(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6692095
(24)【登録日】2020年4月16日
(45)【発行日】2020年5月13日
(54)【発明の名称】ブレーカ用防振静音軽量ブラケット
(51)【国際特許分類】
B25D 17/28 20060101AFI20200427BHJP
B25D 17/24 20060101ALI20200427BHJP
B25D 17/11 20060101ALI20200427BHJP
【FI】
B25D17/28
B25D17/24
B25D17/11
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-135722(P2016-135722)
(22)【出願日】2016年7月8日
(65)【公開番号】特開2018-1384(P2018-1384A)
(43)【公開日】2018年1月11日
【審査請求日】2019年5月7日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (展示会) 展示会名 :2016NEW環境展 開催日 :平成28年5月24日から27日 (刊行物) 刊行物名 :日刊工業新聞(平成28年5月18日付及びその電子版) 発行者名 :株式会社日刊工業新聞社 掲載アドレス:http://www.nikkan.co.jp
(73)【特許権者】
【識別番号】000229450
【氏名又は名称】日本ニューマチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(72)【発明者】
【氏名】西籔 和明
(72)【発明者】
【氏名】元井 悟
(72)【発明者】
【氏名】加藤 純
【審査官】
山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】
実開平5−5380(JP,U)
【文献】
特開2007−326198(JP,A)
【文献】
実開平02−015882(JP,U)
【文献】
特開平04−135185(JP,A)
【文献】
特開2001−082537(JP,A)
【文献】
米国特許第06227307(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25D 1/00 − 17/32
E21B 17/10
E02F 3/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧で作動するブレーカ本体を建設機械の可動アーム先端に取付けるためのブラケットであって、ブレーカ本体を収納する筒状胴部(2)と、その筒状胴部(2)の上部開口を覆うアッパープレート(3)と建設機械の可動アーム先端に対する取付け部(4)が一体化されたトップブラケット(5)と、前記筒状胴部(2)の上端に設けられた前記トップブラケット(5)を連結するための上側ボス部(6)と、前記筒状胴部(2)の下部開口を塞ぐチゼル挿通穴(7a)の設けられた下側ボス部(7)を備え、
前記トップブラケット(5)、上側ボス部(6)及び下側ボス部(7)がそれぞれ金属で形成され、
前記筒状胴部(2)の全体又は角筒状胴部のコーナを除く箇所がプラスチック層(8)と制振材層(9)が積層、接合された材料で形成されたブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項2】
前記プラスチック層(8)と制振材層(9)が積層、接合された材料が3層以上の層構造を持ち、その層の中の少なくともひとつの層が制振材層(9)であり、残りの他の複数の層がプラスチック層(8)であり、前記制振材層(9)がプラスチック層中に埋設されている請求項1に記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項3】
前記複数のプラスチック層(8)のうち少なくとも1層が、ガラス繊維強化プラスチック又は炭素繊維強化プラスチックで構成された請求項2に記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項4】
前記制振材層(9)がニトリルゴム又は制振ゴムで構成された請求項1〜3のいずれかに記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項5】
前記筒状胴部(2)が、前壁(2fw)、後壁(2rw)及び左右の側壁(2sw)を有する角筒状をなし、この筒状胴部(2)の径方向の内側の層と外側の層がそれぞれプラスチック又は繊維強化プラスチックで構成され、その内側プラスチック層(8i)と外側プラスチック層(8o)との間に前記制振材層(9)が配置されている求項1〜4のいずれかに記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項6】
