定点2に対する基台15a及び表面15aaの位置及び向きとを取得させ、回折環5の画像データを解析させる(ステップS5)。この解析では、データ処理部17は、測定点2での測定対象物1の結晶構造にひずみがない場合に回折ビーム4が表面15aa上に形成し得る真円回折環6(
図4参照)の像に対する、回折環5の像のひずみ等に基づき、測定点2において測定対象物1に存在する応力を求める。
【0028】
回折環5の画像データの解析後、制御部13は、出力部18に、測定点2において測定対象物1に存在する応力を含む解析結果を表示させ、解析結果を示すデータを記憶部19に記憶させる(ステップS6)。
【0029】
また、
図6に示すように、ステップS5での解析結果の精度を向上するために、複数の異なる位置でX線照射部14から出射されるX線ビーム3によって形成される複数の回折環5が、データ処理部17での解析に用いられることが、望ましい。なお、
図6は、3つの異なる位置でX線照射部14から出射されるX線ビーム3が基台15aに3つの回折環5を形成する状態を示す概略図である。さらに解析結果の精度を向上するために、測定点2から撮像部15までの距離、具体的には測定点2から基台15aの表面15aaまでの距離Dが、複数の異なる基台15aの位置の間で同一であることが、望ましい。これにより、複数の回折環5が均一化される。さらに解析結果の精度を向上するために、複数の異なる基台15aの位置は、測定点2を中心として等間隔に配置されることが、望ましい。具体的には、複数の異なる基台15aの位置でX線照射部14から測定点2にまで延びる複数のX線ビーム3が、測定点2を起点とするX線ビーム3の方向角ψを等間隔に割り振るつまり均等にするように、配置されることが、望ましい。これにより、複数の回折環5が均一化される。なお、X線ビーム3の方向角ψは、測定点2を中心とし且つ測定対象物1の表面1aに沿う方向の方向角である。上述のように複数のX線ビーム3の対称性を高めることによって、解析結果の精度が向上する。
【0030】
さらに、ステップS5におけるデータ処理部17の解析動作の詳細を説明する。まず、
図5のステップS1〜S4を繰り返すことによって、応力測定装置10は、複数k箇所の異なる位置でX線照射部14から出射されるX線ビーム3によって形成されるk個の回折環5の画像データを生成する。なお、
図6に示す例では、k=3である。
【0031】
図3、
図4及び
図7を参照すると、データ処理部17は、各回折環5について、回折環5上に、回折環5と真円回折環6とのひずみを測定する点であるひずみ抽出点P
iを設定する(ステップS11)。ここで、
図7は、実施の形態に係る応力測定装置10のデータ処理部17の解析動作の流れを示すフローチャートである。また、iは、1〜kの整数値であり、複数k個の回折環5のうちから1つを特定する要素である。各回折環5のひずみ抽出点P
iの位置は、互いに相関する関係を有しても有さなくてもよい。データ処理部17は、各回折環5の各ひずみ抽出点P
iについて単位回折ベクトルn
iを、算出する(ステップS12)。但し、単位回折ベクトルn
iは、i番目の回折環5のひずみ抽出点P
iに関する単位回折ベクトルである。
【0032】
単位回折ベクトルn
iは、測定点2を起点とする単位ベクトルであり、ひずみ抽出点P
i及び測定点2を結ぶ直線状の回折ビーム4と基台15aの貫通孔15ab及び測定点2を結ぶ直線状のX線ビーム3とが測定点2で形成する挟角の二等分線を形成する。つまり、単位回折ベクトルn
iは、回折ビーム4とX線ビーム3との中間及び測定点2を通る線分を形成する。単位回折ベクトルn
iとX線ビーム3とがなす角ηは、単位回折ベクトルn
iと回折ビーム4とがなす角ηと、同一の角度を有する。単位回折ベクトルn
iは、回折環5が形成される基台15aに向かって延びる。本実施の形態では、回折ベクトルは、1の長さを有する単位ベクトルであるが、1以外の長さを有するベクトルであってもよい。
【0033】
単位回折ベクトルn
iは、ひずみ抽出点P
iの位置、測定点2の位置、並びに、測定対象物1の表面1a及び測定点2に対する撮像部15の基台15a及び表面15aaの位置及び向きに基づき、算出され得る。単位回折ベクトルn
iは、下記の式1のように表わされる。なお、式1の要素n
i1、n
i2及びn
