【実施例】
【0024】
本発明の具体的な実施例について説明する。
【0025】
本実施例は、発現ベクターを細胞内若しくはゲノムに導入することで組み換えタンパク質を分泌生産するミミズを得、このミミズを用いて所定の組み換えタンパク質を得ることができるシステムに関するものである。
【0026】
以下、本実施例について詳細に説明する。
【0027】
[形質転換ミミズの作成]
本実施例では、形質転換させるミミズに、シマミミズ(Eisenia fetida)を用い、具体的には、24〜48時間絶食させたものを用いる。
【0028】
より具体的には、本実施例では、重金属を含まない飼料で食用として飼育したミミズ(詳細には特許第5505750号に記載の方法で飼育したミミズ)を用いた。
【0029】
尚、採用するミミズは上記に限らず、例えば同じツリミミズ科に属するアンドレイミミズ(Eisenia andrei)やアカミミズ(Lumbricus rubellus)でも良い。
【0030】
本実施例では、このシマミミズを尾部から約1cmのところで切断し、この切断した尾部を滅菌水で湿らせたウエスを敷いた容器内に入れ、人工気象器で所定の温湿度環境下のもと、具体的には、温度15〜30℃(本実施例では21℃に設定)、湿度50〜90%(本実施例では70%に設定)の環境下のもと、4〜48時間(本実施例では24時間)飼育した。
【0031】
本実施例では、この所定環境で飼育したミミズを3%エタノール溶液(液温4℃)中に10分程度放置してこのミミズに麻酔処理を施し、この麻酔が作用した状態で発現ベクターを注入した。
【0032】
具体的には、従来法であるマイクロインジェクション法を用いて、切断したミミズの尾部の再生切断面付近に、ルシフェラーゼ発現ベクター(pGL4.50)を注入した。
【0033】
続いて、電気穿孔法を用いて、この注入したルシフェラーゼ発現ベクターをミミズの細胞内(若しくはベクター)に導入した。
【0034】
具体的には、エレクトロポレーター(BTX社製 BTX45-2007 GEMINI X2 System)を用いて、電圧:28V、処理時間:60msec、パルス:6回/秒の条件でミミズに電気ショックを与え、ルシフェラーゼ発現ベクターをミミズに導入した。
【0035】
その後、温度15〜30℃(本実施例では21℃)、湿度50〜90%(本実施例では70%)に設定した人工気象器にミミズを入れ、24〜72時間(本実施例では68時間)飼育し、この飼育したミミズを形質転換ミミズとして得た。
【0036】
[ルシフェラーゼ活性測定]
本実施例では、上述のようにして作成した形質転換ミミズが、実際にルシフェラーゼ発現ベクターが導入され、形質転換されたかどうかを確認するため、ルシフェラーゼ活性測定を行なった。尚、本実施例では、上述の条件で作成したミミズの他に、電気穿孔法における電圧条件を14Vに設定して作成したミミズ(14V条件ミミズ)と、組み換えタンパク質(ルシフェラーゼ)が発現しない空ベクターを注入し、上記形質転換ミミズの作成方法を同様の処理を行ったミミズ(コントロールミミズ)とを比較対象として用意し、これらも合わせてルシフェラーゼ活性測定を行なった。
【0037】
ルシフェラーゼ活性測定は、具体的には、形質転換させた断片及び比較対象の断片の各々の重量を測定した後、各断片を細胞溶解液(Luciferase Assay System,プロメガ社製)、ビーズを含むスクリューキャップチューブに添加し、これを細胞破砕装置にセットして、4200回転、20秒の処理条件で5回、破砕処理を行った後、遠心し上清液を取得し、この上清液にルシフェリン(Luciferase Assay System,プロメガ社製)を添加し、ルミノメーター(GloMax-Multi detection System,プロメガ社製)を用いて発光を測定した。
【0038】
その結果、
図1に示すように、本実施例で示した方法(電気穿孔法における電圧条件が28V)で形質転換を行なったミミズだけに、時間と共に発光強度が減少して行く傾向が見られ、これより、ルシフェラーゼ発現ベクターが導入され形質転換され組み換えタンパク質が発現していることが確認できた。
【0039】
このように、本実施例に示した形質転換ミミズの作成方法により、熟練者でなくても極めて容易に形質転換ミミズを作成することができ、この形質転換ミミズを用いれば、極めて容易に組み換えタンパク質を得ることができる。
【0040】
尚、本実施例では、尾部から約1cmのところで切断し、この切断したミミズの尾部の再生切断面付近に、発現ベクター(ルシフェラーゼ発現ベクター)を注入したが、例えば完全に切断せず、カッター等で切込みを入れ、この切込みに発現ベクターを注入しても良いし、或いは切断処理を行わず、非切断状態のミミズの所定部位(例えば尾部や環帯付近)に発現ベクターを注入しても良い。
【0041】
[組み換えタンパク質の取得方法]
本実施例に示した形質転換ミミズの作成方法で作成した形質転換ミミズが生産する組み換えタンパク質の取得方法について、以下に説明する。