前記筒状胴部(2)のコーナ部において前記内側プラスチック層(8i)と外側プラスチック層(8o)間にスペーサ(10)が配置され、隣り合うスペーサ(10,10)間において、内側プラスチック層(8i)と外側プラスチック層(8o)間に前記制振材層(9)が埋設されている請求項5に記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【請求項7】
前記上側ボス部(6)と下側ボス部(7)がそれぞれインロー部(6b、7b)を有し、そのインロー部(6b、7b)が前記筒状胴部(2)の上部と下部の開口部に挿入され、そのインロー部(6b、7b)が筒状胴部2の内面に接着されて前記上側ボス部(6)と下側ボス部(7)が前記筒状胴部(2)に固定されている請求項1〜6のいずれかに記載のブレーカ用防振静音軽量ブラケット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ビルや橋脚などのコンクリート構造物や岩石、壁板などの破砕、解体、剥離などに利用されるブレーカ(油圧ブレーカや空圧ブレーカ)を建設機械(パワーショベルなど)の可動アームの先端に取付けるために用いられるブラケット(ブレーカ用ブラケット)、詳しくは、本出願人が市場に提供している静音型ブラケットと比較して遜色のない防振、防音機能を確保しながら著しい軽量化を図った防振静音軽量ブラケットに関する。
【背景技術】
【0002】
流体圧で作動する首記のブレーカは、高速で往復運動するハンマーピストンでチゼルを打撃してチゼルから被破砕物に対して衝撃力を加え、その衝撃力で被破砕物を破砕するものであって、能力の高い大型のブレーカは、建機の可動アームの先端に取付けて使用されている。
【0003】
そのブレーカが、例えば、大型の油圧ブレーカである場合には、打撃の反動による振動が特に強く、その振動が可動アームのヒンジ部や建設機械に搭載されたバルブ類などの疲労破壊を促進し、さらに、建設機械のキャビンまで伝わってキャビン内のオペレータにも不快な思いをさせる。
【0004】
そこで、防振機能を備えさせたブラケットが下記特許文献1、2などで提案されている。
【0005】
さらに、防振機能と防音機能を併せ持つブレーカ用ブラケットも下記特許文献3などによって提案されている。
【0006】
特許文献1に記載された防振ブラケットは、ブレーカ本体を露出させて保持するものであって、ブレーカ本体の両側面、上下面、前後面の各々と、ブレーカ本体を挟持する2枚のブラケット板との間にそれぞれ防振ゴムを配置し、その防振ゴムで振動を吸収減衰させる。
【0007】
特許文献2に示されたブレーカ用ブラケットも、ブレーカ本体を露出させて保持するものであり、ブレーカ本体の前面と両側面を囲うブラケットの側板と底板との間にそれぞれ緩衝材を挟み込んでいる。
【0008】
また、この特許文献2のブラケットは、可動アームへの取付け用ボルト(通しボルト)をブレーカ本体に近接配置してこの取付け用ボルトとブレーカ本体との間にも緩衝材を挟み込んでいる。
【0009】
特許文献3に記載された装置は、ブレーカの防振防音装置であって、ブレーカ本体を弾性体を介して箱型の防音カバー(これもブラケット)に収納し、ブレーカ本体の後端と防音カバーとの間にダンパとして働く空気ばねを配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】実用新案登録第3019179号公報
【特許文献2】特開2005−211996号公報
【特許文献3】実用新案登録第3002362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1〜3などに記載された従来のブレーカ用ブラケットは、主体部(緩衝材などを除いた部位)の全体が比重の大きい鋼材で構成されており、重量が極めて大きい。
【0012】
これは、ブレーカ装置を建設機械の可動アーム先端に着け外しするアタッチメント作業の操作性や安全性に与える影響を考えると好ましいことではない。
【0013】
防音機能を付与する目的で採用される箱型のブラケットは、ブレーカ本体を露出させて保持するブラケットと比較すると30%以上の質量増加を招くことから、重量の増加が特に大きく、アタッチメント作業の操作性や安全性向上の面からも好ましくない。
【0014】
また、ブラケットの重量が大きいと、建設機械の可動アームや台車が受ける負担も大きくなる。
【0015】
そこで、ブラケットの軽量化のために、ブラケットの構成材料を鋼材よりも比重の小さな軽量素材に置き換えることを検討した。
【0016】