i3は、単位回折ベクトルn
iのX座標成分、Y座標成分及びZ座標成分である。X軸及びY軸は、測定点2を通り且つ測定対象物1の表面1aに沿う平面上に位置すると共に互いに直交し、Z軸は、上記平面の法線でありX軸及びY軸と直交する。
【数1】
[式1]
【0034】
ここで、真円回折環6に対する回折環5のひずみから測定点2での測定対象物1の応力を算出する方法について、本願発明者が見出した知見を説明する。
図4を参照すると、i番目の回折環5について、ひずみ抽出点P
iでの真円回折環6に対する回折環5のひずみ量を示すひずみε
niは、単位回折ベクトルn
iの成分を使用して下記の式2の基礎方程式で表わすことができることを、本願発明者は見出した。なお、ひずみε
niは、回折環5が存在する基台15aの表面15aaに沿う方向のひずみ量を示し、例えば、基台15aの貫通孔15abの中心位置から半径方向へのひずみ量を示す。式2の要素ε
11、ε
22及びε
33はそれぞれ、ひずみε
niにおけるX軸、Y軸及びZ軸方向の垂直ひずみ成分を示す。要素ε
12、ε
23及びε
13はそれぞれ、ひずみε
niにおけるXY平面、YZ平面及びZX平面に沿う方向のせん断ひずみ成分を示す。
【数2】
[式2]
【0035】
また、ひずみε
niと測定点2での測定対象物1の応力σとの関係が、測定対象物1のX線的ヤング率E及びポアソン比νを用いて下記の式3で表わされる。なお、応力σの要素σ
11、σ
22、σ
33はそれぞれ、応力σのX軸、Y軸及びZ軸方向の垂直応力成分を示し、σ
12、σ
23、σ
13はそれぞれ、応力σのXY平面、YZ平面及びXZ平面に沿う方向のせん断応力成分を示す。
【数3】
[式3]
【0036】
また、i=1〜kの全ての回折環5におけるひずみε
niを成分として含むひずみεは、ε≡(ε
n1,ε
n2,ε
n3,・・・,ε
ni,・・・,ε
nk−1,ε
nk)
Tで表わされる。これにより、ひずみεは、式2におけるひずみ成分の係数によって構成されるk×6行列である行列Fを用いて、下記の式4で表わされる。
【数4】
[式4]
【0037】
なお、式4におけるk×6の行列Fは、下記の式5のように表わされる。
【数5】
[式5]
【0038】
さらに、式4は、式3を用いて下記の式6のようにも表わされる。
【数6】
[式6]
【0039】
式6は、応力値の最小二乗解σ≡(σ
11,σ
22,σ
33,σ
12,σ
13,σ
23)
Tを記載する方程式である。そして、式6の解は、M≡F・Sで求められる行列Mのムーア−ペンローズ一般逆行列M
+を用いて、下記の式7のように求められる。
【数7】
[式7]
さらに、逆行列M
+のi行j列目の要素をm
+ijと表わすと、応力σの各要素は、m
+ijとε
niとの線形結合で表わされる。例えば、応力σの要素σ
11は、下記の式8のように表わされる。
【数8】
[式8]
【0040】
よって、本願発明者は、複数k箇所の異なる位置でのX線照射部14の照射により得られるk個の回折環5に対応するk個の単位回折ベクトルn
iを用いて逆行列M
+を算出し、さらに、算出した逆行列M
+と、k個の回折環5それぞれの真円回折環6に対するひずみεとを用いて、応力σの各成分を算出できることを見出した。
【0041】
また、本願発明者は、式8に示されるような関係を用いることによって、応力σの各成分に生じる得る誤差を推定算出ができることも見出した。回折環5上に設定するひずみ抽出点P
iの位置に応じて、ひずみ抽出点P
iにおける真円回折環6に対する回折環5のひずみ量が変化する場合がある。これにより、単位回折ベクトルn
iも変化するため、算出される応力も、実際に存在する応力に対して誤差を有する可能性がある。このような応力σの各成分に生じる得る誤差について、例えば、応力σの成分σ
11での誤差は、下記の式9のように表わされる。なお、下記の式9では、ひずみε
niの測定誤差を一律であるとしている。式9に示されるように、成分σ
11の推定誤差δσ
11は、逆行列M
+の要素の値によって定まり、逆行列M
+の要素の値は、単位回折ベクトルn
iの成分の値によって定まる。よって、回折環5上で選定されるひずみ抽出点P
iの位置に応じて、推定誤差δσ
11が変動する。応力σにおける成分σ
11以外の成分の誤差も同様である。
【数9】
[式9]