【0042】
ミミズがタンパク質あるいはペプチドを分泌生産することは従来知られている。従って、この形質転換ミミズからも所定の組み換えタンパク質が分泌生産されていると言える。
【0043】
従って、本実施例では、この形質転換ミミズが分泌する体腔液を回収することで、組み換えタンパク質を取得した。
【0044】
具体的には、先ず、形質転換ミミズを水洗いして体表の汚物等を除去し、その後、ミミズを死滅させない程度の濃度に調整した有機溶媒(例えばエタノール)または、酸若しくはアルカリを少量滴下し、体腔液を分泌させ、この分泌した体腔液を回収した。
【0045】
より具体的には、先ず、対象の形質転換ミミズを26時間絶食させ、その後純水で洗浄して体表の汚物を除去した後、表面の水分を除去した。
【0046】
続いて、15mlファルコンチューブに25mM NaCl含有50mM リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)1mlを加え、この中に準備した形質転換ミミズ5匹を加え、撹拌混合(20sec)して粘液を除去した後、ファルコンチューブから取り出し、水洗し、再び、表面の水分を除去した。
【0047】
続いて、この形質転換ミミズを、15mlファルコンチューブに入れ、0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)5.0μlを加えた後、再度、ファルコンチューブから形質転換ミミズを取り出し、遠心分離処理(4℃、6000回転、15分)し、この処理後の上清液をエッペンチューブに取り、この上清液を遠心分離処理(4℃、14000回転、10分)し、更にこの処理後の上清液をエッペンチューブに取り、再度遠心分離処理(4℃、14000回転、5分)し、この遠心分離処理にて得られた上清液を分泌液として回収し、組み換えタンパク質を得た。
【0048】
尚、0.1M 酢酸ナトリウム緩衝液(pH3.5)5.0μlを加えた後、ファルコンチューブから取り出した形質転換ミミズは、水洗いすることで死滅することなく再び活動を始めることを確認した。即ち、上記方法で分泌液を回収することで、形質転換ミミズを死滅させることなく連続的に分泌液を回収することができることとなる。
【0049】
また、体腔液を分泌させる方法に関しては、上述した方法以外に、例えばミミズに熱風やインキュベータを用いてミミズが死滅しない程度の熱刺激(0℃〜4℃程度の低温刺激や30℃〜40℃程度の中温刺激)を付与したり、太陽光に曝して紫外線を照射する刺激を付与したり、白熱灯等を用いて強光を照射する刺激を付与したり、ミミズが死滅しない薬物(例えば重層)による刺激を付与したり、或いはこれらの刺激を含む他の刺激を付与して、体腔液を分泌させても良く、本実施例に限られるものではない。
【0050】
また、本実施例は、形質転換させるミミズに、食用ミミズを採用したから、上述のように分泌液と共に組み換えタンパク質を回収する方法以外に、形質転換ミミズそのものを摂取することで、組み換えタンパク質を摂取することも可能である。
【0051】
上述した本実施例の作用・効果について以下に説明する。
【0052】
本実施例は、形質転換させるミミズに、ツリミミズ科のシマミミズを採用するから、安価で入手し易く、低コスト化が実現可能となる。
【0053】
また、本実施例は、ミミズを形質転換させる際に、電気穿孔法を用いて注入した発現ベクターを細胞内若しくはゲノムに導入するから、熟練者でなくても極めて容易に発現ベクターを細胞内に導入でき、ミミズを形質転換させることができる。
【0054】
しかも、本実施例は、このミミズに電気穿孔法を施す前に、ミミズに麻酔処理を施し、麻酔が効いている状態で電気穿孔法を行なうので、ミミズが暴れず、作業がし易い。
【0055】
また、本実施例は、組み換えタンパク質を分泌回収する際、形質転換ミミズを死滅させないので、分泌液の連続回収が可能となり効率的な組み換えタンパク質の分泌回収システムの構築が可能となる。
【0056】
更に、本実施例は、このミミズに食用ミミズを採用するから、組み換えタンパク質の取得が分泌液による回収取得に限らず、分泌回収することなく、そのまま形質転換ミミズを摂取することで組み換えタンパク質を摂取することも可能となり、分泌回収の手間が省ける。
【0057】
また、分泌液を回収する場合も、ミミズを死滅させることなく回収できるから、組み換えタンパク質を連続的に生産・回収することができる。
【0058】
以上、本実施例においては、シマミミズ等にルシフェラーゼ発現ベクターを導入することで蛍由来発光酵素の主成分となる発光タンパク質を生産するミミズが得られ、これにより、蛍由来発光酵素の主成分となる発光タンパク質を簡易に且つ効率良く得ることが可能となる。
【0059】
尚、本発明は、本実施例に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。