鋼材よりも比重が小さくて工業的に利用し易い材料としては、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金、単材のプラスチックや繊維強化プラスチックと言ったものがあるが、ブレーカを建設機械に装着する箱型のブラケットについては特に、全体をその種の材料で形成すると強度が不十分になって耐久性の確保が難しくなる。
【0017】
また、比重の小さい材料を用いることでブラケットの軽量化は図れるが、材料を単純に置き換えたものは、騒音や振動の伝播を抑制する効果が低下する。
【0018】
ブレーカの作動によって発生した騒音や振動は、従来の鋼材製のブラケットと同様に、ブラケットの形成材料の内部をほぼそのまま通過して外部に伝達される。これでは、材料の置換により全体の質量が減少した分、静音性能が一般的な鋼材製のブラケットよりも低下してしまう。
【0019】
この発明は、上記の現状技術に鑑みてなされたものであって、ブレーカ本体を内部に封入するタイプのブレーカ用ブラケットについて、既述の静音型ブラケットと比較して遜色のない防振、防音機能を確保しながら著しい軽量化を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するため、この発明においては、ブレーカ用防振静音軽量ブラケットを、ブレーカ本体を収納する筒状胴部(ボトムブラケット)と、その筒状胴部の上部開口を覆うアッパープレートと建設機械の可動アーム先端に対する取付け部が一体化されたトップブラケットと、前記筒状胴部の上端に設けられた前記トップブラケットを連結するための上側ボス部と、前記筒状胴部の下部開口を塞ぐチゼル挿通穴の設けられた下側ボス部を備え、
前記トップブラケット、上側ボス部及び下側ボス部がそれぞれ金属で形成され、
前記筒状胴部の全体又は角筒状胴部のコーナを除く箇所がプラスチック層と制振材層が複合化された(積層、接合された)材料で形成されたものにした。
【0021】
前記プラスチック層と制振材層が複合化された材料は、3層以上の積層構造を持ち、その層の中の少なくともひとつの層が制振材層であるものにする。
【0022】
前記トップブラケットと上側ボス部と下側ボス部を構成する金属は、特に、限定されず、ブレーカの作動に伴う衝撃や圧力などに耐え得るものであればよい。大きな強度が要求される用途には鋼材が適するが、鉄に比べて比重の小さいアルミニウムやアルミニウム合金などで満足できる場合には、そのような材料を用いるのがブレーカの重量軽減の効果が高まって好ましい。
【0023】
前記筒状胴部を構成するプラスチックは、単体よりも強化繊維を複合化したものが高強度が得られて好ましい。強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維のどちらであってもよい。
【0024】
プラスチック層に複合化する前記制振材層は、市販されている各種の制振ゴムやニトリルゴム(NBR)などで構成するとよい。この制振材層は、プラスチックで形成される筒状胴部の壁の中に埋設する。
【0025】
ブラケットの筒状胴部は、収納するブレーカ本体に適合した形状を有するものが寸法を最小限に抑えられて好ましい。例えば、ブレーカ本体が角形である場合には4面の壁(前後壁と左右の側壁)を有する角筒状の胴部が好ましく、また、ブレーカ本体が円筒状である場合には円筒状の胴部が好ましい。
【0026】
また、この筒状胴部はプラスチック層を複数層積層したものがよく、筒状胴部の壁に繊維強化プラスチックを用いる場合には、接触面が互いに接合される複数のプラスチック層の中の少なくとも1層を繊維強化プラスチックで構成する。
【0027】
前記上側ボス部と下側ボス部は筒状胴部の上部と下部に接着するなどして取付ける。
【発明の効果】
【0028】
この発明のブラケットは、鉄に比べて比重の極端に小さい制振材の複合化されたプラスチックで筒状胴部を形成したので、従来品と比較して著しい重量軽減が図れる。
【0029】
また、プラスチックは金属に比べて振動減衰性能に優れるが、このプラスチックで構成した筒状胴部は、そのままでは鋼材製の筒状胴部を用いたものに比べて質量が小さくなった分、静音性能や強度が低下する。
【0030】
しかしながら、この発明によれば、ブラケットの軽量化を実現しながらその静音性能の低下や強度の低下がさほど起こらない。
【0031】
これは、物性の異なるプラスチック層と制振材層が積層されていることによる。多層構造の胴部壁の場合、各層の境界面を振動波が通り抜ける際に入射角によって所定割合の反射減少が起こる。また、伝達媒体内の伝播経路上に障害物が存在する場合には、回折現象が発生し、これ等の現象によって振動波が減衰する。
【0032】