【0042】
図3、
図4及び
図7を参照してデータ処理部17の解析動作を再び説明すると、データ処理部17は、ステップS12に続くステップS13において、k個の回折環5それぞれに対応する単位回折ベクトルn
iを用いて、式2に示されるひずみε
niの基礎方程式に基づき、式5のk×6の行列Fを算出する。次いで、データ処理部17は、式3に示される関係に基づき、測定対象物1のX線的ヤング率E及びポアソン比νを用いて応力成分とひずみ成分とを関係付ける行列Sを取得する(ステップS14)。なお、データ処理部17は、記憶部19に予め記憶されている行列Sを取得してもよく、応力測定装置10の図示しない入力部を介して与えられる測定対象物1のX線的ヤング率E及びポアソン比νを用いて行列Sを算出してもよい。
【0043】
その後、データ処理部17は、式6に示される関係に基づき、行列F及び行列Sの積を算出することによって行列Mを算出する(ステップS15)。さらに、データ処理部17は、行列Mのムーア−ペンローズ一般逆行列M
+を算出する(ステップS16)。次いで、データ処理部17は、k個の回折環5それぞれについて、ひずみ抽出点P
iにおける真円回折環6に対する回折環5のひずみ量を算出する(ステップS17)。ひずみ量は、例えば、基台15aの貫通孔15abの中心位置からの放射方向である半径方向でのずれ量としてもよい。ひずみ量の算出は、ステップS11の後のいずれの時期に実施されてもよい。
【0044】
データ処理部17は、ステップS16で算出した逆行列M
+と、ステップS17で算出した回折環5のひずみとを使用して、式7及び式8に示される関係に基づき、応力σの各成分を算出する(ステップS18)。具体的には、応力σのX軸、Y軸及びZ軸方向それぞれの垂直応力成分σ
11、σ
22及びσ
33並びにXY平面、YZ平面及びXZ平面それぞれに沿う方向のせん断応力σ
12、σ
23及びσ
13が、算出される。つまり、応力σの3軸応力成分が、算出される。これにより、
図5に示されるステップS5におけるデータ処理部17の解析動作が、完了する。
【0045】
上述したデータ処理部17の解析動作では、測定対象物1の測定点2の位置、撮像部15の基台15aの表面15aaの位置等を示すために設定された座標系は、
図7に示されるステップS11〜S18にわたる応力の算出過程の終始にわたって、変換を受けることなく、そのまま使用される。このような座標系は、例えば、測定対象物1と撮像部15との位置関係を示すのに適した座標系とすることできるため、座標系の設定が容易になる。例えば、本実施の形態では、X軸及びY軸は、測定点2を通り且つ測定対象物1の表面1aに沿う平面上に位置し、Z軸は、上記平面の法線である。
【0046】
上述したように、実施の形態に係る応力測定装置10は、測定対象物1に照射されることによって回折を伴って反射する性質を持つX線ビーム3を測定対象物1の特定部分である測定点2に照射するX線照射部14と、測定点2で反射する回折ビーム4を撮像し且つ回折ビーム4により形成される回折環5の撮像画像を生成する撮像部15と、撮像画像から得られる測定結果を、測定点2でのX線ビーム3の回折を反映する回折ベクトルを用いて変換することにより、測定点2における測定対象物1の応力を求めるデータ処理部17とを備える。データ処理部17は、測定点2に入射するX線ビーム3と回折ビーム4とから回折ベクトルを決定する。
【0047】
上述の構成において、データ処理部17は、回折環5の撮像画像から得られる測定結果を、X線ビーム3と回折ビーム4とから決定する回折ベクトルを用いて変換することにより、測定点2における測定対象物1の応力を求める。このような処理により応力を求めるデータ処理部17は、測定結果に設定された座標系を変換等の変更をすることなく、回折ベクトルを決定し、回折ベクトルを用いた測定結果の変換を実施することができる。さらに、回折ベクトルを用いた測定結果の変換により求められる応力の算出は、簡易である。
【0048】