プラスチック層の中の少なくとも1層に繊維強化プラスチックが採用されているものについては、繊維強化プラスチック層内の繊維による境界面での乱反射と繊維による回折により振動波の伝播に時間差(位相差)が生じることから、振動波の減衰がより効果的になされる。
【0033】
ただし、乱反射や回折による振動減衰の効果は、層の厚みなどにも左右されるが波長の短い高周波帯に偏る。
【0034】
そこで、プラスチックで構成される胴部壁に制振材を含ませた。制振ゴムやNBRなどからなるこの制振材によって比較的低い周波数帯の振動波の変位を吸収し、プラスチック層の境界面での乱反射やプラスチック層内の繊維による回折などとの相乗効果によって波長の異なる振動波の多くを減衰させることができる。
【0035】
これにより、本出願人が市場に提供している静音型ブラケットと比較して遜色のない防音機能を確保することができた。
【0036】
また、プラスチックの特性による振動減衰により、防振についても、既存の前記静音型ブラケットと比較して遜色の無い性能を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図2】
図1の軽量ブラケットをトップブラケットとブッシュホルダを外した状態にして示す正面図である。
【
図3】
図2のIII−III線に沿った断面図である。
【
図5】
図1の軽量ブラケットのブッシュホルダを外した状態の下面図である。
【
図8】
図4のVIII−VIII線に沿った拡大断面図である。
【
図9】4層以上の層で構成された筒状胴部の一部分を示す拡大断面図である。
【
図10】縦型静音ブラケットの使用の一例(建設機械のアーム先端に取付けた状態)を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、この発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
図1〜
図3に示したブレーカ用防振静音軽量ブラケット1は、従来の防振静音ブレーカ装置用のブラケットと置き換えて使用するものである。
【0039】
従来の防振静音ブレーカ装置の一例を
図10に示す。同図の防振静音ブレーカ装置20は、建設機械(図示しないパワーショベルなど)の可動アーム23の先端に取り付けて使用するアタッチメントとして構成されている。
【0040】
この従来の防振静音ブレーカ装置20は、防振静音ブラケット21の筒状胴部21aの内部にチゼル22を備えたブレーカ本体(図示せず)を収納し、そのブレーカ本体と防振静音ブラケット21のトップブラケット21bとの間にウレタン樹脂などで構成されるダンパ(これも図示せず)を介在している。
【0041】
また、前記ブレーカ本体の前後面並びに両側面と、防振静音ブラケット21の筒状胴部21aの内面との間、およびブレーカ本体の下端と防振静音ブラケット21の下側ボス部21cとの間にゴムなどの緩衝材を挟み込んでいる。
【0042】
なお、図示の防振静音ブラケット21は、縦型ブラケットと称されているものであって、建設機械の可動アームの先端に対するトップブラケット21bの取付け部が筒状胴部21aの上部にある。
【0043】
ブレーカのチゼル22は、ブレーカ本体のチゼルホルダ部でスライド自在に支持して先端側を下側ボス部21cの中心のチゼル挿通穴から外部に突出させており、そのチゼル22が油圧を駆動源として高速で往復運動するブレーカ本体の内部のハンマーピストンに打撃されて被破砕物に対して破砕力を加える。
【0044】
図1〜
図3に示した防振静音軽量ブラケット1(以下ではこれを略して軽量ブラケットと言う)は、筒状胴部(ボトムブラケット)2と、その筒状胴部2の上部開口を覆うアッパープレート3及び建設機械の可動アーム先端に対する取付け部4(ブラケット板)が一体化されたトップブラケット5と、前記筒状胴部2の上端に設けられた前記トップブラケット5を連結するための上側ボス部6(
図6を同時参照)と、筒状胴部2の下端に設けられた下側ボス部7(
図5、
図7を同時参照)とで構成されている。
【0045】
この軽量ブラケット1は、トップブラケット5と、上側ボス部6と、下側ボス部7がそれぞれ金属で形成されている。
【0046】
トップブラケット5の取付け部4と、アッパープレート3及びそのアッパープレート3に連結される上側ボス部6は、強度のほかに、連結ピンの押しつけやボルトの締付けによる変形を防止するための硬度も要求される。
【0047】
チゼル22の打撃による破砕物が飛散して衝突することが考えられる下側ボス部7も、強度のほかに硬度が要求される。従って、これらの材料には金属を用いている。試作品の軽量ブラケット1は、その金属としてアルミニウムを用いたが、要求強度次第では鋼材なども採用される。
【0048】
前記筒状胴部2は、