実施の形態に係る応力測定装置10において、データ処理部17は、回折ベクトルを用いた測定結果の変換では、異なる方向からの2回以上のX線ビーム3の照射で得られる2つ以上の回折環5のひずみの測定結果と、2つ以上の回折環5それぞれを形成する回折ビーム4に基づく2つ以上の回折ベクトルとを用いる。上述の構成において、データ処理部17は、複数の回折環5それぞれに対応する複数の回折ベクトルを、回折ベクトルを用いた測定結果の変換に用いる。回折環5は、測定点2へのX線ビーム3の入射方向によっては、連続した環を形成する場合もあれば、一部が欠落した不連続な環を形成する場合もある。このため、同一の測定点2への複数回のX線ビーム3の照射で得られる複数の回折環5を使用することによって、回折環5同士が、互いの欠落した環の一部を補うようにすることが、可能になる。特に、測定点2への複数回のX線ビーム3の照射方向を互いに異ならせることは、欠落した環の一部の補充に効果的である。さらに、複数の回折環5のひずみの測定結果を用いることによって、1つの回折環5のひずみの測定結果が有する特有の特徴による影響が低減されるため、測定結果の誤差低減が可能なる。
【0049】
さらに、実施の形態に係る応力測定装置10は、X線照射部14によって、測定点2を中心とする均等な方向角で3回以上のX線ビーム3を照射する。上述の構成において、X線ビーム3の照射によって形成される複数の回折環5は、測定点2の全周囲にわたる入射方向からのX線ビーム3の照射による回折環の特徴を含み得る。このため、回折環5が欠落部分を含む不連続な環を形成する場合でも、回折環5同士が、互いの欠落部分を補うことができる。
【0050】
実施の形態に係る応力測定装置10において、回折ベクトルは、測定点2に入射するX線ビーム3と回折ビーム4との中間及び測定点2を通る直線を形成するベクトルである。上述の構成において、上記回折ベクトルは、測定点2における測定対象物1の結晶粒の結晶格子面、つまり回折格子面の法線に平行となる。よって、回折ベクトルは、測定点2におけるX線ビーム3の回折、つまり回折現象を適切に反映したベクトルである。
【0051】
実施の形態に係る応力測定装置10において、データ処理部17は、回折ベクトルを用いた測定結果の変換では、回折ベクトルn
iの成分(n
1,n
2,n
3)により形成される成分要素n
12、n
22、n
32、2×n
1×n
2、2×n
2×n
3及び2×n
3×n
1を用いて、回折環5のひずみの測定結果と、測定点2における測定対象物1の応力とを関係付ける。上述の構成において、回折ベクトルn
iの成分による成分要素n
12、n
22、n
32、2×n
1×n
2、2×n
2×n
3及び2×n
3×n
1は、上記の式2と同様の下記の式10に示すような回折環5のひずみεに関する基礎方程式における、ひずみ成分の係数に対応する。よって、回折ベクトル及び基礎方程式を利用して、回折環5から得られるひずみの測定結果から、測定点2における測定対象物1の応力を求めることができる。
【数10】
[式10]
【0052】
実施の形態に係る応力測定装置10において、データ処理部17は、回折ベクトルを用いた測定結果の変換では、2つ以上の回折ベクトルそれぞれの成分要素を、各要素として含む行列の一般逆行列を使用する。上述の構成において、2つ以上の回折ベクトルそれぞれの成分要素を各要素として含む行列が算出され、さらに、この行列の一般逆行列が算出される。そして、データ処理部17は、一般逆行列を使用して測定結果を変換することによって、測定点2における測定対象物1の応力を求めることができる。よって、応力の算出が簡易である。
【0053】
また、実施の形態に係る応力測定方法では、測定対象物1に照射されることによって回折を伴って反射する性質を持つX線ビーム3を測定対象物1の測定点2に照射し、測定点2で反射する回折ビーム4により形成される回折環5のひずみを測定し、測定点2に入射するX線ビーム3と回折ビーム4とから、測定点2でのX線ビーム3の回折を反映する回折ベクトルを決定し、上記測定の測定結果を、回折ベクトルを用いて変換することにより、測定点2における測定対象物1の応力を求める。
【0054】
なお、上述の構成の包括的又は具体的な態様は、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム又はコンピュータ読み取り可能なCD−ROMなどの非一時的な記録媒体で実現されてもよく、システム、装置、方法、集積回路、コンピュータプログラム及び記録媒体の任意な組み合わせで実現されてもよい。
例えば、上記応力測定方法の各処理又は動作を実施させる各構成要素は、専用のハードウェアで構成されるか、各構成要素に適したソフトウェアプログラムを実行することによって実現されてもよい。各構成要素は、CPU又はプロセッサなどのプログラム実行器が、ハードディスク又は半導体メモリなどの記録媒体に記録されたソフトウェアプログラムを読み出して実行することによって実現されてもよい。ソフトウェアプログラムは、コンピュータに、上述の処理又は動作を実行させる。
上記応力測定方法の各処理又は動作を実施させる各構成要素は、回路でもよい。複数の構成要素が、全体として1つの回路を構成してもよく、それぞれ別々の回路を構成してもよい。また、回路は、それぞれ、汎用的な回路でもよいし、専用の回路でもよい。
【0055】
[変形例1]
実施の形態の変形例1について説明する。本変形例では、応力測定装置10のデータ処理部17が、式9に示されるような推定誤差の算出方法を用いて、算出する応力σの最適化を実施する。以下に、本変形例について、データ処理部17の解析動作における実施の形態と異なる点を中心に、
図8を主に参照して説明する。なお、
図8は、変形例1に係る応力測定装置のデータ処理部17の解析動作の流れを示すフローチャートである。
【0056】
図8を参照すると、データ処理部17は、
図5に示されるステップS1〜S4によって生成されたk個の回折環5の画像データを取得し、各回折環5上に予め設定された複数K個のひずみ抽出点P
ijを設定する(ステップS21)。ここで、点P
ijのiは、1〜kの整数値であり、k個の回折環5のうちから1つを特定する要素である。点P
ijのjは、1〜Kの整数値であり、回折環5に設定されるK個のひずみ抽出点のうちから1つを特定する要素である。各回折環5に配置される複数のひずみ抽出点P
ijは、回折環5の周方向に沿って、等間隔又は等中心角を形成するように均等に配置されてもよく、不均等に配置されてもよい。
【0057】
さらに、データ処理部17は、各回折環5上で、複数のひずみ抽出点P
ijから1つのひずみ抽出点を選定する(ステップS22)。次いで、データ処理部17は、ステップS12において、k個の回折環5に対して選定されたひずみ抽出点についての単位回折ベクトルn
iを算出し、さらにステップS13〜S16を実施して、一般逆行列M
+を算出する。ステップS12〜S16におけるデータ処理部17の動作は、
図7に示される実施の形態におけるステップS12〜S16での動作と同様である。
【0058】
さらに、データ処理部17は、ステップS16の完了後、算出した逆行列M
+と、式9に示されるような推定誤差の算出方法とを用いて、応力σの成分の推定誤差を算出する(ステップS23)。このとき、成分σ
11、σ
22、σ
33、σ
12、σ
23及びσ
13の全ての推定誤差が算出されてもよく、一部が算出されてもよい。式9に示されるように、応力σの各成分の推定誤差は、逆行列M
+の要素の数値に応じて変動する。逆行列M
+の要素の数値は、単位回折ベクトルn
iの成分の値によって定まる。
【0059】
次いで、データ処理部17は、ステップS21で設定されたk個の回折環のひずみ抽出点の組み合わせに、逆行列M
+の算出及び応力σの成分の推定誤差の算出に使用されていないものがある場合(ステップS24でyes)、ステップS22に戻る。データ処理部17は、k個の回折環5のひずみ抽出点P
ijのうちの少なくとも1つの位置を、ステップS21で設定した他のひずみ抽出点に変更し、それにより、ひずみ抽出点を再選定する。この場合、k個の回折環5のうちの1つの回折環5のひずみ抽出点P
ijの位置が変更されてもよく、k個の回折環5のうちの2つ以上の回折環5のひずみ抽出点P
ijの位置が変更されてもよい。さらに、データ処理部17は、再選定したひずみ抽出点P
ijを用いて、ステップS12〜S16及びS23を実施して、応力σの成分の推定誤差を算出する。
【0060】
上述のように、ステップS22、S12〜S16及びS23を繰り返し実施することによって、ステップS21で設定されたk個の回折環のひずみ抽出点の組み合わせの全てが、逆行列M
+の算出及び応力σの成分の推定誤差の算出に使用されると(ステップS24でnо)、データ処理部17は、ステップS25に進み、算出した応力σの成分の推定誤差の中から最小の推定誤差を選出する。この場合、応力σの成分σ
11、σ