図3に示すように、プラスチック層8と制振材層9が複合化された材料で形成されている。この筒状胴部2は、少なくとも3層からなり、各層の界面が接合された積層構造を有する。各層の中の少なくとも1層は、制振材層9であり、残りの他の層はプラスチック層8である。
【0049】
このプラスチック層8と制振材層9は、各々の層を2層以上にしてそれらを交互に積層してもよい。
【0050】
このプラスチックと制振材を組み合わせた複合材で形成する筒状胴部2は、2層又はそれ以上設けるプラスチック層8の全部が補強繊維の含まれないプラスチック層であるものも考えられるが、そのプラスチック層8の中の少なくとも1層は繊維強化プラスチックで構成するのがよい。
【0051】
繊維強化プラスチックは、軽量化と高強度確保の観点からはCFRPが望ましいが、GFRPを用いても軽量化の目的が達成される。CFRPに用いる炭素繊維は、生産量の多くを占めるPAN系に限らず、ピッチ系であってもよい。
【0052】
筒状胴部2の断面構造の一例を
図8及び
図9に示す。
図8の筒状胴部2は、径方向の内側が繊維で補強された内側プラスチック層8iで、径方向の外側が同じく繊維で補強された外側プラスチック層8oで形成され、その内側プラスチック層8iと外側プラスチック層8oとの間に制振材層9が埋設された3層構造の材料で形成されている。
【0053】
また、
図9の筒状胴部2は、プラスチック層8が3層以上設けられ、各プラスチック層8間に制振材層9が接着一体化されて挟み込まれている。そして、各プラスチック層8の中の少なくとも1層が繊維強化プラスチックで構成されている。
【0054】
前記筒状胴部2を構成するプラスチックは、熱可塑性、熱硬化性を問わない。熱可塑性プラスチックとしては、例えば、ナイロン、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリエーテルテレフタレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトンなどが挙げられる。
【0055】
この熱可塑性プラスチックについては、極力耐熱温度の高いものを選択して利用するとよい。
【0056】
また、熱硬化性プラスチックとしては、例えば、不飽和ポリエステル、エポキシ、フェノール、シアネート、ポリイミドなどが挙げられる。
【0057】
これ等のプラスチックは単体よりも強化繊維と複合化したものが高強度が得られて好ましい。強化繊維は、ガラス繊維、炭素繊維のどちらであってもよいが、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)は、下記の如き多くの特徴を有しており、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)に比べてより軽量で強度の高いブラケットを作れる。
【0058】
−CFRPの特徴−
1)鉄に比べて比重が著しく小さい。鉄の比重7.8(GFRPの比重2)に対し、CFRPの比重は、例えば、1.5〜2.0程度。
2)比強度・比弾性率が高い。
3)耐食性、耐薬品性に優れる。
4)線膨張率が小さく寸法安定性に優れる。
5)疲労特性に優れる。
6)振動減衰性に優れる。
【0059】
プラスチックと複合化する制振材層9は、ニトリルゴム(NBR)を用いたが、他のゴム(制振ゴムが好ましい)でもよい。制振ゴムは色々なものが市販されている。その市販品でよい。
【0060】
筒状胴部2は、収納するブレーカが角形ブレーカである場合には、前壁2fw、後壁2rw及び左右の側壁2swを有する角筒が、また、収納するブレーカが円筒状のものである場合には円筒がサイズ(体格)の増加を抑えられて好ましい。
【0061】
プラスチック層8に含ませる繊維強化プラスチックの層は、補強繊維の織布に樹脂を含浸させたプリプレグを内型の表面や予め成形された内層プラスチックの筒の表面に巻き付けて構成すると、補強繊維が強化したい方向に連続して配向された高強度の層を得ることができる。
【0062】
この発明を適用するブラケットは、縦方向の強度が要求されるので補強繊維を縦向きに配向した層や斜めに配向した層があると好ましい。
【0063】
なお、筒状胴部2が4面を有する角筒であって、
図4に示すように、前記制振材層9がその角筒の各コーナを除く部分に配置され、さらに、前記プラスチック層8の中の少なくとも外側の層が繊維強化プラスチック層で構成されるものについては、角筒のコーナ部の制振材層9が途切れた箇所に、制振材層9と同等の厚みを有するスペーサ10を介在するのがよい。
【0064】
そのスペーサ10は、CFRP、GFRP、或いはFRPのプレ成形品などが用いられ、このスペーサが内側の層の外周に外側繊維強化プラスチック層を構成するためのプリプレグを周方向に巻きつける際の巻き乱れを防止し、これにより、形状精度に優れた筒を得ることができる。筒状胴部2が円筒の場合には、このスペーサ10は不要である。