22、σ
33、σ
12、σ
23及びσ
13全ての推定誤差の中から最小推定誤差が選出されてもよく、同一の成分の推定誤差の中から最小推定誤差が選出されてもよい。
【0061】
その後、データ処理部17は、最小推定誤差の算出に使用された、つまり最小推定誤差に対応する逆行列M
+と、この逆行列M
+の算出に使用された、つまり逆行列M
+に対応する単位回折ベクトルn
iとを特定する(ステップS26)。さらに、データ処理部17は、特定した単位回折ベクトルn
iに対応するk個の回折環5上のひずみ抽出点P
ijを特定し、ひずみ抽出点P
ijにおける真円回折環6に対する回折環5のひずみを求める(ステップS17)。データ処理部17は、ステップS17に続くステップS18で、回折環5のひずみと逆行列M
+とを用いて、応力σの各成分を算出する。これにより、推定誤差を最小化することによって最適化された応力σが得られる。なお、ステップS17及びS18におけるデータ処理部17の動作は、
図7に示される実施の形態におけるステップS17及びS18での動作と同様である。
なお、本変形例のステップS24では、k個の回折環のひずみ抽出点の全ての組み合わせを、推定誤差の算出に使用されているか否かを判定対象としていたが、組み合わせの一部のみを判定対象としてもよい。
【0062】
上述したように、変形例1に係る応力測定装置10において、データ処理部17は、回折ベクトルの成分(n
1,n
2,n
3)により形成される成分要素n
12、n
22、n
32、2×n
1×n
2、2×n
2×n
3及び2×n
3×n
1を用いて、測定対象物1の求めるべき応力の推定誤差を算出し、推定誤差を低減する回折ベクトルを、測定対象物1の応力を求める際に採用する。上述の構成において、回折環5上で選択されるひずみの測定位置であるひずみ抽出点の位置に応じて、ひずみ抽出点での回折環5のひずみが異なる場合がある。これにより、ひずみ抽出点の位置に応じて、回折ベクトルも変化し、回折ベクトルから求められる測定対象物1の応力も変化する、つまり、求められる応力が実際に存在する応力に対して有する誤差が変化する。この誤差を低減するように回折ベクトルを選定する、つまりひずみ抽出点の位置を選定することによって、求められる応力の精度の向上が可能となる。
【0063】
[変形例2]
実施の形態の変形例2について説明する。本変形例では、応力測定装置10のデータ処理部17が、各回折環5上に複数のひずみ抽出点を設定し、応力σを算出する。以下に、本変形例について、データ処理部17の解析動作における実施の形態及び変形例1と異なる点を中心に、
図9を主に参照して説明する。なお、
図9は、変形例2に係る応力測定装置のデータ処理部17の解析動作の流れを示すフローチャートである。
【0064】
図9を参照すると、データ処理部17は、
図5に示されるステップS1〜S4によって生成されたk個の回折環5の画像データを取得し、各回折環5上に予め設定された複数K個のひずみ抽出点P
ijを設定する(ステップS31)。ここで、点P
ijのiは、1〜kの整数値であり、k個の回折環5のうちから1つを特定する要素である。点P
ijのjは、1〜Kの整数値であり、回折環5に設定されるK個のひずみ抽出点のうちから1つを特定する要素である。各回折環5に配置される複数のひずみ抽出点P
ijは、回折環5の周方向に沿って、等間隔又は等中心角を形成するように均等に配置されてもよく、不均等に配置されてもよい。しかしながら、複数のひずみ抽出点P
ijが均等に配置されることによって、ひずみ抽出点P
ijでの回折環5のひずみ及び単位回折ベクトルが、回折環5の偏った領域のひずみ及び単位回折ベクトルに限定されないため、これらを用いて後述のようにして得られる応力σにおける誤差も低減する。
【0065】
さらに、データ処理部17は、各回折環5の各ひずみ抽出点P
ijについて単位回折ベクトルn
ijを、算出する(ステップS12)。単位回折ベクトルn
ijは、i番目の回折環5のj番目のひずみ抽出点P
ijに関する単位回折ベクトルである。
【0066】
次いで、データ処理部17は、全ての単位回折ベクトルn
ijを用いて、下記の式11に示される(k×K)×6の行列Fを算出する(ステップS13)。
【数11】
[式11]
【0067】
その後、データ処理部17は、
図7に示される実施の形態のステップS14〜S18と同様のステップS14〜S18を実施し、応力σの各成分を算出する。なお、ステップS17では、k個の回折環5それぞれについて、ひずみ抽出点P
ijにおける真円回折環6に対する回折環5のひずみが、算出される。
【0068】
上述したように、変形例2に係る応力測定装置10において、データ処理部17は、回折環5上の2つ以上の位置であるひずみ抽出点でそれぞれ回折環5を形成する2つ以上の回折ビーム4と測定点2に入射するX線ビーム3とから、2つ以上の回折ベクトルを決定し、回折ベクトルを用いた測定結果の変換では、2つ以上のひずみ抽出点での回折環5のひずみの測定結果と、2つ以上のひずみ抽出点に対応する2つ以上の回折ベクトルとを用いる。上述の構成において、1つの回折環5上におけるひずみ抽出点の位置の違いに起因して、回折環5のひずみ及び回折ベクトルが変化する場合がある。複数のひずみ抽出点での回折環5のひずみの測定結果及び回折ベクトルを用いることによって、上記変化を平滑化することができる。つまり、回折環5の全体のひずみを反映した応力の算出が可能になる。
【0069】
[変形例3]
実施の形態の変形例3について説明する。本変形例では、応力測定装置10のデータ処理部17が、複数のひずみ抽出点を設定した1つの回折環5に基づき、応力σを算出する。以下に、本変形例について、データ処理部17の解析動作における実施の形態並びに変形例1及び2と異なる点を中心に、
図10を主に参照して説明する。なお、
図10は、変形例3に係る応力測定装置のデータ処理部17の解析動作の流れを示すフローチャートである。
【0070】
図10を参照すると、データ処理部17は、
図5に示されるステップS1〜S4によって生成された1つの回折環5の画像データを取得し、この回折環5上に予め設定された複数K個のひずみ抽出点P
jを設定する(ステップS41)。ここで、点P
jのjは、1〜Kの整数値であり、回折環5に設定されるK個のひずみ抽出点のうちから1つを特定する要素である。回折環5に配置される複数のひずみ抽出点P
jは、回折環5の周方向に沿って、等間隔又は等中心角を形成するように均等に配置されてもよく、不均等に配置されてもよい。しかしながら、複数のひずみ抽出点P
jが均等に配置されることによって、ひずみ抽出点P
jでの回折環5のひずみ及び単位回折ベクトルも回折環5の偏った領域のひずみ及び単位回折ベクトルに限定されないため、これらを用いて後述のようにして得られる応力σにおける誤差も低減する。
【0071】
さらに、データ処理部17は、回折環5の各ひずみ抽出点P
jについて単位回折ベクトルn
jを、算出する(ステップS12)。単位回折ベクトルn
jは、j番目のひずみ抽出点P
jに関する単位回折ベクトルである。
次いで、データ処理部17は、全ての単位回折ベクトルn
jを用いて、K×6の行列Fを算出する(ステップS13)。このK×6の行列Fは、式5の行列FのkをKに置き換えたものと同様である。
その後、データ処理部17は、
図7に示される実施の形態のステップS14〜S18と同様のステップS14〜S18を実施し、応力σの各成分を算出する。なお、ステップS17では、1つの回折環5に関して、ひずみ抽出点P
jでの真円回折環6に対する回折環5のひずみが、算出される。
よって、本変形例においても、変形例2と同様の効果が得られる。
【0072】
以上のように、本発明における技術の例示として、実施の形態及び変形例を説明した。そのために、添付図面及び詳細な説明を提供した。
したがって、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のために必須な構成要素だけでなく、上記技術を例示するために、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須ではない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることをもって、直ちに、それらの必須ではない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
その他、実施の形態及び変形例に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。