【0065】
なお、4面の壁を有する角筒については、4箇所のコーナに壁材とは別成形されたフレームを配置し、隣り合うフレーム間に単材のプラスチックや繊維強化プラスチックで作られた壁材を配置してその壁材を両側のフレームに接着するなどして連結した構造にすることも可能である。
【0066】
前記上側ボス部6は、アッパープレート3をボルトで締結するためのフランジ6a(
図6を同時参照)を上端部の外周に有する。一方、前記下側ボス部7は、チゼルを通すチゼル挿通穴7a(
図5、
図7参照)を中央部に有する。
【0067】
その上側ボス部6と下側ボス部7は、
図3に示すようなインロー構造にして筒状胴部2の上部と下部の開口部にインロー部6b、7bを挿入し、筒状胴部2の内面に接したそのインロー部6b、7bを筒状胴部2の内面に接着して筒状胴部2に固定している。
【0068】
その固定は、接着のみで十分な連結強度が得られることを展示会に出品した試作品によって確認したが、機械的に係止する凹凸などをインロー嵌合部に形成するとより高い連結強度が望める。
【0069】
図3の11は、チゼル22の外周に嵌める制振ゴムブッシュ、12はその制振ゴムブッシュ11を保持するブッシュホルダである。ブッシュホルダ12は、下側ボス部7の下面にボルトで連結して固定される。
【0070】
なお、この制振ゴムブッシュ11とブッシュホルダ12は、好ましい要素である。
【0071】
以上の通りに構成された軽量ブラケット1は、
図10の従来品と同様に、筒状胴部2の内部にチゼルを備えたブレーカ本体を収納して使用する。
【0072】
筒状胴部2の内部に収納したブレーカ本体と筒状胴部2の上部開口を塞ぐアッパープレート3との間にはウレタン樹脂や空気ばねなどで構成されるダンパ(図示せず)を介在する。
【0073】
また、ブレーカ本体の前後面並びに両側面と、筒状胴部の各壁の内面との間、およびブレーカ本体の下端と下側ボス部7の内面との間にはウレタン樹脂などの緩衝材(これも図示せず)を挟み込む。
【0074】
かかる軽量ブラケット1は、筒状胴部2がプラスチックと制振材を組み合わせた複合材で構成されているので、全体が鋼材で形成された従来品に比べて重量が大幅に軽減される。
【0075】
全体が鋼材で形成された静音ブラケットの従来品(例えば、日本ニューマチック社製静音縦型PH−2)は、その重量が77.0kgである。これに対し、トップブラケット5と上側ボス部6と下側ボス部7をアルミニウムで形成した試作品の軽量ブラケット(筒状胴部を、5mm厚の内層CFRP+8mm厚のNBR+5mm厚の外層CFRPの3層構造にしたもの)は、その重量が41.8kgとなっており、従来品に比べて約46%の重量軽減を実現できた。
【0076】
また、材料の置換による質量減少が生じているため、防振性能と静音性能の低下が考えられるが、金属塊にチゼルを当ててブレーカ装置を作動させ、そのブレーカ装置から3m離れた地点で測定した音のオーバーオール値(測定周波数12.6Hz〜20kHz)は、鋼材で形成された従来の防振ブラケットや静音型ブラケットと殆ど差が無く、防振性能と静音性能の低下は見られなかった。
【0077】
この発明の軽量ブラケットの内部にブレーカ本体と共に組み込む前記ダンパや緩衝材による振動や音の減衰効果は従来の防振ブラケットや静音型ブラケットと同等レベルになると思われ、質量減少が生じているにも拘わらず、防振性能と静音性能の低下が抑制されるのは、筒状胴部を複層構造にし、なおかつ、その筒状胴部の壁の内部に制振材を埋設したことが有効に機能しているからであると考えられる。
【0078】
なお、例示の軽量ブラケットは、建設機械のアーム先端に上端を連結する縦型と称されるものであるが、この発明は、建設機械のアーム先端に連結するためのブラケット板が筒状胴部の後壁の上部外周に後ろ向きに突出して設けられる横型の静音ブラケットにも適用できる。
【符号の説明】
【0079】
1 ブレーカ取付け用防振静音軽量ブラケット
2 筒状胴部
2fw 前壁
2rw 後壁
2sw 左右の側壁
3 アッパープレート
4 可動アーム先端に対する取付け部
5 トップブラケット
6 上側ボス部
6a フランジ
6b インロー部
7 下側ボス部
7a チゼル挿通穴
7b インロー部
8 プラスチック層
8i 内側プラスチック層
8o 外側プラスチック層
9 制振材層
10 スペーサ
11 制振ゴムブッシュ
12 ブッシュホルダ
20 従来の防振静音ブレーカ装置
21 防振静音ブラケット
21a 筒状胴部
21b トップブラケット
21c 下側ボス部
22 チゼル
23 建設機械の可動アーム